特許第6180123号(P6180123)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6180123
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】キャスク、およびキャスク用衝撃吸収体
(51)【国際特許分類】
   G21C 19/32 20060101AFI20170807BHJP
   G21F 5/08 20060101ALI20170807BHJP
   G21F 9/36 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   G21C19/32 V
   G21F5/00 S
   G21F9/36 501J
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-14602(P2013-14602)
(22)【出願日】2013年1月29日
(65)【公開番号】特開2014-145674(P2014-145674A)
(43)【公開日】2014年8月14日
【審査請求日】2015年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅原 啓介
(72)【発明者】
【氏名】下条 純
(72)【発明者】
【氏名】萬谷 健一
(72)【発明者】
【氏名】大石 章人
(72)【発明者】
【氏名】奥村 昌好
(72)【発明者】
【氏名】谷内 広明
(72)【発明者】
【氏名】白倉 貴雄
(72)【発明者】
【氏名】影山 典広
(72)【発明者】
【氏名】横江 大
(72)【発明者】
【氏名】大内 正彦
【審査官】 藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−083291(JP,A)
【文献】 特開2004−309235(JP,A)
【文献】 特開2002−174694(JP,A)
【文献】 実開昭63−199099(JP,U)
【文献】 特開2006−071490(JP,A)
【文献】 特開2005−321304(JP,A)
【文献】 特開2006−090705(JP,A)
【文献】 特開昭62−259099(JP,A)
【文献】 特開2004−156930(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0004390(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0157833(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 19/32
G21F 5/00−5/14
G21F 9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性物質を収容する有底円筒形状のキャスク本体と、
前記キャスク本体の上端部に設けられた開口を閉止する蓋体と、
前記キャスク本体の上端部の周囲に取り付けられる環形状の主衝撃吸収体と、
前記主衝撃吸収体の内側であって前記蓋体の上面に取り付けられる、前記主衝撃吸収体よりも潰れやすい柱形状または筒形状の補助衝撃吸収体と、
を備え、
前記補助衝撃吸収体は、キャスクがその頭部から垂直落下した際に、前記主衝撃吸収体とともに床面と衝突する高さ寸法とされており、
前記補助衝撃吸収体の先端部が面取りされている、キャスク。
【請求項2】
請求項1に記載のキャスクにおいて、
前記主衝撃吸収体と前記補助衝撃吸収体とは同じ材質であって、
前記主衝撃吸収体の軸方向と前記補助衝撃吸収体の軸方向とは同じ向きとされ、
前記補助衝撃吸収体の前記軸方向に直交する断面の面積が、前記主衝撃吸収体の前記軸方向に直交する断面の面積よりも小さくされていることで、前記補助衝撃吸収体は前記主衝撃吸収体よりも潰れやすくされている、キャスク。
【請求項3】
請求項1に記載のキャスクにおいて、
前記補助衝撃吸収体の材質が前記主衝撃吸収体の材質よりも圧縮強度が小さい材質とされていることで、前記補助衝撃吸収体は前記主衝撃吸収体よりも潰れやすくされている、キャスク。
