特許第6179288号(P6179288)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6179288-窒化ケイ素粉末の製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6179288
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】窒化ケイ素粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/068 20060101AFI20170807BHJP
【FI】
   C01B21/068 P
【請求項の数】2
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-186941(P2013-186941)
(22)【出願日】2013年9月10日
(65)【公開番号】特開2015-54786(P2015-54786A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2016年7月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(72)【発明者】
【氏名】柴田 耕司
(72)【発明者】
【氏名】王丸 卓司
(72)【発明者】
【氏名】山尾 猛
(72)【発明者】
【氏名】本田 道夫
(72)【発明者】
【氏名】藤井 孝行
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−148033(JP,A)
【文献】 特開平05−148032(JP,A)
【文献】 特開平05−117035(JP,A)
【文献】 特開平06−321508(JP,A)
【文献】 特開昭59−107908(JP,A)
【文献】 特開平09−040406(JP,A)
【文献】 特開2008−094661(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/090542(WO,A1)
【文献】 特開平04−209706(JP,A)
【文献】 特開2008−122043(JP,A)
【文献】 米国特許第04619905(US,A)
【文献】 米国特許第05595718(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B15/00−23/00
C04B35/56−35/599
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径が16〜30cmの円筒状の炉心管を備える外熱式ロータリーキルン炉を用いて、比表面積が400〜1200m/gである非晶質Si−N(−H)系化合物粉末を、前記炉心管内に前記炉心管入口より投入し、前記炉心管内で層状に流動させながら、窒素含有不活性ガス雰囲気下又は窒素含有還元性ガス雰囲気下、1400〜1700℃の最高温度で焼成し、前記炉心管出口より取り出す窒化ケイ素粉末の製造方法であって、前記炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さを1〜8cmの範囲に維持することを管理指標として窒化ケイ素粉末を製造することを特徴とする窒化ケイ素粉末の製造方法。
【請求項2】
前記最高温度が1450〜1550℃であることを特徴とする請求項1記載の窒化ケイ素粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大量生産に適したロータリーキルン炉を用いた非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の焼成による窒化ケイ素粉末の製造方法おいて、ロータリーキルン炉の炉心管の内径に関わらず、焼結特性に優れた窒化ケイ素粉末を常に製造できる、窒化ケイ素粉末の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
窒化ケイ素粉末を成形し加熱焼結することで得られる窒化ケイ素焼結体は、機械的強度、耐蝕性、耐熱衝撃性、熱伝導性、電気絶縁性等に優れているため、切削チップやボールベアリング等の耐摩耗用部材、自動車エンジン部品等の高温構造用部材、回路基板等として使用されている。窒化ケイ素焼結体は、通常、窒化ケイ素粉末に焼結助剤を混合し、プレス成形、射出成形、押し出し成形等によって成形体とし、これを焼結することによって製造される。
【0003】
良好な機械的特性を示す窒化ケイ素焼結体を製造するには、焼結特性が良好な窒化ケイ素粉末、すなわち、結晶化度が高く、高α分率の粒状結晶からなる窒化ケイ素粉末が必要とされる。このような高品質の窒化ケイ素粉末を製造する方法として、非晶質Si−N(−H)系化合物を窒素含有不活性ガス雰囲気下又は窒素含有還元性ガス雰囲気下で焼成する方法が既に知られている。
【0004】
以上のような高品質の窒化ケイ素粉末の製造方法として、特許文献1には、非晶質窒化ケイ素粉末及び/又は含窒素シラン化合物(後述する本発明の非晶質Si−N(−H)系化合物粉末と同一の化合物のことであり、以下非晶質Si−N(−H)系化合物粉末と記す)を圧縮成形して、嵩密度0.3〜0.8g/cm、短軸径1mm以上、かつ長軸径20mm以下の顆粒状物とした上で、この顆粒状物を、1200〜1400℃の温度範囲全域における昇温速度を10℃/分以下にして焼成することが開示されている。しかしながら、特許文献1の実施例を見てもわかるように、この製造方法は、室温から加熱し最高焼成温度での保持が終了するまでの焼成時間が6.5〜8.3時間にも及び、生産速度と所要電力の面で、低コストで生産性が高い製造方法とは言い難い。
【0005】
一方、以上のような高品質の窒化ケイ素粉末を大量に生産できる製造方法として、特許文献2には、非晶質Si−N(−H)系化合物粉末を圧縮成形して、嵩密度0.3〜0.8g/cm 、短軸径1mm以上、かつ長軸径20mm以下の顆粒状物とし、該顆粒状物を、連続焼成炉、具体的にはロータリーキルン炉を用いて1400〜1700℃の温度で焼成する窒化珪素粉末の製造法が開示されている。同公報には、ロータリーキルン炉等の連続焼成炉を用いることにより、窒化ケイ素粉末を短時間で大量に生産できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−209706号公報
【特許文献2】特開平5−148032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に開示されているようなロータリーキルン炉を用いた製造方法は窒化ケイ素粉末の大量生産に適した方法ではあるものの、実際に窒化ケイ素粉末の生産量を上げるために、ロータリーキルン炉の炉心管の内径を大きくして、炉心管への原料の供給量を増やすと、炉心管の内径によっては、結晶化度およびα分率のいずれもが高い窒化ケイ素粉末が得られなくなる問題が生じた。つまり、これまではロータリーキルン炉の炉心管の内径を大きくして生産量を上げても、常に結晶化度およびα分率が高い窒化ケイ素粉末を製造し得る技術指標が得られていなかった。結晶化度またはα分率が高い窒化ケイ素粉末は、次に説明するように、窒化ケイ素焼結体の原料として有用である。
【0008】
