(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記クレーン本体の実際の回動角を含む作業機械情報に基づいて、前記基準点の実際の位置を算出する基準点位置算出部をさらに備える、請求項3に記載の定点保持制御装置。
前記基準点位置算出部は、前記船体の実際の傾き角を含む船体姿勢情報と、前記作業機械情報と、に基づいて、前記基準点の実際の位置を算出する、請求項4に記載の定点保持制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の定点保持制御を行う場合、例えばクレーン船に搭載されたクレーンの回動角が変わると、船体中心とクレーンとの相対位置が変化するため、クレーンによって同じ作業位置で作業を続けるためには目標位置の設定を変更する必要が生じる。このように船体中心とクレーンの相対位置が変わる度に目標位置を設定し直すのは非常に不便であり非効率である。また、地球座標でみた場合、クレーンが重量物を吊るなどして船体が傾くと、船体中心とクレーンの相対位置が変わるため、この場合も目標位置を変更しなければならず、同様の問題が生じる。
【0006】
本発明はかかる事情を鑑みてなされたもので、作業船に搭載された作業機械の可動部が船体に対して変位した場合であっても、設定を変更することなく、作業ができる位置に作業船を保持し続ける定点保持制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある形態に係る定点保持制御装置は、船体と、前記船体を移動させるための推進部と、前記船体に対して可動する可動部を有する作業機械と、を備えた作業船を定点保持する定点保持制御装置であって、目標作業位置を設定する目標設定部と、前記可動部の所定個所を基準点とし、平面視において当該基準点の実際の位置が前記目標作業位置に一致するよう前記船体を維持する作業位置制御を行う制御部と、を備えている。
【0008】
かかる構成によれば、船体中心ではなく可動部の所定個所を基準点として定点保持制御が行われる。そのため、可動部が船体に対して変位した場合であっても、船体が移動することで可動部内の基準点と目標作業位置との位置関係は維持され、そのまま作業を続行することができる。
【0009】
また、上記の定点保持制御装置において、前記目標設定部は、目標作業方位の設定が可能であり、前記制御部は、前記作業位置制御において、実際の船首方位が前記目標作業方位に一致するように前記船体を維持するように構成してもよい。
【0010】
また、上記の定点保持制御装置において、前記可動部が、前記船体に対して回動可能なクレーン本体と、前記クレーン本体に設けられたブームと、を有するとき、前記制御部は、前記ブームの先端を前記基準点として前記作業位置制御を行うように構成してもよい。
【0011】
また、上記の定点保持制御装置において、前記クレーン本体の実際の回動角を含む作業機械情報に基づいて、前記基準点の実際の位置を算出する基準点位置算出部をさらに備えるように構成してもよい。
【0012】
また、上記の定点保持制御装置において、前記基準点位置算出部は、前記船体の実際の傾き角を含む船体姿勢情報と、前記作業機械情報と、に基づいて、前記基準点の実際の位置を算出するように構成してもよい。かかる構成によれば、船体が傾いた場合にも、平面視におけるブームの先端の位置と目標作業位置とを正確に一致させることができる。
【0013】
また、上記の定点保持制御装置において、前記可動部が、前記船体に対して回動可能なクレーン本体と、前記クレーン本体に設けられたブームと、を有するとき、前記制御部は、前記クレーン本体の回動中心を前記基準点として前記作業位置制御を行うように構成してもよい。船体中心を基準とする場合には船体中心とクレーン本体の回動中心との距離を考慮して目標位置を設定しなければならないのに対し、上記の構成によれば、そのようなことを考慮しなくとも目標作業位置の設定を行うことができる。つまり、上記の構成によれば、船体中心を基準とする場合に比べて目標位置の設定を容易に行うことができる。また、上記の構成によれば、ブームの先端を基準点とする場合に比べ、作業機械情報がなくとも基準位置が算出することができるため、作業機械情報を得るための機器を省略することができ、全体として構成を単純化することができる。
【0014】
また、上記の定点保持制御装置において、さらに目標船体位置及び目標船首方位の設定が可能であり、前記制御部は、実際の船体位置及び船首方位がそれぞれ前記目標船体位置及び前記目標船首方位に一致するよう前記船体を維持する自船位置制御を行うことができ、前記作業位置制御と前記自船位置制御とが切り換え可能に構成されていてもよい。かかる構成によれば、作業位置制御を行っていない場合であっても、自船位置制御により船体が定点保持される。
