(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6179164
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】炭化ケイ素ショットキーバリアダイオード。
(51)【国際特許分類】
H01L 29/872 20060101AFI20170807BHJP
H01L 29/47 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
H01L29/48 D
H01L29/48 F
H01L29/86 301D
H01L29/86 301F
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-81442(P2013-81442)
(22)【出願日】2013年4月9日
(65)【公開番号】特開2014-204087(P2014-204087A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2015年12月3日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】平野 芳生
【審査官】
棚田 一也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−181553(JP,A)
【文献】
特開2012−012227(JP,A)
【文献】
特開2013−251419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/47
H01L 29/872
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶炭化ケイ素基板上に形成したp型又はn型の単結晶炭化ケイ素エピタキシャル層上にショットキー金属層を設けた炭化ケイ素ショットキーバリアダイオードにおいて、前記炭化ケイ素エピタキシャル層においてピット形状をした表面欠陥が、幅方向及び深さ方向に対して、該炭化ケイ素エピタキシャル層とは逆の極性を有した逆極性部位により三次元的に取り囲まれており、前記逆極性部位は、当該表面欠陥の幅方向に対して2倍以上の面積を有すると共に深さ方向に対して2倍以上の深さを有することを特徴とする炭化ケイ素ショットキーバリアダイオード。
【請求項2】
前記炭化ケイ素エピタキシャル層の表面における逆極性部位の総面積がチップ面積の0.1%以内であることを特徴とする請求項1に記載の炭化ケイ素ショットキーバリアダイオード。
【請求項3】
前記逆極性部位は、不純物がイオン注入された逆極性部位であることを特徴とする請求項1又は2に記載の炭化ケイ素ショットキーバリアダイオード。
【請求項4】
前記逆極性部位の不純物濃度が、前記炭化ケイ素エピタキシャル層の不純物濃度より高いことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭化ケイ素ショットキーバリアダイオード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素半導体デバイスに関わるものである。
【背景技術】
【0002】
近年、シリコン半導体には無い優れた特徴を有する単結晶炭化ケイ素材料(以下SiC)の半導体が注目を集めている。具体的にはSiCはシリコンに比べ、バンドギャップは約3倍、絶縁破壊電界は5倍以上である。このため、パワーデバイスにSiCを使えば、高い性能を有したデバイスが期待でき、既に一部のチップやデバイスが販売され始めている。
【0003】
単結晶SiCの製造方法としては、アチソン法、レーリー法、昇華再結晶法(改良レーリー法)、溶液成長法等が知られているが、このうち半導体材料用として販売されているのは昇華再結晶法によって製造されたものである。昇華再結晶法は一般に黒鉛坩堝の下部にSiCの粉末原料を充填し加熱昇華させて、坩堝内の上部に配置した種結晶基板上に再凝固させて単結晶を成長する製法である。ポリタイプについては、プロセス制御条件等で、4Hや6H等の造り分けが可能で、一般にパワーデバイス用の材料は特性で優れる4Hポリタイプの単結晶が用いられている。
【0004】
半導体としての結晶材料の極性決定については、例えばn型とする場合は窒素やリン、p型とする場合はアルミニウムやボロン等の元素を不純物として結晶中に導入することで所定の極性とする。
【0005】
