特許第6178788号(P6178788)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6178788
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】CCR2アンタゴニストペプチド
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/06 20060101AFI20170731BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20170731BHJP
   A61K 38/08 20060101ALI20170731BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 31/06 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 27/14 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 17/04 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20170731BHJP
【FI】
   C07K7/06ZNA
   C07K7/08
   A61K38/08
   A61K38/10
   A61P27/02
   A61P9/10 101
   A61P29/00 101
   A61P17/06
   A61P37/08
   A61P25/00
   A61P1/04
   A61P1/00
   A61P13/12
   A61P37/06
   A61P11/00
   A61P3/10
   A61P31/06
   A61P31/00
   A61P29/00
   A61P25/04
   A61P19/02
   A61P9/10
   A61P27/14
   A61P17/04
   A61P11/06
   A61P1/02
   A61P35/00
   A61P35/02
【請求項の数】13
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-517666(P2014-517666)
(86)(22)【出願日】2012年6月26日
(65)【公表番号】特表2014-520773(P2014-520773A)
(43)【公表日】2014年8月25日
(86)【国際出願番号】EP2012062379
(87)【国際公開番号】WO2013000922
(87)【国際公開日】20130103
【審査請求日】2015年5月28日
(31)【優先権主張番号】11305816.8
(32)【優先日】2011年6月27日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】510035462
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ ピエール エ マリー キュリー(パリ 6)
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・コンバディエール
(72)【発明者】
【氏名】フロリアン・ゼンラウプ
(72)【発明者】
【氏名】コンスタンス・オーヴィネ
(72)【発明者】
【氏名】シルヴァン・シェムトブ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアーヌ・キニウ
【審査官】 戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−507725(JP,A)
【文献】 特表2008−508253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 7/00−7/66
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/
REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X1-TFLKC-X2(配列番号2)
[ここで、X1は、存在しないか、グリシンであるか、またはAG、LG、YLG、およびHYLGからなる群より選択されるアミノ酸配列を表し;
X2は、独立して、存在しないか、メチオニンであるか、またはMA、MAN、MANG、MANGF、MANGFV、MANGFVW、MANGFVWE、およびMANGFVWENからなる群より選択されるアミノ酸配列を表す];
またはタンパク質分解に対する耐性を付与する1つ以上の化学修飾によって配列番号2から派生する配列であって、TFLK配列が維持される配列
または1つ以上の保存的置換によって配列番号2から派生し、配列番号2と少なくとも80%同一性を示す配列であって、TFLK配列が維持される配列、
からなる、CCR2アンタゴニスト活性を有するペプチド。
【請求項2】
・LGTFLKC(配列番号3);
・HYLGTFLKCMA(配列番号4);
・LGTFLKCMA(配列番号5);
・HYLGTFLKC(配列番号6);
・GTFLKCMANGF(配列番号7);
・TFLKCMANGFV(配列番号8);
・HYLGTFLKCMANGFVWEN(配列番号9);
・AGTFLKC(配列番号20)
・タンパク質分解に対する耐性を付与する1つ以上の化学修飾によって配列番号3〜9または20のいずれかから派生する配列であって、TFLK配列が維持される配列
・および1つ以上の保存的置換によって配列番号3〜9または20のいずれかから派生し、配列番号2と少なくとも80%同一性を示す配列であって、TFLK配列が維持される配列、
からなる群より選択される、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
LGTFLKC(配列番号3)からなる請求項2に記載のペプチド。
【請求項4】
アミノ酸の全部または一部がD立体配置である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項5】
アミノ酸の全部または一部がL立体配置である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項6】
少なくとも1つの非ペプチド部分に連結された請求項1〜5のいずれか一項に記載のペプチドのいずれか一つを含む化合物。
【請求項7】
非ペプチド部分がポリエチレングリコールである、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のペプチドまたは化合物を医薬上許容される担体と共に含む医薬組成物。
【請求項9】
CCR2媒介症候群、障害または疾患の処置に使用するための請求項1〜7のいずれか一項に記載のペプチドまたは化合物。
【請求項10】
CCR2媒介症候群、障害または疾患が、眼科障害、ぶどう膜炎、アテローム性動脈硬化、関節リウマチ、乾癬、乾癬性関節炎、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、クローン病、潰瘍性大腸炎、腎炎、臓器同種移植片拒絶、線維化肺、腎機能不全、糖尿病および糖尿病合併症、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性網膜炎、糖尿病性細小血管症、結核、慢性閉塞性肺疾患、サルコイドーシス、浸潤性ブドウ球菌感染症、白内障手術後の炎症、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、慢性じんま疹、喘息、アレルギー性喘息、歯周病、歯周炎、歯肉炎、歯肉疾患、拡張型心筋症、心筋梗塞、心筋炎、慢性心不全、血管狭窄、再狭窄、再灌流障害、糸球体腎炎、固形腫瘍およびがん、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄球性白血病、多発性骨髄腫、悪性骨髄腫、ホジキン病、および膀胱、胸部、子宮頸、大腸、肺、前立腺、または胃の癌からなる群より選択される、請求項9に記載のCCR2媒介症候群、障害または疾患の処置に使用するためのペプチドまたは化合物。
【請求項11】
