特許第6179757号(P6179757)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6179757
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】建築物の異径柱接合用柱梁接合構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/24 20060101AFI20170807BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   E04B1/24 L
   E04B1/58 508S
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-66598(P2013-66598)
(22)【出願日】2013年3月27日
(65)【公開番号】特開2014-190045(P2014-190045A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年3月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鐵住金建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090549
【弁理士】
【氏名又は名称】加川 征彦
(72)【発明者】
【氏名】川端 洋介
【審査官】 多田 春奈
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第97/017504(WO,A1)
【文献】 特開2005−264709(JP,A)
【文献】 特開2001−329614(JP,A)
【文献】 特開2001−342682(JP,A)
【文献】 特開平05−156710(JP,A)
【文献】 特開2010−265677(JP,A)
【文献】 実開昭62−071201(JP,U)
【文献】 特開2002−327494(JP,A)
【文献】 特開平09−296513(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0209314(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/24
E04B 1/38−1/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
角形鋼管からなる下階柱の上端部に短尺厚肉角形鋼管からなるノンダイアフラム形式の柱梁接合部コアの下端部が溶接接合され、前記柱梁接合部コアの上端部に、前記下階柱より小径の角形鋼管からなる上階柱を溶接接合する建築物の異径柱接合用柱梁接合構造であって、
前記柱梁接合部コアの段差を持たない上端部内面に、周囲に開先を形成した四角形板状の水平面材が、その上面が前記柱梁接合部コアの上端面と面一となるように溶接接合され、かつ、前記柱梁接合部コアの上端部内面と前記水平面材の周囲との間の溶接ビードの余盛りが平坦に切削又は研削されて、柱梁接合部コアの上端面と前記水平面材の上面と溶接ビードの上面とが面一に形成され異径柱接合用柱梁接合仕口と、
前記異径柱接合用柱梁接合仕口の下端に溶接接合される下階柱と、
前記異径柱接合用柱梁接合仕口の上端面に溶接接合される前記下階柱より小径の上階柱とを備え、
前記上階柱は、当該上階柱の下端部と前記異径柱接合用柱梁接合仕口上端面との間の溶接ビードが、前記柱梁接合部コアと前記水平面材との間の平坦に切削又は研削された溶接ビードと少なくとも一部が重なる態様で溶接接合されていることを特徴とする建築物の異径柱接合用柱梁接合構造。
【請求項2】
平面視で上階柱の板厚部分と柱梁接合部コアの板厚部分とが少なくとも一部重なっていることを特徴とする請求項1記載の建築物の異径柱接合用柱梁接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建築物における下階柱の上端部に溶接接合される柱梁接合部コアの上端部に、前記下階柱より小径の上階柱を溶接接合する建築物の異径柱接合用柱梁接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
