(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用活物質、リチウムイオン二次電池用電極、リチウムイオン二次電池、電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具および電子機器
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本技術の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。
1.二次電池用活物質
2.二次電池用活物質の適用例
2−1.二次電池用電極および二次電池(円筒型のリチウムイオン二次電池)
2−2.二次電池用電極および二次電池(ラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池)
2−3.二次電池用電極および二次電池(リチウム金属二次電池)
3.二次電池の用途
3−1.電池パック
3−2.電動車両
3−3.電力貯蔵システム
3−4.電動工具
【0017】
<1.二次電池用活物質>
本技術の一実施形態の二次電池用活物質(以下、単に「活物質」ともいう。)は、二次電池の電極に用いられるものである。この二次電池は、例えば、リチウム二次電池などであり、ここで説明する活物質は、例えば、正極活物質として用いられてもよいし、負極活物質として用いられてもよい。
【0018】
[活物質の物性]
活物質は、電極反応物質を吸蔵放出可能である。この電極反応物質とは、電極反応時において電極間を移動可能な物質であり、例えば、リチウム二次電池のリチウムなどである。
【0019】
特に、飛行時間型二次イオン質量分析法を用いて活物質を負イオン分析したとき、その負イオン分析により得られる特定の2つの負イオンに起因するピークの強度比は、特定の条件を満たしている。この飛行時間型二次イオン質量分析法とは、いわゆるTOF−SIMS(Time-of-flight secondary ion mass spectrometry)である。
【0020】
詳細には、硫黄(S)を構成元素として含む負イオン(SO
2-)に起因するピークと、フッ素(F)を構成元素として含む負イオン(LiF
2-)に起因するピークとに着目する。この場合には、SO
2-に起因するピークの強度をIS、LiF
2-に起因するピークの強度をIFとすると、それらの2つのピークの強度比IS/IFは、0.04以上である。
【0021】
SO
2-に起因するピークは、主に、活物質の表面およびその近傍に存在するスルホニル基(>SO
2 )などに起因して生じるピークであり、そのピークの強度ISが大きいほど、活物質と一緒に二次電池に用いられる電解液の分解反応が抑制される。活物質では、スルホニル基を有する表層部分により、電極反応物質の吸蔵放出を担う主要部分(中心部分)が被覆されるため、電極反応時において中心部分が活性化しても、その主要部分が化学的に保護されるからである。これにより、活物質の化学的安定性が向上するため、電極反応を繰り返しても電解液が分解しにくくなる。
【0022】
TOF−SIMSでは、試料(ここでは活物質)の表面近傍における組成(イオン種およびその割合)が測定される。このため、活物質の負イオン分析によりSO
2-に起因するピークが検出されるということは、そのSO
2-を生じさせるスルホニル基が活物質の表面近傍に存在していることを表している。
【0023】
一方、LiF
2-に起因するピークは、主に、活物質と一緒に二次電池に用いられる他の材料(例えば電解質塩およびその分解物)などに起因して生じるピークであり、そのピークの強度IFが小さいほど、活物質の電気抵抗が低下する。活物質の表面およびその近傍におけるフッ素の存在量が減少するため、高抵抗化を招くフッ化リチウム(LiF)などの不活性物が生じにくくなるからである。この不活性物は、電極反応物質の吸蔵放出を阻害する可能性もあるため、フッ素の存在量が減少することで、電極反応物質の吸蔵放出も阻害されにくくなる。
【0024】
強度比IS/IFが0.04以上であるのは、上記した2つのピークの強度IS,IF間のバランスが適正化されるため、電解液の分解反応の抑制と活物質の電気抵抗の上昇抑制とが両立されるからである。詳細には、強度比IS/IFが小さすぎると(IS/IF<0.04)、スルホニル基を有する表層部分による中心部分の被覆量が不足するか、または不活性物の発生要因となるフッ素の存在量が過剰になる。このため、活物質の表面およびその近傍にスルホニル基が存在しているにもかかわらず、電解液の分解抑制機能が発揮されないか、または活物質の電気抵抗が著しく高くなる。これに対して、強度比IS/IFが適正範囲内であると(IS/IF≧0.04)、スルホニル基を有する表層部分による中心部分の被覆量が確保されると共に、フッ素の存在量が少なく抑えられる。このため、電解液の分解反応が生じにくくなると共に、活物質の電気抵抗も増加しにくくなる。
【0025】
この強度比IS/IFは、TOF−SIMS装置を用いた負イオン分析の分析結果から求められる。詳細には、最初に、活物質を負イオン分析して、複数の負イオンに起因するピークを含むTOF−SIMSスペクトル(横軸=質量、縦軸=強度)を得る。続いて、複数のピークの中から、SO
2-に起因するピークと、LiF
2-に起因するピークとを特定して、それぞれのピークの強度IS,IFを調べる。最後に、強度比IS/IF=SO
2-に起因するピークの強度IS/LiF
2-に起因するピークの強度IFを算出する。
【0026】
ここで、強度IS,IFを測定するために用いるTOF−SIMS装置は、例えば、ION−TOF社製のTOF−SIMS Vとする。また、測定条件は、一次イオン種=Bi
3+、イオン銃加速電圧=25kV、イオン電流=0.3pA、パルス幅=15.2ns、パルス周波数=10kHz(高質量分解能測定時)または20kHz(高空間分解能測定時)、走査範囲=200μm□(高質量分解能測定時)または60μm□(高空間分解能測定時)とする。
【0027】
[活物質の構成]
この活物質は、電極反応物質を吸蔵放出可能であると共に、強度比IS/IFが上記した条件を満たしていれば、どのような構成を有していてもよい。
【0028】
図1は、活物質100の断面構成を表している。この活物質100は、例えば、電極反応物質を吸蔵放出可能である中心部101と、その中心部101に設けられた被覆部102とを含んでいる。
【0029】
[中心部]
中心部101は、活物質100の内側に存在する主要部分(内郭部分)であり、電極反応物質を吸蔵放出可能である電極材料のいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。
【0030】
電極材料の種類は、電極活物質を吸蔵放出可能であれば、特に限定されない。この電極材料は、リチウム(Li)を構成元素として含む化合物(リチウム含有化合物)であることが好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。このリチウム含有化合物は、例えば、リチウム複合酸化物、リチウムリン酸化合物およびリチウム硫化物の他、リチウムを含む層間化合物などでもよい。このリチウム複合酸化物とは、リチウムと1または2以上の遷移金属元素とを構成元素として含む酸化物であり、リチウムリン酸化合物とは、リチウムと1または2以上の遷移金属元素とを構成元素として含むリン酸化合物である。
【0031】
中でも、リチウム含有化合物は、リチウム複合酸化物およびリチウムリン酸化合物であることが好ましい。より高いエネルギー密度が安定に得られるからである。
【0032】
リチウム複合酸化物は、例えば、下記の式(11)〜式(13)のいずれかで表される平均組成を有する化合物であり、いわゆる層状岩塩型の結晶構造を有している。
【0033】
Li
a1Ni
(1-b1-c1) Mn
b1M1
c1O
(2-d1)X
e1 ・・・(11)
(M1は、長周期型周期表における2族〜15族の元素(NiおよびMnを除く)からなる群のうちの少なくとも1種であり、Xは、長周期型周期表における16族および17族の元素(Oを除く)からなる群のうちの少なくとも1種である。a1、b1、c1、d1およびe1は、0≦a1≦1.5、0≦b1≦1、0≦c1≦1、−0.1≦d1≦0.2、0≦e1≦0.2を満たす。ただし、Liの組成(モル比)は充放電状態に応じて異なり、a1の値は完全放電状態の値である。)
【0034】
Li
a2Co
(1-b2)M2
b2O
(2-c2) ・・・(12)
(M2は、V、Cu、Zr、Zn、Mg、Al、Ga、YおよびFeからなる群のうちの少なくとも1種である。a2、b2およびc2は、0.9≦a2≦1.1、0≦b2≦0.3および−0.1≦c2≦0.1を満たす。なお、Liの組成(モル比)は充放電状態に応じて異なり、a2の値は完全放電状態の値である。)
【0035】
Li
a3Ni
b3Co
c3Mn
d3M3
(1-b3-c3y-d3) O
(2-e3) ・・・(13)
(M3は、V、Cu、Zr、Zn、Mg、Al、Ga、YおよびFeからなる群のうちの少なくとも1種である。a3、b3、c3、d3およびe3は、0.9≦a3≦1.1、0<b3<1、0<c3<1、0<d3<0.5、−0.1≦e3≦0.1および0≦1−b3−c3−d3を満たす。なお、Liの組成(モル比)は充放電状態に応じて異なり、a3の値は完全放電状態の値である。)
【0036】
層状岩塩型の結晶構造を有するリチウム複合酸化物の具体例は、コバルト酸リチウム(LiCoO
2 )、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2 )およびニッケルコバルトマンガン複合リチウム酸化物(LiCoNiO
2 )などであり、これ以外の化合物でもよい。中でも、リチウム複合酸化物は、遷移金属元素としてコバルト(Co)を含んでいることが好ましい。高い放電電圧が得られるからである。
【0037】
また、リチウム複合酸化物は、例えば、下記の式(14)で表される平均組成を有する化合物であり、いわゆるスピネル型の結晶構造を有している。
【0038】
Li
a4Mn
(2-b4)M4
b4O
c4F
d4 ・・・(14)
(M4は、Co、Ni、Mg、Al、B、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Mo、Sn、Ca、SrおよびWからなる群のうちの少なくとも1種である。a4、b4、c4およびd4は、0.9≦a4≦1.1、0≦b4≦0.6、3.7≦c4≦4.1および0≦d4≦0.1を満たす。なお、Liの組成(モル比)は充放電状態に応じて、a4の値は完全放電状態の値である。
【0039】
スピネル型の結晶構造を有するリチウム複合酸化物の具体例は、マンガン酸リチウム(LiMn
2 O
4 )などであり、これ以外の化合物もよい。
【0040】
リチウムリン酸化合物は、例えば、下記の式(15)および式(16)のいずれかで表される平均組成を有する化合物であり、いわゆるオリビン型の結晶構造を有している。
【0041】
Li
a5M5
b5PO
4 ・・・(15)
(M5は、長周期型周期表における2族〜15族の元素からなる群のうちの少なくとも1種である。a5およびb5は、0≦a5≦2および0.5≦b5≦2を満たす。)
【0042】
Li
a6M6PO
4 ・・・(16)
(M6は、Co、Mn、Fe、Ni、Mg、Al、B、Ti、V、Nb、Cu、Zn、Mo、Ca、Sr、WおよびZrからなる群のうちの少なくとも1種である。a6は、0.9≦a6≦1.1を満たす。なお、Liの組成(モル比)は充放電状態に応じて異なり、a6の値は完全放電状態の値である。)
【0043】
オリビン型の結晶構造を有するリチウムリン酸化合物の具体例は、リチウム鉄リン酸塩(LiFePO
4 )などであり、これ以外の化合物もよい。
【0044】
リチウム複合酸化物およびリチウムリン酸化合物の中でも、層状岩塩型の結晶構造を有するリチウム複合酸化物であることが好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。
【0045】
上記した一連のリチウム含有化合物は、長周期型周期表における2族〜15族の元素からなる群のいずれか1種類または2種類以上により一部の構成元素が置換されていたり、フッ素化処理などが施されてもよい。
【0046】
この他、電極材料は、例えば、酸化物、二硫化物、カルコゲン化物および導電性高分子などのいずれか1種類または2種類以上でもよい。酸化物は、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムおよび二酸化マンガンなどである。二硫化物は、例えば、二硫化チタンおよび硫化モリブデンなどである。カルコゲン化物は、例えば、セレン化ニオブなどである。導電性高分子は、例えば、硫黄、ポリアニリンおよびポリチオフェンなどである。
【0047】
なお、中心部101(例えば上記したリチウム含有化合物)は、例えば、その表面に、リチウム含有化合物を構成する遷移金属元素とは異なる種類である1または2以上の元素(以下、「被覆元素」という。)を有していてもよい。活物質100の電気化学的安定性が向上するからである。
【0048】
被覆元素の種類は、特に限定されないが、中でも、リチウム含有化合物に含まれている遷移金属元素(いわゆる主要な遷移金属元素)とは異なる種類の元素であることが好ましい。この主要な遷移金属元素とは、リチウム含有化合物に含まれる遷移金属元素のうち、最も含有割合(モル比)が大きい1種類の遷移金属元素である。一例を挙げると、リチウム含有化合物がLiCo
0.98Al
0.01Mg
0.01O
2である場合の主要な遷移金属元素は、Coである。このため、被覆元素は、Co以外の元素のいずれか1種類または2種類以上となる。被覆元素の具体例は、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)およびリン(P)などである。
【0049】
[被覆部]