【請求項4】
請求項1〜のいずれかに記載のキャスクにおいて、
前記蓋体は、相互に重ねられる複数の蓋体で構成されており、
複数の前記蓋体のうち中性子遮蔽材が収容される蓋体は、キャスクがその頭部から垂直落下した際に、前記キャスク本体側から前記補助衝撃吸収体へ衝撃荷重を伝達させるための衝撃伝達部材を内部に有している、キャスク。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のキャスクにおいて、
前記蓋体は、相互に重ねられる複数の蓋体で構成されており、
重ねられた複数の前記蓋体同士の間の少なくとも1つの隙間には、不活性ガスが充填される空間が形成されており、
キャスクがその頭部から垂直落下した際に、前記キャスク本体側から前記補助衝撃吸収体へ衝撃荷重を伝達させるため、前記空間の両側に位置する前記蓋体のうちのいずれか一方の蓋体、他の蓋体に向かって凸の形状とされている、キャスク。
【請求項6】
請求項1〜のいずれかに記載のキャスクにおいて、
前記補助衝撃吸収体の周囲に、当該補助衝撃吸収体が倒れることを防止する複数の補強部材が設置されており、
複数の前記補強部材は、前記補助衝撃吸収体を中心にして前記補助衝撃吸収体から放射状に延在するように設置されている、キャスク。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかに記載のキャスクにおいて、
前記主衝撃吸収体および前記補助衝撃吸収体は、カバープレートで覆われており、
前記主衝撃吸収体の先端部は、面取りされており、
前記カバープレートのうち、前記主衝撃吸収体の先端部および前記補助衝撃吸収体の先端部のうちの少なくともいずれか一方の、面取りされた角部を覆う部分は、床面との衝突側から前記キャスク本体側へ向けて湾曲した形状とされており、且つ、前記角部との間に空間を有するように形成されている、キャスク。
【請求項8】
放射性物質を収容する有底円筒形状のキャスク本体の上端部の周囲に取り付けられる環形状の主衝撃吸収体と、
前記主衝撃吸収体の内側であって、前記キャスク本体の上端部に設けられた開口を閉止する蓋体の上面に取り付けられる、前記主衝撃吸収体よりも潰れやすい柱形状または筒形状の補助衝撃吸収体と、
を備え、
前記補助衝撃吸収体は、キャスクがその頭部から垂直落下した際に、前記主衝撃吸収体とともに床面と衝突する高さ寸法とされており、
前記補助衝撃吸収体の先端部が面取りされている、キャスク用衝撃吸収体。
【請求項9】
請求項に記載のキャスク用衝撃吸収体において、
前記補助衝撃吸収体の周囲に設置される、当該補助衝撃吸収体が倒れることを防止する複数の補強部材をさらに備え、
複数の前記補強部材は、前記補助衝撃吸収体を中心にして前記補助衝撃吸収体から放射状に延在するように設置される、キャスク用衝撃吸収体。
【請求項10】
請求項8または9に記載のキャスク用衝撃吸収体において、
前記主衝撃吸収体および前記補助衝撃吸収体は、カバープレートで覆われており、
前記主衝撃吸収体の先端部は、面取りされており、
前記カバープレートのうち、前記主衝撃吸収体の先端部および前記補助衝撃吸収体の先端部のうちの少なくともいずれか一方の、面取りされた角部を覆う部分は、床面との衝突側から前記キャスク本体側へ向けて湾曲した形状とされており、且つ、前記角部との間に空間を有するように形成されている、キャスク用衝撃吸収体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性物質を収容して輸送・貯蔵するキャスク、およびキャスク用衝撃吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性物質、例えば使用済燃料は、例えば、原子力発電所内に設けられた冷却プールで、放射線の線源強度が一定レベル以下に低下するまで保管された後、除熱機能、密封機能、遮へい機能および未臨界維持機能を有するキャスクに収められ、燃料再処理施設或いは中間貯蔵施設等まで輸送される。キャスクは輸送時の万一の落下事故に備え、キャスクの中心軸が鉛直になる姿勢で落下する垂直落下、キャスクの中心軸が水平になる姿勢で落下する水平落下、そしてキャスクの中心軸がある角度をもつ姿勢で落下するコーナー落下などの様々な角度での落下に対しても、所定の除熱機能、密封機能、遮へい機能および未臨界維持機能を有することが要求されている。
