【文献】
北島由梨(他4名),電子チャンネリングコントラスト像を用いたフェライトとグラニュラ−ベイナイトの識別,材料とプロセス,2013年 9月 1日,Vol.26 No.2,P.896
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0032】
1.化学組成
本発明に係る鋼板の化学組成について説明する。なお、以下の説明において、含有量についての「%」は「質量%」を意味する。
【0033】
C:0.01〜0.20%
Cは、所定量の金属相1を得るために必要な元素である。0.01%未満であると、所定量の金属相1を面積分率で1.0%以上にすることが難しくなる。そのため、下限を0.01%とする。金属相1の面積率を高めるためには、0.03%以上、0.04%以上又は0.05%以上としてもよい。
【0034】
一方、過剰に添加すると金属相1を面積分率で1.0%以上にすることが難しくなる。そのため、上限を0.20%とする。金属相1の面積率を高めるため、0.10%以下、0.08%以下、0.07%以下又は0.06%以下としてもよい。
【0035】
Si:0.005〜0.10%
Siは、所定量の金属相3を得るために必要な元素である。0.005%未満であると、所定量の金属相3を得ることが難しくなる。そのため、下限を0.10%とする。金属相3の面積率を高めるためには、0.015%以上、0.020%以上、0.025%以上又は0.030%以上としてもよい。
【0036】
一方、過剰に添加すると金属相3の面積率が高くなり過ぎたりするため、金属相1の面積分率で1.0%以上にすることが難しくなる。そのため、その上限を0.10%とする。金属相1および金属相3の面積率の最適化を図るため、0.060%以下、0.050%以下又は0.040%以下としてもよい。
【0037】
Mn:0.60〜4.00%
Mnは、所定量の金属相1を得るために必要な元素である。0.60未満であると、金属相1を面積分率で1.0%以上にすることが難しくなる。そのため、下限を0.60%とする。好ましくは0.60%以上、より好ましくは0.90%以上、さらに好ましくは1.10%以上、さらに好ましくは1.30%以上である。
【0038】
一方、過剰に添加すると金属相1を面積分率で1.0%以上にすることが難しくなる。そのため、上限を4.00%とする。好ましくは3.00%以下、より好ましくは2.50%以下、さらに好ましくは2.00%以下、さらに好ましくは1.80%以下である。
【0039】
Al:0.10〜3.00%
Alは、所定量の金属相3を得るために必要な元素である。0.10%未満であると、所定量の金属相3を得ることが難しくなる。そのため、下限を0.10%とする。好ましくは0.20%以上、より好ましくは0.30%以上、さらに好ましくは0.40%以上、さらに好ましくは0.55%以上である。
【0040】
一方、過剰に添加すると金属相3の面積率が高くなり、金属相1を面積分率で1.0%以上にすることが難しくなる。そのため、上限を3.00%とする。好ましくは2.00%以下、より好ましくは1.50%以下、さらに好ましくは1.00%以下、さらに好ましくは0.80%以下である。
【0041】
P:0.10%以下
Pは、不純物元素であり、粒界に偏析したり、粗大なりん化物を形成して穴広げ性を阻害する。0.10%を超えると、上記偏析が顕著となるため、0.10%以下に制限する。好ましくは、0.02%以下である。Pは少ないほど好ましく、下限は特に限定する必要はなく、その下限は0%である。しかしながら、0.0001%未満に低減することは、経済的に不利であるので、0.0001%を下限としてもよい。
【0042】
S:0.03%以下
Sは、不純物元素であり、粗大な硫化物を形成して穴拡げ性を阻害する。0.03%を超えると、硫化物が過剰に生成して穴拡げ性の低下が顕著になるので、0.03%以下に制限する。より好ましくは0.005%以下である。Sは少ないほど好ましく、下限は特に限定する必要はなく、その下限は0%である。しかしながら、0.0001%未満に低減すると、製造コストが大幅に上昇するので、0.0001%が実質的な下限である。
【0043】
N:0.01%以下
Nは、不純物元素であり、粗大な窒化物を形成して穴拡げ性を阻害する。0.01%を超えると、窒化物が過剰に生成して穴拡げ性の低下が顕著になるので、0.01%以下に制限する。より好ましくは0.0030%以下である。Nは少ないほど好ましく、下限は特に限定する必要はなく、その下限は0%である。しかしながら、0.0001%未満に低減すると、製造コストが大幅に上昇するので、0.0001%が実質的な下限である。
【0044】
O:0.01%以下
Oは、不純物元素であり、粗大な酸化物を形成して穴拡げ性を阻害する。0.01%を超えると、酸化物が過剰に生成して穴拡げ性の低下が顕著になるので、0.01%以下に制限する。より好ましくは0.0050%以下である。Oは少ないほど好ましく、下限は特に限定する必要はなく、その下限は0%である。しかしながら、0.0001%未満に低減すると、製造コストが大幅に上昇するので、0.0001%が実質的な下限である。
【0045】
Ti:0〜2.00%
