特許第6179405号(P6179405)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6179405ポリエチレンテレフタレート組成物、その製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6179405
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】ポリエチレンテレフタレート組成物、その製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20170807BHJP
   C08G 63/82 20060101ALI20170807BHJP
   C08K 5/52 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   C08L67/02
   C08G63/82
   C08K5/52
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-550678(P2013-550678)
(86)(22)【出願日】2013年9月12日
(86)【国際出願番号】JP2013074658
(87)【国際公開番号】WO2014045995
(87)【国際公開日】20140327
【審査請求日】2016年8月1日
(31)【優先権主張番号】特願2012-207228(P2012-207228)
(32)【優先日】2012年9月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小島 博二
(72)【発明者】
【氏名】松本 麻由美
(72)【発明者】
【氏名】坂本 純
【審査官】 岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/052290(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/032876(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/103945(WO,A1)
【文献】 特開2008−007750(JP,A)
【文献】 特開2003−073466(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/82
C08K 5/52
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸アルカリ金属化合物をアルカリ金属元素として1.0mol/ton以上3.0mol/ton以下含有し、リン元素を1.5mol/ton以上5.0mol/ton以下含有し、リン元素およびアルカリ金属元素を含有する50μm以上の白色異物が体積分率で1ppm以下、固有粘度が0.65dl/g以上0.90dl/g未満、環状三量体の含有量が0.6重量%以下、カルボン酸末端基が15eq/ton以下、湿熱処理(155℃、100%RH雰囲気下で4時間)した時のカルボン酸末端基増加量(ΔCOOH)が30eq/ton以下であるポリエチレンテレフタレート組成物。
【請求項2】
ジエチレングリコールの含有量が0.8重量%以上1.5重量%未満、である請求項1に記載のポリエチレンテレフタレート組成物。
【請求項3】
リン酸アルカリ金属化合物をアルカリ金属元素として1.0mol/ton以上3.0mol/ton以下含有し、ジエチレングリコールの含有量が0.8重量%以上1.0重量%未満、リン元素を1.5mol/ton以上5.0mol/ton以下含有し、リン元素およびアルカリ金属元素を含有する50μm以上の白色異物が体積分率で1ppm以下、固有粘度が0.65dl/g以上0.90dl/g未満、環状三量体の含有量が0.6重量%以下、カルボン酸末端基が15eq/ton以下、湿熱処理(155℃、100%RH雰囲気下で4時間)した時のカルボン酸末端基増加量(ΔCOOH)が30eq/ton以下である請求項1記載のポリエチレンテレフタレート組成物。
【請求項4】
エチレンテレフタレート低重合体にテレフタル酸、およびエチレングリコールを供給し、エステル化反応を経て重縮合反応、および固相重合を行うポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法において、エステル化反応開始前から重縮合反応を開始するまでにリン酸アルカリ金属化合物を2.0mmol/リットル以上30mmol/リットル以下のエチレングリコール溶液で、ポリエチレンテレフタレート組成物に対してアルカリ金属として1.0mol/ton以上3.0mol/ton以下となるように添加することを特徴とするポリエチレンテレフタレート組成物の製造方法。
【請求項5】
リン酸アルカリ金属化合物のエチレングリコール溶液をテレフタル酸と混合して添加することを特徴とする請求項4に記載のポリエチレンテレフタレート組成物の製造方法。
【請求項6】
リン酸アルカリ金属化合物のエチレングリコール溶液を周速3.0m/s以上30m/s以下で攪拌しているエチレンテレフタレート低重合体に添加することを特徴とする請求項4または5に記載のポリエチレンテレフタレート組成物の製造方法。
【請求項7】
リン酸アルカリ金属化合物に対して、リン酸を0.8倍モル以上1.4倍モル以下添加する請求項4〜6のいずれかに記載のポリエチレンテレフタレート組成物の製造方法。
【請求項8】
