【実施例1】
【0024】
図1(イ)は本発明の一実施例の建築物の異径柱接合用柱梁接合構造20の断面図、(ロ)は平面図である。
図2は上記異径柱接合用柱梁接合構造20における異径柱接合用柱梁接合仕口21のみを示すもので、(イ)は斜視図、(ロ)は断面図、(ハ)は平面図、(ニ)は柱梁接合部コア22の上端部に水平面材23を配置した、溶接固定する前の状態を示す斜視図、(ホ)は水平面材23のみを示す斜視図である。
図3は上記異径柱接合用柱梁接合構造を説明する斜視図である。
これらの図に示すように、この異径柱接合用柱梁接合構造20は、角形鋼管からなる下階柱3の上端部に短尺厚肉角形鋼管からなるノンダイアフラム形式の柱梁接合部コア22の下端部が溶接接合され、その柱梁接合部コア22の上端部に、前記下階柱3より小径の角形鋼管からなる上階柱2を溶接接合する構造であり、異径柱接合用柱梁接合仕口21により構成される。
前記異径柱接合用柱梁接合仕口21は、短尺厚肉角形鋼管からなる前記柱梁接合部コア22の上部内側に、
図2(ホ)にも示したような周囲に開先23aを形成した四角形板状の前記水平面材23を、その上面が柱梁接合部コア22の上端と面一になるように溶接接合して形成される。なお、仕口内部に水平材を設ける一般的な内ダイアフラムは、梁からの水平力を伝達及び負担するものであるが、本発明における水平面材23は、梁4からの水平力の伝達及び負担を要求されておらず、梁4の接合位置に関係なく柱梁接合部コア22の上端と面一になるように溶接接合され、上階柱3の接合に適した配置がされる。
柱梁接合部コア22に水平面材23を溶接接合する際、
図2(ロ)にも示すように、柱梁接合部コア22の上端近傍の内周面に、上端より水平面材23の板厚分だけ下の位置にて裏当て金24を仮付け溶接し、その上に水平面材23を載せた
図2(ニ)の状態にて開先23aの部分で溶接する。その溶接接続部(溶接ビード25)をドットハッチングで示す。各部の溶接はいずれも完全溶け込み溶接である。
なお、本実施例では、上階柱及び下階柱の材質はBCR295(日本鉄鋼連盟製品規格)、柱梁接合部コア及び水平面材の材質はSN490C(JIS
G 3136)を用いているが、これに限らず他の材質を用いてもよい。
【0025】
図示例の柱梁接合部コア22は、
図9で説明した柱梁接合部コア1と同様に、2つの熱間圧延溝形鋼の二丁合わせ溶接による厚肉角形鋼管を用いており、その角形断面の2辺の内面が平面視でテーパ状をなしている。したがって、前記水平面材23の対応する2辺の部分はそのテーパ形状に合わせて開先を形成している。なお、前記裏当て金24の外側輪郭も前記テーパ形状に合わせた形状としている。
【0026】
柱梁接合部コア22に水平面材23を溶接接合してなる前記異径柱接合用柱梁接合仕口21の下端部が下階柱3の上端部に溶接接合され、上端面に下階柱3より小径の上階柱2が溶接接合される。また、異径柱接合用柱梁接合仕口21の柱梁接合部コア22の側面(管壁面)にH形鋼梁4が溶接接合される。
図3はその状況を説明する図である。
【0027】
図示例では
図1及び要部を拡大した
図4(ハ)に示すように、上階柱2は、当該上階柱2の下端部と前記異径柱接合用柱梁接合仕口21の上端面との間の溶接ビード26が、前記柱梁接合部コア22と前記水平面材23との間の溶接ビード25と一部が重なる態様で溶接接合されている。
この場合、
図4(イ)、(ロ)に示すように、溶接ビード25の余盛り25aを切削又は研削して平坦にし、柱梁接合部コア22の上端と水平面材23の上面と溶接ビード25の上端との全体(すなわち、異径柱接合用柱梁接合仕口21の上面全体)が面一の水平面になるようにするとよい。
【0028】
ところで、発明が解決しようとする課題の項において、柱梁接合部コアの内面と四角形のプレートの周囲との溶接ビードの上に、上階柱を溶接する溶接ビードが重なる場合のように、2つの部材の溶接ビードに他の部材を溶接する溶接ビードが重なることは、特に工学的に明確な根拠がある訳ではないが、一般的には良好な溶接接合部が得られないものとして避けられていると記載した。
しかし、本願発明者らが
図1や
図4(ハ)のように、柱梁接合部コア22と水平面材23との溶接ビード25の上に上階柱2の溶接ビード26が重なる場合について実験をした結果によれば、溶接品質に問題のない溶接接合が得られることが確認された。
【0029】
前記実験の内容について説明する。
