特許第6179352号(P6179352)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6179352変速機のギア段の推定方法及び変速機のギア段の推定システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6179352
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】変速機のギア段の推定方法及び変速機のギア段の推定システム
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/12 20100101AFI20170807BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   F16H61/12
   F16H61/02
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-226319(P2013-226319)
(22)【出願日】2013年10月31日
(65)【公開番号】特開2015-86954(P2015-86954A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】廣澤 友章
【審査官】 中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−171353(JP,A)
【文献】 特開昭60−008753(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/12
F16H 61/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪を駆動する車軸と動力発生装置との間に配置された変速機のギア段を推定する変速機のギア段の推定方法であって、
ギア段の推定を行う時点における、前記変速機の実入力側回転数と、ニュートラルスイッチの位置と、後退スイッチの位置と、アクセルペダルセンサで検出されるアクセル開度と、車速センサで検出される車速とから、ギア段を推定することができる運転状態にあるか否かを判定し、
ギア段の推定が可能な運転状態にあると判定した場合には、
前記車輪に設けられたタイヤのタイヤ周長と、前記車速とから前記変速機の実出力側回転数を算出すると共に、
各ギア段において、ギア段のギア比と、ファイナルギア比とから、前記実出力側回転数に対する入力側回転数の計算値である入力側回転数計算値を算出し、前記実入力側回転数から前記入力側回転数計算値を引き算して入力側回転数差を算出し、該入力側回転数差を前記実入力側回転数で割り算して、入力側回転数差率を算出し、
算出された各ギア段における前記入力側回転数差率のうち、その絶対値が最小となるギア段を選定して、このギア段をギア段の推定を行っている時点でのギア段であると推定することを特徴とする変速機のギア段の推定方法。
【請求項2】
車両の車輪を駆動する車軸と動力発生装置との間に配置された変速機のギア段を推定する変速機のギア段の推定方法であって、
ギア段の推定を行う時点における、前記変速機の実入力側回転数と、ニュートラルスイッチの位置と、後退スイッチの位置と、アクセルペダルセンサで検出されるアクセル開度と、車速センサで検出される車速とから、ギア段を推定することができる運転状態にあるか否かを判定し、
ギア段の推定が可能な運転状態にあると判定した場合には、
前記車輪に設けられたタイヤのタイヤ周長と、前記車速とから前記変速機の実出力側回転数を算出すると共に、
各ギア段において、ギア段のギア比と、ファイナルギア比とから、前記実入力側回転数に対する出力側回転数の計算値である出力側回転数計算値を算出し、前記実出力側回転数から前記出力側回転数計算値を引き算して出力側回転数差を算出し、該出力側回転数差を前記実出力側回転数で割り算して、出力側回転数差率を算出し、
算出された各ギア段における前記出力側回転数差率のうち、その絶対値が最小となるギア段を選定して、このギア段をギア段の推定を行っている時点でのギア段であると推定することを特徴とする変速機のギア段の推定方法。
【請求項3】
車両の車輪を駆動する車軸と動力発生装置との間に配置された変速機のギア段を推定する変速機のギア段の推定方法であって、
ギア段の推定を行う時点における、前記変速機の実入力側回転数と、ニュートラルスイッチの位置と、後退スイッチの位置と、アクセルペダルセンサで検出されるアクセル開度と、車速センサで検出される車速とから、ギア段を推定することができる運転状態にあるか否かを判定し、
