特許第6179756号(P6179756)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6179756超高分子量ポリエチレン複合材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6179756
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】超高分子量ポリエチレン複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/44 20060101AFI20170807BHJP
   A61F 2/30 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   A61L27/44 100
   A61F2/30
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-36244(P2013-36244)
(22)【出願日】2013年2月26日
(65)【公開番号】特開2013-208424(P2013-208424A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2016年2月19日
(31)【優先権主張番号】特願2012-40616(P2012-40616)
(32)【優先日】2012年2月27日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、経済産業省「課題解決型医療機器等開発事業」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】508282465
【氏名又は名称】帝人ナカシマメディカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】特許業務法人綿貫国際特許・商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077621
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100146075
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 隆志
(74)【代理人】
【識別番号】100092819
【弁理士】
【氏名又は名称】堀米 和春
(74)【代理人】
【識別番号】100141634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 善博
(74)【代理人】
【識別番号】100141461
【弁理士】
【氏名又は名称】傳田 正彦
(72)【発明者】
【氏名】西村 直之
(72)【発明者】
【氏名】綱嶋 義貴
(72)【発明者】
【氏名】福世 知行
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 直人
(72)【発明者】
【氏名】薄井 雄企
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 守信
【審査官】 石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−155509(JP,A)
【文献】 Polymer Testing,2006年,Vol.25,No.2,pp.221-229
【文献】 日本成形外科学会雑誌,2007年,Vol.81,No.8,Page.S993
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00−33/18
A61F 2/00− 4/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超高分子量ポリエチレンとカーボンナノチューブとを含む超高分子量ポリエチレン複合材料の製造方法において、
超高分子量ポリエチレンと、該超高分子量ポリエチレンの重量に対して3〜20重量%のカーボンナノチューブとを含む粉末を混合して、原料粉末混合物を製造する工程と、
前記原料粉末混合物に、真空中もしくは不活性ガス中でマイクロ波を照射して加熱し、超高分子量ポリエチレン−カーボンナノチューブ結合物を製造する工程と、
