【実施例】
【0039】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。実施例中、核磁気共鳴スペクトル(NMR)は(JEOL AL300)により測定し、TMSを内部標準物質として用いた。MALDI-TOF-MSは(Bruker autoflex)を用いた。赤外線吸収スペクトル(IR)は(Thermo Nicolet IR Affinity-1)を用いた。紫外可視近赤外吸収スペクトル(UV-VIS)は(SHIMADZU UV-3150 UV-VIS-NIR SPECTROPHOTOMETER)を使用した。また、6,13-ジヒドロペンタセン-2,3,9,10-カルボン酸テトラキス-(3,5-ジメトキシベンジル)は、特開2012-1463号公報に記載された方法に従い合成した。
【0040】
実施例1
[式(1a)で示されるヘキサチオペンタセン-2,3,9,10-カルボン酸テトラキス-(3,5-ジメトキシベンジル)の合成]
25mlナス型フラスコに6,13-ジヒドロペンタセン-2,3,9,10-カルボン酸テトラキス-(3,5-ジメトキシベンジル) (40mg,0.0378mmol)と再結晶したS
8 (121mg,3.78mmol)を加えた後、Arバブリングした1,2,4-トリクロロベンゼン (6.24ml)を入れ、230℃、12時間、遮光条件下で加熱撹拌した。反応溶液を室温まで冷やした後、反応溶液に大過剰のメタノール(100ml)を加え再沈殿した。緑色の不溶物をろ過で集め、濾紙上の固体をメタノール、二硫化炭素、クロロホルムで順次洗い、式(1a)で示されるヘキサチオペンタセン-2,3,9,10-カルボン酸テトラキス-(3,5-ジメトキシベンジル)を緑色固体(29.1mg,0.0234mmol,収率62%)として得た。化学反応式を以下に示す。式(1a)で示されるヘキサチオペンタセン化合物の
1H NMRスペクトルを
図1に、
13C NMRスペクトルを
図2に、MALDI−TOF MSスペクトルを
図3に、赤外吸収スペクトルを
図4に、紫外可視近赤外吸収スペクトルを
図5に示す。
【0041】
【化9】
【0042】
式(1a)で示されるヘキサチオペンタセン-2,3,9,10-カルボン酸テトラキス-(3,5-ジメトキシベンジル)の物性データを以下に示す。
mp > 300℃;
1H NMR(300MHz,CDCl
3 2.69 x 10
-3M) δ3.83(s,24H),5.29(s,8H),6.46(t,
4J
HH=2.2Hz,4H),6.63(d,
4J
HH=2.0Hz,8H),8.71(s,4H);
13C NMR(75MHz,o-DCB-d
4) δ55.2(q),67.8(t),101.4(d),106.7(d),131.4(s),131.8(d),132.2(s),133.2(s),137.9(s),158.7(s),161.6(s),165.7(s);MALDI-TOF-MS for C
62H
48O
16S
6:m/z calcd,1240.13,[M
-];found,1239.20 [M
-];IR (KBr) 2954,1728,1598,1460,1282cm
-1;UV-vis(o -dichlorobenzene) λ
max=303(ε=60000),403(ε=18000),751(ε=31000).