Tiは、結晶粒を微細化して穴広げ性を向上させる元素であるため、適宜含有させてもよい。2.00%を超えると、Tiを主体とする窒化物や炭化物が過剰に生成し、穴広げ性が劣化するため、上限を2.00%とする。好ましくは0.50%以下、より好ましくは0.10%以下、さらに好ましくは0.05%以下である。必ずしもTiを含有させる必要はなく、その下限は0%である。穴広げ性向上のため0.04%以上含有させてもよい。
【0046】
Nb:0〜2.00%
Nbは、結晶粒を微細化して穴広げ性を向上させる元素であるため、適宜含有させてもよい。2.00%を超えると、Nbを主体とする窒化物や炭化物が過剰に生成し、穴広げ性が劣化するため、上限を2.00%とする。好ましくは0.20%以下、より好ましくは0.05%以下、さらに好ましくは0.03%以下である。必ずしもNbを含有させる必要はなく、その下限は0%である。穴広げ性向上のため、0.005%以上含有させてもよい。
【0047】
V:0〜0.30%
Vは、結晶粒を微細化して穴広げ性を向上させる元素であるため、適宜含有させてもよい。2.00%を超えると、Vを主体とする窒化物や炭化物が過剰に生成し、穴広げ性が劣化するため、上限を2.00%とする。好ましくは0.50%以下、より好ましくは0.10%以下、さらに好ましくは0.05%以下である。必ずしもVを含有させる必要はなく、その下限は0%である。穴広げ性向上のため、0.04%以上含有させてもよい。
【0048】
Cu:0〜2.00%
Cuは、金属相1の面積率を高める効果を持つため、適宜含有させてもよい。2.00%を超えると、所定量の金属相3を得ることが難しくなる。そのため、上限を2.00%とする。好ましくは1.00%以下、より好ましくは0.50%以下、さらに好ましくは0.20%以下、さらに好ましくは0.05%以下である。必ずしもCuを含有させる必要はなく、その下限は0%である。必要に応じて、0.01%以上含有させてもよい。
【0049】
Ni:0〜2.00%
Niは、金属相1の面積率を高める効果を持つため、適宜含有させてもよい。2.00%を超えると、所定量の金属相3を得ることが難しくなる。そのため、上限を2.00%とする。好ましくは1.00%以下、より好ましくは0.50%以下、さらに好ましくは0.20%以下、さらに好ましくは0.05%以下である。必ずしもCuを含有させる必要はなく、その下限は0%である。必要に応じて、0.01%以上含有させてもよい。
【0050】
Mo:0〜1.00%
Moは、金属相3の面積率を高める効果を持つため、適宜含有させてもよい。1.00%を超えると、金属相1を面積分率で1%以上確保することが難しくなる。そのため、上限を1.00%とする。好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.3%以下、さらに好ましくは0.1%以下、さらに好ましくは0.05%以下である。必ずしもMoを含有させる必要はなく、その下限は0%である。必要に応じて、0.01%以上含有させてもよい。
【0051】
Cr:0〜2.00%
Crは、金属相3の面積率を高める効果を持つため、適宜含有させてもよい。2.00%を超えると、金属相1を面積分率で1%以上確保することが難しくなる。そのため、上限を2.00%とする。好ましくは1.00%以下、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.25%以下、さらに好ましくは0.10%以下、さらに好ましくは0.05%以下である。必ずしもCrを含有させる必要はなく、その下限は0%である。必要に応じて、0.01%以上含有させてもよい。
【0052】
B:0〜0.01%
Bは、金属相1の面積率を高める効果を持つため、適宜含有させてもよい。0.01%を超えると、Bを主体とする窒化物や炭化物が過剰に生成し、穴広げ性が劣化するため、上限を0.01%とする。好ましくは0.0025%以下、より好ましくは0.0015%以下、さらに好ましくは0.0010%以下、さらに好ましくは0.0004%以下である。必ずしもBを含有させる必要はなく、その下限は0%である。必要に応じて、0.0003%以上含有させてもよい。
【0053】
Ca:0〜0.010%
Caは、粗大な酸化物や硫化物の生成を抑制させて、穴拡げ性の向上に寄与する元素であるため、本発明に係る鋼板の他の特性を阻害しない範囲で添加してもよい。0.010%を超えると、Caを主体とする酸化物が過剰に生成し、穴広げ性が劣化するため、上限を0.010%とする。好ましくは0.005%以下、より好ましくは0.002%以下、さらに好ましくは0.0005%以下である。必ずしもCaを含有させる必要はなく、その下限は0%である。必要に応じて、0.0003%以上含有させてもよい。
【0054】
Mg:0〜0.010%
Mgは、粗大な酸化物や硫化物の生成を抑制させて、穴拡げ性の向上に寄与する元素であるため、本発明に係る鋼板の他の特性を阻害しない範囲で添加してもよい。0.010%を超えると、Mgを主体とする酸化物が過剰に生成し、穴広げ性が劣化するため、上限を0.010%とする。好ましくは0.005%以下、より好ましくは0.002%以下、さらに好ましくは0.001%以下、さらに好ましくは0.0004%以下である。必ずしもMgを含有させる必要はなく、その下限は0%である。必要に応じて、0.0003%以上含有させてもよい。