【0015】
また、上記の定点保持制御装置において、前記目標設定部は、前記作業位置制御から前記自船位置制御へ切り換わるとき、その切換時における実際の船体位置及び実際の船首方位を、それぞれ前記目標船体位置及び前記目標船首方位として設定するように構成してもよい。かかる構成によれば、作業位置制御から自船位置制御へ切り換わっても、船体はその切換時の位置を目標位置として定点保持されるため、切換時における船体の移動は生じない。
【0016】
また、上記の定点保持制御装置において、前記目標設定部は、前記自船位置制御から前記作業位置制御へ切り換わるとき、その切換時における前記基準点の実際の位置を前記目標作業位置として設定するように構成してもよい。かかる構成によれば、作業者が現場の状況に応じて、手動で作業機械を操作することで、目標作業位置を決めることができる。
【0017】
また、本発明のある形態に係る作業船は、上記のうちいずれかの定点保持制御装置を備えている。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明に係る定点保持制御装置によれば、作業船に搭載された作業機械の可動部が船体に対して変位した場合であっても、設定を変更することなく、作業ができる位置に作業船を保持し続けることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一または相当する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0021】
(第1実施形態)
まず、
図1乃至
図3を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。
図1は本実施形態に係る作業船100の概略側面図であり、
図2は本実施形態に係る作業船100の概略平面図であり、
図3は本実施形態の制御に関する構成のブロック図である。
図1に示すように、作業船100は、船体10と、推進部20と、作業機械30と、定点保持制御装置101とを備えている。さらに、定点保持制御装置101は、基準点位置算出部40と、目標設定部50と、制御部60と、を備えている。以下、これらの構成要素について順に説明する。
【0022】
船体10は、作業船100のベースとなる部分である。
図2に示すように、船体10は平面視において矩形状に形成されている。また、
図1に示すように、船体10の船首側(紙面右側)に作業機械30が配置されており、船尾側(紙面左側)に船体10を操作するための船体操作室11が配置されている。さらに、船体10の中央部の上面は、平らに形成されており、例えばコンクリートブロックなどの重量物や水底の土砂を積載することができる。また、船体10には、GPS(Global Positioning System)などの船体位置情報を取得する測位装置12、船首方位情報を取得するジャイロコンパス13、及び船体姿勢情報を取得する垂直ジャイロ14が搭載されている。上記の「船体位置情報」には、少なくとも船体位置(座標)が含まれる。なお、ここでいう「船体位置」とは地球座標系における船体10の中心の位置である。また、上記の「船首方位情報」には、船体10の回頭角(以下、「船首方位」と称す)が含まれる。また、上記の「船体姿勢情報」には、船体10の左右への傾き角度(以下、「ヒール角度」と称す)、及び船体10の前後への傾き角度(以下、「トリム角度」と称す)が少なくとも含まれる。そして、
図3に示すように、測位装置12で取得した船体位置情報、ジャイロコンパス13で取得した船首方位情報、及び垂直ジャイロ14で取得した船体姿勢情報は、基準点位置算出部40に提供される。
【0023】
推進部20は、船体10を移動させる装置である。この推進部20によれば、船体10を回頭運動及び並進運動させることができる。ここでいう「回頭運動」とは船体上のある点を中心として回頭する運動をいい、「並進運動」とは船首方位を一定にしたまま前後左右に移動する運動をいう。
図2に示すように、本実施形態に係る推進部20は4つの旋回式推進器21を有しており、各旋回式推進器21は船体10の底面の四隅に配置されている。この4つの旋回式推進器21の旋回方向、プロペラ軸回転速度、及びピッチ角を制御することで、船体10を回頭運動させ、また並進運動させることができる。なお、推進部20を構成する推進器は、上記の旋回式推進器21に限らず、船体10の左右方向に推力を発生させるサイドスラスタ(Side Thruster)や、舵で推進方向を変更するような推進器であってもよい。また、推進器の数や配置は、船体10を回頭及び並進させることができる構成であればよく、上記に限ったものではない。
