(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
光学系分野の金型や、精密プラ型には50HRCを超える高硬度材料が用いられている。これは、益々過酷な金型の長寿命化や、加工面品位を求められるからである。
【0003】
上記に記載した分野は、金型自体の大きさが小さく微細加工分野に属する。前記金型の隅部の大きさ(隅部の曲率半径)は、例えば0.02mm以上0.1mm以下程度と非常に小さいため、ボールエンドミルでは工具径を大きくできず、工具剛性を確保するのは難しい。よって工具径を大きくし、コーナR刃の曲率半径を小さくしたラジアスエンドミルを用いるのが一般的である。
【0004】
SKD11等の50HRCを超える高硬度材料の加工では、一つの金型に多数個の金型形状を加工する多数個取りの加工方法が採用されており、長時間に渡って、高品位な加工面、加工精度を維持できる長寿命の工具が要求される。
【0005】
50HRCを超える高硬度材料を加工する場合、仕上げ用工具においても、切れ味の良さよりも耐チッピング性を考慮した刃先剛性が高い工具が用いられることが多い。
【0006】
刃先剛性を確保する方法としてはすくい角を強い負の角度に設計すること、もしくはネガランドを設けることが一般的である。しかしながら、すくい角が強い負の角度であると刃物角が鈍角になりすぎるため切れ味が悪くなる。切れ味が悪い場合、切削抵抗が増加してチッピングが生じやすく、これに伴い加工面が劣化する傾向にある。
【0007】
これらの問題に対して、特に、長時間に渡って高品位な加工面、加工精度を維持する目的を達成するために、いくつかの提案がなされている。
【0008】
特許文献1には、すくい角が−45°以上−10°以下に設定され、平坦なホーニング面であるネガランドを切れ刃の全域に沿って形成した、少なくともボール刃が立方晶窒化ホウ素を含有した多結晶焼結体からなるボールエンドミルが記載されている。
【0009】
特許文献2には、すくい角が−50°以上−30°以下に設定され、ネガランドを切れ刃の全域に沿って形成し、かつ、底刃とラジアス刃の間に繋ぎ刃を形成したCBNラジアスエンドミルが記載されている。
【0010】
特許文献3には、インサートタイプの工具であり、ボディ型のチップを取り付ける位置が径方向に−30°以上−15°以下傾斜しているスローアウェイ式カッターが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、SKD11等の50HRCを超える高硬度材料は、切削加工中において切削熱が高くなるため工具の損傷が激しくエンドミルは摩耗しやすい。一般的に水溶性のクーラントを使用すると加工面が良好になるが、高硬度材料を加工する場合、前述した切削熱より、工具にヒートクラック現象の影響により、チッピング等が発生してしまう。50HRCを超える高硬度材料は、このような材料特性があるため、エンドミルが早期に摩耗し、多数個取りの加工方法などの長時間の切削加工を行う際において、良好な加工面を維持することができない。
【0013】
一般的にラジアスエンドミルで底面の切削加工をした場合、ボールエンドミルより、被削材との接触面積が大きくなるので、底面の加工面粗さが悪くなる傾向にある。
【0014】
特許文献1に記載のボールエンドミルを用いた場合、立方晶窒化ホウ素を含有した多結晶焼結体と超硬合金との接合が鑞付けであるので接合部の強度が弱く、首部で折損する恐れがある。また、すくい角が−45°以上−10°以下の範囲であるので、切削抵抗の影響から欠損を生じやすく、良好な加工面を長時間維持することができない。さらに、上述したように、金型の隅部の大きさ(隅部の曲率半径)が小さい場合には、工具径を小さくせざるを得ず、50HRCを超える高硬度材料を長時間にわたり切削加工をするために必要となる工具剛性を確保できない。
【0015】
特許文献2に記載のCBNラジアスエンドミルを用いた場合、ネガランドを設けているためすくい角が−50°以上−30°以下である。このような場合、刃物角が鈍角になりすぎることから切削時の切削抵抗が過大となり、加工面品位を損ねたり、工具が折損する可能性がある。
