(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の油圧ピストンポンプ・モータにおいては、油溜め部の作動油は逃がし溝を経由しているため、その圧力はほぼ大気圧であるタンク圧に近い圧力まで落ちている。そして、油膜厚さが変わったときであっても、摺接面の半径方向における油膜の圧力分布は変わらず、シリンダブロックを支える油膜の耐荷重(以下、軸受荷重と称す。)も変わらない。
【0007】
そのため、従来の油圧ピストンポンプ・モータでは、油圧ピストンポンプ・モータに大きな負荷がかかって、ポンプ吐出圧が高くなった場合には、負荷荷重が油膜の軸受荷重を上回り、油膜が維持できなくなる事態が生じうる。このとき、ピストンボア内圧力によって、シリンダブロックは強くバルブプレートに押しつけられた状態で摺動し、摩耗や焼き付き等が生じる虞がある。
【0008】
本発明は、シリンダブロックとバルブプレートとの摺接面における潤滑性の向上が図られた油圧ピストンポンプ・モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一形態に係る油圧ピストンポンプ・モータは、回転するシリンダブロックと、シリンダブロックに対して往復動する複数のピストンと、ピストンによって拡縮されるシリンダブロック内のシリンダボアと、シリンダブロックと摺接するように配置され、シリンダブロック内のシリンダボアに対する作動油の給排を切り換えるバルブプレートとを備える油圧ピストンポンプ・モータであって、シリンダブロックとバルブプレートとが互いに摺接する摺接面は、少なくともいずれか一方に、作動油が流れる開口に隣接する第1シールランド面と、開口に対して第1シールランド面よりも外側に位置する第2シールランド面とを有し、摺接面におけるシリンダブロックとバルブプレートとの離間距離は、第1シールランド面における離間距離が第2シールランド面における離間距離よりも長い。
【0010】
上記油圧ピストンポンプ・モータにおいては、負荷荷重が変動したときには、油膜の軸受荷重と負荷荷重とが釣り合うように、シリンダブロックとバルブプレートの隙間が調節される。すなわち、大きな負荷荷重がかかって、シリンダブロックとバルブプレートの隙間が小さくなったときには、油膜の軸受荷重が大きくなるため、このようなときであっても、シリンダブロックとバルブプレートとの摺接面において高い潤滑性を実現することができる。
【0011】
また、摺接面は、少なくともいずれか一方に、第1シールランド面と第2シールランド面との間に位置する窪み部をさらに有し、窪み部における離間距離が第1シールランド面における離間距離よりも長い態様であってもよい。
【0012】
さらに、摺接面が、高い圧力の作動油が通過する高圧領域と、高圧領域の圧力よりも低い圧力の作動油が通過する低圧領域とを有し、摺接面は、少なくとも高圧領域に、第1シールランド面および第2シールランド面を有する態様であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シリンダブロックとバルブプレートとの摺接面における潤滑性の向上が図られた油圧ピストンポンプ・モータが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、同一又は同等の要素については同一の符号を付し、説明が重複する場合にはその説明を省略する。
(油圧ピストンポンプ・モータ)
【0016】
まず、本実施形態に係る油圧ピストンポンプ・モータとして、可変容量型ピストンポンプ(以下、単にポンプと称す。)1について、
図1を参照しつつ説明する。
【0017】
ポンプ1は、ポンプハウジング10と、ポンプハウジング10から突出する回転軸20とを備えている。
【0018】
ポンプハウジング10は、その内部にクランク室12を有する。ポンプハウジング10は、フロントハウジング10a、センタハウジング10b、リヤハウジング10cを接合することによって形成されている。
【0019】
