【実施例】
【0076】
[実施例1]
「ECL1(C)インベルソ」ペプチドの設計と試験
PredictProtein、ProtscaleおよびPrositeソフトウェアを使って、CCR2膜近傍および膜貫通領域を決定した。柔軟性および疎水性プロファイルも同じソフトウェアで決定した。テンプレートとしてロドプシンを用いてCCR2の3D構造をモデリングし、MOE(Molecular Operating Environment;カナダ国モントリオール)で視覚化した。ペプチドはCCR2のヒト一次配列から取り出し、BLAST解析を行って配列の特異性を保証した。
【0077】
材料と方法
ペプチド合成
ECL1(C)インベルソの合成は、固相Fastmocケミストリー法により、Applied Biosystems 433A自動ペプチドシンセサイザー(Applera、フランス)で行った。先に述べたように(Vanhoyeら, 2004 Biochemistry, 43(26):8391-409)、レジンおよびFmoc保護アミノ酸はMerck Chemicals(英国Novabiochem)から購入し、溶媒はSdS(フランス)から購入した。アミノ酸は全てD-アミノ酸とした。ECL1(C)インベルソにはFmoc-Leu-Wangレジン(100〜200メッシュ)を使用した。簡単に述べると、ECL1(C)インベルソ合成生成物を、トリフルオロ酢酸(TFA)(94%)、H
2O(2.5%)、トリイソプロピルシラン(TIS)(2.5%)の混合物によってレジンから切り離し、エーテル中で沈殿させ、遠心分離し、凍結乾燥した。ペプチドを、RP-HPLC(C18逆相カラム、PrepLC 25mmモジュール、250mm×100mm、15mmパーティクル、Waters)により、Waters 1252 Binary HPLCポンプ(流速8ml・分
-1)で精製した。純度は、Waters 1252 Binary HPLCポンプ(流速0.75ml・分
-1)で、分析用RP-HPLC(C18カラム、5μm、Luna C18(2)、4.6mm×250mm、孔径100Å、Phenomenex)およびMALDI-TOF質量分析(Voyager DE-PR0、Applied Biosystems)によって評価した。
【0078】
細胞培養
ネイティブの、およびCCR2、CX3CR1、CCR1またはCCR5を安定に発現する、HEK293またはCHO細胞を、2mM L-グルタミン、1%非必須アミノ酸、2mMピルビン酸ナトリウム、10%FBS、ペニシリン(50U/mL)、およびストレプトマイシン(50μg/mL)を補足したDMEM中で培養した。ケモカイン受容体を発現するHEKまたはCHO細胞はすべて、以前に記述されている。HEK-またはCHO-CCR2、-CCR5、-CX3CR1はG418(200μg/mL)の存在下で成長させ、HEK-CCR1はハイグロマイシン(100μg/mL)の存在下で成長させた。マウス骨髄細胞(MBMC)はC57BL/6マウスから得た。
【0079】
動物
10週齢雄または雌C57BL/6マウスを病原体フリー条件下で食物と水とを自由摂取させて飼育し、12時間明/12時間暗(100〜500ルクス)の周期で収容した。
【0080】
結合アッセイ
放射性リガンド結合アッセイ
結合アッセイはI125-CCL2(比活性2200Ci/mmol;PerkinElmer, Inc.)を使って行った。CCR2を安定に発現する300,000個のHEK細胞およびネイティブ細胞を、200μlの緩衝液(0.5%BSAおよび0.01%HEPESを含有するPBS)中、組換えヒトCCL2(10nMまたは100nM)またはECL1(C)インベルソ(1-10-30μM)の存在下または非存在下で、I125-CCL2と共にインキュベートした。37℃で1時間のインキュベーション後に、細胞を1mlの冷洗浄溶液で3回洗浄した。次に、細胞ペレット中のガンマ放射をガンマカウンターで計数した。非特異的結合が全結合に占める割合は15%未満であり、これを全結合から差し引いて、特異的I125-CCL2結合とした。