結晶化度が高い窒化ケイ素粉末、すなわち非晶質窒化ケイ素の含有比率が低い窒化ケイ素粉末を焼結すると、焼結時に、焼結速度が均一になる。したがって、結晶化度が高い窒化ケイ素粉末を焼結して得られる焼結体は、内部に残留気孔が少なく、また粒子のアスペクト比(長軸径/短軸径比)が大きいので、室温および高温の機械的強度が大きい。
【0009】
α分率が高い窒化ケイ素粉末、すなわちβ分率が低い窒化ケイ素粉末を焼結すると、焼結時に、窒化ケイ素のα相からβ相への転移に伴って生じる柱状結晶の成長が促進される。したがって、得られる窒化ケイ素焼結体は、アスペクト比の大きい柱状結晶の割合が高くなるので、破壊靱性が大きい。
【0010】
以上のように、ロータリーキルン炉で非晶質Si−N(−H)系化合物粉末を焼成する窒化ケイ素粉末の製造方法は、大量生産に適した製造方法ではあるものの、生産量を拡大するためにロータリーキルン炉の炉心管の内径を大きくすると、機械的性質が良好な窒化ケイ素焼結体を得るに必要な、結晶化度およびα分率が高い窒化ケイ素粉末を安定的に得ることが困難になる課題を有していた。そこで、本発明の目的は、ロータリーキルン炉を用いた非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の焼成による窒化ケイ素粉末の製造方法おいて結晶化度およびα分率が高い窒化ケイ素粉末を常に製造することができる窒化ケイ素粉末の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、内径が16〜30cmの円筒状の炉心管を備える外熱式ロータリーキルン炉を用いて、非晶質Si−N(−H)系化合物粉末を窒素含有不活性ガス雰囲気下又は窒素含有還元性ガス雰囲気下で焼成し、窒化ケイ素粉末を製造する方法について鋭意研究を重ねた結果、ロータリーキルン炉の炉心管出口での粉末層の最大厚さを特定の範囲に維持することを管理指標とすると、炉心管の内径に関わらず、結晶化度およびα分率が高い、具体的には、結晶化度が98%以上で、α分率が85%以上の窒化ケイ素粉末を常に製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち本発明は、水平方向に対して傾斜させた、内径が16〜30cmの円筒状の炉心管を備える外熱式ロータリーキルン炉を用いて、比表面積が400〜1200m/gである非晶質Si−N(−H)系化合物粉末を、前記炉心管内に前記炉心管入口より投入し、前記炉心管内で層状に流動させながら、窒素含有不活性ガス雰囲気下又は窒素含有還元性ガス雰囲気下、1400〜1700℃の最高温度で焼成し、前記炉心管出口より取り出す窒化ケイ素粉末の製造方法であって、前記炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さを1〜8cmの範囲に維持することを管理指標として窒化ケイ素粉末を製造することを特徴とする窒化ケイ素粉末の製造方法に関する。
【0013】
また本発明は、前記最高温度が1450〜1550℃であることを特徴とする窒化ケイ素粉末の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば結晶化度が高く、高α分率の窒化ケイ素粉末を製造することができるので、焼結特性に優れた窒化ケイ素粉末を、安価に大量に製造することが可能になる。また、使用するロータリーキルン炉の設備規模によって生産量を調整しても、本発明の管理指標を用いて窒化ケイ素粉末を製造することで、常に焼結特性に優れた窒化ケイ素粉末を提供することが可能になる。

【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のロータリーキルン炉の炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の模式図である。
図2】炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さが8cmより大きい場合の、結晶化時の非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の粉末層の断面の模式図である。
図3】炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さを測定するためのゲージを、ロータリーキルン炉の炉心管出口に設置した覗き窓の外側に付けた状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に関わる窒化ケイ素粉末の製造方法を詳細に説明する。
【0017】
本発明では、非晶質Si−N(−H)系化合物粉末を窒素含有不活性ガス雰囲気下又は窒素含有還元性ガス雰囲気下で焼成して、窒化ケイ素粉末を製造する。本発明で使用する非晶質Si−N(−H)系化合物とは、シリコンジイミド、シリコンテトラアミド、シリコンクロルイミド等の含窒素シラン化合物の一部又は全てを加熱分解して得られるSi、N及びHの各元素を含む非晶質の化合物、又は、Si及びNを含む非晶質窒化ケイ素のことであり、以下の組成式(1)で表される。
Si2x(NH)12−3x・・・・(1)
(ただし、式中x=0.5〜4であり、組成式には明記しないが、不純物としてハロゲンを含有する化合物を含む)
【0018】
なお、本発明においては、非晶質Si−N(−H)系化合物は、組成式(1)において、x=0.5で表されるSi(NH)10.5からx=4で表される非晶質Siまでの一連の化合物を総て包含しており、x=3で表されるSi(NH)はシリコンニトロゲンイミドと呼ばれている。
【0019】
本発明に係る含窒素シラン化合物としては、シリコンジイミド、シリコンテトラアミド、シリコンクロルイミド等が用いられる。これらの化合物は以下の組成式(2)で表される。本発明においては、便宜的に、以下の組成式(2)においてy=8〜12で表される含窒素シラン化合物をシリコンジイミドと表記する。
Si(NH)(NH24−2y・・・・(2)
(ただし、式中y=0〜12であり、組成式には明記しないが、不純物としてハロゲンを含有する化合物を含む)
【0020】
本発明に係る非晶質Si−N(−H)系化合物粉末は、公知方法、例えば、四塩化ケイ素、四臭化ケイ素、四沃化ケイ素等のハロゲン化ケイ素とアンモニアとを気相で反応させる方法、液状の前記ハロゲン化ケイ素と液体アンモニアとを反応させる方法等によって製造される。
【0021】
また、本発明に係る非晶質Si−N(−H)系化合物粉末としては、公知方法、例えば、前記含窒素シラン化合物を窒素又はアンモニアガス雰囲気下に1200℃以下の温度で加熱分解する方法、四塩化ケイ素、四臭化ケイ素、四沃化ケイ素等のハロゲン化ケイ素とアンモニアとを高温で反応させる方法等によって製造されたものが用いられる。
【0022】
本発明には、窒化ケイ素粉末の原料として、比表面積が400〜1200m/gの非晶質Si−N(−H)系化合物粉末を用いる。非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の比表面積が400m/gよりも小さいと、焼成時の1000〜1400℃の温度範囲で急激な結晶化が起こり、得られる窒化ケイ素粉末中に針状粒子や凝集粒子が生成してしまう。このような粉末で焼結体を作製しても均質な組織が形成されず、得られる焼結体の強度が小さくなる。一方、比表面積が1200m/gより大きいと、得られる窒化ケイ素粉末のα分率が小さくなるので、焼結性が悪化し、焼結体の強度が小さくなる。
