特許第6179241号(P6179241)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6179241
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】エンジンの制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02B 37/18 20060101AFI20170807BHJP
   F02B 37/12 20060101ALI20170807BHJP
   F02D 23/00 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   F02B37/18 A
   F02B37/12 302C
   F02B37/12 302Z
   F02D23/00 P
【請求項の数】6
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-155155(P2013-155155)
(22)【出願日】2013年7月26日
(65)【公開番号】特開2015-25412(P2015-25412A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2016年7月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】川辺 敬
【審査官】 小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−211723(JP,A)
【文献】 特開2012−007561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 33/00−41/10
F02D 13/00−28/00、41/00−45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路上の過給用タービンを迂回する迂回路に介装され、電動アクチュエータにより駆動されるウェイストゲートバルブを具備するエンジンの制御装置であって、
所定のクリーニング開始条件が成立するか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段により前記クリーニング開始条件が成立したと判定された場合に、前記ウェイストゲートバルブを開閉させてクリーニングを実施するクリーニング制御手段と、を備え、
前記判定手段は、所定のクリーニング許可条件が成立するか否かを判定し、前記クリーニング許可条件が成立した場合に前記クリーニング開始条件が成立するか否かを判定し、
前記クリーニング開始条件には、車両が減速走行中であることが含まれる
ことを特徴とする、エンジンの制御装置。
【請求項2】
前記エンジンの作動中に燃料供給を遮断する燃料カット制御を実施する燃料カット制御手段を備え、
前記クリーニング開始条件には、前記燃料カット制御手段による前記燃料カット制御の実施中であることが含まれる
ことを特徴とする、請求項1記載のエンジンの制御装置
【請求項3】
前記ウェイストゲートバルブの位置を検出する検出手段と、
前記エンジンの始動後に、前記ウェイストゲートバルブを全閉にして前記検出手段により検出された前記位置から前記ウェイストゲートバルブのゼロ点を学習する学習手段と、を備え、
前記クリーニング許可条件には、前記学習手段によって前記ゼロ点が学習されたことが含まれる
ことを特徴とする、請求項1又は2記載のエンジンの制御装置。
【請求項4】
前記学習手段は、前記エンジンの始動前に、前記ウェイストゲートバルブを全閉にして前記検出手段により検出された前記位置から前記ウェイストゲートバルブの初期全閉位置を学習し、
前記クリーニング許可条件には、前記学習手段によって学習された前記初期全閉位置と前記ゼロ点との差の絶対値が所定値以上であることが含まれる
ことを特徴とする、請求項記載のエンジンの制御装置。
【請求項5】
前記エンジンの運転状態に基づいて、前記エンジンの気筒内への燃料噴射である筒内噴射と前記気筒の吸気ポート内への燃料噴射であるポート噴射とを制御する噴射制御手段を備え、
前記クリーニング許可条件には、前記噴射制御手段によって同一の燃焼サイクル内で前記筒内噴射と前記ポート噴射とが実施されることが含まれる
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載のエンジンの制御装置。
【請求項6】
所定の走行時アイドルストップ実施条件が成立した場合に、前記車両の走行中に前記エンジンを自動的に停止させる走行時アイドルストップ制御手段を備え、
前記走行時アイドルストップ制御手段は、前記走行時アイドルストップ実施条件の成立時であっても前記クリーニング制御手段による前記クリーニングが未実施の場合は、前記エンジンの自動停止を禁止する
ことを特徴とする、請求項1〜の何れか1項に記載のエンジンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気圧を利用する過給システムを具備したエンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの排気圧を利用する過給システムを備えたエンジンにおいて、排気通路上に介装される過給用タービンを迂回するための迂回路に電動のウェイストゲートバルブ(開閉弁)を設けたものがある。ウェイストゲートバルブは、過給状態(過給圧)を調節するための過給圧調節弁であり、電動アクチュエータにより開閉されることで過給用タービンに流入する排気流量が制御され、過給用タービンの回転速度が制御される。
【0003】
例えば、加速時のようにエンジンに対する出力要求が高い場合は、ウェイストゲートバルブの開度を小さく又はゼロとする(閉鎖する)ことで過給用タービンの回転速度が上昇する。これにより、過給される吸気量が増大し、過給効率が向上するため、高出力を得ることができる。反対に、減速時のようにエンジンに対する出力要求が低い場合は、ウェイストゲートバルブの開度を大きく又は全開とする(開放する)ことで、過給用タービンの回転速度が低下する。これにより、過給される吸気量が減少し、出力に見合った量の吸気が送られる。
【0004】
このように、要求される出力に応じてウェイストゲートバルブの開度を制御することで、過給される吸気量(すなわち過給圧)を制御することができる。言い換えると、過給圧を正確に制御するためには、ウェイストゲートバルブの開度を正確に制御する必要がある。
【0005】
しかしながら、ウェイストゲートバルブは排気に晒されるため、排気に含まれるカーボンが付着することがあり、付着したカーボンが固着してデポジットとなると、ウェイストゲートバルブの動作不良の原因となりうる。そのため、従来より排気通路等に介装されたバルブをクリーニングする技術が提案されている。
【0006】
例えば特許文献1には、排気通路に設けられたバイパスバルブに付着したカーボン等の付着物を除去する技術が開示されている。この技術では、エンジンの停止を制御する運転制御部が停止指示を受けた後、所定時間経過後にエンジンを停止するように構成されており、この間(すなわち停止指示を受けてからエンジン停止までの間)にバイパスバルブを開閉させ、バイパスバルブから付着物を除去できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許2007−211723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の特許文献1の装置では、エンジンの停止指示を受けてからエンジンが完全に停止するまでの所定時間の間にバイパスバルブを開閉させるため、付着物を除去するのに十分な時間を確保することが難しい。またこの装置では、バルブを開閉させた後エンジンが停止して排気の流れが止まってしまうため、バルブから外れた付着物が排気通路に堆積してしまうおそれがある。
【0009】
特に、気筒内に直接燃料を噴射する筒内噴射弁を備えたエンジンの場合は、カーボンが発生する可能性が高いため、バルブのクリーニング時間を十分に確保して、バルブへのカーボンの堆積を防止することが望まれる。とりわけ、過給圧を調節するウェイストゲートバルブに付着物が堆積してしまうと過給圧制御に影響が出てしまうため、ウェイストゲートバルブに付着した付着物は確実に除去する必要がある。
【0010】
