(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6179646
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】車両用舵角検出装置及びそれを搭載した電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
G01B 21/22 20060101AFI20170807BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20170807BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20170807BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20170807BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20170807BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20170807BHJP
【FI】
G01B21/22
B62D5/04
B62D6/00
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-164459(P2016-164459)
(22)【出願日】2016年8月25日
(62)【分割の表示】特願2016-532651(P2016-532651)の分割
【原出願日】2016年2月1日
(65)【公開番号】特開2017-3600(P2017-3600A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2016年8月25日
(31)【優先権主張番号】特願2015-30800(P2015-30800)
(32)【優先日】2015年2月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078776
【弁理士】
【氏名又は名称】安形 雄三
(72)【発明者】
【氏名】菅原 孝義
(72)【発明者】
【氏名】皆木 亮
(72)【発明者】
【氏名】澤田 英樹
【審査官】
梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−296781(JP,A)
【文献】
特開平10−236330(JP,A)
【文献】
特開平03−209127(JP,A)
【文献】
特開2014−210472(JP,A)
【文献】
特開2012−101691(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0103261(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 21/00 − 21/32
B62D 5/00 − 6/10
G01D 5/00 − 5/252
G01D 5/39 − 5/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングシャフト角度As及びモータ角度Amに基づいて、前記ステアリングシャフト角度As及び前記モータ角度Amよりも周期の長い角度信号である基準角度Avを求めるバーニア演算を行うバーニア演算部と、
前記基準角度Avと、推定若しくは測定されたSAT値とに基づいて中立周期を特定され、中立点を含む中立周期の角度信号Avnを出力する中立周期特定部と、
前記角度信号Avn及び記憶された中立点値から前記中立点を特定し、前記中立点を特定された操舵角度Sagを出力する中立点特定部と、
を備えたことを特徴とする車両用舵角検出装置。
【請求項2】
前記バーニア演算が、
前記モータ角度Amの最大値Am'm、前記ステアリングシャフト角度Asの最大値Asm、前記最大値Am'm及び前記最大値Asmの最小公倍数Al、前記最小公倍数Alを前記最大値Asmで除算した除算結果Ac、前記最大値Am'mを前記除算結果Acで除算した除算結果Apに基づき、
前記モータ角度Amを前記ステアリングシャフト角度Asの単位に統一させAm'とし、前記ステアリングシャフト角度Asを前記最大値Am'mで剰余して剰余値As'を求め、前記モータ角度Am'と前記剰余値As'の差に“Ap÷2”を加算した値を、前記最大値Am'mで剰余して剰余値Adを求め、前記剰余値Adを前記除算結果Apで除算し、小数点以下を切り捨てた値をインデックス値Aiとし、
Av=As+Asm×Ai
により前記基準角度Avを求めるようになっている請求項1に記載の車両用舵角検出装置。
【請求項3】
前記中立点値がEEPROMに記憶されている請求項1又は2に記載の車両用舵角検出装置。
【請求項4】
