特許第6179507号(P6179507)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6179507積層多孔質膜、電池用セパレーター及び電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6179507
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】積層多孔質膜、電池用セパレーター及び電池
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/32 20060101AFI20170807BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20170807BHJP
   C08J 9/28 20060101ALI20170807BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   B32B5/32
   B32B27/32 D
   C08J9/28 101
   C08J9/28CFG
   H01M2/16 L
   H01M2/16 P
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-510169(P2014-510169)
(86)(22)【出願日】2013年4月9日
(86)【国際出願番号】JP2013060692
(87)【国際公開番号】WO2013154090
(87)【国際公開日】20131017
【審査請求日】2016年2月3日
(31)【優先権主張番号】特願2012-92315(P2012-92315)
(32)【優先日】2012年4月13日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】清水 健
(72)【発明者】
【氏名】水野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】入江 達彦
【審査官】 清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−113804(JP,A)
【文献】 特開2011−077052(JP,A)
【文献】 特開2010−278018(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/098497(WO,A1)
【文献】 特開2007−005263(JP,A)
【文献】 特開2011−110704(JP,A)
【文献】 特開2012−054229(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/134501(WO,A1)
【文献】 特開2001−135295(JP,A)
【文献】 国際公開第2000/079618(WO,A1)
【文献】 プラスチックの比重、密度の一覧,プラスチックと樹脂の物性,http://www.toishi.info./sozai/plastic/sg.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C08J 9/00−9/42
H01M 2/00−2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン多孔質膜Aの少なくとも片面に、フィラー(a)とバインダー樹脂(b)を必須成分とする多孔質層Bを設けた積層多孔質膜であり、フィラー(a)の真比重が2.0g/cm未満であり、フィラー(a)の材質がメラミン・ホルムアルデヒド縮合物であり、多孔質層Bにおけるフィラー(a)の含有量が10体積%以上27体積%以下である積層多孔質膜。
【請求項2】
多孔質層B中のフィラー(a)の平均粒径が0.1〜3.0μmの範囲にある請求項1に記載の積層多孔質膜。
【請求項3】
多孔質層B中のバインダー樹脂(b)が耐熱性樹脂である請求項1または2に記載の積層多孔質膜。
【請求項4】
多孔質層B中のバインダー樹脂(b)がポリアミドイミド樹脂を含有する請求項に記載の積層多孔質膜。
【請求項5】
多孔質層B中のバインダー樹脂(b)が親水性樹脂である請求項1〜4のいずれか1つに記載の積層多孔質膜。
【請求項6】
ポリオレフィン多孔質膜Aの厚さが3〜25μmの範囲である請求項1〜のいずれか1つに記載の積層多孔質膜。
【請求項7】
ポリオレフィン多孔質膜Aが湿式法で製造されてなる請求項1〜のいずれか1つに記載の積層多孔質膜。
【請求項8】
シャットダウン温度が70〜160℃の範囲である請求項1〜のいずれか1つに記載の積層多孔質膜。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか1つに記載の積層多孔質膜からなる電池用セパレーター。
【請求項10】
正極、負極、電解質及び請求項に記載の電池用セパレーターを少なくとも1枚有する電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本来セパレーターに要求される絶縁性、イオン透過性、軽量、滑り性といった特性を犠牲にすることなく、熱収縮率が低く、耐メルトダウン特性に優れた積層多孔質膜に関するものである。さらにはこの積層多孔質膜をセパレーターとして用いた安全性が高く、重量エネルギー密度が高い電池あるいはコンデンサーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂微多孔膜は、物質の分離膜や選択透過膜及び隔壁材等として広く用いられている。例えば、逆浸透濾過膜、限外濾過膜、精密濾過膜等の各種フィルター、透湿防水衣料等、リチウムイオン電池やニッケル水素電池等に用いる電池用セパレーターや電解コンデンサー用の隔膜等の各種用途に用いられている。なかでもポリオレフィン微多孔膜はリチウムイオン電池用セパレーターとして使用されており、ポリオレフィン微多孔膜の性能は電池特性、電池生産性及び電池安全性に深く関わっている。そのため優れたイオン透過性、機械的特性、低熱収縮性等が要求される。
【0003】
リチウムイオン電池は高容量、高エネルギー密度が達成できるといった特性から、今後も民生用途(携帯端末、電動工具など)、輸送用途(自動車、バスなど)、蓄電用途(スマートグリッドなど)での使用拡大が予測される。これらの電池は、正・負極の電極間に電気絶縁性の多孔質のフィルムからなるセパレーターを介在させ、フィルムの空隙内にリチウム塩を溶解した電解液を含浸し、それらの正・負極とセパレーターを積層したり、または渦巻式に巻付けたりした構造が主である。リチウムイオン電池は、その高容量、高エネルギー密度に起因する課題(例えば電池内外での短絡により電池温度の上昇が大きいこと)に対して、種々の安全策を講じる必要があり、セパレーターに種々の工夫を加える試みがなされている。
