(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に開示された冷却方法においては、第二の冷却工程において少なくとも鋼帯上面をラミナー冷却又はジェット冷却で冷却し、熱延鋼帯を核沸騰で冷却しているが、かかるラミナー冷却又はジェット冷却では、冷却水の水切りを行うことはできない。そして、例えば噴射ノズルからの棒状の高圧流体により水切りを行う場合、高圧流体の間隙から漏水し、当該高圧流体では完全に水切りを行うことができず、鋼帯上の板上水による冷却が生じる。その結果、熱延鋼帯の冷却が不均一になる。また、例えばロールで水切りを行う場合、鋼帯先端部が跳ね上がっている場合の初期の噛み込みが困難で、初期はロールが退避するなどの設備が必要であり、経済的に不利である。また、熱間圧延で想定されるラインスピード(例えば15m/sec程度)では、鋼帯通板時に、熱延鋼帯のバタつきによるロールとの間欠的な接触や、振動により熱延鋼帯が損傷を被るおそれがある。
【0012】
この点、熱延鋼板の上方から冷却水を噴射する代わりに、特許文献2〜6に開示された装置及び方法では、熱延鋼板の側方から幅方向に向けて冷却水(水切り水)を噴射している。
【0013】
特許文献2に開示された圧延機出側水噴霧装置においては、冷却ノズルから厚鋼板の幅方向に水を噴霧しているが、冷却ノズルから噴霧された水の厚鋼板での衝突領域は、当該厚鋼板の幅方向全域をほぼ覆っている。このため、搬送ラインの外側の両側に配設された一対の冷却ノズルからの2つの衝突領域は、厚鋼板の両端部において重なる。ここで、冷却ノズルからの衝突領域において、冷却ノズル側の近方端部は当該冷却ノズルからの距離が近いため高圧となる。そうすると、一対の冷却ノズルからの2つの衝突領域が厚鋼板の両端部で重なるため、この端部が過冷却となり、幅方向に冷却むらが生じる。また、特許文献2に開示された発明では、鋼板表面のスケールを抑制するために、当該鋼板表面を水で覆うことを目的としており、水量が少なく、鋼板上の板上水を排出する能力が低い。このため、厚鋼板の冷却が不均一になる。
【0014】
特許文献3に開示された冷却装置においては、熱延鋼板幅方向に4個所に設けられた冷却ノズルから当該4個所の中心部に向かって冷却水を噴射しているが、かかる場合、幅方向に対向する一対の冷却ノズルからの冷却水の衝突点付近において、熱延鋼板上の板上水を排出する能力が低く、また中心部においても板上水が滞留する。この板上水により、熱延鋼板の冷却が不均一になる。
【0015】
特許文献4に開示された冷却装置においては、水切り用ノズルは熱延鋼材の幅方向を横切るように高圧水を噴射しており、水切り用ノズルから噴射された高圧水の熱延鋼材での衝突領域は、当該熱延鋼材の幅方向全域をほぼ覆っている。このため、熱延鋼材の側方両側に配設された一対の水切り用ノズルからの2つの衝突領域は、熱延鋼板の両端部においても重なる。上述したように水切り用ノズルからの衝突領域において水切り用ノズル側の近方端部は高圧となり過冷却となりがちであるため、一対の水切り用ノズルからの2つの衝突領域が重なる熱延鋼板の両端部が過冷却となり、幅方向に冷却むらが生じる。なお、特許文献4には、一対の水切り用ノズルを複数対設けることも開示されていない。
【0016】
特許文献5に開示された冷却装置においては、スプレーから噴射される圧力水は熱間圧延材の幅方向中央部より外端へ横切るように向けられ、スプレーから噴射された圧力水の熱間圧延材での衝突領域は、当該熱間圧延材の幅の少なくとも半分以上を覆う。このため、熱間圧延材の側方両側に配設された一対のスプレーからの2つの衝突領域は、熱間圧延材の中央において重なる。そうすると、このスプレーを熱間圧延材の冷却に用いた場合、一対のスプレーからの2つの衝突領域が重なる熱間圧延材の中央部分が過冷却となり、幅方向に冷却むらが生じる。なお、特許文献5には、一対のスプレーを複数対設けることも開示されていない。
【0017】
特許文献6に開示された水切り方法においては、水切りノズルは熱延鋼板の幅方向に水切り水を噴射する。そして、複数の水切りノズルから噴射された水切り水の衝突領域が熱延鋼板の幅方向全域を覆い、さらに各水切りノズルからの衝突領域は、幅方向に隣り合う衝突領域同士では幅方向に一部重なるように配設されている。そうすると、この水切りノズルを熱延鋼板の冷却に用いた場合、水切りノズルからの衝突領域が重なるため、この重なった部分が過冷却となり、幅方向に冷却むらが生じる。
【0018】
以上のように、従来の熱延鋼板の冷却方法及び冷却装置には、改善の余地があった。
【0019】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、連続熱間圧延工程の仕上げ圧延後の熱延鋼板を適切且つ均一に冷却することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記の目的を達成するため、本発明は、連続熱間圧延工程の仕上げ圧延後の熱延鋼板を冷却する方法であって、前記熱延鋼板が搬送ロール上で占める領域を鋼板搬送領域とするとき、鋼板搬送領域の幅方向側方の両側に一対のスプレーノズルが配置され、且つ、当該スプレーノズル対が熱延鋼板の搬送方向に並べて複数対配置され、鋼板搬送領域に対して、前記スプレーノズルから鋼板搬送領域の幅方向に冷却水を噴射して、熱延鋼板を冷却し、前記スプレーノズルから噴射される冷却水の鋼板搬送領域での衝突領域は、噴射方向の遠方端部が鋼板搬送領域の端部に位置し、近方端部が鋼板搬送領域の内側に位置し、前記スプレーノズル対において、2つの前記衝突領域の近方端部は幅方向に一致して会合部を形成することを特徴としている。なお、鋼板搬送領域の幅は、本発明の冷却方法により冷却予定の熱延鋼板の最大幅と同じである。このため、最大幅より狭い幅の熱延鋼板を冷却する場合、鋼板搬送領域の幅方向端部側でその狭幅の熱延鋼板が占めない部分に噴射された冷却水は、熱延鋼板に衝突せず、そのまま熱延鋼板のパスラインの下部に落下する。
【0021】
