(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
工具ボデー(20)のインサート取付部(21)に切削インサート(10)が着脱自在に装着される切削工具(1)におけるインサート支持機構であって、該インサート取付部(21)のベース面(21A)上で該切削インサート(10)を回転させるように該切削インサート(10)に作用する回転モーメントを受け止めるための機構において、
前記切削インサート(10)は、前記ベース面(21A)に当接する端面(12)に、第1の係合部(14)を備え、該第1の係合部(14)は、少なくとも2つの互いに離れた特定部分(15)を有し、
前記工具ボデー(20)の前記ベース面(21A)には、前記2つの特定部分(15)と対応する第2および第3の係合部(24、25)が互いに離れて設けられ、
前記インサート取付部(21)に前記切削インサート(10)が装着されたとき、一方の前記特定部分(15)は前記第2の係合部(24)と当接し、他方の前記特定部分(15)は前記第3の係合部(25)と接触せず、
前記切削インサート(10)が前記回転モーメントを受けたとき、前記インサート取付部(21)の少なくとも一部が弾性変形することで前記他方の特定部分(15)は前記第3の係合部(25)と当接するインサート支持機構。
前記ベース面(21A)に対向する方向からみて、該ベース面(21A)を、該ベース面(21A)の略中央を通ると共に前記切削工具(1)の先端面(30)側から基端側に延びるように定められる第1の境界線(L1)と、該ベース面(21A)の前記略中央を通ると共に前記第1の境界線(L1)と直交するように定められる第2の境界線(L2)とによって、4つの領域(26、27、28、29)に分け、前記インサート取付部(21)に前記切削インサート(10)が装着されたとき、該切削インサート(10)の作用切れ刃の裏側に第2の領域(27)が位置するとき、
前記第3の係合部(25)は前記第2の領域(27)に位置する請求項1に記載のインサート支持機構。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を適宜参照しながら説明する。
【0011】
図1に示すように、この実施形態の切削工具1は、切削インサート10と、切削インサート10を着脱自在に装着する工具ボデー20とを備える。切削インサート10は、工具ボデー20へ締め付けねじによって固定される。切削工具1は、工具ボデー20の先端側から基端側に延びる回転軸線Cを中心に回転しながらワークを切削する回転切削工具である。このような切削工具1は、転削工具とも称される。
【0012】
図3から
図6に示すように、切削インサート10は、2つの対向する端面11、12と、これらの間に延在する周側面13とを備える。2つの端面のうちの第1の端面11と周側面13との交差部に沿って切れ刃Eが形成されている。切れ刃Eは
、第1の端面11の外縁の全周にわたって形成されている。
【0013】
図4の平面図に示すように、切削インサート10の第1の端面11の輪郭形状は略円形になっている。すなわち切れ刃Eのうち、作用切れ刃は略円弧状である。周側面13には正の逃げ角が付与されており、切削インサート10は、所謂ポジティブタイプの切削インサートになっている。第2の端面12の輪郭形状も第1の端面11と同様に略円形である。
図3に示すように、切削インサート10は、第1および第2の端面11、12を貫通して延びるように定められる中心軸線Jに関して回転対称な形状を有する。このように、切削インサート10は、所謂円形インサートとして構成されている。以降は説明をわかりやすくするため、第1の端面11を上面11と称し、第2の端面12を下面12と称する。しかし、「上」および「下」という用語は、本発明を限定するものではなく、これら用語に基づいて本発明が限定的に解釈されることを意図しない。
【0014】
切削インサート10には上面11および下面12を貫通する取り付け穴18が形成されており、ここに締め付けねじが挿通される。この切削インサート10は、回転対称な形状であるため、取り付け穴18の中心軸線と切削インサート10の中心軸線Jとは一致している。