得られた結晶はシリコン基板と類似した工程を経て、所定サイズ、形状の基板とする。具体的には結晶の外周加工を行い、ワイヤーソーにて切断し、さらに個々の切断済みの基板を研磨機にてラップ研磨を行った後、基板表面にあるダメージ層を取り除くために化学的機械研磨(CMP研磨)を行い、基板(ベア基板)に仕上げる。
【0006】
さらに本ベア基板上に気相エピタキシャル法(CVD法)などにより、SiCエピタキシャル膜を形成した基板(エピ基板)としてデバイス製造用基板に用いられる。一般に改良レーリー法により製造した結晶は、デバイスの製造で求められる厳密なドープ値の制御などが難しいため、エピタキシャル層を形成して、その層内にデバイス構造を形成する。
【0007】
以上の製法により製造されたエピ基板には、デバイスにとって害があるとされる欠陥が幾つか存在することが知られている。具体的にはエピ表面に形成され、楕円や三角形などの形状で、エピ表面で凹形状(ピット形状)をしたエピ表面欠陥群である。欠陥のサイズは様々であるが、欠陥を取り囲む円を仮定すると、概ね直径が約数十nm〜数μm程度であり、深さは100nm以下の浅いものが大半を占めている。基板内には単位面積当たり数個〜数十個/cm
2程度の密度で存在する場合もある。これらの欠陥の形成過程については未だ詳細が解明されていない部分も多いが、光学顕微鏡やAFM(Atomic Force Microscope)などを用いて観察が可能である。
【0008】
表面欠陥を有したエピ基板をベースにショットキーバリアダイオード(Schottky Barrier Diode、以下SBD)を形成し、逆バイアス電圧を印加すると、エピ表面欠陥が起因した電流リークが生じることが知られており、デバイス不良の原因となる(例えば非特許文献1参照)。
【0009】
この他にも、ダウンフォールと呼ばれるエピ表面異物や、マイクロパイプと呼ばれるベア基板からエピ層まで貫通する空孔状の欠陥などのマクロ欠陥があるが、これらは主として絶縁破壊等の耐電圧不良の原因となる(例えば非特許文献2参照)。
【0010】
ショットキーバリアダイオードは、一般に半導体のエピ層に金属を接合し、ショットキー障壁を設けることで、ダイオードの整流機能を得るものであり、SiC用のショットキー金属としては、チタン、モリブデン、ニッケル等が用いられている。
【0011】
一般的にはエピ層からベア基板に向けた縦の方向に電流を流すデバイス構造で構成され、エピ面がアノード電極(ショットキー電極)、ベア基板の裏面がカソード電極(オーミック電極)となり、順方向とはアノードからカソード方向へ電流が流れる方向であり、逆バイアスは順バイアスと反対の方向に電圧を印加することを指す。
【0012】
また、ショットキー金属のチップ端部には電界集中が起こらないように、ガードリングと呼ばれる終端処理が一般的に行われる。具体的にはチップ端部周辺にエピ層と極性の異なる層を設けるのが一般的で、例えばn型のエピ層であれば、チップ外周部にイオン注入等により不純物を注入してp型の層を形成する。またさらなるデバイス特性改善のため、ガードリングの外側に隣接して不純物濃度が若干薄いp型の層を設けたJTE(Junction Termination Extension)構造等が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2011-233919号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】藤原他:SiC及び関連ワイドバンドギャップ半導体研究会、第20回講演会、P17
【非特許文献2】藤原他:SiC及び関連ワイドバンドギャップ半導体研究会、第19回講演会、P65
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
SiC基板に存在する微少なピット構造をした表面欠陥はSBDにとって害のある欠陥ではあるものの、現状のSiCエピ基板の製法上、根絶することは難しく、市販のSiCエピ基板内には一定密度で存在し、かつ製造ロット間や、ロット内でその存在位置は異なり、欠陥密度も変化する。従って表面欠陥による異常を検出する方法としては、最終的なデバイスの通電試験にて電気的異常を検出するか、予め基板で測定されていた表面欠陥の位置に相当するデバイスチップを選別して、排除する方法がとられている。このようなSBDデバイス製造方法では、例えば1mm角サイズの小型チップを製造する場合で、表面欠陥の密度が1個/cm