重縮合反応における助触媒として添加するマンガン元素、カルシウム元素およびマグネシウム元素の総モル量と、アルカリ金属元素のモル量の0.5モル倍の和(M)とリン元素のモル量(P)のモル比(M/P)が1.00〜1.20になるように添加する請求項4〜7のいずれか1項に記載のポリエチレンテレフタレート組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐加水分解性に優れたポリエチレンテレフタレート組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートは機械特性、熱特性、耐薬品性、電気特性、成形性に優れ、様々な用途に用いられている。
【0003】
しかし、ポリエチレンテレフタレートは加水分解により機械物性が低下するため、長期にわたって使用する場合、或いは湿気のある状態で使用する場合においては加水分解を抑制すべく様々な検討がなされてきた。また、光学用途においては、加工工程や長期に使用する場合、フィルムの結晶化が進み、環状三量体などのオリゴマーの析出によるフィルム汚れ(白濁)が光学特性低下の原因となる。特に、太陽電池フロントシート用フィルムにおいては、屋外にて20年以上の耐用年数と光学特性が要求されることから、高い耐加水分解性、伸度保持率、光学特性、低オリゴマー性が必要である。
【0004】
例えば、特許文献1には、耐湿熱性が改善されたo−クロロフェノール(以下、OCPと記載することがある。)不溶物の少ないポリエチレンテレフタレート組成物が記載されており、直重法での製造方法についても詳細に記載がなされている。
【0005】
しかし、直重法で製造するに際しては、微量ではあるが白色異物が生成し、異物(以下、フィッシュアイと記載することがある。)の原因になることから、光学用途への適用が困難である。
【0006】
特許文献2には、異物が少ないポリエチレンテレフタレートの製造方法について記載されているが、開示されているのは異物(フィッシュアイ)が8平方センチメートルあたり31個以上含有する技術であり、光学用途に用いるには不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2011/052290号
【特許文献2】特開2007−70462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、これら従来の欠点を解消せしめ、耐加水分解性、伸度保持率、光学特性、低オリゴマー性に優れ、太陽電池フィルム用途として好適なポリエチレンテレフタレート組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の目的は、リン酸アルカリ金属化合物をアルカリ金属元素として1.0mol/ton以上3.0mol/ton以下含有し、リン元素を、1.5mol/ton以上5.0mol/ton以下含有し、リン元素およびアルカリ金属元素を含有する50μm以上の白色異物が体積分率で1ppm以下、固有粘度が0.65dl/g以上0.90dl/g未満、環状三量体の含有量が0.6重量%以下、カルボン酸末端基が15eq/ton以下、湿熱処理(155℃、100%RH雰囲気下で4時間)した時のカルボン酸末端基増加量(ΔCOOH)が30eq/ton以下であるポリエチレンテレフタレート組成物により達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、長期の耐加水分解性、光学特性に優れるポリエチレンテレフタレート組成物を提供することができる。また、本発明の組成物を二軸延伸フィルムとすることで、磁材用途、コンデンサーなどの電気材料用途、包装用途、光学用途、特に、長期の耐加水分解性、光学特性、低オリゴマー性を必要とする太陽電池フロントシート用フィルム用途に提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のポリエチレンテレフタレート組成物は、リン酸アルカリ金属化合物をアルカリ金属元素として1.0mol/ton以上3.0mol/ton以下、リン元素を1.5mol/ton以上5.0mol/ton以下含有し、リン元素とアルカリ金属元素を含有する50μm以上の白色異物が体積分率で1ppm以下、固有粘度が0.65dl/g以上0.90dl/g未満、環状三量体の含有量が0.6重量%以下、カルボン酸末端基が15eq/ton以下、湿熱処理(155℃、100%RH雰囲気下で4時間)した時のカルボン酸末端基増加量(ΔCOOH)が30eq/ton以下であるポリエチレンテレフタレート組成物である。
【0012】
本発明のポリエチレンテレフタレート組成物は、テレフタル酸およびそのエステル形成性誘導体、エチレングリコールから製造されるポリエチレンテレフタレートである。該ポリエチレンテレフタレート組成物は、全ジカルボン酸成分の98mol%以上がテレフタル酸であり、全グリコール成分の98mol%以上がエチレングリコールであることが機械特性、耐加水分解性、耐熱性の点から必要である。
【0013】
本発明のポリエチレンテレフタレート組成物に含有されるリン酸アルカリ金属化合物は、耐加水分解性の点から、アルカリ金属元素として1.0mol/ton以上3.0mol/ton以下であることが必要であり、さらには1.0mol/ton以上2.0mol/ton以下であることが耐加水分解性の点から好ましい。
【0014】
本発明のアルカリ金属元素は、ナトリウム、カリウム、リチウムなどが挙げられるが、中でもナトリウムであることが耐加水分解性、白色異物の点からより好ましく、リン酸二水素ナトリウムであることが耐加水分解性の点からさらにより好ましい。
【0015】