前記超高分子量ポリエチレン−カーボンナノチューブ結合物を真空中で加圧、加熱して所要形状に成形する工程とを含むことを特徴とする超高分子量ポリエチレン複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記原料粉末混合物として、さらに、前記超高分子量ポリエチレンの分子量よりも小さい低分子量ポリエチレン材料含む粉末を混合して、前記原料粉末混合物に形成することを特徴とする請求項に記載の超高分子量ポリエチレン複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記低分子量ポリエチレン材料が、高密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項に記載の超高分子量ポリエチレン複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記超高分子量ポリエチレンは、平均粒子径が50〜200μmの範囲となる超高分子量ポリエチレンであることを特徴とする請求項から請求項のいずれか一項に記載の超高分子量ポリエチレン複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記低分子量ポリエチレン材料は平均粒子径が50〜200μmの範囲であることを特徴とする請求項2または請求項に記載の超高分子量ポリエチレン複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高分子量ポリエチレン複合材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会の到来と共に、変形性関節症、関節リウマチ、骨折などの関節疾患が増加し、股関節や膝関節に人工関節置換手術を行う患者が増えている。この手術により再度歩行が可能となり、社会復帰などが実現している。しかし、人工関節の長期使用により劣化し、人工関節を再度入れ替えて、人工関節の機能を回復させる再置換手術の件数が増えている。このため、様々な素材を用いた人工股関節を開発し、人工股関節の欠点を克服する努力がなされている。しかし、いずれの人工股関節においても根本的な解決策を見出せずにいるのが現状であり、耐久性向上が望まれている。
【0003】
人工関節のソケット部分は、ポリエチレン等のプラスチック、金属、セラミックスで構成されている。ヘッド部分はセラミックスや金属で製造され、ヘッド部分が滑ることで関節の機能を果たしている。これまでの人工股関節は、様々な素材が用いられていて、様々な形状のものが試みられている。しかしいずれの場合も利点があれば、欠点が存在する。超高分子量ポリエチレン材料は、その低い摩擦係数から各種摺動部材としての利用が進められていて、人工関節摺動部材としての利用が1970年代より盛んに行われている。超高分子量ポリエチレン等の高分子材料を用いて作製した長期間にわたって耐摩耗性を維持でき、耐久性に優れた低摩耗性摺動部材を用いた人工関節が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−202965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている材料は、超高分子量ポリエチレンの摩耗を防止するために、超高分子量ポリエチレンにγ線、電子線を照射して架橋処理したクロスリンクポリエチレンである。この材料は、通常のポリエチレンとは異なり、耐摩耗性と弾性率が改善される。しかし、耐衝撃性が悪くなり、さらに折損するという報告があった。このように従来の生体用材料は人工関節として要求に応えられるほど長期に利用できるものではないという課題があった。
【0006】
そこで本発明は上記課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、優れた耐摩耗性、および弾性率、さらに耐衝撃性を併せもち、人工関節として耐摩耗性が要求される部位に利用できる超高分子量ポリエチレン複合材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の超高分子量ポリエチレン複合材料の製造方法は次の構成を備える。すなわち本発明は、超高分子量ポリエチレンとカーボンナノチューブとを含む超高分子量ポリエチレン複合材料の製造方法において、超高分子量ポリエチレンと、該超高分子量ポリエチレンの重量に対して3〜20重量%のカーボンナノチューブとを含む粉末を混合して、原料粉末混合物を製造する工程と、前記原料粉末混合物に、真空中もしくは不活性ガス中でマイクロ波を照射して加熱し、超高分子量ポリエチレン−カーボンナノチューブ結合物を製造する工程と、前記超高分子量ポリエチレン−カーボンナノチューブ結合物を真空中で加圧、加熱して所要形状に成形する工程とを含むことを特徴とする。この構成によれば、耐摩耗性と弾性率と耐衝撃性を併せもつ超高分子量ポリエチレン複合材料を製造することができる。