【0055】
Zr:0〜0.050%
Zrは、粗大な酸化物や硫化物の生成を抑制させて、穴拡げ性の向上に寄与する元素であるため、本発明に係る鋼板の他の特性を阻害しない範囲で添加してもよい。0.050%を超えると、Zrを主体とする酸化物が過剰に生成し、穴広げ性が劣化するため、上限を0.050%とする。好ましくは0.005%以下である。必ずしもZrを含有させる必要はなく、その下限は0%である。必要に応じて、0.0005%以上含有させてもよい。
【0056】
REM:0〜0.1%
REMは、粗大な酸化物や硫化物の生成を抑制させて、穴拡げ性の向上に寄与する元素であるため、本発明に係る鋼板の他の特性を阻害しない範囲で添加してもよい。0.1%を超えると、REMを主体とする酸化物が過剰に生成し、穴広げ性が劣化するため、上限を0.1%とする。好ましくは0.005%以下である。必ずしもREMを含有させる必要はなく、その下限は0%である。必要に応じて、0.0005%以上含有させてもよい。
【0057】
なお、REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素の総称であり、REMの含有量は上記元素の合計量を意味する。REMは、ミッシュメタルで添加する場合が多いが、LaやCeの他にランタノイド系列の元素を複合で添加する場合がある。この場合も、本発明に係る鋼板は、本発明に係る鋼板の効果を発揮する。また、金属LaやCeなどの金属REMを添加しても、本発明に係る鋼板は、本発明に係る鋼板の効果を発揮する。
【0058】
Sb:0〜0.10%
Sbは、粗大な酸化物や硫化物の生成を抑制させて、穴拡げ性の向上に寄与する元素であるため、本発明に係る鋼板の他の特性を阻害しない範囲で添加してもよい。0.10%を超えると、Sbを主体とする酸化物が過剰に生成し、穴広げ性が劣化するため、上限を0.10%とする。好ましくは0.005%以下である。必ずしもSbを含有させる必要はなく、その下限は0%である。必要に応じて、0.0002%以上含有させてもよい。
【0059】
Sn:0〜0.10%
Snは、粗大な酸化物や硫化物の生成を抑制させて、穴拡げ性の向上に寄与する元素であるため、本発明に係る鋼板の他の特性を阻害しない範囲で添加してもよい。0.10%を超えると、Snを主体とする酸化物が過剰に生成し、穴広げ性が劣化するため、上限を0.10%とする。好ましくは0.005%以下である。必ずしもSnを含有させる必要はなく、その下限は0%である。必要に応じて、0.0005%以上含有させてもよい。
【0060】
As:0〜0.5%
Asは、粗大な酸化物や硫化物の生成を抑制させて、穴拡げ性の向上に寄与する元素であるため、本発明に係る鋼板の他の特性を阻害しない範囲で添加してもよい。0.5%を超えると、Asを主体とする酸化物が過剰に生成し、穴広げ性が劣化するため、上限を0.5%とする。好ましくは0.005%以下である。必ずしもAsを含有させる必要はなく、その下限は0%である。必要に応じて、0.0005%以上含有させてもよい。
【0061】
本発明に係る鋼板は、上記の各元素を含有し、残部は、Feおよび不純物である化学組成を有する。なお、不純物とは、鋼材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料その他の要因により混入する成分を意味する。
【0062】
2.ミクロ組織
本発明の鋼板においては、ミクロ組織を構成する結晶粒を内部に含まれる転位密度に応じて区分するために、K値およびY値が指標として用いられる。
【0063】
まず、EBSD法で測定した測定値を次のGAIQ法(Grain average image quality)で解析して得たGAIQ値に10
−3を乗じた値をK値と定義する。また、EBSD法で測定した測定値を後述のGrain Average Misorientation(GAM)法で解析して得たGAM値をY値と定義する。K値は結晶性の高さを示す指標であり、結晶に含まれる転位密度を評価するために有用な指標である。Y値は、結晶粒内の方位差を評価するために有用な指標である。よって、本発明に係る鋼板では、K値とY値を併用してミクロ組織を特定している。
【0064】
次に、GAIQ法の算出方法について説明する。鋼板表面から板厚tの1/4深さ位置(1/4t部)の圧延方向垂直断面について、圧延方向に200μm、圧延面法線方向に100μmの領域を0.2μmの測定間隔でEBSD解析して結晶方位情報を得る。ここでEBSD解析は、サーマル電界放射型走査電子顕微鏡(JEOL製JSM−7001F)とEBSD検出器(TSL製DVC5型検出器)で構成された装置を用い、EBSD解析装置に付属の「TSL OIM Data Collection 6」により、60mm秒の露出時間で測定する。次に、得られた結晶方位情報に対して、方位差5°以上の領域を結晶粒と定義し、GAIQ法により結晶粒内のImage Quality値の平均値を算出する。ここで、Image Quality値とは、EBSD解析装置に付属のソフトウェア「OIM Analysis(登録商標)Version 7.0.1」に搭載された解析パラメータの一つであり、測定領域における結晶性の高さを示す。すなわち、転位密度が高い領域では、結晶性に乱れが生じるため、Image Quality値が低下する。