【0023】
非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の比表面積は、その原料となる含窒素シラン化合物の比表面積と、含窒素シラン化合物を加熱分解する際の最高温度で調節できる。含窒素シラン化合物の比表面積を大きくするほど、また前記加熱分解時の最高温度を低くするほど、非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の比表面積を大きくすることができる。含窒素シラン化合物の比表面積は、含窒素シラン化合物がシリコンジイミドである場合には、例えば特許文献2に示す公知の方法、すなわちハロゲン化ケイ素と液体アンモニアとを反応させる際のハロゲン化ケイ素と液体アンモニアとの比率(ハロゲン化ケイ素/液体アンモニア(体積比))を変化させる方法により調節することができる。前記ハロゲン化ケイ素/液体アンモニアを大きくすることで含窒素シラン化合物の比表面積を大きくすることができる。
【0024】
本発明においては、非晶質Si−N(−H)系化合物粉末を窒素含有不活性ガス雰囲気下又は窒素含有還元性ガス雰囲気下に焼成するに際し、水平方向に対して傾斜させた円筒状の炉心管を備え、該炉心管を軸芯周りに回転させつつ外側から加熱することで、前記炉心管内に投入された被加熱物を焼成する外熱式ロータリーキルン炉を用いて、上述の非晶質Si−N(−H)系化合物粉末を1400〜1700℃の温度で焼成する。焼成温度が1400℃より低いと、十分に結晶化せず、窒化ケイ素粉末中に多量の非晶質窒化ケイ素粉末が含まれるので好ましくない。また、焼成温度が1700℃より高いと、粗大結晶が成長するばかりでなく、生成した窒化ケイ素粉末の分解が始まるので好ましくない。
【0025】
非晶質Si−N(−H)系化合物粉末は、顆粒状物に成形して炉心管内に投入することが好ましく、その顆粒状物は、直径が1mm以上20mm以下であることが特に好ましい。非晶質Si−N(−H)系化合物粉末を顆粒状に成形すると、炉心管内での非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の流動性が向上し、非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の結晶化に伴って発生する結晶化熱の放熱性が良くなるので、得られる窒化ケイ素粉末の品質の均一性が向上するからである。顆粒物の直径が1mm以上20mm以下である場合は、特に非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の流動性が良くなり、得られる窒化ケイ素粉末の品質の均一性が特に良くなる。
【0026】
本発明で使用するロータリーキルン炉は、水平方向に対して傾斜させた円筒状の炉心管を備え、該炉心管を軸芯周りに回転させつつ該炉心管をその外側から加熱することで、該炉心管内に、該炉心管の片端に設置された該炉心管入口より供給された原料を焼成し、その焼成物を該炉心管の片端に設置された該炉心管出口より取り出す外熱式ロータリーキルン炉である。一般に、ロータリーキルン炉においては、水平方向に対して傾斜させた円筒状の炉心管の高い側に設けられた入口から原料粉末が供給されると、供給された原料粉末は、炉心管の断面方向には、炉心管の回転と粉末層の最大傾斜方向へのすべりにより渦巻運動をする。そして、軸方向には、炉心管の傾斜により粉末が炉心管の低い側に設けられた出口方向に移動し排出される。本発明においては、本発明のロータリーキルン炉の炉心管内に炉心管入口より非晶質Si−N(−H)系化合物粉末を供給し、炉心管内で焼成して結晶化し、炉心管出口より窒化ケイ素粉末を取り出す。なお、本発明においては、ロータリーキルン炉の炉心管内に供給されるまでの非晶質Si−N(−H)系化合物粉末を原料粉末と称することがある。また、焼成時に炉心管内を流動する粉末を被焼成粉末と称することがある。被焼成粉末には、非晶質Si−N(−H)系化合物粉末と窒化ケイ素粉末とがある。
【0027】
ロータリーキルン炉での焼成における炉心管内部の最高温度、即ち焼成温度は1400〜1700℃の範囲、好ましくは1450〜1550℃の範囲である。焼成温度が1400℃より低いと、窒化ケイ素粉末が十分に結晶化せず、窒化ケイ素粉末中に多量の非晶質窒化ケイ素が含まれ、結晶化度が高い窒化ケイ素粉末が得られない。また、焼成温度が1700℃より高いと、粗大結晶が成長したり、窒化ケイ素粉末の一部またはすべてが分解して、焼結性が良好な窒化ケイ素粉末が得られない。
【0028】
本発明では、ロータリーキルン炉を用いて非晶質Si−N(−H)系化合物粉末を窒素含有不活性ガス雰囲気下又は窒素含有還元性ガス雰囲気下に焼成する際に、炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さを1〜8cmの範囲に維持することを管理指標とする。
【0029】
ロータリーキルン炉の炉心管の内径に関わらず、炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さが1cm未満の場合は、得られる窒化ケイ素粉末のβ分率が大きくなってα分率が低下する。焼成時の最高温度を1400℃より低くすることで、α分率の低下は抑制できるが、その場合、前述の通り、結晶化度が高い窒化ケイ素粉末は得られない。
【0030】
一方、ロータリーキルン炉の炉心管の内径に関わらず、炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さが8cmを超える場合は、得られる窒化ケイ素粉末の結晶化度が低くなる。焼成時の最高温度を1700℃より高くすれば結晶化度を高くできるが、焼成時の最高温度を1700℃より高くすると、前述の通り、粗大結晶が成長する、あるいは窒化ケイ素粉末の一部またはすべてが分解するので、焼結性が良好な窒化ケイ素粉末は得られない。
【0031】
本発明に係る炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さとは、窒化ケイ素粉末が炉心管出口から取り出される直前の、窒化ケイ素粉末の粉末層の底から表面までの距離の最大値であり、窒化ケイ素粉末の炉心管出口からの排出に伴う粉末層の表面形状の崩壊が生じる直前の窒化ケイ素粉末の粉末層の厚さである。本発明に係る炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さは、以下のようにして算出することができる。
【0032】
図1は、炉心管出口からの排出に伴う粉末層の表面形状の崩壊が生じる直前の、窒化ケイ素粉末が層状に流動している様子を表すロータリーキルン炉の炉心管内の断面の模式図である。炉心管内を流動する窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さ、すなわち、窒化ケイ素粉末の粉末層の底から表面までの距離の最大値は、窒化ケイ素粉末の粉末層の表面と直角に交差する炉心管内の断面の中心線(図1のA)上の、炉心管内壁から窒化ケイ素粉末の粉末層の表面までの距離である。
【0033】