本発明によれば、スプレーノズル対の2つの衝突領域において会合部が形成されているので、これら衝突領域は鋼板搬送領域の幅方向に重なることがなく、しかも幅方向全域を覆う。したがって、従来のように衝突領域が幅方向に重なることによる冷却むらを抑制することができ、熱延鋼板の幅方向に均一に冷却することができる。換言すれば、本発明のように衝突領域の会合部を形成することは、上述した従来文献には一切開示されておらず斬新なものであり、熱延鋼板の均一冷却に極めて有用である。
【0022】
前記会合部は、鋼板搬送領域の幅方向中央に区画される会合ゾーン内に位置し、前記会合ゾーンの幅は下記式(1)を満たし、搬送方向に隣接する前記スプレーノズル対の前記会合部の幅方向の間隔は、前記衝突領域の搬送方向の長さ以上であってもよい。
W≦(D+2d)−(D+d)sinθ
2/sin(θ
1+θ
2) ・・・(1)
但し、
W:会合ゾーンの幅
D:鋼板搬送領域の幅
d:スプレーノズルの噴射口とその手前の鋼板搬送領域の端部との水平距離
θ
1:スプレー噴射角
θ
2:スプレー設置角(スプレーノズルの噴射口の垂線とスプレーノズルの噴射口から
衝突領域の近方端部を結ぶ線の成す角)
【0023】
前記複数対のスプレーノズル対から鋼板搬送領域に向けて冷却水が噴射される冷却ゾーンは、搬送方向に複数の冷却小ゾーンに分割され、前記冷却小ゾーンにはN対(Nは整数)のスプレーノズル対が配置され、前記会合ゾーンは幅方向に等間隔に前記N個の会合小ゾーンに分割され、前記冷却小ゾーンにおける前記会合小ゾーンには、それぞれ1個の前記会合部が配置され、前記冷却小ゾーンにおける前記会合部は、搬送方向の上流側から下流側に向かい、前記会合ゾーンの一の端部の前記会合小ゾーンから他の端部の前記会合小ゾーンに向かって配置されていてもよい。
【0024】
前記冷却小ゾーンは、搬送方向にk個(kはNの約数)の分割冷却小ゾーンに分割され、搬送方向にi番目(iは1からkまでの整数)の前記分割冷却小ゾーンでは、前記会合部が、前記会合ゾーンの一の端部側の1番目から他の端部側のN番目に向かって、i番目からjk+i番目(jは1から(N/k−1)までの整数)に配置されていてもよい。
【0025】
前記スプレーノズルからの冷却水による熱延鋼板の冷却は、核沸騰領域で行われてもよい。
【0026】
別な観点による本発明は、連続熱間圧延工程の仕上げ圧延後の熱延鋼板を冷却する装置であって、前記熱延鋼板が搬送ロール上で占める領域を鋼板搬送領域とするとき、当該鋼板搬送領域に対して、鋼板搬送領域の幅方向に冷却水を噴射するスプレーノズルが、鋼板搬送領域の幅方向側方の両側に一対に配置され、且つ、当該スプレーノズル対が熱延鋼板の搬送方向に並べて複数対配置され、前記スプレーノズルは、当該スプレーノズルから噴射される冷却水の鋼板搬送領域での衝突領域における、噴射方向の遠方端部が鋼板搬送領域の端部に位置し、近方端部が鋼板搬送領域の内側に位置するように配置され、前記スプレーノズル対は、2つの前記衝突領域の近方端部が幅方向に一致して会合部を形成するように配置されることを特徴としている。
【0027】
前記会合部は、鋼板搬送領域の幅方向中央に区画される会合ゾーン内に位置し、前記会合ゾーンの幅は下記式(1)を満たし、搬送方向に隣接する前記スプレーノズル対は、それぞれの前記会合部の幅方向の間隔が、前記衝突領域の搬送方向の長さ以上であるように配置されていてもよい。
W≦(D+2d)−(D+d)sinθ
2/sin(θ
1+θ
2) ・・・(1)
但し、
W:会合ゾーンの幅
D:鋼板搬送領域の幅
d:スプレーノズルの噴射口とその手前の鋼板搬送領域の端部との水平距離
θ
1:スプレー噴射角
θ
2:スプレー設置角(スプレーノズルの噴射口の垂線とスプレーノズルの噴射口から
衝突領域の近方端部を結ぶ線の成す角)
【0028】
前記複数対のスプレーノズル対から鋼板搬送領域に向けて冷却水が噴射される冷却ゾーンは、搬送方向に複数の冷却小ゾーンに分割され、前記冷却小ゾーンにはN対(Nは整数)のスプレーノズル対が配置され、前記会合ゾーンは幅方向に等間隔に前記N個の会合小ゾーンに分割され、前記冷却小ゾーンにおける前記会合小ゾーンには、それぞれ1個の前記会合部が配置され、前記冷却小ゾーンにおける前記会合部は、搬送方向の上流側から下流側に向かい、前記会合ゾーンの一の端部の前記会合小ゾーンから他の端部の前記会合小ゾーンに向かって配置されていてもよい。
【0029】
前記冷却小ゾーンは、搬送方向にk個(kはNの約数)の分割冷却小ゾーンに分割され、搬送方向にi番目(iは1からkまでの整数)の前記分割冷却小ゾーンでは、前記会合部が、前記会合ゾーンの一の端部側の1番目から他の端部側のN番目に向かって、i番目からjk+i番目(jは1から(N/k−1)までの整数)に配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、連続熱間圧延工程の仕上げ圧延後の熱延鋼板を適切且つ均一に冷却することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
<熱間圧延設備>
以下、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態における冷却装置を備えた熱間圧延設備1の構成の概略を示す説明図である。
【0033】
連続熱間圧延設備1では、加熱したスラブ5をロールで上下に挟んで連続的に圧延し、最小1mmの板厚まで薄くして熱延鋼板10a(以下、後述のとおり図面の中での符号10は、鋼板搬送領域10又は熱延鋼板10aのいずれかを指すものとする。)を巻き取る。連続熱間圧延設備1は、スラブ5を加熱するための加熱炉11と、この加熱炉11において加熱されたスラブ5を幅方向に圧延する幅方向圧延機12と、この幅方向に圧延されたスラブ5を上下方向から圧延して粗バーにする粗圧延機13と、粗バーをさらに所定の厚みまで連続して熱間仕上圧延をする仕上圧延機14と、この仕上圧延機14により熱間仕上圧延された熱延鋼板10aを冷却水により冷却する冷却装置15と、冷却装置15により冷却された熱延鋼板10aをコイル状に巻き取る巻取装置16とを備えている。なお、上記は一般的な構成であってこれに限るものではない。
【0034】
加熱炉11では、装入口を介して外部から搬入されてきたスラブ5を所定の温度に加熱する処理が行われる。加熱炉11における加熱処理が終了すると、スラブ5は加熱炉11外へと搬送され、粗圧延機13による圧延工程へ移行する。
