(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記絞り成形工程の後、前記断面の各増肉予定領域の実長が短くなるようにしつつ、最終的に、前記増肉予定領域と前記平板部とを全体として平坦にするように、前記円筒絞り成形体をプレスする増肉工程を更に備える、請求項2に記載の板状成形体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
本実施形態の、複数の増肉部を有する板状成形体の製造方法は、
平板部と、前記平板部から突出するように膨らみ、円形の頂部を有する円筒絞り部とを備えた円筒絞り成形体を絞り成形により得る絞り成形工程であって、前記頂部に相当する領域に、穴状に湾曲した穴状湾曲部を含む凹湾曲部を形成し、前記円筒絞り部に相当する領域において、前記凹湾曲部の少なくとも一部を含みつつ特定の中心に対して周方向に複数の増肉予定領域を設定し、前記平板部に垂直で前記特定の中心を含む断面において、前記増肉予定領域の実長が前記板状成形体における前記増肉部の実長より長くなるように絞り成形する絞り成形工程と、
前記断面の各増肉予定領域の実長が短くなるようにしつつ、最終的に、前記増肉予定領域と前記平板部とを全体として平坦にするように、前記円筒絞り成形体をプレスする増肉工程と、
を含む。
【0021】
ここで、「実長」とは、対象物の所定の断面における、当該対象物の表面に沿う長さをいうものとする。
【0022】
増肉工程は、前記断面の各増肉予定領域の実長が短くなるように、前記円筒絞り成形体をプレスする複数の工程を含んでもよく、この場合、これらの複数の工程のうち、少なくとも1つの工程において、増肉予定領域と平板部とを全体として平坦な状態にすることができる。
【0023】
板状部材の材料は、特に限定されないが、たとえば、引張強さが390MPa以上の高張力鋼板とすることができ、たとえば、引張強さが440MPa以上の高張力鋼板であってもよい。
【0024】
この製造方法により製造する板状成形体は、たとえば、駆動系部品やサスペンション取付け部品とすることができる。この場合、増肉部は、ボルトを締結する部分とすることができる。
【0025】
以下では、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
〈第1の実施形態〉
この実施形態では、中心の周りに3つの増肉部が形成された板状成形体、たとえば、
図1に示す板状部材1であって、締結部2およびその周辺を増肉したものを製造する。
【0026】
図2は、絞り成形工程で形成される円筒絞り成形体の斜視図である。
図2に示すように、この工程で得られる円筒絞り成形体5は、平板部6と、平板部6に対して突出するように膨らんだ円筒絞り部7とを備えている。
【0027】
円筒絞り部7は、この実施形態では、ドーム状であり、平板部6に垂直に見て、ほぼ円形である。円筒絞り部7は、平板部6から立ち上がった環状の側部7aと、円形の頂部7bとを有している。頂部7bには、穴状に湾曲した穴状湾曲部8と、穴状湾曲部8の周りに形成され、溝状に湾曲した環溝状湾曲部9とを含む凹湾曲部10が形成されている。
【0028】
環溝状湾曲部9は、平板部6に垂直に見て、ほぼ正三角形である。この実施形態では、3つの増肉部を形成することに対応して、三角形の環溝状湾曲部9を形成している。N個の増肉部を形成する場合は、N角形の環溝状湾曲部を形成する。穴状湾曲部8のまわりには、この実施形態では、一重(1本)の環溝状湾曲部9が形成されているが、二重以上の環溝状湾曲部を形成してもよい。
【0029】
図3A〜
図3Dは、絞り成形工程を説明するための断面図である。この工程では、下ダイ(ブランクホルダー)11、およびパンチ12と、これらの部材11、12と対をなし、これらの上方に配置された上ダイ13、およびパッド14とを用いて、プレス成形(絞り成形)により、中間成形体である円筒絞り成形体5を得る。
【0031】