本発明においては、炉心管出口からの排出に伴う粉末層の表面形状の崩壊が生じる直前の位置における窒化ケイ素粉末の粉末層を、粉末層の厚さ方向に対して垂直な向きから観察できるように、炉心管出口側に覗き窓を設ける。そして、粉末層の表面形状の崩壊が生じる直前の位置における窒化ケイ素粉末の粉末層の、粉末層の表面と直角に交差する炉心管内の断面の中心線(図1のA)上の、粉末層の表面から粉末層の底ではない方の炉心管内壁までの距離(図1のBの長さ)を、覗き窓の外側に付けられたゲージで測定するか、覗き窓から撮影した画像の画像解析により測定する。炉心管内径から、測定された「図1のBの長さ」を差し引いた距離が窒化ケイ素粉末の粉末層の底から表面までの距離の最大値であり、本発明の窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さである。
【0034】
次に、炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さを特定の範囲に維持することを管理指標とすることで、結晶化度およびα分率が高い窒化ケイ素粉末が常に得られる理由を考察する。
【0035】
本発明に係る窒化ケイ素粉末の結晶化度およびα分率に影響を与えるのは、非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の結晶化挙動である。一方、炉心管出口における窒化ケイ素粉末は、結晶化が完了した粉末であり、炉心管出口より取り出される窒化ケイ素粉末、すなわち本発明で得られる窒化ケイ素粉末である。したがって、炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さを特定の範囲に維持することは、窒化ケイ素粉末の結晶化度およびα分率に影響を与える非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の結晶化挙動に直接影響を与えるわけではない。
【0036】
しかし、次の理由により、炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さを特定の範囲に維持することが、窒化ケイ素粉末の結晶化度およびα分率に影響を与える非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の結晶化挙動に間接的に影響を与えると考えられる。
【0037】
原料の非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の密度はほぼ一定であり、得られる窒化ケイ素粉末の密度も特定の高い結晶化度とα分率とを有する粉末ならばほぼ一定である。また、所定の炉心管内に投入される非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の質量と得られる窒化ケイ素粉末の質量との比も、非晶質Si−N(−H)系化合物の結晶化時の分解に伴う質量減少率がほぼ一定であるので、ほぼ一定である。したがって、炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さと、結晶化時の非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の粉末層の最大厚さとの比は常にほぼ一定の値になる。つまり、炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さを特定の範囲に維持すれば、結晶化時の非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の粉末層の最大厚さを特定の範囲に維持できることになる。したがって、炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さを特定の範囲に維持することは、間接的に非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の結晶化挙動に影響を与えると考えられる。結晶化時の非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の粉末層の最大厚さは、その位置が炉心管の入口からも出口からも離れていて測定が困難であるので、本発明の窒化ケイ素粉末の製造方法は、これに替えて、測定が容易な炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さを管理指標とするものである。
【0038】
次に、結晶化時の非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の粉末層の最大厚さを、炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さが1〜8cmになる場合に対応する特定の範囲に維持して、非晶質Si−N(−H)系化合物粉末を焼成して窒化ケイ素粉末を製造すると、結晶化度およびα分率が高い窒化ケイ素粉末をロータリーキルン炉の炉心管の内径に関わらず製造することができる理由について考察する。
【0039】
炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さが1cm未満の場合、すなわち、結晶化時の非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の粉末層の最大厚さが小さい場合は、次のようなメカニズムによって、得られる窒化ケイ素粉末のα分率が低くなると考えられる。
【0040】
非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の粉末層と炉心管内壁との間にすべりが生じて、非晶質Si−N(−H)系化合物粉末が渦巻運動をしなくなり、その流動性が悪くなる。非晶質Si−N(−H)系化合物粉末が、流動性が悪い状態で焼成されると、結晶化熱が粉末層から除去されにくくなって、非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の粉末層の温度が急激に上昇し、非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の粉末層の少なくとも一部が1700℃を超える。非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の粉末層の温度が局所的にでも短時間でも1700℃を超えることで、窒化ケイ素の高温型結晶であるβ型結晶が析出し、得られる窒化ケイ素粉末のα分率が低くなる。
【0041】
以上が、炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さが1cm未満の場合、すなわち結晶化時の非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の粉末層の最大厚さが小さい場合に、得られる窒化ケイ素粉末のα分率が低くなるメカニズムと考えられる。
【0042】
一方、炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さが8cmより大きい場合、すなわち結晶化時の非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の粉末層の最大厚さが大きい場合は、次のようなメカニズムによって、得られる窒化ケイ素粉末の結晶化度が低くなると考えられる。