【0035】
搬送されてきたスラブ5は、粗圧延機13により厚さ30〜60mm程度の粗バーに圧延され、仕上圧延機14へと搬送される。
【0036】
仕上圧延機14では、搬送されてきた粗バーを数mm程度の板厚の熱延鋼板10aに圧延する。圧延された熱延鋼板10aは、搬送ロール17により搬送されて冷却装置15へと送られる。熱延鋼板10aは、冷却装置15により冷却され、巻取装置16によりコイル状に巻き取られる。
【0037】
<冷却装置>
次に、本実施の形態にかかる冷却装置15の詳細について説明する。
図2は、冷却装置15の側面を模式的に示し、
図3は冷却装置15の平面を模式的に示している。
図2に示すように、ランアウトテーブルの搬送ロール17上を搬送される熱延鋼板10aの上方に配置された上側冷却装置20と、当該熱延鋼板10aの下方に配置された下側冷却装置(図示せず)とを有している。
【0038】
上側冷却装置20は、熱延鋼板10aの上方から当該熱延鋼板10aの上面に向けて鉛直下方に冷却水を噴射する冷却水ノズル21を複数有している。冷却水ノズル21には、例えばスリットラミナーノズルやパイプラミナーノズルが用いられる。また、冷却水ノズル21は、熱延鋼板10aの搬送方向(図中の太矢印方向)に沿って複数並べて配置されている。なお、冷却水ノズル21には、これらのノズルに限らず他のノズルを用いてもよい。
【0039】
上側冷却装置20の搬送方向下流側には、上側冷却装置20から噴射された冷却水が鋼板に随伴されて流れてくる板上水22を水切りするための水切装置30が設けられている。この実施の形態の水切装置30は、
図3に示したように、複数の水切り用のスプレー装置31が使用されており、搬送方向上流に向けて、各スプレー装置31から水切り用の流体、例えば水を噴射するようになっている。
【0040】
水切装置30の搬送方向下流側には、サイドスプレー装置40が設けられている。この実施の形態では、スプレーノズル41が、鋼板搬送領域10(パスライン上を搬送される熱延鋼板10aの存在領域)の幅方向側方の両側において、搬送方向に沿って複数設置されている。なお、図示の都合上、
図3では、片側5本ずつの合計10本のスプレーノズル41が図示されているが、もちろんこれに限らず、必要に応じて設置数を適宜選択できる。
【0041】
ここで、鋼板搬送領域10は、熱延鋼板10aが搬送ロール17上で占める領域である。すなわち、鋼板搬送領域10は、側面視において搬送ロール17の頂点を結んだラインであって、平面視において熱延鋼板10aの幅方向の寸法が製造可能最大寸法(最大幅)の場合の搬送領域である。以下においては、鋼板搬送領域10の幅と熱延鋼板10aの幅は一致しているものとして説明し、図中で符号10は適用する場面に応じて、鋼板搬送領域10又は熱延鋼板10aのいずれかを指すものとする。なお、上述したように鋼板搬送領域10の幅は熱延鋼板10aの最大幅であるため、サイドスプレー装置40において、最大幅より狭い幅の熱延鋼板10aを冷却する場合、その差分となる鋼板搬送領域10の幅方向端部側の部分に噴射された冷却水は、熱延鋼板10aに衝突せず、そのまま熱延鋼板10aのパスラインの下部に落下する。
【0042】
サイドスプレー装置40の搬送方向下流側には、水切装置50が設けられている。この実施の形態の水切装置50は、複数の水切り用のスプレー装置51が使用されており、搬送方向上流に向けて、各スプレー装置51から水切り用の流体、例えば水を噴射するようになっている。
【0043】
平面視にて、水切装置30とサイドスプレー装置40の間には、熱延鋼板10aの温度を計測する温度センサMTが配置され、また水切装置50と巻取装置16との間には、熱延鋼板10aの温度を計測する温度センサCTが配置されている。温度センサMTからの温度信号は、例えば上側冷却装置20の制御(例えばフィードバック制御)に使用され、温度センサCTからの温度信号は、例えばサイドスプレー装置40の制御(例えばフィードバック制御)に使用される。
【0044】
本実施の形態にかかる冷却装置15は以上の構成を有しており、仕上圧延機14で所定の板厚に圧延された熱延鋼板10aは、まず上側冷却装置20の冷却水ノズル21からの冷却水によって冷却される(上述したように下側冷却装置の図示は省略している)。そしてその後、水切装置30によって水切りが行われる。次いで水切りされた熱延鋼板10aは、サイドスプレー装置40によってさらに冷却される。
【0045】
なお、本実施の形態では、冷却装置15において熱延鋼板10aを200℃程度まで冷却する。このように熱延鋼板10aを200℃程度まで適切且つ均一に冷却して巻き取ることができれば、例えば、所定成分に調整した熱延鋼板10aにおいて、巻き取り後の放冷中に焼き戻しマルテンサイトを生成させるなどして、変形能が改善された熱延鋼板10aを有利に製造することができる。また、この場合、巻取温度をマルテンサイト変態開始温度(Ms点)以下、水の沸点超とすることで、熱延鋼板10a上に赤スケールが形成されるのを抑制できるという効果もある。
【0046】
<サイドスプレー装置>
次に、上述したサイドスプレー装置40の詳細について説明する。サイドスプレー装置40では、
図4に示すように、鋼板搬送領域10の幅方向側方に一対のスプレーノズル41、41が配置されている。また、これら一対のスプレーノズル41、41で構成されるスプレーノズル対42が熱延鋼板10aの搬送方向に並べて複数対配置されている。なお、上述したようにスプレーノズル41、スプレーノズル対42の設置数は必要に応じて適宜選択できる。
【0047】
スプレーノズル41は、
図5に示すように、鋼板搬送領域10に対して上方から斜め方向、且つ、鋼板搬送領域10の幅方向に冷却水を噴射する。また
図4に示すように、スプレーノズル41から噴射される冷却水の鋼板搬送領域10での衝突領域43は、噴射方向の遠方端部43a(スプレーノズル41と反対側の端部)が鋼板搬送領域10の端部に位置し、近方端部43b(スプレーノズル41側の端部)が鋼板搬送領域10の内側に位置する。スプレーノズル対42において、2つの衝突領域43、43の近方端部43b、43bは幅方向に一致して会合部P(