【0043】
[溶解性の検討]
式(1a)で示されるヘキサチオペンタセン化合物(1mg,0.8mmol)を各ミクロチューブにはかりとり、トルエン、ベンゼン、o-ジクロロベンゼン、DMSO、ベンゾニトリルをそれぞれ200mL加え、溶解性を検討した。トルエン、DMSO、及びベンゼンは湯せんすると分散した。o-ジクロロベンゼン、ベンゾニトリルについては湯せんをすると溶解した。溶解性はDMSO=トルエン<ベンゼン<ベンゾニトリル<<o-ジクロロベンゼンの順番で良好であった。
【0044】
[式(1b)で示されるヘキサチオペンタセン-2,3,9,10-カルボン酸テトラキス-(3,5-[ビス(3,5-ジメトキシベンジロキシ)ベンジル])の合成]
10mlナス型フラスコに6,13-ジヒドロペンタセン-2,3,9,10-カルボン酸テトラキス-(3,5-[ビス(3,5-ジメトキシベンジロキシ)ベンジル]) (20.0mg,9.30μmol)と再結晶したS
8 (29.9mg,0.93mmol)を加えた後、Arバブリングした1,2,4-トリクロロベンゼン (1.29ml)を入れ、230℃、6時間、遮光条件Ar雰囲気下で加熱撹拌した。反応溶液を室温まで冷やした後、反応溶液に大過剰のメタノール(100ml)を加えた。析出した緑色の不溶物をろ過で集め、濾紙上の固体をメタノール、二硫化炭素、クロロホルムで順次洗った。さらにクロロホルム:メタノール=100:1溶液を展開溶媒とした薄相クロマトグラフ(PTCL)により精製を行い、式(1b)で示されるヘキサチオペンタセン-2,3,9,10-カルボン酸テトラキス-(3,5-[ビス(3,5-ジメトキシベンジロキシ)ベンジル])を緑色固体(2.2mg,0.945μmol,収率10%)として得た。化学反応式を以下に示す。
【0045】
【化10】
【0046】
式(1b)で示されるヘキサチオペンタセン-2,3,9,10-カルボン酸テトラキス-(3,5-[ビス(3,5-ジメトキシベンジロキシ)ベンジル])の物性データを以下に示す。
mp > 300℃;
1H NMR(300MHz,CDCl
3) δ3.72 (s,48H),4.94(s,16H),5.30(s,8H),6.35(t,
4J
HH=2.2Hz,8H),6.60(d,
4J
HH=2.2Hz,20H),6.71(d,
4J
HH=2.2Hz,8H),8.73(s,4H);
13C NMR(75MHz,CDCl
3) δ55.5(q),67.9(t),70.2(s),100.0(d),102.3(d),105.5(d),107.1(d),130.5(s),130.7(d),131.0(s),132.7(s),137.9(s),139.3(s),158.8(s),160.3(s),161.1(s),175.8(s);MALDI-TOF-MS for C
126H
112O
32S
6:m/z calcd,2328.55,[M-];found,2329.20 [M-];IR (KBr) 2923,1725,1597,1457,1154,1053cm
-1;UV-vis (CHCl
3) λ
max=388(ε=7600),403(ε=7700),584(ε=2700),620(ε=3800),666(ε=3000),735(ε=8200).
【0047】
[式(1c)で示されるヘキサチオペンタセン-2-カルボン酸メチルの合成]
Ar雰囲気下、25mlナス型フラスコに6,13-ジヒドロペンタセン-2-カルボン酸メチル (40mg,0.118mmol)と再結晶した単体硫黄(379mg,3.78mmol)を加えた後、Arバブリングした1,2,4-トリクロロペンゼン(5ml)を入れ、230℃、12時間、遮光条件下で加熱攪拌した。反応溶液を熱時ろ過し、濾紙上の固体をヘキサン、二硫化炭素、クロロホルム、アセトンで順次洗い、式(1c)で示されるヘキサチオペンタセン-2-カルボン酸メチルを緑色固体(30mg,0.0575mmol,収率48%)として得た。化学反応式を以下に示す。
【0048】
【化11】
【0049】
式(1c)で示されるヘキサチオペンタセン-2-カルボン酸メチルの物性データを以下に示す。
mp > 300℃;Anal. Calcd for C
24H
10O
2S
6: C,55.15; H,1.93. Found: C,55.21; H,1.85; MALDI-TOF-MS for C
24H
10O
2S
6:m/z calcd,521.90,[M
-];found,521.30 [M
-]; IR (KBr) 2947,1721,1601,1545,1404,1321,1292,1257,1223,1107,1078,1005,754cm
-1;UV-vis(o -dichlorobenzene) λ
max=287(ε=22000),395(ε=14000),727(ε=13000).