【0003】
そこで、輸送時には、通常、キャスク(キャスク本体)の上下端に衝撃吸収体を取り付け、万一の落下時の衝撃を十分に緩和させるという対応がとられている。
【0004】
特許文献1〜3には、衝撃吸収体が取り付けられたキャスクが記載されている。ここで、特許文献1に記載のキャスク用緩衝構造体(衝撃吸収体)は、その内部が中空とされている。特許文献2に記載のキャスク用緩衝体(衝撃吸収体)は、その内部が中実とされている。また、特許文献3に記載のキャスク用緩衝体(衝撃吸収体)は、その中央部に外周部より高さの低い緩衝材が設置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−186427号公報
【特許文献2】特開2012−141243号公報
【特許文献3】特開2005−321304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明の概要を説明するに当たり、まず、内部収納物による遅れ落下衝撃という現象について説明する。キャスクが落下して床面に衝突する際、内部収納物(例えば使用済燃料など)による遅れ落下衝撃が起こる。キャスク本体とその内部収納物とは固定されていないため、キャスクが床面に衝突する際、キャスク本体と内部収納物とはばらばらの状態となっている。
【0007】
ここで、一例としてキャスクの頭部(蓋側)からの垂直落下(頭部垂直落下)を想定する。前記したように、キャスク本体と内部収納物とがばらばらの状態であるため、頭部から垂直に落下したキャスク(衝撃吸収体)が床面と衝突した時、内部収納物は、キャスク本体よりも遅れて蓋に衝突する場合がある。これにより、キャスク本体とその内部収納物とが固定されていると仮定した場合に比べて、蓋に生じる衝撃加速度が大きくなる。このような現象を、内部収納物による遅れ落下衝撃と呼ぶ。
【0008】
ここで、特許文献1に記載のキャスク用緩衝構造体では、その内部が中空とされているため、前記した内部収納物による遅れ落下衝撃により、蓋が大きく曲がってしまうことが懸念される。
【0009】
特許文献2に記載のキャスク用緩衝体では、その内部が中実とされているため、内部収納物による遅れ落下衝撃に起因する蓋の曲げ変形は抑制されるが、衝撃力の受圧面積が大きいため衝撃加速度が大きくなってしまう。衝撃加速度を抑えるには、緩衝体(衝撃吸収体)の圧縮応力を非常に小さいものにすればよいのであるが、そうすると緩衝体の寸法が非常に大きなものとなってしまう。キャスクには、通常、緩衝体が取り付けられた状態で、軸方向長さおよび径方向寸法の制限値が設定されているので問題となる。
【0010】
特許文献3に記載のキャスク用緩衝体では、その中央部に外周部より高さの低い緩衝材が設置されているため、特許文献2に記載の中実のキャスク用緩衝体よりも衝撃力の受圧面積が小さい、すなわち衝撃加速度はその分小さくなる。しかしながら、床面衝突時、中央部に設置された緩衝材により蓋が支持されないため、この緩衝材によって蓋の曲げ変形を十分に抑制することはできない。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、頭部垂直落下の際の衝撃加速度を著しく大きくすることなく、内部収納物による遅れ落下衝撃に起因する反力を支持することができる衝撃吸収体を備えるキャスクを提供することである。これを達成することにより、従来よりも蓋の曲げ変形を抑制することができ、蓋に生じる衝撃応力を小さくすることができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、放射性物質を収容する有底円筒形状のキャスク本体と、前記キャスク本体の上端部に設けられた開口を閉止する蓋体と、前記キャスク本体の上端部の周囲に取り付けられる環形状の主衝撃吸収体と、前記主衝撃吸収体の内側であって前記蓋体の上面に取り付けられる、前記主衝撃吸収体よりも潰れやすい柱形状または筒形状の補助衝撃吸収体と、を備えるキャスクである。前記補助衝撃吸収体は、キャスクがその頭部から垂直落下した際に、前記主衝撃吸収体とともに床面と衝突する高さ寸法とされている。ここで、潰れやすいとは、前記主衝撃吸収体、および補助衝撃吸収体に対して同じ変形量を与えるために必要な荷重が小さいということを意味する。
