(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の自動変速機を具体化した実施形態について図面を参照して説明する。実施形態において、自動変速機は、車両に搭載されたエンジンが出力する回転駆動力を変速する装置として用いられる。車両は、自動変速機により変速された回転駆動力が差動装置などを介して駆動輪に伝達され、自動変速機において成立した所定の変速段で前進または後進するように構成されている。
【0015】
(自動変速機の構造)
自動変速機100(第一実施形態)の概略構成について
図1を参照して説明する。自動変速機100は、入力側(
図1の左側、前方側とする)から出力側(
図1の右側、後方側とする)に向かって回転軸線L方向に並設された4個の遊星歯車機構P1〜P4と、複数の要素同士を選択的に連結可能な4個のクラッチCL1〜CL4と、所定の要素の回転を制動する2個のブレーキB1,B2と、ドグクラッチD1と、各要素を連結する連結部材3〜8,V1,U11,U12,U21,U22,U31,U32,U41,U42と、入力軸Nと、出力軸Tとを備えて構成されている。
【0016】
また、この自動変速機100は、制御部2による制御信号に基づいて各クラッチCL1〜CL4、各ブレーキB1,B2からなる係合要素の作動状態を制御される。そして、本実施形態においては、上記の係合要素のうち3個の係合要素を作動させることによって、入力軸Nから入力される回転駆動力を、前進10速段及び後進1速段のいずれかに変速して、出力軸Tから出力可能な構成となっている。自動変速機100おける係合要素の作動状態と成立する変速段に関する詳細については後述する。
【0017】
入力軸N及び出力軸Tは、ハウジングHに、回転軸線L周りに回転可能に軸承されている。入力軸Nは、図略のクラッチ装置などを介してエンジンの回転駆動力を自動変速機100に入力する軸部材である。出力軸Tは、入力軸Nと同軸上に配置され、変速された回転駆動力を図略の差動装置などを介して駆動輪に出力する軸部材である。
【0018】
各遊星歯車機構P1〜P4は、キャリアC1〜C4に回転可能に支持されたピニオンギヤQ1〜Q4がサンギヤS1〜S4及びリングギヤR1〜R4に噛合するシングルピニオン式であり、入力側から順に第一〜第四遊星歯車機構P1〜P4と称する。そして、各遊星歯車機構P1〜P4の各要素は、第一〜第四サンギヤS1〜S4、第一〜第四リングギヤR1〜R4、第一〜第四キャリアC1〜C4と称する。
【0019】
第一遊星歯車機構P1は、回転軸線Lと同軸に回転可能に支承された第一サンギヤS1、第一リングギヤR1、第一サンギヤS1と第一リングギヤR1とに噛合する第一ピニオンギヤQ1を支承する第一キャリアC1とから構成されている。
【0020】
第二遊星歯車機構P2は、回転軸線Lと同軸に回転可能に支承された第二サンギヤS2、第二リングギヤR2、第二サンギヤS2と第二リングギヤR2とに噛合する第二ピニオンギヤQ2を支承する第二キャリアC2とから構成されている。
【0021】
第三遊星歯車機構P3は、回転軸線Lと同軸に回転可能に支承された第三サンギヤS3、第三リングギヤR3、第三サンギヤS3と第三リングギヤR3とに噛合する第三ピニオンギヤQ3を支承する第三キャリアC3とから構成されている。
【0022】
第四遊星歯車機構P4は、回転軸線Lと同軸に回転可能に支承された第四サンギヤS4、第四リングギヤR4、第四サンギヤS4と第四リングギヤR4とに噛合する第四ピニオンギヤQ4を支承する第四キャリアC4とから構成されている。
【0023】
各ブレーキB1,B2は、ハウジングHに設けられ、所定の要素の回転を制動する係合要素である。本実施形態では、各クラッチCL1〜CL4と同様に、ハウジングHに形成された油路から供給される油圧によって作動する油圧式である。これにより、各ブレーキB1,B2は、制御部2による制御指令に基づいて作動する油圧ポンプから油圧を供給されると、各ブレーキB1、B2のブレーキディスク(B2−1、B2−2、