【0065】
次に、結晶粒内の平均方位差(°)の算出方法について説明する。得られた結晶方位情報に対して、方位差5°以上の領域を結晶粒と定義し、GAM法により、結晶粒内の平均結晶方位差を求める。結晶粒内の平均方位差は、EBSD解析装置に付属のソフトウェア「OIM Analysis(登録商標)Version 7.0.1」に搭載された解析パラメータの一つである「Grain Average Misorientation(GAM)」値を指し、隣接する測定点間の方位差を算出した後、結晶粒内全て測定点について平均値を求めたものである。
【0066】
上記のようにして得られたK値およびY値に基づいて、金属相を下記のように分類することができる。
金属相1:K値が4.000未満である金属相
金属相2:K値が4.000以上であり、且つY値が0.5〜1.0である金属相
金属相3:K値が4.000以上であり、且つY値が0.5未満である金属相
金属相4:金属相1〜3のいずれにも属さない金属相
【0067】
金属相1:1.0%以上35.0%未満
金属相1は、鋼板強度の確保に必要な組織である。面積分率で1.0%未満であると、最低限の引張強さを確保するのが難しくなるので、下限を1.0%とする。好ましくは2.0%以上、より好ましくは3.0%以上、さらに好ましくは5.0%以上である。一方、面積分率で35.0%以上になると、金属相1と他の金属相の境界のうち、金属相2との境界の割合が60.0%未満となりやすく、穴広げ性が劣化するおそれがあるため、35.0%未満とする。好ましくは32.0%未満、より好ましくは30.0%未満、さらに好ましくは25.0%未満である。
【0068】
なお、金属相1が、面積分率で30.0%以上になると、引張強さを780MPa未満にすることが困難となるので、「引張強さが590MPa以上780MPa未満である鋼板」を得たい場合には、30.0%未満とする。引張強さが780MPa以上である鋼板」を得たい場合には、1.0%以上35.0%未満のままでよい。
【0069】
金属相2:30.0%以上80.0%以下
金属相2は、プレス成型時に必要な優れた穴広げ性を得るために重要な組織である。面積分率で30.0%未満であると、所定の穴広げ性を確保することが難しくなるので、下限を30.0%とする。好ましくは40.0%以上、より好ましくは50.0%以上、さらに好ましくは60.0%以上である。一方、面積分率で80.0%を超えると、未変態のオーステナイトが減少しすぎて、1.0%以上の金属相1を得ることができず、最低限の引張強さを確保するのが難しくなるので、上限を80.0%とする。好ましくは78.0%以下、より好ましくは76.0%以下、さらに好ましくは75.0%以下である。
【0070】
なお、「引張強さが590MPa以上780MPa未満である鋼板」においては、金属相2が、面積分率で35.0%未満の場合、穴広げ性が劣化するという問題が生じる恐れがあり、70.0%を超える場合には、伸びが劣化するという問題が生じる恐れがある。よって、「引張強さが590MPa以上780MPa未満である鋼板」を得たい場合には、金属相2を35.0%以上70.0%以下とするのがよい。引張強さが780MPa以上である鋼板」を得たい場合には、30.0%以上80.0%以下でよい。
【0071】
金属相3:5.0%以上50.0%以下
金属相3は、プレス成型時に必要な優れた延性を確保するために必要な組織である。面積分率で5.0%未満であると、所定の延性を得ることが難しくなるので、下限を5.0%とする。好ましくは10.0%以上であり、より好ましくは15.0%以上であり、20.0%以上である。一方、面積分率で50.0%以上であると、未変態のオーステナイトが減少しすぎて、1.0%以上の金属相1を得ることができず、最低限の引張強さを確保するのが難しくなるので、上限を50.0%とする。好ましくは45.0%以下であり、より好ましくは40.0%以下であり、さらに好ましいのは30.0%以下である。
【0072】
なお、金属相3が、面積分率で35.0%以上の場合、780MPa以上の引張強さを得ることが困難となるので、「引張強さが780MPa以上である鋼板」を得たい場合には、金属相3を5.0%以上35.0%未満とするのがよい。逆に、「引張強さが590MPa以上780MPa未満である鋼板」を得たい場合には、金属相3を35.0%以上50.0%以下とするのがよい。
【0073】
金属相4:5.0%以下
金属相1〜3のいずれにも属さない金属相4は、硬質組織であるため、穴広げ時に亀裂の起点となり、穴広げ性を低下させる。そのため、金属相4は、面積分率の合計で5.0%以下に制限する。好ましくは4.0%以下、より好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.2%以下であり、0%であることが最も好ましい。なお、金属相4について、光学顕微鏡で組織観察を行ったところ、上部ベイナイト、下部ベイナイト、パーライト、セメンタイト及び残留オーステナイトであった。逆に、上部ベイナイト、下部ベイナイト、パーライト、セメンタイト及び残留オーステナイトに対し本発明のEBSD解析をおこなったが、全て金属相4と判定された。