【0015】
切削インサート10の下面12には、凹所により画定される第1の係合部14が形成されている。第1の係合部14は、取り付け穴18を囲む底面部17Bと、底面部17Bの外周部から起立する側壁面17Aとにより画定される。底面部17Bは、中心軸線Jに直交する方向に延び、特にここでは中心軸線Jに直交する平面に沿って延在する。側壁面17A は底面部17Bの外周部から中心軸線Jの延びる方向に形成されている。ただし、側壁面17A は中心軸線Jと平行ではなく、所定方向に所定角度で傾斜するように形成されている。また側壁面17Aと底面部17Bとの間には丸み(フィレット)が付けられている。この側壁面17Aは、中心軸線Jを中心にもつ円周方向に規則的に、等間隔に配置された6つの凹状に湾曲した係合凹部15と、隣り合う係合凹部15の間に配置された6つの凸状に湾曲した湾曲凸部16とを有する。第1の係合部14は、切削インサート10の中心軸線Jに関して6回回転対称の回転対称性をもつ輪郭形状を有する。複数の係合凹部15が中心軸線Jの周りに規則的に配置されることで、切削インサート10を回転させて装着しなおすことにより、摩耗して使用不能になった切れ刃の部分を別の切れ刃の部分に交代することが可能になる。なお、切削インサート10がインサート取付部21に装着されたとき、複数の係合凹部15のうち、2つの特定の係合凹部15のみが後述する第2および第3の係合部24、25と当接する。ここでは特定の係合凹部15を、特定部分15とも称する。上面11に設けられた「L」、「6」、及び「<」と「○」を組み合わせた模様(
図4参照)は、切削インサート10を最大6回回転させて装着しなおすときの目安となる。切削インサート10の上面11に形成された模様を、工具ボデー20に形成されたマークと合わせることで、下面12の係合凹部15を第2および第3の係合部24、25と合わせやすくなる。工具ボデー20に形成されるマークは、合わせマークなどと称され、
図1、
図2および
図7に示すような、単純な切り欠き形状とされて構わない。
【0016】
図1に示すとおり、工具ボデー20は、先端側端部に位置する先端面30と、先端面30から基端側に延びる外側面32とを有する。この実施形態の工具ボデー20は、さらに基端側端部に位置する基端面31を有する。基端面31は、切削工具1が工作機械の主軸に装着されるときの取り付け面とされる。しかしこれに限定されず、切削工具1の基端側の形状は、保持具などを介して、あるいは直接、工作機械の主軸に装着できる形状であれば、どのような形状とされても構わない。
【0017】
図2に示すとおり、工具ボデー20は、切削インサート10を着脱自在に装着するためのインサート取付部21を備え、インサート取付部21は工具ボデー20の先端面30の一部を切り欠くように形成されている。なおかつインサート取付部21は外側面32の一部を切り欠くように形成されている。すなわちインサート取付部21は、先端面30と外側面32との双方に開放部を有する。インサート取付部21は、ベース面21Aと、先端面30側を向く部分および
外側面32側を向く部分を含む側壁面21Bとにより画定されている。側壁面21Bには、切削インサートの周側面13を支持するための2つの凹状の湾曲面が形成されている。狭義には、この2つの凹状の湾曲面のみが、側壁面21Bと称されても構わない。ここでは、この2つの凹状の湾曲面を含み、ベース面21Aに対して壁状に交差する面部分の全体が、側壁面21Bと称されている。ベース面21Aには、ねじ穴23が形成されている。切削インサート10に挿通された締め付けねじは、ねじ穴23と螺合して、切削インサート10をインサート取付部21に固定する。この実施形態の切削工具1におけるねじ穴23は、
図7および
図8に示すように、ベース面21Aに対して直角ではなく、所定方向に所定角度で傾斜するように形成されている。これは、切削インサート10を側壁面21B側に押さえる力を増大するためである。しかし、これに限定されず、ねじ穴23はベース面21Aに対して直角に形成されても構わない。