【0013】
また、本発明において、前記原料粉末混合物として、さらに、前記超高分子量ポリエチレンの分子量よりも小さい低分子量ポリエチレン材料含む粉末を混合して、前記原料粉末混合物に形成することが好ましい。これによれば、カーボンナノチューブを従来品より多く混入させた超高分子量ポリエチレン複合材料を製造することができる。
【0014】
また、本発明において、前記低分子量ポリエチレン材料が、高密度ポリエチレンであることが好ましい。これによれば、カーボンナノチューブを多く混入しても高密度ポリエチレンが流動化してカーボンナノチューブ間に浸透し、超高分子量ポリエチレン複合材料の機械的特性が向上させることができる。
【0015】
また、本発明において、前記超高分子量ポリエチレンは、平均粒子径が50〜200μmの範囲となる超高分子量ポリエチレンであることが好ましい。また、前記低分子量ポリエチレン材料は平均粒子径が50〜200μmの範囲であることが好ましい。これによれば、超高分子量ポリエチレンの粉末間にカーボンナノチューブが入り、カーボンナノチューブが分散した超高分子量ポリエチレン複合材料を製造することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る超高分子量ポリエチレン複合材料の製造方法によれば、原料粉末混合物に、マイクロ波を照射することにより、カーボンナノチューブを発熱させ、カーボンナノチューブと接している部分の超高分子量ポリエチレンを融解・熱分解させて低分子量化でき、低分子量化したポリエチレンをカーボンナノチューブと馴染ませることができる。そして、カーボンナノチューブの周囲は低分子量化したポリエチレンで囲まれ、この低分子量のポリエチレンによりカーボンナノチューブと超高分子量ポリエチレンとを結合させることができる。このように、超高分子量ポリエチレンとカーボンナノチューブとの界面に超高分子量ポリエチレンの分子量よりも小さい低分子量ポリエチレンが存在するため、良好な界面が形成され、低分子量ポリエチレンを介して強固に結合されて良好な機械物性が発現する。従って、得られた超高分子量ポリエチレン複合材料は、優れた耐摩耗性と弾性率と耐衝撃性を有し、人工関節に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る超高分子量ポリエチレン複合材料の一例であり、超高分子量ポリエチレン複合材料の界面付近の断面を示す透過電子顕微鏡写真である。
図2】超高分子量ポリエチレン複合材料から抽出した低分子量ポリエチレンを、示差走査型熱量計を用いて融点を測定した測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0019】
[概要]
本実施形態の特徴は、超高分子量ポリエチレンとカーボンナノチューブとがその界面で非晶質材料を介して互いに結合している点である。このため本実施形態の超高分子量ポリエチレン複合材料は、一般的なポリエチレンまたは架橋処理したクロスリンクポリエチレンとは異なり、優れた耐摩耗性と弾性率と耐衝撃性を有する。
【0020】
本実施形態は、超高分子量ポリエチレンとカーボンナノチューブとを含む混合物にマイクロ波を照射して製造される超高分子量ポリエチレン複合材料である。例えば一例としてヒータによる加熱、マイクロ波を照射することによる加熱でカーボンナノチューブの温度が上昇し、この熱でカーボンナノチューブの周囲にある超高分子量ポリエチレンの表面の粘度が低下し、さらに表面の一部が融解・熱分解する。融解・熱分解した超高分子量ポリエチレンはカーボンナノチューブと馴染み、融解・熱分解した超高分子量ポリエチレンが冷えると、カーボンナノチューブの周囲は先のマイクロ波加熱により低分子量化したポリエチレンで囲まれる。さらに周囲にカーボンナノチューブが存在しない場合、融解していない超高分子量ポリエチレンも存在するので、超高分子量ポリエチレンとカーボンナノチューブの間に低分子量のポリエチレンがあり、低分子量のポリエチレンがカーボンナノチューブと超高分子量ポリエチレンとを結合させる。