【0004】
例えば、ポリオレフィン微多孔膜の製造は延伸工程を経ることが一般的であり、ポリオレフィン微多孔膜がその融点近くまで加熱された場合には熱収縮を生じる性質を持つ。そのため電池内外での短絡により電池温度が上昇し、ポリオレフィン微多孔膜からなるセパレーターが電池内で加熱された場合にも同様の熱収縮を生じ、セパレーターによる電極間の絶縁が確保できなくなる懸念がある。このような懸念に対しセパレーターには熱収縮の低減が求められている。
【0005】
さらに電池温度の上昇が激しくポリオレフィンの融点を上回った場合には、セパレーターが軟化・溶融し、破膜することにより電極間の絶縁が確保できなくなり最悪の場合には発火に至る懸念がある。このような懸念に対しセパレーターには耐メルトダウン特性の向上が求められている。
【0006】
上記のようなセパレーターに対する低熱収縮性及び耐メルトダウン特性に関する要求に対して、セパレーターの製造条件の改良やセパレーター表面に無機粒子層や耐熱性樹脂層を設ける提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
例えばポリオレフィン微多孔膜の製造工程に収縮工程を導入することにより、熱収縮率の低減とその他物性が両立されたポリオレフィン微多孔膜の製造方法(特許文献1)、ポリオレフィン樹脂多孔膜と、無機フィラー又は融点及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂を含有する多孔層を備えた多層多孔膜(特許文献2)、融点が150℃以下の樹脂からなる多孔質膜A1とガラス転移温度が150℃よりも高い樹脂からなる多孔質膜B1とが一体化された複合多孔質膜(特許文献3)などが提案されている。
【0008】
また電極間の絶縁性を損なう要因として電池製造時に混入する金属異物が上げられる。セパレーターが無機フィラーを含有する場合には、セパレーターのスリット加工時にスリッター刃を磨耗させることにより金属異物が発生し、電池内に金属異物が混入する懸念がある。このような懸念に対してモース硬度が6以下であるフィラーと樹脂バインダーとを含む耐熱層を積層した多孔フィルム(特許文献4)が提案されている。
【特許文献1】特開2001−172420号公報
【特許文献2】特開2007−273443号公報
【特許文献3】特開2007−125821号公報
【特許文献4】特開2011−110704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1で報告されたポリオレフィン膜の製造方法の改良では熱収縮の低減は達成されるものの、さらに高い耐メルトダウン特性が期待されている。また特許文献2では耐メルトダウン特性の向上は達成されるものの、透気抵抗度の上昇及び金属異物発生の懸念があり、さらには無機粒子の比重が大きいことからセパレーターの重量増加が避けられず、電池の要求特性である高エネルギー密度の達成が困難となる問題がある。特許文献3では耐熱性樹脂溶液を直接ポリオレフィン膜に塗布しないことにより透気抵抗度の上昇を抑制できるものの、塗工工程が複雑になりコスト面で不利である。特許文献4では金属異物発生の懸念は低減されるものの、バインダー樹脂がポリオレフィン膜の細孔に入り込むことによる透気抵抗度の上昇は避けられない。
【0010】
したがって、本発明の課題は、本来セパレーターに要求される絶縁性、イオン透過性、軽量、滑り性といった特性を犠牲にすることなく、熱収縮率が低く、耐メルトダウン特性に優れた積層多孔質膜を提供することである。さらには安全性が高く、重量エネルギー密度が高い電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の成形材料は次の構成を有する。すなわち、
ポリオレフィン多孔質膜Aの少なくとも片面に、フィラーとバインダー樹脂を必須成分とする多孔質層Bを設けた積層多孔質膜であり、フィラーの真比重が2.0g/cm未満であり、フィラー(a)の材質がメラミン・ホルムアルデヒド縮合物であり、多孔質層Bにおけるフィラー(a)の含有量が10体積%以上27体積%以下である積層多孔質膜、である。
【0012】
本発明の電池用セパレーターは以下の構成を有する。すなわち、
上記積層多孔質膜からなる電池用セパレーター、である。
【0013】
本発明の電池は以下の構成を有する。すなわち、
正極、負極、電解質及び前記電池用セパレーターを少なくとも1枚有する電池、である。
【0014】
本発明の積層多孔質膜は、多孔質層B中のフィラーの平均粒径が0.1〜3.0μmの範囲にあることが好ましい。
【0015】
本発明の積層多孔質膜は、多孔質層B中のバインダー樹脂が耐熱性樹脂であることが好ましい。
【0016】
本発明の積層多孔質膜は、多孔質層B中のバインダー樹脂がポリアミドイミド樹脂を含有することが好ましい。
【0017】
本発明の積層多孔質膜は、多孔質層B中のバインダー樹脂が親水性樹脂であることが好ましい。
【0018】
本発明の積層多孔質膜は、ポリオレフィン多孔質膜Aの厚さが3〜25μmの範囲であることが好ましい。
【0019】
本発明の積層多孔質膜は、ポリオレフィン多孔質膜Aが湿式法で製造されていることが好ましい。
【0020】
本発明の積層多孔質膜は、シャットダウン温度が70〜160℃の範囲であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、本来セパレーターに要求される絶縁性、イオン透過性、軽量、滑り性といった特性を犠牲にすることなく、熱収縮率が低く、耐メルトダウン特性に優れた積層多孔質膜およびそれを用いた電池用セパレーターを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明における積層多孔質膜は、本来セパレーターに要求される絶縁性、イオン透過性、軽量、滑り性といった特性を犠牲にすることなく、低熱収縮率と耐メルトダウン特性を達成するために、ポリオレフィン多孔質膜Aの少なくとも片面に、フィラー(a)とバインダー樹脂(b)を必須成分とする多孔質層Bを設けた積層多孔質膜であり、フィラー(a)の真比重が2.0g/cm未満であることを特徴とする積層多孔質膜であることが必要である。
【0023】
以下、本発明のポリオレフィン多孔質膜Aの組成について説明する。
【0024】
本発明におけるポリオレフィン多孔質膜Aは、電気絶縁性、イオン透過性、膜厚の均一性、機械強度などのバランスから多孔質のフィルムであることが好ましい。
【0025】
