(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記盛土の表面に配置した透光性部材と、前記透光性部材を通過した盛土外の光を前記シャフトないし前記地下室の内空に導く光伝送路とを備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の避難用構造物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術における避難用装置は、主として個人用住宅など小規模建築物に付帯する規模のものであり、これを大規模な避難用設備として適用した場合には、シャフト状に伸びるマンホールが、地下室の形状やサイズと比べて相対的に細長い構造となる。そのため、地震発生時に、地盤の揺れによってマンホールが揺動する際、このマンホールと地下室との接合箇所に大きな負荷が作用し、該当箇所に破損が生じる恐れがある。その場合の避難用装置は、津波襲来前に既に水密性が損なわれている可能性も懸念される。つまり従来技術は、津波発生の原因たる地震への対策には不十分であり、津波に対する避難が確実なものとならない課題がある。
【0005】
また、従来技術における避難用装置は、上述したような広範な平地にて多数の避難者を受け入れることを想定していない。そのため、一度に押し寄せる多くの避難者を効率的に受け入れる機能や、開閉蓋の開閉判断のために装置外の状況を確認する機能など、実際の運用に当たっては大きな役割を果たす各種機能を欠いており、津波発生時の実態や避難者の心情等を考慮した的確な避難行動がなされ難いという課題がある。
【0006】
そこで本発明は、津波の発生原因たる地震に対して良好な耐久性を備え、津波発生時には効率的で的確な避難行動が可能となる避難用構造物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の避難用構造物は
、表面が遮水材で覆われた盛土と、前記盛土の上部に露出する水密ハッチを上端とし、内空に避難路を有して前記盛土内を下方に伸びるシャフトと、前記シャフトの下端と可撓性部材を介して接続し、シャフト内空の避難路と連通す
る地下室とからなる
避難用構造物であって、前記可撓性部材は、上端部が前記シャフトの下端先端部に埋設されると共に下端部が前記地下室の頂版に埋設された筒状部材と、前記地下室の頂版から上方に立設され、前記シャフトの下端の外周を、前記シャフトとの間に隙間が形成されるように取り囲む環状体とを備えることを特徴とする。
【0008】
これによれば、地震発生時に地盤の揺れによってシャフトが揺動し、当該シャフトと地下室との接合箇所に負荷が作用しても、これを可撓性部材が吸収することとなり、該当箇所に破損が生じる恐れは解消される。従って本発明の避難用構造物では、津波襲来前である地震発生時に水密性が損なわれるといった事態は発生せず、地震発生後においても正常な機能を維持することが可能である。つまり本発明によれば、津波の発生原因たる地震に対して良好な耐久性を備え、津波発生時には効率的で的確な避難行動が可能となる。
【0009】
また、
本発明は、表面が遮水材で覆われた盛土と、前記盛土の上部に露出する水密ハッチを上端とし、内空に避難路を有して前記盛土内を下方に伸びるシャフトと、前記シャフトの下端と可撓性部材を介して接続し、シャフト内空の避難路と連通する、前記地表面よりも下に設けられた地下室とからなる避難用構造物であって、前記避難用構造物の前記盛土における、前記シャフトと前記地下室との接続箇所の周囲のみ
が粘性土層で構成
されているとしてもよい。これによれば、シャフトと地下室との接合箇所が外界から水密に遮蔽されることとなり、避難用構造物として更に良好な水密性が維持されることになる。たとえ、想定を大きく超える非常に大規模な地震時の負荷が作用し、これを可撓性部材が吸収しきれなかった場合でも、上述の粘性土層が前記接合箇所を水密に保ち、避難用構造物としての機能は維持されることになる。
【0010】
また、前記避難用構造物において、潜望鏡の対物部
が前記盛土上より突出
し、前記潜望鏡の接眼部
が前記シャフトないし前記地下室の内空に配置
