(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
リングモールド型ブーツの一例として、ピストンブーツが知られている。このピストンブーツは、ディスクブレーキのキャリパーに用いられるピストンとシリンダーの間に備えられており、塵や水分などがシリンダー内部に浸入しないように外部から遮蔽している。
【0003】
このピストンブーツは、ゴム状弾性体から構成され、大径環状部(第1の環状端部)と、前記大径環状部(第1の環状端部)と同心円で小径に形成された小径環状部(第2の環状端部)と、前記大径環状部(第1の環状端部)と前記小径環状部(第2の環状端部)との間に設けられた伸縮自在の蛇腹部とが一体となっている。
そして、このピストンブーツは、前記大径環状部(第1の環状端部)をシリンダーの開口部に嵌合して装着するとともに、前記小径環状部(第2の環状端部)をピストン外周に形成された外周溝に嵌め込んで装着される。
このピストンブーツにおいては、前記大径環状部(第1の環状端部)のシリンダーの開口部への嵌合を確実にするため等の目的で、金属リング(金属製の環状芯材)が前記大径環状部(第1の環状端部)内に埋設されている。(特許文献1参照。)。
【0004】
従来、このようなピストンブーツをピストンとシリンダーとの間に組み付ける際の作業性について改善の余地があった。
すなわち、前記大径環状部(第1の環状端部)を、シリンダーの開口部に嵌合する際、その内部に埋設された金属リングとこの金属リングの周囲のゴム状弾性体との間にずれが生じてしまうおそれがあった。
これは、ピストンブーツの大径環状部(第1の環状端部)をシリンダーの開口部に嵌合する際に、開口部の内周面と擦れる面がゴム状弾性体であるため、どうしても滑り難いということに起因している。
このような嵌合不全が生じると、シール性が低下するおそれがあるため、従来のピストンブーツにおいては、ピストンブーツの組み付け作業を慎重に行う場合があった。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のリングモールド型ブーツの一実施形態について説明する。なお、本実施形態は、本発明の一実施形態にすぎず、何らこれに限定解釈されるものではなく、本発明の範囲内で任意に設計変更可能である。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係るピストンブーツ1の使用状態を示すディスクブレーキ15の一例を示しており、ディスクブレーキ15を構成するキャリパー16のシリンダー19の開口部20に形成した環状段部21と、ピストン24の外周面25に形成された外周溝26との間に架け渡されるようにして本実施形態のピストンブーツ1が備えられている。なお、図中17は、ピストンシールである。
【0015】
本実施形態では、
図1に示すように、片側のパッド(インナーパッド)18のみをピストン24で押圧するキャリパーの一例を示している。なお、図面のディスクブレーキの構成において、本発明のピストンブーツ1以外の構成は、本発明の範囲内において周知構成が適用可能であるため特に詳細な説明は省略する。
ピストン24は、シリンダー19内に供給される油圧の圧力作用により、図中の矢印Yで示す方向に移動して前記パッド18を前進させる。
図1中で符号6はディスクローターを示す。
【0016】
ピストンブーツ1は、弾力性の良好なゴムや樹脂等のゴム状部材によって形成されたゴム状弾性体2と、ゴム状弾性体2に埋設される金属リング(金属製の環状芯材)7とで構成され、モールド成型により全体として環状に一体的に形成されている(
図2及び
図3参照)。
【0017】
ゴム状弾性体2は、大径環状部(第1の環状端部)3と、大径環状部3と同心円で小径に形成された小径環状部(第2の環状端部)4と、大径環状部3と小径環状部4との間に設けられた伸縮自在の蛇腹部5とが一体となって構成されている(
図2及び
図3参照)。
【0018】
大径環状部3は、断面視略矩形状で、径方向に所定の肉厚を有して形成されており、本実施形態では、その外周面3aには位置合わせのための曲面状の凸条部30が形成されている。この凸条部30は、シリンダー19の環状段部21に形成された曲面状の凹条部22に嵌合される。また、本実施形態では、大径環状部3の端面には、シリンダー19の環状段部21の壁面23に圧接するダストシール3bが設けられている。