【0043】
外熱式ロータリーキルン炉における被焼成粉末への伝熱の形態には、粉末が接触している炉心管内壁からの伝導伝熱、対向壁面からの輻射伝熱、及び熱分解ガスからの対流伝熱がある。これらを合算したものが総伝熱であるが、熱分解ガスからの対流伝熱以外は粉末層の外周部からの伝熱である。被焼成粉末への伝熱の殆どが粉末層外周部からの伝熱であっても、外熱式ロータリーキルン炉では、炉心管の回転によって被焼成粉末に渦巻運動をさせることで、被焼成粉末への一様な加熱が可能になっている。
【0044】
それでも、炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さが8cmより大きい場合、すなわち結晶化時の非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の粉末層の最大厚さが大きい場合は、粉末の一部に渦巻運動する力が与えられずに流動性が悪い部分が生じる。図2に、窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さが8cmより大きい場合の、結晶化時の非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の粉末層の断面の模式図を示す。被焼成粉末には炉心管の回転方向とは反対の方向へ渦巻運動する力が与えられるが、粉末層の最大厚さが大きいと、図2に示すように、粉末層の中央辺りに灰色の楕円状の領域として示す流動性が悪い部分が生じる。そして、粉末層中の流動性が悪い部分の非晶質Si−N(−H)系化合物粉末は、流動性が良い部分の粉末ほどには加熱されない状態で炉心管出口に達することになる。そうすると、得られる窒化ケイ素粉末は、結晶化に十分な加熱を受けていない窒化ケイ素粉末を含むので、得られる窒化ケイ素粉末の結晶化度が低くなる。
【0045】
以上が、炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さが8cmより大きい場合、すなわち結晶化時の非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の粉末層の最大厚さが大きい場合に、得られる窒化ケイ素粉末の結晶化度が低くなるメカニズムと考えられる。
【0046】
炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さを1〜8cmの範囲に維持することを管理指標として窒化ケイ素粉末を製造すれば、結晶化時の非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の粉末層と炉心管内壁との間にすべりが生じないように、結晶化時の非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の粉末層の中央辺りに渦巻運動が与えられずに流動性が悪い部分が生じないようにできるので、結晶化度およびα分率が高い窒化ケイ素粉末をロータリーキルン炉の炉心管の内径に関わらず製造することができるものと考えられる。
【0047】
本発明において、炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さは、非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の炉心管内への供給速度、炉心管の傾斜角度、および炉心管の回転速度によって制御することができる。非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の炉心管内への供給速度を大きくすると窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さは大きくなり、非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の供給速度を小さくすると窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さは小さくなる。炉心管の傾斜角度を大きくすると窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さは小さくなり、炉心管の傾斜角度を小さくすると窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さは大きくなる。また、炉心管の回転速度を大きくすると窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さは小さくなり、炉心管の回転速度を小さくすると窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さは大きくなる。
【0048】
また、本発明においては、非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の、炉心管内の加熱帯における滞留時間は、5分以上とすることが好ましい。ここで、加熱帯とは、ロータリーキルン炉の炉心管内の温度が1400℃以上最高温度以下の温度帯域のことである。滞留時間を5分未満にすると、得られる窒化ケイ素粉末の結晶化度が低くなることがあるからである。一方、滞留時間を長くしても、得られる窒化ケイ素粉末の品質が悪くなることはないが、得られる窒化ケイ素粉末の単位質量あたりに必要な電力量が多くなり、生産コストが相対的に大きくなるので、炉心管内の加熱帯での滞留時間は、20分以下にすることが好ましい。
【0049】
非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の、炉心管内の加熱帯での滞留時間は、炉心管の傾斜角度および炉心管の回転速度によって制御することができる。炉心管の傾斜角度を大きくすると前記滞留時間は短くなる。また、炉心管の回転速度を大きくすると前記滞留時間は短くなる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0051】
(非晶質Si−N(−H)系化合物の組成分析方法)
非晶質Si−N(−H)系化合物粉末のケイ素(Si)含有割合は、「JIS R1603 ファインセラミックス用窒化けい素微粉末の化学分析方法」の「7 全けい素の定量方法」に準拠したICP発光分析により測定した。非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の窒素(N)含有割合は、「JIS R1603」の「8 全窒素の定量方法」に準拠した水蒸気蒸留分離中和滴定法により測定した。また非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の酸素(O)含有割合は、「JIS R1603」の「10 酸素の定量方法」に準拠した不活性ガス融解−二酸化炭素赤外線吸収法により測定した。ただし、非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の酸化を抑制するために、ケイ素含有割合の測定の場合、および素含有割合の測定の場合は、測定のための試料前処理直前までの試料保管時の雰囲気を窒素雰囲気とし、また酸素含有割合の測定の場合は、測定直前までの試料保管時及び測定時の雰囲気を窒素雰囲気とした。非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の水素(H)含有割合は、非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の全量より、ケイ素(Si)、窒素(N)および酸素(O)含有割合の合計を除いた残分として算出した。本発明に係る非晶質Si−N(−H)系化合物粉末は、微量の不純物以外は、ケイ素(Si)、窒素(N)、水素(H)および酸素(O)のみからなるからである。以上より、Si、N及びHの比を求めて、非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の組成式を決定した。