されているとしてもよい。これによれば、避難用構造物に逃げ込んだ避難者が、避難用構造物の外、すなわち地上(水没状態の場合含む)の様子を潜望鏡により観察し、以後の行動計画の判断材料を得ることが可能となる。例えば、海岸線を越えた津波が急速に接近しつつある、或いは、襲来した津波による海水面が上昇しつつあり、その水位が水密ハッチの高さに迫っている、といった状況が潜望鏡により観察された場合、避難用構造物に所在する避難者らは、それまで、新たな避難者のために開放していた水密ハッチの閉塞を決断することができる。或いは、津波襲来の後に相応の時間が経過し、水没していた水密ハッチが水面上に完全に露出し、海水面水位が下降し続けている、といった状況が潜望鏡により観察された場合、避難用構造物に所在する避難者らは、それまで閉塞していた水密ハッチを開放し、避難用構造物を退去するといった決断を行うことができる。
【0011】
また
、潜望鏡で撮影された画像を、シャフトや地下室に設置したディスプレイ装置にて表示し、多くの避難者に効率良く提示することが可能となる。閉塞空間である避難用構造物に逃げ込んだ避難者にとって、外部の状況を映像によって確実に認識できることは、精神的安定につながる。また、外部の状況を多くの避難者らで一度に確認出来ることで、水密ハッチ開閉の合意を避難者間で速やかに得ることも出来る。
【0012】
また、前記避難用構造物において、前記盛土の表面に配置した透光性部材と、前記透光性部材を通過した盛土外の光を前記シャフトないし前記地下室の内空に導く光伝送路とを備えるとしてもよい。これによれば、蓄電池や自家発電機などの電源が失われた状況となっても、外部の光をシャフトや地下室に導いて照明を維持することが可能となる。
【0013】
また、前記避難用構造物において、前記シャフトにおける避難路として、互いに位相がずれた状態で前記水密ハッチの直下から前記地下室まで伸びる、複数の螺旋状管体を備えるとしてもよい。各螺旋状管体は滑り台であり、複数の螺旋状管体それぞれの開口(上部にあるもの)が、その数に応じて避難者を一度に受け入れて滑降させ、多数の避難者を効率良く地下室へ導くことが出来る。
【0014】
また、本発明の避難用施設は、表面が遮水材で覆われた盛土と、前記盛土の上部に露出する水密ハッチを上端とし内空に避難路を有して前記盛土内を下方に伸びるシャフトと、前記シャフトの下端と可撓性部材を介して接続しシャフト内空の避難路と連通する地下室と、からなる避難用構造物を、千鳥状に平面配置したことを特徴とする。これによれば、海岸線より襲来した津波が避難用構造物に衝突し、当該避難用構造物の周囲に分流が生じる際、隣り合う他の避難用構造物で同様に発生した分流と衝突し、その水勢を互いに弱め合うことになる。こうした効果が千鳥状に並んだ避難用構造物の各間で生じることで、避難用施設全体として津波の水勢を弱め、各避難用構造物への津波の影響を抑制すると共に、避難用施設の後背地における津波被害の軽減を図ることもできる。
【0015】
つまり本発明によれば、津波の発生原因たる地震に対して良好な耐久性を備え、津波発生時には効率的で的確な避難行動が可能となる避難用構造物を提供できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、津波の発生原因たる地震に対して良好な耐久性を備え、津波発生時には効率的で的確な避難行動が可能となる避難用構造物を提供出来る。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本実施形態における避難用構造物の構造例を示す側断面図であり、
図2は本実施形態における避難用構造物の構造例を示す上面図である。本実施形態における避難用構造物100は、津波の発生原因たる地震に対して良好な耐久性を備え、津波発生時には効率的で的確な避難行動が可能となるものである。本実施形態では、避難用構造物100の設置場所として、海岸線付近で低標高の平地が広範に広がり、津波の波高を上回る高所や高層建築物が元々少ない臨海平野を想定する。そうした臨海平野に津波が押し寄せてきた場合、従来であれば、住民らは避難先を確保することに難渋するが、本実施形態の避難用構造物100の存在があれば、そこを避難先として津波の脅威を回避することが出来る。
【0019】
