(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6180006
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】脳画像解析方法、脳画像解析装置、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01T 1/161 20060101AFI20170807BHJP
【FI】
G01T1/161 DZDM
G01T1/161 B
【請求項の数】11
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-219828(P2016-219828)
(22)【出願日】2016年11月10日
【審査請求日】2016年12月6日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 臨床放射線、第61巻、第5号、第675〜686頁、金原出版社株式会社
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】599055382
【氏名又は名称】学校法人東邦大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000230250
【氏名又は名称】日本メジフィジックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113549
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 守
(74)【代理人】
【識別番号】100115808
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 真司
(72)【発明者】
【氏名】水村 直
(72)【発明者】
【氏名】三木 秀哉
【審査官】
伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−115270(JP,A)
【文献】
特開2008−026144(JP,A)
【文献】
水野啓志,脳血流量定量SPECT診断のためのROI設定の自動化の検討,日本放射線技術学会誌,2008年10月20日,第64巻,第10号,1241〜1249頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/161
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳内トレーサーの投与直後から経時的に撮像した複数の動態画像および脳内トレーサーが脳内で平衡状態にあるときに撮像した一又は複数の静態画像を収集するステップと、
静態画像を解剖学的標準化し、解剖学的標準化のパラメータを取得するステップと、
取得した解剖学的標準化のパラメータを用いて、動態画像の一部もしくは全部の解剖学的標準化を行うステップと、
解剖学的標準化された動態画像を用いて、脳内放射能分布を評価するステップと、
を備える脳画像解析方法。
【請求項2】
脳内トレーサーの投与直後から経時的に撮像した複数の動態画像を収集するステップと、
各時相の動態画像の一部あるいはすべてを加算することにより解剖学的標準化を行うために必要な脳の形態に関する情報量を増やすステップと、
加算した動態画像を解剖学的標準化し、解剖学的標準化のパラメータを取得するステップと、
取得した解剖学的標準化のパラメータを用いて、動態画像の一部もしくは全部の解剖学的標準化を行うステップと、
解剖学的標準化された動態画像を用いて、脳内放射能分布を評価するステップと、
を備え、
前記脳内放射能分布を評価するステップでは、前記脳内トレーサーとして脳血流トレーサーを用いた場合は、前記脳内放射能分布から脳内の血流量を評価し、
前記脳内トレーサーとして脳代謝トレーサーを用いた場合は、前記脳内放射能分布から脳内の代謝量を評価する脳画像解析方法。
【請求項3】
脳内トレーサーの投与直後から経時的に撮像した複数の動態画像を収集するステップと、
各時相の動態画像の一部あるいはすべてを加算することにより解剖学的標準化を行うために必要な脳の形態に関する情報量を増やすステップと、
加算した動態画像を解剖学的標準化し、解剖学的標準化のパラメータを取得するステップと、
取得した解剖学的標準化のパラメータを用いて、動態画像の一部もしくは全部の画像の解剖学的標準化を行うステップと、
前記解剖学的標準化された動態画像から脳表画像を生成するステップと、
前記脳表画像を用いて脳内放射能分布を評価するステップと、
を備える脳画像解析方法。
【請求項4】
前記脳内放射能分布を評価するステップにおいて、解剖学的標準化のパラメータを用いて、予め記憶された標準脳上の関心領域テンプレートを逆変換し、逆変換された関心領域テンプレートを解剖学的標準化される前の動態画像に重ね合わせて表示する請求項1乃至3のいずれか一項に記載の脳画像解析方法。
【請求項5】
前記脳内放射能分布を評価するステップにおいて、解剖学的標準化された動態画像あるいは解剖学的標準化された静態画像に、予め記憶された標準脳上の関心領域テンプレートを重ね合わせて表示する請求項1乃至3のいずれか一項に記載の脳画像解析方法。
【請求項6】
脳内トレーサーの投与直後から経時的に撮像した複数の動態画像および脳内トレーサーが脳内で平衡状態にあるときに撮像した一又は複数の静態画像を収集する画像入力部と、
静態画像を解剖学的標準化し、解剖学的標準化のパラメータを取得する標準化パラメータ計算部と、
取得した解剖学的標準化のパラメータを用いて、動態画像の一部もしくは全部の解剖学的標準化を行う解剖学的標準化部と、
