(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、一実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
【0012】
<1:DC−DCコンバータの概略構成>
図1は、本実施形態の電力変換装置の一例であるDC−DCコンバータの回路構成の一例を表す図である。このDC−DCコンバータは、例えば、DAB(Dual Active Bridge)方式の絶縁型DC−DCコンバータであり、例えば太陽電池、直流発電機、燃料電池などの外部の発電源(図示省略)から給電される不定電圧の直流電力を所定電圧の直流電力に変換して出力する。
【0013】
図1において、DC−DCコンバータ1は、第1スイッチング回路10と、第2スイッチング回路11と、トランス12と、インダクタンス素子13と、コンデンサ14,15と、電流検出部16,19と、電圧検出部17,18と、制御部20とを備える。
【0014】
第1スイッチング回路10(スイッチング回路の一例)は、フルブリッジ接続された複数のスイッチング素子Q1〜Q4を備えるブリッジ回路である。第1スイッチング回路10は、第1上アームスイッチング素子Q1と第1下アームスイッチング素子Q2とが直列に接続された第1アームと、第2上アームスイッチング素子Q3と第2下アームスイッチング素子Q4とが直列に接続された第2アームとを有する。第1アームと第2アームとは、入力側直流母線に対して並列に接続され、その全体が第1スイッチング回路10を構成している。
【0015】
また、第2スイッチング回路11(スイッチング回路の一例)は、フルブリッジ接続された複数のスイッチング素子Q5〜Q8を備えるブリッジ回路である。第2スイッチング回路11は、第3上アームスイッチング素子Q5と第3下アームスイッチング素子Q6とが直列に接続された第3アームと、第4上アームスイッチング素子Q7と第4下アームスイッチング素子Q8とが直列に接続された第4アームとを有する。第3アームと第4アームとは、出力側直流母線に対して並列に接続され、その全体が第2スイッチング回路11を構成している。
【0016】
なお、各スイッチング素子Q1〜Q8は、スーパージャンクション構造のMOSFET(Metal−Oxide−Semiconductor Field−Effect Transistor)で構成される半導体スイッチング素子である(後述の
図4参照)。以下適宜、スーパージャンクション構造のMOSFETをSJMOSFETと略記する。また、各上アームスイッチング素子Q1,Q3,Q5,Q7と、各下アームスイッチング素子Q2,Q4,Q6,Q8のうち、いずれか一方が各請求項記載の第1スイッチング素子の一例に相当し、他方が各請求項記載の第2スイッチング素子の一例に相当する。
【0017】
トランス12は、第1スイッチング回路10側と第2スイッチング回路11側との間に接続されている。このトランス12の1次側は、第1上アームスイッチング素子Q1と第1下アームスイッチング素子Q2の間の中間点E1と、第2上アームスイッチング素子Q3と第2下アームスイッチング素子Q4の間の中間点E2に接続されている。またトランス12の2次側は、第3上アームスイッチング素子Q5と第3下アームスイッチング素子Q6の間の中間点E3と、第4上アームスイッチング素子Q7と第4下アームスイッチング素子Q8の間の中間点E4に接続されている。なお以下において、トランス12の2次側巻線に対する1次側巻線の巻線比をN(=n1/n2)とする。この巻線比Nは、当該DC−DCコンバータ1の使用用途に応じて多様に設定されるが、本実施形態ではN=1を想定している。また、トランス12の2次側巻線が、各請求項記載の巻線の一例に相当する。
【0018】
インダクタンス素子13は、具体的にはコイル(リアクトル)であり、第1スイッチング回路10の交流出力側と上記トランス12の1次側巻線との間に直列に接続される。なお、
図1に示す例では、インダクタンス素子13は、上記中間点E1とトランス12の1次側の一方の端子の間に直列に接続されているが、中間点E2とトランス12の1次側の他方の端子の間に直列に接続されてもよい。さらに、インダクタンス素子13は、トランス12の2次側のいずれかの端子とそれぞれ対応する中間点E3,E4との間に直列に接続されてもよい。
【0019】
コンデンサ14は入力側直流母線における入力側直流電圧の脈動を抑えるためのコンデンサであり、入力側直流母線に対して第1スイッチング回路10と並列に接続されている。コンデンサ15は出力側直流母線における出力側直流電圧の脈動を抑えるためのコンデンサであり、出力側直流母線に対して第2スイッチング回路11と並列に接続されている。
【0020】
入力側電流検出部16は、図示しない外部発電源から入力側直流母線に流れる直流電流の瞬時値を検出する。出力側電流検出部19は、出力側直流母線に流れる直流電流の瞬時値を検出する。入力側電圧検出部17は、入力側直流母線に付加される入力側直流電圧VBの瞬時値を検出する。出力側電圧検出部18は、出力側直流母線に付加される出力側直流電圧VPNの瞬時値を検出する。なお、当該DC−DCコンバータ1の使用用途によっては、これら検出部のいくつかを省略してもよい。
【0021】
制御部20は、例えばCPU、RAM、ROMなどからなるコンピュータで構成され、第1スイッチング回路10及び第2スイッチング回路11が備える各スイッチング素子Q1〜Q8を制御するための制御信号S1〜S8を生成し、出力する。制御部20は、指令生成部21と、スイッチ駆動部23を有している。指令生成部21は、入力側電流検出部16及び出力側電流検出部19のそれぞれから検出された直流電流値と、入力側電圧検出部17及び出力側電圧検出部18のそれぞれから検出された直流電圧値と、トランス12の巻線比Nに基づいて、当該DC−DCコンバータ1に所望の電力変換を行わせるための制御指令を生成し、スイッチ駆動部23に出力する。スイッチ駆動部23は、指令生成部21から入力された制御指令に基づいて対応する制御信号S1〜S8を生成し、各スイッチング素子Q1〜Q8にそれぞれ出力する。これにより、スイッチ駆動部23は、複数の第1〜第4アームに対し、後述する第1スイッチングパターン、第2スイッチングパターン、及び第3スイッチングパターンに基づいて複数のスイッチング素子Q1〜Q8の動作を制御する。
【0022】
<2:DC−DCコンバータの基本動作>
以上の構成であるDC−DCコンバータ1では、外部の発電源(例えば太陽電池、直流発電機、燃料電池等)から入力側給電端子TA,TBを介して入力側直流母線に直流電力が給電される。そして、第1スイッチング回路10における各スイッチング素子Q1〜Q4のスイッチングが適宜制御されることにより、2つの中間点E1,E2の間に所定周波数の1次側交流電圧V1が生成される。
【0023】
また一方で、第2スイッチング回路11における各スイッチング素子Q5〜Q8のスイッチングが適宜制御されることにより、2つの中間点E3,E4の間に所定周波数の2次側交流電圧V2が生成される。
【0024】
上記の1次側交流電圧V1と2次側交流電圧V2の間の差によってインダクタンス素子13に流れる電流の量と方向が変化し、つまり1次側と2次側の間の電力変換方向が変化する。制御部20は、所望する給電方向と給電量で電力変換を行えるように、第1スイッチング回路10及び第2スイッチング回路11における各スイッチング素子Q1〜Q8のスイッチングを制御する。
【0025】
<3:DC−DCコンバータの詳細動作の比較例>
図2は、比較例として、DC−DCコンバータ1に対し上記基本動作を行わせるための具体的な詳細動作の一例を表すタイムチャートの一例を表す図である。この
図2では、トランス12周辺に生成される交流電圧の1周期(1キャリア)内での動作が示されており、その1周期はさらにT1〜T8の8つの区間に区分けされている。動作を示す各状態要素として、上から順にE1電位、E2電位、V1電圧、I
L電流、V2電圧、E3電位、及びE4電位のそれぞれにおける各区間ごとの状態変化の波形が示されている。なお、
図2ではVB=VPNとする。
【0026】
E1電位は、第1上アームスイッチング素子Q1と第1下アームスイッチング素子Q2の協働スイッチングによる、中間点E1における電位の変化を示している。このE1電位は、図示するように区間T2〜T5の間で入力側直流母線のプラス側配線(端子TA)に接続された正電位となり、区間T1,T6〜T8の間で入力側直流母線のマイナス側配線(端子TB)に接続された負電位となる。
【0027】
E2電位は、第2上アームスイッチング素子Q3と第2下アームスイッチング素子Q4の協働スイッチングによる、中間点E2における電位の変化を示している。このE2電位は、図示するように区間T4〜T7の間で入力側直流母線のプラス側配線に接続された正電位となり、区間T1〜T3,T8の間で入力側直流母線のマイナス側配線に接続された負電位となる。
【0028】
V1電圧は、中間点E1と中間点E2の間に付加される1次側交流電圧V1の変化を示している。このV1電圧は、上記のE1電位、E2電位の変化によって、図示するように区間T2,T3の間で正電圧となり、区間T6,T7の間で負電圧となり、その他の区間T1,T4,T5,T8の間で0電圧となる矩形波形状の交流電圧となる。
【0029】
I
L電流は、上記インダクタンス素子13に流れる電流I
L(流れる方向は
図1中の矢印方向、すなわち中間点E1から中間点E2へ向かう方向を正方向とする)の変化を示している。このI
