(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
発明者は、丸管を構造部材として用いた場合の衝撃に対する挙動について調べた。丸管を構造部材として用いる場合、丸管は、例えば、
図1Aに示すように、両端部が支持された状態で、構造物(例えば、車両、建物又は容器等)の一部を構成する。発明者は、両端部が支持された丸管の衝撃に対する挙動を調べたところ、丸管の径に対する長さが6倍程度以上の場合、衝撃による変形度合いが大きくなる事態が発生することがわかった。
【0011】
例えば、両端部が支持された丸管の長手方向中央(
図1Aのy1)に衝撃が加わった場合、丸管は、衝撃後早期に折れて変形する(
図1B参照)。この早期折れ変形の突出度合いは、丸管の長手方向中央と一方の支持部との間の位置(
図1Aのy2)に衝撃が加わった場合(
図1C参照)の変形による突出度合いより大きくなる。解析の結果、両端部が支持された丸管の長手方向中央へ衝撃が加わった場合に、最もモーメントの負荷が高くなることがわかった。
【0012】
発明者は、丸管の強度を上げる又は形状を工夫することで、衝撃による丸管の変形度合いを小さくすることを検討した。しかし、丸管の強度を上げても変形による突出度合は変化しない。また、丸管の形状を変えると、丸管の持つ経済性及び汎用性等のメリットがなくなってしまう。そこで、発明者は、丸管の強度分布を変化させることで、折れ変形を抑えることをさらに検討した。
【0013】
発明者は、丸管の材料強度及び強度分布について、鋭意検討した結果、丸管に、他の部分より強度が低い低強度部を、長手方向に並べて配置する構成に想到した。すなわち、高強度部の両側に高強度部より強度の低い低強度部を丸管の全周に渡って配置する構成に想到した。この構成において、高強度部に加わった衝撃による荷重が低強度部に伝達し、折れ変形が抑えられることを見出した。そして、さらなる試行錯誤の結果、高強度部の強度、低強度部の高強度部に対する強度比、高強度部の長手方向の寸法を適切に設定することにより、高強度部に対する衝撃による変形度合いを効果的に低減できることを見出した。この知見に基づき、下記実施形態の丸管に想到した。
【0014】
[実施形態]
図2Aは、本実施形態における金属管1の構成を示す斜視図である。
図2Bは、
図2Aに示す金属管1を長手方向(Y方向)から見た側面図である。
図2Cは、
図2Aに示す金属管1を長手方向に垂直な方向(X方向)から見た側面図である。
【0015】
図2A及び
図2Bに示すように、金属管1は、外径Dの円形断面を有し、長さLYが6D以上の金属管である。金属管1は、高強度部1Aと、その両側に配置される低強度部1Bを備える。高強度部1A及び低強度部1Bは、金属管1の全周にわたって配置される。
図2Cに示すように、高強度部1Aは、金属管1の長手方向(Y方向)において、外径Dの(2/3)D以上、3D以下の寸法LAにわたって配置される((2/3)D≦LA≦3D)。一対の低強度部1Bの間の距離は、高強度部1Aの寸法LAに等しい。高強度部1Aの降伏強度は、500MPa(引張強度の場合は、980MPa)以上である。低強度部1Bの降伏強度は、高強度部1Aの60〜85%である。なお、低強度部1Bの引張強度も、同様に、高強度部1Aの引張強度の60〜85%とする。
【0016】
高強度部1A及び低強度部1B以外の部分すなわち、低強度部1Bの長手方向外側の部分1Cの降伏強度は、低強度部1B以上とする。例えば、低強度部1Bの長手方向外側の部分1Cの降伏強度は、高強度部1Aの降伏強度と同じにすることができる。本例では、低強度部1Bは、周りよりも降伏強度が低い部分である。
【0017】
図2A〜
図2Cに示すように、高強度部1Aの両側に低強度部1Bを全周に渡って配置することで、衝撃荷重による変形を高強度部1Aに集中させることなく、低強度部1Bに分散させることができる。そうするために、次の3点を満たす必要がある。第1に、高強度部1Aの降伏強度は、500MPa(引張強度の場合は980MPa)以上とする。第2に、低強度部1Bの高強度部1Aに対する強度比を60〜85%とする。第3に、高強度部1Aの寸法LAを、外径Dの(2/3)D以上、3D以下とする。そうすることで、高強度部1Aへの衝撃による荷重による変形を、早期に、低強度部1Bに分散することができる。その結果、高強度部1Aへの衝撃による折れ変形を抑えることができる。