ギア段の推定が可能な運転状態にあると判定した場合には、
各ギア段において、ギア段のギア比と、ファイナルギア比とから、前記実入力側回転数に対する出力側回転数の計算値である出力側回転数計算値を算出し、該出力側回転数計算値と前記車輪に設けられたタイヤのタイヤ周長とから車速計算値を算出すると共に、前記車速から前記車速計算値を引き算して車速差を算出し、該車速差を前記車速で割り算して、車速差率を算出し、算出された各ギア段における前記車速差率のうち、その絶対値が最小となるギア段を選定して、このギア段をギア段の推定を行っている時点でのギア段であると推定することを特徴とする変速機のギア段の推定方法。
【請求項4】
車両の車輪を駆動する車軸と動力発生装置との間に配置された変速機のギア段を推定するための推定装置を有する変速機のギア段の推定システムであって、
前記推定装置が、
ギア段の推定を行う時点における、前記変速機の実入力側回転数と、ニュートラルスイッチの位置と、後退スイッチの位置と、アクセルペダルセンサで検出されるアクセル開度と、車速センサで検出される車速とを入力し、
前記実入力側回転数と、前記ニュートラルスイッチの位置と、前記後退スイッチの位置と、前記アクセル開度と、前記車速とから、ギア段を推定することができる運転状態にあるか否かを判定し、
ギア段の推定が可能な運転状態にあると判定した場合には、
前記車輪に設けられたタイヤのタイヤ周長と、前記車速とから前記変速機の実出力側回転数を算出すると共に、
各ギア段において、ギア段のギア比と、ファイナルギア比とから、前記実出力側回転数に対する入力側回転数の計算値である入力側回転数計算値を算出し、前記実入力側回転数から前記入力側回転数計算値を引き算して入力側回転数差を算出し、該入力側回転数差を前記実入力側回転数で割り算して、入力側回転数差率を算出し、
算出された各ギア段における前記入力側回転数差率のうち、その絶対値が最小となるギア段を選定して、このギア段をギア段の推定を行っている時点でのギア段であると推定するように構成されたことを特徴とする変速機のギア段の推定システム。
【請求項5】
車両の車輪を駆動する車軸と動力発生装置との間に配置された変速機のギア段を推定するための推定装置を有する変速機のギア段の推定システムであって、
前記推定装置が、
ギア段の推定を行う時点における、前記変速機の実入力側回転数と、ニュートラルスイッチの位置と、後退スイッチの位置と、アクセルペダルセンサで検出されるアクセル開度と、車速センサで検出される車速とを入力し、
前記実入力側回転数と、前記ニュートラルスイッチの位置と、前記後退スイッチの位置と、前記アクセル開度と、前記車速とから、ギア段を推定することができる運転状態にあるか否かを判定し、
ギア段の推定が可能な運転状態にあると判定した場合には、
前記車輪に設けられたタイヤのタイヤ周長と、前記車速とから前記変速機の実出力側回転数を算出すると共に、
各ギア段において、ギア段のギア比と、ファイナルギア比とから、前記実入力側回転数に対する出力側回転数の計算値である出力側回転数計算値を算出し、前記実出力側回転数から前記出力側回転数計算値を引き算して出力側回転数差を算出し、該出力側回転数差を前記実出力側回転数で割り算して、出力側回転数差率を算出し、
算出された各ギア段における前記出力側回転数差率のうち、その絶対値が最小となるギア段を選定して、このギア段をギア段の推定を行っている時点でのギア段であると推定するように構成されたことを特徴とする変速機のギア段の推定システム。
【請求項6】
車両の車輪を駆動する車軸と動力発生装置との間に配置された変速機のギア段を推定するための推定装置を有する変速機のギア段の推定システムであって、
前記推定装置が、
ギア段の推定を行う時点における、前記変速機の実入力側回転数と、ニュートラルスイッチの位置と、後退スイッチの位置と、アクセルペダルセンサで検出されるアクセル開度と、車速センサで検出される車速とを入力し、
前記実入力側回転数と、前記ニュートラルスイッチの位置と、前記後退スイッチの位置と、前記アクセル開度と、前記車速とから、ギア段を推定することができる運転状態にあるか否かを判定し、
ギア段の推定が可能な運転状態にあると判定した場合には、
各ギア段において、ギア段のギア比と、ファイナルギア比とから、前記実入力側回転数に対する出力側回転数の計算値である出力側回転数計算値を算出し、該出力側回転数計算値と前記車輪に設けられたタイヤのタイヤ周長とから車速計算値を算出すると共に、前記車速から前記車速計算値を引き算して車速差を算出し、該車速差を前記車速で割り算して、車速差率を算出し、算出された各ギア段における前記車速差率のうち、その絶対値が最小となるギア段を選定して、このギア段をギア段の推定を行っている時点でのギア段であると推定するように構成されたことを特徴とする変速機のギア段の推定システム。
