特許第6178802号(P6178802)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6178802運動ニューロンのオートファジーを阻害するための医薬組成物およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6178802
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】運動ニューロンのオートファジーを阻害するための医薬組成物およびその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/343 20060101AFI20170731BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20170731BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20170731BHJP
【FI】
   A61K31/343
   A61P21/04
   A61P25/00
   A61P43/00 111
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-555922(P2014-555922)
(86)(22)【出願日】2012年8月17日
(65)【公表番号】特表2015-506963(P2015-506963A)
(43)【公表日】2015年3月5日
(86)【国際出願番号】CN2012080291
(87)【国際公開番号】WO2014026372
(87)【国際公開日】20140220
【審査請求日】2014年8月12日
【審判番号】不服2016-6890(P2016-6890/J1)
【審判請求日】2016年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】509075457
【氏名又は名称】中國醫藥大學
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100109449
【弁理士】
【氏名又は名称】毛受 隆典
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】林 欣榮
(72)【発明者】
【氏名】韓 鴻志
(72)【発明者】
【氏名】邱 紫文
(72)【発明者】
【氏名】薛 國偉
【合議体】
【審判長】 内藤 伸一
【審判官】 前田 佳与子
【審判官】 松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−542226(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0268078(US,A1)
【文献】 特開平5−247022(JP,A)
【文献】 国際公開第02/060234(WO,A2)
【文献】 特表2010−500386(JP,A)
【文献】 Neuropharmacology,2012.2,vol.62,p.1004−1010
【文献】 Current Organic Chemistry,2007,vol.11,p.833−844
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31,A61K35
Caplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDream3)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブチリデンフタリド(BP)、ブチリデンフタリド(BP)の薬学的に許容可能な塩およびこれらの組み合わせ構成される群から選択される、活性成分の有効量を含む、運動ニューロンのオートファジーを阻害するための医薬組成物。
【請求項2】
ブチリデンフタリド(BP)は、(Z)−ブチリデンフタリド(BP)である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
脊髄運動神経細胞のオートファジーを阻害するためのものである、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
運動ニューロン変性疾患の発症を遅延させるため、および/または、運動ニューロン変性疾患の治療をするためのものである、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
筋萎縮性側索硬化症、重症筋無力症、筋無力症、筋萎縮、筋萎縮症、多発性硬化症、多系統萎縮症、脊髄性筋萎縮症およびこれらの組み合わせの治療をするため、および/または、発症を遅延させるためのものである、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