本件はこのような課題に鑑み案出されたもので、ウェイストゲートバルブへのカーボンの堆積を防止することができるようにした、エンジンの制御装置を提供することを目的とする。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)ここで開示するエンジンの制御装置は、排気通路上の過給用タービンを迂回する迂回路に介装され、電動アクチュエータにより駆動されるウェイストゲートバルブを具備するエンジンの制御装置であって、所定のクリーニング開始条件が成立するか否かを判定する判定手段と、前記判定手段により前記クリーニング開始条件が成立したと判定された場合に、前記ウェイストゲートバルブを開閉させてクリーニングを実施するクリーニング制御手段と、を備える。前記判定手段は、所定のクリーニング許可条件が成立するか否かを判定し、前記クリーニング許可条件が成立した場合に前記クリーニング開始条件が成立するか否かを判定する。さらに、前記クリーニング開始条件には、車両が減速走行中であることが含まれる。
【0012】
(2)前記エンジンの作動中に燃料供給を遮断する燃料カット制御を実施する燃料カット制御手段を備えることが好ましい。この場合、前記クリーニング開始条件には、前記燃料カット制御手段による前記燃料カット制御の実施中であることが含まれることが好ましい
【0013】
)また、前記ウェイストゲートバルブの位置を検出する検出手段と、前記エンジンの始動後に、前記ウェイストゲートバルブを全閉にして前記検出手段により検出された前記位置から前記ウェイストゲートバルブのゼロ点を学習する学習手段と、を備えることが好ましい。この場合、前記クリーニング許可条件には、前記学習手段によって前記ゼロ点が学習されたことが含まれることが好ましい。
【0014】
)前記学習手段は、前記エンジンの始動前に、前記ウェイストゲートバルブを全閉にして前記検出手段により検出された前記位置から前記ウェイストゲートバルブの初期全閉位置を学習し、前記クリーニング許可条件には、前記学習手段によって学習された前記初期全閉位置と前記ゼロ点との差の絶対値が所定値以上であることが含まれることが好ましい。
【0015】
)また、前記エンジンの運転状態に基づいて、前記エンジンの気筒内への燃料噴射である筒内噴射と、前記気筒の吸気ポート内への燃料噴射であるポート噴射とを制御する噴射制御手段を備えることが好ましい。この場合、前記クリーニング許可条件には、前記噴射制御手段によって同一の燃焼サイクル内で前記筒内噴射と前記ポート噴射とが実施されることが含まれることが好ましい。
【0016】
)また、所定の走行時アイドルストップ実施条件が成立した場合に、前記車両の走行中に前記エンジンを自動的に停止させる走行時アイドルストップ制御手段を備えることが好ましい。この場合、前記走行時アイドルストップ制御手段は、前記走行時アイドルストップ実施条件の成立時であっても前記クリーニング制御手段による前記クリーニングが未実施の場合は、前記エンジンの自動停止を禁止することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
開示のエンジンの制御装置によれば、ウェイストゲートバルブへのカーボンの堆積を防止することができる。また、クリーニング許可条件が成立しなければクリーニング開始条件が判定されないため、クリーニング許可条件の設定次第で、クリーニングを実施するタイミングを適切に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】一実施形態に係るエンジンの制御装置のブロック構成及びこの制御装置が適用されたエンジンの構成を例示する図である。
図2図1の制御装置のブロック構成を例示する図である。
図3】ウェイストゲートバルブの開度に対するバルブ位置の関係を示したマップ例である。
図4】エンジン制御装置での学習制御の手順を例示するフローチャートである。
図5】エンジン制御装置での開度制御の手順を例示するフローチャートである。
図6】エンジン制御装置でのクリーニング制御の手順を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面により実施の形態について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
【0020】
[1.装置構成]
[1−1.エンジン]
本実施形態のエンジンの制御装置は、図1に示す車載ガソリンエンジン10(以下、単にエンジン10と呼ぶ)に適用される。このエンジン10は、ポート噴射と筒内噴射とを併用する燃料噴射システムと、排気圧を利用した過給システムとEGRシステム(排気再循環システム)とを備える。図1では、多気筒のエンジン10に設けられた複数のシリンダ(気筒)のうちの一つを示す。シリンダ内にはピストンが摺動自在に内装され、ピストンの往復運動がコネクティングロッドを介してクランクシャフトの回転運動に変換される。
【0021】
各シリンダの頂面には吸気ポート及び排気ポートが設けられ、それぞれのポート開口には吸気弁,排気弁が設けられる。また、吸気ポートと排気ポートとの間には、点火プラグ15がその先端を燃焼室側に突出させた状態で設けられる。点火プラグ15での点火のタイミング(点火時期)は、後述するエンジン制御装置1で制御される。
【0022】
[1−2.燃料噴射系]
各シリンダへの燃料供給用のインジェクタとして、シリンダ内に直接的に燃料を噴射する筒内噴射弁(直噴インジェクタ)11と、吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射弁(ポート噴射インジェクタ)12とが設けられる。二種類の燃料噴射形態がエンジン10の運転状態に応じて使い分けられ、又は組み合わされて、シリンダ内での燃料混合気の濃度分布を均質にした状態で燃焼させる均質燃焼と、高濃度の混合気が点火プラグ15の近傍に層状に偏った状態で燃焼させる成層燃焼とが実施される。
【0023】
ポート噴射は主に均質燃焼時に利用され、成層燃焼時には主に筒内噴射が利用される。ただし、筒内噴射弁11からの燃料噴射時であっても、均質燃焼を実現可能である。筒内噴射による均質燃焼では、シリンダ内での燃料蒸発時に潜熱が吸収されて体積効率が上昇しやすい。また、燃焼温度が低下するため、ノッキングが発生しにくい。筒内噴射弁11から噴射された燃料は、例えばシリンダ内に形成される層状の空気流に乗って点火プラグ15の近傍に誘導され、吸入空気中に不均一に分布する。一方、ポート噴射弁12から噴射された燃料は、例えば吸気ポート内で霧化し、吸入空気とよく混ざった状態でシリンダ内に導入される。
【0024】
これら二種類の噴射弁11,12は、エンジン10に設けられる図示しない他の気筒にも設けられる。筒内噴射弁11及びポート噴射弁12から噴射される燃料量及びその噴射時期は、エンジン制御装置1で制御される。例えば、エンジン制御装置1から各噴射弁11,12に制御パルス信号が伝達され、その制御パルス信号の大きさに対応する期間だけ、各噴射弁11,12の噴射口が開放される。これにより、燃料噴射量は制御パルス信号の大きさ(駆動パルス幅)に応じた量となり、噴射開始時刻は制御パルス信号が伝達された時刻に対応したものとなる。
【0025】
筒内噴射弁11は、高圧燃料供給路13Aを介して高圧ポンプ14Aに接続される。一方、ポート噴射弁12は、低圧燃料供給路13Bを介して低圧ポンプ14Bに接続される。筒内噴射弁11には、ポート噴射弁12よりも高圧の燃料が供給される。高圧ポンプ14A及び低圧ポンプ14Bはともに、燃料を圧送するための機械式の流量可変型ポンプである。これらのポンプ14A,14Bは、エンジン10や電動機などから駆動力の供給を受けて作動し、燃料タンク内の燃料を各供給路13A,13Bに吐出する。なお、各ポンプ14A,14Bから吐出される燃料量及び燃圧は、エンジン制御装置1で制御される。
【0026】
[1−3.吸排気系]
吸気弁の上部は、バルブリフト量,バルブタイミングを変化させるための吸気可変動弁機構28に接続され、排気弁の上部は排気可変動弁機構29に接続される。吸気弁,排気弁の動作は、これらの可変動弁機構28,29を介して、後述するエンジン制御装置1で制御される。それぞれの可変動弁機構28,29には、例えばロッカアームの揺動量と揺動のタイミングとを変更する機構として、可変バルブリフト機構及び可変バルブタイミング機構が内蔵される。
【0027】
可変バルブリフト機構は、吸気弁及び排気弁の各々のバルブリフト量を連続的に変更する機構である。この可変バルブリフト機構は、カムシャフトに固定されたカムからロッカアームやタペットに伝達される揺動の大きさ(バルブリフト量)を変更する機能を持つ。また、可変バルブタイミング機構は、吸気弁及び排気弁の各々の開閉タイミング(バルブタイミング)を変更する機構である。この可変バルブタイミング機構は、ロッカアームに揺動を生じさせるカム又はカムシャフトの回転位相を変更する機能を持つ。
【0028】
