特許第6180150号(P6180150)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6180150
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】歯車のホーニング加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23F 19/05 20060101AFI20170807BHJP
   B24B 53/075 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   B23F19/05
   B24B53/075
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-69487(P2013-69487)
(22)【出願日】2013年3月28日
(65)【公開番号】特開2014-188666(P2014-188666A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】林 猛晴
【審査官】 青山 純
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−075967(JP,A)
【文献】 特開2006−068866(JP,A)
【文献】 特開平06−226532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 1/00 − 23/12
B24B 53/075
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の歯を周方向に配列してなる第1歯列及び第2歯列を軸方向の二箇所に設けた歯車素材にホーニング加工を施すに際して、前記第1歯列の歯及び前記第2歯列の歯にクラウニング形状を付与するための方法であって、
前記第1歯列の歯に付与すべきクラウニング形状に対応した形状の第1転写歯を周方向に配列してなる第1転写歯列と、前記第2歯列の歯に付与すべきクラウニング形状に対応した形状の第2転写歯を周方向に配列してなる第2転写歯列とを設けたギヤホーニング砥石を用いて、前記ホーニング加工を施す歯車のホーニング加工方法。
【請求項2】
前記第1転写歯に対応する形状の第1ドレス歯を周方向に配列してなる第1ドレス歯列を設けた第1ドレスギヤで前記ギヤホーニング砥石に前記第1転写歯列を形成し、前記第2転写歯に対応する形状の第2ドレス歯を周方向に配列してなる第2ドレス歯列を設けた第2ドレスギヤで前記ギヤホーニング砥石に前記第2転写歯列を形成する請求項1に記載の歯車のホーニング加工方法。
【請求項3】
前記第1転写歯列と前記第2転写歯列との間に溝部を設けた前記ギヤホーニング砥石と前記第1ドレスギヤ又は前記第2ドレスギヤとを噛み合わせることとし、かつ
前記第1ドレス歯と前記第1転写歯との相対滑り又は前記第2ドレス歯と前記第2転写歯との相対滑りを前記溝部で許容し得るよう、前記各々のドレス歯の歯幅方向寸法を設定した請求項2に記載の歯車のホーニング加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車のホーニング加工方法に関し、特に、ホーニング加工の際に、歯車素材の歯にクラウニング形状を付与するための加工方法に関する。なお、本明細書において「クラウニング形状」とは、歯すじ方向に沿って膨らみを持たせた形状のみならず、歯すじ方向に沿って窪みを持たせた形状(ホローリードと呼ばれることもある。)をも含むものとする。
【背景技術】
【0002】
熱処理後の歯面仕上げ工法の一つであるギヤホーニング加工方法には、加工対象となる歯車素材の形態に応じて内歯もしくは外歯を有するギヤホーニング砥石が使用される。この種のホーニング砥石は、ホーニング盤と呼ばれる専用の加工装置に取り付けられた状態で、同じくホーニング盤に取り付けられたドレスギヤによるドレス加工を受けた後、歯車素材に対してギヤホーニング加工を施すようになっている。
【0003】