図4中の太線部)を形成する。ここで、2つの衝突領域43、43の近方端部43b、43bが幅方向に一致するとは、
図4、
図5に示すように、鋼板搬送領域10の一方の幅側の衝突領域43の近方端部43bと、他方の幅側の衝突領域43の近方端部43bとが、
図5の視野で見て、会合部Pで重複又は離間することなく一致し、鋼板搬送領域10における幅方向の衝突領域43が鋼板搬送領域10の一方端から他方端まで連続した一つの衝突領域に見えることをいう。
【0048】
かかる場合、スプレーノズル41は、鋼板搬送領域10に対して、所定の噴射角をもって、上方から斜めに噴射するように配置されているので、たとえ熱延鋼板10aの上面に板上水22が残留していても、これを熱延鋼板10aの端部側(遠方端部側)へと排出しつつ、熱延鋼板10aを冷却することができる。
【0049】
また、スプレーノズル対42において衝突領域43、43の会合部Pが形成されているので、これら衝突領域43、43は、鋼板搬送領域10の幅方向に重なることがなく、しかも幅方向全域を覆う。したがって、従来のように衝突領域が幅方向に重なることによる冷却むらを抑制することができ、熱延鋼板10aの幅方向に均一に冷却することができる。
【0050】
<会合ゾーン>
前記会合部Pは、2つの衝突領域43、43の近方端部43b、43b同士が接する部分であり、単一の衝突領域43における中央部と対比して、工業的には、近方端部43bの位置がある程度変動することを許容せざるを得ないことなどから、会合部Pは工業的には冷却効果に不安定要素を含む。このため、極端な場合として、全てのスプレーノズル対42の会合部Pが鋼板搬送領域10の幅方向中央部で揃う場合を想定すると、冷却停止温度の板内バラツキが大きくなることが予想される。これに対し、本発明者らが鋭意検討した結果、全てのスプレーノズル対42の会合部Pを所定の幅内で分散させることが好ましいことが分かった。
【0051】
具体的には、
図4に示すように会合部Pは、鋼板搬送領域10の幅方向中央に区画される会合ゾーンE内に位置させる。会合ゾーンEの幅Wは、下記式(1)を満たす。
W≦(D+2d)−(D+d)sinθ
2/sin(θ
1+θ
2) ・・・(1)
但し、
W:会合ゾーンEの鋼板搬送領域10の幅方向の幅
D:鋼板搬送領域10の幅
d:スプレーノズル41の噴射口41aとその手前の鋼板搬送領域10の端部との水平距離
θ
1:スプレー噴射角(スプレーノズル41から噴射される冷却水の鉛直方向の噴射角)
θ
2:スプレー設置角(スプレーノズル41の噴射口41aの垂線とスプレーノズル41の噴射口41aからら
衝突領域43の近方端部43bを結ぶ線の成す角)
【0052】
会合ゾーンEの幅Wを導出するにあたって、本発明者らは、スプレーノズル41から噴射される冷却水の鋼板搬送領域10までの到達距離に着目した。
図6に示すように、スプレーノズル41の噴射口41aから衝突領域43の遠方端部43aまでの遠方距離をLfとし、スプレーノズル41の噴射口41aから衝突領域43の近方端部43bまでの近方距離をLnとする。なお、
図6は、会合部Pが会合ゾーンEの端部に位置する場合を図示している。
【0053】
会合ゾーンEの幅Wは、Lf/Ln≦2を満たすように導出される。以下、Lf/Ln≦2の根拠について説明する。本発明者らはサイドスプレー装置40を用いた熱延鋼板10aの冷却のシミュレーションを行い、
図7に示す傾向を見出した。
図7は、Lf/Ln(横軸)を変化させた場合の熱延鋼板10aの上面の幅方向温度差ΔT1(縦軸)を示している。幅方向温度差ΔT1は、熱延鋼板10aが冷却され復熱した後(例えば巻取装置16で巻き取られる直前)において、当該熱延鋼板10aの幅方向の最大温度と最小温度との差である。
【0054】
図7を参照すると、Lf/Ln>2の場合、熱延鋼板10aの幅方向温度差ΔT1は大きくなる。これは、Lf/Lnが大きくなると、冷却水が遠方端部43aと近方端部43bに衝突する際の力の差が大きくなり、両者の冷却能力の差が大きくなるためである。これに対して、Lf/Ln≦2の場合、近方側に衝突した後の冷却水が遠方側に流れることにより、遠方側での冷却が行われるので、熱延鋼板10aの幅方向温度差ΔT1は小さく、熱延鋼板10aの幅方向における冷却能力のバラツキは小さい。したがって、熱延鋼板10aを幅方向に均一に冷却するには、Lf/Ln≦2が好適である。
【0055】
そして、遠方距離Lfと近方距離Lnは、それぞれ
図6に示した幾何学的関係から、下記式(2)、(3)で表される。
Lf=(D+d)/cos{90°−(θ
1+θ
2)} ・・・(2)
Ln=(D/2+d−W/2)/cos(90°−θ
2) ・・・(3)
【0056】
上記式(2)、(3)をLf/Ln≦2に入れて、会合ゾーンEの幅Wについて整理すると、上述した下記式(1)が導出される。
W≦(D+2d)−(D+d)sinθ
2/sin(θ
1+θ
2) ・・・(1)
【0057】
なお、例えば鋼板搬送領域10の幅Dが2000mmであり、スプレーノズル41と鋼板搬送領域10の端部の水平距離dが250mmであり、スプレー噴射角θ
1が20°であり、スプレー設置角θ
2が60°である場合において、Lf/Ln=2となる、会合ゾーンEの幅Wは500mmである。また、例えば鋼板搬送領域10の幅Dが2000mmであり、スプレーノズル41と鋼板搬送領域10の端部の水平距離dが250mmであり、スプレー噴射角θ
1が20°であり、スプレー設置角θ
2が45°である場合において、Lf/Ln=2となる、会合ゾーンEの幅Wは785mmである。
【0058】
また、スプレーノズル41の設置高さh(鋼板搬送領域10のからスプレーノズル41の噴射口41aまでの高さh)は400〜600mm程度が現実的である。設置高さが600mmより高いと、遠方端部43aにおける冷却能力が低くなる。一方、設置高さが400mmより低いと、衝突領域43を確保するため、スプレー噴射角θ
1を小さくする必要があるが、この場合、スプレーノズル41を作製し難くなる。
【0059】
<会合部の幅方向間隔>
上述したように会合部Pは、2つの衝突領域43、43の近方端部43b、43b同士が接する部分であり、工業的には冷却効果に不安定要素を含むことから、本発明者らが鋭意検討した結果、搬送方向に隣接するスプレーノズル対42、42の会合部P、Pは所定距離以上に離すことが好ましいことが分かった。