症候群、障害または疾患が加齢性黄斑変性症または網膜変性症である、請求項10に記載のCCR2媒介症候群、障害または疾患の処置に使用するためのペプチドまたは化合物。
【請求項12】
症候群、障害または疾患が心血管疾患である、請求項10に記載のCCR2媒介症候群、障害または疾患の処置に使用するためのペプチドまたは化合物。
【請求項13】
症候群、障害または疾患が痛み、特に坐骨神経からの痛みなどの末梢痛である、請求項10に記載のCCR2媒介症候群、障害または疾患の処置に使用するためのペプチドまたは化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はCCケモカイン受容体2(CCR2)アンタゴニストペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
[発明の背景]
CCR2は、全ての既知ケモカイン受容体と同様に、GPCR(Gタンパク質共役受容体)受容体ファミリーのメンバーであり、単球およびメモリーTリンパ球によって発現される。CCR2シグナリングカスケードは、ヘテロ三量体Gタンパク質、ホスホリパーゼ(特にPLCβ2)、PKCおよびPI-3Kのようなプロテインキナーゼの活性化、ならびに細胞質カルシウムの上昇を伴う。
【0003】
化学誘引物質サイトカイン(すなわちケモカイン)は、細胞の遊走をトリガーする比較的小さなタンパク質(8〜10kD)である。ケモカインファミリーは、高度に保存された第1システインと第2システインの間のアミノ酸残基の数および間隔に基づいて、4つのサブファミリーに分割される。
【0004】
CCL2と呼ばれるケモカイン(単球走化性タンパク質1またはMCP-1とも呼ばれている)は、CCケモカインサブファミリー(この場合、CCは、第1システインと第2システインとが隣り合っているサブファミリーを表す)のメンバーであり、細胞表面ケモカイン受容体2(CCR2)に結合する。CCL2は強力な走化性因子であり、CCR2への結合後に、炎症部位への単球およびリンパ球の遊走(すなわち走化性)を媒介する。CCL2は、炎症状態に応答して、心筋細胞、血管内皮細胞、線維芽細胞、軟骨細胞、平滑筋細胞、メサンギウム細胞、肺胞細胞、Tリンパ球、マクロファージ、ニューロンなど、多種多様な細胞タイプによって産生される。
【0005】
単球が炎症組織に進入してマクロファージへと分化した後、単球の分化は、腫瘍壊死因子-アルファ(TNFα)、インターロイキン-1(IL-1)、CXCL-8(CXCケモカインサブファミリーのメンバー、この場合、CXCは、第1システインと第2システインの間にアミノ酸残基が1つ存在することを表す)、IL-12、アラキドン酸代謝産物(例えばPGE2およびLTB4)、酸素由来のフリーラジカル、マトリックスメタロプロテイナーゼおよび補体成分などといった、いくつかの炎症誘発性モジュレーターの二次供給源を与える。
【0006】
慢性炎症性疾患の動物モデル研究により、CCL2とCCR2との間の結合をアンタゴニストによって阻害すると、炎症応答が抑制されることが実証されている。CCL2とCCR2との間の相互作用は、ぶどう膜炎、アテローム性動脈硬化、関節リウマチ、多発性硬化症、クローン病、腎炎、臓器同種移植拒絶、線維化肺、腎機能不全、糖尿病および糖尿病合併症、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性網膜炎、糖尿病性細小血管症、結核、サルコイドーシス、浸潤性ブドウ球菌感染症、白内障手術後の炎症、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、慢性じんま疹、アレルギー性喘息、歯周病、歯周炎(periodonitis)、歯肉炎、歯肉疾患、拡張型心筋症、心筋梗塞、心筋炎、慢性心不全、血管狭窄、再狭窄、再灌流障害、糸球体腎炎、固形腫瘍およびがん、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄球性白血病、多発性骨髄腫、悪性骨髄腫、ホジキン病、および膀胱、胸部、子宮頸、大腸、肺、前立腺、または胃の癌などの炎症性疾患病理に関連付けられている(Rollins BJ「Monocyte chemoattractant protein 1: a potential regulator of monocyte recruitment in inflammatory disease」Mol. Med. Today, 1996, 2:198;およびDawson Jら「Targeting monocyte chemoattractant protein-1 signaling in disease」Expert Opin. Ther. Targets, 2003 February, 7(1):35-48参照)。
【0007】
単球の遊走は、関節炎、喘息、およびぶどう膜炎の発生を阻害することが示されているCCL2アンタゴニスト(MCP-1の抗体または可溶性不活性フラグメントのいずれか)によって阻害される。CCL2ノックアウト(KO)マウスとCCR2ノックアウトマウスは、どちらも、炎症病変への単球浸潤が有意に減少することが実証されている。加えて、そのようなKOマウスは、実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE、ヒト多発性硬化症のモデル)、ゴキブリアレルゲン誘発性喘息、アテローム性動脈硬化、およびぶどう膜炎の発症に対して抵抗性である。関節リウマチ患者およびクローン病患者は、CCL2発現量および浸潤マクロファージ数の減少と相関する用量レベルでのTNF-αアンタゴニスト(例えばモノクローナル抗体および可溶性受容体)による処置中に好転した。
【0008】
このように、CCR2アンタゴニストは重要な治療剤の新しいクラスである。今までの努力は、化学物質(例えばBrodmerkelら, J. Immunol, 2005, 175:5370-7378参照)または抗CCR2抗体(例えばUS7,566,539参照)に集中していた。
【0009】
CCR2媒介障害を防止、処置または改善するための特異的CCR2アンタゴニスト小分子は依然として必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
[発明の概要]
本発明者らは、CCR2の細胞外膜近傍領域から、5〜7アミノ酸の一連の小ペプチドを設計した。試験した全てのペプチドのうち、ECL1(C)インベルソと名づけられたヘプタペプチドLGTFLKCは、CCR2非競合的アンタゴニストペプチドとして、最も興味深い性質を呈した。このペプチドは、CCR2の第3膜貫通ドメイン中の、より正確には、第3膜貫通ドメインの膜近傍かつN末端領域中の、逆方向配列である
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって本発明は、次のアミノ酸配列を含む、または同アミノ酸配列からなる、ペプチドを提供する:Thr-Phe-Leu-Lys-Cys(配列番号1)。
【0012】
次に、本発明者らは、システイン残基を除去するか置き換えることができ、それでもなお目的のアンタゴニストCCR2活性を示すこと、特に、対応するペプチドは依然として配列番号1のペプチドの活性レベルを示すことに気づいた。
【0013】
したがって本発明はさらに、次のアミノ酸配列を含む、または同アミノ酸配列からなる、ペプチドを提供する:Thr-Phe-Leu-Lys(配列番号17)。
【0014】
本発明はさらに、タンパク質分解に対する耐性を付与する1つ以上の化学修飾によって配列番号1もしくは配列番号17から派生する配列、または1つ以上の保存的置換によって配列番号1もしくは配列番号17から派生する配列を含む、または同配列からなるペプチドも包含する。
【0015】
好ましくは、アミノ酸の全部または一部がD立体配置である。
【0016】
本発明のもう一つの主題は、少なくとも1つの非ペプチド部分に連結された前記ペプチドのいずれか一つを含む化合物であり、前記非ペプチド部分は例えばポリエチレングリコールであることができる。
【0017】
本発明のさらにもう一つの主題は、本明細書に記載のペプチドまたは化合物を医薬上許容される担体と共に含む医薬組成物である。
【0018】