筋萎縮性側索硬化症の治療をするため、および/または、発症を遅延させるためのものである、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
1日に、30mg(BPとして)/kg−体重から、2000mg(BPとして)/kg−体重の範囲の量において投与されるように用いられる、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
1日に、100mg(BPとして)/kg−体重から、1000mg(BPとして)/kg−体重の範囲の量において投与されるように用いられる、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動ニューロンのオートファジー(自食作用)を阻害するための医薬組成物およびその適用に関する。特に、運動ニューロン変性疾患の発症を遅延させるため、および/または、運動ニューロン変性疾患の治療をするためのものに関する。
【背景技術】
【0002】
神経細胞として知られているニューロンは、生物の神経系の構造的および機能的ユニットの1つである。ニューロンは、化学および電気信号によって、他の細胞にメッセージを伝えることができる。ニューロンは形状および大きさにおいて変化することができ、ニューロンの直径は約4μmから約100μmの範囲となり得る。ニューロンの構造は、大きく3つの部分に分けることができ、当該部分は、細胞体、樹状突起および軸索である。樹状突起は細胞体の中へと信号を伝えることができ、軸索は細胞体から外へ信号を伝えることができる。
【0003】
ニューロンは、それらの信号変換および機能の傾向によって、3つの種類に分類することができる。感覚ニューロン、運動ニューロンおよび介在ニューロンである。運動ニューロンは、生物の身体活動を制御している神経細胞である。一般的に、脳内における運動ニューロンは上位運動ニューロンとして知られており、一方、脳幹および脊髄における運動ニューロンは下位運動ニューロンとして知られている。運動ニューロンの変性によって引き起こされる機能的障害は、結果として、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、重症筋無力症、筋無力症、筋萎縮、筋萎縮症、多発性硬化症、多系統萎縮症および脊髄性筋萎縮症等のような、運動ニューロン変性疾患となり得る。前述の運動ニューロン変性疾患に罹患している患者は、徐々に、筋力低下、萎縮、震え、または痙攣のような症状が現れ、会話困難、嚥下困難および呼吸不全にも繋がり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
運動ニューロン変性疾患の本当の原因は、今日では、未だ不明である。しかし、当該疾患原因の可能性において、スーパーオキシドアニオンの蓄積、自己免疫異常、過度の神経興奮(例えば、過度のグルタミン酸の蓄積)、過度の酸化および遺伝性のもの等によって刺激され、過度のオートファジーによって引き起こされる神経細胞死を含むということが研究によって示されている。運動ニューロン変性疾患の治療をするために、臨床において現在使用されている薬剤は、リルゾールのようなグルタミン酸アンタゴニスト、ビタミンEのような抗酸化剤、神経栄養因子および免疫変調成分等を含む。しかし、前述した薬剤は、通常、有意な治療効果を有していないか、または、3から6ヶ月の間において患者の寿命を長くすることができるのみである。そのため、運動ニューロン変性疾患の発症を遅延させるための、および/または、運動ニューロン変性疾患の治療をするための薬剤の必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、本発明の式(I)の化合物が、運動ニューロンのオートファジーを阻害し、運動ニューロンの細胞死を減少させるために使用できるということを見出した。それによって、運動ニューロン変性疾患の発症を遅延させ、および/または、運動ニューロン変性疾患の治療をする。
【0006】
本発明の目的は、運動ニューロンのオートファジーを阻害するための医薬組成物を提供することである。当該医薬組成物は、式(I)の化合物、式(I)の化合物の薬学的に許容可能な塩、式(I)の化合物の薬学的に許容可能なエステルおよびこれらの組み合わせから構成される群から選択される、活性成分の投与有効量を含む。
【化1】
【0007】
Aは、1または複数の不飽和結合を任意において有するC1−C5のヒドロカルビル基であり、−OH、=OおよびC1−C3のヒドロカルビル基から構成される群から選択される1または複数の置換基によって任意において置換されており、