【請求項7】
前記変速機が自動変速機であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の変速機のギア段の推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機を搭載した車両の走行時におけるギア段の推定をギア段を検出するためのセンサを用いることなく行うことができる変速機のギア段の推定方法及び変速機のギア段の推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関や電動発電機等の動力発生装置を搭載した車両では、これらの動力発生装置と車輪を駆動する車軸との間に変速機を設けている。この変速機では、変速機構部にセンサを取付けて、このセンサにより、変速機のギア段を検出している。このギア段判定装置には、例えば、変速機の出力軸にメータギアを介して連結された車速センサと変速機の入力軸の回転検出する変速機回転センサと、これらのセンサからのパルスが入力されると共に、センサが単位数パルス入力されたときのセンサのパルス数をカウントして現在のギア段を決定するECUとを備えて、そのECUに変速機の各ギア段のギア比と複数のメータギアのギア比とに基づく変速機回転センサのパルス数のデータを予めマップとして記憶させ、そのマップからメータギアのギア比を特定した後、その特定したメータギア比に対応したカウント値のデータのマップから現ギア段を特定するギア段判定装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、このギア段判定装置等では、センサを取付ける必要があるため、変速機の構造が複雑化したり、コストが高くなったりするという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−240115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のことを鑑みてなされたものであり、その目的は、変速機において、ギア段を検出するセンサを設けることなく、走行時の変速機のギア段を判定することができる変速機のギア段の推定方法及び変速機のギア段の推定システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための本発明の変速機のギア段の推定方法は、車両の車輪を駆動する車軸と動力発生装置との間に配置された変速機のギア段を推定する変速機のギア段の推定方法であって、ギア段の推定を行う時点における、前記変速機の実入力側回転数と、ニュートラルスイッチの位置と、後退スイッチの位置と、アクセルペダルセンサで検出されるアクセル開度と、車速センサで検出される車速とから、ギア段を推定することができる運転状態にあるか否かを判定し、ギア段の推定が可能な運転状態にあると判定した場合には、前記車輪に設けられたタイヤのタイヤ周長と、前記車速とから前記変速機の実出力側回転数を算出すると共に、各ギア段において、ギア段のギア比と、ファイナルギア比とから、前記実出力側回転数に対する入力側回転数の計算値である入力側回転数計算値を算出し、前記実入力側回転数から前記入力側回転数計算値を引き算して入力側回転数差を算出し、該入力側回転数差を前記実入力側回転数で割り算して、入力側回転数差率を算出し、算出された各ギア段における前記入力側回転数差率のうち、その絶対値が最小となるギア段を選定して、このギア段をギア段の推定を行っている時点でのギア段であると推定することを特徴とする方法である。
【0007】
あるいは、上記の目的を達成するための本発明の変速機のギア段の推定方法は、車両の車輪を駆動する車軸と動力発生装置との間に配置された変速機のギア段を推定する変速機のギア段の推定方法であって、ギア段の推定を行う時点における、前記変速機の実入力側回転数と、ニュートラルスイッチの位置と、後退スイッチの位置と、アクセルペダルセンサで検出されるアクセル開度と、車速センサで検出される車速とから、ギア段を推定することができる運転状態にあるか否かを判定し、ギア段の推定が可能な運転状態にあると判定した場合には、前記車輪に設けられたタイヤのタイヤ周長と、前記車速とから前記変速機の実出力側回転数を算出すると共に、各ギア段において、ギア段のギア比と、ファイナルギア比とから、前記実入力側回転数に対する出力側回転数の計算値である出力側回転数計算値を算出し、前記実出力側回転数から前記出力側回転数計算値を引き算して出力側回転数差を算出し、該出力側回転数差を前記実出力側回転数で割り算して、出力側回転数差率を算出し、算出された各ギア段における前記出力側回転数差率のうち、その絶対値が最小となるギア段を選定して、このギア段をギア段の推定を行っている時点でのギア段であると推定することを特徴とする方法である。