【0013】
なお、キャスクがその頭部から垂直落下した際に、補助衝撃吸収体が主衝撃吸収体とともに床面と衝突する、というのは、主衝撃吸収体と補助衝撃吸収体とが同時に床面に衝突する場合のみをいうのではない。主衝撃吸収体が床面に衝突した後に少し遅れて補助衝撃吸収体が床面に衝突する場合、補助衝撃吸収体が床面に衝突した後に少し遅れて主衝撃吸収体が床面に衝突する場合のいずれをも含む。なお、その時間差は極僅かである。
【0014】
また、本発明は、前記した特徴を有する主衝撃吸収体と補助衝撃吸収体とを少なくとも備えるキャスク用衝撃吸収体でもある。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、前記した補助衝撃吸収体により、頭部垂直落下の際の衝撃加速度を著しく大きくすることなく、内部収納物による遅れ落下衝撃に起因する反力を支持することができる。これにより、従来よりも蓋の曲げ変形を抑制することができ、衝撃力により蓋に生じる曲げ応力を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係るキャスクの側断面図である。
図2図1に示すキャスクの平断面図である(衝撃吸収体の図示は省略されている)。
図3図1のA部拡大図である。
図4】木材の圧縮応力と変形量との関係を示すグラフである。
図5図1に示したキャスクの変形例を説明するための図3に相当する図である。
図6図1に示したキャスクの変形例を説明するための図3に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
【0018】
図1および図2に示すように、キャスク100(放射性物質(例えば使用済燃料)の輸送貯蔵容器)は、有底円筒形状のキャスク本体1と、キャスク本体1の上端部に設けられた開口を閉止する蓋体(一次蓋2、二次蓋3、および三次蓋4)とを備えている。放射性物質(例えば使用済燃料)は、このキャスク本体1に収納される。キャスク本体1および蓋体(2、3、4)は金属製である。キャスク本体1の内部には、格子状に形成された金属製のバスケット9が配置されている。また、キャスク本体1の外周部には、ハンドリング用の複数のトラニオン8が取り付けられている。本実施形態のキャスク本体1の底板部は、円筒形状の側壁部と一体成形されている。なお、キャスク本体1の底板部と円筒形状の側壁部とをそれぞれ別に製作し、溶接などにより両者を接合してもよい。
【0019】
キャスク100輸送時には、キャスク本体1の上下端に、それぞれ衝撃吸収体5、6が取り付けられる。また、キャスク本体1の頭部側(上部側)であって、三次蓋4の上面には、衝撃吸収体5、7が取り付けられる。キャスク本体1の頭部側に取り付けられる衝撃吸収体5、7を、それぞれ、主衝撃吸収体5、補助衝撃吸収体7と区別して記載する。衝撃吸収体(5、6、7)は、本発明のキャスク用衝撃吸収体の一例である。
【0020】
衝撃吸収体(5、6、7)は、キャスクの強度設計上、その許容変形量内で床面衝突時の衝撃加速度を極力抑えることが要求される。そのため、衝撃吸収体(5、6、7)の材料として、圧縮応力が収縮の初期から終了まで一定値を示すものが望ましく、木材が最も多く使用される。木材の種類としては、バルサ、レッドウッド、オーク、ファープライウッドなどが挙げられる。木材以外の材料としては、発砲ウレタンなどの発砲樹脂素材、発砲アルミニウムなどの発砲金属素材などがある。
【0021】
衝撃吸収体(5、6、7)の衝撃吸収特性について、衝撃吸収体(5、6、7)の材料として木材を用いた場合を例にとり、図4を参照しつつ説明する。
【0022】
キャスクには、事故時の評価事象として9m落下試験がある。9m落下による衝撃力を衝撃吸収体で吸収する設計がキャスクになされている。木材の圧縮応力−歪(変形量)特性は、一般的に図4のような特性である。
