(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
帯状の鋼板が順に送られる加熱帯、均熱帯、及び、冷却帯を有する連続焼鈍炉における前記冷却帯にそれぞれ配置されると共に、前記鋼板の送り方向に並び、水素が添加された冷却ガスを複数の噴射ノズルから前記鋼板にそれぞれ噴射する複数の噴射部と、
前記冷却帯のうち前記複数の噴射部が配置された空間では、上流側の領域の方が下流側の領域よりも水素濃度が高い水素濃度分布が形成されるように、前記複数の噴射部の各々から噴射される冷却ガスの水素濃度を調節する水素濃度調節部と、
を備え、
前記複数の噴射部における各前記複数の噴射ノズルは、前記鋼板の送り方向を配列方向として並ぶと共に、それぞれ前記鋼板に向けて延びており、
各前記複数の噴射ノズルのうち少なくとも前記配列方向の両側に位置する噴射ノズルは、先端側に向かうに従って前記配列方向の中央側に向かうように傾斜している、
連続焼鈍炉における冷却設備。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第一実施形態]
はじめに、本発明の第一実施形態を説明する。
【0012】
図1に示される連続焼鈍炉10は、冷間圧延後の帯状の鋼板12を焼鈍処理するためのものであり、筒状の炉体14を有する。炉体14は、処理工程別に、加熱帯16、均熱帯18、及び、冷却帯20を有しており、鋼板12は、加熱帯16、均熱帯18、及び、冷却帯20の順に送られる。加熱帯16では、鋼板12が加熱され、均熱帯18では、鋼板12が均熱状態に保たれ、冷却帯20では、鋼板12が冷却される。
【0013】
図2に示されるように、本発明の第一実施形態に係る冷却設備50は、上述の連続焼鈍炉10における冷却帯20に適用される。この冷却帯20において、炉体14は、入側パス空間22、アップパス空間24、中間パス空間26、ダウンパス空間28、及び、出側パス空間30を有する。入側パス空間22、出側パス空間30、及び、中間パス空間26は、水平方向に延びており、アップパス空間24及びダウンパス空間28は、上下方向(鉛直方向)に延びている。
【0014】
アップパス空間24の上流端は、入側パス空間22の下流端に接続されており、中間パス空間26は、アップパス空間24の下流端とダウンパス空間28の上流端とを連結している。ダウンパス空間28の下流端は、出側パス空間30の上流端に接続されている。
【0015】
鋼板12は、入側パス空間22から出側パス空間30に向けて送られる。アップパス空間24では、鋼板12が上下方向上側に向けて送られ、ダウンパス空間28では、鋼板12が上下方向下側に向けて送られる。また、入側パス空間22、中間パス空間26、及び、出側パス空間30では、鋼板12が水平方向に沿って送られる。
【0016】
入側パス空間22の下流端、中間パス空間26の上流端、中間パス空間26の下流端、出側パス空間30の上流端、及び、出側パス空間30の下流端には、鋼板12の向きを変更する転向ロール32がそれぞれ設けられている。
【0017】
冷却帯20には、後に詳述する本発明の第一実施形態に係る冷却設備50の他に、入側シール装置34、入側排気装置36、出側シール装置38、及び、出側排気装置40が設けられている。
【0018】
入側シール装置34は、入側パス空間22に設けられている。
図3に示されるように、この入側シール装置34は、複数のシールセット44を有する。複数のシールセット44は、入側パス空間22の長さ方向に並んで配置されている。
【0019】
各シールセット44は、上下方向に対向する支持ロール46及び断熱材48を有する。支持ロール46及び断熱材48は、入側パス空間22において鋼板12の板厚方向両側に位置するように配置されている。
【0020】
各シールセット44において、支持ロール46は、鋼板12を支持し、断熱材48の先端部は、鋼板12に近接するか、又は、鋼板12に接触する。断熱材48は、例えばファイバーブランケットなどの可撓性を有する部材で構成されている。複数のシールセット44のうち隣り合うシールセット44では、支持ロール46及び断熱材48の配置が相互に異なっている。
【0021】
入側排気装置36は、入側シール装置34と対応する位置に設けられている。この入側排気装置36は、入側パス空間22の冷却ガスを外部に排出するように作動する。入側排気装置36の吸入口は、一例として、入側シール装置34に設けられた複数のシールセット44の間に開口している。
【0022】
図2に示される出側シール装置38及び出側排気装置40は、上述の入側シール装置34及び入側排気装置36と同様の構成である。出側シール装置38は、出側パス空間30に設けられており、複数のシールセット44を有する。出側排気装置40は、出側シール装置38と対応する位置に設けられており、出側パス空間30の冷却ガスを外部に排出するように作動する。
【0023】
本発明の第一実施形態に係る冷却設備50は、鋼板12を冷却するためのものである。
図4に示されるように、この冷却設備50は、複数の噴射装置52A〜52Dと、複数の中間シール装置56を備える。この複数の噴射装置52A〜52D、及び、複数の中間シール装置56は、一例として、冷却帯20のうちのダウンパス空間28に配置されている。
【0024】
複数の噴射装置52A〜52Dは、鋼板12に冷却ガスを噴射するためのものであり、本発明における「複数の噴射部」に相当する。この複数の噴射装置52A〜52Dは、ダウンパス空間28の上下方向の上側から下側、すなわち、ダウンパス空間28における鋼板12の送り方向の上流側から下流側に順に並んでいる。
【0025】
複数の噴射装置52A〜52Dのうち、複数の噴射装置52A、52Bは、ダウンパス空間28における上下方向の中央部よりも上側、すなわち上流側に配置されている。一方、この複数の噴射装置52A〜52Dのうち複数の噴射装置52C、52Dは、ダウンパス空間28における上下方向の中央部よりも下側、すなわち下流側に配置されている。
【0026】
また、複数の噴射装置52A〜52Dは、鋼板12を挟んだ両側にそれぞれ配置されており、一方の複数の噴射装置52A〜52Dは、鋼板12の一方の板面と対向しており、他方の複数の噴射装置52A〜52Dは、鋼板12の他方の板面と対向している。
【0027】
複数の噴射装置52A〜52Dは、互いに同一の構成とされている。以下、複数の噴射装置52A〜52Dのそれぞれをまとめて説明する場合には、複数の噴射装置52A〜52Dのそれぞれを単に噴射装置52と称する。
図5に示されるように、各噴射装置52は、いわゆる高速ガスジェット式の構成であり、直線筒状に形成された複数の噴射ノズル60を有する。なお、噴射ノズル12は高速なガスを噴出できれば良く、管状だけでなくスリット状ほか如何なる形状でも良い。
【0028】
複数の噴射ノズル60は、鋼板12に向けて延びており、この複数の噴射ノズル60の先端には、冷却ガスを噴射するための噴射口62が形成されている。この複数の噴射ノズル60の先端は、上下方向下側に送られる鋼板12と干渉しない限度で鋼板12に近づけて配置される。
【0029】