エンジン10の吸気系20及び排気系30には、排気圧を利用してシリンダ内に吸気を過給するターボチャージャ(過給機)16が設けられる。ターボチャージャ16は、吸気ポートの上流側に接続された吸気通路21と、排気ポートの下流側に接続された排気通路31との両方に跨って介装される。ターボチャージャ16のタービン(過給用タービン)16Aは、排気通路31内の排気圧で回転し、その回転力を吸気通路21側のコンプレッサ16Bに伝達する。これを受けてコンプレッサ16Bは、吸気通路21内の空気を下流側へと圧縮しながら送給し、各シリンダへの過給を行う。ターボチャージャ16による過給操作は、エンジン制御装置1で制御される。
【0029】
吸気通路21上におけるコンプレッサ16Bよりも下流側にはインタークーラ25が設けられ、圧縮された空気が冷却される。また、コンプレッサ16Bよりも上流側にはエアフィルタ22が設けられ、外部から取り込まれる空気が濾過される。さらに、コンプレッサ16Bの上流側,下流側の吸気通路21を接続するように、吸気バイパス通路23が設けられるとともに、吸気バイパス通路23上にバイパスバルブ24が介装される。吸気バイパス通路23を流れる空気量は、バイパスバルブ24の開度に応じて調節される。バイパスバルブ24は、例えば車両の急減速時に開放方向に制御され、コンプレッサ16Bから送給される過給圧を再び上流側へと逃がすように機能する。なお、バイパスバルブ24の開度はエンジン制御装置1で制御される。
【0030】
吸気系20におけるコンプレッサ16Bよりも下流側と、排気系30におけるタービン16Aよりも上流側との間には、EGR(Exhaust Gas Recirculation)通路34が設けられる。EGR通路34は、シリンダから排出されて間もない排気を再びシリンダの直上流側へと導く通路である。EGR通路34には、還流ガスを冷却するためのEGRクーラ35が介装される。還流ガスを冷却することでシリンダ内での燃焼温度が低下し、窒素酸化物(NOx)の発生率が低下する。また、EGR通路34と吸気系20との合流部には、排気の還流量を調節するためのEGRバルブ36が介装される。EGRバルブ36の弁開度は可変であり、エンジン制御装置1で制御される。
【0031】
インタークーラ25の下流側にはスロットルボディが接続され、さらにその下流側にはインマニ(インテークマニホールド)が接続される。スロットルボディは、前述のEGR通路34と吸気系20との合流部よりも上流側に配置される。スロットルボディの内部には、電子制御式のスロットルバルブ26が設けられる。インマニへと流れる空気量は、スロットルバルブ26の開度(スロットル開度)に応じて調節される。スロットル開度は、エンジン制御装置1によって制御される。
【0032】
インマニには、各シリンダへと流れる空気を一時的に蓄えるためのサージタンク27が設けられる。前述のEGR通路34と吸気系20との合流部は、サージタンク27よりも上流側に位置する。サージタンク27よりも下流側のインマニは、各シリンダの吸気ポートに向かって分岐するように形成され、サージタンク27はその分岐点に位置する。サージタンク27は、各シリンダで発生しうる吸気脈動や吸気干渉を緩和するように機能する。
【0033】
排気通路31上におけるタービン16Aよりも下流側には、触媒装置33が介装される。この触媒装置33は、例えば排気中に含まれるPM(Particulate Matter,粒子状物質)や窒素酸化物(NOx),一酸化炭素(CO),炭化水素(HC)等の成分を浄化,分解,除去する機能を持つ。また、タービン16Aよりも上流側には、各シリンダの排気ポートに向かって分岐形成されたエキマニ(エキゾーストマニホールド)が接続される。
【0034】
タービン16Aの上流側,下流側の排気通路31を接続するように排気バイパス通路(迂回路)32が設けられるとともに、排気バイパス通路32上に電子制御式のウェイストゲートバルブ17が介装される。ウェイストゲートバルブ17は、タービン16A側に流入する排気流量を制御して過給圧を変化させる過給圧調節弁である。このウェイストゲートバルブ17には電動アクチュエータ18が併設される。電動アクチュエータ18は、車両に搭載された補機バッテリや駆動バッテリ等の電力を駆動源とし、その動作はエンジン制御装置1で制御される。
【0035】
ウェイストゲートバルブ17は、排気バイパス通路32を開閉する弁体17aと、弁体17aと電動アクチュエータ18とを機械的に連結し、電動アクチュエータ18により往復駆動されるロッド(弁体駆動部材)17bとを有する。弁体17aは、ロッド17bのストローク量(ロッド17bの軸線方向への移動長さ)に応じて開閉動作するように連結されており、弁体17aの位置S(以下、バルブ位置Sという)はエンジン制御装置1で制御される。バルブ位置Sは、ウェイストゲートバルブ17の全閉時の弁体17aの位置Sが基準位置SBA(すなわち0)とされる。この基準位置SBAからのロッド17bのストローク量は、ウェイストゲートバルブ17のバルブ開度Dに対応する。つまり、バルブ開度Dは、エンジン制御装置1により電気的に制御される。
【0036】
[1−4.検出系]
車両の任意の位置には、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度APS)を検出するアクセルポジションセンサ41が設けられる。アクセル開度APSは、運転者の加速要求や発進意思に対応するパラメータであり、言い換えるとエンジン10の負荷(エンジン10に対する出力要求)に相関するパラメータである。
【0037】
吸気通路21内には、吸気流量Qを検出するエアフローセンサ42が設けられる。吸気流量Qは、エアフィルタ22を通過した空気の流量に対応するパラメータである。また、サージタンク27内には、インマニ圧センサ43及び吸気温センサ44が設けられる。インマニ圧センサ43はサージタンク27内の圧力をインマニ圧として検出し、吸気温センサ44はサージタンク27内の吸気温度を検出する。
【0038】
クランクシャフト近傍には、エンジン回転速度Ne(単位時間あたりの回転数)を検出するエンジン回転速度センサ45が設けられる。また、エンジン10の冷却水循環路上における任意の位置には、エンジン冷却水の温度(水温WT)を検出する冷却水温センサ46が設けられる。さらに、高圧ポンプ14Aには、筒内噴射弁11から噴射される燃料の圧力(燃圧)を検出する燃圧センサ50が設けられる。
【0039】
電動アクチュエータ18には、バルブ開度Dに対応するロッド17bのストローク量を検出するホールセンサ47が設けられる。ホールセンサ47は、ホール素子を利用した位置検出センサであり、ホールセンサ47によりバルブ位置Sが検出される。また、触媒装置33の内部には、リニア空燃比センサ48及び酸素濃度センサ49が配置される。リニア空燃比センサ48は、触媒装置33に流入する排気の空燃比を検出し、酸素濃度センサ49は触媒装置33から流出する排気の酸素濃度を検出する。各種センサ41〜50で検出された各種情報は、エンジン制御装置1に伝達される。
【0040】
[1−5.制御系]
上記のエンジン10を搭載する車両には、エンジン制御装置1が設けられる。エンジン制御装置1は、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成され、車両に設けられた車載ネットワークの通信ラインに接続される。
【0041】
エンジン制御装置1は、エンジン10に関する点火系,燃料系,吸排気系及び動弁系といった広汎なシステムを総合的に制御する電子制御装置であり、エンジン10の各シリンダに対して供給される空気量や燃料噴射量,各シリンダの点火時期,過給圧等を制御するものである。エンジン制御装置1の入力ポートには、前述の各種センサ41〜50が接続される。入力情報は、アクセル開度APS,吸気流量Q,インマニ圧,吸気温度,エンジン回転速度Ne,冷却水温WT,バルブ位置S,排気空燃比,酸素濃度,燃圧等である。
【0042】
エンジン制御装置1の具体的な制御対象としては、筒内噴射弁11及びポート噴射弁12から噴射される燃料噴射量とその噴射時期,点火プラグ15による点火時期,吸気弁及び排気弁のバルブリフト量及びバルブタイミング,ターボチャージャ16の作動状態,スロットル開度,バイパスバルブ24の開度,ウェイストゲートバルブ17のバルブ開度D等が挙げられる。
【0043】
本実施形態では、ウェイストゲートバルブ17の開度制御と、開度制御を実施する前に行う学習制御とクリーニング制御とについて説明する。また、クリーニング制御を実施するか否かの判断要素となる他の制御(ここでは、噴射領域制御及び燃料カット制御)についても説明する。
【0044】
[2.制御の概要]
[2−1.開度制御]
開度制御とは、エンジン10の運転状態やエンジン10に要求される出力の大きさに応じて、ウェイストゲートバルブ17のバルブ開度Dを最適なものとする制御である。ウェイストゲートバルブ17の開度制御の精度は過給圧制御の精度を左右する。言い換えると、バルブ開度Dを高精度に制御することができれば、過給圧制御の精度を高めることができる。
