(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態に係る蓄電素子について説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。本発明は、特許請求の範囲だけによって限定される。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、本発明の課題を達成するのに必ずしも必要ではないが、より好ましい形態を構成するものとして説明される。
【0022】
まず、蓄電素子10の構成について、説明する。
【0023】
図1は、本発明の実施の形態に係る蓄電素子10の外観斜視図である。なお、同図は、容器内部を透視した図となっている。
【0024】
蓄電素子10は、電気を充電し、また、電気を放電することのできる二次電池であり、より具体的には、リチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池である。例えば、蓄電素子10は、高レートサイクルの充放電を行うハイブリッド電気自動車に使用される二次電池である。
【0025】
同図に示すように、蓄電素子10は、容器100と、正極端子200と、負極端子300とを備え、容器100は、上壁であるふた板110を備えている。また、容器100内方には、電極体400と、正極集電体120と、負極集電体130とが配置されている。
【0026】
なお、蓄電素子10の容器100の内部には電解液などの液体が封入されているが、当該液体の図示は省略する。また、蓄電素子10は、非水電解質二次電池には限定されず、非水電解質二次電池以外の二次電池であってもよいし、キャパシタであってもよい。
【0027】
容器100は、金属からなる矩形筒状で底を備える筐体本体と、当該筐体本体の開口を閉塞する金属製のふた板110とで構成されている。また、容器100は、電極体400等を内部に収容後、ふた板110と筐体本体とが溶接等されることにより、内部を密封することができるものとなっている。
【0028】
電極体400は、正極と負極とセパレータとを備え、電気を蓄えることができる部材である。具体的には、電極体400は、負極と正極との間にセパレータが挟み込まれるように層状に配置されたものを全体が長円形状となるように捲回されて形成されている。なお、同図では、電極体400の形状としては長円形状を示したが、円形状または楕円形状でもよい。また、電極体400の形状は捲回型に限らず、平板状極板を積層した形状でもよい。電極体400の詳細な構成については、後述する。
【0029】
正極端子200は、電極体400の正極に電気的に接続された電極端子であり、負極端子300は、電極体400の負極に電気的に接続された電極端子である。つまり、正極端子200及び負極端子300は、電極体400に蓄えられている電気を蓄電素子10の外部空間に導出し、また、電極体400に電気を蓄えるために蓄電素子10の内部空間に電気を導入するための金属製の電極端子である。また、正極端子200及び負極端子300は、電極体400の上方に配置されたふた板110に取り付けられている。
【0030】
正極集電体120は、電極体400の正極と容器100の側壁との間に配置され、正極端子200と電極体400の正極とに電気的に接続される導電性と剛性とを備えた部材である。なお、正極集電体120は、電極体400の正極と同様、アルミニウムで形成されている。
【0031】
負極集電体130は、電極体400の負極と容器100の側壁との間に配置され、負極端子300と電極体400の負極とに電気的に接続される導電性と剛性とを備えた部材である。なお、負極集電体130は、電極体400の負極と同様、銅で形成されている。
【0032】