被覆部102は、中心部101の表面のうちの少なくとも一部に設けられている。このため、被覆部102は、中心部101の表面全体に設けられていてもよいし、その表面の一部に設けられていてもよい。後者の場合には、中心部101の表面における複数箇所に被覆部102が存在していてもよい。
【0050】
被覆部102は、例えば、スルホニル基(>SO
2 )を有する化合物(以下、「スルホニル化合物」という。)のいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。中心部101の表面にスルホニル基が存在することで、上記したように、中心部101が化学的に保護されるため、活物質100の化学的安定性が向上するからである。このスルホニル化合物は、スルホニル基を1つだけ有していてもよいし、2つ以上有していてもよい。
【0051】
このスルホニル化合物は、上記したように1または2以上のスルホニル基を有していれば、どのような化合物でもよい。具体的には、スルホニル化合物は、例えば、下記の式(1)〜式(4)のそれぞれで表される化合物からなる群のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。
【0052】
【化1】
(R1〜R4のそれぞれは、水素基、炭化水素基、酸素含有炭化水素基、ハロゲン基、ハロゲン化炭化水素基、ハロゲン化酸素含有炭化水素基、またはそれらの2種類以上が結合された基であり、R1〜R4のうちの任意の2つ以上は、互いに結合されていてもよい。)
【0053】
【化2】
(R5およびR6のそれぞれは、水素基、炭化水素基、酸素含有炭化水素基、ハロゲン基、ハロゲン化炭化水素基、ハロゲン化酸素含有炭化水素基、またはそれらの2種類以上が結合された基であり、R5およびR6は、互いに結合されていてもよい。Mは、金属元素である。)
【0054】
【化3】
(R7〜R12のそれぞれは、水素基、炭化水素基、酸素含有炭化水素基、ハロゲン基、ハロゲン化炭化水素基、ハロゲン化酸素含有炭化水素基、またはそれらの2種類以上が結合された基であり、R7〜R12のうちの任意の2つ以上は、互いに結合されていてもよい。)
【0055】
【化4】
(R13〜R16のそれぞれは、水素基、炭化水素基、酸素含有炭化水素基、ハロゲン基、ハロゲン化炭化水素基、ハロゲン化酸素含有炭化水素基、またはそれらの2種類以上が結合された基であり、R13〜R16のうちの任意の2つ以上は、互いに結合されていてもよい。)
【0056】
式(1)に示した化合物は、1つのスルホニル基を有する鎖状の化合物である。式(2)に示した化合物は、2つのスルホニル基を有する鎖状の化合物である。式(3)に示した化合物は、1つのスルホニル基を有する環状の化合物であり、環内に不飽和結合(炭素間二重結合)を有していない。式(4)に示した化合物は、1つのスルホニル基を有する環状の化合物であり、環内に不飽和結合(炭素間二重結合)を有している。
【0057】
特に、式(1)および式(2)のそれぞれに示した化合物は、スルホニル基と共に、窒素結合(>N−)を有している。スルホニル基中の硫黄原子(S)と窒素結合(窒素原子(N))とは、互いに結合されていてもよいし、結合されていなくてもよい。中でも、硫黄原子と窒素結合とは、互いに結合されていることが好ましい。より高い効果が得られるからである。
【0058】
式(1)〜式(4)に示したR1〜R16およびMに関する詳細は、以下の通りである。
【0059】
式(1)中のR1〜R4のそれぞれの種類は、水素基、炭化水素基、酸素含有炭化水素基、ハロゲン基、ハロゲン化炭化水素基、ハロゲン化酸素含有炭化水素基、またはそれらの2種類以上が結合された基のいずれかであれば、特に限定されない。スルホニル化合物が式(1)に示した化学的構造を有していれば、R1〜R4の種類に依存せずに、上記した利点が得られるからである。
【0060】
なお、R1〜R4は、互いに同じ種類でもよいし、互いに異なる種類でもよいし、R1〜R4のうちの任意の2つ以上が互いに同じ種類でもよい。また、R1〜R4のうちの任意の2つ以上は、互いに結合されており、その結合された基同士により環が形成されていてもよい。
【0061】
炭化水素基とは、炭素(C)および水素(H)により構成される1価の基の総称であり、直鎖状でもよいし、1または2以上の側鎖を有する分岐状でもよい。この炭化水素基は、炭素間多重結合(炭素間二重結合または炭素間三重結合)を有する不飽和炭化水素基でもよいし、その炭素間多重結合を有しない飽和炭化水素基でもよい。
【0062】
炭化水素基の具体例は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基およびシクロアルキル基などであり、それらの炭素数は、特に限定されない。炭素数に依存せずに、上記した利点が得られるからである。
【0063】
中でも、アルキル基の炭素数は1〜12、アルケニル基およびアルキニル基の炭素数は2〜12、アリール基の炭素数は6〜18、シクロアルキル基の炭素数は3〜18であることが好ましい。また、アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基の炭素数は、6以下であることがより好ましく、4以下であることがさらに好ましい。優れた溶解性および相溶性などが確保されるからである。
【0064】
一例を挙げると、アルキル基は、メチル基(−CH
3 )、エチル基(−C
2 H
5 )およびプロピル基(−C
3 H
7 )などである。アルケニル基は、ビニル基(−CH=CH
2 )およびアリル基(−CH
2 −CH=CH
2 )などである。アルキニル基は、エチニル基(−C≡CH)などである。アリール基は、フェニル基およびナフチル基などである。シクロアルキル基は、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基およびシクロオクチル基などである。
【0065】
ハロゲン基は、例えば、フッ素基、塩素基、臭素基およびヨウ素基などであり、中でも、フッ素基が好ましい。より高い効果が得られるからである。
【0066】
ハロゲン化炭化水素基とは、上記した炭化水素基のうちの少なくとも一部の水素基がハロゲン基により置換(ハロゲン化)されたものである。このハロゲン基の種類は、上記した通りである。一例を挙げると、ハロゲン化炭化水素基は、例えば、トリフルオロメチル基(−CF
3 )およびペンタフルオロエチル基(−C
2 F
5 )などである。
【0067】
酸素含有炭化水素基とは、炭素および水素と共に酸素(O)により構成される1価の基の総称である。直鎖状でも分岐状でもよいこと、および炭素間多重結合を有していてもいなくてもよいことは、上記した炭化水素基と同様である。
【0068】
酸素含有炭化水素基の具体例は、アルコキシ基などであり、その炭素数は、特に限定されない。炭素数に依存せずに、上記した利点が得られるからである。中でも、アルコキシ基の炭素数は、1〜18であることが好ましく、6以下であることがより好ましく、4以下であることがさらに好ましい。優れた溶解性および相溶性などが確保されるからである。一例を挙げると、アルコキシ基は、メトキシ基(−OCH
3 )、エトキシ基(−OC
2 H
5 )およびプロポキシ基(−OC
3 H
7 )などである。
【0069】
ハロゲン化酸素含有炭化水素基とは、上記した酸素含有炭化水素基のうちの少なくとも一部の水素基がハロゲン基により置換(ハロゲン化)されたものである。このハロゲン基の種類は、上記した通りである。一例を挙げると、ハロゲン化酸素含有炭化水素基は、トリフルオロメトキシ基(−OCF
3 )およびペンタフルオロエトキシ基(−OC
2 F
5 )などである。
【0070】
それらの2種類以上が結合された基とは、上記した水素基、炭化水素基、酸素含有炭化水素基、ハロゲン基、ハロゲン化炭化水素基およびハロゲン化酸素含有炭化水素基のうちの任意の2種類以上が全体として1価となるように結合された基である。
【0071】
この2種類以上が結合された基の種類は、特に限定されないが、一例を挙げると、アリール基とアルキル基とが結合された基(ベンジル基)、シクロアルキル基とアルキル基とが結合された基、アルコキシ基とアルキル基とが結合された基、および2つのアルキル基が1つのエーテル結合を介して結合された基などである。
【0072】
この他、R1〜R4のそれぞれは、上記した一連の基以外の基でもよい。より具体的には、R1〜R4は、例えば、上記した一連の基の誘導体でもよい。この誘導体とは、一連の基に1または2以上の置換基が導入されたものであり、その置換基の種類は任意でよい。
【0073】
なお、式(1)中のR1〜R4について上記したことは、式(2)中のR5およびR6、式(3)中のR7〜R12、式(4)中のR13〜R16についても同様である。
【0074】
式(2)中のMの種類は、金属元素であれば特に限定されないが、中でも、アルカリ金属元素であることが好ましい。より高い効果が得られるからである。このアルカリ金属元素は、例えば、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)およびカリウム(K)などであり、中でも、リチウムが好ましい。
【0075】
式(1)に示した化合物の具体例は、下記の式(1−1)〜式(1−13)のそれぞれで表される化合物からなる群のうちのいずれか1種類または2種類以上である。式(2)に示した化合物の具体例は、下記の式(2−1)〜式(2−11)のそれぞれで表される化合物からなる群のうちのいずれか1種類または2種類以上である。
【0078】
式(3)に示した化合物の具体例は、下記の式(3−1)〜式(3−11)のそれぞれで表される化合物からなる群のうちのいずれか1種類または2種類以上である。式(4)に示した化合物の具体例は、下記の式(4−1)〜式(4−11)のそれぞれで表される化合物からなる群のうちのいずれか1種類または2種類以上である。
【0081】
ただし、スルホニル化合物は、式(1)〜式(4)のいずれかに示した化学的構造を有していれば、上記以外の他の化合物でもよい。また、スルホニル化合物は、1または2以上のスルホニル基を有していれば、式(1)〜式(4)のそれぞれに示した化学的構造以外の構造を有する化合物でもよい。
【0082】
なお、被覆部102による中心部101の被覆量は、特に限定されないが、例えば、中心部101に対して0.1重量%〜5重量%であることが好ましく、0.2重量%〜3重量%であることがより好ましい。中心部101における電極反応物質の吸蔵放出を阻害せずに、被覆部102の被覆機能が発揮されるからである。詳細には、被覆量が0.1重量%よりも少ないと、中心部101が被覆部102により十分に被覆されないため、活物質100の化学的安定性が向上しにくくなる。一方、被覆量が5重量%よりも多いと、中心部101が電極反応物質を吸蔵放出しにくくなると共に、エネルギー密度が低下しやすくなる。
【0083】
[活物質のさらなる物性]
中でも、上記したTOF−SIMSを用いた活物質の負イオン分析により得られる2つの負イオンに起因するピークの強度比については、さらに他の条件も満たしていることが好ましい。
【0084】
詳細には、上記した負イオン(LiF
2-)に起因するピークの他に、硫黄および窒素を構成元素として含む負イオン(SNO
2-)に起因するピークに着目する。この場合には、SNO
2-に起因するピークの強度をINとすると、2つのピークの強度比IN/IFは、0.03以上であることが好ましい。この強度比IN/IFを求める手順および使用装置などに関する詳細は、上記した強度比IS/IFの場合と同様である。
【0085】
SNO
2-に起因するピークは、主に、活物質の表面およびその近傍に存在するスルホニル基および窒素結合などに起因して生じるピークである。このピークの強度INが大きいほど、電解液の分解反応が抑制されつつ、その電解液の分解反応などに起因するガスの発生が抑制される。電解液の分解物が生じても、その分解物がガス化しにくくなるからである。これにより、ガスの発生量が抑えられるため、電極反応を繰り返しても、活物質を用いた二次電池が膨れにくくなる。
【0086】
強度比IN/IFが0.03以上であるのは、上記した2つのピークの強度IN,IF間のバランスが適正化されるため、ガス発生の抑制と活物質の電気抵抗の上昇抑制とが両立されるからである。詳細には、強度比IN/IFが小さすぎると(IN/IF<0.03)、活物質の表面およびその近傍において、ガス発生の抑制機能を発揮する成分(SNO
2-の発生源となる官能基)の量が不足する。これにより、強度比IS/IFが上記した条件を満たすことで、電解液の分解反応を抑制できるが、ガス発生まで抑制することは困難である。これに対して、強度比IN/IFが適正範囲内であると(IN/IF≧0.03)、ガス発生の抑制機能を発揮する成分量が確保される。これにより、強度比IS/IFが上記した条件を満たすことで、電解液の分解反応が抑制されるだけでなく、ガスが発生しにくくなると共に、活物質の電気抵抗も増加しにくくなる。
【0087】
この場合の活物質は、電極反応物質を吸蔵放出可能であると共に、強度比IS/IF,IN/IFがそれぞれ上記した条件を満たしていれば、どのような構成を有していてもよい。
【0088】
ここで、再び
図1に示した活物質100の断面構成を参照する。強度比IN/IFが上記した条件を満たす場合の被覆部102は、スルホニル基と共に窒素結合を有する化合物(以下、「窒素含有スルホニル化合物」という。)のいずれか1種類または2種類以上を含んでいることが好ましい。中心部101の表面およびその近傍にスルホニル基および窒素結合が存在することで、上記したように、活物質100の化学的安定性が向上すると共に、ガス発生も抑制されるからである。
【0089】
この窒素含有スルホニル化合物は、上記したようにスルホニル基と共に窒素結合を有していれば、どのような化合物でもよい。具体的には、窒素含有スルホニル化合物は、例えば、式(1)および式(2)のそれぞれに示した化合物からなる群のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいることが好ましい。この窒素含有スルホニル化合物の具体例は、式(1−1)〜式(1−13)および式(2−1)〜式(2−11)のそれぞれに示した化合物からなる群のいずれか1種類または2種類以上である。
