(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6179055
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】異形ワークの加熱方法、熱処理方法及び複合コイル
(51)【国際特許分類】
H05B 6/36 20060101AFI20170807BHJP
H05B 6/10 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
H05B6/36 E
H05B6/10 331
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-165630(P2013-165630)
(22)【出願日】2013年8月8日
(65)【公開番号】特開2015-35329(P2015-35329A)
(43)【公開日】2015年2月19日
【審査請求日】2016年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 一幸
(72)【発明者】
【氏名】天野 健二郎
(72)【発明者】
【氏名】小川 靖治
(72)【発明者】
【氏名】杉山 豊
(72)【発明者】
【氏名】渡部 秀次
【審査官】
宮崎 光治
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−156345(JP,A)
【文献】
実公昭48−019145(JP,Y1)
【文献】
特開2003−213329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B6/00−6/10
H05B6/14−6/44
C21D9/00−9/44
C21D9/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方側に配置される厚肉部と他方側に配置される板状の薄肉部とが段差部で隣接した異形ワークの加熱方法であって、
前記厚肉部の一方側に対向配置させる一方側加熱部を備えて前記異形ワークを取り囲む加熱コイルと、前記厚肉部の他方側に沿って配置させる他方側加熱部を備えた二次コイルと、を準備し、
前記厚肉部及び前記薄肉部の外周輪郭を前記加熱コイルで取り囲み、前記一方側加熱部を前記厚肉部の厚み方向における前記薄肉部が存在しない端部側に配置するとともに、前記他方側加熱部を前記薄肉部が存在しない端部側に配置し、
前記加熱コイルに通電して前記厚肉部を誘導加熱するとともに前記二次コイルにより前記厚肉部の他方側を誘導加熱することで該厚肉部の内部全体を所定温度以上に昇温する、異形ワークの加熱方法。
【請求項2】
間隙を空けて並列に配置された一対の分割部を前記一方側加熱部に設け、
前記薄肉部が前記厚肉部の厚み方向における中間位置に配置された前記異形ワークを前記加熱コイルで取り囲み、前記間隙を前記薄肉部に対応する中間位置に配置すると共に前記一対の分割部をそれぞれ前記厚肉部の厚み方向の両端側に配置する、請求項1に記載の異形ワークの加熱方法。
【請求項3】
前記薄肉部が前記厚肉部の厚み方向の中間位置に配置された前記異形ワークに対し、前記二次コイルを前記厚肉部の厚み方向の両端側にそれぞれ配置する、請求項1又は2に記載の異形ワークの加熱方法。
【請求項4】
前記二次コイルの一部を前記加熱コイルに近接配置し、前記加熱コイルに通電することで前記二次コイルに二次電流を流すことで前記厚肉部を誘導加熱する、請求項1乃至3の何れかに記載の異形ワークの加熱方法。
【請求項5】
前記薄肉部に冷却液を接触させながら前記厚肉部を誘導加熱する、請求項1乃至4の何れかに記載の異形ワークの加熱方法。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載の異形ワークの加熱方法により、前記厚肉部を加熱した後、該厚肉部に冷却液を接触させて冷却する、異形ワークの熱処理方法。
【請求項7】
一方側に厚肉部が配置され、他方側に板状の薄肉部が前記厚肉部の厚み方向の中間位置に配置され、前記厚肉部と前記薄肉部とが段差部で隣接した異形ワークを取り囲んで誘導加熱するための加熱コイルであって、前記厚肉部の一方側に対向配置される一方側加熱部を備え、該一方側加熱部は、間隙を空けて並列に配置された一対の分割部を有する加熱コイルと、