解剖学的標準化された動態画像を用いて、脳内放射能分布を評価する脳内放射能分布評価部と、
を備える脳画像解析装置。
【請求項7】
脳内トレーサーの投与直後から経時的に撮像した複数の動態画像を入力する画像入力部と、
各時相の動態画像の一部あるいはすべてを加算することにより、解剖学的標準化を行うために必要な脳の形態に関する情報量を増やす脳情報量増加部と、
加算した動態画像を解剖学的標準化し、解剖学的標準化のパラメータを取得する標準化パラメータ計算部と、
取得した解剖学的標準化のパラメータを用いて、動態画像の一部もしくは全部の解剖学的標準化を行う解剖学的標準化部と、
解剖学的標準化された動態画像を用いて脳内放射能分布を評価する脳内放射能分布評価部と、
を備え、
前記脳内放射能分布評価部は、前記脳内トレーサーとして脳血流トレーサーを用いた場合は、前記脳内放射能分布から脳内の血流量を評価し、
前記脳内トレーサーとして脳代謝トレーサーを用いた場合は、前記脳内放射能分布から脳内の代謝量を評価する脳画像解析装置。
【請求項8】
脳内トレーサーの投与直後から経時的に撮像した複数の動態画像を入力する画像入力部と、
各時相の動態画像の一部あるいはすべてを加算することにより、解剖学的標準化を行うために必要な脳の形態に関する情報量を増やす脳情報量増加部と、
加算した動態画像を解剖学的標準化し、解剖学的標準化のパラメータを取得する標準化パラメータ計算部と、
取得した解剖学的標準化パラメータを用いて、動態画像の一部もしくは全部の解剖学的標準化を行う解剖学的標準化部と、
前記解剖学的標準化された動態画像から脳表画像を生成する脳表画像生成部と、
前記脳表画像を用いて脳内放射能分布を評価する脳内放射能分布評価部と、
を備える脳画像解析装置。
【請求項9】
脳内放射能分布を評価するためのプログラムであって、コンピュータに、
脳内トレーサーの投与直後から経時的に撮像した複数の動態画像および脳内トレーサーが脳内で平衡状態にあるときに撮像した一又は複数の静態画像を収集するステップと、
静態画像を解剖学的標準化し、解剖学的標準化のパラメータを取得するステップと、
取得した解剖学的標準化パラメータを用いて、動態画像の一部もしくは全部の解剖学的標準化を行うステップと、
解剖学的標準化された動態画像を用いて、脳内放射能分布を評価するステップと、
を実行させるプログラム。
【請求項10】
脳内放射能分布を評価するためのプログラムであって、コンピュータに、
脳内トレーサーの投与直後から経時的に撮像した複数の動態画像を収集するステップと、
各時相の動態画像の一部あるいはすべてを加算することにより、解剖学的標準化を行うために必要な脳の形態に関する情報量を増やすステップと、
加算した動態画像を解剖学的標準化し、解剖学的標準化パラメータを取得するステップと、
取得した解剖学的標準化パラメータを用いて、動態画像の一部もしくは全部の解剖学的標準化を行うステップと、
解剖学的標準化された動態画像を用いて脳内放射能分布を評価するステップと、
を実行させ、
前記脳内放射能分布を評価するステップは、前記脳内トレーサーとして脳血流トレーサーを用いた場合は、前記脳内放射能分布から脳内の血流量を評価させ、
前記脳内トレーサーとして脳代謝トレーサーを用いた場合は、前記脳内放射能分布から脳内の代謝量を評価させるプログラム。
【請求項11】
脳内放射能分布を評価するためのプログラムであって、コンピュータに、
脳内トレーサーの投与直後から経時的に撮像した複数の動態画像を収集するステップと、
各時相の動態画像の一部あるいはすべてを加算することにより、解剖学的標準化を行うために必要な脳の形態に関する情報量を増やすステップと、
加算した動態画像を解剖学的標準化し、解剖学的標準化のパラメータを取得するステップと、
得られた解剖学的標準化パラメータを用いて、動態画像の一部もしくは全部の解剖学的標準化を行うステップと、
前記解剖学的標準化された動態画像から脳表画像を生成するステップと、
前記脳表画像を用いて脳内放射能分布を評価するステップと、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
脳内トレーサーを投与して撮影した核医学画像の解析処理に関する。
【背景技術】
【0002】
脳内トレーサーを投与した患者を連続的に撮影した核医学画像において、経時的な脳内トレーサー分布の変動を観察することにより、脳の診断を行う方法が知られている(特許文献1)。脳内トレーサーとしては、血管から他の組織へ移行しない非拡散トレーサーや、血流により脳組織に運ばれ再び血流によって脳組織から洗い出される拡散型トレーサーや、血流分布に応じて脳組織内に摂取されたり、脳内の特定の部位に特異的に結合されたりすることにより長時間脳内に保持される蓄積型トレーサー等が開発されている。
【0003】
頭蓋内・頭頸部動脈の狭窄部位・程度を評価する標準的な手法は血管造影検査である。脳実質への血流供給状態を評価するために脳血流トレーサーを使った脳血流SPECT検査が広く用いられている。脳循環予備能を調べるために、安静時と血管拡張剤(アセタゾラミド)負荷下でそれぞれの脳血流SPECT検査を施行し、安静時に対する負荷時の脳血流量の増加率を計算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2014/034724
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の発明者らの研究によれば、脳血流トレーサーの投与直後からの脳内放射能分布の経時的な変化を脳の左右半球や健常部と疾患部で比較・評価することができれば、アセタゾラミド薬剤負荷を行わずに血行力学的脳虚血の重症度評価を行うことが期待できる。
【0006】