図4示)が押圧されて、対象とする所定の要素の回転を制動して、当該要素をハウジングHに固定する。そして、油圧ポンプによる油圧の供給が遮断されると、ブレーキディスク同士を離間させて、所定の要素の回転を許容する。
【0024】
各クラッチCL1〜CL4は、複数の要素同士を選択的に連結可能な係合要素である。本実施形態では、各クラッチCL1〜CL4は、常開型であり、供給される油圧によって作動する油圧式である。これにより、各クラッチCL1〜CL4は、制御部2による制御指令に基づいて作動する油圧ポンプから入力軸NやハウジングHに形成された油路を介して油圧を供給されると、図示しない複数のクラッチ板を接触させて、対象の要素間で駆動力が伝達されるように要素同士を連結する。そして、上記の油圧ポンプによる油圧の供給が遮断されると、クラッチ板同士を離間させて、対象の要素間で駆動力が伝達されないように要素同士を離脱させる。
【0025】
入力軸Nは、第一サンギヤS1の内側を通って軸線方向に延在する入力軸連結部材3を介して第一キャリアC1に直結されている。出力軸Tは、出力軸連結部材4を介して第四キャリアC4に直結されている。
【0026】
第一キャリアC1及び第二キャリアC2は、第一、第二リングギヤR1,R2の外側を通って軸線方向に延在する第一ギヤ連結部材5を介して直結されている。
【0027】
第一リングギヤR1及び第二リングギヤR2は、第二ギヤ連結部材6を介して直結されている。そして、第一、第二リングギヤR1,R2及び第四サンギヤS4は、第二ギヤ連結部材6に直結され第二、第三サンギヤS2,S3の内側を通って軸線方向に延在する第三ギヤ連結部材7を介して直結されている。第三リングギヤR3及び第四キャリアC4は、第四ギヤ連結部材8を介して直結されている。
【0028】
第一ブレーキB1は、第一ブレーキ連結部材V1に直結されている第一サンギヤS1の回転を、第一ブレーキ連結部材V1を介して制動し、第一サンギヤS1を係脱可能にハウジングHに固定する。第二ブレーキB2は、後述の回転部材B2−1の回転を制動して、回転部材B2−1をハウジングHに係脱可能に固定する。
【0029】
第一クラッチCL1は、第一クラッチ連結部材U11を介して、第三キャリアC3に直結され、第三ギヤ連結部材7に直結された第一クラッチ連結部材U12を介して、第三キャリアC3と第一、第二リングギヤR1,R2とを係脱可能に連結する。
【0030】
第二クラッチCL2は、第二クラッチ連結部材U21を介して、第二サンギヤS2に直結され、第三サンギヤS3に直結された第二クラッチ連結部材U22を介して、第二サンギヤS2と第三サンギヤS3とを係脱可能に連結する。
【0031】
第三クラッチCL3は、第三リングギヤR3の外側を通って軸線方向に延在する第三クラッチ直結部材U31を介して第二ブレーキB2の回転部材B2−1に直結され、第三キャリアC3に直結された第三クラッチ連結部材U32を介して、回転部材B2−1と第三キャリアC3とを係脱可能に連結する。
【0032】
第四クラッチCL4は、第四クラッチ直結部材U41を介して、第一ギヤ連結部材5に直結され、第二クラッチ連結部材U22に直結されている第四クラッチ連結部材U42を介して、第一、第二キャリアC1,C2と第三サンギヤS3とを係脱可能に連結する。
【0033】
ドグクラッチD1は、第二ブレーキB2の回転部材B2−1と第四リングギヤR4を係脱可能に連結する。ドグクラッチD1は、常閉型であり、ドグクラッチアクチュエータ71(
図4示)によって作動する。制御部2による制御指令に基づいて、ドグクラッチアクチュエータ71が作動すると、ドグクラッチD1は、第二ブレーキB2の回転部材B2−1と第四リングギヤR4同士を離脱、又は係合する。このドグクラッチD1の詳細については、
図4〜