2の基板を用いると理論歩留まりは99%となる。しかしながら10mm角サイズの大型チップを製造する場合には、理論歩留まりは0となってしまう。理論歩留まりは基板内に均等に欠陥が配置した場合を想定しているため、欠陥が偏在すれば、大型デバイスの歩留まりは向上する場合もあるが、結果はランダムであり予見しがたい。
【0016】
また、10mm角程度の大型チップ内の他の面積部分が健全であっても、例えばチップ内に僅か数個のエピ表面欠陥が存在することで発生するリーク電流によるデバイス不良により、チップを廃棄しなければならなくなり、大型チップの製造が困難となる、という問題がある。
【0017】
そこで、本発明は、上記状況を鑑みて、エピ表面欠陥を有した単結晶炭SiC半導体基板であっても正常に動作するショットキーバリアダイオードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)単結晶炭化ケイ素基板上に形成したp型又はn型の単結晶炭化ケイ素エピタキシャル層上にショットキー金属層を設けた炭化ケイ素ショットキーバリアダイオードにおいて、前記炭化ケイ素エピタキシャル層においてピット形状をした表面欠陥が、幅方向及び深さ方向に対して、該炭化ケイ素エピタキシャル層とは逆の極性を有した逆極性部位により三次元的に取り囲まれて
おり、前記逆極性部位は、当該表面欠陥の幅方向に対して2倍以上の面積を有すると共に深さ方向に対して2倍以上の深さを有することを特徴とする炭化ケイ素ショットキーバリアダイオード。
(
2)前記炭化ケイ素エピタキシャル層の表面における逆極性部位の総面積がチップ面積の0.1%以内であることを特徴とする(1)
に記載の炭化ケイ素ショットキーバリアダイオード。
(
3)前記逆極性部位は、不純物がイオン注入された逆極性部位であることを特徴とする(1)
又は(2)に記載の炭化ケイ素ショットキーバリアダイオード。
(
4)前記逆極性部位の不純物濃度が、前記炭化ケイ素エピタキシャル層の不純物濃度より高いことを特徴とする(1)〜
(3)のいずれか1項に記載の炭化ケイ素ショットキーバリアダイオード。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、単結晶炭化ケイ素エピタキシャル層の表面欠陥に起因した電流リークを可及的に抑えた炭化ケイ素ショットキーバリアダイオードを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第1の実施例を説明するための概略図
【
図2】エピ表面欠陥に対してイオン注入して得られたp型の逆極性部位を説明するための拡大図
【
図3】
図1に示したSBDに逆バイアス電圧を掛けた際のp型の逆極性部位の様子を模式的に説明する拡大図
【
図4】第1の実施例に係るSBDの製造方法を説明するための概略図
【
図6】本発明の第2の実施例を説明するための概略図
【
図7】エピ表面欠陥に対してイオン注入して得られたp型の逆極性部位を説明するための拡大図
【
図8】第2の実施例に係るSBDの製造方法を説明するための概略図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について詳しく説明する。
SiCエピタキシャル層の表面欠陥(エピ表面欠陥)がSBDの逆バイアス時における電流リークの原因となる理由は、界面の幾何学的凹(ピット形状)で生じるショットキー金属との界面での接合異常や電界集中が主たる原因と推定される。そこで、本発明では、エピ表面欠陥に対して、エピ層とは逆極性の部位を形成することで、本SBDに逆バイアス電圧を印加した場合に、欠陥部位周辺にあるpn接合の空乏層が広がることで欠陥部位の電界を緩和し、逆リーク電流を防止できることを見出した。
【0022】
エピ層を形成した後に光学顕微鏡観察等で表面観察を行い、欠陥サイズと位置を検出した後、その部位に対してイオン注入を行うことで、表面欠陥の周辺のエピ層とは逆極性の部位を形成する。すなわち、エピ層がn型であれば表面欠陥を含む部位がp型となるように不純物をイオン注入し、また、エピ層がp型であれば表面欠陥を含む部位がn型となるように不純物をイオン注入する。好適には、逆極性の部位が三次元的にエピ表面欠陥を取り囲むように、エピ表面欠陥以上の広さの面積とエピ表面欠陥以上の深さにイオン注入を行って逆極性の部位を形成し、そのpn接合の逆バイアス時の空乏層の広がりで欠陥表面の電界集中を緩和するのがよい。
【0023】