【0023】
ここで、衝撃吸収体(木材)の変形量は、キャスクの9m落下による位置エネルギー(E1)と衝撃吸収体(木材)の変形による衝撃吸収エネルギー(E2)がバランスするような変形量となる。衝撃吸収体の設計では、衝撃吸収によるその変形量がフラットな領域(図4に示す圧縮応力がほぼ一定の領域)で収まるようにするため、エネルギーのバランスからキャスクに生じる衝撃力(F)は、簡易的に式(1)のように表される。
【0024】
E1=mgh
E2=δσA
E1=E2より、
F=σA=mgh/δ ・・・式(1)
F:キャスクに生じる衝撃力[N]
m:キャスクの質量[kg]
A:衝撃力の受圧面積(衝撃吸収体の受圧面積)[m]
σ:木材の圧縮応力[N/m]
δ:木材の変形量[m]
h:落下距離[m]
g:重力加速度[m/s]
【0025】
前記したように、衝撃吸収体の設計では、衝撃吸収によるその変形量がフラットな領域で収まるようにするため、木材の圧縮応力は、衝撃吸収体の設計変形領域ではほぼ一定である。そのため、床面衝突時の衝撃加速度(α)は、簡易的に式(2)のように表される。よって、キャスクに生じる衝撃加速度は、その衝撃力の受圧面積(A)に比例しキャスクの質量(m)に反比例するため、衝撃力(衝撃吸収体)の受圧面積を小さくする方が、キャスクに生じる衝撃加速度が小さくなり、キャスク内部に収納された使用済燃料などの放射性物質に与える損傷を小さくすることができる。
【0026】
α=F/m=σA/m ・・・式(2)
α:キャスクに生じる衝撃加速度[m/s]
【0027】
(主衝撃吸収体)
図1および図3を参照しつつ、主衝撃吸収体5、補助衝撃吸収体7およびその周辺の構成について説明する。なお、主衝撃吸収体5、補助衝撃吸収体7の材料は、例示として木材としている。
【0028】
主衝撃吸収体5は、全体としてリング形状とされ、キャスク本体1の上端部の周囲に取り付けられる。より具体的には、リング形状の金属製プレート23および円形の金属製プレート22を介して、キャスク本体1の上端部の周囲に主衝撃吸収体5は取り付けられる。金属製プレート22、23の材質は例えば炭素鋼或いはステンレス鋼である。
【0029】
ここで、主衝撃吸収体5の上端部(先端部)は、内側、外側とも面取りされている。内周側の面取り部に符号5bを付し、外周側の面取り部に符号5aを付して図3に示している。主衝撃吸収体5の内周面には金属製のリブ25(補強部材)が取り付けられている。リブ25は金属製プレート22に固定されている。リブ25の材質は例えば炭素鋼或いはステンレス鋼である。
【0030】
(補助衝撃吸収体)
主衝撃吸収体5の内側には補助衝撃吸収体7が配置されている。補助衝撃吸収体7は中実の柱形状とされている。なお、筒形状の補助衝撃吸収体7としてもよい。
【0031】
補助衝撃吸収体7は、三次蓋4の中心に配置されている。また、補助衝撃吸収体7の軸方向と主衝撃吸収体5の軸方向とは同じ向きとされている。補助衝撃吸収体7の軸方向および主衝撃吸収体5の軸方向は、蓋体(2、3、4)に対して垂直とされている。また、各衝撃吸収体(5、6、7)の軸心、キャスク本体1の軸心、および各蓋体(2、3、4)の軸心は一致させられている。なお、補助衝撃吸収体7は、平面視において、三次蓋4(キャスク本体1)の中心に配置されていることが好ましいが、三次蓋4(キャスク本体1)の中心からずれて配置されていてもよい。
【0032】
本実施形態においては、主衝撃吸収体5と補助衝撃吸収体7とは、いずれも同じ種類の木材(同じ材質)とされている。そして、補助衝撃吸収体7の軸方向に直交する断面の面積は、主衝撃吸収体5の軸方向に直交する断面の面積よりも十分に小さくされている。補助衝撃吸収体7の軸方向に直交する断面の面積が、主衝撃吸収体5の軸方向に直交する断面の面積よりも十分に小さくされていることで、補助衝撃吸収体7は主衝撃吸収体5よりも潰れやすい。換言すれば、衝撃力の受圧面積が、主衝撃吸収体5よりも補助衝撃吸収体7のほうが十分に小さいので、前記した式(2)より、頭部垂直落下の際のキャスクに生じる衝撃加速度は、主衝撃吸収体5だけの場合よりも著しく大きくならない。