【0081】
CCL2-Alexa647結合アッセイ
同じ細胞で結合を行った。200,000個の細胞を100μlの緩衝液(0.5%BSA、0.2%EDTAおよび0.01%NaN
3を含有するPBS)中、組換えヒトCCL2(50nM、100nMおよび500nM)、ECL1(C)インベルソ(11.3μM、28.2μMおよび56.3μM)または緩衝液とともに、4℃で30分間プレインキュベートした。次に、50nM CCL2-Alexa647(Almac)を4℃で30分間加え、1mlの冷緩衝液で3回洗浄した。細胞を、暗所で、10μlの抗ヒト-CCR2(BD Pharmingen)と共に、4℃で30分間インキュベートし、1mlの冷緩衝液で3回洗浄した。細胞とビーズをFACSCaliburフローサイトメーターで計数し、データをFlowJoソフトウェアで分析した。
【0082】
生物発光共鳴エネルギー移動アッセイ(BRET)
トランスフェクションの24時間前に細胞を100,000細胞/ウェルの密度で12ウェルディッシュに播種した。150mM NaClにおいて、一過性トランスフェクションを、カチオンポリマートランスフェクション試薬JePEI(Polyplusトランスフェクション、Ozyme)で行った。0.5μgのさまざまなCCR2-pRlucコンストラクトを単独で、または2.5μgのさまざまなCCR2-pEYFPコンストラクトと共にトランスフェクトした。終夜インキュベーション後に、トランスフェクト細胞をリン酸緩衝食塩水(PBS)で剥離し、10mM HEPES、1mM CaCl
2、および0.5mM MgCl
2を補足したHBSS緩衝液で洗浄した。細胞ホモジネートを収穫し、100μLの補足HBSSに入れて、96ウェルブラックプレート(PerkinElmer)に播種した。セレンテラジンH(Interchim、フランス国モンリュソン)を加えて5μMにした。読み取りの15分前にECL1(c)インベルソおよび対照ペプチドをインキュベートした。読み値は、ルシフェラーゼ発光については485±20nmウインドウ、黄色蛍光タンパク質(YFP)発光については540±20nmウインドウにおいて検出されるシグナルの連続的積算が可能なマイクロプレートアナライザー(Fusion;PerkinElmer)で測定した。CCR2-YFPによって放射される光強度の、CCR2-ルシフェラーゼ(Luc)によって放射される光強度に対する比を算出することによって、BRETシグナルを決定した。CCR2-Lucコンストラクトを単独で発現させた場合に検出されるバックグラウンドBRETシグナルを差し引くことによって、値を補正した。値は15回の測定の平均である。
【0083】
カルシウムフラックスアッセイ
HitHunter(商標)Calcium No WashPLUS(Ca NWPLUS)アッセイキット(DiscoveRex、#90-0091)を使って、細胞質遊離カルシウムアッセイを、蛍光検出によって測定した。簡単に述べると、目的のケモカイン受容体を発現するHEKまたはCHO(5.104)を37℃、5%CO
2で終夜プレーティングしてから、カルシウム色素が細胞から漏出するのを回避するためにプロベネシド(Sigma-Aldrich、#P8761)を補足したカルシウム感受性色素(Ca NWPLUS作業試薬)を、37℃で1時間、プレローディングした。次に細胞を、対照緩衝液またはさまざまな濃度のペプチドおよび適当なアゴニストで処理した。液体ハンドリングシステム(FlexStation 3、Molecular Devices)を装備した蛍光プレートリーダーで、シグナルを時間の関数として測定した。ベースラインに対する蛍光の最大変化(ピークシグナル)を使って、SoftMax Proソフトウェアを使用して定量されるアゴニスト応答を決定した。実験は全て三重に行われ、結果は少なくとも3回の独立した実験を代表している。
【0084】
β
-アレスチンアッセイ