【0021】
単純に混合物を押し固めただけでは界面部分に強固な化学結合がなく、必要とされる機械物性、例えば耐摩耗性、耐衝撃性を発揮することは難しい。また超高分子量ポリエチレンは結晶性高分子であり、明確な結晶をもつ場合、カーボンナノチューブと超高分子量ポリエチレン界面では結晶面が一致しないために界面での剥離が発生し、要求される機械物性が発揮されない。しかし本実施形態は界面部分が元の超高分子量ポリエチレンに対して低分子量化したポリエチレンであるために、超高分子量ポリエチレンとカーボンナノチューブ間に容易に浸透し、分子間力等の結合力が発生することで良好な機械物性が発現する。
通常、超高分子量ポリエチレンは流動性がなく、カーボンナノチューブの添加量が多く存在する場合には、そのカーボンナノチューブ間の隙間へは浸透してゆくことは難しい。本実施形態においては熱分解による低分子量化の他、超高分子量ポリエチレンの分子量よりも小さい低分子量ポリエチレン材料は熱処理の温度において流動性があり、容易にその隙間への浸透が可能である。また通常超高分子量ポリエチレンと分子量の異なるポリエチレンは相溶しないが、本実施形態では先の超高分子量ポリエチレン粒子表面が融解・熱分解しているために、容易に相溶する。
【0022】
[原料混合物の製造]
用いる超高分子量ポリエチレンは、どのような形態でもよく、ブロック状、粉末状でもよい。好ましくは、粉末状の超高分子量ポリエチレンである。粉末状の超高分子量ポリエチレンを用いれば、カーボンナノチューブと超高分子量ポリエチレンとを均一に混合でき、得られる超高分子量ポリエチレン複合材料は、カーボンナノチューブが均一に分散したものとなる。特に好ましい超高分子量ポリエチレンの平均粒子径は、50〜200μmであり、マイクロ波照射によって、超高分子量ポリエチレンとカーボンナノチューブが結合しやすく、マイクロ波照射時間を短くすることができる。なお、超高分子量ポリエチレンの平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。
【0023】
カーボンナノチューブの添加量は、超高分子量ポリエチレンの重量に対して3〜20重量%であることが好ましい。添加量が3重量%より少ないとカーボンナノチューブの効果が得られず、複合材料の耐摩耗性、弾性率、耐衝撃性を上げることができなく、20重量%より多いと、硬くなり過ぎて容易に破損、摩耗しやすくなる。
【0024】
本実施形態は、カーボンナノチューブと超高分子量ポリエチレンおよびカーボンナノチューブの添加量によっては超高分子量ポリエチレンの分子量よりも小さい低分子量ポリエチレン材料から超高分子量ポリエチレン複合材料を製造することができ、媒体や他の添加物は必要ない。カーボンナノチューブと超高分子量ポリエチレンを混合する方法は、特に限定されなく、機械的に撹拌によって行えばよい。例えば、ミキサーやボールミルを用いて撹拌する。
【0025】
[カーボンナノチューブ結合物の製造]
原料粉末混合物を真空中でマイクロ波を照射して、超高分子量ポリエチレンとカーボンナノチューブを結合させ、超高分子量ポリエチレン−カーボンナノチューブ結合物が製造される。超高分子量ポリエチレンは完全に融解させなく、表面のみ融解させて、カーボンナノチューブと結合すればよい。マイクロ波を照射するとカーボンナノチューブと接している部分の超高分子量ポリエチレンが溶け、接していない部分や超高分子量ポリエチレンの中心部は融解しない。
【0026】
マイクロ波は表面波であり、マイクロ波を照射することで、カーボンナノチューブの表面のみが発熱して表面近傍の超高分子量ポリエチレンと良好な界面を生成することができる。超高分子量ポリエチレンとカーボンナノチューブを混ぜただけでは、カーボンナノチューブが超高分子量ポリエチレンの隙間に入っただけで、必ずしも両者が接している状態ではない。このため、超高分子量ポリエチレンとカーボンナノチューブが接している部分を多くする必要がある。接している部分を多くするには、マイクロ波を予備照射してもよく、これにより、カーボンナノチューブの表面が発熱して一部の超高分子量ポリエチレンが溶け、大まかに超高分子量ポリエチレンとカーボンナノチューブが接した状態になる。ただし、この状態は完全に超高分子量ポリエチレンとカーボンナノチューブの間に界面が生成するほどのものではない。他にも、熱を掛けたり圧力を掛けたりして接した状態にさせてもよい。接した状態にした後、マイクロ波を照射することで、カーボンナノチューブと超高分子量ポリエチレンとの界面に超高分子量ポリエチレンの分子量よりも小さい低分子量ポリエチレンが生成し、これがカーボンナノチューブの隙間を埋める形で超高分子量ポリエチレン−カーボンナノチューブ結合物が製造される。