図7を用いて後述する。
【0034】
(第一実施形態の自動変速機の後部の構造)
以下に、
図4〜
図7を用いて、第一実施形態の自動変速機100の後部の構造について説明する。
図4に示すように、出力軸Tは、回転軸線L方向に延出して形成され、本実施形態では、円筒形状である。出力軸Tは、ハウジングHに取り付けられ互いに離間した2つのベアリング31、32によって、ハウジングHの後部に回転可能に支持されている。このように、互いに離間した2つのベアリング31、32によって、出力軸Tが両側支持されているので、出力軸Tが回転軸線L方向から直交する方向に撓まないようになっている。
【0035】
図4に示すように、第四キャリアC4は、第四ピニオンギヤQ4の後方に設けられた後方側第四キャリアC4−1と、第四ピニオンギヤQ4の前方に設けられた前方側第四キャリアC4−2とから構成されている。出力軸連結部材4は、円筒形状であり、後方側第四キャリアC4−1の後部から後方に延出している。出力軸連結部材4の後部の外周部は、出力軸Tの前部の内周部とスプライン嵌合している。
【0036】
後方側第四キャリアC4−1の後部から、略円筒形状のパーキング部材41が後方に延出している。パーキング部材41は、出力軸連結部材4や出力軸Tと同軸に設けられ、出力軸Tの外周側に設けられている。パーキング部材41は、小径部41a、大径部41b、及び接続部41cとから構成されている。小径部41aは、円筒形状であり、後方側第四キャリアC4−1の後部に接続している。大径部41bは、小径部41aよりも内径及び外径が大きい円筒形状であり、小径部41aの後方に、小径部41aと同軸に形成されている。接続部41cは、小径部41aの後端と大径部41bの前端とを接続している。
【0037】
図6に示すように、パーキング部材41の大径部41bの外周部には、係合凹部41dが周方向に一定角度をおいて凹陥形成されている。ハウジングHには、先端に係合突起42aが形成されたストッパー部材42が揺動可能に設けられている。ストッパー部材42は、図示しないパーキングアクチュエータによって揺動される。シフトレバーがパーキング位置に位置されると、パーキングアクチュエータによって、係合突起42aが係合凹部41dと係合するように、ストッパー部材42が揺動される(
図6の一点鎖線示)。この状態では、パーキング部材41がハウジングHに固定されて、第四キャリアC4がハウジングHに固定されて、各遊星歯車機構P1〜P4や出力軸TがハウジングHに対して回転不能になる。
【0038】
第二ブレーキB2は、回転部材B2−1、複数のブレーキディスクB2−2、複数のブレーキプレートB2−3、被押圧部材B2−4を有している。回転部材B2−1は、円筒形状であり、後述するドグクラッチD1の係合部材D1−1(第四リングギヤR4)の外周側に、第四リングギヤR4及び係合部材D1−1と同軸に、ハウジングHに対して回転可能に設けられている。
【0039】
ブレーキディスクB2−2は、リング状であり、回転部材B2−1に前後方向移動可能に且つ相対回転不能に設けられている。ブレーキプレートB2−3は、リング状であり、ハウジングHに前後方向移動可能に且つ相対回転不能に設けられている。これら複数のブレーキディスクB2−2と複数のブレーキプレートB2−3が、交互に重ね合わされて設けられている。被押圧部材B2−4は、リング状であり、ブレーキディスクB2−2、ブレーキプレートB2−3の後方に隣接して、前後方向移動可能にハウジングHに設けられている。
【0040】
ハウジングHの下端には、オイルを収容するオイルパン45が取り付けられている。ハウジングHの後部の内部には、第二ブレーキピストン51が前後方向摺動可能に設けられている。第二ブレーキピストン51は、後方に形成された円板状の基部51aと、基部51aから前方に延出する押圧部51bとから構成されている。押圧部51bは、第二ブレーキB2の被押圧部材B2−4と対向している。
