(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6178951
(24)【登録日】2017年7月21日
(45)【発行日】2017年8月9日
(54)【発明の名称】マット調ポリアミド系フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20170731BHJP
B29C 55/12 20060101ALI20170731BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20170731BHJP
C08J 9/00 20060101ALI20170731BHJP
B29K 77/00 20060101ALN20170731BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20170731BHJP
【FI】
C08J5/18CFG
B29C55/12
B32B27/34
C08J9/00 A
B29K77:00
B29L7:00
【請求項の数】12
【全頁数】48
(21)【出願番号】特願2017-524493(P2017-524493)
(86)(22)【出願日】2017年1月5日
(86)【国際出願番号】JP2017000137
【審査請求日】2017年5月8日
(31)【優先権主張番号】特願2016-1115(P2016-1115)
(32)【優先日】2016年1月6日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-55504(P2016-55504)
(32)【優先日】2016年3月18日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-55503(P2016-55503)
(32)【優先日】2016年3月18日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】前原 淳
(72)【発明者】
【氏名】岡部 貴史
【審査官】
芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−279401(JP,A)
【文献】
特開2014−37122(JP,A)
【文献】
特開2012−158031(JP,A)
【文献】
特開2016−117265(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
B29C 55/00−30
B32B
C08J 9/00−42
C08J 7/04−06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粒子及びポリアミド樹脂を含む樹脂組成物からなるポリアミド系フィルムであって、下記(a)〜(c)の特性;
(a)光沢度が50%以下、
(b)空隙率が0.4〜5%、及び
(c)温度20℃の条件下で測定される衝撃強度が0.35J以上
を全て満たすマット調ポリアミド系フィルム。
【請求項2】
さらに、下記(d)の特性;
(d)ヘイズが25%以上
を満たす、請求項1に記載のマット調ポリアミド系フィルム。
【請求項3】
さらに、下記(e)の特性;
(e)無機粒子の含有量が0.5〜12質量%
を満たす、請求項1に記載のマット調ポリアミド系フィルム。
【請求項4】
さらに、下記(f)の特性;
(f)フィルムの幅方向(TD)に対して45度の方向と135度の方向における熱水収縮率の差が2.5%以下
を満たす、請求項1に記載のマット調ポリアミド系フィルム。
【請求項5】
2層以上からなる積層体であって、少なくとも請求項1に記載のマット調ポリアミド系フィルムを含む積層体。
【請求項6】
少なくともバリア層を含む、請求項5に記載の積層体。
【請求項7】
前記バリア層が無機層状化合物(A)と樹脂成分(B)とを含有する、請求項6に記載の積層体。
【請求項8】
下記の物性(a)〜(c);
(a)積層体の少なくとも一方の表面における光沢度が50%以下、
(b)空隙率が0.4〜5%、及び
(c)温度20℃の条件下で測定される衝撃強度が0.35J以上
を全て満たす、請求項5に記載の積層体。
【請求項9】
さらに、下記(d)の特性;
(d)ヘイズが25%以上
を満たす、請求項5に記載の積層体。
【請求項10】
さらに、下記の物性(e);
(e)温度20℃及び湿度65%RHの条件下で測定される酸素透過度が20ml/m2・day・MPa以下
を満たす、請求項5に記載の積層体。
【請求項11】
下記の物性(f);
(f)フィルムの幅方向(幅方向(TD))に対して45度の方向と135度の方向における乾熱収縮率の差が2.5%以下
を満たす、請求項5に記載の積層体。
【請求項12】
請求項1に記載のマット調ポリアミド系フィルムを製造する方法であって、下記(a)〜(c)の工程;
(a)無機粒子及びポリアミド樹脂を含む樹脂組成物からなる未延伸フィルムの水分率が3〜9質量%になるように吸水させた後、予熱温度180〜250℃で予熱する工程
(b)予熱された未延伸フィルムを温度170〜230℃で延伸倍率2.0〜4.5倍で延伸する工程
(c)さらに温度180〜230℃で熱固定処理する工程
を含む製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、医薬品、医療品、化粧品等を包装するために用いるマット調ポリアミド系フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂フィルムは、良好な機械的特性、熱的特性及び透明性を有することから、特に食品を包装する用途をはじめとして、各種製品における包装に幅広く用いられている。
【0003】
このような用途の多様化に伴い、意匠性も高めるために、フィルム表面に細かな凹凸を形成することにより磨りガラス状としたフィルム(マット調フィルム)も求められている。このようなフィルムによれば、フィルム表面の光沢を低減しつつ(艶消し効果)、その包装製品の内容物を視覚的にぼかし、しかも和紙風合いを醸し出すことにより、高級感のある包装製品を提供することができる。
【0004】
フィルムにマット調に加工する方法としては、例えばフィルムの原料中に艶消し剤(フィラー)を含有させる方法、フィルムを事後的に表面処理する方法等がある。その中でも、フィルムの原料中に無機粒子を含有させる方法は、比較的低コストでより確実に艶消し効果等を得ることができるという点で有効である。無機粒子を含有させる方法としては、例えば特定の無機粒子を一定量添加する方法が提案されている(特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−158031
【特許文献2】特開2014−037122
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これら従来技術においては、所定の艶消し効果が得られるものの、フィルム中に含まれる無機粒子に起因して機械的特性が低下するという問題がある。
【0007】
すなわち、フィルムの原料中にシリカ粒子等の無機粒子を配合する場合、そのような無機粒子を含む原料からなる未延伸フィルムを延伸する際に延伸応力が高くなるため、無機粒子と密着している樹脂部分が延伸応力にて剥離し、空隙が発生する。この場合、空隙が多量に発生したり、あるいは大きな空隙が発生する結果、空隙率が異常に高くなる。延伸フィルムの空隙率が異常に高くなると、延伸フィルムの衝撃強度、引張強度、引張伸度等の機械的強度が著しく低下する。
【0008】
しかも、延伸応力が高くなると、ボーイング現象(延伸前のフィルムにフィルムの進行方向に対して直角にマークした直線が延伸・熱処理終了後、中央部が遅れた形の弓型に変形する現象)も大きくなるため、長さ方向及び幅方向の熱収縮率が大きくなる。その結果、寸法安定性に劣るフィルムとなってしまう。
【0009】
このように、無機粒子を含む原料を用いて延伸フィルムを製造する場合、従来技術では無機粒子による物理的特性の低下を避けることが困難である。すなわち、マット調に加工するために必須とされている無機粒子が、機械的強度と寸法安定性の低下をもたらすがゆえに、従来技術によるマット調延伸フィルムにおいては、物理的特性のさらなる改善は期待できない。
【0010】
従って、本発明の主な目的は、無機粒子を含有する延伸フィルムであって、所望のマット調を有するとともに、無機粒子を含むにもかかわらず、より優れた物理的特性を兼ね備えたマット調ポリアミド系フィルム及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の工程からなる製造方法によって、特異な性質を有するポリアミド系フィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
より具体的には、無機粒子及びポリアミド樹脂を含む未延伸フィルムを特定の吸水率に調整した後、特定の予熱・延伸温度・熱固定温度条件の下で延伸することによって、延伸応力の低減化を実現できることを見出した。それにより、得られる延伸フィルム中の空隙率を適度な範囲に制御できるうえ、ボーイング現象を低下させることもできる結果、衝撃強度等が高く、寸法安定性にも優れたマット調ポリアミド系フィルムを得ることができることに成功した。
【0013】
すなわち、本発明は、下記のマット調ポリアミド系フィルム及びその製造方法に係る。
1. 無機粒子及びポリアミド樹脂を含む樹脂組成物からなるポリアミド系フィルムであって、下記(a)〜(c)の特性;
(a)光沢度が50%以下、
(b)空隙率が0.4〜5%、及び
(c)温度20℃の条件下で測定される衝撃強度が0.35J以上
を全て満たすマット調ポリアミド系フィルム。
2. さらに、下記(d)の特性;
(d)ヘイズが25%以上
を満たす、前記項1に記載のマット調ポリアミド系フィルム。
3. さらに、下記(e)の特性;
(e)無機粒子の含有量が0.5〜12質量%
を満たす、前記項1に記載のマット調ポリアミド系フィルム。
4. さらに、下記(f)の特性;
(f)フィルムの幅方向(TD)に対して45度の方向と135度の方向における熱水収縮率の差が2.5%以下
を満たす、前記項1に記載のマット調ポリアミド系フィルム。
5. 2層以上からなる積層体であって、少なくとも前記項1に記載のマット調ポリアミド系フィルムを含む積層体。
6. 少なくともバリア層を含む、前記項5に記載の積層体。
7. 前記バリア層が無機層状化合物(A)と樹脂成分(B)とを含有する、前記項6に記載の積層体。
8. 下記の物性(a)〜(c);
(a)積層体の少なくとも一方の表面における光沢度が50%以下、
(b)空隙率が0.4〜5%、及び
(c)温度20℃の条件下で測定される衝撃強度が0.35J以上
を全て満たす、前記項5に記載の積層体。
9. さらに、下記(d)の特性;
(d)ヘイズが25%以上
を満たす、前記項5に記載の積層体。
10. さらに、下記の物性(e);
(e)温度20℃及び湿度65%RHの条件下で測定される酸素透過度が20ml/m
2・day・MPa以下
を満たす、前記項5に記載の積層体。
11. 下記の物性(f);
(f)フィルムの幅方向(幅方向(TD))に対して45度の方向と135度の方向における乾熱収縮率の差が2.5%以下
を満たす、前記項5に記載の積層体。
12. 前記項1に記載のマット調ポリアミド系フィルムを製造する方法であって、下記(a)〜(c)の工程;
(a)無機粒子及びポリアミド樹脂を含む樹脂組成物からなる未延伸フィルムの水分率が3〜9質量%になるように吸水させた後、予熱温度180〜250℃で予熱する工程
(b)予熱された未延伸フィルムを温度170〜230℃で延伸倍率2.0〜4.5倍で延伸する工程
(c)さらに温度180〜230℃で熱固定処理する工程
を含む製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、無機粒子及びポリアミド樹脂を含有する延伸フィルムであって、所望のマット調を有するとともに、無機粒子を含むにもかかわらず、より優れた物理的特性を兼ね備えたマット調ポリアミド系フィルムを提供することができる。すなわち、本発明のマット調ポリアミド系フィルムは、無機粒子とポリアミド樹脂とを含む樹脂組成物からなり、フィルム表面及び内部に無機粒子が存在することにより、表面が艶消し状態であるマット調を呈する。さらに、好ましくは、本発明のマット調ポリアミド系フィルムは、適度なヘイズ特性(比較的高いヘイズ)をも有するものである。
【0015】
その一方、本発明フィルムは、無機粒子を含む延伸フィルム(特に二軸延伸フィルム)であるにもかかわらず、無機粒子の存在による影響を最小限にとどめ、優れた衝撃強度等の物理的特性と良好な寸法安定性とを兼ね備えている。
【0016】
このように、本発明のフィルムは、意匠性と機械的特性の両特性ともに優れており、例えば食品、医療品、化粧品等をはじめとする各種製品の包装材として好適に用いることができる。
【0017】
また、本発明のポリアミド系フィルムの製造方法によると、特定の工程を含むことから、本発明のマット調ポリアミド系フィルムをより確実かつ効率的に製造することができる。
【0018】
本発明のマット調ポリアミド系フィルムを含む積層体(特に本発明のマット調ポリアミド系フィルムとバリア層とを含む積層体)は、本発明フィルムの特性に加えて優れたバリア性(特にガスバリア性、さらには酸素バリア性)も有する。このため、本発明の積層体は、意匠性と物理的特性(機械的特性)、内容物保存性等の特性に優れており、例えば食品、医療品、化粧品等をはじめとする各種製品の包装材として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】熱水収縮率の斜め差又は乾熱収縮率の斜め差を測定するためのサンプルの切り出しを示す図である。