本発明のポリエチレンテレフタレート組成物に含有されるリン元素は、耐加水分解性の点から、1.5mol/ton以上5.0mol/ton以下である。さらには2.0mol/ton以上4.0mol/ton以下であることが耐加水分解性の点からより好ましい。リン元素を含む化合物としては、リン酸アルカリ金属化合物以外に、リン酸、亜リン酸、リン酸トリメチルやリン酸トリエチルのようなリン酸エステル、エチルジエチルホスホノアセテートなどのリン化合物を用いることができるが、耐加水分解性の点から、リン酸およびリン酸アルカリ金属化合物を併用することが好ましい。
【0016】
本発明のジエチレングリコール含有量は、0.8重量%以上であると、製膜時の配向性が向上するため、耐加水分解性、耐熱性が向上し、より好ましい。1.5重量%未満であると、さらには1.0重量%未満であると溶融時の熱分解反応によるカルボン酸末端基増加量が抑制されるため、加水分解がより起こりにくくなる。
【0017】
ジエチレングリコールを目的の範囲とするには、溶融重合を275℃〜285℃、4時間以内で行うことで、溶融重合反応中のジエチレングリコールの副生を抑制することができる。
【0018】
ポリエチレンテレフタレート組成物中の白色異物は、リン元素、およびアルカリ金属元素を含有しており、フィルムにした場合に異物(フィッシュアイ)となるため、その含有量はポリエチレンテレフタレート組成物に対して体積分率で1ppm以下であることが必要であり、さらには0.5ppm以下、特に0ppmであることが好ましい。
【0019】
白色異物を体積分率で1ppm以下とするには、リン酸アルカリ金属化合物を2.0mmol/リットル以上30mmol/リットル以下のエチレングリコール溶液で添加する必要があり、さらには耐加水分解性の点から10.0mmol/リットル以上30mmol/リットル以下であることが好ましい。白色異物は、リン酸アルカリ金属化合物が、高温のエチレンテレフタレート低重合体に触れることで、縮合反応により白色異物化していると推定される。白色異物を低減し、かつ耐加水分解性の低下を防止するため、リン酸アルカリ金属化合物を2.0mmol/リットル以上30mmol/リットル以下のエチレングリコール溶液で添加することがより好ましい。
【0020】
リン酸アルカリ金属化合物のエチレングリコール溶液調製は、リン酸アルカリ金属化合物が溶け残ることのないように、50℃以上100℃未満に加熱したエチレングリコールにリン酸アルカリ金属化合物を添加して溶解させることが、白色異物生成抑制の点から好ましい。リン酸アルカリ金属化合物をエチレングリコールに加熱溶解する際の濃度としては、200mmol/リットル以上1000mmol/リットル以下であることが好ましく、その後、2.0mmol/リットル以上30mmol/リットル以下に希釈して添加することが好ましい。
【0021】
本発明の環状三量体の含有量は、フィルムの白濁防止の点からポリエチレンテレフタレート組成物に対して0.6重量%以下である。さらには0.5重量%以下であることが好ましい。環状三量体の下限としては、少ないほど良好となるが、従来のポリエチレンテレフタレートの固相重合反応では、0.15重量%程度であると考えられる。ポリマーから抽出する工程を設けることにより、環状三量体の含有量を0.0重量%とすることができる。
【0022】
本発明のポリエチレンテレフタレート組成物は、155℃水蒸気下で4時間処理した際のカルボン酸末端基増加量(ΔCOOH)が30eq/ton以下である。ΔCOOHが30eq/ton以下であると耐加水分解性が向上し好ましい。特に25eq/ton以下であると耐加水分解性が更に向上し好ましい。
【0023】
このΔCOOHは、一定の加水分解処理を行ったときのカルボン酸末端基増加量であることから、加水分解速度を表す指標である。従って、ΔCOOHが大きい場合は、加水分解反応が進行しやすいことを意味し、太陽電池用途など高い耐加水分解性を必要とするポリエステルを評価する上で、重要な指標となる。
【0024】
ΔCOOHを30eq/ton以下とすることは、リン酸/リン酸アルカリ金属化合物のような緩衝剤等により分解反応速度を抑制すること、および固相重合によりカルボン酸末端基量を低減することにより可能である。このときのリン酸/リン酸アルカリ金属化合物の比率は、リン酸アルカリ金属化合物に対して、リン酸を0.8モル倍以上1.4モル倍以下とすることが好ましい。
【0025】
ΔCOOHの下限としては、低いほど耐加水分解性が良好となるが、エステル結合を有するポリエチレンテレフタレートでは5eq/t程度である。
【0026】
本発明のポリエチレンテレフタレート組成物は、耐加水分解性、フィルム成形性の点から、固有粘度が0.65dl/g以上0.90dl/g未満であり、さらに好ましくは0.70dl/g以上0.85dl/g未満である。
【0027】
本発明のポリエチレンテレフタレート組成物は、耐加水分解性の点からカルボン酸末端基が15eq/ton以下であり、さらに好ましくは12eq/tonである。カルボン酸末端基の下限としては、低いほど耐加水分解性が良好となるが、従来の重縮合反応、固相重合反応では5eq/t程度であり、カルボン酸末端基を0eq/tとするためには過剰量の末端封止剤が必要である。
【0028】
本発明のポリエチレンテレフタレート組成物は、重縮合反応における助触媒を含有することが、耐加水分解性の点からもより好ましい。助触媒としては、酢酸マンガン、水酸化マンガンなどのマンガン化合物、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウムなどのマグネシウム化合物、酢酸カルシウム、水酸化カルシウムなどのカルシウム化合物の少なくとも1種以上であることが耐熱性、耐加水分解性の点から好ましい。このような助触媒を添加する場合は、ポリエチレンテレフタレート組成物中のアルカリ金属元素の0.5倍モルと助触媒金属元素の1.0倍モルの和(M)と、リン元素(P)のモル比(M/P)が1.00以上1.20以下になるようにすることが、耐加水分解性、耐熱性の点から好ましい。
