特許第6179678号(P6179678)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6179678繊維状のカーボンナノホーン集合体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6179678
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】繊維状のカーボンナノホーン集合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/18 20170101AFI20170807BHJP
   B01J 23/745 20060101ALI20170807BHJP
   B01J 23/89 20060101ALI20170807BHJP
   B01J 35/06 20060101ALI20170807BHJP
   B01J 35/08 20060101ALI20170807BHJP
   B01J 37/34 20060101ALI20170807BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20170807BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20170807BHJP
   H01G 11/36 20130101ALI20170807BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20170807BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20170807BHJP
【FI】
   C01B32/18
   B01J23/745 M
   B01J23/89 M
   B01J35/06 J
   B01J35/08 Z
   B01J37/34
   H01M4/86 B
   H01M4/88 C
   H01G11/36
   H01G11/86
   !H01M8/10
【請求項の数】11
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-560024(P2016-560024)
(86)(22)【出願日】2016年3月4日
(86)【国際出願番号】JP2016056790
(87)【国際公開番号】WO2016147909
(87)【国際公開日】20160922
【審査請求日】2016年9月29日
(31)【優先権主張番号】特願2015-52185(P2015-52185)
(32)【優先日】2015年3月16日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-124577(P2015-124577)
(32)【優先日】2015年6月22日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】弓削 亮太
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/046157(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/025722(WO,A1)
【文献】 特開2014−185074(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/147031(WO,A1)
【文献】 特開2012−214342(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/139963(WO,A1)
【文献】 国際公開第2004/108275(WO,A1)
【文献】 特開2007−161521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00 − 32/991
B01J 23/745
B01J 23/89
B01J 35/06
B01J 35/08
B01J 37/34
H01G 11/36
H01G 11/86
H01M 4/86
H01M 4/88
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さが1μm以上の繊維状の炭素構造体であって、その表面に複数の突起を有し、
前記突起は単層カーボンナノホーンである、繊維状のカーボンナノホーン集合体。
【請求項2】
直径が30nm〜200nmであり、長さが1μm〜100μmであることを特徴とする請求項1に記載の繊維状のカーボンナノホーン集合体。
【請求項3】
前記単層カーボンナノホーンは、直径が1nm〜5nm、長さが30nm〜100nmであり、先端がホーン状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維状のカーボンナノホーン集合体。
【請求項4】
前記繊維状の炭素構造体の内部に触媒金属が取込まれていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維状のカーボンナノホーン集合体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の繊維状のカーボンナノホーン集合体と、複数の単層カーボンナノホーンが球状に繋がった球状のカーボンナノホーン集合体と、を含むカーボンナノホーン集合体混合物
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載の繊維状のカーボンナノホーン集合体もしくは請求項5に記載のカーボンナノホーン集合体混合物を電極材料に使用したリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載の繊維状のカーボンナノホーン集合体もしくは請求項5に記載のカーボンナノホーン集合体混合物を触媒又は触媒担持体に使用した燃料電池。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項に記載の繊維状のカーボンナノホーン集合体もしくは請求項5に記載のカーボンナノホーン集合体混合物を電極に使用した電気化学アクチュエータ。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか1項に記載の繊維状のカーボンナノホーン集合体もしくは請求項5に記載のカーボンナノホーン集合体混合物を電極に使用した電気二重層キャパシタ。
【請求項10】
長さが1μm以上の炭素構造体であって、その表面に複数の突起を有し、前記突起は単層カーボンナノホーンである、繊維状のカーボンナノホーン集合体の製造方法であって、
触媒含有炭素ターゲットを配置した容器内を、不活性ガス、窒素ガス、または、混合雰囲気にし、