本発明におけるポリオレフィン多孔質膜Aの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂がシャットダウン特性の観点から好ましく例示される。ポリオレフィン多孔質膜Aは、単一物又は2種以上の異なるポリオレフィン系樹脂の混合物、例えばポリエチレンとポリプロピレンの混合物であってもよいし、異なるオレフィン、例えばエチレンとプロピレンの共重合体でもよい。ポリオレフィン系樹脂のなかでは、特にポリエチレンおよびポリプロピレンが好ましく例示される。電気絶縁性、イオン透過性などの基本特性に加え、電池異常昇温時において電流を遮断し過度の昇温を抑制するシャットダウン特性を具備しているからである。
【0026】
ポリオレフィン系樹脂の質量平均分子量(Mw)は特に制限されないが、通常1×10〜1×10の範囲内であり、好ましくは1×10〜5×10の範囲内であり、より好ましくは1×10〜5×10の範囲内である。
【0027】
ポリオレフィン系樹脂のMwと数平均分子量(Mn)の比、分子量分布(Mw/Mn)は特に制限されないが、5〜300の範囲内であることが好ましく、10〜100の範囲内であることがより好ましい。Mw/Mn下限が上記好ましい範囲であると、高分子量成分が適切でありポリオレフィンの溶液の押出が容易である。Mw/Mn上限が上記好ましい範囲であると、低分子量成分が適切であり得られる微多孔膜の強度が維持される。 Mw/Mnは分子量分布の尺度として用いられるものであり、すなわち単一物からなるポリオレフィンの場合この値が大きい程分子量分布の幅が大きい。単一物からなるポリオレフィンのMw/Mnはポリオレフィンの多段重合により適宜調整することができる。多段重合法としては、1段目で高分子量成分を重合し、2段目で低分子量成分を重合する2段重合が好ましい。ポリオレフィンが混合物である場合、Mw/Mnが大きいほど混合する各成分のMwの差が大きく、Mw/Mnが小さいほどMwの差が小さい。ポリオレフィン混合物のMw/Mnは各成分の分子量や混合割合を調整することにより適宜調整することができる。
【0028】
ポリオレフィン系樹脂はポリエチレンを含むことが好ましいが、ポリエチレンとしては超高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレンなどが挙げられる。また重合触媒にも特に制限はなく、チーグラー・ナッタ系触媒、フィリップス系触媒、メタロセン系触媒などの重合触媒によって製造されたポリエチレンが挙げられる。
【0029】
これらのポリエチレンはエチレンの単独重合体のみならず、他のα−オレフィンを少量含有する共重合体であってもよい。エチレン以外のα−オレフィンとしてはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のエステル、スチレン等が好適に使用できる。
【0030】
ポリエチレンは単一物でもよいが、2種以上のポリエチレンからなる混合物であることが好ましい。ポリエチレン混合物としてはMwの異なる2種類以上の超高分子量ポリエチレンの混合物、同様な高密度ポリエチレンの混合物、同様な中密度ポリエチレンの混合物及び低密度ポリエチレンの混合物を用いてもよいし、超高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレンからなる群から選ばれた2種以上ポリエチレンの混合物を用いてもよい。
【0031】
なかでもポリエチレンの混合物としては、シャットダウン現象の温度上昇に対する応答性(シャットダウン速度)や、シャットダウン温度以上の高温領域でポリオレフィン多孔質膜の形状を維持し電極間の絶縁性を維持する観点からMwが5×10以上の超高分子量ポリエチレンとMwが1×10以上、5×10未満のポリエチレンからなる混合物が好ましい。
【0032】
超高分子量ポリエチレンのMwは5×10〜1×10の範囲内であることが好ましく、1×10〜1×10の範囲にあることがより好ましく、1×10〜5×10の範囲内であることが特に好ましい。
【0033】
Mwが1×10以上、5×10未満のポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレンのいずれも使用することができるが、特に高密度ポリエチレンを使用することが好ましい。Mwが1×10以上、5×10未満のポリエチレンとしてはMwが異なるものを2種以上使用してもよいし、密度の異なるものを2種以上使用してもよい。ポリエチレン混合物のMwの上限を1×10にすることにより、溶融押出を容易にすることができる。
【0034】
ポリエチレン混合物中の超高分子量ポリエチレンの含有量は、ポリエチレンの混合物全体に対し1重量%以上であることが好ましく、10〜80重量%の範囲であることがより好ましい。
【0035】
上記超高分子量ポリエチレンを含むポリエチレン組成物には、任意成分としてMwが1×10〜4×10の範囲内のポリ1-ブテン、Mwが1×10〜4×10の範囲内のポリエチレンワックス、およびMwが1×10〜4×10の範囲内のエチレン/α−オレフィン共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種のポリオレフィンを添加しても良い。これらの任意成分の添加量は、ポリオレフィン組成物を100重量%として20重量%以下であることが好ましい。
【0036】
ポリオレフィン系樹脂には、耐メルトダウン特性と電池の高温保存特性の向上を目的として、ポリエチレンとともにポリプロピレンを含んでいてもよい。ポリプロピレンのMwは1×10〜4×10の範囲内であることが好ましい。ポリプロピレンとしては単独重合体または他のα−オレフィンを含むブロック共重合体およびまたはランダム共重合体も使用することができる。他のα−オレフィンとしてはエチレンが好ましい。ポリプロピレンの含有量はポリオレフィン混合物(ポリエチレン+ポリプロピレン)全体を100重量%として80重量%以下にすることが好ましい。
【0037】
ポリオレフィン系樹脂には、電池用セパレーターとしての特性向上のためシャットダウン特性を付与するポリオレフィンを含んでいてもよい。シャットダウン特性を付与するポリオレフィンとしては、例えば低密度ポリエチレンを用いることができる。低密度ポリエチレンとしては、分岐状、線状、シングルサイト触媒により製造されたエチレン/α−オレフィン共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種が好ましい。低密度ポリエチレンの添加量はポリオレフィン全体を100重量%として20重量%以下であることが好ましい。低密度ポリエチレンの添加量の上限値が上記好ましい範囲内であると、延伸時に破膜が起こりにくくなる。
【0038】
次に、ポリオレフィン多孔質膜Aの構成、その製造方法、特性について説明する。
【0039】