【0018】
金属管1のように、長さLYが6D以上の細長い金属管では、長手方向に離間した2つの支持部で支持された状態で、2つの支持部の中央付近に衝撃が加わった場合に、金属管の2つの支持部の中央付近に生じる曲げモーメントが最も大きくなることが発明者の調査によりわかった。この知見に基づいて、2つの支持部の中央付近に高強度部1Aを配置し、高強度部1Aの両側に低強度部1Bを配置することで、衝撃による金属管1の中央部の折れを避けることができる。金属管の支持部に近い箇所に衝撃が加わった場合、中央に衝撃が加わった場合に比べ、曲げモーメントの負荷が大きくならない。そのため、2つの支持部の中央に衝撃が加わった場合よりも、中央より支持部に近い位置に同じ強さの衝撃が加わった場合の方が、金属管は折れ難い。この観点から、金属管の2つの支持部の中央付近の強度分布が重要である。2つの支持部の中央付近に比べ、金属管の支持部に近い箇所の強度分布については、重要度は低い。
【0019】
図3は、一様な強度分布を持つ円形断面を有する金属管2の変形挙動を説明するための図である。
図4は、
図2A〜
図2Cに示すような低強度部1Bを有する金属管1の変形挙動を説明するための図である。
図3及び
図4は、金属管の長さ方向の垂直な方向に圧子を衝突させた場合の変形挙動を示す。
図3及び
図4は、圧子の衝突の方向及び金属管の長さ方向に垂直な方向から見た側面の構成を示す。
【0020】
図3に示すように、一様な強度分布を持つ金属管2では、衝撃により、曲げ変形起点Pで発生した変形は、側面視でくさび状になるように進行する。その結果、曲げ方向(衝撃の方向)に鋭く突出するように折れ曲がる。場合によっては、金属管2にひびが入ることもある。
【0021】
図4に示すように、高強度部1Aの両側に低強度部1B(
図4ではドットで示される領域)を有する金属管1では、高強度部1Aの曲げ変形起点Pから内側へ進行する変形は、高強度部1Aと低強度部1Bの境界に達すると、比較的強度の低い横方向(金属管1の長手方向)に進行しやすくなる。そのため、変形は長手方向に広がり、曲げ方向(衝撃方向)の変形度合いが小さくなる。
【0022】
なお、
図3及び
図4に示す変形挙動は、圧子を金属管に衝突させた場合に限られない。例えば、金属管を長手方向に圧縮する軸力により曲げ変形する場合や、3点曲げ試験のように、金属管に圧子を押し付けて長手方向に垂直な方向の力を静的に加えたときの曲げ変形も、同様の変形挙動となり得る。
【0023】
図2A〜
図2Cに示す金属管1において、高強度部1Aの寸法LAは、外径Dに対して、(2/3)D以上、(4/3)D以下とすることが好ましい。これにより、さらに、高強度部1Aへの衝撃による変形度合いをより抑えることができる。
【0024】
また、低強度部1Bの長手方向の寸法LBは、(3/5)D以上とすることが好ましい。これにより、高強度部1Aへの衝撃による変形度合いをより抑えることができる。低強度部1Bの寸法LBは、金属管1の強度確保の観点から、例えば、2D以下、好ましくは、D以下とすることが好ましい。
【0025】
なお、外径Dに対する高強度部1Aの寸法LA及び低強度部1Bの寸法LBは、上記の関係、すなわち、((2/3D)≦LA≦3D)、好ましくは((2/3)D≦LA≦(4/3)D)又は、((3/5)D≦LB)を厳密に満たす場合に限られない。上記関係を満たすと見なせる程度の誤差を含む場合も含まれる。また、
図2に示す例では、低強度部1Bと高強度部1Aの境界は、金属管の長手方向に垂直な線上にある。低強度部と高強度部の境界の形態はこれに限られない。例えば、低強度部と高強度部の境界が金属管の長手方向に垂直ではなく蛇行していてもよい。この場合、蛇行する境界のうち最も低強度部寄りの位置と最も高強度部寄りの位置の中間に、低強度部と高強度部の境界が位置するとみなす。金属管の断面が楕円の場合は、長軸と短軸の比が1.5以下までを許容する。楕円の場合、衝撃入力方向の径を外径Dとみなす。例えば、自動車の骨格部材に適用した場合、車体の外側から内側に向かう方向の径を外径Dとみなす。金属管が楕円かつねじれている場合、短軸を外径Dとみなす。