Xは、H、−OH、
【化2】
または
【化3】
であり、
Yは、OまたはSであり、5員環を形成するように任意においてAと結合し、
は、Hまたは置換もしくは非置換のC1−C20のヒドロカルビル基であり、当該ヒドロカルビル基における1または複数の−CH−は、−NH−または−O−によって任意において置き換えられている。
【0008】
本発明の別の目的は、運動ニューロンのオートファジーを阻害するための薬剤の製造において、前述の活性成分を使用することである。
【0009】
本発明のさらに別の目的は、式(I)の化合物ならびに式(I)の化合物の薬学的に許容可能な塩およびエステルから構成される活性成分の有効量を対象に対して投与することを含む、対象における運動ニューロンのオートファジーを阻害するための方法を提供することである。
【0010】
詳細な技術および本発明のために実施された好ましい実施の形態は、この技術分野における当業者が特許請求の範囲に記載された発明の特徴をよく理解できるように、後の段落において記載される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】LC−MS/MSによって分析されたブチリデンフタリドおよびヒト肝ミクロソームの混合物の質量スペクトルの図である。
図1B】生物内におけるブチリデンフタリドの第I相代謝を示す代謝プロファイルの図である。
図1C】生物内におけるブチリデンフタリドの第II相代謝を示す代謝プロファイルの図である。
図2】SOD1−G93Aトランスジェニックマウスの生存率の増加におけるブチリデンフタリドの効果を示す生存曲線図である。
図3】SOD1−G93Aトランスジェニックマウスの生存率の増加におけるリルゾールの効果を示す生存曲線図である。
図4】SOD1−G93Aトランスジェニックマウスにおけるブチリデンフタリドの効果を示すBBBスケール曲線の図である。
図5A】SOD1−G93Aトランスジェニックマウスの脊髄運動神経細胞死の遅延または防止におけるブチリデンフタリドの効果を示す組織化学染色撮影図である。
図5B】SOD1−G93Aトランスジェニックマウスの脊髄運動神経細胞死の遅延または防止におけるブチリデンフタリドの効果を示す棒グラフの図である。
図6】SOD1−G93Aトランスジェニックマウスの腰椎でのLC3−IIタンパク質の発現レベルの減少におけるブチリデンフタリドの効果を示すウェスタンブロットの撮影図である。
図7】NSCのオートファジーの阻害におけるブチリデンフタリドの効果を示すウェスタンブロットの撮影図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、詳細における本発明のいくつかの実施の形態について記載する。しかし、本発明の精神から逸脱することなく、本発明は種々の実施の形態において具体化され得るし、本明細書に記載される実施の形態に限定されるべきではない。さらに、本明細書において他に言及のない限り、本明細書において(特に、特許請求の範囲において)用いられる“1”、“当該”および同様の用語は、単数形式および複数形式の両方を包含するように理解されるべきである。さらに、本明細書において使用されている“有効量”という用語は、対象に投与された場合、被疑対象において治療されている状態を少なくとも部分的に緩和することができる化合物の量を示している。本明細書において使用されている“対象”という用語は、ヒトおよび非ヒト動物を含む、哺乳動物を示している。
【0013】
オートファジーは、細胞の細胞内リソソームを介した細胞自身の細胞小器官または他の物質の分解に関与する、細胞増殖、細胞ホメオスタシスおよび細胞死の調節のための重要なメカニズムである。しかし、上述したように、運動ニューロンの過剰なオートファジーは運動ニューロン変性疾患の原因の1つとなることが知られている。そのため、もし、運動ニューロンのオートファジーを阻害することができれば、運動ニューロン変性疾患の治療をするために、運動ニューロンの細胞死を軽減することができる。
【0014】
本発明者らは、以下の化合物(1)が、運動ニューロンのオートファジーを有意に阻害することができ、従って、運動ニューロン変性疾患の発症を遅延させるため、および/または、運動ニューロン変性疾患の治療をするために使用することができるということを見出した。
【化4】
【0015】
ブチリデンフタリド(BP)としても知られている化合物(1)は、その天然型において、2つの異性体(Z)−ブチリデンフタリド(cis−ブチリデンフタリド)および(E)−ブチリデンフタリド(trans−ブチリデンフタリド)を含む。
【0016】
生物の肝臓における第I相代謝または第II相代謝によってブチリデンフタリドが代謝された後には、1または複数の以下の化合物(2)から(14)が生成され得るということが確認された。
