(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6180141
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】電線のシールド構造
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20170807BHJP
H02G 3/04 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
H05K9/00 K
H02G3/04 037
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-57337(P2013-57337)
(22)【出願日】2013年3月19日
(65)【公開番号】特開2014-183234(P2014-183234A)
(43)【公開日】2014年9月29日
【審査請求日】2016年2月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098017
【弁理士】
【氏名又は名称】吉岡 宏嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100120053
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 哲明
(72)【発明者】
【氏名】加藤 元
(72)【発明者】
【氏名】宮島 貴晃
(72)【発明者】
【氏名】山田 剛
(72)【発明者】
【氏名】野沢 尭志
【審査官】
白石 圭吾
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−119346(JP,A)
【文献】
実開昭62−048618(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
H02G 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に配線される複数の電線を一括して包囲してシールドする筒状のシールド材と、
前記シールド材の筒端部に接続されて前記筒端部で前記シールド材をアースするシールドシェルと、
前記シールド材の中間部の外周に取り付けられて前記シールド材及び前記複数の電線を束ねて保持するとともに、前記シールド材を前記中間部でアースするアース金具とを備え、
前記アース金具は、前記シールド材の外周に沿って移動可能に形成され、
前記アース金具が少なくとも1つ以上設けられ、前記アース金具と前記シールドシェルとの間にシールド回路を形成することを特徴とする電線のシールド構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線のシールド構造、具体的には、複数の電線を1つのシールド材で一括して包囲するシールド構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車等の車両において電装品間を電線で接続する場合、該電装品から生ずる電磁波等のノイズの伝播を防ぐため、電線をシールド材(編組や箔等)で被覆している。かかるシールド材の端部にはシールドシェルが組み付けられており、該シールドシェルを電装品の筺体や車体板金パネルなどに接触させることで、ノイズをアースさせている。その際、複数の電線を1つのシールド材で一括して包囲し、その端部に単一のシールドシェルを組み付けることで、シールドシェルの組付工数を削減することができる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−264040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようなシールド構造であっても、特定周波数のノイズを遮断し、かかるノイズの伝播を防止することは難しい。また、複数の電線を1つのシールド材で一括して包囲した場合、これらの電線束が振動によって振れてシールド材が該シールド材の外装部材(プロテクタ)や車体板金などに当たった際の衝撃が大きくなり、電線及びシールド材の損傷、異音などを生じさせるおそれがある。
【0005】
本発明はこれを踏まえてなされたものであり、その解決しようとする課題は、特定周波数のノイズの伝播を防止するとともに、電線及びシールド材の損傷、異音の発生を防止することが可能な電線のシールド構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る電線のシールド構造は、車両に配線される複数の電線を一括して包囲してシールドする筒状のシールド材と、前記シールド材の筒端部に接続されて前記筒端部で前記シールド材をアースするシールドシェルと、前記シールド材の中間部の外周に取り付けられて前記シールド材及び前記複数の電線を束ねて保持するとともに、前記シールド材を前記中間部でアースするアース金具とを備えることを特徴とする。
【0007】