【0026】
また、高強度部1Aを金属管1の長手方向中央に配置することが好ましい。すなわち、高強度部1Aの少なくとも一部が、金属管1の長手方向中央の部分に位置するよう構成することが好ましい。換言すると、金属管1の長さ方向中央部を高強度部1Aとすることが好ましい。これにより、金属管1の中央への衝撃による折れを抑えることができる。例えば、両端部が支持され金属管1において、衝撃によるモーメントが最も大きくなる中央の折れ変形を効果的に抑えることができる。
【0027】
図2Aに示す例では、金属管1は、長手方向に直線状に延びて形成される。これに対して、金属管1は、長手方向において湾曲していてもよい。例えば、金属管1は、長手方向に垂直な方向に凸となるよう湾曲した形状にすることができる。
【0028】
図5A〜
図5Dは、長手方向において湾曲した金属管1の例を示す側面図である。
図5A〜
図5Dに示す例では、金属管1は、長手方向に垂直な方向に凸となるよう湾曲している。
図5Aでは、金属管1は、長手方向全体にわたって一定の曲率で湾曲している。
図5B及び
図5Cでは、金属管1の長手方向の位置に応じて曲率が変化している。
図5Dでは、金属管1は、長手方向の一部において湾曲している。
図5A及び
図5Dに示す例では、金属管1は、長手方向に垂直な方向から見て左右対称となるよう湾曲している。
図5B、
図5C、及び
図5Dの金属管1は、湾曲している部分(湾曲部)と、直線上に延びる部分(直線部)とを有する。
図5Cに示す例では、直線部の長手方向両側に湾曲部が配置される。すなわち、湾曲部の間に直線部が配置される。
図5Dに示す例では、湾曲部の長手方向両側に直線部が配置される。
【0029】
このように、金属管1を長手方向に垂直な方向に凸となるよう湾曲させることで、湾曲の凸方向に対向する向きの衝撃に対する耐衝撃性を向上させることができる。例えば、湾曲した金属管1の両端部を支持してなる構造部材は、湾曲の凸方向に対向する向きの衝撃に対して、高い耐衝撃性を有する。
【0030】
図5A及び
図5Dに示す例では、一対の低強度部1Bとその間の高強度部1Aは、いずれも金属管1の湾曲部に配置される。
図5B及び
図5Cに示す例では、一対の低強度部1Bとその間の高強度部1Aは、いずれも金属管1の直線部に配置される。低強度部1Bと高強度部1Aを直線部に配置する場合、例えば、直線部の中央に高強度部1Aを配置することができる。これにより、衝撃を受けたときのモーメントが高くなる部分に高強度部1Aを配置することができる。
【0031】
[構造部材、車両への適用例]
上記の金属管1は、構造部材として用いることができる。この場合、例えば、金属管1の長手方向に離間した2箇所で支持された金属管1で構造部材を形成する。この場合、金属管1は、他の部材に連結される部分である連結部を2つ有する。金属管1は、連結部において他の部材に支持される。連結部は、支持部とも称する。連結部では、金属管1は、他の部材に対して固定される。すなわち、連結部において、金属管1は、他の部材に対して、相対運動不可能な状態で連結される。金属管1の連結部は、例えば、締結部材又は溶接により他の部材と接合される。なお、連結部は、3つ以上であってもよい。
【0032】
2つの連結部は、金属管1の長手方向において6D以上離れた位置に配置される。連結部の離間距離が6D未満の場合、特に何も配慮しなくても金属管が折れにくいため、発明の効果があまりない。
【0033】
例えば、金属管1を車両央構造部材として用いる場合は、金属管1は、金属管1の長手方向に離間した2つの連結部で支持した状態で車両に取り付けられる。金属管1は、例えば、車体、バンパ又は車両ドアの構造部材となる。そのため、金属管1を備える車体、パンパ又は車両ドアも、本発明の実施形態に含まれる。
【0034】
2つ連結部で支持された金属管1で形成される構造部材では、2つの連結部の間に、一対の低強度部1Bとその間の高強度部1Aを配置する。これにより、金属管1において、衝撃が加わった場合のモーメントが大きくなる部分を折れにくくすることができる。その結果、耐衝撃性が高い構造部材が得られる。