一方、順方向通電の場合には、pn接合部位の空乏層は広がらないため、ほぼイオン注入した面積、深さで逆極性部位が存在することになる。また、SiCは物性的にpn接合部位のビルトイン電圧がシリコンに比べて高く、順方向電圧を印加した場合、逆極性部位は通電箇所とはならない。このことから順方向通電の際に有効面積が減り、SBDとしてのオン抵抗の増加が懸念されるが、たとえば1mm角チップの面積内に直径が2μmの円形状の逆極性部位が100箇所程度存在したとしても、喪失する通電面積の比率はわずか0.0003%であり、問題はない。逆極性部位の総面積の最大値はSBDの順方向抵抗のバラつきの設計許容範囲を元に決めればよいが、概ねチップ面積の0.1%以内であれば実用上の問題は無い。
【0024】
欠陥を取り囲む逆極性部位の形状、面積としては、イオン注入を行う際のマスクの寸法や露光の際のステッパなどの位置決め精度などにも依存するが、およそ欠陥を取り囲む円の直径の面積以上であればよく、好ましくは欠陥の位置決め精度を勘案し、2倍以上の面積の裕度を持たせるのがよい。
【0025】
また、逆極性部位の深さについては、表面欠陥の深さ以上であればよく、好ましくは裕度を持たせて深さの2倍以上であればよい。またpn接合部位の空乏層は、不純物濃度が薄い方に広がるため、逆極性部位の不純物濃度については、エピ層の不純物濃度より高い方が望ましく、実用上はおよそ100倍以上であれば問題無い。
【0026】
また、表面欠陥については、光学顕微鏡で観察は可能であるが、深さ方向の情報が得にくいため、焦点の合った部分だけが明るく撮像されるという特性をもった、コンフォーカル(共焦点)光学系の顕微鏡を用いることが望ましい。エピ表面欠陥について深さ方向、特に凹凸の判別が容易となり、画像処理による自動化も可能となるメリットがある。
【0027】
さらにSBDダイオードではチップ周辺部にガードリングなどを形成する工程が必要になるが、本発明ではガードリングを形成する同じ工程内で、逆極性部位を形成することもできる。こうすることで、ガードリング形成用、本発明の逆極性部位の形成用にそれぞれ別々にマスクやイオン注入を行う手間を省くことができる。
【0028】
ここで、
図1は、本発明の第1の実施例を説明するための構成図(断面図および平面図)である。
1は窒素を不純物とするn型SiC基板(n+)であり、厚さは約350μmで、(0001)Si面から<11-20>方向に4°微傾斜させた基板である。2は窒素を不純物とするn型エピ層(n-)であり、厚さは10μm、不純物濃度は1×10
16cm
-3のもので、1のベア基板のシリコン面上に形成した。
【0029】
3はショットキー金属層で厚さ0.1μmのチタンとし、その上に電極として1μm厚さのアルミニウム金属4が接合されている。5はカソード電極(裏面電極)でニッケル金属等からなるオーミック電極で3μmの厚さである。6、6はショットキー金属層の周辺に設けられたガードリングで、幅2μm程度、深さ0.5μm程度で不純物濃度が約1×10
20cm
-3であり、アルミニウム元素を不純物としてp型の層を形成している。チップの全体サイズは約2mm×2mmの大きさとした。7-1、7-2はエピ表面欠陥を覆うp型の逆極性部位である。
【0030】
また、
図2は7-1、7-2のp型逆極性部位を拡大した断面図、平面図である。ここで示した8-1、8-2は、それぞれ欠陥部位である。欠陥サイズについては、欠陥を中心とした円の直径で各々、1μm、0.5μmであり、かつ深さが、40nm、30nmであった。これらエピ欠陥の周囲に形成されたエピ層とは逆極性の部位、すなわちp型の逆極性部位7-1及び7-2が形成されており、これらは共に直径は2μm、深さ1.0μmであって表面欠陥を三次元的に取り囲み、アルミニウムを不純物とした不純物濃度が最大で1×10
20cm
-3の領域である。本状態に逆バイアス電圧をかけた場合の模式図を
図3示す。逆極性部位7-1、7-2の周辺には空乏層9-1、9-2が広がり、逆極性部位7-1、7-2の電界を緩和する。この結果、逆バイアス時の電流リークを回避可能となる。
【0031】
次に、
図4を用いて本SBDの製造方法を説明する。
先ず、単結晶SiC基板(4H-SiC)に対して、
図4(a)に示すような所定の不純物濃度、厚さにSiCのエピ層2を形成したエピ基板を用意する。本エピ基板に対して、エピ表面にあるエピ欠陥の位置座標を測定する。欠陥の検出には、コンフォーカル・レーザー顕微鏡を検出して行なった。具体的にはレーザーテック社製SICA6X装置を使用した。本測定により得られた欠陥の幾何学的位置情報は電子データとしてハードディスクなどの電子媒体へ記録した。
【0032】
続いて本エピ基板に対して