柱に角形鋼管を用い、梁にH形鋼を用いる建築物における柱梁接合部として、一般に、通しダイアフラム形式、内ダイアフラム形式、外ダイアフラム形式などが採用されている。
通しダイアフラム形式の柱梁接合構造は、柱梁接合部とされる短尺角形鋼管の上下端に、柱を貫通して短尺角形鋼管の周囲外側に張り出したダイアフラムを溶接固定した構造であり、前記ダイアフラムにH形鋼梁のフランジが溶接接合される。
【0003】
また、ダイアフラムを設けずに短尺の厚肉角形鋼管からなる柱梁接合部コアを用いてその管壁面にH形鋼梁を直接溶接可能にしたノンダイアフラム形式の柱梁接合構造も採用されている(特許文献1〜3)。
この種の柱梁接合部コアとして、例えば図9に示すように、2つの熱間圧延溝形鋼を対向させフランジ先端部どうしを突合せ溶接して角形断面にする溝形鋼二丁合わせ溶接方式の柱梁接合部コア1がある。図で上下2辺の外側の突起は突合せ溶接部の余盛りを示す。なお、突起状の余盛りは、必要であれば切削又は研削して削除する。
【0004】
角形鋼管柱を用いた中低層鉄骨造建物の実施設計では、上下階で柱の幅を変化させることがしばしば行われる。上下階で柱径が変化する柱梁接合構造、すなわち異径柱接合用柱梁接合構造としては、従来、いずれも通しダイアフラム形式である厚肉プレート形式やテーパ管形式が多く採用されている。
一方、前記ノンダイアフラム形式の柱梁接合部コアは、図12に示した特殊な形状のもの(特許文献4)を除き、異径柱接合用柱梁接合構造に適用することは考えられていなかった。
【0005】
図10に通しダイアフラム形式の柱梁接合構造を異径柱接合用柱梁接合構造として用いた前記厚肉プレート形式の異径柱接合用柱梁接合構造8を示す。
厚肉プレート形式は、上下の柱2、3を繋ぐ短尺角形鋼管5の上側のダイアフラム6として、外周が短尺角形鋼管5よりも周囲に張り出すサイズの厚肉プレート6を用いる形式である。7は下側のダイアフラムを示す。この厚肉プレート6を介して短尺角形鋼管5の上方に上階鋼管柱2の下端を接合し、前記厚肉プレート6にH形鋼梁4のフランジ4aを溶接接合し、ウエブ4bを短尺角形鋼管5の側面に溶接接合する。上階柱2にかかる軸力および曲げモーメントは、厚肉プレート6を介して短尺角形鋼管5に伝達される(『鋼構造接合部設計指針:日本建築学会(2012.3)』)。
【0006】
図11に前記テーパ管形式の異径柱接合用柱梁接合構造10を示す。
テーパ管形式は、下端の断面形状が下階鋼管柱3の断面形状に合致し、上端の断面形状が上側鋼管柱2の断面形状に合致する短尺のテーパ管(テーパ角形鋼管)11を用いる形式である。テーパ管11は、台形のプレートを4枚溶接して製作するか、テーパ管の展開図を2分割した形状の2枚の板をそれぞれコ字形に折り曲げ加工し対向させ溶接接合して製作する。このテーパ管11を準備しておき、外周が下階鋼管柱3よりも周囲に張り出す下側ダイアフラム13を介して、下階鋼管柱3の上端にテーパ管11の下端を接合する。また、外周が上階鋼管柱2よりも周囲に張り出す上側ダイアフラム12を介して、テーパ管11の上端に上階鋼管柱2の下端を接合し、上下のダイアフラム12、13及びテーパ管11の側面にH形鋼梁4のフランジ4a及びウエブ4bを接合する。上階鋼管柱2にかかる軸力および曲げモーメントは、テーパ管11を介して下階鋼管柱3に伝達される(前記『鋼構造接合部設計指針』)。
【0007】
特許文献1〜3には、ダイアフラム形式とは異なり、柱梁接合部をダイアフラムで補強せずに、短尺の厚肉角形鋼管からなるノンダイアフラム形式の柱梁接合部コアを用いる技術が記載されている。ダイアフラムを用いないことで、部材数低減および溶接に関する施工の手間が大幅に削減できる。
【0008】
図12に前述した特殊な形状として異径柱接合用柱梁接合構造に採用可能にしたノンダイアフラム形式の柱梁接合部コア16による異径柱接合用柱梁接合構造15を示す(特許文献4)。