本実施形態の避難用構造物100は、盛土10、シャフト20、および地下室30とから構成されている。そのうち盛土10は、上述した臨海平野における地表面1に土砂を盛り上げる土工によって構築された構造物である。盛土10を構成する土砂は、一定の厚みで盛り上げるごとに重機等で転圧して締め固めたものである。盛土10は土砂などの一般的な盛土材料で構成する場合の他、過去の震災等で生じているガレキを処理して得たブロックも採用できる。このブロックは、ガレキより分別した可燃物を高温燃焼させ、その副生成物たる焼却灰にモルタルないしセメントペーストを添加してブロック状に固化させたものとなる。こうしたブロックを盛土10の材料として採用する場合、土砂の場合のように転圧を繰り返すのではなく、重機によってブロックを地表面1から順次積み上げていくことで盛土10を構成する。
【0020】
上述したような土砂を盛り上げるか、或いはブロックを積み上げていくことで、地表面1から立設した盛土10が構築される。この時、盛土10の法面14は、地表面1から盛土頂部15にかけて階段状に成形すると、盛土上部13の水密ハッチ21を目指す避難者が全方向から駆け上りやすく好適である。また、盛土10は、盛土頂部15の地表面1からの高さが、想定される津波の波高、水位を上回るよう立設される。
【0021】
そうした避難用構造物100は、設置場所となる低標高の平地等において、津波の波高を上回る高さを備えて視認しやすく、避難者にとって避難時の明らかな目印としても機能を発揮することになる。また、そうした視認しやすい点は、避難用構造物100の設置地区における、過去の津波やそれを引き起こした地震に関するモニュメントとしての機能にもつながる。
【0022】
なお、上述の法面14を含む盛土10の表面11は、遮水材12で覆われており、津波による波圧や洗掘に抵抗する耐津波性を有している。前記の遮水材12としては、ベントナイト混合土を充填したマットを採用することが出来る。このマットに充填されているベントナイトは、水と触れて膨潤反応を示しても、当該マットを構成する布製型枠で拘束されるために容積は変化せず、その結果、ベントナイト粒子間の空隙(水みち)は無くなっていく。つまり、水に反応して水みちが無くなるマットを盛土表面11に隙間無く敷設することで、遮水層が形成されることになる。こうしたマットは、水に反応して膨潤作用を生じるベントナイトを用いているため、盛土10の変形や乾燥収縮などで万一クラックが発生しても、その後の降水等に応じた膨潤作用で自己修復することが可能であり、メンテナンスフリーで長期にわたり信頼性の高い遮水層が維持できる。
【0023】
更に、上述のマットの表面に、種子を混合した土を吹き付けて、表面11に緑化層を設けるとしても好適である。この場合、吹き付けた土に含まれた種子が発芽して植物が成長するに伴い、当該植物の根が前記マットに入り込んで一体化し、ひいては、緑化層と遮水層たる表面11とが一体化する。植物の根をもって確かに一体化した緑化層と表面11とは、津波の持つ早い流速によく抵抗することが出来る。
【0024】
続いて、上述の盛土10と共に避難用構造物100を構成する、シャフト20および地下室30について説明する。シャフト20は、盛土10の上部13に露出する水密ハッチ21を上端22とし、内空23に避難路24を有して盛土内を下方に伸びる構造物である。そのうち水密ハッチ21は、シャフト20の上端開口26を水密に閉塞出来るハッチであり、盛土10の上部13のうち標高が最も高い盛土頂部15に設置されると好適である。この水密ハッチ21は、シャフト20や地下室30の操作盤等でのユーザ指示に応じて稼働する油圧機構により、あるいは複数段のギアを組み合わせた手動の開閉機構により、開閉動作を行うものとなる。
【0025】
一方、シャフト20は、鉄筋コンクリートや鋼管で構成された縦型の中空体であり、その下端25は、避難路24を連通させる形で地下室30に接続されている。ここで、避難路24の例について説明する。
図3は本実施形態のシャフト20における避難路24の構造例を示す図である。図に示す避難路24は、互いに位相がずれた状態で水密ハッチ21の直下から地下室30まで伸びる、複数の螺旋状管体27で構成されている。この螺旋状管体27は合成樹脂や金属材で構成され、内面に平滑加工が施された管体であり、人が無理なく入り込める内空径を備えた滑り台である。複数の螺旋状管体27それぞれの上部開口28は、その数に応じて避難者を一度に受け入れ、当該避難者を螺旋状管体27内部を滑降させ、ひいては多数の避難者を効率良く地下室30へ導くことになる。シャフト内空23における上部開口28の設置位置には、避難者が盛土頂部15から上部開口28に入りやすいよう、床版28aが敷設してある。