【化5】
【0017】
化合物(10)におけるCysはシステインを示す。理論によって限定されることはなく、生物での運動ニューロンのオートファジーの阻害におけるブチリデンフタリドの効果は、上記化合物(2)から(14)の化学構造の共通構造部分に由来するものであると考えられる。
【0018】
従って、本発明は、式(I)の化合物、式(I)の化合物の薬学的に許容可能な塩、式(I)の化合物の薬学的に許容可能なエステルおよびこれらの組み合わせから構成される群から選択される、活性成分の投与有効量を含む、運動ニューロンのオートファジーを阻害するための医薬組成物を提供する。
【化6】
【0019】
Aは、1または複数の不飽和結合を任意において有するC1−C5のヒドロカルビル基であり、−OH、=OおよびC1−C3のヒドロカルビル基から構成される群から選択される1または複数の置換基によって任意において置換されており、
Xは、H、−OH、
【化7】
または
【化8】
であり、
Yは、OまたはSであり、5員環を形成するように任意においてAと結合し、
は、Hまたは置換もしくは非置換のC1−C20のヒドロカルビル基であり、当該ヒドロカルビル基における1または複数の−CH−は、−NH−または−O−によって任意において置き換えられている。運動ニューロンは、脳における運動ニューロンのような上位運動ニューロン、ならびに脳幹および脊髄における運動ニューロンのような下位運動ニューロンを含む。
【0020】
好ましくは、式(I)の化合物において、
Aは、−OH、=OおよびC1−C3のアルキル基から構成される群から選択される1または複数の置換基によって任意において置換された、C1−C5のアルキル基またはアルケニル基であり、
は、Hまたは置換もしくは非置換のC1−C10のヒドロカルビル基であり、当該ヒドロカルビル基における1または複数の−CH−は、−NH−または−O−によって任意において置き換えられている。
【0021】
より好ましくは、Aは、
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
または
【化17】
であり、
は、H、
【化18】
【化19】
または
【化20】
である。
【0022】
本発明の医薬組成物の1つの実施の形態では、式(I)の化合物は、前述の化合物(1)−(14)から構成される群から選択される。式(I)の化合物は、好ましくは化合物(1)(すなわち、ブチリデンフタリド)であり、より好ましくは以下の式の化合物(すなわち、(Z)−ブチリデンフタリド)である。
【化21】
【0023】
本発明の医薬組成物は、運動ニューロンのオートファジーを阻害することができ、ニューロンの細胞死を軽減させることができる。そのため、運動ニューロン変性疾患の発症を遅延させるために、および/または、運動ニューロン変性疾患の治療をするために使用することができる。運動ニューロン変性疾患は、運動ニューロンのオートファジーに関する任意の疾患を含む。当該疾患は、限定はされないが、筋萎縮性側索硬化症、重症筋無力症、筋無力症、筋萎縮、筋萎縮症、多発性硬化症、多系統萎縮症および脊髄性筋萎縮症等を含む。
【0024】
1つの実施の形態では、本発明の医薬組成物は、筋萎縮性側索硬化症の治療のために使用される。筋萎縮性側索硬化症の患者は、徐々に筋萎縮の症状が現れ、通常、2から5年間において四股麻痺、嚥下困難、さらには呼吸不全を引き起こす。研究において、筋萎縮性側索硬化症は過剰な神経興奮(例えば、過度のグルタミン酸蓄積)に関連している可能性があるということが示されている。そのため、現時点では、リルゾールのようなグルタミン酸アンタゴニストが、患者の生存率を増加させるための運動ニューロン変性疾患の治療のために、通常臨床において使用されている。リルゾールと比較すると、本発明の医薬組成物は、運動ニューロンのオートファジーを阻害することによって、より効果的に、運動ニューロン変性疾患の発症を遅延させ、および/または、運動ニューロン変性疾患の治療をすることができる。それによって、筋萎縮性側索硬化症の患者の生存率を増加させることができる。
【0025】
本発明の投与される医薬組成物は、投与のための任意の適切な形態の薬剤に製造することができる。例えば、限定はされないが、医薬組成物は、経口投与、皮下注射、鼻腔内投与または静脈注射のために、適切な形態を有する薬剤に製造することができる。経口投与用の薬剤は、患者が自分で定期的に摂取するために便利であるので、医薬組成物を経口投与用に適した形態における薬剤に製造することが好ましい。また、薬剤の形態および目的に応じて、医薬組成物は薬学的に許容可能なキャリアをさらに含むこともできる。
【0026】
