特許第6180114号(P6180114)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6180114
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】T細胞受容体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20170807BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20170807BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20170807BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20170807BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20170807BHJP
   C07K 14/725 20060101ALI20170807BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20170807BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20170807BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20170807BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   C12N15/00 A
   A61K35/12
   A61K35/76
   A61K48/00
   A61P31/12
   C07K14/725ZNA
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
【請求項の数】21
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2012-531494(P2012-531494)
(86)(22)【出願日】2010年9月28日
(65)【公表番号】特表2013-505734(P2013-505734A)
(43)【公表日】2013年2月21日
(86)【国際出願番号】GB2010001821
(87)【国際公開番号】WO2011039508
(87)【国際公開日】20110407
【審査請求日】2013年7月4日
【審判番号】不服2015-20072(P2015-20072/J1)
【審判請求日】2015年11月9日
(31)【優先権主張番号】0917090.3
(32)【優先日】2009年9月29日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】507299817
【氏名又は名称】ユーシーエル ビジネス ピーエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】シュタウス, ハンス
(72)【発明者】
【氏名】シュー, シャオ−アン
(72)【発明者】
【氏名】トップ, マックス
【合議体】
【審判長】 田村 明照
【審判官】 瀬下 浩一
【審判官】 山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】 J. Clin. Immunol. ,2006年,Vol.26, No.1,pp.22−32
【文献】 Gene Ther.,2008年,Vol.15, No.8,pp.625−631
【文献】 Mol. Ther. ,2007年,Vol.15, No.10,pp.1744−1750
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N1/00-15/00
CA/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
UniProt/PIR/GeneSeq
Genbank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
T細胞受容体(TCR)であって、前記T細胞受容体(TCR)は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子によって提示された場合の、アミノ酸配列CLGGLLTMV(配列番号1)を持つエプスタインバーウイルス(EBV)の潜伏感染膜タンパク質2(LMP−2)のペプチドに結合する、T細胞受容体(TCR)であって、ここで、前記TCRは、α鎖およびβ鎖を含み、前記α鎖および前記β鎖は各々、3つの相補性決定領域(CDR)を含み、かつ各CDR3の配列は、
CDR3α−FCAMREGSGSARQLTFGSGTQLTVLPD(配列番号2)
CDR3β−ASSLGPAGIQETQYFGPGTRLLVL(配列番号3)
ある、TCR。
【請求項2】
前記α鎖は、下記アミノ酸配列:
CDR1α−TSDQSYG(配列番号4)
CDR2α−QGSYDEQ(配列番号5)
CDR3α−FCAMREGSGSARQLTFGSGTQLTVLPD(配列番号2)持つ3つの相補性決定領域(CDR)を含み、
かつ前記β鎖は、下記アミノ酸配列:
CDR1β−SSHAT(配列番号6)
CDR2β−FNYEAQ(配列番号7)
CDR3β−ASSLGPAGIQETQYFGPGTRLLVL(配列番号3)
持つ3つの相補性決定領域(CDR)を含む、請求項1に記載のTCR。
【請求項3】
配列番号8として示されたアミノ酸配列または少なくとも95%のアミノ酸配列の同一性を有するその改変体を含む、請求項1〜2のいずれかに記載のTCR。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のTCRのα鎖およびβ鎖がT細胞に発現するとき、これらの鎖と内因性TCRのα鎖およびβ鎖との間の誤対合の頻度が低下するように、前記TCRのα鎖/β鎖のインターフェースに1つまたは複数の変異を含む、請求項1〜3の
いずれかに記載のTCR。
【請求項5】
前記α鎖およびβ鎖の定常領域ドメインは各々、前記α鎖と前記β鎖との間に追加のジスルフィド結合の形成を可能にする追加のシステイン残基を含む、請求項4に記載のTCR。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のTCRのα鎖をコードする、核酸。
【請求項7】
配列番号9の塩基1〜810または少なくとも90%の配列同一性を有するその改変体を含む、請求項6に記載の核酸。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載のTCRのβ鎖をコードする核酸。
【請求項9】
配列番号9の塩基886〜1812または少なくとも90%の配列同一性を有するその改変体を含む、請求項8に記載の核酸。
【請求項10】
TCRのβ鎖に結合したTCRのα鎖をコードする、請求項6および8に記載の核酸。
【請求項11】
内部自己切断性配列により結合された前記TCRのα遺伝子およびβ遺伝子を含む、請求項10に記載の核酸。
【請求項12】
配列番号9として示した配列または少なくとも90%の配列同一性を有するその改変体を持つ、請求項11に記載の核酸。
【請求項13】
請求項6〜12のいずれかに記載の核酸を含む、ベクター。
【請求項14】
請求項6〜12のいずれかに記載の核酸を含む、細胞。
【請求項15】
T細胞または幹細胞である、請求項14に記載の細胞。
【請求項16】
被験体から単離されたT細胞に由来する、請求項15に記載の細胞。
【請求項17】
請求項13に記載のベクターをインビトロまたはエキソビボで細胞に形質導入するステップを含む、請求項14〜16のいずれかに記載の細胞を産生するための方法。
【請求項18】
