特許第6179017号(P6179017)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6179017
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】ペット用飼料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23K 10/20 20160101AFI20170807BHJP
   A23K 50/45 20160101ALI20170807BHJP
【FI】
   A23K10/20
   A23K50/45
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-240019(P2012-240019)
(22)【出願日】2012年10月31日
(65)【公開番号】特開2014-87312(P2014-87312A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2015年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000111638
【氏名又は名称】ドギーマンハヤシ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129632
【弁理士】
【氏名又は名称】仲 晃一
(72)【発明者】
【氏名】安藤 泰明
【審査官】 大熊 靖夫
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/067218(WO,A2)
【文献】 特開昭50−151680(JP,A)
【文献】 特開平10−117702(JP,A)
【文献】 特開2009−011234(JP,A)
【文献】 米国特許第04454164(US,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00116736(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/00−40/35,50/00−50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)硬質部分を含む原料である牛のアキレス腱(牛筋)又は豚・羊の耳を水洗する洗浄工程と、(2)前記洗浄工程を経た前記原料を、プロピレングリコール及びグリセリンを含む水溶性処理液に浸漬する漬込み工程と、(3)前記漬込み工程を経た前記原料を乾燥させてペット用飼料を得る乾燥工程と、を含み、
前記水溶性処理液におけるプロピレングリコール及びグリセリンの体積比(プロピレングリコール:グリセリン)が1:4〜1:3であり、
前記乾燥工程(3)を経て得られる前記ペット飼料が2.0%以下のプロピレングリコール残留値及び0.86以下の水分活性値を有すること、
を特徴とするペット用飼料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば超小型犬やシニア犬等のように噛む力が弱い動物を対象とするペット用飼料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、一般に、犬用として使用される牛革等の革等の原料から製造されるペット用飼料は、原料に水洗、脱灰、酸化及び漂白等の処理を施し、絞って脱水し、各形態に成型し、乾燥させたものが市販されている。また、その他にも、牛のアキレス腱や豚の耳等の原料を各種処理を経て最終的に乾燥させたペット用飼料も数多く市販されている。
【0003】
これらのペット用飼料は、腐食やカビ等による汚染を防ぐために脱水及び乾燥され、水分活性値を低く抑えたものであるため、水分含有量が少なく硬質であり、成型性に劣るため、超型犬や歯の弱い犬や顎の弱いシニア犬では、歯で強く噛むことができないため、ペット用飼料を十分に食することができない。また、歯の弱い犬やシニア犬の顎に過剰な負担がかかり、ストレスを却って増大させたりする。
【0004】
これに対し、近年は犬のなかでも超小型犬に分類される犬が飼われている割合が高く、かかる超小型犬に食べさせるペット用飼料に対する需要が高くなってきている。
【0005】
