(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記めっき層は、C、Ca、Si、Ti、Cr、Fe、Co、Ni、V、Nb、Cu、Sn、Mn、Sr、Sb、Pb、Y、Cd、及びLaの1種または2種以上の選択元素を含有し、かつ前記選択元素の合計含有量が質量%で0〜0.5%である請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載のめっき鋼材。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らの研究により、高MgのZn−Mg−Al系に準結晶相を含有させためっき層が、高い耐食性を示すことを見出している。同時に、この準結晶相を含むZn−Mg−Al系めっき層を形成した鋼材は、極めて高い硬度を持ち、耐摩耗性に優れていることも見出している。
ところが、前述の組成のめっき浴を安定化することにはやや難があり、当該組成域のめっき浴を用いて操業することは簡単ではない。
よって、前述の組成のめっき浴を用いることなく前述の高Mg含有Zn−Mg−Al系めっきを鋼材に施すことについて研究を行った結果、本開示に到達した。
【0013】
以下、本開示の実施形態に係るめっき鋼材について説明する。
なお、本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、成分(元素)の含有量を示す「%」は、「質量%」を意味する。
【0014】
実施形態に係るMg含有Zn合金めっき層を被覆しためっき鋼材1は、
図1の断面構造(めっき層厚み方向に切断した断面構造)に示すように、鋼板、鋼管、土木建築材(ガードレール、止水壁、コルゲート管等)、家電部材(エアコンの室外機の筐体等)、自動車部品(足回り部材等)などの鋼材2と鋼材2の表面に蒸着により形成されためっき層(蒸着めっき層)3とからなる。また、鋼材2とめっき層3の界面には、薄い界面合金層(Fe−Al合金層)4が形成されている。
【0015】
めっきの下地となる鋼材2の材質に特に制限はない。鋼材2は、例えば、一般鋼、Niプレめっき鋼、Alキルド鋼、一部の高合金鋼を適用することが可能である。鋼材2の形状にも特に制限はなく、成型加工が施されていてもよい。
鋼材2は、
図1の平板状に限るものではなく、L字型に湾曲させた成型鋼材などを用いてもよい。また、プレス加工、ロールフォーミング、曲げ加工などの種々の塑性加工手法により目的の形状に加工した鋼材2に、めっき層3を形成しても差し支えない。
【0016】
以下、めっき層3と界面合金層4の組織、組成等について説明する。
めっき層3と鋼材2の境界部分には、例えば、厚さ500nm以下の界面合金層4が形成されている。めっき層3は厚み0.1〜10μmのZn−Mg−Al合金層から形成されている。界面合金層4はAl−Fe合金層で構成されている。なお、界面合金層4はめっき層3の製造条件によっては殆ど確認できない程度の薄い層となる場合がある。
界面合金層4の厚みはめっき層3の蒸着条件に左右されるため、界面合金層4の厚みの下限については特に限定されるものではないが、例えば、めっき層3の密着性の観点から300nm以上が望ましい。界面合金層4の厚みが500nmを超えるようであると、めっき層3の密着性が低下し、鋼材2に塑性加工を行うと、鋼材2の表面からめっき層3が剥離し易くなる。
めっき層3の厚みが0.1μm未満では十分な耐食性を得ることが難しい。また、10μm以上の厚みのめっき層3は作製可能であるものの、連続通板で生産を行う場合に生産性に劣ることがある。そのため、めっき層3の厚みは、0.1μm以上であり、0.1〜10μmであることが好ましく、0.5〜5μmがより好ましい。特に、めっき層3の厚みを0.5〜5μmにすると、めっき後の耐食性とめっきの密着性が両立する。
【0017】
ここで、めっき層3及び界面合金層4の厚さは、次の通り測定する。SEM(走査型電子顕微鏡)により、めっき層3及び界面合金層4の断面観察(めっき層3及び界面合金層4の厚さ方向に切断された断面において、めっき層3及び界面合金層4と平行な方向に2.5mm長さ分に相当する領域の観察)を行う。この領域において、少なくとも三視野(倍率1万倍)に観察される各めっき層3及び各界面合金層4の任意の5箇所(少なくとも各計15箇所)の厚さの平均値を求める。この平均値をめっき層3及び界面合金層4の厚さとする。