本発明のペプチドは生産が容易であり、投与も容易である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ECL1(C)インベルソはCCR2の強力なアンタゴニストである。(A)表示した濃度のECL1(C)インベルソが、HEK-CCR2においてCCL2(50nM)が誘発するカルシウム放出に及ぼす阻害効果。ECL1(C)インベルソのIC50は 0.75μMである。3回の実験のうち代表的な1回を示し、データを標準的用量応答曲線にあてはめている(GraphPad Prism5ソフトウェア)。挿入図:表示した濃度のCCL2に対するカルシウム応答についてHEK-CCR2細胞を試験することで、50nMというEC80を決定することができる。(B)CCL2によって12.5nMのEC80で誘発されるβ-アレスチン動員に対するECL1(C)インベルソの阻害効果。データは3回の独立した実験からの三重測定を表す。
図2】ECL1(C)インベルソはCCR2に特異的なアンタゴニストである。(A)HEK-CCR5(●)またはHEK-CCR1(△)においてCCL5(25nM)によって誘発されるカルシウム放出、HEK-CX3CR1(▼)においてCX3CL1(20nM)によって誘発されるカルシウム放出、またはHEK細胞(□)においてATP(10μM)によって誘発されるカルシウム放出に対し、ECL1(C)インベルソは、表示した濃度において阻害効果を持たない。(B)HEK-CCR2に対し、ECL1(C)インベルソは、37℃、5%CO2で4時間後に、表示した濃度において細胞毒性効果を持たない。三重測定を独立して3回繰り返した。
図3】ECL1(C)インベルソはCCL2によって刺激されるHEK-CCR2細胞の遊走を特異的に阻害する。ECL1(C)インベルソは、100nMのCCL2によって誘発されるHEK-CCR2の遊走(A)を、2μMのIC50で阻害するが、CCL5(10nM)によって誘発されるHEK-CCR5の遊走(B)、CX3CL1(10nM)によって誘発されるHEK-CX3CR1の遊走(C)、またはCCL5(10nM)によって誘発されるHEK-CCR1の遊走(D)は阻害しない。ECL1(C)インベルソは、15μMにおいて、試験したどのHEK細胞の遊走も誘発しない。ECL1(C)インベルソは、CCR2を発現するマウス単球(CD11b+Ly6G-)(E)および古典的単球(CD11b+Ly6G-7/4hi)(F)の遊走を、2μmのIC50で阻害する。データは3つの独立した三重測定の平均であり、各バーは三重測定の平均である。
図4】ECL1(C)インベルソは非競合的アンタゴニストである。(A)CCL2は、CCL2-Alexa-647とHEK-CCR2との結合を、用量依存的に置き換える。(B)ECL1(C)インベルソは、表示した濃度では、CCL2-Alexa-647とHEK-CCR2との結合を置き換えない。
図5】腹膜炎の非感染モデルにおいてECL1(C)インベルソは単球浸潤を阻害する。1mLの3%チオグリコレートを腹腔内注射した後、C57BL/6マウスを、14時間後に、ECL1(C)インベルソまたは対照ペプチド(90μg/TID)で処置した。最後の注射の12時間後にマウスを屠殺し、腹膜細胞を収穫した。(A)ECL1(C)インベルソは、腹膜マクロファージ(CD11b+Ly6G-F4/80+)、単球(CD11b+Ly6G-F4/80-)の動員を阻害するが、好中球(CD11b+Ly6G+)の動員は阻害しない。(B)ECL1(C)インベルソは、(7/4hi、7/4intおよび7/4lo)と定義される全ての単球サブセットの動員に対して、阻害効果を有する。1群あたりn=6のマウスで、実験は3回行った。
図6】多発性硬化症のモデルにおいて、ECL1(C)インベルソは臨床症状の重症度を低下させ、再燃を防止する。EAEの臨床徴候を次のスコアリングシステムによって毎日評価した:0、兆候なし; 1、後肢脱力;2、後肢脱力および尾麻痺;3、後肢および尾麻痺;4、後肢および尾麻痺ならびに前肢脱力;5、瀕死;および6、死亡。マウスには、図に示す時点において、90μgのECL-1 ECL1(C)インベルソの腹腔内注射を2回行った。対照群には、PBSのみを与えるか、またはECL1(C)インベルソと同じ濃度のスクランブルペプチドを与えた。
図7】ECL1(C)インベルソは肝転移を発生したマウスの生存期間を引き伸ばす。EL4リンパ腫細胞を静脈内注射し、マウスの生存を監視した。ECL1(C)インベルソ(90μg/マウス/注射)または無関連ペプチドを、腫瘍接種の12日目に開始して週に3回、23日目まで、腹腔内注射した。
図8】ECL1(C)インベルソは網膜変性症における網膜下腔での小膠細胞の蓄積を低減する。網膜変性症のマウスモデルを、実施例4において説明するように、ECL1(C)インベルソペプチドで試験した。小膠細胞(MC)蓄積および網膜変性を評価した。
図9A-D】実施例5において説明するように、それぞれペプチドECL1、M2、M8およびM1による、走化性阻害の結果を示す。t-=陰性対照(食塩溶液);t+=陽性対照(CCL2、CCR2の天然アゴニスト)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[発明の詳細な説明]
定義
「患者」または「対象」という用語は、ヒトまたは非ヒト動物、好ましくは哺乳動物を指し、男性、女性、成人および小児を含む。患者はアポトーシス促進および/または抗炎症効果が望まれる処置を必要とする。好ましくは、この用語は、典型的には、CCR2媒介症候群、障害または疾患を有する患者、特に上昇したCCL2発現またはCCL2過剰発現と関連する症候群、障害もしくは疾患を有する患者、または上昇したCCL2発現またはCCL2過剰発現と関連する症候群、障害または疾患を伴う炎症状態を有する患者である者を意味する。
【0021】
本明細書において使用する用語「処置」または「治療」は、治癒的および/または予防的処置を包含する。より具体的に述べると、治癒的処置は、特定の障害の症状の軽減、改善および/または排除、低減および/または安定化(例えば、それ以上進行した病期には進行しえないこと)ならびに症状の進行の遅延のいずれかを指す。
【0022】
予防的処置は、特定の障害の発病を停止させること、発生リスクを低減すること、発生率を低減すること、発病を遅延させること、発生を低減すること、および発症するまでの時間を増加させることのいずれかを指す。
【0023】
「組成物」または「医薬組成物」という用語は、指定された量の指定された成分を含む製品、および指定された量の指定された成分とそのための1つ以上の医薬上許容される担体との、そのような組み合わせから、直接または間接的に生じる任意の製品を意味する。
【0024】
「医薬品」という用語は、疾患の医学的診断、治癒、処置または防止に使用される製品を意味し、そのような疾患は、本明細書においては、CCR2媒介症候群または障害でありうる。
【0025】
「医薬上許容される担体」は、本発明の組成物または医薬品の製剤化に使用するための十分な純度および品質を有し、かつ動物またはヒトに適正に投与された場合に、有害反応、アレルギー反応または他の不都合な反応を生じない分子状の実体を意味する。ヒトでの使用も獣医学的使用も本発明の範囲に包含されるので、医薬上許容される製剤には、ヒト用または獣医学用の組成物または医薬品が包含される。
【0026】
「有効量」という用語は、処置される症候群、障害または疾患を防止し、処置し、またはその症状を軽減することを含む、研究者、獣医師、医師、または他の臨床家が求めている組織系、動物またはヒトにおける生物学的または医学的応答を引き出すような、活性成分(とりわけ本発明のペプチドまたは化合物)の量を意味する。
【0027】
「CCR2媒介症候群、障害」は、限定するわけではないが、上昇したCCL2発現またはCCL2過剰発現と関連する症候群、障害、もしくは疾患、または上昇したCCL2発現もしくはCCL2過剰発現と関連する症候群、障害もしくは疾患を伴う炎症状態を意味する。
【0028】
「上昇したCCL2発現」または「CCL2過剰発現」という用語は、CCL2結合の結果として起こる、とりわけ対照(好ましくは健常患者)との比較において、無調節なまたはアップレギュレートされたCCR2活性化を意味する。
【0029】
「無調節な」という用語は、多細胞生物に害(例えば不快または平均余命の減少)をもたらす多細胞生物における無用なCCR2活性化を意味する。
