特許第6179208号(P6179208)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6179208
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】インターロイキン−8産生抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/78 20060101AFI20170807BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20170807BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   A61K31/78
   A61P1/02
   A61P29/00
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-125541(P2013-125541)
(22)【出願日】2013年6月14日
(65)【公開番号】特開2015-853(P2015-853A)
(43)【公開日】2015年1月5日
【審査請求日】2016年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081514
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 一
(74)【代理人】
【識別番号】100082692
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵合 正博
(72)【発明者】
【氏名】三宅 洋一郎
(72)【発明者】
【氏名】宮本 幸治
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 剛
【審査官】 横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−153101(JP,A)
【文献】 特開2003−180801(JP,A)
【文献】 特開2004−194874(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/093848(WO,A1)
【文献】 弘田 克彦 ら,水溶性MPCポリマーの口腔細菌付着抑制効果,Bacterial Adherence & Biofilm,2010年,Vol.24,pp.47-49
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00−33/44
A61P1/00−43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスホリルコリン基含有重合体を有効成分として、0.01質量%〜10質量%含有し、細菌の内毒素によるインターロイキン−8の産生を抑制するために使用される、インターロイキン−8産生抑制剤
【請求項2】
前記ホスホリルコリン基含有重合体が、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと式(1)で示される疎水性基含有単量体との、重量平均分子量10,000〜10,000,000の共重合体である、請求項1記載のインターロイキン−8産生抑制剤
【化1】
【請求項3】
前記細菌の内毒素がポリフィロモナス・ジンジバリス由来リポポリサッカライドである、請求項1又は2記載のインターロイキン−8産生抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスホリルコリン基含有重合体を有効成分として含有する、細菌の内毒素による炎症性サイトカイン産生を抑制し、歯肉炎を予防することを特徴としたインターロイキン−8産生抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
通常よりも多く口腔内に細菌などの微生物が存在している不衛生な状態が続くと、歯周ポケットで微生物が増殖しバイオフィルムが形成される。このような形成されたバイオフィルムが付着している歯肉上皮細胞では、バイオフィルム内で細菌から出される内毒素により、炎症性疾患が引き起こされる。一般に、この炎症性疾患は、歯肉炎と呼ばれており、歯肉炎が起こるメカニズムは以下のように言われている。
歯肉上皮細胞には、様々な病原体を認識するための受容体であるToll様受容体(以後、TLRと称する)が9個(TLR1〜9)存在し、この各TLRによって、それぞれが異なる炎症性細胞遊走因子を認識することが知られている。
また、非特許文献1は、グラム陰性嫌気性細菌であるポリフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis;以後、P.gingivalisと略記する)が、主たる歯周病の原因菌となり歯肉炎を起こすことを開示している。さらに、このP.gingivalisのリポポリサッカライド(LPS)に対しては、TLRのうちTLR2が関与し、炎症性サイトカインIL−8(インターロイキン−8)を産生することが知られている。以後、P.gingivalisのLPSをPgLPSと略記する。
このようにしてPgLPSが刺激を受け、炎症性サイトカインIL−8が産生されることにより歯肉炎が発症すると考えられている。
【0003】
従って、PgLPSの刺激抑制は、歯肉炎予防に効果的であるといえる。しかしながら、PgLPSの刺激抑制に対する知見は現在までない。すなわち、現状の歯肉炎を予防するための対策は、口腔内環境を清潔に保つことを主とし、そのために、殺菌剤が配合された製剤の使用による細菌の増加を抑制したり、歯磨きによって機械的にバイオフィルムを除去したりするオーラルケアが一般的である。
