特許第6179365号(P6179365)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6179365
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】音響透過性部材
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/44 20060101AFI20170807BHJP
   B32B 7/02 20060101ALI20170807BHJP
   G01S 7/521 20060101ALI20170807BHJP
   B63B 49/00 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   H04R1/44 330Y
   B32B7/02 101
   G01S7/521 A
   B63B49/00 B
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-237556(P2013-237556)
(22)【出願日】2013年11月18日
(65)【公開番号】特開2015-98086(P2015-98086A)
(43)【公開日】2015年5月28日
【審査請求日】2016年11月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】田所 眞人
(72)【発明者】
【氏名】田中 友輔
【審査官】 冨澤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−050683(JP,A)
【文献】 特開2012−154791(JP,A)
【文献】 特開平02−254387(JP,A)
【文献】 実開昭61−014391(JP,U)
【文献】 特開平01−126578(JP,A)
【文献】 中西 俊之 Toshiyuki Nakanishi,高分子材料を用いた3層構造低損失音響窓 An acoustic window with low transmission loss made of three polymer plastic layers,日本音響学会誌 第46巻 第3号,日本,社団法人日本音響学会,1999年 3月 1日,第46巻,p.205-211
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/44
B32B 7/02
B63B 49/00
G01S 7/521
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の音響周波数帯を透過周波数帯とする面状の音響透過性部材であって、
2層のスキン層の間に、N+1層のコア層と、N層の中間層とが交互に積層されており、
前記スキン層と前記中間層とが、前記コア層よりも弾性率が高い素材で形成されており、
前記コア層の厚さdcは、前記透過周波数帯の最大周波数fmおよび前記最大周波数fmにおける音波の波長λmに対して、下記式(1)および(2)を満たす、
ことを特徴とする音響透過性部材。
【数1】
【請求項2】
前記中間層の厚さは、前記スキン層の厚さの0.2倍以上3倍以下であり、
前記中間層および前記スキン層の厚さは0.1mm以上である、
ことを特徴とする請求項記載の音響透過性部材。
【請求項3】
前記スキン層および前記中間層は、弾性率が100MPa以上350GPa以下の素材で形成されている、
ことを特徴とする請求項1または2記載の音響透過性部材。
【請求項4】
前記スキン層および前記中間層は、繊維強化プラスチック、プラスチック、金属のいずれか1つで形成されている、
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項記載の音響透過性部材。
【請求項5】
前記コア層は、粘弾性体またはプラスチックで形成されている、
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項記載の音響透過性部材。
【請求項6】
前記コア層は、前記粘弾性体または前記プラスチック内にガラスマイクロバルーンが注入され、密度および弾性率が所定の値に形成されている、
ことを特徴とする請求項記載の音響透過性部材。
【請求項7】
前記コア層を形成する素材の音響インピーダンスと、前記音響透過性部材を外囲する流体の音響インピーダンスとの差が前記コア層を形成する素材の音響インピーダンスの50%以下である、