【0041】
基部51aは、ハウジングHに取り付けられたスプリング52によって後方に付勢されている。基部51aと、ハウジングHの後部壁H1との間には、圧力室53が形成されている。圧力室に油圧が供給されると、第二ブレーキピストン51が前方に移動して、押圧部51bが被押圧部材B2−4を押圧し、ブレーキディスクB2−2とブレーキプレートB2−3が相互に押圧され、ブレーキディスクB2−2とブレーキプレートB2−3間の摩擦力によって、第二ブレーキB2が係合状態となる。一方で、圧力室53に供給された油圧が消失すると、スプリング52の付勢力によって、押圧部51bが被押圧部材B2−4から離間して、第二ブレーキB2が離間状態となる。
【0042】
ドグクラッチD1は、係合部材D1−1、フォーク部材72、ドグクラッチアクチュエータ71とから構成されている。
図5に示すように、第四リングギヤR4の外周面には、リングギヤスプライン溝R4−1が形成されている。また、回転部材B2−1の内周面には、回転部材スプライン溝B2−5が形成されている。
【0043】
係合部材D1−1は、円筒形状であり、第四リングギヤR4と回転部材B2−1の間に、これら第四リングギヤR4と回転部材B2−1と同軸に、回転軸線L方向(前後方向)移動可能に設けられている。係合部材D1−1の内周面には、リングギヤスプライン溝R4−1とスプライン嵌合している第一スプライン溝D1−2が形成されている。係合部材D1−1の外周面には、回転部材スプライン溝B2−5とスプライン嵌合又は離脱する第二スプライン溝D1−3が形成されている。
【0044】
図4に示すように、回転部材スプライン溝B2−5は、リングギヤスプライン溝R4−1よりも前後方向に関して短く形成され、リングギヤスプライン溝R4−1の後部に相当する位置には形成されていない。係合部材D1−1の前後方向(回転軸線L方向)の位置に関わらず、第一スプライン溝D1−2は、第四リングギヤR4のリングギヤスプライン溝R4−1と常時スプライン嵌合している。係合部材D1−1がその移動範囲の前方に位置している場合には(
図4の状態)、第二スプライン溝D1−3は回転部材B2−1の回転部材スプライン溝B2−5とスプライン嵌合して、係合部材D1−1によって、第四リングギヤR4と回転部材B2−1とが連結(係合)される。一方で、係合部材D1−1がその移動範囲の後方に位置している場合には(
図7の状態)、係合部材D1−1の第二スプライン溝D1−3は回転部材B2−1の回転部材スプライン溝B2−5から離脱し、第四リングギヤR4と回転部材B2−1同士が離脱される。
【0045】
係合部材D1−1の後部には、フォーク係合溝D1−5が形成されている。フォーク係合溝D1−5には、フォーク部材72が係合している。フォーク部材72は、前後方向(回転軸線L方向)移動可能に設けられている。フォーク部材72は、係合部材D1−1の外周側に延出し、ハウジングHの外部のオイルパン45の内部にまで延出している。フォーク部材72は、ドグクラッチアクチュエータ71によって、前後方向に移動される。ドグクラッチアクチュエータ71は、制御部2からの指令によって作動し、油圧式及び電動式の両方が含まれる。本実施形態では、ドグクラッチアクチュエータ71は、ハウジングH外のオイルパン45内に設けられている。
【0046】
(第一実施形態の自動変速機の動作)
以上のように構成された自動変速機100は、第一〜第四クラッチCL1〜CL4を選択的に係脱し、第一及び第二ブレーキB1,B2を選択的に作動して第一〜第四遊星歯車機構P1〜P4の要素の回転を規制することにより、前進10段、後進1段の変速段を成立することができる。
図2において、各変速段に対応する各クラッチ、ブレーキの欄に、白丸が付されている場合には、各要素が作動状態(ON状態)であり、クラッチCL1〜CL4であれば接続状態(係合状態)、ブレーキB1,B2であれば回転規制状態(係合状態)にあることを示す。また、ドグクラッチの欄に黒丸が付されている場合には、ドグクラッチD1が作動状態にあり、ドグクラッチD1が離脱状態(切断状態)にあることを示す。
