特許第6179161号(P6179161)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6179161-熱可塑性樹脂組成物 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6179161
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20170807BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20170807BHJP
   C08K 5/29 20060101ALI20170807BHJP
   C08L 23/02 20060101ALI20170807BHJP
   C08K 5/49 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   C08L69/00
   C08L67/02
   C08K5/29
   C08L23/02
   C08K5/49
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-68787(P2013-68787)
(22)【出願日】2013年3月28日
(65)【公開番号】特開2014-189729(P2014-189729A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小出 早苗
(72)【発明者】
【氏名】若尾 創
(72)【発明者】
【氏名】宇野 智幸
【審査官】 大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−255214(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリブチレンテレフタレート5〜48重量部および(B)ポリカーボネート52〜95重量部の合計100重量部に対して、(C)カルボジイミド化合物0.1〜3.5重量部、(D)α−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステルを共重合成分とするグリシジル基含有共重合体1〜15重量部および(E)リン系安定剤を配合してなり、
ISO179−1:2000に準拠してノッチ付シャルピー試験片を成形し、温度121℃、湿度100%RH環境下で20時間処理した後、ISO179に準拠して測定したときのシャルピー衝撃強度が25kJ/m以上となる
熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(E)リン系安定剤がホスフェート化合物を含む請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(E)リン系安定剤の配合量が、前記(A)ポリブチレンテレフタレートおよび前記(B)ポリカーボネートの合計100重量部に対して、0.005〜0.02重量部である請求項1または2記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(C)カルボジイミド化合物および前記(D)グリシジル基含有共重合体の合計配合量に対する前記(E)リン系安定剤の配合量の比(重量比)が0.047/100〜1.55/100である請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、カルボジイミド化合物、α−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステルを共重合成分とするグリシジル基含有共重合体およびリン系安定剤を配合してなる熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと略記することがある。)は、電気特性、耐薬品性、耐熱性、寸法安定性などに優れているため、各種の電気・電子機器部品、自動車、列車、電車などの車両用内外装部品、その他の一般工業製品製造用材料として、広く使用されている。
【0003】
PBTは加水分解しやすい性質を有することから、ドアハンドルやクラッシュパッドなどの、雨風にさらされる使用環境下にある自動車外装部品などに用いられる場合には、吸湿・加水分解による機械特性の低下が懸念される。このことから、これら自動車外装部品には、長期の湿熱環境下において高い靭性を維持できる、耐湿熱性に優れた材料が求められる。PBTの加水分解を防ぐ手段としては、グリシジル基含有共重合体やエポキシ系末端封鎖剤の添加が一般的である。
【0004】
また、ドアハンドルや樹脂スペーサー(衝撃緩衝材)のような高い靭性を必要とする自動車外装部品においては、ポリカーボネート等の非晶性樹脂とのアロイが使用されることが多い。結晶性樹脂であるPBTと非晶性樹脂であるポリカーボネートとのアロイを用いることにより、高い衝撃強度を発現できる。しかし、アロイ化によってPBTとポリカーボネートの間でエステル交換反応が起こることにより、滞留後の結晶化温度が低下するなど、滞留安定性が課題である。このため、リン系安定剤を配合してPBTとポリカーボネートとのエステル交換反応を抑制することが知られている。PBTとポリカーボネートとのアロイとしては、例えば、芳香族ポリエステルおよび芳香族ポリカーボネートからなる熱可塑性樹脂に対して、衝撃改良剤、フェノール系抗酸化剤、チオエーテル系抗酸化剤、リン系抗酸化剤および特定構造の二官能安定剤を含有せしめてなる熱可塑性樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、耐湿熱性が不十分である課題があった。
【0005】
また、冷熱サイクル環境での耐久性を向上させる手法として、例えば、末端カルボキシル基量が30meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂に対し、カルボジイミド化合物、繊維状充填剤、熱可塑性樹脂を配合してなるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、湿熱処理後の耐衝撃性が不十分である課題があった。
