【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的は、連続している湿った材料ウェブに乾燥したスプレー糊が塗布される紙、ボール紙または板紙を製造するための方法であって、粉末状の糊が、1つまたは複数のノズルを用いてキャリアガスとともに少なくとも0.5m/sの速度で湿った材料ウェブに噴霧されることを特徴とする方法を提供することによって実現される。
【0016】
1つまたは複数のノズルを用いて、少なくとも0.5m/sの速度で、乾燥糊を本発明に従って噴霧すること(以下、簡潔にするため「スプレーする」という)により、本質的に、キャリアガスで輸送される糊全体が、材料ウェブ上のエアクッションを貫通することができ、ウェブ表面に届くか、またはこれに固着する。
【0017】
このとき、紙製品の表面全体の強度パラメータを高めるために、材料ウェブ上にできるだけ均一に糊を分散することが好ましい。以下、1つのノズルのみを話題にしている場合であっても、それとともに複数、つまり例えば1つまたは複数の組のノズルも含まれるものと理解される。さらに、糊は、好ましくは、ウェブの上面にスプレーされるが、本明細書において、これはワイヤー面の反対側、つまりフェルト側とも称される側のことを意味する。しかし、特定の場合において、下側のワイヤーから湿ったウェブをはがした後に初めて塗布を行うこともできる。
【0018】
キャリアガスは、紙ウェブで望ましくない反応を引き起こさない限り、特に制限はないが、経済的理由から、通常は空気がガスとして選択される。
【0019】
本発明に従った方法のさらなる利点は、スプレーされた固形糊が、材料ウェブの水分によって湿潤、水和、懸濁または溶解するのに、ある程度の時間が必要であることである。本発明に従った方法のパラメータ、例えばノズル圧力、糊の種類や粒度、材料ウェブの含水量や輸送速度、ワイヤーパートの吸入圧などを適切に選択すると、糊が、ワイヤーパートを通過している間に、材料ウェブを完全に貫通できる十分な時間がない。この方法では、ワイヤーパートで、基本的にスプレー糊は水と一緒に取り除かれない。
【0020】
抄紙機のワイヤーパートのどの箇所で、乾燥したスプレー糊が材料ウェブにスプレーされるかについては、特に制限はない。紙製品のどのパラメータを改善するかによって、例えばヘッドボックスの直後、またはウォーターラインの直前もしくは直後に塗布を行い、これにより、糊が材料ウェブに浸透し、その中で分散するのにかかる時間をさまざまに調節することができる。ウォーターラインとは、ワイヤーパートにあるウェブが、その表面が光を反射しないほどに脱水された地点を意味する。
【0021】
例えば、破裂圧力を改善するために、ヘッドボックスの直後でスプレー糊をスプレーすることが有利であると実証されたが、いわゆるワックスピック、つまりワックスペン試験で確認された表面強度の係数を改善するには、後の実施例で明確に証明するように、好ましくはウォーターラインの直前で初めてスプレーする。
【0022】
その他の通常のパラメータでは、少なくとも0.5m/s、好ましくは少なくとも1m/sの速度でキャリアガスである空気とともに糊を材料ウェブにスプレーすることが本発明に不可欠であることが判明しており、本明細書において、これはそれぞれノズルからの放出速度を意味する。0.5m/sより小さい放出速度は、特に抄紙機が非常に高速で作動している場合には厚いエアクッションが発生するため、基本的に、スプレーされた糊全体がエアクッションを貫通するには小さすぎることが判明している。
【0023】
しかし、例えば2m/sまたは3m/sを超えるような非常に大きな放出速度では、一方で、経済的に見合わない高いノズル圧力が必要であり、他方で、糊がウェブ深くまで押し込まれるか、またはウェブを通り抜ける(「打ち抜く」)可能性があるため、ワイヤーパートで糊が材料ウェブを、場合によっては完全に貫通する。
【0024】
したがって、放出速度の好ましい範囲は、発明者の現在の認識によれば、0.5〜3m/s、さらに好ましくは0.75〜2.5m/s、さらに好ましくは1〜2m/s、特に1〜1.5m/sである。
【0025】
材料ウェブの表面からノズルまでの距離には特に制限がなく、とりわけその時々のノズル放出速度と材料ウェブの輸送速度によって決まる。ノズル放出口における上述の糊粒子の好ましい速度0.5〜3m/sのために、5〜80cm、好ましくは10〜50cmのノズル間隔と組み合わせることが有利であると判明している。間隔が大きすぎると、エアクッションを貫通するためにノズル放出速度を大きくする必要があり、経済的に見合わず、間隔が小さすぎると、ワイヤーパートにある材料ウェブの表面完全性がエアジェットによって損なわれる恐れがある。