【0074】
以上のように、本発明に係る鋼板のミクロ組織は、金属相1〜金属相4(金属相4は0%でもよい)を備えるものである。特に、引張強さを維持したまま、穴広げ性を向上させるためには、金属相1と他の金属相の境界の60.0%以上が金属相2との境界である組織とすることが好ましい。金属相1と他の金属相の境界のうち金属相2との境界が占める割合は、好ましくは70.0%以上、より好ましくは80.0%以上、さらに好ましくは90.0%以上である。このような範囲に限定することにより、引張強さを維持したまま、穴広げ性を向上できる理由は調査中であるが、概ね下記の機構によるものと考えられる。
【0075】
図1は、本発明に係る鋼板のミクロ組織の一例を模式的に示している。
図1に示すミクロ組織において、符号1は金属相1を、符号2は金属相2を、符号3は金属相3をそれぞれ意味している。
図1に示す例では、金属相4は存在していない。
【0076】
図1に示す例において、金属相1が最も硬い相であり、金属相3が柔らかい相であり、金属相2は、金属相1および金属相3の中間的な硬さを有する相である。このように、金属相1と他の金属相の境界の60.0%以上が金属相2との境界であるミクロ組織であれば、隣接する結晶組織の界面における硬度差が小さいので、鋼板が穴拡げ加工のような過酷な加工を受けても、応力集中が緩和されるため、隣接する結晶粒組織の界面における破断が抑制され、穴拡げ性が顕著に向上する。
【0077】
なお、
図1に示すミクロ組織を形成するためには、金属相1:1.0%以上35.0%未満、金属相2:30.0%以上80.0%以下、金属相3:5.0%以上50.0%以下、金属相4:5.0%以下であるミクロ組織とする必要がある。
【0078】
本発明に係るめっき鋼板は、本発明に係る鋼板の表面に、常法に従い、溶融亜鉛めっき層または合金化亜鉛めっき層を形成した鋼板である。溶融亜鉛めっき層または合金化亜鉛めっき層としては、例えば、下記のものが好ましい。
(a)Feが7質量%未満で、残部がZn、Alおよび不純物からなる溶融亜鉛めっき層またはこのめっき層を合金化しためっき層
(b)Feが7〜15質量%で、残部がZn、Alおよび不純物からなる溶融亜鉛めっき層またはこのめっき層を合金化しためっき層
【0079】
本発明は、引張強さが590MPa以上980MPa以下の鋼板を主な対象としている。必要に応じて、その上限を960MPa又は930MPaとしてもよい。その鋼板の板厚の主として0.8〜3.6mmである。必要に応じて、その下限を1.0mm、1.8mm、2.0mm又は2.2mmとしてもよく、その上限を3.4mm、3.2mm又は2.0mmとしてもよい。
【0080】
3.製造方法
以下、本発明に係る鋼板の製造方法について説明する。本発明者らは、上記の化学組成を有し、かつ少なくとも下記の条件を満たす方法で製造すれば、本発明のミクロ組織が得られることを確認している。
【0081】
熱間圧延に供する鋼片は、常法で製造した鋼片であればよく、特定の化学組成および特性を備える鋼片に限定されない。例えば、連続鋳造スラブ、薄スラブキャスターなどの一般的な方法で製造した鋼片であればよい。
【0082】
(1)粗圧延工程前の加工
粗圧延工程前に、鋼片の幅方向の長さの減少量ΔWが30〜60%となるような加工を施す。この工程により、鋼片内に均一に格子欠陥を導入することができる。そして、このように均一な格子欠陥は、熱間仕上圧延の1パス前の圧延においてオーステナイト粒の再結晶をし易くする。減少量ΔWが30%未満であると、鋼片内に均一に格子欠陥を導入することが難しくなり、面積分率で30.0%以上の金属相2を得ることが難しくなる。減少量ΔWは、鋼片幅方向の減幅が可能な範囲で、適宜設定すればよいので、その上限は特に限定しないが、製造性の理由から60%程度が実質的な上限である。
【0083】
(2)熱間圧延工程
(2a)熱間仕上圧延の1パス前の圧延は、温度:880〜950℃、圧下率:15〜25%の条件で実施する。
この工程により、上記の(1)の工程で導入した均一な格子欠陥を駆動力として格子欠陥が少ないオーステナイト粒を形成する。温度が880℃未満の場合または圧下率が25%を超える場合は、オーステナイト中に過剰に格子欠陥が導入されてしまい、面積分率で30.0%以上の金属相2を得ることが難しくなる。また、温度が950℃を超える場合または圧下率が15%未満の場合は、オーステナイト粒が粗大化し、オーステナイト粒の再結晶が阻害される。その結果、格子欠陥が少ないオーステナイト粒を得ることができず、面積分率で30.0%以上の金属相2を得ることが難しくなる。
【0084】
(2b)熱間仕上圧延は、温度:870〜940℃、圧下率:6〜10%の条件で実施する。