本発明におけるポリオレフィン多孔質膜Aの製造方法は特に限定されず、製法により目的に応じた相構造を自由に持たせることができる。多孔質膜Aの製造方法としては、発泡法、相分離法、溶解再結晶法、延伸開孔法、粉末焼結法などがあり、これらの中では微細孔の均一性の点で相分離法が好ましいが、これに限定されるものではない。
【0040】
相分離法による製造方法としては、例えばポリオレフィン系樹脂と成膜用溶剤とを溶融混練し、得られた溶融混合物をダイより押出し、冷却することによりゲル状成形物を形成し、得られたゲル状成形物に対して少なくとも一軸方向に延伸を実施し、前記成膜用溶剤を洗浄除去、乾燥することによって多孔質膜を得る方法などが挙げられる。
【0041】
ポリオレフィン多孔質膜Aの熱収縮率を低減する目的で、必要に応じて乾燥後の多孔質膜に対して熱セットを行うこともできる。熱セット工程としては、MD、TDの両方向を固定して縮幅を行う熱セット工程、MD、TDの少なくとも一方向を固定して縮幅を行う熱セット工程があげられる。縮幅の範囲は0.01〜50%、好ましくは3〜20%の範囲で少なくとも一軸方向に行う。収縮率の下限が上記好ましい範囲であると、得られたポリオレフィン微多孔膜の105℃、8hrにおける熱収縮率が改善される。収縮率の上限が上記好ましい範囲であると、透気抵抗度が低く維持される。なお、MD方向とは製造ラインでの進行方向(長手方向)、TD方向とはMD方向とは垂直の幅方向を意味する。
【0042】
熱セット温度は、用いられるポリオレフィン系樹脂により異なるが、90〜150℃で行うことが好ましい。上記好ましい範囲であると、熱収縮率の低減効果が十分であり、透気抵抗度が低く維持される。熱セット工程の時間は、特に限定されないが、通常は1秒以上10分以下、好ましくは3秒から2分以下で行われる。
【0043】
ポリオレフィン多孔質膜Aは単層膜であってもよいし、二層以上からなる多層膜(例えばポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの三層構成やポリエチレン/ポリプロピレン/ポリエチレンの三層構成)であってもよい。
【0044】
2層以上からなる多層膜の製造方法としては、例えば第一層及び第二層を構成するポリオレフィンのそれぞれを成膜用溶剤と溶融混練し、得られた溶融混合物をそれぞれの押出機から1つのダイに供給し各成分を構成するゲルシートを一体化させて共押出する方法、各層を構成するゲルシートを重ね合わせて熱融着する方法のいずれでも作製できる。共押出法の方が、高い層間接着強度を得やすく、層間に連通孔を形成しやすいために高透過性を維持しやすく、生産性にも優れているためにより好ましい。
【0045】
ポリオレフィン多孔質膜Aは、充放電反応の異常時に孔が閉塞するシャットダウン特性を有することが電池使用時の安全性の観点から好ましい。従って、構成するポリオレフィン系樹脂の融点(軟化点)は、好ましくは70〜160℃、さらに好ましくは100〜140℃である。ポリオレフィン系樹脂の融点の下限が上記好ましい範囲内であると、正常使用時にシャットダウン機能が発現することはないので電池が使用不可となることはない。また、ポリオレフィン系樹脂の融点の上限が上記好ましい範囲内であると、異常反応が十分に進行する前にシャットダウン機能が発現し、安全性を確保できる。
【0046】
ポリオレフィン多孔質膜Aの膜厚は3μm以上、25μm未満が好ましい。膜厚の上限はより好ましくは20μmである。また、膜厚の下限はより好ましくは5μmであり、さらに好ましくは7μmである。膜厚の下限が上記好ましい範囲内にあると、実用的な加工性を維持する膜強度とシャットダウン機能を付与することができる。膜厚の上限が上記好ましい範囲内にあると、電池ケース内の単位容積当たりの電極面積が大きく制約されることがなく、今後の電池の高容量化に対応できる。
【0047】
ポリオレフィン多孔質膜Aの透気抵抗度について、JIS P 8117に準拠した方法により測定した値の上限は好ましくは500sec/100ccAir、さらに好ましくは400sec/100ccAir、最も好ましくは300sec/100ccAirである。透気抵抗度の下限は好ましくは50sec/100ccAir、さらに好ましくは80sec/100ccAirである。
【0048】
ポリオレフィン多孔質膜Aの空孔率の上限は好ましくは70%、さらに好ましくは60%、最も好ましくは55%である。空孔率の下限は好ましくは25%、さらに好ましくは30%、最も好ましくは35%である。
【0049】
ポリオレフィン多孔質膜Aの透気抵抗度および空孔率は、イオン透過性(充放電作動電圧)、電池の充放電特性、電池の寿命(電解液の保持量と密接に関係する)への影響が大きく、透気抵抗度が上記好ましい範囲内であると、電池としての機能を十分に発揮することができる。一方で、透気抵抗度の下限が上記好ましい範囲内で、かつ、孔空率の上限が上記好ましい範囲内であると、十分な機械的強度と電極間の電気絶縁性を維持することができ、充放電時に短絡が起こる可能性が低くなる。さらに熱収縮を抑制する観点からも透気抵抗度および空孔率は上記の範囲にあることが好ましい。
【0050】
ポリオレフィン多孔質膜Aの熱収縮率が小さいことが、本発明の積層多孔質膜の熱収縮率を低減する観点から必要である。ポリオレフィン多孔質膜Aの熱収縮率は105℃、8hrにおいて、MD、TD方向とも好ましくは7%以下、さらに好ましくは5%以下である。
【0051】
ポリオレフィン多孔質膜Aの平均孔径は、シャットダウン速度、熱収縮率に大きく影響を与えるため、好ましくは0.03〜1.0μm、さらに好ましくは0.05〜0.5μm、最も好ましくは0.1〜0.3μmである。平均孔径の下限が上記好ましい範囲内であると、フィラー(a)とバインダー樹脂(b)を必須成分とする多孔質層Bとの積層の際に透気抵抗度が大幅に悪化する可能性が低くなり、かつ、熱収縮率が低く維持される。また平均孔径の上限が上記好ましい範囲内にあると、シャットダウン現象の温度に対する応答が緩慢になることがなく、昇温速度によりシャットダウン温度がより高温側にシフトするなどの現象が生じない。
【0052】
なお、ポリオレフィン多孔質膜Aの平均孔径の調節方法は特に限定されないが、例えば製膜工程の延伸倍率や、相分離法においてはポリオレフィン系樹脂と成膜用溶剤とを溶融混練した際のポリオレフィン系樹脂の濃度などで調節することができる。
【0053】
次に、本発明におけるフィラー(a)とバインダー樹脂(b)を必須成分とする多孔質層B中には、フィラー(a)を含有させることが必要である。多孔質層B中にフィラー(a)を含有させることにより、積層多孔質膜の透気抵抗度の悪化の抑制、積層多孔質膜のカール低減、電極間で成長するデンドライトに起因する内部短絡の防止、熱収縮の低減、滑り性の付与などの効果を期待することができる。