また、容器100の内部に封入される非水電解液は、電池としての性能を損なうものでなければその種類に特に制限はなく様々なものを選択することができる。例えば、非水電解液の有機溶媒として、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、スルホラン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、2−メチル−1,3−ジオキソラン、ジオキソラン、フルオロエチルメチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、エチレングリコールジプロピオネート、プロピレングリコールジプロピオネート、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、エチルイソプロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート、アセトニトリル、フルオロアセトニトリル、エトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、ジエトキシテトラフルオロシクロトリホスファゼン、フェノキシペンタフルオロシクロトリホスファゼンなどのアルコキシ及びハロゲン置換環状ホスファゼン類または鎖状ホスファゼン類、リン酸トリエチル、リン酸トリメチル、リン酸トリオクチルなどのリン酸エステル類、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリブチルなどのホウ酸エステル類、N−メチルオキサゾリジノン、N−エチルオキサゾリジノン等の非水溶媒が挙げられる。また、固体電解質を用いる場合は、高分子固体電解質として有孔性高分子固体電解質膜を用い、高分子固体電解質にさらに電解液を含有させることで良い。また、ゲル状の高分子固体電解質を用いる場合には、ゲルを構成する電解液と、細孔中等に含有されている電解液とは異なっていてもよい。但し、HEV用途のように高い出力が要求される場合は、固体電解質や高分子固体電解質を用いるよりも電解質として非水電解液を単独で用いるほうがより好ましい。
【0033】
また、非水電解質としては、特に制限はなく、LiClO
4、LiBF
4、LiAsF
6、LiPF
6、LiCF
3SO
3、LiN(SO
2CF
3)
2、LiN(SO
2C
2F
5)
2、LiN(SO
2CF
3)(SO
2C
4F
9)、LiSCN、LiBr、LiI、Li
2SO
4、Li
2B
10Cl
10、NaClO
4、NaI、NaSCN、NaBr、KClO
4、KSCN等のイオン性化合物及びそれらの2種類以上の混合物などが挙げられる。
【0034】
蓄電素子10においては、これらの有機溶媒と非水電解質とを組み合わせて、非水電解液として使用する。なお、これらの非水電解液の中では、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネートを混合して使用すると、リチウムイオンの伝導度が極大となるために好ましい。
【0035】
次に、電極体400の詳細な構成について、説明する。
【0036】
図2は、本発明の実施の形態に係る電極体400の構成を説明するための図である。具体的には、同図は、
図1で示されたように捲回される前の電極体400aを示す図である。
【0037】
同図に示すように、電極体400aは、正極板410、負極板420及び2つのセパレータ430及び440を備えている。
【0038】
正極板410は、アルミニウムからなる長尺帯状の正極集電体シートの表面に、正極活物質層が形成されたものである。なお、本発明に係る蓄電素子10に用いられる正極板410は、特に従来用いられてきたものと異なるところはなく、通常用いられているものが使用できる。
【0039】
例えば、正極活物質としては、LiMPO
4、LiMSiO
4、LiMBO
3(MはFe、Ni、Mn、Co等から選択される1種または2種以上の遷移金属元素)等のポリアニオン化合物、チタン酸リチウム、マンガン酸リチウム等のスピネル化合物、LiMO
2(MはFe、Ni、Mn、Co等から選択される1種または2種以上の遷移金属元素)等のリチウム遷移金属酸化物等を用いることができる。
【0040】
ここで、本実施の形態では、正極活物質として、Li
aNi
bM1
cM2
dW
xNb
yZr
zO
2(但し、式中、a、b、c、d、x、y、zは、0≦a≦1.2、0≦b≦1、0≦c≦0.5、0≦d≦0.5、0≦x≦0.1、0≦y≦0.1、0≦z≦0.1、b+c+d=1を満たす。M1、M2はMn、Ti、Cr、Fe、Co、Cu、Zn、Al、Ge、Sn、Mg、及びZrからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、M1≠M2である。)で表される化合物を有するのが好ましい。
【0041】