【0016】
特許文献3に記載のスローアウェイ式カッターを用いた場合、チップタイプのため取り付け時の振れの影響が大きい。また仕上げ加工時の切り込み量は0.005mm程度であるため、チップの取り付け時に生じる振れにより高品位の加工面を得ることができない。
【0017】
本発明は前述のような従来の問題を解決し、長時間に渡って、高品位な加工面、加工精度を維持できるラジアスエンドミルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
このような目的を達成するために、本発明のラジアスエンドミルは、刃溝が設けられ、複数の底刃、外周刃及びコーナR刃を有し、前記の底刃と外周刃とが前記コーナR刃を介して接続されたラジアスエンドミルにおいて、当該ラジアスエンドミルの工具軸に対して平行となる方向から見たときに、前記の刃溝と底刃のすくい面とにより形成される稜線が、
前記底刃の前記コーナR側の端部から前記工具軸側の端部にわたって、前記工具軸側に向かうに従い前記底刃から離れるように前記底刃に対して傾斜するように設けられていることにより、前記工具軸と前記の外周刃とコーナR刃との接続部とを結んだ直線に対する前記底刃の成す角度(後述の
図5中のθ1)よりも、前記直線に対する前記の刃溝と底刃のすくい面とにより形成される稜線の成す角度(後述の
図5中のθ2)が大きく設けられていることを特徴とする。
【0019】
本発明のラジアスエンドミルにおいて、前記工具軸と前記の外周刃とコーナR刃との接続部とを結んだ直線に対する前記底刃の成す角度(θ1)よりも、前記直線に対する前記の刃溝と底刃のすくい面とにより形成される稜線の成す角度(θ2)を0°を超え10°以下となる範囲で大きく設けることにより、刃先剛性がさらに向上し、刃先部のチッピングを抑制することが可能となる。
【0020】
本発明のラジアスエンドミルにおいて、前記の刃溝と底刃のすくい面とにより形成される稜線が、前記の外周刃とコーナR刃との接続部に接続されていることにより、従来のラジアスエンドミルよりも量産時の形状のばらつきを抑え、従来より高性能のラジアスエンドミルを安定して製作できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のラジアスエンドミルは、上記のとおり、前記工具軸と前記の外周刃とコーナR刃との接続部とを結んだ直線に対する前記底刃の成す角度(θ1)よりも、前記直線に対する前記の刃溝と底刃のすくい面とにより形成される稜線の成す角度(θ2)が大きく設けられているから、従来のラジアスエンドミルに比べて底刃及びコーナR刃の剛性を顕著に向上することができる。もって、切削抵抗を従来よりも減少できるから、50HRCを超える高硬度材料の切削加工において、従来のラジアスエンドミルに比べて良好な加工面を長時間に渡って維持できる。
【0022】
本発明のラジアスエンドミルは、θ1よりも、θ2が0°を超え10°以下となる範囲で大きく設けた場合に、当該ラジアスエンドミルの刃先すなわち底刃及びコーナR刃の剛性が顕著に向上するから、底刃及びコーナR刃のチッピングを従来のラジアスエンドミルよりも顕著に抑制できる。もって、50HRCを超える高硬度材料の切削加工において、非常に良好な加工面を長時間に渡り維持できる。
【0023】
本発明のラジアスエンドミルは、前記の刃溝と底刃のすくい面とにより形成される稜線を、前記の外周刃とコーナR刃との接続部に接続させた場合に、従来のラジアスエンドミルよりも量産時の形状のばらつきを抑えることができる。従って、精密プラ型における切削加工において従来のラジアスエンドミルよりも切削性能のばらつきを抑制した高性能なラジアスエンドミルを供給できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は本発明のラジアスエンドミルの一実施例を示す正面図である。本発明のラジアスエンドミル1は複数の刃溝2(刃数分)が設けられ、底刃3、外周刃4及びコーナR刃5からなる切れ刃6を有している。本発明のラジアスエンドミルにおいて、底刃3と外周刃4とはコーナR刃5を介して接続されている。