また、複数の噴射ノズル60は、鋼板12の送り方向を配列方向として並んでいる。第一実施形態において、この複数の噴射ノズル60の配列方向は、噴射装置52の上下方向と一致する。なお、複数の噴射ノズル60は、鋼板12の横幅方向と一致する噴射装置52の横幅方向にも配列されている。
【0030】
複数の噴射ノズル60のうち噴射装置52の上下方向の両側に位置する噴射ノズル60は、先端側に向かうに従って噴射装置52の上下方向の中央側に向かうように傾斜している。この噴射ノズル60における噴射装置52の上下方向に対する傾斜角度θは、例えば、約20°〜約45°に設定される。傾斜角度θが20°よりも小さいと、後述の冷却ガスが上下に広がる効果が得にくく、傾斜角度θが45°よりも大きいと、噴出ノズル60の先端から噴出方向の鋼板12までの距離が大きくなりすぎて、その噴出ノズル60から噴出する冷却ガスの冷却効果が低減するためである。
【0031】
一方、複数の噴射ノズル60のうち上述の両側に位置する噴射ノズル60を除く残りの複数の噴射ノズル60は、噴射装置52の前後方向、すなわち、鋼板12の板面の法線方向に沿って延びている。
【0032】
図6に示されるように、互いに向かい合う一対の噴射装置52Aの間には、一対の噴射装置52Aから噴射された冷却ガスを吸い込むための吸込口64が設けられている。この吸込口64は、噴射装置52Aの上下方向の両側に位置する噴射ノズル60の間に配置されている。この吸込口64と一対の噴射装置52Aとは、循環機構66を介して接続されている。
【0033】
循環機構66は、往路管68、復路管70、熱交換器72、水素供給源74、及び、ブロワ76を有する。熱交換器72は、復路管70を介して吸込口64と接続されており、一対の噴射装置52Aは、往路管68を介して熱交換器72と接続されている。熱交換器72は、空冷又は水冷により冷却ガスを冷却する。
【0034】
水素供給源74は、往路管68に接続されており、往路管68内に水素(水素ガス)を供給するように作動する。水素供給源74から往路管68内に水素が供給されることにより、一対の噴射装置52Aから噴射される冷却ガスに水素が添加される。ブロワ76は、往路管68に設けられており、一対の噴射装置52Aから冷却ガスを噴射させると共に、吸込口64と一対の噴射装置52Aとの間で冷却ガスを循環させるように作動する。
【0035】
図6に示されるように、上述の一対の噴射装置52Aに対して設けられた吸込口64及び循環機構66と同様の吸込口64及び循環機構66は、一対の噴射装置52Bに対しても設けられている。また、上述の一対の噴射装置52Aに対して設けられた吸込口64及び循環機構66と同様の吸込口64及び循環機構66は、
図7に示される一対の噴射装置52C、52Dに対してもそれぞれ設けられている。
【0036】
複数の噴射装置52A〜52Dに対して設けられた複数の循環機構66における水素供給源74は、本発明における「水素濃度調節部」に相当し、複数の噴射装置52A〜52Dの各々へ供給する水素の流量を流量調整弁等によりそれぞれ調節可能となっている。
【0037】
なお、上述の複数の噴射装置52A〜52Dから噴射される冷却ガスには、添加された水素の他に窒素が含まれる。また、冷却ガスに添加される水素としては、例えば、アンモニアを分解することにより得られたものを用いることができる。
【0038】
複数の噴射装置52A〜52Dから噴射される冷却ガスは、好ましくは、水素が体積比で約10%〜約70%含まれるように設定される。水素が体積比で約10%〜約70%含まれる冷却ガスを用いるのは、鋼板12に対する冷却効果と経済性とを両立させるためである。
【0039】
すなわち、冷却ガス中の水素が体積比で約70%を超えると、熱伝達係数が飽和して高い冷却効果を得ることができなくなると共に、コストが高くなる。一方、冷却ガス中の水素が体積比で約10%未満になると、所望の冷却効果を得られなくなる。そのため、水素が体積比で約10%〜約70%含まれる冷却ガスを用いることにより、鋼板12に対する冷却効果を十分に確保しつつ、経済性も確保できるようにしている。
【0040】
図4に示されるように、複数の中間シール装置56は、鋼板12の送り方向に並んで配置されている。複数の中間シール装置56は、一対の噴射装置52Aと一対の噴射装置52Bとの間、一対の噴射装置52Bと一対の噴射装置52Cとの間、及び、一対の噴射装置52Cと一対の噴射装置52Dとの間にそれぞれ配置されている。
【0041】
複数の中間シール装置56は、互いに同一の構成とされている。
図8、
図9に示されるように、各中間シール装置56は、上流側シール部88及び下流側シール部90を有する。上流側シール部88は、上流側支持ロール92、上流側第一シール部94、上流側第二シール部96、及び、上流側ロールシール部98によって構成されている。一方、下流側シール部90は、下流側支持ロール102、下流側第一シール部104、下流側第二シール部106、及び、下流側ロールシール部108によって構成されている。
【0042】
上流側支持ロール92及び下流側支持ロール102は、鋼板12の幅方向を軸方向として配置されている。この上流側支持ロール92及び下流側支持ロール102は、鋼板12の幅方向に延びる回転軸100、110によりそれぞれ回転可能に支持されている。上流側支持ロール92は、鋼板12の板厚方向一方側に配置されており、下流側支持ロール102は、鋼板12の板厚方向他方側に配置されている。また、下流側支持ロール102は、上流側支持ロール92に対する上下方向下側、すなわち、上流側支持ロール92に対する鋼板12の送り方向の下流側に配置されている。
【0043】
図10に示されるように、炉体14には、回転軸100の両端部が貫通する一対のガイド孔112が形成されている。一対のガイド孔112は、平面視にて回転軸100の軸方向と直交する方向に延びる長孔により形成されている。一対のガイド孔112によって回転軸100がガイドされることにより、上流側支持ロール92は、鋼板12に対して接離可能となっている。
【0044】
炉体14には、
図10に示される一対のガイド孔112と同様のガイド孔が
図8、
図9に示される下流側支持ロール102に対しても形成されており、下流側支持ロール102は、上流側支持ロール92と同様に、鋼板12に対して接離可能となっている。
【0045】
図8には、上流側支持ロール92及び下流側支持ロール102が鋼板12に接した状態が示されており、
図9には、上流側支持ロール92及び下流側支持ロール102が鋼板12から離れた状態が示されている。また、
図10には、上流側支持ロール92が鋼板12から離れた状態が示されている。
【0046】
図10に示されるように、中間シール装置56は、駆動機構114を有する。
図10に示される駆動機構114は、上流側支持ロール92を鋼板12に対して接離させるためのものであり、炉体14の外に設けられている。この駆動機構114は、モータ116、駆動軸118、一対の従動軸120、一対の駆動ギア122、及び、一対の従動ギア124、一対のスライダ126、及び、一対のベローズ128を有する。
【0047】