【0052】
(窒化ケイ素粉末の酸素(O)含有割合の測定方法)
窒化ケイ素粉末の酸素(O)含有割合は、「JIS R1603 ファインセラミックス用窒化けい素微粉末の化学分析方法」の「10 酸素の定量方法」に準拠した不活性ガス融解−二酸化炭素赤外線吸収法により測定した。ただし、非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の酸素(O)含有割合を測定する場合は、非晶質Si−N(−H)系化合物の酸化を抑制するために、測定直前までの試料保管時及び測定時の雰囲気を窒素雰囲気とした。
【0053】
(非晶質Si−N(−H)系化合物粉末および窒化ケイ素粉末の比表面積の測定方法)
非晶質Si−N(−H)系化合物粉末および窒化ケイ素粉末の比表面積は窒素ガス吸着によるBET1点法(島津製作所社製、フローソーブ2300)で測定した。
【0054】
(非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の軽装密度と安息角の測定方法)
非晶質Si−N(−H)系化合物粉末の軽装密度は、「JIS R9301−2−3 アルミナ粉末−第2部:物性測定方法−3:軽装かさ密度及び重装かさ密度」に準拠した手法で求めた。具体的には、振動を防ぎ、静置した容量既知の容器中に非晶質Si−N(−H)系化合物粉末を自由に落下させて集めた同粉末の質量を求め、この質量を等量の水の体積で割った値から算出した。安息角は、「JIS R9301−2−2 アルミナ粉末−第2部:物性測定方法−2:安息角」に準拠した手法で求めた。具体的には、ガラスロートから非晶質Si−N(−H)系化合物粉末を自然落下させ、水平面に堆積させたときに粉末が作る角度を測定した。
【0055】
(炉心管内の加熱帯における被焼成粉末の滞留時間の測定方法)
炉心管内の加熱帯、すなわち炉心管の1400℃以上最高温度以下の温度帯域における被焼成粉末の滞留時間は、以下の方法で測定した。トレーサーとして、1個1個識別可能なφ5mmの窒化ケイ素ボール10個を、炉心管入口から順次原料粉末と一緒に炉心管内に投入して、各窒化ケイ素ボールが入口から投入されてから炉心管出口より排出されるまでの時間を測定し、その平均値を炉心管内の滞留時間とした。炉心管内での被焼成粉末の軸方向の移動速度は一定なので、炉心管長さに対する炉心管内の加熱帯長さの割合を炉心管内の滞留時間にかけた値を加熱帯での滞留時間とした。
【0056】
(炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さの測定方法)
炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さは、図3に示すように、炉心管内の断面を垂直方向から観察できるよう炉心管出口側に設けられた覗き窓の外側に付けたゲージによって測定した。「炉心管内径」から、「粉末層の表面と垂直な向きの炉心管断面の中心線」における「粉末層表面から空間側(粉末層とは反対側)の炉心管内壁までの距離」を差し引くことで、炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さを算出した。
【0057】
(窒化ケイ素粉末のα分率の測定方法)
X線回折法において、ターゲットが銅の管球とグラファイトモノクロメーターを使用し、定時ステップ走査法により、得られた窒化ケイ素粉末の粉末X線回折パターンを測定した。回折角(2θ)15〜80゜の範囲を0.02゜刻みでステップスキャンし、リートベルト解析により窒化ケイ素粉末のα分率を求めた。
【0058】
(窒化ケイ素粉末の結晶化度の測定方法)
精秤した窒化ケイ素粉末を0.5NのNaOH水溶液に加えて100℃に加熱した。窒化ケイ素の分解により発生したNHガスを1%ホウ酸水溶液に吸収させ、得られた吸収液中のNH量を0.1N硫酸標準溶液で滴定した。吸収液中のNH量と窒化ケイ素粉末の質量から、分解窒素の窒化ケイ素に対する質量割合(窒化ケイ素が分解して生成した窒素の、窒化ケイ素に対する質量割合)を算出した。窒化ケイ素粉末の結晶化度は、分解窒素の窒化ケイ素に対する質量割合と、窒化ケイ素に含まれる窒素の、窒化ケイ素に対する理論質量割合39.94%から、下記の式(3)により算出した。
結晶化度(%)=100−(分解窒素の窒化ケイ素に対する質量割合×100/39.94)・・・・(3)
【0059】
(実施例1)
20℃に保たれた直径40cm、高さ60cmの縦型耐圧反応槽内の空気を窒素ガスで置換した後、反応槽内に40リットルの液体アンモニア及び5リットルのトルエンを仕込んだ。反応槽内で、液体アンモニア及びトルエンをゆっくり攪拌しながら、液体アンモニアを上層に、トルエンを下層に分離した。予め調製した2リットルの四塩化ケイ素と0.1質量%の水分を含む6リットルのトルエンとからなる溶液(反応液)を、導管を通じて、ゆっくり撹拌されている反応槽内の下層に供給した。このとき、反応槽内に供給された四塩化ケイ素と反応槽内の液体アンモニアの体積比は5/100である。前記溶液の供給と共に、上下層の界面近傍に白色の反応生成物が析出した。反応終了後、反応槽内の反応生成物及び残留液を濾過槽へ移送し、反応生成物を濾別して、液体アンモニアで4回バッチ洗浄し、約1kgの比表面積が1400m/gのシリコンジイミドを得た。
【0060】
得られたシリコンジイミドを、直径150mm、長さ2800mm(加熱長1000mm)のロータリーキルン炉の原料ホッパに充填し、ロータリーキルン炉内を13Pa以下に真空脱気した後、酸素を2%含有する窒素ガスを全ガス量流量250NL/時間で供給し、加熱を開始した。ロータリーキルン炉の炉内が最高温度(1000℃)に達したところで原料供給スクリューフィーダーを回転させ、シリコンジイミドを3kg/時間の供給速度で原料ホッパから炉内に供給した。キルンの傾斜角度を2度、回転数を1rpmとし、最高温度での保持時間を10分として、シリコンジイミドを加熱して実施例1に係る非晶質Si−N(−H)系化合物粉末を得た。実施例1に係る非晶質Si−N(−H)系化合物粉末は、表1に示す通り、比表面積が450m/gであり、酸素含有割合が0.73質量%の、組成式Si8.41.2で表される、すなわち前記組成式(1)のSi2x(NH)12−3xにおいて式中のxが3.6である化合物粉末であった。
【0061】