前記柱梁接合部コア16は、短尺の角形断面管の上端部に、柱の軸方向に対して40〜50度の傾斜角度を有して、角形断面管の内部に向かって徐々に肉薄になるように形成された補強部18(18a、18b)を有する特殊な形状の柱梁接合部コア(柱梁接合金物)である。この柱梁接合部コア16は、鋳造成型や高周波加熱による断面増厚法で前記補強部を成型している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−287221
【特許文献2】特開2010−13811
【特許文献3】特開2010−236206
【特許文献4】特開2001−329614
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記厚肉プレート形式の異径柱接合用柱梁接合構造8には以下の問題がある。
上下の鋼管柱の柱幅差は、鋼管構造設計指針に記載される設計に基づく場合、耐力及び剛性を確保するために厚肉プレートの厚みが例えば40mmを超える厚みになる場合がある。厚みが40mmを超える厚肉プレートは、一般的な建築資材としては市販されておらず、特注品の扱いとなるため、コスト高になる。また、厚肉プレート6の厚みが40mmを超える場合、厚肉プレートの設計基準強度を低減しなければならない(建築基準法に基づく告示による)。また、ノンダイアフラム形式の柱梁接合部コアに比べ部材数が多く、梁が接合されるダイアフラム6、7が短尺角形鋼管5よりも周囲に張り出す形状となっているため梁4の部材加工も複雑で、溶接の手間もかかるという問題もある。
【0011】
前記テーパ管形式の異径柱接合用柱梁接合構造10には以下の問題がある。テーパ管11は、4枚の台形をした板材、若しくはコの字状に折り曲げた2枚の板材それぞれが互いに適正な角度をなすように溶接接合して製作されるが、その製作に高度な技術と手間を要する。
また、H形鋼梁4の端部もテーパ管側面形状に合わせて加工しなければならず、この加工にも時間がかかる。また段違い梁とした場合には、テーパ管中間部にダイアフラムを設けなければならず、非常に設計も施工も手間がかかる。
【0012】
特許文献4の特殊形状の柱梁接合部コア16による異径柱接合用柱梁接合構造15には以下の問題がある。
この柱梁接合部コア16は、その特殊な形状を鋳造成型や高周波過熱による断面増厚法で成型するため、各サイズの全体を成型する大型の金型を必要とし、また、成型に時間が掛かるなど、コストが高くなる。また、下階柱の径と上階柱の径とが同じ場合に用いる一般的なノンダイアフラム形式の柱梁接合部コアを材料に用いて成型することができず、取り付けられる柱梁のサイズに応じて都度最初から成型する必要があるという問題もある。
【0013】
ところで、引用文献4のような特殊形状ではない単なる短尺厚肉角形鋼管による一般的なノンダイアフラム形式の柱梁接合部コアを異径柱接合用柱梁接合構造に採用するという発想は、種々の事情から退けられてきた。
また、短尺厚肉角形鋼管1の上端部内面に、上階柱を溶接固定するための四角形のプレートの周囲を溶接固定する構造が考えられるが、この場合、上階柱の管径によっては、あるいは上階柱の下階柱に対する位置によっては、柱梁接合部コアの内面と四角形のプレートの周囲との溶接ビード(溶接金属部)の上に、上階柱の下端を溶接する溶接ビードが重なる場合がある。この場合のように2つの部材の溶接ビードに他の部材を溶接する溶接ビードが重なることは、特に工学的に明確な根拠がある訳ではないが、一般的には良好な溶接接合部が得られないものとして避けられている背景がある。
ダイアフラムを用いずに梁を接合可能にしたというノンダイアフラム形式の柱梁接合部コアは、そもそもノンダイアフラムであるから、ダイアフラムを設けるという発想がないという背景があり、従来は、前記の通り、ノンダイアフラム形式の柱梁接合部コアに内ダイアフラム的なプレートを溶接固定するという構造は考慮外にあった。
【0014】
本発明は上記背景のもとになされたもので、柱に角形鋼管を用いる建築物について下階柱の管径と上階柱の管径とが異なる場合に、管壁外面に鋼管梁を溶接接合可能なノンダイアフラム形式の柱梁接合部コアの上端平面内に上階柱を自由に溶接接合することができ、かつ、上階柱にかかる鉛直軸力および曲げモーメントを柱梁接合部コアに確実に伝達できる建築物の異径柱接合用柱梁接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決する請求項1の発明は、角形鋼管からなる下階柱の上端部に短尺厚肉角形鋼管からなるノンダイアフラム形式の柱梁接合部コアの下端部が溶接接合され、前記柱梁接合部コアの上端部に、前記下階柱より小径の角形鋼管からなる上階柱を溶接接合する建築物の異径柱接合用柱梁接合構造であって、
