特許第6179261号(P6179261)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6179261液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶表示素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6179261
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶表示素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20170807BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   G02F1/1337 525
   C08G73/10
【請求項の数】7
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-165490(P2013-165490)
(22)【出願日】2013年8月8日
(65)【公開番号】特開2014-112197(P2014-112197A)
(43)【公開日】2014年6月19日
【審査請求日】2016年1月7日
(31)【優先権主張番号】特願2012-245006(P2012-245006)
(32)【優先日】2012年11月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】植阪 裕介
(72)【発明者】
【氏名】猪坂 美幸
【審査官】 廣田 かおり
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−168314(JP,A)
【文献】 特開2009−080454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種の重合体(A)と、溶剤と、を含有し、
前記溶剤は、下記式(1)で表される化合物(b)を全溶剤量に対して1〜60重量%含
前記重合体(A)は、テトラカルボン酸二無水物及びテトラカルボン酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも一種と、ジアミン化合物との反応により得られる重合体であり、
前記ジアミン化合物として、カルボキシル基を有するジアミン(d−1)を含む、液晶配向剤。
【化1】
(式(1)中、Rは、炭素数2〜10の2価の鎖状炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基、又は当該鎖状炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基の炭素−炭素結合間に「−O−」を含む2価の基である。)
【請求項2】
前記化合物(b)の炭素数が3〜7である、請求項に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
前記重合体(A)は、前記テトラカルボン酸二無水物と前記ジアミン化合物との反応により得られる重合体であり、
前記テトラカルボン酸二無水物として、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物及び1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物よりなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1又は2に記載の液晶配向剤。
【請求項4】
固形分濃度が0.1〜2.0重量%である、請求項1〜のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか一項に記載の液晶配向剤を、インクジェット法により基板上に塗布する工程と、
該塗布後に前記基板を加熱する工程と、を含む、液晶配向膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
【請求項7】
請求項に記載の液晶配向膜を具備する液晶表示素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶表示素子に関し、詳しくは大型液晶パネルや複雑な形状の液晶パネルなどの製造に好適な液晶配向剤、並びに、当該液晶配向剤を用いて作製した液晶配向膜及びこれを具備する液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示素子としては、電極構造や使用する液晶分子の物性、製造工程等が異なる種々の駆動方式が開発されており、例えばTN型やSTN型、VA型、面内スイッチング型(IPS型)、FFS型、PSA型等の各種液晶表示素子が知られている。これら液晶表示素子は、液晶分子を配向させるための液晶配向膜を有する。液晶配向膜の材料としては、耐熱性、機械的強度、液晶との親和性などの各種特性が良好である点から、ポリアミック酸やポリイミドが一般に使用されている。
【0003】
液晶配向剤において、ポリアミック酸やポリイミドなどの重合体成分は溶剤に溶解されており、当該液晶配向剤を基板に塗布し、好ましくは加熱することにより液晶配向膜が形成される。液晶配向剤を基板に塗布する方法としては、従来、オフセット印刷装置を用いた方法が一般的であったが、ここ近年における液晶パネルの大型化に伴い、基板に液晶配向剤を塗布する際に塗布ムラが発生しやすいといったデメリットがあった。そこで、このような問題を解消するべく、近年、大型液晶パネルの製造工程においてインクジェット法による塗布方法が導入されている。また、これに伴い、インクジェット法による塗布に適用するための液晶配向剤が種々提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−10899号公報
【特許文献2】特開2009−300465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インクジェット法による塗布によれば、大型液晶パネルの製造に際して液晶配向剤の塗布ムラの低減を図ることが可能である反面、塗布領域の端部において、液垂れや塗布量不足などに起因して膜厚が薄くなりやすいといったデメリットがある。このような膜厚不良は液晶パネルの表示ムラの原因となるため、大型液晶パネルではこれまで、パネル額縁を広く設計することで表示領域の品質を確保してきた。しかしながら、近年、液晶パネルの更なる高品位化を目指して狭額縁化を図ることが求められており、これを実現するべく液晶配向剤の塗布性について更なる改善が求められている。
【0006】
また近年、液晶表示素子の用途の拡大に伴い、曲面ディスプレイのような複雑な形状の液晶ディスプレイの開発が進められている。このようなディスプレイの製造では、複雑な形状の基板に液晶配向剤を塗布する必要があるため、基板上に均一な塗膜を形成しにくく、配向不良が生じるといった問題があった。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、基板への塗布性が良好な液晶配向剤を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記のような従来技術の課題を達成するべく鋭意検討した結果、液晶配向剤の溶剤成分の一部として特定の化合物を添加することにより、上記課題を解決可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明により以下の液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶表示素子が提供される。
【0009】
本発明は一つの側面において、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種の重合体(A)と溶剤とを含有し、当該溶剤において、下記式(1)で表される化合物(b)を全溶剤量に対して1〜60重量%含む液晶配向剤を提供する。
【化1】
(式(1)中、Rは、炭素数2〜10の2価の鎖状炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基、又は当該鎖状炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基の炭素−炭素結合間に「−O−」を含む2価の基である。)
【0010】
本発明は、別の一つの側面において、上記液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を提供する。また、当該液晶配向膜を具備する液晶表示素子を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の液晶配向剤によれば、上記化合物(b)を液晶配向剤中に含むことにより、塗布領域の端部において膜厚不良が生じる領域をできるだけ狭くすることができる。また、本発明の液晶表示素子は、本発明の液晶配向剤を用いて形成した液晶配向膜を有することから、液晶配向膜の端部において膜厚不良に起因する表示ムラが生じにくく、狭額縁化を図ることができる。これにより、表示部分の支持体(額縁)の大きさに対してできるだけ大きな表示領域を確保することができる。また、マルチディスプレイとしての利用に際し、ディスプレイ間の非表示領域をできるだけ小さくすることが可能となる。
【0012】
さらに、本発明の液晶配向剤によれば、上記化合物(b)を液晶配向剤中に含むことにより、湾曲状などの複雑な形状の基板に対しても、均一な塗膜を形成することができる。また、本発明の液晶表示素子は、曲面パネルのような複雑な形状の液晶ディスプレイに適用可能であり、またこのような液晶ディスプレイに適用した場合にも液晶配向性が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の液晶配向剤は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種の重合体(A)と、溶剤と、を含む。以下に、本発明の液晶配向剤に含まれる各成分、及び必要に応じて任意に配合されるその他の成分について説明する。
【0014】
<重合体(A):ポリアミック酸>
本発明における重合体(A)としてのポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを反応させることにより得ることができる。