なお、断面観察のためのサンプル調整方法は公知の樹脂埋め込み又は断面研磨方法によって行えばよい。
【0018】
めっき層3は、その中に準結晶相が析出している。つまり、めっき層3中には、複数の複数の準結晶相を含む。そして、めっき層3中に析出している複数の準結晶相のうち、90個数%以上の準結晶相がその長軸方向の粒径を0.05〜1.0μmとした準結晶相であることが望ましい。また、めっき層3の表面には極めて薄い酸化皮膜が形成されていてもよい。
【0019】
界面合金層4は、鋼材2の表面に形成されており、例えば、Fe濃度の範囲が10%以上90%以下となる層である。すなわち、界面合金層4中にはFe
3Al、FeAl
3、Fe
2Al
5、FeAl
3、並びに、Fe及びAlの一部がZnに置換した金属間化合物等のいずれか一つ以上を含んでいる。
なお、界面合金層4は、例えば、平均組成がFe:30〜50%、Al:50〜70%、Zn:2〜10質量%、及び残部:不純物からなる。
【0020】
めっき層3中にAl、及びZnを多く含有することから、めっき層3中のAlが鋼材2のFeと反応して鋼材2の表面にAl
3Fe相を形成する。また、めっき層3の成分のZnが必然的に取り込まれ、一部Znを取り込んだ形となり、Al
3Fe相と性質を若干、異にする界面合金層4が生成する。
Al
3Fe相を主体とするAl−Fe合金からなる界面合金層4となるため、必然的に、例えば、合金層のFe濃度の平均値は30〜50%となる。Al濃度の平均値は50〜70%となる。
【0021】
蒸着法によりめっき層3を作製した場合、Zn−Mg−Al合金のめっき層3の成分組成について、ほぼ蒸着源金属の製膜速度により決定される成分組成比率がめっき層3でも保たれる。界面合金層4の生成によるZn−Mg−Al合金層のAl成分、Zn成分の減少は通常、僅かである。これは、界面合金層4の形成が極めて薄いためである。
【0022】
本発明者らが、蒸着めっき法によって準結晶相が得られる組成範囲を吟味した結果、以下の組成範囲で準結晶相がZn−Mg合金層内に必要な面積分率で含有されることを見出した。
【0023】
つまり、めっき層3の組成は、質量%でZn:20〜83%、及びAl:2.5〜46.5%を含有し、残部がMgおよび不純物からなり、かつMg含有量が10%以上である。
【0024】
めっき層3の組成について、望ましい範囲とその理由について説明する。
「Zn(亜鉛):20〜83%」
めっき層3の金属組織として準結晶相を得るためには、上記範囲のZnを含有することが必須である。このため、めっき層のZn含有量を20〜83%とする。Zn含有量が20%未満の場合、めっき層3に準結晶相を生成することが難しくなる。また同様に、Zn含有量が83%超の場合、めっき層3に準結晶相を生成することが難しくなる。
また、準結晶を好ましく生成させて耐食性をさらに向上させるためには、Zn含有量を60%以上(つまり60〜83%)とすることがより好ましい。60%以上とすると、初晶として準結晶相が成長しやすい組成範囲となり、Mg相が初晶として成長しにくくなる。すなわち、めっき層3での準結晶相の相量(面積分率)を多くできるとともに、耐食性を劣化させるMg相を極力減らすことが可能である。
【0025】
「Al(アルミニウム):2.5〜46.5%」
Alは、めっき層3の平面部の耐食性を向上させる元素である。また、Alは、準結晶相の生成を促進する元素である。これらの効果を得るために、めっき層3のAl含有量を2.5%以上とする。準結晶相の平均円相当径を好ましい範囲に制御するためには、Al含有量を3%以上とすることが好ましく、5%以上とすることがより好ましい。
一方、多量にAlが含有されると、アルカリ耐食性が低下し、更に準結晶相が生成しにくくなり耐食性が低下する。そのため、Al含有量を46.5%以下とし、好ましくは20%以下とする。
よって、めっき層3のAl含有量は、2.5〜46.5%とし、好ましくは3〜20%とし、より好ましくは5〜20%とする。
【0026】
「Mg(マグネシウム):残部」