【0029】
本発明のポリエチレンテレフタレート組成物は、エチレンテレフタレート低重合体(ここで、エチレンテレフタレート低重合体とはエチレンテレフタレート単位が15量体以下の化合物を指す。)にテレフタル酸とエチレングリコールのスラリーを供給することによりエステル化反応を行い、重縮合反応を行うことにより製造することができる。
【0030】
エステル化反応としては、溶融状態のエチレンテレフタレート低重合体を240℃以上260℃以下で攪拌しながら、テレフタル酸とエチレングリコールのスラリーを徐々に添加し、水を留出させる、従来の方法を用いることができる。リン酸アルカリ金属化合物は、エステル化反応開始前から、重縮合反応を開始するまでの任意の段階で添加する必要がある。リン酸アルカリ金属化合物の添加方法は、2.0mmol/リットル以上30mmol/リットル以下のエチレングリコール溶液として、ポリエチレンテレフタレート組成物に対してアルカリ金属として1.0mol/ton以上3.0mol/ton以下となるように添加することが白色異物低減の点から好ましく、さらには4.0mmol/リットル以上30mmol/リットル以下であることがより好ましい。また、リン酸アルカリ金属化合物のエチレングリコール溶液を添加する際には、周速3.0m/s以上30m/s以下で攪拌しているところに添加することが白色異物低減の点からより好ましい。
【0031】
さらに、エステル化反応が実質的に終了後から重縮合反応開始までの間に、エチレングリコールをポリエチレンテレフタレート組成物に含まれる全ジカルボン酸成分に対して、0.1モル倍以上0.5モル倍以下添加することにより、未反応のカルボン酸末端基がエチレングリコールでエステル化し、ポリエチレンテレフタレート組成物のカルボン酸末端基量が減少するため、耐加水分解性が向上する。
【0032】
重縮合反応条件としては、最終到達温度を275℃以上285℃以下の温度で重縮合反応を行うことが、カルボン酸末端基量の低減、耐加水分解性の点から好ましい。
重縮合反応触媒としては、公知の化合物を使用することができ、例えば、三酸化アンチモン、チタンアルコキシド、チタンキレート化合物、二酸化ゲルマニウムなどを挙げることができ、なかでも重縮合反応性、耐熱性の点から三酸化アンチモンであることが好ましい。
【0033】
このようにして得られたポリエチレンテレフタレート組成物は、さらにカルボン酸末端基を低減することにより、耐加水分解性を向上させるために、固相重合を行う。
【0034】
固相重合条件としては、固有粘度0.5dl/g以上0.6dl/g以下の範囲に到達した時点で重縮合反応を終了し、チップ化したポリエチレンテレフタレート組成物を、固相重合温度を210℃以上230℃以下、真空度0.3Torr以下の条件で8時間以上固相重合反応を行うことが耐加水分解性の点から好ましい。
【0035】
以下に、本発明のポリエチレンテレフタレート組成物の具体的な製造方法について述べるがこれに限定するものではない。
【0036】
エステル化反応釜でエチレンテレフタレート低重合体を溶融後、テレフタル酸とエチレングリコールのスラリー(エチレングリコール/テレフタル酸のモル比が1.15)を3.5時間かけて添加し、水を留出させながらエステル化反応を行う。このとき、副生するジエチレングリコール量は、テレフタル酸に対するエチレングリコール量と相関があり、エチレングリコール量を増加させると副生するジエチレングリコール量も増加する。エステル化反応終了後、重合反応釜に移行し、ポリエチレンテレフタレート組成物100重量部に対して、助触媒として酢酸マンガン4水和物エチレングリコール溶液(5重量%)を酢酸マンガン4水和物として0.07重量部(マンガン元素として2.8mol/ton相当)、重縮合触媒として三酸化アンチモンを0.03重量部となるように添加する。ここで、テレフタル酸に対して0.1モル倍以上0.5モル倍以下のエチレングリコールを添加すると、助触媒により効率的に未反応のカルボン酸末端基のエステル化が進行し、耐加水分解性を向上させることができる。助触媒の添加量としては、助触媒に含まれる金属成分であるマンガン元素、カルシウム元素、マグネシウム元素の総モル量とリン酸アルカリ金属化合物に含まれるアルカリ金属元素の0.5倍モル量の和(M)とリン元素のモル量(P)の比(M/P)が1.00以上1.20未満となるようにすることで、耐加水分解性が向上する。
【0037】
5分攪拌後、ポリエチレンテレフタレート組成物100重量部に対して、リン酸アルカリ金属化合物のエチレングリコール溶液(30mmol/リットル)をリン酸金属化合物をアルカリ金属元素として1.0mol/ton以上3.0mol/ton以下と、リン酸をポリエチレンテレフタレート組成物に含まれるリン元素が1.5mol/ton以上5.0mol/ton以下になるように周速15m/sで攪拌しているところに添加する。このとき、白色異物をポリエチレンテレフタレート組成物に対して体積分率で1ppm以下とするためには、リン酸アルカリ金属化合物のエチレングリコール溶液が2.0mmol/リットル以上30mmol/リットル以下とすることが必要であり、特に周速が3.0m/s以上30m/s以下で攪拌しているところに添加することが好ましい。さらに、湿熱処理後のカルボン酸末端基増加量を30eq/ton以下とするためには、ポリエチレンテレフタレート組成物に対するリン酸アルカリ金属化合物の含有量を1.0mol/ton以上3.0mol/ton以下とする必要がある。
【0038】