【0015】
[テトラカルボン酸二無水物]
本発明におけるポリアミック酸を合成するのに用いるテトラカルボン酸二無水物としては、例えば脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物などを挙げることができる。これらの具体例としては、
脂肪族テトラカルボン酸二無水物として、例えば1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物などを;
脂環式テトラカルボン酸二無水物として、例えば1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、3−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−2,4−ジオン−6−スピロ−3’−(テトラヒドロフラン−2’,5’−ジオン)、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、3,5,6−トリカルボキシ−2−カルボキシメチルノルボルナン−2:3,5:6−二無水物、2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物、4,9−ジオキサトリシクロ[5.3.1.02,6]ウンデカン−3,5,8,10−テトラオン、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物などを;
芳香族テトラカルボン酸二無水物として、例えばピロメリット酸二無水物などを;それぞれ挙げることができるほか、特開2010−97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。なお、上記テトラカルボン酸二無水物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0016】
合成に使用するテトラカルボン酸二無水物としては、透明性及び溶剤への溶解性などの観点から、脂環式テトラカルボン酸二無水物を含むものであることが好ましい。また、脂環式テトラカルボン酸二無水物の中でも、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物、及び1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物よりなる群から選択される少なくとも一種を含むものであることが好ましく、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物及び1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物よりなる群から選ばれる少なくとも一種(以下、特定テトラカルボン酸二無水物ともいう。)を含むものであることがより好ましい。
【0017】
合成に使用するテトラカルボン酸二無水物として上記の特定テトラカルボン酸二無水物を含む場合、特定テトラカルボン酸二無水物の合計の含有量は、ポリアミック酸の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の全量に対して、10モル%以上であることが好ましく、20〜100モル%であることがより好ましく、50〜100モル%であることが更に好ましい。
【0018】
[ジアミン化合物]
本発明におけるポリアミック酸を合成するために使用するジアミン化合物としては、例えば脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサンなどを挙げることができる。これらジアミン化合物の具体例としては、脂肪族ジアミンとして、例えばm−キシリレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどを;
脂環式ジアミンとして、例えば1,4−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどを;
【0019】
芳香族ジアミンとして、例えばp−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、1,5−ジアミノナフタレン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、2,7−ジアミノフルオレン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,6−ジアミノピリジン、3,4−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノピリミジン、3,6−ジアミノアクリジン、3,6−ジアミノカルバゾール、N−メチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−エチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−フェニル−3,6−ジアミノカルバゾール、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−ベンジジン、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−N,N’−ジメチルベンジジン、1,4−ビス−(4−アミノフェニル)−ピペラジン、1−(4−アミノフェニル)−2,3−ジヒドロ−1,3,3−トリメチル−1H−インデン−5−アミン、1−(4−アミノフェニル)−2,3−ジヒドロ−1,3,3−トリメチル−1H−インデン−6−アミン、3,5−ジアミノ安息香酸、コレスタニルオキシ−3,5−ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ−3,5−ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸コレスタニル、3,5−ジアミノ安息香酸コレステニル、3,5−ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6−ビス(4−アミノフェノキシ)コレスタン、4−(4’−トリフルオロメトキシベンゾイロキシ)シクロヘキシル−3,5−ジアミノベンゾエート、4−(4’−トリフルオロメチルベンゾイロキシ)シクロヘキシル−3,5−ジアミノベンゾエート、1,1−ビス(4−((アミノフェニル)メチル)フェニル)−4−ブチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−((アミノフェニル)メチル)フェニル)−4−ヘプチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−((アミノフェノキシ)メチル)フェニル)−4−ヘプチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−((アミノフェニル)メチル)フェニル)−4−(4−ヘプチルシクロヘキシル)シクロヘキサン、2,4−ジアミノ−N,N―ジアリルアニリン、4−アミノベンジルアミン、3−アミノベンジルアミン、1,3−ジアミノ−4−オクタデシルオキシベンゼン、3−(3,5−ジアミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、及び下記式(D−1)
【化2】
(式(D−1)中、XI及びXIIは、それぞれ独立に、単結合、−O−、−COO−又は−OCO−であり、R及びRIIは、それぞれ独立に、炭素数1〜3のアルカンジイル基であり、aは0又は1であり、bは0〜2の整数であり、cは1〜20の整数であり、nは0又は1である。但し、a及びbが同時に0になることはない。)
で表される化合物などを;
【0020】
ジアミノオルガノシロキサンとして、例えば、1,3−ビス(3−アミノプロピル)−テトラメチルジシロキサンなどを、それぞれ挙げることができるほか、特開2010−97188号公報に記載のジアミンを用いることができる。
【0021】
上記式(D−1)における「−X−(R−XII−」で表される2価の基としては、炭素数1〜3のアルカンジイル基、*−O−、*−COO−又は*−O−C−O−(ただし、「*」を付した結合手がジアミノフェニル基と結合する。)であることが好ましい。
基「−C2c+1」の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−エイコシル基などを挙げることができる。ジアミノフェニル基における2つのアミノ基は、他の基に対して2,4−位又は3,5−位にあることが好ましい。
【0022】
上記式(D−1)で表される化合物の具体例としては、例えば下記式(D−1−1)〜(D−1−5)のそれぞれで表される化合物などを挙げることができる。
【化3】
なお、ポリアミック酸の合成に使用するジアミン化合物は、上記のものを1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
また、本発明におけるポリアミック酸の合成に使用するジアミン化合物は、カルボキシル基を有するジアミン(d−1)を含んでいることが好ましい。当該ジアミン(d−1)を用いることにより、カルボキシル基を側鎖に有するポリアミック酸を合成することができる。このようなカルボキシル基含有のポリアミック酸(カルボキシル基含有の重合体(A))を、上記式(1)で表される化合物(b)と共に液晶配向剤中に含有させることにより、液晶配向剤を基板に塗布した際に、その塗布領域の端部において膜厚不良が生じる領域をより狭くできるといった効果を好適に得ることができる。
【0024】
ジアミン(d−1)としては、少なくとも1つのカルボキシル基と、2つの1級アミノ基とを有する限りその余の構造は特に限定せず、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサンなどを使用することができる。ジアミン(d−1)としては、これらの中でも芳香族ジアミンであることが好ましく、芳香環にカルボキシル基が結合していることが特に好ましい。また、ジアミン(d−1)の分子内におけるカルボキシル基の数は1〜4の整数であることが好ましく、1又は2であることがより好ましい。
【0025】
本発明の液晶配向剤に含有されるジアミン(d−1)の好ましい具体例としては、例えば下記式(d1−1)で表される化合物、式(d1−2)で表される化合物等が挙げられる。