この工程により、オーステナイト粒に適量の格子欠陥を導入する。この少量の格子欠陥が、次の冷却工程で、金属相2への相変態の核として作用する。温度が870℃未満の場合または圧下率が10%超える場合は、オーステナイト中に過剰に格子欠陥が導入されてしまい、面積分率で30.0%以上の金属相2を得ることが難しくなる。また、温度が940℃を超える場合または圧下率が6%未満の場合は、オーステナイト粒へ導入される格子欠陥が過少となり、面積分率で30.0%以上の金属相2を得ることが難しくなる。
【0085】
(3)冷却工程
(3a)仕上げ圧延終了から水冷開始までの時間は、0.5秒以内とする。
熱間仕上圧延後は、0.5秒以内に水冷を開始する。圧延終了後、直ちに水冷を開始することにより、オーステナイト粒の粗大化を抑制することができ、後の冷却工程において、所定量の金属相3を得ることができる。水冷開始までの時間が0.5秒を超えると、オーステナイト粒の粗大化が引きこされ、金属相3の核生成サイトが減少するため、所定量の金属相3を得ることが難しくなる。仕上げ圧延終了から水冷開始までの時間は、冷却可能な範囲で、適宜設定すればよいので、その下限は特に限定しないが、実操業上で0.01秒以下にすることは困難であるため、0.01秒程度が実質的な下限である。
【0086】
(3b)870〜720℃の温度域における平均冷却速度は、50〜140℃/秒とする。
870〜720℃の温度域における平均冷却速度が50℃/秒未満であると、オーステナイト粒の粗大化が引きこされ、金属相3の核生成サイトが減少するため、所定量の金属相3を得ることが難しくなる。一方、平均冷却速度が140℃/秒を超えると、炭素の拡散が抑制されすぎ、オーステナイトが安定化されるため、後の工程において所定量の金属相3を得ることが難しくなる。
【0087】
(3c)720℃以下630℃超の温度域における冷却時間は2〜10秒とする。つまり、この温度域での平均冷却速度は45〜9℃/秒とする。
この工程により、所定量の金属相3を生成させることができる。ここで、冷却時間が2秒未満の場合は、金属相3への変態が十分に進まず、所定量の金属相3を得ることができない。一方、冷却時間が10秒を超える場合は、オーステナイトから金属相3への変態が進みすぎて、後の工程で所定量の金属相1を得ることが難しくなる。
【0088】
ここで、720℃以下630℃超の温度域における冷却時間が5秒以上の場合には、金属相3を面積分率で35.0%未満とすることがでない。このため、引張強さが780MPa以上である鋼板を得たい場合には、この冷却時間を5秒未満とし、引張強さが590MPa以上780MPa未満である鋼板を得たい場合には、この冷却時間を5秒以上とする。
【0089】
(3d)630℃以下600℃超の温度域における冷却時間は、2秒以上6秒未満とする。つまり、この温度域での平均冷却速度は15〜5℃/秒とする。
この工程により、金属相2を生成させることができる。冷却時間が2秒未満の場合は、未変態のオーステナイトに含まれる炭素が十分に拡散することができないため、金属相4が多量に生成してしまう。一方、冷却時間が6秒以上の場合は、オーステナイトから金属相4が多量に生成してしまい、穴広げ性の劣化を招く。
【0090】
(3e)600℃以下450℃超の温度域における平均冷却速度が50〜100℃/秒となるように冷却(例えば、水冷)する。
この工程により、金属相4を5.0%以下にすることができる。平均冷却速度が50℃/秒未満であると、金属相4の面積率が非常に高くなり、穴広げ性が劣化する。一方、平均冷却速度が100℃/秒を超えると、炭素の拡散が抑制されすぎ、オーステナイトが安定化されるため、後の工程において所定量の金属相1を得ることが難しくなる。
【0091】
(4)巻取工程
鋼板を、25℃以上400℃以下の温度で巻き取る。この工程によりオーステナイトから金属相1への変態を起こすことができる。巻取り温度が400℃を超えると、金属相4を5.0%以下にすることができなくなり、穴広げ性が劣化する。実操業において、室温以下で巻き取ることは困難であるため、下限を25℃とする。
【0092】
(5)その他の工程
上記(4)の工程で巻き取った鋼板を巻き戻して酸洗し、鋼板に冷間圧延を施してもよい。酸洗で鋼板表面の酸化物を除去して冷間圧延に供することで、引張強さの向上、化成処理性の向上、めっき性の向上などを図ることができる。なお、酸洗は、一回でもよいし、複数回に分けて行ってもよい。
【0093】
冷間圧延における圧下率は30〜80%が好ましい。圧下率が30%未満であると、引張強さが向上しないので、圧下率は30%以上とする。好ましくは40%以上である。一方、圧下率が80%を超えると、引張強さが過剰に上昇して延性や穴拡げ性が低下するので、圧下率は80%以下とする。好ましくは70%以下である。
【0094】
本発明に係る鋼板の、K値及びY値で規定されるミクロ組織は、上記の(1)〜(4)の工程により得られる組織であるので、鋼板に冷間圧延を施しても、K値およびY値は大きく変化せず、ミクロ組織は冷間圧延後も殆どそのまま残存する。このため、鋼板に冷間圧延を施すことによって引張強さが上昇しても、穴拡げ性が低下することはない。
【0095】