角形鋼管からなる下階柱の上端部に短尺厚肉角形鋼管からなるノンダイアフラム形式の柱梁接合部コアの下端部が溶接接合され、前記柱梁接合部コアの上端部に、前記下階柱より小径の角形鋼管からなる上階柱を溶接接合する建築物の異径柱接合用柱梁接合構造であって、
前記柱梁接合部コアの段差を持たない上端部内面に、周囲に開先を形成した四角形板状の水平面材が、その上面が前記柱梁接合部コアの上端面と面一となるように溶接接合され、かつ、前記柱梁接合部コアの上端部内面と前記水平面材の周囲との間の溶接ビードの余盛りが平坦に切削又は研削されて、柱梁接合部コアの上端面と前記水平面材の上面と溶接ビードの上面とが面一に形成され異径柱接合用柱梁接合仕口と、
前記異径柱接合用柱梁接合仕口の下端に溶接接合される下階柱と、
前記異径柱接合用柱梁接合仕口の上端面に溶接接合される前記下階柱より小径の上階柱とを備え、
前記上階柱は、当該上階柱の下端部と前記異径柱接合用柱梁接合仕口上端面との間の溶接ビードが、前記柱梁接合部コアと前記水平面材との間の平坦に切削又は研削された溶接ビードと少なくとも一部が重なる態様で溶接接合されていることを特徴とする。
【0018】
請求項は、請求項1の建築物の異径柱接合用柱梁接合構造において、平面視で上階柱の板厚部分と柱梁接合部コアの板厚部分とが少なくとも一部重なっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の異径柱接合用柱梁接合構造によれば、異径柱接合用柱梁接合仕口の上端部に、柱梁接合部コアの上端部内面に当該柱梁接合部コア上端と面一となるように溶接接合された水平面材を有するので、下階柱より小径の上階柱を容易に接合することができる。
また、本発明では短尺厚肉角形鋼管と1枚の水平面材のみで異径柱接合用柱梁接合仕口を構成することが可能なので、厚肉プレートを用いた異径柱接合用柱梁接合構造と比較して部材数が少なく、加工、溶接の手間が抑えられ、製作コストを低減できる。
また、厚肉プレートを用いた従来の異径柱接合用柱梁接合構造では、必要となる厚肉プレートの板厚が厚いため市中で入手しにくいが、本発明の異径柱接合用柱梁接合構造によれば、前記厚肉プレートより薄いプレート(水平面材)を用いることができるので、材料の市中での入手が容易である。
特許文献4の特殊形状のノンダイアフラム形式の柱梁接合部コア(柱梁接合金物)と異なり、下階柱の径と上階柱の径とが同じ場合に用いる、単なる短尺厚肉角形鋼管である一般的なノンダイアフラム形式の柱梁接合部コアを材料に用いることができるので、各サイズに応じた水平面材と裏当金があれば製作することができ、要求性能に応じた最適構造とすることが可能である。
【0020】
また、柱梁接合部コアの上端部内面と前記水平面材の周囲との間の溶接ビードの余盛りが平坦に切削又は研削されているので、上階柱の下端部と前記異径柱接合用柱梁接合仕口上端面との間の溶接ビードが、柱梁接合部コアと水平面材との間の溶接ビードと重なる場合でも、上階柱を異径柱接合用柱梁接合仕口の上端面に溶接接合することが可能となる。なお、上階柱の下階柱に対する位置関係について、柱梁接合部コアと水平面材との間の溶接ビードに上階柱の溶接接合部(溶接ビード)が必ずくるという訳ではないが、そのような位置関係となる場合は充分あるので、そのような位置関係の場合に対応可能であることは必要である。
【0021】
請求項によれば、平面視で上階柱の板厚部分と柱梁接合部コアの板厚部分とが少なくとも一部重なっているので、上階柱にかかる軸力や曲げモーメントが柱梁接合部コアへ直接伝達される部分が存在することなり、水平面材への伝達応力や曲げモーメントが低減し、水平面材の厚を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施例の建築物の異径柱接合用柱梁接合構造20を示すもので、(イ)は断面図、(ロ)は平面図である。