【0026】
このとき、ノズルで実現される噴霧パターン、すなわち、ノズルによってもたらされた、材料ウェブ表面上の糊粒子の分布パターンにも注意を払う必要がある。繊維材料ウェブ全体に十分に作用するために、糊の均一な塗布が実現できるよう、複数のノズルの噴霧パターンが部分的に重なる必要がある。ウェブからノズルへの間隔が小さすぎると、必要なノズルの数が多くなりすぎ、装置にかかる費用が高くなる。
【0027】
さらに、間隔が非常に狭いと、先に粉末散布器との関連で言及されたのと同じような問題が生じる可能性がある。特定の抄紙機の設定された運転パラメータについて、ノズル数、ノズル放出速度およびノズル間隔のその時々の最適な組合せは、当該専門家が、例えば噴霧パターンに基づいて、何度も実験することなく容易に算出することができる。
【0028】
とりわけ好ましい実施形態において、糊は材料ウェブに当たる前に静電的に帯電される。これにより、通常は繊維材料ウェブを接地することによって乾燥糊が引き寄せられ、それにより、周囲に失われる糊粉末の量が、いずれにせよ本発明に従って少ないが、さらに低減され得る。
【0029】
糊が静電的に帯電される方法には、特に制限はない。したがって糊は、例えばノズルへの供給前、つまりノズルに入る前に、またはノズルから出た後に、例えばイオン電極を用いて発生させた電界を通過させることで、または、ノズルへの供給管内で摩擦によって静電的に帯電されることで、静電的に帯電されることができる。多くの実施形態において、ノズル内、例えばノズル末端にイオン電極を設けることで、糊がノズル内で静電的に帯電されることも可能である。
【0030】
本発明の別の好ましい実施形態では、噴霧は材料ウェブの輸送方向と逆向きに、すなわち、平均的な噴霧方向が、ウェブの輸送方向と鋭角、好ましくは30〜60度の角度を成すように行われる。これは、スプレー糊が、ノズルステーションに接近している材料ウェブに上から斜めに噴霧されることを意味する。これにより、エアクッションとその上に当たる糊粒子との相対速度が大きくなり、このためにエアクッションの貫通が容易になり、ウェブに塗布されないスプレー糊の量がさらに低減する。その一方で、この方法では、乾燥したスプレー糊は、圧力の小さいキャリアガスでもスプレーすることができる。
【0031】
材料ウェブ上に特定の分布パターンを実現するために、特定の場合において複数ノズルを使用するとき、ノズルをそれぞれ異なる噴霧角に調節することも有利となる可能性がある。これには、特定のノズルが、材料ウェブの進行方向と逆向きではなく、進行方向に向いている場合も含まれる。
【0032】
スプレーされる糊の種類には特に制限はなく、本発明の好ましい実施形態において、スプレー糊として、冷水可溶性の糊、すなわち、ワイヤーパート通過中に湿った材料ウェブで(コロイド状に)溶解するような粒度分布と表面性状を有する糊の粉末が噴霧される。これにより、繊維材料ウェブのその他の構成要素に対し、接着剤としての糊の効果的な作用が保証され、しかもすでにワイヤーパートにおいてもそうである。なぜなら、溶液の形成に伴って糊がこうした作用をすぐに発揮するからである。
【0033】
冷水可溶性の糊を使用するかどうかは、プレスパートの種類に大きく依存する。特定のプレスフェルトを使用する場合、すでにワイヤーパートで糊化が始まり、糊の少なくとも一部が、プレスフェルトまたはプレスロールに付着したままになる可能性があることから、時として冷水可溶性の糊が好ましくないこともある。
【0034】
糊の粒度には同様に特に制限はなく、糊の原料、例えばヨーロッパで主に用いられるトウモロコシデンプン、コムギデンプンもしくはジャガイモデンプンのいずれであるか、またはアジアでもっとも簡単に入手できるタピオカデンプンもしくはコメデンプンのいずれであるかに大きく依存する。糊は、本発明に従って、それほど失われることなく目的に適ったスプレーを実現すると同時に、最適な結合力を達成するために、平均粒度が少なくとも5μmであることが好ましい。平均粒度が小さすぎると、時として、粒子が軽すぎてエアクッションを貫通できない。これに対し、平均粒度が、例えば300μm超、またはさらに500μm超と大きすぎると、既定の投入量では、供給される糊粒子が少なすぎて、ウェブ表面上に所望の分散が実現できないため、スプレーする糊の量を多くする必要があり、非経済的である可能性がある。
【0035】