駆動軸118は、モータ116の出力軸と接続されており、回転軸100と平行に配置されている。駆動軸118の両端部には、駆動ギア122がそれぞれ固定されている。一対の従動軸120は、平面視にて回転軸100と直交する方向に延びている。一対の従動軸120の一端部には、従動ギア124がそれぞれ固定されており、各従動ギア124は、駆動ギア122と噛合されている。従動軸120及びスライダ126は、ボールネジ機構を構成しており、一対のスライダ126には、回転軸100の両端部が固定されている。
【0048】
この駆動機構114では、モータ116の出力軸の正方向及び逆方向の回転に伴いスライダ126が往復動し、上流側支持ロール92が鋼板12に対して接離される。一対のベローズ128は、例えば、シリコーンゴムなどの耐熱性の高い材料で形成される。ガイド孔112の周縁部とスライダ126とは、ベローズ128によって接続されており、このベローズ128によりガイド孔112がシールされている。
【0049】
中間シール装置56には、
図10に示される駆動機構114と同様の駆動機構154が
図8、
図9に示される下流側支持ロール102に対しても設けられており、この駆動機構154により下流側支持ロール102が鋼板12に対して接離される。上流側支持ロール92及び下流側支持ロール102は、鋼板12に接した状態において鋼板12の板厚方向一方側及び他方側から鋼板12をそれぞれ支持する。
【0050】
図8、
図9に示されるように、上流側第一シール部94は、上流側支持ロール92に対する鋼板12と反対側に配置されており、炉体14の内壁から上流側支持ロール92に向けて延びている。一方、上流側第二シール部96は、鋼板12に対する上流側支持ロール92と反対側に配置されており、炉体14の内壁から鋼板12に向けて延びている。上流側第二シール部96における鋼板12側の端部は、鋼板12に近接される。上流側第一シール部94と上流側第二シール部96との間には、鋼板12を通過させるための隙間と、上流側支持ロール92を鋼板12に対して接離する方向に移動させるための隙間が確保されている。
【0051】
図10に示されるように、上流側ロールシール部98は、回転軸100に固定されており、回転軸100及び上流側支持ロール92と一体に移動する。この上流側ロールシール部98には、上流側支持ロール92を収容する凹部130が形成されている。
図8に示されるように、上流側支持ロール92が鋼板12に接した状態では、上流側支持ロール92及び上流側ロールシール部98によって、上流側第一シール部94と鋼板12との間の隙間が塞がれる。上流側ロールシール部98における上流側第一シール部94側の端部は、上流側第一シール部94における上流側ロールシール部98側の端部と重ね合わされている。
【0052】
図8、
図9に示される下流側支持ロール102、下流側第一シール部104、下流側第二シール部106、及び、下流側ロールシール部108は、上述の上流側支持ロール92、上流側第一シール部94、上流側第二シール部96、及び、上流側ロールシール部98に対して配置が逆になっている。
【0053】
下流側第一シール部104は、下流側支持ロール102に対する鋼板12と反対側に配置されており、炉体14の内壁から下流側支持ロール102に向けて延びている。一方、下流側第二シール部106は、鋼板12に対する下流側支持ロール102と反対側に配置されており、炉体14の内壁から鋼板12に向けて延びている。下流側第二シール部106における鋼板12側の端部は、鋼板12に近接される。下流側第一シール部104と下流側第二シール部106との間には、鋼板12を通過させるための隙間と、下流側支持ロール102を鋼板12に対して接離する方向に移動させるための隙間が確保されている。
【0054】
また、上流側ロールシール部98と同様に、下流側ロールシール部108は、回転軸110に固定されており、下流側支持ロール102と一体に移動する。
図9に示されるように、下流側支持ロール102が鋼板12に接した状態では、下流側支持ロール102及び下流側ロールシール部108によって、下流側第一シール部104と鋼板12との間の隙間が塞がれる。下流側ロールシール部108における下流側第一シール部104側の端部は、下流側第一シール部104における下流側ロールシール部108側の端部と重ね合わされている。
【0055】
なお、
図2に示されるように、ダウンパス空間28には、鋼板12をその板厚方向から支持する複数の支持ロール131、132が設けられている。支持ロール131は、ダウンパス空間28の上部に配置され、支持ロール132は、ダウンパス空間28の下部に配置されている。上述の各中間シール装置56に設けられた上流側支持ロール92、下流側支持ロール102、及び、複数の支持ロール131、132は、鋼板12に接触することで鋼板12のフラッタリングを抑制する機能を有する。
【0056】
続いて、本発明の第一実施形態に係る冷却設備50を用いた連続焼鈍炉における冷却方法を説明する。この連続焼鈍炉における冷却方法は、以下に説明する如く、シールステップと、冷却ガス噴射ステップとを備える。
【0057】
[シールステップ]
シールステップでは、複数の中間シール装置56がシールするように作動する。すなわち、
図10に示されるモータ116が作動し、このモータ116の駆動力が、駆動軸118、一対の駆動ギア122、一対の従動ギア124、及び、一対の従動軸120を介して一対のスライダ126に伝達される。そして、一対のスライダ126と共に上流側支持ロール92が鋼板12に近づくように移動し、
図8に示されるように、上流側支持ロール92が鋼板12に接した状態とされる。上流側支持ロール92が鋼板12に接した状態では、上流側支持ロール92及び上流側ロールシール部98によって、上流側第一シール部94と鋼板12との間の隙間が塞がれる。
【0058】
同様に、
図9に示される下流側支持ロール102に対して設けられた駆動機構154が作動し、下流側支持ロール102が鋼板12に接した状態とされる。下流側支持ロール102が鋼板12に接した状態では、下流側支持ロール102及び下流側ロールシール部108によって、下流側第一シール部104と鋼板12との間の隙間が塞がれる。
【0059】
そして、複数の中間シール装置56により、
図2に示される一対の噴射装置52Aと一対の噴射装置52Bとの間、一対の噴射装置52Bと一対の噴射装置52Cとの間、及び、一対の噴射装置52Cと一対の噴射装置52Dとの間がそれぞれシールされる。上流側支持ロール92及び下流側支持ロール102は、ダウンパス空間28を通過する鋼板12に接することで回転しながら、この鋼板12をその板厚方向両側から支持する。
【0060】
[冷却ガス噴射ステップ]
続いて、冷却ガス噴射ステップでは、
図6、
図7に示される各ブロワ76が作動し、複数の噴射装置52A〜52Dから鋼板12に冷却ガスがそれぞれ噴射される。このとき、鋼板12の冷却性を高めるために、複数の噴射装置52A〜52Dからは冷却ガスが最大限の流速で噴射(ジェット噴射)される。
【0061】
また、複数の噴射装置52A〜52Dから冷却ガスが噴射されるときには、