重縮合反応においては、最終到達温度280℃、真空度0.1Torrで行い、固有粘度0.55相当の溶融粘度に達した時点で吐出し、ストランドカッターによりチップ化する。このときのジエチレングリコール含有量は、チップ化するときの固有粘度と相関があり、固有粘度を高くすると、重縮合反応時間が長くなり、副生するジエチレングリコールが増加する傾向にある。また、このときのカルボン酸末端基量は最終到達温度と固有粘度のそれぞれと相関があり、カルボン酸末端基量を低減するには、最終到達温度を低くし、固有粘度も低い状態でチップ化することが有効である。
【0039】
得られたチップを固相重合温度230℃、真空度0.3Torrで11時間固相重合することにより本発明のポリエチレンテレフタレート組成物を得ることができる。
【0040】
このようにして得られたポリエチレンテレフタレート組成物は、乾燥を経て、通常の押出機、Tダイにて押出し、二軸延伸することができ、太陽電池用フロントシートで必要とされる耐加水分解性、光学特性が良好となるばかりでなく、固有粘度が高く、耐加水分解性に優れることから、従来のフィルムに比べて薄膜化することが可能であり、太陽電池モジュールの小型化、軽量化に有利である。
【実施例】
【0041】
(A.固有粘度:IV)
ポリマー0.1gをo−クロロフェノール10mlに160℃、20分で溶解し、25℃で測定した。
【0042】
(B.ポリマー中のリン量、マンガン量の定量)
理学電機(株)製蛍光X線分析装置(型番:3270)を用いて測定した。
【0043】
(C.ポリマー中のアルカリ金属量の定量)
原子吸光分析法((株)日立製作所製:偏光ゼーマン原子吸光光度計180−80。フレーム:アセチレン−空気)にて定量を行った。
【0044】
(D.カルボン酸末端基量)
ポリエチレンテレフタレート組成物のチップを採取し、Mauliceらの方法によって測定した。ポリマーチップ2gをo−クレゾール/クロロホルム(重量比7/3)50mlに溶解し、遠心沈降後の上澄み液を採取した。該上澄み液を、N/20−NaOHメタノール溶液によって滴定し、カルボン酸末端基量として当量/ポリエステル1tの値で示した。
(文献 M.J.Maulice,F.Huizinga.Anal.Chim.Acta,22 p.363(1960))。
【0045】
(E.ジエチレングリコールの測定方法)
ポリマーチップ0.5gをモノエタノールアミン中でアミン分解し、遊離したジエチレングリコールをガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製、GC−14A)で測定した。なお、数値はポリマー中のジエチレングリコールの重量%である。
【0046】
(F.ポリマー中の白色異物の定量)
固相重合前のポリマーのストランドもしくはチップを黒色台紙に5g計量し、オーツカ光学(株)製ラウンドタイプ照明拡大鏡(ENV−Bタイプ)を用いて白色異物をマーキングした。マーキングした白色異物について、走査型電子顕微鏡(SEM:(株)日立ハイテクノロジーズ製)観察を行い、最大直径が50μm以上の白色異物についてSEM−エネルギー分散型X線分光法(EDX:(株)堀場製作所製、EMAX−7000型)にて元素分析を行った。
リン元素、及びアルカリ金属元素が検出された白色異物について個数をカウントし、最大直径から下記換算式で白色異物体積を算出し、ポリエチレンテレフタレート組成物に対する白色異物総体積の体積分率を算出した。
白色異物体積=(4×π×(最大直径/2))/3
但し、ポリエチレンテレフタレート組成物の比重は1.35g/cmとした。
【0047】
(G.カルボン酸末端基増加量:ΔCOOH)
ポリエチレンテレフタレート組成物のチップを155℃、水蒸気中で4時間処理した。
測定装置:PRESSURE COOKER 305SIII((株)HIRAYAMA製作所製)
カルボン酸末端基増加量(ΔCOOH)は処理前後のサンプルのカルボン酸末端基量を測定し、算出した。
【0048】
ΔCOOHが30eq/ton以下を合格とした。
【0049】
(H.フィッシュアイの測定)
偏光板を用いて、ポリエチレンテレフタレート組成物の二軸延伸フィルム(厚み50μm)のA4サイズあたりのフィッシュアイを目視でマーキングし、SEM−EDXによりリン元素、及びアルカリ金属元素の有無を確認した。リン元素、及びアルカリ金属元素を含むフィッシュアイの個数が0個/A4のフィルムを合格とした。
【0050】
(I.伸度保持率)
二軸延伸されたフィルムを用いて、(株)平山製作所製 高加速寿命試験装置 PC−305SIIIを用い、121℃、100%RHで湿熱処理を行い、処理前のサンプルに対する処理後の伸度保持率が50%となる時間を伸度半減期とした。
フィルムの伸度は、ASTM D882−12に規定された方法に従って、インストロンタイプの引張試験機を用いて、下記条件によって測定した。
・測定装置:オリエンテック(株)製フィルム強伸度測定装置
“テンシロンAMF/RTA−100”
・試料サイズ:幅10mm×試長間100mm
・引張速度:200mm/分
・測定環境:温度23℃、湿度65%RH
太陽電池用途において適用可能と考えられる伸度半減期75時間以上を合格とした。
【0051】
(J.環状三量体の含有量)
押出成形前のチップ20mgをOCPに150℃で30分間溶解し、室温で冷却する。その後、内部標準として1、4−ジフェニルベンゼンを添加後、メタノール2mlを加えて、高速遠心分離機でポリマーを分離後、液層部を測定する。
装置:(株)島津製作所製LC−10ADvp
カラム:YMC−Pack ODS−2 150mm×4.6mm
カラム温度:40℃
流量:1.3ml/min
注入量:10μm
検出器:UV240nm
溶離液:A液(純水):B液(メタノール)=25:75 。
【0052】