【0008】
あるいは、上記の目的を達成するための本発明の変速機のギア段の推定方法は、車両の車輪を駆動する車軸と動力発生装置との間に配置された変速機のギア段を推定する変速機のギア段の推定方法であって、ギア段の推定を行う時点における、前記変速機の実入力側回転数と、ニュートラルスイッチの位置と、後退スイッチの位置と、アクセルペダルセンサで検出されるアクセル開度と、車速センサで検出される車速とから、ギア段を推定することができる運転状態にあるか否かを判定し、ギア段の推定が可能な運転状態にあると判定した場合には、各ギア段において、ギア段のギア比と、ファイナルギア比とから、前記実入力側回転数に対する出力側回転数の計算値である出力側回転数計算値を算出し、該出力側回転数計算値と前記車輪に設けられたタイヤのタイヤ周長とから車速計算値を算出すると共に、前記車速から前記車速計算値を引き算して車速差を算出し、該車速差を前記車速で割り算して、車速差率を算出し、算出された各ギア段における前記車速差率のうち、その絶対値が最小となるギア段を選定して、このギア段をギア段の推定を行っている時点でのギア段であると推定することを特徴とする方法である。
【0009】
そして、上記の目的を達成するための本発明の変速機のギア段の推定システムは、車両の車輪を駆動する車軸と動力発生装置との間に配置された変速機のギア段を推定するための推定装置を有する変速機のギア段の推定システムであって、前記推定装置が、ギア段の推定を行う時点における、前記変速機の実入力側回転数と、ニュートラルスイッチの位置と、後退スイッチの位置と、アクセルペダルセンサで検出されるアクセル開度と、車速センサで検出される車速とを入力し、前記実入力側回転数と、前記ニュートラルスイッチの位置と、前記後退スイッチの位置と、前記アクセル開度と、前記車速とから、ギア段を推定することができる運転状態にあるか否かを判定し、ギア段の推定が可能な運転状態にあると判定した場合には、前記車輪に設けられたタイヤのタイヤ周長と、前記車速とから前記変速機の実出力側回転数を算出すると共に、各ギア段において、ギア段のギア比と、ファイナルギア比とから、前記実出力側回転数に対する入力側回転数の計算値である入力側回転数計算値を算出し、前記実入力側回転数から前記入力側回転数計算値を引き算して入力側回転数差を算出し、該入力側回転数差を前記実入力側回転数で割り算して、入力側回転数差率を算出し、算出された各ギア段における前記入力側回転数差率のうち、その絶対値が最小となるギア段を選定して、このギア段をギア段の推定を行っている時点でのギア段であると推定するように構成される。
【0010】
あるいは、上記の目的を達成するための本発明の変速機のギア段の推定システムは、車両の車輪を駆動する車軸と動力発生装置との間に配置された変速機のギア段を推定するための推定装置を有する変速機のギア段の推定システムであって、前記推定装置が、ギア段の推定を行う時点における、前記変速機の実入力側回転数と、ニュートラルスイッチの位置と、後退スイッチの位置と、アクセルペダルセンサで検出されるアクセル開度と、車速センサで検出される車速とを入力し、前記実入力側回転数と、前記ニュートラルスイッチの位置と、前記後退スイッチの位置と、前記アクセル開度と、前記車速とから、ギア段を推定することができる運転状態にあるか否かを判定し、ギア段の推定が可能な運転状態にあると判定した場合には、前記車輪に設けられたタイヤのタイヤ周長と、前記車速とから前記変速機の実出力側回転数を算出すると共に、各ギア段において、ギア段のギア比と、ファイナルギア比とから、前記実入力側回転数に対する出力側回転数の計算値である出力側回転数計算値を算出し、前記実出力側回転数から前記出力側回転数計算値を引き算して出力側回転数差を算出し、該出力側回転数差を前記実出力側回転数で割り算して、出力側回転数差率を算出し、算出された各ギア段における前記出力側回転数差率のうち、その絶対値が最小となるギア段を選定して、このギア段をギア段の推定を行っている時点でのギア段であると推定するように構成される。
【0011】