【化4】
(式(d1−1)及び式(d1−2)中、Rは、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数1〜10のアルコキシ基であり、Zは、単結合、酸素原子又は炭素数1〜3のアルカンジイル基である。e及びfは、それぞれ独立に1又は2の整数であり、g及びhは、それぞれ独立に0〜2の整数であり、s及びtは、それぞれ独立に、s+t=2を満たす0〜2の整数である。但し、式(d1−2)において、e+g+s≦5かつf+h+t≦5である。g、hが2の場合、複数のRは独立して上記定義を有する。)
【0026】
式(d1−1)及び式(d1−2)について、Rにおけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等が挙げられる。また、炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基を挙げることができ、これらは直鎖状であっても分岐状であってもよい。炭素数1〜10のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基を挙げることができ、これらは直鎖状であっても分岐状であってもよい。
における炭素数1〜3のアルカンジイル基としては、例えばメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プレピレン基を挙げることができる。
g及びhは、好ましくは0又は1であり、より好ましくは0である。
【0027】
ジアミン(d−1)の具体例としては、上記式(d1−1)で表される化合物として、例えば3,5−ジアミノ安息香酸、2,4−ジアミノ安息香酸、2,5−ジアミノ安息香酸などを;上記式(d1−2)で表される化合物として、例えば4,4’−ジアミノビフェニル−3,3’−ジカルボン酸、4,4’−ジアミノビフェニル−2,2’−ジカルボン酸、3,3’−ジアミノビフェニル−4,4’−ジカルボン酸、3,3’−ジアミノビフェニル−2,4’−ジカルボン酸、4,4’−ジアミノジフェニルメタン−3,3’−ジカルボン酸、4,4’−ジアミノビフェニル−3−カルボン酸、4,4’−ジアミノジフェニルメタン−3−カルボン酸、4,4’−ジアミノジフェニルエタン−3,3’−ジカルボン酸、4,4’−ジアミノジフェニルエタン−3−カルボン酸、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル−3,3’−ジカルボン酸、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル−3−カルボン酸などを;それぞれ挙げることができる。
【0028】
上記ジアミン(d−1)の比率は、塗布領域の端部における膜厚不良を好適に抑制する観点において、ポリアミック酸の合成に使用するジアミン化合物の全量に対して、5モル%以上とすることが好ましく、10モル%以上とすることがより好ましい。また、ジアミン(d−1)の比率の上限値は特に限定しないが、合成に使用するジアミン化合物の全量に対して、90モル%以下とすることが好ましく、80モル%以下とすることがより好ましい。本発明におけるポリアミック酸を合成する際に用いるジアミン化合物は、芳香族ジアミンを、全ジアミン化合物に対して30モル%以上含むものであることが好ましく、50モル%以上含むものであることがより好ましく、80モル%以上含むものであることが更に好ましい。
【0029】
[分子量調節剤]
ポリアミック酸を合成するに際して、上記の如きテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物とともに、適当な分子量調節剤を用いて末端修飾型の重合体を合成することとしてもよい。かかる末端修飾型の重合体とすることにより、本発明の効果を損なうことなく液晶配向剤の塗布性(印刷性)をさらに改善することができる。
【0030】
分子量調節剤としては、例えば酸一無水物、モノアミン化合物、モノイソシアネート化合物などを挙げることができる。これらの具体例としては、酸一無水物として、例えば無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸、n−デシルサクシニック酸無水物、n−ドデシルサクシニック酸無水物、n−テトラデシルサクシニック酸無水物、n−ヘキサデシルサクシニック酸無水物などを;モノアミン化合物として、例えばアニリン、シクロヘキシルアミン、n−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−ヘプチルアミン、n−オクチルアミン、n−ドデシルアミン、n−オクタデシルアミンなどを;モノイソシアネート化合物として、例えばフェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネートなどを;それぞれ挙げることができる。
分子量調節剤の使用割合は、使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計100重量部に対して、20重量部以下とすることが好ましく、10重量部以下とすることがより好ましい。
【0031】
<ポリアミック酸の合成>
本発明におけるポリアミック酸の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との使用割合は、ジアミン化合物のアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2〜2当量となる割合が好ましく、0.3〜1.2当量となる割合がより好ましい。また、ポリアミック酸の合成反応は、好ましくは有機溶媒中において行われる。このときの反応温度は−20℃〜150℃が好ましく、0〜100℃がより好ましい。また、反応時間は0.1〜24時間が好ましく、0.5〜12時間がより好ましい。
【0032】
ここで、反応に使用する有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素などが挙げられる。これら有機溶媒の具体例としては、非プロトン性極性溶媒として、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−エチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミドなどを;フェノール系溶媒として、例えば、フェノール、m−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノールなどを;
アルコールとして、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、トリエチレングリコールなどを;ケトンとして、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどを;エステルとして、例えば、乳酸エチル、乳酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ−ト、エチルエトキシプロピオネ−ト、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチル、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレートなどを;
エーテルとして、例えば、ジエチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、エチレングリコール−i−プロピルエーテル、エチレングリコール−n−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、テトラヒドロフラン、ジイソペンチルエーテルなどを;
ハロゲン化炭化水素として、例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,4−ジクロロブタン、トリクロロエタン、クロルベンゼン、o−ジクロルベンゼンなどを;炭化水素として、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどを;それぞれ挙げることができる。
【0033】
これらの有機溶媒のうち、非プロトン性極性溶媒及びフェノール系溶媒よりなる群(第一群の有機溶媒)から選択される一種以上、又は、第一群の有機溶媒から選択される一種以上と、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素及び炭化水素よりなる群(第二群の有機溶媒)から選択される一種以上との混合物を使用することが好ましい。後者の場合、第二群の有機溶媒の使用割合は、第一群の有機溶媒と第二群の有機溶媒との合計量に対して、好ましくは50重量%以下であり、より好ましくは40重量%以下であり、更に好ましくは30重量%以下である。また、有機溶媒の使用量(α)は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計量(β)が、反応溶液の全量(α+β)に対して0.1〜50重量%になるような量とすることが好ましい。
【0034】
以上のようにして、ポリアミック酸を溶解してなる反応溶液が得られる。この反応溶液はそのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、又は単離したポリアミック酸を精製したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。ポリアミック酸を脱水閉環してポリイミドとする場合には、上記反応溶液をそのまま脱水閉環反応に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸を単離したうえで脱水閉環反応に供してもよく、又は単離したポリアミック酸を精製したうえで脱水閉環反応に供してもよい。ポリアミック酸の単離及び精製は公知の方法に従って行うことができる。
【0035】
<重合体(A):ポリアミック酸エステル>
上記重合体(A)としてのポリアミック酸エステル(以下、ポリアミック酸エステル(A)ともいう。)は、例えば、[I]上記合成反応により得られたポリアミック酸(A)と、水酸基含有化合物、ハロゲン化物、エポキシ基含有化合物等とを反応させることにより合成する方法、[II]テトラカルボン酸ジエステルとジアミン化合物とを反応させる方法、[III]テトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物とジアミン化合物とを反応させる方法によって得ることができる。