図2】上記異径柱接合用柱梁接合構造における異径柱接合用柱梁接合仕口21のみを示すもので、(イ)は斜視図、(ロ)は断面図、(ハ)は平面図、(ニ)は柱梁接合部コアの上端部に水平面材を配置した、溶接接合する前の状態を示す斜視図、(ホ)は水平面材のみを示す斜視図である。
図3】上記建築物の異径柱接合用柱梁接合構造を説明する斜視図である。
図4】上記異径柱接合用柱梁接合仕口と上階柱との溶接接合部を説明するもので、(イ)は柱梁接合部コアと水平面材との溶接作業を終えた段階の断面図、(ロ)は溶接ビードの余盛りを切削した段階の断面図、(ハ)は次いでその上面に上階柱を溶接接合した段階の断面図である。
図5】柱梁接合部コアと水平面材との溶接接合部に対して上階柱の溶接接合位置が図4(ハ)と異なる場合について説明する図であり、(イ)は上階柱の板厚部分と柱梁接合部コアの板厚部分とが一部重なっている場合、(ロ)は上階柱の溶接接合部が柱梁接合部コアと水平面材との溶接接合部から離れている場合を説明する図である。
図6】上階柱の下階柱に対する位置関係について説明する図であり、(イ)は中柱形式の場合、(ロ)は側柱形式の場合、(ハ)は外柱形式の場合、(ニ)は隅柱形式の場合を示す。いずれの図も上側が正面図、下側が平面図である。
図7】(イ)は柱梁接合部コアと水平面材との溶接部に上階柱の溶接部が重なった場合の溶接部の品質を確認する目的で作製したサンプルの溶接部から素材試験片を採取し、ビッカース硬さ試験を行なったビッカース硬さ結果を示す図、(ロ)は硬さ測定位置を説明する図である。
図8】通しダイアフラム形式である厚肉プレート形式の異径柱接合用柱梁接合構造のM−N相関曲線(実線)と、ノンダイアフラム形式の柱梁接合部コアによる本発明の異径柱接合用柱梁接合構造のM−N相関曲線(破線)とを比較して示すグラフである。
図9】ノンダイアフラム形式の柱梁接合部コアに用いる短尺厚肉角形鋼管の断面形状の一例を示す図である。
図10】従来の建築物の異径柱接合用柱梁接合構造の一例を示すもので、通しダイアフラム形式である厚肉プレート形式の場合の断面図である。
図11】従来の建築物の異径柱接合用柱梁接合構造の他の例を示すもので、通しダイアフラム形式であるテーパ管形式の場合の断面図である。
図12】従来の建築物の異径柱接合用柱梁接合構造の一例を示すもので、角形断面管の上端部内面に内側に張出した補強部を形成した特殊形状のノンダイアフラム形式の柱梁接合部コアを示すもので、(イ)は平面説明図、(ロ)は断面説明図である(なお、特許文献4の図を用いた)。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の建築物の異径柱接合用柱梁接合構造を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0024】
図1(イ)は本発明の一実施例の建築物の異径柱接合用柱梁接合構造20の断面図、(ロ)は平面図である。図2は上記異径柱接合用柱梁接合構造20における異径柱接合用柱梁接合仕口21のみを示すもので、(イ)は斜視図、(ロ)は断面図、(ハ)は平面図、(ニ)は柱梁接合部コア22の上端部に水平面材23を配置した、溶接固定する前の状態を示す斜視図、(ホ)は水平面材23のみを示す斜視図である。図3は上記異径柱接合用柱梁接合構造を説明する斜視図である。
これらの図に示すように、この異径柱接合用柱梁接合構造20は、角形鋼管からなる下階柱3の上端部に短尺厚肉角形鋼管からなるノンダイアフラム形式の柱梁接合部コア22の下端部が溶接接合され、その柱梁接合部コア22の上端部に、前記下階柱3より小径の角形鋼管からなる上階柱2を溶接接合する構造であり、異径柱接合用柱梁接合仕口21により構成される。
前記異径柱接合用柱梁接合仕口21は、短尺厚肉角形鋼管からなる前記柱梁接合部コア22の上部内側に、図2(ホ)にも示したような周囲に開先23aを形成した四角形板状の前記水平面材23を、その上面が柱梁接合部コア22の上端と面一になるように溶接接合して形成される。なお、仕口内部に水平材を設ける一般的な内ダイアフラムは、梁からの水平力を伝達及び負担するものであるが、本発明における水平面材23は、梁4からの水平力の伝達及び負担を要求されておらず、梁4の接合位置に関係なく柱梁接合部コア22の上端と面一になるように溶接接合され、上階柱3の接合に適した配置がされる。