【0018】
ベース面21Aには、その一部にそれぞれ凸状に湾曲する側壁面を有する第2および第3の係合部24、25が形成されている。第2および第3の係合部24、25は、ベース面21Aから突出する突起により画定され、切削インサート10をインサート取付部21に装着した際に、第1の係合部14内に収容される。
図8は切削インサート10をインサート取付部21に装着した状態を示す模式図であり、第2の係合部24のみが予め特定された1つの特定部分15に係合している。これに対して、
図9は切削加工中に大きな負荷が加わった状態を示す模式図である。
図9に示すように、第2および第3の係合部24、25は、前述の複数の係合凹部15の2つの予め特定された特定部分15に係合することにより、インサート取付部21に装着された切削インサート10をベース面21A上で回転させるように当該切削インサート10に作用する回転モーメントを受け止めるように機能する。したがって、切削工具1のこのような構造は、受け止め機構と称され得る。
【0019】
ここで、第2および第3の係合部24、25の形成位置について説明する。
【0020】
ベース面21Aに対向する方向(ベース面21Aに直角な方向)からみて、第2の係合部24は、ベース面21Aの略中央を通過し、なおかつ工具ボデー20の先端面30と直角な第1の境界線L1(回転軸線Cに平行)、およびベース面21Aの略中央を通過し、なおかつ工具ボデー20の先端面30と平行な第2の境界線L2(回転軸線Cに直交)により分割される当該ベース面21Aの4つの領域のうち、外側面32側で、なおかつ基端側(基端面31側)の第1の領域26に形成されている。また第3の係合部25は、第1の境界線L1および第2の境界線L2により、分割される当該ベース面21Aの4つの領域のうち、外側面32側で、なおかつ先端面30側の第2の領域27に形成されている。なお、この実施形態の切削工具1のように、ベース面21Aにねじ穴23を有する場合、第1および第2の境界線L1、L2は、ベース面21Aの略中央に位置する、ねじ穴23の中心(特にベース面21Aに沿った中心位置)を通るように定められることができる。切削インサート10を固定する固定力は、締め付けねじとねじ穴23との螺合によって生じ、この固定力が生じるように第2および第3の係合部24、25は、ねじ穴23に対して適切な位置に配置される。ただし、この実施形態の切削工具1のように、ねじ穴23がベース面21Aに対して傾斜している場合は、ベース面21Aと対向する方向からみると、ねじ穴23の中心軸線Hが1点とならず直線となる。そのような場合は、ねじ穴23の中心として、ねじ穴23の中心軸線Hとベース面21Aを延長する仮想平面との交点Xを用いるとよい。交点Xは中央点Xと称され得る。すなわち、ベース面21Aに対向する方向からみて、第2の係合部24は、中央点Xを通過し、なおかつ工具ボデー20の先端面30と直角な第1の境界線L1、および中央点Xを通過し、なおかつ工具ボデー20の先端面30と平行な第2の境界線L2により分割される当該ベース面21Aの4つの領域のうち、外周側で基端側である領域、つまり、外側面32側で、なおかつ基端面31側の第1の領域26に形成されている。また第3の係合部25は、第1の境界線L1および第2の境界線L2により、分割される当該ベース面21Aの4つの領域のうち、外周側で先端側である領域、つまり、外側面32側で、なおかつ先端面30側の第2の領域27に形成されている。
【0021】
図8および
図9に示すように、第2の係合部24は、切削インサート10の特定の係合凹部15の内壁と係合する。第2の係合部24は係合凹部15への侵入を容易にするために、係合凹部15の寸法よりも若干小さく形成されている。また、第2の係合部24は係合凹部15の内壁と面接触可能なように、一部の壁面の形状が係合凹部15の形状とほぼ一致している。第2の係合部24の係合面は、ベース面21Aと平行な仮想平面に対して鋭角をなすように傾斜することが好ましい。特に、第2の係合部24は、頂部側が細く、基端側が太くなるように係合面が傾斜することが好ましい。第2の係合部24の係合面がこのように傾斜するように形成されると、係合凹部15への侵入がさらに容易となり、なおかつ第2の係合部24の強度が高まる。
