特許第6179682号(P6179682)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6179682
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】空隙配置構造体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/01 20060101AFI20170807BHJP
   G01N 21/3581 20140101ALI20170807BHJP
   B01D 67/00 20060101ALI20170807BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   G01N21/01 B
   G01N21/3581
   B01D67/00
   B01D69/00
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-570646(P2016-570646)
(86)(22)【出願日】2016年1月19日
(86)【国際出願番号】JP2016051405
(87)【国際公開番号】WO2016117541
(87)【国際公開日】20160728
【審査請求日】2017年5月24日
(31)【優先権主張番号】特願2015-9996(P2015-9996)
(32)【優先日】2015年1月22日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河原 直樹
(72)【発明者】
【氏名】萬壽 優
(72)【発明者】
【氏名】近藤 孝志
(72)【発明者】
【氏名】神波 誠治
【審査官】 立澤 正樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−277358(JP,A)
【文献】 特開2010−42349(JP,A)
【文献】 実開昭59−10879(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/01
B01D 67/00
B01D 69/00
G01N 21/3581
G01N 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する第1主面および第2主面を有し、前記第1主面および前記第2主面を貫通する複数の空隙部を有する膜状の空隙配置構造体であって、
前記第2主面上の一部の領域であり、前記第2主面の法線方向から見た平面視において前記複数の空隙部のうち3つ以上と接する少なくとも1つの領域において、前記第2主面から前記第2主面の法線方向に突出した突起を有し、
前記第1主面の法線方向に貫通する複数の第1空隙部を有する膜状の第1パターンと、前記第1主面の法線方向に貫通する複数の第2空隙部を有する膜状の第2パターンとを、前記第1主面上で重ね合わせてなる形状を有し、
前記第1主面の法線方向から見た平面視において、前記複数の第1空隙部の各々は前記複数の第2空隙部のうちの3つ以上と重なっており、前記複数の第2空隙部の各々は前記複数の第1空隙部のうちの3つ以上と重なっており、
前記空隙部は、前記複数の第1空隙部と前記複数の第2空隙部との重複部分であり、
前記第1パターンと前記第2パターンとが重複する交差領域のみに前記突起を有する、空隙配置構造体。
【請求項2】
前記領域を3つ以上有し、一つおきの前記領域が前記交差領域に相当する、請求項に記載の空隙配置構造体。
【請求項3】
前記第1パターンと前記第2パターンとは同一形状であり、
前記形状は、前記第1パターンと前記第2パターンとを前記第1主面に水平な方向の位置をずらして重ね合わせてなる形状である、請求項またはに記載の空隙配置構造体。
【請求項4】
準周期構造体または周期構造体である、請求項1〜のいずれか1項に記載の空隙配置構造体。
【請求項5】
前記突起を除いた部分の厚みが30μm以下である、請求項1〜のいずれか1項に記載の空隙配置構造体。
【請求項6】
前記複数の空隙部の孔サイズが0.5μm以下である、請求項1〜のいずれか1項に記載の空隙配置構造体。
【請求項7】
前記第1主面に突起を有していない、請求項1〜のいずれか1項に記載の空隙配置構造体。
【請求項8】
請求項に記載の空隙配置構造体の製造方法であって、
前記第1パターンに相当する第1構造体を形成する第1パターン形成工程と、
前記第2パターンに相当する第2構造体を形成し、前記第1構造体と前記第2構造体とが結合されてなる前記空隙配置構造体を得る、第2パターン形成工程とを含み、
前記第2構造体は、少なくとも前記第1パターンと前記第2パターンとが重複する交差領域において、前記第2主面上に前記第2主面の法線方向に突出した突起を含む、製造方法。
【請求項9】
前記第1パターン形成工程において、第1レジストを用いたリソグラフィーにより前記第1構造体を形成し、その後、前記第1レジストを除去し、
前記第2パターン形成工程において、第2レジストを用いたリソグラフィーにより前記第2構造体を形成する、請求項に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか1項に記載の空隙配置構造体を用いた細胞の濾過方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空隙配置構造体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