前記異形ワークの前記厚肉部の他方側に応じた形状を有して前記厚肉部の他方側に沿って配置される他方側加熱部を有し、前記薄肉部の厚み方向両側における該薄肉部が存在しない端部側に配置される一対の二次コイルと、を備えた複合コイル。
【請求項8】
一方側に配置される厚肉部と他方側に配置される板状の薄肉部とが段差部で隣接した異形ワークの該厚肉部及び該薄肉部の外周輪郭を取り囲む加熱コイルと、外周囲が前記加熱コイルに囲まれる二次コイルと、を備え、
前記加熱コイルは、前記厚肉部の一方側における前記薄肉部が存在しない端部側に配置される一方側加熱部を備え、
前記二次コイルは、前記厚肉部の他方側における前記薄肉部が存在しない端部側に配置され前記厚肉部の他方側に応じた形状を有して前記厚肉部の他方側に沿って配置される他方側加熱部と、該他方側加熱部の両端間を環状に連結する環状連結部と、を備え、前記加熱コイルに通電された際に前記二次コイルに二次電流が流れる、複合コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚肉部と板状の薄肉部とが段差部で隣接した異形ワークを誘導加熱する異形ワークの加熱方法と異形ワークの熱処理方法、そして、加熱の際に使用する加熱コイル及び複合コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一方側に配置された厚肉部と他方側に配置された板状の薄肉部とが段差部で隣接した異形ワークとして、厚肉部に熱処理が施こされるものが知られている。
【0003】
例えば下記特許文献1では、一方側の厚肉部に複数個のスプロケット歯が設けられ、他方側に薄肉部からなる取付部が設けられたスプロケットホイールセグメントが記載されている。このような異形ワークでは、厚肉部の表面に高周波誘導加熱により焼入処理を施すことで、例えば表面硬度や耐摩耗性等が向上されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−156345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このように厚肉部と板状の薄肉部とが段差部で隣接した異形ワークでは、厚肉部の表面だけでなく内部まで熱処理を施すことが容易でなかった。
【0006】
即ち、厚肉部の内部まで熱処理を施すには、加熱時に厚肉部全体を十分に昇温させる必要があるが、厚肉部と薄肉部とが段差部で隣接しているため、加熱コイルを用いて誘導加熱を行うと不均一に加熱され易い。
例えば
図6(a)(b)に示すような断面形状を有する異形ワークWを加熱する際、厚肉部Wa及び薄肉部Wbの外周輪郭を加熱コイルにより取り囲んで誘導加熱すると、厚肉部Waの厚み方向において薄肉部Wbが設けられている中間位置に流れる誘導電流が多くなる。
【0007】
そのため、厚肉部Waの厚み方向において薄肉部Wbが設けられた中間位置が強く加熱されて端部側が十分に加熱されず、誘導加熱では厚肉部Waに位置による温度のバラツキが生じる。
【0008】
厚肉部Waを内部まで熱処理する場合、加熱炉を用いて異形ワーク全体を均一に所定温度まで加熱して、厚肉部だけに冷却液を接触させて急冷することで、熱処理を施すことがあった。このような方法では、加熱時間に長時間を要したり、設備が大型化するなどの問題点があった。
【0009】
そこで、本発明は、厚肉部と板状の薄肉部とが段差部で隣接した異形ワークにおいて、厚肉部の位置における温度のバラツキを小さくして厚肉部全体を容易に加熱できる異形ワークの加熱方法を提供することを第1の目的とし、異形ワークの厚肉部全体にできるだけ均一に熱処理を施すことができる異形ワークの熱処理方法を提供することを第2の目的とし、さらにそのような加熱に好適に使用でき
る複合コイルを提供することを第3の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記第1の目的を達成する異形ワークの加熱方法は、一方側に配置される厚肉部と他方側に配置される板状の薄肉部とが段差部で隣接した異形ワークの加熱方法であって、厚肉部の一方側に対向配置させる一方側加熱部を備えて異形ワークを取り囲む加熱コイルと、
厚肉部の他方側に沿って配置させる他方側加熱部を備えた二次コイルと、を準備し、厚肉部及び薄肉部の外周輪郭を加熱コイルで取り囲み、一方側加熱部を厚肉部の厚み方向における薄肉部が存在しない端部側に配置