得られたSi−N(−H)系化合物粉末を、内径16cm、長さ2mの炭化ケイ素製の炉心管を有するロータリーキルン炉の原料ホッパに充填した。炉心管の加熱体の長さは1mとした。ロータリーキルン炉の炉心管内を窒素ガスで十分に置換した後、窒素ガス流通雰囲気下で、炉心管内の最高温度が表1に示す焼成温度になるまで昇温し、炉心管内の温度分布が安定した後に、原料供給スクリューフィーダーを回転させ、非晶質Si−N(−H)系化合物粉末を1.0kg/時間の供給速度で原料ホッパから炉心管内に供給した。炉心管の回転数を2rpm、炉心管の水平方向に対する傾斜角度を2°として、非晶質Si−N(−H)系化合物を加熱し、1500℃で焼成して、窒化ケイ素粉末を製造した。昇温速度は、1000〜1400℃の範囲の昇温速度が40℃/minになるように、炉心管の温度分布と供給速度を調整した。上述の(粉末層の最大厚さの測定方法)で説明した方法によって、炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さを測定したところ、表1に示すように1.4cmであった。また、上述の方法によって、得られた窒化ケイ素粉末の物性を測定し、表1に示す結果を得た。得られた実施例1の窒化ケイ素粉末は、α分率が90.3%、結晶化度が100%と、α分率と結晶化度がともに高い窒化ケイ素粉末であった。
【0062】
(実施例2)
Si−N(−H)系化合物粉末を9.4kg/時間の供給速度でロータリーキルン炉の炉心管内に供給して焼成したこと以外は実施例1と同様の方法によって実施例2の窒化ケイ素粉末を製造した。炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さと、得られた窒化ケイ素粉末の物性を、実施例1と同様の方法によって測定し、表1に示す結果を得た。炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さは6.9cmであり、得られた実施例1の窒化ケイ素粉末は、α分率が96.5%、結晶化度が100%と、α分率と結晶化度がともに高い窒化ケイ素粉末であった。
【0063】
(実施例3、4)
炉心管の内径が24cm、長さが2mのロータリーキルン炉を用いてSi−N(−H)系化合物粉末を焼成したことと、Si−N(−H)系化合物粉末を、実施例3では2.6kg/時間、実施例4では18.4kg/時間の供給速度でロータリーキルン炉の炉心管内に供給したこと以外は実施例1と同様の方法によって、実施例3および4の窒化ケイ素粉末を製造した。炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さと、得られた窒化ケイ素粉末の物性を、実施例1と同様の方法によって測定し、表1に示す結果を得た。表1に示すように、実施例3、4の炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さは、それぞれ1.8cm、6.9cmであり、得られた実施例3、4の窒化ケイ素粉末は、α分率がそれぞれ92.6%、96.8%、結晶化度がどちらも100%と、α分率と結晶化度がともに高い窒化ケイ素粉末であった。
【0064】
(実施例5、6)
炉心管の内径が30cm、長さが2mのロータリーキルン炉を用いてSi−N(−H)系化合物粉末を焼成したことと、Si−N(−H)系化合物粉末を、実施例5では5.2kg/時間、実施例6では39.0kg/時間の供給速度でロータリーキルン炉の炉心管内に供給したこと以外は実施例1と同様の方法によって、実施例5および6の窒化ケイ素粉末を製造した。炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さと、得られた窒化ケイ素粉末の物性を、実施例1と同様の方法によって測定し、表1に示す結果を得た。表1に示すように、実施例5、6の炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さは、それぞれ1.7cm、7.7cmであり、得られた実施例5、6の窒化ケイ素粉末は、α分率がそれぞれ93.4%、97.0%、結晶化度がどちらも100%と、α分率と結晶化度がともに高い窒化ケイ素粉末であった。
【0065】
(実施例7)
シリコンジイミドをロータリーキルン炉を用いて加熱する際に、導入するガスを酸素を1%含有する窒素ガスとし、最高温度を800℃とすることで、比表面積が1150m/gで、酸素含有割合が0.45質量%の、組成式Si10.98.7で表される、すなわち前記組成式(1)のSi2x(NH)12−3xにおいて式中のxが1.1である非晶質Si−N(−H)系化合物粉末を得たことと、得られたSi−N(−H)系化合物粉末を1.2kg/時間の供給速度でロータリーキルン炉の炉心管内に供給して焼成したこと以外は実施例1と同様の方法によって、実施例7の窒化ケイ素粉末を製造した。炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さと、得られた窒化ケイ素粉末の物性を、実施例1と同様の方法によって測定し、表1に示す結果を得た。表1に示すように、炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さは1.4cmであり、得られた窒化ケイ素粉末は、α分率が88.5%、結晶化度が100%と、α分率と結晶化度がともに高い窒化ケイ素粉末であった。
【0066】
(実施例8)
Si−N(−H)系化合物粉末を7.7kg/時間の供給速度でロータリーキルン炉の炉心管内に供給して焼成したこと以外は実施例7と同様の方法によって実施例8の窒化ケイ素粉末を製造した。炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さと、得られた窒化ケイ素粉末の物性を、実施例1と同様の方法によって測定し、表1に示す結果を得た。表1に示すように、炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さは6.7cmであり、得られた窒化ケイ素粉末のα分率は94.5%、結晶化度は100%と、α分率と結晶化度がともに高い窒化ケイ素粉末であった。
【0067】
(実施例9、10)
炉心管の内径が24cm、長さが2mのロータリーキルン炉を用いてSi−N(−H)系化合物粉末を焼成したことと、Si−N(−H)系化合物粉末を、実施例9では2.0kg/時間、実施例10では14.7kg/時間の供給速度でロータリーキルン炉の炉心管内に供給して焼成したこと以外は実施例7と同様の方法によって、実施例9および10の窒化ケイ素粉末を製造した。炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さと、得られた窒化ケイ素粉末の物性を、実施例1と同様の方法によって測定し、表1に示す結果を得た。表1に示すように、実施例9、10の炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さは、それぞれ1.6cm、6.7cmであり、得られた実施例9、10の窒化ケイ素粉末は、α分率がそれぞれ91.4%、97.8%、結晶化度がどちらも100%と、α分率と結晶化度がともに高い窒化ケイ素粉末であった。
【0068】
(実施例11、12)