【0026】
また、
図1に示した例は刃径dをシャンク径Dよりも小さくし、切れ刃6を硬質材料で形成した刃先部8とし、シャンク7をWC基超硬合金製とした2枚刃のラジアスエンドミルの例である。本発明の有利な効果を奏するために、WC基超硬合金のCo含有量は4〜12質量%とする。切れ刃6の形成材料もシャンク7と同様にWC基超硬合金としても良いが、50HRCを超える高硬度材料を切削する際においては、切れ刃6を立方晶窒化硼素を主成分とする多結晶焼結体(以下、「cBN焼結体」という。)で形成することにより、顕著に良好な加工面を長時間維持することが可能となる。なお、
図1における点線は刃先部8とシャンク7の境界を示す。刃先部8とシャンク7とはロウ付けもしくは拡散接合により接合されていることが望ましい。
【0027】
刃先部8の形成材料は、cBN焼結体またはWC基超硬合金に限定されず、その他の硬質材料を用いることが出来る。具体的には高速度鋼、PCD、多結晶ダイヤまたはセラミックス(cBN焼結体を除く。)などである。また本発明のラジアスエンドミルは、刃径dが0.1mm以上25mm以下のソリッドエンドミルに適用することが可能である。しかし、50HRCを超える高硬度材料を被削材に用いた精密プラ型などの切削加工の際には、金型自体も小さく、求められる隅部の大きさ(隅部の曲率半径)の寸法精度が高いため、刃径dが0.1mm以上4mm以下の小径のソリッドエンドミルに適用することが望ましい。刃径dが、0.1mm未満の工具は工業生産が困難であり、4mmを超えるものは、対象となる被削物の形状自体の大きさが小型であるため使用できないことがあるからである。
【0028】
図2は
図1に示す本発明のラジアスエンドミルにおける先端付近の拡大図である。本発明のラジアスエンドミルにおいて、底刃3及びコーナR刃5は底刃の逃げ面12と底刃のすくい面9により形成される。底刃のすくい面9はコーナR刃5におけるすくい面の役目も兼ねるため、コーナR刃5にも接続される。同様に外周刃4は外周刃の逃げ面11と外周刃のすくい面10により形成される。また、ギャッシュ面16は、刃溝2の形成時に、外周刃のすくい面10と共に形成される面である。さらに、第1干渉回避面13、第2干渉回避面14及び第3干渉回避面15は、切削加工時にラジアスエンドミルの先端と被削材が干渉しないように、底刃3もしくは外周刃4の回転軌跡よりも内側に設けられている平面である。
【0029】
本発明のラジアスエンドミルにおけるコーナR刃5の曲率半径は0.01mm以上1.5mm以下の範囲であり、0.01mm以上1.0mm以下の範囲とするのが好ましく、0.01mm以上0.1mm以下の範囲とするのがさらに好ましい。これにより、被削材の隅部の大きさ(隅部の曲率半径)が0.01mm以上1.5mm以下に設計された、非常に小さい隅部が設けられた金型を切削加工することが可能となる。コーナR刃5の曲率半径が0.01mm未満のものは工業生産が困難であり、また、コーナR刃5の曲率半径が1.5mmを超えた場合は、本発明の有利な効果が消失する。また、底刃3に接続する底刃のすくい面9のすくい角とは後述の
図4(b)に示されるすくい角θをいう。すくい角θは、刃溝2と底刃のすくい面9により形成される稜線18から伸びた外周刃4の輪郭線に対して平行に、コーナR刃5と底刃3との接続部23から直線Bを引き、接続部23及びコーナR刃5の輪郭線を結ぶ基準直線と直線Bとの成す角度θを測定して求めた。かかるすくい角θは
図4(b)中の前記基準直線から矢印方向に角度θが形成されるとき負角となる。本発明において、すくい角θは−30°以上−5°以下の負角であることが本発明の有利な効果を奏するために望ましい。
【0030】
図3は工具軸Oに対し平行となる方向から底刃3側を見たときの本発明のラジアスエンドミル(2枚刃)を示す図であり、工具軸Oに対して点対称に、刃溝2、底刃3、底刃のすくい面9、底刃の逃げ面12、第1干渉回避面13、第2干渉回避面14、第3干渉回避面15、ギャッシュ面16、刃溝2と底刃のすくい面9により形成される稜線18、及びギャッシュ面16と底刃3のすくい面9により形成される稜線19はそれぞれ一対をなして形成されている。また