L電流は、V1電圧とV2電圧の差と時間(区間の期間長)によって決まる。具体的には、インダクタンス素子13のインダクタンスをLとした場合に、L×dIL/dt=V1−V2の関係でI
L電流が流れる。この結果、図示するように区間T2においては経時的に増加するようI
L電流が流れ、区間T3ではその前の区間でどれだけ電流が増加したかによって決まる初期値と、V1とV2の大小関係によって決まる時間変化によってI
L電流が流れ、区間T4では経時的に減少するようにI
L電流が流れる。また、区間T6〜T8においては、区間T2〜T4と正負逆転した波形でI
L電流が流れる。なお本実施形態では、トランス12の1次側と2次側の間における電力変換動作についてこのI
L電流に着目した検討により説明する。つまり1次側の電流が巻線比Nに応じて2次側に流れる(もしくはその逆)として説明する。
【0030】
V2電圧は、中間点E3と中間点E4の間に付加される2次側交流電圧V2の変化を示している。このV2電圧は、第2スイッチング回路11のスイッチングパターンとその時の電流の方向によって決まる矩形波形状の交流電圧である。
【0031】
E3電位は、第3上アームスイッチング素子Q5と第3下アームスイッチング素子Q6の協働スイッチングによる、中間点E3における電位の変化を示している。このE3電位は、図示するように区間T3〜T6の間で出力側直流母線のプラス側配線(端子TC)に接続された正電位となり、区間T7〜T8,T1〜T2の間で出力側直流母線のマイナス側配線(端子TD)に接続された負電位となる。
【0032】
E4電位は、第4上アームスイッチング素子Q7と第4下アームスイッチング素子Q8の協働スイッチングによる、中間点E4における電位の変化を示している。このE4電位は、図示するように区間T5〜T8の間で出力側直流母線のプラス側配線に接続された正電位となり、区間T1〜T4の間で出力側直流母線のマイナス側配線に接続された負電位となる。
【0033】
以上の比較例の動作により、DC−DCコンバータ1は、各区間に同期して第1スイッチング回路10及び第2スイッチング回路11をスイッチングすることで1次側交流電圧V1と2次側交流電圧V2を生成し、それらの間の差によってインダクタンス素子13に流れる電流の量と方向を変化させ、給電方向と給電量が変化する。なお、電圧V1と電圧V2が共に正、あるいは共に負の区間があることにより、電力変換効率を向上できる。また、上記I
L電流とV2電圧の波形形状(振り幅、各区間の直線の傾き)は、各区間T1〜T8の期間長とトランス12の巻線比Nによって変化する。
【0034】
図3は、上記比較例の動作を実現するための各アームスイッチング素子Q1〜Q8のスイッチングパターンの一例を示している。この
図3において、「0」はOFF状態を、「1」はON状態を示している(以下、対応する各図においても同様)。
【0035】
<4:比較例における課題点>
しかし、本実施形態のDC−DCコンバータ1に対して上記スイッチングパターンに基づく比較例動作を適用した場合には、いわゆるリカバリー電流のアーム突き抜け現象によって電力変換効率が低下するという課題がある。具体的には、上述したようにSJMOSFETを第1スイッチング回路10及び第2スイッチング回路11の各アームスイッチング素子Q1〜Q8に用いていることで、上記比較例動作を適用した場合に損失が生じてしまう。以下、この点について詳細に説明する。
【0036】
図4は、SJMOSFET31の構成の一例を単体で表す図である。このようなSJMOSFET31は、通常、ドレイン電極Dが正電位側の配線に接続され、ソース電極Sが負電位側の配線に接続される。そしてゲート電極Gとソース電極Sとの間のゲート−ソース間電圧を切り替えることにより、ドレイン電極Dとソース電極Sの間の導通(ON状態)と遮断(OFF状態)が切り替えられる。そして上記の電位関係にある場合、導通状態ではドレイン電極Dからソース電極Sへ向かう方向に素子電流I
Qが流れる。また、ドレイン電極Dよりソース電極Sの方が電位が高い場合には、導通状態に関係なく後述する寄生ダイオード32を介してソース電極Sからドレイン電極Dへ向かう方向に素子電流I
Qを流すことも可能である。ここでは、素子電流I
Qのドレイン電極Dからソース電極Sへ向かって流れる方向を「順方向」とし、ソース電極Sからドレイン電極Dへ向かって流れる方向を「逆方向」とする。
【0037】
図1に示すように、上記通常の極性に準じて、各上アームスイッチング素子Q1,Q3,Q5,Q7のドレイン電極Dは直流母線のプラス側配線に接続され、各下アームスイッチング素子Q2,Q4,Q6,Q8のソース電極Sは直流母線のマイナス側配線に接続されている。また、各上アームスイッチング素子Q1,Q3,Q5,Q7のソース電極Sは、各中間点E1〜E4を介して対応する各下アームスイッチング素子Q2,Q4,Q6,Q8のドレイン電極Dと接続されている。
【0038】
また各種のMOSFETのデバイスに共通して、その内部には構造上の理由からいわゆる寄生ダイオード32(ボディダイオードともいう)が潜在的に組み込まれている。この寄生ダイオード32は、ソース電極Sからドレイン電極Dへ向かう方向を順方向として接続されており、すなわち上記素子電流I
Qの逆方向で電流I
AKが流れる。
【0039】
そしてSJMOSFET31の場合には、内蔵するこの寄生ダイオード32のリカバリー電流が大きいという特徴がある。つまり、
図5に示すように、寄生ダイオード32の単体で見て、それに付加される電圧V
AKが順電圧から逆電圧に切り替えた直後には、逆電流がリカバリー電流I
Rとして一時的に大きく流れてしまう。これは、寄生ダイオード32内のPN接合部分において、順電圧から逆電圧に切り替える際の空乏層が形成される過程において電子の移動により一時的に逆電流が流れてしまうことに起因している。
【0040】
このように寄生ダイオード32のリカバリー電流が大きいSJMOSFET31を各アームスイッチング素子Q1〜Q8として用いたDC−DCコンバータ1では、上記
図3のスイッチングパターンを適用した場合、
図3に示すようにスイッチング素子Q7,Q8を備えた第4アームにおいて区間T1と区間T5でアーム突き抜け現象が生じる(
図3中の太線枠参照)。なお、
図3における背景の塗りつぶしは、基本的にその区間でのスイッチングの結果としてそのまま次の区間のスイッチングまで継続する素子電流I
Qの方向、もしくはOFF状態である場合のその区間の直近まで流れていた素子電流I
Qの方向を示している。縦線背景は素子電流I
Qの順方向(つまりD→S方向)を示し、網掛け背景は素子電流I
Qの逆方向(つまりS→D方向)を示している。また、
図3に示すスイッチングパターンにおいては、直流母線間の縦短絡の防止の観点から、同一アーム中の上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子が同時にON状態となる組み合わせはない。なお、背景の塗りつぶしで表現する素子電流I
Qの方向については、同一の区間内でも前半と後半で変化する場合もあり、またOFF状態などの素子電流I
Qが流れていない場合には当該区間を遡った直近の方向に準じるものとする。
【0041】
例えば区間T1における第4アームの場合、
図6に示すようなリカバリー電流I
Rのアーム突き抜け現象が生じる。つまり、上記
図3に示すように、その直前の区間T8において第4アーム全体で素子電流I
Qの方向が逆方向であり(ただし実際に素子電流I
Qが流れるのは第4上アームスイッチング素子Q7のみ)、第4上アームスイッチング素子Q7がON状態で第4下アームスイッチング素子Q8がOFF状態であったところ、次の区間T1ではそれらアームスイッチング素子Q7,Q8のON/OFF状態が逆転する。この場合、区間T1では第4下アームスイッチング素子Q8がON状態である一方、他方の第4上アームスイッチング素子Q7がOFF状態でありながら寄生ダイオード32にリカバリー電流I
Rが流れることで、
図6に示すようにこの第4アーム全体を突き抜けるように直流母線間が縦短絡してしまう。これによりコンデンサ15の充電電荷が一時的に放電されて損失が生じるとともに、場合によっては各アームスイッチング素子Q7,Q8を損傷させる原因となる。
【0042】
同様に、区間T5における第4アームの場合、上記
図3に示すように、その直前の区間T4において第4アーム全体で素子電流I
Qの方向が逆方向であり第4上アームスイッチング素子Q7がOFF状態で第4下アームスイッチング素子Q8がON状態であったところ、次の区間T5ではそれらアームスイッチング素子Q7,Q8のON/OFF状態が逆転する。この場合、区間T5では第4上アームスイッチング素子Q7がON状態である一方、他方の第4下アームスイッチング素子Q8がOFF状態でありながら寄生ダイオード32にリカバリー電流I
Rが流れることで、
図7に示すようにこの第4アーム全体を突き抜けるように直流母線間が縦短絡してしまう。
【0043】
一般にSJMOSFET31は、スイッチングスピードが速くてON抵抗が低く、GaNやSiCのようなワイドバンドギャップ半導体と比較して価格が低いため製造コストの点で有利であるが、上記のようなリカバリー電流の大きさから特定の回路構成や動作手法に対する適用には不向きとされていた。また、受動素子を追加することで各アームスイッチング素子Q1〜Q8のそれぞれをスイッチング前にあらかじめ逆回復させる構成も考えられるが、この場合には製造コストが増大してしまうという課題があった。
【0044】
<5:本実施形態の動作>
本実施形態では、上記
図6、