下ダイ11には、鉛直方向に貫通した円柱状の穴が形成されている。パンチ12は、この穴の中に配置されている。下ダイ11は、鉛直方向に移動することにより、パンチ12との相対的な位置関係が変化する。下ダイ11、およびパンチ12の上面は、それぞれ、押圧面11a、およびプレス面12aをなす。
【0032】
上ダイ13には、鉛直方向に延び、下ダイ11の穴より小さな幅を有する柱状の穴が形成されている。パッド14は、この穴の中に配置されているとともに、プレスバネやガスシリンダーを介して上ダイ13に装着されており、この穴の軸方向に沿って移動可能である。
【0033】
上ダイ13の下面のうち、外周部は、押圧面13aをなし、下ダイ11の押圧面11aに対向しており、内周部は、プレス面13bをなし、パンチ12のプレス面12aの外周部に対向している。パッド14の下面は、プレス面14aをなし、パンチ12のプレス面12aの中央部に対向している。パッド14には、上ダイ13からプレスバネやガスシリンダーを介して荷重がかけられるようになっている。このような荷重がかけられていないとき、パッド14の下端は、押圧面13aの高さよりわずかに低い位置にある。
【0034】
下ダイ11の押圧面11a、および上ダイ13の押圧面13aは、平坦である。パッド14のプレス面14aと、パンチ12のプレス面12aのプレス面14aに対向する領域とは、円筒絞り成形体5の凹湾曲部10(
図2参照)に対応する形状を有している。プレス面13bと、プレス面12aにおいてプレス面13bに対向する領域とは、円筒絞り部7において凹湾曲部10以外の部分に対応する形状を有している。
【0035】
図3Aを参照して、まず、下ダイ11の押圧面11aの高さと、パンチ12のプレス面12aの上端の高さとがほぼ同じになるようにして、たとえば、押圧面11a、およびプレス面12aの上に、被加工体である平板状の板状部材(以下、「ワーク」ともいう。)Wを載置する。
【0036】
次に、下ダイ11と上ダイ13とにより、単動プレス機の場合はクッション力で、複動プレス機の場合はアウター荷重を作用させてワークWを挟み込む(図面は単動プレスの場合)。このとき、下ダイ11、および上ダイ13は、ワークWに対してワークWが移動可能な程度の面内方向の力(「ブランクホールド力」や「しわ押さえ力」という)を、ワークWに加える。
【0037】
続いて、上ダイ13を下方に移動させる。これにより、上ダイ13に装着されたパッド14も下方に移動して、まず上ダイ13の下端が、ワークWに接触する。そして、上ダイ13をさらに下方に移動させて、パッド14から与えられる圧力によってパンチ12とパッド14とで、ワークWをプレスする。これにより、ワークWの中央部に、凹湾曲部10が形成される(
図3B参照)。このとき、ワークWにおける凹湾曲部10の高さは、ワークWの残部の高さとほぼ同じになり、また、上ダイ13のプレス面13bと、パンチ12のプレス面12aにおいて上ダイ13のプレス面13bに対向する領域とは、実質的にワークWから離間している。
【0038】
その後、ワークWを、パンチ12とパッド14とで挟んだまま、上ダイ13を下方に継続的に移動させて、絞り成形により、ワークWに円筒面状の部分を成形する(
図3C参照)。これに伴い、下ダイ11と上ダイ13との間のワークWは、内側、すなわち、プレス面12aの外周部と、プレス面13bとの間の空間へと絞りこまれる。パンチ12とパッド14とでワークWを挟んだまま絞り成形を継続するため、パンチ12とパッド14との間からの外周方向への材料流出は、ほとんど生じない。その結果、パンチ12とパッド14と間の空間内のワークWの肉厚が減少することは、ほとんどない。また、下ダイ11と上ダイ13とでワークWが適切に押さえられていることにより、ワークWが内方に引き込まれても、ワークWにしわが生じ難い。
【0039】
さらに、上ダイ13を下方に継続的に移動させて、そのプレス面13bと、パンチ12のプレス面12aの外周部とにより、ワークWをプレスする(