【0045】
開度制御では、例えばエンジン回転速度Neやエンジン10に作用する負荷P,空気量,充填効率Ec(目標充填効率,実充填効率など),アクセル開度APS等に基づき、バルブ開度Dの目標値(目標開度)DTGTが設定される。そして、設定された目標開度DTGTとなるようにロッド17bが電動アクチュエータ18により制御される。なお、開度制御では、次に説明する学習制御において設定された基準位置SBA及び基準動作範囲RBAを用いて目標開度DTGTが設定されて、バルブ開度Dが制御される。
【0046】
[2−2.学習制御]
学習制御とは、ホールセンサ47を用いて、ウェイストゲートバルブ17の基準位置SBA及び基準動作範囲RBAを定める制御である。これら基準位置SBA及び基準動作範囲RBAは、ウェイストゲートバルブ17の開度制御時の基準となる値である。学習制御には、エンジン10の始動前に実施される第一学習と、エンジン10の始動後に実施される第二学習とがある。
【0047】
第一学習は、1ドライブサイクル中に一度だけ実施される学習制御であり、ここではイグニッションキーのオン操作(以下、キーオンという)後のクランキング前に実施される。一方、第二学習は、1ドライブサイクル中に何度も実施される学習制御であり、ここでは加速走行中に実施される。なお、ここでいうドライブサイクルとは、キーオンから再度のキーオンまでの期間を意味する。つまり、第一学習は、キーオンされてからキーオフされるまでの間に一度だけ実施され、第二学習は、キーオンされてからキーオフされるまでの間に複数回実施される。
【0048】
第一学習では、まずウェイストゲートバルブ17が全閉に制御され、その時のバルブ位置Sがホールセンサ47により検出されて、第一全閉位置SCL1として記憶される。続いて、ウェイストゲートバルブ17が全開に制御されて、その時のバルブ位置Sがホールセンサ47により検出されて、全開位置SOPとして記憶され、第一全閉位置SCL1と全開位置SOPとから、弁体17aの動作範囲Rが演算される。そして、これらの検出結果及び演算結果から、初期全閉位置ISCL及び初期動作範囲(初期の動作範囲の幅)IRが学習される。これら初期全閉位置ISCL及び初期動作範囲IRは、第一学習により学習された値であり、システムに異常がないか否かの判断に利用する。
【0049】
例えば、ホールセンサ47で検出された第一全閉位置SCL1を、そのまま初期全閉位置ISCLとして設定(学習)してもよいし、検出された第一全閉位置SCL1とメモリに記憶されている前回制御時の初期全閉位置ISCL′とに基づいて初期全閉位置ISCLを学習してもよい。ここで学習された初期全閉位置ISCLはメモリに記憶されるとともに、基準位置SBAとして設定される。
【0050】
また、例えば演算された動作範囲Rを、そのまま初期動作範囲IRとして設定(学習)してもよいし、演算された動作範囲Rとメモリに記憶されている前回制御時の初期動作範囲IR′とに基づいて、初期動作範囲IRを学習してもよい。ここで学習された初期動作範囲IRはメモリに記憶されるとともに、基準動作範囲RBAとして設定される。
【0051】
また、第二学習では、ウェイストゲートバルブ17が全閉に制御され、その時のバルブ位置Sがホールセンサ47により検出されて、第二全閉位置SCL2として記憶され、この第二全閉位置SCL2からゼロ点S0が学習される。つまり、第二学習では実際の運転時の全閉位置(第二全閉位置SCL2)からゼロ点S0が学習される。排ガスの受熱による熱膨張などの影響を含んだゼロ点S0を学習することにより、より精度良くウェイストゲートバルブ17の位置制御を実施することができる。
【0052】
例えば、検出された第二全閉位置SCL2を、そのままゼロ点S0として設定(学習)してもよいし、検出された第二全閉位置SCL2とメモリに記憶されている前回制御時のゼロ点S0′とに基づいてゼロ点S0を学習してもよい。ここで学習されたゼロ点S0はメモリに記憶される。
【0053】
さらに第二学習では、ゼロ点S0と第一学習で学習された初期全閉位置ISCLとが比較され、第一学習で設定された基準位置SBA(すなわち初期全閉位置ISCL)がゼロ点S0により補正される。例えば、第一学習で得られた初期全閉位置ISCLと第二学習で得られたゼロ点S0とが異なる場合は、第一学習で設定された基準位置SBAがゼロ点S0側に補正されて、補正された基準位置が新たな基準位置SBAとして開度制御で用いられる。なお、初期全閉位置ISCLとゼロ点S0とが同一の場合は、第一学習で設定された基準位置SBAがそのまま開度制御で用いられる(補正量が0とされる)。
【0054】
[2−3.クリーニング制御]
クリーニング制御とは、所定のクリーニング許可条件の成立時に、所定のクリーニング開始条件が成立した場合に実施される制御である。クリーニング制御では、ウェイストゲートバルブ17が強制的に開閉されてクリーニングが実施される。ここでいう強制的とは、上述の開度制御とは無関係にウェイストゲートバルブ17を開閉させることを意味する。
【0055】
ウェイストゲートバルブ17には、排気に含まれるカーボンが付着することがあり、付着したカーボンが固着してデポジットとなると、ウェイストゲートバルブ17の動作不良の原因となりうる。特に、筒内噴射弁11により燃料を噴射すると、デポジットが発生する可能性が高い。そこで、ある特定の条件が成立した場合は、ウェイストゲートバルブ17をクリーニングしてカーボンの堆積を抑制する。
【0056】
ここで、クリーニング開始条件には、車両が減速走行中であることが含まれる。例えば、ブレーキペダルが操作されている場合や、アクセルペダルの踏み込みがなく惰性走行で減速している場合など、車速Vが減少している場合である。さらにクリーニング開始条件には、後述の燃料カット制御の実施中であることが含まれる。つまり、ここでは、車両が減速走行中であり、且つ、燃料カット制御中である場合に、クリーニング開始条件が成立したと判定される。
【0057】
クリーニングは、ウェイストゲートバルブ17が全閉に制御されたのち全開に制御されることが繰り返し実施される。すなわち、上述の開閉制御とは無関係にウェイストゲートバルブ17の開閉が繰り返される。これにより、弁体17aやロッド17bに付着したカーボンが払い落とされて、ウェイストゲートバルブ17からカーボンが除去される。しかしながら、ウェイストゲートバルブ17を開閉させると過給圧が変化するため、クリーニングにより出力が変動する可能性がある。
【0058】
そこで、本実施形態では、車両が減速走行中であり、且つ、燃料カット制御の実施中にウェイストゲートバルブ17がクリーニングされる。これにより、過給圧が変化したとしても出力には影響を及ぼさないようにする。また、エンジン10の作動中にクリーニングされるため、ウェイストゲートバルブ17から除去されたカーボンが排気により吹き飛ばされ、より効果的にカーボンが除去される。
【0059】
一方、上述のクリーニング開始条件が成立したときに常にウェイストゲートバルブ17をクリーニングしたのでは、クリーニングが頻繁に実施され、過剰な制御となりかねない。そこで、本実施形態では、クリーニング開始条件を判定する前にクリーニング許可条件を判定する。このクリーニング許可条件は、クリーニングを実施してもよいか否か(実施すべきか否か)を判定するものである。クリーニング制御では、まずクリーニング許可条件が成立したか否かが判定され、クリーニング許可条件が成立した場合のみクリーニング開始条件が判定される。
【0060】
ここで、クリーニング許可条件には、1ドライブサイクル中にクリーニングを実施した回数(クリーニング実施回数)Kが予め設定された所定回数KP未満であることが含まれる。なお、所定回数KPは少なくとも一回に設定されている。これは、1ドライブサイクル中に少なくとも一度はウェイストゲートバルブ17をクリーニングしてカーボンの堆積を抑制し、さらに過度なクリーニングとならないようにするための条件である。この条件により、クリーニングは1ドライブサイクル中に所定回数KP以上は行われない。
【0061】
また、クリーニング許可条件には、学習制御を経験済みであることが含まれる。ここでは、上記の第二学習を少なくとも一度行っていれば、学習制御を経験済みであるとする。これは、クリーニングよりも学習制御を優先させ、開度制御の基準をいち早く決定するためであり、これによりウェイストゲートバルブ17の開度制御の精度を確保する。この条件により、クリーニングはエンジン10の始動後の第二学習が実施されなければ行われない。
【0062】
