【実施例】
【0033】
以下、実施例により本実施形態を詳細に説明するが、これらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
[実施例1]
超高分子量ポリエチレンとして、超高分子量ポリエチレン粉末(TICONA社製 GUR1050、平均粒子径140±20μm(レーザー回折での測定値、カタログ値))を用いた。カーボンナノチューブ(CNT)は、多層構造のカーボンナノチューブ(保土谷化学社製、MWNT−7)を用いた。用いたカーボンナノチューブのBET比表面積28m
2/gであり、平均アスペクト比が100〜200である。超高分子量ポリエチレンの重量に対してカーボンナノチューブが5重量%となるように添加し、超高分子量ポリエチレン300gとカーボンナノチューブを15g秤量し、容器に入れて市販のジューサーミキサーで機械的に撹拌し、原料粉末混合物を得た。
【0035】
原料粉末混合物を30g取り出し、マイクロ波照射装置(四国計測工業社製 マイクロ波反応装置 μリアクターEX)を用いてマイクロ波照射した。マイクロ波照射は間欠的であり、真空中で行った。マイクロ波照射は400Wで1.25秒照射し、その後3.75秒照射を停止して、5秒間の操作を行い、超高分子量ポリエチレンとカーボンナノチューブを結合させた。この1.25秒照射、3.75秒照射停止という5秒間の操作を繰り返し、照射時間計30秒、停止時間計90秒、合計2分間の操作をした。これにより、超高分子量ポリエチレン−カーボンナノチューブ結合物を得た。
【0036】
得られた超高分子量ポリエチレン−カーボンナノチューブ結合物を100mm
2、厚さ1mmまたは5mmの超高分子量ポリエチレン複合材料が製造できる金型に充填し、真空中、成形温度220℃、成形時間30分 圧力19.6MPaの条件でプレス成形を行い、超高分子量ポリエチレン複合材料を得た。この超高分子量ポリエチレン複合材料を加工して耐摩耗性試験片を得た。また耐衝撃性試験に関しては厚さ5mmの試験片とした。
【0037】
得られた超高分子量ポリエチレン複合材料の耐
摩耗性評価は以下のようにして行った。 得られた試験体を30mm
2に加工し、φ3/8inch、鏡面加工の高純度アルミナボールを押し当て、10Nの加圧下、24時間、回転数180rpm、生理食塩水中において回転
摩耗試験を行った。評価は試験を行った試験片の変形/
摩耗を3次元計測することにより
摩耗部分の断面積と深さを計測し、体積減少量を計算して耐
摩耗性の評価とした。試験はセイコーインスツルメント社製の粘弾性レオメータAR2000を用いて行った。
【0038】
得られた超高分子量ポリエチレン複合材料の貯蔵弾性率を測定した。動的粘弾性測定装置(SII社製 EXSTAR DMS6100 粘弾性スペクトロメータ)を用い、35℃における貯蔵弾性率を求めた。試験片は幅4mm、厚み1mmの長方形断面をもつ棒状試験片である。温度は−70℃から160℃の範囲で測定し、測定は1Hzで計測した。
【0039】
得られた超高分子量ポリエチレン複合材料の耐衝撃性評価は以下のようにして行った。100mm×20mm、厚さ5mmの試験片にVノッチを入れ、シャルピー衝撃試験を実施した。使用した試験機は、安田精機製作所製、型式:D型衝撃試験機 No.258−Dを用いた。試験は持ち上げ角度150°、打撃速度3.46m/sの条件で実施した。
【0040】
超高分子量ポリエチレン複合材料の構造体に関する評価はトリクロロベンゼンを用いて超高分子量ポリエチレン複合材料からの低分子量であるポリエチレンの抽出を行った。抽出して得られたポリエチレンをDSC(
示差走査型熱量計 TAインスツルメント社製 Q20)により融点を測定することで評価した。また抽出した箇所の特定には日立ハイテクノロジーズ社製FE−SEM(電界放射型電子顕微鏡 S−4800)を用いた。
【0041】
[実施例2]
実施例1に記載の超高分子量ポリエチレン複合材料の製造方法において、超高分子量ポリエチレンの重量に対してカーボンナノチューブが3重量%となるように添加して、原料粉末混合物を得た。これ以外の工程はすべて同じである。
【0042】
[実施例3]