するとともに、他方側加熱部を薄肉部が存在しない端部側に配置し、加熱コイルに通電して厚肉部を誘導加熱する
とともに二次コイルにより厚肉部の他方側を誘導加熱することで厚肉部
の内部全体を
所定温度以上に昇温する方法である。
【0011】
本加熱方法では、間隙を空けて並列に配置された一対の分割部を一方側加熱部に設け、
薄肉部が厚肉部の厚み方向における中間位置に配置された異形ワークを加熱コイルで取り囲み、間隙を薄肉部に対応する中間位置に配置すると共に一対の分割部をそれぞれ厚肉部の厚み方向の両端側に配置することができる。
【0012】
本加熱方法では、厚肉部の他方側に沿って配置させる他方側加熱部を備えた二次コイルを準備し、他方側加熱部を薄肉部が存在しない端部側に配置し、二次コイルにより厚肉部の他方側を誘導加熱するようにしてもよい。
薄肉部が厚肉部の厚み方向の中間位置に配置された異形ワークの場合、異形ワークに対し、二次コイルを厚肉部の厚み方向の両端側にそれぞれ配置するのがよい。
これらでは、二次コイルの一部を加熱コイルに近接配置し、加熱コイルに通電することで二次コイルに二次電流を流し、これにより厚肉部を誘導加熱するのが好適である。
【0013】
本加熱方法では、薄肉部に冷却液を接触させながら厚肉部を誘導加熱するのが好ましい。
【0014】
上記第2の目的を達成する異形ワークの熱処理方法は、上述のような異形ワークの加熱方法により、厚肉部を加熱した後、厚肉部に冷却液を接触させて冷却する方法である。
【0015】
上記第3の目的を達成する
複合コイルは、一方側に厚肉部が配置され、他方側に板状の薄肉部が厚肉部の厚み方向の中間位置に配置され、厚肉部と薄肉部とが段差部で隣接した異形ワークを取り囲んで誘導加熱するための加熱コイルであって、厚肉部の一方側に対向配置される一方側加熱部を備え、一方側加熱部は、間隙を空けて並列に配置された一対の分割部を有す
る加熱コイル
と、異形ワークの厚肉部の他方側に応じた形状を有して厚肉部の他方側に沿って配置される他方側加熱部を有し、薄肉部の厚み方向両側における薄肉部が存在しない端部側に配置される一対の二次コイルと、を備えたものである。
【0016】
ま
た複合コイルは、一方側に配置される厚肉部と他方側に配置される板状の薄肉部とが段差部で隣接した異形ワークの厚肉部及び薄肉部の外周輪郭を取り囲む加熱コイルと、外周囲が加熱コイルに囲まれる二次コイルと、を備え、加熱コイルは、厚肉部の一方側における薄肉部が存在しない端部側に配置される一方側加熱部を備え、二次コイルは、厚肉部の他方側における薄肉部が存在しない端部側に配置され
厚肉部の他方側に応じた形状を有して厚肉部の他方側に沿って配置される他方側加熱部と、他方側加熱部の両端間を環状に連結する環状連結部と、を備え、加熱コイルに通電された際に二次コイルに二次電流が流れるもので
あってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、厚肉部及び薄肉部の外周輪郭を取り囲む加熱コイルの一方側加熱部を、厚肉部の厚み方向における薄肉部が存在しない端部側に配置して通電するので、厚肉部の厚み方向における薄肉部が存在しない端部側に誘導される電流が多くなり、発熱量を増大できる。そのため、誘導加熱により厚肉部全体を昇温させた際、厚み方向における薄肉部が存在する位置と薄肉部が存在しない端部側の位置との温度差を小さくすることができる。よって、厚肉部の温度のバラツキを小さくして、厚肉部全体を均一に加熱することが容易な異形ワークの加熱方法を提供できる。
【0018】
本発明の異形ワークの熱処理方法によれば、上述のような加熱方法により加熱するので、異形ワークの厚肉部全体を容易に均一に加熱でき、加熱後に厚肉部に冷却液を接触させて急冷することで、厚肉部全体に均一な熱処理を施すことができる。
【0019】
本発明の加熱コイルによれば、厚肉部の一方側に対向配置される一方側加熱部が、間隙を空けて並列に配置された一対の分割部を有する。そのため、厚肉部の厚み方向の中間位置に薄肉部が配置された異形ワークを加熱コイルで取り囲むと、間隙を薄肉部に対応する位置に配置して、一対の分割部をそれぞれ厚肉部の厚み方向の両端側に配置できる。
【0020】