負極板420は、銅からなる長尺帯状の負極集電体シートの表面に、負極活物質層が形成されたものである。なお、本発明に係る蓄電素子10に用いられる負極板420は、特に従来用いられてきたものと異なるところはなく、通常用いられているものが使用できる。
【0042】
例えば、負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質であれば、適宜公知の材料を使用できる。例えば、リチウム金属、リチウム合金(リチウム−アルミニウム、リチウム−鉛、リチウム−錫、リチウム−アルミニウム−錫、リチウム−ガリウム、及びウッド合金等のリチウム金属含有合金)の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えば黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)、金属酸化物、リチウム金属酸化物(Li
4Ti
6O
12等)、ポリリン酸化合物などが挙げられる。
【0043】
ここで、本実施の形態では、負極は、負極活物質としてハードカーボンを有するのが好ましい。
【0044】
セパレータ430は、正極板410と負極板420との間に配置される長尺帯状のセパレータである。このセパレータ430の構成について、以下に詳細に説明する。
【0045】
図3は、本発明の実施の形態に係るセパレータ430の構成を説明するための図である。
【0046】
同図に示すように、セパレータ430は、基材層431及び塗工層432を備えている。
【0047】
基材層431は、セパレータ430の本体であり、透気度が250(sec/100cc)以下、気孔率が45%以上の微多孔性のシートである。なお、この基材層431の透気度及び気孔率の測定方法については、後述する。
【0048】
具体的には、基材層431としては、ポリマー、天然繊維、炭化水素繊維、ガラス繊維またはセラミック繊維の織物または不織繊維を有する樹脂多孔膜が用いられる。また、当該樹脂多孔膜は、好ましくは、織物または不織ポリマー繊維を有する。特に、当該樹脂多孔膜は、ポリマー織物またはフリースを有するかまたはこのような織物またはフリースであるのが好ましい。ポリマー繊維としては、好ましくは、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリアミド(PA)、ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)及び/またはポリオレフィン(PO)、例えばポリプロピレン(PP)またはポリエチレン(PE)またはこのようなポリオレフィンの混合物から選択したポリマーの非電導性繊維を有する。また、当該樹脂多孔膜は、ポリオレフィン微多孔膜、不織布、紙等であってもよく、好ましくはポリオレフィン微多孔膜である。多孔質ポリオレフィン層としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはこれらの複合膜などを利用することができる。なお、電池特性への影響を考慮すると、基材層431の厚みは5〜30μm程度であるのが好ましい。
【0049】
なお、基材層431の気孔率は、大きくし過ぎると熱収縮性やシャットダウン特性に悪影響を及ぼすため、80%以下であるのが好ましい。
【0050】
塗工層432は、基材層431の少なくとも一面に配され、基材層431上に塗工された層である。なお、同図では、塗工層432は、基材層431の上面に塗工されているが、基材層431の下面、または両面に塗工されていてもよい。また、塗工層432は、透気度が15(sec/100cc)以下である。なお、この塗工層432の透気度の測定方法については、後述する。
【0051】
具体的には、塗工層432は、耐熱粒子として、耐熱性の無機粒子及び樹脂粒子の少なくとも一方を含む耐熱塗工層である。なお、塗工層432は、当該耐熱粒子の割合が、基材層側半分432aと表面側半分432bとで略同一であるのが好ましい。なお、当該耐熱粒子の割合は、走査型電子顕微鏡(SEM)で塗工層432の垂直断面を観察することにより、測定することができる。
【0052】
具体的には、上記の無機粒子は、下記のうちの一つ以上の無機物の単独もしくは混合体もしくは複合化合物からなる。例えば、酸化鉄、SiO
2、Al
2O
3、TiO
2、BaTiO