図3では、2つの底刃の逃げ面12、12によりチゼルエッジ17が形成されている。本発明のラジアスエンドミルの外周側すくい角は、コーナR刃5の端部が工具軸O(中心側)に向かって鈍角のすくい角を有している。
【0031】
図3に示すように本発明のラジアスエンドミルは、刃溝2と底刃のすくい面9により形成される稜線18(
図2に示した外周刃のすくい面10と底刃のすくい面9により形成される稜線ともいえる。)が、底刃3に対して傾斜するように設けられていることにより、外周側から中心側(底刃3の中心側の端部20から始まる底刃3に対して垂直となる線と、刃溝2と底刃のすくい面9により形成される稜線18の交わる位置まで)にかけて、底刃3及びコーナR刃5のすくい面9の幅(後述の
図4(a)中のx2からx1)が徐々に広くなるように設けられていることが、最大の特徴となる。
【0032】
切れ刃の形成材料がcBN焼結体である従来のラジアスエンドミルには、後述の
図5に示すように、切れ刃の剛性を向上させるために、幅が一定であるネガランド22が設けられる。しかし、ネガランド22は一定の幅で設けられているため、底刃3及びコーナR刃5のすくい面9の幅(後述の
図4(a)中のx2からx1までの幅)が徐々に広くなるように設けられた本発明のラジアスエンドミルとは、底刃3及びコーナR刃5のすくい面9の構造が大きく異なる。本発明のラジアスエンドミルは、底刃3及びコーナR刃5のすくい面9の形状をかかる新規かつ独創的な構造とし、従来のラジアスエンドミルでは達成できなかった課題である、50HRCを超える高硬度材料の切削加工時に、良好な加工面を長時間維持することを達成したものである。
【0033】
また、ギャッシュ面と底刃のすくい面により形成される稜線19は、ギャッシュ面16と底刃のすくい面9が滑らかに接続された場合には、
図3で示すように外周側で境界線が形成されないことがある。また、ギャッシュ面16と底刃のすくい面9の境界線すなわちギャッシュ面16と底刃のすくい面9とにより形成される稜線19が外周側まで明瞭に形成され、一方の底刃3の回転方向前方に配置されたギャッシュ面16と前記底刃の回転方向前方に配置されたもう一方の底刃3における底刃の逃げ面12とが底刃のすくい面9を介して接続された形状になることもあるが、どちらの場合においても本発明の効果を奏するものである。
【0034】
図4(a)は
図3に示した本発明のラジアスエンドミルにおける底刃付近の拡大図である。
図4(a)に示すように、底刃3に対し垂直な方向で測定したときにおける底刃のすくい面の幅xは、外周側から中心側(外周側とはコーナR刃5と外周刃4とが接続する場所を示し、中心側とは底刃3の中心側の端部20を通り、かつ底刃3に対して垂直となる線と、刃溝2と底刃のすくい面9とにより形成される稜線18との交わる位置までである。)にかけて、徐々に広くなるように設けられている。すなわち、外周側から中心側に底刃3及びコーナR刃5のすくい面9の幅(
図4(a)中のx2からx1まで)が徐々に広くなっているため、刃先剛性を確保できる。さらにねじれも有しているため、欠損が抑制でき、50HRCを超える高硬度材料においても、良好な加工面を長時間維持することが可能となる。
ここで、底刃3は曲線部分を含む形状に形成された場合を含む。かかる場合、直線と曲線の混在する形状に形成された底刃3に対して最も近接する直線を描き、もってこの直線を底刃3の輪郭線とみなす。
【0035】
本発明において、底刃3の中心側の端部20における底刃のすくい面9の幅x1は、底刃3に対し垂直な方向で測定したときに、刃径dの4%以上10%以下の範囲であることが望ましい。これにより、50HRCを超える高硬度材料の切削においても、チッピングなく高品位の加工面を長時間に渡り加工できる。
【0036】
底刃3の中心側の端部20における底刃のすくい面9の幅x1が、底刃3に対し垂直な方向で測定したときに、刃径dの4%未満の場合、切りくずの流れる方向が悪くなり、チッピングがしやすくなる傾向が見られる。また、幅x1が、底刃3に対し垂直な方向で測定したときに、刃径dの10%を超えた場合、底刃3の中心側において底刃3のすくい角が大きな負角になり刃先剛性が増すが、切削抵抗が増加し折損する可能性がある。