経口投与用に適した薬剤の製造には、医薬組成物は、その中に含まれている活性成分の活性において悪影響を与えない、薬学的に許容可能なキャリアを含むことができる。当該キャリアは、溶媒、油性溶媒、希釈剤、安定化剤、吸収遅延剤、崩壊剤、乳化剤、酸化防止剤、結合剤、潤滑剤および水分吸収剤等のようなものを含む。薬剤は、タブレット、カプセル、顆粒、粉末、流体抽出液、溶液、シロップ、懸濁液、乳剤およびチンキ剤等のような、経口投与用に適した形態とすることができる。
【0027】
皮下または静脈注射用に適した薬剤では、医薬組成物は、等張液、生理食塩緩衝液(例えば、リン酸緩衝液またはクエン酸緩衝液)、可溶化剤、乳化剤および他のキャリア等のような、1または複数の組成物を含んでもよい。これは、静脈注射剤、エマルジョン静脈注射剤、粉末注射剤、懸濁液注射剤および粉末懸濁液注射剤等としての薬剤を製造するためである。
【0028】
上述のアジュバントに加えて、医薬組成物は、結果物としての薬剤の味および外観を向上させるために、香味剤、トナーおよび着色剤等のような他の添加物を含んでもよい。また、結果物としての薬剤の保存性を改善するために、医薬組成物は、適切な量の防腐剤、保存剤、消毒剤および抗菌剤等も含んでもよい。さらに、本発明の方法の効果を増大させる、または当該方法における適応柔軟性および順応性を高めるために、医薬組成物は、酸化防止剤(例えば、ビタミンE)、神経栄養因子または免疫調節因子等のような、1または複数の他の活性成分を含んでもよい。しかし、これは、当該他の活性成分が、式(I)の化合物またはその塩およびエステル誘導体における効果に悪影響を及ぼさない場合に限る。
【0029】
本発明の医薬組成物は、対象の必要性に応じて、1日に1回、1日に数回または数日に1回等のように、様々な投与頻度において適用することができる。例えば、運動ニューロンのオートファジーを阻害するために人体に適用される場合、当該組成物の投薬量は、1日に、約30mg(式(I)の化合物として)/kg−体重から、約2000mg(式(I)の化合物として)/kg−体重である。好ましくは、1日に、約100mg(式(I)の化合物として)/kg−体重から、約1000mg(式(I)の化合物として)/kg−体重である。ここで、“mg/kg−体重”という用語は、kg体重毎において必要とされる投薬量を意味する。しかし、重篤な状態を有する患者には、実践的な要求に応じて、投薬量を数倍または数十倍に増加させることができる。筋萎縮性側索硬化症の治療をするための、本発明の医薬組成物を使用する1つの実施の形態では、活性成分は(Z)−ブチリデンフタリドであり、その投薬量は約500mg/kg−体重である。
【0030】
本発明は、運動ニューロンのオートファジーを阻害するための薬剤の製造における、式(I)の化合物ならびに/またはその薬学的に許容可能な塩およびエステルの使用をも提供する。運動ニューロンのオートファジーを阻害することによって、薬剤は、筋萎縮性側索硬化症、重症筋無力症、筋無力症、筋萎縮、筋萎縮症、多発性硬化症、多系統萎縮症、脊髄性筋萎縮症およびこれらの組み合わせのような、運動ニューロン変性疾患の発症を遅延させるため、および/または、当該運動ニューロン変性疾患の治療をするために使用され得る。薬剤の形態および投薬量、ならびに任意においてその中に含まれている他の成分については、上記に沿った内容と同様である。
【0031】
本発明は、対象における運動ニューロンのオートファジーを阻害するための方法をも提供する。当該方法は、式(I)の化合物、式(I)の化合物の薬学的に許容可能な塩、式(I)の化合物の薬学的に許容可能なエステルおよびこれらの組み合わせから構成される群から選択される、活性成分の有効量の対象への投与を含む。活性成分の形態および投薬量については、上記に沿った内容と同様である。
【0032】
本発明は、さらに、以下の特定の実施例を用いて詳細に説明されるだろう。しかし、以下の実施例は、本発明を例示するためのみに提供されるものにすぎず、それにより本発明の範囲は限定されない。
【実施例】
【0033】
(実施例1)ブチリデンフタリドの代謝産物の同定
生物の肝臓内における薬物の代謝経路は、主として、第I相および第II相代謝に分けられることが知られている。第I相代謝は、主に、薬物の酸化還元反応または加水分解反応によって起こり、第II相代謝は、主に、シトクロムP450(CYP450)モノオキシゲナーゼ系によって起こる。本実施例では、in vitroで、ブチリデンフタリドと、肝ミクロソームまたは凍結保存肝細胞とをそれぞれ混合することによって、生物の肝臓内において起こるブチリデンフタリドの第I相および第II相代謝をシミュレートし、当該反応溶液における物質を、代謝産物および代謝プロファイルを同定するために、液体クロマトグラフ−タンデム質量分析計(LC−MS/MS)によって分析した。実験ステップは以下の通りであった。