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項記載の音響透過性部材。
【請求項8】
2層の前記スキン層の前記コア層に積層される側と反対側の表面に、保護層が設けられている、
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項記載の音響透過性部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響透過性を有する音響透過性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶用ソーナー装置等の音響透過領域として、音響透過性を有する音響透過性部材が用いられている。従来の音響透過性部材としては、鋼製が代表的であるが、これを改良した構造として、いわゆるラバードームまたはラバーウィンドウと呼ばれるゴム製の音響透過性部材が知られている。これら従来の音響透過性部材は、基本的に単層構造であり、数kHz以下の低周波領域では良好な音響透過特性を得られるが、20kHz以上の高周波帯には適用が困難である。
【0003】
また、下記特許文献1では、コア層の両面をスキン層で覆ったサンドイッチ構造を用いた音響透過性部材が提案されている。
図13は、従来技術にかかる音響透過性部材の構造を示す説明図である。図13に示す音響透過性部材130は、コア層1302に厚さ5mmの天然ゴム、スキン層1304に厚さ2mmのCFRP(Carbon fiber Reinforced Plastics)を用いている。
この構造によれば、従来の音響透過性部材において音響透過性を得られる低周波領域に加えて、下記式(5)および(6)を満足する周波数fを透過する音響透過性部材を形成することができる。下記式(5)および(6)において、dcはコア層1302の厚さ、Cはコア層1302における音速、C0は外囲流体における音速である。
【0004】
【数1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許4997705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図13に示す従来構造のコア層には、ゴムやウレタンなどの粘弾性体が用いられる。このような粘弾性体は温度特性を有しており、温度の変化によって粘弾性体中の音速(上記式(5)におけるC)も変化する。また、外囲流体の音速(上記式(5)におけるC0)も温度によって変化する。このため、温度によって上記式(6)に示す周波数fにずれが生じ、システム性能に大きな影響を与えることになる。
【0007】
図14は、図13に示す音響透過性部材の透過特性を示すグラフである。
図14において、縦軸は透過損失ILであり、横軸は周波数を示す。グラフ中、符号1402は図13に示す音響透過性部材の水温20℃の水中における音響透過特性を実測した実測値である。また、符号1404は符号1402に示す実測値から水温20℃の水中における音響透過特性をモデル化した計算値、符号1406は符号1404に示す計算値に基づいて水温16℃の水中における音響透過特性を計算した計算値である。
【0008】
20℃から16℃への4℃の温度変化で、音速は15%変動することが予測され、この結果、符号1404および符号1406に示すように、高周波領域の窓領域が15%ずれることが予測される。たとえば、図14中の矢印で示す周波数150kHzでの透過損失は、水温20℃では0.6dB(1dB以下)であったのに対して、水温16℃では3.5dBに増大している。
【0009】
このように、上記従来技術によれば、音響透過性部材における透過帯域幅の拡大は可能であるものの、高周波領域において実用的に十分な帯域幅が得られないという課題がある。
【0010】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、高周波領域に広い音響透過帯域を得られる音響透過性部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した問題を解決し、目的を達成するため、本発明にかかる音響透過性部材は、所定の音響周波数帯を透過周波数帯とする面状の音響透過性部材であって、2層のスキン層の間に、N+1層のコア層と、N層の中間層とが交互に積層されており、前記スキン層と前記中間層とが、前記コア層よりも弾性率が高い素材で形成されており、前記コア層の厚さdcは、前記透過周波数帯の最大周波数fmおよび前記最大周波数fmにおける音波の波長λmに対して、下記式(1)および(2)を満たす、ことを特徴とする。