【0035】
例えば、2つの連結部から等しい距離の部分(2つの連結部の間の中央)に高強度部1Aを配置する。例えば、長手方向中央に高強度部1Aが配置された金属管1の両端部を支持した構造部材を形成する。ここで、両端部とは、金属管1の両端及びその近傍の部分を含む。
【0036】
金属管1を車両に取り付ける場合、金属管1の長手方向が車両の外形に沿うよう金属管1を配置することが好ましい。すなわち、車両が衝突した場合の衝撃が金属管1の長手方向に垂直な方向となるように、金属管1が取り付けられる。金属管1の長手方向中央に高強度部1Aが配置され、その両側に低強度部1Bが配置される。これにより、金属管1の中央に車両の外側から衝撃を受けた場合に、金属管1が車両の内側へ突出する度合が小さくなる。そのため、車両内の装置又人に金属管1が接触する可能性がより低くなる。例えば、金属管1が、衝突時に客室内に向かって折れることが避けられる。これにより、安全性がより向上する。
【0037】
金属管1は、上記のように、湾曲していてもよい。例えば、金属管1は、車両の外側に向かって凸となるよう車両に取り付けることが好ましい。この場合、金属管1は、車両の外側に凸となるように湾曲している。これにより、車両の外側から衝撃を受けた場合に、金属管1をより折れにくくすることができる。
【0038】
金属管1は、車体、バンパ又は車両ドアの一部を構成する構造部材とすることができる。例えば、Aピラー、Bピラー、サイドシル、ルーフレール、フロアメンバー、フロントサイドメンバーといった車体を構成する部材に金属管1を用いてもよい。或いは、ドアインパクトビームやバンパといった車体に取り付けられる部材に金属管1を用いてもよい。
【0039】
図6Aは、モノコック構造の車両に配置される構造部材の一例を示す図である。
図6Aに示す例では、Aピラー15、Bピラー16、サイドシル17、ルーフレール18、バンパ19、フロントサイドメンバー20、ドアインパクトビーム21、フロアメンバー22、及び、リアサイドメンバー23が車両用構造部材として用いられる。これらの車両用構造部材の少なくとも1つを、上記の金属管1で構成してもよい。
【0040】
バンパ19を金属管1で形成する場合、金属管1の両端部をフロントサイドメンバー20で支持する構成とする。この構成では、バンパ19の中央に衝撃が加わった場合に、荷重のモーメントが最大となる。バンパ19の左右方向中央に高強度部1Aが配置され、その両側に低強度部1Bが配置される。これにより、バンパ19の中央への衝撃による折れ変形が抑えられる。
【0041】
ドアインパクトビーム21を金属管1で形成する場合、金属管1の両端部にブラケットを設け取り付けられる。ブラケットを設けずに溶接してもよい。金属管1は、両端部のブラケットを介してドアフレームに取り付けられる。いずれの場合も、高強度部1Aを金属管1の中央に配置することで、衝撃を受けた際のモーメントが最も大きくなる部分での折れ変形を抑えることができる。
【0042】
金属管1は、モノコック構造の車両のみならず、フレーム構造の車体に適用してもよい。
図6Bは、特開2011−37313に開示されたスペースフレーム構造の車体を有する車両である。スペースフレーム構造の車体は、複数のパイプ31と、パイプ31を連結するジョイント32を備える。パイプ31は、車体の表面を覆うボディ30の内部に配置される。複数のパイプ31は、上下方向に延びるパイプ、前後方向に延びるパイプ、及び、左右方向に延びるパイプを含む。複数のパイプ31の少なくとも一部を、上記の金属管1で形成することができる。このように、スペースフレーム構造の車体を構成するパイプ(管材)に上記の金属管1を適用すると、パイプが、乗員やエンジンのある車体内側に深く折れ曲がることが無いため、効果的である。
【0043】
車両の構造部材を構成する金属管1の材料として、引張強度(低強度部1B以外の部分の引張強度)が780MPa以上(降伏強度400Mpa以上)の超高強度鋼を用いると、上記の効果が顕著に現れる。さらには、金属管1の低強度部1B以外の領域の強度を、引張強度で980MPa以上(降伏強度で500MPa以上)とすることで、より効果を奏することができる。