検体中の目的物(被測定物)の量などを測定する方法として、複数の孔を有する空隙配置構造体をフィルタとして用いて、検体中の目的物を空隙配置構造体に捕集し、目的物が捕集された空隙配置構造体を測定に供する方法が知られている。
【0003】
ここで、目的物が大気中に存在するPM2.5、血液中に含まれる小胞体などの流体(検体)中に含まれる微小な物体である場合、微小な目的物を捕集するために、それらの目的物よりも小さな孔を有する多孔質(メッシュ状)構造体が必要となる。
【0004】
しかし、孔の微細化には技術的に限界がある。また、孔のサイズが製造可能な場合であっても、孔のサイズが小さくなればなる程(例えば、1μm以下)、歩留まり率の低下、製造工程および設備の複雑化などにより、製造コストが高くなるといった問題が生じる。
【0005】
特許文献1(国際公開第2014/064410号)の段落[0047]および図8、ならびに、特許文献2(実開昭59−10879号公報)には、複数の貫通孔(空隙部)を有する2枚の空隙配置構造体を、一方の空隙配置構造体の空隙部の1つが他方の空隙配置構造体の空隙部の1つのみに部分的に重なるように積層してなる空隙配置構造体が開示されている。このようにしてフィルタを作製することで、微小な空隙部を有するフィルタを比較的容易に作製することができる。
【0006】
また、特許文献3(特開2010−42349号公報)および特許文献4(特開平11−276820号公報)には、2層の平行に配列された線材群を互いに向きが90°異なるように積層することで網目状構造体を形成し、さらに複数の網目状構造体を互いに網目の位置がずれるように積層することで、より小さな網目が形成されたフィルタ(空隙配置構造体)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2014/064410号
【特許文献2】実開昭59−10879号公報
【特許文献3】特開2010−42349号公報
【特許文献4】特開平11−276820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
空隙配置構造体の厚みは、必要な機械的強度を維持できる範囲で、薄い方が好ましい。空隙配置構造体の厚みが厚くなると、それをフィルタとして用いる場合、一般に流体を通過させた際の圧力損失が大きくなる。空隙配置構造体の圧力損失が大きくなると、流速が遅くなったり、流体を流すことが困難になったりするため、処理効率が低下するといった問題があるからである。また、空隙配置構造体の厚みが厚くなると、それを測定デバイスとして用いる場合、目的物(被測定物)の付着による影響が小さくなるため、測定感度が低下するという問題もある。
【0009】
しかし、特許文献1および2に開示される空隙配置構造体は、2層の空隙配置構造体の厚みが必要であるため、全体の厚みが厚くなってしまう。さらに、特許文献3および4に開示される空隙配置構造体においては、2層の平行に配列された線材群から構成される網目より更に小さな網目を形成するためには、少なくとも4層の線材群を積層する必要がある。したがって、特許文献3および4に開示される空隙配置構造体は、さらに厚みが厚くなってしまう。
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑み、微小な空隙部を有しつつ、厚みが薄く、十分な強度を有する空隙配置構造体、および、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[1] 互いに対向する第1主面および第2主面を有し、前記第1主面および前記第2主面を貫通する複数の空隙部を有する膜状の空隙配置構造体であって、
前記第2主面上の一部の領域であり、前記第2主面の法線方向から見た平面視において前記複数の空隙部のうち3つ以上と接する少なくとも1つの領域において、前記第2主面から前記第2主面の法線方向に突出した突起を有する、空隙配置構造体。
【0012】
[2] 前記第1主面の法線方向に貫通する複数の第1空隙部を有する膜状の第1パターンと、前記第1主面の法線方向に貫通する複数の第2空隙部を有する膜状の第2パターンとを、前記第1主面上で重ね合わせてなる形状を有し、
前記第1主面の法線方向から見た平面視において、前記複数の第1空隙部の各々は前記複数の第2空隙部のうちの3つ以上と重なっており、前記複数の第2空隙部の各々は前記複数の第1空隙部のうちの3つ以上と重なっており、
前記空隙部は、前記複数の第1空隙部と前記複数の第2空隙部との重複部分であり、
前記第1パターンと前記第2パターンとが重複する交差領域のみに前記突起を有する、[1]に記載の空隙配置構造体。
【0013】
[3] 前記領域を3つ以上有し、一つおきの前記領域が前記交差領域に相当する、[2]に記載の空隙配置構造体。
【0014】
[4] 前記第1パターンと前記第2パターンとは同一形状であり、
前記形状は、前記第1パターンと前記第2パターンとを前記第1主面に水平な方向の位置をずらして重ね合わせてなる形状である、[2]または[3]に記載の空隙配置構造体。
【0015】
[5] 準周期構造体または周期構造体である、[1]〜[4]のいずれかに記載の空隙配置構造体。
【0016】
[6] 前記突起を除いた部分の厚みが30μm以下である、[1]〜[5]のいずれかに記載の空隙配置構造体。
【0017】
[7] 前記複数の空隙部の孔サイズが0.5μm以下である、[1]〜[6]のいずれかに記載の空隙配置構造体。
【0018】
[8] 前記第1主面に突起を有していない、[1]〜[7]のいずれかに記載の空隙配置構造体。
【0019】
[9] [2]に記載の空隙配置構造体の製造方法であって、