図7に示したアーム突き抜け現象の発生条件を回避するスイッチングパターンで各スイッチング素子Q1〜Q8を駆動制御するソフトウェア的手法により電力変換効率を向上させる。
【0045】
まず上記
図6に示した区間T1でのアーム突き抜け現象の場合は、
図8に示すようなスイッチングパターンが発生条件となっている。すなわち、同一アームにおける上アームスイッチング素子Q
Hと下アームスイッチング素子Q
Lにおいて、区間T(X−1)で上アームスイッチング素子Q
Hの素子電流I
Qが逆方向であって、下アームスイッチング素子Q
LがOFF状態であったとする。そして次の区間TXで、上アームスイッチング素子Q
HがOFF状態となり、下アームスイッチング素子Q
LがON状態に切り替わった場合に、以前に逆方向の素子電流I
Qが流れていた上アームスイッチング素子Q
Hに高電圧がかかり、当該区間TXで上記
図6に示したアーム突き抜け現象が生じる。
【0046】
なお、区間T(X−1)における上アームスイッチング素子Q
HはON状態でもOFF状態でもよい。これは、上アームスイッチング素子Q
Hの素子電流I
Qが逆方向である場合には、スイッチング素子がON状態であってもOFF状態であっても、寄生ダイオード32には順方向に電流が流れるからである。したがって、本実施形態において「スイッチング素子に逆方向の電流が流れる」とは、当該スイッチング素子がON状態である場合及びOFF状態である場合を含むものである。なお、区間TXにおける下アームスイッチング素子Q
Lの素子電流I
Qの方向については、実際には一定方向に定まることになる(
図8に示す例では順方向)。また、区間TXにおける下アームスイッチング素子Q
Lの電流は、区間T(X−1)における上アームスイッチング素子Q
Hの電流が0である場合には、0となる。
【0047】
また、上記
図7に示した区間T5でのアーム突き抜け現象の場合は、
図9に示すようなスイッチングパターンが発生条件となっている。すなわち、区間T(X−1)で上アームスイッチング素子Q
HがOFF状態であって、下アームスイッチング素子Q
Lの素子電流I
Qが逆方向であったとする。そして次の区間TXで、上アームスイッチング素子Q
HがON状態となり、下アームスイッチング素子Q
LがOFF状態に切り替わった場合に、以前に逆方向の素子電流I
Qが流れていた下アームスイッチング素子Q
Lに高電圧がかかり、当該区間TXで上記
図7に示したアーム突き抜け現象が生じる。
【0048】
なお、区間T(X−1)における下アームスイッチング素子Q
LはON状態でもOFF状態でもよい。なお、区間TXにおける上アームスイッチング素子Q
Hの素子電流I
Qの方向については、実際には一定方向に定まることになる(
図9に示す例では順方向)。また、区間TXにおける上アームスイッチング素子Q
Hの電流は、区間T(X−1)における下アームスイッチング素子Q
Lの電流が0である場合には、0となる。
【0049】
これら2つの発生条件パターンに共通していることは、各アームにおけるOFF状態からON状態に切り替わる一方のスイッチング素子とは異なる他方のスイッチング素子において直前の区間で素子電流I
Qの方向が逆方向となっている点である。つまり、各アームにおけるスイッチングパターンの表記において「0」から切り替わった「1」の斜め前が網掛け背景となっているパターンが発生条件となる。なお、実際のスイッチング動作においては上アームスイッチング素子Q
Hと下アームスイッチング素子Q
Lが同時にOFF状態となる短期間のデッドタイムが各状態の間に入るが、そのデッドタイムを1つの状態と解釈しても上記発生条件を同様に考えることができる。
【0050】
本実施形態では、以上のような2つの発生条件パターンを回避するために、I
L電流のゼロクロス操作を行う。例えば、
図10に示すように、区間T4の期間長をΔt分だけ延長するようスイッチング操作を行うことで、各スイッチング素子Q1〜Q8の素子電流I
Qの向きを反転させる操作(0値に交差させる操作であり、本実施形態ではこれをゼロクロス操作と称呼する)を行う。なお、上記
図2の比較例動作では、意図的にI
L入力電圧が丁度0となってゼロクロスさせないように区間T4の期間長が設定されている。
【0051】
本実施形態では上記のようなゼロクロス操作を行うことにより、OFF状態からON状態に切り替わる一方のスイッチング素子とは異なる他方のスイッチング素子において直前の区間で素子電流I
Qの方向を順方向に反転できる。これは、
図11に示すようなスイッチングパターンを取ることになる。すなわち、上記比較例動作ではアーム突き抜け現象が発生していた区間TX(比較例動作の区間T5に対応)に対して、その直前の区間T(X−1)の前半では素子電流I
Qの方向が逆方向であったものの、同じ区間T(X−1)の後半ではアーム全体のスイッチング状態を維持したまま素子電流I
Qの方向を順方向に反転させていることと同等である。つまり、スイッチングパターンにおいて「1」の斜め直前が縦線背景となる。このため区間TX(区間T5)におけるアーム突き抜け現象を回避できる。
【0052】
また、図示は省略するが、区間T8の期間長においても同様にΔt分だけ延長してI
L入力電圧を負値から正値まで上げるゼロクロス操作を行うことで(
図11と上下逆転したスイッチングパターンを用いることで)、区間T1におけるアーム突き抜け現象を回避できる。
【0053】
しかしながら、DC−DCコンバータ1の全体でアーム突き抜け現象を完全に回避するためには、限られた範囲で区間T4の期間長を設定する必要があり、その調整が難しい。例えば区間T4の期間長が短すぎる場合には、
図12に示すように短い区間T4
S、T8
SでI
L電流のゼロクロスが未到達となり、その結果
図13に示すパターンのように素子電流I
Qの方向が変化する。しかしこのパターンでは、第4アームにおける区間T1,T5それぞれのアーム突き抜け現象が回避できない(T4
SのQ8、T8
SのQ7で素子電流I
Qが逆方向のままとなる)。
【0054】
一方、区間T4の期間長を適切な長さに設定した場合には、
図14に示すように長い区間T4
L,T8
LでI
L電流がゼロクロスし、その結果
図15に示すパターンのように素子電流I
Qの方向が変化する。しかしこのパターンでは、第4アームにてアーム突き抜け現象を回避できるものの、今度は第4アームとは異なるアーム、この例では第1アームにおける区間T2,T6それぞれでアーム突き抜け現象が生じてしまう(T1のQ2、T5のQ1で素子電流I
Qが逆方向となる)。
【0055】
以上に対して本実施形態では、上記
図2に対応する
図16に示すようなタイムチャートで動作する。このタイムチャートでは、1周期がTN1〜TN10の10区間に区分けされ、区間TN1〜TN4がそれぞれ上記
図2に示す比較例動作における区間T1〜T4に相当し、区間TN6〜TN9がそれぞれ上記
図2に示す比較例動作における区間T5〜T8に相当する。つまり、本実施形態の動作タイムチャートは、上記比較例動作における区間T4,T8を延長した区間TN4,TN9において上記ゼロクロス操作を行うと共に、区間T4と区間T5の間に新たに区間TN5を挿入し、区間T8と区間T1の間に新たに区間TN10を挿入したものと同等である。なお、図示の便宜上、各区間TN1〜TN10は等間隔で示されている。
【0056】
新たな区間TN5では、E1電位が正電位となり、E2電位が負電位となり、その結果V1電圧が正電圧となる。このため区間TN4でI
L電流が負値であったところ、区間TN5でI
L電流を逆方向にゼロクロスさせて正値に戻す。また、新たな区間TN10では、E1電位が負電位となり、E2電位が正電位となり、その結果V1電圧が負電圧となる。このため区間TN9でI
L電流が正値であったところ、区間TN10でI
L電流を逆方向にゼロクロスさせて負値に戻す。
【0057】
以上のような本実施形態の動作タイムチャートを実現するスイッチングパターンを、
図17に示す。この
図17のスイッチングパターンで示す各スイッチング素子のスイッチング状態と素子電流方向のパターンは、アーム突き抜け現象の発生条件パターン(上記
図8、
図9のパターン)をどこにも含んでいない。つまり本実施形態が適用するスイッチングパターンでは、DC−DCコンバータ1における第1〜4アームのいずれにおいても、またどの区間でも、リカバリー電流のアーム突き抜け現象の発生を回避できる。
【0058】
この
図17に示す本実施形態のスイッチングパターンのうち、特にリカバリー電流のアーム突き抜け現象を回避する部分のスイッチングパターンの特徴を
図18に示す。上記比較例動作ではアーム突き抜け現象が発生していた区間TNX(比較例動作の区間T5、もしくは本実施形態の区間TN6にそれぞれ対応)に対して、その3つ前の区間TN(X−3)では下アームスイッチング素子Q
Lに逆方向の素子電流I
Qが流れ、かつ上アームスイッチング素子がQ
HがOFF状態となっている。そして、区間TN(X−2)から区間TN(X−1)にかけて、下アームスイッチング素子Q
Lに流れる素子電流I
Qの方向が逆方向から順方向へと切り替わる。また、区間TNXでは、下アームスイッチング素子Q
LがOFF状態である一方、上アームスイッチング素子Q
HがON状態となっている。
【0059】
また、区間TN(X−2)における各アームスイッチング素子Q1〜Q8全体のON/OFF状態の組み合わせは区間TN(X−3)のそれと異なる所定の状態であり、当該区間TN(X−2)において下アームスイッチング素子Q
Lの素子電流I