図3D参照)。これにより、ワークWにおいて、下ダイ11の押圧面11aと上ダイ13の押圧面13aとの間の部分は、平板部6となり、パンチ12のプレス面12aと、上ダイ13のプレス面13b、およびパッド14のプレス面14aとの間の部分は、円筒絞り部7となる。このようにして、円筒絞り成形体5(
図2参照)が得られる。
【0040】
図3Dに示す断面で、ワークW(円筒絞り成形体5)の円筒絞り部7において、およそ右半分が、最終的に最も増肉されることが予定された増肉予定領域Tである。増肉予定領域Tは、凹湾曲部10の少なくとも一部を含む領域に設定される。
【0041】
上述のように、この実施形態では、3つの増肉部を形成するので、3つの増肉予定領域Tを設定する。3つの増肉予定領域Tは、穴状湾曲部8(
図2参照)の中心(特定の中心)に対して周方向にほぼ120°間隔に現れるように設定されている。複数の増肉予定領域Tの中心をなす穴状湾曲部8の中心は、頂部7bの中心(円筒絞り部7の中心軸上)にあってもよく、頂部7bの中心からずれた位置にあってもよい。
【0043】
図3C、および
図3Dに示す工程では、中心断面において、各増肉予定領域Tの実長が、完成品である板状成形体における増肉部の実長より長くされる。
【0044】
図3C、および
図3Dに示す工程では、パンチ12とパッド14とでワークWをプレスし、パンチ12とパッド14とでワークWを挟んだまま、上ダイ13を下方に継続的に移動させて、絞り成形により、ワークWに円筒面状の部分を成形する。このため、絞り成形を行う際に、凹湾曲部10はパンチ12とパッド14とでプレスされた状態が維持されるため、成形過程で凹湾曲部10におけるワークWの厚さが減少してしまうことがない。従って、次の増肉工程を行う前に、ワークWの厚さを最大限に確保しておくことができ、増肉を確実に行うことができる。
【0045】
次に、円筒絞り部7を中心軸(円筒軸)側へ寄せるように変形させるとともに、ワークWの凹湾曲部10周辺の部分を増肉する。
図4A〜
図4Dは、この工程を説明するための断面図である。
【0046】
この工程では、下ダイ(ブランクホルダー)16、およびパンチ17と、これらの部材16、17と対をなし、これらの上方に配置された第1および第2上ダイ18、19とを用いる。
【0047】
下ダイ16には、鉛直方向に貫通した柱状の穴が形成されている。パンチ17は、この穴の中を案内されて、この穴の軸方向に沿って移動可能である。下ダイ16、およびパンチ17の上面は、それぞれ、押圧面16a、およびプレス面17aをなす。
【0048】
第1上ダイ18には、鉛直方向に貫通し、下ダイ16の穴と実質的に同じ横断面形状および大きさを有する柱状の穴が形成されている。第2上ダイ19は、この穴の中を案内されて、この穴の軸方向に沿って移動可能である。第1上ダイ18の下面は、押圧面18aをなし、下ダイ16の押圧面16aに対向している。第2上ダイ19の下面は、プレス面19aをなし、パンチ17のプレス面17aに対向している。
【0049】
押圧面16a、18aは、平坦である。プレス面17a、19aの中央部は、円筒絞り部7より径が小さいドーム状の形状を有している。プレス面17a、19aの外周部は、平坦面となっている。中心断面において、プレス面17a、19aの実長は、円筒絞り成形体5であるワークWにおいて、プレス面17a、19aに対応する部分の実長より短い。プレス面17a、19aにおいて、円筒絞り成形体5の凹湾曲部10に対向する部分の実長は、凹湾曲部10の実長に比して、特に短くなっている。
【0050】
図4Aを参照して、まず、下ダイ16の押圧面16aの高さと、パンチ17のプレス面17aの縁部の高さとがほぼ同じになるようにして、押圧面16a、およびプレス面17aの所定の位置に、円筒絞り成形体5であるワークWを載置する。そして、下ダイ16と、上ダイ18とにより、ワークWを挟み込みつつしわ押さえ力を作用させる。
【0051】
続いて、第2上ダイ19を下降させ、ワークWに押しつける。プレス面17a、19aのドーム状の部分の径が円筒絞り部7の径より小さいことにより、ワークWは、中心軸側へ寄せられるように絞り成形される(