前記第1パターンに相当する第1構造体を形成する第1パターン形成工程と、
前記第2パターンに相当する第2構造体を形成し、前記第1構造体と前記第2構造体とが結合されてなる前記空隙配置構造体を得る、第2パターン形成工程とを含み、
前記第2構造体は、少なくとも前記第1パターンと前記第2パターンとが重複する交差領域において、前記第2主面上に前記第2主面の法線方向に突出した突起を含む、製造方法。
【0020】
[10] 前記第1パターン形成工程において、第1レジストを用いたリソグラフィーにより前記第1構造体を形成し、その後、前記第1レジストを除去し、
前記第2パターン形成工程において、第2レジストを用いたリソグラフィーにより前記第2構造体を形成する、[9]に記載の製造方法。
【0021】
[11] [1]〜[8]のいずれかに記載の空隙配置構造体を用いた細胞の濾過方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、微小な空隙部を有しつつ、厚みが薄く、十分な強度を有する空隙配置構造体、および、その製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施形態1の空隙配置構造体の構造を示す平面図である。
図2】実施形態1の空隙配置構造体を構造を説明するための模式図である。(a)は斜視図であり、(b)は平面図である。
図3】(a)は、実施形態1の空隙配置構造体の変形例の構造を示す平面図である。(b)は、実施形態1の空隙配置構造体の別の変形例の構造を示す平面図である。
図4】実施形態2の空隙配置構造体の構造を示す模式図である。(a)は平面図であり、(b)は斜視図である。
図5】実施形態2の空隙配置構造体の変形例の構造を示す平面図である。
図6】実施形態2の空隙配置構造体の別の変形例の構造を示す平面図である。
図7】実施形態2の空隙配置構造体の製造方法を説明するための断面図である。
図8】空隙配置構造体の厚みと圧力損失との関係を示すグラフである。
図9】実施形態2の空隙配置構造体を測定デバイスとして用いる場合の効果を説明するためのシミュレーション結果に用いた空隙配置構造体の単位構造を示す斜視図である。(a)は実施例1、(b)は比較例1、(c)は比較例2の単位構造を示す。
図10】実施形態2の空隙配置構造体を測定デバイスとして用いる場合の効果を説明するためのシミュレーション結果を示す透過率スペクトルである。(a)は実施例1、(b)は比較例1、(c)は比較例2の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表す。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、実際の寸法関係を表すものではない。
【0025】
各実施形態は例示であり、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。実施形態2以降では実施形態1と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については実施形態毎には逐次言及しない。
【0026】
[実施形態1]
(空隙配置構造体)
本実施形態の空隙配置構造体1は、基本的には、図2(a)に示されるような、互いに対向する一対の主面(第1主面1aおよび第2主面1b)を有し、第1主面1aおよび第2主面1bを貫通する複数の空隙部1cを有する膜状の構造体である。
【0027】
ただし、本実施形態の空隙配置構造体1は、図1に示されるように、第2主面1b上の一部の領域であり、第2主面1b(第1主面1a)の法線方向から見た平面視において複数の空隙部1cのうち4つと接する複数の領域1dにおいて、第2主面1bから第1主面1aの法線方向(第1主面1aの反対側)に突出した突起を有することを特徴とする。なお、図2において突起は記載していない。
【0028】
本実施形態の空隙配置構造体においては、突起が設けられる領域が3つ以上の空隙部と接する領域(桟部の交差部分)であるため、この突起により空隙配置構造体において3つ以上の方向から応力がかかる部分が補強され、空隙配置構造体の強度が向上する。したがって、本実施形態の空隙配置構造体は、厚みを薄くしても、十分な強度を維持することが可能である。
【0029】
なお、国際公開第2012/29629号の図1等には、空隙配置構造体(周期的構造体)を構成する単位構造体において、2つの空隙部と接する領域(桟部の途中)において、主面に垂直な方向に突出した突起を有する空隙配置構造体が開示されている。しかしながら、この突起は、3つ以上の空隙部と接する領域に設けられたものではなく、3つ以上の方向から応力がかかるこの領域を補強することはできない。
【0030】
図2(a)および図2(b)を参照して、例えば、複数の空隙部1cは、第1主面1a(第2主面1b)に水平な方向において周期的に配置されている。ただし、空隙部1cは、その全てが周期的に配置されていてもよく、本発明の効果を損なわない範囲で、一部の空隙部1cが周期的に配置され、他の空隙部1cが非周期的に配置されていてもよい。
【0031】
空隙配置構造体1は、好ましくは準周期構造体や周期構造体である。準周期構造体とは、並進対称性は持たないが配列には秩序性が保たれている構造体のことである。準周期構造体としては、例えば、2次元準周期構造体としてペンローズ構造が挙げられる。周期構造体とは、並進対称性に代表される様な空間対称性を持つ構造体のことであり、好ましくは2次元周期構造体である。2次元周期構造体としては、例えば、メッシュフィルタ、2次元回折格子などが挙げられる。
