(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
2011年3月11日、東北地方を大地震と津波がおそい、甚大な被害が出た。東北地方のインフラは大きな打撃を受け、一日も早い復興が望まれている。
【0003】
しかしながら、津波の被害で発生したガレキが被災地の広範囲に散乱しており、ガレキの処理が進まなければ、復興も遅々として進まない現状にある。ガレキには、コンクリートや金属類などの無機系と、木材やゴム、プラスティックなどの有機系がある。
【0004】
有機系のガレキは焼却処分する方法が考えられるが、無機系のガレキ、殊に、コンクリートガラは付加価値がない上に嵩高く、重要も重いため処分方法に困っている。コンクリートガラの有効利用方法の提案が望まれている。
【0005】
従来、コンクリートガラの有効利用方法としては、再生骨材として利用する方法が提案されている。しかしながら、東北地方の大地震で被害を受けて発生したコンクリートガラのほとんどが、津波の影響を受けているため、高濃度の塩分を含んでいる。
【0006】
コンクリートガラを再生骨材として利用する場合、発生元で利用する必要がある。骨材という商材の特徴として、遠方に運んで使うというわけにはいかないからである。この場合、沿岸地域での消費が望まれ、復興工事の中では、護岸工事や防潮堤などへの利用が現実的である。そして、このような利用に際しては、現場プラントを設置して生コンクリートを調製することが望ましく、さらには、真水の調達が問題視されている。そこで、海水練りコンクリートが提案されている。
【0007】
海水の影響で塩分を多く含む骨材に加え、練り水も海水を用いることになるのである。このような特殊なコンクリートでは、鉄筋の腐食発生を避けられない。そこで、復興を推進するために、塩分の影響を受けたコンクリートガラを再生骨材として用いても、さらには、練り水として海水を用いても、鉄筋の腐食を抑制できる鉄筋コンクリート技術の開発が強く求められている。
【0008】
一方、セメント混和材として、リチウムを含有するアルミノシリケートが知られている(特許文献1)。
しかしながら、津波の被害で発生したコンクリートガラを再生骨材として利用するコンクリートへ適用した事例や、海水練りコンクリートへ適用した例はない。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明における部や%は、特に規定しない限り質量基準で示す。
【0014】
本発明では、海水を練り水として利用する。海水は塩分を3.0〜3.5%含むとされている。さらに、本発明では、津波の被害で発生したコンクリートガラのガレキをコンクリート用骨材として利用することもできる。コンクリートガラは適度な大きさに粉砕して用いることができる。
【0015】
津波の被害で発生したコンクリートガラは、海水をあびているため、塩分を多く含んでいる。通常の場合、塩分を多く含む骨材、例えば、海砂などは水で洗って除塩してから使用される。しかしながら、本発明では、除塩は行わず、そのまま用いる。これは、災害復興を円滑に進める上で不可欠である。
【0016】
本来、塩分を多く含む骨材は、鉄筋の腐食を誘発するため利用できない。
しかしながら、本発明のリチウム含有アルミノシリケートを配合することによって、塩分を多く含むコンクリート組成物を用いても、耐久的な鉄筋コンクリート構造物を造成することが可能となる。
【0017】
本発明で云うコンクリートガラは、津波をかぶっているため、塩分を含む。その含有量は、概ね0.01〜0.05%である。一般的にコンクリート組成物の粗骨材量は800〜1200kg/m
3であり、津波をかぶったコンクリートガラを再生骨材として使用した場合、骨材から由来する塩分は、1m
3あたり0.08〜0.60kg/m
3となる。
【0018】
本発明では、練り水に海水を用いることができる。海水の塩分含有率は一般的に3〜4%の範囲にある。また、コンクリート組成物の単位水量は、150〜185kg/m
3の範囲が一般的である。
したがって、練り水としての海水から由来する塩分量が算出可能である。例えば、海水の塩分含有率が3.5%で単位水量が170kg/m
3のコンクリート組成物を調製した場合、練り水から由来する塩分は、170×0.035 = 5.95kg/m