【0026】
他方、螺旋状管体27の下部開口29は、地下室30に達しており、上部開口28から入って螺旋状管体27を滑降してきた避難者は、この下部開口29から地下室30に降り立つ。なお、
図3においては、避難路24を明示的に示すため、シャフト20と地下室30との接続箇所に配置する可撓性部材31については破線表示にて簡略化してある。
【0027】
なお、シャフト20において、螺旋状管体27の周囲には、水密ハッチ21の直下から地下室30まで伸びる螺旋階段(不図示)が設置されている。この螺旋階段は、例えば、津波の脅威が去って、地表に戻る判断をした避難者が、避難先であった地下室30から外に出るために使用するものである。
【0028】
上述のシャフト20の下端25が接続される地下室30は、鋼製の殻体や鉄筋コンクリートで構成されており、避難用構造物100の周囲から逃げ込んできた多数の避難者を受け入れるだけの所定容積を備える内空35の他、換気設備、空調設備、給排水設備(例:排水ポンプ)、および室内照明設備等を有する。上述の換気設備および空調設備は、地下室30と盛土外部とを結ぶ吸排気管を付帯している。また、この地下室30は、家具、寝具、飲食物、薬品、燃料、ボート、電源などの備蓄倉庫も有している。
【0029】
なお、地下室30において、避難用構造物100の設置地区における過去の津波やそれを引き起こした地震に関する、資料や写真、映像、アトラクションなどといった各種のコンテンツを展示し、震災や津波被害に関する展示施設たる機能を備えるとしてもよい。この場合、津波発生時ではない平常時にも、付近の住民等が当該地下室30に自由に出入り出来るよう、盛土上部13の水密ハッチ21は開放、或いは自在に開閉出来るよう管理されている。
【0030】
こうした地下室30と上述のシャフト20の下端25とは、可撓性部材31を介して接続されている。シャフト20は、地下室30の形状やサイズと比べて相対的に細長い構造となっており、地震発生時に、地盤の揺れによってシャフト20が揺動する際、このシャフト20と地下室30との接合箇所に大きな負荷が作用する。そこで、こうした可撓性部材31を介してシャフト20と地下室30とを接続することで、地震時にシャフト20が可撓性部材31を起点にフレキシブルに動き、上述の接続箇所に破損が生じる恐れがない。
【0031】
図4は本実施形態における可撓性部材31の構成例1を示す図である。ここで例示する可撓性部材31は、
図4にて示すように、シアカラー40、緩衝材41、ロングストロークシアキー42、および止水板43で構成されている。このうちシアカラー40は、地下室30の頂版32から上方に立設された環状体で、シャフト20の下端25の外周を所定幅で襟状に包むものである。このシアカラー40は、地下室30の頂版32と一体に鋼製の殻体や鉄筋コンクリートで構成されている。
【0032】
また、上述の緩衝材41は、前記のシアカラー40とシャフト20の下端25との間、および前記下端25の先端部25aと地下室30の頂版32との間に設けられたものであり、ネオプレーンゴムなどの耐候性、耐熱性等に優れた合成ゴム材を採用できる。また、上述のロングストロークシアキー42は、前記下端25の先端部25aと地下室30の頂版32とを連結する丸鋼部材であり、端部42aが、シャフト20の下端25、地下室30の頂版32のそれぞれに埋設固定されている。また、上述の止水板43は、シアカラー40の上部とシャフト20の下端25の側面との間の隙間を水密に閉塞する板材であり、ゴムなど柔軟性と水密性を併せ持つ素材で構成されている。
【0033】
こうした可撓性部材31の構成によれば、シャフト20が地震力によって揺動し、それまで垂直に屹立していたシャフト20が、ロングストロークシアキー42を起点に撓んで左右に傾こうとした場合、その傾きを緩衝材41が吸収するため、シャフト20と地下室30との接続部分に過大な力が作用するのを防止できる。また、シアカラー40の上部とシャフト20の下端25の側面との間の隙間は、上述の傾きによって拡大ないし縮小するが、こうした変化を止水板43が柔軟に吸収し、前記の隙間を閉塞し続けて水密性を維持する。
【0034】
なお、上述した可撓性部材31の構成例の他に、