【0054】
多孔質層B中のフィラー(a)の添加量の上限としては95体積%が好ましく、より好ましくは90体積%である。下限は10体積%とするものであり、好ましくは20体積%である。添加量の上限が上記好ましい範囲内にあると、多孔質層Bの総体積に対してバインダー樹脂(b)の割合が小さくなりすぎず、ポリオレフィン多孔質膜Aの細孔内にまでバインダー樹脂(b)が入り込み、ポリオレフィン多孔質膜Aとの密着性が十分となり、かつ、多孔質層B内部で十分な凝集性が得られ、フィラー(a)が脱落するなどの不具合を防ぐことができる。一方、添加量の下限が上記好ましい範囲内にあるとフィラー添加により期待される様々な効果が十分に発揮できる。
【0055】
本発明における多孔質層B中のフィラー(a)は真比重が2.0g/cm未満であることがセパレーターの軽量化、滑り性付与の観点から必要である。多孔質層B中のフィラー(a)の真比重が2.0g/cm以上の場合はバインダー樹脂(b)との比重差が大きくなり、多孔質層B中でフィラーが沈降しやすくなることにより積層多孔質膜への滑り性の付与が不十分となり、電池製造時にプロセス上の問題を生じる懸念がある。真比重が2.0g/cm未満であればその材質は問わないが、有機物からなるフィラーであることが好ましい。フィラーが有機物からなる場合には、セパレーターのスリット加工時にスリッター刃を磨耗させ難く、金属異物が発生せず、電池内に金属異物が混入して電極間の絶縁性を損なう懸念が無い。
【0056】
本発明におけフィラー(a)の具体例な材質メラミン・ホルムアルデヒド縮合物である
【0057】
本発明におけるフィラー(a)の形状は特に限定されず、球状、破砕状、板状など、どのような形状であっても使用できる。
【0058】
例えば球状であればフィラー(a)を多孔質層B中にフィラーを高充填した際にもフィラーの間隙によりリチウムイオンが通過する経路を確保できやすくなるほか、多孔質層B表面の滑り性を確保しやすくなる。
【0059】
た破砕状であればバインダー樹脂との間でアンカー効果が発揮され多孔質層Bからの粒子の脱落を防止できる。また板状であれば多孔質層B中で粒子を配向させることにより電極間に成長するデンドライトを効果的に抑制できる、などの効果がそれぞれの粒子形状によって期待できるため、要求性能に応じてフィラーの性状を選択できる。球状と破砕状、球状と板状など形状の異なるフィラーを複数混合して使用することも可能である。
【0060】
本発明におけるフィラー(a)の平均粒径は、0.1〜3.0μmの範囲にあることが好ましく、0.3〜1.0μmの範囲にあることがさらに好ましい。平均粒径の下限が上記好ましい範囲内にあると、ポリオレフィン多孔質膜Aと多孔質層Bを積層した際に、フィラー(a)がポリオレフィン多孔質膜Aの細孔中に埋まり込むことなく透気抵抗度を低く維持できる。また平均粒径の上限が上記好ましい範囲内にあると、積層多孔質膜の平面性、膜厚精度を維持し、かつ、電池組み立て工程において多孔質層Bからフィラーが脱落するのを防ぐことができる。なお、本発明におけるフィラーの平均粒径は、SEMを用いて測定した値である。
【0061】
本発明におけるフィラー(a)の粒度分布は特に限定されず、粒度分布は単分散であっても多分散であっても構わない。粒度分布が狭く、1次粒子径がそろったフィラーの場合は透気抵抗度を低くできる傾向がある場合があり、一方粒度分布が広い場合は透気抵抗度が高くなる傾向がある場合があるものの、多孔質層B中のフィラーの充填率を上げやすく、熱収縮低減の効果が高くなる傾向がある場合がある。
【0062】
本発明におけるフィラー(a)は、無孔質体であっても、多孔質体であっても、中空体であっても使用することができる。多孔質体の場合はバインダー樹脂(b)とフィラー(a)の結着性が得られやすい傾向があり、中空体の場合はセパレーターの軽量化の観点から好ましい。このような中空粒子としては(メタ)アクリル酸エステル類やスチレンなどのエチレン性不飽和化合物の重合体または共重合体からなるものが例示される。
【0063】
本発明における多孔質層B中のバインダー樹脂(b)は特に限定されないが、積層多孔質膜に耐メルトダウン特性を付与できる観点から、耐熱性樹脂であることが好ましい。
【0064】
本発明における耐熱性樹脂の具体例としては、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、エチレンテレフタレートとパラヒドロキシ安息香酸の重縮合体や2,6−ヒドロキシナフトエ酸とパラヒドロキシ安息香酸の重縮合体などの液晶ポリマー、ポリテトラフルオロエチレンやポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体などのフッ素樹脂などを例示することができる。
【0065】
これらの耐熱性樹脂の中でも、高極性溶媒への良溶解性、耐熱性、電解液との親和性、耐電解液性、耐酸化性の観点からポリアミドイミド樹脂を使用することが好ましい。
【0066】
本発明におけるポリアミドイミド樹脂の製造方法としては、酸成分とイソシアネート(アミン)成分から製造するイソシアネート法、或は酸クロリド(酸成分)とアミンから製造する酸クロリド法、酸成分とアミン成分から製造する直接法などの公知の方法で製造されが、製造コストの観点からジイソシアネート法が好ましい。
【0067】
本発明におけるポリアミドイミド樹脂の合成に用いられる酸成分としてはトリメリット酸無水物(クロリド)が挙げられるが、その一部を他の多塩基酸またはその無水物に置き換えることができる。例えば、ピロメリット酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ビフェニルスルホンテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルエーテルテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、プロピレングリコールビストリメリテート等のテトラカルボン酸及びこれらの無水物、シュウ酸、アジピン酸、マロン酸、セバチン酸、アゼライン酸、ドデカンジカルボン酸、ジカルボキシポリブタジエン、ジカルボキシポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)、ジカルボキシポリ(スチレン−ブタジエン)等の脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。これらの中で耐電解液性の点からは1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸が好ましい。 また、トリメリット酸化合物の一部をグリコールに置き換えてウレタン基を分子内に導入することによりポリアミドイミド樹脂に柔軟性を付与することもできる。グリコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール等のアルキレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコールや上記ジカルボン酸の1種又は2種以上と上記グリコールの1種又は2種以上とから合成される末端水酸基のポリエステル等が挙げられ、これらの中ではポリエチレングリコール、末端水酸基のポリエステルが好ましい。また、これらの数平均分子量は500以上が好ましく、1,000以上がより好ましい。上限は特に限定されないが8,000未満が好ましい。