【0012】
【数2】
【0013】
発明にかかる音響透過性部材は、前記中間層の厚さが、前記スキン層の厚さの0.2倍以上3倍以下であり、前記中間層および前記スキン層の厚さは0.1mm以上である、ことを特徴とする。
発明にかかる音響透過性部材は、前記スキン層および前記中間層が、弾性率が100MPa以上350GPa以下の素材で形成されている、ことを特徴とする。
発明にかかる音響透過性部材は、前記スキン層および前記中間層が、繊維強化プラスチック、プラスチック、金属のいずか1つで形成されている、ことを特徴とする。
発明にかかる音響透過性部材は、前記コア層が、粘弾性体またはプラスチックで形成されている、ことを特徴とする。
発明にかかる音響透過性部材は、前記コア層が、前記粘弾性体または前記プラスチック内にガラスマイクロバルーンが注入され、密度および弾性率が所定の値に形成されている、ことを特徴とする。
発明にかかる音響透過性部材は、前記コア層を形成する素材の音響インピーダンスと、前記音響透過性部材を外囲する流体の音響インピーダンスとの差が前記コア層を形成する素材の音響インピーダンスの50%以下である、ことを特徴とする。
発明にかかる音響透過性部材は、2層の前記スキン層の前記コア層に積層される側と反対側の表面に、保護層が設けられている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、ダンピング層であるコア層が複数設けられているので、振動が励起されにくくなり、音響透過性部材が用いられる機器等の振動等による雑音を低減するとともに、外囲流体による雑音を抑制することができ、音響透過性部材が用いられる機器等の性能を向上させることができる。
請求項2の発明によれば、高周波領域まで連続した音響透過領域(窓領域)を形成することができるので、個々の音響透過性部材における製造バラツキや温度等の影響による特性変化の影響を受けることなく、良好な音響透過特性を得ることができる。また、上記のように個々の音響透過性部材10における製造バラツキを許容することができるため、製造時における歩留まりを向上させることができる。
請求項3の発明によれば、中間層およびスキン層の厚さを0.1mm以上とすることによって、音響透過性部材の強度を確保することができる。また、中間層およびスキン層の厚さの差を小さくする(たとえば等しくする)ことによって、音響透過性部材の性能を向上させることができる。
請求項4の発明によれば、スキン層および中間層を様々な素材で形成することができる。
請求項5の発明によれば、音響透過性部材の強度を確保しつつ、優れた音響透過特性を得ることができる。
請求項6の発明によれば、音響透過性部材の強度を確保しつつ、優れた音響透過特性を得ることができる。
請求項7の発明によれば、コア層を任意の密度および弾性率で形成することができる。
請求項8の発明によれば、境界面での反射を低減し、音響透過特性を向上させることができる。
請求項9の発明によれば、保護層により外囲流体からの圧力や海洋生物の影響を低減させ、音響透過性部材の強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】音響透過性部材を搭載した船舶用のソーナー装置20の構成を示す説明図である。
図2】実施の形態1にかかる音響透過性部材10の構成を示す説明図である。
図3図2の音響透過性部材10の音響透過特性を示すグラフである。
図4】コア層の厚さdcと限界周波数fmにおける音波の波長λmの比と限界周波数fmとの関係を示すグラフである。
図5】スキン層と中間層との厚さを等しくした場合の音響透過特性を示すグラフである。
図6】スキン層と中間層との厚さを等しくした場合のコア層の厚さdcと限界周波数fmとの関係を示すグラフである。
図7】音響透過性部材10と他の構成の部材との音響透過特性を比較するグラフである。
図8】実施の形態2にかかる音響透過性部材30,40の構成を示す説明図である。
図9】音響透過性部材30,40の音響透過特性を示すグラフである。
図10】音響透過性部材30,40の音響透過特性を示すグラフである。
図11】音響透過性部材30,40の音響透過特性を示すグラフである。
図12】他の音響透過性部材の構造を示す説明図である。
図13】従来技術にかかる音響透過性部材の構造を示す説明図である。
