特許第6179347号(P6179347)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6179347
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】車両のステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/19 20060101AFI20170807BHJP
   F16F 7/08 20060101ALI20170807BHJP
   F16F 1/18 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   B62D1/19
   F16F7/08
   F16F1/18 Z
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-221824(P2013-221824)
(22)【出願日】2013年10月25日
(65)【公開番号】特開2015-83396(P2015-83396A)
(43)【公開日】2015年4月30日
【審査請求日】2016年9月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084124
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 一眞
(72)【発明者】
【氏名】加藤 健
【審査官】 粟倉 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−036828(JP,A)
【文献】 特開2010−221925(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0041643(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/00−28
F16F 1/18
F16F 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のステアリングシャフトを収容し軸方向相対移動を阻止すると共に軸を中心に回転可能に支持するインナチューブと、該インナチューブを収容し常時は当該インナチューブを所定位置に保持するアウタチューブと、前記ステアリングシャフトに対し所定値以上の荷重が印加されたときには前記アウタチューブに対する前記インナチューブの軸方向相対移動を許容するように構成された車両のステアリング装置において、前記インナチューブは、車両前方開口端から車両後方に向かって第1の軸方向距離範囲に形成された中径部と、該中径部から車両後方に向かって第2の軸方向距離範囲に形成された小径部と、該小径部から車両後方に向かって第3の軸方向距離範囲に形成された大径部と、前記中径部と前記小径部との間の外周面に形成された環状溝を有し、前記アウタチューブは、車両後方開口端近傍の内面が軸中心方向に延出形成された保持部を有すると共に、車両後方開口端から車両前方に向かって軸方向に所定距離離隔した位置の内面に形成された環状凹部を有して成り、該環状凹部内に収容される環状ばね部材を備え、該環状ばね部材が前記インナチューブの前記中径部の外周面と前記アウタチューブの前記環状凹部の底面との間に圧入され、且つ前記アウタチューブの保持部の内周面に前記インナチューブの大径部の外周面が圧接された状態で、前記ステアリングシャフトが保持され、前記インナチューブが軸方向に移動するときには前記小径部の外周面が前記環状ばね部材に対し摺動するように構成されていることを特徴とする車両のステアリング装置。
【請求項2】
前記インナチューブは、前記中径部と前記小径部の外表面が焼入れ加工されていることを特徴とする請求項1記載の車両のステアリング装置。
【請求項3】
前記環状ばね部材は、全周に亘って均等に形成された複数のハット状断面の突出部を有し、該突出部のハット状断面の頂部を構成する側が内周面となり当該ハット状断面の鍔部を構成する側が外周面となるように形成され、該外周面が前記環状凹部の底面に当接するように配設されることを特徴とする請求項1又は2記載の車両のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のステアリング装置に関し、特に、車両のステアリングシャフトに印加されるエネルギーを吸収するステアリング装置に係る。
【背景技術】
【0002】