一方、この種の歯車には、ギヤノイズの低減等を目的として、歯の歯すじ方向中央から両端側に向かって歯厚を漸次減少させていき、歯すじ方向に適当な膨らみ、すなわちクラウニング形状を付与したものがある。このクラウニング形状をホーニング加工で歯に付与するための方法としては、例えば特許文献1に記載のように、ドレスギヤの歯に、歯車最終製品のクラウニング形状に相当する形状(付与すべきクラウニング形状と同等の形状の膨らみ)を設けたものを用いてギヤホーニング砥石にドレス加工を施すことで、当該砥石に、歯車最終製品のクラウニング形状に対応する形状(付与すべきクラウニング形状とは逆の形状の窪み)を設ける方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−68866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車輌等に搭載される自動変速機の遊星歯車機構には、複数のショートピニオンギヤと噛み合うロングピニオンギヤを有するものがある。この場合、ロングピニオンギヤには、通常、2個のショートピニオンギヤが噛み合うことから、それぞれに対応する歯(歯列)が軸方向に並んで設けられる。このような形態の歯に対してホーニング加工でクラウニング形状を付与しようとした場合、例えば特許文献1に記載のドレスギヤを用いて各々の歯に対応する形状の内歯を設けたギヤホーニング砥石を1つずつ形成し、各々のギヤホーニング砥石でホーニング加工を施す方法が考えられるが、これだと、1個のワークに対して2回のホーニング加工を施す必要があり、生産性の低下を招く。
【0006】
以上の事情に鑑み、本発明により解決すべき課題は、ホーニング加工によって、歯車の歯にクラウニング形状を歯すじ方向に沿って2箇所に効率よく付与することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題の解決は、本発明に係る歯車のホーニング加工方法によって達成される。すなわち、このホーニング加工方法は、複数の歯を周方向に配列してなる第1歯列及び第2歯列を軸方向の二箇所に設けた歯車素材にホーニング加工を施すに際して、第1歯列の歯及び第2歯列の歯にクラウニング形状を付与するための方法であって、第1歯列の歯に付与すべきクラウニング形状に対応した形状の第1転写歯を周方向に配列してなる第1転写歯列と、第2歯列の歯に付与すべきクラウニング形状に対応した形状の第2転写歯を周方向に配列してなる第2転写歯列とを設けたギヤホーニング砥石を用いて、ホーニング加工を施す点をもって特徴付けられる。
【0008】
このように、本発明では、歯車素材に設けた2つの歯列を構成する歯それぞれにクラウニング形状を付与するための砥石として、一方の歯列(第1歯列)に付与すべきクラウニング形状に対応した形状の第1転写歯を周方向に配列してなる第1転写歯列と、他方の歯列(第2歯列)に付与すべきクラウニング形状に対応した形状の第2転写歯を周方向に配列してなる第2転写歯列とを設けたものを用いるようにした。上記構成のギヤホーニング砥石をワークとしての歯車素材に噛み合わせてホーニング加工を行うことで、歯車素材の第1歯列を構成する歯に第1転写歯に対応した形状のクラウニング形状が転写形成されると共に、第2歯列を構成する歯に第2転写歯に対応した形状のクラウニング形状が転写形成される。これにより、歯車素材の歯に、所望のクラウニング形状、すなわち、歯車最終製品のクラウニング形状が歯すじ方向に沿って2箇所に形成される。このように、付与すべき2箇所のクラウニング形状に対応する部位(転写部位)を集約して1個のギヤホーニング砥石に設けたものを用いることによって、1回のホーニング加工で歯車素材の軸方向二箇所にクラウニング形状を付与することができる。そのため、工数の増加を招くことなく、クラウニング形状を含め歯車を最終製品形状に仕上げることが可能となる。
【0009】
また、本発明に係る歯車のホーニング加工方法は、第1転写歯に対応する形状の第1ドレス歯を周方向に配列してなる第1ドレス歯列を設けた第1ドレスギヤでギヤホーニング砥石に第1転写歯列を形成し、第2転写歯に対応する形状の第2ドレス歯を周方向に配列してなる第2ドレス歯列を設けた第2ドレスギヤでギヤホーニング砥石に第2転写歯列を形成するものであってもよい。
【0010】
上述の形状を有する第1転写歯及び第2転写歯をギヤホーニング砥石に形成しようとした場合、例えば図8に示すように、歯すじ方向の中央から両端側に向けて歯厚を漸次減少させた形状の2つの膨らみ52,53をドレスギヤの歯51の歯すじ方向に沿って2箇所に設けたものを使用すれば、1回のドレス加工で第1転写歯及び第2転写歯をギヤホーニング砥石に形成できる。しかしながら、ドレスギヤには、最終製品レベルもしくはそれ以上の形状精度が要求される上、上述のように更に複雑な形状を設けようとなると、ドレスギヤの製作コストが大幅にアップする。また、ドレスギヤは、初期の歯付けのみならず、定期的にギヤホーニング砥石にドレス加工を施す関係上、少なからず消耗(磨耗)する。そのため、極力低コストに製作したい事情もある。