【0032】
2次元周期構造体としては、例えば、図2に示すようなマトリックス状に一定の間隔で空隙部1cが配置された膜状構造体(格子状構造体)が挙げられる。図2に示す空隙配置構造体1は、その第1主面1a(第2主面1b)の法線方向からみて正方形の空隙部1cが、該正方形の各辺と平行な2つの配列方向(図中の縦方向と横方向)に等しい間隔で設けられた膜状構造体である。
【0033】
空隙配置構造体1は、少なくともその表面を含む一部が導体で形成されていることが好ましく、空隙配置構造体の全体が導体で形成されていることがより好ましい。ここで、導体とは、電気を通す物体(物質)のことであり、金属だけでなく半導体も含まれる。
【0034】
金属としては、ニッケル、金、銀、銅、白金、鉄、クロム、シリコン、ゲルマニウム、およびこれらの材料を含む合金などが挙げられる。好ましくはニッケル、金、銀、銅、白金およびクロムであり、さらに好ましくはニッケルおよび金である。
【0035】
また、半導体としては、例えば、IV族半導体(Si、Geなど)や、II−VI族半導体(ZnSe、CdS、ZnOなど)、III−V族半導体(GaAs、InP、GaNなど)、IV族化合物半導体(SiC、SiGeなど)、I−III−VI族半導体(CuInSeなど)などの化合物半導体、有機半導体が挙げられる。
【0036】
なお、図1に示す領域1dは、平面視において複数の空隙部1cと点で接する領域であるが、図3(a)および図3(b)に示すように、平面視において複数の空隙部1cと線で接する領域であってもよい。
【0037】
(フィルタ)
本実施形態の空隙配置構造体は、流体(検体)中に含まれる目的物を捕集するためのフィルタ(篩い)として用いることができる。
【0038】
流体は、例えば、気体または液体である。目的物としては、例えば、流体中に含まれる無機物、有機物もしくはそれらの複合物、または、生物由来物質が挙げられる。本明細書において、「生物由来物質」とは、細胞(真核生物)、細菌(真性細菌)、ウィルス等の生物に由来する物質を意味する。細胞(真核生物)としては、例えば、卵、精子、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、ES細胞、幹細胞、間葉系幹細胞、単核球細胞、単細胞、細胞塊、浮遊性細胞、接着性細胞、神経細胞、白血球、リンパ球、再生医療用細胞、自己細胞、がん細胞、血中循環がん細胞(CTC)、HL−60、HELA、菌類を含む。細菌(真性細菌)としては、例えば、グラム陽性菌、グラム陰性菌、大腸菌、結核菌を含む。ウィルスとしては、例えば、DNAウィルス、RNAウィルス、ロタウィルス、(鳥)インフルエンザウィルス、黄熱病ウィルス、デング熱病ウィルス、脳炎ウィルス、出血熱ウィルス、免疫不全ウィルスを含む。なお、目的物は、流体中に存在する状態で形状を有しているものであればよく、固体に限らず、液体、ゾルまたはゲル等であってもよい。
【0039】
気体中の無機物、有機物もしくはそれらの複合物としては、例えば、大気中のPM(Particle Matter)2.5や、SPM(Suspended Particulate Matter)、PM10、花粉などが挙げられる。なお、PM2.5とは、大気中に浮遊する粒子状物質であり、粒子径が概ね2.5μm以下のものである。
【0040】
上述の目的物以外にも、例えば以下のような目的物の捕集に、本実施形態の空隙配置構造体を適用することができる。
【0041】
液中の細胞(例えば、直径9μmの略球形のHL60が5×10個含まれた総量1mLのPBS液)を濾過するために、上記実施形態の空隙配置構造体を適用することができる。
【0042】
また、癌の新しい検査方法として、血中の癌細胞由来のエクソソーム(小胞体)を定量する研究が進められている。エクソソームのサイズは数百nm程度であり、白血球、赤血球および他の血液細胞を除去した血液サンプルから、エクソソームのみを捕集(濾過および濃縮)するために、上記実施形態の空隙配置構造体を適用することができる。
【0043】
また、ノロウィルスは培養できないため、発病後、かなりの時間が経過して、ウイルス数が増えないと検査できないという問題があるが、微量なウィルスを空隙配置構造体で捕集(濾過および濃縮)できれば、培養不要で迅速な検査が可能になる。このため、上記実施形態の空隙配置構造体は、このようなウィルスの選択的な捕集に適用することもできる。
【0044】
目的物を「捕集する」とは、例えば、フィルタの孔に物理的に目的物を保持することや、目的物が吸着しやすいように修飾されたフィルタの表面に直接的または間接的に目的物を付着させることをいう。
【0045】
フィルタとして用いられる空隙配置構造体の空隙部1cの大きさは、目的物を捕集できる大きさであれば特に限定されないが、例えば、物理的に目的物が通過できないか、または通過し難い大きさであることが好ましい。なお、空隙配置構造体をフィルタとして用いる場合は、空隙配置構造体の空隙部1cの大きさがフィルタの孔の大きさに相当する。
【0046】
空隙配置構造体1の開口率(空隙部1cを含む空隙配置構造体の主面の面積に対する空隙部1cの開口面積の比率)は、空隙配置構造体を通過する流体の流速を高める観点から3%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましい。
【0047】
なお、空隙配置構造体の強度保証の観点からは、開口率が80%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましい。
【0048】