さらにここでは、クリーニング許可条件には、学習制御において学習された初期全閉位置ISCLとゼロ点S0とが所定値SP以上ずれていること、及び、後述の噴射領域制御においてDI+MPIモードが選択されたことがあることの少なくとも一方を満たすことが含まれる。前者の場合は、ウェイストゲートバルブ17にカーボンが付着して噛みこんでしまったために、第一学習で学習された初期全閉位置ISCLと第二学習で学習されたゼロ点S0とが大きくずれることがあるため、このような場合にクリーニングを許可することで学習精度を高める。
【0063】
また、後者の場合、すなわち筒内噴射弁11による燃料噴射が実施される場合は、ポート噴射弁12のみによる燃料噴射(後述のMPIモードでの燃料噴射)に比べて、排気流量が増大するとともに排気温度が高くなる。そのため、この場合にクリーニングを許可することで、効果的にウェイストゲートバルブ17からカーボンを除去することができる。
【0064】
[2−4.噴射領域制御]
噴射領域制御とは、エンジン10の運転状態やエンジン10に要求される出力の大きさに応じて燃料噴射方式を使い分ける制御である。ここでは、例えばエンジン回転速度Neやエンジン負荷P,空気量,充填効率Ec(目標充填効率,実充填効率など),アクセル開度APS等に基づき、ポート噴射のみを実施する「MPIモード」と、ポート噴射と筒内噴射とを併用して燃料噴射を実施する「DI+MPIモード」との何れか一方が選択される。
【0065】
MPIモードは、エンジン10が低負荷,低回転のときに選択される燃料噴射モードである。MPIモードでは、筒内噴射弁11からの燃料噴射が禁止され、要求される出力を得るために噴射すべき燃料の全てがポート噴射弁12から噴射される。ポート噴射を実施することにより、低負荷,低回転の運転状態では、ポート噴射による気化の良さが活かされ、混合気の均質性が高められるため排気性能向上に繋がる。以下、ポート噴射弁12から噴射される燃料量のことを、ポート噴射量FPとも呼ぶ。
【0066】
DI+MPIモードは、エンジン10の運転状態が低負荷,低回転でないとき(中負荷以上、又は中回転以上のとき)に選択される燃料噴射モードである。DI+MPIモードでは、要求される出力を得るために噴射すべき燃料が筒内噴射弁11及びポート噴射弁12から所定の割合Gで噴射される。つまり、同一の燃焼サイクル内で筒内噴射弁11とポート噴射弁12とがともに作動し、筒内噴射及びポート噴射の両方が実施される。DI+MPIモードは、MPIモードに比べて排気流量が増大するとともに排気温度が高くなる。
【0067】
筒内噴射を実施すると、燃料の気化潜熱によって吸気の温度及び燃焼室内の温度が低減される。これは、吸気冷却効果と呼ばれ、この効果によりノッキングに対して有利になるため圧縮比が高められる。圧縮比が高められると体積効率が増大するため、エンジン出力を高めることができ、燃費向上に繋がる。つまり、DI+MPIモードでは、筒内噴射によるメリットとポート噴射によるメリットとを得ることが可能となる。以下、筒内噴射弁11から噴射される燃料量のことを、筒内噴射量FDとも呼ぶ。
【0068】
筒内噴射量FDに対するポート噴射量FPの割合G(=FP/FD)は予め設定されており、DI+MPIモードではこの割合Gで筒内噴射弁11及びポート噴射弁12からそれぞれ燃料が噴射される。筒内噴射量FDに対するポート噴射量FPの割合Gは0<G<1の値に設定されている。つまり、筒内噴射弁11から噴射される燃料の方がポート噴射弁12から噴射される燃料よりも多い。なお、割合Gの代わりに、一回の燃焼サイクル内で噴射する全ての燃料量(後述の総燃料量FT)に対する筒内噴射量FDの割合G1(=FD/FT)と、総燃料量FTに対するポート噴射量FPの割合G2(=FP/FT)とが予め設定されていてもよい。この場合、G1≧G2であり、G=G1+G2となる。
【0069】
[2−5.燃料カット制御]
燃料カット制御とは、エンジン10の作動中に燃料供給を一時的に遮断する(燃料噴射量を0又は略0にする)制御であり、例えばアクセルペダルの踏み込みがなくエンジンブレーキが作動しているときなど、車両が減速しているときに実施される。一方、燃料カット制御の実施中にアクセルペダルが踏み込まれた場合や、エンジン回転速度Neが比較的低回転域まで低下した場合には、燃料カット制御が終了する。
【0070】
[3.制御構成]
図1に示すように、上述の制御を実施するための要素として、エンジン制御装置1には、エンジン負荷算出部2,ウェイストゲート演算部3,噴射制御部4及び燃料カット制御部5が設けられる。図2に示すように、ウェイストゲート演算部3には、学習部3a,開度設定部3b,開度制御部3c,クリーニング判定部3d及びクリーニング制御部3eが設けられる。
【0071】
また、噴射制御部4には、総燃料量算出部4a,噴射モード選択部4b,噴射量設定部4c及び噴射制御信号出力部4dが設けられる。これらの各要素は電子回路(ハードウェア)によって実現してもよく、ソフトウェアとしてプログラミングされたものとしてもよいし、あるいはこれらの機能のうちの一部をハードウェアとして設け、他部をソフトウェアとしたものであってもよい。
【0072】
[3−1.エンジン負荷算出部]
エンジン負荷算出部2は、エンジン10の負荷Pの大きさを算出するものである。ここでいう負荷Pとは、エンジン10に対して抵抗を及ぼす力,仕事率(エンジン出力,馬力),仕事(エネルギ)等を意味する。典型的には、エンジン10に要求されるエンジン出力やこれに相関するパラメータが負荷Pとして取り扱われる。
【0073】
負荷Pは、例えばシリンダに導入された空気量に基づいて算出される。あるいは、吸気流量,排気流量等に基づいて算出される。その他、吸気圧や排気圧,車速V,回転速度Ne,アクセル操作量APS,外部負荷装置の作動状態等に基づいて負荷Pを算出してもよい。本実施形態では、吸気流量Qと回転速度Neとに基づいて充填効率Ec又は体積効率Evが算出され、これらの値に基づいて負荷Pの大きさが算出される。ここで算出された負荷Pの値は、ウェイストゲート演算部3及び噴射制御部4に伝達される。
【0074】
[3−2.ウェイストゲート演算部]
学習部(学習手段)3aは、上述の学習制御を実施するものである。すなわち、学習部3aは、エンジン10の始動前に第一学習を実施するとともに、エンジン10の始動後に第二学習を実施する。具体的には、学習部3aは、キーオン後エンジン10が始動する前に、ウェイストゲートバルブ17を全閉にしたのち全開に制御する(全閉状態から全開状態まで一往復させる)。
【0075】
このとき、ホールセンサ47で検出された第一全閉位置SCL1及び全開位置SOPを用いて、初期全閉位置ISCL及び初期動作範囲IRを学習する(第一学習)。そして、これら初期全閉位置ISCL及び初期動作範囲IRを、基準位置SBA及び基準動作範囲RBAとして設定する。ここで設定された基準位置SBA及び基準動作範囲RBAは、開度設定部3bに伝達される。また、第一学習で学習された初期全閉位置ISCLはクリーニング判定部3dに伝達される。
【0076】
また、学習部3aは、エンジン10が始動した後、加速走行中にウェイストゲートバルブ17を全閉に制御する。このとき、ホールセンサ47で検出された第二全閉位置SCL2を用いて、ゼロ点S0を学習する(第二学習)。そして、初期全閉位置ISCLとゼロ点S0とを比較し、基準位置SBAを補正する。ここで補正された基準位置SBAは開度設定部3bに伝達される。また、第二学習で学習されたゼロ点S0はクリーニング判定部3dに伝達される。
【0077】
なお、学習部3aは、第一学習は1ドライブサイクル中に一度だけ実施し、第二学習は1ドライブサイクル中に一回以上実施する。ここでは、学習部3aは、第二学習を加速走行時に実施する。ただし、加速中に一度第二学習を実施した後は、所定時間が経過した後に再び加速走行になった場合に第二学習を実施するものとする。これにより、一度の加速中に何度も第二学習が繰り返されることを防ぐ。
【0078】
開度設定部3b及び開度制御部3cは、上述の開度制御を実施するものである。開度設定部3bは、エンジン10の運転状態に基づいてウェイストゲートバルブ17の目標開度DTGTを設定し、目標開度DTGTに対応するバルブ位置(目標位置STGT)を設定するものである。目標開度DTGTは、例えばエンジン回転速度Neやエンジン負荷P,空気量,充填効率Ec(目標充填効率,実充填効率など),過給圧,アクセル開度APS,冷却水温WT等に基づいて設定される。開度設定部3bは、設定した目標開度DTGTとなる目標位置STGTを、例えば図3に示すようなマップを用いて設定する。図3は、横軸にウェイストゲートバルブ17のバルブ開度D,縦軸にバルブ位置Sをとったマップであり、これにより目標開度DTGTに対応した目標位置STGTが設定される。
【0079】