【0006】
一方、流動性、耐熱性、ウェルド強度に優れる脂肪族ポリエステル樹脂組成物として、例えば、脂肪族ポリエステル樹脂に対し、扁平な断面形状を持つガラス繊維を配合してなる樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、滞留安定性がなお不十分である課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−73718号公報
【特許文献2】国際公開第2009/150833号
【特許文献3】特開2009−96881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記背景技術の課題に鑑み、滞留安定性と流動性に優れ、耐湿熱性と耐衝撃性に優れた成形品を得ることのできる熱可塑性樹脂組成物を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は次の構成を有する。
(1)(A)ポリブチレンテレフタレート5〜48重量部および(B)ポリカーボネート52〜95重量部の合計100重量部に対して、(C)カルボジイミド化合物0.1〜3.5重量部、(D)α−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステルを共重合成分とするグリシジル基含有共重合体1〜15重量部および(E)リン系安定剤を配合してなり、
ISO179−1:2000に準拠してノッチ付シャルピー試験片を成形し、温度121℃、湿度100%RH環境下で20時間処理した後、ISO179に準拠して測定したときのシャルピー衝撃強度が25kJ/m以上となる
熱可塑性樹脂組成物。
(2)前記(E)リン系安定剤がホスフェート化合物を含む(1)記載の熱可塑性樹脂組成物。
(3)前記(E)リン系安定剤の配合量が、前記(A)ポリブチレンテレフタレートおよび前記(B)ポリカーボネートの合計100重量部に対して、0.005〜0.02重量部である(1)または(2)記載の熱可塑性樹脂組成物。
(4)前記(C)カルボジイミド化合物および前記(D)グリシジル基含有共重合体の合計配合量に対する前記(E)リン系安定剤の配合量の比(重量比)が0.047/100〜1.55/100である(1)〜(3)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は滞留安定性および流動性に優れ、これを成形することにより耐湿熱性および耐衝撃性に優れる成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例および比較例において用いたモールドデポジット評価用成形品の形状を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(A)ポリブチレンテレフタレート、(B)ポリカーボネート、(C)カルボジイミド化合物、(D)α−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステルを共重合成分とするグリシジル基含有共重合体(以下、グリシジル基含有共重合体と略記することがある。)および(E)リン系安定剤を配合してなる。(A)ポリブチレンテレフタレートは、電気特性、耐薬品性、耐熱性、寸法安定性に加え、ハイサイクル性、流動性、滞留安定性などの成形性に優れる結晶性熱可塑性樹脂である。(B)ポリカーボネートは、耐衝撃性、難燃性、耐熱性などに優れる非晶性熱可塑性樹脂である。結晶性樹脂である(A)ポリブチレンテレフタレートと非晶性樹脂である(B)ポリカーボネートとを特定量組み合わせて用いることにより、成形品の高い耐衝撃性をに発現できる。一方、(A)ポリブチレンテレフタレートは、加水分解しやすい課題があるが、(C)カルボジイミド化合物や(D)グリシジル基含有共重合体の配合により、加水分解を抑制することができる。また、(A)ポリブチレンテレフタレートと(B)ポリカーボネートの併用により、(A)ポリブチレンテレフタレートと(B)ポリカーボネートとの間のエステル交換反応による滞留安定性の低下が課題となるが、(E)リン系安定剤を配合することで、かかるエステル交換反応を抑制することができる。
【0013】
(A)ポリブチレンテレフタレートは、テレフタル酸あるいはそのエステル形成性誘導体と1,4−ブタンジオールあるいはそのエステル形成性誘導体とを主成分とする原料から、重縮合反応等の通常の重合方法によって得られる重合体である。特性を損なわない範囲、例えば、原料中20重量%程度以下の範囲で、他の共重合成分を共重合したものであってもよい。他の共重合成分としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ジフェン酸などの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。また、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、ダイマージオールなどの炭素数2〜20の脂肪族グリコールや、ポリエチレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの分子量200〜100000の長鎖グリコールなどの脂肪族ジオール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオールなどの脂環式ジオール、、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールF、ビスフェノール−Cなどの芳香族ジオールおよびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0014】
(A)ポリブチレンテレフタレートの好ましい例としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレン(テレフタレート/セバケート)、ポリブチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)、ポリブチレン(テレフタレート/ナフタレート)、ポリ(ブチレン/エチレン)テレフタレート等が挙げられる。ここで、「/」は共重合体を示す。これらを2種以上配合してもよい。