【
図3】本発明フィルム表面の凹凸状態を分析した結果を示すイメージ画像である。
【0020】
<第1発明>
1.マット調ポリアミド系フィルム及び積層体
(1)マット調ポリアミド系フィルム
本発明のマット調ポリアミド系フィルム(本発明フィルム)は、無機粒子及びポリアミド樹脂を含む樹脂組成物からなるポリアミド系フィルムであって、下記(a)〜(c)の特性;
(a)光沢度が50%以下、
(b)空隙率が0.4〜5%、及び
(c)温度20℃の条件下で測定される衝撃強度が0.35J以上
を全て満たすことを特徴とする。
【0021】
(1−1)フィルム組成
ポリアミド樹脂
本発明フィルムで用いるポリアミド樹脂としては、その分子内にアミド結合(−CONH−)を有する溶融成形可能な熱可塑性樹脂であれば良く、公知又は市販のものを使用することができる。例えば、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリアミノウンデカミド(ナイロン11)、ポリラウリルアミド(ナイロン12)のほか、これらの共重合体、混合物等が挙げられる。これらは1種又は2種以上の混合物の形態で使用することができる。本発明では、特にナイロン6がフィルム形状に成形しやすいという点で好ましい。すなわち、本発明フィルムにおけるポリアミド樹脂としてナイロン6を含むことが好ましい。
【0022】
ポリアミド樹脂の分子量の指標となる相対粘度は、機械物性の面から1.5〜5.0の範囲が好ましく、2.5〜4.0の範囲がより好ましい。ここで、相対粘度は、96質量%硫酸中、濃度1g/dl、温度25℃で測定された値である。
【0023】
無機粒子
本発明で用いる無機粒子は、特に限定されず、公知の樹脂製品に添加されている無機フィラー、無機顔料等も用いることができる。特に、本発明では、本発明の効果という見地より、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、シリカ、二酸化チタン、アルミナ、硫酸バリウム、フッ化カルシウム及びフッ化リチウムの少なくとも1種の無機粒子を配合することが好ましい。その中でも、フィルムにスリップ性を同時に付与することができるので、少なくともシリカを用いることがより好ましい。
【0024】
無機粒子として、シリカ(シリカ粒子)を用いる場合、無機粒子中におけるシリカの含有割合は限定的ではなく、通常は50〜100質量%程度、特に80〜100質量%、さらには90〜100質量%とすれば良い。
【0025】
無機粒子の平均粒子径は、所望のフィルム特性等に応じて適宜採択することができるが、特に1.0〜5.0μmの範囲とすることが好ましい。平均粒子径が1.0μmより小さい場合、フィルム表面の突起を形成することが困難となるため、所望のマット調が得られなくなるおそれがある。一方、平均粒子径が5.0μmを超えると、フィルム内部の空隙が過度に大きくなるおそれがある。
【0026】
本発明のマット調ポリアミド系フィルムは、無機粒子を含有するポリアミド樹脂からなるものであるが、フィルム表面は無機粒子の一部が適度に突出して突起が生じた形状となっており、フィルム内部は無機粒子により適度な空隙を有している。このような構成を有するため、本発明のマット調ポリアミド系フィルムは、表面が艶消し状であるマット調を呈するものである。そして、このような特定の形状のポリアミド系フィルムは、後述する製造方法を採用することにより初めて得ることができたものである。なお、突出する無機粒子は、フィルムから出て無機粒子が露出している場合のほか、フィルムに覆われたままでフィルム表面から突出する場合も包含される。
【0027】
無機粒子は、例えば分散性、耐候性、耐熱性等の少なくともいずれかを向上させるために、例えば無機系又は有機系表面処理剤による表面処理等が施された粒子であっても良い。
【0028】
本発明フィルム中の無機粒子の含有量は、所望の艶消し効果及びヘイズの程度等に応じて適宜設定することができる。特に、本発明では、通常は0.5〜12質量%の範囲内で設定することができ、より好ましくは1.0〜10質量%であり、最も好ましくは2〜7質量%である。フィルム中の無機粒子の含有量が0.5質量%未満の場合、上記したようなフィルム表面とフィルム内部に無機粒子による構成が生じず、空隙率が低くなるため、フィルム表面の光沢度が高くなるおそれがある。一方、無機粒子の含有量が12質量%を超える場合、フィルム内部の空隙の発生が多大になり、空隙率が5%を超えるおそれがある。
【0029】
その他の成分
本発明フィルム中には、本発明の効果を損なわない範囲内において、公知のフィルムに配合されている添加剤が含有されていても良い。例えばエチレンビスステアリルアミド、ステアリン酸カルシウム等の滑剤のほか、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、離型剤等が挙げられる。なお、これらの添加剤が無機粒子である場合は、本発明の無機粒子の含有量に含めて計算するものとする。
【0030】
(1−2)フィルム特性
光沢度
本発明フィルムの光沢度が50%以下となるものである。特に光沢度は40%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。表面光沢度が50%を超えると、表面が艶消し状態であるマット調とすることができず、目的とする高級感又は和紙風合いが得られない。なお、光沢度の下限値は限定的ではないが、一般的には5%程度とすれば良い。
【0031】
本発明フィルムの光沢度は、以下のように測定する。村上色彩技術研究所社製(GROSS METER GM−26 PRO)を用い、フィルムの表面をJIS K 7105に従って入射角20°で測定する。
【0032】
本発明フィルムにおいて光沢度を低く制御できる理由は、主として、表面に無機粒子の一部が露出して突起が生じた形状となっていることによる。実施例1に準拠して作製された試料の表面状態を
図3に示す。これは、非接触式表面粗さ測定装置(テーラーホブソン社製タリサーフCCI6000型)を使用して、スライドガラス上に固定した試料を対物レンズ20倍で実態計測し、ロバストガウシアンフィルター0.25mmを使用し、試料の表面粗さを解析した結果である。このように、特に、無機粒子による凸部が延伸によって延伸フィルム表面に形成されることにより、所望の低光沢性(マット調)を得ることができる。
【0033】
空隙率
本発明フィルムは、無機粒子による適度な空隙がフィルム内部に形成されていることにより、光沢を低減させるとともにフィルムの透明感を効果的に低下させ、マット調を得ることができる。本発明フィルムの空隙率は0.4〜5%であり、好ましくは0.5〜5%であり、より好ましくは0.6〜4.8%である。前記空隙率が0.4%未満の場合、フィルム内部の空隙が少なく、透明なフィルムとなり、また所望のマット調を得ることができない。一方、空隙率が5%を超えると、衝撃強度等の物理的特性が低下し、さらには二次加工工程でフィルムの破断が生じやすくなる。
【0034】
本発明フィルムの空隙率は、以下のように測定する。すなわち、まずはイオンポリッシング(IP)によりフィルム断面を作製し、FE−SEMにて断面観察を実施する。次いで、そのSEM画像を、画像解析ソフト(ImageJ.)を用いて、画像処理(閾値95設定の自動2値化処理)を施し、フィルム全体の断面の空隙面積の総和を算出し、下記式より空隙率(%)を求める。
空隙率(%)=(空隙面積の総和(μm
2)/フィルム全体の断面積(μm
2))×100
【0035】
ヘイズ
本発明フィルムの透明感の程度を示すヘイズは、25%以上であることが好ましく、特に30%以上であることがより好ましく、さらには45%以上であることが最も好ましい。ヘイズが25%未満であると、フィルムが透明なものとなり、また所望のマット調を得ることができなくなるおそれがある。なお、ヘイズの上限値は、特に制限されないが、通常は95%程度とすれば良い。
【0036】
本発明フィルムのヘイズは、以下のように測定する。日本電色社製ヘイズメーター(NDH 2000)を用い、JIS K 7105に従って、フィルムの全光線透過率(Tt)及び拡散透過率(Td)の測定を行い、下記式に基づいて、ヘイズを計算する。
ヘイズ(%)=(Td/Tt)×100
【0037】
衝撃強度
本発明フィルムは、上記のようにフィルム表面に無機粒子の突起が形成されており、かつ、フィルム内部に無機粒子に起因する空隙を有する。このようなフィルムは、空隙率が特定の範囲に制御されているため、機械的特性に優れているものである。機械的特性に優れていることを示す指標の一つとして衝撃強度がある。
【0038】
本発明フィルムでは、温度20℃の条件下で測定される衝撃強度が0.35J以上であり、好ましくは0.4J以上であり、より好ましくは0.45J以上である。衝撃強度が0.35Jよりも小さいと、例えば印刷工程等の二次加工工程で破断が生じ易くなる。また、本発明フィルムを用いて袋体を製造できたとしても、破損しやすい袋体となる。例えば、袋体を落下させた場合に容易に破損したり、あるいはクラックが生じ、内容物がこぼれる懸念がある。
【0039】
本発明フィルムの衝撃強度は、以下のように測定する。フィルムインパクトテスター(東洋精機社製)を使用し、温度20℃の雰囲気下で直径7cmのリング状フィルムの打ち抜きに要した衝撃強度を測定する。測定には、重量30kg、直径12.7mm(0.5インチ)のインパクトヘッドを用いる。
【0040】
引張強度
本発明において、機械的特性に優れていることを示す別の指標として引張強度がある。本発明フィルムの引張強度は、フィルムの長さ方向(MD)と幅方向(TD)ともに150MPa以上であることが好ましく、中でも170MPa以上であることがより好ましく、さらには、200MPa以上であることが最も好ましい。フィルムの引張強度が150MPa未満であると、例えば食品、医療品、医薬品等の包装材として求められる強度に満たなくなるおそれがある。なお、引張強度は、上記範囲内において、MD及びTDで互いに同じであっても良いし、MD及びTDで互いに異なっていても良い。
【0041】
引張伸度
本発明において、機械的特性に優れていることを示す別の指標として引張伸度がある。本発明フィルムの引張伸度については、フィルムの長さ方向(MD)と幅方向(TD)ともに60%以上であることが好ましく、中でも65%以上であることがより好ましく、さらには70%以上であることが最も好ましい。フィルムの引張伸度が60%未満であると、引張強度と同様に、例えば食品、医療品、薬品等の包装用として十分な強度が得られなくなるおそれがある。なお、引張伸度は、上記範囲内において、MD及びTDで互いに同じであっても良いし、MD及びTDで互いに異なっていても良い。
【0042】
上記の引張強度と引張伸度は、以下のように測定する。オートグラフAG-1(島津製作所社製)を用いて測定する。試験片は幅10mm、長さ150mmの短冊状で、使用セルは100kg、試験速度は500mm/min、チャック間隔は100mmとする。試験片は、フィルムの長さ方向(MD)と幅方向(TD)についてそれぞれ採取し、それぞれの方向における引張強度と引張伸度を求める。
【0043】
熱水収縮率
本発明フィルムは、フィルムの幅方向(TD)に対して45度の方向と135度の方向における熱水収縮率の差(以下、単に「熱水収縮率の斜め差」と略することがある。)が2.5%以下であることが好ましく、中でも2.2%以下であることがより好ましく、2.0%以下であることが最も好ましい。
【0044】
前記の「熱水収縮率の斜め差」は以下のようにして測定する。まず、フィルムの幅方向(TD)を特定し、幅方向を0度とした時に、0度に対し45度と135度の方向を長さ方向としてそれぞれ短冊状の試験片をカットする。試験片の寸法は幅10mm×長さ100mmとする。例えば、
図1に示すように、マット調ポリアミド系フィルム11において、45度方向では中心点Aから30mm〜130mmの範囲で試料12(縦100mm×横15mm)のように切り取る。135度の方向についても同様に試料を切り取る。得られた45度方向の試験片及び135度方向の試験片について、それぞれ100℃熱水中で5分間ボイル処理した後、温度23℃及び湿度50%RHで2時間放置した後の長さ方向の寸法を測定し、下記式A及びBにより、45度方向の試験片の熱水収縮率と135度方向の試験片の熱水収縮率とをそれぞれ求める。下記式Cのように、両方向の試験片の熱水収縮率に基づいて熱水収縮率の斜め差を算出する。
【0045】
式A:45度方向の熱水収縮率(%)=[{原長(L0
45)−処理後長(L
45)}/原長(L0
45)]×100
式B:135度方向の熱水収縮率(%)=[{原長(L0
135)−処理後長(L
135)}/原長(L0
135)]×100
式C:熱水収縮率の斜め差(%)=|(45度方向の熱水収縮率)−(135度方向の熱水収縮率)|
なお、上記式において、L0
45は熱水処理前の45度方向の試験片の長さ(すなわち100mm)を示し、L
45は熱水処理後の45度方向の試験片の長さを示し、L0
135は熱水処理前の135度方向の試験片の長さ(すなわち100mm)を示し、L
135は熱水処理後の135度方向の試験片の長さを示す。
【0046】
熱水収縮率の斜め差が2.5%を超えると寸法安定性が不足する。このため、例えば、フィルムに印刷を施す際の色合わせ工程で印刷のズレを生じやすくなる。また、本発明フィルムを袋体に成形する場合、雰囲気の温度又は湿度の影響によりひねり又は反りが生じ、平面性に劣る。また、袋体に内容物を充填する際に充填機の掴み部で掴みミスが生じたり、シール不良が生じたりする。さらには、袋体の歪みに起因し、外部から衝撃を受けた際の破袋率が高まる。
【0047】
フィルム厚み