【0011】
これに対して、本発明のように、各転写歯に対応する形状のドレス歯列を設けたドレスギヤを2個用意し、これら2個のドレスギヤを用いてドレス加工を施すようにすれば、1個のギヤホーニング砥石の軸方向2箇所にクラウニング形状を付与しつつも、個々のドレスギヤ形状(ドレス歯列の形状)を単純化することができる。これにより、ドレスギヤの製作コストを大幅に下げることができる。そのため、継続使用によりドレス歯列の消耗(磨耗)を生じたとしても、コスト面の心配なく新しいドレスギヤと交換することが可能となる。また、上述のように、クラウニング形状を含め最終製品相当の歯形を有するドレスギヤは上記歯車と同様、非常に小サイズになるが、近年の小モジュール、小歯数を有する歯車に対するホーニング加工技術の発展により、例えば各ドレスギヤとギヤホーニング砥石とを同期させつつ非常に低速で噛み合い回転させることで、毎回のギヤホーニング砥石に対するドレスギヤの位置決めを非常に精度良く行うことができる。よって、別個のドレスギヤを2個用いたドレス加工であっても、各ドレスギヤとギヤホーニング砥石又は両ドレスギヤ間の位置精度を高めた状態で、ドレス加工を施すことができ、これにより各転写歯の形状精度及び転写歯間の位置精度を向上させることができる。従って、このギヤホーニング砥石を用いたホーニング加工により、歯車素材に転写形成されるクラウニング形状の精度を更に高めることが可能となる。
【0012】
また、本発明に係る歯車のホーニング加工方法は、第1転写歯列と第2転写歯列との間に溝部を設けたギヤホーニング砥石と、第1ドレスギヤ又は第2ドレスギヤとを噛み合わせるようにしてもよい。また、この場合、第1ドレス歯と第1転写歯との相対滑り又は第2ドレス歯と第2転写歯との相対滑りを溝部で許容し得るよう、各々のドレス歯の歯幅方向寸法を設定してもよい。
【0013】
上述のようにドレス加工を施す場合、ドレスギヤの各ドレス歯の歯幅方向寸法は、歯幅方向端部の転写精度などを考慮すると、対応するギヤホーニング砥石の転写歯の歯幅方向寸法と同一又はこれより大きく設定することが望ましい。一方で、この種の加工(ドレス加工)においては、ドレス歯とギヤホーニング砥石の転写歯との相対滑りを利用して、ドレス歯の形状を転写歯に転写形成する。そのため、一方のドレス歯の歯幅方向寸法を転写精度のみを考慮して転写歯の歯幅方向寸法よりも大きめに設定したのでは、本来、他方のドレス歯により研削すべき他方の転造歯に、上記一方のドレス歯が干渉するおそれが生じる。この点、第1ドレス歯と第1転写歯との相対滑り又は第2ドレス歯と第2転写歯との相対滑りを溝部で許容し得るよう、第1ドレス歯と第2ドレス歯の歯幅寸法を定めることで、歯幅方向で異なる位置に配設される他方の転写歯と、一方のドレス歯との干渉を確実に回避することができる。よって、2個のドレスギヤを用いてギヤホーニング砥石に2列の転写歯列を形成する場合であっても、当該2列の転写歯列を精度良く形成することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、ホーニング加工によって、歯車の歯にクラウニング形状を歯すじ方向に沿って2箇所に効率よく付与することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る歯車(歯車素材)の正面図である。
図2】本発明の一実施形態に係るギヤホーニング砥石の斜視図である。
図3】本発明の一実施形態に係るドレスギヤの正面図であり、(a)は第1ドレスギヤ、(b)は第2ドレスギヤの正面図である。
図4図3に示すドレスギヤに設けたドレス歯の要部斜視図である。
図5】ギヤホーニング砥石と第1ドレスギヤとの噛み合い状態を説明するための斜視図である。
図6】ギヤホーニング砥石と第2ドレスギヤとの噛み合い状態を説明するための斜視図である。
図7図2に示すギヤホーニング砥石の転写歯へのクラウニング形状の付与態様を模式的に説明するための図であり、(a)は転写形成前の転写歯、(b)は第1ドレス歯からクラウニング形状が転写された状態の転写歯、(c)は更に第2ドレス歯からクラウニング形状が転写された状態の転写歯をそれぞれ歯たけ方向から見た図である。