開度設定部3bは、予め設定されたマップ(図中の実線)に対して、学習部3aから伝達された基準位置SBA及び基準動作範囲RBAを反映させる。具体的には、開度設定部3bは、伝達された基準位置SBA(図中白丸)をウェイストゲートバルブ17の全閉時のバルブ位置として設定(更新)し、伝達された基準動作範囲RBA(図中一点鎖線)をウェイストゲートバルブ17の全閉から全開までの動作範囲として設定(更新)する。つまり、開度設定部3bは、学習部3aでの学習結果を用いて、目標開度DTGTに対応する目標位置STGTを調整する。開度設定部3bで設定された目標位置STGTは、開度制御部3cに伝達される。
【0080】
開度制御部3cは、開度設定部3bで設定された目標開度DTGTに対応する目標位置STGTに応じて電動アクチュエータ18の制御信号を出力する。ここでは、実際のバルブ位置Sが目標位置STGTとなるように、電動アクチュエータ18へと制御信号が出力される。これにより、バルブ開度Dが目標開度DTGTに制御される。
【0081】
クリーニング判定部(判定手段)3d及びクリーニング制御部(クリーニング制御手段)3eは、上述のクリーニング制御を実施するものである。クリーニング判定部3dは、ウェイストゲートバルブ17のクリーニングを実施するか否かを判定するものである。クリーニング判定部3dは、まず、以下の条件(A)及び(B)を共に満たすか否かを判定する。
(A)1ドライブサイクル中に実施したクリーニングの回数Kが所定回数KP未満である。
(B)第二学習を少なくとも一度実施している。
【0082】
条件(A)及び(B)は、何れもクリーニングを許可するための条件(クリーニング許可条件)の一部であり、何れか一つでも満たさない場合には、クリーニングは許可されない(すなわち、クリーニングが実施されることはない)。クリーニング判定部3dは、例えばクリーニング開始条件の成立した回数(すなわちクリーニング実施回数K)を記憶しておき、条件(A)が成立したか否かを判定する。また、条件(B)は、学習部3aからゼロ点S0が伝達されたか否かで判定する。
【0083】
クリーニング判定部3dは、条件(A)及び(B)を共に満たすと判定した場合は、次に以下の条件(C)及び(D)の少なくとも一方を満たすか否かを判定する。なお、条件(A)及び(B)の何れか一つでも満たさない場合には、これ以降の判定は実施されない。
(C)初期全閉位置ISCLとゼロ点S0とが所定値SP以上ずれている。
(D)DI+MPIモードが選択されたことがある。
【0084】
条件(C)及び(D)は、クリーニング許可条件の一部であり、ここでは何れか一方が成立すればクリーニングは許可される。言い換えると、何れの条件も成立しない場合はクリーニングは許可されない(クリーニングが実施されることはない)。クリーニング判定部3dは、学習部3aから伝達された初期全閉位置ISCL及びゼロ点S0から条件(C)を判定する。また、後述の噴射制御部4の噴射モード選択部4bから伝達された情報に基づいて条件(D)を判定する。
【0085】
クリーニング判定部3dは、条件(A)及び(B)が成立し、且つ、条件(C)及び(D)の少なくとも一方が成立した場合に、クリーニング許可条件が成立したと判定し、次に以下の条件(E)及び(F)を共に満たすか否かを判定する。なお、クリーニング許可条件が成立しない場合は、クリーニング開始条件の判定は行われない。
(E)車両が減速走行中である。
(F)燃料カット制御の実施中である。
【0086】
条件(E)及び(F)は、何れもクリーニングを開始するための条件(クリーニング開始条件)の一部であり、条件(E)及び(F)が共に成立したらクリーニングが開始される。言い換えると、条件(E)及び(F)の何れか一つでも満たさない場合には、クリーニングは開始されない。クリーニング判定部3dは、例えばアクセル開度APSやブレーキペダルスイッチ,車速V等から条件(E)を判定する。また、後述の燃料カット制御部5から伝達された情報に基づいて条件(F)を判定する。
【0087】
クリーニング判定部3dは、条件(E)及び(F)が成立した場合に、クリーニング開始条件が成立したと判定し、その情報をクリーニング制御部3eに伝達する。
クリーニング制御部3eは、クリーニング判定部3dにおいてクリーニング開始条件が成立したという情報が伝達された場合に、ウェイストゲートバルブ17を開閉させてクリーニングを実施するものである。クリーニング制御部3eは、クリーニング開始条件の成立時から所定回数だけウェイストゲートバルブ17の開閉を繰り返すように電動アクチュエータ18の制御信号を出力する。これにより、ウェイストゲートバルブ17等に付着したカーボンが除去される。
【0088】
[3−3.噴射制御部]
噴射制御部(噴射制御手段)4は、筒内噴射弁11による燃料噴射及びポート噴射弁12による燃料噴射を制御して、噴射領域制御を実施するものである。
総燃料量算出部4aは、エンジン回転速度Neと、エンジン負荷算出部2で算出された負荷Pとに基づいて、要求される出力を得るために一回の燃焼サイクルで噴射すべき燃料量を総燃料量FTとして算出するものである。例えば、エンジン10の負荷P,回転速度Neを引数とした燃料噴射量マップを予め噴射制御部4に記憶しておき、このマップを用いてトータルの燃料噴射量(すなわち総燃料量FT)を算出する。ここで算出された総燃料量FTは、噴射量設定部4cに伝達される。
【0089】
噴射モード選択部4bは、エンジン10の運転状態に基づいて、上述のMPIモード及びDI+MPIモードの何れか一方の燃料噴射モードを選択するものである。噴射制御部4には、エンジン10の運転状態と燃料噴射モードとの対応関係が規定されたマップ,演算式等が記録される。このようなマップ,演算式等に基づいて、燃料噴射モードが選択される。なお、具体的なマップ,演算式等はここでは省略する。噴射モード選択部4bで選択された燃料噴射モードは、噴射量設定部4cに伝達される。
【0090】
噴射量設定部4cは、噴射モード選択部4bで選択された燃料噴射モードに応じて、筒内噴射弁11からの筒内噴射量FDとポート噴射弁12からのポート噴射量FPとを設定するものである。噴射量設定部4cは、この設定に際して、総燃料量算出部4aで算出された総燃料量FTと、予め設定されている割合Gとを用いる。ここで設定された筒内噴射量FD及びポート噴射量FPは、噴射制御信号出力部4dに伝達される。
【0091】
噴射制御信号出力部4dは、噴射モード選択部4bで選択された燃料噴射モードに則り、噴射量設定部4cで設定された燃料噴射量が確保されるとともに所定の燃料噴射時期となるように、筒内噴射弁11,ポート噴射弁12に制御信号を出力するものである。これらの制御信号を受けた筒内噴射弁11,ポート噴射弁12は、制御信号に応じた時刻及び開弁期間で駆動される。これにより、所望の筒内噴射量FD,ポート噴射量FPが、所定の燃料噴射開始時期において噴射される。
【0092】
[3−4.燃料カット制御部]
燃料カット制御部(燃料カット制御手段)5は、上述の燃料カット制御を実施するものである。ここでは、燃料カット条件及び復帰条件を判定し、これらの各条件の成否に応じて筒内噴射弁11及びポート噴射弁12から噴射される燃料量を制御する。燃料カット条件は、例えばアクセル開度APSが0であり、且つ、エンジン回転速度Neが第一所定回転速度Ne1以上であることである。また、復帰条件は、例えばアクセル開度APSが0でないこと、又は、エンジン回転速度Neが第二所定回転速度Ne2(Ne2<Ne1)未満であることである。燃料カット制御部5は、燃料カット条件が成立したと判定した場合は、その情報をクリーニング判定部3dに伝達する。
【0093】
[4.フローチャート]
図4図6は、学習制御,開度制御及びクリーニング制御の各手順を説明するためのフローチャートである。これらのフローチャートは、それぞれ、キーオンと共にスタートされ、エンジン制御装置1において予め設定された所定の演算周期で繰り返し実施される。
【0094】
まず、学習部3aにおいて実施される学習制御について説明する。図4に示すように、ステップW10では、フラグF1がF1=0であるか否かが判定される。ここで、フラグF1は、第一学習をすでに実施済みか否かをチェックするための変数であり、F1=0は未だ第一学習を実施していないことに対応し、F1=1は第一学習を実施済みであることに対応する。フラグF1がF1=0の場合はステップW20へ進み、F1=1の場合はステップW70へ進む。
【0095】
ステップW20〜ステップW40では第一学習が実施される。すなわち、ステップW20では、ウェイストゲートバルブ17が全閉にされた時のバルブ位置(第一全閉位置)SCL1が検出されるとともに、ウェイストゲートバルブ17が全開にされた時のバルブ位置(全開位置)SOPが検出されて、動作範囲Rが演算される。続くステップW30では、初期全閉位置ISCL及び初期動作範囲IRが学習される。そして、ステップW40では、初期全閉位置ISCLが基準位置SBAに設定されるとともに、初期動作範囲IRが基準動作範囲RBAに設定される。