またヒータ加熱においてはその超高分子量ポリエチレンおよび相対的に低い分子量のポリエチレンとカーボンナノチューブとの熱伝導度の違いから、機械的なコントロールによって表面部分のみを融解・熱分解させることが可能である。
低い分子量をもつポリエチレンは、超高分子量ポリエチレンが加熱により融解して、冷却により固化して生成したものである。
【0027】
図1は、本実施形態の超高分子量ポリエチレン複合材料の一例であり、超高分子量ポリエチレン複合材料の界面付近の断面を示す透過電子顕微鏡写真である。カーボンナノチューブと超高分子量ポリエチレン母材との界面は隙間なく接している。
【0028】
原料粉末混合物にマイクロ波を照射することができれば照射条件は特に限定されない。照射は連続的に照射してもよく、間欠的に照射してもよい。このとき、温度が上昇し過ぎて、超高分子量ポリエチレンが完全に融解・気化しないようにする。超高分子量ポリエチレンが完全融解すると、超高分子量ポリエチレンの機能が発現しない。
【0029】
超高分子量ポリエチレン−カーボンナノチューブ結合物の形態は、どのような形態でもよく、粉末状、ブロック状でもよい。このとき、超高分子量ポリエチレン−カーボンナノチューブ結合物が粉末状であれば、成形型に入れて所要形状に成形しやすい。
【0030】
[超高分子量ポリエチレン複合材料の製造]
得られた超高分子量ポリエチレン−カーボンナノチューブ結合物の成形方法は特に限定されないが、一例として本実施形態では、熱と圧力を加えるプレス成形法を用いることができる。プレス成形の場合、超高分子量ポリエチレン−カーボンナノチューブ結合物は成形型に充填され、真空中または不活性ガス雰囲気中でプレス成形される。これにより、超高分子量ポリエチレン同士が融着し、超高分子量ポリエチレン複合材料を得ることができる。本発明の実施形態に係る超高分子量ポリエチレン複合材料は、超高分子量ポリエチレンとカーボンナノチューブの間が超高分子量ポリエチレンの分子量よりも小さい低分子量ポリエチレンを介して結合されているためカーボンナノチューブの超高分子量ポリエチレンからの引き抜きが起きにくい複合材料である。また、超高分子量ポリエチレンとカーボンナノチューブ表面の化学結合は分子間力等の結合力が存在している。このように、超高分子量ポリエチレン粒子表面に存在するカーボンナノチューブの隙間に低い分子量をもつポリエチレンを浸透させ、低い分子量をもつポリエチレンを介して結合させることで、機械的特性が向上する。また、超高分子量ポリエチレン複合材料の使用目的や形状、また密度や重合度の違いによる超高分子量ポリエチレンの成形しやすさに合わせて成形方法は適宜変更でき、押し出し成形や薄く延ばす成形法であるカレンダー成形によって結合物を成形できる。
【0031】
超高分子量ポリエチレンの分子量が100万〜600万であることが好ましい。超高分子量ポリエチレンの分子量が100万未満であるとヒータによる熱処理、マイクロ波加熱時に流動してしまい、成形前の高分子量ポリエチレン−カーボンナノチューブ結合物が得られにくくなる。
融解・析出する低い分子量のポリエチレンもしくは新たに添加する低分子量ポリエチレン材料の分子量が100万未満であることが好ましい。これは隙間に浸透するために超高分子量ポリエチレンに対して高い流動性をもつことが必要であるが、100万以上であると流動化して浸透することができない。特に低分子量ポリエチレン材料が、高密度ポリエチレンであることが好ましい。
【0032】
カーボンナノチューブの種類は特に限定されなく、気相法炭素繊維などで作製される群から選ばれる少なくとも1種用いれば良い。また、単層、多層構造のカーボンナノチューブでも複合材料を得ることができるが、多層構造のカーボンナノチューブを用いることが好ましい。多層構造のカーボンナノチューブは単層構造のカーボンナノチューブと比べて分散性がよく、多層構造のカーボンナノチューブを用いれば、コストを押さえることができる。