【0034】
(1)第I相代謝分析
ブチリデンフタリド(2mM)を、それぞれ、ヒト、ラットまたはイヌの肝ミクロソームを含む(0.5mg/mL)KPO緩衝液(100mM、pH7.4)と混合した。混合物を37℃において10分間保ち、次いで、予め温めておいた補因子(NADPH(2mM)およびMgCl(3mM))を添加し、当該混合物を37℃において60分間インキュベートした。その後、0.1%ギ酸含有アセトニトリルを3倍容量において加え、混合物の反応を停止させた。混合物を13000rpmで5分間遠心分離し、その後、上清を回収し、代謝産物を同定するためにLC−MS/MSによって分析した。
【0035】
(2)第II相代謝分析
ヒト、ラットまたはイヌの解凍した肝細胞を5×10含むウイリアムE培地を、それぞれ12ウェル培養皿の中へ添加し、当該細胞を6時間培養した。その後、0.5mLのブチリデンフタリド(50μM)を培養皿の中へ添加した。細胞を、37℃、95%相対湿度、5%CO下において6時間インキュベートした後、2mLのアセトニトリル(100%)を加え、反応を停止させた。サンプルを回収し、十分に混合し、45000g、4℃において10分間遠心分離した。その後、上清を回収し、乾燥させ、代謝産物を同定するためにLC−MS/MSによって分析した。
【0036】
(3)LC−MS/MS分析
(1)および(2)から得られたサンプルを、アセトニトリル/0.1%ギ酸含有の中に別々に溶解させ、45000g、4℃において10分間遠心分離した。その後、それぞれのサンプルのアリコート(20μl)を、LC−MS/MS分析を行うためのLC−MS/MSシステムのオートサンプラーバイアル(Agilent Technologies、USA)の中に注入した。LC−MS/MSシステムは、1200SL HPLCシステムを有するABSCIEX 5500 Q TRAP(商標)システム(Agilent Technologies、USA)、HPLCカラム(Symmetry(登録商標) C18、3.5μM、4.6×75mm)、およびオートサンプラー(Agilent Technologies、USA)を含む。2つの溶媒系(溶媒A:0.1%ギ酸;溶媒B:0.1%ギ酸含有メタノール)を使用し、0.8mL/分の流速において、HPLCを実行した。HPLCの勾配系は、次のように設計した。0から2分は10%の溶媒Bにおいて保持され、2から7分は10%から95%の溶媒Bの勾配を有し、7から12分は95%の溶媒Bにおいて保持され、12から14分は95%から10%の溶媒Bの勾配を有し、14から20分は10%の溶媒Bにおいて保持され、HPLC分析の保持時間は20分間である。質量分析は、5.5kV、550℃における陽イオンのエレクトロスプレーイオン化法(+ESI)で行い、N(窒素)を補助ガスとして使用した。そして、サンプルにおける代謝産物を決定して生物における生体内分解経路およびブチリデンフタリドの代謝プロファイルを同定するために、ブチリデンフタリドのスペクトルと比較したそれぞれのサンプルのLC−MS/MSスペクトルにおける強いピーク、および質量がシフトしたピークを、LightSight(商標) Softwareによって分析した。結果を、表1、表2、図1A図1Bおよび図1Cにおいて示す。
【0037】
図1Aは、LC−MS/MSによって分析された、ブチリデンフタリド(m/z 189.1)およびヒト肝ミクロソームの混合物の、フラグメント物質スペクトルを示している。図1Aにおいて示す通り、171.2amu、153.1amu、143.0amu、128.0amu、および115.0amuに、非常に強いピーク(m/z)がある。
【0038】
【表1】
【0039】
表1は、ブチリデンフタリドおよび肝ミクロソームの混合物の反応(すなわち、第I相代謝)から生成された種々の代謝産物と、ソフトウェア解析によって取得された生体内分解経路を示している。当該結果は、本発明の化合物(2)から(9)が、ブチリデンフタリドおよびラット、イヌまたはヒトの肝ミクロソームの混合物の反応によって生成され得ることを示しており、これは、異なる生物の肝臓において代謝された場合でも、ブチリデンフタリドは同一の代謝産物へと変換され得るということを示している。図1Bは、ブチリデンフタリドおよび肝ミクロソームの混合物の反応から得られる代謝プロファイル、ならびに化合物(2)から(9)の化学構造を示す。
【0040】
【表2】
【0041】
表2は、ブチリデンフタリドおよび凍結保存肝細胞の混合物の反応(すなわち、第II相代謝)から生成された種々の代謝産物と、ソフトウェア解析によって取得された生体内分解経路を示している。当該結果は、本発明の化合物(11)から(14)が、ブチリデンフタリドおよびラット、イヌまたはヒトの凍結保存肝細胞の混合物の反応によって生成され得ることを示しており、これは、異なる生物の肝臓において代謝された場合でも、ブチリデンフタリドは同様の代謝産物へと変換され得るということを示している。図1Cは、ブチリデンフタリドおよび凍結保存肝細胞の混合物の反応から得られる代謝プロファイル、ならびに化合物(11)から(14)の化学構造を示す。