図6、
図7に示される各水素供給源74が作動して水素を往路管68内に供給する。このため、複数の噴射装置52A〜52Dから噴射される冷却ガスは、いずれも水素が添加された冷却ガスとされる。
【0062】
また、
図6に示される上流側の各循環機構66の水素供給源74は、
図7に示される下流側の各循環機構66の水素供給源74よりも多い量の水素を往路管68内に供給する。したがって、上流側の複数の噴射装置52A、52Bからは、下流側の複数の噴射装置52C、52Dが噴射する冷却ガスよりも高い水素濃度の冷却ガスが噴射される。そして、ダウンパス空間28では、複数の噴射装置52A、52Bが配置された上流側の領域の方が複数の噴射装置52C、52Dが配置された下流側の領域よりも水素濃度が高い水素濃度分布が形成される。
【0063】
これにより、例えば、複数の噴射装置52A〜52Dから同じ水素濃度の冷却ガスが噴射されて水素濃度分布が一定となる場合に比して、鋼板12の均熱後の冷却速度、すなわち、冷却帯20における鋼板12の冷却開始からの冷却速度が高められ、鋼板12がより温度の高い状態から急速に冷却される。本実施形態では、所望の冷却速度が得られるように、上流側の複数の噴射装置52A、52Bから噴射される冷却ガスについて、水素濃度及び流量の少なくともいずれかが調節される。
【0064】
なお、噴射装置52Aと噴射装置52Bとは、噴射する冷却ガスの水素濃度が同一でも良く、また、噴射装置52Aの方が噴射装置52Bよりも噴射する冷却ガスの水素濃度が高くても良い。同様に、噴射装置52Cと噴射装置52Dとは、噴射する冷却ガスの水素濃度が同一でも良く、また、噴射装置52Cの方が噴射装置52Dよりも噴射する冷却ガスの水素濃度が高くても良い。
【0065】
噴射装置52Aの方が噴射装置52Bよりも噴射する冷却ガスの水素濃度が高く、かつ、噴射装置52Cの方が噴射装置52Dよりも噴射する冷却ガスの水素濃度が高い場合には、噴射装置52Dが配置された領域、噴射装置52Cが配置された領域、噴射装置52Bが配置された領域、噴射装置52Aが配置された領域の順に水素濃度が高い水素濃度分布が形成される。本実施形態では、一例として、このように複数の噴射装置52A〜52Dから噴射される冷却ガスの水素濃度が、下流側の噴射装置52Dから上流側の噴射装置52Aへ順に高くなるように調節される。
【0066】
また、
図6に示されるように、各噴射装置52において、複数の噴射ノズル60のうち噴射装置52の上下方向の両側に位置する噴射ノズル60は、先端側に向かうに従って噴射装置52の上下方向の中央側に向かうように傾斜している。したがって、この両側の噴射ノズル60からは、噴射装置52の上下方向の中央側に向けて冷却ガスが噴射される。これにより、この両側の噴射ノズル60から噴射され鋼板12に当たった冷却ガスが噴射装置52の上下に広がることが抑制される。
【0067】
一方、各噴射装置52において、複数の噴射ノズル60のうち上述の両側に位置する噴射ノズル60を除く残りの複数の噴射ノズル60は、鋼板12の板面の法線方向に沿って延びている。したがって、この残りの噴射ノズル60からは、鋼板12の板面の法線方向に沿って冷却ガスが噴射される。これにより、この残りの噴射ノズル60からは、鋼板12に向けて最短距離で冷却ガスが噴射され、かつ、この冷却ガスが鋼板12に垂直に当たるので、鋼板12が効率良く冷却される。
【0068】
そして、以上のようにして各噴射装置52から噴射された冷却ガスは、吸込口64から吸い込まれ、熱交換器72で冷却される。熱交換器72で冷却された冷却ガスには、水素供給源74から供給された水素が添加される。この冷却ガスは、ブロワ76を通じて噴射装置52に供給され、噴射装置52から噴射される。噴射装置52から噴射される冷却ガスが所望の水素濃度に保たれるように、水素供給源74から供給される水素の流量は流量調整弁等により調整される。
【0069】
なお、下流側の噴射装置52Dから噴射される冷却ガスは、他の複数の噴射装置52A、52B、52Cから噴射される冷却ガスよりも低い水素濃度に設定される。このため、下流側の噴射装置52Dが配置された領域では、他の複数の噴射装置52A、52B、52Cが配置された領域に比して鋼板12が緩やかに冷却される。
【0070】
ここで、例えば、「特願2004−375756(特開2006−183075号公報)」、及び、「Steel Times International-January/February 2011 Flash Cooling technology for the production of high strength galvanised steels」に記載されている通り、鋼板12の急冷終点温度は、鋼板12の強度を確保するためには重要である。
【0071】
そこで、本実施形態では、鋼板12が所望の急冷終点温度になるように、下流側の噴射装置52Dから噴射される冷却ガスについて、水素濃度及び流量の少なくともいずれかが調節される。本実施形態では、以上の要領にて、鋼板12が冷却される。
【0072】
続いて、本発明の第一実施形態の作用及び効果を説明する。
【0073】
先ず、本発明の第一実施形態の作用及び効果を明確にするために、比較例について説明する。
図20に示される比較例に係る冷却設備350は、上述の本発明の第一実施形態に係る冷却設備50に対し、次のように構成が異なっている。
【0074】
すなわち、比較例に係る冷却設備350では、複数の噴射装置52A〜52Dから同じ濃度の冷却ガスが噴射される。また、比較例に係る冷却設備350では、複数の噴射装置52A〜52Dから同じ濃度の冷却ガスが噴射されることでダウンパス空間28の水素濃度分布が上下方向に一定となるので、複数の中間シール装置56(
図2参照)が不要である。このため、比較例に係る冷却設備350からは、複数の中間シール装置56が省かれている。
【0075】
また、鋼板12の冷却性を高めるために、複数の噴射装置52A〜52Dにおける各複数の噴射ノズル60は、冷却ガスが鋼板12に垂直に、すなわち最短距離で当たるように、いずれも鋼板12の板面の法線方向に沿って延びている。さらに、鋼板12の冷却性をより高めるために、複数の噴射装置52A〜52Dからは冷却ガスが最大限の流速で噴射(ジェット噴射)される。
【0076】
ところで、鋼板12の製造上必要とされる冷却速度に関しては、TTT(time-temperature-transformation)図の横軸が対数になっていることから分かる通り、鋼板12の温度の高い領域ほど鋼板12を急速に冷却にした方が合金の添加量を低減できることが知られている。したがって、鋼板12の均熱後の冷却速度、すなわち、冷却帯20における鋼板12の冷却開始からの冷却速度が高いほど、少ない合金量で高い強度が得られる。
【0077】
ここで、比較例に係る冷却設備350において、例えば、複数の噴射装置52A〜52Dから噴射される冷却ガスの水素濃度を、上述の本発明の第一実施形態に係る冷却設備50において最も上流側の噴射装置52Aから噴射される冷却ガスの水素濃度と同じにした場合には、冷却帯20における鋼板12の冷却開始からの冷却速度を高めることができるものの、水素の使用量が増加し、鋼板12の製造コストが増加する。