【0060】
具体的には、
図4に示すように搬送方向に隣接するスプレーノズル対42、42の会合部P、Pの幅方向の間隔Qは、衝突領域43の搬送方向の長さR以上とする。
【0061】
本発明者らは、サイドスプレー装置40を用いた熱延鋼板10aの冷却のシミュレーションにて、工業的に冷却効果で不安定要素を含む会合部Pで生じる、周囲の温度に対する会合部Pの温度差を仮定し、その温度差が周囲に及ぼす影響範囲について
図8に示す傾向を見出した。
図8は、会合部Pからの鋼板幅方向での離隔距離(横軸)と熱延鋼板10aの上面温度差ΔT2(縦軸)の関係を示している。同図においては、会合部Pからの離隔距離について、後述するように衝突領域43の搬送方向の長さRの範囲で工業的な不安定要素が影響する(上面温度差ΔT2が大きくなる)ことからこの長さRを基準とすることとし、当該会合部Pからの離隔距離として、その長さRに対する倍数n(nは整数)を示している。また、熱延鋼板10aの上面温度差ΔT2は、会合部Pにおける熱延鋼板10aの上面温度と、会合部Pから離隔距離(長さRに対する倍数n)だけ離れた測定点における熱延鋼板10aの上面温度との差である。
【0062】
図8を参照すると、nが1より小さい場合、すなわち測定点が会合部Pに近い場合、上面温度差ΔT2は大きくなる。これに対して、nが1以上の場合、すなわち測定点が会合部Pから離れた場合、上面温度差ΔT2は小さくほとんどゼロとなる。
【0063】
かかる場合、搬送方向に隣接するスプレーノズル対42、42の会合部P、Pの幅方向の間隔Qについて、nが1より小さい場合、すなわち間隔Qが衝突領域43の搬送方向の長さRより小さい場合、一の会合部Pに対する大きい上面温度差ΔT2と他の会合部Pに対する大きい上面温度差ΔT2が搬送方向に重畳することになる。そうすると、熱延鋼板10aを幅方向に均一に冷却することができない。これに対して、nが1以上であり、間隔Qが長さR以上である場合、上面温度差ΔT2が小さいため、熱延鋼板10aの幅方向不均一冷却を抑制することができる。したがって、会合部Pの幅方向の間隔Qは、衝突領域43の搬送方向の長さR以上であるのが好適である。
【0064】
なお、例えば鋼板搬送領域10の幅Dが2000mmであり、スプレーノズル41と鋼板搬送領域10の端部の水平距離dが250mmであり、スプレーノズル41から噴射される冷却水の水平方向の噴射角θ
3が3°である場合、衝突領域43の搬送方向の長さRは65mm(=1250mm×tan(3°/2)×2)となる。
【0065】
<会合部の配置>
図9に示すように会合ゾーンEにおいて、会合部Pは千鳥状に配置される。
【0066】
会合ゾーンEは、幅方向に等間隔にN個、本実施の形態では8個の会合小ゾーンe(会合小ゾーンe1〜e8)に分割される。なお、Nは2以上の整数であって、任意に選択できる。
【0067】
また、サイドスプレー装置40において、全てのスプレーノズル対42から鋼板搬送領域10に向けて冷却水が噴射される領域を冷却ゾーンFとすると、当該冷却ゾーンFは、搬送方向に複数の冷却小ゾーンfに分割される。各冷却小ゾーンfには、会合小ゾーンeと同数のN対のスプレーノズル対42が配置される。なお、図示の都合上、
図9では、冷却小ゾーンf1〜f3が図示されているが、冷却小ゾーンfの数は、もちろんこれに限らず、必要に応じて数を適宜選択でき、サイドスプレー装置40におけるスプレーノズル対42の数に応じて決定される。例えばスプレーノズル対42がM×N対(Mは2以上の整数)がある場合、冷却小ゾーンfはM個設けられる。
【0068】
1個の冷却小ゾーンfにおいて、1個の会合小ゾーンeには1個の会合部Pが配置される。また、1個の冷却小ゾーンfにおいて、会合部Pは、搬送方向の上流側から下流側に向かい、会合ゾーンEの一の端部の会合小ゾーンe1から他の端部の会合小ゾーンe8に向かって配置される。
【0069】
ここで、搬送方向に隣接するスプレーノズル対42、42の会合部P、Pが同じ会合小ゾーンeに配置されている場合、会合部P、Pが重なることにより過冷却となるおそれがある。この点、本実施の形態では、1個の冷却小ゾーンfにおいて会合部Pが千鳥状に配置されているので、幅方向において会合部Pを分散させることができ、過冷却となる部位を極小化することができる。したがって、熱延鋼板10aの幅方向に均一に冷却することができる。
【0070】
また、
図10に示すように、1個の冷却小ゾーンf1(f2、f3)は、さらに搬送方向にk個、本実施の形態では2個の分割冷却小ゾーンf11、f12(f21、f22、f31、f32)に分割されていてもよい。なお、kはNの約数であって、任意に選択できる。
【0071】
冷却小ゾーンf1において、搬送方向に1番目の分割冷却小ゾーンf11では、会合部Pが、会合小ゾーンe1、e3、e5、e7に配置される。また、搬送方向に2番目の分割冷却小ゾーンf12では、会合部Pが、会合小ゾーンe2、e4、e6、e8が配置される。このように冷却小ゾーンf1が搬送方向に2個に分割される場合、当該冷却小ゾーンf1において、幅方向に2個の会合小ゾーンe毎に1個の会合部Pが配置される。なお、冷却小ゾーンf2、f3においても、会合部Pは同様に配置される。
【0072】
この会合部Pの配置を一般化すると、搬送方向にi番目(iは1からkまでの整数)の分割冷却小ゾーンfでは、会合部Pが、会合ゾーンEの一の端部側の1番目から他の端部側のN番目に向かって、i番目からjk+i番目(jは1から(N/k−1)までの整数)に配置されることになる。
【0073】
なお、1個の冷却小ゾーンfが分割される個数kは2個に限定されず、Nの約数であればよい。上述した例においては、Nは8であるため、冷却小ゾーンfが分割される個数kは4個であってもよい。
【0074】
このように
図10に示した例においても、
図4に示した会合部Pの配置と同様の効果を享受することができ、すなわち、幅方向において会合部Pを分散させて過冷却となる部位を極小化することができる。しかも、1個の冷却小ゾーンfが複数に分割されている場合、幅方向において会合部Pをさらに分散させることができる。したがって、熱延鋼板10aの幅方向により均一に冷却することができる。