前記容器内で前記触媒含有炭素ターゲットを回転させながらレーザーアブレーションにより触媒含有炭素ターゲットを蒸発させ、
前記触媒含有炭素ターゲットが蒸発する過程でガス流量を一定に制御する、繊維状のカーボンナノホーン集合体の製造方法。
【請求項11】
長さが1μm以上の炭素構造体であって、その表面に複数の突起を有し、前記突起は単層カーボンナノホーンである、繊維状のカーボンナノホーン集合体の製造方法であって、
触媒含有炭素ターゲットを配置した容器内を、不活性ガス、窒素ガス、または、混合雰囲気にし、
前記容器内で前記触媒含有炭素ターゲットを回転させながらレーザーアブレーションにより触媒含有炭素ターゲットを蒸発させ、
前記触媒含有炭素ターゲットが蒸発する過程でガス流量を一定に制御し、繊維状のカーボンナノホーン集合体と複数の単層カーボンナノホーンが球状に繋がった球状のカーボンナノホーン集合体とを含むカーボンナノホーン集合体混合物を得、
前記カーボンナノホーン集合体混合物から、前記繊維状のカーボンナノホーン集合体を単離する、繊維状のカーボンナノホーン集合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状のカーボンナノホーン集合体、及び、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、炭素材料は、導電材、触媒担体、吸着剤、分離剤、インク、トナーなどとして利用されており、近年ではカーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等のナノサイズの大きさを有するナノ炭素材の出現で、その構造体としての特徴が注目され、その用途については、以下の特許文献1(カーボンナノホーン)、特許文献2(DDS)、特許文献3(固体潤滑剤)、特許文献4(メタンガスの吸蔵)、特許文献5(吸着剤)、特許文献6(メタン分解触媒)、特許文献7(触媒担体)及び特許文献8(導電材)に示されるように鋭意研究が行われてきた。
【0003】
近年、携帯電話、ノートパソコン、及び電気自動車などの小型軽量化及び高性能化に伴って、これらに用いられる二次電池として、軽量かつ充電容量の大きいリチウムイオン電池が広く利用されている。そして電気自動車や電動工具などの応用では、大電流負荷特性の不足が大きな課題である。この対策として、電極内の低抵抗化、例えばレート特性の向上などが検討されている。
【0004】
低抵抗化の検討として、導電助材などが主な検討である。特許文献8では、導電材としてカーボンナノホーン集合体が検討され、負極の黒鉛材にカーボンナノホーン集合体を混合することで、アセチレンブラックやカーボンナノチューブ等と比べて、反応抵抗が小さく、急激な容量劣化を生じることのない、長寿命なリチウムイオン電池になることが開示されている。カーボンナノホーンは、グラフェンの六員環構造を有するため導電性が高く、また、均一サイズの球状集合体であるため高分散化し、電極活物質表面に絡みつきやすい特性をもっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4234812号公報
【特許文献2】特許第4873870号公報
【特許文献3】特開2003−313571号公報
【特許文献4】特開2004−16976号公報
【特許文献5】特許第3989256号公報
【特許文献6】特開2003−146606号公報
【特許文献7】特許第3479889号公報
【特許文献8】特許第5384917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のカーボンナノホーン集合体は、直径が100nm程度の球状構造であるため、電極を作製する際、針状構造の炭素材料、例えば、カーボンナノチューブなどに比べ内部抵抗が高くなる傾向がある。これは針状構造の炭素材料は、数μm程度の導電パスを形成できることから導電性付与の効果が大きいのに対して、球状構造のカーボンナノホーン集合体はこのような長い導電パスは形成できないためである。一方、針状構造の材料は、分散性が悪く、高分散化に課題がある。
【0007】
高分散な球状カーボンナノホーン集合体と針状構造の材料を混合することで、高導電性と高分散性を両立できる可能性がある。しかしながら、球状カーボンナノホーン集合体と針状構造の炭素材料は、通常は別々に製造されるためコスト高となる。
【0008】
本発明では、導電性付与に優れたカーボンナノホーン集合体を提供することを目的とする。また、本発明では、導電性付与と分散性ともに優れたカーボンナノホーン集合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者は、高導電性を発現するカーボンナノホーン集合体について鋭意検討した結果、導電性付与に優れた繊維状のカーボンナノホーン集合体を見出した。また、この繊維状のカーボンナノホーン集合体は、分散性に優れる球状のカーボンナノホーン集合体と同時に形成できることを見出した。この結果、繊維状と球状のカーボンナノホーン集合体を同時に含むことで、内部抵抗が小さい、大電流負荷特性(レート特性、Cレート:1時間で所定の電圧まで放電することを1C)の向上した急速充放電性を有するリチウムイオン電池の作製が可能であることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明の一形態によれば、長さが1μm以上の繊維状の炭素構造体であって、その表面に複数の突起を有し、前記突起は単層カーボンナノホーンである、繊維状のカーボンナノホーン集合体が提供される。
【0011】
また、本発明の別の形態によれば、前記繊維状のカーボンナノホーン集合体は直径が30nm〜200nmであり、長さが1μm〜100μmであることを特徴とする
前記単層カーボンナノホーンは、直径が1nm〜5nm、長さが30nm〜100nmであり、先端がホーン状であることを特徴とする
さらに前記繊維状の炭素構造体の内部に触媒金属が取込まれていることを特徴とする。
また、本発明の別の形態では、上記繊維状のカーボンナノホーン集合体と、複数の単層カーボンナノホーンが球状に繋がった球状のカーボンナノホーン集合体と、を含むカーボンナノホーン集合体混合物が提供される。
【0012】
本発明のさらに別の形態では、上記のカーボンナノホーン集合体もしくはカーボンナノホーン集合体混合物を電極材料に使用したリチウムイオン二次電池が提供される。
さらに、本発明の一形態では、上記のカーボンナノホーン集合体もしくはカーボンナノホーン集合体混合物を触媒又は触媒担持体に使用することができ、カーボンナノホーン集合体を触媒又は触媒担持体に使用した燃料電池が提供される。
【0013】
さらに、本発明の一形態では、上記のカーボンナノホーン集合体もしくはカーボンナノホーン集合体混合物を電極に使用した電気化学アクチュエータが提供される。