なお、補助衝撃吸収体7の断面積を、主衝撃吸収体5の断面積よりもどの程度小さくするのかは、適宜、設計により決定される。ポイントは、主衝撃吸収体5と補助衝撃吸収体7とが同じ材質である場合に、補助衝撃吸収体7の断面積が主衝撃吸収体5の断面積よりも小さくされていることである。
【0033】
ここで、補助衝撃吸収体7の上端部(先端部)は面取りされている。面取り部に符号7aを付して図3に示している。前記した補助衝撃吸収体7の断面積とは、図3に例示すように、補助衝撃吸収体7のB−B断面の面積、すなわち、補助衝撃吸収体7の、面取りされていない主たる部位(衝撃吸収体の設計上の主たる部位)の断面積のことである。主衝撃吸収体5の断面積についても同様、主衝撃吸収体5の断面積とは、図3に例示すように、主衝撃吸収体5のC−C断面の面積、すなわち、主衝撃吸収体5の、面取りされていない主たる部位(衝撃吸収体の設計上の主たる部位)の断面積のことである。
【0034】
ここで、主衝撃吸収体5との関係において補助衝撃吸収体7の断面積を図3に示した程度にまで小さくするのではなく、主衝撃吸収体5を構成する木材の圧縮応力よりも低い圧縮応力の木材で補助衝撃吸収体7を構成することにより、すなわち、補助衝撃吸収体7の材質を主衝撃吸収体5の材質よりも圧縮強度が小さい材質とすることで、主衝撃吸収体5よりも潰れやすい補助衝撃吸収体7としてもよい。圧縮応力が低いと、前記した式(2)より、頭部垂直落下の際のキャスクに生じる衝撃加速度は、主衝撃吸収体5だけの場合よりも著しく大きくならない。
【0035】
補助衝撃吸収体7は、キャスクがその頭部から垂直落下した際に、主衝撃吸収体5とともに床面と衝突する高さ寸法Hとされる。本実施形態では、主衝撃吸収体5および補助衝撃吸収体7が、金属製プレート22、23を介してキャスクに取り付けられた状態において、補助衝撃吸収体7の先端レベルと、主衝撃吸収体5の先端レベルとがほぼ同一レベル(同一高さ)となるように、補助衝撃吸収体7の高さ寸法Hが決められている。
【0036】
なお、補助衝撃吸収体7が主衝撃吸収体5とともに床面と衝突することを前提にして、補助衝撃吸収体7の先端を主衝撃吸収体5の先端よりもキャスク本体1から離れる方向に少し突出させておくことも好ましい。これにより、床面衝突時に瞬間的に生じる大きな衝撃加速度を緩和することができる。
【0037】
なお、本願でいう床面とは、著名な国語辞書で出てくる、室内の板を張った所の面のみを言うものではない。例えば地面も本願でいう床面に相当する。すなわち、本願でいう床面とは、キャスク輸送時またはその取扱い時に、キャスクが落下し得る所の面のことをいう。
【0038】
(カバープレート)
主衝撃吸収体5および補助衝撃吸収体7は、金属製のカバープレート10で覆われている。カバープレート10は、主衝撃吸収体5および補助衝撃吸収体7をまとめて覆うカバープレート19と、主衝撃吸収体5の内周面を覆う筒形状のカバープレート20と、補助衝撃吸収体7の外周面を覆う筒形状のカバープレート21と、金属製プレート22、23とで構成されている。これら部材の材質は例えば炭素鋼或いはステンレス鋼である。
【0039】
主衝撃吸収体5および補助衝撃吸収体7をカバープレート10で覆うことにより、それぞれの衝撃吸収体(木材)の衝撃吸収性能が十分に発揮される。床面との衝突時、木材が潰れて飛散することをこのカバープレート10で防止できるからである。
【0040】
ここで、カバープレート10のうち、主衝撃吸収体5の先端部のうちの面取りされた角部(面取り部5a)を覆う部分は、頭部垂直落下時の床面との衝突側からキャスク本体1側へ向けて湾曲しながら拡がる形状とされており、且つ、面取り部5aとの間に空間を有するように形成されている。この部分を湾曲部19aとして図3に符号を付して記載している。
【0041】
この構成によると、床面衝突の際、衝撃吸収体(5、7)の衝撃吸収性能を十分に発揮させることができるとともに、カバープレート19がスムーズに座屈変形するため、床面衝突時に瞬間的に生じる大きな衝撃加速度をより緩和することができる。主衝撃吸収体5および補助衝撃吸収体7を覆うカバープレート10の内部には空間があるので、火災試験において、キャスクの蓋体(2、3、4)部への入熱を抑制することができる、という効果もある。