ここで、方法[I]で使用する水酸基含有化合物としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類;フェノール、クレゾール等のフェノール類などが挙げられる。また、ハロゲン化物としては、例えば臭化メチル、臭化エチル、臭化ステアリル、塩化メチル、塩化ステアリル、1,1,1−トリフルオロ−2−ヨードエタン等が挙げられ、エポキシ基含有化合物としては、例えばプロピレンオキシド等が挙げられる。方法[II]で使用するテトラカルボン酸ジエステルは、テトラカルボン酸二無水物を上記のアルコール類を用いて開環することにより得ることができる。また、方法[III]で使用するテトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物は、上記の如くして得たテトラカルボン酸ジエステルを、塩化チオニル等の適当な塩素化剤と反応させることにより得ることができる。方法[II]及び[III]で使用するジアミン化合物としては、上記ポリアミック酸の合成に使用するジアミンとして例示した化合物等が挙げられる。なお、ポリアミック酸エステル(A)は、アミック酸エステル構造のみを有していてもよく、アミック酸構造とアミック酸エステル構造とが併存する部分エステル化物であってもよい。
【0036】
<重合体(A):ポリイミド>
本発明の液晶配向剤に含有される重合体(A)としてのポリイミドは、上記の如くして合成されたポリアミック酸を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。
【0037】
上記ポリイミドは、その前駆体であるポリアミック酸が有していたアミック酸構造のすべてを脱水閉環した完全イミド化物であってもよく、アミック酸構造及びアミック酸エステル構造のうちの一部を脱水閉環し、アミック酸構造及びアミック酸エステル構造のうちの少なくともいずれかと、イミド環構造とが併存する部分イミド化物であってもよい。本発明におけるポリイミドは、電圧保持率を高くできる点において、そのイミド化率が30%以上であることが好ましく、40〜99%であることがより好ましく、50〜99%であることが更に好ましい。このイミド化率は、ポリイミドのアミック酸構造の数と、アミック酸エステル構造の数と、イミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。ここで、イミド環の一部がイソイミド環であってもよい。
【0038】
ポリアミック酸の脱水閉環は、好ましくはポリアミック酸を加熱する方法により、又はポリアミック酸を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加し必要に応じて加熱する方法により行われる。このうち、後者の方法によることが好ましい。
【0039】
ポリアミック酸の溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加してイミド化する方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸のアミック酸構造の1モルに対して0.01〜20モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミン等の3級アミンを用いることができる。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01〜10モルとすることが好ましい。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は、好ましくは0〜180℃であり、より好ましくは10〜150℃である。反応時間は、好ましくは1.0〜120時間であり、より好ましくは2.0〜30時間である。
【0040】
このようにしてポリイミドを含有する反応溶液が得られる。この反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液から脱水剤及び脱水閉環触媒を除いたうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、ポリイミドを単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、又は単離したポリイミドを精製したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。これらの精製操作は公知の方法に従って行うことができる。
【0041】
<重合体(A)の溶液粘度及び重量平均分子量>
以上のようにして得られるポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドは、これを濃度10重量%の溶液としたときに、10〜800mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、15〜500mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。なお、上記重合体の溶液粘度(mPa・s)は、当該重合体の良溶媒(例えばγ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドンなど)を用いて調製した濃度10重量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。また、本発明の液晶配向剤に含有させるポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドについて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、500〜100,000であることが好ましく、1,000〜50,000であることがより好ましい。
【0042】
<その他の成分>
本発明の液晶配向剤は、必要に応じてその他の成分を含有していてもよい。かかるその他の成分としては、例えば、上記重合体(A)以外のその他の重合体、分子内に少なくとも一つのエポキシ基を有する化合物(以下、「エポキシ基含有化合物」という。)、官能性シラン化合物等を挙げることができる。
【0043】
<その他の重合体>
上記その他の重合体は、溶液特性や電気特性の改善のために使用することができる。かかるその他の重合体としては、例えば、ポリオルガノシロキサン、ポリエステル、ポリアミド、セルロース誘導体、ポリアセタール、ポリスチレン誘導体、ポリ(スチレン−フェニルマレイミド)誘導体、ポリ(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。
その他の重合体を液晶配向剤に添加する場合、その配合割合は、液晶配向剤中に含まれる重合体の合計100重量部に対して、50重量部以下であることが好ましく、0.1〜40重量部であることがより好ましく、0.1〜30重量部であることが更に好ましい。
【0044】
<エポキシ基含有化合物>
エポキシ基含有化合物は、液晶配向膜における基板表面との接着性や電気特性を向上させるために使用することができる。このようなエポキシ基含有化合物としては、例えばエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、2,2−ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、N,N−ジグリシジル−ベンジルアミン、N,N−ジグリシジル−アミノメチルシクロヘキサン、N,N−ジグリシジル−シクロヘキシルアミン等を好ましいものとして挙げることができる。その他、エポキシ基含有化合物の例としては、国際公開第2009/096598号記載のエポキシ基含有ポリオルガノシロキサンを用いることができる。
これらエポキシ化合物を液晶配向剤に添加する場合、その配合割合は、液晶配向剤中に含まれる重合体の合計100重量部に対して、40重量部以下が好ましく、0.1〜30重量部がより好ましい。
【0045】
<官能性シラン化合物>
上記官能性シラン化合物は、液晶配向剤の印刷性の向上を目的として使用することができる。このような官能性シラン化合物としては、例えば3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−トリエトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、10−トリメトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノナン酸メチル、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、2−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
これら官能性シラン化合物を液晶配向剤に添加する場合、その配合割合は、液晶配向剤中に含まれる重合体の合計100重量部に対して、2重量部以下が好ましく、0.02〜0.2重量部がより好ましい。
なお、その他の成分としては、上記のほか、分子内に少なくとも一つのオキセタニル基を有する化合物や酸化防止剤などを使用することができる。
【0046】
<溶剤>
本発明の液晶配向剤は、上記重合体(A)及び必要に応じて任意に配合されるその他の成分が、好ましくは有機溶媒中に溶解されて構成される。本発明の液晶配向剤の調製に使用される溶剤は、重合体(A)を可溶な有機溶媒(以下、第1溶剤(a)ともいう。)を含むものとすることができ、その具体例としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−ペンチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、γ−ブチロラクタム、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、1,3−ジメチル−1−イミダゾリジノン、3−ブトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、3−ヘキシルオキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド等が挙げられる。