回転軸20は、クランク室12内において支持されている。回転軸20は、そのポンプハウジング10からの突出端部が、図示しない動力取出装置に連結されており、エンジンにより直接回転されるようになっている。
【0020】
ポンプハウジング10のクランク室12には、回転軸20に一体回転可能にスプライン嵌合されたシリンダブロック14が収容されている。シリンダブロック14のシリンダボア14aは、シリンダブロック14において回転軸20の周囲に複数(本実施形態では9つ)が形成され、各シリンダボア14a内にはそれぞれピストン16が収容されている。
【0021】
また、ポンプハウジング10のクランク室12には、ポンプハウジング10に支軸30aを介して支持され、かつ、回転軸20の軸線方向に揺動可能な斜板30が収容されている。斜板30により、シリンダブロック14に収容された各ピストン16は、その一端部(
図1の左端部)が球面継手で連結されたシューを介して押接され、また、シリンダブロック14はリヤハウジング10cの内端壁面に止着されたバルブプレート40に押接される。
【0022】
そして、シリンダブロック14が回転軸20と一体的に回転されることにより、各ピストン16が斜板30の傾角により規定されたストロークを往復動されるとともに、シリンダボア14aがバルブプレート40に透設された円弧状をなす吸入ポート40aおよび吐出ポート40bと交互に連通される。これにより作動油が吸入ポート40aからシリンダボア14a内に吸入され、シリンダボア14a内の作動油はポンプ作用により吐出ポート40bから吐出される。なお、吸入通路10dおよび吐出通路10eはリヤハウジング10cに形成され、それぞれ吸入ポート40aおよび吐出ポート40bと連通されている。
【0023】
ポンプ1は、さらにコントロールピストン50を備えている。コントロールピストン50は、ポンプハウジング10のセンタハウジング10bの側部に設けられており、クランク室12に連通するハウジング52を有する。
【0024】
コントロールピストン50のハウジング52は、回転軸20に対して傾いた方向に延在し、かつ、斜板30の縁部に向かって延びる略円筒状の形状を有している。
【0025】
ハウジング52の開口のうち、斜板30から遠い方の開口は、ネジ54によって塞がれている。それにより、ハウジング52内にはピストン収容室56が画成され、このピストン収容室56にピストン部58が収容されている。なお、ピストン収容室56のうち、ピストン部58とネジ54との間の空間は、作動油が流入する制御室56aとして機能する。
【0026】
ピストン部58は、円柱状の外形を有しており、その径は、ピストン収容室56の内壁面との間に隙間がないように、かつ、ピストン収容室56においてピストン部58が摺動できるように設計される。
【0027】
コントロールピストン50によれば、制御室56aへの作動油を制御することで、ピストン部58を斜板30の向きに往復動させることができる。そして、ピストン部58が斜板30の縁部30bに設けられた球32を押圧すると、斜板30の傾角が変更され、その結果、ポンプ1の吐出容量が変更される。
(シリンダブロックとバルブプレートとの摺接面)
【0028】
続いて、上述したシリンダブロック14とバルブプレート40との摺接面について、
図2〜4を参照しつつ説明する。
【0029】
図2〜4に示すとおり、上述したバルブプレート40のシリンダブロック14側の面は、対向するシリンダブロック14の面15と摺接する摺接面41となっている。シリンダブロック14の面15も、バルブプレート40の面41と摺接する摺接面である。
【0030】
そして、バルブプレート40の摺接面41の吐出領域(すなわち、作動油を比較的高い圧力でシリンダブロック14から排出する高圧領域。
図3の右側領域)および吸込領域(すなわち、作動油を比較的低い圧力(吐出領域の圧力よりも低い圧力)でシリンダブロック14に供給する低圧領域。
図3の左側領域)の両方に、第1シールランド面42および第2シールランド面43A、43Bが設けられている。
【0031】
ここで、第1シールランド面42および第2シールランド面43A、43Bのそれぞれの形成領域は、
図3に示すとおりである。