【0078】
一方、比較例に係る冷却設備350において、例えば、複数の噴射装置52A〜52Dから噴射される冷却ガスの水素濃度を、上述の本発明の第一実施形態に係る冷却設備50において最も下流側の噴射装置52Dから噴射される冷却ガスの水素濃度と同じにした場合には、水素の使用量、ひいては、鋼板12の製造コストを低減できるものの、冷却帯20における鋼板12の冷却開始からの冷却速度が低くなるため、鋼板12の合金量が増加し鋼板12の強度が低下する。
【0079】
したがって、鋼板12の品質向上とコストダウンとを両立させるためには、冷却帯20における鋼板12の冷却開始からの冷却速度を高めつつ、水素の使用量を低減できることが望まれる。
【0080】
この点に関し、
図2に示される本発明の第一実施形態に係る冷却設備50では、一例と沿いて、複数の噴射装置52A〜52Dから噴射される冷却ガスの水素濃度が、下流側の噴射装置52Dから上流側の噴射装置52Aへ順に高くなる。そして、噴射装置52Dが配置された領域、噴射装置52Cが配置された領域、噴射装置52Bが配置された領域、噴射装置52Aが配置された領域の順に水素濃度が高い水素濃度分布が形成される。
【0081】
したがって、鋼板12の均熱後の冷却速度、すなわち、冷却帯20における鋼板12の冷却開始からの冷却速度を高めることができ、鋼板12をより温度の高い状態から急速に冷却することができる。これにより、例えばケイ素(Si)やマンガン(Mn)などの合金の量を少なく抑えながらも、高い強度を得ることができる。
【0082】
また、複数の噴射装置52A〜52Dから噴射される冷却ガスの水素濃度は、上流側の噴射装置52Aから下流側の噴射装置52Dへ順に低くなる。したがって、水素の使用量を低減することができる。
【0083】
ところで、
図20に示される比較例に係る冷却設備350において、例えば、複数の噴射装置52A〜52Dから噴射される冷却ガスの水素濃度を、上述の第一実施形態と同様に、下流側の噴射装置52Dから上流側の噴射装置52Aへ順に高くすることも考えられる。
【0084】
しかしながら、比較例に係る冷却設備350において、複数の噴射装置52A〜52Dにおける各複数の噴射ノズル60は、いずれも鋼板12の板面の法線方向に沿って延びている。噴射ノズル60の先端から、噴出方向の鋼板12までの距離が短いほど、鋼板12の冷却能を高めることができる。一方、噴射ノズル60の先端を鋼板12に近づけすぎると、形状の崩れた鋼板12が通板されたり、鋼板12が振れたりしたときに、噴射ノズル60の先端が鋼板12に接触し、噴射ノズル60を損傷したり、鋼板12を疵付けたりする。そのため、鋼板12と噴射ノズル60の隙間を通板可能な最低距離とし、噴射ノズル60を鋼板12の板面の法線方向に沿って延ばすのが、当業者の技術常識であるためであった。
【0085】
したがって、例えば、上流側の噴射装置52Aから噴射された水素濃度の高い冷却ガスは、鋼板12に当たって水素濃度の低い他の領域に流れてしまう。その一方で、上流側の噴射装置52Aと対応する吸込口64には、その下流側に位置する噴射装置52Bから噴射された水素濃度の低い冷却ガスや、噴射装置52Aよりも上流側に位置する中間パス空間26等からの水素を含まないガスが混じって吸入される。このため、上流側の噴射装置52Aから水素濃度の高い冷却ガスを噴射させることができなくなってしまう。
【0086】
また、上流側の噴射装置52Aから噴射される冷却ガスの水素濃度を確保しようとすると、上流側の噴射装置52Aから噴射される冷却ガスに水素を添加する必要があり、鋼板12の製造コストが増加する。
【0087】
さらに、下流側の噴射装置52Dについても、この下流側の噴射装置52Dと対応する吸込口64には、その上流側に位置する噴射装置52C等から噴射された水素濃度の高い冷却ガスが混じって吸入される。このため、下流側の噴射装置52Dから噴射される冷却ガスの水素濃度が高くなってしまい、所定の水素濃度が得られなくなってしまう。
【0088】
この点に関し、
図2に示される本発明の第一実施形態に係る冷却設備50では、
図5に示されるように、各噴射装置52において、複数の噴射ノズル60のうち噴射装置52の上下方向の両側に位置する噴射ノズル60は、先端側に向かうに従って噴射装置52の上下方向の中央側に向かうように傾斜している。そして、この両側の噴射ノズル60からは、噴射装置52の上下方向の中央側に向けて冷却ガスが噴射される。したがって、この両側の噴射ノズル60から噴射され鋼板12に当たった冷却ガスが噴射装置52の上下に広がることを抑制することができる。
【0089】
これにより、
図4に示されるように、噴射装置52Dが配置された領域、噴射装置52Cが配置された領域、噴射装置52Bが配置された領域、噴射装置52Aが配置された領域の順に水素濃度が高い水素濃度分布を維持することができると共に、水素の使用量をより一層低減することができる。特に、急速冷却が望まれる、最上段の噴射装置52Aにおいては、高い水素濃度分布を維持できることにより、噴射ノズル60を傾斜させたことによる噴射ノズル60の先端から鋼板12までの噴射距離の増大による冷却能の低下を補って余りある高い冷却能を確保することができる。
【0090】
また、
図5に示されるように、各噴射装置52において、複数の噴射ノズル60のうち上述の両側に位置する噴射ノズル60を除く残りの複数の噴射ノズル60は、鋼板12の板面の法線方向に沿って延びている。そして、この残りの噴射ノズル60からは、鋼板12の板面の法線方向に沿って冷却ガスが噴射される。したがって、この残りの噴射ノズル60から鋼板12に向けて最短距離で冷却ガスが噴射され、かつ、この冷却ガスが鋼板12に垂直に当たるので、鋼板12を効率良く冷却することができ、鋼板12の冷却性を高めることができる。
【0091】
また、吸込口64は、各噴射装置52の上下方向の両側に位置する噴射ノズル60の間に配置されている。したがって、複数の噴射ノズル60から噴射された冷却ガスが拡散せずに吸込口64に吸い込まれるので、冷却ガスを吸込口64によって効率良く回収することができる。
【0092】
また、
図4に示されるように、一対の噴射装置52Aと一対の噴射装置52Bとの間、一対の噴射装置52Bと一対の噴射装置52Cとの間、及び、一対の噴射装置52Cと一対の噴射装置52Dとの間は、それぞれ中間シール装置56によってシールされている。したがって、各中間シール装置56の両側に位置する領域の一方から他方へ冷却ガスが流出することを抑制することができるので、水素濃度分布を適切に維持することができる。
【0093】
また、
図8、
図9に示されるように、各中間シール装置56は、上流側シール部88及び下流側シール部90の二重のシール構造になっている。したがって、中間シール装置56によるシール性を向上させることができる。
【0094】
また、中間シール装置56において、上流側支持ロール92、上流側第一シール部94、上流側第二シール部96、及び、上流側ロールシール部98は、下流側支持ロール102、下流側第一シール部104、下流側第二シール部106、及び、下流側ロールシール部108に対して配置が逆になっている。