前記ステアリングシャフト角度Asがステアリングシャフトのハンドル側若しくはピニオン側の角度であり、前記モータ角度Amがモータに連結された回転角センサによって出力される請求項1乃至3のいずれかに記載の車両用舵角検出装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の車両用舵角検出装置を搭載し、当該車両用舵角検出装置で検出した前記操舵角度Sagに基づいて操舵アシスト制御を行うことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載の車両用舵角検出装置を搭載し、前記操舵角度Sagを他の既存の操舵角センサの出力する角度信号と比較することにより、お互いの出力を相互に監視し、異常若しくは故障が発生した場合には、前記比較により前記異常若しくは故障を検出できることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングシャフトに設けられている角度センサからの角度情報と、モータの回転角センサからの角度情報とから、バーニア演算を行うことで広範囲の角度情報を得て、比較的簡単な処理により短時間で、中立点を特定された操舵角度(舵角)を検出する車両用舵角検出装置及びそれを搭載した電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のステアリング機構にモータの回転力で操舵補助力(アシスト力)を付与する電動パワーステアリング装置は、モータの駆動力を減速機を介してギア又はベルト等の伝達機構により、ステアリングシャフト或いはラック軸に操舵補助力を付与するようになっている。かかる従来の電動パワーステアリング装置(EPS)は、操舵補助力のトルクを正確に発生させるため、モータ電流のフィードバック制御を行っている。フィードバック制御は、操舵補助指令値(電流指令値)とモータ電流検出値との差が小さくなるようにモータ印加電圧を調整するものであり、モータ印加電圧の調整は、一般的にPWM(パルス幅変調)制御のデューティの調整で行っている。
【0003】
電動パワーステアリング装置の一般的な構成を
図1に示して説明すると、ハンドル(ステアリングホイール)1のステアリングシャフト(コラム軸、ハンドル軸)2は減速ギア3、ユニバーサルジョイント4a及び4b、ピニオンラック機構5、タイロッド6a,6bを経て、更にハブユニット7a,7bを介して操向車輪8L,8Rに連結されている。また、ステアリングシャフト2には、ハンドル1の操舵トルクを検出するトルクセンサ10が設けられており、ハンドル1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介してステアリングシャフト2に連結されている。電動パワーステアリング装置を制御するコントロールユニット(ECU)30には、バッテリ13から電力が供給されると共に、イグニションキー11を経てイグニションキー信号が入力される。コントロールユニット30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクThと車速センサ12で検出された車速Velとに基づいてアシスト(操舵補助)指令の電流指令値の演算を行い、電流指令値に補償等を施した電圧制御値Vrefによってモータ20に供給する電流を制御する。なお、車速VelはCAN(Controller Area Network)等から受信することも可能である。
【0004】
コントロールユニット30は主としてCPU(MCU、MPU等も含む)で構成されるが、そのCPU内部においてプログラムで実行される一般的な機能を示すと
図2のようになる。
【0005】
図2を参照してコントロールユニット30の機能及び動作を説明すると、トルクセンサ10で検出された操舵トルクTh及び車速センサ12で検出された車速Velは、電流指令値Iref1を演算する電流指令値演算部31に入力される。電流指令値演算部31は、入力された操舵トルクTh及び車速Velに基づいてアシストマップ等を用いて、モータ20に供給する電流の制御目標値である電流指令値Iref1を演算する。電流指令値Iref1は加算部32Aを経て電流制限部33に入力され、最大電流を制限された電流指令値Irefmが減算部32Bに入力され、フィードバックされているモータ電流値Imとの偏差I(=Irefm−Im)が演算され、その偏差Iが操舵動作の特性改善のためのPI制御部35に入力される。PI制御部35で特性改善された電圧制御値VrefがPWM制御部36に入力され、更に駆動部としてのインバータ37を介してモータ20がPWM駆動される。モータ20の電流値Imはモータ電流検出器38で検出され、減算部32Bにフィードバックされる。インバータ37は駆動素子としてFETが用いられ、FETのブリッジ回路で構成されている。
【0006】
また、加算部32Aには補償部34からの補償信号CMが加算されており、補償信号CMの加算によってシステム系の補償を行い、収れん性や慣性特性等を改善するようになっている。補償部34は、セルフアライニングトルク(SAT)343と慣性342を加算部344で加算し、その加算結果に更に収れん性341を加算部345で加算し、加算部345の加算結果を補償信号CMとしている。