【0024】
作業機械30は、所定の作業を行う機械である。
図1に示すように、本実施形態の作業機械30はクレーンであって、船体10に対して可動する可動部31を有している。さらに、可動部31は、クレーン本体32と、クレーン本体32に設けられたブーム(Boom)33と、によって主に構成されている。クレーン本体32は船体10に対して回動することができるように構成されている。また、ブーム33はクレーン本体32に対して仰角を変更することができるように構成されている。さらに、ブーム33の先端にはワイヤー34を介して吊り具35が昇降可能に吊下げられている。本実施形態のブーム33は長さが一定であるが、伸縮するように構成されていてもよい。なお、作業機械30の操作は、クレーン本体32に設けられたクレーン操作室36で行われる。また、
図3に示すように、作業機械30から作業機械情報が基準点位置算出部40に提供される。この作業機械情報には、クレーン本体32の回動角及びブーム33の仰角が含まれる。また、ブーム33が伸縮する場合、この作業機械情報にはブーム33の長さも含まれる。
【0025】
基準点位置算出部40は、基準点の位置を算出する部分である。本実施形態では基準点はブーム33の先端である。つまり、基準点位置算出部40はブーム33の先端位置を算出する。
図3に示すように、基準点位置算出部40は、測位装置12から船体位置情報を取得し、ジャイロコンパス13から船首方位情報を取得し、垂直ジャイロ14から船体姿勢情報を取得し、作業機械30から作業機械情報を取得する。そして、基準点位置算出部40は、これらの船体位置情報、船首方位情報、船体姿勢情報、及び作業機械情報に基づいてブーム33の先端位置を算出する。なお、船体姿勢情報には、船体10の傾き角(ヒール角度及びトリム角度)が含まれるが、これらの影響が小さい場合には、これらを考慮することなくブーム33の先端位置を算出してもよい。
【0026】
以下、ブーム33の先端位置の算出方法を簡単に説明する。基準点であるブーム33の先端位置は、同次変換行列を用いることで算出することができる。まず、地球座標系をΣ
E、船体中心座標系をΣ
B、クレーン本体回動中心座標系をΣ
C、ブーム仰角中心座標系をΣ
Jとし、Σ
E-Σ
B間の同次変換行列を
ET
B、Σ
B-Σ
C間の同次変換行列を
BT
C、Σ
C-Σ
J間の同次変換行列を
CT
Jとする。そうすると、地球座標系Σ
Eにおける原点O
Eからブーム33の先端までの位置ベクトル
EP
T/Eは、ブーム仰角中心座標系Σ
Jにおけるブーム先端位置ベクトルを
JP
T/Jとすれば、下記の式で表すことができる。さらに、上述した船体位置情報等の各情報から、
ET
B、
BT
C、
CT
J、
JP
T/J を得ることができるため、これらを下記の式にあてはめれば
EP
T/Eを算出することができる。
【数1】
【0027】
目標設定部50は、目標作業位置を設定する部分である。ここでは、作業機械30によって実際に作業を行う位置を目標作業位置として設定する。本実施形態では、目標設定部50は作業者が具体的な数値(座標)を入力できるように構成されており、入力された数値により目標作業位置を設定する。ただし、目標設定部50は、このような構成に限定されない。例えば、作業者が任意の位置にブーム33の先端を位置させ、設定ボタン(不図示)を押すなど、所定の操作を行うことで、そのときのブーム33の先端位置を目標作業位置として設定される構成であってもよい。なお、詳しくは後述するが、作業中に船首方位を一定(又は一定範囲)に維持したい場合には、本実施形態の制御部60はそのような制御を行うこともできる。この場合には、目標設定部50は、目標作業方位(又は目標作業方位範囲)の設定もあわせて行う。
【0028】
制御部60は、推進部20を制御し、ひいては船体10を回頭運動及び並進運動させる部分である。本実施形態において制御部60は「作業位置制御」により推進部20を制御する。ここでいう「作業位置制御」とは、定点保持制御の一種であって、目標設定部50によって設定された目標作業位置と、基準点位置算出部40によって算出された実際の基準点(ブーム33の先端)とを平面視において一致させる制御である。また、目標設定部50によって目標作業方位が設定されている場合には、制御部60はさらにジャイロコンパス13から実際の船首方位を取得し、その実際の船首方位と目標作業方位とが一致するように推進部20を制御する。なお、実際の基準点位置と目標作業位置とを一致させるためには、4つの旋回式推進器21の旋回方向及び出力をそれぞれ調整して、基準点位置と目標作業位置がずれている分だけ船体を回頭又は並進させればよい。さらに、制御部60による作業位置制御は、所定の条件により、停止させたり開始させたりすることができる。本実施形態では、船体10が目標作業位置に所定距離だけ近づいた場合に制御部60が作業位置制御を開始するように構成されており、また、作業者の操作によっても制御部60が作業位置制御を開始及び停止できるように構成されている。