【0030】
「アップレギュレートされた」という用語は、とりわけ対照(好ましくは健常患者)との比較において、1)増加したもしくは無調節なCCR2の活性もしくは発現、または2)無用な単球およびリンパ球遊走につながる増加したCCR2発現を意味する。不適当なレベルまたは異常なレベルのCCL2またはCCR2の活性の存在は、当技術分野において周知の手法によって決定される。
【0031】
本明細書において使用する「保存的置換」という用語は、ペプチドの全体的なコンフォメーションおよび生物学的活性を変化させない別のアミノ酸残基によるアミノ酸残基の置き換えを表し、例えば、類似する性質(例えば極性、水素結合能、酸性、塩基性、形状、疎水性、芳香族性など)を有するアミノ酸によるアミノ酸の置き換えが含まれるが、これらに限るわけではない。類似する性質を有するアミノ酸は当技術分野において周知である。例えば、アルギニン、ヒスチジンおよびリジンは、親水性塩基性アミノ酸であり、交換可能でありうる。また、疎水性アミノ酸であるイソロイシンは、ロイシン、メチオニンまたはバリンで置き換えることができる。互いに置換することができる中性親水性アミノ酸には、アスパラギン、グルタミン、セリンおよびスレオニンが含まれる。本発明は、「置換された」または「修飾された」という表現により、自然に存在するアミノ酸から改変または修飾されたアミノ酸も包含する。
【0032】
したがって、本発明との関連において、保存的置換とは、当技術分野では、あるアミノ酸を、類似する性質を有する別のアミノ酸の代わりに使用することと認識されていると理解すべきである。保存的置換の例を下の表1に記載する。
[表1]保存的置換I
【表1】
【0033】
あるいは、保存的アミノ酸は、すぐ下の表2に記載するとおり、Lehninger(1975)において述べられているようにグループ分けすることもできる。
[表2]保存的置換II
【表2】
【0034】
さらにもう一つの選択肢として、例示的な保存的置換を、すぐ下の表3に記載する。
[表3]保存的置換III
【表3】
【0035】
ペプチド調製
本明細書に記載するペプチドは、当業者に知られている標準的な合成方法、例えば化学合成または遺伝子組み換えを使って合成することができる。好ましい一実施形態では、ペプチドが、縮合時にペプチド結合に関与する官能基以外のアミノ酸官能基を保護しつつ、アミノ酸残基を段階的に縮合することによって、既にアミノ酸配列を含有している予め形成されたフラグメントを適当な順序で縮合するか、または前もって調製されたいくつかのフラグメントを縮合することによって得られる。特に、ペプチドは、Merrifieldが最初に記述した方法に従って合成することができる。
【0036】
ペプチドの特徴
場合によっては、配列番号1の配列を、1つまたは数個のアミノ酸、例えば1〜20個のアミノ酸、好ましくは1〜14個のアミノ酸、または例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10個のアミノ酸で延長することができる。
【0037】
本発明の好ましいペプチドは、配列
【化1】
(配列番号2)
[ここで、X1は、存在しないか、グリシンであるか、またはAG、LG、YLG、およびHYLGからなる群より選択されるアミノ酸配列を表し;
X2は、独立して、存在しないか、メチオニンであるか、またはMA、MAN、MANG、MANGF、MANGFV、MANGFVW、MANGFVWE、およびMANGFVWENからなる群より選択されるアミノ酸配列を表す]
を示す。
【0038】
本発明のペプチドは、
・アミノ酸配列Thr-Phe-Leu-Lys(配列番号17);
・タンパク質分解に対する耐性を付与する1つ以上の化学修飾によって配列番号17から派生する配列;
・または、1つ以上の保存的置換によって配列番号17から派生する配列
を含む。
【0039】
本発明の好ましいペプチドは、
X1-TFLK-X3(配列番号18)
[ここで、X1は、存在しないか、グリシンであるか、またはAG、LG、YLG、およびHYLGからなる群より選択されるアミノ酸配列を表し;
X3は、独立して、存在しないか、またはアラニンである];
またはタンパク質分解に対する耐性を付与する1つ以上の化学修飾によって配列番号18から派生する配列;
または1つ以上の保存的置換によって配列番号18から派生する配列
を含む。
【0040】
本発明の特定ペプチドは、
【化2】
(配列番号3)、
【化3】
(配列番号4)、
【化4】
(配列番号5)、
【化5】
(配列番号6)、
【化6】
(配列番号7)、
【化7】
(配列番号8)、
【化8】
(配列番号9);
【化9】
(配列番号19)
【化10】
(配列番号20)
【化11】
(配列番号21)
【化12】
(配列番号22)
【化13】
(配列番号23)
からなる群より選択される。
【0041】
配列番号3からなるペプチドは好ましい。
【0042】
好ましくは、本発明のペプチドは、18アミノ酸以下、好ましくは15、14、13、12、11、10、9、または8アミノ酸以下、典型的には10アミノ酸以下のペプチドからなる。
【0043】
1つ以上の化学修飾によって配列番号1〜9もしくは19〜23から派生するタンパク質分解耐性ペプチド、または1つ以上の保存的置換によって配列番号1〜9もしくは19〜23の配列から派生する実質的に相同なペプチドも包含される。
【0044】
特定の一実施形態では、タンパク質分解耐性ペプチドまたは相同ペプチドが、依然として、コアTFLK配列を示す。
【0045】
好ましい一実施形態では、タンパク質分解耐性ペプチドまたは相同ペプチドが、その元となったペプチドと実質的に同じ生物学的性質を示す。とりわけ、本発明のペプチドは、CCL2誘発単球走化性を、好ましくは、CCL2誘発単球走化性の低減に関して約5μM〜約5nM、好ましくはナノモル濃度域、さらに好ましくは約1nMのIC50で低減する。本発明のペプチドは、CCL2細胞内カルシウム動員を、CCL2誘発細胞内カルシウム動員の低減に関して約5μM〜約5nM、好ましくは約0.75μMもしくは1nM、またはより一般的にはナノモル濃度域のIC50で低減する。
【0046】
本明細書に記載するペプチドのN末端およびC末端は、場合によっては、タンパク質分解から保護することができる。例えば、N末端はアセチル基の形態をとり、かつ/またはC末端はアミド基の形態をとることができる。タンパク質分解に対して耐性であるべきペプチドの内部修飾も考えられる。例えば、少なくとも1つの-CONH-ペプチド結合が修飾され、(CH2NH)還元型結合、(NHCO)レトロインベルソ結合、(CH2-O)メチレン-オキシ結合、(CH2-S)チオメチレン結合、(CH2CH2)カルバ結合、(CO-CH2)ケトメチレン(cetomethylene)結合、(CHOH-CH2)ヒドロキシエチレン結合)、(N-N)結合、E-アルケン(E-alcene)結合、または-CH=CH-結合で置き換えられる。
【0047】
本発明のペプチドは、ペプチドをタンパク質分解に対して耐性にするD立体配置のアミノ酸から構成されうる。あるいは、アミノ酸の全部または一部がL立体配置であってもよい。
【0048】
注目すべきことに、最初に試験したペプチドは、単に便宜上の問題で、全てD立体配置であった。というのも、そのようなペプチドは、典型的には、特にインビボでの加水分解またはタンパク質分解に対して感受性が低くなる傾向を示すからである。しかし、自然に存在するL-アミノ酸またはD-アミノ酸とL-アミノ酸との混合物を含む対応するペプチドも、全Dペプチドと著しい構造上/コンフォメーション上の類似性を共有し、同様にCCR2阻害活性を有すると予想されることは、当業者には理解されるであろう。
【0049】
ペプチドを、分子内架橋によって、例えばWalenskyら, Science, 2004, 305:1466-1470に記載のいわゆる「ステープル(staple)」技術に従って、少なくとも2つのアミノ酸残基をオレフィン側鎖(好ましくはC3-C8アルケニル鎖、好ましくはペンテン-2-イル鎖)で修飾し、次にその鎖を化学的に架橋することによって、安定化することもできる。
【0050】
これらのタンパク質分解耐性化学修飾ペプチドは全て本発明に包含される。
【0051】