車両のステアリングホイールに対する衝撃を緩和するため、ステアリングホイールからステアリングシャフトに伝達される軸方向荷重が過大であるときには過剰なエネルギーを吸収するステアリング装置が知られており、例えば、下記の特許文献1には、「安価な構成で必要な剛性を確保しつつ、第1筒状部材と第2筒状部材との間の移動開始荷重を容易且つ適切に設定し得るエネルギー吸収ステアリングコラム」を提供することを目的とし(特許文献1の段落〔0006〕に記載)、「車両のステアリングシャフトを収容し軸を中心に回転可能に支持する第1筒状部材と、該第1筒状部材を収容し常時は当該第1筒状部材を所定位置に保持する第2筒状部材と、前記ステアリングシャフトに対し所定値以上の荷重が印加されたときには前記第2筒状部材に対する前記第1筒状部材の軸方向相対移動を許容するように構成されたエネルギー吸収ステアリングコラムにおいて、前記第2筒状部材が、車両後方開口端から軸方向に所定距離離隔した位置の内面に形成された第1の保持部を有すると共に、前記第1筒状部材が、車両前方開口端近傍が拡径された第1の拡径部を有し、且つ、前記第2筒状部材が、車両後方開口端近傍の内面に形成された第2の保持部を有すると共に、前記第1筒状部材が、車両前方開口端から軸方向に所定距離離隔した部分が拡径された第2の拡径部を有し、前記第1の拡径部と前記第1の保持部との間に介装し径方向に弾性力を付与する弾性ブッシュを備え、前記第2筒状部材に対する前記第1筒状部材の軸方向相対移動を阻止した状態で前記ステアリングシャフトを保持する」構成が提案されている(同段落〔0007〕に記載)。更に、第1筒状部材について「前記平面部に固定する長尺の板状部材を有し、前記第2筒状部材は、前記板状部材を案内するガイド部を有し、前記縮径部の外周面と前記第2筒状部材の内周面との間に前記板状部材を収容すると共に、前記板状部材を屈曲して前記板状部材の自由端部を前記ガイド部に挿通し自由状態で保持する」旨記載されている(同段落〔0009〕に記載)。
【0003】
また、下記の特許文献2には、「前記ステアリングコラムは、前記ステアリングシャフトを支持する第1の筒体と、前記第1の筒体と軸方向の一部が重なるように設けられた第2の筒体と、前記第1の筒体と前記第2の筒体との間に配置され、前記ステアリングシャフトを軸方向に収縮する力が閾値以上入力された場合に前記第1の筒体が前記第2の筒体に対して移動するように、前記第1の筒体と前記第2の筒体とを締結する締結手段と、前記第1の筒体または前記第2の筒体のいずれかに設けられ、前記ステアリングシャフトが軸方向に伸長した場合に前記第1の筒体が前記第2の筒体から抜けないように締結手段と係止するフランジ部と」を有する構成が開示され(特許文献2の段落〔0007〕に記載)、「ステアリングシャフトを軸方向に収縮する力が閾値以上ステアリングホイールやステアリングギヤボックスから入力されると、それまで締結手段により締結されていた第1の筒体と第2の筒体の一方が他方に対して移動することでステアリングコラムが収縮する。その際、締結手段に対する第1の筒体または第2の筒体の摺動抵抗により衝撃を吸収することができる」旨記載されている(同段落〔0008〕に記載)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−36828号公報
【特許文献2】特許第4940798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示された装置によれば、「第1筒状部材と第2筒状部材との軸方向相対移動における移動開始荷重を容易且つ適切に設定することができる」旨記載され(特許文献1の段落〔0012〕に記載)、更に、板状部材とガイド部によって所謂扱き荷重が付与され、これによって移動中荷重も設定されるように構成されている(特許文献1の段落〔0013〕及び〔0030〕に記載)。従って、前述の弾性ブッシュは移動開始荷重の設定に供されるのみであり、移動中荷重の設定には用いられず、移動中荷重付与時には弾性ブッシュは第1筒状部材の軸方向移動に対し無関係な状態となる。一方、特許文献2に開示された装置によれば、上記のように「締結手段に対する第1の筒体または第2の筒体の摺動抵抗により衝撃を吸収することができる」旨記載されており、締結手段としてリングが用いられているが、移動開始荷重と移動中荷重に関する記載はなく、何れの荷重付与に関してもリングの機能が定かではない。
【0006】