【0095】
したがって、鋼板12と上流側第二シール部96との間の隙間142を、下流側支持ロール102、下流側第一シール部104、及び、下流側ロールシール部108で塞ぐことができる。同様に、鋼板12と下流側第二シール部106との間の隙間144を、上流側支持ロール92、上流側第一シール部94、及び、上流側ロールシール部98で塞ぐことができる。これにより、中間シール装置56によるシール性をより一層向上させることができる。
【0096】
また、
図2に示されるように、複数の噴射装置52A〜52D、及び、複数の中間シール装置56は、ダウンパス空間28に配置されており、複数の噴射装置52Aは、ダウンパス空間28の上部に配置されている。したがって、比重の小さい水素が中間シール装置56の隙間等を通じて上方に移動することにより、複数の噴射装置52Aが配置された領域では、上流側に向かうほど水素濃度が高くなる濃度勾配が形成される。これにより、鋼板12がダウンパス空間28に送られた直後から急冷されるので、冷却帯20における鋼板12の冷却開始からの冷却速度をより一層高めることができる。
【0097】
また、下流側の噴射装置52Dから噴射される冷却ガスは、他の複数の噴射装置52A、52B、52Cから噴射される冷却ガスよりも低い水素濃度に設定される。このため、下流側の噴射装置52Dが配置された領域では、他の複数の噴射装置52A、52B、52Cが配置された領域に比して鋼板12を緩やかに冷却することができる。これにより、鋼板12の温度の調節が容易になるので、鋼板12の強度に重要とされている急冷終点温度の制御性を向上させることができる。
【0098】
続いて、本発明の第一実施形態の変形例を説明する。
【0099】
上記第一実施形態では、各噴射装置52において、複数の噴射ノズル60のうち噴射装置52の上下方向の両側に位置する噴射ノズル60を除く残りの複数の噴射ノズル60は、鋼板12の板面の法線方向に沿って延びている。
【0100】
しかしながら、例えば、
図11に示されるように、各噴射装置52において、複数の噴射ノズル60のうち噴射装置52の上下方向の中央部よりも上側に位置する複数の噴射ノズル60は、先端側に向かうに従って噴射装置52の上下方向の下側に向かうように傾斜していても良い。また、複数の噴射ノズル60のうち噴射装置52の上下方向の中央部よりも下側に位置する複数の噴射ノズル60は、先端側に向かうに従って噴射装置52の上下方向の上側に向かうように傾斜していても良い。すなわち、各噴射装置52において、複数の噴射ノズル60は、全て傾斜していても良い。
【0101】
このように構成されていると、各噴射装置52から噴射された冷却ガスが噴射装置52の上下方向に広がることをより一層抑制することができる。
【0102】
また、例えば、
図12に示されるように、各噴射装置52における上下方向の両側には、傾斜する噴射ノズル60がそれぞれ複数設けられていても良い。すなわち、各噴射装置52における上下方向の両側に設けられ傾斜する噴射ノズル60の本数は、複数ずつでも良い。
【0103】
このように構成されていると、傾斜する噴射ノズル60が増える分、噴射装置52から噴射された冷却ガスが噴射装置52の上下方向に広がることを抑制することができる。ただし、噴射ノズル60が傾斜すると、この傾斜する噴射ノズル60から噴射される冷却ガスの鋼板12までの経路が長くなり鋼板12の冷却性が低下する虞があるので、傾斜する噴射ノズル60の本数は、鋼板12の冷却性を確保できる範囲で設定されることが望ましい。
【0104】
また、例えば、
図13に示されるように、各噴射装置52において、複数の噴射ノズル60のうち噴射装置52の上下方向の中央部よりも上側に位置する複数の噴射ノズル60は、上側の噴射ノズル60から下側の噴射ノズル60へ順に傾斜角度が小さくなるように構成されていても良い。また、複数の噴射ノズル60のうち噴射装置52の上下方向の中央部よりも下側に位置する複数の噴射ノズル60は、下側の噴射ノズル60から上側の噴射ノズル60へ順に傾斜角度が小さくなるように構成されていても良い。
【0105】
このように構成されていても、各噴射装置52から噴射された冷却ガスが噴射装置52の上下方向に広がることを抑制しつつ、噴射装置52から噴射された冷却ガスによる鋼板12の冷却性を確保することができる。
【0106】
また、上記第一実施形態では、上流側の複数の噴射装置52A、52Bと下流側の複数の噴射装置52C、52Dとが同一の構成とされており、上流側の複数の噴射装置52A、52Cと下流側の複数の噴射装置52C、52Dとで複数の噴射ノズル60の配置や傾斜する噴射ノズル60の本数等が同じとなっている。
【0107】
しかしながら、上流側の複数の噴射装置52A、52Bと下流側の複数の噴射装置52C、52Dとで複数の噴射ノズル60の配置や傾斜する噴射ノズル60の本数等が異なっていても良い。また、噴射装置52Aと噴射装置52Bとで複数の噴射ノズル60の配置や傾斜する噴射ノズル60の本数等が異なっていても良く、同様に、噴射装置52Cと噴射装置52Dとで複数の噴射ノズル60の配置や傾斜する噴射ノズル60の本数等が異なっていても良い。
【0108】
また、上記第一実施形態において、冷却設備50は、四段の複数の噴射装置52A〜52Dを有するが、複数の噴射装置の段数は、何段でも良い。
【0109】
また、上記第一実施形態において、各中間シール装置56は、上流側シール部88及び下流側シール部90を有する二重構造とされているが、一重や三重以上の構造とされていても良い。
【0110】
また、中間シール装置56は、上流側支持ロール92、上流側第一シール部94、上流側第二シール部96、上流側ロールシール部98、下流側支持ロール102、下流側第一シール部104、下流側第二シール部106、及び、下流側ロールシール部108によって構成されているが、これら以外の部材を有する構成とされていても良い。
【0111】
また、上記第一実施形態において、複数の噴射装置52A〜52D、及び、複数の中間シール装置56は、ダウンパス空間28に配置されている。しかしながら、例えば、設備の都合上、アップパス空間24にて鋼板12を冷却せざるを得ないような場合には、
図14に示されるように、複数の噴射装置52A〜52D、及び、複数の中間シール装置56がアップパス空間24に配置されていても良い。
【0112】
また、複数の噴射装置52A〜52D、及び、複数の中間シール装置56は、ダウンパス空間28やアップパス空間24以外の空間に配置されても良い。
【0113】
また、上記第一実施形態において、冷却設備50は、複数の中間シール装置56を備えるが、この複数の中間シール装置56のうちいずれかの中間シール装置56は、省かれても良い。また、冷却設備50から全ての中間シール装置56が省かれても良い。
【0114】
また、上記第一実施形態では、鋼板12を挟んで互いに向かい合う各一対の噴射装置52A〜52Dに対して循環機構66がそれぞれ設けられているが、複数の噴射装置52A〜52Dのうち鋼板12の送り方向に並ぶ噴射装置で冷却ガスの水素濃度が同じである場合には、この鋼板12の送り方向に並ぶ噴射装置に対して共通の循環機構66が設けられても良い。