Qの方向が逆方向から順方向に切り替わるまで上記所定の状態が維持される。また区間TN(X−1)では、トランス12に流れる電流方向が区間TN(X−2)の最後の状態から反転されている。すなわち、上記区間TN(X−2)及び区間TN(X−1)は、電流方向をコントロールする区間とも言うことができる。
【0060】
以上のような特徴のスイッチングパターンでスイッチングすることにより、区間TNX(区間TN6)におけるリカバリー電流のアーム突き抜け現象を回避できる。また、図示は省略するが、本実施形態の区間TN1の場合でも、
図18と上下逆転したパターン部分を適用することで当該区間TN1におけるリカバリー電流のアーム突き抜け現象を回避できる。
【0061】
なお、上記区間TN(X−3)のスイッチングパターンが各請求項記載の第1スイッチングパターンの一例に相当し、上記区間TN(X−2)及び上記区間TN(X−1)のスイッチングパターンが各請求項記載の第2スイッチングパターンの一例に相当し、上記区間TNXのスイッチングパターンが各請求項記載の第3スイッチングパターンの一例に相当する。また、上記区間TN(X−2)のスイッチングパターンが各請求項記載の第4スイッチングパターンの一例に相当し、上記区間TN(X−1)のスイッチングパターンが各請求項記載の第5スイッチングパターンの一例に相当する。また、上アームスイッチング素子Q
H及び下アームスイッチング素子Q
Lのうち、いずれか一方が各請求項記載の第1スイッチング素子の一例に相当し、他方が各請求項記載の第2スイッチング素子の一例に相当する。
【0062】
<6:スイッチ駆動部の機能構成>
次に、
図19を参照しつつ、スイッチ駆動部23の機能構成の一例について説明する。ここでは、上記
図18に示す区間TN(X−3)のスイッチングパターンを第1スイッチングパターンとし、区間TN(X−2)及び区間TN(X−1)のスイッチングパターンを第2スイッチングパターンとし、区間TNXのスイッチングパターンを第3スイッチングパターンとし、区間TN(X−2)のスイッチングパターンを第4スイッチングパターンとし、区間TN(X−1)のスイッチングパターンを第5スイッチングパターンとして説明する。
【0063】
図19に示すように、スイッチ駆動部23は、第1スイッチングパターン制御部24と、第2スイッチングパターン制御部25と、第3スイッチングパターン制御部26とを有する。第2スイッチングパターン制御部25は、第4スイッチングパターン制御部27と、第5スイッチングパターン制御部28とを有する。
【0064】
第1スイッチングパターン制御部24は、前述の指令生成部21の制御指令に基づいて、上記第1スイッチングパターンに対応する制御信号S1〜S8を第1スイッチング回路10及び第2スイッチング回路11の各スイッチング素子Q1〜Q8にそれぞれ出力し、それらスイッチング素子Q1〜Q8の動作を制御する。また、第1スイッチングパターン制御部24は、第1スイッチングパターンに基づくスイッチング動作が完了すると(制御信号S1〜S8を出力した後区間TN(X−3)の期間長が経過すると)、制御信号S9を出力する。
【0065】
第2スイッチングパターン制御部25は、前述の指令生成部21の制御指令に基づいて、上記第2スイッチングパターンに対応する制御信号S1〜S8を各スイッチング素子Q1〜Q8にそれぞれ出力し、それらスイッチング素子Q1〜Q8の動作を制御する。
【0066】
すなわち、第2スイッチングパターン制御部25が有する第4スイッチングパターン制御部27は、第1スイッチングパターン制御部24から出力された上記制御信号S9を入力すると、上記第4スイッチングパターンに対応する制御信号S1〜S8を各スイッチング素子Q1〜Q8にそれぞれ出力し、それらスイッチング素子Q1〜Q8の動作を制御する。また、第4スイッチングパターン制御部27は、第4スイッチングパターンに基づくスイッチング動作が完了すると(制御信号S1〜S8を出力した後区間TN(X−2)の期間長が経過すると)、制御信号S10を出力する。
【0067】
また、第2スイッチングパターン制御部25が有する第5スイッチングパターン制御部28は、第4スイッチングパターン制御部27から出力された上記制御信号S10を入力すると、上記第5スイッチングパターンに対応する制御信号S1〜S8を各スイッチング素子Q1〜Q8にそれぞれ出力し、それらスイッチング素子Q1〜Q8の動作を制御する。また、第5スイッチングパターン制御部28は、第5スイッチングパターンに基づくスイッチング動作が完了すると(制御信号S1〜S8を出力した後区間TN(X−1)の期間長が経過すると)、制御信号S11を出力する。
【0068】
第3スイッチングパターン制御部26は、第5スイッチングパターン制御部28から出力された上記制御信号S11を入力すると、上記第3スイッチングパターンに対応する制御信号S1〜S8を各スイッチング素子Q1〜Q8にそれぞれ出力し、それらスイッチング素子Q1〜Q8の動作を制御する。また、第3スイッチングパターン制御部26は、第3スイッチングパターンに基づくスイッチング動作が完了すると(制御信号S1〜S8を出力した後区間TNXの期間長が経過すると)、制御信号S12を出力する。
【0069】
第1スイッチングパターン制御部24は、第3スイッチングパターン制御部26から出力された上記制御信号S12を入力すると、上記第1スイッチングパターンに基づいたスイッチング制御を実行する。その後、上述のスイッチング制御が繰り返される。なお、上記で繰り返される各スイッチングパターンの間に別の異なるスイッチングパターンが実行されてもよい。
【0070】
なお、上述した各スイッチングパターン制御部24〜28における処理等は、これらの処理の分担の例に限定されるものではなく、例えば、更に少ない数の処理部(例えば1つの処理部)で処理されてもよく、また、更に細分化された処理部により処理されてもよい。また、スイッチ駆動部23を含む制御部20は、後述するCPU901(
図26参照)が実行するプログラムにより実装されてもよいし、その一部又は全部がASICやFPGA、その他の電気回路等の実際の装置により実装されてもよい。
【0071】
<7.各区間の期間長の設定手法>
次に、本実施形態で適用する上記スイッチングパターンでの各区間の期間長の設定手法について説明する。ここでは、上記
図17に示す区間TN3,TN8のスイッチングパターンを第1スイッチングパターンとし、区間TN4,TN9及び区間TN5,TN10のスイッチングパターンを第2スイッチングパターンとし、区間TN6,TN1のスイッチングパターンを第3スイッチングパターンとし、区間TN4,TN9のスイッチングパターンを第4スイッチングパターンとし、区間TN5,TN10のスイッチングパターンを第5スイッチングパターンとして説明する。
【0072】
上述したように、スイッチングパターンにおける各区間の期間長、特にI
L電流方向(正値か負値か)をコントロールする区間TN2,TN4,TN5(区間TN7,TN9,TN10)それぞれの期間長は、短すぎる場合でも長すぎる場合でも、DC−DCコンバータ1の全体でアーム突き抜け現象を回避することができない。また区間の組み合わせによっては、それぞれの期間長が互いにI
L電流方向のコントロールに影響を与える可能性がある。したがって、各区間の期間長を適切に設定することが重要である。
【0073】
例えば、
図20は、本実施形態のスイッチングパターンを適用した場合のI
L電流の基本的な経時変化波形の一例を表している。このI
L電流波形の各区間における振幅や期間長は、DC−DCコンバータ1の動作パラメータの設定に応じて変化する。DC−DCコンバータ1の動作パラメータとしては、入力電圧(この例のVB)、出力電圧(この例のVPN)、及び出力電力の3つの要素がある。
【0074】
DC−DCコンバータ1の動作パラメータが変化する場合でも、図示するI
L電流波形全体を略相似的に変化させることによって、スイッチング制御の1周期全体に渡りDC−DCコンバータ1の全体でアーム突き抜け現象を回避することができる。ここで、各区間TNX(ここではTNX=TN1〜TN10)の開始時におけるI
L電流の瞬時値を区間開始電流I
LS(TNX)とした場合、スイッチングパターンに基づく各区間TNXでのON/OFFスイッチング制御とともに、各区間TNXそれぞれの区間開始電流I
LS(TNX)どうしの間の正負の関係を維持できるよう各区間TNXの期間長を設定すれば、I
L電流波形全体における上記の相似性を確保できる。
【0075】
図20に示したI
L電流波形の例では、
図21に示すように区間TN1,TN2,TN5,TN8,TN9それぞれにおける区間開始電流I
LS(TN1)、I
LS(TN2)、I
LS(TN5)、I
LS(TN8)、I
LS(TN9)が負値(−)であり、これら以外の区間TN3,TN4,TN6,TN7,TN10それぞれにおける区間開始電流I
LS(TN3)、I
LS(TN4)、I
LS(TN6)、I
LS(TN7)、I
LS(TN10)が正値(+)であればよい。なお、これら区間開始電流I
LS(TNX)は、正値か負値のいずれかであって、0とはしない。このような各区間TNXにおける区間開始電流I
LS(TNX)の電流方向条件を満たしつつ、スイッチングパターンに基づくON/OFFスイッチング制御を行うことで、I
L電流波形全体における相似性が確保され、1周期全体に渡るDC−DCコンバータ1全体でのアーム突き抜け現象を回避できる。
【0076】
また、上記スイッチングパターンの各区間は、機能的に見てトランス12を介した1次側と2次側の間の電力伝達に実質的に寄与している区間は区間TN2〜4、TN7〜9であり、これら以外は単にI