【0042】
なお、カバープレート10のうち、カバープレート19とカバープレート20とで主衝撃吸収体5の面取り部5bを覆う部分を、座屈変形がスムーズとなるように湾曲部19aと同様の湾曲部とすることも好ましい。さらには、カバープレート10のうち、カバープレート19とカバープレート21とで補助衝撃吸収体7の面取り部7aを覆う部分を、座屈変形がスムーズとなるように湾曲部19aと同様の湾曲部とすることも好ましい。
【0043】
また、本実施形態においては、カバープレート10の内部空間が閉空間とならないよう、キャスク本体1側の金属製プレート22には孔22aがあけられている。これにより、床面衝突または火災を想定した熱的試験の際、カバープレート10内部の空気を外部に開放することができる。カバープレート10の破裂を防止することができる。なお、金属製プレート22と三次蓋4との間には空気が通過可能な隙間がある。
【0044】
(蓋体)
キャスク本体1の開口を閉止する蓋体は、相互に重ねられる円形の複数の蓋体で構成される。本実施形態では、一次蓋2、二次蓋3、および三次蓋4で構成されている。各蓋体(2、3、4)は、それぞれ、ボルト16、17、18でキャスク本体1に固定される。各蓋体(2、3、4)は、金属製である。なお、蓋体の枚数は、3枚に限定されるものではない。
【0045】
一次蓋2と三次蓋4との間に配置される二次蓋3の内部には中性子遮蔽材15が収容されている。中性子遮蔽材15は、例えばエチレンプロピレン系ゴム、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂等である。
【0046】
二次蓋3は、キャスク本体1側の蓋本体11と、中性子遮蔽材15のカバーとなる遮蔽材カバー蓋12とを備えている。蓋本体11と遮蔽材カバー蓋12との間に形成される中性子遮蔽材15が収容される領域には、円環形状の金属製のリブ13が設置されている。なお、リブ13の形状は円筒形状に限られるものではない。
【0047】
ここで、リブ13は、キャスクがその頭部から垂直落下した際に、キャスク本体1側から補助衝撃吸収体7へ、衝撃荷重(内部収納物による遅れ落下衝撃)を伝達させるための衝撃伝達部材であり、補助衝撃吸収体7の下方に配置されている。リブ13の下端は、蓋本体11の上面に溶接固定される。リブ13の上端は、遮蔽材カバー蓋12を貫通する態様で、遮蔽材カバー蓋12の上方へ突出している。リブ13の上端と三次蓋4の下面との間には極僅かな隙間がある。なお、リブ13の上端と三次蓋4の下面とを当接させてもよい。
【0048】
一次蓋2と二次蓋3との間の隙間S(空間)には、ヘリウムガスなどの不活性ガスが充填される。このガス圧力を監視することで、一次蓋2と二次蓋3との密封部に漏れがないことを確認できる。ここで、この隙間Sの両側に位置する蓋体(2、3)のうちの二次蓋3の蓋本体11は、一次蓋2側に向かって凸の形状とされている。この部分を凸部11aとして図3に示している。凸部11aの平面視形状は例えば円形である。平面視において、凸部11aの中心と、キャスク本体1および補助衝撃吸収体7の中心とは一致させられている。
【0049】
凸部11aは、キャスクがその頭部から垂直落下した際に、キャスク本体1側から補助衝撃吸収体7へ、衝撃荷重(内部収納物による遅れ落下衝撃)を伝達させるために設けられている。なお、二次蓋3にこのような凸部を設ける代わりに、一次蓋2の二次蓋3と対向する側の面に、二次蓋3側に凸な凸部を設けてもよい。
【0050】
(実施例)
補助衝撃吸収体7がある場合とない場合とで頭部垂直落下時の解析を行い、蓋の構造強度に与える影響を比較検討した。
<解析条件>
キャスクの形状:図1図3に示したとおり
主衝撃吸収体5の内径:約φ1600mm
主衝撃吸収体5の外径:約φ3500mm
主衝撃吸収体5の軸方向長さ(最長部):約1000mm
補助衝撃吸収体7の外径:約300mm
衝撃吸収体(5、7)の材質:レッドウッド
カバープレート10の材質:ステンレス鋼
内部収納物による遅れ落下の衝撃加速度:約200G
キャスク総重量:約132トン
【0051】