しかしながら、脳内トレーサーの投与早期の動的画像は、トレーサーの脳内への移行量が少ないことから信号強度が弱く、脳の形態に関する情報が不足するため、左右半球や健常部と疾患部での脳内トレーサーの集積を評価するためにはCTやMRIによる形態画像の情報が必要であった。
【0007】
そこで、解剖学的な情報が不十分な時相における脳核医学画像に対して解剖学的な情報を補完して定位脳座標上で動態画像の解析を適切に行うことができるようにした脳画像解析方法、脳画像解析装置およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の脳画像解析方法は、脳内トレーサーの投与直後から経時的に撮像した複数の動態画像および脳内トレーサーが脳内で平衡状態にあるときに撮像した一又は複数の静態画像を収集するステップと、静態画像を解剖学的標準化し、解剖学的標準化のパラメータを取得するステップと、取得した解剖学的標準化のパラメータを用いて、動態画像の一部もしくは全部の時相の画像の解剖学的標準化を行うステップと、解剖学的標準化された動態画像を用いて、脳内放射能分布を評価するステップとを備える。
【0009】
脳血流トレーサーや脳代謝トレーサーが平衡状態にあるときに撮像された静態画像は十分な脳形態の情報を有するので、これらの蓄積型トレーサーを用いて撮像した静態画像は精度の高い解剖学的標準化を行う事が出来る。したがって、静態画像の解剖学的標準化のパラメータを用いれば、静態画像と同様の精度で動態画像の解剖学的標準化を行う事ができ、解剖学的に標準化された定位脳座標を使用して動態画像における脳内放射能分布を適切に評価できる。解剖学的に標準化された定位脳座標を使用することで、脳の解剖学的な位置情報の確認が容易になり、さらに他の被験者の脳核医学画像や複数の被験者から作成された平均画像と標準偏差画像(例えば正常平均画像と標準偏差画像)や、異なる時期や異なる状態(例えば安静時と薬物負荷時等)で収集した同一被験者の脳核医学画像と画素単位での比較も可能となる。
【0010】
本発明の脳画像解析方法は、脳内トレーサーの投与直後から経時的に撮像した複数の動態画像を収集するステップと、各時相の動態画像の一部あるいはすべてを加算することにより解剖学的標準化を行うために必要な脳の形態に関する情報量を増やすステップと、加算した動態画像を解剖学的標準化し、解剖学的標準化のパラメータを取得するステップと、取得した解剖学的標準化のパラメータを用いて動態画像の一部もしくは全部の時相の画像の解剖学的標準化を行うステップと、解剖学的標準化された動態画像を用いて脳内放射能分布を評価するステップとを備える。ここで、脳内トレーサーとして脳血流トレーサーを用いた場合は、脳内放射能分布から脳内の血流量を評価し、脳内トレーサーとして脳代謝トレーサーを用いた場合は、脳内放射能分布から脳内の代謝量を評価する。
【0011】
従来、脳血流や、糖代謝や酸素代謝などの動態画像を評価する脳画像解析において、加算した動態画像を解剖学的標準化し、このときの解剖学的標準化パラメータを用いて各時相の動態画像を解剖学的標準化するという構成は知られていなかった。本発明によれば加算した各時相の動態画像に基づいて解剖学的標準化のパラメータを得て、このパラメータを用いて各時相の動態画像の解剖学的標準化を行うことにより、平衡時の画像が得られない場合でも動態画像の解剖学的標準化と定位脳座標を用いた画像解析が可能になる。
【0012】
本発明の脳画像解析方法は、脳内トレーサーの投与直後から経時的に撮像した複数の動態画像を収集するステップと、各時相の動態画像の一部あるいはすべてを加算することにより解剖学的標準化を行うために必要な脳の形態に関する情報量を増やすステップと、加算した動態画像を解剖学的標準化し、解剖学的標準化のパラメータを取得するステップと、取得した解剖学的標準化のパラメータを用いて動態画像の一部もしくは全部の時相の画像の解剖学的標準化を行うステップと、前記解剖学的標準化された動態画像から脳表画像を生成するステップと、前記脳表画像を用いて脳内放射能分布を評価するステップと備える。
【0013】
従来、脳表画像を用いて脳内放射能分布を評価する脳画像解析において、各時相の動態画像を加算することにより解剖学的標準化を行うために必要な脳の形態に関する情報量を増やし、この加算した動態画像を解剖学的標準化し、解剖学的標準化のパラメータを取得し、取得した解剖学的標準化のパラメータを用いて動態画像の一部もしくは全部の時相の画像の解剖学的標準化するという構成は知られていなかった。本発明によれば平衡時の画像が得られない場合でも動態画像の解剖学的標準化と定位脳座標を用いた画像解析が可能になる。また、例えば、受容体トレーサーなど平衡時の脳形態情報が少ないトレーサーを用いた場合も、脳内トレーサーが特定の部位に結合する前の動態画像に基づいて解剖学的標準化のパラメータを取得し、平衡時脳画像の解剖学的標準化と定位脳座標を用いた画像解析が可能になる。
【0014】
本発明の脳画像解析方法は、前記脳内放射能分布を評価するステップにおいて、解剖学的標準化のパラメータを用いて、予め記憶された標準脳上の関心領域テンプレートを逆変換し、逆変換された関心領域テンプレートを解剖学的標準化前の動態画像に重ね合わせて表示してもよい。このように逆変換された関心領域テンプレートを解剖学的標準化前の動態画像に重ねることで、動態画像における脳の部位を容易に把握できる。
【0015】
また、本発明の脳画像解析方法は、解剖学的標準化された動態画像あるいは解剖学的標準化された静態画像に、予め記憶された標準脳上の関心領域テンプレートを重ね合わせて表示してもよい。関心領域テンプレートを重ね合わせて表示することで関心領域内の放射能カウントの集積の程度を数値評価できる。
【0016】