あるいは、上記の目的を達成するための本発明の変速機のギア段の推定システムは、車両の車輪を駆動する車軸と動力発生装置との間に配置された変速機のギア段を推定するための推定装置を有する変速機のギア段の推定システムであって、前記推定装置が、ギア段の推定を行う時点における、前記変速機の実入力側回転数と、ニュートラルスイッチの位置と、後退スイッチの位置と、アクセルペダルセンサで検出されるアクセル開度と、車速センサで検出される車速とを入力し、前記実入力側回転数と、前記ニュートラルスイッチの位置と、前記後退スイッチの位置と、前記アクセル開度と、前記車速とから、ギア段を推定することができる運転状態にあるか否かを判定し、ギア段の推定が可能な運転状態にあると判定した場合には、各ギア段において、ギア段のギア比と、ファイナルギア比とから、前記実入力側回転数に対する出力側回転数の計算値である出力側回転数計算値を算出し、該出力側回転数計算値と前記車輪に設けられたタイヤのタイヤ周長とから車速計算値を算出すると共に、前記車速から前記車速計算値を引き算して車速差を算出し、該車速差を前記車速で割り算して、車速差率を算出し、算出された各ギア段における前記車速差率のうち、その絶対値が最小となるギア段を選定して、このギア段をギア段の推定を行っている時点でのギア段であると推定するように構成される。
【0012】
また、上記の変速機のギア段の推定システムにおいて、前記変速機が自動変速機である場合には、自動的に切り替わる走行時の変速機のギア段を、ギア段を検出するセンサを設けることなく、判定することができ、変速機のシフト制御面での利用効果が大きいが、運転者によって切り替えられる手動変速機でも、ギア段を検出するセンサを設けることなく、ギア段を判定することができるので、ギア段検出用センサが不要になるという効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の変速機のギア段の推定方法及び変速機のギア段の推定システムによれば、変速機において、ギア段を検出するセンサを設けることなく、走行時の変速機のギア段を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る第1の実施の形態の変速機のギア段の推定方法の制御フローの一例を示す図である。
図2図1のステップS20の運転状態判定の詳細を示す図である。
図3】本発明に係る第2の実施の形態の変速機のギア段の推定方法の制御フローの一例を示す図である。
図4】本発明に係る第3の実施の形態の変速機のギア段の推定方法の制御フローの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施の形態の変速機のギア段の推定方法及び変速機のギア段の推定システムについて、図面を参照しながら説明する。
【0016】
本発明に係る実施の形態の変速機のギア段の推定方法が実施され、また、本発明に係る実施の形態の変速機のギア段の推定システムが搭載される車両は、内燃機関や電動発電機等の動力発生装置を搭載し、これらの動力発生装置と車輪を駆動する車軸との間に変速機を設けている。
【0017】
本発明は、この変速機のギア段を推定するためのものであり、本発明に係る第1の実施の形態の変速機のギア段の推定方法は、図1及び図2に示す制御フロー等に基づく制御で実施される。この図1の制御フローは、動力発生装置が運転を開始し、上級の制御フローでギア段の判定が必要であると判断されると、上級の制御フローから呼ばれてスタートし、図1の制御フローの内容を実施しては、上級の制御フローに戻り、また、ギア段の判定が必要であると判断されると上級の制御フローから呼ばれて、動力発生装置の運転中は、必要に応じて繰り返し呼ばれて実施されるものとして示してある。そして、図1の制御フローの途中で動力発生装置の運転が停止したときに、割り込みによりリターンして上級の制御フローに戻り、この上級の制御フローの終了と共に終了する制御フローとして示している。
【0018】
この図1の制御フローが上級の制御フローから呼ばれてスタートすると、ステップS11にて、データの入力を行う。このデータの入力では、ギア段の推定を行う時点における、変速機の実入力側回転数Neimと、ニュートラルスイッチの位置Pnと、後退スイッチの位置Pbと、アクセルペダルセンサで検出されるアクセル開度αと、車速センサで検出される車速Vsとを入力する。
【0019】
次のステップ20では、図2に示すような各種の判定を行い、車両の運転状態がギア段の判定範囲にあるか否かの判定を行う。この判定で車両の運転状態がギア段の判定範囲にある場合には(YES)、ステップS30に行き、この判定で車両の運転状態がギア段の判定範囲にない場合には(NO)、ステップS41又はステップS42に行く。