そこで、本発明は、車両のステアリングシャフトに印加されるエネルギーを吸収するステアリング装置において、簡単な構成でステアリングシャフトの移動開始荷重と移動中荷重を適切に付与し得るステアリング装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を達成するため、本発明は、車両のステアリングシャフトを収容し軸方向相対移動を阻止すると共に軸を中心に回転可能に支持するインナチューブと、該インナチューブを収容し常時は当該インナチューブを所定位置に保持するアウタチューブと、前記ステアリングシャフトに対し所定値以上の荷重が印加されたときには前記アウタチューブに対する前記インナチューブの軸方向相対移動を許容するように構成された車両のステアリング装置において、前記インナチューブは、車両前方開口端から車両後方に向かって第1の軸方向距離範囲に形成された中径部と、該中径部から車両後方に向かって第2の軸方向距離範囲に形成された小径部と、該小径部から車両後方に向かって第3の軸方向距離範囲に形成された大径部と、前記中径部と前記小径部との間の外周面に形成された環状溝を有し、前記アウタチューブは、車両後方開口端近傍の内面が軸中心方向に延出形成された保持部を有すると共に、車両後方開口端から車両前方に向かって軸方向に所定距離離隔した位置の内面に形成された環状凹部を有して成り、該環状凹部内に収容される環状ばね部材を備え、該環状ばね部材が前記インナチューブの前記中径部の外周面と前記アウタチューブの前記環状凹部の底面との間に圧入され、且つ前記アウタチューブの保持部の内周面に前記インナチューブの大径部の外周面が圧接された状態で、前記ステアリングシャフトが保持され、前記インナチューブが軸方向に移動するときには前記小径部の外周面が前記環状ばね部材に対し摺動するように構成されたものである。
【0008】
上記のステアリング装置において前記中径部と前記小径部の外表面は焼入れ加工されたものとするとよい。
【0009】
前記環状ばね部材は、全周に亘って均等に形成された複数のハット状断面の突出部を有し、該突出部のハット状断面の頂部を構成する側が内周面となり当該ハット状断面の鍔部を構成する側が外周面となるように形成され、該外周面が前記環状凹部の底面に当接するように配設される構成とするとよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明は上述のように構成されているので以下の効果を奏する。即ち、本発明のステアリング装置においては、インナチューブは、車両前方開口端から車両後方に向かって第1の軸方向距離範囲に形成された中径部と、該中径部から車両後方に向かって第2の軸方向距離範囲に形成された小径部と、該小径部から車両後方に向かって第3の軸方向距離範囲に形成された大径部を有し、アウタチューブは、車両後方開口端近傍の内面が軸中心方向に延出形成された保持部を有すると共に、車両後方開口端から車両前方に向かって軸方向に所定距離離隔した位置の内面に形成された環状凹部を有して成り、該環状凹部内に収容される環状ばね部材を備え、該環状ばね部材がインナチューブの中径部の外周面とアウタチューブの環状凹部の底面との間に圧入され、且つアウタチューブの保持部の内周面にインナチューブの大径部の外周面が圧接された状態で、ステアリングシャフトが保持され、インナチューブが軸方向に移動するときには小径部の外周面が環状ばね部材に対し摺動するように構成されているので、簡単な構成でステアリングシャフトの移動開始荷重と移動中荷重を適切に付与することができる。即ち、インナチューブの大径部及びアウタチューブの保持部並びにインナチューブの中径部及び環状ばね部材によって移動開始荷重を付与することができる共に、インナチューブの小径部及び環状ばね部材によって移動中荷重を付加することができ、移動開始荷重と移動中荷重とを夫々個別に、容易且つ適切に設定することができる。しかも、インナチューブの中径部と小径部との間の外周面に環状溝を有するので、移動開始荷重から移動中荷重に至る遷移領域で、略荷重零となる特性に設定することができる。
【0011】
上記のステアリング装置においてインナチューブの中径部と小径部の外表面が焼入れ加工されたものとすれば、インナチューブの軸方向移動に伴う荷重特性を安定したものとすることができる。
【0012】
また、上記のステアリング装置において、環状ばね部材を、全周に亘って均等に形成された複数のハット状断面の突出部を有するものとし、該突出部のハット状断面の頂部を構成する側が内周面となり当該ハット状断面の鍔部を構成する側が外周面となるように形成し、該外周面が環状凹部の底面に当接するように配設すれば、各突出部の総数及び高さ等を調整することによって、安定した適切な荷重に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係るステアリング装置の一部を示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態におけるインナチューブとアウタチューブの連結部を拡大して示す断面図である。