2、ZrO、アルミナ−シリカ複合酸化物などの酸化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物微粒子、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結晶微粒子、シリコン、ダイヤモンドなどの共有結合性結晶微粒子、タルク、モンモリロナイトなどの粘土微粒子、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカなどの鉱物資源由来物質あるいはそれらの人造物などが上記の無機物として挙げられる。また、上記の無機物は、SnO
2、スズ−インジウム酸化物(ITO)などの酸化物微粒子、カーボンブラック、グラファイトなどの炭素質微粒子などの導電性微粒子の表面を、電気絶縁性を有する材料(例えば、上記の電気絶縁性の無機粒子を構成する材料)で表面処理することで、電気絶縁性を持たせた微粒子であってもよい。
【0053】
なお、本実施の形態では、当該無機粒子は、SiO
2、Al
2O
3またはアルミナ−シリカ複合酸化物であるのが好ましい。
【0054】
上記の樹脂粒子は、基材層431の構成材料よりも軟化点の高い材料であれば特に限定されないが、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、架橋ポリメチルメタクリレート(架橋PMMA)、架橋ポリスチレン(架橋PS)、ポリジビニルベンゼン(PDVB)、ベンゾグアナミン−ホルムアルデヒド縮合物などの架橋高分子、熱可塑性ポリイミドなどの耐熱性高分子が挙げられる。これらの有機樹脂(高分子)は、前記例示の材料の混合物、変性体、誘導体、共重合体(ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体)、架橋体(前記の耐熱性高分子の場合)であってもよい。
【0055】
また、当該塗工層432は、耐熱粒子及びバインダを溶媒に分散させた溶液を基材層431に塗布することによって形成されることが望ましい。このバインダとしては、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレンあるいはポリカーボネートを挙げることができる。特に、電気化学的な安定性の点からは、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレンあるいはポリエチレンオキサイドが好ましい。
【0056】
なお、本実施の形態で用いるバインダは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸またはスチレン−ブタジエンゴムであるのが好ましい。
【0057】
図2に戻り、セパレータ440は、負極板420上に配置される長尺帯状のセパレータである。なお、セパレータ440は、セパレータ430と同様の構成を有するため、詳細な説明は省略する。
【0058】
そして、正極板410、セパレータ430、負極板420及びセパレータ440が、ともに長手方向(
図2に示すX軸方向)に捲回され複数層積層されることで、
図1に示す電極体400が形成される。これにより、セパレータ440についても、正極板410と負極板420との間に配置されることになる。
【0059】
以下、このセパレータ440を備える蓄電素子10が、一過性の出力劣化を大きく改善することができることについて、詳細に説明する。
【0060】
[実施例]
まず、蓄電素子10の製造方法について説明する。具体的には、以下のようにして、後述する実施例1〜14及び比較例1〜8における蓄電素子としての電池の作製を行った。なお、実施例1〜14は、いずれも、上述した実施の形態に係る蓄電素子10に関するものである。
【0061】
(1−1)正極板の作製
正極活物質として、実施例1〜11、13、14及び比較例1〜6、8においては平均粒子径d50=4μmのLiCoO
2を用い、実施例12及び比較例7においては平均粒子径d50=4μmのLiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2を用いた。また、導電助剤にはアセチレンブラック、バインダにはPVDFを用い、正極活物質が90質量%、導電助剤が5質量%、バインダが5質量%となるように配合した。また、箔には、厚さ20μmのアルミニウム箔を用い、正極活物質、導電助剤、バインダにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を加え混練し箔状に塗布乾燥後、プレスを行った。