炉心管の内径が30cm、長さが2mのロータリーキルン炉を用いてSi−N(−H)系化合物粉末を焼成したことと、Si−N(−H)系化合物粉末を、実施例11では3.8kg/時間、実施例12では30.2kg/時間の供給速度でロータリーキルン炉の炉心管内に供給したこと以外は実施例7と同様の方法によって、実施例11および12の窒化ケイ素粉末を製造した。炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さと、得られた窒化ケイ素粉末の物性を、実施例1と同様の方法によって測定し、表1に示す結果を得た。表1に示すように、実施例11、12の炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さは、それぞれ1.8cm、7.6cmであり、得られた実施例11、12の窒化ケイ素粉末は、α分率がそれぞれ95.5%、96.6%、結晶化度がどちらも100%と、α分率と結晶化度がともに高い窒化ケイ素粉末であった。
【0069】
(比較例1、2)
Si−N(−H)系化合物粉末を、比較例1では0.3kg/時間、比較例2では12.0kg/時間の供給速度でロータリーキルン炉の炉心管内に供給して焼成したこと以外は実施例1と同様の方法によって比較例1および2の窒化ケイ素粉末を製造した。炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さと、得られた窒化ケイ素粉末の物性を、実施例1と同様の方法によって測定し、表1に示す結果を得た。表1に示すように、比較例1、2の炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さは、それぞれ0.6cm、8.7cmであり、得られた比較例1、2の窒化ケイ素粉末は、α分率がそれぞれ83.7%、97.7%、結晶化度がそれぞれ100%、97.6%と、α分率と結晶化度のいずれかが低い窒化ケイ素粉末であった。
【0070】
(比較例3、4)
炉心管の内径が24cm、長さが2mのロータリーキルン炉を用いてSi−N(−H)系化合物粉末を焼成したことと、Si−N(−H)系化合物粉末を、比較例3では0.7kg/時間、比較例4では24.7kg/時間の供給速度でロータリーキルン炉の炉心管内に供給したこと以外は実施例1と同様の方法によって、比較例3および4の窒化ケイ素粉末を製造した。炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さと、得られた窒化ケイ素粉末の物性を、実施例1と同様の方法によって測定し、表1に示す結果を得た。表1に示すように、比較例3、4の炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さは、それぞれ0.7cm、8.9cmであり、得られた比較例3、4の窒化ケイ素粉末は、α分率がそれぞれ82.7%、97.7%、結晶化度がそれぞれ100%、97.3%と、α分率と結晶化度のいずれかが低い窒化ケイ素粉末であった。
【0071】
(比較例5、6)
炉心管の内径が30cm、長さが2mのロータリーキルン炉を用いてSi−N(−H)系化合物粉末を焼成したことと、Si−N(−H)系化合物粉末を、比較例5では2.4kg/時間、比較例6では50.3kg/時間の供給速度でロータリーキルン炉の炉心管内に供給したこと以外は実施例1と同様の方法によって、比較例5および6の窒化ケイ素粉末を製造した。炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さと、得られた窒化ケイ素粉末の物性を、実施例1と同様の方法によって測定し、表1に示す結果を得た。表1に示すように、比較例5、6の炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さは、それぞれ0.9cm、9.4cmであり、得られた比較例3、4の窒化ケイ素粉末は、α分率がそれぞれ80.6%、98.0%、結晶化度がそれぞれ100%、96.4%と、α分率と結晶化度のいずれかが低い窒化ケイ素粉末であった。
【0072】
(比較例7、8)
Si−N(−H)系化合物粉末を、比較例7では0.4kg/時間、比較例8では10.4kg/時間の供給速度でロータリーキルン炉の炉心管内に供給して焼成したこと以外は実施例7と同様の方法によって比較例7および8の窒化ケイ素粉末を製造した。炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さと、得られた窒化ケイ素粉末の物性を、実施例1と同様の方法によって測定し、表1に示す結果を得た。表1に示すように、比較例7、8の炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さは、それぞれ0.8cm、8.8cmであり、得られた比較例7、8の窒化ケイ素粉末は、α分率がそれぞれ78.7%、96.6%、結晶化度がそれぞれ100%、97.8%と、α分率と結晶化度のいずれかが低い窒化ケイ素粉末であった。
【0073】
(比較例9、10)
炉心管の内径が24cm、長さが2mのロータリーキルン炉を用いてSi−N(−H)系化合物粉末を焼成したことと、Si−N(−H)系化合物粉末を、比較例9では0.8kg/時間、比較例10では23.6kg/時間の供給速度でロータリーキルン炉の炉心管内に供給したこと以外は実施例7と同様の方法によって、比較例9および10の窒化ケイ素粉末を製造した。炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さと、得られた窒化ケイ素粉末の物性を、実施例1と同様の方法によって測定し、表1に示す結果を得た。表1に示すように、比較例9、10の炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さは、それぞれ0.8cm、9.7cmであり、得られた比較例9、10の窒化ケイ素粉末は、α分率がそれぞれ80.8%、97.4%、結晶化度がそれぞれ100%、96.4%と、α分率と結晶化度のいずれかが低い窒化ケイ素粉末であった。
【0074】
(比較例11、12)
炉心管の内径が30cm、長さが2mのロータリーキルン炉を用いてSi−N(−H)系化合物粉末を焼成したことと、Si−N(−H)系化合物粉末を、比較例11では1.3kg/時間、比較例12では41.0kg/時間の供給速度でロータリーキルン炉の炉心管内に供給したこと以外は実施例7と同様の方法によって、比較例11および12の窒化ケイ素粉末を製造した。炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さと、得られた窒化ケイ素粉末の物性を、実施例1と同様の方法によって測定し、表1に示す結果を得た。表1に示すように、比較例11、12の炉心管出口における窒化ケイ素粉末の粉末層の最大厚さは、それぞれ0.7cm、9.8cmであり、得られた比較例11、12の窒化ケイ素粉末は、α分率がそれぞれ79.6%、97.7%、結晶化度がそれぞれ100%、95.8%と、α分率と結晶化度のいずれかが低い窒化ケイ素粉末であった。
【0075】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明により、ロータリーキルン炉の炉心管の内径に関わらず、焼結特性に優れた窒化ケイ素粉末を常に製造することが可能になるので、ロータリーキルン炉の設備規模を大きくしても、焼結特性に優れた窒化ケイ素粉末を提供することが可能になる。また、焼結特性に優れた窒化ケイ素粉末を提供することを維持しながら、生産量を調整することが容易になる。
図1
図2
図3