【0047】
一般的に、シングルピニオンギヤ式遊星歯車機構においては、サンギヤの回転数Ns、キャリアの回転数Nc、リングギヤの回転数Nrと遊星歯車機構のギヤ比λとの関係は、式(1)で示され、各変速段におけるギヤ比は、式(1)に基づいて算出される。第一〜第四遊星歯車機構P1〜P4の第一〜第四サンギヤS1〜S4の歯数をZs1〜Zs4、第一〜第四リングギヤR1〜R4の歯数をZr1〜Zr4とすると、第一〜第四遊星歯車機構P1〜P4のギヤ比λ1〜λ4は、λ1=Zs1/Zr1、λ2=Zs2/Zr2、λ3=Zs3/Zr3、λ4=Zs4/Zr4である。
Nr=(1+λ)Nc−λNs・・・(1)
【0048】
第一、第二ブレーキB1,B2を選択的に作動し、第一〜第四クラッチCL1〜CL4を選択的に接続したとき、第一〜第四遊星歯車機構P1〜P4の各要素の速度比は、
図3に示す速度線図のようになる。速度線図は、遊星歯車機構のサンギヤ、キャリア、リングギヤからなる各要素を横軸方向にギヤ比に対応させた間隔で配置し、縦軸方向に各要素に対応してその速度比を取ったものである。
【0049】
すなわち、第二サンギヤS2と第三サンギヤS3とが、第二クラッチCL2を介して連結されるので、S2,S3が付された1本の縦線上に、連結される第二サンギヤS2及び第三サンギヤS3の速度比を表す。また、第二リングギヤR2と第三キャリアC3と第四サンギヤS4とが、第一クラッチCL1を介して連結されるので、R2,C3,S4が付された1本の縦線上に、連結される第二リングギヤR2、第三キャリアC3及び第四サンギヤS4の速度比を表す。そして、C2が付された1本の線上に、第二キャリアC2の速度比を表す。また、第三キャリアC3と第四リングギヤR4とが、第三クラッチCL3を介して連結されるので、C3,R4が付された1本の縦線上に、連結される第三キャリアC3及び第四リングギヤR4の速度比を表す。
【0050】
そして、第二遊星歯車機構P2は、シングルピニオン式であるので、第二サンギヤS2の縦線と第二キャリアC2の縦線との間隔を1とみなし、第二リングギヤR2の縦線を第二キャリアC2の縦線から第二サンギヤS2の縦線の反対側に間隔λ2だけ離して配置する。第三遊星歯車機構P3は、シングルピニオン式であるので、第三サンギヤS3の縦線と第三キャリアC3の縦線との間隔を1とみなし、第三リングギヤR3の縦線を第三キャリアC3の縦線から第三サンギヤS3の縦線の反対側に間隔λ3だけ離して配置する。第四遊星歯車機構P4は、シングルピニオン式であるので、第四サンギヤS4の縦線と第四キャリアC4の縦線との間隔を1とみなし、第四リングギヤR4の縦線を第四キャリアC4の縦線から第四サンギヤS4の縦線の反対側に間隔λ4だけ離して配置する。
【0051】
例えば、自動変速機100における第一速段は、
図2に示す係合表によると、第一クラッチCL1、第二クラッチCL2及び第二ブレーキB2が作動状態である。この状態では、まず、第一クラッチCL1及び第二クラッチCL2により第一〜第三遊星歯車機構P1〜P3が一体となり、第二キャリアC2に入力された入力軸Nの回転駆動力が、第四サンギヤS4に伝達される。第四リングギヤR4は第二ブレーキB2により制動されているので、第四サンギヤS4から入力された回転駆動力が歯数に応じた変速比で減速され、第四キャリアC4から出力軸連結部材4を介して出力軸Tに回転駆動力を伝達する。
【0052】