【0042】
(実施例2)in vivo分析:ブチリデンフタリドによるトランスジェニックマウスの生存率の上昇
筋萎縮性側索硬化症患者の約20%が、Cu/Znスーパーオキシドジムスターゼ酵素(SOD1)をコードする遺伝子内の変異に関連しており、G93Aが主要な変異部位であることが知られている。遺伝子導入技術によって、ヒトSOD1−G93A変異を遺伝子導入されたマウス(以下、SOD1−G93Aトランスジェニックマウスとして示される)を、筋萎縮性側索硬化症の臨床研究のための動物モデルとして使用した。これは、当該マウスがヒトと同様の疾患経過を示すためである。SOD1−G93Aトランスジェニックマウスは、出生後約90±5日以内において筋萎縮性側索硬化症の症状を示し、出生後約125±5日以内において死亡するだろう。
【0043】
本実施例では、in vivoでの分析を実行するための研究の対象として、上記SOD1−G93Aトランスジェニックマウスを使用した。SOD1−G93Aトランスジェニックマウス(60日齢)に、1日1回、500mg/kg−体重の投薬量において、経口投与によってブチリデンフタリド(ECHO Chemicalから購入)を処置した。ここで、“mg/kg−体重”という用語は、kg体重毎において必要とされる投薬量を意味する。SOD1−G93Aトランスジェニックマウスを30日間にわたり処置した後、ブチリデンフタリドはSOD1−G93Aトランスジェニックマウスの寿命を延ばせるのかどうか(すなわち、125日より長くなるかどうか)を見るために、当該マウスを観察した。当該結果を、図2および表3において示す。
【0044】
【表3】
【0045】
図2および表3において示すように、毎日、経口投与によってブチリデンフタリドで処置された実験グループの60日齢SOD1−G93Aトランスジェニックマウスは、平均で約149±4.39日間生存した。すなわち、実験グループのSOD1−G93Aトランスジェニックマウスの寿命は、コントロールグループの未処置のSOD1−G93Aトランスジェニックマウス(約127±6.11日間生存)と比較して、約22±2日間延びていた。図3(文献“Combined riluzole and sodium phenylbutyrate therapy in transgenic amyotrophic lateral sclerosis mice. Amyotrophic Lateral Sclerosis. 2009;10:85−94”から得られ、その全てを参照によりここに組み込む)によると、従来の筋萎縮性側索硬化症の薬剤であるリルゾールが、SOD1−G93Aトランスジェニックマウスの治療のために使用された場合、当該マウスは140日間生存していた。上記の結果は、リルゾールと比較して、式(I)の化合物を使用する本発明は、より有意に筋萎縮性側索硬化症患者の生存率を高めることができるということを示している。
【0046】
(実施例3)in vivo分析:ブチリデンフタリドによる筋萎縮性側索硬化症の発症の遅延
SOD1−G93Aトランスジェニックマウス(60日齢)に、1日1回、500mg/kg−体重の投薬量において、経口投与によってブチリデンフタリドを処置した。当該マウスを30日間にわたり処置した後、マウスの後肢をBBBスケール(Basso, Beattie, and Bresnahan (BBB) Locomotor Rating Scale)によって調べた。正常マウスの後肢のBBBスケールは21ポイントであったが、一方、疾患が進行したSOD1−G93AトランスジェニックマウスのBBBスケールは21から0ポイントへ減少していた。なお、より低いスケールは、マウスにおいて、より重篤な動作障害を表している。薬剤の効能を記録するために、BBBスケールは使用される。
【0047】
図4において示すように、実験グループにおける60日齢SOD1−G93Aトランスジェニックマウスは、毎日の経口投与によってブチリデンフタリドが処置された。当該マウスの後肢のBBBスケールは、125から135日においてゆっくりと減少し(21から16ポイント)、135日後において急速に減少した(16から0ポイント)。一方、コントロールグループにおける未処置のマウスの後肢のBBBスケールは、110日後において急速に減少した(19から0ポイント)。上記の結果は、ブチリデンフタリドが、実際に、筋萎縮性側索硬化症の発症を遅延させることができることを示している。
【0048】