【0062】
(1−2)負極板の作製
負極活物質として、実施例1〜11、13、14及び比較例1〜6、8においては平均粒子径d50=10μmのグラファイトを用い、実施例12及び比較例7においては平均粒子径d50=10μmのハードカーボンを用いた。また、バインダにはPVDFを用い、負極活物質が95質量%、バインダが5質量%となるように配合した。また、箔には、厚さ15μmの銅箔を用い、負極活物質、導電助剤、バインダにNMPを加え混練し箔状に塗布乾燥後、プレスを行った。なお、正極活物質及び負極活物質の平均粒子径の測定は、粒度分布測定装置Shimadzu SALD−2200(WingSALD II:Version 2.1.0)を使用した。
【0063】
(1−3)セパレータの作製
基材層として、実施例1〜14及び比較例1〜8の基材層透気度を有する、ポリエチレンを主成分とする厚み20マイクロmの微多孔膜を使用した。また、無機粒子(アルミナ粒子)、バインダ(SBR)、増粘剤(CMC)、溶剤(イオン交換水)及び界面活性剤を、アルミナ粒子とバインダの比率が97:3となるように混合し、コート剤を作製した。そして、コート剤を基材層上にグラビア法にてコートし塗工後、80℃12時間の乾燥を実施することで、無機塗工厚み5μmの塗工層を得た。ここで、バインダ、増粘剤、界面活性剤の比率及び固形分比率の微調整にてコート剤を変化させ、あるいは基材層の表面の改質処理を実施することで、塗工層透気度及び界面透気度を変化させ、実施例1〜14及び比較例1〜8のセパレータを作製した。
【0064】
(1−4)電解液の生成
電解液には、プロピレンカーボネート(PC):ジメチルカーボネート(DMC):エチルメチルカーボネート(EMC)=3:2:5(体積比)の混合溶媒に、LiPF
6を1mol/L添加することにより調整した。
【0065】
(1−5)電池の作製
正極、負極及びセパレータを、セパレータの塗工層が正極に対向するようにして捲回後、集電させた。
【0066】
次に、以下のようにして、電池の評価試験(全試験3Nの平均)を行った。
【0067】
(2−1)出力試験
実施例1〜14及び比較例1〜8の各電池を用いて、以下の方法により評価試験を行った。まず、直前の25℃4A放電試験(上限4.1V、下限2.4V)にて放電した電流容量を1Cとして25℃0.5C1時間にて、SOC(State Of Charge)を50%に調整した。なお、温度25℃、電流30C放電方向で実施した。そして、抵抗D1=(10s目の電圧と通電前の電圧の差)/電流にて、抵抗D1を算出し、電池出力W1=(通電前電圧−下限電圧)/抵抗*下限電圧にて、電池出力W1を算出した。
【0068】
(2−2)低レート一過性出力劣化試験
上記の出力試験と同じ方法で、サイクル実施前の抵抗を取得した。そして、SOC50%状態にて、電流1Cにて2分以内に30秒連続放電及び30秒連続充電を含むサイクルを、連続1000サイクル実施した。そして、サイクル終了後2時間以内に出力試験を実施して、抵抗D2を算出した。これにより、低レートサイクルでの一過性の出力劣化を示す低レート一過性劣化率R2=D2/D1を算出した。
【0069】
(2−3)高レート一過性出力劣化試験
上記の出力試験と同じ方法で、サイクル実施前の抵抗を取得した。そして、SOC50%状態にて、電流10Cにて2分以内に30秒連続放電及び30秒連続充電を含むサイクルを、連続1000サイクル実施した。そして、サイクル終了後2時間以内に出力試験を実施して、抵抗D3を算出した。これにより、高レートサイクルでの一過性の出力劣化を示す高レート一過性劣化率R3=D3/D1を算出した。
【0070】
(2−4)微小短絡発生率評価試験
実施例1〜14及び比較例1〜8の各電池を用いて、以下の方法により評価試験を行った。まず、電池の化成処理後に、電池を定格容量の20%に充電した状態で25℃雰囲気下、20日間放置した。そして、放置前の電池電圧と比較して、放置後に0.1V以上電池電圧の低下があった電池の割合を算出した。より具体的には、放電状態から0.5Cの充電電流にて0.4時間充電した後、1時間経過後に電池電圧を測定し、放置前の電池電圧(V)とした。その後、25℃雰囲気下で20日間放置後に電池電圧を測定し、放置後の電池電圧(V)とした。そして、放置前の電池電圧(V)−放置後の電池電圧(V)の値が0.1V以上であった電池を微小短絡が発生したものとみなした。各実施例及び各比較例について、それぞれ20セルずつ試験を行い、微小短絡が発生した電池の割合を算出することで、微小短絡発生率(%)を測定した。