【0068】
酸成分の一部をダイマー酸、ポリアルキレンエーテル、ポリエステル並びに末端にカルボキシル基、水酸基及びアミノ基のいずれかを含有するブタジエン系ゴムからなる群のうち少なくとも1種で置き換える場合は、酸成分のうち、1〜60モル%を置き換えることが好ましい。
【0069】
ポリアミドイミド樹脂の合成に用いられるジアミン(ジイソシアネート)成分としては、o−トリジンとトリレンジアミンを成分とするものが好ましく、その一部を置き換える成分としてエチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン及びこれらのジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、ジシクロヘキシルメタンジアミン等の脂環族ジアミン及びこれらのジイソシアネート、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、ベンジジン、キシリレンジアミン、ナフタレンジアミン等の芳香族ジアミン及びこれらのジイソシアネート等が挙げられ、これらの中では反応性、コスト、耐電解液性の点からジシクロヘキシルメタンジアミン及びこれのジイソシアネートがより好ましく、さらに好ましくは4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ナフタレンジアミン及びこれらのジイソシアネートである。特には、o−トリジンジイソシアネート(TODI)、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)及びこれらをブレンドしたものが最も好ましい。特に多孔質層Bの密着性を向上させるためには、剛直性の高いo−トリジンジイソシアネート(TODI)が全イソシアネートに対し50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上である。
【0070】
本発明におけるポリアミドイミド樹脂はN,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン等の極性溶剤中、60〜200℃に加熱しながら攪拌することで容易に製造することができる。この場合、必要に応じてトリエチルアミン、ジエチレントリアミン等のアミン類、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム、ナトリウムメトキシド等のアルカリ金属塩等を触媒として用いることもできる。
【0071】
本発明におけるポリアミドイミド樹脂は、対数粘度は0.5dL/g以上が好ましい。対数粘度がこの好ましい範囲であると、溶融温度が過度に低下しないので十分な耐メルトダウン特性が得られ、さらに、分子量が過度に低くならないので、多孔質層Bが脆くなりにくく、アンカー効果を維持でき、ポリオレフィン多孔質膜Aとの密着性に優れる。一方、加工性や溶剤への溶解性を考慮すると2.0dL/g未満が好ましい。
【0072】
本発明における多孔質層Bはポリアミドイミド樹脂を可溶で且つ水と混和する溶剤で溶解した溶液(以下、ワニスと言う場合がある)を用いて所定の基材フィルムに塗布し、加湿条件下でポリアミドイミド樹脂と、水と混和する溶剤を相分離させ、さらに水浴に投入して耐熱性樹脂を凝固させることによって得られる(以下、この水浴を凝固浴と言う場合がある)。必要に応じてワニスに相分離助剤を添加してもよい。
【0073】
本発明におけるポリアミドイミド樹脂を溶解するために使用できる溶媒としては、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP),リン酸ヘキサメチルトリアミド(HMPA)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、γ−ブチロラクトン、クロロホルム、テトラクロロエタン、ジクロロエタン、3−クロロナフタレン、パラクロロフェノール、テトラリン、アセトン、アセトニトリルなどが挙げられ、ポリアミドアミドイミド樹脂の溶解性に併せて自由に選択できるが、なかでも、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、γ−ブチロラクトンがポリアミドアミドイミド樹脂の溶解性、水と混和性に優れるため好ましく使用できる。
【0074】
本発明で用いる相分離助剤としては水、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール等のアルキレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコール、水溶性ポリエステル、水溶性ポリウレタン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどから選ばれる少なくとも一種類以上であり、添加量はワニスの溶液重量に対して好ましくは1〜50wt%、より好ましくは2〜40wt%、さらに好ましくは3〜30%の範囲で添加するのがよい。
【0075】
これらの相分離助剤をワニスに混合することによって、主に透気抵抗度、表面開孔率、層構造の形成速度をコントロールすることができる。相分離助剤の添加量が上記好ましい範囲内であると、相分離速度の顕著な上昇が見られ、一方、塗布液が混合の段階で白濁して樹脂成分が析出することもない。
【0076】
また本発明における多孔質層B中のバインダー樹脂としては、積層多孔質膜の生産性の観点から親水性樹脂も好ましく使用することができる。本発明における親水性樹脂とは水溶性、水膨潤性、または水分散性を有する樹脂であり、具体例としては、共重合ポリアミド、ポリマー主鎖中にポリオキシアルキレンセグメントまたは脂環式ジアミンセグメントなどの親水性基を導入したポリアミド樹脂およびこれらの樹脂の変性体、部分鹸化ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、セルロースの変性体、水分散性ラテックス、などがあげられ、その他の公知の水溶性、水膨潤性、または水分散性樹脂も使用することができる。