【0037】
本発明において、コーナR刃5と底刃3の接続部23における底刃のすくい面9の幅x2は、刃径dの1%以上3.5%以下の範囲であることが望ましい。
【0038】
幅x2が刃径dの1%未満の場合、コーナR刃5における軸直すくい角(工具軸に対して垂直に切断した場合の断面を見たときのすくい角)、刃直すくい角(工具軸に対して垂直方向で見たときにおいて、切れ刃の接線に対して垂直に切断した場合の断面を見たときのすくい角)が共に鋭角になり、刃先剛性が失われ、チッピングが起こる可能性がある。また、コーナR刃5の曲率半径に近くなるため刃先剛性が損なわれる。また、幅x2が刃径dの3.5%を超えた場合、軸方向すくい角が鈍角になるためチッピング、折損が発生する可能性がある。
【0039】
つまり、本発明のラジアスエンドミルにおける大きな特徴である、外周側から中心側にかけて底刃3及びコーナR刃5のすくい面9の幅xが徐々に広くなるような形状を設けるためには、底刃3の中心側の端部20における底刃のすくい面9の幅x1を、コーナR刃5と底刃3の接続部23における底刃のすくい面9の幅x2よりも大きくすることが必要である。このような構成とすることにより、刃溝2と底刃3のすくい面9により形成される稜線18を、底刃3に対して傾斜するように設けることが可能となる。
【0040】
図4(b)は、
図4(a)の本発明のラジアスエンドミルを、右側側面(←A方向)から見た拡大図である。
図4(b)に示されるように、底刃のすくい面9のすくい角θが定義される。
【0041】
図5は、
図4に示した本発明のラジアスエンドミルにおけるコーナR刃と外周刃との接続部付近の拡大図である。
図5に示すように、工具軸Oに対し平行となる方向で見たときに、工具軸Oと外周刃とコーナR刃との接続部24とを通るように設けた直線A1と、底刃3とが成す角度をθ1とした。また、刃溝と底刃のすくい面とにより形成される稜線18を延長した直線を直線B1としたとき、直線A1と直線B1との成す角度をθ2とした。
【0042】
図5に示した本発明のラジアスエンドミルは、工具軸Oに対して平行となる方向で見たときに、刃溝と底刃のすくい面とにより形成される稜線18が、底刃3に対して傾斜するように設けられているから、角度θ1よりも角度θ2が大きいことを特徴としている。θ1<θ2が成立する場合、鈍角のねじれ角を有し、従来よりも高い刃先剛性を保持でき、かつ切れ味が良好となるため、50HRCを超える高硬度の被削材の切削加工においても高品位の加工面を長時間に渡り得られる。角度θ1と角度θ2の値が同じか、もしくは、角度θ2よりも角度θ1が大きい場合、すなわちθ1≧θ2の関係になった場合は、ねじれ角が鋭角となるため、刃先の剛性が失われ、チッピングを起こす可能性がある。
【0043】
本発明においては、直線A1に対する刃溝と底刃のすくい面とにより形成される稜線18の成す角度θ2が10°以下になった場合、刃先剛性が失われる可能性があるため、高硬度材料の加工には不向きな形状となる。θ2が35°以上になった場合、刃物角が鈍角になりすぎるため、切削抵抗が大きくなり、チッピングや折損が発生する恐れがある。従って、θ2は10°を超え35°未満の範囲が望ましい。なお、チッピングや折損をより一層抑制するために有効な本発明における最適な角度θ2は15°以上25°以下の範囲である。
【0044】
また本発明においては、θ1よりも、θ2が0°を超え10°以下の範囲で大きく設けられていることが望ましい。これにより、刃先剛性がさらに向上し、コーナR刃及び底刃のチッピングを防止することが可能となり、50HRCを超える高硬度材料の被削材を切削加工する場合においても、従来よりも非常に良好な加工面を長時間に渡り維持できる。特に望ましいのは、θ2からθ1を引いた値が3°を超え7°以下の範囲になる場合であり、特に良好な加工面を得られる。
【0045】
さらに、刃溝と底刃のすくい面により形成される稜線18は、外周刃とコーナR刃との接続部24に接続するように製作することにより、量産時において形状のばらつきを従来より小さく抑えることができる。もって、精密プラ型における切削加工において従来のラジアスエンドミルよりも切削性能のばらつきを小さく抑制できる、高性能のラジアスエンドミルを供給できる。