L電流方向の接続調整区間ということができる。すなわち、I
L電流の正負(方向)を決定する区間TN2,TN3,TN4,TN7,TN8,TN9それぞれの期間長どうしの関係が、I
L電流波形全体における上記相似条件を満たす上で重要となる。
【0077】
また、I
L電流波形に要求される特性としては、制御周期の間でトランス12に電磁エネルギーを蓄積させず中立性を維持するために、I
L電流によってトランス12に付与する正電力と負電力を等しくすることが前提となる。つまりI
L電流波形は、
図20に示すように、I
L電流が正値となっている間にトランス12に付与する電力(図中の縦線背景の面積)と、I
L電流が負値となっている間にトランス12に付与する電力(図中の網掛け背景の面積)が等しい交流波形とする。このことから、区間TN1〜TN5の波形(図中の実線部分)と区間TN6〜TN10の波形(図中の一点鎖線部分)は、互いにI
L電流=0の軸直線に関して線対称(正負逆対称)でかつ位相が1/2周期ずれた形状となることが前提になる。
【0078】
このようなI
L電流波形の前提要素を踏まえ、上記
図21の電流方向条件が満たされるように各区間それぞれの期間長を設定する手法について、以下に説明する。ここでは区間TN1〜TN5におけるI
L電流波形を例に挙げ、その中で特に区間TN2と区間TN4のそれぞれの期間長の調整手法について説明する。他方の区間TN6〜TN10における区間TN7と区間TN9の期間長の調整については、それぞれ対応する区間TN2、区間TN4と同じ期間長にするか、もしくは上記I
L電流波形の前提要素を踏まえて、I
L電流の正負(方向)を反転するとともに1/2周期ずらした位相で同様の手法を適用すればよい。
【0079】
<8.I
L電流波形の幾何的形状に基づく4つの条件式>
まず、上記の電流方向条件を満たすためには、各区間TNXの区間開始電流I
LS(TNX)について以下の4つの条件式を同時に満たせばよい。
式1:I
LS(TN6)−I
LS(TN2)>0
式2:I
LS(TN3)−I
LS(TN2)>(I
LS(TN6)−I
LS(TN2))/2
式3:I
LS(TN4)−I
LS(TN2)>(I
LS(TN6)−I
LS(TN2))/2
式4:I
LS(TN5)−I
LS(TN2)<(I
LS(TN6)−I
LS(TN2))/2
【0080】
上記条件式1については、
I
LS(TN6)>I
LS(TN2)
と書き直すことができる。すなわち、この条件式1はI
LS(TN6)とI
LS(TN2)の大小関係を規定する。当該DC−DCコンバータ1は、トランス12を介して1次側から2次側へ電力伝達することから、I
L電流波形は山型波形と谷型波形を交互に有する交流波形となる。そして上述したように、このような1次側と2次側の間の電力伝達に実質的に寄与している区間は区間TN2〜4、TN7〜9であり、これらの区間TN2〜4と区間TN7〜9の間における上記前提要素の正負逆対称を考慮すると、I
LS(TN6)とI
LS(TN2)は互いに符号(正負)が逆で絶対値が等しい関係となる。そこで上記条件式1を満たせば、すなわちI
LS(TN2)が負値でI
LS(TN6)が正値となり、区間TN2〜4ではI
L電流を
図22に示すような山型波形(負値→正値→負値に変化させる波形)で経時変化させていると言える。
【0081】
次に、上記条件式2については、左辺が
図22中の相対差分IIに相当し、右辺が相対差分Iに相当し、これら2つの相対差分I,IIの大きさを比較している。相対差分IIは、I
LS(TN2)に対するI
LS(TN3)の相対的な差分値(正値)であり、図示するI
L電流波形におけるI
LS(TN2)とI
LS(TN3)の間の高低差に相当する。相対差分Iは、I
LS(TN2)の絶対値(正値)であり、図示するI
L電流波形においてI
L電流=0の軸直線とI
LS(TN2)の間の高低差に相当する。上記条件式1を満たしてI
LS(TN2)が負値であり、かつ上記条件式2を満たすように相対差分IIが相対差分Iより大きければ、I
LS(TN3)は必然的に正値となる。
【0082】
次に、上記条件式3については、相対差分Iと相対差分IIIの大きさを比較しており、上記条件式2と同様の理由で、当該条件式3を満たして相対差分IIIが相対差分Iより大きければ、I
LS(TN4)は必然的に正値となる。この条件式3は、VBとVPNの大小関係によってはI
LS(TN2)とI
LS(TN3)が異なる場合があるため、上記条件式2とは別途に設けている。
【0083】
次に、上記条件式4については、左辺が
図22中の相対差分IVに相当し、右辺が相対差分Iに相当し、これら2つの相対差分I,IVの大きさを比較している。相対差分IVは、I
LS(TN2)に対するI
LS(TN5)の相対的な差分値(正値)であり、図示するI
L電流波形におけるI
LS(TN2)とI
LS(TN5)の間の高低差に相当する。上記条件式1を満たしてI
LS(TN2)が負値であり、かつ上記条件式4を満たして相対差分IVが相対差分Iより小さければ、I
LS(TN5)は必然的に負値となる。
【0084】
ここで、インダクタンス素子13に付加する電圧をV、インダクタンス素子13のインダクタンス定数をL、時間長とtとすると、この時間長tの間におけるI
L電流の変化量は、Vt/Lと表せる。これにより、各区間TNXの期間長をM(TNX)とすると、上記4つの条件式1〜4は、それぞれ以下のように書き換えることができる。
式5:VB×M(TN2)+(VB−VPN)×M(TN3)−VPN×M(TN4)+(VB+VPN)×M(TN5)>0
式6:VB×M(TN2)>{(VB×M(TN2)+(VB−VPN)×M(TN3)−VPN×M(TN4)+(VB+VPN)×M(TN5)}/2
式7:VB×M(TN2)+(VB−VPN)×M(TN3)>{(VB×M(TN2)+(VB−VPN)×M(TN3)−VPN×M(TN4)+(VB+VPN)×M(TN5)}/2
式8:VB×M(TN2)+(VB−VPN)×M(TN3)−VPN×M(TN4)<{(VB×M(TN2)+(VB−VPN)×M(TN3)−VPN×M(TN4)+(VB+VPN)×M(TN5)}/2
【0085】
さらに、これら条件式5〜8をM(TN2)について整理すると、それぞれ以下のように置き換えることができる。
式9:M(TN2)>VPN×M(TN4)/VB−(VB+VPN)×M(TN5)/VB−(VB−VPN)×M(TN3)/VB
式10:M(TN2)>−VPN×M(TN4)/VB+(VB+VPN)×M(TN5)/VB+(VB−VPN)×M(TN3)/VB
式11:M(TN2)>−VPN×M(TN4)/VB+(VB+VPN)×M(TN5)/VB−(VB−VPN)×M(TN3)/VB
式12:M(TN2)<VPN×M(TN4)/VB+(VB+VPN)×M(TN5)/VB−(VB−VPN)×M(TN3)/VB
【0086】
以上のようなI
L電流波形の幾何的な解析に基づく4つの条件式9〜12を同時に満たすことで、少なくとも区間TN2〜TN5の間においては上記
図21に示した電流方向条件を満たすことができる。また、上述したように、他の区間TN1においては単にI
L電流方向の接続を調整する区間であり、区間中の電流は一定であるため、条件式1〜4を同時に満たすだけで区間TN1〜TN4の全体で上記
図21に示した電流方向条件を満たせると言える。つまり、4つの条件式9〜12を同時に満たすように区間TN1〜TN5の期間長M(TN1〜TN5)を設定することで、電流方向条件を満たしてI
L電流波形全体における相似性が確保され、DC−DCコンバータ1全体でのアーム突き抜け現象を回避できる。
【0087】
<9.区間TN2と区間TN4それぞれの期間長の調整手法の具体例>
上述したように、区間TN2と区間TN4のそれぞれの期間長M(TN2),M(TN4)は、互いにI
L電流方向のコントロールに影響を与える重要な関係にある。ここで、
図23に、所定の条件下で出力電力が異なる複数のDC−DCコンバータ1を動作させる場合の期間長M(TN2),M(TN4)の一例を示す。この
図23に示すグラフでは、横軸に区間TN4の期間長M(TN4)を対応させ、縦軸に区間TN2の期間長(TN2)を対応させている。
図23に示す例では、DC−DCコンバータ1の出力電力の増減変化に合わせて、期間長M(TN2)と期間長M(TN4)も互いに略比例する関係にある。
【0088】
そしてこの
図23のグラフにおいて、上記4つの条件式9〜12を同時に満たす不等式領域を図中のドットハッチング領域で示す。なお、2軸の各期間長M(TN2),M(TN4)以外の期間長M(TN3),M(TN5)については、それぞれ適宜の値で固定しているものとする。
図23に示す例では、出力電力が低い場合(この例では0.1kwの場合)において、条件式1〜4を同時に満たす領域から逸脱してしまう。
【0089】
これに対し本実施形態では、例えば区間TN2の期間長M(TN2)に対しその増減変化についての下限値を設定することで条件式1〜4の同時成立を確保する。例えば、上記
図23に対応する
図24に示すように、期間長M(TN2)の座標軸(縦軸)に対する条件式2と条件式4、あるいは条件式3と条件式4の各不等式境界直線の交点IPに対応する期間長M(TN2)を、その期間長M(TN2)の減少下限値(図示する例では約1.7μs)として設定する。これにより、どの出力電力であるDC−DCコンバータ1でも条件式1〜4を同時に満たす領域内に収めることができ、すなわちDC−DCコンバータ1全体でのアーム突き抜け現象を回避できる。