【0022】
図9に示すように、切削加工中に大きな負荷が加わったとき、第3の係合部25は、2つめの特定の係合凹部15の内壁と係合する。
図8に示すように、第3の係合部25は、切削インサート10を工具ボデー20に装着するのみでは、係合凹部15の内壁と接触せず、わずかな隙間をあけて向かい合っている。第3の係合部25は、切削インサート10に大きな負荷が加わったとき、係合凹部15の内壁に当接(係合)して機能する。切削インサート10を工具ボデー20に装着したときのこの隙間は、0.01mm以上、かつ0.20mm以下の範囲が好ましい。第3の係
合部25は係合凹部15への侵入を容易にするために、係合凹部15の寸法よりも若干小さく形成されている。また、第3の係
合部25は係合凹部15の内壁と面接触可能なように、一部の壁面の形状が係合凹部15の形状とほぼ一致している。第3の係合部25の係合面は、ベース面21Aと平行な仮想平面に対して鋭角をなすように傾斜することが好ましい。特に、第3の係合部25は、頂部側が細く、基端側が太くなるように係合面が傾斜することが好ましい。第3の係合部25の係合面がこのように傾斜するように形成されると、係合凹部15への侵入がさらに容易となり、なおかつ第3の係合部25の強度が高まる。
【0023】
ベース面21Aと対向する方向からみて、第2の係合部24とねじ穴23の中心との距離Aは、第3の係合部25とねじ穴23の中心との距離Bよりも大きくされる(A>B)。またベース面21Aと対向する方向からみて、係合凹部15と当接する領域の中央点における第2の係合部24の法線Fが向かう方向は、ねじ穴23の中心を通らない。また係合凹部15と当接する領域の中央点における第3の係合部25の法線Gが向かう方向も、ねじ穴23の中心を通らない。ここでは、第2および第3の係合部24、25と係合凹部15との接触は点ではなく所定の領域である場合を含めるため、その領域の中央点における法線を定める。したがって、第2および第3の係合部24、25と係合凹部15との接触がそれぞれ点とみなされる場合を排除しない。それぞれの接触が点とみなされる場合は、それらの点での法線F、Gを定める。また前述のとおり、この実施形態の切削工具1は、ねじ穴23の中心軸線Hがベース面21Aに対して傾斜しているため、ねじ穴23の中心として中央点Xを用いる。すなわち、ベース面21Aに対向する方向からみて、第2の係合部24と中央点Xとの距離Aは、第3の係合部25と中央点Xとの距離Bよりも大きい。また
図9に示すように、ベース面21Aに対向する方向からみて、係合凹部15と当接する領域の中央点における第2の係合部24の法線Fが向かう方向は、中央点Xを通らず、係合凹部15と当接する領域の中央点における第3の係合部25の法線Gが向かう方向も、中央点Xを通らない。第2の係合部24の法線Fが向かう方向が中央点Xに向かう方向からずれる角度αは、第3の係合部25の法線Gが向かう方向が中央点Xに向かう方向からずれる角度βよりも小さい(α<β)。
【0024】
ベース面21Aの表面の硬さは、ロックウェル硬さ(JIS Z 2245またはISO 6508−1)において48HRC以上、かつ68HRC以下の範囲が好ましい。このような硬さにされると、第2および第3の係合部24、25の硬さが好ましく調整され、当接するときの塑性変形を防止し、なおかつ脆性破壊も防止される。すなわち、ベース面21Aの表面の硬さをこのような範囲とすることで、大きな負荷が加わるときに、弾性変形によって第3の係合部25は係合凹部15の内壁と当接する。
【0025】
次に、この実施形態の切削工具が奏する効果について説明する。切削インサート10が切削抵抗による回転モーメントを受けるとき、その回転中心は第2の係合部24と係合凹部15との当接部になる。この実施形態の切削工具1のような場合、ベース面21Aに対向する方向からみて、一般に切削インサート10に作用する回転モーメントは右回り(時計回り)に作用する。すなわち、切削工具1の作用する切れ刃E(作用切れ刃)は、先端面30側で、なおかつ