【0077】
特に多孔質層Bの膜強度の向上、フィラー(a)の分散性の向上の観点からカルボキシメチルセルロール等のセルロースの変性体を添加することが好ましい。
【0078】
なおここでの水溶性、水膨潤性、または水分散性樹脂とは、水または水を含む水溶液に溶解、膨潤、分散する樹脂であり、具体的には、水、界面活性剤を含有する水溶液、界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルフォン酸ソーダ等のアニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、水酸化ナトリウル等のアルカリ性化合物を含有した水溶液、メチルアルコール、エチルアルコール等のアルコール類を含有した水溶液等に20〜40℃で溶解、膨潤、分散する樹脂を意味する。
【0079】
多孔質層B中のバインダー樹脂として親水性樹脂を使用する場合は、ポリオレフィン多孔質膜Aへの塗工性観点から、そのワニス中にレベリング剤を含有することが好ましい。またフィラー(a)の分散性、ワニス中での凝集防止を目的として各種添加剤(界面活性剤、分散剤など)を添加することができる。これら添加剤は電池性能への悪影響を避けるため、非イオン性の化合物であることが好ましい。
【0080】
多孔質層Bの膜厚については好ましくは0.5〜5.0μm、より好ましくは1.0〜4.0μm、さらに好ましくは1.0〜3.0μmである。膜厚の下限が上記好ましい範囲内にあると、ポリオレフィン多孔質膜Aが融点以上で溶融・収縮した際の破膜強度と絶縁性を確保できる。膜厚の上限が上記好ましい範囲内にあると、積層多孔質膜のカールを防ぎ電池組み立て工程での生産性の低下を防ぐ。また巻き嵩が大きくなりことを防ぎ、今後進むであろう電池の高容量化に適する。
【0081】
多孔質層Bの空孔率は30〜90%が好ましく、より好ましくは40〜70%である。多孔質層Bの空孔率が上記好ましい範囲内であると、多孔質層Bの電気抵抗が低く、大電流を流しやすい一方、膜強度が十分に強い。また、多孔質層Bの透気抵抗度は、JIS P 8117に準拠した方法により測定した値が5〜500sec/100ccAirであることが好ましい。より好ましくは10〜300sec/100ccAir、さらに好ましくは10〜200sec/100ccAirである。透気抵抗度が上記好ましい範囲にあると、膜強度が維持され、かつ、サイクル特性が悪くなることを防ぐ。
【0082】
ポリオレフィン多孔質膜Aと多孔質層Bから本発明の積層多孔質膜を得る方法としては、まず適切な溶剤で溶解したバインダー樹脂(b)の溶液にフィラー(a)を分散混合し、必要に応じて界面活性剤、分散剤、相分離助剤などの添加剤を添加したワニスを調製する。
【0083】
バインダー樹脂(b)として、例えばポリアミドイミドの様な耐熱性樹脂を使用する場合には、ポリアミドイミド樹脂を溶解したワニスをポリオレフィン多孔質膜Aと接触させた状態で水と混和する溶剤を抽出し、ポリアミドイミド樹脂を凝固・多孔質化させることによって得ることができる。ポリアミドイミド樹脂を溶解したワニスとポリオレフィン多孔質膜Aを接触させる方法としては、ポリオレフィン多孔質膜A上にワニスを直接塗工する方法、金属ロールやベルト、あるいはフィルム上に一旦ワニスを塗工し、ポリオレフィン多孔質膜Aに転写する方法など、任意の方法をとることが可能である。
【0084】
またバインダー樹脂(b)として、例えば水分散性ラテックスの様な親水性樹脂を使用する場合にはポリオレフィン多孔質膜A上に直接塗工し溶剤を乾燥する方法がコストの観点から好ましく例示できる。
【0085】
以下、本発明の積層多孔質膜の特性について詳述する。
【0086】
本発明の積層多孔質膜はシャットダウン特性を有することが必要であり、70〜160℃の範囲にシャットダウン温度を有することが安全性の観点から好ましい。一般に、ポリオレフィン多孔質膜に耐熱性樹脂層を積層すると、その積層多孔質膜のシャットダウン温度はポリオレフィン多孔質膜のシャットダウン温度より高くなる。本発明の積層多孔質膜のシャットダウン温度はポリオレフィン多孔質膜Aの選択により調節可能であるが、ポリオレフィン多孔質膜Aにフィラー(a)とバインダー樹脂(b)を必須成分とする多孔質層Bを積層する際の積層方法、フィラー(a)とバインダー樹脂(b)、その他添加剤などからなるワニスの組成、多孔質層Bの膜厚などの選択によって、積層多孔質膜のシャットダウン温度(Ts’)がポリオレフィン多孔質膜Aのシャットダウン温度(Ts)より高くなるのを抑制すること、すなわちシャットダウン温度の上昇幅を小さく抑えることができる。安全性の観点からシャットダウン温度の上昇幅(Ts’−Ts)が小さいことが好ましく、好ましくは(Ts’−Ts)≦3℃、さらに好ましくは(Ts’−Ts)≒0℃である。
【0087】
本発明の積層多孔質膜のメルトダウン温度(Tm’)は、ポリオレフィン多孔質膜Aのメルトダウン温度(Tm)より高いことが好ましい。安全性の観点から積層多孔質膜のメルトダウン温度は200℃以上、さらに好ましくは300℃以上である。ポリオレフィン多孔質膜Aにフィラー(a)と耐熱性樹脂などからなる多孔質層Bを積層する際の積層方法、耐熱性樹脂を溶解したワニスの組成、多孔質層Bの膜厚などの選択によって効果的にメルトダウン温度の向上を達成することができる。
【0088】
多孔質層Bを積層して得られた積層多孔質膜全体の膜厚の上限は30μmであり、より好ましくは25μmである。下限は5.0μmが好ましく、より好ましくは7.0μmである。膜厚の下限が上記好ましい範囲であると、十分な機械強度と絶縁性を確保することができる。上限が上記好ましい範囲であると、電池容器内に収容できる電極面積が減少することなく、電池容量の低下を回避することができる。
【0089】
さらに積層多孔質膜の透気抵抗度は、もっとも重要な特性のひとつであり、好ましくは50〜600sec/100ccAir、より好ましくは100〜500sec/100ccAir、さらに好ましくは100〜400sec/100ccAirである。透気抵抗度の下限が上記好ましい範囲内であると、十分な絶縁性が得られ、短絡や破膜を防ぐことができる。上限が上記好ましい範囲内であるとイオン透過の抵抗が高くなるのを防ぎ、実使用可能な範囲の充放電特性、寿命特性が得られる。
【0090】
さらに本発明の積層多孔質膜は、ポリオレフィン多孔質膜Aの透気抵抗度をX(sec/100ccAir)、積層多孔質膜全体の透気抵抗度をY(sec/100ccAir)としたとき、その割合(Y/X)がY/X≦1.5の関係を有することが好ましい。上記好ましい範囲内であると、十分なイオン透過性が確保でき、高性能電池に適したセパレーターとなる。