【0020】
このステップS20では、ステップS21で、実入力側回転数Neimの判定を行う。この判定では実入力側回転数Neimが予め設定した下限回転数Neic以上であるか否かを判定する。この判定で実入力側回転数Neimが下限回転数Neicよりも小さいときは(NO)、ステップS41に行き、ギア段を判定できる運転状態ではないとの判定をして、リターンに行き、上級の制御フローに戻る。この判定で実入力側回転数Neimが下限回転数Neic以上のときは(YES)、ステップS22に行く。
【0021】
ステップS22では、ニュートラルスイッチの位置の判定を行う。この判定で、ニュートラルスイッチの位置がニュートラルである場合には(YES)、ステップS41に行き、ギア段を判定できる運転状態にないとの判定をして、リターンに行き、上級の制御フローに戻る。この判定で、ニュートラルスイッチの位置がニュートラルにない場合には(NO)、ステップS23に行く。
【0022】
ステップS23では、後退スイッチの位置の判定を行う。この判定で、後退スイッチの位置が後退の位置である場合には(YES)、ステップS42に行き、ギア段は後退のギア段であるとの判定をして、リターンに行き、上級の制御フローに戻る。この判定で、後退スイッチの位置が後退の位置にない場合には(NO)、ステップS24に行く。
【0023】
ステップS24では、アクセル開度の判定を行う。この判定では、アクセル開度αが予め設定したギア段判定用アクセル開度範囲Rαにあるか否かを判定する。この判定で、アクセル開度αが、ギア段判定用アクセル開度範囲Rαにない場合、例えば、アクセル開度αが0%のときには(NO)、ギア段の判定に不向きであるとして、ステップS41に行き、ギア段を判定できる運転状態にないとの判定をして、リターンに行き、上級の制御フローに戻る。この判定でアクセル開度αが、ギア段判定用アクセル開度範囲Rαにある場合には(YES)、ステップS25に行く。
【0024】
ステップS25では、車速Vsの判定を行う。この判定では、車速Vsが予め設定したギア段判定用車速範囲Rvにあるか否かを判定する。この判定で、車速Vsが、ギア段判定用車速範囲Rvにない場合には(NO)、車速Vsが低いなどで車速の精度により信頼性が低くなり、ギア段の判定に不向きであるとして、ステップS41に行き、ギア段を判定できる運転状態にないとの判定をして、リターンに行き、上級の制御フローに戻る。この判定で車速Vsが、ギア段判定用車速範囲Rvにある場合には(YES)、ステップS30に行く。
【0025】
図1に示すステップS30では、ギア段の判定を行う。このステップS30では、最初に、ステップS31で、車輪に設けられたタイヤのタイヤ周長Lと、車速Vsとから変速機の実出力側回転数Neomを「Neom=Vs/L」で算出する。そして、ステップS32に行く。
【0026】
ステップS32では、ギア段の名前の代わりにiで示す各ギア段(i)における以下の計算を行う。つまり、「i=1」は、「1stギア段」を、「i=2」は、「2ndギア段」を、「i=3」は、「3rdギア段」を、・・・・、「i=I」は、「Ithギア段」を、それぞれ示す。
【0027】
このステップS32では、各ギア段(i)において、ギア段のギア比と、ファイナルギア比とから、実出力側回転数Neomに対する入力側回転数Neiの計算値である入力側回転数計算値Neic(i)を算出する。また、実入力側回転数Neimから入力側回転数計算値Neic(i)を引き算して入力側回転数差ΔNei(i)(=Neim−Neic(i))を算出する。更に、入力側回転数差ΔNei(i)を実入力側回転数Neimで割り算してその絶対値である入力側回転数差率Rei(i)を算出する。
【0028】
ステップS33では、算出された各ギア段(i)における入力側回転数差率Rei(i)のうち、最小の入力側回転数差率Rei(j)を有するギア段(j)を選定する。
【0029】
次のステップS34では、この入力側回転数差率Rei(j)が、誤差範囲にあるか否かを判定する。この誤差範囲は予め設定した下限値Rid以下を誤差範囲にあるとし、また、予め設定した上限値Riu以上を誤差範囲にあるとする。この判定で入力側回転数差率Rei(j)が、誤差範囲にある場合は(Rei(j)≦Rid、又は、Riu≦Rei(j))(YES)、ステップS35に行き、ギア段を判定できないとの判定をして、リターンに行き、上級の制御フローに戻る。
【0030】