この場合、前記アース金具は、前記シールド材の外周に沿って移動可能に形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特定周波数のノイズの伝播を防止するとともに、電線及びシールド材の損傷、異音の発生を防止することが可能な電線のシールド構造を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電線のシールド構造の全体構成を示す平面面である。
【
図2】
図1に示すアース金具の配置とした場合に形成されるシールド回路を模式的に示す図である。
【
図3】アース金具の取付位置を変更して
図1に示す配置とは別配置とした場合に形成されるシールド回路を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の電線のシールド構造(以下、単にシールド構造ともいう。)について、添付図面を参照して説明する。かかるシールド構造は、車両に配線される複数の電線を1つのシールド材で包囲してシールドするためのものである。各電線は、芯線である導体の外周が絶縁被覆で被覆された構成となっており、複数本が束ねられて自動車等の車両に搭載された比較的高圧の電装品間、例えば、ハイブリッド自動車に搭載された電動モータのインバータと電源装置との間などに配線される。なお、電線は、2層以上の導体と絶縁被覆が同心状に配された構造とすることも可能である。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係る電線のシールド構造の全体構成を示す平面図である。なお、
図1には、2本の電線1をシールドするためのシールド構造を一例として示しているが、電線の本数は特に限定されず、3本以上であっても構わない。これらの電線1には、伸延方向(
図1においては、左右方向)の双方の端末部に各線共有のコネクタ2が1つずつ設けられている。そして、各電線1には、端末部の絶縁被覆を剥離して露出させた導体にコネクタ2の接続端子21が取り付けられている。かかる接続端子21が電装品側に設けられた接続端子(図示しない)と接続されることで、電線1は該電装品と導通される。なお、コネクタ2は、接続端子21を収容するハウジング22を備えており、ハウジング22は、電線1の端末部に取り付けられた接続端子21を外部(電装品側)へ臨ませた状態で収容可能な構成となっている。
【0012】
本実施形態に係るシールド構造は、複数の電線1を一括して包囲してシールドする筒状のシールド材3と、シールド材3の筒端部3a,3bに接続されて該筒端部3a,3bでシールド材3をアース(接地)するシールドシェル4と、シールド材3の中間部の外周に取り付けられてシールド材3及び複数の電線1を束ねて保持するとともに、シールド材3を中間部でアースするアース金具5とを備えている。
【0013】
シールド材3は、編組や箔を筒状に形成してなる導体であって、コネクタ2a,2bの間で複数の電線1の外周を包囲するように配されている。一例として、
図1には、編組導体をシールド材3とした構成を示す。この場合、シールド材3は、一体の筒状に形成され、全長(
図1の左右方向に対する寸法)に亘って断面形状が同一(例えば、円筒状であれば、同一径)をなしている。そして、シールド材3は、筒端部3a,3bがシールドシェル4の外周に載置され、該筒端部3a,3bに被冠させた圧着リング6でシールドシェル4に圧着接続されている。なお、シールド材3は、その外周を外装部材(プロテクタ)で覆った構成としてもよい。
【0014】
シールドシェル4は、圧着リング6を被冠させてシールド材3を接続する筒状の接続部41と、接続部41から外側へ板状に延在するように設けられたシェル固定部42を有して構成されている。接続部41は、コネクタ2のハウジング22の外側を包囲するように形成され、ハウジング22に組み付けられている。シェル固定部42は、電装品の筺体や車体の板金パネル等に固定(例えば、ボルトで締結固定)可能に構成されている。これにより、シールドシェル4は、シェル固定部42を電装品の筺体や車体の板金パネル等に接触させることで、該シェル固定部42を通してシールド材3を筒端部3a,3bでアース(接地)させることができる。
【0015】
アース金具5は、シールド材3の外周に接触する筒状の金具締付部(以下、締付部という。)51と、車体の板金パネル等に固定される金具固定部(同、固定部という。)52を有して構成されている。例えば、アース金具5は、導電性を有する金属製のバンドやクランプなどとして構成することが可能である。一例として、導線性を有する帯状の金属板を締付部51とし、固定部52には、該締付部51を挿入して係止させる貫通孔を形成してなるバンドをアース金具5として適用することができる。この場合、締付部51を固定部52の一方側から突設し、シールド材3の外周に巻いた締付部51を固定部52の貫通孔へ他方側から挿入して一方側へ引き出す構成とすればよい。そして、固定部52の貫通孔の内面に係合爪を設け、締付部51の表面に鋸歯状の被係合溝を形成し、固定部52の係合爪を締付部51の被係合溝に係合させることで、アース金具5をシールド材3の外周に締め付ける構成とすればよい。また、別の一例として、導電性を有する金属板を折り曲げ加工して、折曲部分に締付部51を形成し、金属板の両端部分を重畳可能に形成して固定部52としたクランプをアース金具5として適用することもできる。かかるアース金具5によれば、固定部52を重畳させるように弾性変形させることで、締付部51が縮小するように弾性変形し、該締付部51をシールド材3の外周に接触させた状態で締め付ける構成とすることができる。なお、アース金具5をバンドもしくはクランプのいずれとした場合であっても、固定部52には、アース金具5を車体の板金パネル等へ固定するボルトを挿通するためのボルト孔53が形成されている。