図5に示すように可撓性セグメント45を採用するとしてもよい。この場合、シャフト20のうち下端25の付近だけ、この可撓性セグメント45で構成する。可撓性セグメント45としては既存のものを採用すればよい。可撓性部材31を可撓性セグメント45で構成した場合、シャフト20が地震力によって揺動し、それまで垂直に屹立していたシャフト20が左右に傾こうとした場合、その傾きに対し、可撓性セグメント45が自らしなることでシャフト20の傾きを吸収することになる。
【0035】
なお、シャフト20と地下室30との接続箇所、すなわち可撓性部材31の周囲の盛土10を粘性土層10aで構成すれば好適である。これによれば、上述の接合箇所が外界から水密に遮蔽されることとなり、避難用構造物100として更に良好な水密性が維持されることになる。たとえ、想定を大きく超える非常に大規模な地震時の負荷が作用し、これを可撓性部材31が吸収しきれなかった場合でも、上述の粘性土層が接合箇所を水密に保ち、避難用構造物100としての機能は維持されることになる。
【0036】
以上のような構造の避難用構造物100は、その他にも、潜望鏡50、ディスプレイ装置60、透光性部材70、および光伝送路80を備えている。そのうち潜望鏡50は、盛土10より上方に対物部51を突出させ、接眼部55をシャフト20ないし地下室30の内空35に配置したものである。
図6は、本実施形態における潜望鏡50とディスプレイ装置60の構成例を示す図である。
図6の例では、潜望鏡50の接眼部55を、シャフト20に付帯する観察室20aに配置した構造例を示している。
【0037】
潜望鏡50における対物部51は、当該潜望鏡50の鏡筒50aの上部を構成しており、盛土10より上方に突出し地平方向に開口し対物レンズ52aが嵌め込まれた開口窓52、および開口窓52の内奥の鏡筒内に配置された直角プリズム53からなっている。鏡筒50aにおいては、こうした対物部51の下方に、直角プリズム53からの光を下方に伝えるレンズ群54が内蔵されている。一方、接眼部55は、前記のレンズ群54からの光を屈折させる直角プリズム56、この直角プリズム56から得た光を適宜な明るさと視野をもってユーザに提供する接眼レンズ57からなっている。また、当該潜望鏡50は、既存の潜望鏡が備えるように、鏡筒50aのうち少なくとも対物部51に該当する部分を上下に移動ないし伸縮させることが可能である。従って、通常は、対物部51を盛土頂部15や法面14から突出しないよう盛土10内の凹み10b等に収納しておき、ユーザの操作により盛土頂部15や法面14から突出させることが可能である。
【0038】
避難用構造物100が潜望鏡50を備えることで、避難用構造物100に逃げ込んだ避難者が、避難用構造物100の外、すなわち地上(水没状態の場合含む)の様子を潜望鏡50により観察し、以後の行動計画の判断材料を得ることが可能となる。例えば、海岸線を越えた津波が急速に接近しつつある、或いは、襲来した津波による海水面が上昇しつつあり、その水位が水密ハッチ21の高さに迫っている、といった状況が潜望鏡50により観察された場合、避難用構造物100に所在する避難者らは、それまで、新たな避難者のために開放していた水密ハッチ21の閉塞を決断することができる。或いは、津波襲来の後に相応の時間が経過し、水没していた水密ハッチ21が水面上に完全に露出し、海水面水位が下降し続けている、といった状況が潜望鏡50により観察された場合、避難用構造物100に所在する避難者らは、それまで閉塞していた水密ハッチ21を開放し、避難用構造物100を退去するといった決断を行うことができる。
【0039】
なお、上述した潜望鏡50が、デジタルビデオカメラ等と同様に、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)といった適宜な撮像素子とその制御装置等を備えて、盛土外の撮像データを取得するものであるとしてもよい。
図6では、直角プリズム56の直前に撮像素子58を配置した例を示している。なお、
図6では、潜望鏡50の構造例を詳細に示すため、ディスプレイ装置60や地下室30との相対的な大きさを超えて、より大きく図示している。
【0040】