【0046】
図6は切れ刃のすくい面にネガランドを設けた従来のラジアスエンドミルを示す正面図である。従来のラジアスエンドミル21は、工具軸Oに対して略平行に設けられる外周刃4のすくい面、底刃3から底刃3に対して略平行に設けられる底刃3のすくい面、及びコーナR刃5に対し一定の幅をもって設けられるコーナR刃5のすくい面からなるネガランド22を有している。また、ネガランド22は剛性を確保するため、鈍角に設けられているが、幅が一定となるネガランドを全域に沿って設けた場合には切削時の切削抵抗が過大となり加工面品位を損ねたり、工具が折損する可能性がある。
【0047】
図7は
図6の工具を工具先端側から見たときの従来のラジアスエンドミルを示す図である。コーナR刃5はねじれを有しておらず、外周刃4と底刃3に接続している。コーナR刃5はねじれを有していないため、切削時の抵抗が高くなり、チッピングが発生する可能性があり、良好な加工面を達成できない。
【0048】
図8は
図7に示した従来のラジアスエンドミルにおける底刃付近の拡大図である。
図8に示すように従来のラジアスエンドミルは、底刃3に対し垂直な方向で測定したときにおける底刃のすくい面の幅xが一定のネガランド22が形成されている。そのため、底刃の中心側の端部20における底刃のすくい面の幅x1と、コーナR刃と底刃の接続部23における底刃のすくい面の幅x2は等しい値である。このような形状では刃先剛性が十分に確保できず、欠損が発生しやすい。さらに、50HRCを超える高硬度材料を切削した場合には、良好な加工面を維持することができない。
【0049】
図9は
図8に示した従来のラジアスエンドミルにおけるコーナR刃と外周刃との接続部付近の拡大図である。
図9に示すように、工具軸Oに対し平行となる方向で見たときに、工具軸Oと、外周刃とコーナR刃との接続部24とを通るように設けた直線を直線C(直線Cは本発明のラジアスエンドミルにおける直線A1に相当する。)としたとき、直線Cと底刃3との成す角度がθ1である。また、刃溝とネガランドとにより形成される稜線25を延長したものを直線E(直線Eは本発明のラジアスエンドミルにおける直線B1に相当する。)としたとき、直線Cと直線Eとの成す角度がθ2である。
【0050】
図9に示すように、従来のラジアスエンドミルにおけるθ1とθ2は等しく設けられている。θ1=θ2の場合、ねじれ角を有していないか、もしくは鋭角なねじれ角となるため、コーナR刃及び底刃の剛性が損なわれる傾向にある。よって、50HRCを超える高硬度の被削材の切削加工において、チッピング等が生じやすくなる。
【0051】
以下、本発明を下記の実施例により詳細に説明するが、それらにより本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
(実施例1)
工具軸Oと外周刃とコーナR刃との接続部24とを結んだ直線に対する底刃3の成す角度θ1よりも、直線A1に対する刃溝と底刃のすくい面とにより形成される稜線18の成す角度θ2を大きく設けた本発明例1、及びネガランドを設けた従来例1の各ラジアスエンドミルをそれぞれ用いて、加工面粗さの比較テストを行った。
【0053】
本発明例1及び従来例1のラジアスエンドミルの共通仕様は以下のとおりとした。
刃径d:0.4mm
底刃3、外周刃4及びコーナR刃5からなる切れ刃6を工具軸O方向で測定したときの長さである刃長:0.14mm
切れ刃6のねじれ角:−20°
首下長さL:0.5mm
コーナR刃5の曲率半径:0.02mm
シャンク7の形成材料:WC基超硬合金(日立ツール株式会社製、材質名:NM08、Co含有量:8.2質量%)
切れ刃6の形成材料:cBN焼結体
刃数:2枚刃のラジアスエンドミル
【0054】
本発明例1のラジアスエンドミルは、
図3、
図4及び