外側面32側に配置されている。第2の係合部24と係合凹部15との接触部に対して、作用切れ刃が切削工具1の先端面30側に偏っているため、回転モーメントは右回りに作用する。このため、切削インサート10には切削加工中、常に同じ向きの回転モーメントが加わり続ける。したがって、切削インサート10のクランプ状態が安定化する。
【0026】
また、第2の係合部24が切削に関与している作用切れ刃から基端側の遠い位置にある第1の領域26に形成されることで、切削抵抗によって生じる第2の係合部24と係合凹部15との当接部周りの回転モーメントが増大する。その結果として、第2の係合部24が切削インサート10に作用する回転モーメントを安定的に受け止め、クランプ力が向上する。
【0027】
さらに、第2の領域27に第3の係合部25が、回転モーメントに対抗する向きに当接可能面(係合面)を有して形成されている。前述のとおり、第3の係合部25は、切削インサート10に大きな負荷が加わるとき、インサート取付部21の弾性変形により近づいた係合凹部15の内壁に当接して機能する。切削インサート10に大きな負荷が加わるとき、たった1つの第2の係合部24だけですべての負荷を受け止めると、第2の係合部24が損傷を受ける虞がある。そこで、第3の係合部25と協働して負荷を受け止めることで、第2の係合部24の損傷を抑制し、大きな負荷に対応する。前述のとおり、切削インサート10をインサート取付部21に装着しただけでは、第3の係合部25と切削インサート10との間にわずかな隙間がある。この隙間は、第2の係合部24が塑性変形などの損傷を起こす前に、第3の係合部25と切削インサート10とが当接する程度の隙間とされる。すなわち、第2の係合部24または側壁面21Bがわずかに弾性変形すると、すぐに第3の係合部25と切削インサート10とが当接して係合する。ベース面21Aに対向する方向からみて、第2の係合部24とねじ穴23の中心との距離Aが、第3の係合部25とねじ穴23の中心との距離Bよりも大きくされることで、第3の係合部25の隙間が適切に調整される。ただし前述のとおり、この実施形態の切削工具1は、ねじ穴23の中心軸線Hがベース面21Aに対して傾斜しているため、ねじ穴23の中心として中央点Xを用いる。すなわち、ベース面21Aに対向する方向からみて、第2の係合部24と中央点Xとの距離A(
図9参照)が、第3の係合部25と中央点Xとの距離B(
図9参照)よりも大きくされることで、第3の係合部25の隙間が適切に調整されている。
【0028】
第3の係合部25は、第2の係合部24に比べて作用切れ刃に近いことで、すなわち先端面30側の第2の領域27に形成されることで、係合凹部15の内壁に当接して機能し始めるとすぐに、第2の係合部24に代わって主体的に回転モーメントの力を受け止める。したがって、第2の係合部24の損傷が、ますます抑制される。なお、この実施形態における第3の係合部25は、切削インサート10を工具ボデー20に装着するのみでは、係合凹部15の内壁と接触しないように形成されたが、これに限定されない。第3の係合部25は、切削インサート10を工具ボデー20に装着するのみで係合凹部15の内壁と当接するように形成されても構わない。その場合においても、第2の係合部24は、係合凹部15の内壁と当接するように形成される。
【0029】
前述のとおり、
図9に示すように、ベース面21Aに対向する方向からみて、第2の係合部24の法線Fが向かう方向が中央点Xに向かう方向から時計回り方向にずれる角度αは、第3の係合部25の法線Gが向かう方向が中央点Xに向かう方向から反時計回り方向にずれる角度βよりも小さい。すなわち、第3の係合部25は、第2の係合部24と比較して、切削インサート10の係合凹部15の中央から離れた側に接触する。また、ずれる方向も係合凹部15の中央部からみて逆側である。係合凹部15に対して、第2の係合部24と第3の係合部25との接触位置をずらすことによって、切削インサート10の第1の係合部14の当接箇所の損傷を防止し、その結果、第2の係合部24の損傷をさらに抑制することができる。さらに、第3の係合部25は、係合凹部15の中央部から離れた面、すなわち平面に近い面で接触させることができるため、接触面積を広くすることができ、塑性変形などの不具合の発生を抑制することができる。したがって、切削加工中の大きな負荷に、ますます対応できる。
