【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の問題は、概略T型の断面を持つ防音塀の上端面に設置される防音装置によって、解決することができる。その防音装置は、上方に開口し、下側終端が閉じられた半開放音響管を多数配列し、かつその奥行き長さは制御対象周波数に応じた長さを持つものにより構成されることを特徴とする。この目的は、音響管開放端付近にT型防音塀の上端面に沿って音圧の極小となる平坦な領域を生成することである。すなわち音響的ソフトな面を構成することである。これにより回折減衰効果を増大させる。その断面形状を通常の防音塀のものとともに
図1に示す。
【0007】
本発明の防音装置を用いた防音塀は、このように断面がT型である防音塀の上端面に防音装置を設けることにより、次のように騒音低減効果を一層向上させることができるという優れた効果がある。よって本発明は、従来の問題点を解消した防音装置および防音塀として実用的価値は極めて大なるものがある。
【0008】
本発明の防音装置を設置した防音塀は、音源から発生し防音装置の上を乗り越えて行く騒音を防音装置の上部で音圧低減が連続して、相乗効果によって大きい騒音低減効果が得られる。
具体的には、請求項1記載の発明は、一方側が上方に開口する開口部を有して形成され、他方側の下側終端が閉じた底部を有して形成された半開放音響管を複数備えているとともに、空間を仕切る塀を有し、該塀は長手方向にT型断面を有して延設されることにより、該T型断面が平面状となって形成される上端面に、前記半開放音響管の底部が順次配列されてなる防音塀であり、前記半開放音響管が配列されることによって構成された断面は塀の延設方向から視て山型であり
かつその配列中にある最長の管の上端中心点より、隣接する管の上端中心点を順次結び端の管の上端中心点に達する線分は下向きに凸となるように構成され、これらの半開放音響管配列の開口部付近で騒音の成分をなす音波の音圧分布が極小となるように該半開放音響管の長さが設定されていることを特徴としている。
また、請求項2記載の発明は、上記1項において、前記半開放音響管の開口部を形成する個々の壁部は、その上端を結ぶ線分として指数関数的に変化する勾配となる長さに形成されていることを特徴としている。
さらに、請求項3記載の発明は、上記1項又は2項において、前記半開放音響管の配列は、音源側より始めて、短い音響管を先頭に、最大長のものが受音点側となっても良く、その逆でも良く、さらにそれらの連続で構成されても良いことを特徴としている。
【0009】
次に、本発明の防音装置とその防音塀に係る実施形態について、
図2〜5を参照しながら説明する。
従来、本発明の防音装置のような形態の管配列を防音塀の性能向上の中心に位置づけて考察された例はなく、以下のような管配列の、特に各々の管の長さの変化に関する数値シミュレーションが行われてもいなかった。
【0010】
図2に、二次元境界要素法によって検討する場合の音源
(Source)、防音塀
(図2ではT型防音塀)、受音点
(Receiver)の配置図を示す。この配置において、防音塀が地表面上にある場合と、防音塀が地表面上に存在しない場合の音圧レベル差を挿入損失(InsertionL oss、単位 dB)として定義した。挿入損失を、
図2の断面を二次元空間として二次元境界要素法によって計算した。比較のために通常の防音塀、半開放音響管の長さが全て等しい等管長T型防音塀の場合についても示した。各防音塀の横幅は全て0.9mと統一した。また制御周波数範囲を300Hz〜2.12kHzと設定した。このため、半開放音響管の長さ(奥行き深さ)は対象騒音の波長の1/4
、(波長をλとして、λ/4)に相当するため、0.04m〜0.28mと変化させる構成をとった。
【0011】
例えば騒音の成分をなす音波が、約300Hz乃至約2,000Hzに分布すると、音速を340m/秒として、管長は0.04m乃至0.28mに分布する。防音塀上部音響管の長さは、各音響管に左から i=0〜11のように番号を振ると、管長をh
iで表して、h
i=0.04e
0.389i (i=0〜5)、
hi=0.28e0.389(6−i)、(i=6〜11)のように指数関数的に変化させることを行った。この方法が線形に管長を変化させるより挿入損失が良好であった。しかしその変化は比較的少なく、実際の設計手法としては二次元境界要素法等の数値シミュレーションによって実現可能性を考慮した適切な設計を行うことで対応可能である。
【発明の効果】
【0012】
図3に、二次元境界要素法によって計算された防音塀の挿入損失(insertion loss 単位dB)の周波数特性の計算結果を示す。縦軸の挿入損失は、負の側に大きいほど良好な特性を示す。通常の、有限な厚みを持った防音塀については、その回折減衰による周波数特性はなめらかな挿入損失の特性がみられる。等管長T字型防音塀については、一部の周波数では良好であるものの、開放端で音圧が上昇する周波数が存在するため挿入損失は大きく変動し、その特性は良好ではない。この点についての改善が従来行われてこなかった。
これに対し、本発明に係る防音塀は制御周波数領域において比較的大きな変動もなく通常の防音塀より6〜10dBもの大きさの改善が見られる。防音塀から20mもの距離離れた位置でこのような挿入損失の改善が得られることは画期的なことである。
【0013】
以上の理由を説明する。
図4に防音塀上端部付近の780Hz等音圧レベルコンター図を示した。音圧レベルの大きい領域は黒色に近く、音圧レベルが小さい領域は白色に近く表示されている。最も長い音響管の長さは0.28mであり、この付近の周波数においては最も長い音響管の開放端部分では定在波の腹の部分に当たり、音圧レベルが大きい状態となる。