図4B参照)。
【0052】
さらに、第2上ダイ19を下降させる。これにより、ワークWは、中心軸側に絞り込まれていくとともに、第2上ダイ19が、ワークWの凹湾曲部10に押しつけられる(
図4C参照)。そして、パンチ17と第2上ダイ19とにより、ワークWをプレスする(
図4D参照)。中心断面においてプレス面17a、19aの実長がワークWの対応部分の実長より短いことにより、ワークW、特に、凹湾曲部10の周辺部分の実長は短くなり、増肉される。
【0053】
この工程により、三角形をなす環溝状湾曲部9(
図2参照)の3つの頂点付近が、最も厚く増肉される。穴状湾曲部8の中心に対して、ワークWが最も厚く増肉される部分の方向は、増肉予定領域Tの方向に一致しており、当該最も厚く増肉される部分は、増肉予定領域Tに含まれる。
【0054】
図4B〜
図4Dに示す工程では、下ダイ16と第1上ダイ18との間のワークWがプレス面17aとプレス面19aとの間の空間に適切に引き込まれていくような力で、下ダイ16、および第1上ダイ18により、ワークWを押圧する。
【0055】
次に、プレスにより、ワークWにおいて、増肉予定領域Tの主たる部分を増肉する。
図5A〜
図5Dは、この工程を説明するための断面図である。
【0056】
この工程では、下ダイ21と、下ダイ21の上方に配置された第1および第2上ダイ23、24とを用いる。
【0057】
第1上ダイ23には、鉛直方向に貫通した柱状の穴が形成されている。第2上ダイ24は、この穴の中を案内されて、この穴の軸方向に沿って移動可能である。
【0058】
下ダイ21の上部には、円錐台状の突出部21Pが形成されている。下ダイ21の上面は、プレス面21aをなす。プレス面21aにおいて、突出部21Pの周囲には、突出部21Pから離れる方向に下り傾斜の領域があり、この下り傾斜の領域の周囲には、ほぼ同一平面上にのる平坦な領域がある。
【0059】
第2上ダイ24の下面は、プレス面24aをなし、プレス面21aにおいて、突出部21Pの表面、および下り傾斜の領域に対向している。第1上ダイ23の下面は、平坦な押さえ面23aをなしており、プレス面21aにおいて平坦な領域に対向している。
【0060】
プレス面21aにおいて下り傾斜の領域の一部、およびプレス面24aの対応する領域は、ワークWの増肉予定領域Tに対応している。
図5Aに示すように、ワークWの増肉予定領域Tは、上に凸に大きく湾曲しているのに対して、プレス面21a、24aの対応する領域は、ほぼ平坦である。したがって、中心断面において、増肉予定領域Tの実長は、プレス面21a、24aの対応する領域の実長より長くなっている。
【0061】
増肉予定領域Tを増肉する際は、まず、ワークWにおいて、外周部の平坦な部分を、下ダイ21と第1上ダイ23とで挟み込む。このとき、プレスにより、ワークWに面内方向の力が加わっても、その方向にワークWが移動しないように、下ダイ21と第1上ダイ23とで十分強くワークWを押圧する。そして、第2上ダイ24を下降させて、ワークWに押しつけ、下ダイ21と第2上ダイ24とで、ワークWをプレスする。
【0062】
中心断面において、プレス面21a、24aの増肉予定領域Tに対応する領域の実長は、増肉予定領域Tの実長より短いので、このプレスにより、増肉予定領域Tの実長が短くなるように、ワークWは変形する(
図5B〜
図5D参照)。これにより、増肉予定領域Tは、増肉し、かつ平坦になる。増肉予定領域Tは、凹湾曲部10をプレスして増肉した部分(
図4A〜
図4D参照)を含むので、増肉予定領域Tは、ワークWの初期の厚さに比して、著しく増肉する。
【0063】
一方、ワークWにおいて、増肉予定領域T以外の領域では、増肉予定領域Tと同程度に大きな増肉は生じない。
【0064】
その後、さらに、ワークWの形状、増肉予定領域Tの厚さ等を調整する工程を実施する。
図6A〜
図6Dは、この工程を説明するための断面図である。この工程では,前工程(
図5A〜
図5D)の成形体を搬送機などにより反転させた後に成形を実施する.