さらに、本発明の一形態では、上記のカーボンナノホーン集合体もしくはカーボンナノホーン集合体混合物を電極に使用した電気二重層キャパシタが提供される。
【0014】
本発明の一形態では
長さが1μm以上の炭素構造体であって、その表面に複数の突起を有し、前記突起は単層カーボンナノホーンである、繊維状のカーボンナノホーン集合体の製造方法であって、
触媒含有炭素ターゲットを配置した容器内を、不活性ガス、窒素ガス、または、混合雰囲気にし、
前記容器内で前記触媒含有炭素ターゲットを回転させながらレーザーアブレーションにより触媒含有炭素ターゲットを蒸発させ、
前記触媒含有炭素ターゲットが蒸発する過程でガス流量を一定に制御する、繊維状のカーボンナノホーン集合体の製造方法が提供される。
また、本発明の一形態では、
長さが1μm以上の炭素構造体であって、その表面に複数の突起を有し、前記突起は単層カーボンナノホーンである、繊維状のカーボンナノホーン集合体の製造方法であって、
触媒含有炭素ターゲットを配置した容器内を、不活性ガス、窒素ガス、または、混合雰囲気にし、
前記容器内で前記触媒含有炭素ターゲットを回転させながらレーザーアブレーションにより触媒含有炭素ターゲットを蒸発させ、
前記触媒含有炭素ターゲットが蒸発する過程でガス流量を一定に制御し、繊維状のカーボンナノホーン集合体と複数の単層カーボンナノホーンが球状に繋がった球状のカーボンナノホーン集合体とを含むカーボンナノホーン集合体混合物を得、
前記カーボンナノホーン集合体混合物から、前記繊維状のカーボンナノホーン集合体を単離する、繊維状のカーボンナノホーン集合体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一形態によれば、高導電性の繊維状のカーボンナノホーン集合体が提供される。また、本発明の別の形態によれば、繊維状のカーボンナノホーン集合体と球状のカーボンナノホーン集合体の混合物を同一プロセスにて提供できる。この混合物では、それぞれが高分散化し、且つ、繊維状のカーボンナノホーン集合体と球状のカーボンナノホーン集合体が吸着する際、それらの界面に多くの接点を有するため、良好な導電パス形成し、充放電の際に抵抗のロスが少ない。
【0016】
また、本発明のカーボンナノホーン集合体の製造方法は、従来の方法に比べ工程数が少なく低コストであり、量産性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明によって作製された繊維状のカーボンナノホーン集合体の透過型電子顕微鏡写真である。
図2】本発明によって作製された繊維状のカーボンナノホーン集合体の透過型電子顕微鏡写真である。
図3】本発明によって作製された球状のカーボンナノホーン集合体の透過型電子顕微鏡写真である。
図4】本発明によって作製された繊維状のカーボンナノホーン集合体と球状のカーボンナノホーン集合体の走査型電子顕微鏡写真である。
図5】本発明によって作製された球状のカーボンナノホーン集合体の透過型電子顕微鏡写真(a)〜(c)とEDX結果(d)である。
図6】本発明によって作製された繊維状のカーボンナノホーン集合体と球状のカーボンナノホーン集合体のXPS結果である。
図7】本発明によって作製された繊維状のカーボンナノホーン集合体と球状のカーボンナノホーン集合体の動的光散乱法による粒度分布測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、上記の通りの特徴を持つものであるが、以下に実施の形態について説明する。
図1及び図2は、本発明の一実施形態例に係る繊維状のカーボンナノホーン集合体の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。本実施形態例に係る繊維状のカーボンナノホーン集合体を構成している各単層カーボンナノホーンは、従来からの球状のカーボンナノホーン集合体を構成する単層カーボンナノホーンと同じである。本実施形態例に係る繊維状のカーボンナノホーン集合体は、種型、つぼみ型、ダリア型、ペタルダリア型、ペタル型(グラフェンシート構造)のカーボンナノホーン集合体がさらに単層カーボンナノホーンで繋がって形成されており、すなわち、繊維状構造中に1種類または複数のこれらカーボンナノホーン集合体が含まれている。また、触媒金属を使用したターゲットを蒸発させて作製するため、繊維状のカーボンナノホーン集合体(図1,2)や球状のカーボンナノホーン集合体(図3)の内部には、触媒金属が存在する(図中の非透過の粒子)。後述するように、本発明に係る製造方法により繊維状のカーボンナノホーン集合体を製造すると、球状のカーボンナノホーン集合体が同時に生成される。図4は、本発明によって作製された繊維状のカーボンナノホーン集合体と球状のカーボンナノホーン集合体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。図4のように繊維状と球状の生成物が存在するため、繊維状生成物が凝集しにくい構造になる。また、繊維状カーボンナノホーン集合体は、球状カーボンナノホーン集合体と同様に溶液中で高分散性を有する。本明細書では、繊維状のカーボンナノホーン集合体と球状カーボンナノホーン集合体とを合わせて、単にカーボンナノホーン集合体と呼ぶことがある。なお、繊維状のカーボンナノホーン集合体と球状のカーボンナノホーン集合体とは、遠心分離法や、溶媒に分散した後沈降速度の違い、ゲル透過クロマトグラフィーなどを利用して分離することが可能である。繊維状のカーボンナノホーン集合体の分散性を維持するには分離せずにそのまま使用することが好ましい。本発明に係る繊維状のカーボンナノホーン集合体は、単層カーボンナノホーンが繊維状に集合していれば良く、上記の構造のみに限定されない。
【0019】
作製された各々の単層カーボンナノホーンの直径はおおよそ1nm〜5nmであり、長さは30nm〜100nmである。繊維状のカーボンナノホーン集合体は、直径が30nm〜200nm程度で、長さが1μm〜100μm程度とすることができる。一方、球状のカーボンナノホーン集合体は、直径が30nm〜200nm程度でほぼ均一なサイズである。
【0020】
得られる球状のカーボンナノホーン集合体は、種型、つぼみ型、ダリア型、ペタル−ダリア型、ペタル型が単独で、または、複合して形成される。種型は球状の表面に角状の突起がほとんどみられない、あるいは全くみられない形状、つぼみ型は球状の表面に角状の突起が多少みられる形状、ダリア型は球状の表面に角状の突起が多数みられる形状、ペタル型は球状の表面に花びら状の突起がみられる形状である。ペタル構造は、幅は50〜200nm、厚みは0.34〜10nm、2〜30枚のグラフェンシート構造である。ペタル−ダリア型はダリア型とペタル型の中間的な構造である。球状のカーボンナノホーン集合体は、繊維状のカーボンナノホーン集合体とは別に混在した状態で生成される。生成する球状のカーボンナノホーン集合体は、ガスの種類や流量によってその形態および粒径が変わる。