【0090】
ただし、窒素含有スルホニル化合物は、式(1)および式(2)のいずれかに示した化学的構造を有していれば、上記以外の他の化合物でもよい。また、窒素含有スルホニル化合物は、スルホニル基と共に窒素結合を有していれば、式(1)および式(2)のそれぞれに示した化学的構造以外の構造を有する化合物でもよい。
【0091】
[活物質の他の構成]
活物質の平均粒径(メジアン径)は、特に限定されないが、中でも、2μm〜50μmであることが好ましい。エネルギー密度の低下が抑制されると共に、短絡の発生可能性が低下するからである。
【0092】
詳細には、平均粒径が2μmよりも小さいと、活物質の表面積が大きくなりすぎるため、その活物質を含む活物質層を形成する際に、導電剤および結着剤などの添加量を増加させる必要がある。これにより、単位質量当たりにおける活物質の量が減少するため、エネルギー密度が低下しやすくなる。また、活物質層を圧縮成型する必要がある場合には、その活物質層が圧縮成型時において下地の集電体などから剥離しやすくなる。一方、平均粒径が50μmよりも大きいと、活物質がセパレータなどを貫通しやすくなるため、短絡の発生可能性が増加する。
【0093】
[活物質の製造方法]
この活物質は、例えば、以下の手順により製造される。なお、以下では、
図1に示した中心部101および被覆部102を含む活物質100を製造する場合について説明する。
【0094】
最初に、電極反応物質を吸蔵放出可能な電極材料からなる中心部101を準備する。この中心部101は、リチウム含有化合物などの中心部101の表面に被覆元素を有するものでもよい。
【0095】
中心部101の表面に被覆元素を設ける場合には、例えば、被覆元素を構成元素として含む化合物(被覆用原料)を準備したのち、その被覆用原料を中心部101と一緒に粉砕混合して、その被覆用原料中の被覆元素を中心部101の表面に被着させる。この粉砕混合方法は、例えば、ボールミル、ジェットミル、擂潰機および微粉砕機などのいずれか1種類または2種類以上である。この場合には、中心部101と被覆用原料との混合物に、水などの液体を添加してもよい。
【0096】
この他、中心部101の表面に被覆元素を設けるために、メカノフュージョンなどのメカノケミカル処理や、スパッタリング法または化学気相成長(CVD)法などの気相成長法を用いてもよい。または、水またはエタノールなどの溶媒中において中心部101と被覆用原料とを混合する方法や、中和滴定法や、金属アルコキシドを原料とするゾル−ゲル法などの湿式法を用いてもよい。
【0097】
この被着処理の回数は、特に限定されず、1回だけでもよいし、2回以上でもよい。被着処理を2回以上行う場合には、例えば、各被着処理において異なる種類の被覆元素を用いてもよい。
【0098】
なお、中心部101の表面に被覆元素を被着させたのち、酸化雰囲気中(空気中または純酸素など)において焼成処理を行ってもよい。焼成温度は、特に限定されないが、例えば、300℃〜1000℃である。この焼成処理ののち、軽い粉砕処理または分級操作などを行うことで、粒度調整してもよい。
【0099】
続いて、中心部101の表面に被覆部102を形成する。この被覆部102の形成方法は、例えば、液相法および気相法かるなる群のうちのいずれか1種類または2種類以上である。液相法は、例えば、塗布法、浸漬法およびディップコーティング法などであり、気相法は、例えば、蒸着法、スパッタリング法およびCVD法などである。
【0100】
中でも、スルホニル化合物を含む溶液(処理溶液)を用いた液相法が好ましい。中心部101を加熱せずに、被覆部102を簡単に形成できるからである。この被覆部102を形成する場合には、例えば、中心部101の表面に処理溶液を塗布してから乾燥させてもよいし、処理溶液中に中心部101を浸漬させたのち、その中心部101を処理溶液から引き上げて乾燥させてもよい。これらの場合には、処理溶液の濃度、塗布量および浸漬時間などの条件を変更することで、被覆部102の形成量を調整できる。
【0101】
最後に、被覆部102が形成された中心部101を保存して、上記した条件を満たすように強度比IS/IFを調整する。この場合には、保存条件(保存温度および保存時間など)を変更することで、所望の値となるように強度比IS/IFを調整できる。このように保存条件に応じて調整できることは、強度比IN/IFについても同様である。これにより、活物質100が完成する。
【0102】
[活物質の作用および効果]
この活物質によれば、TOF−SIMSを用いた負イオン分析により求められる強度比IS/IFが0.04以上である。この場合には、上記したように、電極反応物質の吸蔵放出を担う中心部分の化学的保護に寄与するSO
2-起因のピーク強度ISと、電気抵抗に影響を及ぼすLiF
2-起因のピークの強度IFとのバランスが適正化される。よって、電解液の分解抑制が抑制されると共に、活物質の電気抵抗が増加しにくくなるため、活物質を用いた二次電池の電池特性を向上させることができる。
【0103】
特に、活物質100が中心部101および被覆部102を含む場合において、その被覆部102がスルホニル化合物を含んでいれば、上記した条件を満たすように強度比IS/IFを容易かつ安定に設定できる。この場合には、スルホニル化合物が式(1)〜式(4)のいずれかに示した化学的構造を有しており、より具体的には式(1−1)、式(2−1)、式(3−1)および式(4−1)などのいずれかに示した化合物であれば、より高い効果を得ることができる。
【0104】
また、TOF−SIMSを用いた負イオン分析により求められる強度比IN/IFが0.03以上であれば、ガス発生が抑制されるため、活物質を用いた二次電池の電池特性をより向上させることができる。
【0105】
特に、活物質100が中心部101および被覆部102を含む場合において、その被覆部102が窒素含有スルホニル化合物を含んでいれば、上記した条件を満たすように強度比IN/IFを容易かつ安定に設定できる。この場合には、窒素含有スルホニル化合物が式(1)および式(2)のいずれかに示した化学的構造を有しており、より具体的には式(1−1)および式(2−1)などのいずれかに示した化合物であれば、より高い効果を得ることができる。
【0106】
<2.二次電池用活物質の適用例>
次に、上記した二次電池用活物質の適用例について説明する。この二次電池用活物質は、以下のようにして二次電池用電極および二次電池に用いられる。
【0107】
<2−1.二次電池用電極および二次電池(円筒型のリチウムイオン二次電池)>
図2および
図3は、二次電池の断面構成を表しており、
図3では、
図2に示した巻回電極体20の一部を拡大している。ここでは、例えば、二次電池用電極を正極21に適用している。
【0108】
[二次電池の全体構成]
ここで説明する二次電池は、電極反応物質であるリチウム(リチウムイオン)の吸蔵放出により負極22の容量が得られるリチウム二次電池(リチウムイオン二次電池)であり、いわゆる円筒型である。
【0109】
この二次電池では、例えば、
図2に示したように、中空円柱状の電池缶11の内部に、一対の絶縁板12,13と、巻回電極体20とが収納されている。この巻回電極体20は、例えば、セパレータ23を介して正極21と負極22とが積層されてから巻回されたものである。
【0110】
電池缶11は、例えば、一端部が閉鎖されると共に他端部が開放された中空構造を有しており、例えば、鉄、アルミニウムおよびそれらの合金などのいずれか1種類または2種類以上により形成されている。この電池缶11の表面には、ニッケルなどが鍍金されていてもよい。一対の絶縁板12,13は、巻回電極体20を挟むように配置されていると共に、その巻回電極体20の巻回周面に対して垂直に延在している。
【0111】
電池缶11の開放端部には、電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子(PTC素子)16がガスケット17を介してかしめられているため、その電池缶11は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の材料により形成されている。安全弁機構15および熱感抵抗素子16は、電池蓋14の内側に設けられており、その安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されている。この安全弁機構15では、内部短絡、または外部からの加熱などに起因して内圧が一定以上になると、ディスク板15Aが反転して電池蓋14と巻回電極体20との電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子16は、大電流に起因する異常な発熱を防止するものであり、その熱感抵抗素子16の抵抗は、温度の上昇に応じて増加するようになっている。ガスケット17は、例えば、絶縁材料により形成されており、そのガスケット17の表面には、アスファルトが塗布されていてもよい。
【0112】
巻回電極体20の巻回中心には、例えば、センターピン24が挿入されている。正極21には、例えば、アルミニウムなどの導電性材料により形成された正極リード25が接続されていると共に、負極22には、例えば、ニッケルなどの導電性材料により形成された負極リード26が接続されている。正極リード25は、例えば、安全弁機構15に溶接されていると共に、電池蓋14と電気的に接続されている。負極リード26は、例えば、電池缶11に溶接されており、その電池缶11と電気的に接続されている。
【0113】
[正極]
二次電池用電極である正極21は、正極集電体21Aの片面または両面に正極活物質層21Bを有している。正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム、ニッケルおよびステンレスなどの導電性材料のいずれか1種類または2種類以上により形成されている。正極活物質層21Bは、正極活物質として、リチウムを吸蔵放出可能である正極材料のいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、その正極材料は、上記した二次電池用活物質を含んでいる。ただし、正極活物質層21Bは、さらに正極結着剤および正極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0114】
正極結着剤は、例えば、合成ゴムおよび高分子材料などのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。合成ゴムは、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムおよびエチレンプロピレンジエンなどである。高分子材料は、例えば、ポリフッ化ビニリデンおよびポリイミドなどである。
【0115】
正極導電剤は、例えば、炭素材料などのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。この炭素材料は、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックおよびケチェンブラックなどである。なお、正極導電剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料および導電性高分子などでもよい。
【0116】
なお、正極活物質層21Bは、正極材料として上記した二次電池用活物質を含んでいれば、さらに他の正極材料を含んでいてもよい。この他の正極材料は、例えば、リチウム複合酸化物およびリチウムリン酸化合物などのいずれか1種類または2種類以上(二次電池用活物質に該当するものを除く)である。
【0117】
リチウム複合酸化物は、例えば、LiCoO
2 およびLiNiO
2 などであり、下記の式(20)で表されるリチウムニッケル系複合酸化物でもよい。リチウムリン酸化合物は、例えば、LiFePO
4 およびLiFe
1-u Mn
u PO
4 (u<1)などである。高い電池容量が得られると共に、優れたサイクル特性も得られるからである。
【0118】
LiNi
1-z M
z O
2 …(20)
(Mは、Co、Mn、Fe、Al、V、Sn、Mg、Ti、Sr、Ca、Zr、Mo、Tc、Ru、Ta、W、Re、Yb、Cu、Zn、Ba、B、Cr、Si、Ga、P、SbおよびNbのうちの少なくとも1種である。zは、0.005<z<0.5を満たす。)
【0119】
この他、正極材料は、例えば、酸化物、二硫化物、カルコゲン化物および導電性高分子などのいずれか1種類または2種類以上でもよい。酸化物は、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムおよび二酸化マンガンなどである。二硫化物は、例えば、二硫化チタンおよび硫化モリブデンなどである。カルコゲン化物は、例えば、セレン化ニオブなどである。導電性高分子は、例えば、硫黄、ポリアニリンおよびポリチオフェンなどである。ただし、正極材料は、上記した一連の材料に限られず、他の材料でもよい。
【0120】
[負極]
負極22は、負極集電体22Aの片面または両面に負極活物質層22Bを有している。
【0121】
負極集電体22Aは、例えば、銅、ニッケルおよびステンレスなどの導電性材料のいずれか1種類または2種類以上により形成されている。この負極集電体22Aの表面は、粗面化されていることが好ましい。いわゆるアンカー効果により、負極集電体22Aに対する負極活物質層22Bの密着性が向上するからである。この場合には、少なくとも負極活物質層22Bと対向する領域において、負極集電体22Aの表面が粗面化されていればよい。粗面化の方法は、例えば、電解処理を利用して微粒子を形成する方法などである。この電解処理とは、電解槽中において電解法を用いて負極集電体22Aの表面に微粒子を形成することで、その負極集電体22Aの表面に凹凸を設ける方法である。電解法により作製された銅箔は、一般的に、電解銅箔と呼ばれている。
【0122】