空隙配置構造体の厚みは、必要な機械的強度を維持できる範囲で、薄い方が好ましい。空隙配置構造体の厚みが厚くなると、一般に流体を通過させた際の圧力損失が大きくなる。空隙配置構造体の圧力損失が大きくなると、流速が遅くなったり、流体を流すことが困難になったりするため、処理効率が低下するといった問題があるからである。
【0049】
本実施形態の空隙配置構造体は、突起を除いた部分の厚みが30μm以下であることが好ましい。該厚みは、より好ましくは24μm以下であり、より好ましくは15μm以下であり、より好ましくは9μm以下であり、さらに好ましくは3μm以下である。
【0050】
空隙配置構造体の厚みに関して、比較試験を行った。具体的には、孔サイズ(D)が0.5μm、ピッチ(P)が1.3μm、厚みが表1に示す厚みである5種類の空隙配置構造体を用意し、それらの圧力損失をマノスターゲージにより測定した。比較試験の結果から求めた空隙配置構造体の厚みと圧力損失との関係を表1および図8に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1および図8に示される結果から、上記厚みが30μm以下である場合、圧力損失は大気圧(101.325kPa)以下となることが分かる。圧力損失が大気圧より大きくなると、空隙配置構造体の破れ等の不具合が生じやすくなる。したがって、フィルタとして用いる空隙配置構造体の厚みは、30μm以下であることが好ましいことが分かる。
【0053】
本実施形態の空隙配置構造体は、基本的に1層から構成されるため、特許文献1〜4に開示される空隙配置構造体よりも、厚みの薄い空隙配置構造体を得る上で有利である。
【0054】
また、本実施形態の空隙配置構造体は、3つ以上の空隙部と接する領域に設けられた突起によって補強されているため、十分な強度を維持したまま従来よりも厚みを薄くすることができる。この点においても、本実施形態の空隙配置構造体は、厚みの薄い空隙配置構造体を得る上で有利である。
【0055】
本実施形態の空隙配置構造体1において、空隙部1cの孔サイズは、500μm以下であることが好ましい。また、ピッチは、1300μm以下であることが好ましい。ミクロンオーダーの粒子をフィルタに捕捉可能となるからである。さらに好ましくは、空隙部1cの孔サイズは、5μm以下であることが好ましい。また、ピッチは、13μm以下であることが好ましい。サブミクロンオーダーの粒子をフィルタに捕捉可能となるからである。
【0056】
空隙配置構造体1は、第1主面1aに突起を有していないことが好ましく、第1主面1aが平坦であることがより好ましい。空隙配置構造体1を用いて傷付きやすい目的物(細胞など)を濾過する場合に、第1主面1a側に目的物が捕捉されるようにすれば、目的物を傷付けずに濾過することができる。
【0057】
フィルタとして用いられる空隙配置構造体の表面は、目的物が吸着しやすいような修飾が施されていてもよい。なお、この表面修飾によって化学的に目的物を捕集できる範囲であれば、空隙配置構造体の空隙部1cの大きさは、物理的に目的物が通過できるような大きさであってもよい。
【0058】
目的物が吸着しやすいような修飾とは、例えば、目的物と親和性の高い物質によるコーティングが挙げられる。他にも、空隙配置構造体の表面にホスト分子を結合する修飾を施し、該ホスト分子に目的物が結合されるようにしてもよい。ここで、ホスト分子とは、目的物を特異的に結合させることのできる分子などであり、ホスト分子と目的物の組み合わせとしては、例えば、抗原と抗体、糖鎖とタンパク質、脂質とタンパク質、低分子化合物(リガンド)とタンパク質、タンパク質とタンパク質、一本鎖DNAと一本鎖DNAなどが挙げられる。
【0059】
(測定デバイス)
また、目的物を捕集した空隙配置構造体(フィルタ)に電磁波を照射し、空隙配置構造体の電磁波特性を用いて目的物(被測定物)の量または特性を測定するための測定デバイスとして用いることができる。
【0060】
空隙配置構造体の電磁波特性を用いた測定方法としては、種々公知の機構を用いることができるが、例えば、FT−IR(フーリエ変換赤外分光法)などの赤外分光法、テラヘルツ時間領域分光法(THz−TDS)が挙げられる。
【0061】
測定に用いられる電磁波は、例えば、フィルタの構造に応じて散乱を生じさせることのできる電磁波であり、具体的には、電波、赤外線、可視光線、紫外線、X線、ガンマ線などである。電磁波の周波数は、特に限定されないが、好ましくは1GHz〜1PHzであり、さらに好ましくは20GHz〜200THz(テラヘルツ波)である。
【0062】
また、電磁波としては、例えば、所定の偏波方向を有する直線偏光の電磁波(直線偏波)や無偏光の電磁波(無偏波)を用いることができる。直線偏光の電磁波としては、例えば、短光パルスレーザを光源としてZnTe等の電気光学結晶の光整流効果により発生するテラヘルツ波や、半導体レーザから出射される可視光や、光伝導アンテナから放射される電磁波等が挙げられる。無偏光の電磁波としては、高圧水銀ランプやセラミックランプから放射される赤外光等が挙げられる。
【0063】
本実施形態の空隙配置構造体は、3つ以上の空隙部と接する領域に突起を有しているため、測定感度が向上し、より微量の被測定物を測定することが可能となる。
【0064】
[実施形態2]
図4を参照して、本実施形態の空隙配置構造体1は、主面の法線方向に貫通する複数の第1空隙部11cを有する膜状の第1パターン11と、主面の法線方向に貫通する複数の第2空隙部12cを有する膜状の第2パターン12とを、同一平面(第1主面1a)上で重ね合わせてなる形状を有している。
【0065】