自動変速機100が第一速段から第二速段に移行するには、第二クラッチCL2及び第二ブレーキB2の作動状態を維持しつつ、作動させる係合要素を第一クラッチCL1から第四クラッチCL4に切り換える。この状態では、まず、第二クラッチCL2及び第四クラッチCL4により第一、第二遊星歯車機構P1,P2が一体となり、第二リングギヤR2に入力された入力軸Nの回転駆動力が、第四サンギヤS4に伝達される。第四リングギヤR4は第二ブレーキB2により制動されているので、第四サンギヤS4から入力された回転駆動力は歯数に応じた変速比で減速され、第四キャリアC4から出力軸連結部材4を介して出力軸Tに回転駆動力を伝達する。
【0053】
このように、自動変速機100は、6個の係合要素のうち3個の係合要素を選択的に作動させることによって、
図3の速度線図に示すように、それぞれ異なる変速比となる変速段を成立可能としている。また、自動変速機100は、
図2の係合表に示すように、作動させる3個の係合要素のうち1個を切り換えることによって、隣り合う変速段に移行可能としている。
【0054】
自動変速機100におけるリバース段は、
図2に示す係合表によると、第三クラッチCL3、第四クラッチCL4、第二ブレーキB2、及びドグクラッチD1が作動状態である。この状態では、第四クラッチCL4によって、第一キャリアC1と第三サンギヤS3が連結されているので、入力軸Nの回転駆動力が、第三サンギヤS3に伝達される。そして、第二ブレーキB2及び第三クラッチCL3によって、第三キャリアC3がハウジングHに固定されているので、第三サンギヤS3の回転駆動力が逆回転方向に減速されたうえで、第三リングギヤR3から第四キャリアC4を介して、出力軸Tに伝達され、車両は後退する。
【0055】
また、ドグクラッチD1の作動によって、第四リングギヤR4が回転部材B2−1から離脱されて、第四リングギヤR4のハウジングHへの固定が解除されて、第四リングギヤR4がハウジングHに対して回転可能となる。これにより、第四遊星歯車機構P4において反力を支持するものが無くなるので、第四キャリアC4の逆回転に伴い、第四サンギヤS4が逆回転しない。このため、第四サンギヤS4と連結している第一リングギヤR1も逆回転しないため、第一キャリアC1の正回転に伴い、第一サンギヤS1が高速回転しない。
【0056】
なお、ドグクラッチD1の離脱方向への動作は、第三クラッチCL3及び第二ブレーキB2が係合状態となった後に行われる。このため、第四リングギヤR4はハウジングHに固定され、第四リングギヤR4には回転駆動力が作用していないので、係合部材D1−1が容易に後方(離脱方向)に移動し、ドグクラッチD1が離脱状態となる。
【0057】
また、自動変速機100において、前進の変速段が形成されている場合には、ドグクラッチD1は係合状態とされるが、リバース段から前進の変速段に移行する前には、自動変速機100はニュートラル状態を経て前進の変速段に移行するので、第四リングギヤR4の回転が停止し、第四リングギヤR4に回転駆動力が伝達されていない状態で、ドグクラッチD1が係合方向に作動する。このため、係合部材D1−1が、容易に第四リングギヤR4及び回転部材B2−1とスプライン嵌合し、ドグクラッチD1が係合状態となる。
【0058】
(本実施形態の効果)
上記のように構成された自動変速機100によれば、第三クラッチCL3、第四クラッチCL4、及び第二ブレーキB2が係合されてリバース段が形成されている場合において、ドグクラッチD1が離脱方向に作動し、最後列の遊星歯車機構である第四遊星歯車機構P4の第四リングギヤR4がハウジングHから離脱され、第四遊星歯車機構P4において反力を支持するものが無くなるので、第四キャリアC4の逆回転に伴い、第四サンギヤS4が逆回転しない。このため、第四サンギヤS4と連結している最前列の遊星歯車機構である第一遊星歯車機構P1の第一リングギヤR1も逆回転しないため、第一キャリアC1の正回転に伴い、第一サンギヤS1が高速回転しない(
図9示)。
【0059】
このため、第一サンギヤS1を支持している軸受等の部材の耐久性が向上する。また、第一サンギヤS1に連結している第二ブレーキB2の相対回転速度が高くならず、第二ブレーキB2が焼けてしまう等の損傷の発生が防止される。