このような、口腔内環境を清潔に保つために、口腔内での菌付着防止に関する技術として以下のようなものが報告されている。
【0004】
特許文献1は、ホスホリルコリン基含有共重合体が、口腔内の乾燥を防ぐ口腔用組成物に使用できることを開示している。また、特許文献2は、ホスホリルコリン基含有重合体を含有した口腔用組成物による微生物の付着防止に関する方法を開示している。また、特許文献3は、ホスホリルコリン基含有共重合体が、菌やカビなどの微生物が表面に付着することを抑制すること及び歯科医術における有用性を示しているが、具体的な使用方法の記載はない。
いずれにしても、これらの技術は、いずれも微生物の付着を抑制することで口腔内を衛生的に保つことに関するものである。
【0005】
一方、特許文献4は、ホスホリルコリン基含有共重合体が、細胞微毒性物質と併用することで特定の細胞微毒性物質に対し細胞毒性を緩和した安全性の高い配合組成物を提供し得ることを開示している。また、特許文献5は、ホスホリルコリン類似基含有重合体を、
外皮用殺菌剤配合組成物に配合することで、特定の外皮用殺菌剤の刺激性を緩和した安全性の高い外皮用殺菌剤配合組成物が提供されることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−273767号公報
【特許文献2】特開2011−153101号公報
【特許文献3】特表平7−506138号公報
【特許文献4】特開2003−327778号公報
【特許文献5】特開2005−314336号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Beverly A. Dale、「Peripdontal epithelium: a newly recognized role in health and disease」、Periodontology、2000、30、p.70-78
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記示したように、外皮用剤ではホスホリルコリン基含有共重合体を使用することで、殺菌成分の安全性を高めて使用できることが示唆されている。しかしながら、口腔内のような水分が多い状況での使用時における、ホスホリルコリン基含有重合体のこのような効果については知られておらず、さらには、細菌の内毒素による炎症性サイトカイン産生の抑制効果も知られていない。
【0009】
本発明の課題は、細菌の内毒素による炎症性サイトカイン産生を抑制することで炎症を予防することができる、新規な歯肉炎予防剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、細菌の内毒素による炎症性サイトカイン産生を抑制することによる、炎症を予防する歯肉炎予防剤に関して鋭意検討を重ねた結果、ホスホリルコリン基含有重合体が、細菌の内毒素による炎症性サイトカイン産生を抑制することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明によれば、ホスホリルコリン基含有重合体を有効成分として、0.01質量%〜10質量%含むインターロイキン−8産生抑制剤が提供される。好ましくは、当該ホスホリルコリン基含有重合体は、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと下記式(1)で示される疎水性基含有単量体との重量平均分子量10,000〜10,000,000、好ましくは50,000〜5,000,000の共重合体である。
【0012】
【化1】
【発明の効果】
【0013】
本発明のホスホリルコリン基含有重合体を含有するインターロイキン−8産生抑制剤は、グラム陰性嫌気性細菌等を原因菌とする歯肉炎の発症において、細菌の内毒素による細胞からの炎症性サイトカイン産生を高度に抑制するので、歯肉炎の発症及び炎症を効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の歯肉炎予防剤の有効成分はホスホリルコリン基含有重合体であり、当該歯肉炎予防剤中に0.01質量%〜10質量%の濃度で含有されている。ホスホリルコリン基含有重合体の好ましい態様としては、ホスホリルコリン基含有単量体と疎水性基含有単量体をラジカル重合してなる共重合体が挙げられる。また、ホスホリルコリン基含有単量体としては、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンが好ましい。
この疎水性基含有単量体の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0015】
なお、これらの疎水性基含有単量体は、ホスホリルコリン基含有単量体との共重合に当たって、単独でも2種以上使用して共重合してもよい。なお、ホスホリルコリン基含有単量体と疎水性基含有単量体との共重合は、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等、公知の方法で行うことができる。また、ホスホリルコリン基含有単量体と疎水性基含有単量体の共重合体として、市販品「商品名:LIPIDURE(リピジュア)(登録商標) PMB、日油株式会社製」などを用いることもできる。
【0016】
本発明のホスホリルコリン基含有共重合体の重量平均分子量は、10,000〜10,000,000の範囲であるが、ホスホリルコリン基含有共重合体の製造時の混合のしやすさの点で、50,000〜5,000,000の範囲が好ましい。
また、本発明の歯肉炎予防剤中における、有効成分であるホスホリルコリン基含有共重合体の含有量は、0.01質量%〜10質量%であり、薬剤の製剤化のしやすさの点で、0.05〜5質量%の範囲がより好ましい。
【0017】
