特許第6179289号(P6179289)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6179289
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/18 20060101AFI20170807BHJP
   H01B 7/29 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   H01B7/18 H
   H01B7/29
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-187616(P2013-187616)
(22)【出願日】2013年9月10日
(65)【公開番号】特開2015-56236(P2015-56236A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2016年7月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小堀 孝哉
(72)【発明者】
【氏名】越智 祐司
(72)【発明者】
【氏名】橋本 智
【審査官】 神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−238438(JP,A)
【文献】 特開2010−075948(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/18
H01B 7/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに撚り合わせた一対の絶縁電線と、
前記一対の絶縁電線の周囲を覆う非架橋ポリウレタンからなる内部被覆層と、
前記内部被覆層の周囲を覆う非架橋ポリウレタンからなる外部被覆層と、を備え、
前記絶縁電線、前記内部被覆層および前記外部被覆層が密着して重ねられた充実構造となっており、
前記内部被覆層の硬度がショアA硬度で90度以上100度以下であり、
前記外部被覆層の硬度がショアA硬度で80度以上90度以下であるとともに前記内部被覆層の硬度よりも5度〜10度小さい、ケーブル。
【請求項2】
前記一対の絶縁電線は、それぞれ、導体と、前記導体を覆う絶縁体とを備え、
前記絶縁体は、架橋ポリエチレンから構成されている、請求項1に記載のケーブル。
【請求項3】
前記導体の断面積は、0.25mm以上0.5mm以下である、請求項2に記載のケーブル。
【請求項4】
前記外部被覆層の厚さは、0.3mm以上である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに撚り合わせた一対の絶縁電線を有するケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
非ハロゲン系難燃ケーブルとして、絶縁電線を複数撚り合わせた多芯撚り線の外側に被覆層を設け、当該被覆層の内層をエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)またはエチレン系αオレフィン共重合体から構成し、外層を熱可塑性ポリウレタン等から構成するとともに、架橋処理されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−028123公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなケーブルにおいて、ケーブルを曲げた場合に曲がったままの状態となるいわゆる線癖を低減することが要求されている。
【0005】
本発明は、線癖の付きにくいケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のケーブルは、
互いに撚り合わせた一対の絶縁電線と、
前記一対の絶縁電線の周囲を覆う非架橋ポリウレタンからなる内部被覆層と、
前記内部被覆層の周囲を覆う非架橋ポリウレタンからなる外部被覆層と、を備え、
前記内部被覆層の硬度がショアA硬度で90度以上100度以下であり、
前記外部被覆層の硬度がショアA硬度で80度以上90度以下であるとともに前記内部被覆層の硬度よりも5度〜10度小さい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、線癖の付きにくいケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係るケーブルの一例を示す断面図である。
図2図1のケーブルの曲げ評価方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施形態の内容を列記して説明する。
本願発明の実施形態に係るケーブルは、
(1)互いに撚り合わせた一対の絶縁電線と、
前記一対の絶縁電線の周囲を覆う非架橋ポリウレタンからなる内部被覆層と、
前記内部被覆層の周囲を覆う非架橋ポリウレタンからなる外部被覆層と、を備え、
前記内部被覆層の硬度がショアA硬度で90度以上100度以下であり、
前記外部被覆層の硬度がショアA硬度で80度以上90度以下であるとともに前記内部被覆層の硬度よりも5度〜10度小さい。
内部被覆層および外部被覆層が非架橋ポリウレタンから構成されるために架橋のための加工費が不要で、低コスト化を実現することができる。また、内部被覆層および外部被覆層のショアA硬度が上記範囲であると、ケーブルを曲げたときの線癖がつきにくく、加工性や取扱性に優れている。
【0010】
(2)前記一対の絶縁電線は、それぞれ、導体と、前記導体を覆う絶縁体とを備え、
前記絶縁体は、架橋ポリエチレンから構成されていることが好ましい。
絶縁電線の絶縁体が架橋処理されているため、絶縁電線の耐熱性は維持することができる。
【0011】
線癖がつきにくく加工性に優れたケーブルを実現するために、以下の範囲を満たしていることが好ましい。
(3)前記導体の断面積は、0.25mm以上0.5mm以下である。
(4)前記外部被覆層の厚さは、0.3mm以上である。
【0012】
[本願発明の実施形態の詳細]
以下、本発明に係るケーブルの例を、図面を参照して説明する。
【0013】
図1に示すように、本実施形態に係るケーブル10は、絶縁電線11が二本一組で収容されている。絶縁電線11同士は互いに撚り合わされた、いわゆる対撚り方式にて構成されている。
【0014】
絶縁電線11は、何れも導体12が絶縁体13によって覆われた電線である。
絶縁電線11の導体12は、例えば、外径0.08mmの銅合金線を16本撚り合わせた撚線をさらに3本撚り合わせた撚撚線から形成されている。導体12の外径は、例えば0.82mmである。このときの導体12の断面積は、0.25mmである。