【0007】
このような電動パワーステアリング装置では、ハンドル角度を検出するため、従来は専用の操舵角度センサ(舵角センサ)を搭載してきた。しかし近年、信頼性向上や機能冗長化、コストダウン等の要求から、トルクセンサとしても機能させることのできる角度センサを搭載する場合が出てきた。
【0008】
一般に、自動車のハンドルは中立点から左右に1回転半程度回転するように設計されている。つまり、左端から右端まで約3回転できることになる。よって、ハンドル角度を適切に検出するためには、3回転以上の広い範囲の角度を検出できるマルチターンに対応した操舵角度センサを搭載しなければならない。角度に換算すると1080deg(360deg×3)以上に相当し、マージンなどを考慮すれば1400deg程度を検出できることが望ましい。この要求に対応するため、従来は減速機構等を内蔵した角度センサを構築し、操舵角度センサとしていた。しかし、減速機構等を設けることは構造が複雑になり、コストもかかることから、操舵角度センサの設置を省略し、代替するセンサが求められていた。
【0009】
一方、ブラシレスDCモータを用いた電動パワーステアリングでは、モータのコミュテーション精度を確保するため、精度の高い回転角センサとしてレゾルバをモータ軸に設けている。しかし、レゾルバは角度検出精度が高い代わりに、検出できる角度範囲が狭く、その範囲は一般的に電気角1周期であり、広範囲の角度検出には不向きな特性となっている。このため、例えば、モータとステアリングシャフトとの間に配置された減速機構による減速倍率が“18.5”で、モータ極対数による倍率が“3”の場合、合わせて55.5倍の倍率で、ステアリングシャフトの角度変化がレゾルバ角度の変化として検出されることになる。つまり、ハンドルが左端から右端まで3回転するようなステアリングシステムの場合、レゾルバ角度は166.5周期もの角度変化を繰り返すことになる。これでは、レゾルバ角度からだけでは、ハンドル角度を推定することは難しく、何らかの推定処理を、ある程度以上の時間をかけて実行しなければならない等の問題があった。操舵トルクや車輪速等からの中立推定処理、エンドからエンドまでの推定処理、SAT舵角推定処理などである。
【0010】
また、近年の信頼性向上や機能冗長化、コストダウン等の要求から、トルクセンサとしても機能させることのできる角度センサを、ステアリングシャフトに搭載する場合が出てきた。この場合、トルクセンサとして必要な分解能を得るために、例えば40deg周期や20deg周期などの検出範囲で、ステアリングシャフトの角度を検出することができるようになっている。しかし、40deg周期で角度検出できたとしても、ハンドルが左端から右端まで3回転するようなステアリングシステムの場合、27周期もの角度変化が繰り返されることになり、レゾルバ角度の場合と同等の処理を行わなければ、ハンドル角度を推定することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第5401875号公報
【特許文献2】特許第5195132号公報
【特許文献3】特許第5181817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の車両用舵角検出(推定)装置として、例えば特許第5401875号公報(特許文献1)、特許第5195132号公報(特許文献2)、特許第5181817号公報(特許文献3)が提案されている。特許文献1の車両用舵角検出装置では、モータ角度センサより絶対舵角推定を行い、右切増し方向(θrmax)と左切増し方向(θrmin)をそれぞれ記憶演算して、中点舵角を推定している。また、特許文献2の車両用舵角推定装置では、2輪の回転速度情報とSAT情報により、演算を行うことにより舵角推定を行っている。特許文献3の車両用舵角検出装置では、相対舵角をEEPROMに記憶し、電源復活時にSATを記憶値と比較して演算を行い、舵角推定を行っている。
【0013】
特許文献1の装置は簡単な構成で実現できるが、左右のラックエンドまで操舵しなければ中立を推定することができないため、常に中立を推定できるとは限らないという問題がある。また、特許文献2及び3の方式では、SATの推定精度に依存して絶対舵角の中立点の精度が決まるため、なるべく高い精度でSATの推定を行う必要があり、処理の複雑さもさることながら、推定に要する時間が長くなったり、推定に必要な車速が高くなければならない等の走行条件が厳しくなったりするなどの問題がある。
【0014】