本発明フィルムの厚みは、所望の物理的特性及び寸法安定性が両立できれば特に限定されないが、通常は10〜30μmの範囲内とすれば良く、特に12〜25μmとすることがより好ましい。厚みが10μm未満であると衝撃強度等の物理的特性が低くなるおそれがある。一方、厚みが30μmを超えるとコスト高となるおそれがある。
【0048】
(2)積層体
本発明は、2層以上からなる積層体であって、少なくとも請求項1に記載のマット調ポリアミド系フィルムを含む積層体を包含する。すなわち、本発明は、本発明フィルムの両面又は片面に少なくとも1層が積層された積層体を包含する。
【0049】
本発明フィルムに積層される層の機能及び目的は特に限定されず、例えばバリア層(ガスバリア層、水蒸気バリア層等)、印刷層、接着剤層(シーラント層)、プライマー層(アンカーコート層)、帯電防止層、蒸着層、紫外線吸収層、紫外線遮断層等が挙げられる。これらの各層はいずれも公知又は市販の積層体で採用されているものを採用することもできる。
【0050】
特に、本発明のマット調ポリアミド系フィルムに上記したような各層を積層する場合において、層間の接着性を高めるために層間にシーラント層を形成することが好ましい。シーラント層として用いる樹脂としては、例えば低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン/ポリプロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−アクリル酸/メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸/メタクリル酸エステル共重合体、ポリ酢酸ビニル系樹脂等が挙げられる。ヒートシール強度と、材質そのものの強度とが高いという点で、特にポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン/ポリプロピレン共重合体等のポリオレフィン樹脂が好ましい。これらの樹脂は、単独で用いても良いし、また他の樹脂と溶融混合して用いても良いし、さらに酸変性等が施されていても良い。
【0051】
シーラント層を形成する方法としては、例えばa)シーラント樹脂からなるフィルム又はシートを本発明フィルム等にラミネートする方法、b)シーラント樹脂を本発明フィルム等と押出ラミネートする方法等が挙げられる。前者の方法においては、シーラント樹脂からなるフィルム又はシートは、未延伸状態であっても低倍率の延伸状態でも良いが、実用的には、未延伸状態であることが好ましい。
【0052】
シーラント層の厚みは、特に限定されないが、20〜100μmであることが好ましく、40〜70μmであることがより好ましい。
【0053】
(3)包装材、包装用袋及び包装製品
本発明フィルム又はそれを含む積層体は、各種の用途に用いることができるが、特に包装材として好適に用いることができる。すなわち、内容物を包装するための包装材として利用することができる。内容物は限定的でなく、例えば飲食品、果物、ジュ−ス、飲料水、酒、調理食品、水産練り製品、冷凍食品、肉製品、煮物、餅、液体ス−プ、調味料、その他の各種の飲食料品のほか、医療品(医療機器)、液体洗剤、化粧品、化成品、機械部品、電子部品等の各種の内容物を包装することができる。
【0054】
包装材の形態も特に限定されず、例えば包装用袋として使用できる。包装用袋としては、例えばピロー袋、ガゼット袋、スタンド袋等の各種の袋体として用いることができる。袋体の成形方法も、公知の方法に従って実施すれば良い。
【0055】
さらに、本発明は、上記のような包装材又は包装用袋によって内容物が包装されてなる製品(包装製品)も包含する。この場合の包装状態としては、例えば包装材又は包装用袋によって内容物が外部から密封された状態等を挙げることができる。
【0056】
2.マット調ポリアミド系フィルム及び積層体の製造方法
(1)マット調ポリアミド系フィルムの製造方法
本発明の製造方法は、本発明フィルムを製造する方法であって、下記(a)〜(c)の工程;
(a)無機粒子及びポリアミド樹脂を含む樹脂組成物からなる未延伸フィルムの水分率が3〜9質量%になるように吸水させた後、予熱温度180〜250℃で予熱する工程(吸水・予熱工程)
(b)予熱された未延伸フィルムを温度170〜230℃で延伸倍率2.0〜4.5倍で延伸する工程(延伸工程)
(c)さらに温度180〜230℃で熱固定処理する工程(熱固定工程)
を含むことを特徴とする。
【0057】
(1−1)吸水・予熱工程
吸水・予熱工程では、無機粒子及びポリアミド樹脂を含む樹脂組成物からなる未延伸フィルムの水分率が3〜9質量%になるように吸水させた後、予熱温度180〜250℃で予熱する。
【0058】
未延伸フィルム自体は、公知の方法によって作製することができる。例えば、無機粒子及びポリアミド樹脂を含む樹脂組成物を溶融することにより得られる溶融混練物をフィルム状に成形することによって製造することができる。これは、公知又は市販の装置を使用することにより実施することが可能である。例えば、Tダイを有する溶融押出機を使用することができる。すなわち、まずホッパーに出発材料(例えばペレット状原料)を供給し、溶融押出機で可塑化溶融し、溶融した樹脂を押出機の先端に取り付けられたTダイよりシート状に押し出し、キャストロールで冷却固化する。このとき、空気によりポリアミド樹脂をキャストロールに押し付けて未延伸フィルム(未延伸シート)を得ることができる。
【0059】
上記の樹脂組成物は、無機粒子及びポリアミド樹脂を含む樹脂組成物を使用することができるが、前記で示した各種の添加剤も適宜配合することができる。無機粒子及び上記添加剤(以下両者をまとめて「無機粒子等」ともいう。)とポリアミド樹脂とを混合する方法は限定的でなく、例えばa)ポリアミド樹脂の重合開始前又は重合開始後の任意の時期に無機粒子等を内部添加する方法、b)合成されたポリアミド樹脂と無機粒子等とを溶融押出機中で溶融混錬する方法、c)ポリアミド樹脂と無機粒子等を溶融前にドライブレンドする方法等が挙げられる。これらの中でも、フィルム中での無機粒子等の分散性の良さという観点から、重合開始時又は重合開始後の任意の時期に無機粒子等を内部添加する方法が望ましい。
【0060】
未延伸フィルムの平均厚みは、特に限定されないが、一般的には15〜250μm程度とし、特に50〜235μmとすることが好ましい。このような範囲内に設定することによって、より効率的に延伸工程を実施することができる。
【0061】
未延伸フィルムを特定の水分率となるように調整する。より具体的には、未延伸フィルムの水分率が3〜9質量%になるように吸水させる。吸水前の未延伸フィルムは通常0.1質量%であり、従来技術ではそのような水分率のままで延伸工程が実施されている。これに対し、本発明では、未延伸フィルムに水分を加えて上記範囲に調整することを特徴とする。
【0062】
すなわち、本発明では、未延伸フィルムの水分率は、上記のように3〜9質量%とすることが必要であり、特に3.5〜8.5質量%とすることが好ましい。水分率が3質量%未満であると、可塑剤となる水分が少ないため、延伸応力が高くなる。このため、フィルム中に大きな空隙が生じたり、多数の空隙が生じ、空隙率が高くなる結果、フィルムの衝撃強度が低下したり、切断が多発する。また、ボーイング現象が顕著になるため、熱水収縮率斜め差が異常に大きくなる。一方、水分率が9質量%を超えると、延伸応力が低くなり過ぎ、無機粒子とポリアミド樹脂間の剥離が生じ難くなるため、フィルム中に空隙を生じさせること及びフィルム表面に突起を生じさせることが困難となる。その結果として、延伸フィルム中の空隙率が低くなり、所望の光沢度及びヘイズが得られなくなる。
【0063】
水分率の調整方法は、未延伸フィルムの水分率を増加させることができる方法であれば特に限定されない。例えば、未延伸フィルムに水又は水蒸気を噴霧する方法、未延伸フィルムにローラで水を付与する方法、未延伸フィルムを水に浸漬する方法等のいずれであっても良い。本発明では、例えば未延伸フィルムを水槽に一定時間浸漬する方法等を好適に採用することができる。
【0064】
水は、純水、水道水等のいずれであっても良く、特に限定されない。また、本発明の効果を妨げない限り、水に他の成分が分散又は溶解していても良い。
【0065】
水の温度は、特に制限されないが、特に45〜90℃程度の範囲内で設定することが好ましい。45℃未満ではポリアミドへの吸水速度が遅くなるため、吸水時間を長くする必要があり、不経済である。90℃を超えると、ポリアミドの結晶化が進み、延伸が困難になるおそれがある。
【0066】
吸水させた後、延伸工程に先立って、未延伸フィルムを予熱する。予熱温度は180〜250℃とする。中でも予熱温度は200〜245℃とすることが好ましく、さらに好ましくは210〜240℃である。予熱温度が180℃未満では、延伸に必要とするフィルム温度が得られにくくなるため、延伸応力が高くなり、無機粒子と密着している樹脂が延伸応力により急激に剥離し、フィルム中に大きな空隙が生じたり、多数の空隙が生じるため、空隙率が高くなる。また、ネック延伸が発生したり、ボーイング現象が顕著になったり、切断が多発する。一方、250℃を超えた場合、吸水した水分の蒸発速度が速くなりすぎる。そのため、フィルム温度が高くなりすぎ、ドロー延伸となり、分子配向がされにくくなるため、得られる延伸フィルムの衝撃強度等が低下する。
【0067】
未延伸フィルムを予熱する方法も限定されない。例えば、延伸機の予熱ゾーンを走行するフィルムに吹き付ける熱風の温度を上記の温度範囲に設定することによって行うことが好ましい。そして、未延伸フィルムが予熱ゾーンを走行する時間(予熱時間)は、0.5〜5秒間とすることが好ましい。
【0068】
また、ポリアミド系フィルムの延伸温度を上記の温度にするには、延伸機の延伸ゾーンを走行するフィルムに吹き付ける熱風の温度を上記の温度範囲に設定することによって行うことが好ましい。この場合、ポリアミド系フィルムが延伸ゾーンを走行する時間は、通常は0.5〜5秒間とすることが好ましい。
【0069】
(1−2)延伸工程
延伸工程では、前記の予熱された未延伸フィルムを温度170〜230℃で延伸倍率2.0〜4.5倍で延伸する。
【0070】
延伸方法としては、特に制限されず、例えばチューブラー法、テンター式同時二軸延伸法、テンター式逐次二軸延伸法等のいずれも適用可能である。チューブラー法は装置の設備コストが他の方法より安い点で有利であるが、フィルムの厚み精度を高めることが難しく、品質安定性及び寸法安定性の面でもテンター式二軸延伸法の方が優れている。従って、本発明のマット調ポリアミド系フィルムを製造する方法としては、テンター式二軸延伸法が好ましく、中でも上記したような工程(a)〜(c)の条件で生産性良く製造することが可能であるため、テンター式同時二軸延伸法が好ましい。
【0071】
テンター式同時二軸延伸法では、チューブラー法に比べて延伸応力が高くなりやすいため、延伸応力を下げるために、未延伸フィルムを特定の水分率となるように吸水させ、可塑化させることが効果的である。すなわち、本発明の製造方法では、テンター式同時二軸延伸法においてより優れた効果を発揮することができる。
【0072】
なお、テンター式逐次二軸延伸法を採用する場合には、長さ方向(MD)への延伸前に工程(a)で未延伸フィルムを特定の水分率に調整し、長さ方向(MD)への延伸を行った後、工程(b)で幅方向(TD)の延伸を行ない、幅方向(TD)の延伸後のフィルムに工程(c)で熱固定処理を行なうことが好ましい。
【0073】
これらの延伸方法は、公知又は市販の延伸装置を用いて実施することができる。例えば、未延伸フィルムの端部を延伸装置のクリップで把持し、予熱ゾーン、延伸ゾーン等を通過させながら長さ方向(MD)又は幅方向(TD)に延伸すれば良い。
【0074】
上記のように、予め未延伸フィルムを特定の水分率とした後に延伸工程及び熱固定工程に供することにより、無機粒子を含有していても、延伸時の延伸応力を抑えることができ、無機粒子と密着している樹脂が延伸応力により剥離することにより、フィルム中に大きな空隙が生じたり、多数の空隙が生じることを効果的に抑制ないしは防止することができる。
【0075】
つまり、本発明の製造方法によれば、適度な延伸応力で延伸することができるため、フィルム表面は無機粒子の一部が適度に露出して突起が生じた形状となり、フィルム内部は無機粒子がポリアミド樹脂から適度に剥離したことによる特定の空隙率を満足する構造となる。一方、本発明の製造方法によれば、延伸応力を効果的に抑制することにより高い物理的特性が得られるとともに、ボーイング現象を抑制することができ、寸法安定性にも優れたポリアミド系フィルムを得ることができる。
【0076】
延伸に際しては、吸水処理が施されて水分率が3〜9質量%となり、特定の温度に予熱された未延伸フィルムを延伸する。すなわち、水分率3〜9質量%及び温度180〜250℃の未延伸フィルムを延伸工程に供する。
【0077】
延伸倍率は、長さ方向(MD)と幅方向(TD)にそれぞれ2.0〜4.5倍に延伸する。延伸倍率は、特に長さ方向(MD)と幅方向(TD)ともに2.5〜4.0倍であることが好ましい。長さ方向(MD)と幅方向(TD)のいずれかの延伸倍率が2.0倍未満であると、未延伸フィルムが十分に延伸されないため、無機粒子と密着している樹脂が延伸応力により剥離することにより、フィルム中に生じる空隙が小さいものとなり、空隙率が低いものとなる。また、十分に延伸されないため、衝撃強度に劣るものとなり、引張強度、引張伸度等の物理的特性にも劣るものとなる。一方、長さ方向(MD)と幅方向(TD)のいずれかの延伸倍率が4.5倍を超えると、空隙率が大きくなりすぎたり、熱水収縮率斜め差が大きくなる。また、延伸工程でフィルムの切断が生じやすくなる。
【0078】