【0047】
また、本発明の液晶配向剤は、溶剤として下記式(1)で表される化合物(b)を含有する。
【化5】
(式(1)中、Rは、炭素数2〜10の2価の鎖状炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基、又は当該鎖状炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基の炭素−炭素結合間に「−O−」を含む2価の基である。)
【0048】
なお、本明細書における鎖状炭化水素基とは、主鎖に環状構造を含まず、鎖状構造のみで構成された飽和炭化水素基及び不飽和炭化水素基を意味する。但し、直鎖状炭化水素基及び分岐状炭化水素基の双方を含む。また、脂環式炭化水素基とは、環構造としては脂環式炭化水素の構造のみを含み、芳香環構造を含まない炭化水素基を意味する。但し、脂環式炭化水素の構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を有するものも含む。
【0049】
上記式(1)について、Rにおける炭素数2〜10の2価の鎖状炭化水素基としては、例えばエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、プロペニレン基、ブテニレン基、ペンテニレン基などを挙げることができ、これらは直鎖状であっても分岐状であってもよい。2価の脂環式炭化水素基としては、例えばシクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロへキシレン基、シクロヘキセニレン基、ノルボルニレン基、アダマンチレン基などが挙げられる。また、Rは、これらの2価の鎖状炭化水素基又は脂環式炭化水素基における少なくとも1つの炭素−炭素結合間に「−O−」を有する2価の基であってもよい。Rは、中でも、2価の鎖状炭化水素基又は2価の鎖状炭化水素基の炭素−炭素結合間に「−O−」を有する基であることが好ましい。
は、炭素数3〜7のものであることが好ましく、炭素数4〜6のものであることがより好ましい。
【0050】
上記化合物(b)の具体例としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,3−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,3−ヘキサンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,3−ヘキサンジオール、2,4−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、3,4−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,2−ヘプタンジオール、2,3−ヘプタンジオール、3,4−ヘプタンジオール、1,3−ヘプタンジオール、2,4−ヘプタンジオール、3,5−ヘプタンジオール、1,4−ヘプタンジオール、2,5−ヘプタンジオール、1,5−ヘプタンジオール、2,6−ヘプタンジオール、1,6−ヘプタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,2−ノナンジオール、1,9−ノナンジオール、8−メチル−1,8−ノナンジオール、1,2−シクロペンタンジオール、1,3−シクロペンタンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール等を挙げることができる。なお、化合物(b)としては、上記のものを1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
また、化合物(b)は、上記の中でも、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,3−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,3−ヘキサンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,3−ヘキサンジオール、2,4−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、3,4−ヘキサンジオール、及び2−メチル−2,4−ペンタンジオールよりなる群から選ばれる少なくとも一種であることが特に好ましい。
【0051】
本発明の液晶配向剤の調製に使用する溶剤としては、液晶配向剤の塗布性を向上させる目的で、上記第1溶剤(a)及び上記化合物(b)以外のその他の溶剤(c)を用いてもよい。当該その他の溶剤(c)としては、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ−ト、エチルエトキシプロピオネ−ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、エチレングリコール−i−プロピルエーテル、エチレングリコール−n−ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、プロピレングリコールジアセテート、ダイアセトンアルコール、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル等を挙げることができる。なお、その他の溶剤(c)は、1種を単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0052】
本発明の液晶配向剤は、溶剤として上記式(1)で表される化合物(b)を、液晶配向剤に含有される全溶剤量に対して1〜60重量%含む。当該含有比率が1重量%未満であると、塗布領域の端部における膜厚不良を抑制するといった効果を好適に得ることができず、また液晶配向剤の粘性を適度に高くするといった効果が得にくく、塗布性が低下する傾向にある。一方、60重量%を超えると、液晶配向剤の粘性が高くなり過ぎて塗布性が低下してしまう。化合物(b)の含有比率の下限値について、好ましくは全溶剤量に対して3重量%以上であり、より好ましくは5重量%以上であり、更に好ましくは10重量%以上である。また、その上限値は、全溶剤量に対して、好ましくは50重量%以下であり、より好ましくは40重量%以下であり、更に好ましくは30重量%以下である。
【0053】
また、第1溶剤(a)の含有量は、重合体成分を均一に溶解させるとともに、基板への印刷時における重合体の析出を好適に抑制する観点から、液晶配向剤に含まれる全溶剤量に対して10〜98重量%とすることが好ましい。第1溶剤(a)の含有比率の下限値について、より好ましくは20重量%以上であり、更に好ましくは30重量%以上である。また、当該含有比率の上限値は、化合物(b)の添加による効果を好適に得る観点から、95重量%以下とすることがより好ましく、90重量%以下とすることが更に好ましく、85重量%以下とすることが特に好ましい。
その他の溶剤(c)の含有量は、重合体(A)の析出を抑制しつつ液晶配向剤の塗布性を高める観点から、液晶配向剤に含まれる全溶剤量に対して、1〜60重量%とすることが好ましい。その下限値について、液晶配向剤の塗布性を良好にする観点から、全溶剤量に対して2重量%以上とすることがより好ましく、5重量%以上とすることが更に好ましい。また、上限値は、重合体(A)の析出を抑制する観点から、全溶剤量に対して50重量%以下とすることがより好ましく、40重量%以下とすることが更に好ましい。
【0054】
本発明の液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計重量が液晶配向剤の全重量に占める割合)は、粘性、揮発性などを考慮して適宜に選択されるが、好ましくは0.1〜10重量%の範囲である。すなわち、本発明の液晶配向剤は、後述するように基板表面に塗布され、好ましくは加熱されることにより、液晶配向膜である塗膜又は液晶配向膜となる塗膜が形成されるが、このとき、固形分濃度が0.1重量%未満である場合には、この塗膜の膜厚が過小となって良好な液晶配向膜を得にくい。一方、固形分濃度が10重量%を超える場合には、塗膜の膜厚が過大となって良好な液晶配向膜が得にくく、また、液晶配向剤の粘性が増大して塗布特性が劣るものとなる。
【0055】
特に好ましい固形分濃度の範囲は、基板に液晶配向剤を塗布する際に用いる方法によって異なる。例えば、スピンコート法による場合には、固形分濃度1.5〜4.5重量%の範囲が特に好ましい。オフセット印刷法による場合には、固形分濃度を3〜9重量%の範囲とし、それにより溶液粘度を12〜50mPa・sの範囲とすることが特に好ましい。インクジェット法による場合には、固形分濃度を1〜5重量%の範囲とし、それにより、溶液粘度を3〜15mPa・sの範囲とすることが特に好ましい。所定の間隙を隔てて対向配置した一対の基板に対し、毛細管現象を利用して塗布する場合には、固形分濃度を0.1〜2.0重量%の範囲とし、それにより溶液粘度を2〜10mPa・sの範囲とすることが好ましい。本発明の液晶配向剤を調製する際の温度は、好ましくは10〜50℃であり、より好ましくは20〜30℃である。
【0056】
<液晶配向膜及び液晶表示素子>
本発明の液晶配向膜は、上記のように調製された液晶配向剤により形成される。当該液晶配向膜を製造する方法としては、例えば、一対の基板表面のそれぞれに液晶配向剤を塗布し、塗膜を形成する従来の方法(第1の膜形成方法);一対の基板を対向配置してから塗布する方法(第2の膜形成方法)等が挙げられる。また、本発明の液晶表示素子は、本発明の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を具備する。本発明の液晶表示素子を適用する駆動モードは特に限定せず、TN型、STN型、IPS型、FFS型、VA型、MVA型、PSA型などの種々の駆動モードに適用することができる。
【0057】
(第1の膜形成方法を用いた液晶表示素子の作製)
本発明の液晶配向膜を上記第1の膜形成方法によって製造する場合、本発明の液晶表示素子は、例えば以下の(1)〜(3)の工程により製造することができる。工程(1)は、所望の駆動モードによって使用基板が異なる。工程(2)及び(3)は各駆動モードに共通である。
【0058】
[工程(1):塗膜の形成]
先ず、基板上に本発明の液晶配向剤を塗布し、次いで基板を加熱することにより基板上に塗膜を形成する。