3となる。
【0019】
本発明では、地震や津波の被害で発生したコンクリートガラを骨材として含むコンクリートを利用するだけではなく、海水を練り水に用いて調製されたコンクリート組成物で鉄筋コンクリート構造物を造成することができる。
【0020】
また、本発明では、細骨材として海砂を用いることができる。通常、海砂は水洗されて塩分を許容されるレベルまで低下させて用いるが、本発明では、水洗せずにそのまま用いることもできる。
【0021】
本発明のリチウム含有アルミノシリケートについて説明する。
アルミノシリケートの具体例としては、結晶性のゼオライトやモンモリロナイト、非晶質のアルミノシリケートが挙げられる。リチウム型ゼオライトの中でも、Si/Al原子比が1であるリチウム型ゼオライトが、アルカリシリカ反応の抑制効果が大きいことから好ましい。Si/Al原子比が1であるリチウム型ゼオライトとしては、EDI型、ABW型やLTA型が存在する。
このうち、EDI型とABW型はアロフェンやカオリナイトを原料とし、水酸化リチウム水溶液を100℃未満で作用させることにより簡便に合成できる。
一方、LTAの合成は100℃を超える加圧条件下での水熱処理が必要であり、また、直接的にリチウムを含有するLTAを合成することが難しく、一般的には、ナトリウムを含有するA型ゼオライトを水熱合成により得た後、イオン交換反応によりリチウムを担持させることが行われている。このため、ナトリウムを完全にリチウムに置換することが難しく、LTAでは十分なアルカリシリカ反応の抑制効果が得られない場合もある。
したがって、本発明では、EDI型とABW型を選定することが好ましい。
【0022】
本発明では、いかなる方法で合成されたリチウム型ゼオライトも使用可能であり、リチウム型ゼオライトを加熱処理したものも含まれる。
加熱処理温度は、ゼオライトにより異なる。例えば、EDI型の場合は、200〜700℃であることが好ましい。リチウム含有EDI型ゼオライトを200〜700℃で加熱処理すると、非晶質物質に変化する。すなわち、200℃まではEDI型ゼオライトの結晶構造を保ち、200℃以上になると結晶から非晶質に変化する。そして、700℃までは非晶質の状態にあるが、700℃を超えると結晶化してユークリプタイトへと変化する。
ABW型の場合は300〜650℃が好ましい。リチウムを含有するABW型ゼオライトを300℃〜650℃で加熱処理すると、無水のABW型ゼオライトに変化する。すなわち、300℃まではABW型ゼオライトの結晶構造を保ち、300℃以上になると、全く異なる結晶構造に変化して無水のABW型ゼオライトになる。そして、650℃までは無水のABW型ゼオライトの状態にあるが、650℃を超えるとγ−ユークリプタイトへと変化する。そして、さらに加熱すると、900〜1000℃でβ−ユークリプタイトへと変化する。
加熱処理条件が上記の温度範囲にないと、本発明の効果が充分に得られない場合がある。
【0023】
本発明のリチウム型ゼオライトのリチウム含有量は、特に限定されるものではないが、通常、Li
2O換算で5%以上が好ましく、7%以上がより好ましい。リチウム含有量は、Si/Alモル比が1となる理論値から担持できる最大量が13.5%と算出できる。リチウム含有量が5%未満では、十分なアルカリシリカ反応による膨張の抑制効果が得られない場合がある。
【0024】
本発明のリチウム含有アルミノシリケートのナトリウムやカリウムの含有量は特に限定されるものではないが、通常、Na
2OとK
2Oの合計量が0.5%以下であることが好ましく、0.3%以下がより好ましい。Na
2OとK
2Oの合計量が0.5%を超えると、十分なアルカリシリカ反応抑制効果が得られない場合がある。
【0025】
本発明のリチウム含有アルミノシリケートの比表面積は、一義的に決定されるものではなく、特に限定されるものではないが、通常、BET比表面積で2〜200m
2/gの範囲にある。
【0026】
本発明のリチウム含有アルミノシリケートの使用量は、特に限定されるものではないが、1kg/m
3以上が好ましく、7kg/m
3以上がより好ましい。1kg/m
3未満では所定の圧縮強度発現、アルカリシリカ反応抵抗性、凍結融解抵抗性が得られない場合がある。