【0090】
なお、上記は期間長M(TN2)に下限値を設定するようにしたが、例えば期間長M(TN4)に下限値を設定する等、その他の手法を用いてもよい。すなわち、各DC−DCコンバータ1の期間長M(TN2),M(TN4)のプロットが条件式1〜4を同時に満たす領域内に収まる手法であればよい。
【0091】
<10.条件式の修正>
上述した4つの条件式9〜12は、I
L電流波形の幾何的形状に基づいて各区間開始電流I
LS(TNX)の間の関係式からそのまま導出するようにしたが、さらに必要に応じて適宜の修正を行ってもよい。例えば、各スイッチング素子Q1〜Q8にSJMOSFETを用いる場合には、その逆回復のために一定以上の素子電流I
Qを順方向に流すことが必要である場合がある。また、実際の装置では、インダクタンス素子13におけるインダクタンス定数のバラツキ等を考慮して、各区間TNXの期間長M(TNX)についても設計マージンを設けることが望ましい。これらの理由により、各区間開始電流I
LS(TNX)の電流方向をコントロールするだけでなく、最低限確保すべき各区間開始電流I
LS(TNX)の下限値を設定してもよい。この下限値の電流をI
MINとした場合、条件式9,10,12のそれぞれは、以下のように2×I
MIN×L/VBを追加項として修正できる。
式9’:M(TN2)>VPN×M(TN4)/VB−(VB+VPN)×M(TN5)/VB−(VB−VPN)×M(TN3)/VB+2×I
MIN×L/VB
式10’:M(TN2)>−VPN×M(TN4)/VB+(VB+VPN)×M(TN5)/VB+(VB−VPN)×M(TN3)/VB+2×I
MIN×L/VB
式12’:M(TN2)<VPN×M(TN4)/VB+(VB+VPN)×M(TN5)/VB−(VB−VPN)×M(TN3)/VB−2×I
MIN×L/VB
【0092】
<11:指令生成部の機能構成>
次に、
図25を参照しつつ、指令生成部21の機能構成の一例について説明する。
図25に示すように、指令生成部21は、継続時間演算部41と、スイッチタイミング制御部42を有する。スイッチタイミング制御部42は、第1スイッチタイミング制御部43と、第2スイッチタイミング制御部44と、第3スイッチタイミング制御部45を有する。
【0093】
継続時間演算部41は、上述した当該DC−DCコンバータ1の動作パラメータである入力電圧、出力電圧、及び出力電力の3要素に基づいて、スイッチングパターンの各区間TNXの期間長M(TNX)を演算する。具体的には、継続時間演算部41は、入力電圧及び出力電圧に基づいてI
L電流波形を決定し、出力電圧に基づいて(振幅、期間長を変化させることにより)I
L電流波形を相似状に変化させる。この演算は、所定の演算式によって行われてもよいし、予め用意された相関テーブルに基づいて行われてもよい。
【0094】
スイッチタイミング制御部42は、スイッチングパターンの各区間TNXの切り替えタイミングを制御することにより、上記継続時間演算部41で演算された各区間TNXの期間長M(TNX)に対して、上記4つの条件式9〜12を同時に満たすように調整する。調整の具体的な手法としては、上述した期間長M(TN2)の下限値の設定等が挙げられる。
【0095】
すなわち、スイッチタイミング制御部42は、インダクタンス素子13に流れるI
L電流の電流方向が所定の方向(正又は負)となるタイミングで、第1スイッチングパターン(区間TN3,TN8のスイッチングパターン)、第2スイッチングパターン(区間TN4,TN9及び区間TN5,TN10のスイッチングパターン)、及び第3スイッチングパターン(区間TN6,TN1のスイッチングパターン)の切り替えを行うようにスイッチ駆動部23を制御する。具体的には、スイッチタイミング制御部42は、
図20に示すように、I
L電流方向が正となるタイミングで第1スイッチングパターン(区間TN3)から第2スイッチングパターン(区間TN4,TN5)への切り替えを行うと共に、第2スイッチングパターン(区間TN4,TN5)から第3スイッチングパターン(区間TN6)への切り替えを行う。また、I
L電流方向が負となるタイミングで第1スイッチングパターン(区間TN8)から第2スイッチングパターン(区間TN9,TN10)への切り替えを行うと共に、第2スイッチングパターン(区間TN9,TN10)から第3スイッチングパターン(区間TN1)への切り替えを行う。
【0096】
また、第1スイッチタイミング制御部43は、インダクタンス素子13に流れる電流の方向が一の方向(正又は負)である間に、他のスイッチングパターン(区間TN2,TN7のスイッチングパターン)から第1スイッチングパターン(区間TN3,TN8のスイッチングパターン)への切り替え、及び、第1スイッチングパターン(区間TN3,TN8のスイッチングパターン)から第2スイッチングパターン(区間TN4,TN9及び区間TN5,TN10のスイッチングパターン)への切り替えを行うようにスイッチ駆動部23を制御する。具体的には、第1スイッチタイミング制御部43は、
図20に示すように、I
L電流方向が正である間に、他のスイッチングパターン(区間TN2)から第1スイッチングパターン(区間TN3)への切り替え、及び、第1スイッチングパターン(区間TN3)から第2スイッチングパターン(区間TN4,TN5)への切り替えを行う。また、I
L電流方向が負である間に、他のスイッチングパターン(区間TN7)から第1スイッチングパターン(区間TN8)への切り替え、及び、第1スイッチングパターン(区間TN8)から第2スイッチングパターン(区間TN9,TN10)への切り替えを行う。
【0097】
また、第2スイッチタイミング制御部44は、インダクタンス素子13に流れる電流の方向が一の方向(正又は負)である間に、第2スイッチングパターン(区間TN4,TN9及び区間TN5,TN10のスイッチングパターン)から第3スイッチングパターン(区間TN6,TN1のスイッチングパターン)への切り替え、及び、第3スイッチングパターン(区間TN6,TN1のスイッチングパターン)から他のスイッチングパターン(区間TN2,TN7のスイッチングパターン)への切り替えを行うようにスイッチ駆動部23を制御する。具体的には、第2スイッチタイミング制御部44は、
図20に示すように、I
L電流方向が正である間に、第2スイッチングパターン(区間TN4,TN5)から第3スイッチングパターン(区間TN6)への切り替え、及び、第3スイッチングパターン(区間TN6)から他のスイッチングパターン(区間TN7)への切り替えを行う。また、I
L電流方向が負である間に、第2スイッチングパターン(区間TN9,TN10)から第3スイッチングパターン(区間TN1)への切り替え、及び、第3スイッチングパターン(区間TN1)から他のスイッチングパターン(区間TN2)への切り替えを行う。
【0098】
また、第3スイッチタイミング制御部45は、インダクタンス素子13に流れる電流の方向が他の方向(負又は正)となるタイミングで、第4スイッチングパターン(区間TN4,TN9のスイッチングパターン)から第5スイッチングパターン(区間TN5,TN10のスイッチングパターン)への切り替えを行うようにスイッチ駆動部23を制御する。具体的には、第3スイッチタイミング制御部45は、
図20に示すように、I
L電流方向が負となるタイミングで、第4スイッチングパターン(区間TN4)から第5スイッチングパターン(区間TN5)への切り替えを行う。また、I
L電流方向が正となるタイミングで、第4スイッチングパターン(区間TN9)から第5スイッチングパターン(区間TN10)への切り替えを行う。
【0099】
なお、上述した継続時間演算部41、スイッチタイミング制御部42等における処理等は、これらの処理の分担の例に限定されるものではなく、例えば、更に少ない数の処理部(例えば1つの処理部)で処理されてもよく、また、更に細分化された処理部により処理されてもよい。また、指令生成部21を含む制御部20は、後述するCPU901(
図26参照)が実行するプログラムにより実装されてもよいし、その一部又は全部がASICやFPGA、その他の電気回路等の実際の装置により実装されてもよい。
【0100】
<12.制御部のハードウェア構成例>
次に、
図26を参照しつつ、上記で説明したCPU901が実行するプログラムにより実装されたスイッチ駆動部23の各スイッチングパターン制御部24〜28や、指令生成部21のスイッチタイミング制御部42等による処理を実現する制御部20のハードウェア構成例について説明する。
【0101】
図26に示すように、制御部20は、例えば、CPU901と、ROM903と、RAM905と、ASIC又はFPGA等の特定の用途向けに構築された専用集積回路907と、入力装置913と、出力装置915と、記録装置917と、ドライブ919と、接続ポート921と、通信装置923とを有する。これらの構成は、バス909や入出力インターフェース911を介し相互に信号を伝達可能に接続されている。
【0102】
プログラムは、例えば、ROM903やRAM905、記録装置917等に記録しておくことができる。
【0103】
また、プログラムは、例えば、フレキシブルディスクなどの磁気ディスク、各種のCD・MOディスク・DVD等の光ディスク、半導体メモリ等のリムーバブルな記録媒体925に、一時的又は永続的に記録しておくこともできる。このような記録媒体925は、いわゆるパッケージソフトウエアとして提供することもできる。この場合、これらの記録媒体925に記録されたプログラムは、ドライブ919により読み出されて、入出力インターフェース911やバス909等を介し上記記録装置917に記録されてもよい。