【0050】
[式(1d)で示されるヘキサチオペンタセン-2,9-カルボン酸ビス-(3,5-ジメトキシベンジル)の合成]
Ar雰囲気下、100mlナス型フラスコに6,13-ジヒドロペンタセン-2,9-カルボン酸ビス-(3,5-ジメトキシベンジル) (30.0mg,0.0449mmol)と再結晶した単体硫黄(71.9mg,2.24mmol)を加えた後、Arバブリングした1,2,4-トリクロロベンゼン(5.0ml)を入れ、230℃、8時間、遮光条件で加熱撹拌した。生成した緑色の不溶固体をろ過で集め、濾紙上の固体を二硫化炭素、ヘキサンで順次洗い、式(1d)で示されるヘキサチオペンタセン-2,9-カルボン酸ビス-(3,5-ジメトキシベンジル)を緑色固体(20.0mg,0.0234mmol,収率52%)として得た。化学反応式を以下に示す。
【0051】
【化12】
【0052】
式(1d)で示されるヘキサチオペンタセン-2,9-カルボン酸ビス-(3,5-ジメトキシベンジル)の物性データを以下に示す。
mp > 300℃;
1H NMR(300 MHz,o-DCB-d
4) δ3.50(s,12H),5.23(s,4H),6.23(t,
4J
HH=2.2Hz,2H),6.47(d,
4J
HH=2.2Hz,4H),8.19(s,2H),8.51(s,2H),9.33(s,2H);MALDI-TOF-MS for C
42H
28O
8S
6:m/z calcd,852.01,[M-];found,851.61 [M-];IR (KBr) 2952,1721,1601,1472,1297,1112cm
-1;UV-vis(o-DCB) λ
max=380(ε=15400),399(ε=19600),425(ε=8800),614(ε=4200),669(ε=7900),738(ε=26900);Anal. Calcd for C
42H
28O
8S
6: C,59.13; H,3.31. Found: C,58.76; H,3.12.
【0053】
実施例2
[式(1a)で示されるヘキサチオペンタセン化合物を含むゲル]
実施例1で得られた式(1a)で示されるヘキサチオペンタセン-2,3,9,10-カルボン酸テトラキス-(3,5-ジメトキシベンジル) (3.6mg,0.0029mmol)とo-ジクロロベンゼン(0.110ml)をマイクロチューブに入れ、オイルバスにて150℃に加熱し溶解させた。その後オイルバスから出して0.5℃/minの降温速度で室温まで冷やすことによりゲルを得た。ゲルの物性評価については、走査型電子顕微鏡写真、示差走査熱量測定、粉末X線回折により行った。走査型電子顕微鏡写真((a)〜(c):ゲルを乾燥したもの)とゲルの写真(d)を
図6に、示差走査熱量測定結果(測定条件:温度範囲25-300℃、変温速度10℃/min)を
図7に、粉末X線回折結果を
図8に示す。
図6の走査型電子顕微鏡写真により、ゲルが繊維構造を有していることが分かった。また、
図7の示差走査熱量測定結果から相転移温度は234.8℃であり、
図8の粉末X線回折結果からそれぞれのピークに由来するミラー指数を決定し、結晶であることを確認した。
【0054】
[ベンゼンを用いたゲル化の検討]
式(1a)で示されるヘキサチオペンタセン化合物(1.0mg,0.8mmol)をマイクロチューブに入れ、ベンゼン(0.5mL)を加えた。オイルバスで溶液を80℃に加熱した後、オイルバスから出して、0.5℃/minの降温速度で室温まで冷やしたがゲルは得られなかった。
【0055】
[トルエンを用いたゲル化の検討]
式(1a)で示されるヘキサチオペンタセン化合物(1.0mg,0.8mmol)をマイクロチューブに入れ、トルエン(0.5mL)を加えた。オイルバスで溶液を110℃に加熱した後、オイルバスから出して、0.5℃/minの降温速度で室温まで冷やしたがゲルは得られなかった。