PathHunter(商標)eXpress β-アレスチンアッセイキット(DiscoveRex、#93-00446E1)を使って、生細胞におけるβ-アレスチンの動員を、ケモルミネセンス検出によって測定した。簡単に述べると、CCR2を発現するPathHunter eXpress細胞100μLを96ウェル組織培養処理済プレートに、37℃、5%CO
2で48時間、プレーティングした。細胞を、まずECL1(C)インベルソまたは対照ペプチドと共にインキュベートし、次に、10μLのアゴニスト、すなわちOCC培地に希釈したCCL2を、前もって決定しておいたEC80になるように、またはOCC培地のみを、37℃、5%CO
2において、それぞれ60分および90分間、添加した。55μLの作業検出試薬溶液(Working Detection Reagent Solution)(PathHunter検出試薬)を室温で90分間加えることによって、反応を停止した。ケモルミネセンスシグナルを、ルミネセンスプレートリーダー(TriStar LB 941、Berthold Technologies、フランス国トワリー)で読み取った。アッセイは三重に行った。
【0085】
遊走アッセイ
遊走アッセイは、HEKまたはCHO細胞には8μmポリカーボネートフィルター、MBMCには5μmポリカーボネートフィルターを使って、24トランスウェルインサート(Corning Costar、フランス国アヴォン)で行った。上部チャンバーに入れた適当な濃度のECL1(C)インベルソの存在下または非存在下で、細胞を、走化性緩衝液に再懸濁した(0.5%BSAおよび10nM HEPESを含有する100μlのRPMI中の5.105細胞)。各ウェルの下部には、表示したケモカイン濃度の予熱した走化性緩衝液600μLを充填した。次に、プレートを、5%CO
2雰囲気中、37℃で4時間インキュベートした。膜を通過した細胞を、FACSCaliburフローサイトメトリーにより、予め決定された数のビーズ(Polybead、カルボキシルマイクロスフェア、Polyscience, Inc)をチューブに加えて計数した。フローサイトメトリーによって細胞を計数する前に、マウス白血球を蛍光抗体の混合物(抗マウスLy6G-PE、抗マウスNK1.1-PE、抗マウスCD1b-PCP、抗マウス7/4-FITC、BD Biosciences)で、またケモカイン受容体を発現するHEKを適当な蛍光抗ヒトケモカイン受容体で、免疫表現型判定した。データをFlowJoソフトウェアで解析し、結果を、化学誘引物質の存在下または非存在下で遊走する細胞の数として表現する。実験は三重に行われ、結果は少なくとも3回の独立した実験を代表している。
【0086】
細胞毒性
0.5%BSAおよび10nM HEPESを含有する100μlのRPMIにおいて、5.105個のマウス白血球を、ECL1(C)インベルソまたは対照ペプチドと共に、5%CO
2、37℃で4時間インキュベートすることによって、ECL1(C)インベルソの細胞毒性を試験した。蛍光抗体の混合物(抗LY-6G-PE、抗CD11b-PerCP、抗7/4-FITC、抗F4/80-APC、抗NK-PE)を加えることによって細胞を免疫表現型判定し、FACSCaliburフローサイトメトリーにより、予め決定された数のビーズ(Polybead、カルボキシルマイクロスフェア、Polyscience, Inc)をチューブに加えて計数した。データはFlowJoで解析した。
【0087】
チオグリコレート誘発腹膜炎症
C57BL/6マウスに、滅菌PBSに溶解した3%(wt/vol)チオグリコレート(Sigma-Aldrich、フランス国リルダボー(l'Ile d'Abeau))1mLを腹腔内注射し、次いで、14、19および24時間後に、ECL1(C)インベルソまたは対照ペプチド(30μg)を腹腔内注射した。最後の注射の12時間後にマウスを屠殺し、3mLの冷PBSを腹腔内注射して腹膜細胞を収穫し、次にそれらを抗マウスLy6G-PE、抗マウスNK1.1-PE、抗マウスCD11b-PCP、抗マウス7/4-FITCおよび抗F4/80-APC(BD Biosciences)で染色した。次に細胞およびビーズをFACSCaliburフローサイトメトリーによって計数し、データをFlowJoで解析した。CD11bhiLy6G-NK1.1-である細胞を単球であるとみなし、サブセットの識別は、7/4発現にもとづいて行った。7/4発現は、単球サブセット上のLy6C発現と等価であることが示されている。