本発明に従った方法でスプレーされる糊の量には原則的に制限はなく、とりわけ、スプレー糊が、ウェットエンド糊および/もしくは表面糊に追加して塗布されるか、またはそれの代わりに塗布されるかに依存する。好ましくは、スプレー糊が、本発明に従って、材料ウェブの乾燥物質に対して0.1〜20重量%、好ましくは0.2〜10重量%の割合で噴霧される。特に、本発明に従った方法でスプレーされる糊は、ウェットエンド糊でも表面糊でも、基本的には完全に置き換えることができ、これにより製紙方法が全体として簡単かつ経済的になる。
【0036】
粉末状のスプレー糊は、本発明に従った方法において、単独または他の固形成分、特に粉末状の添加剤、例えばサイズ剤、顔料、染料などと組み合わせてスプレーされ、これにより、こうした成分に特有の混合または塗布手順を省略することができる。
【0037】
以下に、具体的な実施例に基づいて本発明を記述するが、これは単なる説明にすぎず、本発明を限定するものではないと理解される。
実施例1および比較例1
【0038】
中程度に作動する長網抄紙機において、軟材、ユーカリ硫酸塩および針葉樹亜硫酸塩から成る純粋なセルロース混合物から、カチオン性ウェットエンド糊、填料、サイズ剤および湿潤紙力剤を添加して、目標坪量170g/m
2の一層紙が製造された。比較例では追加のスプレー糊を使用せず、本発明に従った実施例1では、本発明に従った噴霧ノズル装置を用いて、噴霧ノズル間隔15cm、ノズル放出速度1.5m/sで、粉末状で顆粒の酸修飾された市販のトウモロコシデンプンを3〜4g/m
2の分量で、追加的に塗布した。この実施例では、糊塗布はヘッドボックスの直後に行った。
【0039】
製造された紙ウェブから、ウェブのさまざまな範囲の試験パターンを採取し、紙特性を調べた。ここで得られた、比較例1(V1)と本発明の実施例1(B1)の一般的な紙試験法の平均値は、次の表1に対比してまとめた。
【0040】
【表1】
【0041】
この対比は、本発明の作用に基づく強度値の改善を明らかに示している。裂断長と破裂強さの明らかな向上に加え、破裂圧力の開始値から30%超の大幅な増加が特に目立っている。これは、中でも、ヘッドボックスの直後に塗布した結果であり、これにより、糊が材料ウェブに分散する十分な時間が得られた。
実施例2および比較例2
【0042】
本発明に従った方法を、先の実施例1と同じ試験配置でくり返したが、ここでは、スプレーはウォーターラインの直前に行われ、次の種類の糊を用いられた。
A:酸修飾トウモロコシデンプン
B:酸化トウモロコシデンプン
C:酸化カチオン性トウモロコシデンプン
D:天然コムギデンプン
E:酸化ジャガイモデンプン
F:酸化アセチル化ジャガイモデンプン
G:酸修飾ジャガイモデンプン
比較例2(V2)と本発明の実施例2〜10(B2〜B10)の結果を、次ページの表2に示した。
【0043】
【表2】
【0044】
表2からわかるように、乾燥したスプレー糊の本発明に従ったスプレーにより、(ほぼ)変わらない坪量で、ここでも、試験した紙の特性全体が改善した。しかし、この実施例群では、破裂圧力は特に大きく改善しなかったが(それどころか、実施例10では比較に比べてごくわずかに減少した)、反対にワックスピック、つまり表面強度は、大部分の実施例で45%、1つの例では60%超も改善した。
【0045】
これは、塗布が、ワイヤーパートの開始地点ではなく、ウォーターラインの直前で初めて行われたことによる。特定の理論を打ち出そうとするわけではないが、これによりウェブですでに固形分濃度が高めになっていたと思われ、これが、糊の溶解と分散の速度を遅くしたようであり、また、乾燥したスプレー糊が、とりわけ短い時間で、ウェブに分散することができた。
【0046】
使用した種類の糊すべてで有利な結果が得られたにもかかわらず、それぞれの糊で識別可能な差があったことも注目される。つまり、例えば糊DとF、すなわち天然コムギデンプンと酸修飾ジャガイモデンプンでは、裂断長と破断強さで効果がもっとも大きかったのに対し、糊C、すなわち酸化カチオン性トウモロコシデンプンでは特にワックスピックに大きな影響があった。標準的な専門家であれば、過剰な実験を行うことなく、簡単な一連の試験で、希望の目的に最適な糊を突き止めることができるだろう。
【0047】
ワックスピックのデニソン値16〜18は、紙表面に比較的贅沢なコーティングを行うことによってのみ今まで通常は実現できたのに対し、本発明の方法によって、紙製造の過程ですでに、相応の表面強度が得られることも言及すべきである。
【0048】
したがって、明らかに本発明は、特性が著しく改善した紙製品が得られる方法を提供している。