【0071】
次に、以下のようにして、セパレータの全透気度、セパレータの基材層、塗工層及び界面の透気度、及びセパレータの基材層気孔率(ポロシティ)の測定を行った。なお、各試験とも5Nの平均値を算出した。具体的には、各セパレータサンプルにおける各測定値の5Nの平均値を、それぞれ、全透気度、基材層透気度、塗工層透気度、界面透気度、及び基材層気孔率とした。
【0072】
(3−1)前処理後のセパレータサンプルを取得し、各サンプルを測定する。
捲回型の電池については、正極の全ターンを3分割した外側から1/3分、2/3分、3/3分の範囲について、各々の範囲のうち任意の正極ターンとその次の正極ターンとの間の正極直線部と、その外側に位置する負極とに挟まれたセパレータの直線部の中央においてサンプリングを行い、DMC洗浄後、常温真空乾燥し前処理後のセパレータサンプルとする。
【0073】
また、積層型の電池については、全積層の片側から1/3、2/3、3/3の範囲(ターン数の場合と同じ定義。方向は任意)について、各々の範囲のうち任意の層の中央部においてサンプリングを行い、DMC洗浄後、常温真空乾燥し前処理後のセパレータサンプルとする。サンプルの大きさは評価可能な任意の大きさでよいが、特に指定する場合は4cm×4cmとする。
【0074】
前処理後の各セパレータサンプルについて、ガーレー法(JIS8119)規定面積あたり100ccの空気が透過する時間を計測することで、各セパレータサンプルの全透気度Ta(sec/100cc)を取得した。また、前処理後の各セパレータサンプルについて、単位面積重量(目付け重量)Wa(g/10cm
2)を取得した。
【0075】
(3−2)超音波洗浄後のセパレータサンプルを取得し、各サンプルを測定する。
上記サンプルを水:エタノール=1:1(vol%)の液に浸漬させた状態にて、浸漬容器ごと超音波洗浄を実施する。超音波洗浄にて塗工層が完全に剥離されたかどうかを光学顕微鏡表面観察(×5〜×500倍)にて確認し、塗工層剥離が確認された時点で常温にて2時間以上真空乾燥することで、超音波洗浄後のセパレータサンプルとする。
【0076】
超音波洗浄後の各セパレータサンプルについて、透気度Tb(sec/100cc)及び単位面積重量(目付け重量)Wb(g/10cm
2)を測定した。これにより、基材層透気度Tbを取得した。
【0077】
(3−3)テープ剥離後のセパレータサンプルを取得し、各サンプルを測定する。
上記前処理後のセパレータサンプルについて、塗工層面にメンディングテープを貼りつけ、180°テープ剥離試験(JIS K 6854−2)による引き剥がしを行い、テープ剥離後のセパレータサンプルとする。なお、両面に塗工層が配されたセパレータの場合は、両面の剥離を実施する。
【0078】
テープ剥離後の各セパレータサンプルについて、透気度Tc(sec/100cc)及び単位面積重量(目付け重量)Wc(g/10cm
2)を測定した。
【0079】
(3−4)非塗工部のセパレータサンプルを取得し、各サンプルを測定する。
x=(Wc−Wb)/(Wa−Wb)*100を計算し、xが20以下であれば(3−3)のサンプルを非塗工部のセパレータサンプルとする。xが20より大きければ、(3−3)のサンプルを再度メンディングテープによる剥離を実施して、xが20以下となるまで繰り返し、非塗工部のセパレータサンプルとする。
【0080】
非塗工部の各セパレータサンプルについて、目付重量W(g/10cm
2)及び厚みD(μm)を測定した。
【0081】
(3−5)塗工層透気度Tdを取得する。
各セパレータサンプルの塗工層透気度Td(sec/100cc)は、塗工層透気度Td=(Wa−Wb)/(Wa−Wc)*(Ta−Tc)により、算出した。なお、Td<0の場合はTd=0とする。
【0082】
(3−6)界面透気度Teを取得する。
各セパレータサンプルの界面透気度Te(sec/100cc)は、界面透気度Te=Ta−Tb−Tdにより、算出した。なお、Te<0の場合はTe=0とする。
【0083】
(3−7)基材層気孔率(ポロシティ)Pを取得する。
上記(3−4)の非塗工部の各セパレータサンプルについて、水銀圧入法にて、重量あたり圧入量A(cc/g)を測定する。そして、基材層気孔率(ポロシティ)P(%)は、P=A/(1/W)*(D/1000)*100により、算出した。