冷間圧延後の鋼板を連続焼鈍ラインに供し、750〜900℃で焼鈍してもよい。本発明者らは、750〜900℃の焼鈍で、K値及びY値は大きく変化しないことを実験的に確認した。それ故、冷間圧延後の鋼板に焼鈍を施しても、穴拡げ性は低下しない。焼鈍温度は、K値及びY値の変化を極力抑制する点で、800〜850℃が好ましい。
【0096】
焼鈍時間は、特に限定しない。焼鈍時間は、K値及びY値の変化を極力抑制しない範囲で、適宜設定すればよい。
【0097】
本発明に係るめっき鋼板の製造方法においては、本発明に係る鋼板の製造方法で製造した鋼板に、常法に従って溶融亜鉛めっきを施す。本発明合金化めっき鋼板の製造方法においては、本発明に係る鋼板の製造方法で製造した鋼板に、常法に従って合金化溶融亜鉛めっきを施す。
【0098】
常法におけるめっき温度や、合金化温度で、ミクロ組織のK値及びY値は変化しないので、鋼板の穴拡げ性は低下しない。
【実施例】
【0099】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0100】
(実施例1)
表1および表2に示す成分組成の鋼片から、表3および表4に示す条件で鋼板を製造した。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
【表3】
【0104】
【表4】
【0105】
なお、表3および表4において、工程(1)は、粗圧延工程前の加工を意味し、表には鋼片の幅方向の長さの減少量ΔW(%)を示している。工程(2a)は、熱間仕上圧延の1パス前の圧延、工程(2b)は、熱間仕上圧延をそれぞれ意味し、表にはそれぞれの温度(℃)および圧下率(%)を示している。工程(3a)は、仕上げ圧延終了から水冷開始までの保持であり、表には、その保持時間を示している。工程(3b)は、870〜720℃の温度域における冷却工程であり、表には、その温度域における平均冷却速度(℃/秒)を示している。工程(3c)は、720℃以下630℃超の温度域における冷却工程であり、表には、その温度域における冷却時間(秒)を示している。工程(3d)は、630℃以下600℃超の温度域における冷却工程であり、表には、その温度域における冷却時間(秒)を示している。工程(3e)は、600℃以下450℃超の温度域における冷却工程であり、表には、その温度域における平均冷却速度(℃/秒)を示している。工程(4)は、巻取工程であり、表にはその巻取温度(℃)を示している。
【0106】
得られた鋼板について、金属組織、機械的性質および穴広げ性を測定した。
【0107】
<金属組織の測定>
鋼板表面から板厚tの1/4深さ位置(1/4t部)の圧延方向垂直断面について、圧延方向に200μm、圧延面法線方向に100μmの領域を0.2μmの測定間隔でEBSD解析して結晶方位情報を得る。ここでEBSD解析は、サーマル電界放射型走査電子顕微鏡(JEOL製JSM−7001F)とEBSD検出器(TSL製HIKARI検出器)で構成された装置を用い、200〜300点/秒の解析速度で実施する。次に、得られた結晶方位情報に対して、方位差5°以上の領域を結晶粒と定義し、結晶粒の粒内の平均方位差を計算し、粒内の方位差が0.5°未満、または、0.5〜1.0°である結晶粒の割合を求める。
【0108】
本発明おける「結晶粒内の平均方位差」は、結晶粒内の方位分散である「Grain Average Misorientation(GAM)」の平均値であり、隣接する測定点間の方位差を算出した後、結晶粒内全て測定点について平均値を求めたものである。GAMの値は、EBSD解析装置に付属のソフトウェア「OIM Analysis(登録商標)Version 7.0.1」を用いて算出した。
【0109】
本発明における「結晶粒内のImage Qualityの平均値」は、実際には、EBSD法で測定した測定値をGAIQ(Grain average image quality)法で解析して得た値の平均値を意味する。
GAIQは、EBSD解析により得られた結晶方位情報に対して、方位差5°以上の領域を結晶粒と定義するとき、結晶粒内の平均転位密度が4000未満である結晶粒の割合を求める。GAIQの値は、EBSD解析装置に付属のソフトウェア「OIM Analysis(登録商標)Version 7.0.1」を用いて算出することができる。
【0110】
上記のようにして得られたK値およびY値に基づいて、金属相を下記のように分類した。
金属相1:K値が4.000未満である金属相
金属相2:K値が4.000以上であり、且つY値が0.5〜1.0である金属相
金属相3:K値が4.000以上であり、且つY値が0.5未満である金属相
金属相4:金属相1〜3のいずれにも属さない金属相
【0111】
<機械的性質の測定>
引張強度と伸びについては、鋼板の圧延方向に直角にJIS5号試験片を採取し、JIS Z 2242に準拠して引張試験を行い、引張強さ(TS)と全伸び(El)を測定して評価する。
【0112】
<穴拡げ性>
穴拡げ性については、日本鉄鋼連盟規格JFS−T1001−1996に準拠して穴拡げ試験を行い、穴拡げ率(HER)を測定して評価する。
【0113】
これらの結果を表5に示す。
【0114】
【表5】
【0115】
表5に示すように、本発明例の鋼板は、590MPa以上の引張強さと十分な穴拡げ性を有している。
【0116】