この状態で通電すると、厚肉部における厚み方向の両端側に誘導される電流を多くして、厚肉部の厚み方向の両端側の発熱量を増大できる。そのため、厚肉部全体を昇温させた際、厚み方向における薄肉部が存在する位置と薄肉部が存在しない端部側の位置との温度差を小さくすることができる。
よって、
異形ワークの前記厚肉部の他方側に応じた形状を有して前記厚肉部の他方側に沿って配置される他方側加熱部を有し前記薄肉部の厚み方向両側に配置される一対の二次コイルと複合コイルを構成することで、厚肉部の温度のバラツキを小さくして厚肉部全体を均一に加熱し得る加熱コイルが提供される。
【0021】
本発明の複合コイルによれば、異形ワークの厚肉部及び薄肉部の外周輪郭を取り囲む加熱コイルと、外周囲が加熱コイルに囲まれる二次コイルと、を備えているので、異形ワークの厚肉部を加熱コイルと二次コイルとにより加熱できる。
その際、加熱コイルが、厚肉部の一方側における薄肉部が存在しない端部側に配置される一方側加熱部を備えているので、加熱コイルに通電すると、厚肉部の厚み方向における薄肉部が存在しない端部側に誘導される電流を多くして発熱量を増大できる。
【0022】
また二次コイルが、厚肉部の他方側における薄肉部が存在しない端部側に配置される他方側加熱部と、他方側加熱部の両端間を環状に連結する環状連結部と、を備えているので、加熱コイルに通電すると、二次コイルに二次電流が流れ、この二次電流により厚肉部の厚み方向における薄肉部が存在しない端部側に誘導される電流を多くして、発熱量を増大できる。
そのため厚肉部全体を昇温させた際、厚み方向における薄肉部が存在する位置と薄肉部が存在しない端部側の位置との温度差を小さくすることができ、厚肉部の温度のバラツキを小さくして、厚肉部全体を均一に加熱し得る複合コイルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態において異形ワークを加熱する状態を示す正面図である。
【
図2】本発明の実施形態において異形ワークを加熱する状態を示す
図1のB矢視図である。
【
図3】本発明の実施形態において異形ワークを加熱する状態を示す
図1のD−D断面図である。
【
図4】本発明の実施形態において異形ワークの加熱時を説明する模式図である。
【
図5】本発明の実施形態において異形ワークを冷却する状態を示す部分断面図である。
【
図6】(a)は本発明の実施形態において加熱する異形ワークの正面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図を用いて説明する。
本実施形態は異形ワークを熱処理する例である。熱処理対象のワークは、
図6(a)(b)に示すように、厚肉部Waが一方側に配置され、板状の薄肉部Wbが他方側に配置された異形ワークWである。薄肉部Wbは厚肉部Waの厚み方向の中間位置に配置されており、厚肉部Waと薄肉部Wbとが段差部Wcで隣接している。厚肉部Wa及び薄肉部Wbは略円弧状に延びており、段差部Wcは円弧形状となっている。
【0025】
ワークWの厚肉部Waの一方側には凹凸部Wdが設けられている。凹凸部Wdの各凸形状は、厚肉部Waの厚み方向における中間位置で最も突出している。ワークWの薄肉部Wbは、略一定厚みの板状に形成され、幅方向に湾曲している。薄肉部Wbには、異形ワークWを他の部材に固定するための取付孔等が設けられていてもよい。
このような異形ワークWの例としては、上述の特許文献1等に記載されている分割スプロケットホイールセグメントなどが挙げられる。
【0026】
次に、異形ワークWを熱処理する方法について説明する。
この実施形態では、異形ワークWの薄肉部Wbを熱処理しない状態で維持して厚肉部Wa全体を熱処理する。
使用する熱処理装置は、
図1乃至
図4に示すように、複合コイル10及び冷却液のノズル11を有する加熱部12と、
図5に示すように、加熱された異形ワークWを冷却する冷却部13と、を備えている。詳細な図示は省略しているが、加熱部12及び冷却部13には、異形ワークWを固定して支持する支持部が設けられている。
【0027】
加熱部12の複合コイル10は、
図1乃至
図3に示すように、異形ワークWの外周輪郭を取り囲むように配置される加熱コイル20と、外周囲が加熱コイル20に囲まれて薄肉部Wbの厚み方向両側に配置される一対の二次コイル30と、を備えている。
【0028】