延伸倍率は、長さ方向(MD)と幅方向(TD)で互いに同じであっても良いし、互いに異なっていても良い。この場合、適度な延伸応力で良好に延伸するためには、さらに延伸倍率が下記の条件を満足することが好ましい。長さ方向(MD)の延伸倍率と幅方向(TD)の延伸倍率の比(TD/MD)は、0.9〜1.2であることが好ましく、特に1.0〜1.2であることがより好ましい。さらには、長さ方向(MD)の延伸倍率と幅方向(TD)の延伸倍率の積(TD×MD)は、通常7〜16であることが好ましく、その中でも7.5〜14であることがより好ましい。
【0079】
延伸温度は170〜230℃とし、特に180℃〜220℃とすることが好ましい。延伸温度が170℃未満では、延伸に必要とするフィルム温度が得られにくくなるため、延伸応力が高くなり、無機粒子と密着している樹脂が延伸応力により剥離し、延伸フィルム中に大きな空隙が生じたり、多数の空隙が生じるため、空隙率が過度に高くなる。このため、衝撃強度等の物理的特性が低下する。また、切断が多発する。一方、延伸温度が230℃を超えた場合、フィルム温度が高くなりすぎてドロー延伸となり、分子配向がされにくくなるため、得られる延伸フィルムの衝撃強度等の物理的特性が低下する。
【0080】
(1−3)熱固定工程
熱固定工程では、延伸工程で二軸延伸されたフィルムをさらに温度180〜230℃で熱固定処理する。熱固定処理では、延伸フィルムを一定の張力で長さ方向(MD)及び幅方向(TD)に固定しながら熱処理すれば良い。熱固定処理により、延伸フィルムの結晶化を促進し、分子配向を固定することができる。加えて、延伸フィルム中の空隙及び表面形状が固定され、さらには延伸フィルムの寸法安定性が向上し、延伸フィルムの熱水収縮率の斜め差を2.5%以下に制御することができる。
【0081】
熱固定処理温度は、通常180〜230℃とし、好ましくは190〜230℃とし、より好ましくは200〜220℃とする。熱固定処理温度が180℃未満である場合は、得られる延伸フィルムの結晶化が不十分となり、衝撃強度に劣る。また、延伸フィルムの寸法安定性が悪くなり、熱水収縮率の斜め差が2.5%を超える。一方、熱固定処理温度が230℃を超える場合、延伸フィルムの熱劣化が発生し、衝撃強度等の物理的特性が低下する。さらには熱固定処理中に溶断する等のトラブルにより操業性が低下する。また、熱固定処理の時間は、熱固定処理温度等に応じて適宜設定できるが、通常は1〜10秒間程度とすることが好ましい。
【0082】
上記のような熱固定処理温度とする方法は特に限定されない。熱固定処理における熱処理方法としては、例えば熱風を吹き付ける方法、赤外線を照射する方法、マイクロ波を照射する方法等を採用することができる。これらの中でも、均一に精度良く加熱することができるという見地より、熱風を吹き付ける方法が好ましい。例えば、延伸機の熱固定ゾーンを走行するフィルムに上記温度範囲に設定された熱風を吹き付けることによって熱固定処理を行うことができる。
【0083】
また、熱固定処理における上記張力は、弛緩率として定量化される。すなわち、延伸フィルムが一切弛まないように設定する場合を弛緩率0%として、通常は長さ方向(MD)及び幅方向(TD)ともに弛緩率0%で熱固定処理を実施する。すなわち、本発明では、熱固定処理として、少なくとも長さ方向(MD)及び幅方向(TD)ともに弛緩率0%で実施する工程を含むことが望ましい。より具体的には、延伸工程で二軸延伸されたフィルムをさらに長さ方向(MD)及び幅方向(TD)ともに弛緩率0%で温度180〜230℃で熱固定処理する工程を含むことが好ましい。
【0084】
本発明では、弛緩率0%での熱固定処理に加えて、必要に応じて、延伸フィルムに一定の弛みをもたせた状態(すなわち0%を超える弛緩率)での熱固定処理を実施することもできる。本発明では、このような0%を超える弛緩率での熱固定処理を便宜的に弛緩熱処理という。すなわち、熱固定処理において、延伸フィルムに一定の弛みをもたせた状態で熱処理を行う工程を含んでいても良い。本発明では、このような弛緩熱処理を行うことによって、得られる延伸フィルムの寸法安定性をよりいっそう高めることができる。なお、弛緩熱処理を行う場合、例えば熱固定処理の前半、後半又は中盤のいずれの段階で実施しても良い。本発明では、特に、弛緩熱処理は、弛緩率0%での熱固定処理後に行うことが好ましい。また、弛緩熱処理は、多段階に分けて実施することもできる。
【0085】
弛緩熱処理を行う場合の温度は、上記で示した熱固定処理温度の範囲内とすれば良いが、熱固定処理温度と互いに同一であっても良いし、互いに異なっていても良い。また、弛緩熱処理する場合の時間は、限定的ではないが、通常は1〜10秒間程度とすることが好ましい。
【0086】
弛緩熱処理を行う場合の弛緩率は、通常は長さ方向(MD)及び幅方向(TD)の少なくとも一方において弛緩率を通常10%程度以下の範囲内、好ましくは0.3〜7%に設定すれば良い。本発明では、特に、弛緩率0%の熱固定処理をした後において、延伸フィルムの幅方向(TD)の弛緩率0.3〜7%の範囲で弛緩熱処理する工程を含むことが好ましい。この弛緩熱処理において、長さ方向(MD)の弛緩率は0%とすることが好ましい。
【0087】
前記したように、一般に、シリカ等の無機粒子を含有するポリアミド樹脂を用いて製膜すると、未延伸フィルムの延伸時に延伸応力が高くなり、空隙の多量発生又はボーイング現象の増大につながる。これに対し、本発明においては、このような現象を効果的に抑制すべく、1)未延伸フィルムを特定の水分率となるように調整すること、2)特定の温度条件で延伸を行うこと、3)二軸延伸されたフィルムを特定の温度条件で熱固定させることを重要な特徴とするものである。そして、前記(1−1)、(1−2)及び(1−3)の工程を必須とすることによって、無機粒子をフィルム中に含有していながらも延伸応力を効果的に抑制することにより、良好に延伸することが可能となる結果、所望のマット調ポリアミド系フィルムを得ることができる。つまり、良好な延伸を行えることにより、フィルム表面においては、無機粒子の一部が適度に露出して突起が生じた形状となり、フィルム内部は無機粒子により空隙率を適度な範囲内に制御できるので、所望の特性を兼ね備えたマット調ポリアミド系フィルムを提供することが可能となる。
【0088】
(1−4)その他の工程
本発明のマット調ポリアミド系フィルムは、必要に応じて、コロナ放電処理等の表面処理を施しても良い。
【0089】
(2)積層体の製造方法
本発明は、本発明フィルムの両面又は片面に少なくとも1つの層を積層する工程を含むことを特徴とする積層体の製造方法も包含する。
【0090】
積層する方法は、特に限定されず、例えばa)予め製造されたフィルムを本発明フィルムに積層する方法、b)本発明フィルムの表面に塗膜形成用塗工液を塗布することにより塗膜を形成する方法、c)PVD法、CVD法等により蒸着膜を形成する方法等をいずれも採用することができる。
【0091】
また、本発明の積層体においても、必要に応じて、コロナ放電処理等の表面処理を施すことができる。
【0092】
<第2発明>
第2発明は、第1発明の積層体の一実施形態に係るものである。すなわち、第2発明は、第1発明のマット調ポリアミド系フィルム及びバリア層を含む積層体に係る。
【0093】
バリア層としては、例えば空気、水分(水蒸気)、光(紫外線)、熱等のいずれかを遮断できる機能を有するものであれば良く、第2発明の積層体の用途、使用目的等に応じて適宜選択することができる。特に、積層体を食品等の包装材として使用する場合は、少なくとも空気を遮断できる層(ガスバリア層)であることが望ましい。また、ガスバリア層で遮断するガスの種類も特に限定されず、例えば酸素、空気等のいずれであっても良い。
【0094】
このようなマット調ポリアミド系フィルム及びガスバリア層を含む積層体の一例としては、例えば
図2に示すような層構成を有する積層体Xを採用することができる。以下、このガスバリア性積層体X(以下、「積層体X」と略することがある)を本発明の実施形態として説明する。
【0095】
1.積層体X
図2に示す積層体Xは、本発明に係るマット調ポリアミド系フィルム11の片面に順にアンカーコート層22及びガスバリア層23が形成されている。すなわち、ガスバリア層23がアンカーコート層22を介してマット調ポリアミド系フィルム11に積層されている。アンカーコート層22を介することにより、ポリアミド系フィルム11とガスバリア層23との密着性の向上等を図ることができる。
【0096】
マット調ポリアミド系フィルム11の構成は、第1発明に示したフィルムと同様のものを採用すれば良い。
【0097】
アンカーコート層22を構成する成分としては、特に限定されず、公知又は市販のアンカーコート剤で採用されている成分等を使用することができる。例えば、イソシアネート系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリエチレンイミン系、ポリブタジエン系、ポリオレフィン系、アルキルチタネート系等の各種の化合物が挙げられる。
【0098】
これらの中でも、本発明の効果がより確実に得られるという点で、特にイソシアネート系、ポリウレタン系、ポリエステル系等が好ましい。さらには、1)イソシアネート化合物、ポリウレタン及びウレタンプレポリマーの1種又は2種以上の混合物及び反応生成物、ならびに2)ポリエステル、ポリオール及びポリエーテルの1種又は2種以上とイソシアネートとの混合物及び反応生成物からなる少なくとも1種の混合物及び/又は反応生成物を採用することが好ましい。
【0099】
アンカーコート層22の厚みは、特に限定されないが、乾燥厚みが0.02〜0.2μmであることが好ましく、特に0.04〜0.1μmであることがより好ましい。
【0100】
ガスバリア層23の材質は、無機層状化合物(A)と樹脂成分(B)とを含有する混合物から構成されることが好ましい。
【0101】
無機層状化合物(A)
ガスバリア層を構成する「無機層状化合物(A)」とは、単位結晶層が互いに積み重なって層状構造を形成している無機化合物をいう。換言すれば、「層状化合物」とは、層状構造を有する化合物ないし物質である。前記「層状構造」とは、原子が共有結合等によって強く結合して密に配列した面が、ファン・デル・ワールス力等の弱い結合力によって平行に積み重なった構造をいう。
【0102】
無機層状化合物(A)としては、溶媒への膨潤性及び劈開性を有する粘土鉱物を特に好ましく用いることができる。そのような粘土鉱物としては、例えばカオリナイト、ディッカイト、ナクライト、ハロイサイト、アンチゴライト、クリソタイル、パイロフィライト、モンモリロナイト、バイデライト、ベントナイト、ノントロナイト、サポナイト、ソーコナイト、スチブンサイト、ヘクトライト、テトラシリリックマイカ、ナトリウムテニオライト、白雲母、マーガライト、タルク、バーミキュライト、金雲母、ザンソフィライト、緑泥石等の少なくとも1種が挙げられる。
【0103】
本発明では、これらの中でも、スメクタイト族、バーミキュライト族、マイカ族の粘土系鉱物が好ましく、スメクタイト族が特に好ましい。スメクタイト族としては、限定的ではないが、例えばモンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ソーコナイト、スチブンサイト、ヘクトライト等が挙げられる。
【0104】
本発明では、これら粘土鉱物に有機物でイオン交換等の処理を施して分散性等を改良した材料も、無機層状化合物として用いることができる。無機層状化合物(A)が膨潤性を有する粘土鉱物である場合は、より優れた耐水性(耐水環境テスト後のバリア性)等を得ることができる。
【0105】
無機層状化合物は、ガスバリア性、製膜性等の点から、平均粒径が5μm以下であることが好ましい。また、無機層状化合物(A)のアスペクト比は、通常50〜5000であることが好ましく、特に200〜3000であることがより好ましい。アスペクト比が50未満では、ガスバリア性の発現が不十分となる。一方、アスペクト比が5000を超える無機層状化合物は調製造することが技術的に困難であり、またコストないし経済的にも高価なものとなる。そのため、製造容易性等の点からは、アスペクト比は3000以下であることが好ましい。
【0106】
樹脂成分(B)
ガスバリア層23を構成する樹脂成分は、特に限定されないが、例えばポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリアクリロニトリル(PAN)、多糖類、ポリアクリル酸及びそのエステル類等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0107】
樹脂成分の好ましい例としては、水素結合性基又はイオン性基を有する樹脂が挙げられ、水素結合性基又はイオン性基の含有量が、樹脂に対して20〜60質量%である高水素結合性樹脂が好ましい。さらに、水素結合性基又はイオン性基の含有量は、樹脂に対して30〜50質量%であることがより好ましい。樹脂成分が高水素結合性樹脂である場合、より優れた耐水性(耐水環境テスト後のバリア性)を発揮することができる。
【0108】
なお、「水素結合性基」とは、炭素以外の原子(ヘテロ原子)に直接結合した水素を少なくとも1個有する基をいう。また「イオン性基」とは、水中において水分子の水和が可能な程度に局在化した「正又は負」の少なくとも一方の電荷を有する基をいう。
【0109】
水素結合性基としては、例えば水酸基、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、燐酸基等が挙げられる。イオン性基としては、例えばカルボキシレート基、スルホン酸イオン基、燐酸イオン基、アンモニウム基、ホスホニウム基等が挙げられる。本発明で好ましい基としては、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、カルボキシレート基、スルホン酸イオン基、アンモニウム基等が挙げられる。