【0088】
結果
細胞外膜近傍領域に由来するペプチドのスクリーニング
本発明者らは、CCR2の細胞外膜近傍領域を再現する5〜7アミノ酸の一連の小ペプチドを設計した。後のインビボ使用のためにその安定性を増加させる目的で、全てのペプチドをD-アミノ酸で合成した。古典的にGPCR刺激に関連付けられるCCL2誘発カルシウム放出を阻害するその能力について、ペプチドをスクリーニングした。これらのペプチドの配列を以下に示す:
【表4】
【0089】
ペプチドを試験する前に、本発明者らはまず、CCL2がHEK-CCR2細胞において50nMのEC80値でカルシウム放出を惹起することを確認した。試験した全てのペプチドのうち、ECL1(C)インベルソと名づけたヘプタペプチドLGTFLKC(配列番号3)は、50nM CCL2によって誘発されるカルシウム応答を用量依存的に、0.75μMのIC50値で打ち消すことにより、最も興味深い性質を呈した(
図1A)。これらの結果は、生細胞におけるβ-アレスチンの動員(これはGPCRと共役しているもう一つの事象である)を試験することによって確認された。
図1Bに示すように、CCL2は、HEK-CCR2におけるβ-アレスチンの動員を、12.5nMのEC80値で誘発することができ、この動員は、ECL1(C)インベルソを加えることによって、2μMのIC50値で阻害することができた。本発明者らは、CCL2とは異なり、ECL1(C)インベルソが、HEK-CCR2細胞でもCHO-CCR2でも、500μMまでの濃度では、有意なカルシウム応答を誘発し得ないことも観察した。
【0090】
CCL2によって誘発される走化性応答およびカルシウムフラックス応答は、ECL1(C)インベルソによって特異的に阻害される
本発明者らは、CCR2に対するECL1(C)インベルソの選択性を、配列がCCR2の配列ともリゾホスファチジン酸(lypophosphatic acid)(LPA)-GPCRのような他のGPCRの配列とも近い関係にある他のケモカイン受容体CCR1、CCR5およびCX3CR1でのカルシウム応答に対するその阻害効果を調べることによって評価した。HEK-CCR2においてCCL2によって誘発されるカルシウム放出に対するECL1(C)インベルソの阻害効果とは対照的に、HEK-CCR5およびHEK-CCR1においてCCL5(25nM)によって、HEK-CX3CR1においてCX3CL1(20nM)によって、またはHEK細胞においてLPA(10μM)もしくはATP(30μM)によって誘発されるカルシウム放出に対しては、有意な阻害が観察されなかった(
図2A)。本発明者らは、ECL1(C)インベルソによるCCL2誘発カルシウム放出の阻害が、細胞毒性によるものではないことも確認した。そのために、本発明者らは、HEK-CCR2またはMBCMを、さまざまな濃度のECL1(C)の存在下でインキュベートした(
図2B)。4時間のインキュベーション後に、有意な細胞死は観察されなかった。次に本発明者らは、CCR2媒介走化性に対するECL1(C)インベルソの効果を調べた。HEK-CCR2は濃度100nMのCCL2で遊走した。ECL1(C)インベルソはこのCCL2依存的走化性を2μMのIC50値で用量依存的に阻害した(
図3A)。単球、マクロファージ(
図3E)およびNK細胞MBMCまたはCHO-CCR2でも同様の結果が得られた。その上、ECL1(C)インベルソは、炎症性単球(CD11b+Ly6G-7/4hiCCR2+)のCCL2媒介走化性も阻害したが(
図3F)、常在性単球(CD11b+Ly6G-7/4loCCR2-)には何も効果がなかった(データ未掲載)。これに対し、ECL1(C)インベルソは、それぞれHEK-CCR5もしくは-CCR1またはHEK-CX3CR1において、CCL5(10nM)またはCX3CL1(1nM)によって誘発される走化性効果を拮抗しなかった(