柱梁接合部コア22に水平面材23を溶接接合する際、図2(ロ)にも示すように、柱梁接合部コア22の上端近傍の内周面に、上端より水平面材23の板厚分だけ下の位置にて裏当て金24を仮付け溶接し、その上に水平面材23を載せた図2(ニ)の状態にて開先23aの部分で溶接する。その溶接接続部(溶接ビード25)をドットハッチングで示す。各部の溶接はいずれも完全溶け込み溶接である。
なお、本実施例では、上階柱及び下階柱の材質はBCR295(日本鉄鋼連盟製品規格)、柱梁接合部コア及び水平面材の材質はSN490C(JIS
G 3136)を用いているが、これに限らず他の材質を用いてもよい。
【0025】
図示例の柱梁接合部コア22は、図9で説明した柱梁接合部コア1と同様に、2つの熱間圧延溝形鋼の二丁合わせ溶接による厚肉角形鋼管を用いており、その角形断面の2辺の内面が平面視でテーパ状をなしている。したがって、前記水平面材23の対応する2辺の部分はそのテーパ形状に合わせて開先を形成している。なお、前記裏当て金24の外側輪郭も前記テーパ形状に合わせた形状としている。
【0026】
柱梁接合部コア22に水平面材23を溶接接合してなる前記異径柱接合用柱梁接合仕口21の下端部が下階柱3の上端部に溶接接合され、上端面に下階柱3より小径の上階柱2が溶接接合される。また、異径柱接合用柱梁接合仕口21の柱梁接合部コア22の側面(管壁面)にH形鋼梁4が溶接接合される。図3はその状況を説明する図である。
【0027】
図示例では図1及び要部を拡大した図4(ハ)に示すように、上階柱2は、当該上階柱2の下端部と前記異径柱接合用柱梁接合仕口21の上端面との間の溶接ビード26が、前記柱梁接合部コア22と前記水平面材23との間の溶接ビード25と一部が重なる態様で溶接接合されている。
この場合、図4(イ)、(ロ)に示すように、溶接ビード25の余盛り25aを切削又は研削して平坦にし、柱梁接合部コア22の上端と水平面材23の上面と溶接ビード25の上端との全体(すなわち、異径柱接合用柱梁接合仕口21の上面全体)が面一の水平面になるようにするとよい。
【0028】
ところで、発明が解決しようとする課題の項において、柱梁接合部コアの内面と四角形のプレートの周囲との溶接ビードの上に、上階柱を溶接する溶接ビードが重なる場合のように、2つの部材の溶接ビードに他の部材を溶接する溶接ビードが重なることは、特に工学的に明確な根拠がある訳ではないが、一般的には良好な溶接接合部が得られないものとして避けられていると記載した。
しかし、本願発明者らが図1図4(ハ)のように、柱梁接合部コア22と水平面材23との溶接ビード25の上に上階柱2の溶接ビード26が重なる場合について実験をした結果によれば、溶接品質に問題のない溶接接合が得られることが確認された。
【0029】
前記実験の内容について説明する。
試料として、柱梁接合部コアが熱間圧延溝形鋼の二丁合わせ溶接による短尺厚肉角形鋼管(外形300×300mm・板厚29mm・材質SN490C(JIS-G-3136))、上階柱が口-250×250×16(BCR295)、水平面材がPL-28(SN490C)、ソリッドワイヤがYM-55C(Y)(YGW18)を用いて中柱形式の異径柱接合用柱梁接合仕口サンプルを製作した。
溶接形状および条件は「建築工事標準仕様書JASS6鉄骨工事:日本建築学会(2007.2)」、「2008年度版冷間成形角形鋼管設計・施工マニュアル:独立行政法人建築研究所(2008.12)」に準拠して設定した。溶接条件および形状を表1に示す。柱梁接合部コア-水平面材溶接、水平面材-上階柱溶接のいずれも設定入熱およびパス間温度を満足し、溶接後のUT検査に合格した。また、溶接外観も不良部分が無いことを確認した。
【表1】
【0030】
溶接部の品質を確認する目的で前記サンプルの溶接部から素材試験片を採取し、ビッカース硬さ試験とシャルピー衝撃試験を行った。
図7(イ)にビッカース硬さ結果を示す。母材部に比べて熱影響部および溶接部が硬くなる傾向にあるが、最高硬さが220HVであり低温割れを起こす可能性は低い。また、顕著な熱影響部の軟化もなかった。図7(イ)の横軸である硬さ測定位置を図7(ロ)に示す(上階柱の内面から1mm深さ位置でのP点(0)からQ点(55)までの領域)。