図8】歯の歯すじ方向に沿って2箇所に凸状のクラウニング形状を設けたドレスギヤの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係る歯車のギヤホーニング加工を図1図7に基づき説明する。本実施形態では、歯車としてのロングピニオンギヤにホーニング加工を施す際に、当該ギヤの歯にクラウニング形状を歯すじ方向の2箇所に付与する場合を例にとって説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る歯車素材としてのロングピニオンギヤ10を示している。図1に示すように、このロングピニオンギヤ10は、例えばホブ加工等の歯切り加工により外歯11を粗成形してなるもので、複数の外歯11を円周方向に配列している。この外歯11は、溝状の逃げ部12により分割されており、分割された歯すじ方向一方側の歯13aはこれを円周方向に配列してなる第1歯列13を構成している。また、分割された歯すじ方向他方側の歯14aはこれを円周方向に配列してなる第2歯列14を構成している。本実施形態では、各歯列13,14の歯13a,14aは同一の諸元を有し、軸方向に対して同じ角度だけ傾斜している。各歯13a,14aにクラウニング形状は付与されていない。上記形状のロングピニオンギヤ10に、後述する構成のギヤホーニング砥石20(図2)を用いてホーニング加工を施すことにより、各歯13a,14aに凸状をなす所定のクラウニング形状(図4を参照)が付与されるようになっている。
【0018】
ギヤホーニング砥石20は、図1に示すロングピニオンギヤ10にホーニング加工を施すための砥石で、内周に複数の内歯21を有している。各内歯21は、分割溝22により、2つの転写歯(図2の左下側に位置する第1転写歯23a,右上側に位置する第2転写歯24a)に分割されている。これら第1転写歯23aと第2転写歯24aはそれぞれ、ロングピニオンギヤ10の歯13a,14aに所定のクラウニング形状を付与可能とされており、具体的には、第1転写歯23aには、第1歯列13の歯13aに付与すべきクラウニング形状に対応した凹状のクラウニング形状25(図7)が設けられている。また、第2転写歯24aには、第2歯列14の歯14aに付与すべきクラウニング形状に対応した凹状のクラウニング形状26(図7)が設けられる。上記構成の第1転写歯23aは、これを円周方向に配列してなる第1転写歯列23を構成している。また、上記構成の第2転写歯24aは、これを円周方向に配列してなる第2転写歯列24を構成している。各転写歯23a,24aへのクラウニング形状25,26(図7)の付与は、後述する2種類のドレスギヤ30,40(図3)を用いたドレス加工により成されるようになっている。
【0019】
上記ギヤホーニング砥石20のドレス加工に用いられる2種類のドレスギヤ(第1ドレスギヤ30と第2ドレスギヤ40)は共に、外歯歯車形状を成すもので、ギヤホーニング砥石20との噛み合い回転により、ギヤホーニング砥石20の内歯21に所定のクラウニング形状25,26を付与するものである。
【0020】
このうち、第1ドレスギヤ30は、外周に複数の第1ドレス歯31を有する。この第1ドレス歯31には、ギヤホーニング砥石20の第1転写歯23aに付与すべきクラウニング形状25(図7)に対応した凸状のクラウニング形状32(図4)が設けられる。すなわち、最終製品としてのロングピニオンギヤ10の歯13aに付与すべきクラウニング形状に相応する凸状のクラウニング形状32が第1ドレス歯31に設けられる。この第1ドレス歯31は、ギヤホーニング砥石20の内歯21、特に第1転写歯23aと所定の交差角で噛み合い可能なように、第1ドレスギヤ30の回転軸に対して傾斜している。上記構成の第1ドレス歯31はこれを円周方向に配列してなる第1ドレス歯列33を構成している。また、本実施形態では、第1ドレスギヤ30は、図3(a)に示すように、第1ドレス歯列33と、第1ドレス歯列33に軸方向で隣接し、少なくとも第1ドレス歯列33の歯底よりも小径の第1小径部34とで構成されている。よって、第1ドレスギヤ30によるギヤホーニング砥石20のドレス加工時、第1ドレス歯31(第1ドレス歯列33)で対応する第1転写歯列23にドレス加工が施される一方、第2転写歯列24には第1ドレスギヤ30が干渉せず(後述する図7(b)を参照)、第2転写歯列24に対する不要な研削が回避される。なお、本実施形態では、第1ドレス歯31の歯幅方向寸法は、直接のドレス加工対象となる第1転写歯23aの歯幅方向寸法よりも少し大きめに形成されている(図7(b))。