そこで、例えば特許文献1(特開2000−175627号公報)では、床革を原料とした柔軟性のあるペット用飼料を得るための技術が提案されている。即ち、特許文献1においては、ポリオールとよばれる多価アルコールの湿潤剤が生皮によって取り込まれ、乾燥した後や長時間空気に晒された後でも柔らかさをとどめる生皮製品の提供を可能にしており、同時に水分含量の増加を可能にしている。
【0006】
また、例えば特許文献2(特開2003−235468号公報)においては、原皮をスライスし、水戻し、脱灰、酸化、漂白等の化学処理を施して得られた床革に、革繊維分解酵素で処理する革繊維分解酵素処理工程と、前記革
繊維分解酵素処理工程により得られた中間処理革に多価アルコールを充填させる柔軟剤充填処理工程と、を含むペット用飼料の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−175627号公報
【特許文献2】特開2003−235468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1における多価アルコールは、単に革に包含されているだけであり、かかる多価アルコールを革の内部や革繊維体にまで十分に浸透させることはできず、柔軟性を上げるという効果は十分でない。また、上記特許文献2においては、中間処理革に多価アルコールを充填させることは可能ではあるが、上記特許文献1の技術と同様に、特に牛のアキレス腱等の筋や豚の耳等の硬質部分を含む原料については一切検討されていない。
【0009】
そこで、本発明の目的は、牛のアキレス腱等の筋や豚の耳等の硬質部分を含む原料からであっても、柔軟性に優れたペット用飼料を得ることのできるペット用飼料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者は、牛のアキレス腱等の筋や豚の耳等の硬質部分を含む原料を如何に処理すれば、これら硬質部分を含む原料から柔軟性に優れたペット用飼料を得ることができるのか、各処理工程の条件等について鋭意検討及び実験を繰り返した結果、洗浄工程と、所定の組成の水溶性処理液を用いる漬込み工程と、乾燥工程と、を経ることが有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、(1)硬質部分を含む原料である牛のアキレス腱(牛筋)又は豚・羊の耳を水洗する洗浄工程と、(2)前記洗浄工程を経た前記原料を、プロピレングリコール及びグリセリンを含む水溶性処理液に浸漬する漬込み工程と、(3)前記漬込み工程を経た前記原料を乾燥させてペット用飼料を得る乾燥工程と、を含むこと、を特徴とするペット用飼料の製造方法を提供する。
【0012】
このような構成を有する本発明のペット用飼料の製造方法によれば、洗浄工程において、牛のアキレス腱(牛筋)又は豚・羊の耳等の、硬質部分を有する原料に付着している切屑や異物等を除去することができ、漬込み工程において、前記原料に十分な柔軟性(特に乾燥後の柔軟性)を付与することができ、そして、乾燥工程において、適度な水分活性値と十分な柔軟性を有するペット用飼料を得ることができる。
【0013】
上記の本発明のペット用飼料の製造方法においては、前記漬込み工程(2)の前記水溶性処理液におけるプロピレングリコール及びグリセリンの体積比(プロピレングリコール:グリセリン)が1:4〜1:3である
【0014】
本発明者は、特に上記水溶性処理液が上記組成を有する場合に、適度な水分活性値と十分な柔軟性を有するペット用飼料をより確実に得られることを、実験により確認している。
【0015】
また、上記の本発明のペット用飼料の製造方法においては、最終的に得られるペット飼料が、2.0%以下のプロピレングリコール残留値及び0.86以下の水分活性値を有すること、が好ましい。
【0016】
このような構成を有する本発明のペット用飼料の製造方法によれば、人間に対するのと同様の安全性を有し、腐敗が進行しにくいペット用飼料を、より確実に得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、牛のアキレス腱(牛筋)等の筋や豚・羊の耳等の硬質部分を含む原料からであっても、柔軟性に優れたペット用飼料を得ることのできるペット用飼料の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下において、本発明のペット用飼料の製造方法の一実施形態として、硬質部分を有する原料として牛のアキレス腱を用いたペット用飼料の製造方法について説明する。ただし、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0019】