なお、本実施形態で備えられている凸条部30やダストシール3bは本発明の必須構成要素ではなく、これらを備えない形態であっても本発明の範囲内である。
凸条部30は、凹条部22とともに複数個設けられていてもよく、また断続的に設けられていてもよい。また、ダストシール3bは、複数個設けられていてもよい。
凸条部30(及び凹条部22)とダストシール3bの形状も限定されず本発明の範囲内で設計変更可能である。
【0019】
小径環状部(第2の環状端部)4は、大径環状部3よりも軸方向で短尺の断面視矩形状に形成され、ピストン24の外周面25に形成された外周溝26に嵌め込んで嵌合される。
【0020】
蛇腹部5は、ピストン24のY軸方向の動きを規制しないものであれば、特に限定されるものではなく、周知一般の構成が本発明の範囲内で適用される。
なお、大径環状部3、小径環状部4、蛇腹部5の形状などは特に限定解釈されるものではなく、ピストンブーツ1として本発明の範囲内で設計変更可能である。
【0021】
金属リング7は、大径環状部3が、シリンダー19の開口部20へ確実に嵌合するため、モールド成形時において大径環状部(第1の環状端部)3内に一体に埋設されている(
図2参照)。
【0022】
金属リング7は、本実施形態では、金属製の線状体(線材)13を圧延加工して断面視矩形状とし、後述する位置ずれ防止部を形成した後、所定長さL1に切断し(
図5(a))、この切断された線状体13をリング状に加工(
図5(b))した後、相対向する端部13a,13aを、例えばスポット溶接等で固着して形成する。なお、
図5においては、後述する位置ずれ防止部は図示していない。
【0023】
本実施形態の金属リング7が、上述のとおり金属製の線状体(線材)13を圧延加工して形成するものとした理由は、次の通りである。
従来の金属リングは、まず金属製の板状体B(
図7(a)の状態)をプレスで絞り加工し(
図7(b)の状態)、その後、不要部分R1,R2を切断(例えば
図7(b)のS1-S1線、S2-S2線で切断)することで製造していた(
図7(a)及び
図7(c)の状態)。
しかし、不要部分R1,R2を切断した際に、その切断箇所(特に角部)には、
図8(b)に示すようにバリS…が発生し易く、このバリS…があることによって次のような問題が生じていた。例えば、金属リングを埋設したピストンブーツをモールド成型する場合、金属リングを図示しない金型キャビティ内の所定位置にセットし、その後、ゴムや樹脂等の溶融材料をキャビティ内に充填、硬化させて成型する。このとき、切断箇所の角部にバリS…があると、金属リングが所定位置にセットできずに位置ずれが生じることがあり、その結果、金属リングが傾いて埋設されたり、あるいは径方向にずれた状態で埋設されたりするおそれがあった。また、そのバリS…によって周囲のゴム状弾性体に亀裂などの損傷を発生させるおそれもあった。
このため、従来は、金属リングの製造後、金属リングの切断箇所にバリSが発生しているか否かを確認しなければならず、また、バリSが生じていた場合は、その除去作業も必要となるため、製造コストの上昇等を招いていたものであった。
【0024】
金属リング7には、ゴム状弾性体2との位置ずれを防止する位置ずれ防止部8が設けられている(
図2参照。)。
【0025】
位置ずれ防止部8は、金属リング7の外周面7bに周方向(環状方向)にわたって連続的に形成された曲面状の凹状部8aと、前記凹状部8aと相対向する内周面7aに周方向(環状方向)にわたって連続的に形成された曲面状の凸状部8bとで構成されている(
図2参照。)。
本実施形態によれば、ゴム状弾性体2とモールド成形により一体成形すれば、金属リング7の凹状部8aにゴム状弾性体2が入り込み、かつ凸状部8bがゴム状弾性体2に食い込むように一体成形されるため、金属リング7とゴム状弾性体2とが一体化し、大径環状部3をシリンダー19の開口部20の環状段部21に嵌合する際の位置ずれを防止している(
図2参照。)。
【0026】
この位置ずれ防止部8は、金属リング7をリング状に加工する以前に、押圧その他の周知の加工方法で形成される。例えば、所定の長さの線状体13に切断する前の長尺状の状態で機械加工により位置ずれ防止部8を形成する。そして、所定の長さの線状体13に切断した後、その線状体13をリング状に加工し、端部13a,13a間を固着して本実施形態の金属リング7が出来上がる。