被験体のEBVに関連する疾患を処置および/または予防するための組成物であって、請求項14〜16のいずれかに記載のEBV特異的T細胞を含、組成物。
【請求項19】
EBV陽性ホジキンリンパ腫、EBV陽性鼻咽腔癌またはEBV陽性移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)を処置または予防するための、請求項18記載の組成物。
【請求項20】
被験体のEBVに関連する疾患の処置および/または予防に使用するための組成物であって、請求項13に記載のベクターまたは請求項14〜16のいずれかに記載のEBV特異的T細胞を含む組成物。
【請求項21】
請求項13に記載のベクターまたは請求項14〜16のいずれかに記載のEBV特異的T細胞を含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エプスタインバーウイルス(EBV:Epstein Barr Virus)の抗原を認識できるT細胞受容体(TCR:T−cell receptor)に関する。本発明はさらに、EBV特異的T細胞を産生するための、TCRの遺伝子移入の使用、およびEBV関連疾患を処置および/または予防するための、その使用に関する。
【背景技術】
【0002】
エプスタインバーウイルス(EBV)は、ヘルペスウイルスファミリーのメンバーであり、世界中で確認される。研究から、全成人の最大95%が、このよく見られるウイルスに対する抗体を持っていることが示されており、これは、全成人の最大95%が生涯のある時点で感染したことがあることを意味する。EBVは一般に、感染した大部分の人で生涯を通じて存在し続けるが、何らかの問題を引き起こすことは稀である。しかしながら、場合によっては、EBVは、癌、およびバーキットリンパ腫、ホジキンリンパ腫、鼻咽腔癌、ならびに固形臓器または造血幹細胞移植(HSCT:hematopoietic stem cell transplantation)後の患者に起こり得るB細胞リンパ腫の一種、移植後リンパ増殖性疾患(post transplant lymphoproliferative disorder)などの重篤な状態の発生と関連している。
【0003】
このため、EBV関連疾患を処置および/または予防するための方法が求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、EBV特異的T細胞を産生するTCR遺伝子治療の使用を含む、EBV関連疾患を処置および/または予防する細胞療法を開発した。
【0005】
本発明者らは、EBVのLMP−2タンパク質に特異的なT細胞受容体を構築した。本発明者らはさらに、TCRのα遺伝子およびβ遺伝子を含むレトロウイルスベクターを構築し、ヒトT細胞への形質導入にこれを使用した。この細胞は、LMP2特異的TCRを発現することが明らかになっており、機能的な抗原特異的活性を示す。
【0006】
したがって、第1の態様では、本発明は、エプスタインバーウイルスのLMP2タンパク質に特異的なT細胞受容体(TCR)を提供する。
【0007】
TCRは、LMP−2のエピトープCLGGLLTMV(配列番号1)を認識することができる。
【0008】
TCRは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子によって提示された場合の、アミノ酸配列CLGGLLTMV(配列番号1)を持つペプチドに結合し得る。
【0009】
TCRのα鎖およびβ鎖は各々、3つの相補性決定領域(CDR:complementarity determining region)を持つ。TCRのα鎖およびβ鎖は、下記CDR3配列を持っていてもよい。
【0010】
CDR3α−FCAMREGSGSARQLTFGSGTQLTVLPD(配列番号2)
CDR3β−ASSLGPAGIQETQYFGPGTRLLVL(配列番号3)
または3つまでのアミノ酸変化を持つこれらの配列の改変体。
【0011】
α鎖のCDRは、下記アミノ酸配列を持って(having)いてもよい。
CDR1α−TSDQSYG(配列番号4)
CDR2α−QGSYDEQ(配列番号5)
CDR3α−FCAMREGSGSARQLTFGSGTQLTVLPD(配列番号2)
または3つまでのアミノ酸変化を持つこれらの配列の改変体。
【0012】
β鎖のCDRは、下記アミノ酸配列を持って(having)いてもよい。
CDR1β−SSHAT(配列番号6)
CDR2β−FNYEAQ(配列番号7)
CDR3β−ASSLGPAGIQETQYFGPGTRLLVL(配列番号3)。
【0013】
または3つまでのアミノ酸変化を持つこれらの配列の改変体。
【0014】
本発明の第1の態様のTCRは、配列番号8として示すアミノ酸配列、または少なくとも80%のアミノ酸配列の同一性を有するその改変体を含んでいてもよい。
【0015】
本発明の第1の態様のTCRは、先行するいずれかの請求項に記載されたTCRのα鎖およびβ鎖がT細胞に発現するとき、これらの鎖と内因性TCRのα鎖およびβ鎖との間の誤対合(mis−pairing)の頻度が低下するように、TCRのα鎖/β鎖のインターフェースに1つまたは複数の変異を含んでいてもよい。
【0016】
たとえば、本発明の第1の態様のTCRでは、α鎖およびβ鎖の定常領域ドメインは各々、α鎖とβ鎖との間に追加のジスルフィド結合の形成を可能にする追加のシステイン残基を含んでいてもよい。
【0017】
第2の態様は、本発明の第1の態様によるTCRの全部または一部をコードするヌクレオチド配列を提供する。
【0018】
本発明の第2の態様の第1の実施形態は、本発明の第1の態様によるTCRのα鎖をコードするヌクレオチド配列に関する。
【0019】
この第1の実施形態のヌクレオチド配列は、配列番号9として示すヌクレオチド配列の塩基1〜810、または少なくとも80%の配列同一性を有するその改変体を含んでいてもよい。
【0020】
本発明の第2の態様の第2の実施形態は、本発明の第1の態様によるTCRのβ鎖をコードするヌクレオチド配列に関する。
【0021】
この第2の実施形態のヌクレオチド配列は、配列番号9の塩基886〜1812、または少なくとも80%の配列同一性を有するその改変体を含んでいてもよい。
【0022】
本発明の第2の態様の第3の実施形態は、TCRのβ鎖に結合したTCRのα鎖をコードするヌクレオチド配列に関する。
【0023】
このヌクレオチド配列は、内部自己切断性配列(internal self−cleaving sequence)により結合されたTCRのα遺伝子およびβ遺伝子を含んでいてもよい。
【0024】
この第3の実施形態のヌクレオチド配列は、配列番号9として示す配列、または少なくとも80%の配列同一性を有するその改変体を含んでいてもよい。
【0025】
第3の態様では、本発明は、本発明の第2の態様によるヌクレオチド配列を含むベクターを提供する。ベクターは、たとえば、レトロウイルスベクターであってもよい。
【0026】
第4の態様では、本発明は、本発明の第2の態様によるヌクレオチド配列を含む細胞を提供する。細胞は、たとえば、T細胞でも、または幹細胞でもよい。細胞は、被験体から単離されたT細胞に由来してもよい。
【0027】
第5の態様では、本発明は、本発明の第4の態様による細胞を産生するための方法であって、本発明の第3の態様によるベクターをインビトロまたはエキソビボで細胞に形質導入またはトランスフェクトするステップを含む方法を提供する。
【0028】
第6の態様では、本発明は、被験体のEBVに関連する疾患を処置および/または予防するための方法であって、EBV特異的T細胞を被験体に養子移入するステップを含み、ここで、EBV特異的T細胞が、TCRの遺伝子移入により作られる方法を提供する。
【0029】
T細胞は、EBV特異的TCRをコードすることができる1つまたは複数の異種ヌクレオチド配列(単数または複数)を含む。
【0030】