【0015】
本発明に用いられる(A)ポリブチレンテレフタレートは、o−クロロフェノール溶液を25℃で測定したときの固有粘度が0.60〜1.60の範囲にあることが好ましい。固有粘度が0.60以上であれば、引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、耐衝撃性等の機械特性により優れる成形品を得ることができる。0.80以上がより好ましい。一方、固有粘度が1.60以下であれば、流動性をより向上させることができる。
【0016】
本発明に用いられる(A)ポリブチレンテレフタレートの製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の重縮合法や開環重合法などを挙げることができる。バッチ重合法および連続重合法のいずれでもよく、また、エステル交換反応および直接重合による重縮合反応のいずれも適用することができるが、カルボキシル末端基量を少なくすることができ、かつ、流動性向上効果が大きくなるという点で、連続重合法が好ましく、コストの点で、直接重合法が好ましい。
【0017】
なお、エステル化反応またはエステル交換反応および重縮合反応を効果的に進めるために、これらの反応時に触媒を添加することが好ましい。触媒の具体例としては、有機チタン化合物、スズ化合物、ジルコニア化合物、アンチモン化合物などが挙げられる。有機チタン化合物としては、例えば、チタン酸のメチルエステル、テトラ−n−プロピルエステル、テトラ−n−ブチルエステル、テトライソプロピルエステル、テトライソブチルエステル、テトラ−tert−ブチルエステル、シクロヘキシルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステル、トリルエステル、これらの混合エステルなどが挙げられる。スズ化合物としては、例えば、ジブチルスズオキシド、メチルフェニルスズオキシド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキシド、シクロヘキサヘキシルジスズオキシド、ジドデシルスズオキシド、トリエチルスズハイドロオキシド、トリフェニルスズハイドロオキシド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイドおよびブチルヒドロキシスズオキシド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸などのアルキルスタンノン酸などが挙げられる。ジルコニア化合物としては、例えば、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシドなどが挙げられる。アンチモン化合物としては、例えば、三酸化アンチモン、酢酸アンチモンなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも有機チタン化合物およびスズ化合物が好ましく、チタン酸のテトラ−n−プロピルエステル、テトラ−n−ブチルエステルおよびテトライソプロピルエステルがより好ましく、チタン酸のテトラ−n−ブチルエステルが特に好ましい。触媒の添加量は、機械特性、成形性および色調の点で、ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、0.005〜0.5重量部の範囲が好ましく、0.01〜0.2重量部の範囲がより好ましい。
【0018】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における(A)ポリブチレンテレフタレートの配合量は、後述する(B)ポリカーボネートとの合計100重量部に対して、5〜48重量部の範囲である。(A)ポリブチレンテレフタレートの配合量が5重量部未満であると、熱可塑性樹脂組成物の流動性が低下する。20重量部以上が好ましい。一方、(A)ポリブチレンテレフタレートの配合量が48重量部を超えると、成形品の耐衝撃性が低下する。また、成形時にモールドデポジットを生じやすい。40重量部以下が好ましい。
【0019】
(B)ポリカーボネートは、2価フェノールとホスゲンまたは炭酸エステル化合物などのカーボネート前駆体とを主成分とする原料を反応させることにより得られる重合体である。例えば、塩化メチレンなどの溶媒中において、2価フェノールとホスゲンなどのカーボネート前駆体との反応により、あるいは2価フェノールとジフェニルカーボネートなどのカーボネート前駆体とのエステル交換反応などにより製造される。
【0020】
2価フェノールとしては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン、1,1−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−(4−ヒドロキシフェニル)エタン、ハイドロキノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル等が挙げられる。これらのを2種以上用いてもよい。これらの中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]が好ましい。
【0021】
また、炭酸エステル化合物としては、例えば、ジフェニルカーボネート等のジアリールカーボネートや、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネートなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0022】
本発明に用いられる(B)ポリカーボネートは、数平均分子量が10,000〜60,000であることが好ましい。平均分子量が10,000以上であると、成形品の引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、耐衝撃性等の機械特性がより向上する。15,000以上がより好ましい。一方、平均分子量が60,000以下であると、熱可塑性樹脂組成物の流動性がより向上する。40,000以下がより好ましい。かかる平均分子量を有するポリカーボネートは、例えば、出光興産株式会社から“タフロン”(登録商標)A2600という商品名で入手できる。