【0065】
この工程では、下ダイ26と、下ダイ26の上方に配置された第1および第2上ダイ28、29とを用いる。
【0066】
第1上ダイ28には、鉛直方向に貫通した柱状の穴が形成されている。第2上ダイ29は、この穴の中を案内されて、この穴の軸方向に沿って移動可能である。下ダイ26の上面は、プレス面26aをなす。第1および第2上ダイ28、29の下面は、それぞれ、プレス面28a、29aをなす。
【0067】
プレス面26aの形状は、
図5Aに示す押さえ面23a、およびプレス面24aの位置をそろえて上下反転させたものと、ほぼ同じであるが、断面の実長を
図5Aのものよりもやや短く設定している。プレス面28a、29aの形状は、
図5Aに示すプレス面21aを上下反転させたものと、ほぼ同じである。ただし、下ダイ21の突出部21P(
図5A参照)が、上述のように、円錐台形状であるのに対して、第1上ダイ28において突出部21Pに対応する突出部28Pは、円柱状である。また、プレス面26a、28a、29aにおいて、増肉予定領域Tに対応する部分を含む一部の領域は、以下に説明するように、プレス面24a、21aの形状とは異なる。
【0068】
プレス面29a、およびプレス面26aにおいてプレス面29aに対向する領域は、ワークWの増肉予定領域Tに対応している。
図5Aに示すプレス面21aにおいて増肉予定領域Tに対応する領域は、その外周の平坦部に対して傾斜しているのに対して、
図6Aに示すプレス面26aにおいて増肉予定領域Tに対応する領域は、その外周の平坦部に対して、ほとんど傾斜しておらず、ほぼ同一平面上にのる。この差異に起因して、
図6A〜
図6Dに示すワークWの増肉予定領域Tは、プレス面26a、29aの対応する領域に対して傾斜して延びており、中心断面において、この領域では、ワークWの実長は、プレス面26a、29aの実長に比して長い。
【0069】
ワークWの形状、および増肉予定領域Tの厚さを調整する際は、まず、ワークWを、
図5Dに示す状態に対して上下を反転させて、下ダイ26の形状にワークWの形状が沿うようにして、ワークWを下ダイ26の上に載置する。そして、下ダイ26と第1上ダイ28とで、ワークWをプレスする。ワークWにおいて、突出部21P(
図5A参照)により円錐台状に成形された部分は、突出部28Pにより円筒状に再成形される(
図6B、および
図6C参照)。
【0070】
続いて、下ダイ26と第1上ダイ28とによるワークWのプレスを維持したまま、下ダイ26と第2上ダイ29とで、ワークWの増肉予定領域Tをプレスする。中心断面において、プレス面26aの増肉予定領域Tに対応する領域の実長、およびプレス面29aの実長は、増肉予定領域Tの実長より短いので、このプレスにより、増肉予定領域Tの実長が短くなる。その結果、増肉予定領域Tは、増肉して増肉部Aとなるとともに、増肉部AとワークWの外周部の平坦部(円筒絞り成形体5の平板部6)とが、全体として、実質的に平坦な状態となる(
図6D参照)。
【0071】
図3A〜
図6Dに示す断面に示されていない他の2つの増肉予定領域Tも、同様に増肉されて増肉部Aとなる。
【0072】
これにより、大略的に平板状である部分において、縁部から離間した領域に複数個の増肉部Aを有する板状成形体40が得られる。
【0073】
以上の実施形態では、中心断面における増肉予定領域Tの実長を短くする主たる工程は、
図5A〜
図5Dに示すものであるが、
図4A〜
図4Dに示す工程、および
図6A〜