(K.環状三量体の析出量)
二軸延伸ポリエステルフィルムを150℃のオーブン中で30分間静置した後、フィルム表面を面積が72cmになるよう枠で囲い、枠内を10mlのエタノールで洗浄し、溶液をすべて回収した。回収した溶液の365nmにおける吸光度を、(株)日立製作所製分光光度計U3010を用いて測定した。環状三量体の標準エタノール溶液との比較により環状三量体の析出量を求めた。
環状三量体の析出量が0.5mg/m未満を合格とした。
【0053】
(参考例1)リン酸二水素ナトリウムエチレングリコール溶液の調製方法
60℃に加熱したエチレングリコール10Lにリン酸二水素ナトリウム二水和物4000mmolを攪拌しながら添加し、濃度400mmol/Lのリン酸二水素ナトリウム二水和物エチレングリコール溶解を調製した。調製した溶液は、各実施例において所定の濃度に希釈後使用した。
【0054】
(実施例1)
ビスヒドロキシエチレンテレフタレート114重量部(ポリエチレンテレフタレート(PET)100重量部相当)があらかじめ仕込まれたエステル化反応装置(ES缶)にテレフタル酸86重量部、エチレングリコール37重量部からなるスラリーをスネークポンプにて3.5時間かけて供給し、反応物の温度を245℃〜255℃にコントロールしながらエステル化反応を行った。
【0055】
エステル化反応終了後、得られたビスヒドロキシエチレンテレフタレート114重量部(PET100重量部相当)を重合缶に移行し、酢酸マンガン4水和物を0.07重量部(5%エチレングリコール溶液、マンガン元素として2.8mol/ton相当)、三酸化アンチモン0.03重量部を添加した。その後、リン酸0.019重量部(1.9mol/ton相当)と、リン酸二水素ナトリウム2水和物0.027重量部(1.7mol/ton相当)を25mmol/Lのエチレングリコール溶液で周速4m/sで攪拌しているところに添加し、温度を255℃から280℃まで昇温しながら減圧し、重縮合反応を最終到達温度280℃、真空度0.1Torrで行った。得られたポリエチレンテレフタレート組成物は固有粘度0.55dl/g、ジエチレングリコール0.8重量%、リン元素含有量3.1mol/ton、ナトリウム金属含有量1.7mol/ton、カルボン酸末端基19eq/ton、白色異物含有量が0ppm(得られたポリマーチップ5gについて拡大鏡(オーツカ光学(株)製ENV−B)による観察を行い、検出なし)と本発明の範囲内であった。このとき、リン元素含有量が添加量に対して減少しているのは、重縮合反応中に、エチレングリコールとともにリン化合物が系外へ飛散したためである。
【0056】
得られたポリエチレンテレフタレート組成物を150℃で4時間乾燥、結晶化させたのち、チップ温度230℃、真空度0.3Torr以下で11時間固相重合を行い、固有粘度0.80dl/g、カルボン酸末端基11eq/ton、ΔCOOHが25eq/tのポリエチレンテレフタレート組成物を得た。得られたポリエチレンテレフタレート組成物を、窒素雰囲気下で押出機に供給し、押出温度280℃で400メッシュのフィルターを通し、Tダイからキャスティングドラム(20℃)にて急冷、静電印加法にてシート化した後に、縦延伸温度90℃、縦延伸倍率3.8倍で縦延伸したのち、横延伸温度110℃、横延伸倍率3.8倍で延伸し、熱処理を200℃で3秒行い、実効倍率で面倍率13.2倍の二軸延伸フィルムを得た。結果を表1および表2に示す。
得られた二軸延伸フィルムは、白色異物起因のフィッシュアイが0個/A4であり、太陽電池フロントシート用途等に供しても問題ないレベルであった。
【0057】
(実施例2)
酢酸マンガン4水和物添加後に、エチレングリコールを11重量部(テレフタル酸成分に対して0.35モル倍相当)を添加する以外は実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート組成物、および二軸延伸フィルムを得た。結果を表1および表2に示す。
得られたポリエチレンテレフタレート組成物は、エチレングリコールを添加した結果、カルボン酸末端基が9eq/ton、ΔCOOHが20eq/tonと実施例1に比べて耐加水分解性が向上しており、二軸延伸フィルムも太陽電池フロントシート用途等に供しても問題ないレベルであった。
【0058】
(実施例3〜5、20 比較例1〜3、7)
リン酸アルカリ金属化合物の種類および添加量、周速、リン酸アルカリ金属化合物エチレングリコール溶液の濃度、固有粘度を変更する以外は参考例1、実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート組成物、二軸延伸フィルムを製膜した。結果を表1および表2に示す。
【0059】
実施例3においては、リン酸二水素ナトリウム2水和物の代わりにリン酸二水素カリウム無水物を使用したところ、白色異物が0.15ppmと増加する傾向にあるが、本発明の範囲内であり、太陽電池フロントシート用途等に供しても問題ないレベルであった。
【0060】
実施例4においては、周速を2m/sに変更したところ、白色異物が0.15ppmと増加する傾向にあるが、本発明の範囲内であり、太陽電池フロントシート用途等に供しても問題ないレベルであった。
【0061】
実施例5においては、リン酸二水素ナトリウム2水和物エチレングリコール溶液の濃度を30mmol/Lに変更したところ、白色異物が0.5ppmと増加する傾向にあるが、本発明の範囲内であり、太陽電池フロントシート用途等に供しても問題ないレベルであった。
【0062】
実施例20においては、リン酸二水素ナトリウム2水和物の代わりにリン酸二水素リチウム無水物を使用したところ、COOH末端基量が15eq/tonと増加する傾向にあり、伸度半減期も76hrと低下する傾向にあるが、本発明の範囲内であり、太陽電池フロントシート用途等に供しても問題ないレベルであった。