【0023】
本発明における(B)ポリカーボネートの配合量は、前述の(A)ポリブチレンテレフタレートとの合計100重量部に対して、52〜95重量部の範囲である。(B)ポリカーボネートの配合量が52重量部未満であると、成形品の耐衝撃性が低下する。また、成形時にモールドデポジットが生じやすい。60重量部以上が好ましい。一方、(B)ポリカーボネートの配合量が95重量部をこえると、熱可塑性樹脂組成物の流動性が低下する。80重量部以下が好ましい。
【0024】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(C)カルボジイミド化合物を配合してなる。(C)カルボジイミド化合物は、ポリエステル樹脂のカルボキシル基末端と結合することで、加水分解を抑制し、耐湿熱性を向上させる効果を有する。ポリエステル樹脂の加水分解を抑制する化合物としては、一般的にエポキシ系末端封鎖剤が知られているが、(C)カルボジイミド化合物はエポキシ系末端封鎖剤よりも高い加水分解抑制効果を有する。
【0025】
(C)カルボジイミド化合物とは、分子内に少なくともひとつの(−N=C=N−)で表されるカルボジイミド基を有する化合物である。例えば、適当な触媒の存在下に、有機イソシアネートを加熱して脱炭酸反応させることにより製造できる。
【0026】
(C)カルボジイミド化合物の例としては、N,N’−ジフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド、N,N’−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N’−ジ−o−トルイルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−トルイルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−o−クロルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−3,4−ジクロルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,5−ジクロルフェニルカルボジイミド、N,N’−p−フェニレン−ビス−o−トルイルカルボジイミド、N,N’−p−フェニレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’−p−フェニレン−ビス−ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、N,N’−2,6,2’,6’−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、N,N’−ヘキサメチレン−ビス−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N’−エチレン−ビス−ジフェニルカルボジイミド、N,N’−エチレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、N−トリイル−N’−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,6−ジ−tert−ブチルフェニルカルボジイミド、N−トルイル−N’−フェニルカルボジイミド、N,N’−ベンジルカルボジイミド、N−オクタデシル−N’−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N’−フェニルカルボジイミド、N−オクタデシル−N’−トリルカルボジイミド、N−シクロヘキシル−N’−トリルカルボジイミド、N−フェニル−N’−トリルカルボジイミド、N−ベンジル−N’−トリルカルボジイミド、N,N’−ジ−o−エチルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−エチルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−o−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−o−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,6−ジエチルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2−エチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2−イソブチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,4,6−トリメチルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,4,6−トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,4,6−トリイソブチルフェニルカルボジイミドなどのモノカルボジイミド化合物、ポリ(1,6−ヘキサメチレンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(1,4−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)、ポリ(メチル−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)などのポリカルボジイミド化合物などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。これらの中でも、ポリカルボジイミド化合物が好ましく、ポリ(ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)がより好ましい。ポリ(ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)は、例えば、ラインケミー社から“スタバクゾール”(登録商標)Pという商品名で入手できる。