本発明は上述のような事情よりなされたものであり、本発明の目的は、ステアリングシャフトに設けられている角度センサからの角度情報と、モータの回転角センサからの角度情報とから、バーニア演算を行うことで広範囲の角度情報を得て、比較的簡単な構成と処理により短時間で、中立点を特定された操舵角度を検出する車両用舵角検出装置及びそれを搭載した電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は車両用舵角検出装置に関し、本発明の上記目的は、ステアリングシャフト角度As及びモータ角度Amに基づいて、前記ステアリングシャフト角度As及び前記モータ角度Amよりも周期の長い角度信号である基準角度Avを求めるバーニア演算を行うバーニア演算部と、前記基準角度Avと、推定若しくは測定されたSAT値とに基づいて中立周期を特定され、中立点を含む中立周期の角度信号Avnを出力する中立周期特定部と、前記角度信号Avn及び記憶された中立点値から前記中立点を特定し、前記中立点を特定された操舵角度Sagを出力する中立点特定部とを備えることにより達成される。
【0016】
本発明の上記目的は、前記バーニア演算が、前記モータ角度Amの最大値Am'm、前記ステアリングシャフト角度Asの最大値Asm、前記最大値Am'm及び前記最大値Asmの最小公倍数Al、前記最小公倍数Alを前記最大値Asmで除算した除算結果Ac、前記最大値Am'mを前記除算結果Acで除算した除算結果Apに基づき、前記モータ角度Amを前記ステアリングシャフト角度Asの単位に統一させAm'とし、前記ステアリングシャフト角度Asを前記最大値Am'mで剰余して剰余値As'を求め、前記モータ角度Am'と前記剰余値As'の差に“Ap÷2”を加算した値を、前記最大値Am'mで剰余して剰余値Adを求め、前記剰余値Adを前記除算結果Apで除算し、小数点以下を切り捨てた値をインデックス値Aiとし、Av=As+Asm×Aiにより前記基準角度Avを求めるようになっていることにより、或いは前記中立点値がEEPROMに記憶されていることにより、或いは前記ステアリングシャフト角度Asがステアリングシャフトのハンドル側若しくはピニオン側の角度であり、前記モータ角度Amがモータに連結された回転角センサによって出力されることにより、より効果的に達成される。
【0017】
また、本発明は電動パワーステアリング装置に関し、本発明の上記目的は、上記いずれかに記載の車両用舵角検出装置を搭載し、当該車両用舵角検出装置で検出した前記操舵角度Sagに基づいて操舵アシスト制御を行うことにより、或いは前記操舵角度Sagを他の既存の操舵角センサの出力する角度信号と比較することにより、お互いの出力を相互に監視し、異常若しくは故障が発生した場合には、前記比較により前記異常若しくは故障を即時に検出できることにより達成される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の車両用舵角検出装置によれば、ステアリングシャフトに取付けられたステアリングシャフト角度センサ(トルクセンサ)からの角度信号と、モータに連結された回転角センサ(レゾルバ等)からの角度信号とをバーニア演算しているので、より広範囲のステアリングシャフト角度を検出することができる。従来よりも簡単かつ短時間で操舵角度を検出(推定)できる。バーニア演算により拡張された基準角度から操舵角度の中立点を含む中立周期を特定し、記憶されている中立点値に基づいて中立点を特定しているので、中立点を特定された操舵角度を検出(推定)することができる。
【0019】
本発明の車両用舵角検出装置を電動パワーステアリング装置に搭載すれば、中立点を特定された操舵角度に基づいて操舵アシスト制御を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】電動パワーステアリング装置の概要を示す構成図である。
【
図2】電動パワーステアリング装置の制御系の構成例を示すブロック図である。
【
図4】本発明の演算処理の構成例を示すブロック図である。
【
図5】本発明の演算処理の動作例を示すフローチャートである。
【
図6】バーニア演算を説明するための波形図である。
【
図7】バーニア演算を説明するための波形図である。
【
図8】ステアリングシャフト角度とSATの関係の一例を示す特性図である。
【
図9】ステアリングシャフト角度と基準角度の関係の一例を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
電動パワーステアリング装置(EPS)にて、ハンドル角度を検出するため、従来は専用の操舵角度センサを搭載してきた。しかし近年、信頼性向上や機能冗長化、コストダウン等の要求から、トルクセンサとしても機能させることのできる角度センサを搭載する場合が出てきている。この場合、トルクセンサとして必要となる高い分解能を得るために、例えばステアリングシャフト40deg周期や20deg周期などの角度センサを搭載している。本発明は、このような40deg周期や20deg周期のステアリングシャフトの角度情報と、ステアリングシャフトに減速機構(減速歯車)を介して接続されているモータの回転角センサ(例えばレゾルバ)からの角度情報とからバーニア演算を行い、40degや20degよりも広範囲(例えば240deg周期)の角度情報(基準角度)を得て、従来よりも簡単な構成と処理により短時間で、操舵角度を検出するようにしている。
【0022】