負極活物質層22Bは、負極活物質として、リチウムを吸蔵放出可能である負極材料のいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、さらに負極結着剤および負極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。負極結着剤および負極導電剤に関する詳細は、例えば、正極結着剤および正極導電剤と同様である。ただし、充電途中において負極22にリチウム金属が意図せずに析出することを防止するために、負極材料の充電可能な容量は、正極21の放電容量よりも大きいことが好ましい。すなわち、リチウムを吸蔵放出可能である負極材料の電気化学当量は、正極21の電気化学当量よりも大きいことが好ましい。
【0123】
負極材料は、例えば、炭素材料のいずれか1種類または2種類以上である。リチウムの吸蔵放出時における結晶構造の変化が非常に少ないため、高いエネルギー密度および優れたサイクル特性が得られるからである。また、炭素材料は負極導電剤としても機能するからである。この炭素材料は、例えば、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素および黒鉛などである。ただし、難黒鉛化性炭素における(002)面の面間隔は0.37nm以上であると共に、黒鉛における(002)面の面間隔は0.34nm以下であることが好ましい。より具体的には、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、活性炭およびカーボンブラック類などである。このコークス類は、ピッチコークス、ニードルコークスおよび石油コークスなどを含む。有機高分子化合物焼成体は、フェノール樹脂およびフラン樹脂などの高分子化合物が適当な温度で焼成(炭素化)されたものである。この他、炭素材料は、約1000℃以下の温度で熱処理された低結晶性炭素でもよいし、非晶質炭素でもよい。なお、炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状および鱗片状のいずれでもよい。
【0124】
また、負極材料は、例えば、金属元素および半金属元素のいずれか1種類または2種類を構成元素として含む材料(金属系材料)である。高いエネルギー密度が得られるからである。この金属系材料は、単体、合金および化合物のいずれでもよいし、それらの2種類以上でもよいし、それらの1種類または2種類以上の相を少なくとも一部に有するものでもよい。なお、合金には、2種類以上の金属元素からなる材料に加えて、1種類以上の金属元素と1種類以上の半金属元素とを含む材料も含まれる。また、合金は、非金属元素を含んでいてもよい。その組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物、およびそれらの2種類以上の共存物などがある。
【0125】
上記した金属元素および半金属元素は、例えば、リチウムと合金を形成可能である金属元素および半金属元素のいずれか1種類または2種類以上である。具体的には、例えば、Mg、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Bi、Cd、Ag、Zn、Hf、Zr、Y、PdおよびPtなどである。中でも、SiおよびSnのうちの少なくとも一方が好ましい。リチウムを吸蔵放出する能力が優れているため、高いエネルギー密度が得られるからである。
【0126】
SiおよびSnのうちの少なくとも一方を構成元素として含む材料は、SiまたはSnの単体、合金および化合物のいずれでもよいし、それらの2種類以上でもよいし、それらの1種類または2種類以上の相を少なくとも一部に有するものでもよい。なお、単体とは、あくまで一般的な意味合いでの単体(微量の不純物を含んでいてもよい)であり、必ずしも純度100%を意味しているわけではない。
【0127】
Siの合金は、例えば、Si以外の構成元素として、Sn、Ni、Cu、Fe、Co、Mn、Zn、In、Ag、Ti、Ge、Bi、SbおよびCrなどのいずれか1種類または2種類以上の元素を含んでいる。Siの化合物は、例えば、Si以外の構成元素として、CおよびOなどのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。なお、Siの化合物は、例えば、Si以外の構成元素として、Siの合金について説明した元素のいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
【0128】
Siの合金および化合物は、例えば、SiB
4 、SiB
6 、Mg
2 Si、Ni
2 Si、TiSi
2 、MoSi
2 、CoSi
2 、NiSi
2 、CaSi
2 、CrSi
2 、Cu
5 Si、FeSi
2 、MnSi
2 、NbSi
2 、TaSi
2 、VSi
2 、WSi
2 、ZnSi
2 、SiC、Si
3 N
4 、Si
2 N
2 O、SiO
v (0<v≦2)、およびLiSiOなどである。なお、SiO
v におけるvは、0.2<v<1.4でもよい。
【0129】
Snの合金は、例えば、Sn以外の構成元素として、Si、Ni、Cu、Fe、Co、Mn、Zn、In、Ag、Ti、Ge、Bi、SbおよびCrなどの元素のいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。Snの化合物は、例えば、Sn以外の構成元素として、CおよびOなどのいずれか1種類または2種類以上の構成元素として含んでいる。なお、Snの化合物は、例えば、Sn以外の構成元素として、Snの合金について説明した元素のいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。Snの合金および化合物は、例えば、SnO
w (0<w≦2)、SnSiO
3 、LiSnOおよびMg
2 Snなどである。
【0130】
また、Snを構成元素として含む材料は、例えば、Snを第1構成元素とし、それに加えて第2および第3構成元素を含む材料であることが好ましい。第2構成元素は、例えば、Co、Fe、Mg、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Ce、Hf、Ta、W、BiおよびSiなどのいずれか1種類または2種類以上である。第3構成元素は、例えば、B、C、AlおよびPなどのいずれか1種類または2種類以上である。第2および第3構成元素を含むことで、高い電池容量および優れたサイクル特性などが得られるからである。
【0131】
中でも、Sn、CoおよびCを構成元素として含む材料(SnCoC含有材料)が好ましい。SnCoC含有材料の組成としては、例えば、Cの含有量が9.9質量%〜29.7質量%、SnおよびCoの含有量の割合(Co/(Sn+Co))が20質量%〜70質量%である。高いエネルギー密度が得られるからである。
【0132】
このSnCoC含有材料は、Sn、CoおよびCを含む相を有しており、その相は、低結晶性または非晶質であることが好ましい。この相は、リチウムと反応可能な相(反応相)であり、その反応相の存在により優れた特性が得られる。この相のX線回折により得られる回折ピークの半値幅は、特定X線としてCuKα線を用いると共に挿引速度を1°/minとした場合、回折角2θで1°以上であることが好ましい。リチウムがより円滑に吸蔵放出されると共に、電解液との反応性が低減するからである。なお、SnCoC含有材料は、低結晶性または非晶質の相に加えて、各構成元素の単体または一部を含む相を含んでいる場合もある。
【0133】
X線回折により得られた回折ピークがリチウムと反応可能な反応相に対応するものであるか否かは、リチウムとの電気化学的反応の前後におけるX線回折チャートを比較すれば容易に判断できる。例えば、リチウムとの電気化学的反応の前後で回折ピークの位置が変化すれば、リチウムと反応可能な反応相に対応するものである。この場合には、例えば、低結晶性または非晶質の反応相の回折ピークが2θ=20°〜50°の間に見られる。このような反応相は、例えば、上記した各構成元素を有しており、主に、Cの存在に起因して低結晶化または非晶質化しているものと考えられる。
【0134】
SnCoC含有材料では、構成元素であるCの少なくとも一部が他の構成元素である金属元素または半金属元素と結合していることが好ましい。Snなどの凝集または結晶化が抑制されるからである。元素の結合状態は、例えば、X線光電子分光法(XPS)を用いて確認可能である。市販の装置では、例えば、軟X線としてAl−Kα線またはMg−Kα線などが用いられる。Cの少なくとも一部が金属元素または半金属元素などと結合している場合には、Cの1s軌道(C1s)の合成波のピークは284.5eVよりも低い領域に現れる。なお、Au原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正されているものとする。この際、通常、物質表面には表面汚染炭素が存在しているため、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、それをエネルギー基準とする。XPS測定では、C1sのピークの波形が表面汚染炭素のピークとSnCoC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形で得られるため、例えば、市販のソフトウエアを用いて解析して、両者のピークを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
【0135】
なお、SnCoC含有材料は、構成元素がSn、CoおよびCだけからなる材料(SnCoC)に限られない。すなわち、SnCoC含有材料は、例えば、Sn、CoおよびCに加えて、さらにSi、Fe、Ni、Cr、In、Nb、Ge、Ti、Mo、Al、P、GaおよびBiなどのいずれか1種類または2種類以上を構成元素として含んでいてもよい。
【0136】
このSnCoC含有材料の他、Sn、Co、FeおよびCを構成元素として含む材料(SnCoFeC含有材料)も好ましい。このSnCoFeC含有材料の組成は、任意である。一例を挙げると、Feの含有量を少なめに設定する場合の組成は、以下の通りである。Cの含有量は9.9質量%〜29.7質量%、Feの含有量は0.3質量%〜5.9質量%、SnおよびCoの含有量の割合(Co/(Sn+Co))は30質量%〜70質量%である。また、Feの含有量を多めに設定する場合の組成は、以下の通りである。Cの含有量は11.9質量%〜29.7質量%、Sn、CoおよびFeの含有量の割合((Co+Fe)/(Sn+Co+Fe))は26.4質量%〜48.5質量%、CoおよびFeの含有量の割合(Co/(Co+Fe))は9.9質量%〜79.5質量%である。このような組成範囲で高いエネルギー密度が得られるからである。このSnCoFeC含有材料の物性(半値幅など)は、上記したSnCoC含有材料と同様である。
【0137】
この他、負極材料は、例えば、金属酸化物および高分子化合物などのいずれか1種類または2種類以上でもよい。金属酸化物は、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウムおよび酸化モリブデンなどである。高分子化合物は、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリンおよびポリピロールなどである。ただし、負極材料は、上記した一連の材料に限られず、他の材料でもよい。
【0138】
負極活物質層22Bは、例えば、塗布法、気相法、液相法、溶射法および焼成法(焼結法)などのいずれか1種類または2種類以上の方法により形成されている。塗布法とは、例えば、粒子(粉末)状の負極活物質を負極結着剤などと混合したのち、有機溶剤などの溶媒に分散させてから負極集電体22Aに塗布する方法である。気相法は、例えば、物理堆積法および化学堆積法などである。より具体的には、例えば、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、熱化学気相成長、化学気相成長(CVD)法およびプラズマ化学気相成長法などである。液相法は、例えば、電解鍍金法および無電解鍍金法などである。溶射法とは、溶融状態または半溶融状態の負極活物質を負極集電体22Aに噴き付ける方法である。焼成法とは、例えば、塗布法を用いて負極集電体22Aに塗布したのち、負極結着剤などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。この焼成法としては、例えば、雰囲気焼成法、反応焼成法またはホットプレス焼成法などを用いることができる。
【0139】
この二次電池では、上記したように、充電途中において負極22にリチウム金属が意図せずに析出することを防止するために、リチウムを吸蔵放出可能である負極材料の電気化学当量は正極の電気化学当量よりも大きいことが好ましい。また、完全充電時の開回路電圧(すなわち電池電圧)が4.25V以上であると、4.2Vである場合と比較して、同じ正極活物質を用いても単位質量当たりのリチウムイオンの放出量が多くなるため、それに応じて正極活物質と負極活物質との量が調整されている。これにより、高いエネルギー密度が得られるようになっている。
【0140】
[セパレータ]
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離することで、両極の接触に起因する電流の短絡を防止しながらリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23は、例えば、合成樹脂およびセラミックなどの多孔質膜であり、2種類以上の多孔質膜が積層された積層膜でもよい。合成樹脂は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンおよびポリエチレンなどである。
【0141】
特に、セパレータ23は、例えば、上記した多孔質膜(基材層)の片面または両面に高分子化合物層を有していてもよい。正極21および負極22に対するセパレータ23の密着性が向上するため、巻回電極体20の歪みが抑制されるからである。これにより、電解液の分解反応が抑制されると共に、基材層に含浸された電解液の漏液も抑制されるため、充放電を繰り返しても抵抗が上昇しにくくなると共に、電池膨れが抑制される。