【0027】
本発明において、(C)カルボジイミド化合物の配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレートおよび(B)ポリカーボネートの合計100重量部に対し、0.1〜3.5重量部である。(C)カルボジイミド化合物の配合量が0.1重量部未満であると、成形品の耐湿熱性が低下する。0.3重量部以上が好ましい。一方、(C)カルボジイミド化合物の配合量が3.5重量部を超えると、モールドデポジットの発生により成形が困難となる。成形時のモールドデポジットをより抑制する観点から、2.0重量部以下がさらに好ましい。本発明においては、非晶性樹脂である(B)ポリカーボネートを特定量配合することで、(C)カルボジイミド化合物による成形品の耐湿熱性向上効果を充分に奏しながら、モールドデポジットを抑制することができる。
【0028】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(D)グリシジル基含有共重合体を配合してなる。(D)グリシジル基含有共重合体は、(A)ポリブチレンテレフタレートのカルボキシル基末端と結合することで、加水分解を抑制し、成形品の耐湿熱性を向上させる効果を有する。さらに、(D)グリシジル基含有共重合体は、靭性に優れるため、成形品の耐衝撃性を向上させる効果を有する。かかる(D)グリシジル基含有共重合体は、α−オレフィン、α,β−不飽和酸のグリシジルエステルおよび必要に応じてこれらと共重合可能な不飽和モノマを共重合することにより得られる共重合体である。全共重合成分中、α−オレフィン、α,β−不飽和酸のグリシジルエステルを60重量%以上用いることが好ましい。
【0029】
α−オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1等を挙げることができる。これらを2種以上用いてもよい。α,β−不飽和酸のグリシジルエステルとしては、例えば、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジルなどを挙げることができる。これらを2種以上用いてもよい。上記成分と共重合可能なビニル系モノマとしては、例えば、ビニルエーテル類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類、メチル、エチル、プロピル、ブチルなどのアクリル酸およびメタクリル酸エステル類、アクリロニトリル、スチレンなどを挙げることができる。これらを2種以上用いてもよい。
【0030】
本発明における(D)グリシジル基含有共重合体の好ましい例としては、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル/酢酸ビニル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル/アクリル酸エステル共重合体、エチレン/アクリル酸グリシジル/酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。特に、靭性に優れ、成形品の耐湿熱性および耐衝撃性をより向上させる観点から、エチレン/メタクリル酸グリシジル/アクリル酸エステル共重合体が好ましい。エチレン/メタクリル酸グリシジル/アクリル酸メチル共重合体が特に好ましく、例えば、Elf Atochemから“ロタダー”(登録商標)AX8900という商品名で入手できる。
【0031】
本発明における(D)グリシジル基含有共重合体の配合量は、上記(A)ポリブチレンテレフタレートと(B)ポリカーボネートの合計100重量部に対して、1〜15重量部である。(D)グリシジル基含有共重合体の配合量が1重量部未満であると、成形品の耐衝撃性および耐湿熱性が低下する。3重量部以上が好ましい。一方、(D)グリシジル基含有共重合体の配合量が15重量部を超えると、熱可塑性樹脂組成物の流動性が低下する。10重量部以下が好ましい。
【0032】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、さらに(E)リン系安定剤を配合してなる。(E)リン系安定剤は、(A)ポリブチレンテレフタレートと(B)ポリカーボネートのエステル交換反応を抑制し、滞留安定性を向上させる効果がある。
【0033】
(E)リン系安定剤としては、例えば、ホスファイト系安定剤(ホスファイト化合物)、ホスフェート系安定剤(ホスフェート化合物)が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。中でも、ホスフェート系安定剤は、熱可塑性樹脂組成物の滞留安定性を向上させる効果がより高いため好ましい。
【0034】
ホスファイト系安定剤としては、例えば、テトラキス[2−t−ブチル−4−チオ(2’−メチル−4’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)−5−メチルフェニル]−1,6−ヘキサメチレン−ビス(N−ヒドロキシエチル−N−メチルセミカルバジド)−ジホスファイト、テトラキス[2−t−ブチル−4−チオ(2’−メチル−4’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)−5−メチルフェニル]−1,10−デカメチレン−ジ−カルボキシリックアシッド−ジ−ヒドロキシエチルカルボニルヒドラジド−ジホスファイト、テトラキス[2−t−ブチル−4−チオ(2’−メチル−4’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)−5−メチルフェニル]−1,10−デカメチレン−ジ−カルボキシリックアシッド−ジ−サリシロイルヒドラジド−ジホスファイト、テトラキス[2−t−ブチル−4−チオ(2’−メチル−4’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)−5−メチルフェニル]−ジ(ヒドロキシエチルカルボニル)ヒドラジド−ジホスファイト、テトラキス[2−t−ブチル−4−チオ(2’−メチル−4’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)−5−メチルフェニル]−N,N’−ビス(ヒドロキシエチル)オキサミド−ジホスファイトなどが挙げられる。