本発明の脳画像解析装置は、脳内トレーサーの投与直後から経時的に撮像した複数の動態画像および脳内トレーサーが脳内で平衡状態にあるときに撮像した一又は複数の静態画像を収集する画像入力部と、静態画像を解剖学的標準化し、解剖学的標準化パラメータを取得する標準化パラメータ計算部と、取得した解剖学的標準化パラメータを用いて、動態画像の一部もしくは全部の時相の画像の解剖学的標準化を行う解剖学的標準化部と、解剖学的標準化された動態画像を用いて、脳内放射能分布を評価する脳内放射能分布評価部と備える。
【0017】
本発明の脳画像解析装置は、脳内トレーサーの投与直後から経時的に撮像した複数の動態画像を入力する画像入力部と、各時相の動態画像の一部あるいはすべてを加算することにより解剖学的標準化を行うために必要な脳の形状に関する情報量を増やす脳情報量増加部と、加算した動態画像を解剖学的標準化し、解剖学的標準化のパラメータを取得する標準化パラメータ計算部と、取得した解剖学的標準化のパラメータを用いて、動態画像の一部もしくは全部の時相の画像の解剖学的標準化を行う解剖学的標準化部と、解剖学的標準化された動態画像を用いて脳内放射能分布を評価する脳内放射能分布評価部と備える。ここで、脳内放射能分布評価部は、脳内トレーサーとして脳血流トレーサーを用いた場合には、脳内放射能分布から脳内の血流量を評価し、脳内トレーサーとして脳代謝トレーサーを用いた場合は、脳内放射能分布から脳内の代謝量を評価する。
【0018】
本発明の脳画像解析装置は、脳内トレーサーの投与直後から経時的に撮像した複数の動態画像を入力する画像入力部と、各時相の動態画像の一部あるいはすべてを加算することにより解剖学的標準化を行うために必要な脳の形状に関する情報量を増やす脳情報量増加部と、加算した動態画像を解剖学的標準化し、解剖学的標準化のパラメータを取得する標準化パラメータ計算部と、取得した解剖学的標準化パラメータを用いて、動態画像の一部もしくは全部の時相の画像の解剖学的標準化を行う解剖学的標準化部と、前記解剖学的標準化された動態画像から脳表画像を生成する脳表画像生成部と、前記脳表画像を用いて脳内放射能分布を評価する脳内放射能分布評価部とを備える。
【0019】
本発明のプログラムは、脳内放射能分布を評価するためのプログラムであって、コンピュータに脳内トレーサーの投与直後から経時的に撮像した複数の動態画像および脳内トレーサーが脳内で平衡状態にあるときに撮像した一又は複数の静態画像を収集するステップと、静態画像を解剖学的標準化し、解剖学的標準化のパラメータを取得するステップと、取得した解剖学的標準化のパラメータを用いて、動態画像の一部もしくは全部の時相の画像の解剖学的標準化を行うステップと、解剖学的標準化された動態画像を用いて、脳内放射能分布を評価するステップとを実行させる。
【0020】
本発明のプログラムは、脳内放射能分布を評価するためのプログラムであって、コンピュータに、脳内トレーサーの投与直後から経時的に撮像した複数の動態画像を収集するステップと、各時相の動態画像の一部あるいはすべてを加算することにより解剖学的標準化を行うために必要な脳の形状に関する情報量を増やすステップと、加算した動態画像を解剖学的標準化し、解剖学的標準化のパラメータを取得するステップと、取得した解剖学的標準化パラメータを用いて、動態画像の一部もしくは全部の時相の画像の解剖学的標準化を行うステップと、解剖学的標準化された動態画像を用いて脳内放射能分布を評価するステップとを実行させる。ここで、脳内トレーサーとして脳血流トレーサーを用いた場合には、脳内放射能分布から脳内の血流量を評価し、脳内トレーサーとして脳代謝トレーサーを用いた場合は、脳内放射能分布から脳内の代謝量を評価する。
【0021】
本発明のプログラムは、脳内放射能分布を評価するためのプログラムであって、コンピュータに、脳内トレーサーの投与直後から経時的に撮像した複数の動態画像を収集するステップと、各時相の動態画像の一部あるいはすべてを加算することにより解剖学的標準化を行うために必要な脳の形状に関する情報量を増やすステップと、加算した動態画像を解剖学的標準化し、解剖学的標準化のパラメータを取得するステップと、取得した解剖学的標準化パラメータを用いて、動態画像の一部もしくは全部の時相の画像の解剖学的標準化を行うステップと、前記解剖学的標準化された動態画像から脳表画像を生成するステップと、前記脳表画像を用いて脳内放射能分布を評価するステップとを実行させる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、解剖学的標準化を行うための精度の高い情報を得ることができるので、このようにして得られた解剖学的標準化パラメータを用いて動態画像の解剖学的標準化を行うことにより、動態画像における脳内放射能分布を定位脳座標上で適切に評価できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】第1の実施の形態の脳画像解析装置の構成を示す図である。
【
図2】複数の脳SPECT画像に含まれる動態画像と静態画像の例を示す図である。
【
図3】第1の実施の形態の脳画像解析装置の動作を示す図である。
【
図4】脳画像解析装置のハードウェア構成を示す図である。
【
図5】第2の実施の形態の脳画像解析装置の構成を示す図である。
【
図6】1つの症例について、原画像と標準化後画像を平衡時画像と併せて示した図である。
【
図7】脳表画像に設定されたVOIを示す図である。
【
図8】(a)ACA、MCA、ICAの各領域についての動態早期と動態後期における健側患側比を示す図である。(b)ICAp、ICAc、MCAp、MCAcの各領域についての動態早期と動態後期における健側患側比を示す図である。
【