また、用いるカーボンナノチューブのBET比表面積は10〜50m/gであることが好ましい。比表面積が10m/gより小さい値であると、すなわちカーボンナノチューブが太すぎると、強度低下を招く。また、50m/gより大きいとカーボンナノチューブを分散させにくい。また、平均アスペクト比は、50〜500の範囲であることが好ましい。平均アスペクト比が50より小さい値であると超高分子量ポリエチレン複合材料の摩耗量が多く、500より大きい値であるとカーボンナノチューブが分散しにくい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本実施形態を詳細に説明するが、これらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
[実施例1]
超高分子量ポリエチレンとして、超高分子量ポリエチレン粉末(TICONA社製 GUR1050、平均粒子径140±20μm(レーザー回折での測定値、カタログ値))を用いた。カーボンナノチューブ(CNT)は、多層構造のカーボンナノチューブ(保土谷化学社製、MWNT−7)を用いた。用いたカーボンナノチューブのBET比表面積28m/gであり、平均アスペクト比が100〜200である。超高分子量ポリエチレンの重量に対してカーボンナノチューブが5重量%となるように添加し、超高分子量ポリエチレン300gとカーボンナノチューブを15g秤量し、容器に入れて市販のジューサーミキサーで機械的に撹拌し、原料粉末混合物を得た。
【0035】
原料粉末混合物を30g取り出し、マイクロ波照射装置(四国計測工業社製 マイクロ波反応装置 μリアクターEX)を用いてマイクロ波照射した。マイクロ波照射は間欠的であり、真空中で行った。マイクロ波照射は400Wで1.25秒照射し、その後3.75秒照射を停止して、5秒間の操作を行い、超高分子量ポリエチレンとカーボンナノチューブを結合させた。この1.25秒照射、3.75秒照射停止という5秒間の操作を繰り返し、照射時間計30秒、停止時間計90秒、合計2分間の操作をした。これにより、超高分子量ポリエチレン−カーボンナノチューブ結合物を得た。
【0036】
得られた超高分子量ポリエチレン−カーボンナノチューブ結合物を100mm、厚さ1mmまたは5mmの超高分子量ポリエチレン複合材料が製造できる金型に充填し、真空中、成形温度220℃、成形時間30分 圧力19.6MPaの条件でプレス成形を行い、超高分子量ポリエチレン複合材料を得た。この超高分子量ポリエチレン複合材料を加工して耐摩耗性試験片を得た。また耐衝撃性試験に関しては厚さ5mmの試験片とした。
【0037】
得られた超高分子量ポリエチレン複合材料の耐摩耗性評価は以下のようにして行った。 得られた試験体を30mmに加工し、φ3/8inch、鏡面加工の高純度アルミナボールを押し当て、10Nの加圧下、24時間、回転数180rpm、生理食塩水中において回転摩耗試験を行った。評価は試験を行った試験片の変形/摩耗を3次元計測することにより摩耗部分の断面積と深さを計測し、体積減少量を計算して耐摩耗性の評価とした。試験はセイコーインスツルメント社製の粘弾性レオメータAR2000を用いて行った。
【0038】
得られた超高分子量ポリエチレン複合材料の貯蔵弾性率を測定した。動的粘弾性測定装置(SII社製 EXSTAR DMS6100 粘弾性スペクトロメータ)を用い、35℃における貯蔵弾性率を求めた。試験片は幅4mm、厚み1mmの長方形断面をもつ棒状試験片である。温度は−70℃から160℃の範囲で測定し、測定は1Hzで計測した。
【0039】
得られた超高分子量ポリエチレン複合材料の耐衝撃性評価は以下のようにして行った。100mm×20mm、厚さ5mmの試験片にVノッチを入れ、シャルピー衝撃試験を実施した。使用した試験機は、安田精機製作所製、型式:D型衝撃試験機 No.258−Dを用いた。試験は持ち上げ角度150°、打撃速度3.46m/sの条件で実施した。
【0040】
超高分子量ポリエチレン複合材料の構造体に関する評価はトリクロロベンゼンを用いて超高分子量ポリエチレン複合材料からの低分子量であるポリエチレンの抽出を行った。抽出して得られたポリエチレンをDSC(示差走査型熱量計 TAインスツルメント社製 Q20)により融点を測定することで評価した。また抽出した箇所の特定には日立ハイテクノロジーズ社製FE−SEM(電界放射型電子顕微鏡 S−4800)を用いた。
【0041】
[実施例2]
実施例1に記載の超高分子量ポリエチレン複合材料の製造方法において、超高分子量ポリエチレンの重量に対してカーボンナノチューブが3重量%となるように添加して、原料粉末混合物を得た。これ以外の工程はすべて同じである。