(実施例4)組織化学染色:ブチリデンフタリドによる脊髄運動神経細胞死の遅延および/または防止
SOD1−G93Aトランスジェニックマウス(60日齢)に、1日1回、500mg/kg−体重の投薬量において、経口投与によってブチリデンフタリドを処置した。実験グループにおけるSOD1−G93Aトランスジェニックマウスを死の直前において屠殺し、ヘマトキシリンおよびエオシン染色を行うために、脊髄を回収した。脊髄における運動ニューロンの数を顕微鏡を用いて観察し、カウントした。当該データを、未処置のコントロールグループのものと比較した。
【0049】
図5A図5Bおよび表4において示すように、毎日ブチリデンフタリドで処置をした実験グループにおける60日齢SOD1−G93Aトランスジェニックマウスの脊髄運動神経細胞数は、コントロールグループのものよりも有意に多かった(実験グループの数:24;コントロールグループの数:3)。上記の結果は、ブチリデンフタリドが、脊髄運動神経細胞死を効果的に遅延および/または防止することができ、SOD1−G93Aトランスジェニックマウスの生存率を上昇させるということを示している。
【0050】
【表4】
【0051】
(実施例5)ウェスタンブロット解析:ブチリデンフタリドによるオートファジーの阻害
SOD1−G93Aトランスジェニックマウス(60日齢)に、1日1回、500mg/kg−体重の投薬量において、経口投与によってブチリデンフタリドを処置した。SOD1−G93Aトランスジェニックマウスは、筋萎縮性側索硬化症の末期段階の間、オートファジーが顕著に増加するので、その脊髄運動神経細胞を失うことが研究によって示されている(これは、In vivo optical imaging of motor neuron autophagy in a mouse model of amyotrophic lateral sclerosis. Autophagy 7:9、1−8;September 2011、において知ることが可能であり、その全てを参照によりここに組み込む)。そこで、本実施例では、実験グループにおけるSOD1−G93Aトランスジェニックマウスを、脊髄を回収するために死の直前において屠殺し、当該脊髄からタンパク質を抽出した。これは、ウェスタンブロットを行い、オートファジーのタンパク質バイオマーカーLC3−IIを解析するためである。当該LC3−IIは、マウスの腰部脊髄運動神経細胞においてオートファジーが起こっているかどうかを確かめるために使用され、β−アクチンは内部コントロールとして使用した。
【0052】
図6において示すように、コントロールグループにおける未処置のマウスと比較すると、実験グループにおけるマウスの頚部脊髄、胸髄および腰髄内のLC3−IIおよびpLC3−IIのタンパク質発現レベルが有意に減少した。上記の結果は、ブチリデンフタリドが、生物における運動ニューロンのオートファジーを特異的に阻害することが可能であり、それによって、筋萎縮性側索硬化症の発症を遅延させ、当該マウスの生存日数を延ばし、筋萎縮性側索硬化症の治療の効果を達成するということを示している。
【0053】
(実施例6)細胞実験:ブチリデンフタリドによるオートファジーの阻害
細胞実験は、マウスの運動ニューロンを模倣するために、マウスの運動ニューロンに分化することができるNSCs(神経幹細胞)を使用することによって行った。
【0054】
NSCsを、培養皿(直径10cm)においてインキュベートした。インキュベート後、60%コンフルエントの密度まで増殖した際に、当該細胞をPBSを用いて洗浄し、異なる濃度のブチリデンフタリドを用いて12時間にわたって処置した。その後、細胞のオートファジーを刺激するために、当該細胞を、H(2500μM/mL)を用いて12時間にわたり処置した。そして、細胞を収集し、タンパク質を抽出し、NSCにおけるLC3−IIのタンパク質発現レベルをSDS−PAGEおよびウェスタンブロットによって解析した。ウェスタンブロットの結果を、図7において示す。
【0055】
図7において示すように、10μg/mLのブチリデンフタリドが、オートファジーを阻害することによって、Hの損傷からNSCsを保護し、防止することができていた(LC3−IIのタンパク質発現レベルを減少させる)。
【0056】
上述の実施例は、本発明の原理および有効性を説明するため、およびその発明の特徴を示すために使用されるものである。本技術分野における当業者であれば、記載されている本発明の開示および示唆に基づいて、技術的原理およびその精神から逸脱することなく、種々の変形および代替を用いて実施し得る。そのため、本発明の保護範囲は、添付の特許請求の範囲において規定されているものである。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7