【0027】
位置ずれ防止部8は、
図2に示すように曲面状の凹状部8aと凸状部8bに形成しているが、凹状部8aと凸状部8bは曲面状に限らず、円錐状・方形状などに形成された凹状部及び凸状部であってもよく任意に設計変更可能である。
また、凹状部8aと凸状部8bは、金属リング7の周方向(環状方向)に連続的に設ける必要はなく、周方向(環状方向)に所定の間隔を設けて間欠的に複数設けてもよい。
また、位置ずれ防止部8は、
図2に示す形態に限定解釈されるものではなく、本発明の範囲内において適宜設計変更可能である。ここで、位置ずれ防止部8の他の実施形態の一例について
図4に基づいて説明する。
図4(a)は第二の実施形態、
図4(b)は第三の実施形態、
図4(c)は第四の実施形態を示す。
【0028】
図4(a)は、金属リングの外周面と内周面にわたって貫通して形成されている孔部8cが、周方向(環状方向)にわたって所定間隔をあけて複数個形成されている実施の一例である。
本実施形態によれば、ゴム状弾性体2とモールド成形により一体成形すれば、金属リング7の複数個の孔部8cにゴム状弾性体2が入り込んだ状態で一体成形されるため、金属リング7とゴム状弾性体2との一体化が強固となり位置ずれ防止を図ることができる。すなわち、孔部8cが位置ずれ防止部8として機能している。
なお、本実施形態では、各孔部8cが同一の矩形状に形成されているものであるが、孔部8c形状はこれに限定されず任意に設計変更可能である。また、孔部8c形状は外周面7b側の開口部と内周面7a側の開口部の大きさを同一としても異にするものとしてもよい。さらに、その配設間隔も任意で、一定間隔であっても異なる間隔であってもよい。また、各孔部8cの大きさを異にするものであってもよい。
また、本実施形態では、周方向(環状方向)で同一線上に孔部を設ける構成が採用されているが、千鳥状に設けるものであってもよく、またランダムに設けるものであってもよく本発明の範囲内で設計変更可能である。
【0029】
図4(b)は、金属リング7が、略中央位置から左右の領域8d,8eを、内周面7a方向に僅かに屈曲させた形態、すなわち断面視で略ハ字形状に形成させた実施の一例である。
本実施形態によれば、ゴム状弾性体2とモールド成形により一体成形すれば、金属リング7の屈曲した左右の領域8d,8eがゴム状弾性体2に食い込んだような状態となって一体成形されるため、金属リング7とゴム状弾性体2との一体化が強固となり位置ずれ防止を図ることができる。すなわち、左右の屈曲した領域8d,8eが位置ずれ防止部8として機能している。
また、金属リング7が、略中央位置から左右の領域8d,8eを、外周面7b方向に僅かに屈曲させた形態、すなわち断面視で上向き略ハ字形状とすることも本発明の範囲内である。なお、左右の領域8d,8eの屈曲程度は特に限定して解釈されるものではなく、断面視で略V字形状等に屈曲させるなど適宜変更可能である。
【0030】
図4(c)は、金属リング7の外周面7bに、複数本の溝8fを交差させた粗面加工(ローレット加工)を施した形態の実施の一例である。
本実施形態によれば、ゴム状弾性体2とモールド成形により一体成形すれば、金属リング7の外周面7bに形成した粗面加工に、ゴム状弾性体2が食い込んでいくような状態となって一体成形されるため、金属リング7とゴム状弾性体2との一体化が強固となり位置ずれ防止を図ることができる。
なお、金属リング7の内周面7aに同様の粗面加工を施すことも可能である。
また、粗面加工は図示例のように複数個の溝8fを交差させてなるものに限らず、多数の細かい突起を設けて粗面にしてなるものであってもよい。
【0031】
さらに、図示はしないが、金属リング7の外周面7bに、周方向に連続して形成される凹条溝と、前記凹条溝と相対向する内周面7aに、周方向に連続して形成される凸条部とで構成されるものも本発明を構成する位置ずれ防止部8として機能する。内周面7aに凹条部を外周面7bに凸条部を設ける形態も勿論含まれる。
また、
図2及び
図4に示す各位置ずれ防止部8(8a−8f)の各形態の全て若しくは任意の組合せで構成するものであっても本発明の範囲内である。
【0032】