【0060】
また、
図9に示すように、リバース段が形成された場合に、第一サンギヤS1の回転速度が0となるだけでなく、第四サンギヤS4と回転連結されている各要素の回転速度が0となるか又は低下するので、各要素の耐久性が向上するとともに、摺動抵抗が減少し、車両の燃費が向上する。なお、
図9は、自動変速機100においてリバース段が形成され、入力軸1の回転速度を1とした場合の各要素の回転速度比を表したグラフである。
【0061】
また、第四リングギヤR4と回転部材B2−1とを係脱可能に連結する機構として、ドグクラッチD1を用いているので、摩擦係合要素を用いたクラッチと比べて、クラッチの係合状態及び離脱状態におけるフリクションロスの増加を抑えることができ、クラッチの部品点数の増加を防止することができる。
【0062】
また、係合部材D1−1は、第四リングギヤR4と回転部材B2−1との間にこれらと同軸に設けられているので、遊星歯車機構P1〜P4の配列や回転軸方向Lの位置を殆ど変更すること無くドグクラッチD1を設けることができ、自動変速機100の回転軸線L方向の大型化を抑制することができる。
【0063】
図4に示すように、出力軸Tが2つのベアリング31、32で両持ち支持されているので、一般的に自動変速機100のハウジングH内の後部において、遊星歯車機構P1〜P4の後方には空間Sが存在する(
図4示)。そして、
図7に示すように、ドグクラッチD1の離脱時には、係合部材D1−1が空間Sに移動する。このように、係合部材D1−1を後方に移動させるための空間を新たに設ける必要が無いので、自動変速機100の回転軸線L方向の大型化が防止される。
【0064】
また、パーキング部材41は、小径部41aと、小径部41aよりも大径な大径部41bと、小径部41aと大径部41bを接続する接続部41cが一体形成されて構成されている。このため、係合部材D1−1が後方に移動した場合に、係合部材D1−1が小径部41aの外側に位置して、係合部材D1−1がパーキング部材41に干渉しない。また、小径部41aよりも大径な大径部41bにストッパー部材42の係合突起42aが係合する係合凹部41dが形成されているので、確実に第四キャリアC4がハウジングHに固定されて、確実に各遊星歯車機構P1〜P4や出力軸TがハウジングHに対して回転不能になる。
【0065】
また、係合部材D1−1は、第四リングギヤR4及び回転部材B2−1とスプライン嵌合しているので、第四リングギヤR4と回転部材B2−1との間で確実な回転駆動力の伝達がなされ、確実に第四リングギヤR4と回転部材B2−1が係合又は離脱される。
【0066】
また、フォーク部材72(伝達部材)は、係合部材D1−1と連結されて係合部材D1−1の外周側に延出し、ドグクラッチアクチュエータ71の駆動力を係合部材D1−1に伝達する。これにより、ドグクラッチアクチュエータ71を任意の位置に配置することができる。本実施形態では、ドグクラッチアクチュエータ71は遊星歯車機構P1〜P4の外側に配置されているので、遊星歯車機構P1〜P4の配列や回転軸線L方向の位置を変更する必要が無いので、自動変速機100の回転軸線方向の大型化を確実に防止することができる。
【0067】
(別の実施形態)
以上説明した実施形態では、係合部材D1−1がその移動範囲の後方に位置している場合には、係合部材D1−1の第二スプライン溝D1−3は回転部材B2−1の回転部材スプライン溝B2−5から離脱し、第四リングギヤR4と回転部材B2−1が離脱する。しかし、係合部材D1−1の第一スプライン溝D1−2が、第四リングギヤR4のリングギヤスプライン溝R4−1から離脱する実施形態であっても差し支え無い。
【0068】
(第二実施形態の自動変速機)
以上説明した自動変速機100の技術的思想は、