1つ以上の保存的置換によって配列(I)から派生する実質的に相同なペプチドも包含される。好ましくは、これらの相同ペプチドは、環化を防止するために、2つのシステイン残基を含まない。1つ以上のアミノ酸残基が生物学的に類似する残基で置き換えられている場合、またはアミノ酸の80%以上が同一であるか、約90%以上、好ましくは約95%以上が類似している(機能的に同一である)場合、2つのアミノ酸配列は「実質的に相同」または「実質的に類似」である。好ましくは、類似配列または相同配列は、例えばGCG(Genetics Computer Group, Program Manual for the GCG Package, Version 7、ウィスコンシン州マディソン)Pileupプログラムまたは当技術分野において知られる任意のプログラム(BLAST、FASTAなど)を使ったアラインメントによって同定される。
【0052】
本発明のもう一つの態様では、尿クリアランスおよび治療的使用量を低減し、血漿における半減期を増加させるために、ペプチドが、C末端残基またはリジン残基によって、ポリエチレングリコール(PEG)分子、特に1500または4000MWのPEGに共有結合される。さらにもう一つの実施形態では、マイクロスフェアを形成する薬物送達システム用の生分解性かつ生体適合性ポリマー材料にペプチドを含めることによって、ペプチド半減期を増加させる。ポリマーおよびコポリマーは、例えばポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)(SoonKap HahnらのUS2007/0184015に例示されている)である。
【0053】
治療的適応
本発明のペプチドはCCR2アンタゴニストとして有用な治療剤である。
【0054】
したがって本発明の主題は、上述のペプチドまたは化合物を単独でまたは組み合わせて含有する医薬組成物または医薬品である。
【0055】
本発明のペプチドは、CCL2誘発単球走化性を、好ましくは、CCL2誘発単球走化性の低減に関して約5μM〜約5nM、好ましくはナノモル濃度域、さらに好ましくは約1nMのIC50で低減する。
【0056】
本発明のペプチドは、CCL2細胞内カルシウム動員を、CCL2誘発細胞内カルシウム動員の低減に関して約5μM〜約5nM、好ましくは約0.75μMもしくは1nM、またはより一般的にはナノモル濃度域のIC50で低減する。
【0057】
したがって、本発明のペプチドまたは化合物は、CCR2媒介障害、例えばCCR2炎症症候群、障害または疾患を防止、処置、または改善するための方法に有用である。
【0058】
したがって、CCR2媒介症候群、障害または疾患の処置を必要とする対象における前記症候群、障害または疾患を処置するための方法であって、その対象に、有効量の、本発明のペプチドまたは化合物を投与することを含む方法が提供される。
【0059】
そのような治療方法におけるペプチドまたは化合物の有効量は、典型的には、約0.001mg/kg/日〜約300mg/kg/日、または1日約50μg〜20gでありうる。
【0060】
本発明は、CCR2媒介症候群、障害または疾患の処置を必要とする対象における前記症候群、障害または疾患を処置するための、本発明のペプチドまたは化合物を医薬上許容される担体と共に含む組成物または医薬品の調製を目的とする、本明細書に記載するペプチドまたは化合物の使用を包含する。
【0061】
CCR2媒介症候群、障害または疾患には、眼科障害、ぶどう膜炎、アテローム性動脈硬化、関節リウマチ、乾癬、乾癬性関節炎、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、クローン病、潰瘍性大腸炎、腎炎、臓器同種移植片拒絶、線維化肺、腎機能不全、糖尿病および糖尿病合併症、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性網膜炎、糖尿病性細小血管症、結核、慢性閉塞性肺疾患、サルコイドーシス、浸潤性ブドウ球菌感染症(staphyloccocia)、白内障手術後の炎症、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、慢性じんま疹、喘息、アレルギー性喘息、歯周病、歯周炎、歯肉炎、歯肉疾患、拡張型心筋症、心筋梗塞、心筋炎、慢性心不全、血管狭窄、再狭窄、再灌流障害、糸球体腎炎、固形腫瘍およびがん、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄球性白血病、多発性骨髄腫、悪性骨髄腫、ホジキン病、および膀胱、胸部、子宮頸、大腸、肺、前立腺、または胃の癌が含まれるが、これらに限るわけではない。
【0062】
特定の一実施形態では、本発明のペプチドが、加齢性黄斑変性症または網膜変性症の処置に有用である。
【0063】
もう一つの実施形態では、本発明のペプチドは、心血管疾患の防止または処置、とりわけ下肢または心臓のアテローム発生または虚血の防止または処置に有用である。
【0064】
さらにもう一つの実施形態において、本発明のペプチドは、痛み、特に坐骨神経からの痛みなどといった末梢痛の処置に有用である。
【0065】
本発明は、CCR2媒介炎症症候群、障害または疾患の防止、処置または改善を必要とする対象における前記症候群、障害または疾患を防止、処置または改善するための方法であって、その対象に、1つ以上の抗炎症剤(例えば小分子、抗生物質、コルチコステロイド、ステロイドなど)、抗感染症剤または免疫抑制剤との併用療法として、有効量の、本明細書に記載するペプチドを投与することを含む方法を包含する。
【0066】
医薬組成物
ペプチドは、静脈内、経口、経皮、皮下、粘膜、筋肉内、肺内、眼、鼻腔内、非経口、直腸、膣および局所外用経路を含む任意の好都合な経路によって投与することができる。硝子体への注射は、とりわけ加齢性黄斑変性症または網膜変性症の処置には、特に興味深い。
【0067】
ペプチドは、典型的には、医薬上許容される担体と共に製剤化される。
【0068】
本発明のペプチドまたは化合物を含む組成物または医薬品は、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、リポソーム、生分解性担体、イオン交換樹脂、滅菌溶液など(即時放出、持続放出、または徐放を容易にするもの)、非経口溶液または懸濁液、定量エアロゾルまたは液体スプレー、滴剤、アンプル、自動注射デバイスまたは坐剤などといった投薬単位の形態をとりうる。
【0069】
経口投与に適した組成物または医薬品には、丸剤、錠剤、カプレット剤、カプセル剤(それぞれ即時放出、持続放出、および徐放性製剤を含む)、顆粒剤および散剤などの固形剤形、ならびに溶液剤、シロップ剤、エリキシル剤、乳剤および懸濁剤などの液剤が含まれる。鼻投与に有用な剤形には、滅菌溶液剤または経鼻送達デバイスが含まれる。眼投与に有用な剤形には、滅菌溶液剤または眼送達デバイスが含まれる。非経口投与に有用な剤形には、滅菌溶液剤、乳剤および懸濁剤が含まれる。
【0070】
投薬は、効果が達成されるように当業者によって選択され、投与経路および使用する剤形に依存する。
【0071】
組成物または医薬品は、約0.001mg〜約5000mg(好ましくは約0.001〜約500mg)の有効量の本発明のペプチドを含有しうる。
【0072】
考えられる有効量の範囲には、1日あたり約0.001mg〜約300mg/kg-体重が含まれる。考えられる範囲には、1日あたり約0.003〜約100mg/kg-体重も含まれる。もう一つの考えられる範囲には、1日あたり約0.005〜約15mg/kg-体重が含まれる。組成物または医薬品は、1日あたり約1〜約5回の投与計画に従って投与することができる。
【0073】
経口投与の場合、組成物または医薬品は、好ましくは、処置される患者への投薬量の対症的調節のために、例えば0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、150、200、250、および500ミリグラムの活性ペプチドを含有する錠剤の形態をとる。最適な投薬量は、処置されるその患者と関連する因子(例えば年齢、体重、食餌、および投与時間)、処置される状態の重症度、投与の様式、および調製物の強さに応じて変動するであろう。連日投与または間欠的(post-periodic)投薬を使用することができる。
【0074】