図14図13に示す音響透過性部材の透過特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照して、本発明にかかる音響透過性部材の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
(実施の形態1)
図1は、音響透過性部材を搭載した船舶用のソーナー装置20の構成を示す説明図である。本発明にかかる音響透過性部材は、たとえばソーナー装置20の音響透過領域αを形成するために用いられる。
ソーナー装置20は、船舶の船体に設けられたソーナー装置支持台(図示なし)の前端に配置され、常時水中に位置している。
ソーナー装置20は、送受波器24と音響窓26とを含んで構成されている。
送受波器24は、音響窓26の内部に支持されたFRP(Fiber Reinforced Plastics)製のフレーム28に搭載され、船舶の前方に向けて配置されている。
【0018】
音響窓26は、送受波器24を保護するものであり、送受波器24を覆うように設けられ、音響窓26の内部には水が充填されている。
音響窓26は、円筒部26Aと、円筒部26Aの先部に前方に凸状の曲面で形成された曲面部26Bとを有している。
送受波器24が搭載されたフレーム28は、円筒部26Aの内部で支持されている。
【0019】
音響窓26は、音響の透過を可能とした音響透過領域αと、音響を遮音する遮音領域βとを有している。
音響透過領域αを構成する音響窓26の曲面部26Bは、本発明にかかる音響透過性部材で構成されている。
また、遮音領域βを構成する音響窓26の円筒部26Aは、音響を遮音する(振動雑音の低減を含む)遮音材で構成されている。このような遮音材として、気泡(ガラスマイクロバルーン)を混在させたゴムやポリウレタンなどの粘弾性体(気泡分散型遮音材)や、あるいは、小孔が多数貫設された薄肉のゴム板の両面を薄肉のゴム板で挟んだもの(気孔型遮音材)など、従来公知の様々な材料が使用可能である。
本実施の形態では、音響透過領域αは、円筒部26A寄りの端部を除いた曲面部26Bの全域となっており、図1に示す範囲θが、クジラや流木などのような前方の障害物を送受波器24により探索する範囲となっている。
【0020】
つぎに、音響透過領域αを構成する音響透過性部材について説明する。
図2は、実施の形態1にかかる音響透過性部材10の構成を示す説明図である。
以下の説明では、説明の便宜上、音響透過性部材10を平面状に図示しているが、音響透過性部材10は、用途に応じて成形可能である。
実施の形態1にかかる音響透過性部材10は、音響透過性を有する面状の音響透過性部材である。音響透過性部材10は、100kHz以下の低周波領域から限界周波数fmまでの透過周波数帯を有する。限界周波数fmとは、音響透過性部材10の透過周波数帯の上限周波数である。
音響透過性部材10は、2層のスキン層102A,102Bの間に、1層の中間層104と、2層のコア層106A,106Bとが交互に積層されている(N=1)。より詳細には、図2の上部側から順に、スキン層102A、コア層106A、中間層104、コア層106B、スキン層102Bが積層されている。
なお、スキン層102A,102Bの表面、すなわち2層のスキン層102A,102Bのコア層106A,106Bに積層される側と反対側の表面に、さらに保護層が設けられていてもよい。この保護層は、たとえば外部からの荷重からソーナー装置20を保護したり、海洋生物忌避のために設けられる。
【0021】
つぎに、各層の素材について説明する。
スキン層102A,102Bと中間層104とは、コア層106A,106Bよりも弾性率が高い素材で形成されている。
スキン層102A,102Bおよび中間層104は、たとえば弾性率が100MPa以上350GPa以下の素材で形成されている。これは、弾性率が100MPa未満の素材では構造体として維持するのが困難となり、弾性率350GPaを超える素材では音響インピーダンスが高くなりすぎるためである。
スキン層102A,102Bおよび中間層104は、具体的には、たとえば繊維強化プラスチック(FRP(Fiber Reinforced Plastics)、具体的にはGFRP(Glass fiber Reinforced Plastics)、CFRP(Carbon fiber Reinforced Plastics)など)、プラスチック、金属(銅、チタンなど)のいずかで形成することができる。
【0022】