【0110】
高水素結合性樹脂の具体例としては、例えばポリビニルアルコール及びその類縁体、エチレン−ビニルアルコール共重合体等のビニルアルコール系樹脂;セルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体;アミロース、アミロペクチン、プルラン、カードラン、ザンタン、キチン、キトサン、セルロース等の多糖類;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリ−2−ヒドロキシエチルアクリレート、ポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリルアミド、エチレン−アクリル酸共重合体及びその塩等のアクリル系樹脂;ジエチレントリアミン−アジピン酸重縮合体等ポリアミノアミド系樹脂、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリビニルピリジン及びその塩、ポリエチレンイミン及びその塩、ポリアリルアミン及びその塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルスルホン酸及びその塩、ポリビニルチオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリン等のような水素結合性基又はイオン性基を分子中に有する樹脂が挙げられる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。本発明において、高水素結合性樹脂は、ポリビニルアルコール及びエチレン−ビニルアルコール共重合体の少なくとも1種が好ましい。
【0111】
ポリビニルアルコールとは、ビニルアルコールのモノマー単位を主成分として有するポリマーである。このような「ポリビニルアルコール」としては、例えば、酢酸ビニル重合体の酢酸エステル部分を加水分解ないしエステル交換(けん化)して得られるポリマー(正確にはビニルアルコールと酢酸ビニルの共重合体となったもの)、トリフルオロ酢酸ビニル重合体、ギ酸ビニル重合体、ピバリン酸ビニル重合体、t−ブチルビニルエーテル重合体、トリメチルシリルビニルエーテル重合体等をけん化して得られるポリマーが挙げられる(「ポリビニルアルコール」の詳細については、例えば、ポバール会編、「PVAの世界」、1992年、(株)高分子刊行会;長野ら、「ポバール」、1981年、(株)高分子刊行会を参照することができる)。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0112】
ポリビニルアルコールにおける「けん化」の程度は、モル百分率で70%以上が好ましく、85%以上のものがより好ましく、98%以上のいわゆる完全けん化品が最も好ましい。また、重合度は100〜5000であることが好ましく、特に200〜3000であることがより好ましい。
【0113】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)においては、ビニルアルコール分率が40%以上であることが好ましく、40〜99モル%であることがより好ましく、特に45〜97モル%であることが最も好ましい。また、EVOHのメルトインデックス(温度190℃、荷重2160gの条件で測定した値、以下「MI」と記す。)は、特に限定されないが、0.1〜50g/10分であることが好ましい。EVOHは、本発明の目的が阻害されない限り、少量の共重合モノマーで変性されていても良い。
【0114】
多糖類とは、上述したような、種々の単糖類の縮重合によって生体系で合成される生体高分子であり、ここではそれらをもとに化学修飾したものも含まれる。
【0115】
本発明で用いられる樹脂成分が高水素結合性樹脂であるときには、その耐水性(耐水環境テスト後のバリア性)を改良する目的で架橋剤を用いることができる。
【0116】
架橋剤としては、例えばチタン系カップリング剤、シラン系カップリング剤、メラミン系カップリング剤、エポキシ系カップリング剤、イソシアネート系カップリング剤、銅化合物、ジルコニウム化合物等が挙げられる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。これらの中でも耐水性向上の点からは、ジルコニウム化合物が特に好ましく用いられる。
【0117】
ジルコニウム化合物の具体例としては、例えばオキシ塩化ジルコニウム、ヒドロキシ塩化ジルコニウム、四塩化ジルコニウム、臭化ジルコニウム等のハロゲン化ジルコニウム;硫酸ジルコニウム、塩基性硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム等の鉱酸のジルコニウム塩;蟻酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、プロピオン酸ジルコニウム、カプリル酸ジルコニウム、ステアリン酸ジルコニウム等の有機酸のジルコニウム塩;炭酸ジルコニウムアンモニウム、硫酸ジルコニウムナトリウム、酢酸ジルコニウムアンモニウム、蓚酸ジルコニウムナトリウム、クエン酸ジルコニウムナトリウム、クエン酸ジルコニウムアンモニウム等のジルコニウム錯塩等が挙げられる。
【0118】
架橋剤の添加量は特に限定されないが、架橋剤の架橋生成基のモル数(CN)と樹脂の水素結合性基のモル数(HN)との比(K=CN/HN)が、0.001〜10の範囲になるように用いることが好ましく、0.01〜1の範囲になるように用いることがさらに好ましい。
【0119】
ガスバリア層23における無機層状化合物と樹脂の体積比[無機層状化合物/樹脂]は、3/97〜90/10であることが好ましく、特に5/95〜50/50であることがより好ましく、8/92〜25/75であることが最も好ましい。また、無機層状化合物の割合が上記範囲よりも小さすぎると、ガスバリア層の厚みを厚くしても、無機層状化合物によるガスバリア性が発現せず、酸素透過度が高いものとなる。一方、無機層状化合物の割合が上記範囲よりも大きすぎると、ガスバリア層形成用塗料において、樹脂中に無機層状化合物が均一に分散されず、得られるガスバリア層はクラックが発生しやすくなり、酸素透過度が高くなる。
【0120】
また、ガスバリア層中における無機層状化合物(A)と樹脂成分(B)との合計量が占める割合は特に限定されないが、通常は90〜100質量%、特に95〜100質量%の範囲内で設定することが望ましい。前記割合が100%未満の場合、他の成分が含まれていても良い。すなわち、ガスバリア層23には、本発明の効果を損なわない範囲において、例えば紫外線吸収剤、着色剤、酸化防止剤等の各種の添加剤が含まれていても良い。
【0121】
ガスバリア層23の厚みは、特に限定されないが、ガスバリア性の観点から0.1〜1μmであることが好ましく、0.2〜0.7μmであることがより好ましく、0.25〜0.5μmであることが最も好ましい。ガスバリア層の厚みが0.1μm未満であると、ガスバリア性の発現が不十分となることがある。また、厚みが1μmを超えると、ガスバリア層の凝集力が低下するため、デラミネーションが発生しやすくなり、かつ、製造コストが増大するおそれがある。
【0122】
なお、
図2では、ガスバリア層23は1層であるが、必要に応じてガスバリア層の層数を2層以上に設定しても良い。2層以上の場合、互いに隣接していても良いし、他の層が層間に介在していても良い。2層以上の場合は、ガスバリア層の厚みは、これらの合計厚みとする。
【0123】
(1−2)積層体Xの特性
光沢度
積層体Xは、少なくとも一方の表面の光沢度が、50%以下であることが必要であり、40%以下であることがより好ましく、30%以下であることが最も好ましい。光沢度が50%を超えると、表面が艶消し状態であるマット調とすることができず、目的とする高級感や和紙風合いが得られない。
【0124】
本発明の積層体Xの光沢度は、以下のように測定する。すなわち、積層体の表面を、村上色彩技術研究所社製(GROSS METER GM−26 PRO)を用い、JIS K 7105に従って、入射角20°で測定する。また光沢度は、積層体のおもて面又は裏面のいずれであっても良い。従って、例えば本発明のマット調ポリアミド系フィルム及びガスバリア層を含み、両層がそれぞれ最外層(おもて面及び裏面)を構成している積層体にあっては、マット調ポリアミド系フィルム及びガスバリア層のいずれの面から測定しても良い。
【0125】
空隙率
積層体Xの空隙率は0.4〜5%であり、好ましくは0.5〜5%であり、より好ましくは0.6〜4.8%である。空隙率が0.4%未満の場合は、本発明フィルム中の空隙が少なく、透明なフィルムとなり、所望のマット感が得られない。一方、空隙率が5%を超えると、積層体の衝撃強度等の物理的特性が低下し、さらには延伸工程及びその後の二次加工工程で破断が生じやすくなる。
【0126】
本発明の積層体Xの空隙率は、以下のように測定する。まずイオンポリッシング(IP)により積層体Xの断面を作製し、FE−SEMにて断面観察を実施する。次いで、そのSEM画像を、画像解析ソフト(ImageJ.)を用い、画像処理(閾値95設定の自動2値化処理)を施し、積層体Xにおけるポリアミド系フィルム全体の断面(バリア層は除く)の空隙面積の総和を算出し、下記式より空隙率(%)を求める。
空隙率(%)=[(空隙面積の総和(μm
2)/ポリアミド系フィルム全体の断面積(μm
2)]×100
【0127】
ヘイズ
本発明の積層体の透明感を示すヘイズは、25%以上であることが好ましく、中でも30%以上であることが好ましく、さらには45%以上であることがより好ましい。ヘイズが25%未満であると、積層体を構成するフィルムが透明なものとなり、マット調が得られなくなるおそれがある。なお、ヘイズの上限値は特に制限されないが、通常は95%程度とすれば良い。
【0128】
本発明の積層体のヘイズは、以下のように測定する。日本電色社製ヘイズメーター(NDH 2000)を用い、JIS K 7105に従って、ポリアミド系フィルムの全光線透過率(Tt)、拡散透過率(Td)の測定を行い、下記式に基づいてヘイズを計算する。
ヘイズ(%)=(Td/Tt)×100
【0129】
衝撃強度
積層体Xの衝撃強度は、20℃条件下で測定される衝撃強度が0.35J以上であることが必要であり、好ましくは0.4J以上であり、より好ましくは0.45J以上である。衝撃強度が0.35Jより小さいと、例えば積層体Xに対する印刷工程等の二次加工工程で破断が生じ易く、十分な実用性を兼ね備えていないため使用することが困難である。また、積層体を用いて成形された袋体が落下することで破損したり、積層体にクラックが生じたりして、内容物がこぼれる懸念がある。
【0130】
本発明の積層体Xの衝撃強度は、以下のように測定する。フィルムインパクトテスター(東洋精機社製)を使用し、20℃の雰囲気下で、直径7cmのリング状積層体の打ち抜きに要した衝撃強度を測定する。この測定には、重量30kg、直径12.7mm(0.5インチ)のインパクトヘッドを用いる。
【0131】
乾熱収縮率
積層体Xは、マット調ポリアミド系フィルム11の幅方向(TD)に対して45度の方向と135度の方向における乾熱収縮率の差(以下、単に「乾熱収縮率の斜め差」と略することがある。)が2.5%以下である必要があり、2.2%以下であることが好ましく、2.0%以下であることがより好ましい。
【0132】
本発明の積層体Xの「乾熱収縮率の斜め差」は以下のようにして測定する。まず、マット調ポリアミド系フィルム11の幅方向(幅方向(TD))を特定し、幅方向を0度とした時に、0度に対し45度と135度の方向を長さ方向としてそれぞれ短冊状の試験片をカットする。試験片の寸法は幅10mm×長さ100mmとする。これらの点は、前記「熱水収縮率」(
図1参照)と同様にすれば良い。次いで、得られた45度方向の試験片及び135度方向の試験片について、それぞれ160℃雰囲気下で5分間処理した後、温度23℃及び湿度50%RHで2時間放置した後の長さ方向の寸法を測定し、下記式A及びBによって、45度方向の試験片の乾熱収縮率、135度方向の試験片の乾熱収縮率を求める。下記式Cのように、両方向の試験片の乾熱収縮率に基づいて乾熱収縮率の斜め差を算出する。
【0133】
式A)45度方向の乾熱収縮率(%)=[{原長(L0
45)−処理後長(L
45)}/原長(L0
45)]×100
式B)135度方向の乾熱収縮率(%)=[{原長(L0
135)−処理後長(L
135)}/原長(L0
135)]×100
式C)乾熱収縮率の斜め差(%)=|(45度方向の乾熱収縮率)−(135度方向の乾熱収縮率)|
なお、上記式において、L0
45は乾熱処理前の45度方向の試験片の長さ(すなわち100mm)を示し、L
45は乾熱処理後の45度方向の試験片の長さを示し、L0
135は乾熱処理前の135度方向の試験片の長さ(すなわち100mm)を示し、L
135は乾熱処理後の135度方向の試験片の長さを示す。
【0134】
乾熱収縮率の斜め差が2.5%を超えると積層体の寸法安定性が不足する。このため、例えば、積層体に印刷を施す際の色合わせにズレを生じやすくなる。また、積層体を成形して袋体とする場合、雰囲気の温度又は湿度の影響によりひねり又は反りが生じ、平面性に劣る。また、袋体に内容物を充填する際に充填機の掴み部で掴みミスが生じたり、シール不良が生じる。さらには、袋体の歪みに起因し、外部から衝撃を受けた際の破袋率が高まる。
【0135】
酸素透過度
積層体Xの酸素透過度は、温度20℃及び湿度65%RHの条件下で30ml/m
2・day・MPa以下であることが好ましく、その中でも20ml/m
2・day・MPa以下であることがより好ましい。さらには15ml/m
2・day・MPa以下であることがより好ましく、最も好ましくは10ml/m