Mgは、ZnおよびAlと同様に、めっき層3を構成する主要な元素であり、さらに、犠牲防食性を向上させる元素である。また、Mgは、準結晶相の生成を促進させる重要な元素である。そのため、残部としてのMg含有量は、10%以上とし、10〜43%の範囲が望ましく、15〜35%の範囲がより好ましい。Mg含有量を10%以上にすると、安定的に準結晶相を形成するため、準結晶相の生成のみだけを目的とするのであれば熱処理を必要としない。なお、Mgの含有は必須であるが、含有されるMgが、めっき層3でMg相として析出することを抑制することが耐食性向上のために好ましい。
【0027】
また、めっき層3は、C、Ca、Si、Ti、Cr、Fe、Co、Ni、V、Nb、Cu、Sn、Mn、Sr、Sb、Pb、Y、Cd、及びLaの1種または2種以上の選択元素を含有してもよい。ただし、これらの選択元素の合計含有量は0〜0.5%とする。
これらの元素はめっき層3中に含有させることが可能であるが、上記合計含有量の範囲は、準結晶相の形成を阻害することなく、めっき層の性能を劣化させることなく添加できる組成範囲である。上記合計含有量の範囲を超えると、準結晶相は形成し難くなる。
【0028】
ここで、めっき層3の組成、並びに、めっき層3及び界面合金層4の厚さの測定方法は、次の通りである。
まず、発煙硝酸により界面合金層4(Fe−Al層)を不動態化して上層のめっき層3のみを剥離して、その溶液をICP−AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry)又はICP−MS(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)にて、めっき層3の組成を測定する。
【0029】
次に、めっき層の組織について説明する。
めっき層3の組織は、準結晶相とMgZn
2相と残部組織とからなり、前記準結晶相の面積分率が30〜60%であり、複数の準結晶相のうち、90個数%以上の準結晶相がその長軸方向の粒径を0.05〜1.0μmとした準結晶相(以下、粒径0.05〜1.0μmの準結晶相の粒径を「準結晶相の90%以上の粒径」とも称する。)である。
【0030】
めっき層3の組織において、硬質である準結晶相を面積分率で30%以上有することで、耐摩耗性が向上する。また、準結晶相を有することで耐食性にも効果がみられる。しかしながら、準結晶相は硬いため、準結晶相の面積分率が60%を超えると、加工時にクラックが発生し、加工後のめっき密着性を低下させる。そのため、準結晶相の面積分率は、30〜60%であることが好ましく、より好ましくは35〜50%であることがより好ましい。
MgZn
2相も準結晶と同様に耐摩耗性、耐食性、アルカリ耐食性を向上させる。MgZn
2相も各性能を向上させるものの、その程度は準結晶相の方が効果は大きい。一方、加工後のめっき密着性に関しては準結晶相よりも低下の度合いが小さい。そのため加工後のめっき層3の密着性を担保しつつ、耐食性、アルカリ耐食性、及び耐摩耗性を高めることがよい。この観点から、準結晶相及びMgZn
2相の合計の面積分率は、60%≦準結晶相+MgZn
2相≦90%であることが好ましく、70%≦準結晶相+MgZn
2相≦85%であることがより好ましい。
【0031】
また、残部組織の面積分率は、40%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。残部組織の面積分率を低減し、準結晶相及びMgZn
2相の面積分率めっき相の合計の面積分率を増加させることで、加工後のめっき層3の密着性を担保しつつ耐食性、アルカリ耐食性、耐摩耗性を高められるためである。ただし、残部組織の面積分率は、0%であってもいが、加工後のめっき密着性の点から10%以上とすることがよい。
【0032】
ここで、めっき層3において、準結晶相は、準結晶相に含まれるMg含有量、Zn含有量、およびAl含有量が、原子%で、0.5≦Mg/(Zn+Al)≦0.83を満足する準結晶相として定義される。すなわち、Mg原子と、Zn原子及びAl原子の合計との比であるMg:(Zn+Al)が、3:6〜5:6となる準結晶相として定義される。理論比としては、Mg:(Zn+Al)が4:6であると考えられる。
準結晶相の化学成分は、TEM−EDX(Transmission Electron Microscope―EnergyDispersive X-ray Spectroscopy)による定量分析や、EPMA(Electron Probe Micro-Analyzer)マッピングによる定量分析で算出することが好ましい。なお、準結晶を金属間化合物のように正確な化学式で定義することは容易でない。準結晶相は、結晶の単位格子のように繰り返しの格子単位を定義することができず、さらには、Zn、Mgの原子位置を特定するのも困難なためである。