【0142】
高分子化合物層は、例えば、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子材料を含んでいる。物理的強度に優れていると共に、電気化学的に安定だからである。ただし、高分子材料は、ポリフッ化ビニリデン以外の他の高分子材料でもよい。この高分子化合物層を形成する場合には、例えば、高分子材料が溶解された溶液を準備したのち、その溶液を基材層に塗布してから乾燥させる。なお、溶液中に基材層を浸漬させてから乾燥させてもよい。
【0143】
[電解液]
セパレータ23には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、溶媒および電解質塩を含んでおり、さらに添加剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0144】
溶媒は、有機溶媒などの非水溶媒のいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。この非水溶媒は、例えば、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、ラクトン、鎖状カルボン酸エステルおよびニトリルなどである。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。環状炭酸エステルは、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレンおよび炭酸ブチレンなどであり、鎖状炭酸エステルは、例えば、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルおよび炭酸メチルプロピルなどである。ラクトンは、例えば、γ−ブチロラクトンおよびγ−バレロラクトンなどである。カルボン酸エステルは、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチルおよびトリメチル酢酸エチルなどである。ニトリルは、例えば、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリルおよび3−メトキシプロピオニトリルなどである。
【0145】
この他、非水溶媒は、例えば、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチルおよびジメチルスルホキシドなどでもよい。同様の利点が得られるからである。
【0146】
中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルのいずれか1種類または2種類以上が好ましい。より優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。この場合には、炭酸エチレンおよび炭酸プロピレンなどの高粘度(高誘電率)溶媒(例えば比誘電率ε≧30)と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルおよび炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒(例えば粘度≦1mPa・s)との組み合わせがより好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するからである。
【0147】
特に、溶媒は、不飽和環状炭酸エステル、ハロゲン化炭酸エステル、スルトン(環状スルホン酸エステル)および酸無水物のいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。電解液の化学的安定性が向上するからである。不飽和環状炭酸エステルとは、1または2以上の不飽和結合(炭素間二重結合)を有する環状炭酸エステルであり、例えば、炭酸ビニレン、炭酸ビニルエチレンおよび炭酸メチレンエチレンなどである。ハロゲン化炭酸エステルとは、1または2以上のハロゲンを構成元素として含む環状または鎖状の炭酸エステルである。環状のハロゲン化炭酸エステルは、例えば、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンおよび4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。鎖状のハロゲン化炭酸エステルは、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ビス(フルオロメチル)および炭酸ジフルオロメチルメチルなどである。スルトンは、例えば、プロパンスルトンおよびプロペンスルトンなどである。酸無水物は、例えば、無水コハク酸、無水エタンジスルホン酸および無水スルホ安息香酸などである。ただし、溶媒は、上記した一連の材料に限られず、他の材料でもよい。
【0148】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの塩のいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ただし、電解質塩は、例えば、リチウム塩以外の他の塩を含んでいてもよい。この他の塩とは、例えば、リチウム塩以外の軽金属塩などである。
【0149】
リチウム塩は、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4 )、過塩素酸リチウム(LiClO
4 )、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF
6 )、テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C
6 H
5 )
4 )、メタンスルホン酸リチウム(LiCH
3 SO
3 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF
3 SO
3 )、テトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl
4 )、六フッ化ケイ酸二リチウム(Li
2 SiF
6 )、塩化リチウム(LiCl)および臭化リチウム(LiBr)などである。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。
【0150】
中でも、LiPF
6 、LiBF
4 、LiClO
4 およびLiAsF
6 のうちの少なくとも1種類が好ましく、LiPF
6 がより好ましい。内部抵抗が低下するため、より高い効果が得られるからである。ただし、電解質塩は、上記した一連の化合物に限られず、他の化合物でもよい。
【0151】
電解質塩の含有量は、特に限定されないが、中でも、溶媒に対して0.3mol/kg〜3.0mol/kgであることが好ましい。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0152】
[二次電池の動作]
この二次電池は、例えば、以下のように動作する。充電時には、正極21から放出されたリチウムイオンが電解液を介して負極22に吸蔵される。一方、放電時には、負極22から放出されたリチウムイオンが電解液を介して正極21に吸蔵される。
【0153】
特に、充電時には、充電電圧(正極電位:対リチウム金属標準電位)を高電圧にすることが好ましい。具体的には、充電電圧の上限値を4.2以上にすることが好ましく、4.4V以上にすることがより好ましい。充電時において正極活物質から十分な量のリチウムが放出されるからである。ただし、正極活物質の分解反応を抑制するために、充電電圧は、極端に高すぎないことが好ましく、具体的には4.8V以下であることが好ましく、4.6V以下であることがより好ましい。
【0154】
詳細には、4.2V以上の高電圧まで二次電池を充電すると、高い起電力が生じるため、正極活物質と接触する可能性がある電解液は、強い酸化環境に晒される。この場合には、大量のリチウムを放出した正極活物質が不安定になるため、金属成分の溶出に起因して正極活物質が劣化しやすくなると共に、電解液が酸化分解しやすくなる。また、正極活物質から溶出した金属成分が負極に還元析出すると、リチウムの吸蔵放出が阻害されるため、サイクル特性などの電池特性が低下しやすくなる。さらに、正極21上において電解液が酸化分解すると、ガスが発生すると共に、電解液の分解物に起因する被膜が正極に形成されるため、二次電池が膨れやすくなると共に、インピーダンスが上昇しやすくなる。
【0155】
この点に関して、正極活物質が上記した二次電池用活物質を含んでいると、その正極活物質は正極の高い起電力に対して安定であるため、正極21と電解液との反応が抑制される。これにより、電解液の分解反応が抑制されると共に、リチウムイオンの透過性が低いLIFなどの被膜が形成されにくくなる。よって、4.2V以上の高電圧まで二次電池を充電すると、充電電圧の上昇に伴う高容量化が実現されると共に、サイクル特性などの電池特性が確保される。
【0156】
一方、放電時には、放電電圧(正極電位:対リチウム金属標準電位)を低電圧にすることが好ましい。具体的には、放電電圧の下限値を3.3V以下にすることが好ましい。放電時において正極活物質に十分な量のリチウムが吸蔵されるからである。ただし、放電電圧は、極端に低すぎないことが好ましく、具体的には2.0V以上であることが好ましい。
【0157】
[二次電池の製造方法]
この二次電池は、例えば、以下の手順により製造される。
【0158】
最初に、正極21を作製する。この場合には、正極活物質(上記した二次電池用活物質を含む)と、正極結着剤および正極導電剤などとを混合して、正極合剤とする。続いて、有機溶剤などに正極合剤を分散させて、ペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、正極集電体21Aの両面に正極合剤スラリーを塗布してから乾燥させて、正極活物質層21Bを形成する。続いて、ロールプレス機などを用いて正極活物質層21Bを圧縮成型する。この場合には、加熱しながら圧縮成型してもよいし、圧縮成型を複数回繰り返してもよい。
【0159】
また、上記した正極21と同様の手順により、負極22を作製する。この場合には、負極活物質と、負極結着剤および負極導電剤などとが混合された負極合剤を有機溶剤などに分散させて、ペースト状の負極合剤スラリーとする。続いて、負極集電体22Aの両面に負極合剤スラリーを塗布してから乾燥させて負極活物質層22Bを形成したのち、その負極活物質層22Bを圧縮成型する。
【0160】
最後に、正極21および負極22を用いて二次電池を組み立てる。この場合には、溶接法などを用いて正極集電体21Aに正極リード25を取り付けると共に、溶接法などを用いて負極集電体22Aに負極リード26を取り付ける。続いて、セパレータ23を介して正極21と負極22とを積層してから巻回させて巻回電極体20を作製したのち、その巻回中心にセンターピン24を挿入する。続いて、一対の絶縁板12,13で挟みながら巻回電極体20を電池缶11の内部に収納する。この場合には、溶接法などを用いて正極リード25の先端部を安全弁機構15に取り付けると共に、溶接法などを用いて負極リード26の先端部を電池缶11に取り付ける。続いて、溶媒に電解質塩が分散された電解液を電池缶11の内部に注入してセパレータ23に含浸させる。続いて、ガスケット17を介して電池缶11の開口端部に電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子16をかしめる。
【0161】
[二次電池の作用および効果]
この円筒型の二次電池によれば、正極21の正極活物質層21Bが正極活物質として上記した二次電池用活物質を含んでいる。よって、上記したように、電解液の分解が抑制されると共に、正極21の電気抵抗が低下するため、優れた電池特性を得ることができる。これ以外の作用および効果は、二次電池用活物質と同様である。
【0162】
<2−2.二次電池用電極および二次電池(ラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池)>
図4は、他の二次電池の分解斜視構成を表しており、
図5は、
図4に示した巻回電極体30のV−V線に沿った断面を拡大している。ただし、
図4では、巻回電極体30と2枚の外装部材40とを離間させた状態を示している。以下では、既に説明した円筒型の二次電池の構成要素を随時引用する。
【0163】
[二次電池の全体構成]
ここで説明する二次電池は、いわゆるラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池であり、例えば、
図4に示したように、フィルム状の外装部材40の内部に巻回電極体30が収納されている。この巻回電極体30は、例えば、セパレータ35および電解質層36を介して正極33と負極34とが積層されてから巻回されたものである。正極33には正極リード31が取り付けられていると共に、負極34には負極リード32が取り付けられている。巻回電極体30の最外周部は、保護テープ37により保護されている。
【0164】
正極リード31および負極リード32は、例えば、外装部材40の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。正極リード31は、例えば、アルミニウムなどの導電性材料により形成されていると共に、負極リード32は、例えば、銅、ニッケルまたはステンレスなどの導電性材料により形成されている。これらの導電性材料は、例えば、薄板状または網目状になっている。
【0165】
外装部材40は、例えば、融着層と、金属層と、表面保護層とがこの順に積層されたラミネートフィルムである。この外装部材40は、例えば、融着層が巻回電極体30と対向するように2枚のラミネートフィルムが重ねられたのち、各融着層の外周縁部同士が融着されたものである。ただし、2枚のラミネートフィルムは、接着剤などを介して貼り合わされていてもよい。融着層は、例えば、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどのフィルムである。金属層は、例えば、アルミニウム箔などである。表面保護層は、例えば、ナイロンおよびポリエチレンテレフタレートなどのフィルムである。
