【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述した技術を天井からの落下物に対する防護体に適用するには、以下の点で不十分である。
【0010】
すなわち、天井からの落下物から人体を保護するには、人体を前記保護体によって覆う必要があり、換言すれば、前記保護体の下方に、人体が隠れることができる大きさの空間部が形成される必要がある。
【0011】
しかしながら、前述した従来の技術では、水平状態に回動させられた背もたれの下方に形成される空間部には椅子の着座シートが位置させられており、この着座シートによって前記空間部が狭められて、人体が入り込めるような大きさの空間部を確保することができない。
【0012】
また、前記着座シートを収納位置に回動させることにより前記空間部を拡大することも考えられるが、前記着座シートを収納位置に位置させたとしても、この着座シートは、依然として前記空間部内にある。
また、前列の背もたれをテーブルとして使用することを前提とした場合、あるいは、収容人数の関係で、列間の間隔を広く設定することができない。
【0013】
したがって、前述した従来の技術を用いて前記防護体を形成するには無理がある。
【0014】
本発明は、このような従来の要望および従来の技術における不具合を解消すべくなされたもので、天井からの落下物が生じる事故発生時において、これらの落下物から人体を保護するための保護体を出現させることができるとともに、保護体の下方に形成される空間を極力広く確保することのできる椅子を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の椅子は、前述した課題を解決するために、着座シートと、この着座シートの後部に上方へ向けて立ち上げるように配置される背もたれと、これらの着座シートと背もたれの両側部に配置され、これらの着座シートおよび背もたれを支持する一対のフレームとを備えた椅子であって、前記背もたれの下部に、前記着座シートの後部が連結されるとともに、前記フレームに形成された上下方向に沿うガイド溝に、その長さ方向に移動可能に、かつ、この移動面内で回動可能に係合させられる連結部材が止着され、この連結部材と前記フレームとの間に、前記連結部材が前記ガイド溝の下端部および上端部に位置させられた状態において、前記連結部材の回動を拘束することにより前記背もたれの向きを規制する背もたれ姿勢保持機構が設けられていることを特徴としている。
【0016】
このような構成とすることにより、通常時においては、前記連結部材を前記ガイド溝の下端部に位置させるとともに、この連結部材を背もたれ姿勢保持機構を介して前記フレームに固定する。
【0017】
この状態において、前記椅子は、前記背もたれがほぼ鉛直に保持されるとともに、前記着座シートがほぼ水平状態に保持され、着座可能な状態となされる。
【0018】
そして、落下物が生じる事故の発生時にあっては、前記背もたれ姿勢保持機構による、前記下方に位置させられている前記連結部材と前記フレームとの拘束を解除した後に、前記連結部材を前記ガイド溝の上端部へ移動させる。
【0019】
このような連結部材の移動の際に、この連結部材がその移動面内において回動可能となされていることにより、この連結部材が止着されている前記背もたれを椅子の前方へ向けて傾動させることができる。
【0020】
そして、前記連結部材を前記ガイド溝の上端部へ移動させた状態において、前記背もたれを前記フレームの前方へ向けて水平に保持するとともに、前記背もたれ姿勢保持機構により、前記連結部材の前記フレームに対する回動を拘束する。
【0021】
このような前記連結部材の操作に伴い、この連結部材に連結されている前記着座シートも、その後端部が前記ガイド溝の上端部へ引き上げられるとともに、前記背もたれの前記フレーム前方への回動に伴って、前記着座シートの前端部が後方へ向けて回動させられる。
【0022】
この状態において、前記着座シートは、前記水平状態にある前記背もたれの後端部に垂れ下がるように位置させられる。
すなわち、鉛直状態の前記背もたれの位置に前記着座シートが位置させられる。
【0023】
これによって、前記フレームの前方に、上方が前記背もたれによって覆われた空間部が形成される。
この空間部に人が入り込むことによって、落下物が落下した際に、この落下物が前記背もたれによって遮られて、前記空間部内の人への衝突が防止される。
したがって、前記背もたれが落下物への防護体として機能する。
【0024】
一方、前記着座シートは前記フレームへ向けて回動させられることにより、前記空間部から離れるように移動させられることから、前記空間部が狭められることが抑制され、したがって、前記空間部を広く確保することができる。
【0025】
さらに、前記椅子の上方は空間であることから、この椅子の高さの制限が殆どなく、これによって、前記フレームの高さや前記ガイド溝の上端部の位置を容易に高く設定することができる。
【0026】
これに伴い、前記背もたれをより高い位置において水平に保持することができる。
すなわち、前記防護体の形成位置を高く設定することができ、この点からも、人が入り込む前記空間部を広くして、落下物による事故発生時における人の避難を容易にする。
【0027】
前記背もたれ姿勢保持機構は、前記連結部材に突設された係合フックと、前記フレームに、前記係合フックの移動領域内に位置するように設けられ前記係合フックが係脱させられる係止突起とによって構成することができる。
【0028】
このような構成とすることにより、前記連結部材と前記フレームとの係合を確実なものとして、通常使用時における前記背もたれの不要な動きを抑制して、良好な使用感を確保することができる。
【0029】
また、前記背もたれを防護体として落下物を受け止める際の耐衝撃性を高めることができる。
【0030】
この場合、前記係合フックを、前記連結部材に対して進退可能な構成とすることが望ましい。
【0031】
このような構成とすることにより、前記係合フックと前記係止突起との係合深さを大きく設定することができ、これによって、両者の係合力をより高めることができる。
【0032】
そして、前記係合フックと前記連結部材との間に、前記係合フックを進退方向に付勢する付勢部材を設けておくことにより、前記係合フックを前記係止突起に係脱させる際に、前記係合フックを常時前記係止突起に接触させた状態に保持してその係脱を安定させることができる。
【0033】
また、前記係合フックを前記係止突起に係合させた状態において、安定した係合状態を確保することができる。
【0034】
また、前記着座シートを、前記連結部材に回動可能に連結し、前記フレームの下方に、前記連結部材が前記ガイド溝の下部に位置させられた状態において、この連結部材と前記着座シートとの連結部よりも前方側において前記着座シートの下部が当接させられる着座シートストッパーを設けた構成とすることができる。
【0035】
このような構成とすることにより、通常時において、前記着座シートを使用位置と収納位置とに選択的に位置させることができ、既成の椅子と同様の使用形態を確保することができる。