試料として、柱梁接合部コアが熱間圧延溝形鋼の二丁合わせ溶接による短尺厚肉角形鋼管(外形300×300mm・板厚29mm・材質SN490C(JIS-G-3136))、上階柱が口-250×250×16(BCR295)、水平面材がPL-28(SN490C)、ソリッドワイヤがYM-55C(Y)(YGW18)を用いて中柱形式の異径柱接合用柱梁接合仕口サンプルを製作した。
溶接形状および条件は「建築工事標準仕様書JASS6鉄骨工事:日本建築学会(2007.2)」、「2008年度版冷間成形角形鋼管設計・施工マニュアル:独立行政法人建築研究所(2008.12)」に準拠して設定した。溶接条件および形状を表1に示す。柱梁接合部コア-水平面材溶接、水平面材-上階柱溶接のいずれも設定入熱およびパス間温度を満足し、溶接後のUT検査に合格した。また、溶接外観も不良部分が無いことを確認した。
【表1】
【0030】
溶接部の品質を確認する目的で前記サンプルの溶接部から素材試験片を採取し、ビッカース硬さ試験とシャルピー衝撃試験を行った。
図7(イ)にビッカース硬さ結果を示す。母材部に比べて熱影響部および溶接部が硬くなる傾向にあるが、最高硬さが220HVであり低温割れを起こす可能性は低い。また、顕著な熱影響部の軟化もなかった。
図7(イ)の横軸である硬さ測定位置を
図7(ロ)に示す(上階柱の内面から1mm深さ位置でのP点(0)からQ点(55)までの領域)。
シャルピー衝撃試験においても溶接部の0℃吸収エネルギーが100Jを超えており、溶接品質は良好であった(表2にシャルピー衝撃試験結果を示す)。
上記の通りであり、従来、2つの部材の溶接ビードに他の部材を溶接する溶接ビードが重なることは、一般的には良好な溶接接合部が得られないものとして避けられてきたが、少なくとも、上述のような柱梁接合部コア22と水平面材23との溶接ビード25の上に上階柱2の溶接ビード26が重なる溶接施工をした場合については、良好な溶接が行なわれることが分かった。
【表2】
【0031】
ノンダイアフラム形式の柱梁接合部コアによる本発明の異径柱接合用柱梁接合構造と、従来の通しダイアフラム形式(厚肉プレート形式)による異径柱接合用柱梁接合構造の構造設計上の差異について説明する。
(1)従来の通しダイアフラム形式による異径柱接合用柱梁接合構造。
前述の『鋼構造接合部設計指針』に、冷間ロール成形角形鋼管(BCR295)を用いた場合の通しダイフラム形式による異幅接合形式箱形断面柱梁接合部における通しダイアフラム必要板厚が記載されており、表3に示す。この必要板厚は、その算定要領の詳細は省略するが、中柱形式、側柱形式、外柱形式、隅柱形式の4種類の接合形式に対して、降伏線理論と柱の軸降伏エネルギーを組み合わせた極限解析を行い、得られた塑性曲げ耐力
jM
pを用いて算定した結果である。
【表3】
(2)ノンダイアフラム形式の柱梁接合部コアによる本発明の異径柱接合用柱梁接合構造。
ノンダイアフラム形式の柱梁接合部コアによる異径柱接合用柱梁接合構造では、上階柱の応力は水平面材の面外曲げ抵抗を介して柱梁接合部コアに伝達されるため、水平面材のの面外曲げ耐力および面外曲げ剛性に配慮して、水平面材の板厚を設計する必要がある。
本発明の異径柱接合用柱梁接合構造は、柱梁接合部コア(短尺厚肉角形鋼管)の上端部に水平面材を溶接固定した構造を有しており、上階柱の応力が柱梁接合部コアに伝達される態様としては、通しダイアフラム形式(厚肉プレート形式)による異径柱接合用柱梁接合構造の場合と基本的に同じ構造と言える。したがって、本発明の異径柱接合用柱梁接合構造における水平面材の必要板厚の設計には、前述の『鋼構造接合部設計指針』において通しダイアフラムの必要板厚を算定した設計手法(算定手法)を採用することができる。
前記表3の通しダイアフラム必要板厚はパネル接合部にBCR295(F値=295N/mm2)を用いた場合であり、材質がSN490Cである実施例の柱梁接合部コア(F値=325N/mm2)はBCR295よりも強度が高く板厚も29mmと厚いため、前述の通り「鋼構造接合部設計指針」に従い水平面材の板厚を設定すれば改めて接合部の構造計算を行わずに柱梁接合部コアの上下を異幅とすることができると考えられる。
図8に通しダイアフラム異径柱接合用柱梁接合構造と本発明の異径柱接合用柱梁接合構造のM−N相関曲線を示す。表4に通しダイアフラム異径柱接合用柱梁接合構造の仕様と本発明の異径柱接合用柱梁接合構造の仕様を示す。
本発明の異径柱接合用柱梁接合構造の
jM
pは通しダイアフラム異径柱接合用柱梁接合構造の
jM
pを上回っており、本発明の異径柱接合用柱梁接合構造は「鋼構造接合部設計指針」に従って水平面材の板厚を設定すれば、安全側に評価できることが分かる。