【0166】
中でも、外装部材40は、ポリエチレンフィルムと、アルミニウム箔と、ナイロンフィルムとがこの順に積層されたアルミラミネートフィルムであることが好ましい。ただし、外装部材40は、他の積層構造を有するラミネートフィルムでもよいし、ポリプロピレンなどの高分子フィルムでもよいし、金属フィルムでもよい。
【0167】
外装部材40と正極リード31および負極リード32との間には、例えば、外気の侵入を防止するために密着フィルム41が挿入されている。この密着フィルム41は、正極リード31および負極リード32に対して密着性を有する材料により形成されている。この密着性の材料は、例えば、ポリオレフィン樹脂などであり、より具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンおよび変性ポリプロピレンなどである。
【0168】
正極33は、例えば、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bを有していると共に、負極34は、例えば、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bを有している。正極集電体33A、正極活物質層33B、負極集電体34Aおよび負極活物質層34Bの構成は、それぞれ正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22Aおよび負極活物質層22Bの構成と同様である。すなわち、二次電池用電極である正極33の正極活物質層33Bは、正極活物質として上記した二次電池用活物質を含んでいる。セパレータ35の構成は、セパレータ23の構成と同様である。
【0169】
[電解質層]
電解質層36は、高分子化合物により電解液が保持されたものであり、いわゆるゲル状の電解質である。高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に、電解液の漏液が防止されるからである。この電解質層36は、さらに添加剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0170】
高分子化合物は、高分子材料のいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。この高分子材料は、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリフッ化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレンおよびポリカーボネートなどである。この他、高分子材料は、共重合体でもよい。この共重合体は、例えば、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとの共重合体などである。中でも、ポリフッ化ビニリデンや、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとの共重合体が好ましく、ポリフッ化ビニリデンがより好ましい。電気化学的に安定だからである。
【0171】
電解液の組成は、例えば、円筒型の場合と同様である。ただし、ゲル状の電解質である電解質層36における電解液の溶媒とは、液状の溶媒だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有する材料まで含む広い概念である。よって、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
【0172】
なお、ゲル状の電解質層36に代えて、電解液をそのまま用いてもよい。この場合には、電解液がセパレータ35に含浸される。
【0173】
[二次電池の動作]
この二次電池は、例えば、以下のように動作する。充電時には、正極33から放出されたリチウムイオンが電解質層36を介して負極34に吸蔵される。一方、放電時には、負極34から放出されたリチウムイオンが電解質層36を介して正極33に吸蔵される。この場合の充放電条件(充電電圧の上限値および放電電圧の下限値)は、円筒型の場合と同様である。
【0174】
[二次電池の製造方法]
ゲル状の電解質層36を備えた二次電池は、例えば、以下の3種類の手順により製造される。
【0175】
第1手順では、正極21および負極22と同様の作製手順により、正極33および負極34を作製する。この場合には、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bを形成して正極33を作製すると共に、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bを形成して負極34を作製する。続いて、電解液と、高分子化合物と、有機溶剤などの溶媒とを含む前駆溶液を調製したのち、その前駆溶液を正極33および負極34に塗布して、ゲル状の電解質層36を形成する。続いて、溶接法などを用いて正極集電体33Aに正極リード31を取り付けると共に、溶接法などを用いて負極集電体34Aに負極リード32を取り付ける。続いて、正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層してから巻回させて巻回電極体30を作製したのち、その最外周部に保護テープ37を貼り付ける。続いて、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回電極体30を挟み込んだのち、熱融着法などを用いて外装部材40の外周縁部同士を接着させて、その外装部材40の内部に巻回電極体30を封入する。この場合には、正極リード31および負極リード32と外装部材40との間に密着フィルム41を挿入する。
【0176】
第2手順では、正極33に正極リード31を取り付けると共に、負極34に負極リード52を取り付ける。続いて、セパレータ35を介して正極33と負極34とを積層してから巻回させて、巻回電極体30の前駆体である巻回体を作製したのち、その最外周部に保護テープ37を貼り付ける。続いて、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回体を配置したのち、熱融着法などを用いて一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を接着させて、袋状の外装部材40の内部に巻回体を収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、さらに重合禁止剤などの他の材料とを混合して、電解質用組成物を調製する。続いて、袋状の外装部材40の内部に電解質用組成物を注入したのち、熱融着法などを用いて外装部材40を密封する。続いて、モノマーを熱重合させて、高分子化合物を形成する。これにより、高分子化合物に電解液が含浸され、その高分子化合物がゲル化するため、電解質層36が形成される。
【0177】
第3手順では、高分子化合物が両面に塗布されたセパレータ35を用いることを除き、上記した第2手順と同様に、巻回体を作製して袋状の外装部材40の内部に収納する。このセパレータ35に塗布する高分子化合物は、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体(単独重合体、共重合体および多元共重合体)などである。具体的には、単独重合体は、例えば、ポリフッ化ビニリデンである。共重合体は、例えば、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとを成分とする二元系の共重合体などである。多元共重合体は、例えば、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとクロロトリフルオロエチレンとを成分とする三元系の共重合体などである。なお、フッ化ビニリデンを成分とする重合体と一緒に、他の1種類または2種類以上の高分子化合物を用いてもよい。続いて、電解液を調製して外装部材40の内部に注入したのち、熱融着法などを用いて外装部材40の開口部を密封する。続いて、外装部材40に加重をかけながら加熱して、高分子化合物を介してセパレータ35を正極33および負極34に密着させる。これにより、高分子化合物に電解液が含浸され、その高分子化合物がゲル化するため、電解質層36が形成される。
【0178】
この第3手順では、第1手順よりも二次電池の膨れが抑制される。また、第3手順では、第2手順よりも高分子化合物の原料であるモノマーまたは溶媒などが電解質層36中にほとんど残らないため、高分子化合物の形成工程が良好に制御される。このため、正極33、負極34およびセパレータ35と電解質層36との間で十分な密着性が得られる。
【0179】
[二次電池の作用および効果]
このラミネートフィルム型の二次電池によれば、正極33の正極活物質層33Bが正極活物質として上記した二次電池用活物質を含んでいるので、円筒型の場合と同様の理由により、優れた電池特性を得ることができる。これ以外の作用および効果は、円筒型の場合と同様である。
【0180】
<2−3.二次電池用電極および二次電池(リチウム金属二次電池)>
ここで説明する二次電池は、リチウム金属の析出溶解により負極22の容量が得られるリチウム二次電池(リチウム金属二次電池)である。この二次電池は、負極活物質層22Bがリチウム金属により構成されていることを除き、上記した円筒型のリチウムイオン二次電池と同様の構成を有していると共に、同様の手順により製造される。
【0181】
この二次電池は、負極活物質としてリチウム金属を用いているため、高いエネルギー密度が得られるようになっている。負極活物質層22Bは、組み立て時から既に存在するようにしてもよいが、組み立て時には存在せず、充電時において析出したリチウム金属により構成されるようにしてもよい。また、負極活物質層22Bを集電体としても利用することで、負極集電体22Aを省略してもよい。
【0182】
この二次電池は、例えば、以下のように動作する。充電時には、正極21からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極集電体22Aの表面にリチウム金属となって析出する。一方、放電時には、負極活物質層22Bからリチウム金属がリチウムイオンとなって溶出し、電解液を介して正極21に吸蔵される。この場合の充放電条件(充電電圧の上限値および放電電圧の下限値)は、円筒型の場合と同様である。
【0183】
このリチウム金属二次電池によれば、正極21の正極活物質層21Bが正極活物質として上記した二次電池用活物質を含んでいるので、リチウムイオン二次電池と同様の理由により、優れた電池特性を得ることができる。これ以外の作用および効果は、リチウムイオン二次電池と同様である。なお、ここで説明した二次電池は、円筒型に限らず、ラミネートフィルム型に適用されてもよい。
【0184】
<3.二次電池の用途>
次に、上記した二次電池の適用例について説明する。
【0185】
二次電池の用途は、その二次電池を駆動用の電源または電力蓄積用の電力貯蔵源などとして利用可能である機械、機器、器具、装置およびシステム(複数の機器などの集合体)などであれば、特に限定されない。電源として使用される二次電池は、主電源(優先的に使用される電源)でもよいし、補助電源(主電源に代えて、または主電源から切り換えて使用される電源)でもよい。二次電池を補助電源として利用する場合には、主電源の種類は二次電池に限られない。
【0186】
二次電池の用途は、例えば、以下の通りである。ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、ノート型パソコン、コードレス電話機、ヘッドホンステレオ、携帯用ラジオ、携帯用テレビおよび携帯用情報端末などの電子機器(携帯用電子機器を含む)である。電気シェーバなどの携帯用生活器具である。バックアップ電源およびメモリーカードなどの記憶用装置である。電動ドリルおよび電動鋸などの電動工具である。着脱可能な電源としてノート型パソコンなどに用いられる電池パックである。ペースメーカおよび補聴器などの医療用電子機器である。電気自動車(ハイブリッド自動車を含む)などの電動車両である。非常時などに備えて電力を蓄積しておく家庭用バッテリシステムなどの電力貯蔵システムである。もちろん、上記以外の用途でもよい。
【0187】
中でも、二次電池は、電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具および電子機器などに適用されることが有効である。優れた電池特性が要求されるため、本技術の二次電池を用いることで、有効に性能向上を図ることができるからである。なお、電池パックは、二次電池を用いた電源であり、いわゆる組電池などである。電動車両は、二次電池を駆動用電源として作動(走行)する車両であり、上記したように、二次電池以外の駆動源を併せて備えた自動車(ハイブリッド自動車など)でもよい。電力貯蔵システムは、二次電池を電力貯蔵源として用いるシステムである。例えば、家庭用の電力貯蔵システムでは、電力貯蔵源である二次電池に電力が蓄積されているため、その電力を利用して家庭用の電気製品などが使用可能になる。電動工具は、二次電池を駆動用の電源として可動部(例えばドリルなど)が可動する工具である。電子機器は、二次電池を駆動用の電源(電力供給源)として各種機能を発揮する機器である。
【0188】
ここで、二次電池のいくつかの適用例について具体的に説明する。なお、以下で説明する各適用例の構成はあくまで一例であるため、適宜変更可能である。
【0189】
<3−1.電池パック>
図6は、電池パックのブロック構成を表している。この電池パックは、例えば、プラスチック材料などにより形成された筐体60の内部に、制御部61と、電源62と、スイッチ部63と、電流測定部64と、温度検出部65と、電圧検出部66と、スイッチ制御部67と、メモリ68と、温度検出素子69と、電流検出抵抗70と、正極端子71および負極端子72とを備えている。
