(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6178998
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】鋼矢板の端面位置修正装置
(51)【国際特許分類】
E02D 5/04 20060101AFI20170807BHJP
【FI】
E02D5/04
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-173021(P2013-173021)
(22)【出願日】2013年8月23日
(65)【公開番号】特開2015-40447(P2015-40447A)
(43)【公開日】2015年3月2日
【審査請求日】2016年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】591063202
【氏名又は名称】産業振興株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100154461
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 由布
(72)【発明者】
【氏名】赤田 英雄
(72)【発明者】
【氏名】中村 博
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 誠也
【審査官】
苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭57−181518(JP,U)
【文献】
実開昭60−162518(JP,U)
【文献】
実開昭60−12548(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/00〜 5/20
B65G 57/00〜 61/00
B65H 1/00〜 3/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の鋼矢板を重ねた鋼矢板の束を支持する受台を、鋼矢板との摩擦係数が0.5よりも大きい材料により構成し、この受台の一端に受台の長手方向に移動する押し台車を配置し、この押し台車の前面に、受台上の各鋼矢板の端面の幅方向の中央部を押して端面位置を修正する端面押圧部を形成したことを特徴とする鋼矢板の端面位置修正装置。
【請求項2】
前記端面押圧部が、押し台車の前面を階段状に形成し、鋼矢板の端面を階段状にずらすものであることを特徴とする請求項1記載の鋼矢板の端面位置修正装置。
【請求項3】
前記端面押圧具が、押し台車の前面を垂直面に形成し、鋼矢板の端面を合わせるものであることを特徴とする請求項1記載の鋼矢板の端面位置修正装置。
【請求項4】
前記押し台車の推力を、受台上に支持された鋼矢板の束の総重量の60%以上としたことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の鋼矢板の端面位置修正装置。
【請求項5】
前記押し台車を、その車輪がガイドチャンネル内を走行する構造として浮き上がりを防止したことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の鋼矢板の端面位置修正装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、束になった鋼矢板の端面位置を修正するために用いられる鋼矢板の端面位置修正装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼矢板は、港湾、護岸、土留め、締切の連壁材として土中に並べて打ち込まれる形鋼であり、
図1に示すように幅が広く高さが低いU字型やハット型の断面形状を持つ長尺の重量材である。左右両端部に耳と呼ばれる継手があり、隣接する鋼矢板の継手どうしを嵌合させて使用される。(特許文献1)
【0003】
図2はハット型と呼ばれる鋼矢板の断面形状を示す図であり、中央部をウェブ1、その両側をフランジ2、先端を継手3という。メーカー規格によれば、全幅は936mm、高さは230mm、板厚は11mmであり、その全長は用途によって様々であるが、短いもので2m、最長で24mである。最終客先である工事業者の指定した長さや枚数に応じて、切断や枚数揃えが行なわれる。
【0004】
鋼矢板を輸送したり保管したりする場合には、