こうした、潜望鏡50が撮像素子58を備える構成の場合、シャフト20ないし地下室30に備わるディスプレイ装置60は、潜望鏡50の撮像素子58にて取得した盛土外の撮像データを表示することとなる。なお、潜望鏡50における撮像素子58の制御装置59とディスプレイ装置60との間は、潜望鏡50で得た撮像データをディスプレイ装置60に送るための同軸ケーブルや光ファイバー等のケーブル65で結ばれている。
【0041】
これによれば、潜望鏡50で撮影された画像を、シャフト20や地下室30に設置したディスプレイ装置60にて表示し、多くの避難者に効率良く提示することが可能となる。閉塞空間である避難用構造物100に逃げ込んだ避難者にとって、外部の状況を映像によって確実に認識できることは、精神的安定につながる。また、外部の状況を多くの避難者らで一度に確認出来ることで、水密ハッチ21の開閉の合意を避難者間で速やかに得ることも出来る。
【0042】
また、上述の透光性部材70は、盛土10における盛土頂部15や法面14など表面11に埋め込まれたものであり、上面71にて避難用構造物100の外部の光を受け、この光を背面72に透過させる。
図7は本実施形態における透光性部材70と光伝送路80の構成例を示す図である。
【0043】
この透光性部材70は、ガラスや透明な樹脂で構成された板材、或いは凸レンズを採用でき、適宜な強度を有するものであればよい。透光性部材70の背面72を通過した盛土外の光は、透光性部材70の背面に、その端部が水密に接続された光伝送路80を介してシャフト20ないし地下室30の内空35に導かれる。光伝送路80としては光ファイバを採用することができる。こうした構成を採用すれば、避難用構造物100において蓄電池や自家発電機などの電源が失われた状況となっても、外部の光をシャフト20や地下室30に導いて照明を維持することが可能となる。
【0044】
なお、避難用構造物100は、上述した臨海平野等における地表面1に単体で構築する場合だけでなく、複数の避難用構造物100を所定のパターンで配置する形態も採用できる。
図8は本実施形態における避難用施設200の構成例を示す図である。本実施形態における、複数の避難用構造物100で構成される避難用施設200は、
図8に示すように、避難用構造物100を千鳥状に平面配置したものとなる。
【0045】
避難用構造物100を千鳥状に平面配置することで、海岸線2より襲来した津波90が、まず第1列目の避難用構造物110それぞれに衝突し、この第1列目の避難用構造物110のそれぞれの周囲に分流91a、91bを生じる。この際、第1列目の避難用構造物110のうち、隣り合う避難用構造物同士で発生している分流91a、91bが互いに衝突し、その水勢を弱め合って合流し、水流92を生じる。その後、この第1列目の各避難用構造物110を通過してそれぞれ生じた上述の水流92が、第2列目の避難用構造物120に衝突し、この第2列目の避難用構造物120のそれぞれの周囲に分流92a、92bを生じる。この際、第2列目の避難用構造物120のうち、隣り合う避難用構造物同士で発生している分流92a、92bが互いに衝突し、その水勢を弱め合うことになる。このように、千鳥状に並んだ各列の避難用構造物各間で生じることで、避難用施設200全体として津波90の水勢を弱め、各避難用構造物100への津波の影響を抑制すると共に、避難用施設200の後背地300における津波被害の軽減を図ることもできる。避難用構造物100を千鳥状に平面配置する場合の、避難用構造物の配置数、避難用構造物各間の配置間隔や配置角度については、水理学に基づくシミュレーション等を行って、想定される津波の水勢が最も効率的に減衰するパターンを特定し決定するものとする。
【0046】
なお、本実施形態の避難用構造物100は、
図2等でも示したように断面は円形をなしており、襲来する津波90を分流させるなどして、その波圧を側方に逃がしつつ対抗する構造となっている。そのため、堤防や防潮堤などのようにほぼ平面で津波90に対抗し、その波圧をまともに受け止める構造と比べ、津波90による衝撃を緩和する機能を備えている。
【0047】
以上、本実施形態によれば、津波の発生原因たる地震に対して良好な耐久性を備え、津波発生時には効率的で的確な避難行動が可能となる。
【0048】
本発明の実施の形態について、その実施の形態に基づき具体的に説明したが、これに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。