また、めっき層3は、準結晶相以外にMgZn
2相及び残部組織が含むが、残部組織は、準結晶相及びMgZn
2相以外の組織であって、Mg
51Zn
20相、Mg
32(Zn、Al)
49相、MgZn相、Mg
2Zn
3相、Zn相、Al相が含まれる。
【0033】
準結晶相は、1982年にダニエル・シュヒトマン氏によって初めて発見された結晶構造であり、正20面体(icosahedron)の原子配列を有している。この結晶構造は、通常の金属、合金では得られない特異な回転対称性、例えば5回対称性を有する非周期的な結晶構造で、3次元ペンローズパターンに代表される非周期的な構造と等価な結晶構造として知られている。この金属物質を同定するためには、通常、TEM観察による電子線観察によって、相から、正20面体構造に起因する放射状の正10角形の電子線回折像を得ることで確認される。例えば、後述する
図3に示す電子線回折像は、準結晶からのみ得られ、他のいかなる結晶構造からも得ることがない。
【0034】
また、めっき層3の組成で得られる準結晶相は、簡易的には、Mg
32(Zn、Al)
49相としてX線回折により、JCPDSカード:PDF#00−019−0029、又は、#00−039−0951で同定できる回折ピークを示す。
準結晶相は、極めて耐食性に優れる物質で、めっき層3(Zn−Mg−Al層)中に含有されると耐食性が向上する。特に面積分率で5%以上、蒸着めっき層中に含有されると腐食初期段階において白錆発生が抑制される傾向にある。より高い面積分率でたとえば、30%以上含有されるとその効果を増す。すなわちめっき層3(Zn−Mg−Al層)の表面上に形成した準結晶相が腐食因子に対して高いバリア効果を有している。
【0035】
次に、めっき層3の準結晶相、MgZn
2相、及び残部組織の面積分率の測定方法について説明する。
めっき層3の任意の断面(めっき層厚み方向に切断した断面)の少なくとも3視野以上(めっき層3と平行な方向に500μm長さ分に相当する領域を倍率5千倍で少なくとも3視野以上)をSEM−反射電子像で撮影する。別途TEM観察によって得られた実験結果から、SEM−反射電子像における準結晶相、MgZn
2相、及び残部組織を特定する。所定の視野において、成分マッピング像を把握し、めっき層3中における準結晶相、MgZn
2相、及び残部組織と同じ成分組成場所を特定し、画像処理によって、めっき層3における準結晶相、MgZn
2相、及び残部組織を特定する。画像解析装置によって、準結晶相、MgZn
2相、及び残部組織の各領域を範囲選択された画像を用意し、めっき層3中に占める準結晶相、MgZn
2相、及び残部組織の割合を測定する。同様に処理した3視野からの平均値を、めっき層3における準結晶相、MgZn
2相、及び残部組織の面積分率とする。
【0036】
めっき層3の各相の同定は、めっき層3の断面(めっき層厚み方向に切断した断面)をFIB(集束イオンビーム)加工を施した後、TEM(透過型電子顕微鏡)の電子回折像により行う。
【0037】
また、腐食促進試験等で準結晶相が腐食すると、バリア効果の高い腐食生成物が形成し、地鉄を長期にわたり防食する。バリア効果の高い腐食生成物は、準結晶相中に含まれるZn−Mg−Al成分比率が関係している。めっき層3(Zn−Mg−Al合金層)の成分組成において、Zn>Mg+Al(式中、元素記号は元素の含有量(質量%)を示す)が成立している場合、腐食生成物のバリア効果が高い。一般的に耐食性においては、準結晶相の面積分率が高い方が好ましい。準結晶相の面積分率で80%以上であるとその効果が特に大きい。これらの効果は、塩水噴霧サイクル(SST)を含む複合サイクル腐食試験で、その効果が大きく現れる。
【0038】
MgZn
2相及びMg
2Zn
3相は、準結晶相と比較すると含有による耐食性向上効果は小さいが、一定の耐食性を有し、かつ、Mgを多く含有することから、アルカリ耐食性に優れる。これら単独の金属間化合物でもめっき層3中に含有されることでアルカリ耐食性が得られるが、準結晶相と併存すると準結晶相の高アルカリ環境(pH13〜14)でのめっき層3の表層の酸化皮膜が安定化し、特に高い耐食性を示すようになる。このためには、準結晶相はめっき層3に面積分率で30%以上含有されることが好ましい。