2・day・MPa以下である。
【0136】
本発明の積層体Xの酸素透過度は、以下のように測定する。得られた積層体Xを用い、モコン社製酸素バリア測定器(OX−TRAN 2/20MH)を用いて、JIS K7126−2法に基づいて、温度20℃、相対湿度65%の雰囲気下における酸素透過度を測定する。なお、このとき、積層体Xのバリア層がセルボディー側となるように測定する。
【0137】
引張強度
また、積層体Xの引張強度については、フィルムの長さ方向(MD)と幅方向(TD)ともに150MPa以上であることが好ましく、中でも170MPa以上であることが好ましく、さらには、200MPa以上であることが好ましい。フィルムの引張強度が150MPa未満であると、食品、医療品、薬品等の包装材として求められる強度が不足するという不都合が生じやすくなる。
【0138】
引張伸度
積層体Xの引張伸度については、フィルムの長さ方向(MD)と幅方向(TD)ともに60%以上であることが好ましく、中でも65%以上であることが好ましく、さらには、70%以上であることが好ましい。フィルムの引張伸度が60%未満であると、引張強度と同様に、食品、医療品、薬品等の包装材として求められる強度が不足するという不都合が生じやすくなる。
【0139】
本発明の積層体の引張強度と引張伸度は、以下のように測定する。オートグラフAG-1(島津製作所社製)を用いて測定する。試験片は幅10mm、長さ150mmの短冊状で、使用セルは100kg、試験速度は500mm/min、チャック間隔は100mmとする。試験片は、積層体のフィルムの長さ方向(MD)と幅方向(TD)についてそれぞれ採取し、それぞれの方向における引張強度と引張伸度を求める。
【0140】
積層体Xの厚み
積層体Xの厚みは、衝撃強度等の物理的特性及び寸法安定性が両立できれば特に限定されないが、10〜30μmが好ましく、特に12〜28μmであることがより好ましい。厚みが10μm未満であると衝撃強度が低くなりやすい。一方、厚みが30μmを超えるとコスト高となるおそれがある。
【0141】
2.積層体Xの製造方法
積層体Xの製造方法としては、例えば上記のようにして得られたポリアミド系フィルムの少なくとも一方の面又はその面上に積層された他の層の面に、無機層状化合物(A)及び樹脂成分(B)を含有するガスバリア層形成用塗料を塗布し、熱処理する工程を含む方法を採用することができる。すなわち、本発明のポリアミド系フィルムに直接的又は間接的にガスバリア層を積層する工程を含む製造方法を採用することができる。
【0142】
間接的にガスバリア層を形成する方法は、他の層を介してポリアミド系フィルムにガスバリア層を形成する方法である。例えば、本発明のマット調ガスバリアポリアミド系フィルム上に予めアンカーコート層を形成し、そのアンカーコート層上にガスバリア層を積層する方法が挙げられる。以下、アンカーヒート層を形成する方法も含めて説明する。
【0143】
アンカーコート層を形成する方法としては、特に限定されないが、アンカーコート層を形成する成分を溶媒に分散又は溶解させた混合液であるアンカーコート剤を用いてコーティング法で形成することが好ましい。前記溶媒としては、水のほか、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン、ソルベッソ、イソホロン、キシレン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等の有機溶剤が例示される。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0144】
アンカーコート層を形成する成分としては、前記で示したように、例えばイソシアネート系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリエチレンイミン系、ポリブタジエン系、ポリオレフィン系、アルキルチタネート系等の少なくとも1種の化合物を用いることができる。
【0145】
アンカーコート剤における上記成分の固形分濃度も限定的でなく、例えば1〜50質量%程度の範囲内において、用いる溶媒の種類等に応じて適宜設定することができる。従って、例えば1〜10質量%の範囲内に設定することもできる。
【0146】
アンカーコート剤によりアンカーコート層を形成する方法としては、特に限定されず、例えばダイレクトグラビア法、リバースグラビア法、マイクログラビア法、2本ロールビートコート法、ボトムフィード3本リバースコート法等のロールコーティング法、ドクターナイフ法、ダイコート法、ディップコート法、バーコーティング法等のほか、これらを組み合わせた方法等を適宜採用することができる。
【0147】
アンカーコート剤を塗布した後、塗膜を乾燥すれば良い。乾燥する方法としては、特に限定されず、自然乾燥又は加熱乾燥のいずれであっても良い。加熱乾燥による加熱方法としては、例えばオーブン中で乾燥させる方法、各種ドライヤー等の乾燥機を使用する方法が挙げられる。乾燥温度は限定的ではないが、通常は30〜260℃程度とすれば良い。また、加熱時間は、加熱温度等にもよるが、一般的には0.5〜60分の範囲内とすれば良い。
【0148】
ガスバリア層の形成は、無機層状化合物(A)及び樹脂成分(B)を含有するガスバリア層形成用塗料を塗布し、熱処理する。
【0149】
次に、無機層状化合物(A)と樹脂成分(B)とを含有するガスバリア層形成用塗料をポリアミド系フィルム又はアンカーコート層の表面に塗布し、熱処理する。
【0150】
ガスバリア層形成用塗料は、無機層状化合物(A)及び樹脂成分(B)に溶媒を配合することによって調製できる。その調製方法は、特に限定されない。配合時の均一性ないし操作容易性の点からは、例えば無機層状化合物(A)を予め膨潤、へき開させた分散液と、樹脂成分(B)を溶解させた液とを混合した後、溶媒を除く方法(方法1)、無機層状化合物(A)を膨潤、へき開させた分散液を樹脂成分(B)に添加し、溶媒を除く方法(方法2)、樹脂成分(B)を溶解させた液に無機層状化合物(A)を加えて膨潤、へき開させた分散液とし、溶媒を除く方法(方法3)、無機層状化合物(A)と樹脂成分(B)とを熱混練する方法(方法4)等が挙げられる。無機層状化合物(A)の大きなアスペクト比が容易に得られるという見地より、前記の方法1〜3が好ましく用いられる。
【0151】
無機層状化合物(A)を膨潤かつ劈開させる分散媒(溶媒)としては、水のほか、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等)、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、シリコーンオイル等の有機溶媒が例示される。この中でも、水、アルコール又は水−アルコール混合物が好ましい。
【0152】
無機層状化合物(A)及び樹脂成分(B)の混合には、ホモジナイザー等の公知の装置を用いることができる。無機層状化合物(A)の分散性の観点から、高圧分散装置を用いて高圧分散処理することが好ましい。
【0153】
ガスバリア層形成用塗料は、塗工性の観点から、ザーンカップ粘度[(株)離合社:ザーンカップ粘度:No.3で測定]が20〜50Sの範囲になるよう調整することが好ましく、25〜45Sの範囲になるよう調整することがより好ましい。前記粘度が20S未満であると、乾燥炉の長さによっては塗料の乾燥が不完全となることがある。また、前記粘度が50Sを超えると、塗工時において塗料のレベリング性が低下する等の問題が起こり、塗工性に支障を来すおそれがある。
【0154】
また、ガスバリア層形成用塗料の固形分濃度は、例えば塗工装置、乾燥装置又は加熱装置の仕様等によって適宜変更され得るが、通常は2〜15質量%の範囲内とし、特に4〜8質量%とすることが好ましく、さらには5〜7質量%とすることがより好ましい。固形分濃度が低すぎる場合、ガスバリア性を発現するのに十分な厚みの層を形成することが困難となり、その後の乾燥工程においても長時間を要することがある。他方、固形分濃度が高すぎる場合は、均一な塗料を得にくく、塗工性に問題を生じ易い。
【0155】
前記したガスバリア層形成用塗料を用いて塗工する方法は、特に限定されず、公知の方法を適宜採用することができる。例えば、ダイレクトグラビア法、リバースグラビア法、マイクログラビア法、2本ロールビートコート法、ボトムフィード3本リバースコート法、ドクターナイフ法、ダイコート法、ディップコート法、バーコーティング法等のほか、これらを組み合わせた方法等を採用することができる。
【0156】
ガスバリア層形成用塗料を塗布した後、乾燥することにより溶媒を除去すれば良い。乾燥温度は、限定的ではないが、通常は30〜160℃程度の範囲内で設定することができる。乾燥時間は、乾燥温度等により適宜設定できるが、一般的には0.5〜10分の範囲内とすれば良い。乾燥方法は、例えばオーブン中で乾燥させる方法、各種ドライヤー等の乾燥機を使用する方法等の公知の方法を採用することができる。このようにしてガスバリア層を形成することができる。
【0157】
その他のガスバリア層の形成方法としては、未延伸フィルムにコーティングし、90〜120℃の温度で乾燥させることにより、溶媒を除去した後、同時二軸延伸又は逐次二軸延伸を行う方法を採用することもできる。すなわち、いわゆるインラインコーティングによる方法によってガスバリア層の形成・積層を好適に実施することができる。
【0158】
また、溶媒を除去した後、さらに110〜220℃で熱エージングすることができる。これにより、耐水性(耐水環境テスト後のバリア性)等をより高めることができる。エージング時間は、上記温度範囲を維持できる限りは制限されないが、例えば熱風乾燥機のような熱媒接触による方法等の場合は、1秒〜100分程度の範囲内で適宜設定することができる。熱源についても、特に限定的でなく、例えば熱ロール接触、熱媒接触(空気、オイル等)、赤外線加熱、マイクロ波加熱等の種々の方法が適用できる。
【0159】
このようにして得られた積層体Xにおいては、必要に応じて本発明フィルム面及び/又はバリア層の面上にさらに別の層を適宜積層することができる。このような積層体も本発明に包含される。
【0160】
3,積層体の使用
本発明の積層体は、各種の用途に用いることができるが、特に包装材として好適に用いることができる。例えば、飲食品、果物、ジュ−ス、飲料水、酒、調理食品、水産練り製品、冷凍食品、肉製品、煮物、餅、液体ス−プ、調味料、その他の各種の飲食料品のほか、医療品(医療機器)、液体洗剤、化粧品、化成品、機械部品、電子部品等の各種の内容物を包装することができる。
【0161】
包装材の形態も特に限定されず、例えば包装用袋として使用できる。包装用袋としては、例えばピロー袋、ガゼット袋、スタンド袋等の各種の袋体として用いることができる。袋体の成形方法も、公知の方法に従って実施すれば良い。
【0162】
なお、積層体Xにおいては、積層体を包装袋に加工する際に、ポリアミド系フィルム11が外側(すなわち、バリア層が内側)となるように、配置することが好ましい。
【実施例】
【0163】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0164】
<第1発明の実施例>
表1〜表3に示すように、各実施例及び比較例の試料を作製した。その作製方法及び評価方法を以下に示す。
【0165】
【表1】
【0166】
【表2】
【0167】
【表3】
【0168】
使用原料の調製
[シリカ含有マスターチップ(M1)]
容積30リットルのオートクレーブに、10kgのε−カプロラクタムと、1kgの水と、500gのシリカ(富士シリシア化学社製、製品名:サイリシア310P、平均粒径2.7μm)を投入した後、100℃に保持し、その温度で反応系内が均一になるまで撹拌した。引き続き、撹拌しながら260℃に加熱し、1.5MPaの圧力を1時間維持し、さらに1時間かけて常圧まで放圧し、さらに1時間重合した。重合が終了した時点で、上記反応生成物をストランド状に払い出し、冷却、固化後、切断して、ポリアミド樹脂からなるペレットを得た。次いで、得られたペレットを95℃の熱水で8時間精錬し、未反応モノマー等を除去した後、乾燥した。得られたポリアミド樹脂は、相対粘度2.7であり、シリカ含有量5.2質量%であった。
【0169】
[シリカ含有マスターチップ(M2)]
容積30リットルのオートクレーブに、10kgのε−カプロラクタムと、1kgの水と、1.5kgのシリカ(富士シリシア化学社製、製品名:サイリシア310P、平均粒径2.7μm)を投入した後、100℃に保持して、その温度で反応系内が均一になるまで撹拌した。引き続き、撹拌しながら260℃に加熱し、1.5MPaの圧力を1時間維持し、さらに1時間かけて常圧まで放圧し、さらに1.5時間重合した。重合が終了した時点で、上記反応生成物をストランド状に払い出し、冷却、固化後、切断して、ポリアミド樹脂からなるペレットを得た。次いで、このペレットを95℃の熱水で8時間精錬し、未反応モノマー等を除去した後、乾燥した。得られたポリアミド樹脂は、相対粘度2.6であり、シリカ含有量15.6質量%であった。
【0170】
[シリカ含有マスターチップ(M3)]
ナイロン66樹脂(ユニチカ社製、商品名:A226)94.8質量部と、シリカ(富士シリシア化学社製、製品名:サイリシア310P、平均粒径2.7μm)5.2質量部とを溶融混練してマスターチップ(M3)を作製した。
【0171】
[炭酸カルシウム含有マスターチップ(M4)]
ナイロン6樹脂(ユニチカ社製、商品名:A1030BRF−BA)94.8質量部と、炭酸カルシウム(白石カルシウム社製、商品名:PO−220B−10、平均粒径2.2μm)5.2質量部とを溶融混練してマスターチップ(M4)を作製した。
【0172】
実施例1