このステップS34の判定で、入力側回転数差率Rei(j)が、誤差範囲にない場合は(Rid<Rei(j)<Riu)(NO)、ステップS36に行き、この「j」番号のギア段(j)をギア段の推定を行っている時点でのギア段である、即ち、ギア段はj段であると判定して、リターンに行き、上級の制御フローに戻る。
【0031】
そして、本発明に係る第1の実施の形態の変速機のギア段の推定システムは、車両の車輪を駆動する車軸と動力発生装置との間に配置された変速機のギア段を推定するための変速機のギア段の推定システムであって、上記の第1の実施の形態の変速機のギア段の推定方法の図1の制御フローを実施するように構成された推定装置を備えて構成される。
【0032】
次に、本発明に係る第2の実施の形態の変速機のギア段の推定方法について説明する。この推定方法は、図3に示す制御フロー等に基づく制御で実施される。この図3の制御フローは、図1と同様な制御フローとして示している。
【0033】
この図3の制御フローが上級の制御フローから呼ばれてスタートすると、ステップS11にて、データの入力を行う。このデータの入力では、ギア段の推定を行う時点における、変速機の実入力側回転数Neimと、ニュートラルスイッチの位置Pnと、後退スイッチの位置Pbと、アクセルペダルセンサで検出されるアクセル開度αと、車速センサで検出される車速Vsとを入力する。
【0034】
次のステップS20では、第1の実施の形態の変速機のギア段の推定方法と同様に図2に示すような各種の判定を行い、ステップS30Aに行くまでは同じである。
【0035】
図3に示すステップS30Aでは、ギア段の判定を行う。このステップS30Aでは、最初に、ステップS31Aで、車輪に設けられたタイヤのタイヤ周長Lと、車速Vsとから変速機の実出力側回転数Neomを「Neom=Vs/L」で算出する。そして、ステップS32Aに行く。
【0036】
ステップS32Aでは、ギア段の名前の代わりにiで示す各ギア段(i)における以下の計算を行う。つまり、「i=1」は、「1stギア段」を、「i=2」は、「2ndギア段」を、「i=3」は、「3rdギア段」を、・・・・、「i=I」は、「Ithギア段」を、それぞれ示す。
【0037】
このステップS32Aでは、各ギア段(i)において、ギア段のギア比と、ファイナルギア比とから、実入力側回転数Neimに対する出力側回転数Neoの計算値である出力側回転数計算値Neoc(i)を算出する。また、実出力側回転数Neomから出力側回転数計算値Neoc(i)を引き算して出力側回転数差ΔNeo(i)(=Neom−Neoc(i))を算出する。更に、出力側回転数差ΔNeo(i)を実出力側回転数Neomで割り算してその絶対値である出力側回転数差率Reo(i)を算出する。
【0038】
ステップS33Aでは、算出された各ギア段(i)における出力側回転数差率Reo(i)のうち、最小の出力側回転数差率Reo(j)を有するギア段(j)を選定する。
【0039】
次のステップS34Aでは、この出力側回転数差率Reo(j)が、誤差範囲にあるか否かを判定する。この誤差範囲は予め設定した下限値Rod以下を誤差範囲にあるとし、また、予め設定した上限値Rou以上を誤差範囲にあるとする。この判定で出力側回転数差率Reo(j)が、誤差範囲にある場合は(Reo(j)≦Rod、又は、Rou≦Reo(j))(YES)、ステップS35Aに行き、ギア段を判定できないとの判定をして、リターンに行き、上級の制御フローに戻る。
【0040】
このステップS34Aの判定で、出力側回転数差率Reo(j)が、誤差範囲にない場合は(Rod<Reo(j)<Rou)(NO)、ステップS36Aに行き、この「j」番号のギア段(j)をギア段の推定を行っている時点でのギア段である、即ち、ギア段はj段であると判定して、リターンに行き、上級の制御フローに戻る。
【0041】
そして、また、ギア段の判定が必要であると判断されると上級の制御フローから呼ばれて、動力発生装置の運転中は、必要に応じて繰り返し呼ばれて実施される。制御フローの途中で動力発生装置の運転が停止したときには、割り込みによりリターンして上級の制御フローに戻り、この上級の制御フローの終了と共に終了する。
【0042】
そして、本発明に係る第2の実施の形態の変速機のギア段の推定システムは、車両の車輪を駆動する車軸と動力発生装置との間に配置された変速機のギア段を推定するための変速機のギア段の推定システムであって、上記の第2の実施の形態の変速機のギア段の推定方法の図3の制御フローを実施するように構成された推定装置を備えて構成される。
【0043】