【0030】
前述のとおり、この実施形態の切削インサート10の第1の端面11の輪郭形状は略円形になっている。このため、インサート取付部21と当接する切削インサート10の周側面13は切頭円錐状の曲面で構成される。周側面13の当接面が切頭円錐状の曲面であると、切削インサート10をベース面21A上で回転させようとする回転モーメントに対して、周側面13で対抗することが難しくなる。そのため、切削インサート10の第1の係合部
14と、インサート取付部21の第2および第3の係合部24、25との係合が有効に作用する。切れ刃Eが略円弧状の切削インサート10の輪郭形状は、略円形に限定されない。すなわち、周側面13の当接面が略円筒状または略円錐状の曲面で構成される切削インサート10の輪郭形状は、略円形に限定されない。略円弧状の輪郭部分が、切削インサート10の全輪郭形状の30%以上、なおかつ100%以下の範囲を占める場合に、本発明のインサート支持機構は特に効果が高い。また、主切れ刃が1/4円弧以上の輪郭形状とされ、主切れ刃が複数形成される切削インサート10の場合に、本発明のインサート支持機構は特に効果が高い。なお1/4円弧以上とは、中心角が90°以上の円弧を意味している。
【0031】
以上説明したように、この実施形態の切削工具1においては、切削インサート10の第2の端面12に形成された第1の係合部14が、インサート取付部21のベース面21Aに形成された第2および第3の係合部24、25との2箇所以上で係合するように第2および第3の係合部24、25の形成位置が工夫されているので、大きな負荷を受けても切削インサート10の回転(ずれ動くこと)を効果的に抑制でき、同時にインサート取付部21の側壁面21Bが切削インサート10の回転を抑制する効果も最大化され、切削加工中の大きな負荷に対応できる。これにより、切削インサート
10の異常損傷の抑制、または、被加工物の加工精度の向上を図ることができる。
【0032】
この実施形態では、インサート取付部21にシムを用いず、工具ボデー20に直接第2および第3の係合部24、25を設けたが、本発明はこれに限定されず、
図10に示すようなシム40を用いて、シム40に第2および第3の係合部24、25を設ける場合についても適用可能である。具体的には、シム40は、切削インサート10が当接するベース面21Aを画定する板状のシム本体の表面に第2および第3の係合部24、25が設けられてなる。このようにシム40に第2および第3の係合部24、25を設けると、第2および第3の係合部24、25をより複雑な形状に形成することが容易になる。また、第2および第3の係合部24、25が損傷した場合、シム40を交換することで、切削工具1の工具寿命を延長することが可能になる。シム40には、シム40をねじなどで工具ボデー20に固定するための穴が形成されていてもよい。ねじなどの締結手段を用いれば、シム40を工具ボデー20に固定した後の交換が容易になる。シム40は、締結手段、クランプ、凹凸部相互による係合などの機械的手段の他に、圧入や焼嵌めのような弾性変形や熱変形を利用したり、接着、溶接、溶着のような非機械的手段によっても工具ボデー20に固定することが可能である。
【0033】
本発明の切削工具1は前述の実施形態に限定されない。この実施形態では、第1の係合部14は、切削インサート10の下面13に形成された凹所により画定され、第2および第3の係合部24、25は、ベース面21Aに形成され、凹所に収容されて当該凹所を画定する側壁面の一部に係合可能な突起により画定される場合について説明した。しかし、そのような実施形態とは逆に、第1の係合部は、切削インサート10の下面13に形成された突起により画定され、第2および第3の係合部は、ベース面21Aに形成され、突起を収容して当該突起を画定する側壁面の一部と係合可能な係合部分を有する凹所により画定される構成とすることも可能である。(図示しない。)