図4の左図に全て長さ0.28mの音響管を持ったT型防音塀の場合を示した。管配列の開放端部分は定在波の腹の部分に当たり、音圧レベルが大きい状態となっており、図では黒色で塗られた部分であるが、それは管の内部、半分より下側に閉じ込められ、上端部からは露出していない。
一方、本発明における防音塀においては、中央部にある長さ0.28mの管内では、左図の音圧レベル分布と同様になっているが、その左右の、より短い管配列では音圧レベルの小さい、定在波の節の領域が防音塀
上端面に水平に分布しており(これは一般的に音響的にソフトな面と称されている)、しかも露出している。このため本発明の防音塀背後(図の右側)における回折減衰が大きくなり、
音圧レベルが低下しており、白色の領域となっている。これが本発明の優位性の基になる原理である。
これを更にイラストで表したものが
図5である。三次元的に本発明の防音塀の一部を示したものが、「Acoustically Soft Plane」と表示された水平面がソフトな面であり、広く露出し、開放されて音響的にソフトな面を形成していることが本発明の最も重要な点である。
【0014】
従来の([特許文献4]特開
平10−37342号公報)音響管を並列したことによる音響的にソフトな面を作り出し、防音塀に適用した発明(特許文献4参照)は、音響管の開口部をそろえて平面とすることを特許の要点としており、音響管の閉じた底部が様々な深さとなり、底部が揃わない形状となっている。
このために本発明の様に平坦なソフトな面は形成されず、挿入損失の特性としても良好なものとはならない。
[特許文献4]特開
平10−37342号公報:
図6、8,9,10,18は、本発明の防音塀の左半分と近似しているようにみえる。しかしこの発明では以上で述べたような明確な機構の説明は無く、また、あくまで補助的な機能としてしか設定していない。しかも、音源側から離れるにつれて管の長さが短くなる設定のみである。本発明の場合には
図1に示すように、音源側から離れるにつれて長さが長くなり、その反対側は中心から離れるにつれて長さが短くなる設定である。
この効果は、
図4の右図の等音圧レベルコンターライン図に示されている。黒色に塗られた部分は音圧レベルが大きい領域であり、白色に近い部分は音圧レベルが小さい領域である。最長の管の左側に並んだ管の配列によって図の左外側から流れ込んだ音波を堰き止め、音圧レベルが小さいことを表す白色の平板状の領域(音響的にソフトな面)が広がっており、中心より右側の管配列内でも音圧レベルが小さく、白色に塗られた部分が出来ている。このことが管配列底面に平行な平面上にスムーズに平坦な音響的にソフトな面を造りだして、挿入損失を大きなものにして良好な性能としている源である。この点が本発明の持つ新規な点による効果である。
次に、防音装置の部分について説明する。この防音装置は、防音塀上方に開口し反対側終端が閉じられた多数の半開放音響管を大略水平に列設したものである。その半開放音響管各々の深さ(奥行き長さ)は、概ね0.02〜0.3mであって、対象騒音の波長の1/4
、(波長をλとして、λ/4)に相当する長さを含むようにするのがよい。例えば、500Hz:約0.17m、1000Hz:約0.085m、2000Hz:約0.043mである。この長さを持つ半開放音響管の開口部では、管中の定在波により、音圧が極小となる。すなわち開口部で音響的にソフトな状態となる。半開放音響管の並ばせ方は、音源側から始めて短いものを先頭に、最大長のものが受音点側となっても良く、さらにそれらの交互の繰り返しで構成されても良い。このように構成されたものが防音装置であり、
T型防音塀の上端面に配設されるものである。
【0015】
具体的に説明すると、防音装置は、半開放音響管が隣接して並んで構成され、その上方は開口していて、底面は閉じられている。このように構成した開口部付近を通過する騒音は、位相反転や共鳴、干渉によって低減させることができる。
【0016】
この開口断面の形状は、図示の四角形に限定されず、三角形、多角形、円形、楕円形などが適用でき、各種形状を組み合わせてもよいが、装置の製作やコスト面から四角形が好ましい。
【0017】
この開口(四角形の場合)の大きさは、縦0.06m、横0.06m程度が適当である。
図1〜
図4での数値計算の場合、この大きさを想定している。より大きい場合には、開口面内に定在波が生じ、音圧が大きくなることになり望ましくない。例えば縦0.1m、横0.1mの寸法の場合は、1.7kHz程度で管の長さ方向に垂直な方向に定在波が生じるが、この例の周波数は聴覚上鋭敏な領域にあるためこの寸法は避けなければならない。なお、すべての開口を同じ大きさに揃える必要はなく、異なる大きさの開口を混在させてもよい。
【0018】
以上説明した防音装置を構成する材料は、金属材料、有機材料など特に限定されない。透明の材料を使用すると、防音塀に透視性や透光性が得られるので、景観や日照、採光性が向上する。
開口端からは、雨水、雪や埃等が進入することが考えられるが、その防止のため、この開口端に音波を透過する、音響的に透明なカバーとしての薄膜材を取り付けてもよい。本発明の
図5に示された形状の場合、全体的に上方に凸の形が基本であるため、雨水、雪や埃等はカバー上を滑り、防音塀の両端から滑り落ちることになり実用上好ましいという利点もある。
【0019】
本発明の防音塀は音源を取り囲む事が必要であり、道路交通が音源である場合には道路に沿って設置しなければならず、室内での局所的な音源の場合には防音塀がその音源を取り囲む構成をとらなければならない。
(防音装置全体の構造)
以上説明した本発明の防音装置では、その断面形状は概略T型の防音塀であるのが性能面から好ましいが、台形、四角形の上端部に防音装置が付随したものでも採用され得る。
防音装置の大きさは、T型の幅が0.5m〜2mであり、長くするほど効果は向上するが、実用上の条件から決定される。また、低周波成分ほど減衰させにくいので、対象とする騒音の周波数成分や騒音低減目標値などから長さを適宜選択すればよい。