TCRは、本発明の第1の態様によるものであってもよい。
【0031】
本方法は、EBV陽性ホジキンリンパ腫、EBV陽性鼻咽腔癌またはEBV陽性移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)などEBV関連疾患を処置または予防するために使用してもよい。
【0032】
本発明はまた、被験体のEBVに関連する疾患の処置および/または予防に使用される、本発明の第3の態様によるベクター、または本発明の第4の態様による細胞を提供する。
【0033】
本発明はまた、本発明の第3の態様によるベクター、または本発明の第4の態様による細胞を含む医薬組成物を提供する。
【0034】
本発明はまた、被験体のEBVに関連する疾患の処置および/または予防に使用される薬物の製造における、本発明の第1の態様によるTCR、本発明の第2の態様によるヌクレオチド配列、本発明の第3の態様によるベクター、または本発明の第4の態様による細胞の使用を提供する。
特定の実施形態では、例えば以下が提供される:
(項目1)
T細胞受容体(TCR)であって、前記T細胞受容体(TCR)は、主要組織適合遺伝子複合体(major histocampatability complex)(MHC)分子によって提示された場合の、アミノ酸配列CLGGLLTMV(配列番号1)を持つエプスタインバーウイルス(EBV)の潜伏感染膜タンパク質2(LMP−2)のペプチドに結合する、T細胞受容体(TCR)。
(項目2)
α鎖およびβ鎖を含む、項目1に記載のTCRであって、
前記α鎖および前記β鎖は各々、3つの相補性決定領域(CDR)を含み、かつ各CDR3の配列は、
CDR3α−FCAMREGSGSARQLTFGSGTQLTVLPD(配列番号2)
CDR3β−ASSLGPAGIQETQYFGPGTRLLVL(配列番号3)
または3つまでのアミノ酸変化を持つこれらの配列の改変体
である
項目1に記載のTCR。
(項目3)
前記α鎖は、下記アミノ酸配列:
CDR1α−TSDQSYG(配列番号4)
CDR2α−QGSYDEQ(配列番号5)
CDR3α−FCAMREGSGSARQLTFGSGTQLTVLPD(配列番号2)を持つ3つの相補性決定領域(CDR)を含み、
かつ前記β鎖は、下記アミノ酸配列:
CDR1β−SSHAT(配列番号6)
CDR2β−FNYEAQ(配列番号7)
CDR3β−ASSLGPAGIQETQYFGPGTRLLVL(配列番号3)
または3つまでのアミノ酸変化を持つこれらの配列の改変体
を持つ3つの相補性決定領域(CDR)を含む、項目2に記載のTCR。
(項目4)
配列番号8として示されたアミノ酸配列、または少なくとも80%のアミノ酸配列の同一性を有するその改変体を含む、先行するいずれかの項目に記載のTCR。
(項目5)
先行するいずれかの項目に記載されたTCRのα鎖およびβ鎖がT細胞に発現するとき、これらの鎖と内因性TCRのα鎖およびβ鎖との間の誤対合の頻度が低下するように、前記TCRのα鎖/β鎖のインターフェースに1つまたは複数の変異を含む、先行するいずれかの項目に記載のTCR。
(項目6)
前記α鎖およびβ鎖の定常領域ドメインは各々、前記α鎖と前記β鎖との間に追加のジスルフィド結合の形成を可能にする追加のシステイン残基を含む、項目5に記載のTCR。
(項目7)
先行するいずれかの項目に記載のTCRの前記α鎖をコードする、ヌクレオチド配列。
(項目8)
配列番号9の塩基1〜810または少なくとも80%の配列同一性を有するその改変体を含む、項目7に記載のヌクレオチド配列。
(項目9)
項目1〜6のいずれかに記載のTCRの前記β鎖をコードするヌクレオチド配列。
(項目10)
配列番号9の塩基886〜1812または少なくとも80%の配列同一性を有するその改変体を含む、項目9に記載のヌクレオチド配列。
(項目11)
TCRのβ鎖に結合したTCRのα鎖をコードする、項目7および9に記載のヌクレオチド配列。
(項目12)
内部自己切断性配列により結合された前記TCRのα遺伝子およびβ遺伝子を含む、項目11に記載のヌクレオチド配列。
(項目13)
配列番号9として示した配列または少なくとも80%の配列同一性を有するその改変体を持つ、項目12に記載のヌクレオチド配列。
(項目14)
項目7〜13のいずれかに記載のヌクレオチド配列を含む、ベクター。
(項目15)
項目7〜13のいずれかに記載のヌクレオチド配列を含む、細胞。
(項目16)
T細胞または幹細胞である、項目14または15に記載の細胞。
(項目17)
被験体から単離されたT細胞に由来する、項目16に記載の細胞。
(項目18)
項目10に記載のベクターをインビトロまたはエキソビボで細胞に形質導入するステップを含む、項目15〜17のいずれかに記載の細胞を産生するための方法。
(項目19)
被験体のEBVに関連する疾患を処置および/または予防するための方法であって、EBV特異的T細胞を前記被験体に養子移入するステップを含み、ここで、前記EBV特異的T細胞がTCRの遺伝子移入により作られる、方法。
(項目20)
項目15〜17のいずれかに記載のEBV特異的T細胞を前記被験体に養子移入するステップを含む、項目19に記載の方法。
(項目21)
EBV陽性ホジキンリンパ腫、EBV陽性鼻咽腔癌またはEBV陽性移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)を処置または予防するための、項目19または20に記載の方法。
(項目22)
被験体のEBVに関連する疾患の処置および/または予防に使用するための、項目14に記載のベクターまたは項目15〜17のいずれかに記載の細胞。
(項目23)
項目14に記載のベクターまたは項目15〜17のいずれかに記載の細胞を含む、医薬組成物。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1図1は、レトロウイルスベクターコンストラクトpMP71−pp65(α−2A−β)−Cys1の模式図を示す。
図2図2は、huPBMCのEBV−sVβ−TCR形質導入を示す。
図3図3は、EBV−sVβ−TCR−X3−CD4−cytkを示す。
図4図4は、EBV−sVβ−TCR−X3−CD8−cytkを示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
T細胞受容体
抗原プロセシングの過程で、抗原は細胞内で分解され、その後主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatability complex)(MHC)分子により細胞表面に運ばれる。T細胞は、抗原提示細胞の表面のこのペプチド:複合体を認識することができる。MHC分子には2つの異なるクラス、すなわちMHC IおよびMHC IIがあり、これらが、ペプチドを異なる細胞コンパートメントから細胞表面に送達する。
【0037】
T細胞受容体、すなわちTCRは、MHC分子に結合した抗原の認識を担うT細胞の表面上に見られる分子である。TCRヘテロ二量体は、T細胞の95%でα鎖およびβ鎖からなるのに対し、T細胞の5%では、TCRは、ガンマ鎖およびデルタ鎖からなる。
【0038】
TCRが抗原およびMHCと結合すると、関連酵素、補助受容体、および特殊なアクセサリー分子が介在する一連の生化学的イベントを介して、そのTリンパ球が活性化される。
【0039】
TCRの各鎖は、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーであり、N末端に1つの免疫グロブリン(Ig)可変(V)ドメイン、1つのIg定常(C)ドメイン、膜貫通/細胞膜貫通領域、およびC末端に短い細胞質尾部を有する。
【0040】