【0021】
第2ドレスギヤ40は、外周に複数の第2ドレス歯41を有する。この第2ドレス歯41には、ギヤホーニング砥石20の第2転写歯24aに付与すべきクラウニング形状26(図7)に対応した凸状のクラウニング形状42(図4)が設けられる。すなわち、最終製品としてのロングピニオンギヤ10の歯14aに付与すべきクラウニング形状に相応する凸状のクラウニング形状42が第2ドレス歯41に設けられる。この第2ドレス歯41は、ギヤホーニング砥石20の内歯21、特に第2転写歯24aと所定の交差角で噛み合い可能なように、第2ドレスギヤ40の回転軸に対して傾斜している。上記構成の第2ドレス歯41はこれを円周方向に配列してなる第2ドレス歯列43を構成している。本実施形態では、第2ドレスギヤ40は、図3(b)に示すように、第2ドレス歯列43と、第2ドレス歯列43に軸方向で隣接し、少なくとも第2ドレス歯列43の歯底よりも小径の第2小径部44とで構成されている。よって、第2ドレスギヤ40によるギヤホーニング砥石20のドレス加工時、第2ドレス歯41(第2ドレス歯列43)で対応する第2転写歯列24にドレス加工が施される一方、第1転写歯列23には第2ドレスギヤ40が干渉しない(後述する図7(c)を参照)。これにより、既に第1ドレスギヤ30によりドレス加工が施された第1転写歯列23に対する不要な研削が回避され、当該先のドレス加工により第1転写歯23aに付与されたクラウニング形状25が維持され得る。なお、本実施形態では、第2ドレス歯41の歯幅方向寸法は、直接のドレス加工対象となる第2転写歯24aの歯幅方向寸法よりも少し大きめに形成されている(図7(c))。
【0022】
上記構成のギヤホーニング砥石20、ドレスギヤ30,40を用いたホーニング加工の一例を、(A)ドレス加工、(B)ホーニング加工の順に以下説明する。
【0023】
(A)ドレス加工
まず、上記構成のギヤホーニング砥石20を図示しないホーニング加工装置に回転支持可能に取り付けると共に、上記形状の第1ドレスギヤ30を同一のホーニング加工装置に取り付け、図5に示すように、ギヤホーニング砥石20の内周に配置する。然る後、第1ドレスギヤ30をギヤホーニング砥石20の内周面に押し付け、図示しない駆動部により第1ドレスギヤ30及びギヤホーニング砥石20を同期させつつ非常に低速で噛み合い回転させることで、第1ドレスギヤ30によるギヤホーニング砥石20へのドレス加工を開始する。この際、図示は省略するが、第1ドレスギヤ30の第1ドレス歯31と、ギヤホーニング砥石20の第1転写歯23aとを所定の交差角で噛み合わせることで、第1ドレス歯31と第1転写歯23aとの間に相対滑りを生じる。そして、この相対滑りにより第1ドレス歯31が第1転写歯23aの歯面を削り取ることで、当該歯面に対するドレス加工が施される。
【0024】
また、この際、上記相対滑りに伴って、第1ドレス歯31の歯面に形成されたクラウニング形状32(図4)が第1転写歯23aの歯面に転写される。このときの様子を図7の模式図を用いて説明する。まず、図7(a)に示すように、第1ドレスギヤ30との噛み合い前の状態におけるギヤホーニング砥石20の内歯21は第1転写歯23a、第2転写歯24aともに、クラウニング形状25,26((図7(c))を除き、概ね最終製品形状もしくはそれに近い形状をなしている。双方の転写歯23a,24aの歯厚は歯すじ方向に沿って一定の大きさとなっている。そして、上述の如く、この内歯21のうち第1転写歯23aに第1ドレス歯31を噛み合わせて、第1ドレス歯31により第1転写歯23aの歯面を削り取ることで、図7(b)に示すように、第1ドレス歯31の歯面に設けたクラウニング形状32が、対応する第1転写歯23aの歯面に転写される。この際、第1ドレス歯31は分割溝22及び第2転写歯24aに当らない。また、第1ドレス歯列33と歯すじ方向に隣接して配置される第1小径部34も第2転写歯24aに当らない。このようにして、第1転写歯列23を構成する全ての第1転写歯23aに第1ドレスギヤ30の第1ドレス歯31を噛み合わせて上述のドレス加工を施すことにより、当該全ての第1転写歯23aに対応する凹状のクラウニング形状25が形成される。
【0025】