また、コア層106A,106Bは、たとえばゴムやポリウレタンなどの粘弾性体またはプラスチックで形成されている。
なお、コア層106A,106Bは、上記粘弾性体またはプラスチック内にガラスマイクロバルーンが注入され、密度および弾性率が所定の値に形成されていてもよい。
また、コア層106A,106Bを形成する素材の音響インピーダンスと、音響透過性部材10を外囲する流体(本実施の形態では水または海水)の音響インピーダンスとの差は、コア層106A,106Bを形成する素材の音響インピーダンスの50%以下とすることが望ましい。
ここで、音響インピーダンスは、物質の密度ρと縦波音速cの積ρcで与えられる。すなわち、コア層106A,106Bを形成する素材の音響インピーダンスは、コア層106A,106Bを形成する素材の密度ρ1と、コア層106A,106Bを形成する素材中の縦波音速c1との積ρ1c1とで与えられる。また、音響透過性部材10を外囲する流体の音響インピーダンスは、音響透過性部材10を外囲する流体の密度ρ2と、同流体中の縦波音速c2の積ρ2c2とで与えられる。
そして、コア層106A,106Bを形成する素材の音響インピーダンスρ1c1と、音響透過性部材10を外囲する流体の音響インピーダンスρ2c2との差が、音響インピーダンスρ1c1の50%以下となるように、コア層106A,106Bの密度および弾性率を調整することが望ましい。
これは、コア層106A,106Bを形成する素材の音響インピーダンスρ1c1と、音響透過性部材10を外囲する流体の音響インピーダンスρ2c2との差が大きいと、境界面での反射が大きくなり、音響透過性が低下するためである。
【0023】
つぎに、各層の厚さについて説明する。
中間層104の厚さは、スキン層102A,102Bの厚さの0.2倍以上3倍以下であり、中間層104およびスキン層102A,102Bの厚さは0.1mm以上とすることが望ましい。これは、後述するように中間層104およびスキン層102A,102Bの厚さの差を小さくする(たとえば等しくする)ことによって、音響透過性部材10の性能を向上させることができるためである。
また、コア層の厚さdcは、音響透過性部材10の透過周波数帯の最大周波数である限界周波数fmおよび限界周波数fmにおける音波の波長λmに対して、下記式(3)および(4)を満たすようにする。
【0024】
【数3】
【0025】
図3は、図2の音響透過性部材10の音響透過特性を示すグラフである。
図3には、スキン層102A,102Bの厚さを1.0mm、中間層104の厚さを2.0mmとして、コア層106A,106Bの厚さを10.5mm、9.0mm、7.0mm、5.0mm、3.0mm、1.0mmにそれぞれ変更した場合の音響透過特性がプロットされている。
図3のグラフにおいて、縦軸は透過損失(dB)であり、横軸は周波数(kHz)である。すなわち、それぞれの音響透過性部材10は、透過損失が小さい周波数帯の音響を透過させ、透過損失が大きい周波数帯の音響を遮断する性質を有する。
図3に示すように、それぞれの音響透過性部材10は、低周波領域で透過損失が小さく、高周波領域では透過損失の値が周期的に変化している。ここで、透過損失がほぼ0の低周波領域から連続して透過損失が3dB以下である帯域の上限周波数を「限界周波数fm」とすると、コア層106A,106Bの厚さが薄いほど限界周波数fmが上昇し、透過損失が小さい領域が拡大している。
【0026】
図4は、コア層の厚さdcと限界周波数fmにおける音波の波長λmの比と限界周波数fmとの関係を示すグラフである。
図4のグラフから、下記式(3)および(4)が導かれる。
【0027】
【数4】
【0028】
なお、スキン層102A,102Bと中間層104との厚さを等しく(たとえば1.0mm)した場合の音響透過特性およびコア層の厚さdcと限界周波数fmとの関係を図5および図6に示す。図5および図6のグラフの見方は、図3および図4と同様である。
スキン層102A,102Bと中間層104との厚さを等しくした場合には、上記式(3)および(4)における係数が変わり、下記式(1)および(2)のようになる。
【0029】
【数5】
【0030】
図7は、音響透過性部材10と他の構成の部材との音響透過特性を比較するグラフである。
図7Aのグラフは、図7Bに示す各部材の音響透過特性を示している。図7Bの(1)に示すサンドイッチ構造は、ゴムで形成されたコア層の両面を、CFRPで形成されたスキン層ではさんでおり、スキン層の厚さは1.5mm、コア層の厚さは11mmである。