次に、本発明に係る第3の実施の形態の変速機のギア段の推定方法について説明する。この推定方法は、図4に示す制御フロー等に基づく制御で実施される。この図4の制御フローは、図1と同様な制御フローとして示している。
【0044】
この図4の制御フローが上級の制御フローから呼ばれてスタートすると、ステップS11にて、データの入力を行う。このデータの入力では、ギア段の推定を行う時点における、変速機の実入力側回転数Neimと、ニュートラルスイッチの位置Pnと、後退スイッチの位置Pbと、アクセルペダルセンサで検出されるアクセル開度αと、車速センサで検出される車速Vsとを入力する。
【0045】
次のステップ20では、第1の実施の形態の変速機のギア段の推定方法と同様に図2に示すような各種の判定を行い、ステップS30Bに行くまでは同じである。
【0046】
図4に示すステップS30Bでは、ギア段の判定を行う。このステップS30Bでは、ステップS31Bに行き、このステップS31Bでは、ギア段の名前の代わりにiで示す各ギア段(i)における以下の計算を行う。つまり、「i=1」は、「1stギア段」を、「i=2」は、「2ndギア段」を、「i=3」は、「3rdギア段」を、・・・・、「i=I」は、「Ithギア段」を、それぞれ示す。
【0047】
このステップS31Bでは、各ギア段(i)において、ギア段のギア比と、ファイナルギア比とから、実入力側回転数Neimに対する出力側回転数Neoの計算値である出力側回転数計算値Neoc(i)を算出する。次に、ステップS32Bで、車輪に設けられたタイヤのタイヤ周長Lと、出力側回転数計算値Neoc(i)とから車速計算値Vsc(i)を算出する。「Vsc(i)=Neoc(i)×L」で算出する。
【0048】
また、車速Vsから車速計算値Vsc(i)を引き算して車速差ΔVsc(i)(=Vs−Vsc(i))を算出する。更に、車速差ΔVsc(i)を車速Vsで割り算してその絶対値である車速差率Rvc(i)を算出する。
【0049】
ステップS33Bでは、算出された各ギア段(i)における車速差率Rvc(i)のうち、最小の車速差率Rvc(j)を有するギア段(j)を選定する。
【0050】
次のステップS34Bでは、この車速差率Rvc(j)が、誤差範囲にあるか否かを判定する。この誤差範囲は予め設定した下限値Rvd以下を誤差範囲にあるとし、また、予め設定した上限値Rvu以上を誤差範囲にあるとする。この判定で車速差率Rvc(j)が、誤差範囲にある場合は(Rvc(j)≦Rvd、又は、Rvu≦Rvc(j))(YES)、ステップS35Bに行き、ギア段を判定できないとの判定をして、リターンに行き、上級の制御フローに戻る。
【0051】
このステップS34Bの判定で、車速差率Rvc(j)が、誤差範囲にない場合は(Rvd<Rvc(j)<Rvu)(NO)、ステップS36Bに行き、この「j」番号のギア段(j)をギア段の推定を行っている時点でのギア段である、即ち、ギア段はj段であると判定して、リターンに行き、上級の制御フローに戻る。
【0052】
そして、また、ギア段の判定が必要であると判断されると上級の制御フローから呼ばれて、動力発生装置の運転中は、必要に応じて繰り返し呼ばれて実施される。制御フローの途中で動力発生装置の運転が停止したときには、割り込みによりリターンして上級の制御フローに戻り、この上級の制御フローの終了と共に終了する。
【0053】
そして、本発明に係る第3の実施の形態の変速機のギア段の推定システムは、車両の車輪を駆動する車軸と動力発生装置との間に配置された変速機のギア段を推定するための変速機のギア段の推定システムであって、上記の第3の実施の形態の変速機のギア段の推定方法の図4の制御フローを実施するように構成された推定装置を備えて構成される。
【0054】
上記の変速機のギア段の推定方法及び変速機のギア段の推定システムによれば、変速機において、ギア段を検出するセンサを設けることなく、走行時の変速機のギア段を判定することができる。
【符号の説明】
【0055】
i 各ギア段を示す変数:i=1、2、・・・・
j 選定されたギア段を示す変数
L タイヤのタイヤ周長
Neim 実入力側回転数
Neom 実出力側回転数
Nei 入力側回転数
Neo 出力側回転数
Neic(i) 入力側回転数計算値
Neoc(i) 出力側回転数計算値
Rei(i) 入力側回転数差率
Reo(i) 出力側回転数差率
Rvc(i) 車速差率
Vs 車速
Vsc(i) 車速計算値
ΔNei(i) 入力側回転数差
ΔNeo(i) 出力側回転数差
ΔVsc(i) 車速差
図1
図2
図3
図4