図5に示すように工具軸Oに対して平行となる方向で見たときに、刃溝2と底刃3とのすくい面により形成される稜線18が、底刃3に対して傾斜するように設けられているため、径方向のすくい角は鈍角となっており、外周側から中心側にかけて、底刃3及びコーナR刃5のすくい面の幅が徐々に広くなるように設けられている。工具軸Oと外周刃4とコーナR刃5との接続部24とを結んだ直線A1に対する底刃3の成す角度θ1は20°である。直線A1に対する刃溝2と底刃3のすくい面とにより形成される稜線18の成す角度θ2は25°である。よって、工具軸Oと外周刃4とコーナR刃5との接続部24とを結んだ直線A1に対する底刃3の角度θ1と、直線A1に対する刃溝2と底刃3のすくい面とにより形成される稜線18の成す角度θ2との角度差(θ2−θ1)は5°である。
【0055】
従来例1のラジアスエンドミルにはネガランドが設けられているため、
図7、
図8及び
図9に示すように工具軸Oに対し平行となる方向で見たときに、刃溝と底刃のすくい面とにより形成される稜線が、底刃に対して傾斜しないように設計されている。工具軸と外周刃とコーナR刃との接続部とを結んだ直線Cに対する底刃の成す角度θ1は16°である。また従来例1のラジアスエンドミルにおける直線Cに対する刃溝と底刃のすくい面とにより形成される稜線の成す角度θ2は16°である。すなわち、θ1=θ2 である。
【0056】
評価方法として、各例のラジアスエンドミルを用いて勾配面の仕上げ加工を等高線加工で行い、切削距離が1.2m、10m、40m、及び70mに達したときにおいて、加工面粗さRa(中心線平均粗さ、JIS B 0601)の測定及び比較を行った。
【0057】
切削加工条件はいずれの場合も以下の条件とした。
被削材:SUS440C焼き入れ材(60HRC)のブロック材
被削材の寸法、形状:高さ20mm、長さ50mm、幅50mm、一方の壁面を角度45°の勾配面に形成
ラジアスエンドミルの回転数:40000回転/min(切削速度50.3m/min)
送り速度:260mm/min
一刃送り量:0.0035mm/tooth
軸方向切り込み量:2.00μm
径方向切り込み量:2.00μm
冷却:ミストクーラントを使用
上記切削加工条件にて、切削距離が70mに達するまで切削加工を行った。
【0058】
切削試験の評価基準として、切削距離が1.2m、10m、40m、及び70mに達した全時点において、Raが0.070μm以下である場合を良好とした。切削試験結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1から、本発明例1のラジアスエンドミルは切削距離が切削初期である1.2mから、10m、40m及び70mに達した全時点において、Raが0.07μm以下で、良好なRaを長時間維持することが出来た。
【0061】
従来例1のラジアスエンドミルはネガランドが設けられており、刃溝と底刃のすくい面とにより形成される稜線が、底刃に対して傾斜しないように設計されているため、コーナR刃がねじれを有していない。そのため、切削抵抗が大きくなり、切削距離が1.2m、10m、40m及び70mに達した時点におけるRaは、0.069μm、0.071μm、0.076μm及び0.080μmとなり、切削距離が10m以上の加工面が悪くなる結果となった。
【0062】
(実施例2)
工具軸Oと外周刃とコーナR刃との接続部24とを結んだ直線A1に対する底刃3の成す角度θ1と、直線A1に対する刃溝と底刃のすくい面とにより形成される稜線18の成す角度θ2との角度差を変化させた本発明例2から本発明例12の各ラジアスエンドミルを用いて、Raの比較テストを行った。
【0063】
本発明例2として、工具軸Oと外周刃とコーナR刃との接続部24とを結んだ直線A1に対する底刃3の成す角度θ1を20°とし、直線A1に対する刃溝と底刃のすくい面とにより形成される稜線18との成す角度θ2を21°とし、θ1よりもθ2を1°大きく設けたラジアスエンドミルを製作した。
【0064】
本発明例3として、工具軸Oと外周刃とコーナR刃との接続部24とを結んだ直線A1に対する底刃3の成す角度θ1を20°とし、直線A1に対する刃溝と底刃のすくい面とにより形成される稜線18との成す角度θ2を22°とし、θ1よりもθ2を2°大きく設けたラジアスエンドミルを製作した。
【0065】