【0096】
続くステップW50では、開度設定部3bに基準位置SBA及び基準動作範囲RBAが伝達され、クリーニング判定部3dに初期全閉位置ISCLが伝達される。そして、ステップW60では、フラグF1がF1=1に設定される。これにより、ステップW20〜ステップW60までの処理は、キーオン直後に(すなわちエンジン10が始動される前に)、フラグF1がF1=0のときだけ実施されることになる。
【0097】
ステップW70では、加速走行中であるか否かが判定される。加速走行中の場合はステップW80へ進み、加速走行中でない場合はステップW165へ進む。ステップW80では、フラグF2がF2=0であるか否かが判定される。ここで、フラグF2は、第二学習が実施可能か否かをチェックするための変数であり、F2=0は第二学習が実施可能であることに対応し、F2=1は第二学習が実施不可能であることに対応する。第二学習は、1ドライブサイクル中に何度も実施されるものであるが、一度実施された後は、所定時間が経過してから再び実施される。このフラグF2は、所定時間が経過したか否かをチェックするためのものである。フラグF2がF2=0の場合はステップW90へ進み、フラグF2がF2=1の場合はステップW140へ進む。
【0098】
ステップW90〜ステップW110では第二学習が実施される。すなわち、ステップW90では、ウェイストゲートバルブ17が全閉にされた時のバルブ位置(第二全閉位置)SCL2が検出される。なお、ステップW90へ進んだ場合は加速走行中であるため、ウェイストゲートバルブ17は通常全閉に制御される。つまり、ウェイストゲートバルブ17が全閉に制御される加速走行中に第二学習を実施することで、走行にほとんど影響を与えず、学習制御を実施することができる。
【0099】
ステップW100では、ゼロ点S0が学習される。そして、ステップW110では、学習されたゼロ点S0により基準位置SBAが補正される。続くステップW120では、開度設定部3bに補正された基準位置SBAが伝達され、クリーニング判定部3dにゼロ点S0が伝達される。そして、ステップW130では、フラグF2がF2=1に設定され、ステップW170に進んでキーオフされたか否かが判定される。キーオンのままであれば、このフローをリターンする。
【0100】
次の周期では、ステップW10からステップW70へ進み、加速走行が継続されていれば、ステップW80へ進む。ここで、前回周期でフラグF2がF2=1に設定されているため、ステップW140へ進み、カウント値Cに1が加算される。ステップW150では、カウント値Cが所定値C0以上であるか否かが判定される。カウント値Cが所定値C0未満であればステップW170へ進み、キーオフされていなければこのフローがリターンされる。
【0101】
次の周期においても、同様にステップW140へ進んだ場合は、カウント値Cに1が加算され、ステップW150の判定が実施される。ステップW150において、カウント値Cが所定値C0以上であると判定されるまでに繰り返される演算時間が、第二学習を一度実施した後、次に実施するまでの所定時間に対応する。カウント値Cが所定値C0以上になると、ステップW160に進み、フラグF2がF2=0にリセットされるとともに、カウント値Cが0にリセットされ、ステップW170へ進む。なお、カウント値Cを加算している途中で加速走行が終了した場合は、ステップW70からステップW165へ進んで、フラグF2がF2=0にリセットされるとともに、カウント値Cが0にリセットされ、ステップW170へ進む。
【0102】
ステップW170においてキーオフされたと判定された場合は、ステップW180へ進み、フラグF1及びF2が何れも0にリセットされるとともに、カウント値Cが0にリセットされ、このフローを終了する。そして、再びキーオンされると、ステップW10からの処理が実施される。
【0103】
次に、開度設定部3b及び開度制御部3cにおいて実施される開度制御について説明する。図5に示すように、ステップX10では、各種センサ41〜50で検出された各種情報がエンジン制御装置1に入力される。また、エンジン負荷算出部2においてエンジン10の負荷Pが算出され、負荷Pの情報が開度設定部3bへ伝達される。ステップX20では、開度設定部3bにおいてウェイストゲートバルブ17の目標開度DTGTが設定される。
【0104】
続くステップX30では、バルブ開度Dとバルブ位置Sとの関係が設定されたマップに学習部3aから伝達された基準位置SBA及び基準動作範囲RBAが反映される。ステップX40では、設定された目標開度DTGTに対応する目標位置STGTが設定される。そして、ステップX50では、開度制御部3cにおいて、実際のバルブ位置Sが設定された目標位置STGTとなるように、電動アクチュエータ18へと制御信号が出力され、このフローをリターンする。
【0105】
最後に、クリーニング判定部3d及びクリーニング制御部3eにおいて実施されるクリーニング制御について説明する。図6に示すように、ステップY10では、キーオフされたか否かが判定される。キーオン状態が継続中であればステップY20へ進み、キーオフされた場合はステップY130に進む。ステップY20では、フラグAがA=0であるか否かが判定される。ここで、フラグAは、クリーニング許可条件が成立したか否かをチェックするための変数(許可フラグ)であり、A=1はクリーニング許可条件成立に対応し、A=0はクリーニング許可条件不成立に対応する。フラグAがA=0の場合はステップY30へ進み、A=1の場合はステップY80へ進む。
【0106】
ステップY30では、クリーニング実施回数Kが所定回数KP未満であるか否かが判定され、所定回数KP未満の場合はステップY40へ進み、所定回数KP以上の場合(すなわち、クリーニングを所定回数KP実施した場合)は、このフローをリターンする。ステップY40では、学習部3aからゼロ点S0が伝達されたか否か(すなわち、図4のフローチャートのステップW120が実施されたか否か)が判定される。ゼロ点S0が伝達されていなければこのフローをリターンし、ゼロ点S0が伝達されるとステップY50へ進む。ステップY40の判定は、図4のフローチャートにおいてステップW120が一度でも実施されていればYESルートへ進み、ゼロ点S0が学習されるたびに新しいゼロ点S0が伝達され、次のステップY50で用いられるゼロ点S0が更新される。なお、これらステップY30及びステップY40の判定は、それぞれ上記の条件(A)及び(B)に対応する。
【0107】
ステップY50では、初期全閉位置ISCLとゼロ点S0との差(初期全閉位置ISCLからゼロ点S0を引いた値の絶対値)が所定値SP以上であるか否かが判定される。初期全閉位置ISCLとゼロ点S0との差が所定値SP以上の場合は、ステップY70においてフラグAがA=1に設定される。一方、初期全閉位置ISCLとゼロ点S0との差が所定値SP未満の場合は、ステップY60においてDI+MPIモードを経験したことがあるか否か(すなわち、DI+MPIモードが選択されたことがあるか否か)が判定される。これらステップY50及びステップY60の判定は、それぞれ上記の条件(C)及び(D)に対応する。DI+MPIモードが選択されたことがある場合はステップY70へ進み、DI+MPIモードが選択されたことがない場合は、このフローをリターンする。
【0108】
ステップY70でフラグAがA=1に設定されるため、次の演算周期からは、ステップY20からステップY80へと進む。つまり、一度クリーニング許可条件が成立した場合は、クリーニングが実施されるかキーオフされるまで、フラグAはA=1のままとされる。ステップY80では、減速走行中か否かが判定され、減速走行中の場合はステップY90へ進み、減速走行中でない場合はこのフローをリターンする。
【0109】
ステップY90では、燃料カット制御の実施中であるか否かが判定され、燃料カット制御の実施中の場合はステップY100へ進み、燃料カット制御を実施していない場合はこのフローをリターンする。これらステップY80及びステップY90の判定は、それぞれ上記の条件(E)及び(F)に対応する。ステップY100では、ウェイストゲートバルブ17が開閉されてクリーニングが実施される。
【0110】
そして、ステップY110では、クリーニング実施回数Kに1が加算され、続くステップY120ではフラグAがA=0にリセットされて、このフローをリターンする。なお、キーオフされた場合は、ステップY10からステップY130へ進み、フラグA及びKが何れも0にリセットされて、このフローを終了する。
【0111】
[5.効果]