具体的には、ステアリングシャフト角度センサ(トルクセンサ)からの角度信号と、回転角センサ(レゾルバ)からの角度信号とをバーニア演算により拡張し、拡張された基準角度から凡そ操舵角度の中立点を含むであろう中立周期を特定する。拡張された基準角度は十分に広いハンドル角度範囲を検出できるため、例えば中立点特有の「走行中はSAT値≒0」を含む周期を、中立点を含む中立周期と推定することもできる。これは、車両走行中であれば即時に判断することが可能であり、非常に簡単な処理で、短時間のうちに完了することができる。また、中立点を含む中立周期のどこに本当の中立点があるか、を事前にEEPROMなどの記憶部に記憶しておくことで、中立点を含む中立周期を特定でき次第、同時に中立点も特定することが可能となる。
【0023】
以下に、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
図3は本発明の全体構成を示しており、ハンドル1に連結されているステアリングシャフト2にはステアリングシャフト角度センサ(トルクセンサ)22が設けられ、ステアリングシャフト2に減速ギア3を介して設けられているモータ20には、モータ回転角センサ(レゾルバ)21が取付けられている。
図3では、ステアリングシャフト角度センサ22はステアリングシャフト2のハンドル1側に設けられているが、ピニオン側に設けられていても良い。モータ回転角センサ21で検出されたモータ角度Am及びステアリングシャフト角度センサ22で検出されたステアリングシャフト角度Asはバーニア演算部100に入力され、バーニア演算部100はモータ角度Am及びステアリングシャフト角度Asに基づいて、広範囲(例えば240deg周期)の基準角度Avを演算する。
【0025】
図4は操舵角度検出の演算処理の構成例を示しており、ステアリングシャフト角度As(例えば40deg周期)及びモータ角度Am(電気角周期)はバーニア演算部100に入力され、演算された基準角度Avは中立周期特定部110に入力される。中立周期特定部110には、推定若しくは測定されたSAT値SATvが入力されている。また、中立周期特定部110で、中立点を含む中立周期を特定された角度信号Avnは中立点特定部120に、記憶部(例えばEEPROM)に記憶されている中立点値Npと共に入力され、中立点特定部120は特定された中立点を含む操舵角度Sag(±∞deg)を出力する。
【0026】
このような構成において、その動作例を
図5のフローチャートを参照して説明する。
【0027】
本例では、モータ減速比“18.5”、モータ極対数“3”の場合を想定して説明する。組合せはこれ以外でも可能であり、例えばモータ減速比だと“16”、“20.5”、“20.333・・・”(=61÷3)などであり、モータ極対数だと“2”、“4”、“5”などである。モータ減速比とモータ極対数の組合せによって、バーニア演算後に得られる基準角度Avの角度範囲は決まる。また、ステアリングシャフト角度センサ22から得られるステアリングシャフト角度Asの周期を40deg周期とし、モータ20の回転角センサ21から得られるモータ角度Amの周期を360deg周期の電気角度信号とする。これら周期(40deg周期、360deg周期)も一例であり、他の周期信号の関係を用いることも可能である。
【0028】
バーニア演算部100は、先ずステアリングシャフト角度Asを入力し(ステップS1)、モータ角度Amを入力する(ステップS2)。この入力の順番は、逆であっても良い。バーニア演算部100は、ステアリングシャフト角度As及びモータ角度Amに基づいてバーニア演算を行う(ステップS3)。
【0029】
バーニア演算の目的は、ステアリングシャフト角度Asとモータ角度Amを使い、どちらよりも周期の長い角度信号の基準角度Avを演算することである。バーニア演算の手順では、先ずシステム固有値として事前に以下の値を設定しておく。
(1)モータ角度Amの最大値をステアリングシャフト角度Asの単位に統一させAm'mとする。即ち、最大値Am'm=360÷3÷18.5≒6.486・・・である。
(2)また、ステアリングシャフト角度Asの最大値をAsm(=40)とする。(3)次に、最大値Am'mと最大値Asmとの最小公倍数をAlとすると、最小公倍数Al=LCM(Am'm, Asm)=240である。
(4)最小公倍数Alを最大値Asmで除算してAcとすると、除算結果Ac=Al÷Asm=6となる。
(5)更に、最大値Am'mを除算結果Acで除算してApとすると、除算結果Ap=Am'm÷Ac=1.081・・・となる。
以上より、システム固有値としてモータ角度Amの最大値Am'm、ステアリングシャフト角度Asの最大値Asm、最小公倍数をAl、最小公倍数Alに対する除算結果Ac、最大値Am'mに対する除算結果Apが求められる。
【0030】
次に、以上のようにして求められたシステム固有値を用いて下記演算(a)〜(d)を行い、インデックス値Aiを求める。
(a)モータ角度Amをステアリングシャフト角度Asの単位に統一させAm'とする。即ち、モータ角度Am'=Am÷3÷18.5である。