【0190】
制御部61は、電池パック全体の動作(電源62の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、中央演算処理装置(CPU)などを含んでいる。電源62は、1または2以上の二次電池(図示せず)を含んでいる。この電源62は、例えば、2以上の二次電池を含む組電池であり、それらの二次電池の接続形式は、直列でもよいし、並列でもよいし、双方の混合型でもよい。一例を挙げると、電源62は、2並列3直列となるように接続された6つの二次電池を含んでいる。
【0191】
スイッチ部63は、制御部61の指示に応じて電源62の使用状態(電源62と外部機器との接続の可否)を切り換えるものである。このスイッチ部63は、例えば、充電制御スイッチ、放電制御スイッチ、充電用ダイオードおよび放電用ダイオード(いずれも図示せず)などを含んでいる。充電制御スイッチおよび放電制御スイッチは、例えば、金属酸化物半導体を用いた電界効果トランジスタ(MOSFET)などの半導体スイッチである。
【0192】
電流測定部64は、電流検出抵抗70を用いて電流を測定して、その測定結果を制御部61に出力するものである。温度検出部65は、温度検出素子69を用いて温度を測定して、その測定結果を制御部61に出力するようになっている。この温度測定結果は、例えば、異常発熱時において制御部61が充放電制御を行う場合や、制御部61が残容量の算出時において補正処理を行う場合などに用いられる。電圧検出部66は、電源62中における二次電池の電圧を測定して、その測定電圧をアナログ−デジタル変換して制御部61に供給するものである。
【0193】
スイッチ制御部67は、電流測定部64および電圧検出部66から入力される信号に応じて、スイッチ部63の動作を制御するものである。
【0194】
このスイッチ制御部67は、例えば、電池電圧が過充電検出電圧に到達した場合に、スイッチ部63(充電制御スイッチ)を切断して、電源62の電流経路に充電電流が流れないように制御する。これにより、電源62では、放電用ダイオードを介して放電のみが可能になる。なお、スイッチ制御部67は、例えば、充電時に大電流が流れた場合に、充電電流を遮断するようになっている。
【0195】
また、スイッチ制御部67は、例えば、電池電圧が過放電検出電圧に到達した場合に、スイッチ部63(放電制御スイッチ)を切断して、電源62の電流経路に放電電流が流れないようにする。これにより、電源62では、充電用ダイオードを介して充電のみが可能になる。なお、スイッチ制御部67は、例えば、放電時に大電流が流れた場合に、放電電流を遮断するようになっている。
【0196】
なお、二次電池では、例えば、過充電検出電圧は4.2V±0.05Vであり、過放電検出電圧は2.4V±0.1Vである。
【0197】
メモリ68は、例えば、不揮発性メモリであるEEPROMなどである。このメモリ68には、例えば、制御部61により演算された数値や、製造工程段階において測定された二次電池の情報(例えば初期状態の内部抵抗)などが記憶されている。なお、メモリ68に二次電池の満充電容量を記憶させておけば、制御部61が残容量などの情報を把握可能になる。
【0198】
温度検出素子69は、電源62の温度を測定すると共にその測定結果を制御部61に出力するものであり、例えば、サーミスタなどである。
【0199】
正極端子71および負極端子72は、電池パックを用いて稼働される外部機器(例えばノート型のパーソナルコンピュータなど)や、電池パックを充電するために用いられる外部機器(例えば充電器など)などに接続される端子である。電源62の充放電は、正極端子71および負極端子72を介して行われる。
【0200】
<3−2.電動車両>
図7は、電動車両の一例であるハイブリッド自動車のブロック構成を表している。この電動車両は、例えば、金属製の筐体73の内部に、制御部74と、エンジン75と、電源76と、駆動用のモータ77と、差動装置78と、発電機79と、トランスミッション80およびクラッチ81と、インバータ82,83と、各種センサ84とを備えている。この他、電動車両は、例えば、差動装置78およびトランスミッション80に接続された前輪用駆動軸85および前輪86と、後輪用駆動軸87および後輪88とを備えている。
【0201】
この電動車両は、例えば、エンジン75またはモータ77のいずれか一方を駆動源として走行可能である。エンジン75は、主要な動力源であり、例えば、ガソリンエンジンなどである。エンジン75を動力源とする場合、そのエンジン75の駆動力(回転力)は、例えば、駆動部である差動装置78、トランスミッション80およびクラッチ81を介して前輪86または後輪88に伝達される。なお、エンジン75の回転力は発電機79にも伝達され、その回転力を利用して発電機79が交流電力を発生させると共に、その交流電力はインバータ83を介して直流電力に変換され、電源76に蓄積される。一方、変換部であるモータ77を動力源とする場合、電源76から供給された電力(直流電力)がインバータ82を介して交流電力に変換され、その交流電力を利用してモータ77が駆動する。このモータ77により電力から変換された駆動力(回転力)は、例えば、駆動部である差動装置78、トランスミッション80およびクラッチ81を介して前輪86または後輪88に伝達される。
【0202】
なお、図示しない制動機構を介して電動車両が減速すると、その減速時の抵抗力がモータ77に回転力として伝達され、その回転力を利用してモータ77が交流電力を発生させるようにしてもよい。この交流電力はインバータ82を介して直流電力に変換され、その直流回生電力は電源76に蓄積されることが好ましい。
【0203】
制御部74は、電動車両全体の動作を制御するものであり、例えば、CPUなどを含んでいる。電源76は、1または2以上の二次電池(図示せず)を含んでいる。この電源76は、外部電源と接続され、その外部電源から電力供給を受けることで電力を蓄積可能になっていてもよい。各種センサ84は、例えば、エンジン75の回転数を制御すると共に、図示しないスロットルバルブの開度(スロットル開度)を制御するために用いられる。この各種センサ84は、例えば、速度センサ、加速度センサ、エンジン回転数センサなどを含んでいる。
【0204】
なお、電動車両がハイブリッド自動車である場合について説明したが、その電動車両は、エンジン75を用いずに電源76およびモータ77だけを用いて作動する車両(電気自動車)でもよい。
【0205】
<3−3.電力貯蔵システム>
図8は、電力貯蔵システムのブロック構成を表している。この電力貯蔵システムは、例えば、一般住宅および商業用ビルなどの家屋89の内部に、制御部90と、電源91と、スマートメータ92と、パワーハブ93とを備えている。
【0206】
ここでは、電源91は、例えば、家屋89の内部に設置された電気機器94に接続されていると共に、家屋89の外部に停車された電動車両96に接続可能になっている。また、電源91は、例えば、家屋89に設置された自家発電機95にパワーハブ93を介して接続されていると共に、スマートメータ92およびパワーハブ93を介して外部の集中型電力系統97に接続可能になっている。
【0207】
なお、電気機器94は、例えば、1または2以上の家電製品を含んでおり、その家電製品は、例えば、冷蔵庫、エアコン、テレビおよび給湯器などである。自家発電機95は、例えば、太陽光発電機および風力発電機などのいずれか1種類または2種類以上である。電動車両96は、例えば、電気自動車、電気バイクおよびハイブリッド自動車などの1種類または2種類以上である。集中型電力系統97は、例えば、火力発電所、原子力発電所、水力発電所および風力発電所などの1種類または2種類以上である。
【0208】
制御部90は、電力貯蔵システム全体の動作(電源91の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、CPUなどを含んでいる。電源91は、1または2以上の二次電池(図示せず)を含んでいる。スマートメータ92は、例えば、電力需要者の家屋89に設置されるネットワーク対応型の電力計であり、電力供給者と通信可能になっている。これに伴い、スマートメータ92は、例えば、外部と通信しながら、家屋89における需要・供給のバランスを制御することで、効率的で安定したエネルギー供給を可能とする。
【0209】
この電力貯蔵システムでは、例えば、外部電源である集中型電力系統97からスマートメータ92およびパワーハブ93を介して電源91に電力が蓄積されると共に、独立電源である太陽光発電機95からパワーハブ93を介して電源91に電力が蓄積される。この電源91に蓄積された電力は、制御部90の指示に応じて電気機器94および電動車両96に供給されるため、その電気機器94が稼働可能になると共に、電動車両96が充電可能になる。すなわち、電力貯蔵システムは、電源91を用いて、家屋89内における電力の蓄積および供給を可能にするシステムである。
【0210】
電源91に蓄積された電力は、任意に利用可能である。このため、例えば、電気使用量が安い深夜において集中型電力系統97から電源91に電力を蓄積しておき、その電源91に蓄積しておいた電力を電気使用量が高い日中に用いることができる。
【0211】
なお、上記した電力貯蔵システムは、1戸(1世帯)ごとに設置されていてもよいし、複数戸(複数世帯)ごとに設置されていてもよい。
【0212】
<3−4.電動工具>
図9は、電動工具のブロック構成を表している。この電動工具は、例えば、電動ドリルであり、プラスチック材料などにより形成された工具本体98の内部に、制御部99と、電源100とを備えている。この工具本体98には、例えば、可動部であるドリル部101が稼働(回転)可能に取り付けられている。
【0213】
制御部99は、電動工具全体の動作(電源100の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、CPUなどを含んでいる。電源100は、1または2以上の二次電池(図示せず)を含んでいる。この制御部99は、図示しない動作スイッチの操作に応じて、電源100からドリル部101に電力を供給するようになっている。
【実施例】
【0214】
本技術の具体的な実施例について、詳細に説明する。
【0215】
(実験例1〜30)
以下の手順により、
図1に示した活物質100を正極活物質として用いて、
図4および
図5に示したラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0216】
最初に、正極33を作製した。この場合には、中心部101として、LiCo
0.98Al
0.01Mg
0.01O
2 (LiCAMO)で表される平均組成を有するリチウム複合酸化物の粉末を準備した。レーザ散乱法により測定された中心部101の平均粒径は、約13μmであった。
【0217】
続いて、表1および表2に示した被覆部102の形成材料(スルホニル化合物)を含む処理溶液を準備した。この処理溶液の溶媒は4−クロロフェノール、濃度は1重量%とした。続いて、処理溶液中に中心部101を数秒間浸漬させたのち、その処理溶液を攪拌した。続いて、処理溶液中から中心部101を取り出して、その中心部101を60℃の減圧環境中において乾燥させた。これにより、スルホニル化合物を含む被覆部102が中心部101の表面に形成されたため、正極活物質が得られた。
【0218】
なお、正極活物質を得る場合には、比較のために、被覆部102を形成せずに中心部101をそのまま用いた。また、被覆部102を形成する代わりに、電解液にスルホニル化合物を含有させた。この場合には、電解液中におけるスルホニル化合物の含有量を電解質塩の重量の10重量%相当とした。
【0219】
続いて、正極活物質98質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン)1.2質量部と、正極導電剤(アモルファス性炭素粉であるケッチェンブラック)0.8質量部とを混合して、正極合剤とした。続いて、有機溶剤(N−メチル−2−ピロリドン)に正極合剤を分散させて、正極合剤スラリーとした。続いて、帯状の正極集電体33A(20μm厚のアルミニウム箔)の両面に正極合剤スラリーを均一に塗布してから温風乾燥して、正極活物質層33Bを形成した。最後に、ロールプレス機を用いて正極活物質層33Bを圧縮成型した。
【0220】
次に、負極34を作製した。この場合には、電子ビーム蒸着法を用いて、帯状の負極集電体34A(10μm厚の電解銅箔)の両面に負極活物質(炭素)を堆積させて、負極活物質層34Bを形成した。この場合には、負極集電体34Aの片面側における負極活物質層34Bの厚さを5μmとした。なお、充電途中において負極34にリチウム金属が析出することを防止するために、負極活物質による充電容量が正極の充電容量よりも大きくなるようにした。
【0221】
次に、溶媒(炭酸エチレンおよび炭酸ジエチル)に電解質塩(LiPF
6 )を溶解させて、電解液を調製した。この場合には、溶媒の組成(重量比)を炭酸エチレン:炭酸ジエチル=30:70、電解液中における電解質塩の濃度を1mol/kgとした。
【0222】
次に、二次電池を組み立てた。この場合には、正極33の正極集電体33Aにアルミニウム製の正極リード31を溶接すると共に、負極34の負極集電体34Aにニッケル製の負極リード32を溶接した。続いて、セパレータ35(25μm厚の微多孔性ポリプロピレンフィルム)を介して正極33と負極34とを積層させてから長手方向に巻回させて巻回電極体30を作製したのち、その巻回電極体30の最外周部に保護テープ37を貼り付けた。続いて、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回電極体30を配置したのち、外装部材40の3辺における外周縁部同士を熱融着して袋状にした。この外装部材40は、外側から、ナイロンフィルム(30μm厚)と、アルミニウム箔(40μm厚)と、ポリプロピレンフィルム(30μm厚)とが積層された耐湿性のアルミラミネートフィルム(総厚100μm)である。最後に、外装部材40の内部に電解液を注入してセパレータ35に含浸させたのち、減圧環境中において外装部材40の残りの1辺を熱融着した。これにより、二次電池が完成した。