【0039】
一方、めっき層3の組織において、準結晶相の90個数%以上の粒径が1.0μmよりも大きくなると加工により粒界から亀裂が伝搬し、加工後のめっき層3の密着性が低下する。つまり、複数の準結晶相の90%以上の粒径が1.0μm以下になると、加工後のめっき層3の密着性が向上し、また、粒が細かく分散していることで耐摩耗性も向上する。準結晶相の90個数%以上の粒径が0.05μm未満になると耐摩耗性が十分に発揮されない。そのため、準結晶相の90%個数以上の粒径は0.1〜0.5μmであることが好ましく、0.1〜0.3μmであることがより好ましい。
【0040】
また、粒径0.05〜1.0μmの準結晶相の割合は、90個数%以上であることが好ましく、95個数%以上であることがより好ましい。
【0041】
準結晶相の粒径(準結晶相の長軸方向の粒径)、粒径0.05〜1.0μmの準結晶相の割合は、次に示す方法により測定する。
めっき層3の任意の断面(めっき層厚み方向に切断した断面)の少なくとも3視野(めっき層3と平行な方向に500μm長さ分に相当する領域を倍率5千倍で少なくとも3視野以上)以上を上記準結晶相の面積分率の測定方法と同様な手法で撮影し、めっき層3における準結晶相の粒子数を数える。また、準結晶相の長軸方向の長さ(つまり準結晶相の径が最長となる直線の長さ)を粒径として測定する。そして、数えた準結晶相の全粒子数に対する、粒径0.05〜1.0μmの準結晶相の割合を算出する。
【0042】
次に、本実施形態のめっき鋼材の製造方法について詳細に説明する。
鋼材2はめっき層3を蒸着する前に望ましくは表面清浄(塩酸酸洗、水洗、乾燥)に供される。鋼材2の表層に生成する強固な酸化被膜は、例えば、10%塩酸に10分以上浸漬することで剥離する。酸洗後、水洗し、ドライヤーや乾燥炉を使用して表面の水分を取り除く。
【0043】
鋼材2の表面にめっき層3を形成するには、一例として真空チャンバーを用いた蒸着法を用いる。なお、以下の説明では閉鎖系でめっき層3を形成する場合について説明するが、連続通板する系でも同様の結果が得られる。
【0044】
真空蒸着は、通常10
−2〜10
−5Paの圧力下で行われ、このときの平均自由工程は数十cm〜数十mである。したがって、蒸着金属源から気化した材料はほとんど衝突することなく鋼材2の表面へ到達する。また、蒸発粒子のエネルギーは非常に小さいため、鋼材2の表面にほとんどダメージを与えない。その半面、めっき層3がポーラスになりやすく、密度が低く、強度が不足する傾向がある。これは蒸発粒子のエネルギーが小さいために鋼材表面に到達した位置から粒子が移動できないことによる。
そのため、蒸着による成膜(めっき)では蒸着粒子の鋼材2への入射頻度を、チャンバー内の残留気体の基板への入射頻度より十分大きくしなければ、めっき層3中に残留気体が取り込まれてしまう。残留気体の最も多い成分はH
2Oである。めっき層3にH
2Oが取り込まれると、めっき層3に空隙ができることになり、ポーラスで脆いめっき層となる。
これを改善するためには鋼材2を加熱して蒸着めっきするのが有効である。鋼材2の温度が高ければ、残留気体の鋼材2への付着確率が減り、めっき層3中に取り込まれる量が減少する。また、鋼材2に吸着した蒸着金属が熱エネルギーで動きやすくなり、不安定な場所に付着したものが安定な場所へ移動できるようになり、めっき層3の密度も高まる。
【0045】
準結晶相とZnMg相をめっき層3が有し、なおかつめっき層3の加工後密着性を確保するためには、蒸着中に鋼材を加熱した方が望ましい。鋼材2の温度は50〜400℃が望ましい。50℃よりも低い温度では鋼材2の表面に蒸着した金属原子が十分結晶相を形成できずに空隙の多いめっき層3となり、耐食性が十分に得られない。鋼材2の温度を400℃以上に設定し、長時間かけて蒸着めっきをした場合、界面合金層4が厚く成長してしまい、めっき層3の加工後密着性低下の要因となる。このため、望ましくは150〜350℃、さらに望ましくは200〜300℃に、鋼材2の表面を加熱しながら蒸着(成膜)することが望ましい。
【0046】
めっき層3を蒸着する場合の蒸着レートは以下の内容により決定される。