シャルピー衝撃試験においても溶接部の0℃吸収エネルギーが100Jを超えており、溶接品質は良好であった(表2にシャルピー衝撃試験結果を示す)。
上記の通りであり、従来、2つの部材の溶接ビードに他の部材を溶接する溶接ビードが重なることは、一般的には良好な溶接接合部が得られないものとして避けられてきたが、少なくとも、上述のような柱梁接合部コア22と水平面材23との溶接ビード25の上に上階柱2の溶接ビード26が重なる溶接施工をした場合については、良好な溶接が行なわれることが分かった。
【表2】
【0031】
ノンダイアフラム形式の柱梁接合部コアによる本発明の異径柱接合用柱梁接合構造と、従来の通しダイアフラム形式(厚肉プレート形式)による異径柱接合用柱梁接合構造の構造設計上の差異について説明する。
(1)従来の通しダイアフラム形式による異径柱接合用柱梁接合構造。
前述の『鋼構造接合部設計指針』に、冷間ロール成形角形鋼管(BCR295)を用いた場合の通しダイフラム形式による異幅接合形式箱形断面柱梁接合部における通しダイアフラム必要板厚が記載されており、表3に示す。この必要板厚は、その算定要領の詳細は省略するが、中柱形式、側柱形式、外柱形式、隅柱形式の4種類の接合形式に対して、降伏線理論と柱の軸降伏エネルギーを組み合わせた極限解析を行い、得られた塑性曲げ耐力を用いて算定した結果である。
【表3】
(2)ノンダイアフラム形式の柱梁接合部コアによる本発明の異径柱接合用柱梁接合構造。
ノンダイアフラム形式の柱梁接合部コアによる異径柱接合用柱梁接合構造では、上階柱の応力は水平面材の面外曲げ抵抗を介して柱梁接合部コアに伝達されるため、水平面材のの面外曲げ耐力および面外曲げ剛性に配慮して、水平面材の板厚を設計する必要がある。
本発明の異径柱接合用柱梁接合構造は、柱梁接合部コア(短尺厚肉角形鋼管)の上端部に水平面材を溶接固定した構造を有しており、上階柱の応力が柱梁接合部コアに伝達される態様としては、通しダイアフラム形式(厚肉プレート形式)による異径柱接合用柱梁接合構造の場合と基本的に同じ構造と言える。したがって、本発明の異径柱接合用柱梁接合構造における水平面材の必要板厚の設計には、前述の『鋼構造接合部設計指針』において通しダイアフラムの必要板厚を算定した設計手法(算定手法)を採用することができる。
前記表3の通しダイアフラム必要板厚はパネル接合部にBCR295(F値=295N/mm2)を用いた場合であり、材質がSN490Cである実施例の柱梁接合部コア(F値=325N/mm2)はBCR295よりも強度が高く板厚も29mmと厚いため、前述の通り「鋼構造接合部設計指針」に従い水平面材の板厚を設定すれば改めて接合部の構造計算を行わずに柱梁接合部コアの上下を異幅とすることができると考えられる。
図8に通しダイアフラム異径柱接合用柱梁接合構造と本発明の異径柱接合用柱梁接合構造のM−N相関曲線を示す。表4に通しダイアフラム異径柱接合用柱梁接合構造の仕様と本発明の異径柱接合用柱梁接合構造の仕様を示す。
本発明の異径柱接合用柱梁接合構造のは通しダイアフラム異径柱接合用柱梁接合構造のを上回っており、本発明の異径柱接合用柱梁接合構造は「鋼構造接合部設計指針」に従って水平面材の板厚を設定すれば、安全側に評価できることが分かる。
【表4】
【0032】
本発明の異径柱接合用柱梁接合構造によれば、以下のような種々の効果が得られる。
図10のように通しダイアフラム形式に厚肉プレート6を用いた異径柱接合用柱梁接合構造8では、必要となる厚肉プレートの板厚が厚いため市中で入手しにくいが、本発明の異径柱接合用柱梁接合構造によれば、水平面材として厚肉プレートより薄いプレートを用いることができるので、市中での入手が容易である。
また、ノンダイアフラム形式の柱梁接合部コアの一般的な長所であるが、通しダイアフラム形式に厚肉プレートを用いる技術や、通しダイアフラム形式で短尺角形鋼管をテーパ管にする技術に比べ、ノンダイアフラム形式の柱梁接合部コアを用いる本発明の異径柱接合用柱梁接合構造は、部材数が少ないため、開先加工および溶接個所が圧倒的に少ない。また、通しダイアフラム形式のようにダイアフラムが鋼管外周より周囲に張り出すことがないため、梁端部の加工が容易となる。