図4(b)に示したように、LTO(low-temperature-Oxide)により、エピ基板表面にSiO
2のマスク10を形成する。次に、予めデバイスパターンを記録し、プログラミングされた電子ビーム装置を用いて、チップ周囲に沿ったガードリングに相当する所定の部分にビームを当てて、マスク10の一部にマスク開口部11を形成する。このとき予め測定していたエピ欠陥部位の位置DATAを用いて、エピ表面欠陥8-1、8-2の幾何学位置を中心に2μmの直径をした円形開口部12-1、12-2を形成する。
【0033】
次に前述した開口部11、12-1、12-2に対して、それぞれアルミニウムを30〜150KeVの加速電圧で多段的にイオン注入を行った。SiCは常温でイオン注入を行うと3Cなどの異種ポリタイプが発生しやすいことが知られていることから、本実施例では基板全体を300℃以上に余熱した状態でイオン注入を行った。注入した部位を活性化するためにアルゴン雰囲気中で1500℃以上の温度にて10分間の熱処理を行った。以上の工程でエピ表面欠陥を覆う逆極性部位とガードリングとを形成した。この後、弗酸系のエッチング液でエッチングし、マスク10を全て取り去った。以上の工程で本発明の基本構造(d)が完成する。
【0034】
以後は従来からのSBD工程にて構造を形成すればよく、具体的には、例えばチタンのショットキー金属層3をフォトリソグラフ工程およびスパッタリング装置を用いて所定の位置に設けてショットキー電極を形成する。その上に電極としてアルミニウム金属4が接合されている。さらに、エピ基板の裏面側にニッケル等により構成される金属層5を形成し、熱処理を行うことで、オーミック電極を形成する。これにより、
図1に示したSBDデバイスが完成する。
【0035】
上記で得られた本チップに対してプローブを当て、逆バイアス電圧を与えて逆リーク電流の測定を行った。その結果が
図5のIV特性における曲線13である。1kV以上の電圧まで、許容逆リーク電流値の目安である1μA以下のリーク電流であった。比較として、本発明を用いずに、エピ表面欠陥を含んだままで得られたチップのIV特性を
図5中の曲線14に示した。低い逆バイアス電圧で、1μAを超える電流リークが発生し、不良であることがわかった。
【0036】
本実施例のようにガードリングの形成と併せて、エピ表面欠陥に逆極性部位を形成することでイオン注入の工程は1回で済み、工程短縮が可能となる。
【0037】
エピ表面欠陥の深さが例えば本実施例のエピ層厚さである10μmの20%相当の2μmに近いか、あるいはマイクロパイプのような貫通欠陥であった場合は、イオン注入法では逆極性部位を形成する深さに限界があり、欠陥を覆うことができないが、このような欠陥の場合はショットキー界面の異常よりも、そもそも耐圧不良が問題となる。しかしながらエピ表面欠陥の深さが2μ以上となるのは稀で、数十nm程度と浅い欠陥が大半であることから、本発明による欠陥救済は十分に効果があると考えられる。
【0038】
図6は、本発明の第2の実施例を説明するための構成図(断面図および平面図)である。
21は窒素を不純物とするn型SiC基板(n+)であり、厚さは約250μmで、(0001)Si面から<11-20>方向に8°微傾斜させた基板(4H-SiC)である。22は窒素を不純物とするn型エピ層(n-)であり、厚さは15μm、不純物濃度は5×10
15cm
-3のもので、21のベア基板のシリコン面上に形成した。
【0039】
23はショットキー金属層で厚さ0.1μmのモリブデンとし、その上に電極として1μm厚さのアルミニウム金属24が接合されている。25はカソード電極(裏面電極)でニッケル金属等からなるオーミック電極で3μmの厚さである。26はショットキー金属層の周辺に設けられたガードリングで、幅2μm程度、深さ1.0μm程度で不純物濃度が最大で1×10
20cm
-3であり、ボロン元素を不純物としてp型の層を形成している。チップの全体サイズは約5mm×5mmの大きさとした。27はエピ表面欠陥を覆うp型の逆極性部位である。
【0040】
また、
図7は27のp型逆極性部位を拡大した断面図、平面図である。ここで示した28は、欠陥群である。欠陥は3個程存在し、中心とした円の直径で0.1〜0.5μmで、かつ深さが、10〜50nmのものが近接して存在した。これらエピ欠陥の周囲に形成されたエピ層とは逆極性の部位、すなわちp型の逆極性部位27が形成されており、長辺が5μm、短辺が3μm、深さは1.0μmのBOX構造(箱型構造)を有して表面欠陥群を三次元的に取り囲んだ、ボロンを不純物とした不純物濃度が約5×10
19cm