【0029】
次に、本実施形態に係る作業船100の運用例を説明する。ここでは、コンクリートブロックを船体10に積載し、このコンクリートブロックを所定位置で水底に沈める作業について説明する。まず、コンクリートブロックを船体10に積載した後、作業者はコンクリートブロックを沈める位置の座標を入力する。これにより、目標設定部50は作業者に入力された位置を目標作業位置として設定する。また、同じように作業者が所定の船首方位を入力すれば、目標設定部50はその船首方位を目標作業方位として設定する。その後、作業者はブーム33の先端を船体10の外側に位置させた状態で、目標作業位置に向かって船体10を航行させる。なお、このとき制御部60による作業位置制御はまだ開始されていない。
【0030】
続いて、船体10が目標作業位置に所定距離だけ近づくと、制御部60は作業位置制御を開始する。これにより制御部60は、平面視においてブーム33の先端の位置(基準点位置)がコンクリートブロックを沈める位置(目標作業位置)に一致するように、かつ、船首方位が目標作業方位に一致するように推進部20を制御する。この制御が行われることにより、船体10は実際に作業が可能な位置に定点保持される。仮に、従来のように船体中心を基準点として定点保持制御が行われた場合、次のような追加の作業が必要である。つまり、船体中心を作業位置付近のある目標位置に一致させる定点保持制御(いわば予備の定点保持制御)により船体が安定した後、作業者がブーム33の先端が目標作業位置の真上に位置するように船体中心の目標位置を修正することで船体10を移動させる。このような作業を行わなければ、船体10を作業が可能な位置で停留させることはできない。これに対し、本実施形態ではそのような作業者による追加の作業は不要であり、船体10を作業が可能な位置において速やかに定点保持させることができる。
【0031】
続いて、作業船100によりコンクリートブロックを水底に沈める作業について説明する。なお、これ以降における作業者の作業は、全てクレーン操作室36で行われる。まず、作業者は制御部60による作業位置制御を一旦停止する。その上で、ブーム33が船体10の中央側に向くようにクレーン本体32を回動させ、必要によりブーム33の仰角を変更する。その後、作業者は、船体10に積載されているコンクリートブロックをブーム33で吊上げ、クレーン本体32を回動させて当初の回動角付近に戻す。ここで作業者は再び制御部60による作業位置制御を開始させる。これにより、ブーム33の先端位置と目標作業位置が平面視において一致していないときは、制御部60はそれらが一致するように船体10を移動させる。このように、制御部60が作業位置制御を行っている限りは、目標作業位置の真上にブーム33の先端が位置し続けるため、作業者はブーム33に吊下げたコンクリートブロックを降ろすだけで、正確な作業位置にコンクリートブロックを沈めることができる。
【0032】
なお、作業者がクレーン本体32を当初の回動角に戻そうとする場合、当初の回動角に戻せない事情が生じたり、船体10が傾くことでブーム33の先端位置が当初の位置からずれたりする場合がある。この場合、従来のように船体中心を基準点とした定点保持制御では、ずれを修正することができず、目標位置の設定を変更しなければならない。これに対し、本実施形態によれば、ブーム33の先端位置と目標作業位置がずれている場合には、制御部60によりブーム33の先端位置と目標作業位置が一致するように船体10を移動させるため、効率よく作業を進めることができる。
【0033】
また、従来のように船体中心を基準点とした定点保持制御では、作業者が誤って当初の回動角とは異なる回動角にクレーン本体32を戻したとき、そのまま誤った位置にコンクリートブロックが沈められることになる。ところが本実施形態によれば、作業者が誤って当初の回動角とは異なる回動角にクレーン本体32を戻したとしても、制御部60はブーム33の先端が目標作業位置の真上に位置するよう船体を移動させるため、誤った位置にコンクリートブロックが沈められるようなことはない。
【0034】
(第2実施形態)
次に、
図4及び