(実施例2)
表6および表7に示す成分組成の鋼片から、表8および表9に示す条件で鋼板を製造した。
【0117】
【表6】
【0118】
【表7】
【0119】
【表8】
【0120】
【表9】
【0121】
なお、表8および表9において、工程(1)は、粗圧延工程前の加工を意味し、表には鋼片の幅方向の長さの減少量ΔW(%)を示している。工程(2a)は、熱間仕上圧延の1パス前の圧延、工程(2b)は、熱間仕上圧延をそれぞれ意味し、表にはそれぞれの温度(℃)および圧下率(%)を示している。工程(3a)は、仕上げ圧延終了から水冷開始までの保持であり、表には、その保持時間を示している。工程(3b)は、870〜720℃の温度域における冷却工程であり、表には、その温度域における平均冷却速度(℃/秒)を示している。工程(3c)は、720℃以下630℃超の温度域における冷却工程であり、表には、その温度域における冷却時間(秒)を示している。工程(3d)は、630℃以下600℃超の温度域における冷却工程であり、表には、その温度域における冷却時間(秒)を示している。工程(3e)は、600℃以下450℃超の温度域における冷却工程であり、表には、その温度域における平均冷却速度(℃/秒)を示している。工程(4)は、巻取工程であり、表にはその巻取温度(℃)を示している。
【0122】
得られた鋼板について、金属組織、機械的性質および穴広げ性を測定した。
【0123】
<金属組織の測定>
鋼板表面から板厚tの1/4深さ位置(1/4t部)の圧延方向垂直断面について、圧延方向に200μm、圧延面法線方向に100μmの領域を0.2μmの測定間隔でEBSD解析して結晶方位情報を得る。ここでEBSD解析は、サーマル電界放射型走査電子顕微鏡(JEOL製JSM−7001F)とEBSD検出器(TSL製DVC5型検出器)で構成された装置を用い、EBSD解析装置に付属の「TSL OIM Data Collection 6」により、60mm秒の露出時間で測定する。次に、得られた結晶方位情報に対して、方位差5°以上の領域を結晶粒と定義し、結晶粒の粒内の平均方位差を計算し、粒内の方位差が0.5°未満、または、0.5〜1.0°である結晶粒の割合を求める。
【0124】
本発明おける「結晶粒内の平均方位差」は、結晶粒内の方位分散である「Grain Average Misorientation(GAM)」の平均値であり、隣接する測定点間の方位差を算出した後、結晶粒内全て測定点について平均値を求めたものである。GAMの値は、EBSD解析装置に付属のソフトウェア「OIM Analysis(登録商標)Version 7.0.1」を用いて算出した。
【0125】
本発明における「結晶粒内のImage Qualityの平均値」は、実際には、EBSD法で測定した測定値をGAIQ(Grain average image quality)法で解析して得た値の平均値を意味する。
GAIQは、EBSD解析により得られた結晶方位情報に対して、方位差5°以上の領域を結晶粒と定義するとき、結晶粒内の平均転位密度が4000未満である結晶粒の割合を求める。GAIQの値は、EBSD解析装置に付属のソフトウェア「OIM Analysis(登録商標)Version 7.0.1」を用いて算出することができる。
【0126】
上記のようにして得られたK値およびY値に基づいて、金属相を下記のように分類した。
金属相1:K値が4.000未満である金属相
金属相2:K値が4.000以上であり、且つY値が0.5〜1.0である金属相
金属相3:K値が4.000以上であり、且つY値が0.5未満である金属相
金属相4:金属相1〜3のいずれにも属さない金属相
【0127】
<機械的性質の測定>
引張強度と伸びについては、鋼板の圧延方向に直角にJIS5号試験片を採取し、JIS Z 2242に準拠して引張試験を行い、引張強さ(TS)と全伸び(El)を測定して評価する。
【0128】
<穴拡げ性>
穴拡げ性については、日本鉄鋼連盟規格JFS−T1001−1996に準拠して穴拡げ試験を行い、穴拡げ率(HER)を測定して評価する。
【0129】
これらの結果を表10に示す。
【0130】
【表10】
【0131】
表10に示すように、本発明例の鋼板は、780MPa以上の引張強さと十分な穴拡げ性を有している。
所定の化学組成を有し、EBSD解析により測定された5.0°以上の粒界で囲まれた領域を一つの結晶粒とし、前記結晶粒内のImage Qualityの平均値に10
を乗じた値をK値とし、前記結晶粒内の平均方位差(°)をY値とし、前記K値が4.000未満である金属相を金属相1とし、前記K値が4.000以上であり、且つ前記Y値が0.5〜1.0である金属相を金属相2とし、前記K値が4.000以上であり、且つ前記Y値が0.5未満である金属相を金属相3とし、前記金属相1〜3のいずれにも属さない金属相を金属相4とするとき、面積%で、金属相1:1.0%以上35.0%未満、金属相2:30.0%以上80.0%以下、金属相3:5.0%以上50.0%以下、金属相4:5.0%以下であるミクロ組織を備える、鋼板。この鋼板は、引張強さが590MPa以上(さらには780MPa以上)の高強度と、優れた穴拡げ性を有する。