図3に示すように複数枚を重ねた束とし、束を1単位として取り扱われている。1束の枚数は最多数で5枚である。各鋼矢板には規格名、メーカー社標、製造履歴を証明するための製品ナンバー、長さ、メーカー名を記したラベル4が
図3のように端部に貼り付けられている。
【0005】
メーカーから出荷された鋼矢板にはこのようなラベル4が全て貼り付けられているが、中間加工業者が鋼矢板を客先の指定した長さに切断した場合には、あらたに子番の付いた背品ナンバーが付与され、切断されたそれぞれの鋼矢板に子番の付いた新しいラベルを貼り付ける必要がある。
【0006】
ところが
図3のように束を構成する鋼矢板の端面が揃っていると、2枚目以下の鋼矢板に新しいラベルを貼り付けることができない。このため従来はクレーンを用いて鋼矢板を1枚ずつ吊り上げて端面位置をずらしたり、フォークリフトのフォークを鋼矢板の端面に当てて押し、端面位置をずらしていた。しかしこれらの方法は危険を伴ううえ、1枚の鋼矢板をずらすために3〜5人が10分低度、5枚では1時間近くの作業時間を要するという問題があった。また何れの場合にも広い作業スペースが必要となるうえ、誤って鋼矢板に疵を付けてしまう可能性もあった。なお、ラベルを張り終えた鋼矢板の束は端面がずれているため、出荷のために再び端面を揃える必要があり、同様の作業を繰り返さねばならないという無駄もあった。このような目的の装置は従来知られていないと思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−155897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、束になっている鋼矢板の端面の位置を、人手に頼ることなく安全かつ短時間で、ずらしたり、あるいは揃えたりすることができる鋼矢板の端面位置修正装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するためになされた本発明の鋼矢板の端面位置修正装置は、複数枚の鋼矢板を重ねた鋼矢板の束を支持する受台を、鋼矢板との摩擦係数が0.5よりも大きい材料により構成し、この受台の一端に受台の長手方向に移動する押し台車を配置し、この押し台車の前面に、受台上の各鋼矢板の端面の幅方向の中央部を押して端面位置を修正する端面押圧部を形成したことを特徴とするものである。
【0010】
請求項2のように、前記端面押圧部は押し台車の前面を階段状に形成し、鋼矢板の端面を階段状にずらすものとすることができる。また請求項3のように、前記端面押圧具は、押し台車の前面を垂直面に形成し、鋼矢板の端面を合わせるものとすることができる。
【0011】
また請求項4のように、前記押し台車の推力を、受台上に支持された鋼矢板の束の総重量の60%以上とすることが好ましく、さらに請求項5のように、前記押し台車を、その車輪がガイドチャンネル内を走行する構造として浮き上がりを防止した構造とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の装置によれば、受台の上に鋼矢板の束をクレーン等で載せたうえで押し台車を前進させれば、押し台車の端面押圧部により鋼矢板の端面が押され、端面位置をずらしたり、あるいは合わせたりすることができる。特に本発明では、重ねられた鋼矢板の高さ方向のばらつきが最も小さい各鋼矢板の端面の幅方向の中央部を押す構造としたので、端面ずらしを確実に行うことができる。さらに本発明では、受台を鋼矢板との摩擦係数が0.5よりも大きい材料により構成したので、押し台車の端面押圧部により鋼矢板の端面を押したとき、束全体が押されてしまうことがなく、確実に端面位置の修正を行なうことができる。このように本発明によれば、鋼矢板の端面の位置を、人手に頼ることなく安全かつ短時間で修正することができる。また本発明によれば従来のような広い作業スペースを必要とせず、鋼矢板の疵付きも防止することができる。
【0013】
請求項2の発明によれば、鋼矢板の端面を階段状にずらすことができ、ラベルの貼り付けが可能となる。
【0014】
請求項3の発明によれば、ラベルを張り終えた鋼矢板の束を搬送したり保管するために、鋼矢板の端面を垂直方向に合わせることができる。
【0015】
請求項4の発明によれば、押し台車の推力を、受台上に支持された鋼矢板の束の総重量の60%以上としたので、パワー不足のおそれはなく、確実に鋼矢板の端面位置を修正することができる。
【0016】
さらに請求項5の発明によれば、押し台車の車輪がガイドチャンネル内を走行する構造として浮き上がりを防止したので、押し台車による押圧力を水平方向とすることができ、確実に鋼矢板の端面位置を修正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図4】ラベルが貼り付けられた鋼矢板の斜視図である。