少なくとも1つのP−O結合が芳香族基に結合しているものが好ましく、例えば、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)4,4’−ビフェニレンホスフォナイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシル)ホスファイト、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ジトリデシルホスファイト−5−t−ブチル−フェニル)ブタン、トリス(ミックスドモノおよびジ−ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、4,4’−イソプロピリデンビス(フェニル−ジアルキルホスファイト)などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。中でも、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンホスフォナイトなどが好ましく使用できる。これらの中でも、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)フォスファイトが特に好ましく、例えば、ADEKA製の“アデカスタブ”(登録商標)PEP−36という商品名で入手できる。
【0035】
ホスフェート系安定剤としては、例えば、モノステアリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、メチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、オクチルアシッドホスフェート、イソデシルアシッドホスフェートなどが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。中でも、モノステアリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェートが好ましい。これらのモノ−およびジ−ステアリルアシッドホスフェートのほぼ等モル混合物が特に好ましく、例えば、ADEKA製の“アデカスタブ”(登録商標)AX−71という商品名で入手できる。
【0036】
(E)リン系安定剤の配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレートと(B)ポリカーボネートの合計100重量部に対して、0.005〜0.02重量部が好ましい。(E)リン系安定剤の配合量が0.005重量部以上であれば、熱可塑性樹脂組成物の滞留安定性がより向上する。一方、(E)リン系安定剤の配合量が0.02重量部以下であれば、(C)カルボジイミド化合物と(D)グリシジル基含有共重合体との反応阻害を抑制し、(C)カルボジイミド化合物と(D)グリシジル基含有共重合体とによる耐湿熱性向上効果が十分に得られる。
【0037】
また、(C)カルボジイミド化合物および前記(D)グリシジル基含有共重合体の合計配合量に対する前記(E)リン系安定剤の配合量の比(重量比)は、0.047/100〜1.55/100が好ましい。(E)リン系安定剤の配合量が(C)カルボジイミド化合物と(D)グリシジル基含有共重合体の合計100重量部に対して0.047以上であれば、熱可塑性樹脂組成物の滞留安定性をさらに向上させることができる。一方、(E)リン系安定剤の配合量が(C)カルボジイミド化合物と(D)グリシジル基含有共重合体の合計100重量部に対して1.55以下であれば、(C)カルボジイミド化合物や(D)グリシジル基含有共重合体の反応を十分に進めることができ、成形品の耐湿熱性をより向上させることができる。
【0038】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、安定剤、離型剤、着色剤などの通常の添加剤および少量の他種ポリマーを配合してもよい。安定剤としては、ポリエステル樹脂組成物の安定剤に用いられるものをいずれも使用することができる。例えば、酸化防止剤、光安定剤、触媒失活剤などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。離型剤としては、ポリエステル樹脂の離型剤に用いられるものをいずれも使用することができる。例えば、カルナウバワックス、ライスワックス等の植物系ワックス、蜜ろう、ラノリン等の動物系ワックス、モンタンワックス等の鉱物系ワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等の石油系ワックス、ひまし油およびその誘導体、脂肪酸およびその誘導体等の油脂系ワックスなどが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。着色剤としては、例えば、有機染料、有機顔料、無機顔料などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。他種ポリマーとしては、溶融成形可能な樹脂であればいずれでもよく、例えば、AS樹脂(アクリロニトリル/スチレン共重合体)、水添または未水添SBS樹脂(スチレン/ブタジエン/スチレントリブロック共重合体)、水添または未水添SIS樹脂(スチレン/イソプレン/スチレントリブロック共重合体)、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、環状オレフィン系樹脂、酢酸セルロースなどのセルロース系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。