【0075】
なお、会合部Pの配置は千鳥状に限定されず、幅方向において会合部Pを分散させる配置であればよく、例えばサインカーブ状などの配置としてもよい。
【0076】
<サイドスプレー装置における核沸騰冷却>
サイドスプレー装置40において、スプレーノズル41からの冷却水による熱延鋼板10aの冷却は、核沸騰領域で行われる。
【0077】
ここで、熱延鋼板10aの冷却においては、熱延鋼板10aの上面温度に応じて、熱延鋼板10a上の冷却水の沸騰状態が変動する。具体的には、上面温度の高温側から膜沸騰領域、遷移沸騰領域、核沸騰領域の順に変動する。
【0078】
膜沸騰領域では、熱延鋼板10aの上面に冷却水を噴射した際、冷却水は熱延鋼板10aに到達する前、もしくは到達した直後に蒸発し、熱延鋼板10aの上面は蒸気膜に覆われる状態となる。この冷却では、熱延鋼板10aの上面の蒸気膜が熱の伝達を阻害するため、熱延鋼板10aの熱伝達係数は低く、冷却能力は低い。
【0079】
遷移沸騰領域では、熱延鋼板10aの上面に冷却水を噴射した際、熱延鋼板10aの上面に蒸気膜と冷却水が接触する場所が混在するようになる。この遷移沸騰領域では、熱延鋼板10aの上面温度の低下と共に熱伝達係数が上昇する。このため、熱延鋼板10aの上面温度が高いところは冷え難く、上面温度が低いところは急激に冷え、熱延鋼板10aの上面温度に局所的なバラツキが発生する。そうすると、熱延鋼板10aを均一に冷却することができない。
【0080】
核沸騰領域では、熱延鋼板10aの上面に冷却水を噴射した際、熱延鋼板10aの上面に蒸気膜が発生せず、冷却水が熱延鋼板10aの上面に直接接触する。このため、核沸騰領域では、熱延鋼板10aの熱伝達係数は高く、冷却能力は高い。
【0081】
本実施の形態では、サイドスプレー装置40における熱延鋼板10aの冷却は核沸騰領域で行われるので、高い冷却能力で熱延鋼板10aを均一に冷却することができる。換言すれば、サイドスプレー装置40において熱延鋼板10aの温度を微細に制御することができ、目標温度の200℃程度まで冷却することが可能となる。
【0082】
ここで、このように核沸騰領域で冷却するための具体的な条件について説明する。本実施の形態では、上述したようにサイドスプレー装置40において200℃程度の低温まで冷却することを目標としており、これを実現するため、1本のスプレーノズル41が大水量密度、例えば4m
3/m
2/minの水量密度の冷却水を噴射して、熱延鋼板10aを冷却する。
【0083】
例えば「鋼材の強制冷却」 昭和53年11月10日 日本鉄鋼協会には、鋼材表面温度と熱伝達係数の相関が水量密度毎に開示されている。また、例えば「高温鋼材の冷却技術」 三塚正志著 鉄と鋼 Vol.79(1993) 日本鉄鋼協会にも、鋼材表面温度と熱伝達係数の相関が水量密度毎に開示されている。上述した水量密度4m
3/m
2/minを確保する場合、これらの相関から、核沸騰冷却は、熱延鋼板10aの上面温度が400℃以下の冷却となる。
【0084】
また、上述したように、例えば鋼板搬送領域10の幅Dが2000mmであり、衝突領域43の搬送方向の長さRが65mmである場合において、衝突領域43の近方端部43bが鋼板搬送領域10の中心である場合、当該衝突領域43の面積は0.0325m
2となる。そうすると、1本のスプレーノズル41において4m
3/m
2/minの水量密度を確保するためには、0.26m
3/min(=4m
3/m
2/min×0.0325m
2)の水量が必要となる。
【0085】
<サイドスプレー装置の他の実施の形態>
上記実施の形態の冷却装置15では熱延鋼板10aを200℃程度の低温まで冷却したが、例えば冷却装置15における冷却停止温度が低温でない場合などでは、サイドスプレー装置40の全てのスプレーノズル41から冷却水を噴射させる必要はない。かかる場合、幅方向の冷却均一性を考慮し、会合部Pを同一とするスプレーノズル対42毎に制御し、冷却に必要なスプレーノズル対42からだけ冷却水を噴射させ、冷却に不必要なスプレーノズル対42からは冷却水を噴射させないようにすることで、サイドスプレー装置40の冷却能力を調節する。このため、サイドスプレー装置40には、複数のスプレーノズル対42毎に、冷却水の供給の有無を制御する弁を設けることが好ましい。
【0086】
また、サイドスプレー装置40に冷却水の供給の有無を制御する弁を設ける場合、その弁が設けられた領域を上述した冷却小ゾーンfとすることができる。かかる場合でも、冷却小ゾーンf毎に、上記実施の形態の条件を満たすようにするのが好ましい。すなわち、弁が設けられた冷却小ゾーンfでは、
図4に示したようにスプレーノズル対42における衝突領域43、43の会合部Pが形成され、さらに会合部Pは、上記式(1)を満たす幅を有する会合ゾーンE内に配置されると共に、搬送方向に隣接するスプレーノズル対42、42の会合部P、Pの幅方向の間隔Qは、衝突領域43の搬送方向の長さR以上となる。また、冷却小ゾーンfでは、
図9、
図10に示したように会合部Pは千鳥状に配置される。
【0087】
<冷却装置の他の実施の形態>
上記実施の形態の冷却装置15では、上側冷却装置20での冷却後の板上水22の水切りにあたり、専用の水切装置30を用いていたが、
図11に示すように、そのような専用の水切装置30を廃止して、サイドスプレー装置40のスプレーノズル対42を設置してもよい。すなわち、本来の熱延鋼板10aの冷却に使用されるスプレーノズル対42に加えて、搬送方向上流側に、水切り用にスプレーノズル対42を設置してもよい。
【0088】
このような
図11に示した例では、上側冷却装置20の下流側両側に、スプレーノズル対42が複数設置された設備として構成されるが、冷却する熱延鋼板10aの幅・厚み、搬送速度、鋼種に応じて、水切り用に使用するスプレーノズル対42と、冷却用に使用するスプレーノズル対42とを切換制御したり、必要に応じて噴射数を制御することで、専用の水切装置30を設置する必要はなく、汎用性に優れた設備とすることが可能である。また、このようにスプレーノズル対42を水切り用に使用する別の例として、専用の水切装置50を廃止して、サイドスプレー装置40のスプレーノズル対42を設置してもよい。