【0084】
なお、例えばポリオレフィン微多孔膜においては、樹脂種類(組成比、分子量等)、可塑剤比率、延伸倍率、熱固定条件を変えることで、気孔率を変化させることができる。
【0085】
以上のようにして取得したセパレータの全透気度、基材層気孔率、基材層透気度、塗工層透気度、界面透気度、電池出力、低レート一過性劣化率、高レート一過性劣化率及び微小短絡発生率の値を、以下の表1に示す。
【0086】
つまり、以下の表1では、実施例1〜11、13、14及び比較例1〜6、8について、基材層気孔率、基材層透気度、塗工層透気度または界面透気度を変化させた場合の、電池出力と電池の一過性の出力劣化と微小短絡発生率とを比較している。
【0087】
また、実施例12及び比較例7については、実施例1及び比較例1の正極活物質をLiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2とし、負極活物質をハードカーボンとした場合の、電池出力と電池の一過性の出力劣化とを比較している。
【0088】
なお、表1における各実施例及び比較例の電池出力、低レート一過性劣化率及び高レート一過性劣化率については、実施例1における値を100とした場合の値を示している。
【0090】
また、
図4A及び
図4Bは、本発明の実施の形態に係るセパレータ440を備える蓄電素子10が奏する効果について説明するための図である。具体的には、
図4Aは、表1における各実施例及び比較例についての高レート一過性劣化率の値を示すグラフである。また、
図4Bは、表1における各実施例及び比較例についての電池出力の値を示すグラフである。
【0091】
表1に示すように、実施例1〜3及び比較例1は、基材層気孔率、基材層透気度及び塗工層透気度を固定し、界面透気度を変化させた場合の電池の一過性の出力劣化を示している。そして、この表1及び
図4Aに示すように、界面透気度が15(sec/100cc)以下の場合に、高レートサイクルによる一過性の出力劣化を大きく改善することができている。
【0092】
また、表1に示すように、実施例4、5及び比較例2は、基材層気孔率、基材層透気度及び界面透気度を固定し、塗工層透気度を変化させた場合の電池の一過性の出力劣化を示している。そして、この表1及び
図4Aに示すように、塗工層透気度が15(sec/100cc)以下の場合に、高レートサイクルによる一過性の出力劣化を大きく改善することができている。
【0093】
また、表1に示すように、実施例6〜9及び比較例3、4は、基材層気孔率、塗工層透気度及び界面透気度を固定し、基材層透気度を変化させた場合の電池の一過性の出力劣化を示している。そして、この表1及び
図4Aに示すように、基材層透気度が250(sec/100cc)以下の場合に、高レートサイクルによる一過性の出力劣化を大きく改善することができている。
【0094】
また、表1に示すように、実施例10、11及び比較例5、6は、基材層透気度、塗工層透気度及び界面透気度を固定し、基材層気孔率を変化させた場合の電池の一過性の出力劣化を示している。そして、この表1及び
図4Aに示すように、基材層気孔率が45%以上の場合に、高レートサイクルによる一過性の出力劣化を大きく改善することができている。
【0095】
また、表1に示すように、実施例12及び比較例7は、実施例1及び比較例1の正極活物質をLiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2に、負極活物質をハードカーボンに変更した場合の電池出力と電池の一過性の出力劣化とを示している。表1及び
図4Aによると、比較例7は比較例1に比べて、一過性の出力劣化が顕著に生じている。そして、この表1及び
図4Bに示すように、実施例12及び比較例7は、それぞれ実施例1及び比較例1に比べ、電池出力が大幅に上昇している。また、表1及び
図4Aに示すように、実施例12は、実施例1に比べ、一過性の出力劣化をより顕著に改善することができている。
【0096】
また、表1に示すように、実施例13、14及び比較例8は、塗工層透気度及び界面透気度を固定し、基材層透気度を変化させた場合の電池出力と電池の一過性の出力劣化と微小短絡発生率とを示している。なお、比較例8においては、上記の(3−3)で規定しているテープ剥離試験を行ったところ、テープ剥離の際の引き剥がし時に基材層が損傷したことにより、透気度Tcが測定できなかった。このため、表1の塗工層透気度の欄と界面透気度の欄とに「−」を記載している。