TCRのα鎖およびβ鎖の可変ドメインはどちらも、3つの超可変性または相補性決定領域(CDR)を持つ。CDR3は、プロセッシングされた抗原の認識を担う主要なCDRであるのに対し、α鎖のCDR1は、抗原ペプチドのN末端部分と相互作用することが明らかになっており、β鎖のCDR1は、ペプチドのC末端部分と相互作用する。CDR2は、MHC分子を認識すると考えられる。
【0041】
TCRドメインの定常ドメインは、システイン残基がジスルフィド結合を形成し、2本の鎖間をつなげる短い結合配列からなる。本発明のTCRは、TCRが定常ドメインに2つのジスルフィド結合を含むように、α鎖およびβ鎖各々に追加のシステイン残基を有していてもよい(下記を参照)。
【0042】
こうした構造により、TCRは、哺乳動物の3つの異なる鎖(γ、δ、およびε)を有するCD3、およびζ鎖のような他の分子と会合できる。これらのアクセサリー分子は、負電荷を帯びた膜貫通領域を持ち、TCRから細胞へのシグナルの伝播に非常に重要なものである。CD3鎖およびζ鎖は、TCRと共に、いわゆるT細胞受容体複合体を形成する。
【0043】
T細胞複合体からのシグナルは、MHC分子が特異的補助受容体により同時に結合することにより増強される。ヘルパーT細胞では、この補助受容体は、CD4(クラスII MHCに特異的)であり、一方、細胞傷害性T細胞では、この補助受容体は、CD8(クラスI MHCに特異的)である。補助受容体は、抗原に対するTCRの特異性を確実なものにするのみならず、抗原提示細胞とT細胞との間の接触を長期化させ、活性化Tリンパ球のシグナル伝達に関与する細胞内に重要な分子(たとえば、LCK)をリクルートする。
【0044】
したがって、「T細胞受容体」という用語は、ペプチドがMHC分子により提示されると、それを認識できる分子を意味する通常の意味で使用する。この分子は、α鎖およびβ鎖(または任意にγ鎖およびδ鎖)の2本鎖のヘテロ二量体でも、または一本鎖構造のTCRコンストラクト(constuct)でもよい。
【0045】
本発明はまた、こうしたT細胞受容体のα鎖またはβ鎖を提供する。
【0046】
本発明のTCRは、2種以上の種に由来する配列(suences)を含むハイブリッドTCRであってもよい。たとえば、驚くべきことに、ヒトT細胞では、ヒトTCRよりマウスTCRの方が効率的に発現することが確認されていることが明らかになった。したがって、TCRは、ヒト可変領域とマウス定常領域とを含んでもよい。このアプローチの欠点は、マウス定常配列が免疫応答を誘発し、移植したT細胞の拒絶に至る可能性があることである。しかしながら、患者にT細胞養子免疫療法を準備する際に移植前処置を用いれば、十分な免疫抑制が得られ、マウス配列を発現するT細胞の生着が可能である。
【0047】
CDR配列
本発明の第1の態様のTCRは、各々が3つの相補性決定領域を含む2本の鎖(αおよびβ)を含む。
【0048】
T細胞受容体の多様性はCDR3に集中しており、この領域は主に、抗原認識を担っている。本発明のTCRのCDR3領域の配列は、
CDR3α−FCAMREGSGSARQLTFGSGTQLTVLPD(配列番号2)
CDR3β−ASSLGPAGIQETQYFGPGTRLLVL(配列番号3)
または3つまでのアミノ酸変化を持つこれらの配列の改変体である。
【0049】
α鎖は、下記アミノ酸配列:
CDR1α−TSDQSYG(配列番号4)
CDR2α−QGSYDEQ(配列番号5)
CDR3α−FCAMREGSGSARQLTFGSGTQLTVLPD(配列番号2)
を持つCDRを含んでいてもよい。
【0050】
β鎖は、下記アミノ酸配列:
CDR1β−SSHAT(配列番号6)
CDR2β−FNYEAQ(配列番号7)
CDR3β−ASSLGPAGIQETQYFGPGTRLLVL(配列番号3)
を持つCDRを含んでいてもよい。
【0051】
CDRは、所定の配列の置換、付加または欠失など1つまたは複数の「変化」を含んでいてもよい。ただし、TCRは、pp65エピトープ:MHC複合体への結合能を保持するものとする。変化は、あるアミノ酸と類似のアミノ酸との置換(保存的置換)を含んでもよい。類似のアミノ酸は、たとえば下記に示すようにグループとして関連した特性を有する側鎖部分を持つアミノ酸である。
(i)塩基性側鎖:リジン、アルギニン、ヒスチジン
(ii)酸性側鎖:アスパラギン酸およびグルタミン酸
(iii)非荷電極性側鎖:アスパルギン(aspargine)、グルタミン、セリン、トレオニンおよびチロシン
(iv)非極性側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンおよびシステイン。
【0052】
どのようなアミノ酸変化も、MHC分子への結合能を維持または強化すべきである。たとえば、ペプチドがHLA−A*0201対立遺伝子のMHC分子に結合できる場合、ペプチドの2番目のアミノ酸(すなわちN末端から2番目のアミノ酸)は、ロイシンまたはメチオニンであることが好ましい。ただし、イソロイシン、バリン、アラニンおよびトレオニンも許容される。また、9または10番目のアミノ酸がバリン、ロイシンまたはイソロイシンであることも好ましいが、アラニン、メチオニンおよびトレオニンも許容される。好ましいMHC結合モチーフまたは他のHLA対立遺伝子は、Celisら、Molecular Immunology,Vol.31,8,December 1994,1423頁〜1430頁に開示されている。
【0053】
本発明の第1の態様のTCRは、下記アミノ酸配列(配列番号8)または少なくとも70%、80%、90%、または95%のアミノ酸配列の同一性を有するその改変体を含んでいてもよい。
【0054】
【化1】
青:定常配列。
赤:鎖間でジスルフィド結合するシステイン分子。
ピンク:2A配列
黒:可変配列
下線 CDR1、2および3領域。
【0055】
改変体配列は、アミノ酸の付加、欠失および/または挿入を含んでいてもよい。変異は、α鎖またはβ鎖の定常領域、リンカー、またはフレームワーク領域など1つまたは複数の領域に集中していても、あるいは、分子全体に分散していてもよい。
【0056】
同一性の比較は、目測で行っても、またはより一般的には、容易に入手できる配列比較プログラムを用いて行ってもよい。こうした市販されているコンピュータープログラムは、2つ以上の配列間の同一性%を計算することができる。
【0057】
同一性%は、連続する配列において計算してもよい。すなわち一方の配列を他方の配列と整列させ、一方の配列の各アミノ酸を他方の配列の対応するアミノ酸と1残基ずつ直接比較する。これは、「ギャップなし」アライメントと呼ばれる。典型的には、こうしたギャップなしアライメントは、比較的少ない数の残基についてのみ行われる。
【0058】
これは非常に簡便で一貫性のある方法ではあるけれども、たとえば、1つの挿入または欠失があり、それ以外は同一な配列対では、それ以下のアミノ酸残基がアライメントから除外されるため、グローバルアライメントを行ったとき、相同性の割合が大きく低下する可能性があることを計算に入れることができない。したがって、大部分の配列比較法は、相同性スコア全体に過剰なペナルティーを与えることなく、考えられる挿入および欠失を計算に入れた最適なアライメントを得るように設計されている。これは、配列アライメントに「ギャップ」を挿入して局所的相同性を最大にしようとすることで達成される。
【0059】
しかしながら、より複雑なこれらの方法は、アライメントに生じる各ギャップに「ギャップペナルティー」を設定するため、同数の同一のアミノ酸の場合、可能な限りギャップが少ない配列アライメントは、2つの比較配列間の関連性がより高いことを反映して、多くのギャップのある配列アライメントよりスコアが高くなる。ギャップの存在に対して比較的高いコストを与え、ギャップに続く各残基に比較的小さいペナルティーを与える「アファインギャップコスト」が通常使用される。これは、最も多く使われているギャップスコアリングシステムである。ギャップペナルティーが高いと、言うまでもなく、ギャップがより少ない最適化アライメントが得られる。大部分のアライメントプログラムは、ギャップペナルティーを変更することができる。しかしながら、こうしたソフトウェアを配列の比較に使用する際は、デフォルト値を使用することが好ましい。たとえば、GCG Wisconsin Bestfitパッケージを使用する場合、アミノ酸配列のデフォルトのギャップペナルティーは、ギャップでは−12、各伸長では−4である。