図6Dに示す工程においても、当該実長が短くされて、増肉予定領域Tは増肉されている。また、増肉予定領域Tと平板部6(ワークWの外周部の平坦部)とが、最終的に、全体としてほぼ平坦な状態にする工程は、
図6A〜
図6Dに示すものであるが、
図4A〜
図4Dに示す工程、および
図5A〜
図5Dに示す工程においても、増肉予定領域Tと平板部6とが全体として平坦な状態に近づくようにされている。
【0074】
〈第2の実施形態〉
この実施形態では、中心の周りに、3つの増肉部が形成された板状部材を製造する。
【0075】
第1の実施形態で用いた円筒絞り成形体5は、穴状湾曲部8、および環溝状湾曲部9が形成されたものであったが、穴状湾曲部8、および環溝状湾曲部9の一方のみが形成された円筒絞り成形体を用いてもよい。
【0076】
図7は、円筒絞り成形体の斜視図である。
図7において、
図2に示す構成要素に対応する部分には、
図2と同じ参照符号を付して、説明を省略する。この円筒絞り成形体5Aの頂部7bには、凹湾曲部10Aとして、穴状湾曲部8のみが形成されており、環溝状湾曲部9(
図2参照)は形成されていない。
【0077】
以下、このような円筒絞り成形体5Aを形成し、これを用いて、板状成形体を製造する方法について説明する。
【0078】
図8A〜
図8Dは、絞り成形工程を説明するための断面図である。この工程では、下ダイ(ブランクホルダー)31、およびパンチ32と、これらの部材31、32と対をなし、これらの上方に配置された上ダイ33、およびパッド34とを用いて、プレス成形により、中間成形体である円筒絞り成形体5Aを得る。
【0079】
下ダイ31、パンチ32、上ダイ33、およびパッド34は、それぞれ、
図3A〜
図3Dに示す下ダイ11、パンチ12、上ダイ13、およびパッド14とほぼ同じ構成を有する。ただし、パッド34のプレス面34aと、パンチ32のプレス面32aにおいてプレス面34aに対向する領域とは、円筒絞り成形体5Aの凹湾曲部10A(
図7参照)に対応する形状を有している。
【0080】
図8Aを参照して、まず、下ダイ31の押圧面31aに対して、プレス面32aの上端が低くなるようにして、押圧面31aの上に、ワークWを載置する。そして、下ダイ31と、上ダイ33とにより、ワークWを挟み込む。
【0081】
続いて、上ダイ33を下方に移動させ、上ダイ33に装着されたパッド34から与えられる圧力によってパンチ32とパッド
34とで、ワークWをプレスする。これにより、ワークWの中央部に、凹湾曲部10Aが形成される(
図8B参照)。このとき、ワークWにおける凹湾曲部10Aの高さは、ワークWの残部の高さとほぼ同じになり、また、上ダイ33のプレス面33bと、パンチ32のプレス面32aにおいて上ダイ33のプレス面33bに対向する領域とは、実質的にワークWから離間している。
【0082】
その後、ワークWを、パンチ32とパッド34とで挟んだまま、上ダイ33を下方に継続的に移動させて、絞り成形により、ワークWに円筒面状の部分を成形する(
図8C参照)。これに伴い、下ダイ31と上ダイ33との間のワークWは、内側、すなわち、プレス面32aの外周部と、プレス面33bとの間の空間へと絞りこまれる。
【0083】
さらに、上ダイ33を下方に継続的に移動させて、そのプレス面33bと、パンチ32のプレス面32aの外周部とにより、ワークWをプレスする(
図8D参照)。これにより、ワークWにおいて、下ダイ31の押圧面31aと上ダイ33の押圧面33aとの間の部分は、平板部6となり、パンチ32のプレス面32aと、上ダイ33のプレス面33b、およびパッド34のプレス面34aとの間の部分は、円筒絞り部7となる。このようにして、円筒絞り成形体5A(