金属リング7を構成する線状体13は、本実施形態では、金属リング7とした場合の両側面7c,7cが断面視矩形の金属製の線状体(平角線材)としたが、両側面7c,7cは円弧状を有する断面視楕円形状をなすものとした方が、エッジ(角部)の発生がなく好ましい。
両側面7c,7cを断面視楕円形状とするためには、断面視で円形の線状体を圧延加工するものとするとよい。
尚、金属リング7は、断面視形状は特に限定解釈されるものではなく、本発明の範囲内で設計変更可能である。
また、金属リング7は、側面7c,7cを平坦状に形成するとともに、その側面7cと内周面7a及び側面7cと外周面7bとをつなぐ四隅角部の全て若しくはいずれか所定の隅角部が円弧状をなすように形成されているものであってもよく、このような形状とすることも本発明の範囲内である。
【0033】
さらに、金属リング7の径方向厚さも任意であるが、薄すぎる場合、その金属リング7の側面7cが刃先形状に近づいてしまうため、その厚さの設定には留意する必要がある。
【0034】
また、本実施の形態では、端部13a,13aの固着に、スポット溶接を用いたものを例示したが、固着の手段は、特にスポット溶接に限定されるものではなく、本発明の範囲内で設計変更可能である。
例えば、
図6に示すように、それぞれの端部13a,13aが嵌合構造を有するように形成するものであってもよい。すなわち、例えば
図6では、一方の端部(図面上向かって右側の端部)13aに凸部13bを設け、他方の端部(図面上向かって左側の端部)13aには、前記凸部13bが嵌る凹部13cを設け、この凸部13bと凹部13cによる嵌合によって端部13a,13aが固着されるものであってもよい。なお、
図6に示した嵌合は一例にすぎず、本発明の範囲内で設計変更可能である。
【0035】
次に、本発明のリングモールド型ブーツに使用する金属リングのさらに別の実施形態を
図9に基づいて説明する。
上述した実施形態にあっては、位置ずれ防止部8は、金属リング7に形成された凹状部8aと凸状部8bや、金属リング7の外周面と内周面にわたって貫通して形成された孔部8c等を例示したが、本実施形態にあっては、
図9(a)乃至(e)に示すように、位置ずれ防止部8は、金属リング7を構成する線状体13の端部13a,13aの突合せ部を接合する溶接部100aで構成されている。
【0036】
金属リング7は、線状体13をリング状に加工した後、端部13a,13aの突合せ部が、例えばスポット溶接等によって2箇所接合されている。この2箇所の溶接部100aは、金属リング7の外周面よりもへこんでおり、このへこみ部が位置ずれ防止部8となっている。なお、溶接部100aは2箇所に限られるものではなく、線状体13の幅方向に1箇所又は3箇所等であってもよい。また、
図9(e)に示すように、溶接部100aが線状体13を貫通し、線状体13の内周面に膨らみ部を形成してもよく、この場合、内周面側の膨らみ部も位置ずれ防止部8として機能する。
【0037】
次に、本発明のリングモールド型ブーツに使用する金属リングの変形例を
図10に基づいて説明する。
本実施形態にあっても、
図10(a)乃至(e)に示すように、位置ずれ防止部8は、金属リング7を構成する線状体13の端部13a,13aの突合せ部を接合する溶接部100bで構成されている。
【0038】
金属リング7は、線状体13をリング状に加工した後、端部13a,13aの突合せ部が、例えばスポット溶接等によって2箇所接合されている。この2箇所の溶接部100bは、金属リング7の外周面よりも膨らんでおり、この膨らみ部が位置ずれ防止部8となっている。なお、溶接部100bは2箇所に限られるものではなく、線状体13の幅方向に1箇所又は3箇所等であってもよい。また、
図10(e)に示すように、溶接部100bが線状体13を貫通し、線状体13の内周面にも膨らみ部を形成してもよく、この場合、内周面側の膨らみ部も位置ずれ防止部8として機能する。
【0039】
これらの実施形態によれば、溶接部100a(100b)のへこみ部や膨らみ部が位置ずれ防止部8として機能するため、線状体13に機械加工による位置ずれ防止部8を形成する必要がなく、低コスト化が図れる。
【0040】
以上の実施形態においては、リングモール型ブーツの一例としてピストンブーツを例示したが、本発明を他のブーツに転用できることは勿論である。