【0027】
以下、実施例、比較例を挙げてさらに詳細に内容を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
「実験例1」
表2に示すような様々な粗骨材、細骨材、練り水を使用し、リチウム含有アルミノシリケート5kg/m
3、単位セメント量300kg/m
3、単位水量170kg/m
3、s/a=42%、スランプ8cm、空気量4.5±1.0%のコンクリート組成物を調製した。このコンクリート組成物を用いて、鉄筋比0.7%の鉄筋コンクリート製の壁を造成した。この鉄筋コンクリートの鉄筋の腐食電流を調べるとともに、コンクリートの圧縮強度、アルカリシリカ反応性、凍結融解抵抗性の試験を実施した。結果を表2に示す。
【0029】
<使用材料>
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品、比重3.15。
粗骨材A:津波被害を受けたガレキ、コンクリートガラを粉砕したものにオパールケイ石を5%混合したもの。Gmax25mm。塩分含有率0.05%、比重2.25。コンクリート中の粗骨材量は900.16kg/m
3となり、これに由来する塩分は0.45kg/m
3。
粗骨材B:新潟県姫川産の砕石にオパールケイ石を5%混合したもの。Gmax25mm、比重2.65。
細骨材イ:新潟県姫川産の川砂にオパールケイ石を5%混合したもの。比重2.64。
細骨材ロ:海砂にオパールケイ石を5%混合したもの。塩分含有量0.1%、比重2.75。コンクリート中の細骨材量は796.68kg/m
3となり、これに由来する塩分は0.797kg/m
3。
練り水a:水道水。
練り水b:海水、塩分含有率3.5%。
リチウム含有アルミノシリケートA:リチウムを含有するEDI型ゼオライト(Li−EDI)、Li
2O含有量7.1%、BET比表面積50m
2/g。
リチウム含有アルミノシリケートB:リチウムを含有するABW型ゼオライト(Li−ABW)、Li
2O含有量9.0%、BET比表面積40m
2/g。
リチウム含有アルミノシリケートC:リチウムを含有するEDI型ゼオライト(Li−EDI)を400℃で加熱処理して得られた非晶質物質、Li
2O含有量9.0%、BET比表面積30m
2/g。
リチウム含有アルミノシリケートD:リチウムを含有するABW型ゼオライト(Li−ABW)を400℃で加熱処理して得られた無水のLi−ABW、Li
2O含有量10.8%、BET比表面積20m
2/g。
リチウム含有アルミノシリケートE:市販のアルカリシリカ反応抑制剤、Ca型ゼオライト。
【0030】
<試験方法>
鉄筋腐食の判定:材齢1年後にASTMC876に準じて、基準電極となる銅/硫酸銅電極に対する鉄筋の自然電位を測定し、鉄筋の腐食状態を判定した。鉄筋の腐食は表1のように判断される。
【0031】
【表1】
【0032】
<試験方法>
圧縮強度:JIS A 1108に準じて測定。
アルカリシリカ反応性:JCI AAR−3 コンクリートのアルカリシリカ反応性判定試験方法(案)に準じて測定。材齢6ヶ月における膨張率が0.05%未満は◎、0.05以上で0.1%未満の場合は○、0.1%以上で0.2%未満は△、0.2%以上は×とした。
凍結融解抵抗性:JIS A 1148に準拠して行った。相対動弾性係数が60%以上保たれたサイクル数が400サイクルを超えた場合を◎、300サイクルを超え、400サイクル未満だった場合を○、200サイクルを超え、300サイクル未満だった場合を△、200サイクル未満だった場合を×とした。
【0033】
【表2】
【0034】
表2より、本発明において、鉄筋腐食が発生していないことが分かる。また、圧縮強度発現、アルカリシリカ反応抵抗性、凍結融解抵抗性が向上していることが分かる。
【0035】
「実験例2」
粗骨材A、細骨材ロ、練り水bを使用し、リチウム含有アルミノシリケートの使用量を表3に示すように変化したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表3に併記した。
【0036】
【表3】
【0037】
表3より、本発明によれば、鉄筋腐食が発生していないことが分かる。また、圧縮強度発現、アルカリシリカ反応抵抗性、凍結融解抵抗性が向上していることが分かる。