【0032】
すなわち、バルブプレート40の摺接面41には、バルブプレート40の中心Oを曲率中心とする円弧状の吸入ポート40aおよび吐出ポート40bの開口が露出しており、第1シールランド面42は、吐出領域の吐出ポート40bに隣接するようにその回りを囲み、かつ、バルブプレート40の中心O回りに半周する半円環状領域に設けられている。
【0033】
一方、第2シールランド面43A、43Bは、吐出領域において、吐出ポート40bの開口に対して、第1シールランド面42よりも外側に位置しており、第1シールランド面42の半円環状領域よりも外側の半円環状領域に設けられた第2シールランド面43Aと、第1シールランド面42の半円環状領域よりも内側の半円環状領域に設けられた第2シールランド面43Bとで構成されている。なお、バルブプレート40の摺接面41の吸込領域において、吸入ポート40a以外の領域が全て第2シールランド面43となっている。
【0034】
また、第1シールランド面42および第2シールランド面43A、43Bの、シリンダブロック14の摺接面15との離間距離は
図4に示すとおりである。
【0035】
すなわち、第1シールランド面42は、シリンダブロック14の摺接面15に対して高さh
1だけ離間している。第2シールランド面43A、43Bはいずれも、シリンダブロック14の摺接面15に対して高さh
2だけ離間している。
図4に示すように、第1シールランド面42における離間距離h
1は、第2シールランド面43A、43Bにおける離間距離h
2よりも長く設計されている(すなわち、h
1>h
2)。それにより、第1シールランド面42と第2シールランド面43A、43Bとの境界は、
図4に示すような段部となる。
【0036】
発明者らは、鋭意研究の末、バルブプレート40の摺接面41に上述したような第1シールランド面42および第2シールランド面43A、43Bを設けることで、ポンプ1に以下のような特性が発現されることを新たに見出した。
【0037】
すなわち、ポンプ1においては、吐出圧から決まるピストンボア内圧力P
0が高くなって、シリンダブロック14とバルブプレート40との間隙が狭くなるに従い、第2シールランド面43A、43Bにおける油膜の軸受荷重が大きくなるような特性が発現する。
【0038】
上記特性は、上述した第1シールランド面42および第2シールランド面43A、43Bを、バルブプレート40の摺接面41の側ではなく、シリンダブロック14の摺接面15の側に設けた場合にも発現する。
【0039】
また、
図4に示したように、吐出ポート40bの両側に、第1シールランド面42および第2シールランド面43A、43Bを左右対称に設ける必要はなく、どちらか一方側にのみ第1シールランド面42および第2シールランド面43A、43Bを設けてもよい。
【0040】
さらに、
図5、6に示すように、第1シールランド面42と第2シールランド面43A、43Bとの間に、窪み部として環状溝44A、44Bを設けてもよい。
【0041】
図5に示すように、環状溝44A、44Bはいずれも、バルブプレート40の中心O回りに設けられており、上述した第1シールランド面42と第2シールランド面43Aとの間に環状溝44Aが設けられ、第1シールランド面42と第2シールランド面43Bとの間に環状溝44Bが設けられている。
【0042】
図6に示すように、環状溝44A、44Bはいずれも、シリンダブロック14の摺接面15に対して高さh
3だけ離間している。環状溝44A、44Bにおける離間距離h
3は、第1シールランド面42における離間距離h
1よりも長く設計されている(すなわち、h
3>h
1>h
2)。それにより、環状溝44A、44Bと、第1シールランド面42および第2シールランド面43A、43Bとの境界は、
図6に示すような段部となる。
【0043】
環状溝44A、44Bの内部の圧力P
1A、P
1Bの値は、ピストンボア内圧力P
0とバルブプレート40外側のタンク圧P
2A、P
2Bとの間の値であり、環状溝44A、44Bが設けられた領域は中間圧力領域ともいえる。
【0044】
発明者らは、上述したポンプ1の特性を検証するために、