【0115】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態を説明する。
【0116】
図15に示される本発明の第二実施形態に係る冷却設備250は、上述の第一実施形態に係る冷却設備50(
図4参照)に対し、次のように構成が異なっている。
【0117】
すなわち、本発明の第二実施形態に係る冷却設備250では、一対の噴射装置52Aと一対の噴射装置52Bとの間の中間シール装置56、及び、一対の噴射装置52Cと一対の噴射装置52Dとの間の中間シール装置56がそれぞれ省かれており、一対の噴射装置52Bと一対の噴射装置52Cとの間にのみ中間シール装置56が配置されている。
【0118】
そして、鋼板12の送り方向に並ぶ噴射装置52A、52Bによって噴射部252Aが構成され、鋼板12の送り方向に並ぶ噴射装置52C、52Dによって噴射部252Bが構成されている。複数の噴射部252A、252Bは、互いに同一の構成とされている。なお、以下、複数の噴射部252A、252Bのそれぞれをまとめて説明する場合には、複数の噴射部252A、252Bのそれぞれを単に噴射部252と称する。
【0119】
噴射部252Aは、鋼板12の送り方向に並ぶ噴射装置52A、52Bに跨って複数の噴射ノズル60を有する。つまり、噴射部252Aの複数の噴射ノズル60は、噴射装置52Aに設けられた複数の噴射ノズル60と、噴射装置52Bに設けられた複数の噴射ノズル60とによって構成されている。
【0120】
この噴射部252Aにおいて、複数の噴射ノズル60のうち噴射部252Aの上下方向の両側に位置する噴射ノズル60、つまり、噴射装置52Aにおける上側の噴射ノズル60と、噴射装置52Bにおける下側の噴射ノズル60とは、先端側に向かうに従って噴射部252Aの上下方向の中央側に向かうように傾斜している。
【0121】
一方、噴射部252Aにおいて、複数の噴射ノズル60のうち噴射部252Aの上下方向の両側に位置する噴射ノズル60を除く残りの複数の噴射ノズル60は、噴射部252Aの前後方向、すなわち、鋼板12の板面の法線方向に沿って延びている。
【0122】
同様に、噴射部252Bは、鋼板12の送り方向に並ぶ噴射装置52C、52Dに跨って複数の噴射ノズル60を有する。つまり、噴射部252Bの複数の噴射ノズル60は、噴射装置52Cに設けられた複数の噴射ノズル60と、噴射装置52Dに設けられた複数の噴射ノズル60とによって構成されている。
【0123】
この噴射部252Bにおいて、複数の噴射ノズル60のうち噴射部252Bの上下方向の両側に位置する噴射ノズル60、つまり、噴射装置52Cにおける上側の噴射ノズル60と、噴射装置52Dにおける下側の噴射ノズル60とは、先端側に向かうに従って噴射部252Aの上下方向の中央側に向かうように傾斜している。
【0124】
一方、噴射部252Bにおいて、複数の噴射ノズル60のうち噴射部252Bの上下方向の両側に位置する噴射ノズル60を除く残りの複数の噴射ノズル60は、噴射部252Bの前後方向、すなわち、鋼板12の板面の法線方向に沿って延びている。
【0125】
そして、この本発明の第二実施形態に係る冷却設備250において、噴射部252Aを構成する複数の噴射装置52A、52Bからは、噴射部252Bを構成する複数の複数の噴射装置52C、52Dから噴射される冷却ガスよりも高い水素濃度の冷却ガスが噴射される。そして、ダウンパス空間28では、噴射部252Aが配置された上流側の領域の方が噴射部252Bが配置された下流側の領域よりも水素濃度が高い水素濃度分布が形成される。
【0126】
なお、噴射装置52Aと噴射装置52Bとは、噴射する冷却ガスの水素濃度が同一でも良く、また、噴射装置52Aの方が噴射装置52Bよりも噴射する冷却ガスの水素濃度が高くても良い。同様に、噴射装置52Cと噴射装置52Dとは、噴射する冷却ガスの水素濃度が同一でも良く、また、噴射装置52Cの方が噴射装置52Dよりも噴射する冷却ガスの水素濃度が高くても良い。
【0127】
また、本発明の第二実施形態に係る冷却設備250には、噴射部252A、252Bのそれぞれと対応する吸込口64が形成されている。上流側の噴射部252Aと上流側の吸込口64とは、上述の第一実施形態と同様の循環機構によって接続されており、同様に、下流側の噴射部252Bと下流側の吸込口64も、循環機構によって接続されている。
【0128】
上流側の吸込口64は、好ましくは、噴射部252Aの上下方向の両側に位置する噴射ノズル60の間に配置される。本実施形態では、一例として、上流側の吸込口64は、噴射部252A(複数の噴射装置52A、52B)が配置された高水素濃度領域の中央部に配置されている。
【0129】
下流側の吸込口64も、好ましくは、噴射部252Bの上下方向の両側に位置する噴射ノズル60の間に配置される。本実施形態では、一例として、下流側の吸込口64は、噴射部252B(複数の噴射装置52C、52D)が配置された低水素濃度領域の中央部に配置されている。
【0130】
続いて、本発明の第二実施形態の作用及び効果を説明する。
【0131】
本発明の第二実施形態に係る冷却設備250においても、上述の本発明の第一実施形態と同様に、上流側の複数の噴射装置52A、52Bによって構成された噴射部252Aから噴射される冷却ガスは、下流側の複数の噴射装置52C、52Dによって構成された噴射部252Bから噴射される冷却ガスよりも水素濃度が高く設定される。そして、ダウンパス空間28では、噴射部252Aが配置された上流側の領域の方が噴射部252Bが配置された下流側の領域よりも水素濃度が高い水素濃度分布が形成される。
【0132】
したがって、鋼板12の均熱後の冷却速度、すなわち、冷却帯20における鋼板12の冷却開始からの冷却速度を高めることができ、鋼板12をより温度の高い状態から急速に冷却することができる。これにより、例えばケイ素(Si)やマンガン(Mn)などの合金の量を少なく抑えながらも、高い強度を得ることができる。
【0133】
また、下流側の噴射部252Bから噴射される冷却ガスは、上流側の噴射部252Aから噴射される冷却ガスよりも水素濃度が低く設定される。したがって、水素の使用量を低減することができる。
【0134】
しかも、各噴射部252において、複数の噴射ノズル60のうち噴射部252の上下方向の両側に位置する噴射ノズル60は、先端側に向かうに従って噴射装置52の上下方向の中央側に向かうように傾斜している。そして、この両側の噴射ノズル60からは、噴射部252の上下方向の中央側に向けて冷却ガスが噴射される。したがって、この両側の噴射ノズル60から噴射され鋼板12に当たった冷却ガスが噴射部252の上下に広がることを抑制することができる。
【0135】
これにより、噴射部252Aが配置された上流側の領域の方が、噴射部252Bが配置された下流側の領域よりも水素濃度が高い水素濃度分布を維持することができると共に、水素の使用量をより一層低減することができる。