【0056】
[式(1b)で示されるヘキサチオペンタセン化合物を用いたゲル化の検討]
実施例1で得られた式(1b)で示されるヘキサチオペンタセン-2,3,9,10-カルボン酸テトラキス-(3,5-[ビス(3,5-ジメトキシベンジロキシ)ベンジル])(5.6mg,2.4mmol)をマイクロチューブに入れ、o-ジクロロベンゼン(0.17mL)を加えた。オイルバスで溶液を150℃に加熱した後、オイルバスから出して、0.5℃/minの降温速度で室温まで冷やしたがゲルは得られなかった。
【0057】
実施例3
[式(1a)で示されるヘキサチオペンタセン化合物を含むゲルを用いた有機薄膜太陽電池の作製]
式(1a)で示されるヘキサチオペンタセン化合物を含むゲルを用いて、有機薄膜太陽電池の活性層を作製した。活性層は2種類作製し、それぞれの作製法を作製法[1]及び作製法[2]とした。作製法[1]では、n型半導体として式(1a)で示されるヘキサチオペンタセン化合物を含むゲルを用い、p型半導体としてポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル) (Mw=30000〜60000、以下「P3HT」と略気することがある。)を用いた。作製法[2]では、n型半導体としてフェニルC
61酪酸メチルエステル(以下「PCBM」と略気することがある。)を用い、p型半導体として式(1a)で示されるヘキサチオペンタセン化合物を含むゲルを用いた。それぞれの活性層の作製方法を下記に示す。
【0058】
(1)作製法[1]
式(1a)で示されるヘキサチオペンタセン化合物(3.4mg,0.00274mmol)とP3HT(3.4mg,分子量=30,000〜60,000)とをo-ジクロロベンゼン(0.25ml)中で150℃で加熱撹拌し、活性層溶液を調製した。O
2 plasma処理を行ったITO基盤の上にPEDOT/PSS(200μl)を5000rpm,45秒スピンコートし、その後140℃にて10分間アニールを行った。更に活性層溶液(200μl)を1000rpm,45秒スピンコートし、その後サーマルアニールを20分間行った。最後にアルミを蒸着し150℃にて10分間アニールを行った。
【0059】
(2)作製法[2]
式(1a)で示されるヘキサチオペンタセン化合物(3.4mg,0.00274mmol)とPCBM(3.4mg,0.00373mmol)とをo-ジクロロベンゼン(0.25ml)中で150℃で加熱撹拌し、活性層溶液を調製した。O
2 plasma処理を行ったITO基盤の上にPEDOT/PSS(200μl)を5000rpm,45秒スピンコートし、その後140℃にて10分間アニールを行った。更に活性層溶液(200μl)を1000rpm,45秒スピンコートし、その後サーマルアニールを20分間行った。最後にアルミを蒸着し150℃にて10分間アニールを行った。
【0060】
作製法[1]で得られた活性層及び作製法[2]で得られた活性層をそれぞれ用いて作製された有機薄膜太陽電池の光電流特性を
図9に示す。
図9により、光照射していない(dark)時は、OVで電流が流れていないが、光照射している(light)時は、OVで電流が流れており、太陽電池として機能していることが分かる。このように、作製された有機薄膜太陽電池が光電流特性を示すことが分かった。また、作製法[1]で得られた活性層及び作製法[2]で得られた活性層の顕微鏡写真をそれぞれ
図10に示す。
図10により、繊維状のモルフォロジーが確認された。これらの結果から、活性層中で式(1a)で示されるヘキサチオペンタセン化合物がゲル化していることが分かるとともに、有機薄膜太陽電池の活性層として用いることができることが分かった。