【0097】
この表1及び
図4Aに示すように、基材層透気度が25(sec/100cc)以上の場合に、高レートサイクルによる一過性の出力劣化を大きく改善することができており、基材層透気度が35(sec/100cc)以上の場合に、当該一過性の出力劣化をさらに改善することができている。また、表1及び
図4Bに示すように、実施例13、14は、実施例1に比べ電池出力を大幅に上昇させることができている。また、表1に示すように、基材層透気度が35(sec/100cc)以上の場合に、微小短絡の発生を抑制することができている。
【0098】
以上のように、本発明の実施の形態に係る蓄電素子10によれば、基材層431と塗工層432とを有するセパレータ430を備え、セパレータ430は、基材層431の透気度が25(sec/100cc)以上かつ250(sec/100cc)以下であり、基材層431の気孔率が45%以上であり、基材層431と塗工層432との界面433の透気度が15(sec/100cc)以下であり、塗工層432の透気度が15(sec/100cc)以下である。つまり、本願発明者らは、鋭意検討の結果、基材層431と塗工層432とを有するセパレータ430を備えた蓄電素子10の一過性の出力劣化を大きく改善するには、基材層431及び塗工層432の透気度を低減するとともに、界面433の透気度も低減することが必要であり、さらに、基材層431の気孔率を増加させることも必要であることを見出した。具体的には、本願発明者らは、鋭意実験の結果、基材層431の透気度が25(sec/100cc)以上かつ250(sec/100cc)以下、基材層431の気孔率が45%以上、基材層431と塗工層432との界面433の透気度が15(sec/100cc)以下、及び塗工層432の透気度が15(sec/100cc)以下である場合に、イオンの部分的な通過阻害が起こり難くなり、蓄電素子10の一過性の出力劣化を大きく改善することができることを見出した。このため、多層構造のセパレータ430を備えた当該蓄電素子10によれば、一過性の出力劣化を大きく改善することができる。特に、当該蓄電素子10によれば、高レートサイクルによる一過性の出力劣化を大きく改善することができる。
【0099】
また、本願発明者らは、鋭意検討の結果、当該蓄電素子10において、基材層431の透気度が35(sec/100cc)以上である場合に、当該一過性の出力劣化をさらに改善することができるとともに、微小短絡の発生を抑制することができることを見出した。このため、当該蓄電素子10によれば、微小短絡の発生を抑制しつつ一過性の出力劣化を大きく改善することができる。
【0100】
また、蓄電素子10は、正極活物質として、所定の条件でのLi
aNi
bM1
cM2
dW
xNb
yZr
zO
2で表される化合物を有し、負極活物質としてハードカーボンを有する。ここで、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、当該正極活物質と当該負極活物質および多層構造のセパレータを用いることによって容量および出力を大きく上昇させることができたが、高レートサイクル後の一過性の出力劣化の程度がより顕著になるという問題を見出した。そして、さらなる検討の結果、当該正極活物質と当該負極活物質と、透気度及び気孔率が上記の範囲にあるセパレータとを用いることで、出力を大きく上昇することができるとともに、高レートサイクル後の一過性の出力劣化がより顕著に改善できることを見出した。このため、多層構造のセパレータを備えた当該蓄電素子によれば、出力を大きく上昇させるとともに、一過性の出力劣化をより顕著に改善することができる。
【0101】
なお、本発明は、このような蓄電素子10として実現することができるだけでなく、蓄電素子10が備えるセパレータ430として実現することもできる。
【0102】
以上、本発明の実施の形態に係る蓄電素子10について説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。
【0103】
つまり、今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。