【0021】
作製方法は、触媒を含有した炭素をターゲット(触媒含有炭素ターゲットという)とし、触媒含有炭素ターゲットを配置した容器内でターゲットを回転させながら窒素雰囲気、不活性雰囲気、又は、混合雰囲気下でレーザーアブレーションによりターゲットを加熱し、ターゲットを蒸発させる。蒸発した炭素と触媒が冷える過程で繊維状のカーボンナノホーン集合体及び球状のカーボンナノホーン集合体が得られる。触媒を含有した炭素ターゲットを用いる方法は、カーボンナノチューブの製造方法として一部知られていたが、従来のカーボンナノホーン集合体(球状のカーボンナノホーン集合体)は、触媒を含まない純粋(100%)グラファイトターゲットが用いられていた。また作製方法として、上記レーザーアブレーション法以外にアーク放電法や抵抗加熱法を用いることができる。しかしながら、レーザーアブレーション法は、室温、大気圧中で連続生成できる観点からより好ましい。
【0022】
本発明で適用するレーザーアブレーション(Laser Ablation:LA)法は、レーザーをターゲットにパルス状又は連続して照射して、照射強度が閾値以上になると、ターゲットがエネルギーを変換し、その結果、プルームが生成され、生成物をターゲットの下流に設けた基板上に堆積させる、或いは装置内の空間に生成させ、回収室で回収する方法である。
【0023】
レーザーアブレーションには、COレーザー、YAGレーザー、エキシマレーザー、半導体レーザー等が使用可能で、高出力化が容易なCOレーザーが最も適当である。COレーザーは、1kW/cm〜1000kW/cmの出力が使用可能であり、連続照射及びパルス照射で行うことが出来る。カーボンナノホーン集合体の生成には連続照射の方が望ましい。レーザー光をZnSeレンズなどにより集光させ、照射させる。また、ターゲットを回転させることで連続的に合成することが出来る。ターゲット回転速度は任意に設定できるが、0.1〜6rpmが特に好ましい、0.1rpm以上であればグラファイト化が抑制でき、また、6rpm以下であればアモルファスカーボンの増加を抑制できる。この時、レーザー出力は15kW/cm以上が好ましく、30〜300kW/cmが最も効果的である。レーザー出力が15kW/cm以上であればターゲットが適度に蒸発し、合成が容易となる。また300kW/cm以下であれば、アモルファスカーボンの増加を抑制できる。容器(チャンバー)内の圧力は、13332.2hPa(10000Torr)以下で使用することができるが、圧力が真空に近くなるほど、カーボンナノチューブが生成しやすくなり、カーボンナノホーン集合体が得られなくなる。好ましくは666.61hPa(500Torr)−1266.56hPa(950Torr)で、より好ましくは常圧(1013hPa(1atm≒760Torr))付近で使用することが大量合成や低コスト化のためにも適当である。また照射面積もレーザー出力とレンズでの集光の度合いにより制御でき、0.005cm〜1cmが使用できる。
【0024】
触媒は、Fe、Ni、Coを単体で、又は混合して使用することができる。触媒の濃度は適宜選択できるが、炭素に対して、0.1質量%〜10質量%が好ましく、0.5質量%〜5質量%がより好ましい。0.1質量%以上であると、繊維状カーボンナノホーン集合体の生成が確実となる。また、10質量%以下の場合は、ターゲットコストの増加が抑制できる。
【0025】
容器内は任意の温度で使用でき、好ましくは、0〜100℃であり、より好ましくは室温で使用することが大量合成や低コスト化のためにも適当である。
【0026】
容器内には、窒素ガスや、不活性ガスなどを単独で又は混合して導入することで上記の雰囲気とする。これらのガスは反応容器内を流通し、生成する物質をこのガスの流れによって回収することが出来る。また導入したガスにより閉鎖雰囲気としてもよい。雰囲気ガス流量は、任意の量を使用できるが、好ましくは0.5L/min−100L/minの範囲が適当である。ターゲットが蒸発する過程ではガス流量を一定に制御する。ガス流量を一定にするには、供給ガス流量と排気ガス流量とを合わせることで行うことができる。常圧付近で行う場合は、供給ガスで容器内のガスを押出して排気することで行うことができる。
以上のようにして得られる繊維状カーボンナノホーン及びカーボンナノホーン集合体は、その炭素骨格の一部が触媒金属元素、窒素原子等で置換されていてもよい。
【0027】
カーボンナノホーン集合体に微細な孔を開ける(開孔)場合は、酸化処理によって行うことができる。酸化処理することで、五員環や七員環のような欠陥部が酸化される。その結果、側面や先端部などの五員環や七員環を有する部位が開孔する。この酸化処理により、開孔部に酸素を含んだ表面官能基が形成される。また酸化処理は、気相プロセスと液相プロセスを使用できる。気相プロセスの場合は、雰囲気ガスを空気、酸素、二酸化炭素が使用でき、コストの観点から空気が適している。また、温度は、300〜650℃の範囲が使用でき、400〜550℃がより適している。300℃以上では、ほとんど炭素が燃えずに開孔することができないという懸念はない。また、650℃以下ではカーボンナノホーン集合体の全体が燃焼することを抑制できる。液相プロセスの場合、硝酸、硫酸、過酸化水素等が利用できる。硝酸の場合は、室温から120℃の温度範囲で使用できる。120℃以下であると酸化力が高くなりすぎることがなく、必要以上に酸化されることがない。過酸化水素の場合、室温〜100℃の温度範囲で使用でき、40℃以上が好ましい。40℃以上では酸化力が効率的に作用し、効率よく開孔を形成できる。また液相プロセスの場合、光照射を併用するとより効果的である。
【0028】
カーボンナノホーン集合体の生成時に含まれる触媒(金属)は、硝酸、硫酸、塩酸中で溶解するため除去できる。使いやすさの観点から、塩酸が適している。触媒を溶解する温度は適宜選択できるが、触媒を十分に除去する場合は、70℃以上に加熱して行うことが望ましい。また、触媒がカーボンナノホーン集合体生成時に炭素被膜で覆われる場合があるため、炭素被膜を除去するために前処理を行うことが望ましい。前処理は250〜450℃程度で空気中で加熱することが望ましい。
【0029】
得られるカーボンナノホーン集合体は、不活性ガス、水素、真空中で熱処理することで結晶性を向上させることができる。熱処理温度は、800〜2000℃が使用できるが、好ましくは1000〜1500℃である。また、開孔を形成する酸化処理により形成される表面官能基はこの熱処理により除去することもできる。その熱処理温度は、150〜2000℃が使用できる。表面官能基としてカルボキシル基、水酸基等を除去するには150℃〜600℃が望ましい。表面官能基としてカルボニル基等の除去は、600℃以上が望ましい。また、表面官能基は、還元することで除去することができる。還元は、水素などの気体雰囲気下又はヒドラジン等の液体雰囲気で行うことができる。