第1主面1a(第2主面1b)の法線方向から見た平面視において、第1パターン11の複数の第1空隙部11cの各々は第2パターン12の複数の第2空隙部12cのうちの4つと重なっている。逆に、第2パターン12の複数の第2空隙部12cの各々は第1パターン11の複数の第1空隙部11cのうちの4つと重なっている。この複数の第1空隙部11cと複数の第2空隙部12cとの重複部分が、空隙配置構造体1の空隙部1cを構成している。
【0066】
そして、本実施形態の空隙配置構造体は、第1パターン11と第2パターン12との重複部分(交差領域1e)のみにおいて、第2主面1b(第1パターン11の主面11bと第2パターン12の主面12bからなる面)上に第1主面1a(第2主面1b)の法線方向(第1主面1aの反対側)に突出した突起を有する点で、実施形態1とは異なる。
【0067】
第1パターン11および第2パターン12は、図2(a)および図2(b)に示される空隙配置構造体1と同様の形状を有している。第1パターン11は、互いに対向する一対の主面11a,11bと、第1空隙部11cとを有している。同様に、第2パターン12は、互いに対向する一対の主面12a,12bと、第2空隙部12cとを有している。
【0068】
本実施形態の空隙配置構造体においては、上記の構成により、第1パターン11の空隙部(第1空隙部11c)および第2パターン12の空隙部(第2空隙部12c)よりも、小さいサイズの空隙部1cが形成される。例えば、図4(a)に示されるように、第1空隙部11cおよび第2空隙部12cの両方の孔サイズ(図2(a)に示すD)が1.0μm、ピッチ(図2(a)に示すP)が1.4μmである場合、空隙部1cの孔サイズは0.3μmとなり、ピッチは0.7μmとなる。
【0069】
また、本実施形態の空隙配置構造体においては、特許文献1および2に開示される空隙配置構造体のように、一方の空隙配置構造体の空隙部の1つが他方の空隙配置構造体の空隙部の1つのみに部分的に重なっている場合に比べて、空隙部のうち貫通孔を構成する部分の比率を高めやすくなる。したがって、本実施形態の空隙配置構造体は、特許文献1および2に開示されるような空隙配置構造体よりも、開口率の低下を抑制し、ろ過の効率、電磁波測定の効率などの低下を抑制することができる。
【0070】
図5および図6に、本実施形態の空隙配置構造体の変形例を示す。図5に示す変形例は、第1パターン11および第2パターン12が、正六角形の空隙部を有するハニカム状の構造を有している。また、図6に示す変形例は、第1パターン11および第2パターン12が、円形の空隙部を有するハニカム状の構造を有している。これらの変形例において、一方のパターンの1つの空隙部が他方のパターンの3つの空隙部と重なっている。
【0071】
また、図5および図6に示す空隙配置構造体1は、第1パターン11と第2パターン12とが重複する交差領域1eにおいて、第2主面から第2主面の法線方向(第1主面の反対側)に突出した突起を有する。なお、図5および図6においては、簡略化のために交差領域1eの1つのみを示しているが、実際には、第1パターン11と第2パターン12とが重複する部分の全てが交差領域1eである。
【0072】
なお、本実施形態の空隙配置構造体の形状は、上記の形状に限定されず、他にも正三角形、正八角形などの空隙部を有する第1パターン11および第2パターン12から構成されていてもよい。
【0073】
また、本実施形態の空隙配置構造体1においては、第2主面1b上の一部の領域であり、第2主面1bの法線方向から見た平面視において複数の空隙部1cのうち3つ以上と接する複数の領域1d(図1に示す領域1d)が、一つおきに交差領域1eとなっており、その交差領域1eのみに第2主面1bの法線方向に突出した突起を有している。すなわち、複数の領域1dに対して一つおきに突起が設けられている。これにより、空隙部1cのサイズよりも大きい目的物を捕集する際に、目的物を空隙配置構造体1上に安定して捕捉することができ、また、目的物の凝集を抑制し、目的物を空隙配置構造体1の主面上に分散された状態で捕捉することができる。
【0074】
なお、突起は、交差領域1eの全てに設けられている必要はなく、複数の交差領域1eの一部に設けられていてもよい。
【0075】
実施形態1と同様に、本実施形態の空隙配置構造体も、3つ以上の空隙部と接する領域に突起を有しているため、測定感度が向上し、より微量の被測定物を測定することが可能となる。この効果を検証するためのシミュレーション計算を実施した。
【0076】
具体的には、図9を参照して、図9(a)に示されるような単位構造100から構成される空隙配置構造体を実施例1とした。実施例1は、突起1fを有する本実施形態の空隙配置構造体に相当する。また、図9(b)に示されるような単位構造100から構成される空隙配置構造体を比較例1とした。比較例1の空隙配置構造体は、図2に示すような突起のない従来の空隙配置構造体である。さらに、図9(c)に示されるような単位構造から構成される空隙配置構造体を比較例2とした。比較例2の空隙配置構造体は、国際公開第2012/29629号の図1に相当する従来の空隙配置構造体である
各空隙配置構造体を構成する単位構造のパラメータは、表2に示すとおりである。
【0077】
【表2】
【0078】
上記のような実施例1、比較例1および比較例2の空隙配置構造体について、FDTD法(Finite−difference time−domain method:時間領域差分法)による電磁界シミュレーション(Micro−stripes)を行った。実施例1、比較例1および比較例2について、シミュレーションによって得られた透過率スペクトルをそれぞれ図10(a)〜(c)に示す。なお、図中の太線は空隙配置構造体のみの透過率スペクトルを示し、細線は、空隙配置構造体の表面に被測定物(厚み0.1μmの誘電体フィルム)を付加したものについての透過率スペクトルを示す。