【0063】
比較例1においては、ポリエチレンテレフタレート組成物の固有粘度を0.63dl/gに変更した。固有粘度が本発明の範囲の下限を下回っているため、伸度半減期が低下し、耐加水分解性が不十分であった。
【0064】
比較例2においては、ポリエチレンテレフタレート組成物の固有粘度を0.95dl/gに変更した。固有粘度が本発明の上限を越えているため、伸度半減期が低下し、耐加水分解性が不十分であった。これは、固有粘度(分子量)が大きくなったために、フィルムの配向性が低下したためと推定する。
【0065】
比較例3においては、リン酸アルカリ金属化合物を添加しない以外は実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート組成物を得た。得られたポリエチレンテレフタレート組成物は、ΔCOOHが41eq/tonと本発明の範囲外であり、耐加水分解性において不十分であった。
【0066】
比較例7においては、リン酸二水素ナトリウム2水和物エチレングリコール溶液の濃度を35mmol/Lに変更したところ、白色異物が1.4ppmと本発明の範囲外となり、二軸延伸フィルムのフィッシュアイも4個/A4検出され、光学特性において不十分であった。
【0067】
(実施例6)
リン酸二水素ナトリウム2水和物エチレングリコール溶液の濃度を5mmol/Lとし、リン酸二水素ナトリウム2水和物エチレングリコール溶液の添加方法を、テレフタル酸との混合スラリーとしてエステル化反応中に3.5時間かけて、周速25m/sで攪拌しているところに添加するように変更する以外は実施例2と同様にしてポリエチレンテレフタレート組成物、及び二軸延伸フィルムを得た。結果を表1および表2に示す。
【0068】
得られたポリエチレンテレフタレート組成物は、ΔCOOHが20eq/ton、白色異物も0ppmと本発明の範囲内であり、太陽電池フロントシート用途等に供しても問題ないレベルであった。
【0069】
(実施例7)
リン酸二水素ナトリウム2水和物エチレングリコール溶液を2.5mmol/L、12.5mmol/Lの2種類の濃度で調製する。2.5mmol/Lの溶液はテレフタル酸と混合スラリーとして周速25m/sで攪拌しているところに3.5時間かけて添加し、もう一方の12.5mmol/Lの溶液は、ビスヒドロキシエチレンテレフタレート114重量部(PET100重量部相当)を重合缶に移行したあとに、実施例2と同様にして添加してエチレンテレフタレート組成物を得た。結果を表1および表2に示す。
【0070】
得られたエチレンテレフタレート組成物は、ΔCOOHが20eq/ton、白色異物も0ppmと本発明の範囲内であり、太陽電池フロントシート用途等に供しても問題ないレベルであった。
【0071】
(実施例8〜16、19,比較例4、6、8、9)
リン酸アルカリ金属化合物の添加量と添加方法、リン酸の添加量、助触媒である酢酸マンガンの添加量、固有粘度を変更する以外は実施例2と同様にしてポリエチレンテレフタレート組成物、及び二軸延伸フィルムを得た。結果を表1および表2に示す。
【0072】
実施例8においては、リン酸の添加量を変更した結果、リン酸/リン酸二水素ナトリウム2水和物のモル比が0.76に低減し、M/Pが1.43に増加したことにより、ΔCOOHが27eq/tonと実施例2と比較して耐加水分解性が低下する傾向にあるが、本発明の範囲内であり、太陽電池フロントシート用途等に供しても問題ないレベルであった。
【0073】
実施例9においては、リン酸の添加量を変更した結果、リン酸/リン酸二水素ナトリウム2水和物のモル比が1.47に増加したことにより、ΔCOOHが27eq/tonと実施例2と比較して耐加水分解性が低下する傾向にあるが、本発明の範囲内であり、太陽電池フロントシート用途等に供しても問題ないレベルであった。
【0074】
実施例10においては、リン酸二水素ナトリウム2水和物の添加量を変更した結果、リン酸/リン酸二水素ナトリウム2水和物のモル比が1.90、M/Pが1.34とそれぞれが増加したことにより、ΔCOOHが26eq/tonと実施例2と比較して耐加水分解性が低下する傾向にあるが、本発明の範囲内であり、太陽電池フロントシート用途等に供しても問題ないレベルであった。
【0075】
実施例11においては、リン酸二水素ナトリウム2水和物の添加量を本発明の上限値に近い2.8mol/tonに変更した結果、リン酸/リン酸二水素ナトリウム2水和物のモル比が0.68に低減したことにより、ΔCOOHが26eq/tonと実施例2と比較して耐加水分解性が低下する傾向にあり、リン酸二水素ナトリウム2水和物の添加量が本発明の範囲の上限に近くなったことから白色異物が0.1ppmに増加する傾向にあるが、本発明の範囲内であり、太陽電池フロントシート用途等に供しても問題ないレベルであった。
【0076】
また、リン酸二水素ナトリウム2水和物の添加量を本発明の上限値に近い値としたためエチレングリコール溶液としての添加量が増加した結果、ジエチレングリコールも増加する傾向にあった。
【0077】
実施例12においては、リン酸二水素ナトリウム2水和物、リン酸、酢酸マンガン4水和物の添加量を変更したことにより、リン元素量が1.7mol/tonと本発明の範囲の下限に近くなったことにより、ΔCOOHが26eq/tonと実施例2に比べて耐加水分解性が低下する傾向にあるが、本発明の範囲内であり、太陽電池フロントシート用途等に供しても問題ないレベルであった。また、実施例10と比較すると、リン酸/リン酸二水素ナトリウムのモル比、およびM/Pが本発明のより好ましい範囲内であることから、伸度半減期は向上している。