図5を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態に係る作業船200は、定点保持制御装置201の制御部60が上述の「作業位置制御」に加えて「自船位置制御」により推進部20を制御することができ、また、両制御が切換可能である点で、第1実施形態に係る作業船100(定点保持制御装置101)と異なる。なお、上記の「自船位置制御」は定点保持制御の一種であり、その制御内容は後で説明する。また、本実施形態においては、制御の切換時に目標設定部50によって目標位置等が設定される点も特徴の1つである。以下、詳述する。
【0035】
図4は、本実施形態の制御に関する構成のブロック図である。
図4のうち、
図3から新たに加えられた部分は、破線で示している。上述したように本実施形態では、制御部60が作業位置制御に加えて自船位置制御を行うことができるが、作業位置制御については第1実施形態で説明したため、ここでは自船位置制御を中心に説明する。
図4に示すように、目標設定部50は、測位装置12から実際の船体位置を取得し、ジャイロコンパス13から実際の船首方位を取得する。そして、目標設定部50は、作業位置制御から自船位置制御に切り換わると、この制御が切り換えられた時(厳密には切り換えられた直前)の実際の船体位置及び船首方位をそれぞれ目標船体位置及び目標船首方位として設定する。本実施形態では、作業位置制御から自船位置制御に切り換わると、目標設定部50は目標作業位置及び目標作業方位に代えて、目標船体位置及び目標船首方位を制御部60に提供する。ここで設定した目標船体位置及び目標船首方位は、自船位置制御が行われている間そのまま維持される。ただし、作業者が別の目標船体位置及び目標船首方位を入力することにより、ここで設定された目標船体位置及び目標船首方位が変更されるように構成されていてもよい。
【0036】
また、
図4に示すように、自船位置制御のときは、制御部60は、測位装置12から実際の船体位置を取得し、ジャイロコンパス13から実際の船首方位を取得し、目標設定部50から目標船体位置及び目標船首方位を取得する。そして、自船位置制御では、制御部60は次のように制御を行う。つまり、制御部60は、実際の船体位置が目標船体位置と一致するように、かつ、実際の船首方位が目標船首方位と一致するように、推進部20を制御するのである。ここで、目標船体位置及び目標船首方位は、それぞれ作業位置制御から自船位置制御に切り換わったときの実際の船体位置及び船首方位であることは、上述したとおりである。つまり、本実施形態の自船位置制御は、作業位置制御から自船位置制御に切り換わる時の船体10の船体位置及び船首方位を維持する制御である。
【0037】
以下では、本実施形態における具体的な信号の流れについて説明する。
図5は、本実施形態の切換回路のブロック図である。なお、
図5は、説明を簡単にするために、位置(目標作業位置、目標船体位置)に関する部分のみを図示しているが、船首方位に関する部分についても同様にして構成することができる。図中の破線はオン/オフ信号の流れを示しており、それ以外はデータ信号の流れを示している。本実施形態の定点保持制御装置201には、第1切換スイッチ72、第2切換スイッチ73、第3切換スイッチ74が含まれている。このうち、第1切換スイッチ72及び第2切換スイッチ73は、目標設定部50の内部に配置されている。各切換スイッチ72乃至74は、作業者が切換釦71を操作することにより切り換えることができる。
図5において、各切換スイッチ72乃至74が「on」の場合には作業位置制御が行われ、「off」の場合には自船位置制御が行われる。つまり、
図5では各切換スイッチ72乃至74が「on」であるから、作業位置制御が行われている場合を示していることになる。
【0038】
まず、作業位置制御のときには、次のように信号が流れる。つまり、作業位置制御のときには、第1切換スイッチ72が「on」となっているから、目標作業位置に関する信号が制御部60に送信される。なお、第1実施形態で説明したように、目標作業位置(座標)は、作業者によって入力される。また、作業位置制御のときには、第3切換スイッチ74が「on」となっているから、基準点位置算出部40から実際の基準点位置(実際のブーム33の先端位置)に関する信号が制御部60に送信される。なお、第1実施形態で説明したように、基準点位置は、測位装置12からの船体位置情報、ジャイロコンパス13からの船首方位情報、垂直ジャイロ14からの船体姿勢情報、及び作業機械30からの作業機械情報に基づいて算出される。そして、制御部60では、受信した信号に基づいて、平面視において実際の基準位置が目標作業位置に一致するように、推進部20を制御する。
【0039】