次に、第1ドレスギヤ30を第2ドレスギヤ40に取り替えて、上述したドレス加工を続行する。ギヤホーニング砥石20は同一のホーニング加工装置に取付けたままの状態とする。すなわち、図6に示すように、第2ドレスギヤ40をギヤホーニング砥石20の内周に配置した状態で、図示しない駆動部により第2ドレスギヤ40及びギヤホーニング砥石20を同期させつつ非常に低速で噛み合い回転させることで、第2ドレスギヤ40によるギヤホーニング砥石20へのドレス加工を開始する。この際、上記と同様、第2ドレスギヤ40の第2ドレス歯41と、ギヤホーニング砥石20の第2転写歯24aとを所定の交差角で噛み合わせることで、第2ドレス歯41と第2転写歯24aとの間に相対滑りを生じる。そして、この相対滑りにより第2ドレス歯41が第2転写歯24aの歯面を削り取ることで、当該歯面に対するドレス加工が施される。
【0026】
また、この際、上記相対滑りに伴って、第2ドレス歯41の歯面に形成されたクラウニング形状42(図4)が第2転写歯24aの歯面に転写される。この際、図7(b)に示すように、第2ドレスギヤ40との噛み合い前の状態におけるギヤホーニング砥石20の第2転写歯24aは、クラウニング形状26((図7(c))を除き、概ね最終製品形状もしくはそれに近い形状をなしている。第2転写歯24aの歯厚は歯すじ方向に沿って一定の大きさとなっている。そして、上述の如く、この内歯21のうち第2転写歯24aに第2ドレス歯41を噛み合わせて、第2ドレス歯41により第2転写歯24aの歯面を削り取ることで、図7(c)に示すように、第2ドレス歯41の歯面に設けたクラウニング形状42が、対応する第2転写歯24aの歯面に転写される。この際、第2ドレス歯41は分割溝22及び第1転写歯23aに当らない。また、第2ドレス歯列43と歯すじ方向に隣接して配置される第2小径部34も第1転写歯23aに当らない。このようにして、第2転写歯列24を構成する全ての第2転写歯24aに第2ドレスギヤ40の第2ドレス歯41を噛み合わせて上述のドレス加工を施すことにより、当該全ての第1転写歯23a及び第2転写歯24aに、対応する凹状のクラウニング形状25,26がそれぞれ形成される。
【0027】
(B)ホーニング加工
上述のようにしてギヤホーニング砥石20にクラウニング形状25,26を付与した後、当該ギヤホーニング砥石20を用いて歯車素材としてのロングピニオンギヤ10にホーニング加工を施す。具体的には、第2ドレスギヤ40をロングピニオンギヤ10に取り替えて、このロングピニオンギヤ10にホーニング加工を施す。ギヤホーニング砥石20は同一のホーニング加工装置に取付けたままの状態とする。すなわち、図示は省略するが、図5と同様、ロングピニオンギヤ10をギヤホーニング砥石20の内周に配置した状態で、図示しない駆動部によりロングピニオンギヤ10及びギヤホーニング砥石20を同期させつつ非常に低速(第1及び第2ドレスギヤ30,40と同程度の速度)で噛み合い回転させることで、ギヤホーニング砥石20によるロングピニオンギヤ10へのホーニング加工を開始する。この際、ロングピニオンギヤ10の各歯13a,14aと、ギヤホーニング砥石20の第1転写歯23a、第2転写歯24aとをそれぞれ所定の交差角で噛み合わせることで、各歯13a,14aと各転写歯23a,24aとの間に相対滑りを生じる。そして、この相対滑りにより各転写歯23a,24aが各歯13a,14aの歯面を削り取ることで、当該歯面が所定の表面精度及び形状精度に仕上げられる。
【0028】
また、この際、上記相対滑りに伴って、第1転写歯23aの歯面に形成されたクラウニング形状25(図7)が対応する歯すじ方向一方側の歯13aの歯面に転写されると共に、第2転写歯24aの歯面に形成されたクラウニング形状26が対応する歯すじ方向他方側の歯14aの歯面に転写される。これにより、各歯13a,14aの歯面に、所定のクラウニング形状(図4を参照)、すなわち、各転写歯23a,24aに形成された凹状のクラウニング形状25,26(図7)に対応した凸状のクラウニング形状が付与される。これによりロングピニオンギヤ10に対する加工が完了し、必要に応じて洗浄、検査を行うことで最終製品としてのロングピニオンギヤ10が完成する。
【0029】