【0223】
最後に、二次電池を充電させたのち、表1および表2に示した保存条件において充電状態の二次電池を保存した。この場合には、1mA/cm
2 の電流密度で電池電圧が表1および表2に示した充電電圧(V)に到達するまで充電した。また、保存条件(保存温度および保存時間)を変更することで、強度比IS/IF,IN/IFを変化させた。
【0224】
二次電池の電池特性としてサイクル特性、高出力特性および膨れ特性を調べたところ、表1および表2に示した結果が得られた。なお、表1および表2に示した強度比IS/IF,IN/IFは、上記した手順により、TOF−SIMS装置を用いた負イオン分析の分析結果から求められた。
【0225】
サイクル特性を調べる場合には、常温環境中(23℃)において二次電池を2サイクル充放電させて、2サイクル目の放電容量(mAh)を測定した。続いて、同環境中においてサイクル数の合計が100回になるまで二次電池を繰り返して充放電させて、100サイクル目の放電容量(mAh)を測定した。この測定結果から、放電容量維持率(%)=(100サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を算出した。充電時には、1mA/cm
2 の電流密度で電池電圧が表1および表2に示した充電電圧(V)に到達するまで充電したのち、さらに同電圧において電流密度が0.02mA/cm
2 に到達するまで充電した。放電時には、1mA/cm
2 の電流密度で電池電圧が2.5Vに到達するまで放電した。
【0226】
高出力特性を調べる場合には、常温環境中(23℃)において二次電池を充放電させて放電容量(mAh)を測定したのち、正極活物質の重量(g)に基づいて、高出力放電容量(mAh/g)=放電容量/正極活物質の重量を算出した。充電時には、10Cの電流で電池電圧が表1および表2に示した充電電圧(V)に到達するまで充電したのち、さらに同電圧において電流密度が0.02mA/cm
2 に到達するまで充電した。放電時には、10Cの電流で電池電圧が2.5Vに到達するまで放電した。なお、「10C」とは、電池容量(理論容量)を0.1時間で放電しきる電流値である。
【0227】
膨れ特性を調べる場合には、常温環境中(23℃)において充放電前の二次電池の厚さ(mm)を測定したのち、同環境中において二次電池を100サイクル充放電させてから充放電後の厚さ(mm)を測定した。この測定結果から、膨れ率(%)=[(充放電後の厚さ−充放電前の厚さ)/充放電前の厚さ]×100を算出した。充放電条件は、サイクル特性を調べた場合と同様である。
【0228】
TOF−SIMS装置を用いて負イオン分析を行うために、分析用のサンプルを準備する手順は、以下の通りである。大気との反応に起因して正極活物質の表面状態(表面成分)が変質することを防止するために、アルゴングローブボックスの内部において二次電池の解体作業を行った。最初に、充電状態の二次電池をアルゴングローブボックスに投入したのち、その二次電池を解体して、正極33を取り出した。続いて、セラミック製のはさみを用いて、1cm角程度のサンプルが得られるように正極33を切断した。続いて、電解液中の含有成分などが滞留することを防止するために、炭酸ジメチル中にサンプルを30秒間ほど浸漬させて、そのサンプルを洗浄した。最後に、アルゴン雰囲気中においてTOF−SIMS装置の内部にサンプルを輸送して、その装置の内部を一晩に渡って真空引きした。これにより、不要な炭酸ジメチルが揮発したため、分析用のサンプルが得られた。
【0229】
【表1】
【0230】
【表2】
【0231】
被覆部102を形成した場合には、強度比IS/IFが0.04以上であると、被覆部102を形成しなかった場合および強度比IS/IFが0.04未満である場合と比較して、放電容量維持率および高出力放電容量が著しく増加すると共に、膨れ率が著しく減少した。特に、被覆部102を形成した場合(強度比IS/IF≧0.04)には、充電電圧を増加させても、高い放電容量維持率および高出力放電容量が得られた。
【0232】
また、被覆部102を形成した場合(強度比IS/IF≧0.04)には、さらに強度比IN/IFが0.03以上であると、0.03未満である場合と比較して、高い放電容量維持率および高出力放電容量が維持されつつ、膨れ率が減少した。
【0233】
これらの結果は、被覆部102を用いる場合には、単に中心部101に被覆部102を設けただけでは放電容量維持率および高出力放電容量が改善されないことを表している。放電容量維持率および高出力放電容量を改善するためには、中心部101に被覆部102を設けた上で、強度比IS/IFを適正化しなければならない。
【0234】
また、上記した結果は、被覆部102の形成材料について、放電容量維持率および高出力放電容量を改善するためにはスルホニル化合物が好ましいが、さらに膨れ率まで改善するためには窒素含有スルホニル化合物がより好ましいことを表している。
【0235】
なお、電解液にスルホニル化合物を含有させても、被覆部102が形成されていないと、放電容量維持率、高出力放電容量および膨れ率がほとんど改善されなかった。
【0236】
表1および表2の結果から、電極反応物質を吸蔵放出可能である活物質において、TOF−SIMSを用いた活物質の負イオン分析により求められる強度比IS/IFが0.04以上であると、優れた電池特性が得られた。
【0237】
以上、実施形態および実施例を挙げながら本技術を説明したが、本技術は実施形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、電池構造が円筒型およびラミネートフィルム型であると共に、電池素子が巻回構造を有する場合を例に挙げて説明したが、これらに限られない。本技術の二次電池は、角型、コイン型およびボタン型などの他の電池構造を有する場合や、電池素子が積層構造などの他の構造を有する場合についても、同様に適用可能である。
【0238】
また、本技術の二次電池用活物質および二次電池用電極は、二次電池以外の電気化学デバイスに適用されてもよい。この二次電池以外の電気化学デバイスは、例えば、キャパシタなどである。
【0239】
また、強度比IS/IFの範囲について、実施例の結果から導き出された適正範囲を説明している。しかしながら、その説明は、強度比IS/IFが上記した範囲外となる可能性を完全に否定するものではない。すなわち、上記した適正範囲は、あくまで本技術の効果を得る上で特に好ましい範囲であるため、本技術の効果が得られるのであれば、上記した範囲から強度比IS/IFが多少外れてもよい。このことは、強度比IN/IFについても同様である。
【0240】
なお、本技術は、以下のような構成を取ることも可能である。
(1)
正極および負極と共に電解液を備え、
前記正極は、電極反応物質を吸蔵放出可能である活物質を含み、
飛行時間型二次イオン質量分析法を用いた前記活物質の負イオン分析により得られるSO
2-に起因するピークの強度ISとLiF
2-に起因するピークの強度IFとの比IS/IFは、0.04以上である、
二次電池。
(2)
前記活物質は、前記電極反応物質を吸蔵放出可能である中心部と、その中心部に設けられた被覆部とを含み、
前記被覆部は、スルホニル基(>SO
2 )を有する化合物を含む、
上記(1)に記載の二次電池。
(3)
前記スルホニル基を有する化合物は、下記の式(1)〜式(4)のそれぞれで表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含む、
上記(2)に記載の二次電池。
【化9】
(R1〜R4のそれぞれは、水素基、炭化水素基、酸素含有炭化水素基、ハロゲン基、ハロゲン化炭化水素基、ハロゲン化酸素含有炭化水素基、またはそれらの2種類以上が結合された基であり、R1〜R4のうちの任意の2つ以上は、互いに結合されていてもよい。)
【化10】
(R5およびR6のそれぞれは、水素基、炭化水素基、酸素含有炭化水素基、ハロゲン基、ハロゲン化炭化水素基、ハロゲン化酸素含有炭化水素基、またはそれらの2種類以上が結合された基であり、R5およびR6は、互いに結合されていてもよい。Mは、金属元素である。)
【化11】
(R7〜R12のそれぞれは、水素基、炭化水素基、酸素含有炭化水素基、ハロゲン基、ハロゲン化炭化水素基、ハロゲン化酸素含有炭化水素基、またはそれらの2種類以上が結合された基であり、R7〜R12のうちの任意の2つ以上は、互いに結合されていてもよい。)
【化12】
(R13〜R16のそれぞれは、水素基、炭化水素基、酸素含有炭化水素基、ハロゲン基、ハロゲン化炭化水素基、ハロゲン化酸素含有炭化水素基、またはそれらの2種類以上が結合された基であり、R13〜R16のうちの任意の2つ以上は、互いに結合されていてもよい。)
(4)
前記式(1)に示した化合物は、下記の式(1−1)〜式(1−13)のそれぞれで表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含み、
前記式(2)に示した化合物は、下記の式(2−1)〜式(2−11)のそれぞれで表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含み、
前記式(3)に示した化合物は、下記の式(3−1)〜式(3−11)のそれぞれで表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含み、
前記式(4)に示した化合物は、下記の式(4−1)〜式(4−11)のそれぞれで表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含む、
上記(3)に記載の二次電池。
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
(5)
飛行時間型二次イオン質量分析法を用いた前記活物質の負イオン分析により得られるSNO
2-に起因するピークの強度INとLiF
2-に起因するピークの強度IFとの比IN/IFは、0.03以上である、
上記(1)に記載の二次電池。
(6)
前記活物質は、前記電極反応物質を吸蔵放出可能である中心部と、その中心部に設けられた被覆部とを含み、
前記被覆部は、スルホニル基(>SO
2 )および窒素結合(>N−)を有する化合物を含む、
上記(5)に記載の二次電池。
(7)
前記スルホニル基および窒素結合を有する化合物は、下記の式(1)および式(2)のそれぞれで表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含む、
上記(6)に記載の二次電池。
【化17】
(R1〜R4のそれぞれは、水素基、炭化水素基、酸素含有炭化水素基、ハロゲン基、ハロゲン化炭化水素基、ハロゲン化酸素含有炭化水素基、またはそれらの2種類以上が結合された基であり、R1〜R4のうちの任意の2つ以上は、互いに結合されていてもよい。)
【化18】
(R5およびR6のそれぞれは、水素基、炭化水素基、酸素含有炭化水素基、ハロゲン基、ハロゲン化炭化水素基、ハロゲン化酸素含有炭化水素基、またはそれらの2種類以上が結合された基であり、R5およびR6は、互いに結合されていてもよい。Mは、金属元素である。)
(8)
前記式(1)に示した化合物は、下記の式(1−1)〜式(1−13)のそれぞれで表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含み、
前記式(2)に示した化合物は、下記の式(2−1)〜式(2−11)のそれぞれで表される化合物から群のうちの少なくとも1種を含む、
上記(7)に記載の二次電池。
【化19】
【化20】
(9)
前記活物質は、リチウム複合酸化物を含み、
前記リチウム複合酸化物は、リチウム(Li)と、1または2以上の遷移金属元素とを構成元素として含む、
前記(1)ないし(8)のいずれかに記載の二次電池。
(10)
前記リチウム複合酸化物は、前記遷移金属元素としてコバルト(Co)を含むと共に、層状岩塩型の結晶構造を有する、
上記(9)に記載の二次電池。
(11)
前記リチウム複合酸化物は、その表面に、前記遷移金属元素とは異なる種類である1または2以上の元素を有する、
上記(9)または(10)に記載の二次電池。
(12)
充電電圧の上限値は、4.2V以上4.8V以下であり、
放電電圧の下限値は、2.0V以上3.3V以下である、
上記(1)ないし(11)のいずれかに記載の二次電池。
(13)
リチウム二次電池である、
上記(1)ないし(12)のいずれかに記載の二次電池。
(14)
電極反応物質を吸蔵放出可能である活物質を含み、
飛行時間型二次イオン質量分析法を用いた前記活物質の負イオン分析により得られるSO
2-に起因するピークの強度ISとLiF
2-に起因するピークの強度IFとの比IS/IFは、0.04以上である、
二次電池用電極。
(15)
電極反応物質を吸蔵放出可能であり、
飛行時間型二次イオン質量分析法を用いた負イオン分析により得られるSO
2-に起因するピークの強度ISとLiF
2-に起因するピークの強度IFとの比IS/IFは、0.04以上である、
二次電池用活物質。
(16)
上記(1)ないし(13)のいずれかに記載の二次電池と、
その二次電池の使用状態を制御する制御部と、
その制御部の指示に応じて前記二次電池の使用状態を切り換えるスイッチ部と
を備えた、電池パック。
(17)
上記(1)ないし(13)のいずれかに記載の二次電池と、
その二次電池から供給された電力を駆動力に変換する変換部と、
その駆動力に応じて駆動する駆動部と、
前記二次電池の使用状態を制御する制御部と
を備えた、電動車両。
(18)
上記(1)ないし(13)のいずれかに記載の二次電池と、
その二次電池から電力を供給される1または2以上の電気機器と、
前記二次電池からの前記電気機器に対する電力供給を制御する制御部と
を備えた、電力貯蔵システム。
(19)
上記(1)ないし(13)のいずれかに記載の二次電池と、
その二次電池から電力を供給される可動部と
を備えた、電動工具。
(20)
上記(1)ないし(13)のいずれかに記載の二次電池を電力供給源として備えた、電子機器。