【0079】
なお、電磁界シミュレーションの条件は、空隙配置構造体1の基本格子の主面を入射面、その反対面を観測面とし、それら以外の面を周期境界とした。さらに、空隙配置構造体(基本格子)の材料はNiとした。また、電磁波は、波源から、偏光面(電界面)がY方向となるような平面波(直線偏光波)を格子単位の主面に対して垂直に入射した。また、空隙配置構造体を透過した電磁波は、平面波の波源とは逆側に設けた観測面で透過した電磁波が検出されるものとした。平面波の波源と基本格子との距離は270μmとし、基本格子と観測面との間の距離は270μmとした。
【0080】
図10(a)〜(c)に示される透過率スペクトルから、実施例1におけるピーク点付近のスペクトルは、比較例1および2よりもシャープになっていることが分かる。
【0081】
また、金属メッシュに物質が付着すると、被測定物の付着前(太線)に対して付着後(細線)のスペクトルの周波数がシフトする。このシフト変化によるピーク点周波数(図中に細線で示す付着後のスペクトルのピーク極大値における周波数)の透過率差(図中の矢印で示す差)は、比較例1および2よりも実施例1で大きくなった。したがって、シフト変化による透過率差により空隙配置構造体の表面に付着した物質を検出する場合、実施例1が優位になる。
【0082】
なお、実施例1では空隙部1cが4分割されるため、比較例1および2のピッチが2.6μmであるのに対して、実施例1のピッチは1.3μmとなる。このため、ピーク点が高周波側にシフトする。
【0083】
また、付着前後の透過率の基準点を、例えば、ピーク点の波長の1/2の波長(図中の丸囲み部分)とした場合、比較例1および2では透過率差があるために基準がとれないのに対して、実施例1では付着前後の透過率差が生じないため基準点により校正することができる。さらに、実施例では付着前後の透過率の基準点をピーク点の2/3とした場合でも、透過率差が生じていないため基準点により校正することができる。基準点の校正により、スペクトル解析における誤差要因が低減され、微量物質の検出感度を高めることが可能となる。
【0084】
(製造方法)
上記のように、第1パターン11と第2パターン12との重複部分において突起を有する本実施形態の空隙配置構造体は、以下の製造方法により容易に製造することができる。
【0085】
本実施形態の空隙配置構造体の製造方法は、基本的に、
第1パターン11に相当する第1構造体110を形成する第1パターン形成工程と、
第2パターン12に相当する第2構造体120を形成し、第1構造体110と第2構造体120とが結合されてなる空隙配置構造体1を得る、第2パターン形成工程とを含む。
【0086】
以下、各工程について図7を参照して説明する。
(第1パターン形成工程)
本工程では、金属膜3上に堆積法により、第1パターン11に相当する第1構造体110を所定のパターニングで形成する。
【0087】
まず、図7(a)を参照して、基板2を用意する。基板2は、特に限定されないが、例えば、Siからなる。
【0088】
次に、図7(b)を参照して、基板2上に、スパッタリングによりTi膜及びCu膜をこの順序で製膜し、Ti膜及びCu膜からなる積層膜(金属膜3)を形成する。この金属膜3は、後の工程でエッチングによって除去される層であるが、第1パターンを形成する際に、Niのめっきに際してのシード層としても機能する。
【0089】
金属膜3の厚みは、特に限定されないが、後の工程で部分的に除去されるものであるため、本実施形態の空隙配置構造体を得られる範囲内で薄い方が好ましい。具体的には、例えば、金属膜3の厚みは、100〜600nmであることが好ましい。なお、例えば、Ti膜の厚みは20nm程度とすればよく、Cu膜の厚みは200nm〜500nm程度とすればよい。
【0090】
次に、図7(c)を参照して、金属膜3上に第1レジスト41を形成する。例えば、この第1レジスト41は、フォトリソグラフィー法により形成することができる。第1レジスト41は、第1構造体110が形成される部分に相当する位置に、開口を有するようにパターニングされ、主面の法線方向に貫通する複数の第1空隙部11cを有する膜状の第1構造体110が形成されるようにパターニングされる。
【0091】
次に、図7(d)を参照して、第1レジスト41の開口において露出した金属膜3の表面上に、第1構造体110(Ni膜)をめっき法により形成する。このようにして、主面の法線方向に貫通する複数の第1空隙部11cを有する膜状の第1構造体110が形成される。
【0092】
まず、図7(e)を参照して、第1レジスト41を剥離法により除去する。このように、第1構造体110を形成した後、第2形成工程の前に、第1レジスト41を剥離することで、第1構造体110と、後述の第2構造体120とを同一平面(第1主面1a)上に形成することができる。これにより、単に第1構造体110と第2構造体120とを積層するよりも、最終的に得られる空隙配置構造体1の厚みを低減することができる。
【0093】
(第2パターン形成工程)
本工程では、第1構造体110上に堆積法により、第2パターン12に相当する第2構造体120を所定のパターニングで形成し、空隙配置構造体1を得る。
【0094】