【0044】
なお、金属管1を適用できる車両の構造部材は、
図6に示す自動車のような4輪車両に限られず、例えば、二輪車両の構造部材として金属管1を用いてもよい。また、金属管1で構成される構造部材の用途は、車両用に限られない。例えば、耐衝撃性容器、建築物、船舶、又は、航空機等の構造部材として、金属管1を用いてもよい。
【0045】
また、金属管1を構造部材として用いる態様は、金属管1の両端部を他の部材に連結する態様に限られない。金属管1の長手方向に6D以上離れた任意の2つの位置で、他の部材を連結してもよい。すなわち、2つの連結部は、両端に限らずに、金属管1の任意の位置に配置してもよい。
【0046】
[製造工程]
金属管1は、全体を同一素材で形成することができる。一例として、金属管1は、鋼板から形成することができる。例えば、1枚の鋼板を丸めて、鋼板の一方の端部と、対向する他方の端部とを溶接等により接合することで、円形の断面を有する管状の構造部材(丸管)を形成される。或いは、中実の円柱に軸方向に孔を貫通させて金属管1を形成される。丸管を湾曲させる場合は、例えば、プレス曲げ、引張り曲げ、圧縮曲げ、ロール曲げ、押し通し曲げ、又は偏心プラグ曲げ等の曲げ加工方法を用いられる。
【0047】
金属管1の製造工程には、素材に低強度部を形成する工程が含まれる。低強度部を形成する方法は、特に限定されないが、例えば、レーザー又は高周波加熱等の方法で、材料を局所的に加熱、焼き入れを行うことで、硬化領域を含む金属管1を作り出すことができる。この場合、焼き入れを行わない領域が、相対的に強度が低い低強度部となる。また、調質処理を行って丸管の全体を強化した後に、部分的に焼鈍処理を行って低強度部を形成することもできる。
【0048】
或いは、管状部材を、軸方向に移動させながら、加熱、曲げモーメント付与、及び冷却を順次施すことで、長手方向において湾曲した金属管1を作製することができる。この方法では、管状部材の外周に、誘導加熱コイルを配置して、管状部材を局部的に塑性変形可能温度に加熱する。この加熱部を管状方向に移動させながら、誘導加熱コイルより下流の管状部材に設けられた可動ローラダイス等の可動把持手段を動かすことにより、曲げモーメントを付与する。このようにして湾曲させた部分を、誘導加熱コイルと可動把持手段との間の冷却装置により冷却する。この工程において、例えば、加熱及び冷却の条件を管状部材の外周方向において異ならせることで、管状部材に低強度部を形成することができる。
【0049】
なお、金属管1の製造方法は、上記例に限られない。テーラードブランク、その他公知の方法を用いて、低強度部を有する金属管1を形成することができる。テーラードブランクを採用する場合、本発明は鋼管のみならず、例えば、アルミニウム等の金属管にも適用できる。
【0050】
上記の金属管1においては、高強度部1Aの降伏強度の分布が一様でない場合がある。定常域では、降伏強度のばらつきは、±10%以内となることが多い。ここでは、高強度部1Aの降伏強度の最大値Smaxの90%を、高強度部1Aの降伏強度SA(基準強度)と定義する(SA=0.9Smax)。降伏強度が0.85SAより大きく0.9SAより小さい(SAの85%〜90%)領域(遷移域)は、高強度部1Aの一部とみなす。高強度部1Aにおける降伏強度は、0.85SA(SAの85%)より大きい。すなわち、降伏強度が0.85SAより大きい領域が高強度部1Aである。
【0051】
図7は、低強度部と高強度部の境界を含む部分の降伏強度の分布の一例を示す図である。
図7において、縦軸は降伏強度、横軸はy方向の位置を示す。
図7に示す例では、高強度部の降伏強度の最大値Smaxの90%(0.9Smax)が、高強度部の降伏強度SAと定義される。高強度部において、降伏強度が0.9SA以上の領域は、定常域と称する。また、降伏強度が0.85SAより大きく0.9SAより小さい領域は、低強度部から高強度部の定常域に至るまでの遷移域である。遷移域は高強度部とみなす。つまり、降伏強度が0.85Aの位置が、低強度部と高強度部との境界となる。すなわち、降伏強度が0.85SAより大きい領域は、高強度部となり、降伏強度が0.85SA以下の領域は、低強度部である。