【0030】
上記繊維状カーボンナノホーン集合体と球状のカーボンナノホーン集合体の混合物(以下、カーボンナノホーン集合体混合物ともいう)は、そのまま、あるいは繊維状のカーボンナノホーン集合体を単離して、電極材料に使用することができる。また、カーボンナノホーン集合体混合物に、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、グラフェン、カーボンブラック、フラーレン、黒鉛、非晶質炭素の1種類、または、複数が混在したナノカーボン複合体として電極材料に用いることができる。カーボンナノホーン集合体混合物は、そのまま、あるいは繊維状のカーボンナノホーン集合体を単離して、触媒あるいは触媒担持体として使用することができる。このような電極材料や触媒は、リチウムイオン電池、燃料電池、電気化学アクチュエータ、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、有機ラジカル電池、太陽電池、空気電池、硫黄電池等の電極材料や触媒として用いることができる。
【0031】
〔リチウムイオン電池〕
リチウムイオン電池においては、本発明により作製されたカーボンナノホーン集合体混合物を電極の導電材として、リチウムイオン電池用活物質と共に電極材料として使用することができる。この電極材料は、正極及び負極に使用でき、正極には正極活物質と共に、負極には負極活物質と共に導電材としてのカーボンナノホーン集合体混合物を含む。得られた正極及び負極は、電解質、必要によりセパレータの使用により、リチウム二次電池を作製することができる。
【0032】
電解質としては、例えば、LiPF、LiClO、LiBF、LiAlO,LiAlCl、LiSbF、LiSCN、LiCl,LiCFSO、LiFSI等のリチウム塩を含む非水溶液が用いられ、1種または、2種以上を混合したものを用いることが出来る。また、公知のゲル電解質や固体電解質なども使用できる。
【0033】
電解液の非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどの1種または2種以上が組み合わせて使用される。
【0034】
正極活物質としては、公知のリチウム含有遷移金属酸化物を使用できる。具体的には、LiCoO、LiNiO、LiMn、LiFePO、LiFeSiO、LiFeBO、Li(PO、LiFeP、リチウム過剰層状正極(xLiMnO・(1−x)LiMO(M=Co、Fe又はNi))などが挙げられる。
【0035】
負極活物質としては、公知のものを使用できる。具体的には、ケイ素、ケイ素酸化物等のケイ素化合物や、黒鉛、非晶質炭素等が挙げられる。
【0036】
導電材として、本発明により作製されたカーボンナノホーン集合体混合物の他、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン、又はグラフェンシート等の炭素導電材を用いることができる。また、上記のナノカーボン複合体も導電材として使用することができる。
【0037】
〔燃料電池〕
燃料電池においては、本発明により作製されたカーボンナノホーン集合体は、繊維状と球状の混合物のまま、あるいは繊維状のカーボンナノホーン集合体を単離して触媒として用いることができる。
【0038】
本発明により作製されたカーボンナノホーン集合体は、水素やメタノール等の有機液体燃料から電子を放出させて水素イオンとする反応の触媒活性を有し、且つ、水素イオンと酸素と電子とから水を生成する反応の触媒活性を有することから、燃料電池の触媒としての機能を有する。また、比表面積が大きく、原料の燃料や酸化剤の伝導性や、反応生成物の水素イオンや水の伝導性が極めて高く、さらに、電極内の電子伝導性が高いため、燃料電池の出力を向上させることができる。
【0039】
本発明により作製されたカーボンナノホーン集合体は、さらに触媒機能を有する金属触媒を微粒子として担持又は付着させる機能を有することから、これらを用いた燃料電池において、触媒機能を著しく向上させることができる。担持する金属触媒として、Pt、Ru、Pd、Au、Ag、Co、Cu、Fe、Ni及びこれらの合金や複合体を挙げることができる。カーボンナノホーン集合体を製造する際の炭素ターゲットに含まれる金属触媒はそのまま担持触媒の一部として使用することができる。
【0040】
〔電気化学アクチュエータ〕
電気化学アクチュエータは、電気化学反応や電気二重層の充放電などの電気化学プロセスを駆動力とする素子を示す。本発明により作製されたカーボンナノホーン集合体混合物を電極材料として正極及び負極に使用できる。また、繊維状のカーボンナノホーン集合体は球状のカーボンナノホーン集合体と分離することで、単体で使用することもできる。さらに、繊維状のカーボンナノホーン集合体と球状のカーボンナノホーン集合体の割合を適宜制御して使用することもできる。
【0041】
電気化学アクチュエータは、正極と負極の電極層の間に電解質層で仕切られた積層体の三層で構成される。電解質層は、イオン交換が可能な樹脂層であり、陽イオン交換樹脂に電解質である電解液が含浸されたものである。また、電解質層は、ポリフッ化ビニリデンなどのベースポリマーにイオン液体を混入させたゲル状のものであっても良い。正極と負極の電極層は、ナノカーボン、ポリマー及びイオン液体が使用される。
【0042】
ナノカーボンには、本発明により作製されたカーボンナノホーン集合体、単離した繊維状のカーボンナノホーン集合体に加え、球状のカーボンナノホーン集合体、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンブラック等が使用できる。又、上記のナノカーボン複合体を使用することもできる。
【0043】
〔電気二重層キャパシタ〕
電気二重層キャパシタにおいても、本発明により作製されたカーボンナノホーン集合体を電極材料として用いることができる。繊維状のカーボンナノホーン集合体は、高比表面積・高導電性を有し、さらに繊維状であり、且つ、各々のカーボンナノホーンが放射状であるため、球状のカーボンナノホーンとの接点が多くなり電極内部で容易に導電パスを形成できる。それゆえ、高容量・高出力の電気二重層キャパシタを実現できる。電気二重層キャパシタは、正極と負極の電極層の間にセパレータ層で仕切られた構造である。電解液は、水系または非水系電解質が利用できるが、特に電位範囲の広いイオン液体が高容量化には適している。
【0044】