【
図5】鋼矢板の端面位置修正装置の全体側面図である。
【
図11】正しく重ねられていない束の端面図である。
【
図13】束のウェブ間隙間のバラツキを示すグラフである。
【
図14】押し台車を前進させた状態を示す全体側面図である。
【
図15】押し台車を後退させた状態を示す全体側面図である。
【
図17】端面合せ用の端面位置修正装置の全体側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。
図5は鋼矢板の端面位置修正装置の全体図であり、10は所定間隔で水平に配置された受台、11は受台10の両側に配置されたサイドガイドである。受台10は鋼矢板の束を支持するものであり、サイドガイド11は受台10上に置かれた鋼矢板の横ずれを防止するものである。これらは受け架台14上に設けられている。
【0019】
受台10は、鋼矢板との摩擦係数が0.5よりも大きい材料により構成されている。鋼矢板どうしの摩擦係数は0.35程度であるから、受台10の摩擦係数を0.5よりも大きくしておけば、鋼矢板の端面を押圧したときに束全体がずれてしまうことがない。
【0020】
一般に鋼材との間の摩擦係数は、粗面の木材は0.65、ゴムは0.75である。この実施形態では、
図6に示すようにバタ木12と呼ばれる杉・米栂・松材を用い、その両端を固定部材13で受け架台14上に固定したものを受台10とした。バタ木12は安価に入手できるうえ、柔らかい材質であるから鋼矢板の表面を疵付けない利点がある。しかし受台10の材質はこれに限定されるものではなく、ゴム材、または木材等にゴム板を張り付けたものなども使用することができる。
【0021】
図5に示すように、この受台10の一端に、受台の長手方向に移動する押し台車15が配置されている。押し台車15は押し架台16の後端に設けられたアクチュエータ17によって進退動することができる。
図7に示すように、押し台車15の車輪18は押し架台16に固定されたガイドチャンネル19内を走行する構造となっており、浮き上がりを防止している。端面修正時に鋼矢板の端部が押し台車15とともに天井に向って持ち上げられることとなると危険であるから、この浮き上がり防止は実用上、重要である。
【0022】
アクチュエータ17として、本実施形態では装置構成がシンプルな油圧シリンダを用いているが、電動シリンダや電動台車など、その他のアクチュエータを用いることもできる。
【0023】
このアクチュエータ17は、受台10上に支持された鋼矢板の束の総重量の60%以上の推力を持つことが好ましい。推力が不足すると大重量の鋼矢板をずらすことが困難となるためである。油圧シリンダを用いた場合には、油圧を8MPa、シリンダ内径を80mm以上とすれば約4トンの推力を得ることができ、十分である。
【0024】
なお、ラベル4の縦サイズは50mmであるから、60mmずつ端面をずらせばラベル貼り付けには十分である。このためには上から4枚の鋼矢板の端面を60mmずつずらせばよく、合計ずらし量は240mmとなる。このほか、押し始めまでの移動距離を含め、アクチュエータ17のトータルストロークは1000mmとすれば十分である。しかしずらし量はこれに限定されるものではなく、自由に設定することができる。
【0025】
この押し台車15の前面には、受台10上の各鋼矢板の端面を押して端面位置を修正する端面押圧部が形成されている。この端面押圧部には、鋼矢板の端面を階段状にずらすための端面押圧部20と、鋼矢板の端面を垂直面に沿って合わせるための端面押圧部30との2種類がある。
【0026】
図8と
図9に、端面ずらし用の端面押圧部20を示す。この端面押圧部19は、上部を突出させた階段状に押し台車15の前端面を切断するとともに、
図10に示すアタッチメント21をボルトで固定した構造である。各段の段差(高さ)は束を構成する鋼矢板のウェブ2、2間の距離に対応させて決定される。また各段の突出量は目的とする端面ずらし距離により決定される。端面ずらし距離は前記したように60mmとすれば問題はないが、各段の段差は誤って2枚の鋼矢板を押してしまうことのないように決定しなければならない。以下にこの点につき説明する。
【0027】
本発明者は多くの鋼矢板の束を観察した結果、次の事実を確認した。第1に、ウェブ間の隙間はばらつきが大きい。その原因はそもそも