【0052】
低強度部の降伏強度は、0.6SA以上0.85SA以下(SAの60〜85%)である。なお、金属管1の低強度部で囲まれる部分に0.6SA以下の部分が含まれていても、その部分が金属管1の変形挙動への影響を無視できる程度に小さい場合は、低強度部の一部と見なす。
【実施例】
【0053】
本実施例では、円形の断面を有する金属管に圧子を衝突させた場合の金属管の変形をシミュレーションで解析した。
図8Aは、シミュレーションにおける解析モデルの構成を示す図である。本シミュレーションでは、金属管10を2つの台3に架け渡した状態で、金属管10の長手方向の中央部に、圧子(インパクタ)4を、衝突させた場合の変形挙動を解析した。圧子4の質量は350kgとし、圧子4のY方向の幅WIは160mm、圧子4の衝突面4sの曲率半径Rは150mmとし、圧子4の初速度は、4m/秒とした。摩擦係数は、0.1とした。金属管10の断面は円形とした。金属管10の外形Dは50mm、金属管10の板厚は1.4mm、金属管10の長さLYは1000mmとした。台3間の距離LSは400mmとした。
【0054】
図8Bは、シミュレーションにおける解析モデルの他の構成を示す図である。
図8Bに示す例では、金属管10の両端が2つの台3に接合されている。
図8Bに示す解析モデルのシミュレーションの結果は、
図8Aに示す解析モデルのシミュレーションの結果と同様であった。
【0055】
低強度部10Bの降伏強度を100kgf/mm
2、高強度部10Aを含むその他の領域の降伏強度を120kgf/mm
2(高強度部10Aと低強度部10Bの強度比を約0.83)として、高強度部10Aの寸法LA及び低強度部10Bの寸法LBを変化させて、衝突シミュレーションを行った。
【0056】
図9A及び
図9Bは、圧子4の侵入量が40mmの時の金属管10の変形のシミュレーション結果を示す図である。
図9Aは、低強度部10Bの間の高強度部10Aの寸法LAを金属管10の外径Dと同じにした場合(LA=D)の金属管10の変形を示す。
図9Bは、低強度部10Bを設けない場合(LA=LB=0)の金属管10の変形を示す。
【0057】
図9Aに示す結果は、金属管10の壁が圧子4に押されて潰れる、いわゆる「断面潰れ」の変形モードを示している。
図9Aに示す結果では、金属管10の表面は、インパクタ4の衝撃面4sの形状に沿って変形している。
図9Bに示す結果は、金属管10の壁が、鋭く突出するように折れ曲がる、いわゆる「折れ」の変形モードを示している。
図9Bに示す結果では、金属管10の表面は、折れ曲がることで、インパクタ4の衝撃面4sから離れている。このシミュレーション結果により、LA=Dの条件において、圧子4の侵入量40mmで折れが発生せず、好ましい変形挙動が得られることがわかった。
【0058】
下記表1は、上記強度比を0.83(低強度部10Bの降伏強度を、YP100kgf/mm
2、高強度部10Aを含むその他の部分の降伏強度を、YP120kgf/mm
2)とし、高強度部1Aの寸法LA及び金属管10の板厚tを変化させた場合のシミュレーション結果から得られる変形挙動を示す。表1において、変形挙動欄のExcellentは非常に良好、Goodは良好、Poorは、不良を示す。これらの変形挙動の評価は、折れが発生する時の圧子の侵入量に基づいて判断した。圧子の侵入量は、インパクタストローク又は圧子変位と称することもできる。
【0059】
【表1】
【0060】
図10は、上記表1に示すCase1、Case3、及びCase6の条件における金属管10にかかる荷重及び吸収エネルギーのシミュレーション結果を示す。
図10において、横軸はストロークすなわち圧子4の侵入量(mm)、縦軸は荷重(kN)及び吸収エネルギー(J)を示す。実線K1は、Case1(LA=0)の場合の荷重とストロークとの関係を示す。実線K3は、Case3(LA=D)の場合の荷重とストロークとの関係を示す。実線K6は、Case6(LA=8D/3)の場合の荷重とストロークとの関係を示す。破線E1は、Case1の場合の吸収エネルギーを示す。破線E3は、Case3の場合の吸収エネルギーを示す。破線E6は、Case6の場合の吸収エネルギーを示す。