【0060】
従って、最大の同一性%を算出するには、最初にギャップペナルティーを考慮した最適なアライメントを作製する必要がある。こうしたアライメントを行うのに好適なコンピュータープログラムとして、GCG Wisconsin Bestfitパッケージ(University of Wisconsin,U.S.A.;Devereuxら、1984,Nucleic Acids Research 12:387)がある。配列比較を実施できる他のソフトウェアの例として、BLASTパッケージ(Ausubelら、1999 同書−第18章を参照されたい)、FASTA(Atschulら、1990,J.Mol.Biol.,403−410)、および比較ツールのGENEWORKSソフトウェアパッケージがあるが、これに限定されるものではない。BLASTおよびFASTAはどちらも、オフラインおよびオンラインの検索に利用できる(Ausubelら、1999 同書,7−58頁〜7−60頁を参照されたい)。しかしながら、一部の用途では、GCG Bestfitプログラムを使用することが好ましい。また、タンパク質とヌクレオチドとの配列の比較には、BLAST 2 Sequencesも利用できる(FEMS Microbiol Lett 1999 174(2):247−50;FEMS Microbiol Lett 1999 177(1):187−8およびtatiana@ncbi.nlm.nih.govを参照されたい)。
【0061】
配列はまた、サイレント変異となって、機能的に等価な物質を与えるアミノ酸残基の欠失、挿入または置換を含んでいてもよい。物質のその後の結合活性が保持されている限り、残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、および/または両親媒性の類似性に基づき、人為的にアミノ酸置換を行ってもよい。たとえば、負電荷を帯びたアミノ酸には、アスパラギン酸およびグルタミン酸があり、正電荷を帯びたアミノ酸には、リジンおよびアルギニンがあり、親水性値が類似し、非荷電極性頭部基を持つアミノ酸には、ロイシン、イソロイシン、バリン、グリシン、アラニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、フェニルアラニン、およびチロシンがある。
【0062】
保存的置換は、たとえば下記表にしたがって行ってもよい。2列目の同じブロック、および好ましくは3列目の同じ行のアミノ酸は、相互に置換してもよい。
【0063】
【表1】
本発明はまた、相同置換(本明細書では、置換および置き換えはどちらも、すでに存在するアミノ酸残基と別の残基とを相互交換するという意味で使用する)、すなわち、塩基性と塩基性、酸性と酸性、極性と極性など、同種のものとの置換として起こり得る置換を包含する。また、非相同置換、すなわち、あるクラスの残基から別のクラスの残基への置換、あるいは、オルニチン(以下、Zという)、ジアミノ酪酸オルニチン(以下、Bという)、ノルロイシンオルニチン(以下、Oという)、ピリイルアラニン(pyriylalanine)、チエニルアラニン、ナフチルアラニンおよびフェニルグリシンなどの非天然型アミノ酸の付加を伴う置換が起こり得る。
【0064】
LMP−2
本発明の第1の態様は、EBV潜伏感染膜タンパク質2(latent membrane protein 2)(LMP−2)に特異的に結合するTCRに関する。LMP−2とは、エプスタインバーウイルスに関連する2つのウイルスタンパク質、LMP−2AおよびLMP−2Bをいう。
【0065】
LMP−2A/LMP−2Bは、チロシンキナーゼのシグナル伝達を遮断する働きをする膜貫通タンパク質である。LMP−2A/LMP−2Bは、ウイルス溶解サイクルの活性化を阻害する働きをすると考えられる。
【0066】
LMP−2Aは、下記の配列を持つ。
【0067】
【化2】
LMP−2Bは、下記の配列を持つ。
【0068】
【化3】
各配列では、本発明の第1の態様のT細胞受容体により認識されるペプチドCLGGLLTMVを赤色で示す。
【0069】
TCRは、この配列の全部または一部を認識することができる。TCRは、この配列の一部と共に1つまたは複数の(たとえば、最大5つ)上流または下流のアミノ酸を認識してもよい。TCRは、以下の配列GPVFMCLGGLTMVAGAVWの全部または一部を認識してもよい。
【0070】
主要組織適合遺伝子複合体(MAJOR HISTOCOMPATABILITY COMPLEX)(MHC)分子
TCRは、ペプチド:MHC複合体として上記ペプチドに結合する。
【0071】
MHC分子は、MHCクラスIでも、またはクラスII分子でもよい。この複合体は、樹状細胞またはB細胞などの抗原提示細胞の表面上にあってもよいし、あるいは、たとえば、ビーズまたはプレートにコーティングすることで固定化されてもよい。
【0072】
ヒト白血球抗原系(HLA:human leukocyte antigen system)は、ヒトの主要組織適合遺伝子複合体(MHC)の名称であり、そのHLAクラスI抗原(A、BおよびC)、およびHLAクラスII抗原(DP、DQおよびDR)を含む。
【0073】
誤対合の抑制
本発明の第1の態様のTCRは、T細胞に発現してその抗原特異性を変化させることができる。TCRを形質導入したT細胞には、少なくとも2つのTCRのα鎖、および2つのTCRのβ鎖が発現する。内因性TCRのα/β鎖は、自己寛容である受容体を形成するのに対し、導入されたTCRのα/β鎖は、所定の標的抗原に対して定義された特異性を持つ受容体を形成する。
【0074】
しかしながら、内因性鎖と導入鎖との間で誤対合が起こり、自己抗原に対して予想外の特異性を示し、患者に移行すると、自己免疫障害を引き起こし得る新規な受容体を形成することがある。
【0075】
このため、内因性TCR鎖と導入TCR鎖との間の誤対合のリスクを低下させるいくつかの戦略が検討されてきた。望ましくない誤対合の抑制に現在利用されている戦略の1つが、TCRのα/βのインターフェースの変異である。
【0076】
たとえば、α鎖およびβ鎖の定常ドメインに追加のシステインを導入すると、追加のジスルフィド結合が形成され、導入した鎖の対合が強化される一方、野生型鎖との誤対合が減少し得る。
【0077】
したがって、本発明のTCRは、α鎖およびβ鎖に追加のシステインを含み、それが2本の鎖間に追加のジスルフィド結合を形成し、全体で2つのジスルフィド結合を形成してもよい。
【0078】
上記の「CDR配列」セクションに示すアミノ酸配列では、追加のシステインを赤で示す
ヌクレオチド配列
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様のTCR受容体、または1つもしくは複数のCDR;α鎖もしくはβ鎖の可変配列;α鎖および/もしくはβ鎖などその一部をコードするヌクレオチド配列に関する。
【0079】
ヌクレオチド配列は、二本鎖でも、または一本鎖でもよく、RNAでも、またはDNAでもよい。
【0080】
ヌクレオチド配列は、コドン最適化を行ってもよい。様々な細胞で、個々のコドンの使用頻度が異なる。このコドンバイアスは、細胞型に特有のtRNAの相対存在量のバイアスに対応する。配列のコドンを変化させて、対応するtRNAの相対存在量に適合するように調整することにより、発現を増加させることが可能である。
【0081】