本発明例4として、工具軸Oと外周刃とコーナR刃の接続部24とを結んだ直線A1に対する底刃3の成す角度θ1を20°とし、直線A1に対する刃溝と底刃のすくい面とにより形成される稜線18の成す角度θ2を23°とし、θ1よりもθ2を3°大きく設けたラジアスエンドミルを製作した。
【0066】
本発明例5として、工具軸Oと外周刃とコーナR刃の接続部24とを結んだ直線A1に対する底刃3の成す角度θ1を20°とし、直線A1に対する刃溝と底刃のすくい面とにより形成される稜線18の成す角度θ2を24°とし、θ1よりもθ2を4°大きく設けたラジアスエンドミルを製作した。
【0067】
本発明例6として、本発明例1と同様に、工具軸Oと外周刃とコーナR刃の接続部24とを結んだ直線A1に対する底刃3の成す角度θ1を20°とし、直線A1に対する刃溝と底刃のすくい面とにより形成される稜線18の成す角度θ2を25°とし、θ1よりもθ2を5°大きく設けたラジアスエンドミルを製作した。
【0068】
本発明例7として、工具軸Oと外周刃とコーナR刃の接続部24とを結んだ直線A1に対する底刃3の成す角度θ1を20°とし、直線A1に対する刃溝と底刃のすくい面とにより形成される稜線18の成す角度θ2を26°とし、θ1よりもθ2を6°大きく設けたラジアスエンドミルを製作した。
【0069】
本発明例8として、工具軸Oと外周刃とコーナR刃の接続部24とを結んだ直線A1に対する底刃3の成す角度θ1を20°とし、直線A1に対する刃溝と底刃のすくい面とにより形成される稜線18の成す角度θ2を27°とし、θ1よりもθ2を7°大きく設けたラジアスエンドミルを製作した。
【0070】
本発明例9として、工具軸Oと外周刃とコーナR刃の接続部24とを結んだ直線A1に対する底刃3の成す角度θ1を20°とし、直線A1に対する刃溝と底刃のすくい面とにより形成される稜線18の成す角度θ2を28°とし、θ1よりもθ2を8°大きく設けたラジアスエンドミルを製作した。
【0071】
本発明例10として、工具軸Oと外周刃とコーナR刃の接続部24とを結んだ直線A1に対する底刃3の成す角度θ1を20°とし、直線A1に対する刃溝と底刃のすくい面とにより形成される稜線18の成す角度θ2を29°とし、θ1よりもθ2を9°大きく設けたラジアスエンドミルを製作した。
【0072】
本発明例11として、工具軸Oと外周刃とコーナR刃の接続部24とを結んだ直線A1に対する底刃3の成す角度θ1を20°とし、直線A1に対する刃溝と底刃のすくい面とにより形成される稜線18の成す角度θ2を30°とし、θ1よりもθ2を10°大きく設けたラジアスエンドミルを製作した。
【0073】
本発明例12として、工具軸Oと外周刃とコーナR刃の接続部24とを結んだ直線A1に対する底刃3の成す角度θ1を20°とし、直線A1に対する刃溝と底刃のすくい面により形成される稜線18の成す角度θ2を31°とし、θ1よりもθ2を11°大きく設けたラジアスエンドミルを製作した。
【0074】
本発明例2から本発明例12の各ラジアスエンドミルの共通仕様は本発明例1と同一にした。
【0075】
評価方法として、各例のラジアスエンドミルを用いて勾配面の仕上げ加工を等高線加工で行い、切削距離が70mに達したときにおいて、Raの測定及び比較を行った。
【0076】
切削加工条件は実施例1と同一にした。切削試験の評価基準として、切削距離が70mに達した時点において、Raが0.070μm以下の場合を良好とした。切削試験の結果を表2に示す。
【0077】
【表2】
【0078】
表2から、本発明例2から本発明例12の各ラジアスエンドミルの場合、切削距離が70mに達した時点において、Raがいずれも0.070μm以下であり、良好な結果を得られたことが分かる。
【0079】
さらに表2から、工具軸Oと外周刃とコーナR刃の接続部24とを結んだ直線A1に対する底刃3の成す角度θ1よりも、直線A1に対する刃溝と底刃のすくい面とにより形成される稜線18との成す角度θ2が1°以上10°以下の範囲で大きく設けた本発明例2から本発明例11の各ラジアスエンドミルの場合、Raが0.068μm以下であり、非常に良好な結果を得られたことが分かる。