【0016】
したがって、アース金具5をシールド材3の外周に取り付ける場合、バンドであれば、締付部51をシールド材3の外周に巻き付け、該締付部51を固定部52の貫通孔に挿入して係合させる。また、クランプであれば、固定部52が開いた状態で締付部51をシールド材3に装着し、固定部52が重畳するようにアース金具5を弾性変形させる。これにより、締付部51を縮小させてシールド材3の外周を締め付けた状態とすればよい。そして、ボルト孔53に挿通したボルトを車体の板金パネル等に締結することで、締付部51がシールド材3の外周を締め付けた状態でアース金具5を該板金パネル等に固定することができる。これにより、アース金具5は、固定部52を車体の板金パネル等に接触させることで、該固定部52を通してシールド材3を中間部(シールドシェル4aとシールドシェル4bの間)でアース(接地)させることができる。
【0017】
一方で、締付部51と固定部52との係合を解くこと、あるいは、固定部52を重畳させた状態から開いた状態とすることで、締付部51を拡張させることができる。したがって、この状態においては、アース金具5をシールド材3の外周に沿って移動させることができる。すなわち、シールド材3に対するアース金具5の取付位置を容易に変更することができる。取付位置の変更後は、締付部51を縮小させてシールド材3の外周を締め付けた状態で、アース金具5を改めて車体の板金パネル等にボルトで締結固定すればよい。
【0018】
また、締付部51を締め付けた状態においては、シールド材3で一括して包囲された複数の電線1をシールド材3とともに束ねることができ、アース金具5は、これらのシールド材3及び複数の電線1を束ねた状態で保持することができる。したがって、ボルト孔53に挿通したボルトで固定部52を車体の板金パネル等へ締結固定することで、アース金具5は、シールド材3及び複数の電線1を束ねて保持した状態で、これらを車体の板金パネル等へ固定することができる。これにより、車両が振動した場合であっても、電線1の束が振れることを抑制することができる。この結果、シールド材3がその外装部材(プロテクタ)や車体の板金パネル等に当たることを防止することができ、電線1及びシールド材3の損傷や異音の発生を防止することができる。
【0019】
ここで、
図1には、2つのアース金具5をシールド材3の中間部(シールドシェル4aとシールドシェル4bの間)に略等間隔で配置した構成を一例として示している。なお、シールド材3に取り付けるアース金具5の数は、任意に設定することができ、1つのみでもよいし、3つ以上であっても構わない。
図1に示すように、2つのアース金具5を配置した場合、これらのアース金具5の間、及び各アース金具5とシールドシェル4との間にそれぞれシールド回路を形成することができる。
図2には、
図1に示すようなアース金具5の配置とした場合に形成されるシールド回路を模式的に示す。この場合、シールドシェル4aとアース金具5aとの間にシールド回路C21、アース金具5aとアース金具5bの間にシールド回路C22、シールドシェル4bとアース金具5bとの間にシールド回路C23がそれぞれ形成される。
【0020】
また、上述したように、アース金具5は、シールド材3の外周に沿って移動させることができ、容易に取付位置を変更することができる。したがって、例えば、
図3に示すように、2つのアース金具5をそれぞれシールドシェル4の近傍に位置付け、2つのアース金具5の間隔を広げた配置とすることも可能である。この場合、シールドシェル4aとアース金具5aとの間にシールド回路C31、アース金具5aとアース金具5bの間にシールド回路C32、シールドシェル4bとアース金具5bとの間にシールド回路C33がそれぞれ形成される。
【0021】
図2及び
図3に示すように、アース金具5の取付位置を変更することで、かかるアース金具5及びシールドシェル4によって形成されるシールド回路の大きさを変更させることができる。例えば、シールド回路C22は、シールド回路C21,C23よりも小さく、シールド回路C32は、シールド回路C31,C33よりも大きい。また、シールド回路C22は、シールド回路C31,C32,C33のいずれよりも小さい。このようにシールド回路の大きさを変更させることで、アース金具5及びシールドシェル4でシールド可能な周波数域を変更させることができる。したがって、アース金具5の取付位置を調整することで、電線1が接続される電装品から生ずる電磁波等の特定周波数のノイズを遮断し、かかるノイズの伝播を防止することが可能となる。
【符号の説明】
【0022】
1 電線
3 シールド材
3a,3b 筒端部
4 シールドシェル
5 アース金具