(b)ステアリングシャフト角度Asを最大値Am'mで剰余しAs'とする。即ち、剰余値As'=mod(As, Am'm)である。
(c)モータ角度Am'と剰余値As'の差に“Ap÷2”を加算した値を、最大値Am'mで剰余しAdとする。即ち、剰余値Ad=mod(Am'−As'+Ap÷2, Am'm)である。
(d)剰余値Adを除算結果Apで除算し、小数点以下を切り捨てた値をインデックス値Aiとする。即ち、インデックス値Ai=INT(Ad÷Ap)である。
バーニア演算部100は、上述のようにして求めたインデックス値Ai、ステアリングシャフト角度As及び最大値Asmを用いて下記数1の演算を行い、拡張された角度信号の基準角度Avを求め、基準角度Avを出力する(ステップS4)。
(数1)
Av=As+Asm×Ai
ハンドル角度に対するモータ角度Am'、剰余値As'、剰余値Ad及びインデックス値Aiの関係は、例えば
図6に示すようになっている。また、ハンドル角度に対するステアリングシャフト角度As、基準角度Av及びインデックス値Aiの関係は、例えば
図7に示すようになっている。
【0031】
基準角度Avは中立周期特定部110に入力され、推定若しくは測定されたSAT値SATvも中立周期特定部110に入力される(ステップS5)。中立周期特定部110は、SAT値SATvに基づいて基準角度Avの中立周期を特定する(ステップS6)。特定終了となるまで、中立周期の特定が継続される(ステップS7)。ハンドル角度とSAT値SATvとの関係例を
図8に示す。車速に応じて傾きが変わるため、一例として50km/h及び100km/hを示している。この
図8から分かるように、SAT値SATvはハンドル角度が0degで凡そ0を示す。よって、SAT値SATvが0を示すハンドル角度を中立点として扱うことができる。SAT値SATvは公知の手法で推定しても良いし、直接測定して求めても良い。
【0032】
いま仮に、上述した240deg周期のバーニア演算した基準角度Avが、ハンドル角度の−100deg〜+140degに位置しているとした場合、ハンドル角度と基準角度Avの関係は
図9のようになる。このとき、ハンドル角度が−340〜−100degの場合、
図8から分かるようにSAT値SATvが0を示すことはなく、この範囲に中立点が無いと判断できる。同様に、ハンドル角度が140〜380degの場合も、中立点が無いと判断できる。一方、ハンドル角度が−100〜140degの場合、SAT値SATvが0や0付近を示すことがあり、この瞬間に、このハンドル角度の範囲に中立点があると判断できる。これらは、ハンドル角度の広い範囲において周期的に0〜240degの変化を繰り返す基準角度Avの各周期の内の、どの周期にハンドル中立点が含まれているのかを容易に検出できることを示している。
【0033】
上述のようにして中立周期の特定が終了すると(ステップS7)、中立周期を特定され中立点を含む中立周期の角度信号Avnは中立点特定部120に入力され、中立点特定部120は、ECU内等の記憶部(例えばEEPROM)から中立点値Npを読み出して入力する(ステップS10)。記憶部には事前に、ハンドル中立点の基準角度Avの値を中立点値Npとして記憶させておく。例えば
図9の場合、100degという値を中立点値Npとして記憶しておき、先に求まった中立点を含む角度信号Avnの周期の中から、角度信号Avnが100degを示すところを中立点として特定すれば良い(ステップS11)。このようにすることで、中立点の推定に最も時間のかかる推定精度の高い処理を省略することができ、より短時間で中立点を特定することが可能となる。
【0034】
中立点特定部120が中立点値Npに基づいて中立点を特定した後(ステップS12)、操舵角度Sagを出力する(ステップS13)。操舵角度Sagに基づいて、電動パワーステアリング装置は操舵アシスト制御を行う。
【0035】
即ち、上述の車両用舵角検出装置を搭載し、当該車両用舵角検出装置で検出した操舵角度Sagに基づいて操舵アシスト制御を行う。また、操舵角度Sagを他の既存の操舵角センサの出力する角度信号と比較することにより、お互いの出力を相互に監視するようにしても良い。異常若しくは故障が発生した場合には、操舵角度Sagと他の操舵角センサの角度信号との比較により、異常若しくは故障を即時に検出することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 ハンドル(ステアリングホイール)
2 ステアリングシャフト(コラム軸、ハンドル軸)
10 トルクセンサ
12 車速センサ
13 バッテリ
20 モータ
21 モータ回転角センサ(レゾルバ)
22 ステアリングシャフト角度センサ(トルクセンサ)
30 コントロールユニット(ECU)
31 電流指令値演算部
33 電流制限部
34 補償部
35 PI制御部
36 PWM制御部
37 インバータ
40 CAN
41 非CAN
100 バーニア演算部
110 中立周期特定部
120 中立点特定部