【0039】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ISO179−1:2000に準拠してノッチ付シャルピー試験片を成形し、温度121℃、湿度100%RH環境下で20時間処理した後、ISO179に準拠して測定したときのシャルピー衝撃強度が25kJ/m以上であることが好ましい。かかる条件下におけるシャルピー衝撃強度は、成形品の高温高湿環境化における靭性を表している。かかる条件下におけるシャルピー衝撃強度が25kJ/m以上であると、高温高湿環境下における耐衝撃性に優れるといえ、衝撃吸収部材として好適に利用することができる。30kJ/m以上がより好ましい。ここで、本発明において、シャルピー衝撃強度の測定は、試験片数N=5で行い、各測定値の最大値と最小値を除いて平均値を算出した値を、試験片の幅と厚みの積で割った値を指す。
【0040】
また、前記湿熱処理後のシャルピー衝撃強度は、湿熱処理前のシャルピー衝撃強度に対する変化が少ないことが望ましい。下記式で求められる衝撃強度保持率は、45%以上が好ましく、55%以上が望ましい。
衝撃強度保持率(%)=(20時間湿熱処理後の試験片の衝撃強度/湿熱処理前の試験片の衝撃強度)×100
なお、上記特性を有する熱可塑性樹脂組成物は、例えば、前述の本発明の熱可塑性樹脂組成物の組成とすることにより得ることができる。
【0041】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法としては、例えば、単軸あるいは二軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーあるいはミキシングロールなどの公知の溶融混練機を用いて、各成分を溶融混練する方法を挙げることができる。各成分を均一に分散するように溶融混練することが好ましい。各成分は、予め一括して混合しておき、それから溶融混練してもよい。なお、各成分に含まれる水分は少ない方がよく、必要により予め乾燥しておくことが望ましい。
【0042】
また、溶融混練機に各成分を投入する方法としては、例えば、単軸あるいは二軸の押出機を用い、スクリュー根元側に設置した主投入口から(A)ポリブチレンテレフタレート、(B)ポリカーボネート、(C)カルボジイミド化合物、(D)グリシジル基含有共重合体、(E)リン系安定剤および必要に応じてその他成分を供給し、溶融混練する方法が挙げられる。
【0043】
溶融混練温度は、流動性および機械特性により優れるという点で、110℃以上が好ましく、210℃以上がより好ましく、240℃以上がさらに好ましい。また、360℃以下が好ましく、320℃以下がより好ましく、280℃以下がさらに好ましい。ここで溶融混練温度とは、溶融混練機の設定温度を指し、例えば二軸押出機の場合、シリンダー温度を指す。
【0044】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、公知の射出成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形、紡糸などの任意の方法で成形することにより、各種成形部品に加工し利用することができる。射出成形時の温度は、流動性をより向上させる観点から230℃以上が好ましい。
【0045】
成形部品としては例えば、射出成形部品、押出成形部品、ブロー成形部品、フィルム、シート、繊維などが挙げられる。
【0046】
本発明において、上記各種成形品は、自動車部材、電気・電子部材、建築部材、各種容器、日用品、生活雑貨および衛星用品など各種用途に利用することができる。特に、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐湿熱性、耐衝撃性に優れた成形品を得ることができるため、自動車のドアハンドルや衝撃吸収部材(クラッシュパッド)、樹脂スペーサーとして特に好適である。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。実施例、比較例で使用する原料の略号および内容を以下に示す。
(A)ポリブチレンテレフタレート(融点223℃、東レ(株)製“トレコン”(登録商標)1100M(商品名))
(B)ポリカーボネート(出光興産(株)製“タフロン”(商標登録)A2600(商品名))
(C)カルボジイミド化合物(ポリ(ジイソプロピルフェニルカルボジイミド))(ラインケミー社製“スタバクゾール”(登録商標)P(商品名))
(D)グリシジル基含有共重合体
エチレン/メチルアクリレート/グリシジルメタクリレート共重合体(Elf Atochem製“ロタダー”(登録商標)AX8900(商品名))
(E−1)ホスフェート系酸化防止剤(モノ−およびジ−ステアリルアシッドホスフェートのほぼ等モル混合物)(ADEKA製“アデカスタブ”(登録商標)AX−71(商品名))
(E−2)ホスファイト系酸化防止剤(サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)フォスファイト)(ADEKA製“アデカスタブ”PEP−36(商品名))
実施例および比較例における評価方法を以下にまとめて示す。
【0048】
(1)耐衝撃性
各実施例および比較例で得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて、住友重工業製射出成形機“SGE75DU”を使用して、ISO179−1:2000に従って試験片(80mm×10mm×4.0mm)を成形した。得られた試験片各5本に、8mm残るようにノッチを入れ、ISO179に準拠してシャルピー衝撃強度を測定した。得られた衝撃強度を試験片の厚みと幅の積で割った値を、シャルピー衝撃強度とした。シャルピー衝撃強度が40kJ/m以上であれば、耐衝撃性は良好といえる。50kJ/m以上が望ましい。
【0049】
(2)耐湿熱性
前記(1)に記載の方法により成形した試験片を各5本ずつ、温度121℃、湿度100%RH環境下で20時間処理した後、各試験片のシャルピー衝撃強度を前記(1)と同様にして測定した。湿熱処理後のシャルピー衝撃強度保持率が45%以上であれば、耐湿熱性は良好と判断できる。55%以上が望ましい。衝撃強度保持率は以下の式で示される。
衝撃強度保持率(%)=(20時間湿熱処理後の試験片の衝撃強度/湿熱処理前の試験片の衝撃強度)×100
(3)滞留安定性