(1)洗浄工程
まず、本実施形態のペット用飼料の製造方法においては、硬質部分を有する原料として牛のアキレス腱を、水を用いて洗浄(水洗)する(洗浄工程)。例えば、多数の牛のアキレス腱を笊に入れて、牛のアキレス腱の上から水を流して洗浄すればよい。この洗浄工程では、原料である牛のアキレス腱に付着している切屑や異物を除去する。
【0020】
また、水を流しながら、ブラシ等で牛のアキレス腱の表面を掃除するのがより好ましい。牛のアキレス腱には、黒い炭状の異物が付着していることがあるため、かかる異物をより確実に除去するためにも、ブラシ等で掃除をするのが好ましい。
【0021】
なお、水洗に用いる水は、水道水でよく、蒸留水や純水であってもよい。また、原料である牛のアキレス腱は、洗浄工程に供する前において、乾燥した状態であっても生の状態であってもよい。
【0022】
(2)漬込み工程
次に、上記洗浄工程(2)を経た牛のアキレス腱を、プロピレングリコール及びグリセリンを含む水溶性処理液に浸漬する。
【0023】
ここで用いる水溶性処理液は、プロピレングリコール及びグリセリンに加えて水などを含むため、水溶性と称している。当該水溶性処理液を用いることにより、牛のアキレス腱に十分な柔軟性(特に後述する乾燥工程後の柔軟性)を付与できることを、本発明者は実験により見出した。したがって、前記水溶性処理液は、牛のアキレス腱に対する柔軟剤とも言える。
【0024】
当該水溶性処理液に含まれるプロピレングリコール及びグリセリンは、多価アルコールである。多価アルコールには、上記特許文献2にも記載されているように、例えば、グリセリン、キシリトール、マンニトール、ソルビトール、エリスリトール及びプロピレングリコール等、種々のものが挙げられるが、特にプロピレングリコール及びグリセリンの組合せを用いることが、牛のアキレス腱に十分な柔軟性(特に後述する乾燥工程後の柔軟性)を付与するという観点から好適であることを、本発明者は見出した。
【0025】
プロピレングリコール及びグリセリンを含む水溶性処理液を、漬込み工程(2)で使用することにより、牛のアキレス腱の優れた柔軟効果が得られ、また処理後の牛のアキレス腱へのなじみ性も高く、結果として水分活性値を低く維持することができる。最終的に得られるペット用飼料が、乾燥した後や長時間空気に晒された後でも、なおも十分な柔軟性を維持することができる。また、水分活性値を低く維持することによって、細菌の増殖を抑えて、腐敗を防止できるという効果を発揮する。
【0026】
ここで、上記水溶性処理液の組成について述べる。上記水溶性処理液は、水と、プロピレングリコールと、グリセリンと、を含む。プロピレングリコール及びグリセリンの合計量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜決定することができるが、例えば、製品の質感で適度なやわらかさを維持するという観点から、上記水溶性処理液の15体積%〜25体積%であるのが好ましい。
【0028】
更には、適度な水分活性値と十分な柔軟性を有するペット用飼料がより確実に得られ、プロピレングリコール残留値をより確実に2.0%以下の好ましい範囲に調節可能であるという観点から、上記水溶性処理液におけるプロピレングリコール及びグリセリンの体積比(プロピレングリコール:グリセリン)が1:4〜1:3であることがより好ましい(即ち、上記水溶性処理液が合計で20体積%のプロピレングリコール及びグリセリンを含む場合は、プロピレングリコールが4体積%〜5体積%で、グリセリンが16体積%〜15体積%)。
【0029】
この漬込み工程(2)は、上記の水溶性処理液を容器に入れ、当該容器に上記洗浄工程(2)を経た牛のアキレス腱を浸漬することにより行えばよい。容器に入れる上記の水溶性処理液の量は、牛のアキレス腱の膨張度(乃至は膨潤度)を見越して、適宜調節すればよい。本発明者は、牛のアキレス腱の膨張度(乃至は膨潤度)が約10%であることを、実験により確認している。
【0030】
漬込み工程(2)の環境温度は、常温であればよいが、原料や水溶性処理液の腐敗を防ぐという観点から、例えば18℃〜20℃程度であればよい。上記の水溶性処理液の温度は、環境温度と同じであればよい。
【0031】