【0091】
本発明の積層多孔質膜の突刺強度は、ポリオレフィン多孔質膜Aの設計・選択により調節可能であるが、ポリアミドイミド樹脂を必須成分とする多孔質層Bの積層の方法により、積層多孔質膜の突刺強度(P’)がポリオレフィン多孔質膜Aの突刺強度(P)よりわずかに低くなることがある。加工性の観点から突刺強度の低下率(1−P’/P)は小さいことが好ましく、好ましくは(1−P’/P)≦0.2、より好ましくは(1−P’/P)≦0.1であることが好ましい。
【0092】
本発明において、ポリオレフィン多孔質膜Aと多孔質層Bの界面での剥離強度F(A/B)は、F(A/B)≧1.0N/25mmであることが好ましい。さらに好ましくは1.5N/25mm以上、より好ましくは2.0N/25mm以上である。剥離強度が上記好ましい範囲内であると、十分な高温領域での低熱収縮性や耐メルトダウン特性が達成でき、かつ、電池組み立て工程において多孔質層Bが剥離するのを防ぐ。上記F(A/B)は多孔質膜Bの多孔質膜Aに対する密着性を意味する。
【実施例】
【0093】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0094】
ポリオレフィン多孔質膜A
ここではポリオレフィン多孔質膜Aとしてポリエチレン多孔質膜(膜厚16μm、透気抵抗度110sec/100ccAir、空孔率48%)を使用し、積層多孔質膜を作成した。ポリエチレン多孔質膜の物性については後述する。
(合成例1)
耐熱性樹脂(ポリアミドイミド)の合成温度計、冷却管、窒素ガス導入管のついた4ツ口フラスコにトリメリット酸無水物(TMA)1モル、o−トリジンジイソシアネート(TODI)0.8モル、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)0.2モル、フッ化カリウム0.01モルを固形分濃度が20%となるようにN−メチル−2−ピロリドンと共に仕込み、100℃で5時間攪拌した後、固形分濃度が14%となるようにN−メチル−2−ピロリドンで希釈してポリアミドイミド樹脂溶液(a)を合成した。得られたポリアミドイミド樹脂の対数粘度は1.35dL/g、ガラス転移温度は320℃であった。
【0095】
多孔質層B形成用のワニスの調製
表2に示した配合比率に従ってバインダー樹脂(b)、フィラー(a)、溶剤を酸化ジルコニウムビーズ(東レ(株)製、“トレセラム”(登録商標)ビーズ、直径0.5mm)と共に、ポリプロピレン製の容器に入れ、ペイントシェーカー((株)東洋精機製作所製)で6時間分散させた。次いで、濾過限界5μmのフィルターで濾過し、ワニスを調合した。
実施例1〜、参考例1〜及び比較例2〜4は表1に示した多孔質層Bの原料を用い、表2に示した多孔質層B形成用ワニスの配合比率に従いワニスを調製した。調製したワニスをポリエチレン多孔質膜に積層し、積層多孔質膜を得た。
(実施例1、参考例1〜2及び比較例2)
バインダー(b)として耐熱性樹脂を含む多孔質層Bの積層
上記で得られたワニスを用いて、ブレードコート法にてポリオレフィン多孔質膜Aに塗布し、温度25℃、絶対湿度1.8g/mの低湿度ゾーンを8秒間、引き続き温度25℃、絶対湿度12g/mの高湿度ゾーンを5秒間で通過させた後、N−メチル−2−ピロリドンを5重量%含有する水溶液中に10秒間浸漬し、純水で洗浄した後、70℃の熱風乾燥炉を通過させることで乾燥して積層多孔質膜を得た。この際、多孔質層Bの乾燥膜厚が所定厚さになるようにブレードのクリアランスを調製した。
実施例2、参考例3〜4及び比較例3)
バインダー(b)として親水性樹脂を含む多孔質層Bの積層上記で得られたワニスを用いて、ブレードコート法にてポリオレフィン多孔質膜Aに塗布し、70℃の熱風乾燥炉を通過させることで乾燥して積層多孔質膜を得た。この際、多孔質層Bの乾燥膜厚が所定厚さになるようにブレードのクリアランスを調製した。
【0096】
[結果]
実施例1〜、参考例1〜及び比較例2〜4で得られた多孔質膜の物性を以下の方法により測定した。なお、比較例1は実施例1〜、参考例1〜及び比較例2〜4でポオレフィン多孔質膜Aとして使用したポリエチレン多孔質膜自体の評価結果(特性)である。結果を表3に示す。
【0097】
膜厚:接触厚さ計((株)ミツトヨ製)により測定した。50mm角の多孔質膜を用意し、中央部と四隅の計5点の測定を行い、その算術平均を膜厚とした。
【0098】
透気抵抗度:JIS P 8117に準拠し、ガーレー値を測定した。
【0099】
目付け:50×50mmとした多孔質膜の重量を測定し、1mあたりの重量に換算した。
【0100】
TD熱収縮率:TD方向の熱収縮率を測定する場合には、MD、TD方向に50×50mmとした多孔質膜を、50×35mmの開口部を有するフレームにTD方向と平行になるようにMD方向両端をテープ等により固定する。これによりMD方向は35mmの間隔で固定され、TD方向はフレーム開口部に膜端部が沿う状態で位置する。多孔質膜を固定したフレームごとオーブン中で150℃、30分間加熱後、冷却する。TD方向の熱収縮によってMDと平行である多孔質膜の端が、内側に(フレームの開口の中心に向かって)わずかに弓なりに曲がる。TD方向の収縮率(%)は、加熱後のTD方向の最短寸法を、加熱前のTD寸法(50mm)で割り算出する。
【0101】
メルトダウン温度:50mm角の多孔質膜を直径12mmの穴を有する金属製のブロック枠を用いて挟み、タングステンカーバイド製の直径10mmの球を多孔質膜の上に設置する。多孔質膜は水平方向に平面を有するように設置される。30℃からスタートし、5℃/分で昇温する。多孔質膜が球によって破膜されたときの温度を測定し、メルトダウン温度とした。
【0102】
静摩擦係数:ASTM D 1894−63に準拠し、アルミ箔(鏡面)と多孔質層B間の最大静止摩擦係数を、加重30g、速度50mm/分の条件で測定した。
【0103】
多孔質層Bの原料を表1に示す。
【0104】
【表1】
【0105】
多孔質層B形成用ワニスの配合比率を表2に示す。
【0106】
【表2】
【0107】
表3に示されるとおり、ポリオレフィン多孔質膜Aの少なくとも片面に、フィラー(a)とバインダー樹脂(b)を必須成分とする多孔質層Bを設けた積層多孔質膜であり、フィラー(a)の真比重が2.0g/cm未満である積層多孔質膜は優れた特性を有することがわかる。
【0108】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の積層多孔質膜は、リチウムイオン電池やニッケル水素電池等に用いる電池用セパレーターや電解コンデンサー用の隔膜等の各種用途に用いることができる。なかでもリチウムイオン電池用セパレーターとして好適に使用することができる。