図11に示すように積み方が悪く幅方向にずれて重なっていることもあるが、幅方向のずれのない場合であっても、上段の鋼矢板の重みで下段のフランジ3が押し広げられ、ウェブ間隙間が小さくなる。この傾向は当然ながら最下段において最も顕著となる。また
図12に示すウェブ2の中央部、中間部、端部におけるウェブ間隙間のばらつきを測定すると、中央部のばらつきが最も小さく、端部に行くほどばらつきが大きくなる。その結果を
図13のグラフに示し、表1にまとめた。
【0029】
上記の観察結果から、ウェブ間の隙間のバラツキの小さい中央部を狙って押すことが必要であり、特に端部はウェブ間隙間が1mmの場合もあることから2枚押しの可能性があり、押してはならないことが分かる。中央部は最大値が19mm、ピーク値が16mmであるから、ウェブ2自体の厚みである11mmを加えた27〜30mmを、端面ずらし用の端面押圧部20の段差とすればよい。
【0030】
アタッチメント21の形状は
図10に例示される通りであり、押し台車15のアタッチメント固定孔22に固定される。このアタッチメント21の幅はウェブ2の端面の中央部のみを押すことができるようにしておく必要があり、50〜150mmの範囲とすることが好ましい。この実施形態では100mmとしたが、アタッチメント21の幅や形状は
図10に示すように適宜設計することができる。
【0031】
端面ずらしを行う際には、先ず受台10の上にクレーン等によって鋼矢板の束を載せる。そして上記の端面ずらし用の端面押圧部19を備えた押し台車15を、
図5の状態から
図14のようにアクチュエータ17により前進させ、最下段のアタッチメント21が最下段の鋼矢板の端面に当る位置で前進停止させる。アタッチメント21は最上段の鋼矢板の端面に先ず接触してこれを押圧し、順次下段の鋼矢板の端面に接触して押圧することとなる。このとき最下段の鋼矢板が動いてしまうと目的通りにずらすことができなくなるが、前記したように最下段の鋼矢板と接触する受台10は鋼矢板との摩擦係数が0.5よりも大きい材料により構成されているため、ずれるおそれはない。
【0032】
その後に
図16のように押し台車15を後退させる。この結果、鋼矢板の端面は各段のアタッチメント21の突出量の差だけずれることとなる。この作業は受台10上への束の搬送を含み、作業員1〜2名でわずか10分以内に安全に行なうことができる。
図15のように端面をずらせた状態において、各鋼矢板へのラベル貼り付けを行なう。
【0033】
なお束の状態によっては、上記した端面ずらし用の端面押圧部19を用いても鋼矢板の端面の高さとアタッチメント21の高さが正確に一致しない場合がある。そこで
図16に示すようなレベルアジャスタ23を受台10の端部に設け、高さを調節できるようにしておくことが好ましい。
図16のレベルアジャスタ23は左右の垂直ねじ24をハンドル25により回転させて受け架台14を昇降させる公知の構造である。調節可能な高さは30mm程度としておけば十分であり、稼働開始時に調節すればその後はほとんど調節不要である。
【0034】
このようにしてラベル貼り付けが行なわれた後は、輸送や保管のために束の端面を再び揃えることが望ましい。このために、
図17に示す鋼矢板の端面を垂直面に沿って合わせるための端面押圧部30を備えた押し台車15が用いられる。
【0035】
この端面押圧部30は前面が平面となったアタッチメント31を押し台車15に取付けたものであり、やはりウェブ2の中央部を押して端面を揃えるものである。この端面合わせは端面ずらしの反対側で行なうことが好ましく、受台10の両端にそれぞれ設置すれば、端面ずらし、ラベル貼り付け、端面合わせの一連の作業を能率的に行うことができる。押し台車15のその他の構成は端面ずらしの場合と共通であるから、説明を省略する。
【0036】
以上に説明したように、本発明の鋼矢板の端面位置修正装置によれば、束になっている鋼矢板の端面の位置を、人手に頼ることなく安全かつ短時間で、ずらしたり揃えたりすることができ、作業能率の向上と安全性の向上に大きく寄与することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 ウェブ
2 フランジ
3 継手
4 ラベル
10 受台
11 サイドガイド
12 バタ木
13 固定部材
14 受け架台
15 押し台車
16 押し架台
17 アクチュエータ
18 車輪
19 ガイドチャンネル
20 端面ずらし用の端面押圧部
21 アタッチメント
22 アタッチメント固定孔
23 レベルアジャスタ
24 垂直ねじ
25 ハンドル
30 端面合わせ用の端面押圧部
31 アタッチメント