【0061】
Case6は、Case1に比べ、折れモードが生じ難く、荷重は高位を維持している。結果として、Case6の吸収エネルギーは、Case1に比べて優位となっている。Case3は、Case1及びCase6に比べて、さらに折れモードが生じ難いため、極めて高い吸収エネルギーを達成できている。
【0062】
図11は、表1におけるCase1〜12における、折れ発生時のインパクタストロークのシミュレーション結果を示すグラフである。
図11に示す結果では、Case2〜7、10〜12の場合に、Case1すなわち低強度部10Bを設けない場合より、折れ発生時のインパクタストロークが大きくなっている。これにより、Case2〜7、10〜12の場合には、低強度部10Bを設けない場合に比べて、折れが発生しにくいことがわかった。また、Case2〜4の場合は、折れ発生時のインパクタストロークが突出して大きくなっている。これにより、Case2〜4の場合は、特に、折れが発生しにくくなることがわかった。
【0063】
また、低強度部10Bの強度と、高強度部10Aを含むその他の部分の強度との強度比を変化させて、衝突シミュレーションを行った。
図12は、低強度部10Bと、高強度部10Aを含む他の部分の強度比を変えて衝撃荷重を入力した場合の、曲げ変形による変形量を示すグラフである。
図12において、縦軸は、衝撃方向(z方向)における金属管10の侵入量(突出量)を示す。横軸は、低強度部10Bの強度の、高強度部10Aの強度に対する比(強度比=低強度部の強度/高強度部の強度)を示す。
図12のグラフでは、ひし形のプロットは、高強度部の降伏強度をYS120kgf/mm
2とした場合の結果を示し、四角のプロットは、高強度部の降伏強度を145kgf/mm
2とした場合の結果を示す。
【0064】
強度比が、0.60〜0.85の区間では、強度比の増加に伴って侵入量は減少している(矢印Y1)。この区間では、金属管10の変形モードは、断面潰れとなっている。この区間において、低強度部10Bの強度が低い(強度比が0.60以下)場合、断面潰れの変形になるものの、侵入量が大きくなり、強度比が0.85を越える場合の侵入量と略同じとなった。強度比が0.85を超えると、侵入量は、急激に増加した(矢印Y2)。さらに、強度比0.85以上で強度比を増やすと、侵入量は、強度比の増加に応じて大きくなった(矢印Y3)。これは、強度比0.85を境に、変形モードが、断面潰れから、折れに変化したためと考えられる。このように、低強度部10Bの強度が高すぎる(強度比が高い)と折れ曲がって変形し、侵入量が大きくなった。
図12の結果により、衝撃による曲げ変形の侵入量を少なくする観点から、強度比は60〜85%が好ましく、強度比は70〜85%がより好ましいことが確認された。
【0065】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、上述した実施形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0066】
金属管1の断面形状は、厳密に真円である場合に限られない。金属管1の断面形状は、略円形と見なせる程度に、扁平した楕円であってもよい。また、金属管1の断面における外縁の一部が、円弧でなく直線になっていてもよい。本発明の金属管は、広い分野で鋼管に好適に適用されるが、鋼管に限らず、アルミニウム管その他金属管に適用可能である。
金属管(1)は、外径Dの円形断面を有し、長さが6D以上である。金属管(1)は、高強度部(1A)と、低強度部(1B)を備える。高強度部(1A)は、金属管長手方向の寸法(2/3)D以上、3D以下の部分に、金属管(1)の全周にわたって配置される。高強度部(1A)の降伏強度は、500Mpa(引張強度なら980MPa)以上である。低強度部(1B)は、高強度部(1A)の金属管長手方向両側に金属管(1)の全周にわたって配置される。低強度部(1B)の降伏強度は、高強度部(1A)の60〜85%である。