【表4】
【0032】
本発明の異径柱接合用柱梁接合構造によれば、以下のような種々の効果が得られる。
図10のように通しダイアフラム形式に厚肉プレート6を用いた異径柱接合用柱梁接合構造8では、必要となる厚肉プレートの板厚が厚いため市中で入手しにくいが、本発明の異径柱接合用柱梁接合構造によれば、水平面材として厚肉プレートより薄いプレートを用いることができるので、市中での入手が容易である。
また、ノンダイアフラム形式の柱梁接合部コアの一般的な長所であるが、通しダイアフラム形式に厚肉プレートを用いる技術や、通しダイアフラム形式で短尺角形鋼管をテーパ管にする技術に比べ、ノンダイアフラム形式の柱梁接合部コアを用いる本発明の異径柱接合用柱梁接合構造は、部材数が少ないため、開先加工および溶接個所が圧倒的に少ない。また、通しダイアフラム形式のようにダイアフラムが鋼管外周より周囲に張り出すことがないため、梁端部の加工が容易となる。
【0033】
本発明の異径柱接合用柱梁接合構造は、前述の通り『鋼構造接合部設計指針』が提案する厚肉プレート形式の場合と同様の設計手法で設計することができる。すなわち、上階鋼管柱にかかる軸力と曲げモーメントが、厚肉プレート形式の場合に上部ダイアフラムを介して短尺角形鋼管及び下階鋼管柱に伝わるのと同様の態様で、水平面材を介して柱梁接合部コアおよび下階鋼管柱に伝わるとする設計方法を採用できる。一方、本発明における柱梁接合部コアの板厚は厚いので、水平面材と上部ダイアフラムの板厚が同厚という条件でも、耐力および剛性は本工法の方が高くなる。前述した
図8の極限解析結果の通りである。例えば上階柱軸力が1000kNの場合の水平面材又は上部ダイアフラムの塑性曲げ耐力は200kNmから500kNmに高くなる。
また、本発明では厚肉角形鋼管と1枚の水平面材のみで異径柱接合用柱梁接合構造を構成することができるので、厚肉プレート形式の場合と比較して部材数が少なく、加工、溶接の手間が抑えられ、製作コストを低減できる。
【0034】
本発明の異径柱接合用柱梁接合構造によれば、異径柱接合用柱梁接合仕口21の上面全体が面一となり、上階柱を異径柱接合用柱梁接合仕口21のフラットな上面全体において自由な位置に上階柱を接合することができる。
図6は下階柱3がそれぞれ中柱形式の場合(イ)、側柱形式の場合(ロ)、外柱形式の場合(ハ)、隅柱形式の場合(ニ)について、上階柱2の位置をそれぞれに対応して異径柱接合用柱梁接合仕口21の上端面内で変えた具体例を示している。
また、柱梁接合部コアと水平面材との間の溶接ビードの余盛りを切削しない場合でも、水平面材の上面内で自由な位置に上階柱を接合することができる。
【0035】
特許文献4の異径柱接合用柱梁接合構造と比較すると、次のような効果が得られる。
特許文献4の特殊形状のノンダイアフラム形式の柱梁接合部コア(柱梁接合金物)と異なり、下階柱の径と上階柱の径とが同じ場合に用いる、単なる短尺厚肉角形鋼管である一般的なノンダイアフラム形式の柱梁接合部コアを材料に用いることができるので、各サイズに応じた水平面材と裏当金があれば製作することができ、市場入手性がよく、要求性能に応じた最適構造とすることが可能である。
また、鋳造成型のように各サイズの全体を成型する大型の金型を必要としない。また、裏当金を用いた溶接と肉盛部の切削という簡単な加工によるので、高周波過熱による断面増厚法等と比べて製作コストが少なく済む。また、前記の通り一般的なノンダイアフラム形式の柱梁接合部コアを材料に用いることができるので、製作に要する時間が少なく済む。
【0036】
また、本発明の異径柱接合用柱梁接合構造は、柱梁接合部コアがノンダイアフラム形式であることから、ノンダイアフラム形式の一般的な長所ではあるが、梁を厚肉角形鋼管(柱梁接合部コア)の側面内の自由な位置に接合することができるという長所がある。
また、通しダイアフラム形式の従来工法では、上階柱や梁のサイズに対応させてダイアフラムの位置や枚数を変化させなければならないのに対して、本発明では異径柱接合用柱梁接合仕口21の上面、側面部に自由に部材を接合できるため、設計、施工の手間を大幅に削減することができる。
【0037】
なお、上述の実施例ではノンダイアフラム形式の柱梁接合部コアとして、2つの熱間圧延溝形鋼の二丁合わせ溶接による厚肉角形鋼管を用いる場合について説明したが、2つの熱間圧延山形鋼を対向させフランジ先端部どうしを突合せ溶接して角形断面にする山形鋼二丁合わせ溶接方式の厚肉角形鋼管を用いることも当然可能である。