図7Bの(2)に示す二重サンドイッチ構造は、図2に示す本実施の形態にかかる音響透過性部材10と同様の構造であり、CFRPで形成されたスキン層、ゴムで形成されたコア層、CFRPで形成された中間層、ゴムで形成されたコア層、CFRPで形成されたスキン層の順に積層されている。スキン層の厚さは1.0mm、コア層の厚さは10.5mm、中間層の厚さは2.0mmである。
図7Bの(3)は、(2)に示す二重サンドイッチ構造の各層の厚さを変更したものであり、スキン層の厚さは1.0mm、コア層の厚さは2mm、中間層の厚さは1.0mmである。
図7Bの(4)は、CFRP単体の板であり、(3)に示す二重サンドイッチ構造のスキン層および中間層(CFRPで形成された部分)の厚さの総和と同一の厚さ(3mm)を有する。
【0031】
(1)に示すサンドイッチ構造と、(2)に示す二重サンドイッチ構造とを比較すると、高周波領域における透過損失の極大値は(2)の方が大きくなっているが、透過損失の極小値近傍における帯域幅は(1)よりも(2)の方が拡大している。より詳細には、たとえば透過損失が極小になる値から+0.5dBまでの範囲を良好な音響透過特性が得られる帯域として評価すると、100kHz付近の帯域では(1)の方が帯域幅が広くなっているが、それ以上の周波数帯(160kHz、230kHz、300kHz)では(2)の方が帯域幅が広くなっており、高周波領域においても良好な音響透過特性が得られることがわかる。
【0032】
また、(3)に示すコア層を薄くした二重サンドイッチ構造と他の構造とを比較すると、(3)は限界周波数fmが200kHzを超えており、他の構造と比較して良好な音響透過特性が得られる帯域が広くなっている。
【0033】
以上説明したように、実施の形態1にかかる音響透過性部材10によれば、ダンピング層であるコア層106A,106Bが2層設けられているので、振動が励起されにくくなる。このため、自船の振動等による雑音を低減するとともに、外囲流体による雑音を抑制することができ、ソーナー装置20による探索の精度を向上させることができる。
【0034】
また、音響透過性部材10は、高周波領域まで連続した音響透過領域(窓領域)を形成することができるので、個々の音響透過性部材10における製造バラツキや温度等の影響による特性変化の影響を受けることなく、良好な音響透過特性を得ることができる。
また、上記のように個々の音響透過性部材10における製造バラツキを許容することができるため、製造時における歩留まりを向上させることができる。
また、コア層106A,106Bを薄く形成することにより、音響透過性部材10の軽量化を図ることができるとともに、製造コストを低減することができる。
【0035】
(実施の形態2)
実施の形態1では、2層のスキン層の間に、1層の中間層と、2層のコア層とが交互に積層するようにした(N=1)。
実施の形態2では、中間層とコア層の積層層数を増加させ、2層のスキン層の間に、N層の中間層と、N+1層のコア層とを交互に積層することとする(N≧2)。
図8は、実施の形態2にかかる音響透過性部材30,40の構成を示す説明図である。
図8Aに示す音響透過性部材30は、2層のスキン層302A,302Bの間に、2層の中間層304A,304Bと、3層のコア層306A,306B,306Cとが交互に積層されている(N=2)。より詳細には、図8Aの上部側から順に、スキン層302A、コア層306A、中間層304A、コア層306B、中間層304B、コア層306C、スキン層302Bが積層されている。
また、図8Bに示す音響透過性部材40は、2層のスキン層402A,402Bの間に、3層の中間層404A,404B,404Cと、4層のコア層406A,406B,406C,406Dとが交互に積層されている(N=3)。より詳細には、図8Bの上部側から順に、スキン層402A、コア層406A、中間層404A、コア層406B、中間層404B、コア層406C、中間層404C、コア層406D、スキン層402Bが積層されている。
【0036】
各層を構成する素材は、実施の形態1と同様であり、スキン層302A,302B,402A,402Bと中間層304A,304B,404A〜404Cとは、コア層306A〜306C,406A〜406Dよりも弾性率が高い素材で形成されている。
以下では、スキン層302A,302B,402A,402Bおよび中間層304A,304B,404A〜404CはCFRPで、コア層306A〜306C,406A〜406Dはゴムで形成されているものとする。