電気二重層キャパシタ用の電極材料として使用する場合、比表面積が大きいことが好ましい。繊維状のカーボンナノホーン集合体を酸化処理することで、五員環や七員環のような欠陥部が酸化される。その結果、側面や先端部などの五員環や七員環を有する部位が開孔する。それにより、カーボンナノホーンの内部空間を利用でき、比表面積が劇的に増加させることができる。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を示し、さらに詳しく本発明について例示説明する。もちろん、以下の例によって発明が限定されることはない。
【0046】
(実施例1)
窒素雰囲気下で、鉄を1質量%含有した炭素ターゲットをCOレーザーアブレーションすることで繊維状カーボンナノホーン集合体と球状カーボンナノホーン集合体を作製した(サンプル1)。実験の詳細を以下に示す。鉄を1質量%含有したグラファイトターゲットを、2rpmで回転させた。COレーザーのエネルギー密度は、50kW/cmで連続的に照射し、チャンバー温度は室温であった。チャンバー内は、ガス流量を10L/minになるように調整した。圧力は933.254〜1266.559hPa(700〜950Torr)に制御した。また、比較サンプルとして、触媒を含有しない炭素ターゲットを使用してAr雰囲気下と窒素雰囲気下で、他の条件は同じでレーザーアブレーションしたサンプルも作製した(Ar:サンプル2、窒素:サンプル3)。
【0047】
図4は、サンプル1のSEM写真である。繊維状と球状の物質が観察される。繊維状の物質は、直径が30−100nm程度で、長さが数μm−数10μmである。球状の物質は、直径が30−200nm程度の範囲でほぼ均一なサイズのものが多くを占めていた。図1図2図3図5は、生成物のTEM写真である。繊維状の物質は、図1,2の観察結果から、直径1−5nm、長さが40−50nm程度の単層カーボンナノホーンが繊維状に集合していることが分かった。また、図3図5a−5cの観察結果から、球状の物質は、種型、つぼみ型、ダリア型、ペタル−ダリア型のカーボンナノホーン集合体が混在していることが分かった。また黒い粒子をEDX(エネルギー分散型X線分光法)によって分析した結果が図5dである。主に炭素と鉄が検出された。鉄の粒子は、集合体の中心部に多いが、中心から外れたところにも存在していた。
一方、サンプル2,3では、球状の物質が観察されたが、繊維状の物質は観察されなかった。
【0048】
図6は、サンプル1のXPS(X線光電子分光法)結果である。Fe2pスペクトルの位置から、鉄は、0価であることが分かり、炭化物、酸化物を形成していないことが分かった。
【0049】
サンプル1をエタノール中で超音波分散し、分散液を作製した。図7は、得られた分散液を動的光散乱法により測定した溶液中での粒度分布である。100〜300nmと2000nm〜5000nmの領域のサイズ分布が確認される。SEM写真とTEM写真の結果から、前者は球状カーボンナノホーン集合体、後者は繊維状カーボンナノホーン集合体がエタノール中でほぼ単分散状態でいることが分かる。従って、繊維状カーボンナノホーン集合体は、高分散性を有することが分かった。
【0050】
サンプル1をエタノール中で超音波分散し、分散液を作製した。分散液をシリコン基板上に滴下し、乾燥させ薄膜を作製した。膜厚が1μmになるまで繰り返した。また、比較のため、サンプル2を同様の方法で作製した。プローバの探針を1列に4点配置し、外側の電極対に電流Iを流し、内側の電極対間の電圧Vを計測することで抵抗率測定を行った。得られたシート抵抗率は、サンプル1、2でそれぞれ1Ωcm、15Ωcmになった。この結果から、繊維状カーボンナノホーン集合体が含まれることで、導電性が向上することが分かった。
【0051】
(実施例2)
鉄を5質量%含有した炭素ターゲットを使用する以外は実施例1のサンプル1と同様にして繊維状カーボンナノホーン集合体と球状カーボンナノホーン集合体を作製した。得られた生成物をTEM観察、SEM観察を行ったところ、繊維状カーボンナノホーン集合体と球状カーボンナノホーン集合体が両方作製された。どちらのカーボンナノホーン集合体も種型、つぼみ型、ダリア型、ペタル−ダリア型が含まれていた。また繊維状構造と球状構造の比率は、実施例1のサンプル1より、僅かに多かった。
【0052】
(実施例3)
窒素雰囲気下で、鉄を5質量%含有した炭素ターゲットをCOレーザーアブレーションすることで繊維状カーボンナノホーン集合体と球状カーボンナノホーン集合体を作製した。この時、ターゲットは2rpmで回転させた。COレーザーのエネルギー密度は、150kW/cmで連続的に照射し、チャンバー温度は室温であった。チャンバー内は、ガス流量を10L/minになるように調整した。圧力は933.254〜1266.559hPa(700〜950Torr)に制御した。得られた生成物をTEM観察、SEM観察を行ったところ、繊維状カーボンナノホーン集合体と球状カーボンナノホーン集合体が両方作製された。どちらのカーボンナノホーン集合体も種型、つぼみ型、ダリア型、ペタル−ダリア型が含まれていたが、ダリア型とペタル−ダリア型が多かった。また繊維状構造と球状構造の比率は、実施例1のサンプル1より僅かに多かった。
【0053】
(実施例4)
〔リチウムイオン電池〕
実施例4では、本発明であるカーボンナノホーン集合体をリチウムイオン電池の負極の導電材に使用した。黒鉛を92質量%とポリフッ化ビニリデン(PVDF)4質量%とサンプル1(導電剤)4質量%を混合し、さらにN−メチル−2−ピロリジノンを混ぜて十分に撹拌し、負極スラリーを調製した。負極スラリーを厚み10μmの銅箔に厚さ100μmで塗布した。その後、120℃で1時間乾燥させた後、ローラプレスにより電極を加圧成形した。さらに、この電極を2cmに打ち抜いて、負極を作製した。得られた負極と、正極としてのLi箔と、電解液と、セパレータとを用いてリチウムイオン二次電池(試験セル)を作製した(サンプルA1)。電解液は、LiPFをエチレンカーボネートとメチルエチルカーボネート(体積比3:7)の混合溶媒に1M/Lの濃度で溶解させて調製した。セパレータとしては、30μmのポリエチレン製多孔質フィルムを用いた。導電材としてサンプル2と3を使用し、同様の方法で電池を作製した(サンプルB1、サンプルC1)。
【0054】
作製したリチウムイオン電池について以下のようにして充放電特性を調べた。まず、二次電池を充放電試験機にセットし、電圧が0Vに達するまで0.1mA/cmの定電流で充電を行い、0Vの状態で電流を減少させて充電を行った。そして、電流値が50μA/cmになった時点で充電を終了した。放電は、0.1mA/cmの定電流で行い、セル電圧が1.5Vに達した時点で終了し、放電容量を求めた。得られた放電容量は、サンプル1、2、3ともおよそ380mAh/gであった。また、0.1C、2C、5C、10Cで充電容量を測定することで、レート特性評価した(Cレート:1時間で所定の電圧まで放電することを1C)。表1から分かるように、サンプル1を負極の導電材に使用することで、充電レート特性が向上することが分かった。これは、繊維状カーボンナノホーン集合体と高分散性の球状カーボンナノホーン集合体が含まれることで、良好な導電パスが形成され、電池の内部抵抗が下がったためと考えられる。