【0078】
実施例13においては、リン酸二水素ナトリウム2水和物を2.8mol/ton、リン酸を2.8mol/ton添加した結果、リン元素の含有量が4.8mol/tonと本発明の上限に近く、M/Pが0.88と低いため、ΔCOOHが28eq/tonと増加傾向にあり、白色異物も0.1ppm検出されているが、本発明の範囲内であり、太陽電池フロントシート用途等に供しても問題ないレベルであった。
【0079】
実施例14においては、リン酸二水素ナトリウム2水和物を2.5mol/ton添加した結果、リン酸/リン酸アルカリ金属化合物の比が0.76になったため、ΔCOOHが28eq/tonと増加する傾向にあり、白色異物が0.1ppm検出されているが、本発明の範囲内であり、太陽電池フロントシート用途等に供しても問題ないレベルであった。
【0080】
実施例15においては、固有粘度を0,72dl/gに変更したことにより、固相重合時間が短くなり、カルボン酸末端基量13eq/tonと実施例2に比べて増加する傾向にあるが、本発明の範囲内であり、太陽電池フロントシート用途等に供しても問題ないレベルであった。
【0081】
実施例16においては、固有粘度を0.87dl/gに変更したことにより、固相重合時間が長くなり、カルボン酸末端基量が8eq/tonと減少する傾向にあった。フィルムとした場合は伸度半減期が低下する傾向にあったが本発明の範囲内であり、太陽電池フロントシート用途等に供しても問題ないレベルであった。伸度半減期が低下した理由としては、分子量が大きくなったため、フィルムの配向度が低下したためと推定している。実施例19においては、固有粘度を0,67dl/gに変更したことにより、固相重合時間が短くなり、カルボン酸末端基量15eq/tonと実施例2に比べて増加する傾向にあるが、本発明の範囲内であり、太陽電池フロントシート用途等に供しても問題ないレベルであった。
【0082】
比較例4においては、実施例2と比較して、リン酸の添加量を変更したところ、リン元素量が0.9mol/tonと本発明の範囲外であるため、ΔCOOHが38eq/tonと耐加水分解性が不十分であった。
【0083】
比較例6においては、リン酸二水素ナトリウム2水和物エチレングリコール溶液の濃度を1.0mmol/Lとして添加したところ、ΔCOOHが33eq/tonと耐加水分解性が不十分であった。これは、リン酸二水素ナトリウム2水和物エチレングリコール溶液が薄すぎたため、反応系内に多量のエチレングリコールを持ち込むことになり、ジエチレングリコールが増加し、耐加水分解性が低下したと推定する。(ジエチレングリコール0.5重量%=全グリコール成分に対して1mol%に相当)
比較例8においては、リン酸二水素ナトリウムが3.5mol/tonと本発明の上限を越えているため、リン酸/リン酸二水素ナトリウム2水和物のモル比が0.54と低減し、伸度半減期が65時間と未達であり、白色異物が1.4ppmと本発明の範囲外となり、二軸延伸フィルムのフィッシュアイも5個/A4と耐加水分解性、光学特性ともに不十分であった。
【0084】
比較例9においては、リン量が5.7mol/tonと本発明の上限を越えており、リン酸/リン酸二水素ナトリウム2水和物のモル比が2.94に増加、M/Pが0.64に低減した結果、ΔCOOHが42eq/tonと耐加水分解性が不十分であった。
【0085】
(比較例5)
リン酸二水素ナトリウム2水和物エチレングリコール溶液の濃度を1mmol/Lとする以外は実施例6と同様にしてエステル化反応を行ったが、リン酸二水素ナトリウム2水和物エチレングリコール溶液濃度が本発明の範囲の下限以下と薄く、エチレングリコールの量がテレフタル酸対比で5.75モル倍と過剰になったため、精留塔温度の制御が不可となり、ポリエチレンテレフタレート組成物が得られなかった。結果を表1および表2に示す。
【0086】
(実施例17)
リン酸の代わりにエチルジエチルホスホノアセテートを用いる以外は実施例7と同様にしてポリエチレンテレフタレート組成物を得た。結果を表1および表2に示す。
【0087】
(実施例18)
シリカ粒子(富士シリシア化学(株):“サイリシア”(登録商標)350)をポリエチレンテレフタレート組成物に対して0.16重量%になるように5重量%エチレングリコールスラリーとして添加する以外は、実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート組成物を得た。結果を表1および表2に示す。
【0088】
(比較例10)
固相重合を実施しない以外は、実施例1と同様にして固有粘度0.8dl/gのポリエチレンテレフタレート組成物を得た。結果を表1および表2に示す。
【0089】
(実施例21)
実施例21においては、固有粘度0.7dl/gまで溶融重合を行い、チップ化した後、固相重合で固有粘度0.88dl/gとする以外は実施例2と同様にしてポリエチレンテレフタレート組成物を得た。得られたポリエチレンテレフタレート組成物は、実施例2に比べて溶融重合反応終了時の固有粘度が高く、反応時間が長いため、ジエチレングリコールが1.2重量%と増加する傾向にあった。結果を表1および表2に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、長期の耐加水分解性、光学特性に優れるポリエチレンテレフタレート組成物を提供するので、本発明の組成物を二軸延伸フィルムとすることで、磁材用途、コンデンサーなどの電気材料用途、包装用途、光学用途等の製品の製造、特に、長期の耐加水分解性、光学特性、低オリゴマー性を必要とする太陽電池フロントシートを用いた太陽電池モジュールの製造分野に有効に利用できる。