これに対し、切換釦71により作業位置制御から自船位置制御に切り換えられたときは、次のように信号が流れる。まず、第2切換スイッチ73に着目すると、第2切換スイッチ73には測位装置12から船体位置に関する信号が入力され、この信号は前回値保持回路75を介して第2切換スイッチ73に戻される(入力される)。この前回値保持回路75は、入力された信号を遅らせて出力する回路である。つまり、第2切換スイッチ73には、自らが出力した少し前の信号が入力されることになる。これにより、作業位置制御から自船位置制御に切り換えられた時、つまり第2切換スイッチ73が「on」から「off」に切り換えられたとき、切り換え直前の測位装置12から送信された信号が前回値保持回路75を介して第2切換スイッチに入力される。そして、第2切換スイッチ73が「off」である間は、その信号が第2切換スイッチ73から出力され、前回値保持回路75を介して、第2切換スイッチ73に入力されるという流れが維持される。つまり、第2切換スイッチからは、自船位置制御に切り換えられる直前の船体位置に関する信号が出力され続ける。
【0040】
また、自船位置制御のときには、第1切換スイッチ72は「off」となるから、第2切換スイッチ73から出力された信号、つまり自船位置制御に切り換えられる直前の測位装置12から出力された船体位置に関する信号が制御部60に送信される。なお、自船位置制御に切り換えられたときの船体位置が目標船体位置となることは上述したとおりである。さらに、自船位置制御のときには、第3切換スイッチ74は「off」となるから、測位装置12から出力された実際の船体の位置に関する信号が制御部60に送信される。そして、制御部60では、受信した信号に基づいて、平面視において実際の船体位置が目標船体位置に一致するように、推進部20を制御する。
【0041】
次に、本実施形態に係る作業船200の運用例について、第1実施形態に係る作業船100の運用例に則して説明する。ただし、本実施形態に係る作業船200の運用例としては、船体10を作業が可能な位置に定点保持させるところまでは第1実施形態の場合と全く同じである。そこで、以下では、コンクリートブロックを水底に沈める作業以降の作業について説明する。
【0042】
船体10を作業可能な位置に定点保持した後、作業者はブーム33が船体10の中央側に向くようにクレーン本体32を回動させる。ここで、作業者はクレーン本体32を回動させる前に、作業位置制御から自船位置制御へ制御を切り換える。第1実施形態では、クレーン本体32を回動させる前に作業位置制御を一旦停止し、定点保持制御が行われないままでしばらく作業が続けられていたのに対し、本実施形態では作業位置制御から自船位置制御に制御が切り換えられるため、自船位置制御により定点保持制御自体は継続される。そのため、本実施形態ではブーム33が船体10の中央側に向くようにクレーン本体32を回動させた後においても、船体10が流されるようなことはない。また、本実施形態では、自船位置制御において、作業位置制御から自船位置制御に切り換えた時の船体10の船体位置及び船首方位が維持されるため、制御の切り換えに伴って船体10が移動してしまうようなこともない。
【0043】
その後、作業者は、船体10に積載されているコンクリートブロックをブーム33で吊上げ、クレーン本体32を回動させて当初の回動角付近に戻す。ここで作業者は自船位置制御から作業位置制御に切り換える。そうすると、ブーム33の先端位置と目標作業位置とが平面視において一致していないときは、制御部60はそれらが一致するように船体10を移動させる。これにより、制御部60が作業位置制御を行っている限り、目標作業位置の真上にブーム33の先端が位置し続けるため、作業者はブーム33に吊下げたコンクリートブロックを降ろすだけで、正確な作業位置にコンクリートブロックを沈めることができる。以上が、本実施形態に係る作業船200の運用例の説明である。
【0044】
なお、第2実施形態では、作業位置制御から自船位置制御に切り換わったとき、直前の目標作業位置及び目標作業方位が維持されるように構成されている場合について説明したが、切り換えが逆の場合、つまり自船位置制御から作業位置制御に切り換わったとき、その切換時におけるブーム33の先端位置及び船首方位をそれぞれ目標作業位置及び目標船首方位として設定するように構成してもよい。
【0045】
以上、本発明の第1実施形態及び第2実施形態について説明したが、具体的な構成はこれらの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。例えば、以上では、ブーム33の先端を基準点とする場合について説明したが、クレーン本体32の回動中心を基準点とする場合であっても、本発明に含まれる。この場合、クレーン本体32の回動角を調整するだけで、実際に作業を行う位置の真上にブーム33の先端を位置させることができる。