【0089】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例1】
【0090】
先ず、本発明における会合部Pを形成することの効果について、実施例及び比較例を用いて説明する。本検証においては、
図2〜
図6に示したサイドスプレー装置40を用いてシミュレーションを行った。
【0091】
本検証における実施例と比較例の共通の条件は、次のとおりである。冷却対象の熱延鋼板10aの厚みは2.5mmであり、熱延鋼板10aの幅は1500mmである。鋼板搬送領域10の幅Dは2000mmである。サイドスプレー装置40には、スプレーノズル41が84本あり、すなわちスプレーノズル対42は42対ある。各スプレーノズル41の設置高さhは600mmである。各スプレーノズル41にはフラットスプレーノズルを用い、そのスプレー噴射角θ
1は12度、スプレー設置角θ
2は62度である。各スプレーノズル41から噴射される冷却水の噴射圧力は0.5MPa、冷却水の水量密度は4.2m
3/m
2/min、冷却水の水量は360L/min、衝突領域43の搬送方向の長さRは69mmである。
【0092】
本検証では、
図12(a)に示すように本発明の実施例1において、スプレーノズル対42の衝突領域43、43には会合部Pが形成されている。これに対して、
図12(b)に示すように比較例1では、スプレーノズル対42の衝突領域43、43が重なり、その重なり部分における近方端部43b、43bの間隔は30mmである。また、
図12(c)に示すように比較例2では、スプレーノズル対42の衝突領域43、43が重ならず、その近方端部43b、43bの間隔は30mmである。
【0093】
実施例1では、上記式(1)を満たす会合ゾーンEにおいて、搬送方向に42箇所に形成された会合部Pを幅方向に分散させて配置し、さらに搬送方向に隣接する会合部P、Pの幅方向の間隔Qを、衝突領域43の搬送方向の長さR以上としている。具体的には、スプレーノズル対42において、一のスプレーノズル41の噴射口41aと鋼板搬送領域10の端部との水平距離d1と、他のスプレーノズル41の噴射口41aと鋼板搬送領域10の端部との水平距離d2の合計水平距離d(=d1+d2)を0〜500mmの間で変動させて、上記のとおり会合部Pを配置している。
【0094】
また、比較例1において、スプレーノズル対42の衝突領域43、43の重なり部分は、その幅方向中心点C1が、実施例1における会合部Pに対応して同じ位置になるように幅方向に分散して形成されている。同様に比較例2においても、スプレーノズル対42の衝突領域43、43の重なっていない部分は、その幅方向中心点C2が、実施例1における会合部Pに対応して同じ位置になるように幅方向に分散して形成されている。
【0095】
以上のような条件において、サイドスプレー装置40における熱延鋼板10aの冷却開始温度を600℃とし、熱延鋼板10aの冷却後の目標温度(巻取装置16における熱延鋼板10aの巻取温度)を300℃としてシミュレーションを行った。そして、実施例1、比較例1、比較例2において、巻取装置16での熱延鋼板10aの巻取温度を測定し、その幅方向偏差(熱延鋼板10aの幅方向における最大温度と最小温度の差)を測定した。
【0096】
その結果、実施例1では、熱延鋼板10aの幅方向の温度は300℃±5℃であり、その温度偏差は10℃であった。これに対して、比較例1では、熱延鋼板10aの幅方向の温度は300℃±30℃であり、その温度偏差は60℃であった。また、比較例2では、熱延鋼板10aの幅方向の温度は300℃±25℃であり、その温度偏差は50℃であった。
【0097】
したがって、本発明の実施例1のようにスプレーノズル対42において会合部Pを形成する場合、比較例1、2のように会合部Pを形成しない場合に比べて、冷却後の熱延鋼板10aの幅方向温度偏差を小さくすることができ、熱延鋼板10aを幅方向に均一に冷却できることが分かった。
【実施例2】
【0098】
次に、本発明において、会合部Pが位置する会合ゾーンEの幅Wが上記式(1)を満たすこと、すなわち上述したLf/Ln≦2(
図7)を満たすことについて、実施例及び比較例を用いて説明する。本検証においても、
図2〜
図6に示したサイドスプレー装置40を用いてシミュレーションを行った。
【0099】
本検証における実施例と比較例の共通の条件は、次のとおりである。冷却対象の熱延鋼板10aの厚みは2.5mmであり、熱延鋼板10aの幅は1500mmである。鋼板搬送領域10の幅Dは2000mmである。サイドスプレー装置40には、スプレーノズル41が84本あり、すなわちスプレーノズル対42は42対ある。各スプレーノズル41の設置高さhは600mmである。各スプレーノズル41にはフラットスプレーノズルを用いた。
【0100】
本検証の実施例2、実施例3、比較例3では、それぞれスプレーノズル対42の衝突領域43、43に会合部Pが形成されている。そして、各スプレーノズル41のスプレー噴射角θ
1とスプレー設置角θ
2を変更して、Lf/Lnを変動させた。具体的には、本発明の実施例2のLf/Lnを1.9、本発明の実施例3のLf/Lnを2.0、比較例3のLf/Lnを2.5とした。
【0101】
実施例2では、各スプレーノズル41のスプレー噴射角θ
1を14度、スプレー設置角θ
2を61度として、Lf/Lnを1.9とした。また、実施例2において、各スプレーノズル41から噴射される冷却水の噴射圧力は0.5MPa、冷却水の水量密度は4.2m
3/m
2/min、冷却水の水量は308L/min、衝突領域43の搬送方向の長さRは62mmである。
【0102】
実施例3では、各スプレーノズル41のスプレー噴射角θ
1を16度、スプレー設置角θ
2を59度として、Lf/Lnを2.0とした。また、実施例2において、各スプレーノズル41から噴射される冷却水の噴射圧力は0.5MPa、冷却水の水量密度は4.2m
3/m
2/min、冷却水の水量は320L/min、衝突領域43の搬送方向の長さRは61mmである。
【0103】
これに対して、比較例3では、各スプレーノズル41のスプレー噴射角θ
1を25度、スプレー設置角θ