-3の領域である。
【0041】
本実施例のように複数の欠陥が近接するエピ表面欠陥群の場合は、欠陥群を取りまとめて一つの逆極性部位で覆っても良く、すなわちBOX構造などように、その形状は円形とは限らない。ただし順方向通電時の抵抗値に影響を与えないように、逆極性部位はチップ総面積の0.1%以下となるように形成することが好ましい。
【0042】
次に
図8を用いて本SBDの製造方法を説明する。
先ず、単結晶SiC基板(4H-SiC)に対して、
図8(a)に示すような所定の不純物濃度、厚さにエピ層2を形成したエピ基板を用意する。本エピ基板に対して、エピ表面にあるエピ表面欠陥の位置座標をレーザーテック社製SICA6X装置を使用し測定した。本測定により得られた欠陥の幾何学的位置情報は電子データとしてハードディスクなどの電子媒体へ記録した。
【0043】
続いて本エピ基板に対して
図8(b)に示したように、LTO(low-temperature-Oxide)により、エピ基板表面に二酸化ケイ素でマスク30を形成する。次に、予めデバイスパターンを記録し、プログラミングされた電子ビーム装置を用いて、チップ周囲に沿ったガードリングに相当する所定の部分にビームを当てて、マスク開口部31を形成する。このとき予め測定していたエピ欠陥部位の位置DATAを用いてエピ欠陥群27全体を覆うように、上述したBOX構造が得られる矩形の開口部32を形成する。
【0044】
次に、前述した開口部31、32に対してボロンを30〜150KeVの加速電圧で多段的にイオン注入を行った。本実施例では基板全体を500℃以上に余熱した状態でイオン注入を行った。注入した部位を活性化するためにアルゴン雰囲気中で1500℃以上の温度にて10分間の熱処理を行った。以上の工程でエピ表面欠陥を覆う逆極性部位とガードリングとを形成した。この後、弗酸系のエッチング液でエッチングし、マスク30を全て取り去った。以上の工程で本発明の基本構造(d)が完成する。
【0045】
以後はモリブデンで形成されるショットキー金属層23をフォトリソグラフ工程およびスパッタリング装置を用いて所定の位置に設けてショットキー電極を形成する。その上に電極として1μm厚さのアルミニウム金属24が接合されている。さらに、エピ基板の裏面側にニッケル等により構成される金属層25を形成し、熱処理を行うことで、オーミック電極を形成する。これにより、
図6に示したSBDデバイスが完成する。本チップに対してプローブを当て、逆バイアス電圧を与えて逆リーク電流の測定を行ったが1.5kV以上の電圧まで、許容逆リーク電流値の目安である1μA以下のリーク電流であった。
【0046】
以上説明したように本発明は、エピ表面欠陥を有した炭化ケイ素基板を用いてSBDを製造しても良好な電気的特性を持つSBDを構成できる。実施例に示したSBD製造工程は一般的な工程手順であるが、ショットキー金属や電極、プロセス手順、条件などの変更は可能である。
【0047】
本実施例では欠陥周囲の逆極性部位をガードリングの形成工程と同じ工程内で形成したが、JTE構造を設ける際の工程でも構わないし、もちろんガードリングや逆極性層の工程を各々実施しても構わない。さらに、チップ内にも極性の異なる層を交互に設けて逆バイアス時に、極性の異なる部位の周囲に空乏層が広がり、ショットキー電極界面の電界強度を抑えてリーク電流を緩和するJBS(Junction Barrier Controlled Schottky diode)やMPDなどと呼ばれるSBD構造などに対しても本発明を適用することが可能で、それら構造に上書きするように、エピ表面欠陥を覆う逆極性部位を形成すればよい。
【0048】
また本実施例では入手が容易なn型のエピ基板で実施したが、p型エピ基板であっても同様に適用が可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 SiC基板
2 エピ層
3 ショットキー金属層
4 アルミニウム電極
5 裏面電極(カソード電極)
6 ガードリング
7-1、7-2 p型逆極性部位
8-1、8-2 エピ表面欠陥
9-1、9-2 空乏層
10 マスク材
11 開口部
12-1、12-2 開口部
13 電流電圧曲線
14 電流電圧曲線
15-1、15-2 p型逆極性部位
16-1、16-2 エピ表面欠陥
21 SiC基板
22 エピ層
23 ショットキー金属層
24 アルミニウム電極
25 裏面電極(カソード電極)
26 ガードリング
27 p型逆極性部位
28 エピ表面欠陥
30 マスク(マスク材)
31 開口部
32 開口部