(1−1)TN型、STN型、VA型、MVA型又はPSA型の液晶表示素子を製造する場合、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板二枚を一対として、それぞれの基板における透明性導電膜の形成面上に本発明の液晶配向剤を塗布する。基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラスなどのガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)などのプラスチックからなる透明基板を用いることができる。基板の一面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム−酸化スズ(In−SnO)からなるITO膜などを用いることができる。パターニングされた透明導電膜を得るには、例えばパターンなし透明導電膜を形成した後にフォト・エッチングによりパターンを形成する方法、透明導電膜を形成する際に所望のパターンを有するマスクを用いる方法等によることができる。
【0059】
本発明の液晶配向剤の塗布方法は特に限定しないが、好ましくはオフセット印刷法、スピンコート法、ロールコーター法又はインクジェット法により行うことができる。本発明の液晶配向剤は特に、インクジェット法の塗布用として用いることにより、塗布領域の端部において膜厚不良が生じる領域をできるだけ狭くして液晶パネルの狭額縁化を図るといった効果を好適に得ることができる。液晶配向剤の塗布に際しては、基板表面及び透明導電膜と塗膜との接着性を更に良好にするために、基板表面のうち塗膜を形成する面に、官能性シラン化合物、官能性チタン化合物などを予め塗布する前処理を施しておいてもよい。
【0060】
液晶配向剤の塗布後、塗布した配向剤の液垂れ防止などの目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30〜200℃であり、より好ましくは40〜150℃であり、特に好ましくは40〜100℃である。プレベーク時間は、好ましくは0.25〜10分であり、より好ましくは0.5〜5分である。その後、溶剤を完全に除去する目的で、また必要に応じて重合体に存在するアミック酸構造又はアミック酸エステル構造を熱イミド化することを目的として焼成(ポストベーク)工程が実施される。このときの焼成温度(ポストベーク温度)は、好ましくは80〜300℃であり、より好ましくは120〜250℃である。ポストベーク時間は、好ましくは5〜200分であり、より好ましくは10〜100分である。このようにして、形成される膜の膜厚は、好ましくは0.001〜1μmであり、より好ましくは0.005〜0.5μmである。
【0061】
(1−2)IPS型又はFFS型液晶表示素子を製造する場合、櫛歯型にパターニングされた透明導電膜又は金属膜からなる電極が設けられている基板の電極形成面と、電極が設けられていない対向基板の一面とに、本発明の液晶配向剤をそれぞれ塗布し、次いで各塗布面を加熱することにより塗膜を形成する。このとき使用される基板及び透明導電膜の材質、塗布方法、塗布後の加熱条件、透明導電膜又は金属膜のパターニング方法、基板の前処理、並びに形成される塗膜の好ましい膜厚については上記(1−1)と同様である。金属膜としては、例えばクロムなどの金属からなる膜を使用することができる。
【0062】
上記(1−1)及び(1−2)のいずれの場合も、基板上に液晶配向剤を塗布した後、有機溶媒を除去することによって、液晶配向膜である塗膜又は液晶配向膜となる塗膜が形成される。このとき、本発明の液晶配向剤に含有される重合体が、ポリアミック酸であるか、ポリアミック酸エステルであるか又はイミド環構造とアミック酸構造とを有するイミド化重合体である場合には、塗膜形成後に更に加熱することによって脱水閉環反応を進行させ、よりイミド化された塗膜としてもよい。
【0063】
[工程(2):ラビング処理]
TN型、STN型、IPS型又はFFS型の液晶表示素子を製造する場合、上記工程(1)で形成した塗膜を、例えばナイロン、レーヨン、コットンなどの繊維からなる布を巻き付けたロールで一定方向に擦るラビング処理を施す。これにより、液晶分子の配向能が塗膜に付与されて液晶配向膜となる。一方、VA型液晶表示素子を製造する場合、上記工程(1)で形成した塗膜をそのまま液晶配向膜として使用することができるが、該塗膜に対しラビング処理を施してもよい。なお、ラビング処理後の液晶配向膜に対して、更に、液晶配向膜の一部に紫外線を照射することによって液晶配向膜の一部の領域のプレチルト角を変化させる処理や、液晶配向膜表面の一部にレジスト膜を形成した上で先のラビング処理と異なる方向にラビング処理を行った後にレジスト膜を除去する処理を行い、液晶配向膜が領域ごとに異なる液晶配向能を持つようにしてもよい。この場合、得られる液晶表示素子の視界特性を改善することが可能である。
PSA型液晶表示素子を製造する場合には、上記工程(1)で形成した塗膜をそのまま用いて以下の工程(3)を実施してもよいが、液晶分子の倒れ込みを制御し、配向分割を簡易な方法で行う目的で弱いラビング処理を行ってもよい。
【0064】
[工程(3):液晶セルの構築]
(3−1)上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚準備し、対向配置した2枚の基板間に液晶を配置することにより液晶セルを製造する。液晶セルを製造するには、例えば以下の2つの方法が挙げられる。まず、第一の方法は、従来から知られている方法である。この方法では、先ずそれぞれの液晶配向膜が対向するように間隙(セルギャップ)を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤を用いて貼り合わせ、基板表面及びシール剤により区画されたセルギャップ内に液晶を注入充填した後、注入孔を封止することにより液晶セルを製造する。また、第二の方法は、ODF(One Drop Fill)方式と呼ばれる手法である。この手法では、液晶配向膜を形成した2枚の基板のうちの一方の基板上の所定の場所に、例えば紫外光硬化性のシール剤を塗布し、さらに液晶配向膜面上の所定の数箇所に液晶を滴下した後、液晶配向膜が対向するように他方の基板を貼り合わせる。そして、液晶を基板の全面に押し広げ、次いで基板の全面に紫外光を照射してシール剤を硬化することにより液晶セルを製造する。いずれの方法による場合でも、上記のようにして製造した液晶セルにつき、用いた液晶が等方相をとる温度まで更に加熱した後、室温まで徐冷することにより、液晶充填時の流動配向を除去することが望ましい。
【0065】
シール剤としては、例えば硬化剤及びスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂などを用いることができる。また、液晶としては、ネマチック液晶及びスメクチック液晶を挙げることができ、その中でもネマチック液晶が好ましく、例えばシッフベース系液晶、アゾキシ系液晶、ビフェニル系液晶、フェニルシクロヘキサン系液晶、エステル系液晶、ターフェニル系液晶、ビフェニルシクロヘキサン系液晶、ピリミジン系液晶、ジオキサン系液晶、ビシクロオクタン系液晶、キュバン系液晶などを用いることができる。また、これらの液晶に、例えばコレスチルクロライド、コレステリルノナエート、コレステリルカーボネートなどのコレステリック液晶;商品名「C−15」、「CB−15」(メルク社製)として販売されているようなカイラル剤;p−デシロキシベンジリデン−p−アミノ−2−メチルブチルシンナメートなどの強誘電性液晶などを、添加して使用してもよい。
【0066】
(3−2)PSA型液晶表示素子を製造する場合には、液晶と共に光重合性化合物を注入又は滴下する点以外は上記(3−1)と同様にして液晶セルを構築する。その後、一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射する。ここで印加する電圧は、例えば5〜50Vの直流又は交流とすることができる。また、照射する光としては、例えば150〜800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができるが、300〜400nmの波長の光を含む紫外線が好ましい。照射光の光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマレーザーなどを使用することができる。なお、上記の好ましい波長領域の紫外線は、光源を、例えばフィルター回折格子などと併用する手段などにより得ることができる。光の照射量としては、好ましくは1,000J/m以上200,000J/m未満であり、より好ましくは1,000〜100,000J/mである。
【0067】
そして、液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせることにより、本発明の液晶表示素子を得ることができる。液晶セルの外表面に貼り合わされる偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光膜を酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板を挙げることができる。なお、塗膜に対してラビング処理を行った場合には、2枚の基板は、各塗膜におけるラビング方向が互いに所定の角度、例えば直交又は逆平行となるように対向配置される。
【0068】
(第2の膜形成方法を用いた液晶表示素子の作製)
本発明における第2の膜形成方法は、例えば以下の(1a)〜(3a);
(1a)一対の基板を、所定の間隙を隔てて対向配置する工程、
(2a)対向配置された一対の基板における対向する面のそれぞれに、毛細管現象を利用して本発明の液晶配向剤を塗布する工程、及び
(3a)該塗布後に上記基板を加熱する工程、を含む。
【0069】
この方法では、基板上に液晶配向膜を形成する前に、先ず、基板が有する透明導電膜が対向するように、間隙(セルギャップ)を隔てて2枚の基板を対向配置する(工程(1a))。使用する基板については、上記工程(1)の説明を適用することができる。次いで、2枚の基板の外縁部に、例えば上記工程(3)で例示したシール剤を塗布し、2枚の基板を貼り合わせる。その際、液晶配向剤及び液晶を注入するための注入口を複数個設けておく。注入口の位置は特に限定しないが、複数個の注入口がそれぞれの基板表面において対向する位置に設けておくことが好ましい。
【0070】