図3】本発明の一実施形態に供される環状ばね部材を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の望ましい実施形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施形態に係るステアリング装置の構成を示すもので、ステアリングシャフト1は、後端部にステアリングホイールSWが接続される筒状のアッパシャフト1aと、このアッパシャフト1aの内筒面とスプライン結合されるロアシャフト1bから成る。即ち、アッパシャフト1aとロアシャフト1bが軸方向に相対移動可能で相対回転不能に連結されており、ロアシャフト1bの前端部が操舵機構(図示せず)に接続されている。
【0015】
コラムハウジング2内には、ステアリングシャフト1を収容し軸方向相対移動を阻止すると共に軸を中心に回転可能に支持する金属製のインナチューブ10が設けられている。即ち、インナチューブ10内に収容されたアッパシャフト1aが、インナチューブ10の後端部に軸受3を介して回転可能に支持されている。但し、アッパシャフト1aとインナチューブ10との間の軸方向相対移動は軸受3によって阻止されており、アッパシャフト1aとインナチューブ10は一体となって軸方向移動し得るように構成されている。更に、インナチューブ10を収容し常時はインナチューブ10を所定位置に保持する金属製のアウタチューブ20が設けられている。そして、ステアリングシャフト1に対し所定値以上の軸方向荷重が印加されたときには、アウタチューブ20に対するインナチューブ10の軸方向相対移動(ひいてはアッパシャフト1aの軸方向移動)を許容するように構成されている。即ち、本実施形態のインナチューブ10及びアウタチューブ20は、図2に拡大して示すように構成されており、金属製の環状ばね部材30等と共に、エネルギー吸収手段として機能する。
【0016】
尚、アウタチューブ20は軸受3a,3bを介してコラムハウジング2に支持されており、皿ばねを用いたフリクション機構4a,4bによってアウタチューブ20がコラムハウジング2の内面に押圧されて保持されている。従って、ステアリングホイールSWにガタが生ずることなくスラスト方向の摺動性を確保することができるが、コラムハウジング2とアウタチューブ20との間はエネルギー吸収手段として機能するものではない。
【0017】
本実施形態のインナチューブ10は、図2に示すように、車両前方開口端から車両後方に向かって第1の軸方向距離範囲(L1)に形成された中径部11と、この中径部11から車両後方に向かって第2の軸方向距離範囲(L2)に形成された小径部12と、この小径部12から車両後方に向かって第3の軸方向距離範囲(L3)に形成された大径部13を有する。即ち、大径部13の外径をD3とし、中径部11の外径をD1とし、小径部12の外径をD2とすると、D3>D1>D2の関係にある。本実施形態では、更に、中径部11と小径部12との間の外周面には環状溝14が形成されている。尚、大径部13に対し車両後方側のインナチューブ10の外径はD1とされ、D2からD3は漸増し、D3からD1は漸減するように形成されている。
【0018】
大径部13は、インナチューブ10の径方向外側に膨出するように形成されており、中径部11及び小径部12の外表面は焼入れ加工による表面処理が施されている。尚、本実施形態の小径部12の外径D2は第2の軸方向距離範囲(L2)に亘って一定となるように設定されているが、D1>D2の条件を満たせば、車両後方に向かって外径が漸増、漸減あるいは増減を繰り返すように設定してもよい。また、環状溝14を設けることなく、中径部11の外径D1から小径部12の外径D2へ緩やかに漸減する構成としてもよい。
【0019】
一方、本実施形態のアウタチューブ20は、車両後方開口端近傍の内面が軸中心方向に延出形成された保持部21を有すると共に、車両後方開口端から車両前方に向かって軸方向に所定距離離隔した位置の内面に形成された環状凹部22を有する。尚、図2の保持部21は、アウタチューブ20の内周面から軸心方向に一体的に延出形成された環状凸部で構成されている。そして、インナチューブ10の中径部11の外周面とアウタチューブ20の環状凹部22の底面との間に環状ばね部材30が圧入され、且つ、アウタチューブ20の保持部21の内周面にインナチューブ10の大径部13の外周面が圧接された状態で、ステアリングシャフト1が保持されている。
【0020】
本実施形態の環状ばね部材30は例えばステンレススチールによってC字状に形成され、図2及び図3に示すように、全周に亘って均等に形成された複数のハット状断面の突出部(代表して31で表す)を有し、各突出部31のハット状断面の頂部を構成する側が内周面となり、ハット状断面の鍔部(代表して32で表す)を構成する側が外周面となるように形成され、この外周面が環状凹部22の底面に当接するように配置されている。
【0021】