【0104】
また、プログラムは、例えば、ダウンロードサイト・他のコンピュータ・他の記録装置等(図示せず)に記録しておくこともできる。この場合、プログラムは、LANやインターネット等のネットワークNWを介し転送され、通信装置923がこのプログラムを受信する。そして、通信装置923が受信したプログラムは、入出力インターフェース911やバス909等を介し上記記録装置917に記録されてもよい。
【0105】
また、プログラムは、例えば、適宜の外部接続機器927に記録しておくこともできる。この場合、プログラムは、適宜の接続ポート921を介し転送され、入出力インターフェース911やバス909等を介し上記記録装置917に記録されてもよい。
【0106】
そして、CPU901が、上記記録装置917に記録されたプログラムに従い各種の処理を実行することにより、上記のスイッチ駆動部23の各スイッチングパターン制御部24〜28等による処理や、指令生成部21のスイッチタイミング制御部42等の処理が実現される。この際、CPU901は、例えば、上記記録装置917からプログラムを直接読み出して実行してもよいし、RAM905に一旦ロードした上で実行してもよい。更にCPU901は、例えば、プログラムを通信装置923やドライブ919、接続ポート921を介し受信する場合、受信したプログラムを記録装置917に記録せずに直接実行してもよい。
【0107】
また、CPU901は、必要に応じて、例えばマウス・キーボード・マイク(図示せず)等の入力装置913から入力する信号や情報に基づいて各種の処理を行ってもよい。
【0108】
そして、CPU901は、上記の処理を実行した結果を、例えば表示装置や音声出力装置等の出力装置915から出力してもよく、さらにCPU901は、必要に応じてこの処理結果を通信装置923や接続ポート921を介し送信してもよく、上記記録装置917や記録媒体925に記録させてもよい。
【0109】
<13:実施形態の効果>
以上説明したように、本実施形態のDC−DCコンバータ1は、制御部20のスイッチ駆動部23が、下アームスイッチング素子Q
L(又は上アームスイッチング素子Q
H)に逆方向の素子電流I
Qが流れ、且つ、上アームスイッチング素子Q
H(又は下アームスイッチング素子Q
L)がOFF状態であるように設定された区間TN(X−3)のスイッチングパターンを実行する第1スイッチングパターン制御部24と、下アームスイッチング素子Q
L(又は上アームスイッチング素子Q
H)に流れる素子電流I
Qの方向が逆方向から順方向に切り替わるように設定された区間TN(X−2)及び区間TN(X−1)のスイッチングパターンを実行する第2スイッチングパターン制御部25と、下アームスイッチング素子Q
L(又は上アームスイッチング素子Q
H)がOFF状態、且つ、上アームスイッチング素子Q
H(又は下アームスイッチング素子Q
L)がON状態であるように設定された区間TNXのスイッチングパターンを実行する第3スイッチングパターン制御部26と、を有する。
【0110】
これにより、スイッチ駆動部23は、区間TN(X−2)及び区間TN(X−1)のスイッチングパターンを適宜のタイミングで実行することで、逆方向の素子電流I
Qが流れている下アームスイッチング素子Q
L(又は上アームスイッチング素子Q
H)をOFF状態とする前に順方向の素子電流I
Qに切り替えることが可能となる。その結果、SJMOSFETの寄生ダイオード32に空乏層が形成され、リカバリー電流I
Rの発生を抑制できる。以上により、共振回路等を使用することなく、SJMOSFETを寄生ダイオード32に電流が流れるスイッチング回路にも使用することが可能となる。つまり、リカバリー電流による損失を低減できる。したがって、スーパージャンクション構造のMOSFETを使用可能な電力変換装置を実現できる。また、リカバリー電流I
Rがアーム全体を突き抜けるように流れる場合、電圧サージ発生の一因となるが、本実施形態ではリカバリー電流I
Rの発生を抑制できるので、サージを低減することが可能である。
【0111】
また、本実施形態では特に、第2スイッチングパターン制御部25が、第1スイッチングパターン制御部24により実行される区間TN(X−3)のスイッチングパターンと、第3スイッチングパターン制御部26により実行される区間TNXのスイッチングパターンとの間に区間TN(X−2)及び区間TN(X−1)のスイッチングパターンを実行する。これにより、スイッチ駆動部23は、逆方向の素子電流I
Qが流れている下アームスイッチング素子Q
L(又は上アームスイッチング素子Q
H)をOFF状態とする前に順方向の素子電流I
Qに切り替えることができるので、SJMOSFETの寄生ダイオード32に空乏層が形成され、リカバリー電流I
Rの発生を抑制できる。
【0112】
また、本実施形態では特に、第2スイッチングパターン制御部25は、複数のアームスイッチング素子Q1〜Q8全体のON/OFF状態の組み合わせが区間TN(X−3)のスイッチングパターンとは異なる所定の状態であり、下アームスイッチング素子Q
L(又は上アームスイッチング素子Q
H)に流れる素子電流I
Qの方向が逆方向から順方向に切り替わるまで上記所定の状態が維持されるように設定された区間TN(X−2)を実行する第4スイッチングパターン制御部27を有する。
【0113】
区間TN(X−2)のスイッチングパターンは、DC−DCコンバータ1においてトランス12の一次側巻線とインダクタンス素子13が入力側直流母線から切り離され、トランス12の二次側巻線と出力側直流母線とが接続されるスイッチングパターンである。このとき、V1=0なのでトランス12の2次側の電圧V2と等しい大きさの電圧がインダクタンス素子13に印加される。その結果、巻線比N=1の場合L×dIL/dt=−V2の関係に従ってI
L電流が変化し、トランス12の一次側及び二次側の各スイッチング回路10,11において各スイッチング素子Q1〜Q8の素子電流I
Qの向きが反転する。
【0114】
したがって、従来より使用される比較動作例のスイッチングパターンを使用して、下アームスイッチング素子Q
L(又は上アームスイッチング素子Q
H)に流れる素子電流I
Qの方向が逆方向から順方向に切り替わるまで次のパターンに遷移させないという簡易な手法により、新たなスイッチングパターンを設定することなく下アームスイッチング素子Q
L(又は上アームスイッチング素子Q
H)に順方向の素子電流I
Qを流すことができる。
【0115】
また、本実施形態では特に、第2スイッチングパターン制御部25は、トランス12の2次側巻線に流れる電流の方向が区間TN(X−2)のスイッチングパターンの最後の状態から反転されるように設定された区間TN(X−1)を実行する第5スイッチングパターン制御部28を有する。
【0116】
区間TN(X−2)のスイッチングパターンにより下アームスイッチング素子Q
L及び上アームスイッチング素子Q
Hの動作を制御する場合、これら上下アームスイッチング素子Q
L,Q
Hを含むアームにおけるリカバリー電流I
Rの発生を抑制することができるが、その他のアームにおいてリカバリー電流I
Rがアームの全体に流れ、損失が生じる場合がある(例えば
図15に示すスイッチング素子Q1,Q2を備えた第1アームにおける区間T2,T6)。
【0117】
区間TN(X−1)のスイッチングパターンにより上下アームスイッチング素子Q
L,Q
Hを制御することで、その他のアームにおけるリカバリー電流I
Rの発生についても抑制することが可能となるので、各スイッチング回路10,11全体における損失をより低減することができる。
【0118】
また、本実施形態では特に、スイッチ駆動部23は、一のアームに対し、区間TN(X−3)のスイッチングパターン、区間TN(X−2)と区間TN(X−1)のスイッチングパターン、及び区間TNXのスイッチングパターンに基づいて各アームスイッチング素子Q1〜Q8の動作を制御すると共に、上記一のアーム以外の少なくとも1つのアームに対し、区間TN(X−3)のスイッチングパターン、区間TN(X−2)と区間TN(X−1)のスイッチングパターン、及び区間TNXのスイッチングパターンに基づいて各アームスイッチング素子Q1〜Q8の動作を制御する。
【0119】
すなわち、下アームスイッチング素子Q
L及び上アームスイッチング素子Q
Hをそれぞれ備えた複数のアームを有する各スイッチング回路10,11においては、一のアームに対し区間TN(X−3)〜区間TNXのスイッチングパターンによる制御を行うことで、当該一のアームにおけるリカバリー電流I
Rの発生を抑制することができるが、その他のアームにおいてリカバリー電流I
Rがアームの全体に流れ、損失が生じる場合がある。
【0120】
具体的には、例えば
図15に示すスイッチングパターンでは、第4アームに対し区間T3(第1スイッチングパターンの一例)、区間T4
L(第2スイッチングパターンの一例)、区間T5(第3スイッチングパターンの一例)による制御を行うことで、区間T5におけるリカバリー電流のアーム突き抜け現象(
図3参照)の発生を防止できる。しかしながら、第1アームにおける区間T6に同様の現象が発生している。同様に、第4アームに対し区間T7(第1スイッチングパターンの一例)、区間T8
L(第2スイッチングパターンの一例)、区間T1(第3スイッチングパターンの一例)による制御を行うことで、区間T1におけるリカバリー電流のアーム突き抜け現象(