加熱コイル20は、異形ワークWの厚肉部Waの一方側に沿って対向配置される一方側加熱部21と、電源側に接続される一対の給電部22と、一対の給電部22と一方側加熱部21の両端とを連結する連結部23と、を有する。これらは略帯板状の導体材料から形成されていてもよく、内部又は表面に冷却液通路が設けられていてもよい。
【0029】
一方側加熱部21は、凹凸部Wdに応じた凹凸形状を有しており、間隙25を空けて並列に配置された一対の分割部26を備えている。一方側加熱部21の幅は、厚肉部Waの厚みに応じた幅、具体的には厚肉部Waの厚みより若干広い幅に形成されている。
【0030】
一対の二次コイル30は、それぞれ異形ワークWの厚肉部Waの他方側に応じた形状を有して厚肉部Waの他方側に沿って配置される他方側加熱部31と、他方側加熱部31の両端間を環状に連結する環状連結部32と、を有している。これらは加熱コイル20よりも細い導体材料から形成されていてもよく、内部又は表面に冷却液通路が設けられていてもよい。
【0031】
このような複合コイル10を用いて異形ワークWを加熱するには、まず
図1乃至
図3に示すように、異形ワークWと加熱コイル20及び二次コイル30とを加熱部12の所定位置に装着する。ここでは、厚肉部Waと薄肉部Wbとが横に並ぶように異形ワークWを配置し、厚肉部Wa及び薄肉部Wbの側周囲の外周輪郭を加熱コイル20で取り囲む。また一対の二次コイル30を異形ワークWの薄肉部Wbの両面側に配置して、外周囲を加熱コイル20で囲む。異形ワークWと加熱コイル20と一対の二次コイル30とは互いに離間して絶縁状態に保たれる。
【0032】
この装着状態では加熱コイル20の一方側加熱部21が厚肉部Waの一方側に対向配置される。ここでは凹凸形状が凹凸部Wdに対向し、間隙25が厚肉部Waの厚み方向における薄肉部Wbに対応した中間位置に配置され、一対の分割部26が、異形ワークWのそれぞれ厚肉部Waの厚み方向における薄肉部Wbが存在しない両端側の位置に対向する。本実施形態では、厚肉部Waの厚み方向の両端縁にそれぞれ分割部26を対向させている。
【0033】
一方、各二次コイル30の他方側加熱部31が、異形ワークWの厚肉部Waの他方側における薄肉部Wbが存在しない両端側の位置に配置される。また各二次コイル30の環状連結部32の一部が、加熱コイル20の連結部に沿って略平行に近接配置される。
【0034】
この状態で加熱コイル20に高周波電流を通電すると、異形ワークWの厚肉部Waが誘導加熱される。このとき
図3に示すように、ノズル11から冷却液を噴射して薄肉部Wbに冷却液を接触させながら誘導加熱することで、薄肉部Wbを低温に維持しつつ厚肉部Waを加熱する。
【0035】
図1、
図3及び
図4に示すように、加熱コイル20の給電部22に給電すると、まず加熱コイル20により異形ワークWの輪郭外周が囲まれているため、外周囲に電流が誘導される。このとき間隙25を空けて厚肉部Waの厚み方向の両端側に各分割部26が設けられているため、各分割部26に並列に通電されることで、異形ワークWの厚肉部Waの厚み方向の両端側が強く加熱される。
【0036】
また加熱コイル20に通電されると、各二次コイル30の一部が加熱コイル20に近接配置されているため、
図3及び
図4に示すように二次コイル30に二次電流が流れる。各二次コイル30の他方側加熱部31に流れる二次電流により、異形ワークWの厚肉部Waの他方側における厚み方向の両端側が強く加熱される。
【0037】
これらにより薄肉部Wbを所定温度未満に維持しつつ、加熱コイル20及び二次コイル30で厚肉部Waを十分に発熱させて内部まで所定温度以上に昇温させる。昇温させる温度は熱処理に応じて適宜設定でき、例えば焼入れ処理を行う場合には厚肉部Wa全体を焼入温度以上にする。
【0038】
厚肉部Wa全体を内部まで所定温度以上に加熱した後、例えば異形ワークWを冷却部13に移動させ、
図5に示すように、冷却ジャケット14から多量の冷却液を吹き付けて、厚肉部Waを冷却液に接触させることで、厚肉部Waを所望の冷却速度で急冷して熱処理を完了する。
【0039】