各実施例および比較例で得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを、示差走査熱量計(DSC)を用い、窒素雰囲気下で、40℃から260℃まで20℃/分の速度で昇温した後、260℃から100℃まで20℃/分の速度で降温した時に観測される発熱ピークの温度Tc1(℃)を測定した。またTc1観測後、再び100℃から260℃まで20℃/分の速度で昇温した後、260℃から100℃まで20℃/分の速度で降温した時に観測される発熱ピークの温度Tc2(℃)を測定した。Tc1とTc2の温度差が6℃以下であれば、滞留安定性は良好と判断できる。3℃以下がより好ましい。
【0050】
(4)流動性
日精射出成形機“PS40”を用い、各実施例および比較例で得られた熱可塑性樹脂組成物を、厚み1mm、幅10mmの短冊型に8秒間射出し、得られた短冊型成形品の長さ(流動長)を測定した。射出条件は、シリンダー温度260℃、金型温度40℃、射出圧力50MPaで実施した。流動長が25mm以上であれば、熱可塑性樹脂組成物の流動性は良好と判断できる。30mm以上が好ましい。
【0051】
(5)モールドデポジット
各実施例および比較例で得られた熱可塑性樹脂組成物を、型締力が40トンである日精射出成形機“PS40”を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度80℃、射出速度100mm/秒、射出圧力50MPaの条件で、図1に示すモールドデポジット評価用成形品(成形品サイズ:長さ55mm、幅20mm、厚み2mm、ゲートサイズ:幅2mm、厚み1mm(サイドゲート)、ガスベント部最大長さ20mm、幅10mm、深さ5μm)を1000ショット連続成形した。なお、図1において、(a)はモールドデポジット評価用成形品の上面図を示し、(b)はモールドデポジット評価用成形品の側面図を示す。また、符号Gはゲートを示す。1000ショット連続成形後の金型キャビティ内のモールドデポジット付着状況を目視により観察し、◎:付着なし、○:ほぼ付着なし、△:僅かに付着あり、×:付着あり(成形困難)の4段階で評価した。
【0052】
[実施例1〜17]
表1〜2に示す配合組成に従い、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分および(E)成分をシリンダー温度260℃に設定したスクリュー径57mmφの二軸押出機(WERNER&Pfeiderer社製ZSK57)に元込め部から供給し、溶融混練を行った。ダイスから吐出されたストランドを冷却バス内で冷却した後、ストランドカッターにてペレット化し、熱可塑性樹脂組成物を得た。得られた熱可塑性樹脂組成物について、上記方法で評価した結果を表1〜2に記した。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
得られた熱可塑性樹脂組成物は、いずれも流動性に優れ、耐湿熱性および耐衝撃性に優れた成形品を得ることができた。実施例1〜4に示すように、(A)ポリブチレンテレフタレートの配合量が多いほど、流動性がより向上する傾向にあり、(A)ポリブチレンテレフタレートの配合量は20重量部以上が好ましい。一方、(B)ポリカーボネートの配合量が多いほど、成形品の耐衝撃性がより向上する傾向にあり、(B)ポリカーボネートの配合量は60重量部以上が好ましい。実施例5〜10に示すように、(C)カルボジイミド化合物や(D)グリシジル基含有共重合体の配合量が多いほど、成形品の耐湿熱性が向上する傾向にある。(C)カルボジイミド化合物の配合量は0.3重量部以上が好ましく、(D)グリシジル基含有共重合体の配合量は3重量部以上が好ましい。一方、(C)カルボジイミド化合物の配合量が2.0重量部以下であれば、成形時のモールドデポジットの発生をより抑制することができ、(D)グリシジル基含有共重合体の配合量が10重量部以下であれば、熱可塑性樹脂組成物の流動性をさらに向上させることができる。実施例11〜17に示すように、(E)リン系安定剤を(A)ポリブチレンテレフタレートおよび(B)ポリカーボネートの合計100重量部に対して、0.005〜0.02重量部の範囲で配合した場合は、熱可塑性樹脂組成物の滞留安定性、成形品の耐湿熱性のバランスが優れたものであった。さらに、(E)リン系安定剤の配合量が(C)カルボジイミド化合物と(D)グリシジル基含有共重合体の合計100重量部に対して、0.047〜1.55の範囲で配合した場合には、熱可塑性樹脂組成物の滞留安定性、成形品の耐湿熱性のバランスがより優れたものであった。また、実施例16、17に示すように、(E)リン系安定剤として、(E−1)ホスフェート化合物を用いた場合は、(E−2)ホスファイト化合物を同量用いた場合よりも滞留安定性向上効果に優れていた。
【0056】
[比較例1〜7]
表3に示す配合組成に変更した以外は実施例1〜17と同様にして、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。得られた熱可塑性樹脂組成物について、実施例1〜17と同様に評価した結果を表3に記した。
【0057】
【表3】
【0058】
比較例1、2に示すように、(A)ポリブチレンテレフタレートの配合量が5重量部未満であると流動性に劣り、48重量部を超えると耐衝撃性に劣る結果となった。比較例3、4に示すように、(C)カルボジイミド化合物の配合量が0.1重量部未満であると耐湿熱性に劣り、3.5を超えると、モールドデポジットの発生により成形が困難になる結果となった。比較例5、6に示すように、(D)グリシジル基含有共重合体の配合量が1重量部未満であると、耐衝撃性と耐湿熱性に劣り、15重量部を超えると流動性に劣る結果となった。比較例7に示すように、(E)リン系安定剤を配合しない場合、滞留安定性に劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、自動車部材、電気・電子部材、建築部材、各種容器、日用品、生活雑貨および衛星用品など各種用途に利用することができる。耐湿熱性、耐衝撃性に優れた成形品を得ることができる特性を活かして、自動車のドアハンドルや衝撃吸収部材(クラッシュパッド)、樹脂スペーサーに特に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0060】
G:ゲート
図1