而して、上記の環状ばね部材30がアウタチューブ20の環状凹部22に嵌合された状態でインナチューブ10がアウタチューブ20内に挿入されると、各突出部31が圧縮変形し、図1及び図2に示すように中径部11の外周面と環状凹部22の底面との間に環状ばね部材30が圧入された状態となる。この結果、ばね部材30の弾性復元力がインナチューブ10とアウタチューブ20との間を拡開する径方向に付与され、環状ばね部材30とインナチューブ10との間に生ずる摩擦力によって、インナチューブ10とアウタチューブ20の軸方向相対移動が阻止された状態でステアリングシャフト1が保持される。また、アウタチューブ20の保持部21の内周面にインナチューブ10の大径部13の外周面が圧接されて保持されているので、通常時は、ステアリングホイールSWにガタが生ずることなく、アウタチューブ20に対しインナチューブ10が適切に保持されている。
【0022】
上記の構成になるステアリング装置の作用を説明すると、常時は図1に示す状態にあって、インナチューブ10の大径部13がアウタチューブ20の保持部21に圧入されると共に、環状ばね部材30の弾性力によってインナチューブ10の中径部11とアウタチューブ20の環状凹部22が押圧された状態で保持され、図1に示す位置で、インナチューブ10とアウタチューブ20の軸方向相対移動が阻止された状態で保持されている。
【0023】
次に、ステアリングシャフト1に所定値以上の軸方向荷重が印加されると、ステアリングシャフト1がインナチューブ10と共に前進(図1の左方向に移動)し、インナチューブ10のアウタチューブ20に対する相対移動を開始する。そして、所定のストロークを超えると、インナチューブ10の中径部11が環状ばね部材30による押圧状態から離脱すると共に、インナチューブ10の大径部13がアウタチューブ20の保持部21から離脱する。即ち、インナチューブ10の大径部13とアウタチューブ20の保持部21との間の摩擦力、並びに中径部11と環状ばね部材30との間の摩擦力に抗して、インナチューブ10とアウタチューブ20とが軸方向に相対移動し、所定のストロークを超えて環状溝14が環状ばね部材30と対向する位置に至るとフリー状態となる。このときの最大荷重がステアリングシャフト1の移動開始荷重であり、従って、インナチューブ10の大径部13及びアウタチューブ20の保持部21並びにインナチューブ10の中径部11及び環状ばね部材30によって、移動開始荷重が付与される。尚、この移動開始荷重は、中径部11及び大径部13の外径、保持部21及び環状凹部22の内径、並びに環状ばね部材30の板厚、各突出部31の総数及び高さ等を調整することによって、安定した適切な荷重に設定することができる。
【0024】
ステアリングシャフト1に対し更に大きな軸方向荷重が印加され、インナチューブ10が軸方向に移動し、インナチューブ10の環状溝14が環状ばね部材30の各突出部31に対向する位置に至ると、両者間の圧入荷重が一挙に消失し、略荷重零となる。この後、インナチューブ10は、小径部12の外周面が環状ばね部材30の各突出部31の頂面に対し摺動しながら前方に移動する。即ち、インナチューブ10は環状ばね部材30による摺動抵抗が付与されつつ前進し、その摺動抵抗によって移動中荷重が付与される。この結果、ステアリングシャフト1がストロークしているときにも、適切にエネルギーが吸収され、所望のエネルギー吸収特性を確保することができる。尚、上記の移動中荷重は、小径部12の外径、その外表面に対する焼入れ加工による表面処理、並びに環状ばね部材30の板厚、各突出部31の総数及び高さを調整することによって調整することができる。また、移動中荷重の付加開始ストロークは、環状溝14の幅を調整することによって設定することができる。
【0025】
以上のように、本実施形態においては、インナチューブ10の大径部13及びアウタチューブ20の保持部21並びにインナチューブ10の中径部11及び環状ばね部材30によって移動開始荷重が付与されると共に、インナチューブ10の小径部12及び環状ばね部材30によって移動中荷重が付与されるように構成されており、インナチューブ10とアウタチューブ20との軸方向相対移動における移動開始荷重と移動中荷重とを夫々個別に、容易且つ適切に設定することができる。また、本実施形態においては、インナチューブ10に環状溝14が形成されているので、移動開始荷重から移動中荷重に至る遷移領域で、略荷重零となる特性に設定することができる。更に、インナチューブ10の中径部11と小径部12の外表面が焼入れ加工されているので、インナチューブ10の軸方向移動に伴う荷重特性を安定した特性とすることができる。
【符号の説明】
【0026】
1 ステアリングシャフト
2 コラムハウジング
10 インナチューブ
11 中径部
12 小径部
13 大径部
14 環状溝
20 アウタチューブ
21 保持部
22 環状凹部
30 環状ばね部材
図1
図2
図3