「1」蒸着金属源の温度とそのときの金属源の蒸気圧により決定される。
「2」蒸着金属源の表面積、容量により決定される。
「3」蒸着金属源から鋼材2までの距離、チャンバー内の大きさにより決定される。
また、めっき層3を蒸着する方法における加熱方法は以下に例示する方法のいずれかを選択できる。
(1)抵抗加熱。(2)電子線加熱。(3)高周波誘導加熱。(4)レーザー加熱。
【0047】
蒸着させる金属の特性によって蒸着方法を使い分けることが好ましい。
抵抗加熱では高融点金属や各種発熱体材料の両端に電圧を加えて電気を流しジュール熱を発生させる。この抵抗加熱させている試料台の上に蒸着金属源を設置して溶解させることができる。
電線加熱ではタングステンなどのフィラメントを抵抗加熱することにより発生する熱電子を高電圧で加速して、金属蒸着源に照射する。電子の運動エネルギーが衝突し熱に変換されることで、金属蒸着源を溶解することができる。
高周波誘導加熱では高周波誘導による渦電流損とヒステリシス損によって材料を加熱蒸発する方法である。材料を入れたるつぼを囲むように設置したコイルに高周波電力を投入して加熱し、金属蒸着を溶解させることができる。
レーザー加熱では高出力レーザーを加熱蒸発に用いる。レーザー光は一般的に窓から真空容器に導入し、レンズ、凹鏡面などで集光して蒸着金属源を加熱し、溶解することができる。
【0048】
[めっき層の形成]
チャンバーの真空引きが完了したら、蒸着金属源の上面に蓋をした状態で融点付近まで蒸着金属を加熱する。このとき蒸着金属を加熱しすぎると溶融金属の表面がゆらぎ均一な蒸着めっきができない。また、加熱温度が低すぎると十分に金属が気化しない。蒸着量は加熱温度における蒸気圧でおおよそ決まるため、温度と蒸気圧と、そのときのチャンバー内の真空度から決定する。
図2は各種金属の温度(K)と蒸気圧(Pa)の関係を示すグラフであり、
図2に示す関係から蒸着源としてのAl、Mg、Znを個々に用いた場合の温度と蒸気圧の関係を把握して各蒸着源の加熱温度を決定すればよい。
【0049】
蒸着金属の加熱が完了したら蒸着金属源上の蓋を外してめっきを開始する。めっきをするチャンバーが小さく金属蒸着源と鋼材2までの距離が短い場合は、鋼材2あるいは蒸着金属源を回転させて均一に各元素をめっきできるようにすることが望ましい。
蒸発した金属元素は鋼材2の表面に飛来して皮膜として生成し、鋼材2の温度に応じて結晶粒径や鋼材2との界面合金層4の厚みが変化する。
蒸着源から蒸発した金属は鋼材2の表面にほぼ急冷状態のまま被着する。鋼材2の温度によって吸着した金属の移動度が変化するので、それにより各結晶粒径が変化する。
【0050】
鋼材2上にめっきさせる金属は、Zn:20〜83%、及びAl:2.5〜46.5%を含有し、残部がMgおよび不純物からなり、かつMg含有量が10%以上であるめっき層3の組成となるように、各蒸着金属の保持温度と蒸着チャンバー内の圧力を調整する。
めっき後、N
2等の不活性ガスを用いてチャンバー内の真空度を大気に近づけて鋼材2を取り出す。
【0051】
以上説明した組成、及び組織を有するめっき層3を被覆しためっき鋼材1は、塩水に対する耐食性、アルカリ耐食性に優れ、加工後密着性に優れ、耐摩耗性にも優れた特徴を有する。
【0052】
また、本開示は、めっき鋼材の作製において、めっき層を形成後に後処理を実施してもよい。
後処理としては、めっき鋼板の表面を処理する各種の処理が挙げられ、上層めっきを施す処理、ク口メー卜処理、非クロメート処理、りん酸塩処理、潤滑性向上処理、溶接性向上処理等がある。また、めっき後の後処理としては、樹脂系塗料(例えば、ポリエステル樹脂系、アクリル樹脂系、フッ素樹脂系、塩化ビニル樹脂系、ウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系等)を、ロール塗装、スプレー塗装、カーテンフロー塗装、ディップ塗装、フィルムラミネート法(例えば、アクリル樹脂フィルム等の樹脂フィルムを積層する際のフィルムラミネート法)等の方法により塗工して、塗料膜を形成する処理もある。
【実施例】
【0053】
次に本開示を実施例に基づいて更に説明する。