図9】(a)側副血行の有無に関する識別能についての動態早期MCAc健側患側比のROC分析を施行した結果を示す図である。(b)側副血行の有無評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態の脳画像解析装置および脳画像解析方法について説明する。
以下の実施の形態では、
123I-IMPや
99mTc-HMPAOや
99mTc-ECDなどの脳血流トレーサーを用いた場合に脳血流の循環測定を行い、
18F-FDGなどの脳代謝トレーサーを用いた場合に脳代謝の評価を行う例を挙げるが、本発明は、
123I-イオフルパンなどを用いたドパミントランスポーターの測定や、
18F-フルテメタモルなどを用いたアミロイド沈着評価等のように、脳血流の循環測定や脳代謝評価以外の機能測定にも適用することができる。
【0025】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態の脳画像解析装置1の構成を示すブロック図である。脳画像解析装置1は、核医学画像を入力する核医学画像入力部10と、患者情報を入力する患者情報入力部11と、核医学画像の解析を行う制御部20と、標準脳データを記憶した標準脳データ記憶部12と、解析結果を出力する出力部13とを有している。
【0026】
核医学画像入力部10は、脳内トレーサーを投与した直後から経時的に撮像して収集された複数の核医学画像および脳内トレーサーが脳内で平衡状態にあるときに撮像した一以上の核医学画像の入力を受け付ける機能を有している。脳画像解析装置1に核医学画像撮像装置が接続されている構成の場合には、核医学画像入力部10は、核医学画像撮像装置にて撮像された核医学画像を順次取り込んでもよい。
【0027】
図2は、核医学画像入力部10にて取り込んだ複数の核医学画像に含まれる動態画像と静態画像の例を示す図である。
図2においては、横軸は、脳内トレーサーとして
123I-IMPを患者に静注(投与)してからの経過時間を示している。核医学画像入力部10には、脳内トレーサーの投与直後から8分後までに撮像された脳血流SPECT画像と、脳内トレーサーが平衡状態にある15分後から40分後までに撮像された脳血流SPECT画像が入力される。
【0028】
この例では、脳内トレーサーの投与直後から8分後までに撮像された脳血流SPECT画像が動態画像、15分後から40分後までに撮像された脳血流SPECT画像が静態画像である。また、この例では、投与直後から4分後までの脳血流SPECT画像を動態早期画像、4分後から8分後までの脳血流SPECT画像を動態後期画像とする。なお、動態画像か静態画像かの区別は、脳内トレーサーが平衡状態にあるか、平衡状態に至る過程にあるかによるものであり、脳内トレーサーの投与からの経過時間によって区別されるものではない。
図2で示した経過時間はあくまでも例示である。
【0029】
患者情報入力部11は、核医学画像に係る患者の疾患に関する情報の入力を受け付ける機能を有する。患者の疾患に関する情報としては、脳内の疾患部位についての情報で、例えば、脳の右側半球と左側半球のいずれに疾患を有するかを表す情報も含まれる。この情報により、脳内の疾患部位がどこにあるか、例えば右側半球と左側半球のいずれが健側(健康な側)でいずれが患側(疾患のある側)か等を把握できる。
【0030】
制御部20は、標準化パラメータ計算部21と、解剖学的標準化部22と、脳内放射能分布評価部23とを有している。標準化パラメータ計算部21は、核医学画像に映る患者の脳画像を解剖学的標準化する解剖学的標準化パラメータを計算する機能を有する。
【0031】
標準化パラメータ計算部21の構成について詳細に説明する。標準化パラメータ計算部21は、入力されたある時相の静態画像を読み出すとともに、標準脳データ記憶部12から解剖学的標準化のテンプレートを読み出す。そして、脳画像解析装置1は、読み出した静態画像の解剖学的標準化を行い、動態画像を解剖学的標準化するための解剖学的標準化パラメータを取得する。ここで、標準化パラメータ計算部21は、1つの時相の静態画像に基づいて解剖学的標準化を行ってもよいが、入力された複数の静態画像を読み出し、これを加算して生成された静態画像の解剖学的標準化を行い動態画像を解剖学的標準化するための解剖学的標準化パラメータを取得してもよい。本実施の形態では、十分な脳集積を有する静態画像を用いることにより、精度の高い解剖学的標準化パラメータが得られる。
【0032】
解剖学的標準化部22は、標準化パラメータ計算部21にて求めた解剖学的標準化パラメータを用いて、動態画像の解剖学的標準化を行う機能を有する。なお、静態画像については、標準化パラメータ計算部21で解剖学的標準化パラメータを求める際に、標準化を行っているので、改めて解剖学的標準化を行う必要はない。
【0033】
脳内放射能分布評価部23は、解剖学的標準化された静態画像および動態画像における脳内放射能分布を評価する機能を有する。脳内放射能分布評価部23は、脳内放射能分布の評価を行うための構成として、脳表画像生成部24と、VOI設定部25と、健側患側比計算部26とを有している。脳表画像生成部24は、解剖学的標準化された動態画像から動態時の脳表画像を生成する機能を有している。また、脳表画像生成部24は、解剖学的標準化された静態画像から平衡時の脳表画像をも生成する機能を有している。
【0034】
VOI設定部25は、解剖学的標準化が行われた静態画像および動態画像、あるいは、これらから生成された各々の脳表画像に対し、放射能カウントの集積比を計算する対象となる領域を設定する機能を有する。例えば、脳血流トレーサーを用いた場合に脳血流の循環測定を行う場合には、脳血管支配領域の中枢側および末梢側にVOI(Volume of Interest)を設定する。具体的には、ACA(前大脳動脈支配領域)、MCA(中大脳動脈支配領域)、PCA(後大脳動脈支配領域)、ICA(内頸動脈支配領域)、MCAc(中大脳動脈支配領域中心部)、MCAp(中大脳動脈支配領域辺縁部)、ICAc(内頸動脈支配領域中心部)、ICAp(内頸動脈支配領域辺縁部)である。