また、このときの絶縁体13の材料としては、難燃ポリエチレンを用いることが好ましく、絶縁体13の外径は、例えば、1.4mmである。このように構成された絶縁電線11には電子線が照射され架橋処理される。なお、絶縁体13は、難燃ポリオレフィン系の樹脂から形成されてもよい。
【0015】
対撚りされた一対の絶縁電線11の周囲は内部被覆層21によって覆われている。内部被覆層21は、架橋処理されない非架橋ポリウレタンから構成されている。この内部被覆層21は、ケーブル10の横断面における真円度を向上させる機能を有している。
【0016】
内部被覆層21の周囲は、外部被覆層22によって覆われている。外部被覆層22は、架橋処理されない非架橋ポリウレタンから構成されている。これにより、外部被覆層22は、各種の機器等を構成するモールド材のPBTやナイロンとの優れた熱融着性を得ることができる。
【0017】
内部被覆層21および外部被覆層22を構成する非架橋ポリウレタンとしては、MDIやTDIなどのジイソシアナートおよびエチレングリコールなどのジオールより構成されるポリウレタン部をハードセグメントとし、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネートなどの非晶性ポリマーをソフトセグメントとするブロック共重合体を例示することができる。これらの中でもポリエーテル系の非架橋ポリウレタンが柔軟性、耐加水分解性、低温曲げ特性などの点から好適に使用できる。
【0018】
内部被覆層21の外径は、例えば、3.4mmであり、外部被覆層22の外径は、例えば4.0mmである。
【0019】
例えば、ケーブル10として、それぞれの絶縁電線11の導体12の断面積が0.3mmであり、絶縁体13の外径が1.7mmであるものを用いることもできる。このとき、内部被覆層21の外径は4.4mmとなり、外部被覆層の外径は5.0mmとなる。また、ケーブル10として、それぞれの絶縁電線11の導体12の断面積が0.5mmであり、絶縁体13の外径が2.0mであるものを用いることもできる。このとき、内部被覆層21の外径は4.6mmとなり、外部被覆層の外径は6.2mmとなる。
【0020】
なお、絶縁体13、内部被覆層21および外部被覆層22の厚さ寸法は、導体12の断面積(外径)が決まれば、電気的特性及び機械的特性から決定される。例えば、ケーブル10の導体12の断面積が0.25mm〜0.5mmとなる範囲内において、外部被覆層22の厚さは、線癖が付きにくいようにするために、例えば0.3mm以上であることが好ましい。
【0021】
内部被覆層21の硬度(ショアA硬度)は90度以上100度以下であり、特に95度であることが好ましい。また、外部被覆層22の硬度(ショアA硬度)は、80度以上90度以下であり、特に85度であることが好ましい。すなわち、外部被覆層22のショアA硬度は、内部被覆層21のショアA硬度よりも5度〜10度小さくなるように設定されている。
【0022】
このように構成された本実施形態のケーブル10を製造するには、まず、一対の絶縁電線11を対撚りする。そして、対撚りされた一対の絶縁電線11の周囲に内部被覆層21を形成し、さらにその外周に外部被覆層22を形成する。
【0023】
以上説明したように、本実施形態のケーブル10によれば、内部被覆層21および外部被覆層22が非架橋ポリウレタンから構成されるため、架橋処理のための加工費が不要となり、低コスト化を実現することができる。また、内部被覆層21の硬度をショアA硬度で90度以上100度以下とし、外部被覆層22の硬度をショアA硬度で80度以上90度以下とするとともに内部被覆層21の硬度よりも5度〜10度小さい値とすることで、ケーブル10を曲げたときの線癖を低減させ、加工性や取扱性に優れたものとすることができる。
【0024】
また、本実施形態のケーブル10によれば、絶縁電線11の絶縁体13は、架橋ポリエチレンから構成されているため、内部被覆層21および外部被覆層22が架橋処理されていなくても、絶縁電線11の耐熱性を十分に維持することができる。
【0025】
また、本実施形態のケーブル10によれば、絶縁電線11の導体12の断面積は、0.25mm〜0.5mmであり、外部被覆層22の厚さは、0.3mm以上であるため、線癖低減効果を十分に得ることができる。
【実施例】
【0026】
(実施例)
内部被覆層および外部被覆層が非架橋難燃ポリウレタンからなる本実施形態のケーブルを用いて、線癖評価試験を行った。内部被覆層の硬度は90度〜100度とし、外部被覆層の硬度は80度〜90度とした。
まず、150mmの長さに切断されたケーブルを曲げ半径10mmとなるようにU字状に曲げた状態でケーブル両端をテープなどにより固定し、24時間保持した。その後、ケーブルを解放し、一端を固定した状態でケーブルを吊るし、24時間経過後の変位量D(mm)を測定した(図2参照)。この変移量Dが50mm以下である場合を線癖評価試験合格とした。
【0027】
(比較例)
比較例として、内部被覆層および外部被覆層が非架橋難燃ポリウレタンからなり、内部被覆層の硬度が85度で外部被覆層の硬度が95度または80度であるケーブルを用いて、実施例と同様に線癖評価試験を行った。
【0028】
上記の線癖評価試験の結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
表1に示すように、架橋処理が不要な非架橋ポリウレタンにより内部被覆層および外部被覆層が構成された実施例1〜5では、線癖は許容できる値であった。一方、内部被覆層の硬度が85度で外部被覆層の硬度が95度または80度である比較例1,2においては、実施例に比べて変位量Dが大きくなり、線癖の低減を図ることはできなかった。
以上より、非架橋ポリウレタンからなる内部被覆層および外部被覆層を備え、内部被覆層の硬度が90度〜100度であり、外部被覆層の硬度が80度〜90度であり、外部被覆層の硬度が内部被覆層の硬度よりも5度〜10度小さい実施例では、十分な線癖低減効果を得ることが確認できた。
【0031】
以上、本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。また、上記説明した構成部材の数、位置、形状等は上記実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好適な数、位置、形状等に変更することができる。
【0032】
上記実施形態のケーブル10における絶縁電線11の本数や配置は、本実施形態に限定されない。ケーブル内に二対以上の絶縁電線が含まれる構成としてもよい。
【符号の説明】
【0033】
10:ケーブル
11:絶縁電線
12:導体
13:絶縁体
21:内部被覆層
22:外部被覆層
R:曲げ半径
D:変位量
図1
図2