以上のような熱処理装置において、複合コイル10を用いて異形ワークWを加熱すれば、厚肉部Wa及び薄肉部Wbの外周輪郭を取り囲む加熱コイル20の一方側加熱部を、厚肉部Waの厚み方向における薄肉部Wbが存在しない端部側に対向配置して通電するので、厚肉部Waの厚み方向における薄肉部Wbが存在しない端部側に誘導される電流を多くでき、発熱量を増大できる。そのため、誘導加熱により厚肉部Wa全体を昇温させた際、厚み方向における薄肉部Wbが存在する位置と薄肉部Wbが存在しない端部側の位置との温度差を小さくでき、厚肉部Wa全体を均一に加熱することができる。
【0040】
また加熱コイル20の一方側加熱部21が、間隙25を空けて並列に配置された一対の分割部26を有しているので、一方側加熱部21を厚肉部Waの一方側に沿って対向配置させた際、間隙25を薄肉部Wbに対応する位置に配置することで、一対の分割部26をそれぞれ厚肉部Waの厚み方向の両端側に配置できる。
【0041】
その状態で加熱コイル20に通電すると、間隙25及び一対の分割部26により、厚肉部Waにおける厚み方向の両端側に誘導される電流が多くなり、厚肉部Waの厚み方向の両端側の発熱量を増大できる。そのため、加熱時に厚肉部Wa全体を昇温させた際、厚み方向の両端側と中間位置との温度差を小さくして、厚肉部Wa全体を容易に均一に加熱できる。
【0042】
また厚肉部Waの他方側における厚み方向の両端部に沿って、二次コイル30の他方側加熱部31を配置し、厚肉部Waの他方側を誘導加熱するので、厚肉部Waの厚み方向における薄肉部Wbが存在しない端部側に誘導される電流を多くして、発熱量を増大できる。そのため、厚肉部Waの位置における温度のバラツキをより小さくして、厚肉部Wa全体を均一に加熱することが容易である。
【0043】
しかも、一対の二次コイル30の一部をそれぞれ加熱コイル20に近接配置し、加熱コイル20に通電することで二次コイル30に二次電流を通電して厚肉部Waを加熱するので、二次コイル30に給電するための設備が不要で、より簡素でコンパクトな装置によりワークを加熱することができる。
【0044】
この加熱方法では、薄肉部Wbに冷却液を接触させながら厚肉部Waを誘導加熱するので、薄肉部Wbが高温に加熱されることを防止でき、薄肉部Wbの熱による変形を防止して厚肉部Waを加熱することができる。
【0045】
また以上のような熱処理装置において異形ワークWを熱処理すれば、上述のような加熱方法により異形ワークWが加熱されるので、異形ワークWの厚肉部Wa全体を容易に均一に加熱できるため、加熱後に厚肉部Waに冷却液を接触させて冷却することで、厚肉部Wa全体に均一な焼入れなどの熱処理を施すことができる。
【0046】
なお上記実施形態は、本発明の範囲内において適宜変更可能である。例えば上記実施形態では、異形ワークWとして、厚肉部Waが一方側に配置され、板状の薄肉部Wbが他方側に配置され、薄肉部Wbが厚肉部Waの厚み方向の中間位置に配置されている例について説明したが、ワークは特に限定されない。
例えば、薄肉部Wbが厚肉部Waの他方側に厚み方向の一方の端部側に配置されている異形ワークであっても、本発明を適用可能である。その場合、加熱コイル20の一方側加熱部21は、分割部26を設けることなく、厚肉部Waの厚み方向における薄肉部Wbが存在しない端部側に配置したり、二次コイル30の他方側加熱部31を厚肉部Waの厚み方向における薄肉部Wbが存在しない端部側にだけ配置したりすればよい。
【0047】
また上記実施形態では、加熱コイル20と二次コイル30との両方を配置して加熱する例について説明したが、何れか一方だけを配置したとしても、厚肉部Waの厚み方向における端部側の発熱量を増加できるため、厚肉部Waの温度の位置によるバラツキを低減することができる。
さらに上記では、二次コイル30として、加熱コイル20に通電した際に二次電流が流れる構造のものを使用したが、二次コイル30は、加熱コイル20とは別に通電して厚肉部Waを誘導加熱するものであっても使用可能である。
【0048】
また上記では、加熱コイル20の一方側加熱部21及び二次コイル30の他方側加熱部31は、厚肉部Waの一方側と他方側とに精度よく沿わせなくても、各部において温度のムラが生じない形状であれば使用可能である。
【符号の説明】
【0049】
W 異形ワーク
Wa 厚肉部
Wb 薄肉部
Wc 段差部
Wd 凹凸部
10 複合コイル
11 ノズル
12 加熱部
13 冷却部
14 冷却ジャケット
20 加熱コイル
21 一方側加熱部
22 給電部
23 連結部
25 間隙
26 分割部
30 二次コイル
31 他方側加熱部
32 環状連結部