【0035】
健側患側比計算部26は、それぞれのVOI毎に、(患側の集積値/健側の集積値)を計算する。脳内の疾患部位についての情報、例えば、右側半球と左側半球のいずれが健側でいずれが患側かは、患者情報入力部11から入力された患者情報に基づいて判断する。健側患側比の計算の際には、動態早期、動態後期のそれぞれの時間帯において、解剖学的標準化画像(断層画像)、及びこれから生成した脳表画像に基づいて集積比を求める。また、本実施の形態では、健側患側比計算部26は、解剖学的標準化を行った静態画像(断層画像)、及びこれから生成した脳表画像についても、(患側の集積値/健側の集積値)を計算する。そして、(動態画像の健側患側比/静態画像の健側患側比)=(動態画像の患側の集積値/動態画像の健側の集積値)/(静態画像の患側の集積値/静態画像の健側の集積値)を計算する。このように、解剖学的標準化を行った動態画像の健側患側比を、解剖学的標準化を行った静態画像の健側患側比で割ること、あるいは、解剖学的標準化を行った動態画像から生成した脳表画像の健側患側比を、解剖学的標準化を行った静態画像から生成した脳表画像の健側患側比で割ることにより、次のような効果が得られる。
【0036】
脳表集積値は、薬剤の投与量(投与時間による減衰差)や、患者の体格によって一定せず、また、患側大脳半球に集積低下が存在する場合には健側大脳半球との集積差を生じるために、集積値から時相変化の相違の比較が困難となる。本実施の形態によれば、動態画像の健側患側比を静態画像の健側患側比で割ることにより、脳内集積の時相変化に限定して評価できるようになる。
【0037】
出力部13は、健側患側比計算部26での計算結果を出力する機能を有する。出力部13は、例えば、ディスプレイに計算結果を出力する。
【0038】
図3は、本実施の形態の脳画像解析装置1の動作を示すフローチャートである。脳画像解析装置1は、まず、脳内トレーサーの投与直後から経時的に撮像された患者の核医学画像と、脳内トレーサーが平衡状態となったときの患者の核医学画像を入力する(S10)。また、脳画像解析装置1は、患者の情報を入力する(S11)。ここで入力される患者の情報は、脳内の疾患部位についての情報で、例えば、脳の右側半球と左側半球のいずれに疾患を有するかの情報を含む。
【0039】
次に、脳画像解析装置1は、静態画像の解剖学的標準化を行い、動態画像の解剖学的標準化を行うために必要な解剖学的標準化パラメータを取得する(S12)。続いて、脳画像解析装置1は、取得した解剖学的標準化パラメータを用いて、動態画像の解剖学的標準化を行い(S13)、解剖学的標準化された患者の断層画像から、脳表画像を生成する(S14)。ここで、脳画像解析装置1は、脳表画像として、動態早期の脳表画像、動態後期の脳表画像、および平衡時の脳表画像を生成する。
【0040】
次に、脳画像解析装置1は、解剖学的標準化を行った静態画像及び動態画像、または、これから生成した脳表画像にVOIを設定し(S15)、VOI毎に、動態早期、動態後期、平衡時のそれぞれにおける(患側の集積値/健側の集積値)を計算する(S16)。この際に、上述したとおり、健側患側比計算部26は、静態画像についても、(患側の集積値/健側の集積値)を計算し、(動態画像の健側患側比/静態画像の健側患側比)を計算する。脳画像解析装置1は、計算結果である健側患側集積比のデータを出力する(S17)。
【0041】
図4は、
図1に示す脳画像解析装置1を実現するハードウェア構成を示す図である。脳画像解析装置1のハードウェアは、CPU30、RAM31、ROM32、ディスプレイ33、キーボード/マウス34、ハードディスク35、通信部36を備えている。ROM32には、脳画像解析プログラム37が保存されている。ROM32に保存された脳画像解析プログラム37を読み出して、CPU30が実行することにより、上述した脳画像解析装置1および脳画像解析方法が実現される。このような脳画像解析プログラム37も本発明の範囲に含まれる。
【0042】
以上、本発明の第1の実施の形態の脳画像解析装置1および脳画像解析方法について説明した。第1の実施の形態の脳画像解析装置1および脳画像解析方法は、脳内トレーサーが十分な脳集積を有する時相画像である平衡時の脳血流画像(静態画像)を解剖学的標準化し、この時の解剖学的標準化パラメータを用いることにより、精度よく動態画像の解剖学的標準化を行う事ができ、動態画像における脳内放射能分布を定位脳座標上で評価できる。
【0043】
また、本実施の形態の脳画像解析装置1および脳画像解析方法は、脳内トレーサーとして脳血流トレーサーを用いた場合、動態画像において脳の健側と患側の集積値や経時的な分布の変化を比較することにより、薬剤負荷を行わなくても、核医学画像のみで血行力学的脳虚血の重症度評価を行うことが期待できる。この際に、上述した方法により、精度の高い解剖学的標準化を行うことで、血行力学的脳虚血の重症度評価を適切に行うことができる。
【0044】
(第2の実施の形態)
図5は、第2の実施の形態の脳画像解析装置2の構成を示す図である。第2の実施の形態の脳画像解析装置2の基本的な構成は、第1の実施の形態と同じであるが、第2の実施の形態の脳画像解析装置2は、脳情報量増加部27を有している。脳情報量増加部27は、核医学画像入力部10から入力された複数の動態画像の一部あるいはすべてを加算することにより解剖学的標準化を行うために必要な脳の形態に関する情報量を増やす機能を有する。第2の実施の形態の脳画像解析装置2においては、標準化パラメータ計算部21は、脳情報量増加部27にて情報量を増加した動態画像に基づいて、解剖学的標準化のパラメータを計算する。