HIVおよび他のレンチウイルスなど多くのウイルスは、多くの稀なコドンを使用する。これらを、通常使用される哺乳動物のコドンに対応するように変化させることにより、哺乳動物のプロデューサー細胞内でのパッケージング成分の発現の増加を達成することができる。哺乳動物細胞のほか、様々な他の生物のコドン使用頻度表は、当該技術分野において公知である。
【0082】
コドン最適化はまた、mRNA不安定化モチーフ、および潜在的スプライス部位の除去を含んでもよい。
【0083】
本発明の第2の態様のヌクレオチド配列は、下記配列(配列番号9)の全部または一部、または少なくとも70%、80%、90%、または95%のアミノ酸配列の同一性を有するその改変体を含んでいてもよい。
【0084】
【化4】
ヌクレオチド配列は、1つまたは複数のCDRをコードする上記の配列の一部(単数または複数)、または少なくとも70%、80%、90%、または95%のアミノ酸配列の同一性を有するその改変体を含んでいてもよく、これらの部分は、配列番号9の下記セクションである。
CDR1α:139〜159
CDR2α:211〜231
CDR3α:331〜411
CDR1β:1021〜1035
CDR2β:1087〜1104
CDR3β:1219〜1290
ヌクレオチド配列は、1つまたは複数の可変領域をコードする上記の配列の一部(単数または複数)、または少なくとも70%、80%、90%、または95%のアミノ酸配列の同一性を有するその改変体を含んでいてもよく、これらの部分は、下記である。
Vα:1〜411
Vβ:886〜1290
ヌクレオチド配列は、α鎖および/またはβ鎖をコードする上記の配列の一部(単数または複数)、または少なくとも70%、80%、90%、または95%のアミノ酸配列の同一性を有するその改変体を含んでいてもよく、これらの部分は、下記である。
α−1〜810
β−886〜1812。
【0085】
改変体配列には、付加、欠失もしくは置換、または1つもしくは複数の塩基があってもよい。変異が付加(単数または複数)または欠失(単数または複数)である場合、変異が残りの配列の翻訳のフレームシフトを引き起こさないように、変異は3つずつで生じても、あるいはバランスが取れていてもよい(すなわち欠失ごとに付加がある)。
【0086】
変異の一部または全部は、タンパク質のコードの縮重により、コードされたタンパク質の配列に影響を与えないという意味(send)で「サイレント」であってもよい。
【0087】
変異の一部または全部は、上述のような保存的アミノ酸置換を起こしてもよい。変異は、α鎖もしくはβ鎖の定常領域、リンカー、またはフレームワーク領域をコードする領域など1つまたは複数の領域に集中していても、あるいは、分子全体に分散していてもよい。
【0088】
改変体配列は、CLGGLLTMV:MHC複合体に結合する配列の全部または一部をコードする能力を保持すべきである。
【0089】
ベクター
本発明はまた、本発明の第2の態様によるヌクレオチド配列を含むベクターを提供する。
【0090】
「ベクター」という用語は、発現ベクター、すなわち、インビボまたはインビトロ/エキソビボでの発現が可能なコンストラクトを含む。
【0091】
ウイルスデリバリーシステムとして、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV:adeno−associated viral)ベクター、ヘルペスウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、バキュロウイルスベクターがあるが、これに限定されるものではない。
【0092】
レトロウイルスは、溶解性ウイルスと異なる生活環を持つRNAウイルスである。この点で、レトロウイルスは、DNA中間体を介して複製する感染性物質である。レトロウイルスが細胞に感染すると、そのゲノムは、逆転写酵素によりDNA形態に変換される。DNAコピーは、新しいRNAゲノム、および感染性ウイルス粒子の構築に必要な、ウイルスによりコードされたタンパク質を産生する鋳型として働く。
【0093】
レトロウイルスは、たとえば、マウス白血病ウイルス(MLV:murine leukemia virus)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV:equine infectious anaemia virus)、マウス乳癌ウイルス(MMTV:mouse mammary tumour virus)、ラウス肉腫ウイルス(RSV:Rous sarcoma virus)、藤波肉腫ウイルス(FuSV:Fujinami sarcoma virus)、モロニーマウス白血病ウイルス(Mo−MLV:Moloney murine leukemia virus)、FBRマウス骨肉腫ウイルス(FBR MSV:FBR murine osteosarcoma virus)、モロニーマウス肉腫ウイルス(Mo−MSV:Moloney murine sarcoma virus)、Abelsonマウス白血病ウイルス(A−MLV:Abelson murine leukemia virus)、トリ骨髄球腫症ウイルス−29(MC29)、およびトリ赤芽球症ウイルス(AEV:Avian erythroblastosis virus)、およびレンチウイルスを含む他のすべてのレトロウイルス科(retroviridiae)など多く存在する。
【0094】
レトロウイルスの詳細なリストは、Coffinら(「Retroviruses」1997 Cold Spring Harbour Laboratory Press Eds:JM Coffin,SM Hughes,HE Varmus pp 758−763)で確認することができる。
【0095】
また、レンチウイルスは、レトロウイルスファミリーに属するものの、分裂細胞および非分裂細胞のどちらにも感染させることができる(Lewisら(1992)EMBO J.3053−3058)。
【0096】
このベクターは、本発明の第2の態様によるヌクレオチドをT細胞などの細胞に移入することができ、細胞にEBV特異的TCRを発現させ得る。ベクターは、理想的にはT細胞で高レベルの発現を維持することができ、導入されたTCRは、プールが限定的なCD3分子について内因性TCRと競合して勝ち得る必要がある。
【0097】
ベクターは、レトロウイルスベクターであってもよい。ベクターは、MP71ベクター骨格をベースとしても、またはそれから誘導してもよい。ベクターは、全長または切断型のウッドチャック肝炎応答エレメント(WPRE:Woodchuck Hepatitis Response Element)を欠いていてもよい。
【0098】
ヒト細胞の効率的な感染には、ウイルス粒子は、アンホトロピックエンベロープまたはテナガザル白血病ウイルスエンベロープで包んでもよい。
【0099】
CD3分子の供給を増加させると、遺伝子組み換え細胞のTCR発現を増加させることができる。したがって、ベクターは、CD3γ、CD3δ、CD3εおよび/またはCD3ζの遺伝子を含んでいてもよい。ベクターは、CD3ζの遺伝子のみを含んでいてもよい。遺伝子は、2A自己切断性配列などの自己切断性配列により結合してもよい。あるいは、CD3遺伝子をコードする1つまたは複数の別のベクターを用意して、TCRをコードするベクター(単数または複数)と共移入してもよい。
【0100】
細胞
本発明の第4の態様は、本発明の第2の態様によるヌクレオチド配列を含む細胞に関する。細胞には、本発明の第1の態様のT細胞受容体が発現し得る。
【0101】
細胞は、T細胞であってもよい。細胞は、被験体から単離されたT細胞に由来してもよい。T細胞は、末梢血リンパ球(PBL:peripheral blood lymphocyte)の集団など、被験体から単離された混合した細胞集団の一部であってもよい。PBL集団中のT細胞は、抗CD3抗体および抗CD28抗体を用いるなど当該技術分野において公知の方法により活性化することができる。
【0102】