【0034】
この実施形態の第2および第3の係合部24、25は、1つの突起の一部分として形成されたが、2つの係合部24、25は完全に独立した突起とされても構わない。同様に、第1の係合部は、1つの凹部として構成されずに、完全に独立した複数の凹部に分割されても構わない。しかし、第2および第3の係合部24、25は、1つの突起の一部分として形成されると、小さな空間に2つの係合部24、25を形成することが可能となり、また突起部の強度が高くなるため、塑性変形などの発生を防止できる。
【0035】
切削インサートの形状に関しても、ポジティブタイプだけでなく、周側面に正の逃げ角が付与されていないネガティブタイプも可能である。また、切削インサート全体の形状についても特に制限はなく、様々な形状の切削インサートに適用可能である。例えば、長円形や非対称な曲面形状など、様々な曲面形状の周側面とされる切削インサートにも適用可能である。
【0036】
切削インサートに設けられる第1の係合部14を画定する凹所の輪郭形状は、丸や四角等の単純な幾何学形状でも構わない。その場合、切削インサートがその軸線に関して、n回対称(nは2以上の自然数)の回転対称性をもち、かつ、係合凹部15が複数形成されていれば、切削インサートの複数の切れ刃部分を使用することが可能になる。第1の係合部14は、第2および第3の係合部24、25とできる限り広い面積で当接できる形状にされることが好ましい。凹所が本実施形態のように係合凹部15を有する形状であった場合、係合凹部15の数に関して特に制限はない。係合凹部15の数はこの実施形態で示した6つよりも多くてもよいし、少なくてもよい。係合凹部15の数は、被加工物の形状や切削条件に応じて適宜調整できる。ただし係合凹部15の数は、3以上、なおかつ10以下の範囲であることが好ましい。係合凹部15の数が10を超えると、切削インサート10の大きさと比較して、係合凹部15の大きさが小さくなるため、回転モーメントを十分に受け止めることが難しくなる。係合凹部が2つ以下の場合は、対応する切れ刃の数も2つ以下であるため、係合凹部15を用いなくても、切削インサート10の周側面13に回転モーメントを受け止める構造を採用することができる。
【0037】
この実施形態では、切削インサート10を締め付けねじで固定する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、くさびや押さえ駒などを用いる他のクランプ方法により固定される場合についても適用可能である。しかし本発明の受け止め機構は、締め付けねじで固定する場合に、もっとも大きな効果を発揮する。
【0038】
この実施形態のインサート取付部21は、切削工具1の先端面30および外側面32の両方に開口部が設けられるが、これに限定されない。インサート取付部21は、切削工具1の先端面30および外側面32のいずれか一方に開口部が設けられればよい。この開口部に相当する切削インサート10の上面と周側面との交差稜線部分を、作用切れ刃として機能させることができる。すなわち被加工物の形状や切削方向に応じて、作用切れ刃の位置および配置方向が適宜調整され、インサート取付部21の開口部が配置されればよい。それらの場合でも、ベース面21Aに対向する方向からみた4つの領域(26、27、28、29)は、ベース面21Aの略中央を通過し、工具ボデー20の先端面30と直角な第1の境界線L1(回転軸線Cに平行)、およびベース面21Aの略中央を通過し、なおかつ工具ボデー20の先端面30と平行な第2の境界線L2(回転軸線Cに直交)により定められる。
【0039】
前述の実施形態では本発明をある程度の具体性をもって説明したが、本発明は、以上に説明した実施形態に限定されるものではない。本発明については、請求の範囲に記載された発明の精神や範囲から離れることなしに、さまざまな改変や変更が可能であることは理解されなければならない。すなわち、本発明には、請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が含まれる。