図7参照)が得られる。
【0084】
図8Dに示す断面で、ワークW(円筒絞り成形体5
A)の円筒絞り部7において、およそ右半分が、最終的に最も増肉されることが予定された増肉予定領域Tである。上述のように、この実施形態では、3つの増肉部を形成するので、3つの増肉予定領域Tを設定する。3つの増肉予定領域Tは、穴状湾曲部8(
図7参照)の中心(特定の中心)に対して周方向にほぼ120°間隔で現れるように設定されている。
【0085】
図8C、および
図8Dに示す工程では、中心断面において、各増肉予定領域Tの実長が、完成品である板状成形体における増肉部の実長より長くされる。
【0086】
次に、円筒絞り部7を中心軸側へ寄せるように変形するとともに、ワークWの凹湾曲部10A周辺の部分を増肉する。
図9A〜
図9Dは、この工程を説明するための断面図である。
【0087】
この工程では、下ダイ36、およびパンチ37と、これらの部材36、37と対をなし、これらの上方に配置された第1および第2上ダイ38、39とを用いる。下ダイ(ブランクホルダー)36、パンチ37、第1上ダイ38、および第2上ダイ39は、それぞれ、
図4A〜
図4Dに示す下ダイ16、パンチ17、第1上ダイ18、および第2上ダイ19とほぼ同じ構成を有する。
【0088】
パンチ37のプレス面37aの中央部、および第2上ダイ39のプレス面39aの中央部は、円筒絞り部7より径が小さいドーム状の形状を有している。中心断面において、プレス面37a、39aの実長は、円筒絞り成形体5AであるワークWにおいて、プレス面37a、39aに対応する部分の実長より短い。プレス面37a、39aにおいて、円筒絞り成形体5Aの凹湾曲部10Aに対応する部分の実長は、凹湾曲部10Aの実長に比して、特に短くなっている。
【0089】
図9Aを参照して、まず、下ダイ36の押圧面36aの高さと、パンチ37のプレス面37aの縁部の高さとがほぼ同じになるようにして、押圧面36a、およびプレス面37aの所定の位置に、円筒絞り成形体5AであるワークWを載置する。そして、下ダイ36と、第1上ダイ38とにより、ワークWを挟み込む。
【0090】
続いて、第2上ダイ39を下降させて、ワークWに押しつける。プレス面37a、39aのドーム状の部分の径が円筒絞り部7の径より小さいことにより、ワークWは、中心軸側へ寄せられるように変形する(
図9B参照)。
【0091】
さらに、第2上ダイ39を下降させ、第2上ダイ39を、ワークWの凹湾曲部10Aに押しつけ(
図9C参照)、パンチ37と第2上ダイ39とにより、ワークWをプレスする(
図9D参照)。中心断面においてプレス面37a、39aの実長がワークWの対応部分の実長より短いことにより、ワークW、特に、凹湾曲部10Aの周辺部分の実長は短くなり、増肉される。
【0092】
ただし、凹湾曲部10Aが、環溝状湾曲部9(
図2参照)を含まないことにより、以上の工程による増肉予定領域Tの増肉率は、
図4B〜
図4Dに示す工程での増肉予定領域Tの増肉率に比して小さくなる。
【0093】
その後、第1の実施形態で
図5A〜
図5D、および
図6A〜
図6Dに示す工程と同様の工程を実施することにより、大略的に平板状である部分において、縁部から離間した領域に複数の増肉部を有する板状成形体が得られる。
【0094】