図5に示したようにバルブプレート40の各特徴点の半径方向長さ(r
1〜r
8)を設定し、計算をおこなった。r
1はバルブプレート40の内縁までの長さ、r
2は中心Oから環状溝44Bの内縁までの長さ、r
3は中心Oから環状溝44Bの外縁までの長さ、r
4は中心Oから吐出ポート40bの内縁までの長さ、r
5は中心Oから吐出ポート40bの外縁までの長さ、r
6は中心Oから環状溝44Aの内縁までの長さ、r
7は中心Oから環状溝44Aの外縁までの長さ、r
8はバルブプレート40の外縁までの長さである。
【0045】
このとき、第2シールランド面43A、43Bにおける油膜の軸受荷重Fは、以下の式で表すことができる。
【数1】
【0046】
この式より、軸受荷重Fは隙間h
2=0のときに最大となり、h
2=∞のときに最小となることがわかる。すなわち、第2シールランド面43A、43Bにおける離間距離(すなわち、油膜厚さ)h
2が小さくなるほど、油膜の軸受荷重が大きくなる。
【0047】
上記式の軸受荷重Fを、概略的にグラフ化すると、
図7に示すようなグラフになる。すなわち、第2シールランド面43A、43Bにおける油膜厚さh
2が小さくなる(グラフの左側に移動する)に従って、油膜の軸受荷重Fが増大している。そのため、ある荷重F
1がポンプ1に負荷されたときには、油膜厚さh
2は、軸受荷重Fが負荷荷重F
1と釣り合う点Pの厚さに自動的に調節される。
【0048】
なお、上記特性を有しない従来技術にかかるポンプの軸受荷重F
0は、以下の式で表される。以下の式においては、r
1は中心からシールランド面の内縁までの長さ、r
2は中心からポートの内縁までの長さ、r
3は中心からポートの外縁までの長さ、r
4は中心からシールランド面の外縁までの長さである。
【数2】
【0049】
この式には、軸受荷重F
0には、シリンダブロック14とバルブプレート40との離間距離が含まれない。つまり、軸受荷重F
0は、吐出圧から決まるピストンボア内圧力P
0により決定される一定の値となる。すなわち、シリンダブロック14とバルブプレート40との間隙が狭くなっても、軸受荷重F
0が大きくなることはなく、負荷荷重F
1と軸受荷重F
0の差は、シリンダブロック14とバルブプレート40との金属接触により支えていることになり、摩耗や焼き付き等が生じる。
【0050】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0051】
たとえば、上述した第1シールランド面42、第2シールランド面43A、43B、環状溝44A、44Bは、バルブプレート40の摺接面41およびシリンダブロック14の摺接面15のいずれか、または両方に、設けることができる。
【0052】
また、
図8に示すように、環状溝44A、44Bを吐出領域の側にのみ設けてもよい。この場合、吸込領域の側に環状溝を設ける必要がないので、その分だけ吸入ポート40aの形成領域を拡大することができる。
【0053】
さらに、
図9に示すように、上述した環状溝44A、44Bに相当する環状溝17A、17Bのみを、シリンダブロック14側の摺接面15に設けてもよい。この場合、吸込み圧損を低減することができるので、キャビテーションの発生を防止することができる。
【0054】
また、窪み部は、環状の溝に限らず、第1シールランド面と第2シールランド面との間に配置された穴や、所定長さの溝であってもよい。
【0055】
なお、油圧ピストンポンプ・モータが、上述した可変容量型ピストンポンプ1のようなポンプである場合には、吐出領域における作動油の圧力が吸込領域における作動油の圧力よりも高く、少なくとも、摺接面において高圧側である吐出領域の側に、第1シールランド面および第2シールランド面(さらには窪み部)を設けることが好ましい。一方、油圧ピストンポンプ・モータが、モータである場合には、吸込領域における作動油の圧力が吐出領域における作動油の圧力よりも高く、少なくとも、摺接面において高圧側である吸込領域の側に、第1シールランド面および第2シールランド面(さらには窪み部)を設けることが好ましい。