【0045】
第2の実施の形態の脳画像解析装置2は、核医学画像入力部10より入力された複数の動態画像をすべて加算した画像を生成する。そして、脳画像解析装置2は、加算して生成された動態画像の解剖学的標準化を行い、この時の解剖学的標準化のパラメータを加算前の動態画像を解剖学的標準化するための解剖学的標準化パラメータとする。脳血流画像においては、脳内トレーサー投与早期の動態画像は、十分な脳集積を有する時相画像ではないが、複数の動態画像を加算することにより信号強度を高めることができ、精度の高い解剖学的標準化を行うために必要な脳の形態情報を持った画像となる。なお、本実施の形態では、解剖学的標準化パラメータを求める際に、入力された動態画像をすべて加算したが、入力された複数の動態画像のうちの一部を加算することとしてもよい。
【0046】
以上、本発明の実施の形態の脳画像解析装置及び脳画像解析方法について説明したが、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではない。上記した実施の形態では、解剖学的標準化パラメータを求めるために、動態画像または静態画像のいずれかを用いる例を挙げたが、本発明は動態画像と静態画像の両方を用いて、解剖学的標準化パラメータを求めることとしてもよい。
【0047】
また、上記した実施の形態では、脳の左右半球の集積比や健常側と患側の比を求めて動態解析を行う例を挙げたが、本発明は左右半球の集積比や健常側と患側の比に限らず、様々な動態解析に適用することができる。
【0048】
上記実施の形態では、撮像した動態画像を解剖学的標準化する例を挙げたが、解剖学的標準化パラメータを用いて、標準脳上のROIテンプレートを逆変換して、逆変換されたROIテンプレートを解剖学的標準化前の動態画像や静態画像に重ね合わせて表示してもよい。また、解剖学的標準化を行った動態画像あるいは静態画像にROIテンプレート(VOIテンプレート)を重ね合わせて表示してもよい。ROIテンプレート(VOIテンプレート)を重ね合わせて表示することでROI(VOI)内の放射能カウントの集積の程度を数値評価できる。
【実施例】
【0049】
次に、本発明の脳画像解析方法によって脳の動態解析を行った実施例について説明する。ここで説明する実施例は、本発明の脳画像解析方法によって、血管造影による側副血行の発達状態と動態時脳血流SPECT画像と平衡時脳血流SPECT画像との関連を検討したものである。
【0050】
(症例)
対象は、片側性慢性脳動脈閉塞性疾患19例(男性13例、女性6例)、年齢71.0±8.2歳(平均±標準偏差)である。
123I-IMP SPECT検査を施行した血管造影検査の結果から、側副血行発達の有無によって2群に分類した。
【0051】
(データ収集)
対象19例に対して生食20mlを使って
123I-IMP 222MBqをボーラス静注し、静注開始直後から8分間の連続動態SPECT収集を行い、続いて、15分後より25分間の平衡時SPECT収集を行った。収集は、静注直後からの連続SPECT収集では、サンプリング角度は4度、1方向2秒、1分間収集とし、マトリックスサイズは64×64(ピクセルサイズは3.44×3.44mm)としてcontinuousモードで8回のSPECT収集を行った。このように連続回転収集により動態画像を収集することにより、モーションアーチファクトを低減できる。静注15分後からのSPECT収集は、サンプリング角度は4度、1方向50秒で25分間のstep and shootモードのデータ収集を行った。 いずれの収集でも回転半径132mm径、159keV±10%のエネルギーウィンドウ、拡大率1.0倍で収集した。使用装置は、東芝メディカルシステムズ社製3検出器型ガンマカメラGCA9300Rである。
【0052】
(画像再構成)
画像再構成は、フィルター・バックプロジェクション法を用い、前処理フィルターはランプフィルター、後処理フィルターはバターワース・フィルター(次数10、カットオフ0.35あるいは0.80)として断層画像を再構成し、吸収・散乱補正を行っていない。
【0053】
静注直後から8分間収集したデータのうち、脳内血流プールが残存の影響を排除するために静注1分後から8分後までの7分間のデータを動態SPECTデータとして画像再構成を実施した。
【0054】
(画像解析−脳血流SPECT画像データの解剖学的標準化)
脳血流SPECTデータに対して再現性、客観性を維持して症例間の集積を比較するためにNEUROSTAT/3D-SSPを用いて解剖学的標準化、脳表画像抽出(脳表表示)を施行した。ここで、動態脳血流SPECT画像は十分な脳集積を有する時相画像ではないため脳形状抽出が困難となることから、先に平衡時脳血流SPECT画像に対して解剖学的標準化を実施して、動態脳血流SPECT画像の解剖学的標準化を行うための解剖学的標準化パラメータを得た。
【0055】
次に、ここで得られた解剖学的標準化パラメータによって、解剖学的標準化を実施して7組の解剖学的標準化された動態脳血流SPECT画像を作成した。次に
123I-IMP静脈注射1〜4分後までの3分間データ合成と、4〜8分後までの4分間データ合成をして、動態早期脳血流SPECT像、動態後期脳血流SPECT像とした。19症例全例で動態画像の解剖学的標準化に成功した。
123I-IMP静脈注射15分後から25分間収集した画像を平衡時画像とした。さらに、解剖学的標準化された脳血流SPECT画像から脳表画像を生成した。
【0056】