実施例1に記載の超高分子量ポリエチレン複合材料の製造方法において、超高分子量ポリエチレンの重量に対してカーボンナノチューブが10重量%となるように添加して、さらに高密度ポリエチレン(分子量30万)をカーボンナノチューブに対して133重量%となるように加え原料粉末混合物を得た。これ以外の工程はすべて同じである。
【0043】
[実施例4]
実施例1に記載の超高分子量ポリエチレン複合材料の製造方法において、超高分子量ポリエチレンの重量に対してカーボンナノチューブが20重量%となるように添加して、さらに高密度ポリエチレン(分子量30万)をカーボンナノチューブに対して159重量%となるように加え原料粉末混合物を得た。これ以外の工程はすべて同じである。
【0044】
[比較例1](マイクロ波処理の有無による比較)
実施例1に記載の超高分子量ポリエチレン複合材料の製造方法において、マイクロ波照射を行わず、原料粉末混合物を上記条件でプレス成形した以外の工程はすべて同じである。
【0045】
[比較例2](カーボンナノチューブの添加量による比較)
実施例1に記載の超高分子量ポリエチレン複合材料の製造方法において、超高分子量ポリエチレンの重量に対してカーボンナノチューブが1重量%となるように添加して、原料粉末混合物を得た。これ以外の工程はすべて同じである。
【0046】
[比較例3](カーボンナノチューブの添加量による比較)
実施例4に記載の超高分子量ポリエチレン複合材料の製造方法において、超高分子量ポリエチレンの重量に対してカーボンナノチューブが25重量%となるように添加して、原料粉末混合物を得た。これ以外の工程はすべて同じである。
【0047】
[比較例4](カーボンナノチューブの添加の有無による比較)
実施例1に記載の超高分子量ポリエチレン複合材料の製造方法において、カーボンナノチューブを添加せず、さらにマイクロ波照射を行わないで、原料の超高分子量ポリエチレンのみで上記条件によりプレス成形を行い、超高分子量ポリエチレン材料を得た。
【0048】
[比較例5](原料に用いるポリエチレンの種類による比較)
実施例1に記載の超高分子量ポリエチレン複合材料の製造方法において、カーボンナノチューブを添加せず、ガンマ線を95kGy照射し、不活性雰囲気中で80℃、23日間アニーリングを行ったクロスリンクポリエチレンを用いた。マイクロ波照射せず、このクロスリンクポリエチレンを上記条件でプレス成形を行い、クロスリンクポリエチレン材料を得た。
【0049】
上記実施例1〜4および比較例1〜5で得られた超高分子量ポリエチレン複合材料、およびポリエチレン材料の摩耗量の値と衝撃試験の結果を表1に示す。さらに、35℃、1Hzの貯蔵弾性率の計測結果も示す。なお、CNT添加量の欄における数値は、超高分子量ポリエチレンの重量に対してのカーボンナノチューブの添加量である。
【0050】
【表1】
【0051】
カーボンナノチューブの添加量が3〜20重量%であれば摩耗量が3400mm
3以下となり、人工関節に適用できる値となった。また、無添加、1重量%添加、25重量%では摩耗量が多く、7700mm
3以上となった。また、マイクロ波照射することで、超高分子量ポリエチレンとカーボンナノチューブは結合し、得られた超高分子量ポリエチレン複合材料の摩耗量が少なくなった。
【0052】
衝撃試験の結果から、クロスリンクポリエチレンでは、破断した。このことから、クロスリンクポリエチレンでは、摩耗量が少ないものの、破断してしまい、耐衝撃性が低いことが分かった。
【0053】
図2は、超高分子量ポリエチレン複合材料から抽出した低分子量ポリエチレンを、示差走査型熱量計を用いて融点を測定した測定結果を示すグラフである。この測定結果の解析より融点および結晶化度を調査する。抽出したポリエチレンの融点は130℃付近であることが分かる。これに対して原料として用いる超高分子量ポリエチレンは134℃付近であり、明らかに融点が低下していることが分かる。また、結晶化度は69%であり、超高分子量ポリエチレン複合材料とは明らかに異なる結晶化度であり、分子量の低下を示唆している。
【0054】
実施例1〜4、貯蔵弾性率が1〜1.79GPaであり、CNT添加量が増えるにつれて弾性率は大きくなった。これらのことから、本実施形態の超高分子量ポリエチレン複合材料は、耐
摩耗性と耐衝撃性と弾性率とを併せもつ材料である。