眼投与の場合、組成物は、好ましくは、眼科組成物の形態にある。眼科組成物は、好ましくは、点眼剤として製剤化され、眼への投与が容易になるように適当な容器、例えば適切なピペットを装着した点眼器に充填される。好ましくは、組成物は滅菌されており、精製水を使った水性組成物である。
【0075】
本発明のさらなる態様および利点を、下記実施例に開示するが、これらの実施例は例示であって、本願の範囲を制限するものではないとみなすべきである。
【実施例】
【0076】
[実施例1]「ECL1(C)インベルソ」ペプチドの設計と試験
PredictProtein、ProtscaleおよびPrositeソフトウェアを使って、CCR2膜近傍および膜貫通領域を決定した。柔軟性および疎水性プロファイルも同じソフトウェアで決定した。テンプレートとしてロドプシンを用いてCCR2の3D構造をモデリングし、MOE(Molecular Operating Environment;カナダ国モントリオール)で視覚化した。ペプチドはCCR2のヒト一次配列から取り出し、BLAST解析を行って配列の特異性を保証した。
【0077】
材料と方法
ペプチド合成
ECL1(C)インベルソの合成は、固相Fastmocケミストリー法により、Applied Biosystems 433A自動ペプチドシンセサイザー(Applera、フランス)で行った。先に述べたように(Vanhoyeら, 2004 Biochemistry, 43(26):8391-409)、レジンおよびFmoc保護アミノ酸はMerck Chemicals(英国Novabiochem)から購入し、溶媒はSdS(フランス)から購入した。アミノ酸は全てD-アミノ酸とした。ECL1(C)インベルソにはFmoc-Leu-Wangレジン(100〜200メッシュ)を使用した。簡単に述べると、ECL1(C)インベルソ合成生成物を、トリフルオロ酢酸(TFA)(94%)、H2O(2.5%)、トリイソプロピルシラン(TIS)(2.5%)の混合物によってレジンから切り離し、エーテル中で沈殿させ、遠心分離し、凍結乾燥した。ペプチドを、RP-HPLC(C18逆相カラム、PrepLC 25mmモジュール、250mm×100mm、15mmパーティクル、Waters)により、Waters 1252 Binary HPLCポンプ(流速8ml・分-1)で精製した。純度は、Waters 1252 Binary HPLCポンプ(流速0.75ml・分-1)で、分析用RP-HPLC(C18カラム、5μm、Luna C18(2)、4.6mm×250mm、孔径100Å、Phenomenex)およびMALDI-TOF質量分析(Voyager DE-PR0、Applied Biosystems)によって評価した。
【0078】
細胞培養
ネイティブの、およびCCR2、CX3CR1、CCR1またはCCR5を安定に発現する、HEK293またはCHO細胞を、2mM L-グルタミン、1%非必須アミノ酸、2mMピルビン酸ナトリウム、10%FBS、ペニシリン(50U/mL)、およびストレプトマイシン(50μg/mL)を補足したDMEM中で培養した。ケモカイン受容体を発現するHEKまたはCHO細胞はすべて、以前に記述されている。HEK-またはCHO-CCR2、-CCR5、-CX3CR1はG418(200μg/mL)の存在下で成長させ、HEK-CCR1はハイグロマイシン(100μg/mL)の存在下で成長させた。マウス骨髄細胞(MBMC)はC57BL/6マウスから得た。
【0079】
動物
10週齢雄または雌C57BL/6マウスを病原体フリー条件下で食物と水とを自由摂取させて飼育し、12時間明/12時間暗(100〜500ルクス)の周期で収容した。
【0080】
結合アッセイ
放射性リガンド結合アッセイ
結合アッセイはI125-CCL2(比活性2200Ci/mmol;PerkinElmer, Inc.)を使って行った。CCR2を安定に発現する300,000個のHEK細胞およびネイティブ細胞を、200μlの緩衝液(0.5%BSAおよび0.01%HEPESを含有するPBS)中、組換えヒトCCL2(10nMまたは100nM)またはECL1(C)インベルソ(1-10-30μM)の存在下または非存在下で、I125-CCL2と共にインキュベートした。37℃で1時間のインキュベーション後に、細胞を1mlの冷洗浄溶液で3回洗浄した。次に、細胞ペレット中のガンマ放射をガンマカウンターで計数した。非特異的結合が全結合に占める割合は15%未満であり、これを全結合から差し引いて、特異的I125-CCL2結合とした。
【0081】
CCL2-Alexa647結合アッセイ
同じ細胞で結合を行った。200,000個の細胞を100μlの緩衝液(0.5%BSA、0.2%EDTAおよび0.01%NaN3を含有するPBS)中、組換えヒトCCL2(50nM、100nMおよび500nM)、ECL1(C)インベルソ(11.3μM、28.2μMおよび56.3μM)または緩衝液とともに、4℃で30分間プレインキュベートした。次に、50nM CCL2-Alexa647(Almac)を4℃で30分間加え、1mlの冷緩衝液で3回洗浄した。細胞を、暗所で、10μlの抗ヒト-CCR2(BD Pharmingen)と共に、4℃で30分間インキュベートし、1mlの冷緩衝液で3回洗浄した。細胞とビーズをFACSCaliburフローサイトメーターで計数し、データをFlowJoソフトウェアで分析した。
【0082】
生物発光共鳴エネルギー移動アッセイ(BRET)
トランスフェクションの24時間前に細胞を100,000細胞/ウェルの密度で12ウェルディッシュに播種した。150mM NaClにおいて、一過性トランスフェクションを、カチオンポリマートランスフェクション試薬JePEI(Polyplusトランスフェクション、Ozyme)で行った。0.5μgのさまざまなCCR2-pRlucコンストラクトを単独で、または2.5μgのさまざまなCCR2-pEYFPコンストラクトと共にトランスフェクトした。終夜インキュベーション後に、トランスフェクト細胞をリン酸緩衝食塩水(PBS)で剥離し、10mM HEPES、1mM CaCl2、および0.5mM MgCl2を補足したHBSS緩衝液で洗浄した。細胞ホモジネートを収穫し、100μLの補足HBSSに入れて、96ウェルブラックプレート(PerkinElmer)に播種した。セレンテラジンH(Interchim、フランス国モンリュソン)を加えて5μMにした。読み取りの15分前にECL1(c)インベルソおよび対照ペプチドをインキュベートした。読み値は、ルシフェラーゼ発光については485±20nmウインドウ、黄色蛍光タンパク質(YFP)発光については540±20nmウインドウにおいて検出されるシグナルの連続的積算が可能なマイクロプレートアナライザー(Fusion;PerkinElmer)で測定した。CCR2-YFPによって放射される光強度の、CCR2-ルシフェラーゼ(Luc)によって放射される光強度に対する比を算出することによって、BRETシグナルを決定した。CCR2-Lucコンストラクトを単独で発現させた場合に検出されるバックグラウンドBRETシグナルを差し引くことによって、値を補正した。値は15回の測定の平均である。
【0083】
カルシウムフラックスアッセイ
HitHunter(商標)Calcium No WashPLUS(Ca NWPLUS)アッセイキット(DiscoveRex、#90-0091)を使って、細胞質遊離カルシウムアッセイを、蛍光検出によって測定した。簡単に述べると、目的のケモカイン受容体を発現するHEKまたはCHO(5.104)を37℃、5%CO2で終夜プレーティングしてから、カルシウム色素が細胞から漏出するのを回避するためにプロベネシド(Sigma-Aldrich、#P8761)を補足したカルシウム感受性色素(Ca NWPLUS作業試薬)を、37℃で1時間、プレローディングした。次に細胞を、対照緩衝液またはさまざまな濃度のペプチドおよび適当なアゴニストで処理した。液体ハンドリングシステム(FlexStation 3、Molecular Devices)を装備した蛍光プレートリーダーで、シグナルを時間の関数として測定した。ベースラインに対する蛍光の最大変化(ピークシグナル)を使って、SoftMax Proソフトウェアを使用して定量されるアゴニスト応答を決定した。実験は全て三重に行われ、結果は少なくとも3回の独立した実験を代表している。
【0084】