【0033】
本発明の異径柱接合用柱梁接合構造は、前述の通り『鋼構造接合部設計指針』が提案する厚肉プレート形式の場合と同様の設計手法で設計することができる。すなわち、上階鋼管柱にかかる軸力と曲げモーメントが、厚肉プレート形式の場合に上部ダイアフラムを介して短尺角形鋼管及び下階鋼管柱に伝わるのと同様の態様で、水平面材を介して柱梁接合部コアおよび下階鋼管柱に伝わるとする設計方法を採用できる。一方、本発明における柱梁接合部コアの板厚は厚いので、水平面材と上部ダイアフラムの板厚が同厚という条件でも、耐力および剛性は本工法の方が高くなる。前述した図8の極限解析結果の通りである。例えば上階柱軸力が1000kNの場合の水平面材又は上部ダイアフラムの塑性曲げ耐力は200kNmから500kNmに高くなる。
また、本発明では厚肉角形鋼管と1枚の水平面材のみで異径柱接合用柱梁接合構造を構成することができるので、厚肉プレート形式の場合と比較して部材数が少なく、加工、溶接の手間が抑えられ、製作コストを低減できる。
【0034】
本発明の異径柱接合用柱梁接合構造によれば、異径柱接合用柱梁接合仕口21の上面全体が面一となり、上階柱を異径柱接合用柱梁接合仕口21のフラットな上面全体において自由な位置に上階柱を接合することができる。図6は下階柱3がそれぞれ中柱形式の場合(イ)、側柱形式の場合(ロ)、外柱形式の場合(ハ)、隅柱形式の場合(ニ)について、上階柱2の位置をそれぞれに対応して異径柱接合用柱梁接合仕口21の上端面内で変えた具体例を示している。
また、柱梁接合部コアと水平面材との間の溶接ビードの余盛りを切削しない場合でも、水平面材の上面内で自由な位置に上階柱を接合することができる。
【0035】
特許文献4の異径柱接合用柱梁接合構造と比較すると、次のような効果が得られる。
特許文献4の特殊形状のノンダイアフラム形式の柱梁接合部コア(柱梁接合金物)と異なり、下階柱の径と上階柱の径とが同じ場合に用いる、単なる短尺厚肉角形鋼管である一般的なノンダイアフラム形式の柱梁接合部コアを材料に用いることができるので、各サイズに応じた水平面材と裏当金があれば製作することができ、市場入手性がよく、要求性能に応じた最適構造とすることが可能である。
また、鋳造成型のように各サイズの全体を成型する大型の金型を必要としない。また、裏当金を用いた溶接と肉盛部の切削という簡単な加工によるので、高周波過熱による断面増厚法等と比べて製作コストが少なく済む。また、前記の通り一般的なノンダイアフラム形式の柱梁接合部コアを材料に用いることができるので、製作に要する時間が少なく済む。
【0036】
また、本発明の異径柱接合用柱梁接合構造は、柱梁接合部コアがノンダイアフラム形式であることから、ノンダイアフラム形式の一般的な長所ではあるが、梁を厚肉角形鋼管(柱梁接合部コア)の側面内の自由な位置に接合することができるという長所がある。
また、通しダイアフラム形式の従来工法では、上階柱や梁のサイズに対応させてダイアフラムの位置や枚数を変化させなければならないのに対して、本発明では異径柱接合用柱梁接合仕口21の上面、側面部に自由に部材を接合できるため、設計、施工の手間を大幅に削減することができる。
【0037】
なお、上述の実施例ではノンダイアフラム形式の柱梁接合部コアとして、2つの熱間圧延溝形鋼の二丁合わせ溶接による厚肉角形鋼管を用いる場合について説明したが、2つの熱間圧延山形鋼を対向させフランジ先端部どうしを突合せ溶接して角形断面にする山形鋼二丁合わせ溶接方式の厚肉角形鋼管を用いることも当然可能である。
【符号の説明】
【0038】
2 上階柱(上階鋼管柱)
3 下階柱(下階鋼管柱)
4 梁(H形鋼梁)
4a フランジ
20 建築物の異径柱接合用柱梁接合構造
21 異径柱接合用柱梁接合仕口
22 (ノンダイアフラム形式の)柱梁接合部コア
23 水平面材
23a 開先
24 裏当て金
25 溶接ビード(柱梁接合部コアと水平面材との間の溶接ビード)
25a 余盛り
26 溶接ビード(上階柱下端と異径柱接合用柱梁接合仕口上面との間の溶接ビード)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12