図3B、C、D)。ECL1(C)は、500μMまでの濃度では、HEK-CCR2、-CCR5、-CX3CR1またはマウス白血球のいずれの走化性も誘発しなかった。これらの結果は全体として、ECL1(C)インベルソがカルシウム応答および走化性応答を阻害する特異的CCR2アンタゴニストであることを示している。
【0091】
非競合的アンタゴニストとしてのECL1(C)インベルソの特徴づけ
この新しいCCR2アンタゴニストをさらに特徴づけるために、本発明者らは、ECL1(C)インベルソがCCL2と同じCCR2部位に結合するかどうかを調べた。そのために、HEK-CCR2細胞およびトレーサーとしての[125I]-CCL2または蛍光物質(Alexa-647)にカップリングしたCCL2を使った競合結合において、CCR2に対するECL1(C)インベルソの結合アフィニティを、ネイティブCCL2の結合アフィニティと比較した。
図4AおよびBに示すように、CCL2が[125I]-CCL2またはCCL2-Alexa647を用量依存的に置き換えることができたのに対し、ECL1(C)インベルソはそうではなかったことから、ECL1(C)インベルソは天然リガンドCCL2と同じ結合部位に結合しないことが示された。これらの結果は全体として、ECL1(C)インベルソが非競合的アンタゴニストであることを示している。
【0092】
ECL1(C)インベルソはインビボで白血球の動員を阻害する
潜在的な治療的抗炎症処置としてのECL1(C)インベルソのインビボアンタゴニスト効果を、まず、非感染性腹膜炎モデルで評価した。ECL1(C)インベルソまたは対照ペプチドでC57BL/6マウスを処置する14時間前に、チオグリコレートの腹腔内注射によって、重症な炎症を作り出した。ペプチドの最後の注射の12時間後にマウスを屠殺した。腹膜腔への白血球の動員をフローサイトメトリーによって解析した。
図5Aに示すように、チオグリコレート注射後に、単球(CD11b+Ly6G-F4/80-)、マクロファージ(CD11b+Ly6G-F4/80+)および好中球が腹膜腔に動員された。単球およびマクロファージの動員は、90μgのECL1(C)インベルソの1日3回(TID)の腹腔内注射による処置後に、強く阻害されたが、対照ペプチドによる処置では阻害されなかった。驚いたことに、程度は低いものの、好中球の動員も減少させたことから、好中球に対する間接的阻害機序が示唆された。というのも、好中球はCCR2を発現しないからである。より詳細な解析(
図5B)により、全ての単球集団(「炎症性」7/4hiCCR2+単球および「常在性」7/4loCCR2-単球)が、ECL1(C)インベルソの阻害効果による影響を受けることも明らかになり、集団間の相互依存効果が示された。
【0093】
[実施例2]
多発性硬化症のモデルにおけるECL1(C)インベルソ
マウスにおける実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)は、多発性硬化症(CCR2が関与する炎症性疾患)の広く認められた動物モデルである。CCR2を無効にしたマウスはこの疾患を発症しない。
【0094】
EAE誘発はEphremら, Blood 2008, Jan 15;111(2):715-22を参考にした。
【0095】
800μgの生育不能な乾燥結核菌H37RA(Difco Laboratories、フランス国ラルブレル(L'Arbresk))を含有する完全フロイントアジュバント(CFA;Sigma-Aldrich、フランス国サンカンタンファラヴィエ)に1:1の体積比で乳化した200μgのMOG35-55ペプチド(MOGタンパク質のフラグメント35〜55)で、C57BL/6Jマウス(体重約20g)を免疫処置した。最終体積200μLを脇腹の4箇所に皮下注射した。加えて、300ngの百日咳毒素(List Biologic Laboratories、フランス国ムードン)を同じ日および2日後に静脈内投与した。EAEの臨床徴候を次のスコアリングシステムで毎日評価した:0、兆候なし;1、後肢脱力;2、後肢脱力および尾麻痺;3、後肢および尾麻痺;4、後肢および尾麻痺ならびに前肢脱力;5、瀕死;および6、死亡。マウスに、