まず、図7(f)を参照して、金属膜3および第1構造体110上に、第2レジスト42を形成する。第2レジスト42は、第2構造体120が形成される部分に相当する位置に、開口を有するようにパターニングされ、主面の法線方向に貫通する複数の第2空隙部12cを有する膜状の第2構造体120が形成されるようにパターニングされる。
【0095】
また、パターニングは、図4(a)に示されるように、第1主面1a(第2主面1b)の法線方向から見た平面視において、複数の第1空隙部11cの各々は4つの第2空隙部12cと重なり、かつ、複数の第2空隙部12cの各々は4つの第1空隙部11cと重なるように設計される。これにより、複数の第1空隙部11cと複数の第2空隙部12cとが重なっている部分が、空隙配置構造体1の空隙部1cとなる。
【0096】
なお、本実施形態において、第2レジスト42は、第1レジスト41と同じ形状であり、配置される位置(第1主面1aの水平方向の位置)のみが第1レジスト41とは異なる。
【0097】
このような第1レジスト41および第2レジスト42を、第1パターン11の複数の第1空隙部と第2パターン複数の第2空隙部との重複部分が、均一な大きさおよび形状となるように、位置をずらして形成することで、得られる空隙配置構造体1を準周期構造体または周期構造体とすることができる。例えば、図4に示すような空隙配置構造体を得るためには、第1パターン11と第2パターン12の配置を縦方向および横方向において半ピッチずつずらすようにパターニングすればよい。
【0098】
また、空隙配置構造体1の開口率は、例えば、第1パターン11および第2パターン12における図2(b)にDで示される空隙部の開口サイズとPで示される空隙部の格子間隔(ピッチ)の設計と、第1パターン11と第2パターン12との配置設計とによって、調整することができる。
【0099】
次に、図7(g)を参照して、第2レジスト42の開口において露出した金属膜3および第1構造体110の表面上に、第2構造体120(Ni膜)をめっき法により形成する。これにより、図4(b)に示されるように、第2構造体120は、交差領域1e(第1パターン11と第2パターン12との重複部分)において第2主面上に第2主面の法線方向に突出した突起120eを含むように形成される。
【0100】
次に、図7(h)を参照して、第2レジスト42を剥離法により除去する。
次に、図7(i)を参照して、金属膜3をエッチングにより除去する。エッチング方法としては、例えば、金属膜を溶解するエッチング液に上記の工程で得られた空隙配置構造体の前駆体を浸漬する方法が挙げられる。なお、エッチング液は、例えば、純水を用いたリンスによって洗浄し、その後に乾燥が行われる。
【0101】
上記の工程によって、第1構造体110および第2構造体120から構成される本実施形態の空隙配置構造体1を得ることができる。
【0102】
なお、本実施形態では、レジストを用いて第1構造体および第2構造体を形成したが、他の方法で第1構造体および第2構造体を形成してもよい。例えば、金属、樹脂等を蒸着することにより、第1構造体および第2構造体を形成しもよい。また、第1構造体および第2構造体が樹脂からなる場合、光硬化性樹脂をパターニングすることにより、第1構造体および第2構造体を形成してもよい。
【0103】
本実施形態の空隙配置構造体の製造方法によれば、第1パターン11の空隙部(第1空隙部11c)および第2パターン12の空隙部(第2空隙部12c)よりも、小さいサイズの空隙部1cを形成することができる。このため、空隙部1cより大きいサイズの空隙部を有する第1構造体110および第2構造体120を形成すればよく、微細な空隙部1cを比較的容易に作製することが可能である。
【0104】
なお、第1構造体110と第2構造体120との材料の組み合わせは、特に限定されないが、空隙配置構造体全体として均一な特性を得る観点からは、同種の材料の組み合わせであることが好ましい。
【0105】
また、第1パターン11と第2パターン12とは、その空隙部の大きさ、形状、ピッチなどが同一であることが好ましい。この場合、空隙配置構造体において、大きさの均一な貫通孔を規則的に配列することができる。これにより、フィルタとしては厳密な篩いを行うことができ、測定デバイスとしては精度の高い測定を行うことができる。
【0106】
ただし、第1構造体110と第2構造体120の材料、第1パターン11と第2パターン12の空隙部の大きさ、形状、ピッチなどを変えることで、空隙配置構造体に特殊な特性を付与してもよい。例えば、第1構造体110を導体、第2構造体120を絶縁体とすることで、電磁波による微量物質検出において、第1構造体110の周期構造に依存度が高い応答を得ることができ、第2構造体120の空隙部の大きさ、形状、ピッチを対象物(目的物)に合わせて任意に設計することが可能となる。
【0107】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。例えば、本発明の実施形態で示した第1パターンと第2パターンの重ね合わせに加えて、複数のパターンを組み合わせた3層以上の空隙配置構造体についても設計することが可能である。
【符号の説明】
【0108】
1 空隙配置構造体、1a 第1主面、1b 第2主面、1c 空隙部、1d 領域、1e 交差領域、1f 突起、100 単位構造、11 第1パターン、11a,11b 主面、11c 第1空隙部、110 第1構造体、12 第2パターン、12a,12b 主面、12c 第2空隙部、120 第2構造体、120e 突起、2 基板、3 金属膜、41 第1レジスト、42 第2レジスト。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10