解析結果を表1に示す。
【表1】
余裕率=(許容応力−発生応力)/許容応力
許容応力:各部材の許容応力
【0052】
余裕率が負の値であるということは、構造的に設計が成立しないことを意味する。よって、本実施例では、補助衝撃吸収体7が無い場合、構造的に設計が成立しない。
【0053】
(作用・効果)
本発明によると、主衝撃吸収体5よりも潰れやすい柱形状または筒形状の補助衝撃吸収体7を、主衝撃吸収体5の内側であって蓋体(例えば三次蓋4)の上面に取り付けることで、当該補助衝撃吸収体7により、頭部垂直落下の際の衝撃加速度を著しく大きくすることなく、内部収納物による遅れ落下衝撃に起因する反力を支持することができる。これにより、従来よりも蓋の曲げ変形を抑制することができ、衝撃により蓋に生じる曲げ応力を小さくすることができる。
【0054】
ここで、主衝撃吸収体5の材質と補助衝撃吸収体7の材質とを同じにし、補助衝撃吸収体7の断面積を主衝撃吸収体5の断面積よりも小さくすることで、主衝撃吸収体5よりも潰れやすい補助衝撃吸収体7とすることが好ましい。1種類の材料で、主衝撃吸収体5および補助衝撃吸収体7を製造することができるので、衝撃吸収体の材料の管理が非常に行い易くなるからである。
【0055】
また、補助衝撃吸収体7の先端部が面取りされていることも好ましい。これにより、床面衝突時に瞬間的に生じる大きな衝撃加速度を緩和することができる。補助衝撃吸収体7の先端部が面取りされていることで、補助衝撃吸収体7の先端部の断面積は、頭部垂直落下時の床面側からキャスク本体側に向けて徐々に大きくなる。床面衝突瞬間の衝撃力の受圧面積が小さいので、キャスクに生じる衝撃加速度は小さくなる。これにより、床面衝突時に瞬間的に生じる大きな衝撃加速度を緩和することができるのである。
【0056】
また、キャスク本体の上端部の開口を閉止する、中性子遮蔽材が収容される蓋体に関し、キャスクがその頭部から垂直落下した際に、キャスク本体側から補助衝撃吸収体7へ衝撃荷重を伝達させるための衝撃伝達部材を内部に設置することで、内部収納物による遅れ落下衝撃を当該衝撃伝達部材により補助衝撃吸収体7へ逃がすことができ、蓋体の曲げ変形をより抑制することができる。
【0057】
また、重ねられた蓋体同士の間に形成された隙間(空間)の両側に位置する蓋体のうちのいずれか一方に、キャスク本体側から補助衝撃吸収体7へ衝撃荷重を伝達させるための凸部を形成することで、上記と同様、内部収納物による遅れ落下衝撃を当該凸部により補助衝撃吸収体7へ逃がすことができ、蓋体の曲げ変形をより抑制することができる。
【0058】
(変形例)
図5を参照しつつ、補助衝撃吸収体7部分の変形例について説明する。なお、図5においては、図1〜3に示した部材と同様の部材については同一の符号を付している(図6においても同様)。
【0059】
図5に示したように、本変形例では、補助衝撃吸収体7の周囲に、補助衝撃吸収体7が倒れることを防止する複数のリブ24(補強部材)を設置している。複数のリブ24は、補助衝撃吸収体7を中心にして補助衝撃吸収体7から放射状に延在するように設置されている。リブ24の形状は直角三角形とされ、直角部を挟む一辺は、補助衝撃吸収体7を覆うカバープレート21に固定され、他辺は、金属製プレート22に固定されている。
【0060】
この構成によると、頭部垂直落下時の衝撃により、補助衝撃吸収体7が横方向に倒れることを防止できる。これにより、補助衝撃吸収体7の衝撃吸収性能を十分に発揮させることができる。
【0061】
図6を参照しつつ、中性子遮蔽材が収容される蓋体の内部に設置される衝撃伝達部材としてのリブの変形例について説明する。図3に示したリブ13と、図6に示したリブ16とは、円環形状であるという点、補助衝撃吸収体7の下方に配置されているという点、で共通の構成を有する。本変形例では、リブ16の上端を遮蔽材カバー蓋12の下面に当接させている。
【符号の説明】
【0062】
1:キャスク本体
2:一次蓋
3:二次蓋
4:三次蓋
5:主衝撃吸収体
6:衝撃吸収体
7:補助衝撃吸収体
8:トラニオン
9:バスケット
10:カバープレート
100:キャスク
図1
図2
図3
図4
図5
図6