(1)上記のエンジン制御装置1では、クリーニング開始条件に車両が減速走行中であることが含まれるため、クリーニング時間を十分確保することができ、ウェイストゲートバルブ17や排気バイパス通路32の開口部周辺に付着したカーボンを除去することができる。さらに減速走行中にクリーニングを実施すれば、ウェイストゲートバルブ17等から払い落とされたカーボンが排気の流れによって吹き飛ばされるため、排気バイパス通路32に溜まることもなく、デポジットの発生も抑制することができる。
【0112】
(2)上記のエンジン制御装置1では、燃料カット制御部5が設けられ、クリーニング開始条件に燃料カット制御の実施中であることが含まれているため、走行に影響を与えることなくクリーニングを実施することができる。すなわち、クリーニングはウェイストゲートバルブ17を開閉させて行うため、過給圧が変化する。これに対して、燃料カット制御の実施中にクリーニングを実施すれば、過給圧が変化しても出力に影響を与えることなく、カーボンを除去することができる。
【0113】
(3)また、上記のエンジン制御装置1では、クリーニング開始条件の判定の前にクリーニング許可条件の成否を判定している。すなわち、クリーニング許可条件が成立しなければクリーニング開始条件が判定されない。そのため、クリーニング許可条件の設定次第で、クリーニングを実施するタイミングを適切に設定することができる。
【0114】
(4)上記のエンジン制御装置1では、クリーニング許可条件に、学習部3aによってゼロ点S0が学習されたこと(すなわち、第二学習が実施されたこと)が含まれる。つまり、ウェイストゲートバルブ17の開度制御の基準となる学習値をまず確保し、その後クリーニングを実施するため、ウェイストゲートバルブ17の開度制御を精度よく行うことができる。
また、第二学習は、ウェイストゲートバルブ17の弁体17aやロッド17bが排気からの熱を受けた後での学習となるため、熱膨張などの影響も含めて学習することができ、開度制御の精度が向上する。
【0115】
(5)上記のエンジン制御装置1では、クリーニング許可条件に、第一学習で学習された初期全閉位置ISCLと第二学習で学習されたゼロ点S0との差が所定値SP以上であることが含まれる。これにより、カーボンの付着によって学習値にずれが生じていた場合はずれを解消することができ、正確に学習を実施することができる。言い換えると、カーボンの付着という要因を排除した後、再度学習することで学習精度を高めることができる。また、このように学習精度を高めることで、学習値(初期全閉位置ISCL及びゼロ点S0)を用いてウェイストゲートバルブ17の故障を判定することも可能となる。
【0116】
(6)上記のエンジン制御装置1では、クリーニング許可条件に、同一の燃焼サイクル内で筒内噴射とポート噴射とが実施される(すなわち、DI+MPIモードでの燃料噴射が実施される)ことが含まれる。DI+MPIモードでは、ポート噴射のみが実施されるMPIモードに比べて排気温度が高くなるため、ウェイストゲートバルブ17等に付着したカーボン焼けて堆積しにくくなる。さらに、DI+MPIモードでは、排気流量が増大するためDI+MPIモードを経験した後にクリーニングを実施することで、焼けたカーボンを確実に除去することができる。つまり、クリーニング許可条件にDI+MPIモードが含まれることで、ウェイストゲートバルブ17を効果的にクリーニングすることができる。
【0117】
[6.その他]
上述した実施形態に関わらず、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。本実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよい。
【0118】
上記実施形態で説明したクリーニング許可条件は一例であって、上記のものに限られない。上記の条件(A)〜(D)の何れか一つ又は複数をクリーニング許可条件としてもよいし、これら以外の条件をクリーニング許可条件としてもよい。例えば、クリーニングを終了した時点から所定時間が経過していることをクリーニング許可条件とすることで、クリーニングが頻繁に実施されることを抑制することができる。また、ポート噴射のみを実施するMPIモードでは、ウェイストゲートバルブ17にカーボンが付着しやすいため、条件(D)に代えてMPIモードを経験したことをクリーニング許可条件としてもよい。これにより、カーボンの堆積を抑制することができる。
【0119】
また、上記実施形態では、クリーニング許可条件が成立した場合にクリーニング開始条件を判定しているが、クリーニング許可条件を省略してもよい。すなわち、クリーニング開始条件が成立するか否かを常に判定し、クリーニング開始条件成立時にクリーニングを実施してもよい。なお、クリーニング開始条件も上記のものに限られず、少なくとも条件(E)が含まれていればよい。すなわち、車両が減速走行中であることが含まれていればよく、燃料カット制御の実施中でなくてもクリーニングを行ってもよい。
【0120】
また、車両走行中に所定の条件(走行時アイドルストップ実施条件)が成立した場合に、自動的にエンジン10を停止させるアイドルストップ機能を有している場合は、条件成立時であってもクリーニングが未実施であれば、クリーニングを優先させることが好ましい。
すなわち、図1及び図2に破線で示すように、エンジン制御装置1に設けられた走行時アイドルストップ制御部(走行時アイドルストップ制御手段)6は、走行時アイドルストップ実施条件の成立時に、クリーニングの実施状況を確認する。そして、1ドライブサイクル中に一度もクリーニングが実施されていない場合は、走行時アイドルストップ実施条件の成立時であってもエンジン10の自動停止を禁止する。これにより、ウェイストゲートバルブ17へのカーボンの堆積を確実に防止することができる。なお、上記の走行時アイドルストップ実施条件には、例えば車両が減速走行中であること、車速Vが所定速度以下であること等が含まれる。
【0121】
また、上記実施形態の学習部3aや噴射制御部4,燃料カット制御部5等は一例であって、具体的な構成は上述したものに限られない。上記実施形態では、学習部3aにより設定された基準位置SBAをマップに反映させて、目標開度DTGTに対応する目標位置STGTを設定しているが、学習結果を開度制御に用いる手法はこれに限られない。例えば、予めウェイストゲートバルブ17の全閉位置を初期基準位置として記憶しておき、学習部3aにより設定された基準位置SBAと初期基準位置とのずれ量を演算する。そして、図3の実線で示す予め設定されたマップを用いて目標開度DTGTに対応する目標位置STGTを設定し、設定された目標位置STGTにずれ量を加減算したものを開度制御部3cに伝達してもよい。
【0122】
また、上記実施形態では、第一学習において初期全閉位置ISCLと初期動作範囲IRとを学習しているが、少なくとも初期全閉位置ISCLの学習を実施すればよい。この初期全閉位置ISCLを開度制御時の基準とすることで、開度制御を高精度に実施することができ、過給圧制御の精度を高めることができる。
また、上記実施形態では、第一学習をキーオン後のクランキング前に実施する場合を例示したが、エンジン10の始動前であればクランキング中に実施してもよい。また、第二学習を加速走行中に実施する場合を例示したが、第二学習はエンジン10の始動後であれば実施可能である。また、第二学習を1ドライブサイクル中に一回実施するようにしてもよい。
【0123】
また、燃料カット条件及び復帰条件は上記のものに限られず、例えば車速情報やインマニ圧情報等を考慮してもよい。
また、エンジン10の構成は上記したものに限定されず、排気通路上の過給用タービンを迂回する迂回路に介装された電動のウェイストゲートバルブを備えるエンジンであれば適用可能である。また、ウェイストゲートバルブ17の位置を検出する手段はホールセンサ47に限られず、ウェイストゲートバルブ17の弁体17aの位置やロッド17bのストローク量を検出できるものであればよい。
【符号の説明】
【0124】
1 エンジン制御装置
2 エンジン負荷算出部
3 ウェイストゲート演算部
3a 学習部(学習手段)
3b 開度設定部
3c 開度制御部
3d クリーニング判定部(判定手段)
3e クリーニング制御部(クリーニング制御手段)
4 噴射制御部(噴射制御手段)
5 燃料カット制御部(燃料カット制御手段)
6 走行時アイドルストップ制御部(走行時アイドルストップ制御手段)
10 エンジン
11 筒内噴射弁
12 ポート噴射弁
16 ターボチャージャ
16A タービン(過給用タービン)
17 ウェイストゲートバルブ
17a 弁体
17b ロッド
18 電動アクチュエータ
31 排気通路
32 排気バイパス通路(迂回路)
47 ホールセンサ(検出手段)
ISCL 初期全閉位置
S0 ゼロ点
図1
図2
図3
図4
図5
図6