【実施例】
【0036】
以下に、実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定して解釈されるものではない。
【0037】
「実験例1」
クリンカー原料として、CaO原料には生石灰、Al
2O
3原料にはボーキサイト、SiO
2原料にはケイ石を使用し、使用材料に示す組成のクリンカーを、酸素濃度3体積%、窒素濃度95体積%、一酸化炭素濃度2体積%の還元雰囲気で合成した。得られたクリンカーをボールミルで粉砕し、使用材料に示すクリンカー粉砕物を合成した。
これらクリンカー粉砕物を使用し、セメント80部、クリンカー10部、及び無水石膏10部からなる結合材を調製し、結合材100部に対して、アルカリ炭酸塩0.5部、有機酸0.1部、減水剤0.5部、ガス発泡物質0.05部、及び細骨材150部を配合して、20℃の条件でモルタル組成物を調製した。この際、練り水は結合材の合計100部に対して37部を使用した。モルタルの流動性、可使時間、初期膨張率、長さ変化率、及び圧縮強度を測定した。
なお、セメントは、製造元の異なる4種類の製品を使用して比較した。
また、可使時間の短い配合については、アルカリ炭酸塩を1.0部、有機酸0.2部まで増量した配合も検討した。結果を表1に併記する。
【0038】
<使用材料>
クリンカー粉砕物A:非晶質度95%、CaOが50%、Al
2O
3が35%、SiO
213%、その他2%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm
2/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物B:非晶質度95%、CaOが47%、Al
2O
3が38%、SiO
2が13%、その他2%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm
2/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物C:非晶質度95%、CaOが43%、Al
2O
3が41%、SiO
2が13%、その他3%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm
2/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物D:非晶質度95%、CaOが38%、Al
2O
3が46%、SiO
2が13%、その他3%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm
2/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物E:非晶質度95%、CaOが35%、Al
2O
3が50%、SiO
2が13%、その他2%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm
2/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物F:非晶質度95%、CaOが45%、Al
2O
3が42%、SiO
2が10%、その他3%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm
2/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物G:非晶質度95%、CaOが46%、Al
2O
3が44%、SiO
2が7%、その他3%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm
2/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物H:非晶質度95%、CaOが42%、Al
2O
3が40%、SiO
2が16%、その他2%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm
2/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物I:非晶質度95%、CaOが40%、Al
2O
3が40%、SiO
2が18%、その他2%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm
2/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物J:非晶質度70%、CaOが43%、Al
2O
3が41%、SiO
2が13%、その他3%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が5000K/秒。ブレーン比表面積5000cm
2/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物K:非晶質度50%、CaOが43%、Al
2O
3が41%、SiO
2が13%、その他3%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が4000K/秒。ブレーン比表面積5000cm
2/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物L:非晶質度95%、CaOが45%、Al
2O
3が47%、SiO
2が4%、その他4%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm
2/g。粒子径1.0μm未満5.8%、30μm超5.5%。
クリンカー粉砕物M:非晶質度95%、CaOが43%、Al
2O
3が41%、SiO
2が13%、その他3%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm
2/g。粒子径1.0μm未満5.9%、30μm超5.1%。
セメントa:普通ポルトランドセメント、日本市販品、ブレーン比表面積3100cm
2/g、比重3.14、Na
2Oが0.3%、K
2Oが0.4%、SO
3が2.0%。
セメントb:普通ポルトランドセメント、海外市販品、ブレーン比表面積3800cm
2/g、比重3.15、Na
2Oが0.3%、K
2Oが0.7%、SO
3が3.3%。
セメントc:普通ポルトランドセメント、海外市販品、ブレーン比表面積4100cm
2/g、比重3.13、Na
2Oが0.4%、K
2Oが0.5%、SO
3が3.8%。
セメントd:普通ポルトランドセメント、海外市販品、ブレーン比表面積5200cm
2/g、比重3.16、Na
2Oが0.3%、K
2Oが1.0%、SO
3が4.3%。
石膏:無水石膏、pH3.0、ブレーン比表面積5000cm
2/g。
アルカリ炭酸塩;試薬1級の炭酸カリウム。
有機酸:試薬1級のクエン酸。
減水剤:市販(花王社製)のナフタレン系。
ガス発泡物質:窒素ガス発泡物質、アゾジカルボンアミド、市販品(三協化成社製)。
水:水道水。
細骨材:珪砂、5mm下。
【0039】
<測定方法>
非晶質度:対象物質を1000℃で2時間焼きなました後、5℃/分の冷却速度で徐冷して結晶化させる。次いで、結晶化させたものを粉末X線回折法により測定し、結晶鉱物のメインピークの面積S
0を求める。次いで、焼きなます前の物質の結晶のメインピーク面積Sから、X(%)=100×(1−S/S
0)の式により非晶質度Xを求めた。
ブレーン比表面積:JIS R5201−1997「セメントの物理試験方法」に準じて測定した。
クリンカー粉砕物の1.0μm未満、30μm超粒子の含有率:HORIBA製、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920を用いた。粉砕して分級したクリンカーをエタノールに超音波分散させ、相対屈折率130a0001の条件で粒度分布を測定して、質量%に換算した。
流動性:JSCE−F 541−2010「充てんモルタルの流動性試験方法」に準じて、J
14漏斗流下値を測定して評価した。8〜10秒の範囲を合格とする。
可使時間:可使時間は練り上がり温度から1℃上昇した時点とした。10分以上を合格とした。
初期膨張率:土木学会「膨張コンクリート設計施工指針(案)」付録2.付属書「膨張材を用いた充填モルタルの施工要領(案)」に従い測定した。ただし、表中の+は膨張側を示す。
長さ変化率:JIS A 6202−1997「コンクリート用膨張材」(B法)に準じて測定した。+200〜+1000(×10
−6)を合格とした。+200(×10
−6)未満では収縮補償効果が充分でなく、逆に+1000(×10
−6)を超えると過膨張である。
圧縮強度:モルタルを型枠に詰めて、4cm×4cm×16cmの成形体を作製し、材齢3時間の圧縮強度を、JIS R 5201−1997「セメントの物理試験方法」に準じて測定した。3時間強度は5N/mm
2以上、28日強度は60N/mm
2以上を合格とした。
表面平滑性:モルタルを20cm×20cm×4cmの型枠に充填し、モルタル表面を平滑に仕上げた。硬化後にモルタル表面を観察し、平滑な状態が維持されているものを◎、やや凹凸が生じたが概ね平滑なものを○、凹凸が目立つものを△とした。
【0040】
【表1】
【0041】
表1より、非晶質度が70%以上で、かつ、CaOが35〜50%、Al
2O
3が35〜50%、SiO
2が7〜18%の範囲にあるクリンカー粉砕物は、セメントの種類に対する依存度が小さく、流動性に優れ、充分な可使時間を確保でき、寸法安定性に優れ、初期だけでなく、長期強度の発現性にも優れることがわかる。
一方、範囲外のクリンカー粉砕物L、Mは、特定のセメントに対して、充分な可使時間を確保できなかったり、長期強度の発現性が乏しいことが分かる。
また、遅延剤の添加率を上げると、可使時間は多少長くなるが、長期の強度増進が得られにくくなることが分かる。