図6に示す時点において、90μgのECL1(C)インベルソの腹腔内注射を2回行った。対照群にはPBSのみを与えるか、またはECL1(C)インベルソと同じ濃度のスクランブルペプチドを与えた。
【0096】
図6に示すように、疾患進行(7日目および8日目)中のECL1(C)インベルソの注射は、臨床症状重症度を低下させる。疾患ピーク(12日目および13日目)におけるECL1(C)インベルソの注射は再燃を防止する。
【0097】
[実施例3]
がんの処置におけるECL1(C)インベルソ
腫瘍の微小環境は、循環単球から派生するマクロファージを含む。浸潤マクロファージを減少させることは、患者のより良い予後と関連する。
【0098】
そこで、ECL1(C)インベルソの注射を腫瘍転移のマウスモデルにおいて試験した。
【0099】
この目的のために、EL4リンパ腫細胞を静脈内注射し、マウスの生存を監視した。ECL1(C)インベルソ(90μg/マウス/注射)または無関連ペプチドを、腫瘍接種の12日目に開始して週に3回、23日目まで、腹腔内注射した。
【0100】
図7に示すとおり、ECL1(C)インベルソの注射は、肝転移を発生したマウスの生存期間を引き伸ばした。
【0101】
[実施例4]
網膜変性症の処置におけるECL1(C)インベルソ
加齢性黄斑変性症のモデルである光誘発網膜変性は、血液単球の網膜下CCR2依存的浸潤と関連する。
【0102】
網膜変性症のマウスモデルをECL1(C)インベルソペプチドで試験した。
【0103】
2〜4ヶ月齢のCX3CR1 KOマウスを6時間暗所に順化させ、1%アトロピン(Novartis)で瞳孔を完全に拡張させた。次に、動物を緑色LED光(4500ルクス、JP Vezon Equipements)に4日間露光し、次いで周期的な12時間/12時間の通常の動物施設条件下に保った。小膠細胞(MC)蓄積および網膜変性をそれぞれ露光の10日後に評価した。緑色露光中はマウスを毎日ECL-1(90μg/マウス)またはPBSで処置した。
【0104】
眼球を摘出し、4%PFAで固定し、角膜輪部で薄切し;角膜および水晶体は捨てた。網膜をRPE(網膜色素上皮)/脈絡膜/強膜から注意深く剥ぎ取った。網膜を冷アセトンでさらに20分間固定した。網膜および脈絡膜を抗Iba1(和光純薬)と共にインキュベートした後、二次抗体である抗ウサギAlexa488(Molecular Probes)と共にインキュベートした。脈絡膜および網膜をフラットマウントし、蛍光顕微鏡DM5500B(Leica)で観察した。MCを全RPE/脈絡膜フラットマウントおよび網膜の外節側で計数した。
【0105】
図8に示すように、ECL1(C)インベルソの注射は、網膜下腔における小膠細胞の蓄積を減少させた。
【0106】
[実施例5]
他のペプチドの設計と試験
いくつかのペプチドを使って走化性遊走アッセイを行った:
ペプチドECL1(C)インベルソ:LGTFLKC
ペプチドM1:LGTFLK
ペプチドM2:AGTFLKC
ペプチドM8:LGTFLKA。
【0107】
遊走アッセイは、CHO細胞用に孔径8μmのフィルターを使って、24トランスウェルインサート(Corning Costar、フランス国アヴォン)で行った。CHO細胞は走化性緩衝液に懸濁して(10%FCSを含有する100μlのDMEM中の150x103細胞)、上部チャンバーにローディングした。各ウェルの下部には、表示したケモカイン濃度の予熱した走化性緩衝液600μLを充填した。次に、プレートを、5%CO
2雰囲気中、37℃で5時間インキュベートした。結果を、化学誘引物質の存在下で遊走する細胞の数を非存在との対比で表す。どの条件も二重に実施され、結果は2回の独立した実験を代表している。
【0108】
図9A、9B、9C、9Dは、それぞれ、ペプチドECL1(C)インベルソ、M2、M8およびM1による走化性阻害の結果を示している。