図6は、19症例のうちの1例について、原画像と標準化後画像を平衡時画像と併せて示した図である。平衡時の原画像を解剖学的標準化する際の変換式を求め、これにより標準化パラメータを決定した。同じ変換式を用いて、動態時(1分〜8分)の原画像を解剖学的標準化した。解剖学的標準化された平衡時画像および動態時画像から脳表画像を生成した。
【0057】
(画像解析−血管支配領域の関心領域(Voxel of Interest:VOI)の作成
解剖学的標準化された脳表画像に対し、SEE-JETに用いられている血管支配領域と新たなVOI作成を行った。新たなVOIはICA支配領域となる前大脳動脈(ACA)と中大脳動脈(MCA)のVOIを合わせたVOIの辺縁部のみと中心部のみの2つのVOIを設定してICApとICAcとした。また、MCA支配領域のVOIの辺縁部のみと中心部のみの2つのVOIを設定し、MCApとMCAcとした(
図7)。
図7に記載した表に、それぞれのVOIの大きさ(ボクセル数)を併記している。
【0058】
(画像解析−動態脳血流SPECT画像における集積値の標準化と健側患側集積比)
19症例における動態早期と動態後期の各脳血流SPECT画像の脳表画像に対して、血管支配領域のVOIと新たに作成した血管支配領域の辺縁部、中心部のVOIを置いて、脳表画像上の集積値を測定した。脳内集積の時相変化に限定して着目できるように、脳内集積が定常状態となる平衡時脳血流SPECT画像の健側患側集積比で除すことによって集積値の標準化を行った。すべての症例について、ICA、ICAp、ICAcおよびMCA、MCAp、MCAcの各VOIにおける健側患側比を算出し、側副血行陽性群と陰性群を比較した(Mann-Whitney U-test、有意水準<0.05)。
【0059】
(画像解析−動態早期、動態後期の健側患側比による側副血行の弁別能)
患側血行動態を反映する健側患側比から側副血行の有無について弁別可能となり得るVOI部位とそのカットオフ値についてReceiver Observation Curve(ROC)解析を用いて検討した。
【0060】
(結果−健側患側比)
図8(a)及び
図8(b)は、ACA、MCA、ICAならびにICAp、ICAc、MCAp、MCAcの各領域についての動態早期と動態後期における健側患側比を示す図である。
図8(a)に示すとおり、主幹脳動脈領域では、ICA領域において動態早期、動態後期とも側副血行の有無にかかわらず、健側患側比はおよそ1.0となり、健側患側半球の血液流入に差異が見られない。しかし、MCA領域では、側副血行陽性群で、動態早期、動態後期において、健側患側比が1.0未満となり、血液流入が遅延する。一方で、側副血行陰性群で、動態早期、動態後期において、健側患側比は1.0を超えて、血液流入が亢進する。ACA領域では、側副血行陽性群で、健側患側比が、動態早期では、およそ1.0であるが、動態後期では1.0未満となり、血液流入が遅延する傾向にある。一方で、側副血行陰性群で、健側患側比はおよそ1.0となり、健側患側半球に血液流入に差異が見られない。
【0061】
次に、血管支配領域を中心部と末梢側に分けて動態を観察すると、
図8(b)に示すように、ICAp、MCApの末梢辺縁領域では側副血行の有無によらずに早期、後期ともに健側患側比はおよそ1.0となる。これに対して、ICAc、MCAcなどの中心部中枢側では側副血行陽性で健側患側比が1.0よりわずかに小さく、陰性群で1.0より大きい。また、MCAc領域では側副血行陽性群と陰性群に動態早期における健側患側比に統計的な有意差もみられた(陰性群:1.057±0.079、陽性群:0.977±0.49、p=0.028)。
【0062】
(結果−動態早期後期健側患側比による側副血行の識別能)
上記の結果から動態早期のMCAc領域における健側患側比(動態早期MCAc健側患側比)で統計的な有意差が得られたことから、側副血行の有無に関する識別能についての動態早期MCAc健側患側比のROC分析を施行した(
図9(a))。結果、Az値は0.719となり、最適なカットオフ値は動態早期MCAcの健側患側比が0.99であった。このときの側副血行の有無評価結果を
図9(b)に示す。これにより、Fischer検定では0.011と血管造影と脳血流SPECTによる側副血行評価には有意な関連性がみられ、感度69%、特異度100%、正診率は79%を示し、陽性的中率100%、陰性的中率60%となった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
脳内トレーサーを投与して撮影した患者の核医学画像の解析処理する装置等として有用である。
【符号の説明】
【0064】
1、2 脳画像解析装置
10 核医学画像入力部
11 患者情報入力部
12 標準脳データ記憶部
13 出力部
20 制御部
21 標準化パラメータ計算部
22 解剖学的標準化部
23 脳内放射能分布評価部
24 脳表画像生成部
25 VOI設定部
26 健側患側比計算部
27 脳情報量増加部
【要約】 (修正有)
【課題】脳画像解析方法において、解剖学的な情報が不十分な時相における脳画像に対して解剖学的な情報を補完して定位脳座標上で動態画像の解析を適切に行うことができるようにする。
【解決手段】脳画像解析方法は、脳内トレーサーの投与直後から経時的に撮像した複数の動態画像および脳内トレーサーが脳内で平衡状態にあるときに撮像した一又は複数の静態画像を収集するステップ(S10)と、静態画像に基づいて、動態画像を解剖学的標準化するための解剖学的標準化のパラメータを取得するステップ(S12)と、得られた標準化パラメータを用いて、動態画像の一部もしくは全部の解剖学的標準化を行うステップ(S13)と、解剖学的標準化された動態画像を用いて、脳内放射能分布を評価するステップ(S16)とを備える。
【選択図】
図3