【0042】
[実施例3]
実施例1に記載の超高分子量ポリエチレン複合材料の製造方法において、超高分子量ポリエチレンの重量に対してカーボンナノチューブが10重量%となるように添加して、さらに高密度ポリエチレン(分子量30万)をカーボンナノチューブに対して133重量%となるように加え原料粉末混合物を得た。これ以外の工程はすべて同じである。
【0043】
[実施例4]
実施例1に記載の超高分子量ポリエチレン複合材料の製造方法において、超高分子量ポリエチレンの重量に対してカーボンナノチューブが20重量%となるように添加して、さらに高密度ポリエチレン(分子量30万)をカーボンナノチューブに対して159重量%となるように加え原料粉末混合物を得た。これ以外の工程はすべて同じである。
【0044】
[比較例1](マイクロ波処理の有無による比較)
実施例1に記載の超高分子量ポリエチレン複合材料の製造方法において、マイクロ波照射を行わず、原料粉末混合物を上記条件でプレス成形した以外の工程はすべて同じである。
【0045】
[比較例2](カーボンナノチューブの添加量による比較)
実施例1に記載の超高分子量ポリエチレン複合材料の製造方法において、超高分子量ポリエチレンの重量に対してカーボンナノチューブが1重量%となるように添加して、原料粉末混合物を得た。これ以外の工程はすべて同じである。
【0046】
[比較例3](カーボンナノチューブの添加量による比較)
実施例4に記載の超高分子量ポリエチレン複合材料の製造方法において、超高分子量ポリエチレンの重量に対してカーボンナノチューブが25重量%となるように添加して、原料粉末混合物を得た。これ以外の工程はすべて同じである。
【0047】
[比較例4](カーボンナノチューブの添加の有無による比較)
実施例1に記載の超高分子量ポリエチレン複合材料の製造方法において、カーボンナノチューブを添加せず、さらにマイクロ波照射を行わないで、原料の超高分子量ポリエチレンのみで上記条件によりプレス成形を行い、超高分子量ポリエチレン材料を得た。
【0048】
[比較例5](原料に用いるポリエチレンの種類による比較)
実施例1に記載の超高分子量ポリエチレン複合材料の製造方法において、カーボンナノチューブを添加せず、ガンマ線を95kGy照射し、不活性雰囲気中で80℃、23日間アニーリングを行ったクロスリンクポリエチレンを用いた。マイクロ波照射せず、このクロスリンクポリエチレンを上記条件でプレス成形を行い、クロスリンクポリエチレン材料を得た。
【0049】
上記実施例1〜4および比較例1〜5で得られた超高分子量ポリエチレン複合材料、およびポリエチレン材料の摩耗量の値と衝撃試験の結果を表1に示す。さらに、35℃、1Hzの貯蔵弾性率の計測結果も示す。なお、CNT添加量の欄における数値は、超高分子量ポリエチレンの重量に対してのカーボンナノチューブの添加量である。
【0050】
【表1】
【0051】
カーボンナノチューブの添加量が3〜20重量%であれば摩耗量が3400mm以下となり、人工関節に適用できる値となった。また、無添加、1重量%添加、25重量%では摩耗量が多く、7700mm以上となった。また、マイクロ波照射することで、超高分子量ポリエチレンとカーボンナノチューブは結合し、得られた超高分子量ポリエチレン複合材料の摩耗量が少なくなった。
【0052】
衝撃試験の結果から、クロスリンクポリエチレンでは、破断した。このことから、クロスリンクポリエチレンでは、摩耗量が少ないものの、破断してしまい、耐衝撃性が低いことが分かった。
【0053】
図2は、超高分子量ポリエチレン複合材料から抽出した低分子量ポリエチレンを、示差走査型熱量計を用いて融点を測定した測定結果を示すグラフである。この測定結果の解析より融点および結晶化度を調査する。抽出したポリエチレンの融点は130℃付近であることが分かる。これに対して原料として用いる超高分子量ポリエチレンは134℃付近であり、明らかに融点が低下していることが分かる。また、結晶化度は69%であり、超高分子量ポリエチレン複合材料とは明らかに異なる結晶化度であり、分子量の低下を示唆している。
【0054】
実施例1〜4、貯蔵弾性率が1〜1.79GPaであり、CNT添加量が増えるにつれて弾性率は大きくなった。これらのことから、本実施形態の超高分子量ポリエチレン複合材料は、耐摩耗性と耐衝撃性と弾性率とを併せもつ材料である。
図1
図2