ナイロン6樹脂(ユニチカ社製、商品名:A1030BRF、相対粘度3.1)に、表1で示すシリカ含有量になるように、シリカ含有マスターチップM1を混合し、シリンダ温度260℃に設定した単軸押出機に供給し、Tダイより押出し、設定温度20℃の冷却ロールに接触させ、厚さ150μmの未延伸シートを得た。得られた未延伸シートの水分率が3.5質量%となるように水温を65℃に調整した温水槽に未延伸シートを浸漬した。次に、未延伸シートに230℃の熱風を1秒間吹き付けることにより予熱を行い、温度200℃に調整したテンター式の同時2軸延伸機で長さ方向(MD)に3倍、幅方向(TD)に3.3倍延伸した。続いて、この延伸フィルムに210℃の熱風を3秒間吹き付けながら熱固定処理(両方向とも弛緩率0%)を行い、続いて幅方向(TD)のみを弛緩率5%で弛緩しつつ210℃の熱風を3秒間吹き付けながら弛緩熱処理した。その後、冷却を行い、厚さ15μmのポリアミド系フィルムを得た。
【0173】
実施例2〜10及び比較例4〜11
未延伸シートの水分率、予熱温度、延伸温度又は熱固定温度を表1又は表3に示す値に変更したほかは、実施例1と同様にして厚さ15μmのポリアミド系フィルムを得た。
【0174】
実施例11〜13及び比較例15
表4又は表6で示すシリカ含有量になるように、シリカ含有マスターチップM1の混合量を変更した以外は、実施例2と同様にして厚さ15μmのポリアミド系フィルムを得た。
【0175】
実施例14〜16及び比較例16
シリカ含有マスターチップM2を用い、表4〜表6に示すシリカ含有量となるように、シリカ含有マスターチップM2の混合量を変更した以外は、実施例2と同様にして厚さ15μmのポリアミド系フィルムを得た。
【0176】
比較例1
シリカ含有マスターチップM1を混合しなかった以外は、実施例2と同様にして厚さ15μmのポリアミド系フィルムを得た。
【0177】
実施例17〜19及び比較例12〜14
未延伸シートの水分率又は予熱温度を表2又は表3に示すように変更したほかは、実施例13と同様にして厚さ15μmのポリアミド系フィルムを得た。
【0178】
実施例20
未延伸シートの厚みを250μmとなるように変更した以外は、実施例2と同様に行い、厚さ25μmのポリアミド系フィルムを得た。
【0179】
実施例21
ナイロン66樹脂(ユニチカ社製、商品名:A226)に、表1〜3で示すシリカ含有量になるように、シリカ含有マスターチップM3を混合し、シリンダ温度290℃に設定した単軸押出機に供給し、Tダイより押出し、設定温度20℃の冷却ロールに接触させて、厚さ150μmの未延伸シートを得た。得られた未延伸シートの予熱温度、延伸温度、熱固定温度、弛緩熱処理温度を表2に示す値に変更した以外は、実施例2と同様にして厚さ15μmのポリアミド系フィルムを得た。
【0180】
実施例22
表5で示すシリカ含有量になるように、シリカ含有マスターチップM1の混合量を変更した以外は、実施例21と同様にして厚さ15μmのポリアミド系フィルムを得た。
【0181】
実施例23〜26及び比較例17〜19
未延伸シートの厚み又は延伸倍率を表2又は表3の値となるように変更した以外は、実施例2と同様に行い、厚さ15μmのポリアミド系フィルムを得た。
【0182】
実施例27〜30
弛緩率又は弛緩熱処理温度を表2に示す値に変更したほかは、実施例2と同様にして厚さ15μmのポリアミド系フィルムを得た。
【0183】
実施例31
ナイロン6樹脂(ユニチカ社製、商品名:A1030BRF、相対粘度3.1)に、表5で示すシリカ含有量になるようにシリカ含有マスターチップM1を混合し、シリンダ温度260℃に設定した単軸押出機に供給し、Tダイより押出し、設定温度20℃の冷却ロールに接触させて、厚さ150μmの未延伸シートを得た。得られた未延伸シートが水分率3.5質量%となるように水温を65℃に調整した温水槽に浸漬した。
次に、この未延伸シートを周速の異なる加熱ローラ群からなる縦延伸機により、温度55℃及び延伸倍率3.0で長さ方向(MD)に延伸した。次に、この縦延伸フィルムをテンターに導入し、予熱部にて60℃の熱風を1秒間吹き付けることにより予熱を行い、温度80℃に調整した延伸部にて延伸倍率3.3倍で幅方向(TD)に延伸した。続いて、この延伸フィルムに210℃の熱風を3秒間吹き付けながら熱固定処理(両方向とも弛緩率0%)を行い、続いて幅方向(TD)のみを弛緩率3%で弛緩しつつ210℃の熱風を3秒間吹き付けながら弛緩熱処理した。その後、冷却を行い、厚さ1.5μmのポリアミド系フィルムを得た。
【0184】
実施例32
表5で示す炭酸カルシウム含有量になるように、炭酸カルシウム含有マスターチップM4の混合量を変更した以外は、実施例2と同様にして厚さ15μmのポリアミド系フィルムを得た。
【0185】
比較例2
未延伸シートを温水槽に浸漬することなく、そのまま延伸を行った以外は、実施例1と同様に行い、厚さ15μmのポリアミド系フィルムを得た。
【0186】
比較例3
未延伸シートの厚みを250μmとなるように変更した以外は、比較例2と同様に行い、厚さ25μmのポリアミド系フィルムを得た。
【0187】
試験例1
実施例1〜32及び比較例1〜19で得られたフィルムについて、光沢度、空隙率、衝撃強度、ヘイズ、熱水収縮率の斜め差、引張強度、引張伸度及び延伸性を調べた。その結果を表4〜表6に示す。なお、各物性の測定のほか、フィルム中の無機粒子含有量及び水分量の測定は、それぞれ以下のとおりに実施した。
【0188】
(1)光沢度(%)
前記の方法で測定、算出した。
(2)空隙率(%)
前記の方法で測定、算出した。
(3)衝撃強度(J)
前記の方法で測定、算出した。
(4)ヘイズ
前記の方法で測定、算出した。
(5)熱水収縮率の斜め差
前記の方法で測定、算出した。
(6)引張強度及び引張伸度
前記の方法で測定、算出した。
(7)延伸性
各例で示す製造条件にて24時間連続して製造を行った際の生産性を評価した。その際の延伸時において生じたフィルムの破断回数が1回以下の場合は「○」、破断回数が2〜4回の場合を「△」、破断回数が5回以上の場合を「×」と評価した。評価「×」の条件については、操業性が非常に低く、製品を安定的に生産することは困難である。なお、製造開始1時間の間に破断回数が5回を超えた場合は、フィルムを巻き取ることが困難であるため、延伸を中止した。
(8)フィルム中の無機粒子(シリカ及び炭酸カルシウム)の含有量
得られたフィルムをルツボに精秤し、500℃に保持した電気炉で15時間焼却処理した後の残渣を無機粒子灰分として、次式に従って無機粒子の含有量を求めた。
無機粒子の含有量(質量%)=(無機粒子灰分質量(g)/焼却処理前のフィルムの全質量(g))×100
(9)製造方法における水分率(%)
吸水後の未延伸シートから切り出したサンプル片の質量Wと、それを減圧下80℃で24時間乾燥した後の質量Wdから次式により求めた。
水分率(%)={(W−Wd)/W}×100
【0189】
【表4】
【0190】
【表5】
【0191】
【表6】
【0192】
本発明の製造方法で得られた実施例1〜32のポリアミド系フィルムは、本発明で規定する特性値(a)〜(d)の全てを満足することがわかる。すなわち、これらのポリアミド系フィルムは、表面が艶消し状態であるマット調を有し、かつ、衝撃強度、引張強度、伸度等の機械的特性にも優れていた。また、延伸性良くフィルムを得ることができた。
【0193】
これらの中でも、同時二軸延伸法により得られた実施例1〜25、実施例27〜30及び実施例32のポリアミド系フィルムは、本発明で規定する特性値(熱水収縮率の差が2.5%以下であること)をも満足しており、より高い寸法安定性を発揮できることがわかる。
【0194】
一方、シリカを含有しないポリアミド樹脂を出発材料として用いた比較例1のポリアミド系フィルムは、フィルム表面に突起を有しておらず、またフィルム内部に空隙を有していないものであったため、光沢度が高く、ヘイズが低く、マット調を有するものではなかった。
【0195】
比較例2〜3では未延伸フィルムに吸水処理を施さなかったため、また比較例4及び比較例12では延伸前の未延伸フィルムの水分率が低すぎたため、いずれも延伸応力が高くなった。このため、得られたポリアミド系フィルムは、フィルム内部の空隙が多くなりすぎ、空隙率が高いものとなり、衝撃強度が低いものとなった。また、機械的特性にも劣り、熱水収縮率斜め差も大きくなり、さらには延伸性も悪かった。
【0196】
比較例5及び比較例13では、延伸前の未延伸フィルムの水分率が高すぎるため、延伸応力が低くなり過ぎた。その結果、無機粒子とポリアミド樹脂間の剥離が生じ難くなり、得られたポリアミド系フィルムは、フィルム中の空隙及びフィルム表面の突起が非常に少ないものとなり、光沢度及びヘイズに劣るものであった。
【0197】
比較例6及び比較例14では予熱温度が低すぎるため、また比較例8では延伸温度が低すぎたため、いずれも延伸に必要とするフィルム温度が得られず、延伸応力が高くなった。このため、得られたポリアミド系フィルムは、フィルム内部の空隙が過度に多く、空隙率が高いものとなり、衝撃強度が低かった。また、機械的特性にも劣り、熱水収縮率斜め差も大きくなり、さらには延伸性も悪かった。
【0198】
比較例7では、予熱温度が高過ぎるため、吸水した水分の蒸発速度が過度に速くなり、このため、フィルム温度が高くなりすぎて、ドロー延伸となった。このため、得られたポリアミド系フィルムは、分子配向が不十分となり、衝撃強度、引張強度、引張伸度等に劣るものであった。
【0199】
比較例9では、延伸温度が高過ぎるため、フィルム温度が高くなりすぎ、ドロー延伸となった。このため、得られたポリアミド系フィルムは、分子配向が不十分となり、衝撃強度、引張強度、引張伸度等に劣っていた。
【0200】
比較例10では、熱固定処理温度が低すぎたため、得られたポリアミド系フィルムは、結晶化が不十分となり、衝撃強度に劣るものとなった。また、フィルムの熱水収縮率の斜め差が大きくなり、寸法安定性に劣っていた。
【0201】
比較例11では、熱固定処理温度が高過ぎたため、フィルムの熱劣化が発生した。このため、得られたポリアミド系フィルムは、衝撃強度、引張強度、引張伸度等に劣っていた。
【0202】
比較例15では、シリカの含有量が少ないポリアミド樹脂を用いたため、得られたポリアミド系フィルムは、フィルム表面に突起を有しておらず、またフィルム内部に空隙を有していないものであったため、光沢度が高く、ヘイズが低く、マット調を呈していなかった。
【0203】
比較例16では、シリカの含有量が多いポリアミド樹脂を用いたため、得られたポリアミド系フィルムは、空隙率が大きくなり、衝撃強度が低くなった。さらには、引張強度及び引張伸度も低く、延伸性も悪かった。
【0204】
比較例17及び比較例19では、未延伸フィルムを延伸する際の延伸倍率が低すぎたため、十分に延伸されず、フィルム中に生じる空隙が小さいものとなり、空隙率がかなり低くなった。その結果、衝撃強度が低く、引張強度、引張伸度等の機械的特性にも劣っていた。
【0205】
比較例18では、未延伸フィルムを延伸する際の延伸倍率が高過ぎたため、製造開始1時間の間に破断回数が5回を超えた。このため、延伸を中止した。
【0206】
<第2発明の実施例>
表7〜表9に示すように、各実施例及び比較例の試料を作製した。その作製方法及び評価方法を以下に示す。
【0207】
【表7】
【0208】
【表8】
【0209】
【表9】
【0210】
使用原料の調製
[シリカ含有マスターチップ(M1)]
容積30リットルのオートクレーブに、10kgのε−カプロラクタムと、1kgの水と、500gのシリカ(富士シリシア化学社製、製品名:サイリシア310P、平均粒径2.7μm)を投入し、100℃に保持して、その温度で反応系内が均一になるまで撹拌した。引き続き、撹拌しながら260℃に加熱し、1.5MPaの圧力を1時間維持し、さらに1時間かけて常圧まで放圧し、さらに1時間重合した。重合が終了した時点で、上記反応生成物をストランド状に払い出し、冷却、固化後、切断し、ポリアミド樹脂からなるペレットを得た。次いで、このペレットを95℃の乾熱で8時間精錬し、未反応モノマー等を除去した後、乾燥した。得られたポリアミド樹脂の相対粘度は2.7であり、シリカ含有量は5.2質量%であった。
【0211】
[シリカ含有マスターチップ(M2)]
容積30リットルのオートクレーブに、10kgのε−カプロラクタムと、1kgの水と、1.5kgのシリカ(富士シリシア化学社製、製品名:サイリシア310P、平均粒径2.7μm)を投入し、100℃に保持して、その温度で反応系内が均一になるまで撹拌した。引き続き、撹拌しながら260℃に加熱し、1.5MPaの圧力を1時間維持し、さらに1時間かけて常圧まで放圧し、さらに1.5時間重合した。重合が終了した時点で、上記反応生成物をストランド状に払い出し、冷却、固化後、切断し、ポリアミド樹脂からなるペレットを得た。次いで、このペレットを95℃の乾熱で8時間精錬し、未反応モノマー等を除去した後、乾燥した。得られたポリアミド樹脂の相対粘度は2.6であり、シリカ含有量は15.6質量%であった。
【0212】
[アンカーコート剤]
東洋モートン社製EL−510−1−17K、CAT−87RT(EL−510−1−17K/CAT−87RT=5/1(質量比))を、溶剤(トルエン/MEK/酢酸イソブチル=5/4/1(質量比))で、濃度が4質量%となるよう調整したアンカーコート剤を使用した。
【0213】
[ガスバリア層形成用塗料(C)]
[塗工液C−1]