【0055】
【表1】
【0056】
(実施例5)
〔リチウムイオン電池〕
実施例5では、本発明に係るカーボンナノホーン集合体をリチウムイオン電池の正極の導電材に使用した。正極材料としてNCM523(Unicore Japan(KTX10))、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)、導電材としてサンプル1を、92:4:4(重量比)となるように混合し、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを使ってペーストを調製した。得られたペーストを集電体用のAl箔に厚さ70μmで塗布した。その後、120℃で1時間乾燥させた後、ローラプレスにより電極を加圧成形した。2cmに打ち抜き正極とした。対極は、黒鉛を使用した。電解液は体積比で4:6のエチレンカーボネートとジメチルカーボネートにLiPFを1M/Lで混合した。セパレータは、30μmのポリエチレン製多孔質フィルムを用いて、評価用のリチウムイオン二次電池セルを作製した(サンプルA2)。サンプル2、サンプル3を導電材として使用し、他の条件はサンプル1を使用した場合と同じにして比較サンプルを作製した(サンプルB2、サンプルC2)。得られたセルを充放電試験機にセットし、電圧4.3V−2.5Vの領域で充放電を行った。得られた放電容量は、サンプルA2、B2、C2ともおよそ170mAh/gであった。また、0.1C、2C、5C、10Cで充電容量を測定することで、レート特性評価した。表2から分かるように、サンプル1を正極の導電材に使用することで、放電レート特性が向上することが分かった。これは、サンプル1には繊維状カーボンナノホーン集合体と高分散性の球状カーボンナノホーン集合体が含まれることで良好な導電パスが形成され、電池の内部抵抗が下がったためと考えられる。また、サンプル2とサンプル3は、大きな違いがなかった。
【0057】
【表2】
【0058】
(実施例6)
〔燃料電池〕
実施例1で作製したサンプル1,2,3の触媒活性を電気化学的手法による酸素還元反応により評価した。測定は回転電極を利用した標準的な3極式セルで行った。作用極の回転電極上に、サンプル1、2、3の粉末とフッ素樹脂共重合体溶液(「ナフィオン(Nafion)」の登録商標、デユポン社製)と水を分散させた溶液を作製し、回転電極上に添加することでサンプルを固定した。参照電極はAg/AgClを使用し、対極は白金を使用した。電解質溶液は、0.1MのKOHを用いた。アルカリ溶液中であるので、電位窓を0V〜−0.8Vまでで使用した。電極の回転速度は、1500rpmで行った。電解質溶液を十分に酸素の過飽和にし、0.05mV/sで走査し、電流を測定した。結果を表3に示す。サンプル1は、−0.4Vで電流密度が大きく変化し、触媒活性が高いことが分かった。また、窒素雰囲気下で作製した方が、触媒活性が高いことも分かった。ここで、酸化電流を正とするため還元電流は負である。
【0059】
【表3】
【0060】
(実施例7)
〔燃料電池〕
実施例7では、本発明であるカーボンナノホーン集合体を燃料電池の触媒担持体として使用した。1gの塩化白金酸水和物を70℃の水に溶かし、亜硫酸ナトリウムを2g加えて攪拌する。水酸化ナトリウムによりpHを5程度に制御後、実施例1で作製したサンプル1をおよそ1.5g加える。30%過酸化水素水を50ml加え、pHが5になるように調整する。その後室温にして、遠心分離によりPt触媒を担持したサンプル1を分離し、100℃で乾燥する。その後、水素電還元する。Pt担持したサンプル1を、酸素中での熱重量分析することで担持率が20%であることを確認した(Pt担持サンプル1)。また、比較のために通常のサンプル2、サンプル3にPtを同様の手法で担持し(Pt担持サンプル2、Pt担持サンプル3)、熱重量分析によって担持率が20%であることを確認した。Pt触媒の触媒活性を電気化学的手法によるメタノール酸化反応により評価した。測定は標準的な3極式セルで行った。作用極は、カーボンシートに触媒を塗布して作製し、参照電極はAg/AgClを使用し、対極は白金を使用した。電解質液は、1MのCHOHと0.5MのHSOとなるよう調製した。そのときの0.5Vvs.RHEでの比活性(A/g-Pt)を表4に示す。この場合、3種類の触媒を比較すると、本発明によるサンプル1に担持されたPt触媒は、サンプル2、サンプル3に担持されたPt触媒よりもメタノール酸化の比活性が増加していることが分かった。また、窒素が含んだ場合は、窒素なしに比べ触媒活性が向上していた。
【0061】
【表4】
【0062】
(実施例8)
〔アクチュエータ〕
実施例8では、本発明に係るカーボンナノホーン集合体を電気化学アクチュエータの電極材料として使用した。実施例1で作製したサンプル1(50mg)、ポリフッ化ビニリデン(ヘキサフルオロプロピレン)(PVDF−HFP)(80mg)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラボレート(EMI−BF、イオン液体)(120mg)をジメチルアセトアミド(DMAC)に混ぜ、超音波分散させることで電極液を作製した。得られた電極液を3cm×3cmの型に入れ、溶媒を乾燥させて、電極層を得た。EMI−BF(100mg)、PVDF−HFP(100mg)をメチルペンタノンとプロピオンカーボネートに溶かし、加熱、撹拌することで電解質液を作製した。得られた電解質液を3cm×3cmの型に入れ、溶媒を乾燥させて、電解質層を得た。電解質層を電極層ではさみ、ホットプレスすることで、三層構造のアクチュエータ素子を作製した(サンプルA3)。実施例1で作製したサンプル2、3も同様の条件で三層構造のアクチュエータ素子を作製した(サンプルB3、サンプルC3)。電圧をかけると電解質層内のイオンが移動することで変形する。サンプルA3、サンプルB3、サンプルC3を比較すると、サンプルA3の変形量が一番大きく、サンプルB3とサンプルC3はほぼ同じであった。従って、繊維状カーボンナノホーン集合体と球状カーボンナノホーン集合体が混在している方が、特性が優れることが分かった。また、単層CNTとサンプル2を混ぜて作製した電極(サンプルD3)の変形量は、サンプル2のみを使用したサンプルB3よりは大きいが、サンプルA3よりは小さかった。
【0063】
(実施例9)
実施例9では、本発明に係るカーボンナノホーン集合体を電気化学アクチュエータの電極材料として使用した。実施例1で作製したサンプル1を空気中で酸化処理することで、開孔した。開孔処理は、空気中で1℃/minの昇温速度で450℃まで加熱し、サンプル4を作製した。得られた試料は、カーボンナノホーンの内部空間を利用できるため、サンプル1、2、3のおよそ3倍の比表面積になった。サンプル4を使用して、実施例8と同様の条件で、三層構造のアクチュエータ素子を作製した(サンプルD3)。電圧による変形量は、サンプルD3がサンプルA3に比べ大きくなった。これは、開孔処理により比表面積が大きくなったためである。