ただし、環溝状湾曲部9をプレスすることによる増肉が得られないことにより、第2の実施形態の製造方法により得られる増肉部の増肉率は、第1の実施形態の製造方法により得られる増肉部の増肉率より小さくなる。しかし、第2の実施形態においても、増肉部は、円筒絞り成形体の板厚である初期板厚に対して20%以上の増肉率を有するとともに、中心断面において初期板厚の5倍以上の長さを有する。
【0095】
以上の説明において、下の金型と上の金型とでプレスを行う場合、下の金型を上昇させる代わりに、上の金型を下降させてもよく、上の金型を下降させる代わりに下の金型を上昇させてもよい。
【0096】
以上説明したように、増肉工程では、成形中の面外変形により生じるしわを抑制しつつ増肉予定領域Tの実長が短くされる。これにより、増肉予定領域Tは増肉され増肉部となる。また、増肉工程では、増肉予定領域Tと、平板部(円筒絞り成形体の外周部)とが全体として平坦な状態にされる。このため、この方法によれば、大略的に平板状である部分において、縁部から離間した領域に増肉部を有する板状成形体を製造することができる。
【0097】
また、増肉予定領域Tは、特定の中心に対して周方向に沿って複数個設定されている。このため、この方法によれば、中心に対して周方向に沿って複数の増肉部が現れる板状成形体を製造することができる。
【0098】
さらに、凹湾曲部10は、凹湾曲のない断面に比べ実長が長い。増肉予定領域Tは、凹湾曲部10の少なくとも一部を含む領域に形成されるので、増肉予定領域Tにおいて凹湾曲部10は、増肉工程でのプレスにより、特に厚く増肉される。
【0099】
図10は、円筒絞り成形体5,5Aの板厚を示す特性図である。上述した実施形態により円筒絞り成形体5,5Aを製造すると、増肉部Aでは加工前の板厚(基準板厚)よりも増肉される。一方、加工時にパッド14によって
押さえられた領域では、パンチ12とパッド14との間からの外周方向への材料流出は、ほとんど生じないが、僅かな減肉が生じる場合がある。また、パッド14によって抑えられた領域の周囲において、増肉されなかった領域にも、僅かな減肉が生じる場合がある。これらの減肉された領域を減肉部と称する。円筒絞り成形体5,5Aの板厚を測定した結果、基準板
厚t[mm]、増肉部の板厚ti[mm]、基準板厚よりも減肉した減肉部の板厚td[mm]との間に、
図10及び以下の表に示す関係が得られた。ここで、基準板厚とは、円筒絞り成形体5,5Aの増肉部と減肉部を除いた領域の板厚である。
【0101】
従って、上述した実施形態に係る製造方法によれば、基準板厚をt[mm]とした場合に、増肉部の板厚ti[mm]、及び減肉部の板厚td[mm]が、以下の関係式を満たす、板状成形体を成形することが可能である。
2.0<t<3.0の場合 td≧0.9t,ti≧1.25t
3.0<t<4.0の場合 td≧0.9t,ti≧1.35t
4.0<t<5.0の場合 td≧0.9t,ti≧1.45t
【0102】
以上のように、上述した実施形態の製造方法によれば、基準板厚に応じて、基準板厚に対して増肉された増肉部と、基準板厚に対して僅かに減肉された減肉部が形成される。減肉部における最大減肉率は90%程度となり、材料流出が最小限に抑えられていることが判る。従って、上述した実施形態によれば、パンチ12とパッド14で材料を挟持した状態で成形を行うことで、減肉部における材料流出を最小限に抑えるとともに、増肉部では25%以上増肉した円筒絞り成形体5,5Aを成形することができる。
【0103】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。