このように、本発明では、歯車素材としてのロングピニオンギヤ10に設けた2つの歯列13,14を構成する歯13a,14aそれぞれに所定のクラウニング形状を付与するためのギヤホーニング砥石20として、第1歯列13の歯13aに付与すべき凸状のクラウニング形状に対応した形状の(凹状のクラウニング形状25を設けた)第1転写歯23aを周方向に配列してなる第1転写歯列23と、第2歯列14の歯14aに付与すべき凸状のクラウニング形状に対応した形状の(凹状のクラウニング形状26を設けた)第2転写歯24aを周方向に配列してなる第2転写歯列24とを設けたものを用いるようにした。上記構成のギヤホーニング砥石20をロングピニオンギヤ10に噛み合わせてホーニング加工を行うことで、ロングピニオンギヤ10の第1歯列13を構成する歯13aに第1転写歯23aに対応した形状のクラウニング形状が転写形成されると共に、第2歯列14を構成する歯14aに第2転写歯24aに対応した形状のクラウニング形状が転写形成される。これにより、ロングピニオンギヤ10の外歯11(歯13a,14a)に、所望のクラウニング形状、すなわち、歯車最終製品に付与すべき凸状のクラウニング形状(図4を参照)が歯すじ方向に沿って2箇所に形成される。このように、付与すべき2箇所のクラウニング形状に対応する部位(転写部位)を集約して1個のギヤホーニング砥石20に設けたものを用いることによって、1回のホーニング加工でロングピニオンギヤ10の軸方向二箇所にクラウニング形状を付与することができる。そのため、工数の増加を招くことなく、クラウニング形状を含めロングピニオンギヤ10を最終製品形状に仕上げることが可能となる。
【0030】
また、本実施形態では、上記構成のギヤホーニング砥石20を製作するためのドレスギヤとして、第1転写歯23aのクラウニング形状25に対応する凸状のクラウニング形状32を有する第1ドレス歯31を設けた第1ドレスギヤ30と、第2転写歯24aのクラウニング形状26に対応する凸状のクラウニング形状42を有する第2ドレス歯41を設けた第2ドレスギヤ40とを用意し、これら2個のドレスギヤ30,40を用いてギヤホーニング砥石20にドレス加工を施すようにした。このようにすれば、1個のギヤホーニング砥石20の軸方向2箇所に凹状をなす所定のクラウニング形状25,26を付与しつつも、個々のドレスギヤ30,40の形状(各ドレス歯列33,43の形状)を単純化することができる。これにより、各ドレスギヤ30,40の製作コストを大幅に下げることができる。そのため、継続使用により各ドレス歯31,41の消耗(磨耗)を生じたとしても、コスト面の心配なく新しいドレスギヤと交換することが可能となる。また、ギヤホーニング砥石20を取り付けたままで第1ドレスギヤ30、第2ドレスギヤ40、ロングピニオンギヤ10を取り替えて、同一のホーニング装置で2回のドレス加工とホーニング加工とを行うことにより、毎回のギヤホーニング砥石20に対する各ドレスギヤ30,40及びロングピニオンギヤ10の位置決めを非常に精度良く行うことができる。よって、各ドレスギヤ30,40とギヤホーニング砥石20又は両ドレスギヤ30,40及びロングピニオンギヤ10間の位置精度を高めた状態で、ドレス加工及びホーニング加工を施すことができる。これにより、各ドレスギヤ30,40からギヤホーニング砥石20へのクラウニング形状の転写精度だけでなく、ギヤホーニング砥石20からロングピニオンギヤ10へのクラウニング形状の転写精度を向上させることが可能となる。
【0031】
以上、本発明の一実施形態について述べたが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲において、上記以外の構成を採ることも可能である。
【0032】
例えば、上記実施形態では、歯車素材(ロングピニオンギヤ10)として、同一諸元の外歯11を溝状の逃げ部12で分割することで、歯すじ方向一方側の歯13aを円周方向に配列してなる第1歯列13と、歯すじ方向他方側の歯14aを円周方向に配列してなる第2歯列14とを構成したものを例示したが、もちろんこれ以外の形態、例えば各々の歯列で異なる諸元の歯を有する歯車素材に本発明を適用することも可能である。
【0033】
また、分割溝22を設けたギヤホーニング砥石20であれば、各歯列が同一径である歯車素材に限らず、例えば段付きロングピニオンギヤのように、各歯列で外径が異なる歯車素材に本発明を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0034】
10 ロングピニオンギヤ
11 外歯
12 逃げ部
13,14 歯列
13a,14a 歯
20 ギヤホーニング砥石
21 内歯
22 分割溝
23,24 転写歯列
23a,24a 転写歯
25,26 クラウニング形状
30,40 ドレスギヤ
31,41 ドレス歯
32,42 クラウニング形状
33,43 ドレス歯列
34,44 小径部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8