β-アレスチンアッセイ
PathHunter(商標)eXpress β-アレスチンアッセイキット(DiscoveRex、#93-00446E1)を使って、生細胞におけるβ-アレスチンの動員を、ケモルミネセンス検出によって測定した。簡単に述べると、CCR2を発現するPathHunter eXpress細胞100μLを96ウェル組織培養処理済プレートに、37℃、5%CO2で48時間、プレーティングした。細胞を、まずECL1(C)インベルソまたは対照ペプチドと共にインキュベートし、次に、10μLのアゴニスト、すなわちOCC培地に希釈したCCL2を、前もって決定しておいたEC80になるように、またはOCC培地のみを、37℃、5%CO2において、それぞれ60分および90分間、添加した。55μLの作業検出試薬溶液(Working Detection Reagent Solution)(PathHunter検出試薬)を室温で90分間加えることによって、反応を停止した。ケモルミネセンスシグナルを、ルミネセンスプレートリーダー(TriStar LB 941、Berthold Technologies、フランス国トワリー)で読み取った。アッセイは三重に行った。
【0085】
遊走アッセイ
遊走アッセイは、HEKまたはCHO細胞には8μmポリカーボネートフィルター、MBMCには5μmポリカーボネートフィルターを使って、24トランスウェルインサート(Corning Costar、フランス国アヴォン)で行った。上部チャンバーに入れた適当な濃度のECL1(C)インベルソの存在下または非存在下で、細胞を、走化性緩衝液に再懸濁した(0.5%BSAおよび10nM HEPESを含有する100μlのRPMI中の5.105細胞)。各ウェルの下部には、表示したケモカイン濃度の予熱した走化性緩衝液600μLを充填した。次に、プレートを、5%CO2雰囲気中、37℃で4時間インキュベートした。膜を通過した細胞を、FACSCaliburフローサイトメトリーにより、予め決定された数のビーズ(Polybead、カルボキシルマイクロスフェア、Polyscience, Inc)をチューブに加えて計数した。フローサイトメトリーによって細胞を計数する前に、マウス白血球を蛍光抗体の混合物(抗マウスLy6G-PE、抗マウスNK1.1-PE、抗マウスCD1b-PCP、抗マウス7/4-FITC、BD Biosciences)で、またケモカイン受容体を発現するHEKを適当な蛍光抗ヒトケモカイン受容体で、免疫表現型判定した。データをFlowJoソフトウェアで解析し、結果を、化学誘引物質の存在下または非存在下で遊走する細胞の数として表現する。実験は三重に行われ、結果は少なくとも3回の独立した実験を代表している。
【0086】
細胞毒性
0.5%BSAおよび10nM HEPESを含有する100μlのRPMIにおいて、5.105個のマウス白血球を、ECL1(C)インベルソまたは対照ペプチドと共に、5%CO2、37℃で4時間インキュベートすることによって、ECL1(C)インベルソの細胞毒性を試験した。蛍光抗体の混合物(抗LY-6G-PE、抗CD11b-PerCP、抗7/4-FITC、抗F4/80-APC、抗NK-PE)を加えることによって細胞を免疫表現型判定し、FACSCaliburフローサイトメトリーにより、予め決定された数のビーズ(Polybead、カルボキシルマイクロスフェア、Polyscience, Inc)をチューブに加えて計数した。データはFlowJoで解析した。
【0087】
チオグリコレート誘発腹膜炎症
C57BL/6マウスに、滅菌PBSに溶解した3%(wt/vol)チオグリコレート(Sigma-Aldrich、フランス国リルダボー(l'Ile d'Abeau))1mLを腹腔内注射し、次いで、14、19および24時間後に、ECL1(C)インベルソまたは対照ペプチド(30μg)を腹腔内注射した。最後の注射の12時間後にマウスを屠殺し、3mLの冷PBSを腹腔内注射して腹膜細胞を収穫し、次にそれらを抗マウスLy6G-PE、抗マウスNK1.1-PE、抗マウスCD11b-PCP、抗マウス7/4-FITCおよび抗F4/80-APC(BD Biosciences)で染色した。次に細胞およびビーズをFACSCaliburフローサイトメトリーによって計数し、データをFlowJoで解析した。CD11bhiLy6G-NK1.1-である細胞を単球であるとみなし、サブセットの識別は、7/4発現にもとづいて行った。7/4発現は、単球サブセット上のLy6C発現と等価であることが示されている。
【0088】
結果
細胞外膜近傍領域に由来するペプチドのスクリーニング
本発明者らは、CCR2の細胞外膜近傍領域を再現する5〜7アミノ酸の一連の小ペプチドを設計した。後のインビボ使用のためにその安定性を増加させる目的で、全てのペプチドをD-アミノ酸で合成した。古典的にGPCR刺激に関連付けられるCCL2誘発カルシウム放出を阻害するその能力について、ペプチドをスクリーニングした。これらのペプチドの配列を以下に示す:
【表4】
【0089】
ペプチドを試験する前に、本発明者らはまず、CCL2がHEK-CCR2細胞において50nMのEC80値でカルシウム放出を惹起することを確認した。試験した全てのペプチドのうち、ECL1(C)インベルソと名づけたヘプタペプチドLGTFLKC(配列番号3)は、50nM CCL2によって誘発されるカルシウム応答を用量依存的に、0.75μMのIC50値で打ち消すことにより、最も興味深い性質を呈した(図1A)。これらの結果は、生細胞におけるβ-アレスチンの動員(これはGPCRと共役しているもう一つの事象である)を試験することによって確認された。図1Bに示すように、CCL2は、HEK-CCR2におけるβ-アレスチンの動員を、12.5nMのEC80値で誘発することができ、この動員は、ECL1(C)インベルソを加えることによって、2μMのIC50値で阻害することができた。本発明者らは、CCL2とは異なり、ECL1(C)インベルソが、HEK-CCR2細胞でもCHO-CCR2でも、500μMまでの濃度では、有意なカルシウム応答を誘発し得ないことも観察した。
【0090】
CCL2によって誘発される走化性応答およびカルシウムフラックス応答は、ECL1(C)インベルソによって特異的に阻害される
本発明者らは、CCR2に対するECL1(C)インベルソの選択性を、配列がCCR2の配列ともリゾホスファチジン酸(lypophosphatic acid)(LPA)-GPCRのような他のGPCRの配列とも近い関係にある他のケモカイン受容体CCR1、CCR5およびCX3CR1でのカルシウム応答に対するその阻害効果を調べることによって評価した。HEK-CCR2においてCCL2によって誘発されるカルシウム放出に対するECL1(C)インベルソの阻害効果とは対照的に、HEK-CCR5およびHEK-CCR1においてCCL5(25nM)によって、HEK-CX3CR1においてCX3CL1(20nM)によって、またはHEK細胞においてLPA(10μM)もしくはATP(30μM)によって誘発されるカルシウム放出に対しては、有意な阻害が観察されなかった(図2A)。本発明者らは、ECL1(C)インベルソによるCCL2誘発カルシウム放出の阻害が、細胞毒性によるものではないことも確認した。そのために、本発明者らは、HEK-CCR2またはMBCMを、さまざまな濃度のECL1(C)の存在下でインキュベートした(図2B)。4時間のインキュベーション後に、有意な細胞死は観察されなかった。次に本発明者らは、CCR2媒介走化性に対するECL1(C)インベルソの効果を調べた。HEK-CCR2は濃度100nMのCCL2で遊走した。ECL1(C)インベルソはこのCCL2依存的走化性を2μMのIC50値で用量依存的に阻害した(図3A)。単球、マクロファージ(図3E)およびNK細胞MBMCまたはCHO-CCR2でも同様の結果が得られた。その上、ECL1(C)インベルソは、炎症性単球(CD11b+Ly6G-7/4hiCCR2+)のCCL2媒介走化性も阻害したが(図3F)、常在性単球(CD11b+Ly6G-7/4loCCR2-)には何も効果がなかった(データ未掲載)。これに対し、ECL1(C)インベルソは、それぞれHEK-CCR5もしくは-CCR1またはHEK-CX3CR1において、CCL5(10nM)またはCX3CL1(1nM)によって誘発される走化性効果を拮抗しなかった(図3B、C、D)。ECL1(C)は、500μMまでの濃度では、HEK-CCR2、-CCR5、-CX3CR1またはマウス白血球のいずれの走化性も誘発しなかった。これらの結果は全体として、ECL1(C)インベルソがカルシウム応答および走化性応答を阻害する特異的CCR2アンタゴニストであることを示している。