漬込み工程(2)における漬込み時間は、原料として用いる牛のアキレス腱のサイズ、組成及び乾燥度等によって変動するが、牛のアキレス腱の柔軟性(軟度)を確認しながら調節すればよい。漬込み時間は、例えば20時間〜80時間(特に72時間)の範囲で決定すればよい。
【0032】
なお、上記の水溶性処理液には、必要に応じ、本発明の効果を損なわない範囲で、各種の補助薬剤(例えば、ソルビン酸カリウム等の保存剤等)を添加してもよい。また、上記容器として、回転樽等を用い、その中で牛のアキレス腱と上記の水溶性処理液とを混合して漬込み工程(2)を行ってもよい。
【0033】
(3)乾燥工程
次に、上記の漬込み工程(2)を経た牛のアキレス腱を乾燥させてペット用飼料を得る(乾燥工程)。
【0034】
乾燥工程(3)の条件は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜調節することができるが、例えば、熱風乾燥機を用いて、55℃〜60℃の範囲とすればよい。60℃を超える温度では、牛のアキレス腱が変形するおそれがある。
【0035】
なお、乾燥時間は、これも本発明の効果を損なわない範囲で適宜調節することができるが、環境温度や湿度の影響を受け易いファクターである。最終的に得られるペット用飼料がソフト感に優れ、カビに起因する腐敗が起こりにくいという観点から、歩留まり率が130〜150、好ましくは135〜140となるように、乾燥時間を調節するのが好ましい。
【0036】
上記の3工程を経て得られる本実施形態のペット用飼料は、2.0%以下のプロピレングリコール残留値及び0.86以下の水分活性値を有すること、が好ましい。プロピレングリコール残留値及び水分活性値の制御は、上記の漬込み工程(2)で用いる水溶性処理液の組成や上記乾燥工程(3)の条件等を調節することにより、可能である。
【0037】
以上、本発明のペット用飼料の製造方法の一実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものでない。種々の硬質部分を含む原料を用いることができ、当該原料の種類やサイズ、組成及び構造等に応じて、各工程の各条件を適宜調節すればよい。
【実施例】
【0038】
(1)洗浄工程
原料として、中心部分の太さが1cm〜3cm程度で、長さが6cm〜9cm程度の牛のアキレス腱(乾燥済)を120本準備し、30cm×40cm×10cmの寸法のプラスチック製の笊に入れ、蛇口から水道水を流しながらブラシで洗浄した。
【0039】
(2)漬込み工程
次に、洗浄工程(2)を経た牛のアキレス腱を、プロピレングリコール及びグリセリンを含む水溶性処理液に浸漬した。このときの環境温度は20℃とし、水溶性処理液の温度は20℃であった。また、漬込み時間は72時間とした。ここで用いた水溶性処理液の組成は、下記の表1に示すとおりとした。
【0040】
(3)乾燥工程
上記漬込み工程(2)を経た牛のアキレス腱を、藤木工業(株)製の無風乾燥機である藤木式魚類乾燥機(形式51−75−125)を用い、乾燥温度55℃及び乾燥時間4.2時間の条件で乾燥し、ペット用飼料1〜4を製造した。
【0041】
[評価試験]
(A)プロピレングリコール(PG)残留値
上記のようにして製造したペット用飼料1〜4について、ガスクロマトグラフー質量分析法という方法で、PG残留値(%)を測定した。結果を表1に示した。
【0042】
(B)水分活性(AW)値
上記のようにして製造したペット用飼料1〜4について、電気抵抗式の水分活性測定器「EZ−100ST」という方法で、AW値を測定した。結果を表1に示した。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示す結果から、プロピレングリコールとグリセリンとの配合比が、1〜6:9〜4の体積比の場合(実験番号1〜4)に、PG残留値及びAW値のいずれかが好ましい範囲のペット用飼料が得られ、2〜5:8〜5の体積比の場合(実験番号2及び3)に、PG残留値及びAW値の両方が好ましい範囲のペット用飼料が得られることがわかる。
【0045】
なお、上記実験においては、乾燥温度55℃で乾燥時間4.2時間としたが、歩留り率が環境温度に影響されるため、135〜140%の歩留り率が理想的であった。なぜなら、表2に示すように、別途のテストの結果、乾燥させて得たペット用飼料の硬さは、乾燥時間72時間の189%のものを乾燥させ、136%まで歩留り率を調整して得たペット用飼料が一番柔らかくなった。
【0046】
【表2】