T細胞は、CD4+ヘルパーT細胞でも、またはCD8+細胞傷害性T細胞でもよい。細胞は、CD4+ヘルパーT細胞/CD8+細胞傷害性T細胞の混合した集団中にあってもよい。たとえば、抗CD3抗体を任意に抗CD28抗体と組み合わせてポリクローナル活性化を行うと、CD4+およびCD8+T細胞の増殖が誘発されるけれども、CD4+25+制御性T細胞の増殖も誘発されることもある。制御性T細胞へのTCRの遺伝子移入は、制御性T細胞が遺伝組み換え細胞傷害性T細胞およびヘルパーT細胞の抗ウイルス活性を抑制することがあるため、望ましくない。したがって、CD4+CD25+集団は、TCRの遺伝子移入の前に取り除いてもよい。
【0103】
本発明はまた、発明の第4の態様による細胞を産生するための方法であって、本発明の第3の態様によるベクターをインビトロまたはエキソビボで細胞にトランスフェクトまたは形質導入するステップを含む方法を提供する。
【0104】
細胞は、遺伝子組み換え細胞を養子移入する被験体から単離してもよい。これに関連して、細胞は、被験体由来のT細胞を分離することにより作製して、任意にT細胞を活性化し、エキソビボでTCRの遺伝子移入を行い、その後、TCRを形質導入した細胞の養子移入により、被験体の免疫療法を行ってもよい。
【0105】
あるいは、細胞は、同種となるように別の被験体から単離してもよい。細胞は、ドナー被験体から単離してもよい。たとえば、被験体が同種造血幹細胞移植(Allo−HSCT:allogeneic haematopoietic stem cell transplantation)を受けている場合、細胞は、HSCを提供するドナーに由来してもよい。被験体が固形臓器移植を受けている、または受けたことがある場合、細胞は、固形臓器を提供した被験体に由来してもよい。
【0106】
あるいは、細胞は、造血性幹細胞(HSC)などの幹細胞であっても、または幹細胞に由来してもよい。幹細胞にはCD3分子が発現しないため、HSCへの遺伝子移入は、細胞表面でのTCRの発現を引き起こすものではない。しかしながら、幹細胞が胸腺に移動するリンパ球前駆細胞に分化すると、CD3発現が開始され、胸腺細胞内に導入されたTCRの表面発現が引き起こされる。
【0107】
このアプローチの利点は、成熟T細胞が産生されると、導入されたTCR鎖の発現が、内因性TCR遺伝子セグメントの再構成を抑制して機能的TCRのα遺伝子およびβ遺伝子を形成するため、導入されたTCRのみが発現し、内因性TCR鎖がほとんど、あるいは、まったく発現しないことにある。
【0108】
さらなる利点は、遺伝子組み換え幹細胞が、所望の抗原特異性を持つ成熟T細胞の持続的供給源であることにある。したがって、細胞は、分化時に、本発明の第1の態様のTCRを発現するT細胞を産生する遺伝子組み換え幹細胞であってもよい。本発明はまた、幹細胞の分化を誘導することにより本発明の第1の態様のTCRを発現するT細胞を産生するための方法であって、本発明の第2の態様によるヌクレオチド配列を含む方法を提供する。
【0109】
この幹細胞アプローチの欠点は、所望の特異性を持つTCRが、胸腺でT細胞が発達する過程で欠失されたり、あるいは、末梢T細胞に発現すると耐性を誘導したりする場合があることである。もう1つの考えられる問題は、幹細胞における挿入変異誘発のリスクである。
【0110】
EBV関連疾患
本発明はさらに、被験体のEBVに関連する疾患を処置および/または予防するための方法であって、EBV特異的T細胞を被験体に養子移入するステップを含む方法に関する。
【0111】
EBV特異的T細胞は、LMP−2タンパク質を認識することができる。EBV特異的T細胞は、エピトープCLGGLLTMVを認識してもよい。
【0112】
「予防」という用語は、疾患の罹患を防ぐ、遅らせる、妨害する、または妨げるということを意図している。処置は、たとえば、EBV感染を予防したり、またはその可能性を低下させたりし得る。
【0113】
本明細書で使用する「処置」とは、疾患の症状を回復、治癒または軽減させるか、あるいは、疾患の進行を抑制または阻止するため、疾患に罹った被験体のケアを行うことをいう。また、処置は、ウイルス感染した被験体を他の被験体に対して非感染性にする処置もいう。処置は、EBVのウイルス量を減少させてもよい。
【0114】
EBV特異的T細胞は、LMP−2抗原が発現している任意のEBV関連状態の処置に使用してもよい。
【0115】
たとえば、EBV特異的T細胞は、EBV陽性ホジキンリンパ腫、EBV陽性鼻咽腔癌、またはEBV陽性移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)の管理に使用してもよい。PTLDは、固形臓器移植(腎臓、心臓、肺、肝臓)後、および同種HSCT後に起こる。
【0116】
バーキットリンパ腫は、赤道アフリカで最も多い小児期悪性腫瘍である。腫瘍は、顎に限局することを特徴とする。遺伝的研究から、赤道アフリカ(95%を超える小児が3歳までにEBVに感染している)では、大多数のバーキットリンパ腫がEBV感染リンパ球から生じることが明らかになっている。
【0117】
ホジキンリンパ腫は、疾患がリンパ節群からリンパ節群へと規則的に広がること、および疾患の進行に伴い全身性症状が発現することを特徴とする。いくつかの地域および患者群では、ホジキンリンパ腫の症例の最大50%でEBV遺伝子材料が認められる。
【0118】
鼻咽腔癌は、中国南部で最も多い癌の1つである。鼻咽腔癌は、鼻咽頭に生じる。鼻咽頭は、咽頭、すなわち「のど」の最上部の領域であり、それに鼻腔および耳管を加えると上気道になる。
【0119】
移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)とは、臓器移植後の人に発生することがある状態の一分類をいう。PTLDの症例の大部分にEBVウイルスが関係していると考えられている。症候は、血流中のリンパ球の数の増加から、B細胞リンパ腫などの血液−細胞悪性腫瘍まで多岐にわたる場合がある。
【0120】
PTLDは、エプスタインバーウイルスの感染後にB細胞リンパ球が制御不能に増殖する。
【0121】
移植拒絶反応の予防または処置において抗T細胞抗体を使用することによりT細胞が欠乏すると、移植後リンパ増殖性疾患を発症するリスクが一層高まる。
【0122】
ポリクローナルPTLDは、腫瘍塊を形成し、塊の影響による症状、たとえば、腸閉塞の症状を呈することがある。PTLDのモノクローナル形態は、播種性悪性リンパ腫を形成する傾向がある。
【0123】
PTLDは、免疫抑制剤の抑制または停止により自然に改善することがあり、抗ウイルス療法を併用して処置してもよい。
【0124】
造血幹細胞移植(HSCT)は、骨髄または血液に由来する血液幹細胞の移植である。幹細胞移植は、多くの場合、血液、骨髄の疾患、またはある種の癌の人に行われる。
【0125】
現在、幹細胞増殖因子GM−CSFおよびG−CSFが利用できれば、大部分の造血幹細胞移植の手順は、骨髄からではなく末梢血から採取された幹細胞を用いて行われる。末梢血幹細胞を採取すると、より大きな移植片が得られ、移植片の採取のためドナーに全身麻酔を施す必要がなくなり、その結果生着時間が短くなり、長期再発率が低下する可能性がある。
【0126】
造血幹細胞移植は依然として、多くの合併症を伴う恐れがあるリスクの高い手順である。造血幹細胞移植は伝統的に、生命を脅かす疾患のある患者に行われてきた。重度の障害を引き起こす自己免疫疾患および循環器疾患など非悪性および非造血系の適応症に実験的に使用されることもあるが、致死的な合併症のリスクが非常に高いため、広く受け入れられていないようである。
【0127】