2を50度として、Lf/Lnを2.5とした。また、比較例3において、各スプレーノズル41から噴射される冷却水の噴射圧力は0.5MPa、冷却水の水量密度は4.2m
3/m
2/min、冷却水の水量は367L/min、衝突領域43の搬送方向の長さRは58mmである。
【0104】
また、実施例2、実施例3、比較例3では、それぞれ会合ゾーンEにおいて、搬送方向に42箇所に形成された会合部Pを幅方向に分散させて配置し、搬送方向に隣接する会合部P、Pの幅方向の間隔Qを、衝突領域43の搬送方向の長さR以上の70mmとしている。なお、具体的には、スプレーノズル対42において、一のスプレーノズル41の噴射口41aと鋼板搬送領域10の端部との水平距離d1と、他のスプレーノズル41の噴射口41aと鋼板搬送領域10の端部との水平距離d2の合計水平距離d(=d1+d2)を0〜500mmの間で変動させて、上記のとおり会合部Pを配置している。
【0105】
以上のような条件において、サイドスプレー装置40における熱延鋼板10aの冷却開始温度を600℃とし、熱延鋼板10aの冷却後の目標温度(巻取装置16における熱延鋼板10aの巻取温度)を300℃としてシミュレーションを行った。そして、実施例2、実施例3、比較例3において、巻取装置16での熱延鋼板10aの巻取温度を測定し、その幅方向偏差(熱延鋼板10aの幅方向における最大温度と最小温度の差)を測定した。
【0106】
その結果、実施例2、実施例3では、それぞれ熱延鋼板10aの幅方向の温度は300℃±5℃であり、その温度偏差は10℃であった。これに対して、比較例3では、熱延鋼板10aの幅方向の温度は300℃±25℃であり、その温度偏差は50℃であった。
【0107】
したがって、本発明の実施例2、3(Lf/Ln≦2)の場合、比較例3(Lf/Ln>2)の場合に比べて、冷却後の熱延鋼板10aの幅方向温度偏差を小さくすることができ、熱延鋼板10aを幅方向に均一に冷却できることが分かった。換言すれば、Lf/Ln≦2から会合ゾーンEの幅Wに関する上記式(1)が導出され、この会合ゾーンE内で会合部Pを分散させると、熱延鋼板10aを幅方向に均一に冷却できることが分かった。
【実施例3】
【0108】
次に、本発明において、搬送方向に隣接するスプレーノズル対42の会合部P、Pの幅方向の間隔Qが衝突領域43の搬送方向の長さR以上であること、すなわち会合部Pと周囲の温度差が当該周囲に及ぼす影響範囲(
図8)について、実施例及び比較例を用いて説明する。本検証においても、
図2〜
図6に示したサイドスプレー装置40を用いてシミュレーションを行った。
【0109】
本検証における実施例と比較例の共通の条件は、次のとおりである。冷却対象の熱延鋼板10aの厚みは2.5mmであり、熱延鋼板10aの幅は1500mmである。鋼板搬送領域10の幅Dは2000mmである。サイドスプレー装置40には、スプレーノズル41が84本あり、すなわちスプレーノズル対42は42対ある。各スプレーノズル41の設置高さhは600mmである。各スプレーノズル41にはフラットスプレーノズルを用い、そのスプレー噴射角θ
1は12度、スプレー設置角θ
2は62度である。各スプレーノズル41から噴射される冷却水の噴射圧力は0.5MPa、冷却水の水量密度は4.2m
3/m
2/min、冷却水の水量は360L/min、衝突領域43の搬送方向の長さRは69mmである。
【0110】
本検証の実施例4と比較例4では、それぞれスプレーノズル対42の衝突領域43、43に会合部Pが形成されている。そして、搬送方向に隣接する会合部P、Pの幅方向の間隔Qを変動させた。具体的には、本発明の実施例4では、会合部P、Pの幅方向の間隔Qを、衝突領域43の搬送方向の長さRより大きい70mmとした。すなわち、実施例4では、
図8におけるnが1よりも大きい。これに対して、比較例4では、会合部P、Pの幅方向の間隔Qを、衝突領域43の搬送方向の長さRより短い65mmとした。すなわち、比較例4では、
図8におけるnが1よりも小さい。
【0111】
また、実施例4と比較例4では、それぞれ会合ゾーンEにおいて、搬送方向に42箇所に形成された会合部Pを幅方向に分散させて配置している。なお、実施例4と比較例4では、スプレーノズル対42において、一のスプレーノズル41の噴射口41aと鋼板搬送領域10の端部との水平距離d1と、他のスプレーノズル41の噴射口41aと鋼板搬送領域10の端部との水平距離d2の合計水平距離d(=d1+d2)を0〜500mmの間で変動させて、上記のとおり会合部Pを配置している。
【0112】
以上のような条件において、サイドスプレー装置40における熱延鋼板10aの冷却開始温度を600℃とし、熱延鋼板10aの冷却後の目標温度(巻取装置16における熱延鋼板10aの巻取温度)を300℃としてシミュレーションを行った。そして、実施例4と比較例4において、巻取装置16での熱延鋼板10aの巻取温度を測定し、その幅方向偏差(熱延鋼板10aの幅方向における最大温度と最小温度の差)を測定した。
【0113】
その結果、実施例4では、熱延鋼板10aの幅方向の温度は300℃±5℃であり、その温度偏差は10℃であった。これに対して、比較例4では、熱延鋼板10aの幅方向の温度は300℃±20℃であり、その温度偏差は40℃であった。
【0114】
したがって、本発明の実施例4の場合(会合部P、Pの幅方向の間隔Qが衝突領域43の搬送方向の長さRより大きい場合)、比較例3の場合(間隔Qが長さRより小さい場合)に比べて、冷却後の熱延鋼板10aの幅方向温度偏差を小さくすることができ、熱延鋼板10aを幅方向に均一に冷却できることが分かった。
熱延鋼板が搬送ロール上で占める領域を鋼板搬送領域とするとき、鋼板搬送領域の幅方向側方の両側に一対のスプレーノズルが配置され、且つ、当該スプレーノズル対が熱延鋼板の搬送方向に並べて複数対配置され、鋼板搬送領域に対して、前記スプレーノズルから鋼板搬送領域の幅方向に冷却水を噴射して、熱延鋼板を冷却する。前記スプレーノズルから噴射される冷却水の鋼板搬送領域での衝突領域は、噴射方向の遠方端部が鋼板搬送領域の端部に位置し、近方端部が鋼板搬送領域の内側に位置する。前記スプレーノズル対において、2つの前記衝突領域の近方端部は幅方向に一致して会合部を形成する。