【0064】
(実施例10)
〔電気二重層キャパシタ〕
実施例10では、本発明であるカーボンナノホーン集合体を電気二重層キャパシタの電極材料として使用した。実施例1で作製したサンプル1を90質量%、PVDFを10質量%になるように混合し、さらにN−メチル−2−ピロリジノンを混ぜ十分に攪拌し、ペーストを作製した。得られたペーストを集電体に厚さ約50μmで塗布した(正極、負極)。その後、120℃で10分間乾燥させた後、ロールプレスにより電極を加圧成形した。さらに、この電極を60℃で24時間真空乾燥し、直径12mmの円形に打ち抜いた。電解液はイオン液体(EMI−BF)、セパレータはガラスフィルタを用いて、コインセルを作製した(サンプルA4)。
また、実施例1で作製したサンプル2、サンプル3、及び実施例9で作製したサンプル4を用いて、サンプル1と同様の条件でコインセルを作製した(サンプルB4、サンプルC4、サンプルD4)。
セル(サンプルA4〜D4)を充放電試験機にセットし、電圧が0Vから3.0Vまで定電流で充電と放電を行った。レート特性(急速充放電性)は、上記と同様の電圧の範囲において1、20、40 A/gで放電特性を評価した。低レートでの容量はサンプルD4が最も大きく比表面積に依存して決まることが分かった。高レートでは、サンプルA4、サンプルD4が放電速度の増加による容量減少が小さかった。従って、繊維状カーボンナノホーンを含むことで、電極内部での抵抗が減少することが分かった。
【0065】
【表5】
【0066】
(付記1):
長さが1μm以上の繊維状の炭素構造体であって、その表面に複数の突起を有し、
前記突起は単層カーボンナノホーンである、繊維状のカーボンナノホーン集合体。
(付記2):
直径が30nm〜200nmであり、長さが1μm〜100μmであることを特徴とする付記1に記載の繊維状のカーボンナノホーン集合体。
(付記3):
前記単層カーボンナノホーンは、直径が1nm〜5nm、長さが30nm〜100nmであり、先端がホーン状であることを特徴とする付記1又は2に記載の繊維状のカーボンナノホーン集合体。
(付記4):
前記繊維状の炭素構造体の内部に触媒金属が取込まれていることを特徴とする付記1〜3のいずれか1項に記載の繊維状のカーボンナノホーン集合体。
(付記5):
付記1〜4のいずれか1項に記載の繊維状のカーボンナノホーン集合体と、複数の単層カーボンナノホーンが球状に繋がった球状のカーボンナノホーン集合体と、を含むカーボンナノホーン集合体混合物。
(付記6):
付記1〜4のいずれか1項に記載の繊維状のカーボンナノホーン集合体もしくは付記5に記載のカーボンナノホーン集合体混合物を電極材料に使用したリチウムイオン二次電池。
(付記7):
付記1〜4のいずれか1項に記載の繊維状のカーボンナノホーン集合体もしくは付記5に記載のカーボンナノホーン集合体混合物を触媒又は触媒担持体に使用した燃料電池。
(付記8):
付記1〜4のいずれか1項に記載の繊維状のカーボンナノホーン集合体もしくは付記5に記載のカーボンナノホーン集合体混合物を電極に使用した電気化学アクチュエータ。
(付記9):
付記1〜4のいずれか1項に記載の繊維状のカーボンナノホーン集合体もしくは付記5に記載のカーボンナノホーン集合体混合物を電極に使用した電気二重層キャパシタ。
(付記10):
長さが1μm以上の炭素構造体であって、その表面に複数の突起を有し、前記突起は単層カーボンナノホーンである、繊維状のカーボンナノホーン集合体の製造方法であって、
触媒含有炭素ターゲットを配置した容器内を、不活性ガス、窒素ガス、または、混合雰囲気にし、
前記容器内で前記触媒含有炭素ターゲットを回転させながらレーザーアブレーションにより触媒含有炭素ターゲットを蒸発させ、
前記触媒含有炭素ターゲットが蒸発する過程でガス流量を一定に制御する、繊維状のカーボンナノホーン集合体の製造方法。
(付記11):
長さが1μm以上の炭素構造体であって、その表面に複数の突起を有し、前記突起は単層カーボンナノホーンである、繊維状のカーボンナノホーン集合体の製造方法であって、
触媒含有炭素ターゲットを配置した容器内を、不活性ガス、窒素ガス、または、混合雰囲気にし、
前記容器内で前記触媒含有炭素ターゲットを回転させながらレーザーアブレーションにより触媒含有炭素ターゲットを蒸発させ、
前記触媒含有炭素ターゲットが蒸発する過程でガス流量を一定に制御し、繊維状のカーボンナノホーン集合体と複数の単層カーボンナノホーンが球状に繋がった球状のカーボンナノホーン集合体とを含むカーボンナノホーン集合体混合物を得、
前記カーボンナノホーン集合体混合物から、前記繊維状のカーボンナノホーン集合体を単離する、カーボンナノホーン集合体の製造方法。
(付記12):
付記1〜4のいずれか1項に記載の繊維状のカーボンナノホーン集合体もしくは付記5に記載のカーボンナノホーン集合体混合物に、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、グラフェン、カーボンブラック、フラーレン、黒鉛、非晶質炭素の1種類、または、複数が混在していることを特徴とするナノカーボン複合体。
(付記13):
付記1〜4のいずれか1項に記載の繊維状のカーボンナノホーン集合体もしくは付記5に記載のカーボンナノホーン集合体混合物、もしくは付記12に記載のナノカーボン複合体を含む電極材料。
(付記14):
付記1〜4のいずれか1項に記載の繊維状のカーボンナノホーン集合体もしくは付記5に記載のカーボンナノホーン集合体混合物、もしくは付記12に記載のナノカーボン複合体と、リチウムイオン電池用活物質とを含む電極材料。
(付記15):
付記1〜4のいずれか1項に記載の繊維状のカーボンナノホーン集合体もしくは付記5に記載のカーボンナノホーン集合体混合物を使用した触媒。
(付記16):
付記1〜4のいずれか1項に記載の繊維状のカーボンナノホーン集合体もしくは付記5に記載のカーボンナノホーン集合体混合物を使用した触媒担持体。
【0067】
以上、実施形態(及び実施例)を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態(及び実施例)に限定されものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる
この出願は、2015年3月16日に出願された日本出願特願2015−052185及び2015年6月22日に出願された日本出願特願2015−124577を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7