【0091】
非競合的アンタゴニストとしてのECL1(C)インベルソの特徴づけ
この新しいCCR2アンタゴニストをさらに特徴づけるために、本発明者らは、ECL1(C)インベルソがCCL2と同じCCR2部位に結合するかどうかを調べた。そのために、HEK-CCR2細胞およびトレーサーとしての[125I]-CCL2または蛍光物質(Alexa-647)にカップリングしたCCL2を使った競合結合において、CCR2に対するECL1(C)インベルソの結合アフィニティを、ネイティブCCL2の結合アフィニティと比較した。図4AおよびBに示すように、CCL2が[125I]-CCL2またはCCL2-Alexa647を用量依存的に置き換えることができたのに対し、ECL1(C)インベルソはそうではなかったことから、ECL1(C)インベルソは天然リガンドCCL2と同じ結合部位に結合しないことが示された。これらの結果は全体として、ECL1(C)インベルソが非競合的アンタゴニストであることを示している。
【0092】
ECL1(C)インベルソはインビボで白血球の動員を阻害する
潜在的な治療的抗炎症処置としてのECL1(C)インベルソのインビボアンタゴニスト効果を、まず、非感染性腹膜炎モデルで評価した。ECL1(C)インベルソまたは対照ペプチドでC57BL/6マウスを処置する14時間前に、チオグリコレートの腹腔内注射によって、重症な炎症を作り出した。ペプチドの最後の注射の12時間後にマウスを屠殺した。腹膜腔への白血球の動員をフローサイトメトリーによって解析した。図5Aに示すように、チオグリコレート注射後に、単球(CD11b+Ly6G-F4/80-)、マクロファージ(CD11b+Ly6G-F4/80+)および好中球が腹膜腔に動員された。単球およびマクロファージの動員は、90μgのECL1(C)インベルソの1日3回(TID)の腹腔内注射による処置後に、強く阻害されたが、対照ペプチドによる処置では阻害されなかった。驚いたことに、程度は低いものの、好中球の動員も減少させたことから、好中球に対する間接的阻害機序が示唆された。というのも、好中球はCCR2を発現しないからである。より詳細な解析(図5B)により、全ての単球集団(「炎症性」7/4hiCCR2+単球および「常在性」7/4loCCR2-単球)が、ECL1(C)インベルソの阻害効果による影響を受けることも明らかになり、集団間の相互依存効果が示された。
【0093】
[実施例2]多発性硬化症のモデルにおけるECL1(C)インベルソ
マウスにおける実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)は、多発性硬化症(CCR2が関与する炎症性疾患)の広く認められた動物モデルである。CCR2を無効にしたマウスはこの疾患を発症しない。
【0094】
EAE誘発はEphremら, Blood 2008, Jan 15;111(2):715-22を参考にした。
【0095】
800μgの生育不能な乾燥結核菌H37RA(Difco Laboratories、フランス国ラルブレル(L'Arbresk))を含有する完全フロイントアジュバント(CFA;Sigma-Aldrich、フランス国サンカンタンファラヴィエ)に1:1の体積比で乳化した200μgのMOG35-55ペプチド(MOGタンパク質のフラグメント35〜55)で、C57BL/6Jマウス(体重約20g)を免疫処置した。最終体積200μLを脇腹の4箇所に皮下注射した。加えて、300ngの百日咳毒素(List Biologic Laboratories、フランス国ムードン)を同じ日および2日後に静脈内投与した。EAEの臨床徴候を次のスコアリングシステムで毎日評価した:0、兆候なし;1、後肢脱力;2、後肢脱力および尾麻痺;3、後肢および尾麻痺;4、後肢および尾麻痺ならびに前肢脱力;5、瀕死;および6、死亡。マウスに、図6に示す時点において、90μgのECL1(C)インベルソの腹腔内注射を2回行った。対照群にはPBSのみを与えるか、またはECL1(C)インベルソと同じ濃度のスクランブルペプチドを与えた。
【0096】
図6に示すように、疾患進行(7日目および8日目)中のECL1(C)インベルソの注射は、臨床症状重症度を低下させる。疾患ピーク(12日目および13日目)におけるECL1(C)インベルソの注射は再燃を防止する。
【0097】
[実施例3]がんの処置におけるECL1(C)インベルソ
腫瘍の微小環境は、循環単球から派生するマクロファージを含む。浸潤マクロファージを減少させることは、患者のより良い予後と関連する。
【0098】
そこで、ECL1(C)インベルソの注射を腫瘍転移のマウスモデルにおいて試験した。
【0099】
この目的のために、EL4リンパ腫細胞を静脈内注射し、マウスの生存を監視した。ECL1(C)インベルソ(90μg/マウス/注射)または無関連ペプチドを、腫瘍接種の12日目に開始して週に3回、23日目まで、腹腔内注射した。
【0100】
図7に示すとおり、ECL1(C)インベルソの注射は、肝転移を発生したマウスの生存期間を引き伸ばした。
【0101】
[実施例4]網膜変性症の処置におけるECL1(C)インベルソ
加齢性黄斑変性症のモデルである光誘発網膜変性は、血液単球の網膜下CCR2依存的浸潤と関連する。
【0102】
網膜変性症のマウスモデルをECL1(C)インベルソペプチドで試験した。
【0103】
2〜4ヶ月齢のCX3CR1 KOマウスを6時間暗所に順化させ、1%アトロピン(Novartis)で瞳孔を完全に拡張させた。次に、動物を緑色LED光(4500ルクス、JP Vezon Equipements)に4日間露光し、次いで周期的な12時間/12時間の通常の動物施設条件下に保った。小膠細胞(MC)蓄積および網膜変性をそれぞれ露光の10日後に評価した。緑色露光中はマウスを毎日ECL-1(90μg/マウス)またはPBSで処置した。
【0104】
眼球を摘出し、4%PFAで固定し、角膜輪部で薄切し;角膜および水晶体は捨てた。網膜をRPE(網膜色素上皮)/脈絡膜/強膜から注意深く剥ぎ取った。網膜を冷アセトンでさらに20分間固定した。網膜および脈絡膜を抗Iba1(和光純薬)と共にインキュベートした後、二次抗体である抗ウサギAlexa488(Molecular Probes)と共にインキュベートした。脈絡膜および網膜をフラットマウントし、蛍光顕微鏡DM5500B(Leica)で観察した。MCを全RPE/脈絡膜フラットマウントおよび網膜の外節側で計数した。
【0105】
図8に示すように、ECL1(C)インベルソの注射は、網膜下腔における小膠細胞の蓄積を減少させた。
【0106】
[実施例5]他のペプチドの設計と試験
いくつかのペプチドを使って走化性遊走アッセイを行った:
ペプチドECL1(C)インベルソ:LGTFLKC
ペプチドM1:LGTFLK
ペプチドM2:AGTFLKC
ペプチドM8:LGTFLKA。
【0107】
遊走アッセイは、CHO細胞用に孔径8μmのフィルターを使って、24トランスウェルインサート(Corning Costar、フランス国アヴォン)で行った。CHO細胞は走化性緩衝液に懸濁して(10%FCSを含有する100μlのDMEM中の150x103細胞)、上部チャンバーにローディングした。各ウェルの下部には、表示したケモカイン濃度の予熱した走化性緩衝液600μLを充填した。次に、プレートを、5%CO2雰囲気中、37℃で5時間インキュベートした。結果を、化学誘引物質の存在下で遊走する細胞の数を非存在との対比で表す。どの条件も二重に実施され、結果は2回の独立した実験を代表している。
【0108】
図9A、9B、9C、9Dは、それぞれ、ペプチドECL1(C)インベルソ、M2、M8およびM1による走化性阻害の結果を示している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9-1】
図9-2】
図9-3】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]