まず、めっき層の蒸着に際して、チャンバー内に設けた蒸着金属(Al,Mg,Zn)を電子線によって個別にそれぞれ加熱した。これら元素の合金を加熱して蒸着させることも可能であるが、これらの金属は個々の融点及び蒸気圧が異なることから、合金を用いて蒸着を行うとめっき層の深さ方向に対する組成分布の制御が困難となるため、元素毎の個別蒸着源を用いた。なお、蒸着条件は次の通りとした。
・装置容量(チャンバー内容量):0.6m
3、
・蒸着金属源から鋼板(基板)までの距離:0.6m、
・蒸着中の真空度:5.0E−3〜2.0E−5Pa、
・蒸着金属源用るつぼの容量:40ml、内径:30φ、
・蒸着方法:電子線、
・電子線照射条件:電圧10V(固定)、電流0.7〜1.5A、
・鋼板温度:50〜600℃、
・鋼板回転速度:15rpm。
【0054】
ここで、蒸着金属(Al,Mg,Zn)を電子線照射により加熱して蒸着するとき、各金属に対する電子線照射の電流を上記範囲(0.7〜1.5Aの範囲)で制御する。この電流制御によって金属の温度が変化し、鋼板上に形成するめっき層の組成を変化させることができる。蒸着金属源の温度は熱電対により測定する。
例えば、No.14の試験片の場合、鋼板の平均温度を423.15K(150℃)まで昇温した状態で、各蒸着金属源の温度平均を、Mg:640K、Al:1280K、Zn:585Kとし、チャンバー内の平均真空度を7×10
−4Paとし、蒸着時間を6minとした。
そして、No.14の試験片のめっき層の組成と、
図2に示す温度と金属の蒸気圧の関係とを目安として、目的とするめっき層の組成となるように、各金属の温度を変化させた。また、蒸着時間を制御して所望のめっき層の膜厚とした。
なお、めっき層の組織は、めっき層の組成と鋼板の平均温度によって制御した。
【0055】
以上説明した蒸着条件を制御して、表1に示す準結晶相の粒径、界面合金層の厚さ、組成を有する各めっき層で表面を被覆した鋼板試験片(サイズ:縦200mm、横200mm、厚み0.8mm)を製造し、得られた各試験片の耐食性評価、加工後耐食性評価、アルカリ耐食性評価、加工後めっき密着性の評価(曲げ試験)、耐摩耗性評価を行った。それらの結果を以下の表1、表2に併記した。準結晶相の粒径はその長軸方向の粒径を測定した。
【0056】
<各相の面積分率>
準結晶相、MgZn
2相、残部組織の面積分率を既述の方法に従って測定した。
【0057】
<準結晶相の長軸方向の粒径>
準結晶相の長軸方向の粒径を既述の方法に従って測定した。
表1において、「粒径(長軸方向の長さ)が0.05〜1μmの準結晶相の粒子数」/「全準結晶相の粒子数」≧0.9となる場合、表1に準結晶相の平均粒径(平均長軸方向の長さ)を記載し、「粒径(長軸方向の長さ)が0.05〜1μmの準結晶相の粒子数」/「全準結晶相の粒子数」<0.9となる場合、表1に「NG」を表記し、準結晶相の平均粒径(平均長軸方向の長さ)をかっこ内に記載した。
なお、「NG」の試験片の中にはめっき層の全面が準結晶相になっているものがあり、準結晶相の粒径を測定できなかったものについては「−」と記載した。
【0058】
<耐摩耗性評価>
蒸着めっき層の耐摩耗性は、HEIDON社製、直線摺動試験機を使用して測定した。接触部分は鋼球(20R:材質SKD11)とし、荷重500g、摺動距離40mm、速度1200mm/minとした。10往復後、試験片(めっき鋼板)の表面を目視により観察し、評価した。試験後めっき層の表面にあきらかな傷や欠けがみられた場合は「D」と評価し、試験後にめっき表面の非試験部が試験部に比べて明瞭に色みが変化したものは「C」と評価し、試験後にめっき表面の非試験部が、試験部に比べてわずかに色みが変化したものは「B」と評価し、試験前と外観がほとんど変化しなかったものを「A」と評価した。それらの結果を表1、表2に併記した。
ただし、「C」の評価については、「C−」、「C」及び「C+」の3段階で評価し、「C−」、「C」及び「C+」の順番で、色みの変化の度合いが小さかったことを示している。
【0059】
<耐食性評価>
蒸着めっき層の耐食性は、JASO M−609−91に準拠した複合サイクル腐食試験(CCT)によって評価した。5サイクルでの試験片(めっき鋼板)のめっき層から赤錆が60%以上発生した試料を「D」、50%以上60%未満赤錆が発生した試料を「C−」と評価した。40%以上50%未満赤錆が発生した試料を「C」と評価した。30%以上40%未満赤錆が発生した試料を「C+」と評価した。10%超え30%未満赤錆が発生した試料を「B」、赤錆発生量が10%以下の試料を「A」と評価した。それらの結果を表1、表2に併記した。