【0136】
また、各噴射部252において、複数の噴射ノズル60のうち噴射部252の上下方向の両側に位置する噴射ノズル60を除く残りの複数の噴射ノズル60は、鋼板12の板面の法線方向に沿って延びている。そして、この残りの噴射ノズル60からは、鋼板12の板面の法線方向に沿って冷却ガスが噴射される。したがって、この残りの噴射ノズル60から鋼板12に向けて最短距離で冷却ガスが噴射され、かつ、この冷却ガスが鋼板12に垂直に当たるので、鋼板12を効率良く冷却することができ、鋼板12の冷却性を高めることができる。
【0137】
また、上流側の吸込口64は、噴射部252Aにおける上下方向の両側に位置する噴射ノズル60の間に配置されている。したがって、噴射部252Aにおける複数の噴射ノズル60から噴射された冷却ガスが拡散せずに上流側の吸込口64に吸い込まれるので、冷却ガスを上流側の吸込口64によって効率良く回収することができる。同様に、下流側の吸込口64も、噴射部252Bにおける上下方向の両側に位置する噴射ノズル60の間に配置されているので、噴射部252Bにおける複数の噴射ノズル60から噴射された冷却ガスを下流側の吸込口64によって効率良く回収することができる。
【0138】
また、噴射部252Aと噴射部252Bとの間は、中間シール装置56によってシールされている。したがって、中間シール装置56の両側に位置する領域の一方から他方へ冷却ガスが流出することを抑制することができるので、水素濃度分布を適切に維持することができる。
【0139】
続いて、本発明の第二実施形態の変形例を説明する。
【0140】
上記第二実施形態では、噴射部252Aにおいて、複数の噴射ノズル60のうち噴射部252Aの上下方向の両側に位置する噴射ノズル60を除く残りの複数の噴射ノズル60は、鋼板12の板面の法線方向に沿って延びている。
【0141】
しかしながら、例えば、
図16に示されるように、噴射部252Aを構成する複数の噴射装置52A、52Bのうち上流側の噴射装置52Aでは、複数の噴射ノズル60がいずれも先端側に向かうに従って噴射装置52Aの上下方向の下側に向かうように傾斜していても良い。また、噴射部252Aを構成する複数の噴射装置52A、52Bのうち下流側の噴射装置52Bでは、複数の噴射ノズル60がいずれも先端側に向かうに従って噴射装置52Bの上下方向の上側に向かうように傾斜していても良い。すなわち、噴射部252Aにおいて、複数の噴射ノズル60は、全て傾斜していても良い。
【0142】
このように構成されていると、噴射部252Aから噴射された冷却ガスが噴射部252Aの上下方向に広がることをより一層抑制することができる。
【0143】
また、例えば、
図17に示されるように、噴射部252Aを構成する複数の噴射装置52A、52Bのうち上流側の噴射装置52Aでは、上側の複数の噴射ノズル60が先端側に向かうに従って噴射装置52Aの上下方向の下側に向かうように傾斜していても良い。また、噴射部252Aを構成する複数の噴射装置52A、52Bのうち下流側の噴射装置52Bでは、下側の複数の噴射ノズル60が先端側に向かうに従って噴射装置52Bの上下方向の上側に向かうように傾斜していても良い。すなわち、噴射部252Aにおける上下方向の両側に設けられ傾斜する噴射ノズル60の本数は、複数でも良い。
【0144】
このように構成されていると、傾斜する噴射ノズル60が増える分、上流側の噴射部252Aから噴射された冷却ガスが噴射部252Aの上下方向に広がることを抑制することができる。
【0145】
また、
図16、
図17に示される変形例において、噴射部252Aを構成する複数の噴射装置52A、52Bのうち上流側の噴射装置52Aでは、上側の噴射ノズル60から下側の噴射ノズル60へ順に傾斜角度が小さくなるように構成されていても良い。また、噴射部252Aを構成する複数の噴射装置52A、52Bのうち下流側の噴射装置52Bでは、下側の噴射ノズル60から上側の噴射ノズル60へ順に傾斜角度が小さくなるように構成されていても良い。
【0146】
また、上記第二実施形態において、噴射部252Aは、一例として、二段の噴射装置52A、52Bによって構成されているが、噴射部252Aを構成する噴射装置の段数は、何段でも良い。
【0147】
ここで、
図18、
図19には、一例として、噴射部252Aを三段の噴射装置で構成した変形例が示されている。
図18に示される変形例は、上述の
図15に示される変形例に対し、噴射部252Aにおける上流側の噴射装置52Aと下流側の噴射装置52Bとの間に中間の噴射装置52Eを追加した例である。また、
図19に示される変形例は、上述の
図16に示される変形例に対し、噴射部252Aにおける上流側の噴射装置52Aと下流側の噴射装置52Bとの間に中間の噴射装置52Eを追加した例である。
【0148】
図18、
図19に示されるように、噴射部252Aが中間の噴射装置52Eを備える場合、この中間の噴射装置52Eでは、複数の噴射ノズル60が鋼板12の板面の法線方向に沿って延びていても良い。
【0149】
なお、噴射部252Bにおける複数の噴射ノズル60についても、上述の噴射部252Aにおける複数の噴射ノズル60についての変形例と同様の変形例を採用することが可能である。
【0150】
また、上記第二実施形態では、噴射部252Aと噴射部252Bとが同一の構成とされており、噴射部252Aと噴射部252Bとで複数の噴射ノズル60の配置や傾斜する噴射ノズル60の本数等が同じとなっている。しかしながら、噴射部252Aと噴射部252Bとで複数の噴射ノズル60の配置や傾斜する噴射ノズル60の本数等が異なっていても良い。また、噴射部252Aと噴射部252Bとで噴射装置の段数が異なっていても良い。
【0151】
また、上記第二実施形態においても、中間シール装置56の構成や冷却設備250の設置位置については、上記第一実施形態と同様の変形例が採用されても良い。
【0152】
また、上記第二実施形態において、冷却設備250は、中間シール装置56を備えるが、この中間シール装置56は、省かれても良い。
【0153】
以上、本発明の第一及び第二実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
本発明の一態様に係る連続焼鈍炉における冷却設備は、帯状の鋼板が順に送られる加熱帯、均熱帯、及び、冷却帯を有する連続焼鈍炉における前記冷却帯にそれぞれ配置されると共に、前記鋼板の送り方向に並び、水素が添加された冷却ガスを複数の噴射ノズルから前記鋼板にそれぞれ噴射する複数の噴射部と、前記冷却帯のうち前記複数の噴射部が配置された空間では、上流側の領域の方が下流側の領域よりも水素濃度が高い水素濃度分布が形成されるように、前記複数の噴射部の各々から噴射される冷却ガスの水素濃度を調節する水素濃度調節部と、を備え、前記複数の噴射部における各前記複数の噴射ノズルは、前記鋼板の送り方向を配列方向として並ぶと共に、それぞれ前記鋼板に向けて延びており、各前記複数の噴射ノズルのうち少なくとも前記配列方向の両側に位置する噴射ノズルは、先端側に向かうに従って前記配列方向の中央側に向かうように傾斜している。