歯周病原因菌の一種であるP.gingivalisのPgLPSは、上記した様に、TLR2が関与することによって、炎症性サイトカインIL−8を産生することが知られている。このIL−8は炎症を誘発するため、これを抑制することは、歯肉炎予防では重要である。
従って、IL−8の産生量を歯肉炎の予防効果の評価指標とすることができ、本発明においては、IL−8の産生量を測定することにより、歯肉炎の予防効果を評価した。本発明のホスホリルコリン基含有重合体を有効成分として含む歯肉炎予防剤は、有意にIL−8の産生量を抑制することができ、よって、非常に良好な歯肉炎予防効果を発揮する。
【0018】
また、本発明の歯肉炎予防剤は、歯磨き、洗口液、口中清涼剤、含嗽剤などの口腔用製品に応用することができ、その形態も液状、粘性液体、ジェル状、乳化状、タブレット状など形態は特に限定されず、口腔用組成物に通常使用される湿潤剤、溶剤、界面活性剤、緩衝剤、防腐殺菌剤、抗炎症剤、色素、甘味剤、香料、粘稠化剤などを配合することができる。
【0019】
使用可能な湿潤剤としては特に限定はされないが、グリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、エリスリトールなどの多価アルコール、ヒアルロン酸、アルギン酸、及びジュランガムなどの多糖類などを挙げることができる。
使用可能な溶剤も特に限定はされないが、精製水、及びエタノールを挙げることができる。
【0020】
使用可能な界面活性剤としては特に限定はされないが、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ソルビタン脂肪酸エチレン付加物、ポリグリセリン脂肪酸エステル、アシルアミノ酸塩、脂肪酸アミノプロピルベタイン、及び脂肪酸アミドベタインなどを挙げることができる。
また、使用可能な緩衝剤も特に限定はされないが、クエン酸、リン酸、リンゴ酸、グルコン酸およびこれらの塩を挙げることができる。
【0021】
使用可能な防腐殺菌剤としては特に限定はされないが、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸ポリヘキサニド、イソプロピルメチルフェノール、トリクロサン、ヒノキチオール、安息香酸及びこの塩、パラベン類、塩化アルキルジアミノエチルグリシンを挙げることができる。
また、使用可能な抗炎症剤も特に限定はされないが、グリチルリチン酸およびその塩、グリチルレチン、アズレン、イプシロン−アミノアプロン酸、及びアラントインなどを挙げることができる。
【0022】
使用可能な甘味剤としては特に限定はされないが、サッカリン、ステビオシド、スクロース、アスパルテーム、及び甘草抽出物などを挙げることができる。
また、粘稠化剤も特に限定はされないが、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロースなどのセルロース系粘稠化剤、ポリビニルアルコール、及びポリビニルピロリドンなどの合成高分子系粘稠化剤、並びにキサンタンガムなどのような多糖類などを挙げることができる。
【0023】
本発明の歯肉炎予防剤を上記示した口腔用製品に応用する場合、当該口腔用製品のpHを5.5〜8.5に調整することが望ましい。使用時における口腔内の低刺激性に効果があるからである。
【実施例】
【0024】
次に本発明について実施例及び比較例により、本発明及びその効果を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0025】
<歯肉炎予防効果の評価:IL−8産生量測定>
(1)培養歯肉上皮細胞RT−7(RT−7細胞)を24穴プレートのウェル中でCelldeskTM(スミロン)上に播種しコンフルエントになるまで1〜2日培養した。
(2)このRT−7細胞に、下記実施例1〜3及び比較例で調製した各歯肉炎予防剤を室温で30秒間接触させた。
(3)その後、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)で3回洗浄し、1μg/mLのPgLPS[InvivoGen(San Diego, CA, USA)製]を24時間接触させた。
(4)次いで、IL−8測定キット(ELISA;R&D System, Minneapolis, MN, USA製)を用いて、RT−7細胞から産生したIL−8量を測定した。(IL−8検出量)
【0026】
実施例1
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とブチル(メタ)アクリレート(BMA)の共重合体[MPC/BMA(モル比)=8/2、重量平均分子量600,000;リピジュア(登録商標)PMB、日油株式会社製]を1質量%水溶液とし、歯肉炎予防剤とした。
当該実施例1の共重合体について、上記歯肉炎予防効果の評価を実施した。結果を表1に示す。
【0027】
実施例2
共重合体の濃度を、2.5質量%水溶液とした以外は実施例1と同様にして、歯肉炎予防効果の評価を実施した。結果を表1に示す。
【0028】
実施例3
共重合体の濃度を、5質量%水溶液とした以外は実施例1と同様にして、歯肉炎予防効果の評価を実施した。結果を表1に示す。
【0029】
比較例1
比較として、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)をコントロール剤とし、上記歯肉炎予防効果の評価を実施した。結果を表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
表1から明らかなように、ホスホリルコリン基含有共重合体であるMPC/BMA共重合体は、炎症性サイトカインIL−8の産生を有意に抑制することができる。これは、MPC/BMA共重合体がPgLPSの働きを阻害し、IL−8の産生を効果的に抑制したためと考えられる。
従って、本発明のホスホリルコリン基含有重合体を有効成分として含有する歯肉炎予防剤は、良好な歯肉炎予防効果を発揮する。