【0060】
<加工後耐食性評価>
蒸着めっき層の加工後耐食性は、上記耐食性評価を実施する前に、2R、60°V曲げ加工を試験片(めっき鋼板)に施した後に、試験片の端面および裏面をテープで被覆した以外は、上記耐食性評価と同様にして評価した。
そして、10サイクルでの試験片(めっき鋼板)のめっき層から赤錆が80%以上発生した試料を「D」と評価した。700%以上80%未満赤錆が発生した試料を「C−」と評価した。60%以上70%未満赤錆が発生した試料を「C」と評価した。50%以上60%未満赤錆が発生した試料を「C+」と評価した。30%超え50%未満赤錆が発生した試料を「B」と評価した。赤錆発生量が30%以下の試料を「A」と評価した。それらの結果を表1、表2に併記した。
【0061】
<アルカリ耐食性評価>
蒸着めっき層のアルカリ耐食性は、pHバッファ装置で管理された苛性ソーダ水中にめっき鋼板を浸漬し、所定時間経過後の腐食減量を評価した。0.5%NaCl水溶液(2リットル)中(pH13)に、長さ3cm撹拌子を100rpmで回転させた水中で端面シールされた試験片(めっき鋼板)を6時間浸漬し、試験片(めっき鋼板)の重量減を測定した。
腐食減量が10g/m
2以上あるいはめっき層が溶解して鋼板が露出した試料の評価は「D」とした。腐食減量が8.5g/m
2以上10g/m
2未満の試料の評価は「C−」とした。腐食減量が7.5g/m
2以上8.5g/m
2未満の試料の評価は「C」とした。腐食減量が6g/m
2以上7.5g/m
2未満の試料の評価は「C+」とした。腐食減量が6g/m
2未満の試料の評価は「B」とした。腐食減量が3g/m
2未満の試料の評価は「A」とした。表1、表2にそれぞれの評価を記載した。
【0062】
<加工後めっき密着性の評価(曲げ試験)>
試験片(めっき鋼板)の加工性を評価するために、JIS H 8504 めっきの密着性試験法のうち(j)曲げ試験法を行った。その後さらに(g)引きはがし試験方法のうち(1)テープ試験方法をJIS Z 1522 粘着テープを用いて行い、試験片(めっき鋼板)のめっき密着性を評価した。
試験片(めっき鋼板)を曲げた段階でめっき層が剥離した試料の場合は評価を「D」と判断した。試料の曲げ部にテープを貼り、剥がした際に一部めっきが付着した場合は評価を「C」と判断した。テープでめっきが剥離せず、曲げ戻した場合にめっきが一部剥離した場合は評価を「B」と判断した。テープでめっきが剥離せず、曲げ戻した場合にもめっきが剥離しない場合は評価を「A」と判断した。そして、それらの各評価を表1、表2に記載した。
ただし、「C」の評価については、「C−」、「C」及び「C+」の3段階で評価し、「C−」、「C」及び「C+」の順番で、めっきの付着の度合いが小さかったことを示している。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
表1及び表2に示す結果から、No.14、21、22、25,26、30、32、33、37〜38の試料は、耐食性、加工後耐食性、アルカリ耐食性、加工後めっき密着性、耐摩耗性に優れていることがわかる。
また、基板の温度が高いと界面合金層が成長し、加工後めっき密着性が低下する傾向があり、温度が高いことで結晶粒も成長するため結晶粒径も大きくなる傾向がある。
【0066】
図3は表1のNo.34の試験片の断面TEM観察により、準結晶相の部分を同定し、その部分の電子線回折像を示す。
図3に示すように、正20面体構造に起因する放射状の正10角形の電子線回折像を得ることができたので、この試料には準結晶相が析出していることを確認できた。
鋼材と、前記鋼材の表面に被覆されためっき層と、前記鋼材及び前記めっき層の境界に形成された界面合金層とを備え、前記めっき層の組成は、質量%でZn:20〜83%、及びAl:2.5〜46.5%を含有し、残部がMgおよび不純物からなり、かつMg含有量が10%以上であり、前記めっき層の組織は、準結晶相とMgZn
相と残部組織とからなり、前記準結晶相の面積分率が30〜60%であり、90個数%以上の準結晶相がその長軸方向の粒径を0.05〜1.0μmとした準結晶相であり、前記めっき層の厚みは0.1μm以上であり、前記界面合金層の厚さは500nm以下であるめっき鋼材である。