HSCTを受けた人の多くは、化学療法による長期的な処置で効果が得られないと考えられるか、またはすでに化学療法に耐性となっている多発性骨髄腫または白血病の患者である。HSCTの候補として、幹細胞の異常を含む重症複合免疫不全症または先天性好中球減少症など先天的な障害がある小児例、さらに出生後幹細胞を失った再生不良性貧血の子供または成人が挙げられる。幹細胞の移植で処置される他の状態には、鎌状赤血球病、骨髄異形成症候群、神経芽細胞腫、リンパ腫、ユーイング肉腫、線維形成性小円形細胞腫瘍およびホジキン病がある。最近になって、前段階の小用量の化学療法および放射線を必要とする骨髄非破壊的手順、すなわち、いわゆる「ミニ移植」手順が開発されている。これにより、高齢の患者、および本来ならば、従来の処置レジメンに耐えるのが困難であると考えられる他の患者にHSCTを行うことが可能になっている。
【0128】
さらに、高度の免疫抑制状態の(またはT細胞が除去された)減量強度前治療Allo−HSCTも開発されている。これらのアプローチは、併存疾患がより多い高齢の患者の移植の毒性を低下させる。
【0129】
同種HSCTには、2名、すなわち(健常)ドナーと(患者)レシピエントとが関わる。同種HSCのドナーは、レシピエントに適合する組織型(HLA)を持っていなければならない。マッチングは、(HLA)遺伝子の3つまたはそれ以上の遺伝子座の多様性に基づき行われ、これらの遺伝子座の完全一致が好ましい。これらの決定的な対立遺伝子が十分に一致しても、レシピエントには、移植片対宿主病を緩和するため、免疫抑制薬療法が必要となる。同種移植のドナーは、血縁者(通常、HLAが厳密に一致した兄弟姉妹)でも、同系(患者の単一接合子または「一卵性」双生児−ほとんどの患者には一卵性双生児がいないため、必然的に極めて稀であるが、HLAが完全に一致する幹細胞の供給源となる)でも、または非血縁者(血縁者ではなく、HLAの一致の程度が非常に高いことが明らかになっているドナー)でもよい。同種HSCTのレシピエントの約25〜30%には、HLA同一の兄弟姉妹がある。また、同種移植は、幹細胞の供給源として臍帯血を用いても行われる。一般に、同種HCSTは、すぐに現れる移植関連合併症が解決されるならば、健康な幹細胞をレシピエントの免疫系に移植することにより、治癒または長期寛解の可能性を高めると思われる。
【0130】
被験体は、ヒト被験者であってもよい。特に被験体は、移植レシピエントであってもよい。
【0131】
次に、本発明について実施例によってさらに説明する。実施例は、当業者が本発明を実施しやすくなることを意図するものであり、いかなる意味においても本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0132】
実施例1
EBV特異的TCR遺伝子を送達するレトロウイルスベクターの構築
TCR遺伝子治療の重要な課題は、Tリンパ球の高レベルの発現を持続できるベクターの選択である。プールが限定的なCD3分子について、導入されたTCRが内因性TCRと競合するには、高い発現レベルが必要とされる。さらに、TCR遺伝子治療の要件には、(i)エキソビボ操作を最低限にして最大30%の導入効率、(ii)自己複製能を持つベクターの非存在、および(iii)記憶の発達を可能にする一定期間における安定なTCRの発現がある。
【0133】
本研究では、遺伝子発現を高め、内因性TCR鎖との誤対合を最小限に抑えるため、TCR配列のコドン最適化を行い、かつα鎖およびβ鎖の各定常領域にシステインを追加したMP71ベクター骨格を使用した。MP71ベクター骨格は、以前に記載されている(Hildignerら(1999)J.Virol.73:4083−4089)。MP71ベクターのLTRは骨髄増殖性肉腫ウイルス(MPSV:Myeloproliferative Sacrcoma Virus)に由来し、リーダー配列(LS:leader sequence)は、マウス胚性幹細胞ウイルス(MESV:Mouse Embryonic Stem Cell Virus)に由来する。リーダー配列は、臨床応用の際のベクターの安全性を高めるように設計した。ATGコドンをすべて除去して、起こり得るタンパク質/ペプチド生成のリスクを抑え、内因性レトロウイルス配列との相同組み換えの可能性を低下させた。MP71に挿入された遺伝子の発現については、リーダー配列の3’末端の最小スプライス受容部位により増強させる。当初のMP71ベクターは、転写後レベルでの遺伝子発現を増強するため、全長ウッドチャック肝炎応答エレメント(WPRE)を含んでいた。ATGコドンを変異させた、切断型のWPREを含むMP71ベクターは現在、HIV患者を対象に、遺伝子組み換えT細胞を用いたドイツの臨床試験で使用されている。
【0134】
本発明者らはさらにMP71ベクターを改変し、WPRE配列をまったく含まない改変体を試験した。このベクターは、図1に示すように、内部自己切断型ブタテシオウイルス2A配列により連結されたEBVのTCRのα遺伝子およびβ遺伝子を含む。TCRのα遺伝子およびβ遺伝子は、EBVのLMP−2特異的CTLクローンによる優勢なTCR使用に基づき合成した。TCRα−2A−TCRβ産物のアミノ酸配列を配列番号8に、そのコード配列を配列番号9に示す。
【0135】
実施例2
TCRを形質導入した、EBVのLMP−2特異的ヒトT細胞の産生
EBVに特異的なヒトT細胞受容体(TCR)遺伝子を、所望のTCR遺伝子を有するレトロウイルスベクターを使用することによりヒトT細胞に形質導入した。簡単に説明すると、リン酸カルシウム沈殿法を用いて、レトロウイルスのgag−pol遺伝子を発現しているアンホトロピックなパッケージング細胞に、所定のTCR−レトロウイルスベクターをトランスフェクトした。レトロウイルスのトランスフェクション後、トランスフェクション培地をヒトT細胞培地に交換し、レトロウイルスの上清を回収した。次いで、所望のTCR遺伝子を発現しているウイルス粒子を含む、集めたレトロウイルスの上清を用いて、活性化ヒトT細胞に感染/形質導入する。24時間後、導入されたTCR遺伝子は、形質導入したT細胞の表面に発現し、FACS染色で検出することができる。
【0136】
レトロウイルスによりLMP−2特異的TCRを移入すると、ペプチド/MHC四量体染色および抗Vβ13抗体染色により測定されるように、レシピエントT細胞の表面にTCRが発現される(図2)。
【0137】
実施例3
TCRを形質導入したT細胞の細胞内サイトカイン染色
機能的な抗原特異的活性を実証するため、本発明者らは、抗原特異的刺激および細胞内サイトカイン染色アッセイを行った。
【0138】
1mg/mlでブレフェルジンA(Sigma−Aldrich)を含む200mlの培養基を用いて、TCRを形質導入したT細胞(2×10)を、100mMの関係するペプチド(pCLG:CLGGLLTMV)、または無関係のペプチド(pNLV:NLVPMVATV)ペプチドでコートした2×10個のT2刺激細胞とインキュベートした。37℃、5%COで18時間のインキュベーション期間後、細胞を最初に表面CD8またはCD4に対して染色し、次いで製造者の指示に従いFix & Permキット(Caltag)を用いて固定し、透過処理し、細胞内IFNg、IL2およびTNFaに対して染色した。サンプルをLSRIIフローサイトメーターによって取得し、データは、FACSDivaソフトウェア(BD Biosciences)を用いて解析した。
【0139】
結果を図3および図4に示す。
【0140】
上記の明細書で言及した刊行物はすべて、参照によって本明細書に援用する。記載した本発明の方法およびシステムの様々な修正および変形が、本発明の範囲および精神を逸脱することなく、当業者には明らかになるであろう。本発明について特定の好ましい実施形態と共に説明してきたが、特許請求の範囲に記載の本発明は、こうした特定の実施形態に不必要に限定されるものではないことを理解すべきである。実際、分子生物学または関連する分野の当業者に明らかな、本発明を実施するために記載した態様の様々な修正は、以下の特許請求の範囲の範囲内であることを意図している。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]