図1に示すような構成の自動変速機に限定されず、リバース段が形成された際に、最後列の遊星歯車機構のキャリアの逆回転に伴い、最前列の遊星歯車機構のリングギヤが逆回転し、最前列の遊星歯車機構のサンギヤが高速回転されてしまう構成の自動変速機に広く適用することができる。このような自動変速機は、最前列の遊星歯車機構のリングギヤが最後列の遊星歯車機構のサンギヤと直結されて、ハウジングに回転軸線と同軸に支承された複数の遊星歯車機構と、最前列の遊星歯車機構のキャリアに直結された入力軸と、最後列の前記遊星歯車機構のキャリアに直結された出力軸を有する自動変速機であり、例えば、米国特許第7131926号明細書に示すような自動変速機である。
【0069】
このような自動変速機を第二実施形態の自動変速機200として、以下に、第一実施形態の自動変速機100と異なる点について説明する。なお、第二実施形態の自動変速機200において、第一実施形態の自動変速機100と同一の構造の部分については、第一実施形態の自動変速機100と同じ番号を付して、その説明を省略する。
【0070】
第二実施形態の自動変速機200は、入力側(
図8の左側、前方側とする)から出力側(
図8の右側、後方側とする)に向かって回転軸線L方向に並設された3個の遊星歯車機構P1〜P3を有している。
【0071】
出力軸Tは、出力軸連結部材4を介して第三キャリアC3に直結されている。第一リングギヤR1及び第三サンギヤS3は、第二サンギヤS2の内側を通って回転軸線L方向に延在する第三ギヤ連結部材17を介して直結されている。第二リングギヤR2及び第三キャリアC3は、第四ギヤ連結部材18を介して直結されている。
【0072】
第一ブレーキB1は、第一ブレーキ連結部材V1に直結されている第一サンギヤS1の回転を、第一ブレーキ連結部材V1を介して制動する。第二ブレーキB2は、回転部材B2−1の回転を制動する。
【0073】
第一クラッチCL1は、第二サンギヤ連結部材16を介して第二サンギヤS2に直結され、第二サンギヤS2と第一ブレーキ連結部材V1を係脱可能に連結する。第二クラッチCL2は、第二サンギヤ連結部材16を介して第二サンギヤS2に直結され、第一キャリアC1と、第二サンギヤS2を係脱可能に連結する。第三クラッチCL3は、第二クラッチ連結部材15を介して第二キャリアC2に直結され、第二キャリアC2と回転部材B2−1を係脱可能に連結する。第四クラッチCL4は、第三ギヤ連結部材17に直結され、第二キャリアC2と第三ギヤ連結部材17を係脱可能に連結する。ドグクラッチD1は、第三リングギヤR3と回転部材B2−1を係脱可能に連結する。
【0074】
第二実施形態の自動変速機200では、第二クラッチCL2、第三クラッチCL3、及び第二ブレーキB2を係合させることにより、リバース段が形成される。この係合状態では、第二クラッチCL2によって第一キャリアC1と第二サンギヤS2が連結されているので、入力軸Nの回転駆動力が、第二サンギヤS2に伝達される。そして、第二ブレーキB2及び第三クラッチCL3によって、第二キャリアC2がハウジングHに対して固定されているので、第二サンギヤS2の回転駆動力が逆回転方向に減速されたうえで、第二リングギヤR2から第三キャリアC3を介して、出力軸Tに伝達され、車両は後退する。
【0075】
このように構成された第二実施形態の自動変速機200においても、リバース段が形成された際に、ドグクラッチD1によって第三リングギヤR3が回転部材B2−1から離脱される。これにより、最後列の遊星歯車機構である第三遊星歯車機構P3の第三リングギヤR3がハウジングHから離脱され、第三遊星歯車機構P3において反力を支持するものが無くなるので、第三キャリアC3の逆回転に伴い、第三サンギヤS3が逆回転しない。このため、第三サンギヤS3と連結している最前列の遊星歯車機構である第一遊星歯車機構P1の第一リングギヤR1も逆回転しないため、第一キャリアC1の正回転に伴い、第一サンギヤS1が高速回転しない。