次いで、対向配置した一対の基板における透明導電膜を有する側の表面に、本発明の液晶配向剤を毛細管現象を利用して塗布する(工程(2a))。毛細管現象を利用して基板表面に液晶配向剤を塗布する方法としては、(i)複数の注入口のうちの一部を液晶配向剤にディップすることにより、毛細管現象を利用して注入口から液晶配向剤を注入するとともにセルギャップ内に液晶配向剤を充填する方法;(ii)複数の注入口のうちの一部又は全部からインクジェット塗布により液晶配向剤を注入し、毛細管現象を利用してセルギャップ内に液晶配向剤を充填する方法;を用いることが好ましい。
この手法に用いる液晶配向剤は、固形分濃度が0.1〜2.0重量%であることが好ましい。固形分濃度が0.1重量%未満であると、この塗膜の膜厚が過小となって良好な液晶配向膜を得にくく、一方、2.0重量%を超えると、液晶配向剤の粘性が増して塗布性が劣る傾向にある。より好ましくは、0.2〜1.8重量%であり、更に好ましくは、0.3〜1.7重量%である。
【0071】
液晶配向剤の塗布後、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施され、次いで焼成(ポストベーク)工程が実施される。これにより、液晶配向膜としての塗膜又は液晶配向膜となる塗膜が形成される。プレベーク及びポストベークの温度条件については、上記工程(1)の説明を適用することができる。プレベーク時間は、好ましくは0.25〜20分であり、より好ましくは0.5〜15分である。ポストベーク時間は、好ましくは5〜200分であり、より好ましくは10〜100分である。この手法は、従来の平板構造のディスプレイ用の基板だけでなく、基板が湾曲している曲面ディスプレイ用の基板に液晶配向膜を形成することが可能な手法である。
【0072】
塗膜形成後、注入口を介してセルギャップ内に液晶を充填し、その後、注入孔を封止することにより液晶セルを製造する。液晶としては、上記工程(3)の説明を適用することができる。そして、液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせることにより、本発明の液晶表示素子を得ることができる。なお、ラビング処理については上記工程(2)の説明、PSA型液晶表示素子の製造方法については上記工程(3)の(3−2)の説明をそれぞれ適用することができる。
【0073】
本発明の液晶表示素子は、種々の装置に有効に適用することができ、例えば、時計、携帯型ゲーム、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビなどの表示装置に用いることができる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0075】
以下の実施例及び比較例において、重合体溶液中のポリイミドのイミド化率、重合体溶液の溶液粘度、重合体の重量平均分子量及びエポキシ当量は以下の方法により測定した。
[ポリイミドのイミド化率]
ポリイミドの溶液を純水に投入し、得られた沈殿を室温で十分に減圧乾燥した後、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、テトラメチルシランを基準物質として室温でH−NMRを測定した。得られたH−NMRスペクトルから、下記数式(x)によりイミド化率[%]を求めた。
イミド化率[%]=(1−A/A×α)×100 …(x)
(数式(x)中、Aは化学シフト10ppm付近に現れるNH基のプロトン由来のピーク面積であり、Aはその他のプロトン由来のピーク面積であり、αは重合体の前駆体(ポリアミック酸)におけるNH基のプロトン1個に対するその他のプロトンの個数割合である。)
[重合体溶液の溶液粘度]
重合体溶液の溶液粘度[mPa・s]は、所定の溶媒を用い、重合体濃度10重量%に調製した溶液について、E型回転粘度計を用いて25℃で測定した。
[重合体の重量平均分子量]
重量平均分子量は、以下の条件におけるゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算値である。
カラム:東ソー(株)製、TSKgelGRCXLII
溶剤:テトラヒドロフラン
温度:40℃
圧力:68kgf/cm
[エポキシ当量]
エポキシ当量は、JIS C 2105に記載の塩酸−メチルエチルケトン法により測定した。
【0076】
<重合体(A)の合成>
[合成例1:ポリイミド(PI−1)の合成]
テトラカルボン酸二無水物として2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物(TCA)22.4g(0.1モル)、ジアミンとして3,5−ジアミノ安息香酸(35DAB)12.2g(0.08モル)及びコレスタニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン(HCODA)9.80g(0.02モル)を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)178gに溶解し、60℃で6時間反応を行い、ポリアミック酸を20重量%含有する溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液を少量分取し、NMPを加えてポリアミック酸濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は88mPa・sであった。
次いで、得られたポリアミック酸溶液に、NMPを追加してポリアミック酸濃度7重量%の溶液とし、ピリジン11.9g及び無水酢酸15.3gを添加して110℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなNMPで溶媒置換(本操作によって脱水閉環反応に使用したピリジン及び無水酢酸を系外に除去した。以下同じ。)することにより、イミド化率約60%のポリイミド(PI−1)を26重量%含有する溶液を得た。得られたポリイミド溶液を少量分取し、NMPを加えてポリイミド濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は45mPa・sであった。
【0077】
[合成例2:ポリイミド(PI−2)の合成]
テトラカルボン酸二無水物としてTCA22.5g(0.1モル)、ジアミンとして
35DAB 10.7g(0.07モル)、HCODA 7.35g(0.015モル)及び上記式(D−1−5)で表される化合物(LDA)6.94g(0.015モル)、をNMP190gに溶解し、60℃で6時間反応を行い、ポリアミック酸を20重量%含有する溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液を少量分取し、NMPを加えてポリアミック酸濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は80mPa・sであった。
次いで、得られたポリアミック酸溶液に、NMPを追加してポリアミック酸濃度7重量%の溶液とし、ピリジン15.7g及び無水酢酸20.3gを添加して110℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなNMPで溶媒置換することにより、イミド化率約80%のポリイミド(PI−2)を26重量%含有する溶液を得た。得られたポリイミド溶液を少量分取し、NMPを加えてポリイミド濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は40mPa・sであった。
【0078】
[合成例3:ポリイミド(PI−3)の合成]
テトラカルボン酸二無水物として2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物(BODA)24.9g(0.1モル)、ジアミンとして35DAB 10.7g(0.07モル)及び3,5−ジアミノ安息香酸コレスタニル(HCDA)15.6g(0.03モル)を、NMP200gに溶解し、60℃で6時間反応を行い、ポリアミック酸を20重量%含有する溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液を少量分取し、NMPを加えてポリアミック酸濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は85mPa・sであった。
次いで、得られたポリアミック酸溶液に、NMPを追加してポリアミック酸濃度7重量%の溶液とし、ピリジン11.9g及び無水酢酸15.3gを添加して110℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなNMPで溶媒置換することにより、イミド化率約60%のポリイミド(PI−3)を26重量%含有する溶液を得た。得られたポリイミド溶液を少量分取し、NMPを加えてポリイミド濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は43mPa・sであった。
【0079】
[合成例4:ポリイミド(PI−4)の合成]
テトラカルボン酸二無水物としてTCA22.4g(0.1モル)、ジアミンとしてp−フェニレンジアミン(PDA)7.57g(0.07モル)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(DDM)4.0g(0.02モル)及びHCDA 5.2g(0.01モル)を、NMP150gに溶解し、60℃で4時間反応を行い、ポリアミック酸を10重量%含有する溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液を少量分取し、NMPを加えてポリアミック酸濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は90mPa・sであった。
次いで、得られたポリアミック酸溶液に、NMP188gを追加し、ピリジン11.9g及び無水酢酸15.3gを添加して110℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなNMPで溶媒置換し、イミド化率約70%のポリイミド(PI−4)を26重量%含有する溶液を得た。得られたポリイミド溶液を少量分取して測定した溶液粘度は50mPa・sであった。
【0080】
[合成例5:ポリオルガノシロキサン(APS−1)の合成]