図3参照)の発生を防止できる。しかしながら、第1アームにおける区間T2に同様の現象が発生している。
【0121】
本実施形態では、スイッチ駆動部23が一のアーム以外の少なくとも1つのアームに対しても区間TN(X−3)〜区間TNXのスイッチングパターンによる制御を行うことで、その他のアームにおけるリカバリー電流I
Rの発生についても抑制することが可能となるので、各スイッチング回路10,11全体における損失をより低減することができる。
【0122】
具体的には、例えば
図17に示すスイッチングパターンでは、第1アームに対し区間TN4(第1スイッチングパターンの一例)、区間TN5,TN6(第2スイッチングパターンの一例)、区間TN7(第3スイッチングパターンの一例)による制御を行うことで、区間TN7(
図15における区間T6に相当)におけるリカバリー電流のアーム突き抜け現象の発生を防止できる。同様に、第1アームに対し区間TN9(第1スイッチングパターンの一例)、区間TN10,TN1(第2スイッチングパターンの一例)、区間TN2(第3スイッチングパターンの一例)による制御を行うことで、区間TN2(
図15における区間T2に相当)におけるリカバリー電流のアーム突き抜け現象の発生を防止できる。
【0123】
また、本実施形態では特に、DC−DCコンバータ1が、下アームスイッチング素子Q2,Q4及び上アームスイッチング素子Q1,Q3をそれぞれ備えた2つのアームを有する第1スイッチング回路10と、下アームスイッチング素子Q6,Q8及び上アームスイッチング素子Q5,Q7をそれぞれ備えた2つのアームを有する第2スイッチング回路11と、を有している。またDC−DCコンバータ1は、第1スイッチング回路10の交流側と第2スイッチング回路11の交流側との間に配置されたトランス12と、第1スイッチング回路10及び第2スイッチング回路11の少なくとも一方の交流側とトランス12との間に配置されたインダクタンス素子13と、を有する。
【0124】
本実施形態のDC−DCコンバータ1は、2つのスイッチング回路10,11がインダクタンス素子13及びトランス12を介して接続されて構成される。その上で、前述したスイッチングパターンによる動作手法が用いられる。これにより、コストを抑えつつSJMOSFETを使用したDC−DCコンバータを実現できる。
【0125】
また、本実施形態では特に、下アームスイッチング素子Q
L及び上アームスイッチング素子Q
H、すなわち下アームスイッチング素子Q2,Q4,Q6,Q8及び上アームスイッチング素子Q1,Q3,Q5,Q7は、スーパージャンクション構造のMOSFETであり、素子電流I
Qの順方向はドレイン電極からソース電極への方向、素子電流I
Qの逆方向はソース電極からドレイン電極への方向である。
【0126】
下アームスイッチング素子Q
L及び上アームスイッチング素子Q
HにSJMOSFETを使用することにより、スイッチング素子の導通抵抗を大幅に低減でき、電力変換効率を向上することができる。また、GaNやSiCのようなワイドバンドギャップ半導体と比較して価格が低いため、そのまま置き換えた場合にはコストメリットの点でも有利である。
【0127】
また、本実施形態では特に、上アームスイッチング素子Q
H及び下アームスイッチング素子Q
Lをそれぞれ備えた一方の2つのアームを有する第1スイッチング回路10と、上アームスイッチング素子Q
H及び下アームスイッチング素子Q
Lをそれぞれ備えた他方の2つのアームを有する第2スイッチング回路11と、を有し、DC−DCコンバータ1は、第1スイッチング回路10の交流側と第2スイッチング回路11の交流側との間に配置されたトランス12と、第1スイッチング回路10及び第2スイッチング回路11の少なくとも一方の交流側とトランス12との間に配置されたインダクタンス素子13と、制御指令を生成してスイッチ駆動部23に出力する指令生成部21とを有し、指令生成部21は、インダクタンス素子13に流れるI
L電流の電流方向が所定の方向(正又は負)となるタイミングで、第1スイッチングパターン、第2スイッチングパターン、及び第3スイッチングパターンの切り替えを行うようにスイッチ駆動部23を制御するスイッチタイミング制御部42を有する。
【0128】
これにより、第1スイッチングパターン、第2スイッチングパターン及び第3スイッチングパターンの切り替えが、インダクタンス素子13に流れるI
L電流の方向が所定の方向となるタイミングで行われるようにすることで、第2スイッチングパターンによるI
L電流方向のコントロール機能を確保することが可能となる。その結果、第2スイッチングパターンの区間において上アームスイッチング素子Q
H又は下アームスイッチング素子Q
Lに流れるI
Q電流の方向を逆方向から順方向に切り替える確実性を向上できるので、リカバリー電流による損失を低減することができる。
【0129】
また、本実施形態では特に、スイッチタイミング制御部42は、インダクタンス素子13に流れるI
L電流の電流方向が一の方向(正又は負)となっているタイミングで、他のスイッチングパターンから第1スイッチングパターンへの切り替え、及び、第1スイッチングパターンから第2スイッチングパターンへの切り替えを行うようにスイッチ駆動部23を制御する第1スイッチタイミング制御部43を有する。
【0130】
これにより、第1スイッチングパターンの区間をインダクタンス素子13のI
L電流が正(又は負)の向きの区間、すなわち一次側交流電圧と二次側交流電圧が共に正(又は共に負)の区間とすることができる。したがって、電力変換効率を向上できる。
【0131】
また、本実施形態では特に、スイッチタイミング制御部42は、インダクタンス素子13に流れるI
L電流の電流方向が一の方向(正又は負)となっているタイミングで、第2スイッチングパターンから第3スイッチングパターンへの切り替え、及び、第3スイッチングパターンから他のスイッチングパターンへの切り替えを行うようにスイッチ駆動部23を制御する第2スイッチタイミング制御部44を有する。
【0132】
これにより、第3スイッチングパターンの区間を、第1スイッチングパターンの区間と同じように、インダクタンス素子13のI
L電流が正(又は負)の向きの区間とすることができる。つまり、第2スイッチングパターンにおいて、I
L電流の電流方向を一の方向から他の方向に反転させた後、再び他の方向から一の方向に反転させることとなり、ゼロクロス操作を2回行うこととなる。その結果、DC−DCコンバータ1における複数のアームのいずれにおいても、またどの区間でも、リカバリー電流のアーム突き抜け現象の発生を回避できる。
【0133】
また、本実施形態では特に、第2スイッチングパターンは、複数のスイッチング素子Q1〜Q8のうちの少なくとも一つのオン、オフ状態が第1スイッチングパターンとは異なる所定の状態であり、上アームスイッチング素子Q
H又は下アームスイッチング素子Q
Lに流れるI
Q電流の電流方向が逆方向から順方向に切り替わるまで所定の状態が維持されるように設定された第4スイッチングパターンと、インダクタンス素子13に流れるI
L電流の電流方向が第4スイッチングパターンの最後の状態から反転されるように設定された第5スイッチングパターンと、を含み、スイッチタイミング制御部42は、インダクタンス素子13に流れるI
L電流の電流方向が他の方向(負又は正)となっているタイミングで、第4スイッチングパターンから第5スイッチングパターンへの切り替えを行うようにスイッチ駆動部23を制御する第3スイッチタイミング制御部45を有する。
【0134】
これにより、第4スイッチングパターンの区間においてインダクタンス素子13に流れるI
L電流の電流方向を一の方向から他の方向に反転させ、第5スイッチングパターンの区間においてインダクタンス素子13に流れるI
L電流の電流方向を他の方向から一の方向に反転させることができる。その結果、第4スイッチングパターン及び第5スイッチングパターンによるI
Q電流方向のコントロール機能を確保することが可能となるので、リカバリー電流による損失を低減することができる。
【0135】
<14:変形例>
なお、上記実施形態では、リカバリー電流の大きい寄生ダイオード32を潜在的に備えるSJMOSFET31を各スイッチング素子Q1〜Q8に用いた場合を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、いわゆるフライホイールダイオードを外付けで並列接続したSJMOSFETやIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:図示省略)を各アームスイッチング素子Q1〜Q8に用いた場合や、スーパージャンクション構造でないFETに対しても、上記実施形態のスイッチングパターンでの駆動制御は有効であり、同様の効果を得る。この場合には、各種FETやIGBTと外付けダイオードの両方が本実施形態におけるスイッチング素子に相当する。
【0136】
また以上では、本実施形態のスイッチングパターンを適用する電力変換装置の一例として直流の電力変換を行うDC−DCコンバータを挙げたが、これに限定されるものではなく、交流から直流、直流から交流(インバータ)、あるいは交流の周波数変換等を行う装置に適用してもよい。
【0137】
また、以上既に述べた以外にも、上記実施形態や各変形例による手法を適宜組み合わせて利用しても良い。その他、一々例示はしないが、上記実施形態や各変形例は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。