分散釜に、イオン交換水(0.7μS/cm以下)と、樹脂成分(B)として、ビニルアルコール分率が97モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(クラレ社製エクセバールRS−2117、ケン化度97.5〜99.0%,重合度1700)とを投入し、低速攪拌(800rpm、周速度2m/分)下で95℃に昇温し、同温度で30分間攪拌してポリビニルアルコールを溶解させた後、60℃に冷却し、9.0質量%のポリビニルアルコール水溶液を得た。このポリビニルアルコール水溶液に、イオン交換水及び2−プロパノールを混合したアルコール水溶液(イオン交換水/2−プロパノール=4/1(質量比))を10分間かけて添加し、高速攪拌(1600rpm,周速度4m/分)に切り替え20分間攪拌し、6.4質量%のポリビニルアルコール水溶液を得た。
得られたポリビニルアルコール水溶液に、無機層状化合物(モンモリロナイト、クニミネ工業社製クニピアRG)を徐々に加え、添加終了後、60℃で60分間高速攪拌(1600rpm、周速度4m/分)を続けた。その後、さらに2−プロパノールを10分間かけて添加し、その混合液を室温まで冷却し、C−1準備液を得た。
この準備液に、非イオン性界面活性剤(東レ・ダウコーニング社製SH3746)0.01質量%を添加し、高圧分散装置(マイクロフルイダイザー社製 超高圧ホモジナイザー)を用いて、1000kgf/cm
2の条件で処理した。次いで、最終固形分濃度が5.0質量%になるように、イオン交換水と2−プロパノールを混合したアルコール水溶液(イオン交換水/2−プロパノール=1/1.2(質量比))を10分かけて添加し、20分間高速攪拌(1600rpm、周速度4m/分)して塗工液C−1を得た。得られた塗工液C−1における、無機層状化合物と樹脂との体積比(無機層状化合物/樹脂)は、10/90である。
【0214】
[塗工液C−2]
無機層状化合物の添加量を変更して、体積比(無機層状化合物/樹脂)が3/97になるように調整した以外は、塗工液C−1の作液方法と同様にして塗工液C−2を作製した。
【0215】
[塗工液C−3]
無機層状化合物の添加量を変更して、体積比(無機層状化合物/樹脂)が8/92になるように調整した以外は、塗工液C−1の作液方法と同様にして塗工液C−3を作製した。
【0216】
[塗工液C−4]
無機層状化合物の添加量を変更して、体積比(無機層状化合物/樹脂)が25/75になるように調整した以外は、塗工液C−1の作液方法と同様にして塗工液C−4を作製した。
【0217】
[塗工液C−5]
無機層状化合物の添加量を変更して、体積比(無機層状化合物/樹脂)が50/50になるように調整した以外は、塗工液C−1の作液方法と同様にして塗工液C−5を作製した。
【0218】
[塗工液C−6]
無機層状化合物の添加量を変更して、体積比(無機層状化合物/樹脂)が2/98になるように調整した以外は、塗工液C−1の作液方法と同様にして塗工液C−5を作製した。
【0219】
[塗工液C−7]
樹脂成分(B)として、エクセバールRS−2117に変えて、ビニルアルコール分率68モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(クラレ社製EVOH−F)を用いた以外は、塗工液C−1の作液方法と同様にして塗工液C−7を作製した。
【0220】
[塗工液C−8]
無機層状化合物を添加せず、アルコール水溶液の添加量を変更して体積比(無機層状化合物/樹脂)が0/100になるように調整した以外は塗工液C−1の作液方法と同様にして、塗工液C−8を作製した。
【0221】
[塗工液C−9]
無機層状化合物の添加量を変更し、体積比(無機層状化合物/樹脂)が95/5になるように調整した以外は、塗工液C−1の作液方法と同様にして塗工液C−9を作製した。
【0222】
実施例33
ナイロン6樹脂(ユニチカ社製、商品名:A1030BRF、相対粘度3.1)に、表1で示すシリカ含有量になるように、シリカ含有マスターチップM1を混合し、シリンダ温度260℃に設定した単軸押出機に供給し、Tダイより押出し、設定温度20℃の冷却ロールに接触させて、厚さ150μmの未延伸シートを得た。得られた未延伸シートが水分率3.5質量%となるように水温を65℃に調整した温水槽に浸漬した。次に、未延伸シートに230℃の熱風を1秒間吹き付けることにより予熱を行い、温度200℃に調整したテンター式の同時2軸延伸機で長さ方向(MD)に3倍、幅方向(TD)に3.3倍延伸した。続いて、この延伸フィルムに210℃の熱風を3秒間吹き付けながら熱固定処理(両方向とも弛緩率0%)を行い、続いて幅方向(TD)のみを弛緩率5%で弛緩しつつ210℃の熱風を3秒間吹き付けながら弛緩熱処理した。その後、冷却を行い、厚さ15μmのポリアミド系フィルム(X)を得た。
得られたポリアミド系フィルム(X)の表面上にアンカーコート剤を、バーコーターNo3を用いて塗布し、熱風乾燥機にて80℃で1分間乾燥し、アンカーコート層を形成した。このアンカーコート層の乾燥厚みは0.03μmであった。
上記アンカーコート層の上に、ガスバリア層形成用塗料(塗工液C−1)をグラビア塗工(ヒラノテクシード社製テストコーター、マイクログラビア塗工法、塗工速度5m/分、乾燥温度80℃)し、ガスバリア層(II)を形成し、積層体を得た。なお、ガスバリア層(II)の膜厚(乾燥厚み)は0.3μmであった。
【0223】
実施例34〜42及び比較例23〜30
未延伸シートの水分率、予熱温度、延伸温度又は熱固定温度を表7又は表9に示す値に変更した以外は、実施例33と同様にして積層体を作製した。
【0224】
実施例43〜45
表10で示すシリカ含有量になるように、シリカ含有マスターチップM1の混合量を変更した以外は、実施例34と同様にして積層体を作製した。
【0225】
実施例46〜48及び比較例31
シリカ含有マスターチップM2を用い、表10〜表12に示すシリカ含有量となるように、シリカ含有マスターチップM2の混合量を変更した以外は、実施例34と同様にして積層体を作製した。
【0226】
実施例49
未延伸シートの厚みを250μmとなるように変更した以外は、実施例34と同様に行い、厚さ25μmのポリアミド系フィルム(X)、膜厚0.03μmのアンカーコート層、膜厚0.3μmのガスバリア層(II)からなる積層体を作製した。
【0227】
実施例54〜64
表8で示すガスバリア層形成用塗料及びガスバリア層(II)の膜厚(乾燥厚み)に変更した以外は、実施例34と同様にして積層体を作製した。
【0228】
比較例20
シリカ含有マスターチップM1を混合しなかった以外は、実施例34と同様にして積層体を作製した。
【0229】
比較例21
未延伸シートを温水槽に浸漬することなく、延伸を行った以外は、実施例34と同様にして積層体を作製した。
【0230】
比較例22
未延伸シートの厚みを250μmとなるように変更した以外は、比較例2と同様にして積層体を作製した。
【0231】
実施例50〜53及び比較例32〜34
未延伸シートの厚み又は延伸倍率を表8〜9に示す値となるように変更した以外は、実施例34と同様して、積層体を作製した。
【0232】
試験例2
実施例33〜64及び比較例20〜34で得られた積層体について、光沢度、空隙率、衝撃強度、ヘイズ、乾熱収縮率の斜め差、引張強度、引張伸度及び延伸性を調べた。その結果を表10〜表12に示す。なお、各物性の測定のほか、フィルム中の無機粒子含有量及び水分量の測定は、それぞれ以下のとおりに実施した。
【0233】
(1)光沢度(%)
得られた積層体を用い、その積層体のガスバリア層側の表面を前記の方法で測定し、算出した。
(2)空隙率(%)
得られた積層体を用い、前記の方法で測定、算出した。
(3)衝撃強度(J)
得られた積層体を用い、前記の方法で測定、算出した。
(4)ヘイズ
得られた積層体を用い、前記の方法で測定、算出した。
(5)乾熱収縮率の斜め差
得られた積層体を用い、前記の方法で測定、算出した。
(6)酸素透過度
得られた積層体を用い、前記の方法で測定、算出した。
(7)引張強度及び引張伸度
得られた積層体を用い、前記の方法で測定、算出した。
(8)延伸性
マット調ポリアミド系フィルムを、各例で示す製造条件にて24時間連続して製造を行った際の生産性を評価した。その際の延伸時に生じたフィルムの破断回数が1回以下の場合は「○」、切断回数が2〜4回の場合を「△」、切断回数が5回以上の場合を「×」と評価した。評価「×」の条件については、操業性が非常に低く、製品の安定生産は困難である。なお、製造開始1時間の間に破断回数が5回を超えた場合は、フィルムを巻き取ることが困難であるため、延伸を中止した。
(9)フィルム中の無機粒子の含有量
得られたフィルムをルツボに精秤し、500℃に保持した電気炉で15時間焼却処理した後の残渣を無機粒子灰分として、次式に従って無機粒子の含有量を求めた。
無機粒子の含有量(質量%)=(無機粒子灰分質量(g)/焼却処理前のフィルムの全質量(g))×100
(10)製造方法における水分率(%)
吸水後の未延伸シートから切り出したサンプル片の質量Wと、それを減圧下80℃で24時間乾燥した後の質量Wdから次式により求めた。
水分率(%)=[(W−Wd)/W]×100
(11)厚み測定
得られた積層体を用い、0.5μm以上の厚みは、市販のデジタル厚み計(接触式厚み計、商品名:超高精度デシマイクロヘッド MH−15M、日本光学社製)により測定した。一方、0.5μm未満の厚みは、重量分析法(一定面積のフィルムの重量測定値をその面積で除し、更に組成物の比重で除した)により測定した。
【0234】
【表10】
【0235】
【表11】
【0236】
【表12】
【0237】
実施例33〜64においては、ポリアミド系フィルムが特定の製造条件で得られたものであったため、得られた積層体は、本発明で規定する特性値(a)〜(e)の全てを満足するものであり、表面が艶消し状態であるマット調を有し、かつ、衝撃強度、寸法安定性及び酸素バリア性ともに優れていた。また、引張強度、引張伸度等の機械的特性にも優れていた。また、延伸性良く得ることができた。
【0238】
その中でもより最適な延伸倍率で得られたポリアミド系フィルムを含む実施例33〜52及び実施例54〜64の積層体は、本発明で規定する特性値(乾熱収縮率の差が2.5%以下であること)をも満足するものであり、より高い寸法安定性を発揮できることがわかる。
【0239】
一方、比較例20では、シリカを含有しないポリアミド樹脂を用いたため、得られた積層体は光沢度が高く、所望のマット調が得られなかった。
【0240】
比較例21〜22ではポリアミド系フィルムを得る際に未延伸フィルムに吸水処理を施さなかったため、また比較例23ではポリアミド系フィルムを得る際に未延伸フィルムの水分率が低すぎるため、いずれも延伸応力が高くなった。このため、得られた積層体は、フィルム内部の空隙が多くなりすぎ、空隙率が高いものとなり、衝撃強度が低かった。また、機械的特性にも劣り、乾熱収縮率斜め差も大きくなり、さらには延伸性も悪かった。
【0241】
比較例24では、延伸前の未延伸フィルムの水分率が高すぎたため、延伸応力が低くなり過ぎた。このため、無機粒子とポリアミド樹脂間の剥離が生じ難くなり、ポリアミド系フィルムは、フィルム中の空隙及びフィルム表面の突起が非常に少ないものとなり、得られた積層体では所望の光沢度及びヘイズが得られなかった。
【0242】
比較例25ではポリアミド系フィルムを得る際の予熱温度が低すぎたため、比較例27ではポリアミド系フィルムを得る際の延伸温度が低すぎたため、いずれも延伸に必要とするフィルム温度が得られず、延伸応力が高くなった。このため、得られた積層体は、フィルム内部の空隙が多くなりすぎ、空隙率が高いものとなり、衝撃強度が低いものとなった。また、機械的特性にも劣り、乾熱収縮率斜め差も大きくなり、さらにはフィルム製造時の延伸性も悪かった。
【0243】
比較例26では、ポリアミド系フィルムを得る際の予熱温度が高過ぎたため、吸水した水分の蒸発速度が速くなりすぎた結果、フィルム温度が高くなりすぎて、ドロー延伸となった。このため、得られた積層体は、分子配向が不十分となり、衝撃強度、引張強度及び引張伸度に劣っていた。
【0244】
比較例28では、ポリアミド系フィルムを得る際の延伸温度が高過ぎたため、フィルム温度が高くなりすぎて、ドロー延伸となった。このため、得られた積層体は、分子配向が不十分となり、衝撃強度、引張強度及び引張伸度に劣るものであった
【0245】
比較例29では、熱固定処理温度が低すぎたため、ポリアミド系フィルムは、結晶化が不十分となり、得られた積層体は、衝撃強度に劣るものとなった。また、乾熱収縮率の斜め差が大きくなり、寸法安定性にも劣っていた。
【0246】
比較例30では、熱固定処理温度が高過ぎたため、フィルムの熱劣化が発生した。このため、得られた積層体は、衝撃強度、引張強度及び引張伸度に劣っていた。
【0247】
比較例31では、ポリアミド系フィルムとして、シリカの含有量が多いポリアミド樹脂を用いたため、得られた積層体は、空隙率が大きくなり、衝撃強度の低いものとなった。さらには、引張強度及び引張伸度も低く、延伸性も悪かった。
【0248】
比較例32及び比較例34では、未延伸フィルムを延伸する際の延伸倍率が低すぎたため、十分に延伸されず、フィルム中に生じる空隙がかなり小さくなるため、得られた積層体は空隙率が低くなった。このため、衝撃強度、引張強度、引張伸度等の機械的特性にも劣っていた。
【0249】
比較例33では、未延伸フィルムを延伸する際の延伸倍率が高過ぎたため、製造開始1時間の間に破断回数が5回を超えた。このため、延伸を中止した。
【要約】
【課題】無機粒子を含有する延伸フィルムであって、所望のヘイズ特性及び低光沢性とともに、無機粒子を含むにもかかわらず、より優れた物理的特性を兼ね備えたマット調ポリアミド系フィルム及びその製造方法を提供するを提供する。
【解決手段】無機粒子及びポリアミド樹脂を含む樹脂組成物からなるポリアミド系フィルムであって、(a)光沢度が50%以下、(b)空隙率が0.4〜5%、及び(c)温度20℃の条件下で測定される衝撃強度が0.35J以上、をすべて満たすマット調ポリアミド系フィルムに係る。
【選択図】なし