撹拌機、温度計、滴下漏斗及び還流冷却管を備えた反応容器に、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(ECETS)100.0g、メチルイソブチルケトン500g及びトリエチルアミン10.0gを仕込み、室温で混合した。次いで、脱イオン水100gを滴下漏斗より30分かけて滴下した後、還流下で撹拌しつつ、80℃で6時間反応を行った。反応終了後、有機層を取り出し、0.2重量%硝酸アンモニウム水溶液により、洗浄後の水が中性になるまで洗浄した後、減圧下で溶媒及び水を留去することにより、反応性ポリオルガノシロキサン(EPS−1)を粘調な透明液体として得た。この反応性ポリオルガノシロキサンについて、H−NMR分析を行ったところ、化学シフト(δ)=3.2ppm付近にエポキシ基に基づくピークが理論強度どおりに得られ、反応中にエポキシ基の副反応が起こっていないことが確認された。得られた反応性ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量Mwは3,500、エポキシ当量は180g/モルであった。
次いで、200mLの三口フラスコに、反応性ポリオルガノシロキサン(EPS−1)を10.0g、溶媒としてメチルイソブチルケトン30.28g、反応性化合物として4−ドデシルオキシ安息香酸3.98g、及び触媒としてUCAT 18X(商品名、サンアプロ(株)製)0.10gを仕込み、100℃で48時間撹拌下に反応を行った。反応終了後、反応混合物に酢酸エチルを加えて得た溶液を3回水洗し、有機層を硫酸マグネシウムを用いて乾燥した後、溶剤を留去することにより、液晶配向性ポリオルガノシロキサン(APS−1)を9.0g得た。得られた重合体の重量平均分子量Mwは9,900であった。
【0081】
<実施例1>
[液晶配向剤の調製]
重合体(A)としてポリイミド(PI−1)を含有する溶液に、重合体(A)としてポリオルガノシロキサン(APS−1)、溶剤としてγ−ブチロラクトン(BL)、N−エチルピロリドン(NEP)、ブチルセロソルブ(BC)及びエチレングリコール(EG)を加え、重合体組成が(PI−1):(APS−1)=95:5(重量比)、溶剤組成がBL:NEP:BC:EG=10:40:30:20(重量比)、固形分濃度3.5重量%の溶液とした。この溶液を孔径1μmのフィルターを用いて濾過することにより液晶配向剤(S−1)を調製した。
[塗膜端部の膜厚評価]
上記で調製した液晶配向剤(S−1)を、インクジェット塗布装置(芝浦メカトロニクス(株)製)を用いてシリコンウェハに塗布した。塗布条件は、ヘッド数64、ディスペンス量0.2g/ヘッド・秒にて二往復塗布(4回塗布)とした。次いで、80℃のホットプレート上で1分間加熱(プレベーク)して溶媒を除去して、平均膜厚80nmの塗膜を形成した。シリコンウェハに形成された塗膜につき、目視で観察し、塗膜の端部において膜厚が中心部よりも薄く色調が変化している部分(膜厚不良の部分)の幅を測定し、その幅の長さにより膜厚評価を行った。評価は、塗膜端部において色調変化している部分の幅が3mm以下であった場合を「特に良好」、幅が3mmよりも長く4mm以下であった場合を「良好」、幅が4mmよりも長い場合を「不良」として行った。その結果を下記表1に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
表1中、溶剤の略称はそれぞれ以下の意味である。
[化合物(b)]
EG:エチレングリコール
PG:プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)
BG:β−ブチレングリコール(1,3−ブタンジオール)
HG:ヘキシレングリコール(2−メチルペンタン−2,4−ジオール)
DEG:ジエチレングリコール(3−オキサペンタン−1,5−ジオール)
DPG:ジプロピレングリコール(4−オキサヘプタン−2,6−ジオール)
[第1溶剤(a)]
BL:γ−ブチロラクトン
NEP:N−エチル−2−ピロリドン
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
[その他の溶剤(c)]
BC:ブチルセロソルブ
DAA:ダイアセトンアルコール
PGDAc:プロピレングリコールジアセテート
【0084】
<実施例2〜4>
使用する溶剤の種類及び量を上記表1の通り変更した以外は実施例1と同様にして液晶配向剤(S−2)〜(S−4)をそれぞれ調製した。また、調製した液晶配向剤をそれぞれ用い、上記実施例1と同様にして基板上に塗膜を形成するとともに、その塗膜端部の膜厚評価を行った。それらの結果を上記表1に示す。
<実施例5〜10、比較例1>
使用する重合体(A)の種類を上記表1の通り1種類に変更するとともに、使用する溶剤の種類及び量を上記表1の通り変更した以外は実施例1と同様にして液晶配向剤(S−5)〜(S−10)、(SR−1)をそれぞれ調製した。また、調製した液晶配向剤をそれぞれ用い、上記実施例1と同様にして基板上に塗膜を形成するとともに、その塗膜端部の膜厚評価を行った。それらの結果を上記表1に示す。
【0085】
表1に示すように、化合物(b)を含む実施例1〜10ではいずれも、塗膜端部における膜厚不良の領域の幅が4mm以下であり、膜厚良好であった。このことは、化合物(b)を含む液晶配向剤によれば、塗膜領域の広い範囲を表示領域として有効に利用でき、液晶パネルの狭額縁化を図ることができることを示唆するものと言える。なお、化合物(b)を液晶配向剤に添加することにより、液晶配向剤の粘度を適度に高くでき、これにより上記効果が得られるものと推測される。また、上記実施例の中でも、カルボキシル基を側鎖に有する重合体(A)を含む液晶配向剤(実施例1〜9)では、塗膜端部における膜厚不良の領域の幅が3mm以下であり、特に良好であった。これに対し、化合物(b)を含まない比較例1では、塗膜端部の膜厚が薄くなっている部分の幅が4.2mmと大きかった。
【0086】
<実施例11>
[液晶配向剤の調製]
重合体(A)としてポリイミド(PI−1)を含有する溶液に、重合体(A)としてポリオルガノシロキサン(APS−1)、溶剤としてγ−ブチロラクトン(BL)、N−エチルピロリドン(NEP)、ブチルセロソルブ(BC)及びエチレングリコール(EG)を加え、重合体組成が(PI−1):(APS−1)=95:5(重量比)、溶剤組成がBL:NEP:BC:EG=10:40:30:20(重量比)、固形分濃度1.0重量%の溶液とした。この溶液を孔径1μmのフィルターを用いて濾過することにより液晶配向剤(S−11)を調製した。
[液晶セルの製造]
一対のITO付き基板の外縁に、直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤を塗布した。その際、基板外縁のうち対向する2つの辺の一部に接着剤を塗布せず、これにより液晶配向剤及び液晶の注入口を基板上下に確保した。その後、ITO面が相対するように重ね合わせて圧着し、接着剤を硬化させた。次いで、上記で調製した液晶配向剤(S−11)をシャーレに適量入れ、上記にて作製した一対のITO基板の注入口の一方をシャーレにディップした。液晶配向剤(S−11)を毛細管現象を利用してITO基板間に充填した後、80℃のホットプレートで10分間加熱(プレベーク)して溶媒を除去した後、210℃のホットプレート上で30分間加熱(ポストベーク)して、平均膜厚10nmの塗膜を形成した。次いで、注入口より一対の基板間にネマチック液晶(メルク社製MLC−6608)を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で注入口を封止することにより液晶セルを製造した。
【0087】
[液晶セルの液晶配向性の評価]
上記で得られた液晶セルの中央部について、偏光板をクロスニコリルに配置した偏光顕微鏡を用いて液晶配向性を評価した。なお、偏光顕微鏡はオリンパス製を使用し、接眼レンズ10倍、対物レンズ5倍を用いた。評価は、ディスクリネーションと呼ばれる表示不良の個数によって行った。ここで、「ディスクリネーション」とは、線状の白欠陥をいい、液晶配向膜の液晶配向規制力が不足することによって起こると推測されている。ここでは、ディスクリネーションの個数が0個の場合を配向性「良好(○)」、ディスクリネーションの個数が1〜3個の場合を配向性「可(△)」、ディスクリネーションの個数が4個以上の場合を配向性「不可(×)」とした。その結果、実施例11の液晶配向剤(S−11)では、ディスクリネーションの個数が0個であり、液晶配向性が良好であった。
【0088】
<実施例12〜14>
使用する溶剤の種類及び量並びに液晶配向剤の固形分濃度を下記表2の通り変更した以外は実施例11と同様にして液晶配向剤(S−12)〜(S−14)をそれぞれ調整した。また、調製した液晶配向剤をそれぞれ用い、上記実施例11と同様にして液晶セルを作製するとともに、その液晶セルについて配向性評価を行った。それらの結果を下記表2に示す。
【0089】
【表2】
【0090】
<実施例15〜20、比較例2>
使用する重合体(A)の種類を上記表2の通り1種類に変更した点、使用する溶剤の種類及び量を上記表2の通り変更した点、並びに液晶配向剤の固形分濃度を上記表2の通りとした点以外は、実施例11と同様にして液晶配向剤(S−15)〜(S−20)、(SR−2)をそれぞれ調整した。また、調製した液晶配向剤をそれぞれ用い、上記実施例11と同様にして液晶セルを作製するとともに、その液晶セルについて配向性評価を行った。それらの結果を上記表2に示す。
【0091】
表2に示すように、化合物(b)を含む実施例11〜20ではいずれも、配向不良に起因するディスクリネーションが0個であり、液晶配向性が良好であった。このことは、化合物(b)を含む液晶配向剤によれば、毛細管現象を利用して配向性良好な液晶配向膜を形成することができ、曲面パネルのような複雑な形状のパネルであっても、配向性良好な液晶配向膜を形成可能であることを示唆するものと言える。なお、化合物(b)を液晶配向剤に添加することにより、固形分濃度が低くても液晶配向剤の粘度を適度に高くでき、これにより上記効果が得られるものと推測される。また、上記実施例の中でも、カルボキシル基を側鎖に有する重合体(A)を含む液晶配向剤(実施例11〜19)では、配向不良に起因するディスクリネーションが0個であり、特に良好であった。これに対し、化合物(b)を含まない比較例2では、配向不良に起因するディスクリネーションが10個と多く見られた。