【0037】
図9図11は、音響透過性部材30,40の音響透過特性を示すグラフである。
図9図11は、音響透過性部材30,40の他に、図12に示す他の部材の音響透過特性も比較のために示している。
図12の(5)は音響透過性部材30であり、図12の(6)は音響透過性部材40である。図9図11に示す音響透過特性は、音響透過性部材30,40のスキン層、中間層、およびコア層の厚さを変更して計算をおこなったものである。図9図11では、スキン層および中間層を同一の厚さtsとし、コア層の厚さをtcとしている。
また、図12の(1)に示すサンドイッチ構造は、ゴムで形成されたコア層の両面を、CFRPで形成されたスキン層ではさんでおり、スキン層の厚さは1.5mm、コア層の厚さは5mmである。
図12の(2)に示す二重サンドイッチ構造は、CFRPで形成されたスキン層、ゴムで形成されたコア層、CFRPで形成された中間層、ゴムで形成されたコア層、CFRPで形成されたスキン層の順に積層されている。スキン層の厚さは1.0mm、コア層の厚さは5.0mm、中間層の厚さは2.0mmである。
また、図12の(3)は、図12(1)に示すサンドイッチ構造の厚さを変更したものであり、スキン層の厚さをts、コア層の厚さをtcとする。
また、図12の(4)は、図12(2)に示す二重サンドイッチ構造の厚さを変更したものであり、スキン層および中間層の厚さをts、コア層の厚さをtcとする。
【0038】
図9A図9Cは、スキン層および中間層の厚さtsを1mmに固定し、コア層の厚さtcを0.5mm(図9A)、1.0mm(図9B)、2.0mm(図9C)に変更した結果をそれぞれ示す。また、図9Dは、各部材(3)〜(6)における限界周波数fm(低周波領域から連続して透過損失が3dB以下である帯域の上限周波数)である。
図9A図9Cでは、コア層の厚さtcが薄いほど限界周波数fmが高くなる。また、中間層およびコア層の層数が増加するほど、限界周波数fmより高周波領域における透過損失の極大値は大きくなる。一方、限界周波数fmについては、中間層およびコア層の層数が変化しても大きな変化はない。
【0039】
図10A図10Cは、コア層の厚さtcを1mmに固定し、スキン層および中間層の厚さtsを0.5mm、1.0mm、2.0mmに変更した結果をそれぞれ示す。また、図10Dは、各部材(3)〜(6)における限界周波数fmである。
図10A図10Cにおいても、スキン層および中間層の厚さtsが薄いほど限界周波数fmが高くなる。また、中間層およびコア層の層数が増加するほど、限界周波数fmより高周波領域における透過損失の極大値は大きくなる。一方、限界周波数fmについては、中間層およびコア層の層数が変化しても大きな変化はない。
【0040】
図11A図11Cは、スキン層および中間層の厚さtsとコア層の厚さtcとを等しく0.5mm、0.75mm、1.0mmに変更した結果をそれぞれ示す。また、図11Dは、各部材(3)〜(6)における限界周波数fmである。
図11A図11Cにおいて、スキン層および中間層の厚さtsとコア層の厚さtcとが薄いほど限界周波数fmが高くなっている。
【0041】
図9図11から、低周波領域における透過損失が低い領域を拡大して限界周波数fmを高くするためには、スキン層および中間層の厚さts、コア層の厚さtcをそれぞれ薄くすることが有効であることがわかる。
また、図9図11から、限界周波数fmの値は、中間層およびコア層の層数の違いによる変化は小さいことがわかる。よって、中間層およびコア層の積層層数は、音響透過性部材10への強度要求に応じて任意に設定することが可能であるといえる。
【0042】
以上説明したように、実施の形態2にかかる音響透過性部材30,40によれば、スキン層、中間層およびコア層の厚さを音響透過性部材に要求される限界周波数を満たす程度に薄くした上で、中間層およびコア層の積層層数を音響透過性部材に要求される強度を満たすように調整することにより、任意の特性の音響透過性部材を得ることができる。
【符号の説明】
【0043】
10,30,40……音響透過性部材、102A,102B,302A,302B,402A,402B……スキン層、104,304A,304B,404A,404B,404C……中間層、106A,106B,306A,306B,306C,406A,406B,406C,406D……コア層。
図1
図2
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